第 101 回中国セミナー

日中産学官交流機構
第 101 回中国セミナー
日
時: 2015 年 4 月 20 日
講
師: 張 秋華氏(ビジネス・ブレークスルー大学大学院教授)
テーマ: 「中国の新金融秩序への挑戦 ~AIIB の誕生をめぐって~」
(AIIB の設立経緯)
AIIB(Asia Infrastructure Investment Bank)は 2013 年に中国が提案し、一帯一路という言葉とほぼ同時期
に生まれた。一帯一路の沿線上の 60 カ国以上々と議論を重ね、2014 年 10 月にアジア地域の 21 カ国が
MOU に署名した。MOU の内容は、法定資本金 1000 億ドル、イニシャル目標 500 億ドル、払込比率 20%で
ある。創設メンバー国の出資比率は GDP のウエイトをベースに計算する。本部所在地は北京で、4 月 15 日
に創設メンバー57 カ国が確定し、年内に正式に設立される。AIIBの目指す方向は Lean(効率的な小さな組
織)、Clean(汚職を許さない高い倫理観)、Green(環境に優しい)で、注力分野はアジアのインフラや生産的
セクターの開発である。ポジショニングは既存の多国間開発銀行の補完であり、代替ではない。総裁候補は
金立群氏で、中国財務部に入省後、世界銀行(WB)副執行理事、ADB 副総裁、中国投資公司(CIC)監事
長、中国国際金融公司董事長を歴任し、昨年 10 月から AIIB 多国間臨時事務局長をしている。
(AIIB 誕生の背景-戦後の国際金融秩序)
既存の国際金融秩序は 1944 年のブレトンウッズ体制からスタートした。ブレトンウッズ体制を整えるために
国際通貨基金(IMF)と WB が生まれた。IMF がつくられた背景には、アメリカが圧倒的な GOLD を持ち、輸
出力が強いことに対抗して、「他国が自国通貨を安くすることを防ぐため」(by Harry Dexter White)であった。
また、「世界金融の中心をアメリカ財務省に持ってくるため」(by Henry Morgenthau Jr.)であった。その後、
1971 年に US$と GOLD の兌換性を維持できなくなり、ブレトンウッズ体制が崩壊し、1973 年に変動相場制に
移行した。この時期から、国際金融秩序がなくなってきいき、特に 2008 年のグローバル金融危機からこれが
蔓延した。各国が量的緩和を行い、アメリカの連邦準備銀行の資産は、2007 年末の約 1 兆ドルから昨年末
には 4.5 兆ドルになった。その中身は殆ど MBS(Mortgage-backed securities)と国債の買取りであった。日本
のアベノミクスの構造もこれと似ており、2012 年からの 2 年間で日本銀行の資産は倍増した。中身は国債の
引き受けで、その残額は 114 兆円から 250 兆円となった。一方、中国人民銀行も 2007 年から昨年末までに
資産が倍増したが、中身は全く異なる。政府債権の保有残高昨年末は 1.5 兆元であり、2007 年末の 1.6 兆
元よりわずかに減少した。増えたのは外貨準備で、この 7 年間で 11.5 兆元から 27.1 兆元に倍以上増えた。
中国は国際金融制度の改革を 2009 年に初めて呼び掛けた。今の国際準備通貨制度―ある国家主権の
信用によって発行される通貨を主要な国際準備通貨とする制度―ではグローバル金融の安定を保てない、
世界経済の発展を促進できない、という問題を提起した。この準備通貨制度の問題として「トリフィン・ジレン
マ」があり、つまり、アメリカが世界中の US$の流動性を提供するために大量発行しなければならない、そうす
ると US$の価値は長期にわたり低くなり、準備通貨の価値の安定が保てられないのであるまた、他の国と違
い、US$が基軸通貨であるためにアメリカが国債デフォルトの心配はない。従って US$を無制限に発行でき、
貿易赤字を無くすような自律性は持たない。中国は新たな準備通貨として IMF の特別引出権(SDR(Special
Drawing Rights))の可能性を提案し、また SDR バスケットが経済規模を反映した通貨バスケットにするよう提
案した。SDR バスケットの中身は 5 年ごとに見直しを行われ、現在は、US$ 42%、EUR(ユーロ) 37%、GBP
(UK ポンド) 11%、JPY 9%であるが、これを今年 11 月に見直す必要がある。そこに人民元を入れるかどうか
が議論されており、上記中国の提案で計算すれば 2013 年の PPP ベースの GDP を用いて 4 つの通貨にし
た場合、US$ 36%、EUR 25%、人民元 29%、JPY 10%となる。しかし、アメリカは自国一票で否決権を持っ
ているので、アメリカが反対すれば人民元のバスケットへの組み入れは不可能になる。この一票否決権が
IMF の改革が遅れる原因でもある。
(AIIB 誕生の背景-中国の金融改革の進展)
