図書室便り 2015年11月発行 No.3(PDF)

明星学園中学校図書室
紅葉が美しい季節となりました。スポーツの秋、食欲の秋、そして、読書の秋です!
10月までに図書室に受入した本から5冊と隠れた名作を1冊、嘘にまつわる本を5冊
ご紹介します。11月から新着図書リストもつくりました。ぜひ図書室へ来てください。
『幽霊塔』江戸川乱歩著 岩波書店
91 エ
江戸川乱歩の「少年探偵」ファンの中には、 『時計塔の秘密』を読んだという人も
いるかもしれません。『幽霊塔』は『時計塔の秘密』の大人版。正確には、『時計塔の
秘密』のほうが『幽霊塔』を子ども向けにリライトしたものです。『幽霊塔』には明智小
五郎は登場せず、26歳の青年が独力で、かつて殺人が行われたといういわくつきの
時計塔の謎に挑みます。家主も脱出できないまま息絶えたからくり迷路、人肉をくわ
えたまま死んでいった老婆、猿を連れた太った女、サーカスから逃げ出したトラとの
密室での対決、池から見つかった死体、暗やみの部屋に浮かぶ人間の腕……。怒
濤のように登場する気味が悪く怪しいモノに、息つく間もありませんが、本作で何よ
りも恐ろしいのは、完璧なまでに美しく聡明な女、秋子です。主人公は秋子に熱い恋心を募らせるものの、彼女に
殺人の容疑が浮上します。秋子の美しさはあまりにも完璧すぎて、つくりものめいて見えてきます。彼女の正体を
知りたい。でも知りたくない。『時計塔の秘密』では省かれていた美しく誘惑的な恐怖をぜひ堪能してください。
この本には宮崎駿による「幽霊塔」解説カラー漫画や絵コンテがついています。「ルパンⅢ世 カリオストロの
城」ファンにとっても見逃せません。
『WONDER ワンダー』R・J・パラシオ作
中井はるの訳 ほるぷ出版
93 パ
主人公のオーガスト・プルマンは生まれつき顔に障害のある男の子。長く生きられないとい
われていた彼でしたが、手術を繰り返し10歳になり、初めて学校に通うことになります。顔とい
う人がまず目にする場所に障害をもつ彼に、どんな学校生活が待ち受けているのか。意地の
悪い子もいますが、そんな子ばかりではありません。オーガストの家族も彼自身も、差別に遭う
ことを多少は覚悟しています。
作品は、オーガストの章、オーガストの姉の章、友達の章と分かれていて、彼らの軽妙かつ率直かつユーモア
あふれるおしゃべりに耳を傾けるような感覚で読むことができます。ジャクリーン・ウィルソンが好きな人にはぜひ
手にとってほしいです。
スターウォーズ、ハローウィン、キャンプ……。アメリカの家族、アメリカのハイスクールのムードを味わいなが
ら、一年にわたるオーガストの学園生活を楽しんでください。
『フラッシュ・ポイント』神永学著 91 カ 4
『ぼくらの魔女戦記 1 黒ミサ城へ』宗田理作 91 ソ 1
『武士道ジェネレーション』誉田哲也著 91 ホ
『スカラブ号の夏休み 上・下』アーサー・ランサム作 神宮輝夫訳 93 ラ 11
『ガフールの勇者たち特別編
『ギネス世界記録
失われた6つの物語』キャスリン・ラスキー著 93 ラ
2016』クレイグ・グレンディ編、大木哲ほか訳 03 ク 2016
『空想科学読本』11~16柳田理科雄著 40 ヤ
『月にハミング』マイケル・モーパーゴ作、杉田七重訳 小学館 93 モ
時代は第一次世界大戦中。イギリスのブライアー島に住むアルフィは、学校をサボって
父と漁に出かけ、立ち寄った無人島セント・ヘレンズ島で、瀕死の女の子を発見しました。
急いで家へ連れ帰り、家族は根気強い看病を始めます。アルフィの母親は、精神病院に
収容されていた兄を引き取り、世話し続けるほどの面倒見がよく気丈な性格。身元不明、
言葉もしゃべれない彼女のことも引き取ると宣言します。話を聞いているのかもわからない
彼女に、毎日学校の様子を話しかけ続けたアルフィは徐々に彼女と信頼関係を築いてい
きます。このような一家の献身的な看護、クロウ医師のレコードを聴くこと、暴れ馬とされて
いたペグとのふれあいによって、彼女は自分を取り戻していくようなりました。校長先生のお
