事例1 体育「ソフトボール」における指導と評価の工夫

事例1 体育「ソフトボール」における指導と評価の工夫
1
生徒の実態及び事例のねらい
(1) 生徒の実態
本事例は、1年男子クラス(計 31 名)を対象として実施した。なお、アンケートは同じ授業を行
った1年男子5クラス(計 91 名)を対象に実施した。
研究校の生徒は、体を動かすことが好きな生徒が多く、授業では積極的に活動に取り組む。また、
仲間意識も強く、運動を苦手とする生徒に対して、運動を得意とする生徒が助言をする姿も見られ
る。しかし、コミュニケーションをとることを苦手と感じる生徒も少なくない。
また、野球が盛んな地域であることから、野球部及び野球経験者が各クラスに4、5名ずついる
ため、ソフトボールの授業では中心となって活動している。
生徒の意識調査として、資料1の通り事前アンケートを実施した。「Ⅰ
と答えた生徒は 53%と約半数である。「Ⅳ
ソフトボールが楽しい」
仲間と積極的に意見を交換したり、声をかけあったり
しながらソフトボールに取り組んでいる」と答えた生徒は 31%であるが、「Ⅲ
バッティングの練
習方法をチームで考えて練習したい」と 83%の生徒が答えており、仲間とともに話し合いながら練
習したいと思っている生徒が多いことが分かる。
<資料1
事前アンケート結果>
質問項目
Ⅰ
ソフトボールは楽しいですか。
Ⅱ
バッティングの練習方法を考えられますか。
Ⅲ
バッティングの練習方法をチームで考えて練習したいですか。
Ⅳ
仲間と積極的に意見を交換したり、声をかけ合ったりしながらソフトボールに取り組ん
でいますか。
- 12 -
(2) 事例のねらい
生徒は、授業の中で仲間と話し合いながら練習をしてみたいと思っている。集団スポーツである
ソフトボールにコミュニケーションは不可欠である。主体的に仲間と関わりながら、十分なコミュ
ニケーションを図って練習することによって、さらにソフトボールの楽しさを味わわせることをね
らいとした。
ア
実践方法1
生徒同士のコミュニケーションを活発にするために、教員主導の授業ではなく、仲間に対して
技術的な課題を指摘し合ったり、有効な練習方法を選んだりする課題解決学習をグループで実施
する。
生徒の思考を促すきっかけになるよう、生徒の動きを撮影したビデオを提供する。体育の授業
の中で教員などが示範を示すことはよくあるが、生徒が自分の動きを見ることは少ない。自分の
動きと他の人の動きを視覚的に比較することによって、違いを容易に感じることができる。視覚
的に違いを理解することで、自分の動きに興味を持ち、生徒自ら課題に気付き、その解決方法を
見付けやすくすることができると考えた。
イ
実践方法2
ルーブリックを活用して指導と評価を一体化した授業をすることによって、グループでの学習
活動の効果を検証しながら、より思考力・判断力を育むために有効なグループ学習を実施する。
2
単元の概要
(1) 単元名
球技「ベースボール型」ソフトボール
(2) 単元の目標
ア
次の運動について、勝敗を競う楽しさや喜びを味わい、作戦や状況に応じた技能や仲間と連
携した動きを高めてゲームが展開できるようにする。
・状況に応じたバット操作と走塁での攻撃、安定したボール操作と状況に応じた守備などを、
仲間と連携して展開すること。
イ
球技に自主的に取り組むとともに、フェアなプレイを大切にしようとすること、自己の責任
を果たそうとすること、合意形成に貢献しようとすることなどや、健康・安全を確保すること
ができるようにする。
ウ
技術などの名称や行い方、課題解決の方法、競技会の仕方などを理解し、自己や仲間の課題
に応じた運動を継続するための取り組み方を工夫できるようにする。
- 13 -
(3) 単元の評価規準
関心・意欲・態度
思考・判断
①役割を積極的に引受け、自 ①グループ学習で、自己や
運動の技能
知識・理解
①キャッチボール、バッテ
① ソフトボールの特性、状
己の責任を果たそうとし
仲間の技術的な課題に気
ィングの基本技能を身に
況に応じた攻守について
ている。
付き、有効な練習方法を
つけ、ボールをコントロ
具体例を挙げている。
選択している。
ールすることができる。
② ルールを理解し、試合の
②ゲームの場面で、提供さ
②ゲームの中で、状況に応
行い方について言ったり
③用具や練習場などの安全
れた作戦や戦術から自己
じたバット操作と走塁で
書き出したりしている。
を確かめ、危険なプレーは
