人の記憶・土地の記憶 - これまでの沖縄学、これからの沖縄学

[Panel 24]
人の記憶・土地の記憶―生活の場を見つめて―
Memories of People, Memories of Land:Looking at Living spaces
報告者①:喜納大作(那覇市歴史博物館・地域研究グループシマミグイ)
「古地図に見る首里士族の住居移動―移った者・残った者-」
Looking at residential mobility of SAMURE in Shuri using old maps : people that moved and people that stayed.
報告者②:山城彰子(うるま市教育委員会図書館市史編さん室・地域研究グループシマミグイ)
「家譜資料にみる近世琉球における士の婚姻・出産・離別-女性に焦点をあてて-」
Marriage, Birth and the Separation of the SAMURE class in early-modern ryukyuan genealogies, with a focus on
women.
報告者③:赤嶺玲子(沖縄県平和祈念資料館・地域研究グループシマミグイ)
「『赤の村』から『県一の翼賛村』へ―戦時総動員体制の形成過程」
The process of the wartime public mobilization system: a case study of Ogimi village.
報告者④:金城良三(宜野湾市教育委員会市史編集係・地域研究グループシマミグイ)
「基地に消えたムラの記憶―地名と空中写真による景観復元」
The memory of the (american) bases – Scenic recovery through aerialphotographs and place names.
私たちの報告は一見すると時代も研究方法も関連するようには見えないかもしれない。しかし、私た
ちの研究の根底にあるのは、「この土地に生きる人々はどのようにして生きてきたのか」という素朴な
疑問と、「生活の場」にこだわるという視点である。
【①喜納大作】 18 世紀の首里を描いた「首里古地図」がある。王府の主要施設から個人の屋敷まで詳細
に記され、現代でいう住宅地図のような様相である。首里古地図を空間的に捉えることで、どのような
空間で当時の出来事が起こり、人々が生活したのか、という当時の首里の社会状況や当時の人々の生活
感覚を知ることを目指した。
【②山城彰子】 琉球・沖縄の女性の特徴として霊的優位性をあげている研究が多く、その認識に留ま
るがゆえに琉球・沖縄の女性のさまざまな状況についての研究が不十分であると考える。私の研究は家
譜資料をもとに婚姻・出産・離別について統計的データを元に述べていく。そして、家譜に記述される
女性の断片的な情報をもとに、<家>という場面を軸にして、正室だけでなく、周縁に「置かれる」女
性(妾や旅妻など)の存在を掘り起こしていくことを念頭に置き、琉球の女性たちがどのように生きた
のか明らかにすることを試みている。
【③赤嶺玲子】 戦時を生きる人々を通して沖縄戦を捉え返す事が本研究のテーマである。沖縄県北部
に位置する大宜味村を研究対象地域とし、村の戦時動員体制の形成過程を明らかにすることを課題とし
た。大宜味村では 1931 年に大宜味村政革新運動という青年運動が勃発し、この運動によって大宜味村は
「赤の村」(=共産主義者の村)としてレッテルをはられるが、その後一転して「県一の翼賛村」とし
て称揚される。その転換過程を検討する中において、村に生きる人々が戦時から沖縄戦を生きる過程で
抱えた矛盾や葛藤を大切にした。
【④金城良三】 沖縄では、沖縄戦・基地化・都市化で土地やコミュニティーを失ったムラが存在する。
戦後 70 年近くが経過し、往時のムラの記憶が失われつつある。それらの地域の歴史を記録するため、戦
時中に米軍が撮影した空中写真と、地名収集を通した戦前の生活誌を調査している。生活の知識が内包
された“土地の記憶”である地名を収集し、空中写真に視覚的に記録することで、ムラの景観や暮らし
の情報を空間的に表現した。本研究は、消えつつあるムラの記憶を記録し、その土地に人が“生きた証”
を継承することを目的とする。
私たちの研究に通底する目的は、資料(語りを含む)を用いて、「生活の場」から当時の人々の「生
活」を捉え、「復元」することである。また、日常のエピソードを一つ一つ丁寧に拾い上げる私たちの
研究が、「生活の場」を浮かび上がらせる研究方法の一つであることを示したい。そして、過去を生き
た人々について考える研究を通して、先祖の記録を探す人々、基地に消えた村の記録を待ち望む人々、
沖縄戦体験者たち、祖先祭祀に悩む女性たちなど、現在、(私たちも含む)この土地で生きる人々に寄
り添い、研究を続けることが、私たちが目指す「沖縄学」だと考える。