社会福祉施設の安全衛生管理について(PDF文書)

資料4
社会福祉施設の安全衛生管理について
いわき労働基準監督署安全衛生課
1 社会福祉施設の労働災害の状況
(1) 社会福祉施設の労働災害の推移
当署管内において、第三次産業(全産業のうち製造業、鉱業、建設業、運輸交通業、
貨物取扱業、農林業及び畜産・水産業をのぞく業種)の労働災害の全業種に占める割
合は、平成24年まで減少傾向にありましたが、平成25年を境に、約4割まで大き
く増加しています。
第三次産業のうち、労働災害が多い業種は小売業、社会福祉施設及び清掃・と畜業
ですが、このうち「社会福祉施設」の労働災害は直近7年間で2倍以上に増加してい
ます。
平成28年7月末現在で、
「社会福祉施設」の労働災害はすでに17件となっており、
平成27年の21件を大きく上回ることが予想されるため、早急な労働災害防止対策
が求められている状況です。
(注:東北地方太平洋沖地震及び津波による労働災害は除く、以下同様。)
社会福祉施設における労働災害
発生状況の推移(いわき署)
(件)
40
30
20
10
0
38
10
11
7
12
14
20
21
17
第三次産業の労働災害の推移(いわき署)
50%
45%
40%
35%
30%
25%
20%
15%
10%
5%
0%
35% 34% 33%
38% 36%
29% 27%
43%
37%
50(件)
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
第三次産業比率
小売業
社会福祉施設
清掃・と畜業
資料4
(2) 平成27年の社会福祉施設の労働災害の内訳
ア 事故の型別死傷者の内訳
社会福祉施設の労働災害のうち、転倒が約4割、動作の反動・無理な動作(体
の動きが原因で、筋肉・関節等を痛める災害)が約3割を占めています。
転倒災害の発生件数は、平成22年から平成26年にかけて年々増加してきま
した。平成26年と比べて平成27年は減少したものの、平成28年は7月末現
在ですでに7件発生しており、平成27年を上回る数字になることが予想されま
す。
腰痛の発生件数は、平成21年から平成24年まで0件でしたが、平成26年
は11件となりました。平成28年は7月末現在ですでに3件発生しており、平
成27年より増加することが懸念されます。
事故の型別災害発生状況(いわき署)
その他
19%
転倒
38%
切れ・こすれ
14%
動作の反動・
無理な動作
29%
転倒災害発生状況の推移(社会福祉施設)
(件)
15
16
14
12
10
7
8
7
6
4
2
0
3
4
2
5
8
7
資料4
労働災害による腰痛の発生状況(社会福祉施設)
(件)
12
11
10
8
6
4
2
0
3
1
0
0
0
4
3
0
イ 経験年数別の死傷者数
経験期間が浅い労働者が多く被災しています。業務マニュアルや仕事のノウハ
ウだけでなく、労働者が自身を災害から守る安全衛生に係る新人教育も必要です。
経験期間別労働災害発生状況(社会福祉施設)
5年以上10
年未満
19%
3年以上5年
未満
14%
1年以上3年
未満
14%
1年未満
53%
資料4
(3) 社会福祉施設の労働災害の詳細
ア 主な「転倒災害」事例
○入浴介護終了後、浴室から出ようとしたとき、濡れた床に滑って転んだ。
○トイレの窓を開けようとしたとき、濡れた床に滑って転んだ。
イ 主な「動作の反動・無理な動作災害」事例
○利用者をベッドから車椅子に移動させようとしたとき、腰に激痛が走った。
○入浴介護中、利用者を浴槽から車椅子に移動させようとしたとき、腰に激痛が
走った。
(4) まとめ
「転倒災害」
⇒労働安全衛生法において、「安全な通路の確保」と「安全な作業場の床面の確保」
は事業主に義務付けられています。
「腰痛災害」
⇒厚生労働省は「職場における腰痛予防対策指針」において、労働者の健康保持対策
を求めています。
労働災害が起こる前に、施設内の巡視や作業姿勢の見直しを行い、リスクを特定し、
その解消に取り組みましょう。
もし労働災害が起こってしまった場合は、原因を特定して、設備の見直しや作業方
法の改良、労働者の再教育を実施しましょう。