のチームや相手チームの
の攻撃ができる。
行わないなど、自他の安全
特徴を踏まえた作戦や戦
に留意している。
術を選んでいる。
②互いに助け合い、教え合お
うとしている。
③ゲームの中で、仲間と連
携した守備などの動きが
③作戦などの話合いの場面
できる。
で、合意形成をするため
の適切な関わり方を見付
けている。
(4) 単元の指導計画並びに評価計画
時間
評価の観点
ねらい及び主な学習内容
評価の方法
関
1
思
技
知
【ねらい】
・ソフトボールの特性やルール、授業の取り組み方を理解する。
【学習内容】
・オリエンテーション
単元の学習内容やソフトボールの特性、練習方法などを理解す
る。
安全な活動方法について理解する。
・ソフトボールの動きに関連した体力を高める運動を実施する。
・簡易ゲームでルールを確認する。
③
2
【ねらい】
3
・仲間と協力して練習に取り組み、ソフトボールの基本技能を身
②
観察
に付ける。
【学習内容】
・守備練習
①②
観察
①②
観察
捕球と送球、ゴロ・フライの打球処理
・打撃練習
トスバッティング、プッシュバント、狙った方向へのバッティン
グ
- 14 -
4
【ねらい】
・互いに助け合いながら、課題解決に取り組む。
【学習内容】
・キャッチボール(捕球と送球、ゴロ・フライの処理等)
授業の展開①
・グループ学習
①③
観察
ビデオを見て、バッティングの自他の課題点等を確認し合う。
バッティングでボールをミートするための効果的な練習方法を
グループごとに提案し、練習する。
5
【ねらい】
・互いに助け合いながら、課題解決に取り組む。
【学習内容】
・キャッチボール(捕球と送球、ゴロ・フライの処理)
・フリーバッティング
授業の展開②
・グループ学習
①③
観察
流し打ち、遠くに打つ方法及びそれに対応した守備の確認。
遠くに打ったり、流し打ちをしたりするための効果的な練習方法
を、グループごとに提案し、練習する。
6
【ねらい】
7
・ソフトボールの基本技能を身に付ける。
・ソフトボールの特性に応じた攻守を理解する。
【学習内容】
・様々な打ち方に対応した、守備を行う。
①
・課題ゲーム
①②
観察
観察
ゲームの中で、犠牲バント、走塁、ヒットエンドラン、ダブルプ
レイなどの戦術を確認する。
・スキルテスト
8
【ねらい】
9
・仲間と協力しながら、ソフトボールの楽しさを味わう。
10
・チームで作戦を考えてゲームをする。
①
スキルテスト
②③
観察
【学習内容】
・ゲーム(リーグ戦)
③
審判は生徒が行う。
②
相手の攻防に応じた作戦を立てられるようにする。
- 15 -
②
観察
ワークシート
11
【ねらい】
・ソフトボールの特性やルールを理解する。
・チームの特徴に応じた作戦や戦術を選べるようになる。
【学習内容】
・確認テスト
②
確認テスト
今まで学習した攻撃、守備などの基本的知識、ルール、戦術など
を確認する。
・ゲームの様子をビデオに撮影したものを見せ、状況変化の中での
②
確認テスト
有効なプレイの選択を確認する。
3
授業の様子
(1) 授業の展開①
11 時間中の第4時である。生徒の実態で述べたとおり、野球が盛んな地域であるため、同じベー
スボール型であるソフトボールの知識や技術についても、ある程度身に付いている生徒が多い。本
時は、キャッチボールをした後、グループで、メンバーの課題を基に考えた練習を実施した。グル
ープ学習中は事前に生徒のバッティングフォームを撮影したビデオを自由に見られるようにした。
この課題練習が評価の場面である。評価は観察で行い、評価基準としてルーブリック(資料2)
を活用した。授業の最後には自己評価シート(資料3)で生徒に振り返りをさせた。この自己評価
も評価の補助資料として活用する。
段階
学習内容及び学習活動
指導上の留意点及び評価
○グループ学習
・自己評価シートを配付し、最後に自己評価をする
『バッティング課題に応じた練習方法を考
えよう』
ことを伝える。
評価規準【思考・判断】
・見本を見ながら、バッティングの基本
練習方法を選択している。(観察)
明を聞く。
【支援】
・前時に撮影した自己のバッティングフ
展
・必要に応じて、バッティングフォームを見る
ォームをグループで確認し、課題点な
ときのポイントを個別に説明する。
どを見付ける。
・グループごとで考案した練習が具体化できる
・グループメンバーの課題を基に、ミー
開
自己や仲間の技術的な課題に気付き、有効な