達しに従いアルフィと通うことになった学校では、かなりの腕前でピアノ演奏を披露します。
さて、彼女はいったいどこからやってきたのか? なぜ口をきかないのか? この謎が彼
女とアルフィ一家にさらなる災難をもたらします。島の生活の中で進む彼女の治癒のゆっく
りとした速度とは裏腹に、読み始めると一気に読んでしまいたくなる作品です。
『戦争画とニッポン』椹木野衣著、会田誠著 講談社
72 サ
美術評論家・椹木野衣と現代美術家・会田誠が、太平洋戦争下に国策へ協力して描
かれた日本の戦争画を対談形式で振り返る試みです。
日本人はどんな戦争画を描いたのか。なぜ画家はそのような絵を描こうと欲したのか。
日本で油絵はどんなものが評価されていたのか。日本の美術教育。欧米絵画との比較。
西洋絵画史の誰を参考にしていたのか。軍隊における従軍画家の地位。それぞれの画
家の画壇での地位、戦争観。画家の心情や歴史、当時の状況に対する目配りがされてい
るので、一枚一枚の絵の鑑賞がおもしろいのはもちろん、日本の絵画全般の特徴も知るこ
とができます。
たとえば、会田誠は、戦争画は、鬼畜米英のエグい絵ばかりだと思いきや、兵士の個性
や人格というものを描こうとするヒューマニスティックな作品が意外に多いと指摘します。
一方、戦後に批判が集中した藤田嗣治の戦争画は、残酷な死が描かれていて、太平洋
戦争全体を総括する巨視的な視線があるといいます。画壇では無名の挿絵画家が名を
挙げたこともありました。その画家が洋行帰りだったからではないかと推察します。
椹木氏と会田氏の対談には、もしも自分が戦時下にあったら、という意識をともなってい
ます。戦争画へ拒絶反応を起こすでもなく、お国のために貢献したと賞賛するでもなく、一
つの歴史への深い理解が目指された本書。オリンピック前に読んでみてください。
『東京空襲写真集 決定版 アメリカ軍の無差別爆撃による被害記録』早乙女/勝元監修 21 サ
『長崎原爆写真集 決定版』反核・写真運動監修 21 ハ
『少女たちの学級日誌 1944-1945年 瀬田国民学校五年智組』21 ヨ
『あんずの木の下で 体の不自由な子どもたちの太平洋戦争』小手鞠るい著 21 コ
『せんそうしない』たにかわしゅんたろう文 えがしらみちこ絵キータ
『シンドラーに救われた少年』レオン・レイソン著 23 レ
『杉原千畝と命のビザ 自由への道』ケン・モチヅキ作 28 ス
『13歳の少女が見た沖縄戦 学徒出陣、生き残りの私が語る真実』安田未知子著 21 ヤ
『少年兵はなぜ故郷に火を放ったのか
沖縄護郷隊の戦い』宮本雅史著 91 ミ
『平和をかんがえるこども俳句の写真絵本』21 ヘ
『戦争と平和 〈報道写真〉が伝えたかった日本』白山真理著 小原真史著 74 シ
『天と地の方程式
1』富安陽子著 91 ト 1
『グッドジョブガールズ』草野たき著 91 ク
『しばしとどめん北斎羽衣』花形みつる著 91 ハ
『ハーレムの闘う本屋
ルイス・ミショーの生涯』
ヴォーンダ・ミショー・ネ
ルソン著 岩波書店 93 ネ
『それぞれの名前』春間美幸著 91 ハ
『火花』又吉直樹著 91 マ
『走れ、走って逃げろ』ウーリーオルレブ∥作 92 オ
『白蛇伝』渡辺仙州編著 92 ワ
『青い目の人形物語 1 平和への願い アメリカ
編』シャーリー・パレントー作 93 パ 1
『神々と戦士たち 1 青銅の短剣』ミシェル・ペイ
「父さんを見ると、体のあちこちが弱って痛そうだ。おれ
は絶対に、白人のために働いてぼろぼろになったりしな
い。頭を使い、自分の足で立ってみせる」(16 頁)
はじまりは、怒りと決意でした。
ルイス・ミショーは、まともに働いても黒人である以上報
われることのない社会に憤り、窃盗にギャンブルいくつか
の悪事に手を染めて青年時代を過ごしました。けれども、
1933 年 44 歳のとき、黒人のための、黒人が書いた、世
界中の黒人について書かれている本を取り扱う書店を始
めます。1950 年~60 年代のアメリカで展開する、白人と
同じ権利を要求した公民権運動の礎となる時代でした。
「自分にどれだけの価値があるのか知らなければ、働い
