6 茶害虫に対する黄色ナトリウムランプの忌避効果

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茶害虫に対する黄色ナトリウムランプの忌避効果
背景とねらい
安全・安心な農産物を消費者に提供するため、本県では化学肥料及び化学合成農薬を慣行栽培
より30%削減した「ぎふクリーン農業」を推進している。茶栽培の現場では、収量及び品質を維
持しつつ施肥量及び薬剤散布回数を削減することが重要な課題である。
そこで、現行の「ぎふクリーン農業」よりさらに化学合成農薬の散布回数を削減できる技術を
開発するため、黄色光源を利用した害虫の忌避効果について検討した。
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試験の方法
(1)調査期間
2004年4〜10月
(2)使用した機材
黄色高圧ナトリウムランプ(I社製)
(3)試験区の構成
・点灯区
ナトリウムランプ点灯
約5a
・対照区
点灯無し
約3a
黄色高圧ナトリウムランプ1灯を防霜ファン支柱の高さ3.6mに設置した。
点灯期間は4月1日〜10月31日、点灯時間は日没から日の出まで。
池田試験地内の同一茶園にて試験を実施し、試験期間中の薬剤散布は実施せず。
(4)調査方法
①主要害虫の発生程度
ア)チャノホソガ、チャハマキ、チャノコカクモンハマキに対する効果
フェロモントラップ(住化武田式)を各区各害虫毎に1カ所設置し、半旬毎に誘殺数を
調査した。
イ)チャノキイロアザミウマ、チャノミドリヒメヨコバイに対する効果
たたき落とし法(1地点4ヶ所)で週1回程度虫数を調査した。点灯区6地点、対照区
5地点で実施した。また、黄色粘着トラップ(両面、10×10cm)を摘採面の頂上部に設置
し、週に1回交換して捕獲数を調査。点灯区16地点、対照区7地点で実施した。
②害虫による茶芽被害程度
二、三番茶摘採期に枠摘み(20×20cm・4ヶ所・各区5地点)によりチャノホソガ、チャ
ノキイロアザミウマ、チャノミドリヒメヨコバイ、ツマグロアオカスミカメの被害芽率を調
査した。
③生育及び収量に対する影響
下記の項目について調査した。
一番茶
生葉収量、摘芽数、摘芽重、百芽重、出開度、芽長、芽数、SPAD値
生葉成分(全窒素、総繊維等:近赤外法による)
二番茶
3
生葉収量、芽数、百芽重、出開度、芽長、葉数
成果の概要
(1)主要害虫の発生程度
チャノホソガ、チャハマキ、チャノコカクモンハマキ誘殺数は、点灯区が対照区より少な
く推移し(図1、2 )、チャノホソガは年間合計の誘引阻害率が91%と高い。チャハマキ、チ
ャノコカクモンハマキはそれぞれ67%、78%と比較的高い(表1 )。チャノキイロアザミウマ
及びチャノミドリヒメヨコバイは黄色高圧ナトリウムランプを点灯することにより発生数が
増える傾向である(図3、4、表2)。
(2)害虫による茶芽被害程度
チャノホソガの被害は、点灯区、対照区ともに少なく、黄色高圧ナトリウムランプ点灯によ
る被害防止効果は確認できない。チャノミドリヒメヨコバイの被害芽率は、点灯により増加す
る傾向は認められない。チャノキイロアザミウマについては、二番茶芽で点灯区の被害芽率が
高い傾向である(表3)。
(3)生育及び収量に与える影響
点灯区における一番茶の生葉収量・生育には大きな差はなく、生葉成分についても同様であ
る。二番茶については、百芽重は対照区より重く、芽長は長く、葉数は多くなる傾向が見られ
る(表4〜6 )。
以上の結果から、黄色高圧ナトリウムランプによる忌避効果はチャノホソガに対して高く、チャ
ハマキ及びチャノコカクモンハマキに対しても比較的高いことから、チャノホソガやハマキガ類が
問題になっている茶園においては有効な防除資材と考えられる。一方、チャノキイロアザミウマ及
びチャノミドリヒメヨコバイについては、発生をやや増加させる傾向があり、他の方法による総合
防除技術の検討が必要である。また、茶の新芽生育に対しては、生育抑制等の影響はないと考えら
れる。
4
主要成果の具体的数字
図1
表1
世代
チャノホソガの推移
図2
ハマキガ類の推移
世代別のフェロモントラップ誘殺数(単位:頭、%)
チャノホソガ
チャハマキ
チャノコカクモンハマキ
点灯区
対照区
阻害率
点灯区
対照区
阻害率
点灯区
対照区
阻害率
越冬世代
第1世代
第2世代
第3世代
第4世代
第5世代
27
144
344
75
233
131
289
1,079
3,098
2,610
2,526
906
90.7
86.7
88.9
97.1
90.8
85.5
23
27
7
52
‑
‑
65
77
73
115
‑
‑
64.6
64.9
90.4
50.8
‑
‑
93
36
17
91
‑
‑
427
172
89
364
‑
‑
78.2
79.1
80.9
75.0
‑
‑
合
954
10,508
90.9
109
330
67.0
237
1,052
77.5
計
200
50
40
150
30
100
20
50
10
0
H16.4.1 H16.5.1 H16.6.1 H16.7.1 H16.8.1 H16.9.1 H16.10.1