動作及びボールをミートする方法の説
よう、助言する。
ト力を高めるための練習方法を提案し
実施する。
評価規準【思考・判断】
話合いの場面で、合意形成をするための適切
○振り返り
・自己評価シートで本時の反省をすると
ともに、次時への課題を明確にする。
・何名か反省と課題を発表する。
な関わり方を見付けている。(観察)
【支援】
・必要に応じて、仲間との協力の仕方などにつ
いて助言する。
- 16 -
<資料2
ルーブリック>
ソフトボール【思考・判断】のルーブリック『バッティング課題に応じた練習方法を考えよう』
4
3
2
1
Ⅰ
見本との違いを見付けることが
見本との違いを見付け
見本との違いを見付け
見本との違いを見付け
バ
ッ
テ
ィ
ン
グ
動
作
の
確
認
できる。
ることができる。
ることができる。
ることができない。
技能のポイントを見本との違い
技能のポイントを見本
から見付けることができる。
との違いから見付ける
個人の技能段階に応じたアドバ
ことができる。
Ⅱ
学習してきた練習方法から、効
学習してきた練習方法
効果的な練習方法が分
効果的な練習方法が分
練
習
方
法
の
提
案
果的な練習方法を選択できる。
から、効果的な練習方
からない。
からない。
また、その理由を述べることが
法を選択できる。
Ⅲ
仲
間
と
の
関
わ
り
イスを伝えられる。
できる。
自分の考えを言葉や動きで示す
自分の考えを言葉や動
自分の考えを言葉や動
自分の考えを言葉や動
ことができる。
きで示すことができ
きで示すことができ
きで示すことができな
チームメイトと意見交換をし、
る。
る。
い。
課題練習の実施に向けて合意形
チームメイトと意見交
成できる。
換をし、課題練習の実
チームで合意形成した意見を基
施に向けて合意形成が
に、率先して自分の役割を見付
できる。
け、行動し、練習することがで
きる。
思考・判断の評価規準「自己や仲間の技術的
<資料3
自己評価シート>
な課題に気付き、有効な練習方法を選択してい
る」のルーブリックは、「自己や仲間の技術的な
課題に気付き」の部分を、「Ⅰ
自己評価シート
「バッティング課題に応じた練習方法を考えよう」
バッティング動
年
作の確認」として作成し、「有効な練習方法を選
択している」の部分を「Ⅱ
練習方法の提案」の
場面として2段階に分けて作成した。「話合いの
場面で、合意形成をするための適切な関わり方を
見付けている」については「Ⅲ
仲間との関わり」
として作成した。
三つの観点で観察評価を行うことは難しいこと
が予想されたため、ⅠとⅡの評価をできるだけ同
時にしないで済むようⅠのバッティングの動作の
確認が済んでからⅡの練習方法を考えるよう生徒
に指示をした。
組
番
氏名
できたものに○をつけなさい。
1
2
3
4
5
見本を見て、正しいバッティングフォームを理解できる。
見本との違いをみつけることができる。
個人の技能の違いを理解できる。
個人の技能段階に応じたアドバイスを考えられる。
学習してきた練習方法から、効果的な練習方法を
選択できる。また、その理由も伝えられる。
6 ミート力を上げる練習方法を、自分たちに適した
方法に発展させることができる。
7 自分の考えを言葉や動きで示すことができる。
8 チームメイトと意見交換し、意見の折り合いをつけるこ
とができる。
9 学習を振り返り、今後の課題を洗い出すことがで
きる。
10 今後の課題に対しての改善策を考えられる。
また、生徒と評価規準を共有して授業を行うた
めに、ルーブリックの配付を検討した。しかし、説明に時間がかかると考え、生徒用には、内容
を簡単にした自己評価シートを作成し使用した。
- 17 -
(2)
評価の様子
ア
ルーブリック4の評価
ルーブ
リック
生徒の言葉および仲間との関わり
該当
人数
「見本と腰の動かし方が違ってる。
「Ⅰ
ミートしないんだ。あとはボールを
最後まで見てない。まずは、ボール
価
4
Ⅱ
4
らは、もっと多くの生徒がアドバイスし合
がバットに当たるまでしっかり見た
うことを予想していたが、実際には少数だ
らどうかな。」(仲間に対してのア
った。
「Ⅱ
練習方法の提案」では、グループ
「トスバッティングもいいけど、フ
学習を始めたばかりのときは、練習方法を
ォームを意識するためには、まずボ
提案しても、その理由を明確にして提案で
ールが止まっているところから始め
た方がいいんじゃないかな。何か使