た対価をいくら受けとるべきなのかわからないはずだ。自
分が何者なのか知って初めて、現状を改善できる」(41 頁)
それをなしえるのが本であるというのが彼の信念でし
た。社会に異議を申し立てるということは、現状や先人に
NO を叩きつけるということです。かといって同じ不満を持
つ黒人とも、細かな展望も戦略も理想も異なり、簡単に連
帯できるものでもありません。
本書で、ミショーも彼を取り巻く人々も骨太に生きてい
きます。キング牧師、マルコム X も登場し、前へ前へと進
まんとする歴史のダイナミズムを感じられます。
ルイスは自分の甥っ子に音楽を続けるように励ましな
がらも、ブルースは歌うな、とも言いました。ブルースは 19
世紀末に黒人の間で流行った自分たちへの慰めの歌。
慰めではなく闘いを。……実にクールです。
本書は、ルイス・ミショー含む様々な人々の証言で構
成されています。ルイスの子孫が当時を取材して、不明
点をフィクションで補って執筆しました。
黒人と白人の融合を唱えるキング牧師と、分離を主張
するマルコムX。公民権運動の光と影ともいえる二人で
す。さらに知りたい人は、キング牧師についての著書や『マ
ルコム X 自伝』(28 マ)、当時の黒人青少年の声をおさめ
た『ハーレムの子どもたち』(31 ガ)、黒人の投票権を求め
て起きたアラバマ州のデモ行進『セルマの行進』(31 ロ)。
本書に登場するラングストン・ヒューズの詩集も図書室で
は2冊所蔵しています。
ヴァー著 93 ペ 1
『コービーの海』ベン・マイケルセン作 93 マ
『白いイルカの浜辺』ジル・ルイス作 93 ル
『狐物語』95 シ
『片手いっぱいの星』
R.シャミ作 若林ひとみ
訳 岩波書店 94 ネ
シリアに生まれ、1971年、ドイツへ亡命したラフィ
ク・シャミ氏の自伝的な作品です。最近のシリア難民
のニュースを彷彿とさせる経歴です。
本書は1987年にドイツで出版されました。作品世
界はシャミ氏の子ども時代である1960年代前半、シ
リアの首都ダマスカスを作品の舞台としています。
主人公は、シリアでは少数勢であるキリスト教を信
仰するパン屋の息子として生まれました。家業を継ぐ
のではなく新聞記者が夢。学校の先生のすすめで出
版社に詩を送ったところ、認められて本に掲載される
ということもありました。けれどもパン屋が苦しくなり手
伝いのため学校へ通えなくなります。しかし、パンの配
達の縁で新聞記者のハビープさんと出会います。
日記形式をとっていますが、主人公の心の中だけ
ではなく、家族や友だち、町の人々のこともよく描かれ
ています。祖父のサリームじいさんはほらふきで知恵
者でいつも主人公を楽しませてくれます。
町で見かけるスズメを連れた変人がアラビア語とラ
テン語とオリエントとトルコ語とペルシア語とギリシャ語
とイタリア語とスペイン語とヘブライ語、アッシリア語で
一片の物語を書くところが印象的でした。主人公は近
所の様々な国の人を訪ね歩き、数日でその意味を知
ります。毎年のようにクーデターが起き、ガールフレン
ドの父親が秘密情報機関の人なんてことがあっても、
おおらかさもある町の風景が目に浮かぶようです。
いろいろな嘘
『チューリップ・タッチ』93 フ(アン・ファイン作、灰島かり訳、評論社)には嘘が上手
な女の子が出てきます。主人公のナタリーが引っ越し先で新しく友だちになったのは、チ
ューリップという名前の女の子でした。彼女は不穏で嘘つきなので学校でも仲間はずれ。
彼女の嘘はとても詳細で嘘を吐いていることへの後ろめたさがまったく見えません。その
話術の巧みさをナタリーのパパは冷やかし気味に「チューリップ・タッチ」と呼びます。
ナタリーはチューリップの嘘に気がついても、そっと話題をかえ、問いただすことはしま
せん。チューリップはひどい家庭環境に育っていて、それは周知のことでもありました。
ナタリーもチューリップの家への訪問は、犬が怖いからと嘘をついて断ります。
ナタリーは、はじめチューリップとふたりで繰り広げる悪ふざけを存分に楽しみました。けれども、たち
の悪いイタズラやナタリーに対するばかにした態度は、ナタリーの許容範囲を越えていきます。後半、ナタ
