日本バイオロギング研究会会報

日本バイオロギング研究会会報
日本バイオロギング研究会会報 No. 81
発行日 2013年4月 5 日 発行所 日本バイオロギング研究会(会長 荒井修亮)
発行人 高橋晃周 国立極地研究所 生物圏研究グループ
〒190-8518 東京都立川市緑町 10-3
tel: 042-512-0741, fax: 042-528-3492 E-mail [email protected]
会費納入先:みずほ銀行出町支店 日本バイオロギング研究会 普通口座 2464557
第81号
もくじ
学会報告
Gordon Research Conference -Polar Marine Science伊藤 元裕(極地研)
2
書評
「サボり上手な動物たち~海の中から大発見!」佐藤克文・森坂匡通
著
佐藤 信彦(総研大・極域科学)
3
特別記事
French JB Thiebot's past and future research in NIPR
Jean-Baptiste Thiebot(極地研) 3
写真:Gordon Research Conference -Polar Marine Science- での集合写真(写真提供: 伊藤元裕)
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学会報告
Gordon Research Conference -Polar Marine Science報告者 伊藤 元裕 (極地研)
先日、3 月 10 日から 15 日に行なわれた、Gordon
Research Conference -Polar Marine Science- に参加し
てきた。この国際会議は、数年に 1 度開催されているそ
うで、今年はアメリカ、カリフォルニア州ヴェンチュラとい
う小さな海辺のリゾート地で開催された。
そもそも、Gordon Research Conference とは、なんぞ
や?と思われた方も多いかもしれない。実は、私もその
一人で、去年までこの国際会議のことは全く聞いたこと
もなかった。私の大学院時代の指導教官が、この会議
で講演をすることになったようで、その縁で私も参加を
誘われたのがこの 会議を知った きっかけであ った。
Gordon Research Conference は、NPO が運営する国
際シンポジウム・会議の総称であり、その対象範囲は科
学分野の多岐にわたる。生物学、化学、物理学とそれ
らに関連したテクノロジーのフロンティア研究をテーマと
して、年間に何と 550 回を超える国際シンポジウム・会
議・セミナーを開催している。その発表・討議の理念は
少し他の学会とは違っており、基本的にここで得た詳し
い情報は、部外非となっており、アブストラクト集も発行
されない。その代り、自由な内容の発表を行う理念が
あるようで、質疑応答が非常に重要視されているようで
ある(各発表後の質疑応答に 15-20 分という時間が割
かれる!)。今回は、その内の 1 つとして、極域の海洋
学全般に関する内容がテーマとなるということで、参加
を決意した。
今回の参加者は 150 名ほどで、北極を対象に研究を
行っている人と南極を対象に研究を行っている人の割
合が 1:1 程度であり、海洋物理、海洋科学、海洋生物
学(マイクロバイヤルから、一次生産、最上位捕食者ま
で)を対象にしているモデル屋とフィールド屋が一堂に
会した。今回の会議での発表は、地球温暖化、海氷の
減少、将来予測というベーステーマに沿っており、膨大
な長期データをもとにした研究発表が多く、「中期的な
海氷変動とペンギンの採餌行動・繁殖との関係」を研
究テーマの一つにしている私にとっても、実りの多いもの
だった。ただし、日本の水産学会・海洋学会にすら参加
したことのなかった私には、海洋化学、物理学の特にモ
デルに関する英語の発表について行くのにはかなりの
困難を伴った…。大型動物に関する研究発表は、3 題
しかなかったが、海氷の増減に伴う動物群集の変化に
よって、いかに最上位捕食者が影響を受けるかに関す
る発表や、更にそこに、最上位捕食者同士の競争関係
がいかにその増減に影響を与えるかという発表があり、
とても興味深かった。
肝心の私自身の発表はポスターで、実は今回は、デ
ータロガーから少し離れたテーマで行った。安定同位
体比を用いて、海氷下の生態系構造解析を試みると
いうものであり、ペンギンをサンプラーとして海洋生物を
採取し、人間の手では集めえない生物サンプル群を用
いてそれらの食物網を再現した。興味を持ってくれた方
もいらっしゃり、1 時間ぶっとうしで同じ人と議論も出来
た。結果、喉が潰れてそ
の日から、声が出なくな
ってしまったのは、名誉
の負傷というべきだろう。
蛇足ではあるが、自由
時間を利用して参加し
たクジラウォッチングで
は、海鳥研究界では、
有名なチャンネル諸島
の間近に近ずくことが出
来、そこに生息するコバ
シウミスズメをこの 目で
観察出来たのも、今回
得た思いがけない成果
であった。参加費が高い
のがたまに傷ではあるも
のの、興味がある方は
是非一度参加されるこ
とをお勧めしたい。
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書評
特別記事
「サボり上手な動物たち~海
の中から大発見!」
French JB Thiebot's past and
future research in NIPR
佐藤克文・森坂匡通
報告者 Jean-Baptiste Thiebot(極地研)
著
報告者 佐藤 信彦(総研大・極域科学)
「サボる」とは本来どのような意味を持つのだろうか?