月日
図3
0
1,600
1,400
160
140
120
1,000
100
800
80
600
60
400
40
200
20
図4
H16.7.1
H16.8.1
H16.9.1
月日
H16.10.1
0
H16.11.1
粘着トラップによる各害虫捕獲数の推移
(1枚当たり)
たたき落とし法及び粘着トラップによる各害虫の月別捕獲数
たたき落とし法
月
チャノキイロアザミウマ
粘着トラップ
チャノミドリヒメヨコバイ
チャノキイロアザミウマ
点灯区
チャノミドリヒメヨコバイ
点灯区
対照区
点灯区
対照区
5.5(102)
157.2(152)
788.2(178)
260.2( 80)
184.5( 81)
198.5(197)
9.2(135)
5.4
103.6
444.0
325.0
228.6
101.0
6.8
0.8(100)
20.0( 85)
70.0( 91)
114.8( 96)
17.0( 44)
39.7(142)
17.5(133)
0.8
23.6
76.6
119.8
39.0
27.8
13.2
2,594.2(132)
2,252.7(114)
1,156.8( 70)
1,717.9( 99)
117.1(159)
1,603.1(132) 1,214.4
279.8( 93)
300.8
7,838.6(106) 7,398.6
4
5
6
7
8
9
10
合計
180
1,200
0
H16.6.1
たたき落とし法による各害虫捕獲数の推移
(1地点当たり)
表2
200
点灯区アザミウマ
対照区アザミウマ
点灯区ヨコバイ
対照区ヨコバイ
1,800
チャノキイロアザミウマ捕獲数
(頭/トラップ1枚)
チャノキイロアザミウマ捕獲数(頭)
250
2,000
60
チャノミドリヒメヨコバイ捕獲数
(頭/トラップ1枚)
70
点灯区アザミウマ
対照区アザミウマ
点灯区ヨコバイ
対照区ヨコバイ
300
チャノミドリヒメヨコバイ捕獲数
(頭)
350
対照区
点灯区
1,966.0
1,986.0
1,645.1
1,728.0
73.6
178.0(114)
323.1(111)
79.2( 88)
224.1(101)
183.7(138)
988.1(111)
対照区
156.3
291.7
89.8
221.4
133.3
892.5
注)たたき落とし法は4カ所たたき落としの虫数。点灯区は6地点、対照区は5地点の平均値。粘着トラップ
は1枚あたりの捕獲虫数 。点灯区は16地点、対照区は7地点の平均値 。 ( )は対照区を100とした指数 。
表3
二番茶及び三番茶芽における芽における虫害調査結果(単位:本・%)
試験区
枠芽数
健全
芽率
チャノホソガ
被害芽率
チャノキイロ
被害芽率
ヨコバイ
被害芽率
カスミカメ
被害芽率
二番茶
点灯区
対照区
49.5
53.8
15.0
22.3
1.2
2.5
68.1
43.0
27.4
36.6
3.3
3.6
三番茶
点灯区
対照区
37.8
66.2
91.1
78.6
0.2
0.2
7.5
9.4
2.6
9.5
0.0
0.0
注)2004年6月16日(二番茶 )、8月16日(三番茶)調査。20×20㎝枠4カ所の5地点調
査の平均値。枠目数は400㎠あたり。健全芽とは、チャノキイロアザミウマとチャノミドリヒメヨコバイの
被害のない芽。
表4
一番茶の生葉収量及び生育調査結果
試験区
収 量
㎏/10a
摘芽重
g
点灯区
361
30.3
対照区
348
29.9
摘芽数
本
百芽重
g
出開度
%
芽 長
㎝
葉 数
枚/芽
SPAD値
95
31.6
19
3.6
2.4
37.3
102
29.5
24
3.7
2.5
36.8
注)収量は2004年4月26日調査。摘芽重以下は、25×40㎝枠摘みにより4月23日調査。
調査は2反復し平均値を示す。芽数は0.1㎡あたり。
表5
一番茶の生葉成分(単位は乾物%)
試験区
全窒素
総繊維
カフェイン
タンニン
総アミノ酸
テアニン
ビタミンC
点灯区
5.2
17.6
3.4
15.7
2.1
1.2
0.31
対照区
5.3
17.3
3.4
15.4
2.1
1.1
0.29
注)2004年4月23日調査。荒茶用検量線を用いた近赤外法による
調査は2反復し平均値を示す。
表6
二番茶の生葉収量及び生育調査結果
試験区
収 量
㎏/10a
芽 数
本/㎡
百芽重
g
出開度
%
芽 長
㎝
葉 数
枚/芽
点灯区
313
1,160
38.7
71
3.5
2.8
対照区
287
1,257
31.1
58
2.9
2.5
注)2004年6月18日調査。調査は2反復し平均値を示す。
5
期待される効果
(1)チャノホソガ、ハマキガ類を対象とした薬剤散布が削減でき、ぎふクリーン農業を推進する
上で有用な資材になるとともに、生産者の労力軽減が期待できる。
6
普及・利用上の留意点
(1)点灯により増加傾向を示したチャノキイロアザミウマ、チャノミドリヒメヨコバイにも対応
した防除技術の確立が必要である。
(2)単年度の成果であるため、次年度以降も継続検討を行いデータを積み重ねる必要がある。