リーのチューリップに対する理解、愛情、葛藤、悔恨が胸に刺さるように伝わってきます。両親の嘘に対し
ても的確な批判を向けることができるようになったナタリー。心強くもあり、しかし、あまりに苦すぎる成
長をとげるのです。
今度はたいして罪深くない嘘です。
『girls in love』93 ウ(ジャクリーン・ウィルソン著、
尾高薫訳、理論社)で主人公エリーは、友達に張り合って、夏休みの間に彼氏ができたと嘘
をついてしまいます。告白されてペンフレンドになった男の子がいるところまでは本当。け
れども、ちっともさえない年下の男の子なのです。シニカルな笑いもまじえ軽快なタッチで
物語りながらも、恋する女の子の悩みもさらりと盛り込む手腕は、さすがジャクリーン・ウ
ィルソン。ガールの憧れとお気に入りをつめこんだこの作品は、もちろんハッピーエンドま
ちがいなしです。
『バンヤンの木 ぼくと父さんの嘘』93 マ(アーファン・マスター著、杉田七重訳、静山
社)には父親への愛情に満ちた献身的な嘘が登場します。1947年分離独立を迎えるイン
ドにて、穏やかだった町では宗教の違いなどで人々が対立し暴力が横行するようになりまし
た。ちょうどその頃、教養人で、かつては市場の調定役だった父は末期癌で余命わずかと宣
告されます。13歳のビラルは、愛する祖国の変わり果てた姿を知ることなく父を死なせて
やりたいと願い、インドは一つだと嘘を吐く決意を固めます。罪深さを抱えながら、友達や
周囲の力を借りて外の情報が入らないように奮闘するビラル、父と対立して家を飛び出し、
国の新しい変化に憤りをもって体当たりしていくビラルの兄、それまでは気にもとめずにす
んだ宗教の違いが原因で離ればなれになる友達、ビラルの奮闘を温かく見守る医師。政治が
新しい社会を目指して動乱するときの人々の様子を描いています。
「嘘」という言葉を冠した『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』93 ヨ(米原万里著、角川文庫)
でも、激動の時代を生きる人々に焦点があてられています。1960年代前半、チェコスロバ
キアにある「在プラハ・ソビエト学校」に通っていた、ロシア語の通訳者でもある著者の米原
万里さんの、ギリシア人のリッツァ、ルーマニア人のアーニャ、ユーゴスラビア人のヤスミン
カの思い出と三十年ぶりの再会が書かれています。20世紀後半、東欧では社会主義体制の崩
壊と民主化が起きて、三者三様の激動の人生を辿りました。祖国を愛するアーニャは、思いや
りがあってみんなからは愛されて、ついても何もメリットのない嘘ばかりつきました。チュー
リップとはまったく別物の嘘です。三十年後に明らかになったアーニャの嘘とその真実、理由、
そして三十年後のアーニャの生き方をぜひ読んでみてください。
最後は、作品そのものが嘘かもしれない三部作を紹介します。
『悪童日記』 『ふたりの証拠』
『第三の嘘』95 ク(アゴタ・クリストフ著、堀茂樹訳、早川書房)です。この三部作に共通す
るのは、作者の祖国であるハンガリーと思われる国が舞台であること。双子。疎開。国境。生
き延びるためのいくつかの過酷な体験。主人公が自分の生き様を記録すること。『悪童日記』
では子供時代、
『ふたりの証拠』では青年時代、
『第三の嘘』は大人になってから。たくさんの
共通点があり同じ世界における同じ人間の物語のように書かれているこの三部作ですが、一つ
一つのエピソードには食い違いが出てきます。フィクションとはいえ、一本筋の通ったストー
リーがありそうなのに、捕まえさせてくれないのです。そう思ってみてみると「日記」、
「証拠」、
「嘘」、記憶違いだと告発されるのを待ち構えているようなタイトルをしています。
作者には祖国を逃れオーストリアへ亡命した過去があります。亡命とは、祖国に自分を置き
去りにするような体験でもあるのでしょう。自分から自分が切り離されると「本当のこと」を
決めることはとても困難になるのかもしれません。不確かさのなかで描かれる愛情は読む者の
胸に迫ってきます。