きる生徒は少なかった。しかし、話合いの
14
最中に自己評価シートの見直しをさせたと
って置いてあるボールを打てるよう
ころ、活発に意見を出し、理由も伝えなが
にしよう。」
らの会話が多くなった。
「Ⅲ
率先して意見を出し、また仲間の意
している。さらに行動面でも、練習
仲間との関わり」に該当した8名
には、「もっと仲間の意見を引き出せるよ
見を聞き出したうえで合意しようと
Ⅲ
バッティング動作の確認」では4
名の生徒が該当した。普段の授業の様子か
ドバイス)
評
と判断した生徒の発言や行動は左の表の通
りである。
早いタイミングでバットを回すから
Ⅰ
観察評価から、それぞれの項目で評価4
うに、また仲間のいい面を生かして活動が
8
がスムーズに実施できるよう率先し
できるようにするには何をするとよいか考
えよう」と伝え、さらなる目標をもたせた。
て動き仲間にも指示をだしている
イ
ルーブリック3の評価
ルーブ
リック
生徒の言葉および仲間との関わり
該当
人数
「自分はボールがまだきてないのに
評
価
3
Ⅱ
すときはまだバットは引いてるんだ
な。自分は左足を出しながらもう振
と判断した生徒の発言や行動は左の表の通
りである。
バットを振ってる。○○は左足を出
Ⅰ
観察評価から、それぞれの項目で評価3
「Ⅰ
20
バッティング動作の確認」で評価
3となった生徒は 20 名であった。見本と自
分の動作の比較から、技能のポイントを見
ってるから早くなっちゃうことが何
付けることができた生徒は多かった。しか
か関係があるのかな。」
し、自分のことは考えられるが、仲間にア
「素振りがいいと思う。」
ドバイスをすることができなかった。「間
「前にやったトスバッティングやろ
14
違ってもいいから思ったことをまず伝えて
みよう。」などと助言してもほとんど変わ
う。」
らなかった。
率先して意見を出し、また仲間の意
Ⅲ
見を聞き出したうえで合意しようと
している。
「Ⅱ
10
練習方法の提案」では、「ア
ーブリック4の評価」で述べたように、グ
ループ学習の始めは評価3に該当する生徒
行動面では、目立った動きはない。
が多かったが、授業の中で、練習方法を選
択した理由を伝えるようになったため、最終的には半数ちかい生徒が評価4となった。
「Ⅲ
ル
仲間との関わり」は三分の一程度の生徒が評価3であった。
- 18 -
ウ
ルーブリック2の評価
ルーブ
リック
生徒の言葉および仲間との関わり
該当
人数
評
打っているんだろう。バットの動き
4
Ⅱ
「Ⅰ
バッティング動作の確認」で評価
2に該当する生徒は何かが違うことは分か
るが、改善するためのポイントが分からず、
がなんか違うよなあ。」
価
2
いるつもりなのに、何でこんな風に
評価2と判断した生徒の発言や行動は左の
表の通りである。
「自分では見本と同じように打って
Ⅰ
観察評価から、それぞれの項目において
全てを見本と同じようにしようと考えてい
「分からない。」
3
何も言わない。
る生徒が多かった。そこで「一度に何点も
改善しようとしないで、1点ずつに絞って
Ⅲ
自分の意見を出すことはできる。
11
行動面では目立った動きはない。
改善していこう。」と助言した。すぐには
技能のポイントまでは見付けられなかった
が、バッティング動作を分解して考えてみようとする姿勢がみられた。
「Ⅱ
練習方法の提案」に該当した生徒は、バッティング動作の改善点が分からないので練習
方法も分からないという生徒だった。
「Ⅲ
仲間との関わり」では自分のことを話すことと、相手の意見を引き出したりまとめたり
することの間には壁があるようで、助言をしても変容はみられなかった。
なお、教員の観察では評価2だった生徒の中に、自己評価では評価3(チームメイトと意見交
換し、合意形成できる)とした生徒が数名いた。
エ
ルーブリック1の評価
ルーブ
リック
Ⅰ
評
価
Ⅱ
生徒の言葉および仲間との関わり
「違うと思うけど、よく分からない。」
「(違いがあるが)同じだと思う。」
該当
人数
2
評価1と判断した生徒の発言や行動は
左の表の通りである。
「Ⅰ
バッティング動作の確認」「Ⅱ
練習方法の提案」「Ⅲ
仲間との関わり」
全て評価1に該当する生徒が2名いた。
「分からない。」
(3)
何も言わない。
バッティング動作を分解して、そのポ
イントを助言しながら一緒に考えること
1
「分からない。」くらいしか言わない。
Ⅲ
行動面では、仲間の指示があって始め
