(2012年2月号、中央法規出版)「専門職プロファイル(9) 鍼灸マッサージ師」

「連携」と一口に言っても、つながる相手は職種も
分野もさまざま。あの人は毎日一体どんな仕事を
鍼灸マッサージ師
9
しているの? 他職種を理解して専門性を活かそう!
医療保険で行うマッサージ◆今回のプロファイルは訪問マッサージ(在宅療養マッサー
ジ)を行う鍼灸マッサージ師。一定の条件で医療保険での利用が可能になるサービスだが、
機能改善が大きな目的となるリハビリテーションとの違いは、疼痛緩和や関節拘縮の改善な
どが前面に出てくる点だろう。報酬上は、訪問マッサージが行うはり、きゅう、あん摩・マッ
サージは、医療保険の療養費に位置づけられる。
利用までの主な流れは以下のとおり。ケアマネジャーの紹介などで利用者が訪問マッサー
ジの利用を希望した場合、原則的には利用者から医師に相談をする。医師が医療上必要と認
めれば、医師に利用の同意書(書式は各訪問マッサージの事業者からもらえる)を書いても
らい、サービスの利用開始となる。利用の可否は診断名ではなく、マッサージが有効な症状
かどうかで検討される。
今回は鍼灸マッサージ師の仕事と、連携のメリットを再確認してみる。
●鍼灸マッサージ師・内田さんのある1日
あるサービスといえる。
株式会社フレアスのふれあい在宅マッサー
医師の同意書の内容、ケアマネジャー等から
ジ・山梨事業所に勤める鍼灸マッサージ師・内
の情報と、相談員が詳細に聞き取った情報をあ
田朝美さんは、10年目のベテラン。同社は、主
わせて、その日の患者の体調をみながら、マッ
に書類上の手続きや初回の聞き取り、ケアマネ
サージ師は施術を行っていく。
ジャーとの連絡調整などを担う「相談員」と、
実際の利用者の施術にあたる「マッサージ師」
の2職種で業務を分担している。同事業所の相
談員は3名、マッサージ師は25名で、利用する
患者は750名程度だ。
この分業制には、マッサージ師が初回の聞き
取りにかかる時間を短縮できるなど、効率の面
で大きなメリットがあるという。それだけ、利
用者の医療情報を時間をかけて聞き取る必要が
9:00〜12:30 ◦午前中に4件訪問
12:30〜13:00 ◦昼食は移動の合間に車内で
13:00〜18:00 ◦午後7件訪問
1日にマッサージ師がまわる平均は1日10~12件程度。訪問
と訪問の間の移動距離が利用者の費用にかかわるため、訪問
ルートはなるべく無駄がないようにマッサージ師自身が組む
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ケアマネジャー|vol.14-no.2|2012-2
午前中に訪問したのは雨宮さん宅。麻痺側を中心に仰臥位の四肢マ
ッサージ、可動域訓練、鏡を使いながらの座位保持とバランス運動
を経て、起立・立位バランス運動へ。20分の時間のなかで、利用者
の体調に合わせたメニューを行う。鏡を見る雨宮さんの顔も真剣
だ ●信頼関係が支援をうまくまわしていく
のためでもあり、またケアマネジャーとの信頼
身体に触れながらの施術中には、最近の悩み
関係を築く上でも重要と、内田さんは語る。
や家族関係についてなど、今まで口にしなかっ
「少しでも患者さんがよくなる、楽になること
た情報が利用者から聞かれることもある。重要
が私たちのやりがいです。ターミナルなど、改
な情報は利用者の了解を得て、相談員を通しケ
善を目指すような状況になくても、少しでも楽
アマネジャーに報告する。サービス担当者会議
な時間を過ごしてもらいたい。そのためにケア
にも積極的に参加する。
「担当者会議に声掛け
マネジャーとの信頼関係を築き、患者さんの希
をいただいた場合は相談員が参加し、最近の身
望に添った必要な施術やサービスを届けたいと
体の細かな機能変化などについてお伝えしてい
思っています」
ます。ご家族や他職種と直接会える貴重な機会
在宅という閉じられた場で、身体にかかわる
です」
(同事業所の相談員・加賀美宏美さん)
。
サービスだからこそ、担当マッサージ師同士
こまめな連絡・報告や、会議参加などを通し
や、利用者にかかわるチーム内での情報共有を
たケアマネジャーとの連携は、必要な情報共有
重視しているようだ。
●マッサージで何ができるか
だが、サービス担当者会議に呼ばれるか、ケ
あん摩・マッサージは、
「人体についての病
アプランの2表に訪問マッサージが位置づけら
的状態の除去又は疲労の回復という生理的効果
れるかは、ケアマネジャーによってまちまち
の実現を目的」
(昭和38年1月9日医発第8号
だ。制度が違うからとサービスの可能性を狭く
の2)として広く行われてきた行為だが、その
捉えるのはもったいない。支給限度額の枠内に
効果や機能については、人によって認識が異な
含まれないなど、介護保険外サービスだから融
るのが現状だろう。加賀美さんは、居宅介護支
通がきく部分もある。利用者の生活を支える上
援事業所にサービス説明に出向き、
「20分のマ
で選択の幅を広げるサービスになり得るだろ
ッサージで何ができるの」と言われた経験を苦
う。最近は訪問マッサージの利用目的の一つと
笑いで語る。
「ですが、身体や疾患の状況を丁
して、独居者の安否確認や、精神的ケアが求め
寧に把握した上で、マッサージ師の適切、定期
られるケースも多いと加賀美さんは語る。
的なマッサージであがる効果は、ケアマネジャ
「このサービスを利用する患者さんは、身体的
ーさんの想像以上のものということもありま
に何らかの『つらさ』を感じています。その人
す」
。半信半疑だったケアマネジャーが、機能
にとっての『つらさ』をわかろうとし、
『何が必
維持や状態改善の効果を実感し「使ってよかっ
要か』を見つけ出そうとすることが大切だと感
た」と言葉をもらすこともあったという。
じています」
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