労働災害の減少にご協力お願いします。
(5) 補足
○労働者死傷病報告
休業見込4日以上の労働災害が発生した場合、事業者は遅滞なく、「労働者死傷病
報告(様式第23号)」を所轄の労働基準監督署に提出しなければなりません。私傷
病または通勤災害の場合は不要です。
労働災害か私傷病か、労働災害か通勤災害か判断しかねる場合はいわき労働基準監
督署安全衛生課または労災課までご一報ください。
休業見込4日未満の労働災害については、様式第24号により、4半期ごとの提出
になります(例えば1~3月に発生した労働災害については4月末までの報告)。
資料4
2 安全衛生管理体制について
(1) 管理担当者について
○職員数が50人以上の事業場の場合
衛生管理者及び産業医の選任が必要になります。
衛生管理者の職務は、
・健康に異常のある者の発見及び処置
・作業条件、施設等の衛生上の改善
・毎週1回、作業場内の衛生状態の確認のための巡視
等です。労働者の健康を管理する立場にあります。
また、産業医も、労働者の健康管理や事業場内の月1回の定期巡視等が求めら
れています。
衛生管理者と産業医が連携して職場の衛生管理に取り組むことが求められます。
なお、新たに衛生管理者または産業医を選任した場合は14日以内に所定の様
式で監督署までご報告ください。
○職員数が10人以上49人以下の事業場の場合
衛生推進者の選任が必要になります。
衛生管理者と異なり、試験の合格等、厳しい資格要件はありませんが、安全衛
生管理の職務に就いた経験がある、労働基準協会等が開催する「安全衛生推進者
等養成講習」を受講する等、必要な知識を持った方を選任しなければなりません。
なお、衛生推進者を選任した場合は、作業場の見やすい箇所に氏名を掲示する
ことや、腕章を身に着けさせることにより、労働者に周知しましょう(監督署へ
の報告は不要です)
。
○安全推進者
社会福祉施設等、いわゆる第三次産業のほとんどは、法律上、安全管理を担当
する安全管理者、安全衛生推進者の選任が求められていません。これは製造業や
建設業と異なり、作業の性質上、外傷を負う可能性が低いからだと思われます。
しかし、現実は前述1(2)のとおり、転倒災害が多発しており、労働者のケガの
防止策を検討する安全管理の担当者が求められる状況にあります。
そこで、厚生労働省は、
「安全推進者」の配置を求めています。
安全推進者は、
・職場内の危険箇所の改善
・安全な作業方法についての教育
等を行います。
衛生管理者(衛生推進者)の負担が大きい、十分な安全管理ができていないよ
うな状況であれば、安全推進者を選任して、役割を分担し、充実した安全衛生管
理が行えるよう努めましょう。
資料4
(2) 委員会等の設置について
○職員数が50人以上の事業場の場合
衛生委員会の設置が必要です。
衛生委員会では、
・労働者の危険防止対策
・労働者の健康障害防止対策
・労働災害の原因及び再発防止対策
・安全衛生に関するルールの作成
・リスクアセスメント(作業の危険性を評価し、災害発生前に対策をとること)
・安全衛生教育の実施計画
・長時間労働解消対策
・メンタルヘルス対策(ストレスチェック等)
・監督署の指導に対する是正、改善措置
について協議します。
事業主は、月1回以上衛生委員会を開催し、議事録を保存し、議事の概要を労
働者に周知することが義務付けられています。
前述のとおり、業務連絡会議等とは内容が全く異なるものであることをご理解
ください。
委員会は、
・委員長(事業主またはそれに準ずるもの)
・衛生管理者(事業場側)
・産業医(事業場側)
・労働者の過半数が加入している労働組合または労働者の過半数を代表する者が
推薦する委員(労働者側)
で構成します。労使が対等に議論を行うため、事業場側と労働者側の人数を合わ
せる必要があります(委員長はどちらにも含めません)
。
○職員数が49人以下の場合
委員会の設置は義務付けられていませんが、労働者の意見を聴く機会を設ける
よう求められています。労働者からヒヤリハット事例(仕事中危ない!と感じた
こと)等を聴き、安全に仕事ができるよう、改善に取り組みましょう。
不明点があれば、お気軽にいわき労働基準監督署安全衛生課までお問い合わせく
ださい。
資料4