この本を読み終わり、まず考えたことである。
あなたの「サボる」という単語のイメージは?この質
問を投げかけた際、大半の人は、「仕事をサボる」
「講義
をサボる」など悪い行動としてのイメージを抱くと思わ
れる。しかし、この本を読むと、そのイメージが変わる
だろう。
歴史の授業で学んだ覚えがある。労働争議や反政府活
動のことをサボタージュといい、日本ではこの単語を省
略し、怠業を意味する言葉として「サボる」が民衆に流
行・浸透した。語源から解釈すると、上の立場への要望・
抗議として仕事を怠る、自身の生活を向上することを目
的とした行動となる。サボる事は、生物が過酷な環境を
生き抜いていくうえで重要な行動の一つなのかもしれな
い。
During the past 6 months, I have been working as
a post-doc in the team of Dr. Takahashi in NIPR,
thanks to a JSPS fellowship. Our aim in this original
research project was to examine possible carry-over
effects of wintering conditions on seabirds' breeding
timing and success. Our study model was the
Rhinoceros Auklet Cerorhinca monocerata, surveyed
from Teuri Island, Hokkaido. Winter at-sea ecology
was studied using light-based geolocation loggers.
Thanks to a collaboration with Dr. Watanuki from
Hokkaido University, we could make the tie between
at-sea ecology of the birds during the inter-breeding
season (from July to March) and their breeding timing
& performance at the colony (March to July) during
the following breeding season, for two contrasted
years (2010/2011 and 2011/2012). We could test the
hypotheses that during less favorable period at sea,
the birds would (1) increase the time spent searching
for food on the wintering site; (2) take longer to reach
a threshold in body condition and hence come back
later on the colony to breed; and (3) have lower
breeding outputs. Importantly, in our study we were
able to assign to which phase of the inter-breeding
period delay was contracted. This is a great step
forward, as this phenomenon could previously not be
related to any specific phase at sea.
Now, after a short period away from Japan, I will
start a new post-doc in NIPR to investigate horizontal
and vertical use of the Southern Ocean by Adélie
penguins during the complete non-breeding period,
with special investigation on changes in vertical
habitat used across seasons. We may thereafter
evaluate the probable links between these seasonal
activity patterns and changes in environmental
conditions during winter (regarding daylight duration,
sea-ice coverage, water column structure). Finally, we
may understand how the timely achievement of
seasonal changes in foraging strategy may affect
subsequent breeding onset at the individual level.
野生動物がどの様にサボっているのか?そして、何の
ためにサボっているのか?この本には、この答えが記さ
れている。メディアでは、動物の驚異的な能力にばかり
目が向けられているが、こういった日常の姿に目を向け
た書籍は大変面白いと思う。研究者のみならず、一般の
方にも読んで頂きたい本である。
野生動物を見習い、今後はサボり上手な研究生活を送
っていこうと私は思う。
-3-
©Nobu
原稿を募集しています!
編集局では、これまでどおり常時原稿を募集していま
す。論文を発表された方は、研究内容を幅広い読者に
向けて「新しい発見」のコーナーで是非、日本語で紹介
いただければと思います。その他、野外調査レポートや
学会参加報告、書評(本のジャンルは問いません。印象
深かった本、自著の紹介も大歓迎です)なども募集して
います。
原稿は編集局の伊藤(ito.motohiro”atmark”nipr.ac.jp)
[”atmark”を@に替えて下さい]までメールでお送りいただ
くか、BLS ホームページに掲載してください。
ホームページへの原稿掲載方法については、ホームペ
ージ内「会員の皆様へ」内にある「簡単な Wiki コンテン
ツの作り方」や BLS 会報13号内の解説をご覧下さい。
会報のバックナンバーの PDF ファイルは、ホームページ
よりダウンロードできます。ホームページ編集のための凍
結解除パスワードは、会費の領収書とともに送付されま
す(年度ごとに変更されます)。
事務局からのお知らせ
■新年度になりました。平成25年度年会費の早めの納
入にご協力をお願いいたします。平成25年度会費の納
入状況は、来月から封筒に印刷してお知らせします。振
込先は、本会報の表紙をご覧ください。正会員5000
円、学生会員(ポスドクも含みます)1000円です。
■住所や所属を変更される会員の方はお早めに事務局まで
お知らせください。
※メール: [email protected]
※電話: 042-512-0741
S・K
編集後記
三月の末日、本号の記事にもありますフランス人研究者と花見に行きました。そこで、私は極地研の学生三人についての印象
を聞いてみました。
彼は少し考えた後、「一言で表すと」と話を始めました。
一人目の印象は「gentle」でした。フランス人から「gentle」の称号を送られるとは、なかなかの好印象です。次に二人目の印象
は「culture」でした。映画の話を彼とよくしていたからでしょう。文化人。これもまた悪くない印象です。そして三人目です。そこで彼
は一度、黙りました。慎重に言葉を選んでいるようでした。そして、ついに彼が発した言葉に私は腰が砕けそうになりました―それ
は「spectacular」でした。
そもそも、こんな大げさな単語、久しく聞いていません。ましてや、この単語が日常会話で登場するのは、かの蜘蛛男の横に引
っ付いて”Spectacular Spider-Man”となった時くらいなものです。
「spectacular」は形容詞では「壮観な」や「目を見張らせるほどの」といった意味を持ちますが、名詞では「豪華ショー」や「超大
作」と言った意味を持ちます。
彼は最後に言いました。「何かショーを見ているようだ」と。
なるほど、主演・監督・脚本・演出・衣装、その他もろもろ一人で切り盛りする豪華ショーか、と私は妙に納得してしまいました。
今度一度そういった目で見てみようかな。私は密かに一人そう思い、桜の花を見上げました。(T.A.)
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