◎講題 「遺族のグリーフワークを妨げない葬儀のあり方」 ~慣例・慣習の見直しと、宗教(者)への期待~ 今回は、遺族当事者としての自身の体験も踏まえつつ、日々、葬送の仕事に従事している者の目線か ら、お話しさせていただきます。 ★遺族を苦しめる葬送儀礼 現代の葬儀における慣習・慣例の中には、悲しみの当事者である遺族の思いではなく、 参列者や、遠方の親せきなどの都合や心情を優先したものが多くあります。それらは、心身ともに極限 状態の遺族に負担をかけ、大切な別れの時間をも奪ってしまうことがあります。 ◎遺族を苦しめる可能性のある慣習・慣例 (1)参列者の焼香の際の、遺族による答礼(立礼)挨拶[以下、答礼挨拶]という慣習 ■ 人前に立たされる精神的苦痛&繰り返しお辞儀をすることによる身体的苦痛。健康な方でも腰を 痛めることがある。 (2)左右向かい合わせに配置された親族席 ■葬儀の間中、参列者にずっと横顔を見られ続けることの精神的苦痛。 (3)焼香順位の読み上げという慣習 ■ 焼香順位帳を作成する遺族の負担大&読み上げの耳障りなアナウンスは、焼香・合掌中の遺族の 心を大きく乱す。 (4)儀式の中で弔電を読み上げるという慣習 ■読み上げ順の決定と読み仮名の確認のために、遺族は葬儀開式直前まで時間を割かれてしまう。 (5)初七日法要を葬儀当日に繰り上げるという慣習 ■ 葬儀と同一日程での初七日法要は、疲労困憊の遺族にとってスケジュール的に過酷 ★慣習・慣例の見直しが必要な理由 葬儀を慣習どおりに行うことで遺族が安心するケースもあります。しかし、慣習を知っている人にと ってのよりよいやり方は、慣習を知らない人、とりわけ、予期せぬ突然の死別を体験してパニック状態 の遺族には、助けになりません。遺族はそこに座って息をしているだけでも精一杯なのに、周囲が「こ れをしなければならない」「あれをしなければならない」と追い込んでしまうのです。 あらゆる状態の遺族に、葬儀の場面で苦しい思いをさせないためには、もっともつらい人の心身の状 態を基準にして慣習を意識的に変化させていくことが必要と考えます。 ★何を基準にして慣習を見直すか ・その場面において、もっともつらく、しんどい人 (※実際には、つらさ・しんどさは比べるものではありませんが、あえて) ・はじめて葬儀を経験する人、とくに子ども ・信仰のない人 ★宗教者への期待 一度できてしまった慣習はなかなか変えることができません。しかし、宗教者の方が言ってくださる と、結構うまくいくことがあります。 名古屋には、読経の前にくるっと振り向いて「今日、遺族は答礼をしませんが、それは私が喪主さん にお願いしていることです。何か思うところがあれば、喪主さんではなく、私の寺に言いにきてくださ い」と、参列者に向けてきっぱりと言ってくださるお寺様がいらっしゃいます。 また、西本願寺名古屋別院からは各葬儀社に向けて公式に、次のような文言の入った文書が配布され ています。 立礼挨拶はいたしません 葬儀中に喪主及び遺族(家族)が席をはずして、会葬者に立礼挨拶することは 葬儀本来の意味合いよりふさわしくありませんので、しないようにして下さい。 この文書のおかげで、配布当初は遺族の負担が軽減され、たいへんありがたかったのですが、残念な がら、東海圏でも現在は多くのお西のお寺様が答礼をOKしてくれてしまっています。 もう一度、宗派をあげて「答礼挨拶はすべきでない」ということを明文化していただけないでしょう か。 「答礼挨拶をしたい」遺族の方もいらっしゃると思います。答礼挨拶をすることが悪いと申し上げて いるわけではありません。答礼挨拶をできる状態の人に合わせていては、「答礼挨拶をできる状態では ない」遺族が楽にならないので、極端なようですが、誰かが「答礼は禁止」と言いきって、言い続けて くださらないと、慣習は変わってゆかないと思っているのです。 ★宗教への期待 グリーフワークの妨げとなっているマイナス要素を取り除き、葬送の儀式そのものを通じて遺族がグ リーフワークをできるようにするにはどのようにしたらよいのでしょうか。 仏教は、死別直後の混乱状態の遺族には、哲学的過ぎて理解困難です。 しかし、宗教にしかできないことがあります。 多くの遺族が「死んだ人は今どうしているのだろう」「遺された私はどうやって生きていったらよい のだろう」ということを考え続けています。このことについて、一から一人で考えて答えを見つけるの は、とてもたいへんなことです。その点、宗教は、生きるとか、死ぬとかいうことについて、何百年も の時間をかけて考え続けてきてくださいました。そこで見つけたヒントを、わかるように伝えてくださ るとありがたく思います。 そして、信仰の無い人でも、葬儀の場において宗教で救われるような形を、皆様のお知恵で創り出し ていただけたらと思います。 ※親族席の配置例(転座がない場合) <図A解説>左右向かい合わせの親族席。「人に涙を見られたくない」遺族の方は泣きたくても泣けないので× <図B解説>前向きに配置された親族席。参列に来てくれた方の姿が見えず、サポートを受けた感じを得られにくいので△ <図C解説>前向きに配置された親族席。焼香する人の姿が見え、「参列してくれた」ことがわかるので○。
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