3 主な転倒災害事例とその防止対策
(1) 階段、段差のあるところ、スロープ
【災害事例】
○階段を下りていた際、最下段が水でぬれていたことに気付かず、足を滑らせて
階段を踏み外し、床に転倒した。
○利用者宅の段差につまずき、転倒した。
○トイレ掃除を終え、右手にバケツを持って階段を下りていたところ、足を踏み
外して仰向けに倒れ、腰と頭をぶつけた。
【原因】
○急いでいて足元の確認がおろそかになっていたり、荷物を持っていて足元が見
えなかったりする。
○こぼれていた水に足を滑らせた。
【対策】
○階段や段差に滑り止めマットや手すりを設置しましょう。
○スロープに防滑用塗料を塗ったり、摩擦の大きなマットを敷いたりしましょう。
○階段やスロープは水でぬらさないように労働者に指導するとともに、衛生管理
者等が定期的に事業場内を巡視し、水でぬれていないか確認するようにしましょ
う。
○階段やスロープがぬれている場合はすぐにふき取るように労働者に指導すると
ともに、雑巾やモップを取りに行きやすいところに備え付けましょう。
○足元が確認できるように照明を確保しましょう。
○両手に荷物を持った状態での階段の昇降はなるべく控え、エレベーターを使用
するか、複数人で手分けするようにしましょう。
○利用者宅では上記のような対策は取れないので、過去の災害事例や労働者から
のヒヤリハット事例を元に、危険箇所について労働者に注意喚起しましょう。
資料4
(2) 廊下
【災害事例】
○お風呂からリフトチェアに乗った利用者を居室に移動させる際に、リフトチェ
アから水が滴り落ち、その水たまりに足を滑らせ転倒した。
○廊下で衣類を片付けていたところ、廊下の脇に置いていたバッグの持ち手に足
を引っ掛けて転倒した。
○利用者の歩行介助をしていたところ、利用者がもたれかかったため、バランス
を崩して転倒した。
○ワックスの塗り直し箇所で滑って転倒した。
【原因】
○階段やスロープと同様、同一平面上でも、床がぬれていると転倒につながる。
○通路に物を置いていると、それにつまずく。
○ワックスの塗り直し箇所について労働者に周知していない。
【対策】
○廊下は水や油、食べ物などで汚さないように指導しましょう。
○もし廊下が汚れた場合は、速やかに掃除できるように、雑巾やモップを備え付
けましょう。
○ワックスの塗り直し後は、看板等を立てて、労働者に注意喚起しましょう。
○歩行介助は原則利用者の斜め後ろから行いましょう。
○利用者が職員より体が大きい場合は、2人で介助もしくは歩行器を利用しまし
ょう。
○廊下は走らないように徹底させましょう。急な対応が求められる場合に備え、
介助の手順を整え、事前に危険を予知できる力を身に付けさせることが重要です。
○次のような靴を履きましょう。
①軽い②コンパクト③足にフィットする④踵がある⑤つま先部分とかかと部分の
重量バランスが取れている⑥つま先が少し上がっている⑦靴底が柔らかく曲がり
やすい⑧滑り止めがついている
○足やつま先がしっかりあがるように、運動やストレッチ体操を指導しましょう。
○段差はできるだけ解消しましょう。
○整理整頓を徹底しましょう。通路は安全に通行するためのものです。
器具の定位置を
表示して、通路
の安全を確保
資料4
(3) 居室
【災害事例】
○利用者の頭を上げるスイッチを押すため、ベッドの足側に回ろうとしたところ、
杖が足に引っかかり、転倒した。
○ナースコールのコードに足をひっかけて転倒した。
○利用者の起き上がり介助をしていた際、利用者が脱力して倒れこんできたため、
一緒に転倒した。
○利用者を車椅子からベッドに移乗介助していたとき、利用者がのしかかってき
たため、一緒に転倒した。
【原因】
○居室内の整理整頓が不十分である。
○利用者の急な反応について職員間で情報が共有できていない。
【対策】
○電気機器のコードは足が引っかからないように片付けましょう。やむをえず床
に敷設する場合は、ケーブルカバーを付けましょう。
○整理整頓はもちろんのこと、作業開始前にどこに何があるか確認しておき、作
業の邪魔になりそうなものがあれば事前に移動させましょう。
○介助時にバランスを崩しやすい利用者については、スタンディングマシーン(立
ち上がり介助)
、リフト(移乗介助)
