弁護士マイスター用レジュメ 離婚に伴う関係・手続選択が問題となる場合 2011/07/09 弁護士 後 藤 正 志 第3節 離婚に伴う関係 Ⅰ 親権・監護権 1 親権者の指定 父母が離婚した場合、どちらか一方の単独親権(民 819 条 1 項・2 項) 。離婚の 帰責事由とは関係なし。子の年齢が低いと、母親が親権者に指定されやすい。 2 親権者となるための手続 第一次的には合意。合意が成立しないときは親権者指定の申立。 3 監護権者とは 親権のうち身分上の養育保護を中心とする権利義務の総称。親権者と別に定めて も良い。 4,5 省略 Ⅱ 養育費 1 未成熟子の養育費の意義 養育費=未成熟子が社会人として独立自活ができるまでに必要とされる費用。教 育費も含まれるが、娯楽教養費(ピアノレッスン代、日本舞踊稽古代)について は否定した審判例あり。 2 養育費の始期と終期 始期・・・夫婦の別居開始時、調停申立時、審判時など 終期・・・成年に達したときとする扱いが多いが、高校卒業、大学卒業時までと する扱いもある。 なお、後日、養育費増減額の申立も可能である。 3 養育費の算定 養育費は、 「 (子の生活費×義務者の基礎収入)/義務者・権利者の基礎収入の合 1 計」によって算定されるが、実務は、養育費算定表(判例タイムス 1111 号)の 基準に従っている。 4 養育費支払の実現方法 合意があればそれによるが、合意が成立しない場合は、調停手続、人事訴訟手続 により定める。 なお、婚姻中の申立の場合は「婚姻費用の分担」 、離婚後の場合は「子の看護費 用分担」の申立になる。 5 養育費の支払 未成熟氏の養育費は、成長段階に必要な看護養育の需要を満たすべきものでなけ ればならず、かつそれで十分であることから、特別な事情がなければ一括払いを 認めず、定期金による支払によるべきだとするのが審判例である。 Ⅲ 子の引渡し(実現のための手続) ① 子の引渡請求は、子の監護に関する処分であり(家事審判法9条1項乙類4号、 家事審判規則53条) 、調停申立も審判申立も可能。142条) 。 調停・審判に際しては、それぞれ調停前の仮の措置(家事審判規則133条1 項・142条) 、審判前の保全処分に基づく子の引渡しを求めることもできる。 ② 離婚訴訟の付帯処分として子の引渡しを求めることもできるが、実務上は①の 方法が求められることが多い。 ③ 人身保護法に基づく保護請求もできるが、監護権を有しない者が子の引渡し請 求をする場合は、まず、家庭裁判所に親権者変更若しくは監護権者の指定又は 変更の調停・審判を求め、監護権者となっておく必要がある。 Ⅳ 面接交渉 「子の監護について必要な事項(民766条1項)として、家庭裁判所の調停・審 判を申し立てることができる。また、離婚訴訟の付帯処分として申し立てることも できるが、離婚を請求していない者(被告)が付帯処分の申立のみをできるかにつ いては議論がある。 実務的には、調停手続のなかで、家庭裁判所調査官による調査ないし試行的面接交 渉を進めることが多い。 Ⅴ 財産分与 2 1 概念 財産分与には、①夫婦が婚姻中に協力して蓄財した財産の生産、②離婚後の経済 的弱者に対する扶養料、③相手方の有責な行為により離婚を余儀なくされたこと についての慰謝料という3つの要素が含まれている。 財産分与請求権と慰謝料請求権の関係については、慰謝料を財産分与の中に含め て請求しても、同一訴訟で両者を併合して請求してもよいとされている。 ① 清算的財産分与 夫婦のいずれか明らかでない財産は、夫婦共有財産と推定される(民762 条) 。 対象財産範囲は別居時を基準とし、財産評価の基準は口頭弁論集結時とされ ている。 清算割合について、かつては専業主婦型と共稼ぎ・事業協力型等に分け、前 者の寄与度を3,4割程度に評価することが多かったが、現在では、妻が専 業主婦であったか否かを問わず財産分与割合を平等にするのが大勢である。 ② 扶養的財産分与 最高裁判例は「離婚後における一方当事者の生計の維持」を財産分与の目的 の一つとして認めるが、離婚後妻が安定した収入を得るまでの間の一次的手 当としての額を超えて、妻の再婚や死亡までの生活保障までは認めないのが 裁判連の扱いである。 ③ 慰謝料的財産分与 判例上、財産分与がなされた後の慰謝料請求も認められているので、財産分 与につき慰謝料の部分を含めるのか、含めるとして全部含めるのかを調書上 明確にする必要がある。 2 財産分与を得るための手続 ① 合意があればそれによるが、合意できない場合は家庭裁判所で調停を申し立 てることができ、不調の場合には審判手続に移行する。