iMF ダイレクト ブログ -- アジア:不確実な世界経済の中での景気刺激策

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アジア:不確実な世界経済の中での景気刺激策の解消
アヌープ・シン
前回のブログは中国からでした。今週は、最新の「アジア太平洋地域経済見通し」
を発表するために、インド・ニューデリーに来ています。ご存知のようにインドは、
中国など他の国々と共にアジア経済の回復の重要な原動力となっており、アジアは
世界経済の回復を先導しています。
一方、アジアの輸出需要への依存度は高く国際金融市場との統合がますます進んで
いることから、世界経済の回復もアジアの成長に影響を及ぼします。そして、欧州
経済の動向で再び明らかとなったように、世界経済の見通しは下振れリスクに晒さ
れており、世界中の金融市場の変動は依然としてこれを反映していると言えるでし
ょう。
従って、最近のアジアのパフォーマンスは力強く見通しも引き続き比較的明るいで
すが、困難から脱しているわけではないのです。
最適なペースを掴む
このように不確実な情勢のなかでのアジアの政策立案当局の主要な当面の課題は、
金融及び財政政策の環境の正常化に向け、適切なペースを見極めることだと言えま
す。
アジア経済は先進国に先駆け回復しておりそのペースも速いことから、同地域の政
策環境の正常化は、世界の他の地域より早く開始されることが重要です。しかし世
界経済の回復は脆弱であることから、刺激策の解消は慎重且つ段階的に行わなけれ
ばなりません。
この点では、幸運なことに、近年、同地域全体で政策枠組みが強化されており、大
半のアジア諸国は、外生ショックに柔軟に対応できる財政及び金融上の「余地」を
有しています。「出口」に向かう適切なペースは、各国の景気局面や抱えるリスク
に影響されるため、国によって異なります。
金融正常化のペースは、実施されている金融緩和の状態、産出ギャップの縮小ペース、
インフレ圧力の台頭など、いくつかの主要事項を考慮して決定する必要があります。
経済不振の程度が軽く外需への依存が少ない国では、稼働率の制約下にある若しく
は不確実な外需に大きく依存する国と比べ、正常化のペースを加速することができ
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ます。最近インドなど数カ国で見られる消費者物価の上昇も、注意深く見守る必要
があります。
食糧とエネルギー価格がこの上昇の一因ではありますが、「コア」消費者物価の上
昇もその要因となっており、インフレ圧力は、不安定な食糧やエネルギーといった
項目にとどまらないことを示しています。
厄介な問題
もちろん、金融引き締めはさらなる資本の流入リスクを伴い、マクロ経済運営を複
雑にする可能性があります。
大量の資本流入への対策としては、すでにアジアの多くの国が行っているように、
株価や不動産価格などの資産価格の急騰への対策のためのプルーデンシャル規制や
為替相場の柔軟性の向上など、いくつかの措置を検討することができます。
財政政策に目を向けると、多くのアジア諸国は今年、危機の間に実施した景気刺激
策を一部解消するとしています。それでも、私は大半のアジア諸国の財政状況は引
き続き緩和的であると予想しています。
アジアのほとんどの国(日本を例外とする)の公的債務レベルが低いことから、景
気刺激策のこのような段階的な解消は非常に適切だと言えるでしょう。また、依然
として見通しに対する大きな下振れリスクが存在することを考えると、成長を支え
る的を絞った財政措置をいくつか残すことは、リスク管理として適切だと言えるで
しょう。
以上述べてきましたが、政策立案者は当面の課題から先に目を移し、将来のショッ
クに対応できる財政的な余地を確保し、政策の信頼性と有効性を維持するために、
中期的には中立的なスタンスへと移行する計画を策定することが、重要だといえる
でしょう。
アヌープ・シン:国際通貨基金(IMF)のアジア太平洋局長。前職
は IMF 西半球局長。新興市場・移行国や、南・東南アジア、東欧お
よび中南米の途上国における IMF 支援のプログラムの策定に携わる。
インド準備銀行総裁の特別顧問などを歴任。
2010 年 1 月 21 日、iMF ダイレクトに掲載