、歩行器(歩行介助)の使用を検討しましょ
う。
○急な反応がある利用者については、職員間で情報を共有し、複数人での対応も
検討しましょう。
足元のコードを
さばくため、コン
セントの位置を
上げている。
資料4
(4) 浴室、着脱衣室
【災害事例】
○入浴介護中、床がぬれていたため、足を滑らせて転倒した。
○入浴準備中、脱衣場の床がぬれていたため、足が滑って転倒した。
○利用者が着衣中、バランスを崩して倒れそうになったため、支えようとしたと
ころ、一緒に転倒した。
【原因】
○浴室、着脱衣室の床がぬれている。
○着衣時の利用者の挙動について、危険予知が不十分である。
【対策】
○浴室の床は防滑性の高いシートを貼ったり、滑りにくい素材のものに変更した
りしましょう。
○着脱衣室の出入口は、段差をなくし、床がぬれた状態にならないように防滑用
マットやタオルを敷き詰め、ぬれてきたら随時交換するようにしましょう。
○浴室内では滑りにくい履物を使用しましょう。底のすり減り具合など、定期的
な点検も必要です。
○バランスを崩しやすい利用者には、ひじ掛けと背もたれがある倒れにくい椅子
に座らせるか、ベッドやストレッチャーに寝かせましょう。
(5) 厨房
【災害事例】
○配膳車から食器を取り出し、シンクへ運んだ際、床が洗剤でぬれていたため、
足を滑らせて転倒した。
○側溝のふたがぬれており、足を滑らせて転倒した。
【原因】
○厨房の床がぬれている。
【対策】
○床の掃除は頻繁に行いましょう。
○側溝のふたは防滑加工されたものに変更しましょう。
○厨房は転びやすいので、多くの荷物は持たないようにしましょう。
資料4
(6) 屋外
【災害事例】
○駐車場にて、利用者お迎えのため車に向かっていたところ、降雪により足元が
滑り転倒した。
○ゴミ捨て場から戻る際、足元が滑り転倒した。災害発生時、雨が降っており、
被災者のサンダルの底は摩耗していた。
○夜間に駐車場を歩行中、車止めブロックに気づかず、転倒した。
○駐車場に車を停め、施設に向かう際、場内のでこぼこに気づかず、つまずいて
転倒した。
【原因】
○雪や雨で地面が滑りやすくなっていた。
○暗くて足元が見えなかった。
【対策】
○職場巡視で、夜間の照明、冬期の雪の状態、雨の多い時期の水はけの状態など
を確認するようにしましょう。問題のある箇所はわかりやすく注意喚起の表示を
するか、立ち入り禁止にしましょう。
○暗い場所には照明を設置しましょう。
○予め凍結することが分かっている場合は、凍結防止剤を使用しましょう。
○車止めブロックは目立つように色をつけるか反射板をつけましょう。
○路面のでこぼこや突起物が目立つ場合は改修工事を行いましょう。
(7) バイクや自転車の事故
【災害事例】
○自転車で移動中、砂利にハンドルがとられ、自転車ごと転倒した。
○利用者宅へバイクで移動中、縁石に乗り上げ、バイクごと転倒した。
○バイクから下車するとき、バランスを崩して転倒した。
【原因】
○地面の状態の確認が不十分であった。
○運転中の不注意や、危険予知の不足
【対策】
○バイクや自転車の安全運転講習を行いましょう。
○職場周辺の事故情報を収集し、職員に注意するよう指導しましょう。
○各職員の移動経路を確認し、危険マップを作成しましょう。
(8) まとめ
「転倒は労働者の不注意によるもの」で片づけるのではなく、原因をつきとめ、
再発防止に取り組みましょう。対策をとることが難しい訪問介護等では、危険な
箇所について情報を共有しましょう。
資料4
4 腰痛予防対策のポイント
(1) 腰痛予防対策実施組織の整備
2で説明した衛生委員会、または衛生推進者の下に、腰痛予防対策チームを編
成しましょう。このチームが中心となり、リスクアセスメント(4(2)で説明しま
す。
)
、福祉用具の使用に関する研修、腰痛発生状況の把握、作業方法の点検等の
活動に取り組みましょう。
(2) 腰痛発生に関する要因の把握及びリスクの評価・見積もり
4(1)で挙げたリスクアセスメントを実施しましょう。
リスクアセスメントとは、各作業について起こりうる危険を想定し、それらの
危険性を見積もり、危険性が高いものから優先的に危険性の軽減対策を講じるこ
とで、災害発生を未然に防ぐ取り組みです。
