はじめに - ODN

日本コルシカ協会季刊紙 創刊号
ウ・ユルナーレ
2000 年夏号
はじめに
日本コルシカ協会創立
「コルシカ協会」の元来の目的は、
「ポリフォニ
去
る 1999 年 12 月、日本において初めてのコ
ーグループを日本に呼ぶ」というものでした。コ
ルシカに関する団体が結成されました。名称は思
ルシカの現代音楽、あるいは現代と伝統を混合さ
い付きではありますが、「日本コルシカ協会」です。
せた全く新しい声楽「ポリフォニー(pulifunia)」
フランス語では Cercle corse du Japon、コルシカ語
は、ベルナルディーニ兄弟率いるイ・ムヴリーニ
では Circulu Corsu Ghjappune(チルクル・ゴールス・
の活躍により、フランスはおろか、ヨーロッパそ
ヤップーネ)となります。「協会」というからには
して世界中に知れ渡ることとなりました。昨年夏
Assoziu(アッソーヅィウ)や Associazione(アッソ
に朝日新聞でも彼らの活躍が取り上げられるなど、
ーヂャヅィオーネ)という表現でも良かったので
その評価は推してしるべしでしょう。
すが、何かお堅い学術団体的イメージがあるので、
しかし、イ・ムヴリーニの成功とは裏腹に、ポ
もっと単なるコルシカ好きの人が集まった親睦会
リフォニーその他の歌を歌うコルシカのプロ・ア
みたいな方が良いとおもって、「チルクル」にした
マ含めて 50 以上される他のグループについてはそ
のです。
れほど脚光を浴びているわけではありません。彼
「親睦会」ですから、会員の入退会は基本的に
らはムヴリーニが世界的なレコード会社と契約し、
自由で特段資格も設けていません。強いて言うな
音楽活動のために島を離れて生活しているのをよ
ら、コルシカを直接・間接的な対象として研究し
そに、地道に島の小さな村やフランス本土のコル
ているか、趣味でコルシカの何かに興味を持って
シカ人居住地区などで細々と活動を行っているの
いる人、あるいは旅行でコルシカを訪れてコルシ
です。
カにはまった人など何らかの形でコルシカあるい
こうした歌い手はなかなか市場には認めてもら
はコルシカ人に関係を持っているか、持ちたい人
えません。知名度が必要ですが、知名度をえるに
ということになります。もちろん国籍も関係あり
は限られた地域だけの活動では埒があかないのが
ませんし、会費も今のところ徴収していません。
実情でしょう。また、音楽や歌を「消費」する我々
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にとっても、今日の例外なきグローバル化の中で、
招聘するには民間では市場性からほとんどムリで
音楽や歌が金太郎飴の如く画一化、均質化するこ
しょうから、国際交流基金などの公的機関やその
とは好ましいこととは思えないのです。日本では
他非営利団体の力を借りねばなりません。この時、
まだ J-POP なるものは健在でしょうが、演歌は 10
個人でやるよりは団体でやる方がはるかに可能性
年くらいで絶滅するかもしれません。フランスで
が開けるのです。これが日本コルシカ協会の結成
はフランスの歌よりも英語の歌の方が音楽番組の
理由です。
上位を占めています。もちろん、インターネット
もちろん協会の活動はこれだけではありません。
に代表される新技術はこうした傾向には、少数文
構想中なのですが、日本にコルシカの文化や食べ
化や民族音楽にも何らかの可能性を与えることが
物を紹介したり、旅行の情報などを提供したりす
予想されますが、膨大な情報の中から自分にふさ
ること、コルシカの方にも日本に関する何らかの
わしいものを選択するのは並大抵のものではあり
情報を提供し、日本とコルシカの相互理解の一端
ません。
でも担えればと思っております。協会にはまだ規
こうしたことから、コルシカで地道に活動する
約などもありませんから、これは会員の人たちと
歌い手、ポリフォニー・グループを日本に招聘し
考えて、具体化していきたいと思います。
ようと考えたのがこの団体結成の始まりでした。
(会長
長谷川秀樹)
コルシカこの季間での出来事(2000 年 3 月〜5 月)
3 月:マティニョン協定決裂
ランス国家とコルシカとの関係の再構築をコルシ
昨
年 9 月、ジョスパン首相のコルシカ公式訪
カが率先して決めるよう求めたのである。フラン
問時に始まった、コルシカ地位についてのコルシ
ス政府はコルシカでまず将来のコルシカの地位に
カ地域議会議員と首相とのパリの首相官邸(マテ
ついて意見を統一し、これを政府法案として国会
ィニョン宮)での会談は、結局、成立せずに終わ
に提出する目論見であった。
った。ジョスパン首相は昨年 9 月、「将来のコルシ
しかし、政府にコルシカ統一案をまとめるはず
カはコルシカ地域議会の議員たちが決すること
であったコルシカ地域議会は、地元では当初から
だ」と発言して、昨年のいわゆるボネ事件(コル
予定されていたように、統一案の作成は困難を極
シカのボネ前知事が、コルシカの非合法民族主義
めた。それは、憲法改正を含む大幅な改革を行い
グループの溜まり場になっているとして立ち退き
たい勢力と、憲法やその他法律の制定は避け、な
を命じていた「海の家」シェ・フランシスがこれ
るべく現状維持にとどめたい勢力が真っ向から対
に応じなかったため、憲兵隊員を使って放火させ
立したためである。
た事件。知事は事件後職権濫用で逮捕・免職され