中国は 1978 年までは計画経済のもとでほぼ無金融の時代であったが、1978 年に改革開放を決議し、市
場経済を取り入れた。金融分野における改革は、中国の実状に沿ったステップバイステップでロジカルな展
開を行っている。
第一ステップとして、1984 年までに国家銀行であった中央銀行から市中銀行業務を四大銀行に分離し、
中央銀行を金融政策の立案と実行に専念できるように再編した。同時に国有銀行の財政資金を銀行の借
入に転換した。
第二ステップは競争を促すため、金融多元化を図った。最初に中国国際信託投資公司(CITIC)、その後、
証券会社、株式制商業銀行、保険会社がつくられた。90 年に入ると証券取引所が上海と深圳にできた。
第三ステップとして金融体制改革を実行した。94 年に人民元の為替制度を改革した。二重レートを廃止し、
統一外貨取引センターを上海に設立した。また、政策銀行 3 行を新設し、金融関連法をたくさん出した。
1996 年には IMF8 条国の署名を行い、経常項目の外貨取引を完全自由化した。
1997 年のアジア通貨危機が発生し、第四ステップとして、危機対応力を強化するため、四大銀行の不良
債権処理を加速した。2,700 億元の特別国債を発行し、四大銀行に資本注入した。更に、4 大金融資産管
理公司(AMC(Asset Management Company))が四大銀行から簿価ベースで 1.4 兆元の不良債権を買い取
った。
第五ステップとして、2001 年末に中国は WTO に加盟し、国内金融セクターの対外開放を行った。このた
め、中国の銀行は 2007 年までに改革を行い、外国から戦略的パートナーを入れて上場した。
第六ステップは国際視野から行っているもので、人民元の国際化と国際金融システムに入る動きであった。
昨年 11 月には 400 億ドルのシルクロードファンドをつくり、同じく 11 月に上海と香港の間の Stock Connect
を開通した。
ここ 10 数年の中国の金融において、一つの課題は外貨準備の急増である。外貨準備高は WTO に加盟し
た当時の 2,000 億ドルから、今では 3.8 兆ドルとなった。その間、外貨準備増の対価として市中に出した人民
元流動性の不胎化操作を継続的に行ってきた。外貨準備を大量に抱えることによって金融政策の実施空間
が少なくなった一方、外貨準備の 6、7 割を US$で持っているため、US$の下落が不都合である。また、
US$の長期金利は近年 1%台に下落したが、不胎化操作のための金利は平均で 3~4%で、逆ザヤになって
いる。中国にとって人民元の国際化を実現すれば、この多額の US$を持つような問題から解放される。人民
元の国際化を推進するため、第一ステップとしてクロスボーダー決済の推進であった。経常取引決済につい
て、2009 年に実験し、2011 年 8 月に国内全土で海外企業との人民元取引が解禁された。資本取引につい
ても、2011 年 10 月に外国直接投資として人民元を使用可能にした。2014 年現在の中国の貿易取引は、人
民元ベースの決済が全体の 22%まで増えている。更にオフショア人民元市場を設立しており、最初は香港、
その後、マカオ、台湾、シンガポール、ロンドン、フランクフルト、ソウル、パリ、ルクセンブルグ、トロント、ドー
ハ、クアラルンプールに設立した。シドニーとバンコクは準備中である。また、中国人民銀行は 31 カ国の中
央銀行との間で、いつでもお互いの通貨を交換できるよう通貨スワップ協定を結んだ。人民元は国際支払通
貨の取引額は、3 年前は 20 位から 2015 年 2 月には 7 位となった。また、AIIB と似た国際金融機関として
NEW DEVELOPMENT BANK がある。2014 年 7 月に設立され、BRICS5 カ国が出資者となり、本部は上海
にある。更に一帯一路とも関係がある 400 億ドルのシルクロード基金もつくった。
(今後の展開と課題)
AIIB は発展途上国の多いアジアを中心とするインフラ投資を行うため、様々なリスクが抱えるので、リスク
管理が成功のカギとなる。一帯一路関連が中心となり、沿線の国と地域の実体経済がどれだけ発展できる
かに掛かっている。二つ目は人民元の国際化が加速していく。AIIB とは別に四大銀行はプロジェクトベース
で一帯一路関係のパブラインをつくっている。国家開発銀行だけでも沿線 64 カ国の約 900 のプロジェクトの
ために 8,000 億ドルの資金を準備している。四大銀行最大手の中国工商銀行は 131 のプロジェクトに対し
1588 億ドルの予算を取っている。また中国銀行(BANK OF CHINA)は沿線国に 50%のカバレッジで支店を
展開し、今後 3 年の関連融資を 1000 億ドルと予定している。更に、ユーラシア大陸の経済一体化が進んで
いく。これは地政学的な観点からとても興味深い。