「介護者の腰痛予防チェックリスト」を活用して、各職員の作業に潜むリスク
を洗い出し、危険性の高いものから計画的に対策を講じていきましょう。
(3)以下は対策の具体例になります。
(3) 作業環境の整備
①温湿度
不十分な暖房下で作業したり、入浴介助や風呂掃除で体がぬれたまま冷えたり
すると、腰痛の発生や悪化の原因となるので、施設内の湿温度を調節しましょう。
また、ぬれた服を着替えたり、重ね着をしたりすることでも湿温度を調節でき
ます。
②照明
作業場所、通路、階段等の形状がわかるように照度を保ちましょう。
③作業床面
つまずき、転倒により職員の腰部に瞬間的に過度の負担がかかることを防ぐた
め、部屋や通路の床面は、車椅子やストレッチャー等の移動の障害となるような
段差や凹凸がないようにしましょう。また、浴室、通路及び階段等は滑りにくい
ものにしましょう。
④作業空間・設備の配置等
作業空間が狭いと、前傾、中腰、ひねり等の不自然な作業姿勢が強いられるた
め、部屋、通路及びトイレ等は介助作業に支障がないよう十分な広さを確保しま
しょう。また、介助に必要な福祉用具は、出し入れしやすく使用しやすい場所に
収納しましょう。
資料4
⑤その他
座り作業では、座面の高さ、背もたれの角度、ひじ掛けの高さ等を調節できる
椅子を使用し、体に合うように調節しましょう。食事介助では座面の高さに加え、
左右に向きを変えられる回転式の椅子を使用するようにしましょう。腕を宙に浮
かせて数分を超える作業をする場合は腕を支える場所を確保しましょう。
長時間の勤務で疲労を少なくし、腰痛の発生を防ぐためには、適切な間隔で休
憩をとることが必要です。快適に休憩や休息がとれるよう休憩室や仮眠室を設け
ましょう。
(4) 作業姿勢・動作の見直し
①抱え上げ
原則、人力による人の抱え上げは行わないこととし、リフトやスライディング
ボードを使用しましょう。福祉用具の利用が困難な場合は、利用者の状態や体重
を考慮して、できるだけ前屈や中腰等不自然な姿勢をとらないようにし、身長差
が少ない2人以上で作業しましょう。
②不自然な姿勢
不自然な姿勢による腰への負担を回避・改善するため、次のような改善方法を
検討しましょう。
資料4
③作業の実施体制
負担の大きい業務が特定の職員に集中しないよう配慮しましょう。
④作業標準の策定
作業標準とは、各作業についてケガをするリスクを小さく抑え、かつ効率的に
作業できるように作業手順をまとめたものです。次ページに例示します。
作業標準は、利用者の状態が変わったり、新しい機器を導入したり、作業内容
に変更がある都度見直します。
⑤休憩、作業の組み合わせ
適宜、休憩時間を設け、その時間にはストレッチや安楽な姿勢をとれるように
します。また、同一姿勢が連続しないよう、できるだけ他の作業と組み合わせま
す。
資料4
(作業標準の例)
スライディングボードを用いたベッドから車椅子への移乗(自力での横移動が困
難な対象者を移乗介助する場合の手順例)
1. 床頭台等のベッド周りの備品をベッドから離したり、ベッドをずらしたり
して、必要な作業空間を確保する。
2. 車椅子の移乗方向の足台を取り外し、ベッドサイドにぴったりと横付けし、
ブレーキをかける。
3. ベッドの高さ調節を行い、移乗先の方が数cm低くなるようにする。ベッ
ドから車椅子の場合はベッドを上げ、逆に車椅子からベッドの場合はベッ
ドを下げる。
4. 車椅子のひじ掛けを跳ね上げる。
5. 介護者は、対象者の前方に向かい合い、移乗方向側の対象者の臀部の下に
ボードの一端を座骨結節が乗るまで差し込む。対象者の上体を移乗方向と
反対側に傾けると、臀部が浮き差し込みやすくなる。必ず対象者の傾ける
側の身体を支えながら行うようにする。
6. ボードの反対側を移乗先に置く(15cm程度はかかるように)。
7. 看護・介護者は、対象者の前方で、車椅子とベッドにかかったボードに向
き合うようにして、腰を落として低い姿勢をとる。このとき、移乗先側の
片膝をつくと、腰の負担が減る。
8. 看護・介護者は、対象者の体幹が前方に軽く屈曲するように誘導する。対
象者が腕や上体を軽く看護・介護者に預けるようにすると、身体が前に傾