かつてなら、大幅な改革勢力は「コルシカ民族」
るが、それ以降、島民のフランス国家に対する不
の法的承認を求める民族主義グループだけにとど
信感が高まり、保守的な政治家ですらコルシカの
まっていたのであるが、90 年代後半以降、この構
自治を求めるようになる)以来求められているフ
図は大きく変わり、今、ジョゼ・ロッシ地域議会
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議長を含む DL グループ(自由民主主義グループと
った。方法は、二つの案のそれぞれについて賛成
呼ばれ、全国政党で保守中道の UDF=フランス民
と反対を問う採決を行い、ⅰ)賛成が過半数に達
主連合と連携関係にある政党)や、かつてはコル
せず、ⅱ)反対が過半数を超えた場合に案を却下
シカの改革に真っ向から反対していた伝統的政治
するという方法が採択された。
一家であったジャゴービ氏らの独立系保守派など
しかしながら、どちらの案も成立してしまった。
が、コルシカ議会への立法権付与、コルシカ語の
まず、民族主義やロッシ側が提案した方は、賛成
義務教育化、県制の廃止、特別税制地位の付与な
が半分に満たなかったものの、反対も半分に満た
ど大幅な改革と自治権の地位を要求する側に回っ
なかったためである。一方、バッジョーニ側の穏
ている。一方、コルシカ執行評議会長のジャン・
健改革動議案は賛成が過半数に達し、反対が少数
バッジョーニを筆頭とする RPR(共和国連合=フ
派であったので成立した。
ランスの保守・ドゴール主義政党)、共産党、社会
4 月初旬、コルシカ議員団はマティニョン宮にコ
民主派左翼、急進派左翼などはこれに反対し、フ
ルシカ議員案を提示したが、首相は困惑気味であ
ランスの地方分権の範囲内で法制化を伴わない小
った。「統一案を改めて検討して欲しかった」と彼
規模な改革にとどめるべきだと主張して、お互い
は述べた。コルシカ改革は頓挫してしまったのか。
譲らなかった。
その政府案としての解答は 7 月にだされる。この
いずれの側も譲歩が見られなかったので、3 月
結果は秋号に掲載予定。
10 日、コルシカ地域議会にて採決を行うことにな
4 月:大規模スト
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人の日常生活は海運に非常に多くのものを頼って
月、コルシカ経済は打撃を被った。フラン
いるのである。
ス本土と連絡する船舶及び航空、そしてコルシカ
5 月:異常な高温と火災
鉄道の全てが長期間に渡るストライキに突入した
からである。SNCM(コルシカ地中海国有海運公社)
今
年の夏は、コルシカ島をはじめ、地中海沿
は深刻な赤字状況に陥っており、国の赤字補填に
よって何とか経営を維持している状況であった。
岸では異常な高温状態とこれに伴う火災が続いて
この補填の条件に船員のストを禁止するという事
いる。シチリア島では最高気温が 47 度を記録して
項があるにも関わらず、SNCM は新型拘束艇 NGV
いる。コルシカ島の暑さはこれほどではないが、
の就航以来度々船員や荷揚げ職員のストに見まわ
それでも 5 月としては異例の暑さで、島内各地で
れている。彼らがストに訴えるのは、NGV が職員
は火災が生じている。警察当局は屋外、とりわけ
削減の口実につながっているからである。
市街地外での火気の不必要な使用と喫煙は厳重に
気をつけるように呼びかけている。
SNCM がストを起こすと、とたんに物資が入ら
なくなる。島各地にはフランス本土と変わらない
それより深刻なのが農業である。高温もさるこ
規模のハイパー・マーケットが並んでおり、商品
とながら地中海沿岸は今年になって雨らしい雨が
を大量に販売している。そして、コルシカで生産
降っていないからだ。特に柑橘類、野菜類への影
されるものは非常に限られているから、コルシカ
響が深刻である。高山を抱えるコルシカ島では雪
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山に水源をもつ一部の河川流域では被害は微少で
あるが、東部平原付近の牧草地帯では冬場のヤギ
や羊の牧畜に必要な牧草がそだたず、たち枯れ始
めている。(長谷川秀樹)
編集後記
今回はじめて会報ともいうべき冊子を発行する
は 10 月をめどに、料理や音楽やそのた文化的なこ
に至りました。紙名『ウ・ユルナーレ』とはコル
とも載せたいと思っております。
シカ語で「新聞」の意味です。創刊号でもあり大々
また、本紙は会員の皆様からのコルシカにかん
的なものにしたかったのですが、本職の大学教員
する(直接コルシカに関わらない旅行や仕事に関
の方が予想以上に多忙となり、写真もない中途半
することでも構いません)情報もお待ちしており
端なものになってしまい申し訳ありません。次号
ます。
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『ウ・ユルナーレ』創刊号
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〒263-8522
千葉大学社会文化科学研究科
長谷川秀樹研究室内
電話・FAX 043-290-3704
メール [email protected]
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