離婚訴訟に附帯して 財産分与の申立をすることもできるが、財産分与請求権は離婚後2年の除斥 期間で消滅する点に注意(民768条2項但書) 。 ② 定期金による分与の可否 扶養的財産分与についてのみ認められると解されている。清算的財産分与や 離婚慰謝料については、その性質上総額を定めることが必要なため。 ③ 詐害行為取消権の可否 3 民法768条3項の規定の趣旨に反して不相当に過大なもののみ取消の対象 となる(判例) ④ 債権者代位権行使の可否 財産分与の協議あるいは審判等によって具体的内容が形成されるまでは不可 (判例) ⑤ 分与義務者が破産した場合の取戻権行使の可否 財産分与金支払請求権は破産債権であって、取戻権の対象にはならない(判 例) 。 なお、未払の過去の婚姻費用部分は非免責債権(破産法253条1項4号ロ) 。 3 その他 (省略) Ⅵ 慰謝料 ① 法的性質 判例は不法行為説。離婚に伴う慰謝料請求権は、離婚成立によってはじめて 評価されるものであるから、消滅時効は離婚の成立とともに開始する(判例) 。 ② 財産分与との関係 財産分与の額及び方法を定める際には、 「一切の事情」を考慮するため(民7 68条3項) 、 「一切の事情」として、離婚の原因となった個々の不法行為に ついての判断も含まれ、財産分与に損害賠償の要素を含めることもできるが (判例) 、既になされた財産分与が、それを含めた趣旨と解されないか、又は その金額等において精神的苦痛を慰謝するには足りないと認められるときは、 別個に不法行為を理由として慰謝料を請求できる(判例) 。 ③ 慰謝料請求のポイント ・ 「誰がその状況におかれても精神的苦痛を感じるに違いない」という心証を 裁判所に与えるような客観的・外形的事実を丹念に拾い出し、客観的証拠(暴 力については医師の診断書、不貞行為については興信所による裏付け調査、 浪費については家計簿)の準備・保全を裁判前から励行させる。 ・離婚に至る夫婦の多くはお互いに被害者意識が強いので、ある程度は泥仕 合になることを覚悟する。 ④ 参与員(人事訴訟法9条) 東京においては、基本的に、一般の男女各1名ずつの参与員がおかれ、裁判 に関与する扱いが多い。 4 第4節 手続選択が問題となる場合 Ⅰ 過去の婚姻費用・養育費について ① 調停合意時や審判成立時以前の婚姻費用や養育費の請求は認められないこと が多い。これは、要扶養状態下での扶養請求権が、結果的に無事生き続けて いる以上、都度発生し都度消滅する権利だからとされている。 ただ、現実に不払いが生じている場合、何とか請求したいところである。 ② まず、過去の婚姻費用・養育費のみを請求する通常民事訴訟は認められてい ない(判例) 。 ③ では、離婚の訴えと同時に過去の婚姻費用・養育費を求める附帯処分はどう かだが、離婚時までの婚姻費用・養育費については附帯処分に含めないとい うのが実務である(過去の婚姻費用・養育費は財産分与として清算可能だか ら) 。 ④ そこで、 「離婚調停合意成立・審判成立前に過去の婚姻費用・養育費分担の調 停・審判を別途申し立てる」 、 「離婚訴訟提起後の財産分与の附帯請求の中で、 過去の養育費等について請求する」という方法が模索されている。 Ⅱ 特有財産の引渡請求について ① 嫁入り道具や書籍その他の特有財産引渡しの請求は財産分与の対象外であり、 通常の民事訴訟による請求も費用倒れになる可能性が高い。 そこで、離婚請求に併合しての請求の可否が議論されている。 ② この点、人事訴訟法17条は、民事訴訟事項を扱うことのできない家庭裁判 所に、例外的に損害賠償請求を扱うこと認めた職分管轄の規定であるから、 財産分与の対象外である特有財産の請求を併合審理することはできないとの 否定説と、特有財産の引渡し請求も離婚請求との関連性が強く一回的解決の 必要性が高いこと、審理してみないと特有財産から実質的共有財産かは不明 な場合が多いことから、同法17条の準用あるいは財産分与の一環としての 附帯申立を認めて良いとの肯定説がある。 最高裁の判例はまだないが、下級審裁判例の中には、併合規定の準用により 併合審理を認めたものや、旧人事訴訟法15条準用により引渡請求を認めた ものがある。 5 ③ 実際は、調停や訴訟に伴う財産分与の附帯申立をなしつつ、その手続中で個 別に特有財産について主張立証・個別交渉を行うことが多い。 Ⅲ 婚姻費用・養育費の分担・財産分与につき予め合意がある場合 (省略) 以 上 6
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