く。対象者の座位保持が不安定な場合は、移乗先の手すりまたはひじ掛け
を片手で持つように誘導してもよい。
9. 看護・介護者は、移乗先と反対側の手で、被介護者の横臀部を進行方向に
軽く押して、臀部を移乗先に移らせる。
10. 対象者の臀部が完全に移乗先に乗ったら、ボードを外し、体幹がまっすぐ
立つように誘導する。移乗先が車椅子の場合は、ひじ掛けを定位置に下げ
るのを忘れないこと。
11. 車椅子シートに深く座るための介助
対象者の体幹をやや前傾した状態で、左右交互に傾けて荷重を片側臀部に
かけ、次に荷重がかかっていない臀部の膝を車椅子の背もたれ方向へ押す
ことで深く座ることができる。滑りにくい座面の場合は、片側のみスライ
ディングシートを座面に敷き、同様に膝を押すことで滑りやすくなり深く
座ることができる。
資料4
(5) 健康管理
①一般健康診断の実施
事業者は常時使用する労働者に対して年1回(深夜業従事者は6月に1回)定
期に健康診断を実施しなければいけません。
また、異常の所見が認められた労働者については、就業(作業の変更、労働時
間の短縮、昼勤務への転換等)について医者の意見を聴取しなければなりません。
なお、50人以上の労働者を使用する事業場については、健康診断実施後遅滞
なく、所定の様式により、その結果を所轄の労働基準監督署に届け出なければな
りません。
②腰痛健康診断の実施
「職場における腰痛予防対策指針」で、6か月以内に1回、定期に、実施が求
められているものです。その結果、必要がある場合は、作業体制・方法の改善、
作業時間の短縮等を検討します。特に長時間労働や夜勤に従事し、腰部に著しく
負担を感じている者には、勤務体系の見直し等就労上の措置を検討します。
③腰痛予防体操
腰部を中心とした腹筋、背筋、臀筋等の筋肉の柔軟性を確保し、疲労回復を図
ることを目的とした腰痛予防体操を実施します。
腰痛予防体操は、ストレッチングを主体とし、作業開始前、作業中、作業終了
後にかかわらず、疲労の蓄積度合いに応じて適宜腰痛予防体操を実施する時間・
場所が確保できるようにします。
④職場復帰時の措置・支援
腰痛は再発する可能性が高い疾病です。そのため、腰痛による休業者等が職場
に復帰する際、事業者は、産業医等の意見を尊重し、作業方法の改善や福祉用具
の活用の促進、作業時間の短縮等就労上必要な措置を講じて、腰痛発生に関与す
る要因を職場から排除・低減し、休業者等が復帰時に抱く不安を十分に解消する
よう努めましょう。
(6) まとめ
腰痛は一度発症すると一生付き合っていかなければならない可能性があります。
発症するリスクを少しでも軽減させるため、労働者と使用者が一体となって、各
作業に潜むリスクの洗い出しに努めましょう。
資料4
資料4
5 よくある労働相談事例
労働者の方から問い合わせが多い内容についていくつか例を挙げますので、参考と
していただければ幸いです。
(1) Q.法律では労働時間は1日8時間までで、それを超えると残業代が出るはず。
私は休憩を除いて14時間も働いているのに残業代が出ない!
A.1か月単位の変形労働時間制を採用している可能性があります。
◎解説
1か月単位の変形労働時間制の場合、労使協定の締結または就業規則で定める
ことにより、1か月について、1週間の平均労働時間が40時間以下(1か月の
総労働時間/1か月の暦日数×7日≦40時間(労働者数10人未満の社会福祉
施設は44時間)であれば、1日の労働時間は上限なく設定できます。
他にも変形労働時間制はありますが、社会福祉施設は1か月変形制を採用する
ことで深夜シフトを埋めていることが多いと思います。
このケースの問題は、使用者が労働者にきちんと周知していないことです。
労働基準法で、1か月変形制の協定書、就業規則は掲示する等の方法により周
知しなければならないと定められています。ただ掲示するだけでは不十分なので、
採用時や配転時には1か月変形制のルールについて必ず説明しましょう。
なお、時間外労働にかかる割増賃金が不要なケースであっても、深夜労働(2
2時~翌5時)にかかる割増賃金は必要です。
(2) Q.求人票と実際の労働条件が違うんだけど…
A.求人票と「労働条件通知書」は違います。「労働条件通知書」は交付されてい
ますか?
