『読書の価 値と魅 力』 -心 が震 える感 動 を一 冊 の本 から- 校 長 武 田 義 治 スマホや携帯を片時も手放さない人が増えています。かつては電車の中でも,新聞 を読んだり,本を読んだりする人がよく見かけたものですが,近年はスマホや携帯の 画面に釘付けになっている人を多く見ます。 しかし,読書人口は減ってきています。しっかり本を読んでいる子供が多いとは言 えません。全く本を読まない大学生が4割を超えたと聞きます。仕事に追われて読書 する時間が取れないという大人も少なくありません。テレビに加え,インターネット の普及に伴って娯楽の幅が広がり,読書する時間がどんどん少なくなっているのでし ょうか。今,子供に読書習慣を身につけさせるためには,相当な努力と意図的な環境 作りが必要な時代になってきました。 そんな状況の中で私が危惧するのは,テレビやスマホ等,読書以外の情報媒体に依 存するあまり,無秩序に流れてくる情報を何気なく受け取っているだけの状態になる ことです。また,メール等によって絶えずコミュニケーションしている状態が続くこ とで,一人で自分自身に向き合い,じっくり考える有意義な時間が奪われてしまうこ とにも危機感を持っています。 一方,読書は能動的で積極的な営みであり,自分を磨くことができる貴重な時間で す。自ら意味を理解しよう,自分とは違う考えを受け止めよう,納得しようという姿 勢で,エネルギーを引き出しながら読まなければなりません。そのぶん疲れますが, 根気強さや集中力が鍛えられ,充実感を持つことができます。 そ し て ,読 書 で し か 身 に つ け ら れ な い 決 定 的 な も の が あ り ま す 。そ れ は 思 考 力 で す 。 考えることは言葉で行う行為です。言葉の種類が少なければ,思考は単純・粗雑にな ります。しかし,読書によっていろいろな言葉を知ることで 思考は複雑・緻密なもの となります。思考を深めるための素地は読書によって培われます。 さらに,読書にはもう一つ大きな特長があります。優れた人間と対話できることで す。そういう点で特にお勧めするのは,多くの批評に耐え、長年の時の吟味を経た, いわゆる名作・古典と言われる本です。読書は,時と場所を離れた賢者の選び抜かれ た言葉を通して,心ゆくまで偉人と語り合える豊かな時間になります。 このように読書にはたくさんの魅力があります。一冊の本で心が震える感動を覚え る こ と さ え あ り ま す 。も し 子 供 が 読 書 の 楽 し み や 喜 び を 十 分 味 わ わ な い ま ま 育 っ た ら , 実にもったいないと思います。 幸い,多くの親は読書が子供にとって大切なことは理解しています。子供に本を買 ってと頼まれて断る親がいるでしょうか。毎日読書をする子供を叱る親もいないでし ょう。だからといってすべての子供が本を読むわけではありません。 小学生の子供が進んで本を読むようにするには,子供といっしょに本を読む,本や 新聞の内容について話し合う,名作・古典と言われる本を勧める,子供と一緒に図書 館や本屋に行く,親が子供のそばで楽しそうに本を読む等,子供が本を読みたくなる ようなきっかけ作りや環境作りをすることが大切です。
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