◎解説
労働基準法で、労働者を雇い入れる際は、労働条件通知書を交付し、書面で
①労働契約期間
②有期労働契約の場合、更新の有無とその基準
③就業場所、業務の内容
④始業・終業時間、時間外労働の有無、休憩時間、休日、休暇
⑤賃金の決定、計算、支払方法、締切日、支払時期
⑥退職に関する事項(解雇の事由も含む)
を明らかにするよう定められています。これは求人票でもなければ、民法を根拠
とする、労働契約を明らかにするための雇用契約書でもありません。
事業者は「労働条件通知書」を雇入時の労働条件の最終決定通知として、この
内容を必ず遵守しましょう。一方的な不利益な変更は認められません。
「労働条件通知書」の交付がなかったことによる「言った言わない」のトラブ
ルは後を絶ちません。特に⑥退職について漏れが多いので注意しましょう。
資料4
(3) Q.契約期間が終わったからと言って、突然契約を切られた。解雇じゃないのか?
A.雇止めと解雇は違いますが、予告はされませんでしたか?
◎解説
昨今、労働契約期間を定めた「有期労働契約」が増えており、契約期間の満了
を以て労働契約を解除するいわゆる「雇止め」にかかるトラブルが増えています。
このトラブル増加に対し、厚生労働省は、労働基準法第14条第2項に基づく
「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」を示しています。以下の
点に留意して、雇止めについても、解雇に準じた措置をお願いします。
①雇止めの予告
使用者は、有期労働契約を更新しない場合には、少なくとも契約の期間が満了
する日の30日前までに雇止めの予告をしなければなりません(1年を超えて継
続雇用している場合、または3回以上契約更新している場合が対象です)
。
②雇止めの理由の明示
使用者は、雇止めの予告後に、労働者が雇止めの理由について証明書を請求し
た場合は、遅滞なく交付しなければなりません。
③契約期間についての配慮
使用者は、契約を1回以上更新し、1年を超えて継続して雇用している有期契
約労働者との契約を更新しようとする場合は、契約の実態及びその労働者の希望
に応じて、契約期間をできる限り長くするように努めなればなりません。
(4) Q.退職したんだけど、支払日がまだだからといって最後の月の給料をすぐ払っ
てもらえない。
A.事業者は請求を受けた日から7日以内に支払う必要があります。
◎解説
労働基準法で、労働者の権利に属する金品(賃金も含む。
)は、請求を受けた7
日以内に権利者に返還するよう定められています。
なお、退職金については、就業規則に支払時期が定められていればそちらに従
います。
(5) Q.退職日まで年休を使い切ろうと思ったんだけど、「忙しいから」と断られた。
A.退職日が迫っている労働者に対し、時季変更権は認められません。
◎解説
年次有給休暇は、労働の義務を免ずる有給の休暇であり、労働日にのみ取得で
きます。すなわち、労働の義務が課せられない、退職日以降は無効となりますの
で、労働者から休暇取得の請求があった場合は、退職日までにすべて消化させな
ければならず、時季変更権は認められません。休暇に代えて金銭を払い「休暇を
買い取る」ケースがありますが、原則労働基準法上は許されていません。このよ
うなトラブルを防ぐために、年休は計画的に消化させましょう。
資料4
(6) Q.Aさん宅とBさん宅で訪問介護サービスを提供している。Aさん宅、Bさん
宅それぞれで介護を行った時間を報告し、その時間分だけ給料が払われている。
Aさん宅からBさん宅に移動する時間は労働時間に含まれないのか?
A.Aさん宅からBさん宅に移動する時間も労働時間に含まれ、使用者は賃金を
支払う義務があります。
◎解説
訪問介護の場合も、休憩時間以外の時間は労働時間として考えます。
よって、始業時刻から終業時刻の間の移動時間はすべて労働時間に含めます。
文章で説明するとやや複雑なので、下記に図示します。
訪問前に一度出社する場合は、会社から最初の訪問先のAさん宅までの移動時
間と最後の訪問先のCさん宅から会社までの移動時間も労働時間として含めます
のでその点もご留意ください。
Aさん
会社
宅
Bさん
宅
労働者の
自宅
Cさん
通勤時間
宅
労働時間
引用・参考文献
一般社団法人日本労働安全衛生コンサルタント会
社会福祉施設の安全管理マニュアル作成委員会著「社会福祉施設の安全管理マニュアル」