で、生徒は少し発言をすることができた。
2
て動く。
さらに、同じグループの全員に、みんな
で考えて、みんなで動くことを強調した。
意見を求められたり、動くのを周囲が待ってくれたりする場面ができることで、自分から何かし
なければという意識が少しできたようであった。
「授業の様子(ビデオでの観察)」
- 19 -
(3)
評価から見えた授業の改善点
本時の評価から見えた課題
「Ⅰ
次時への改善策
バッティング動作の確認」で
以下の3点を授業の始めに行う。
評価4に該当する生徒が少ない。
①発問を通してソフトボールに関する
「アドバイスをする」ことができない
知識を深めさせ、アドバイスをする観
要因はソフトボールに関する知識・理
点を分かりやすくしてから課題練習
解について自信がもてていないこと
を実施する。
が考えられる。野球経験者が多く、野
②アドバイスとは、些細なことでも、相
球が盛んな地域であることから1年
手にとっては技能向上のための大き
次でもある程度ソフトボールの知識
なポイントになることがあることを
はある。しかし、アドバイスと改めて
伝える。
言われると、思うように意見を言えな
③アドバイスしてもらったことを生か
い生徒が多かった。
すには、アドバイスされた側がどのよ
うな姿勢で受け入れればよいかにつ
いて、生徒に伝える。
本時の評価から見えた課題
次時への改善策
教員の観察評価と生徒の自己評価
次時に、教員の観察評価と生徒の自己
に差異があった。
評価に差異があった生徒を注意深く観
教員の観察評価で2だった生徒の
察する。
中に、自己評価では3(チームメイト
また、「合意形成」として求めている
と意見交換し合意形成できる)とした
言動は、「全員の意見について、そう考
生徒がいた。
える理由まで理解したうえで意見をま
とめる。」ことであると改めて生徒に伝
える。
(4) 授業の展開②
11 時間中の第5時である。キャッチボールをした後、流し打ちなどについて説明し、グループで
課題練習を実施した。課題は「流し打ち及び遠くに打つことができるように練習をしよう」である。
前時の反省から、授業の始めに「アドバイスは、些細なことでも相手にとっては大きなきっかけ
になることもある。」「アドバイスされる側の姿勢によって、アドバイスを自分に活かすこともで
きるし意味のないものにしてしまうこともある。」ことを伝えた。また「良いアドバイスをたくさ
んもらえる人と、あまり人からアドバイスをしてもらえない人がいる。」この理由について考えさ
せた。グループ学習では、知識を深めるための発問を、見本と自分の比較から改善点を探る際の思
考の流れに沿うように実施した。このグループ学習が評価の場面である。ルーブリックと自己評価
シートは前時と同じものを使用した。
- 20 -
段階
学習内容及び学習活動
指導上の留意点及び評価
○流し打ち、遠くに打つ方法及びそれに対応した
・バッティングは、生徒に見本をさせながら説
守備の確認。
明する。
・守備はホワイトボードで図示して説明する。
・自己評価シートを配付し、最後に自己評価を
することを伝える。
・「合意形成ができる」状態について説明する。
・前時の自己評価による課題点を思い出させる。
○グループ学習
『流し打ち及び遠くに打つことができるように
練習をしよう』
評価規準【思考・判断】
自己や仲間の技術的な課題に気付き、有
効な練習方法の選択をしている。(観察)
【発問1】
【支援】
見本を見るとき、どこにポイントを絞る
と比較がしやすくなるでしょう。
・グループごとで考案した練習が具体化で
きるよう、助言する。
下半身?上半身?腕?顔?重要だと思
うところはどこ。
・必要に応じて、技術の構造などについて
個別に助言する。
【予想される答え】
腕、上半身
など
評価規準【思考・判断】
話合いの場面で、合意形成をするための
【発問2】
適切な関わり方を見付けている。(観察)
(発問1の答えを受けて)なぜそこが重要
【支援】
だと思ったの?
・必要に応じて、仲間との協力の仕方など
について助言する。
【予想される答え】
バットを振っているのは腕だから
など
発問→答えのやり取りをさらに繰り返し
ながら技能のポイントを見付けさせる。
・グループ学習中も、適宜、発問を通して技能
や特性のポイントを思い出させたり、範囲を
限定したりして考えやすい状態をつくる。
・グループメンバーの課題を基に、流し打ち
や遠くに打つことができるようになる練習
方法を提案し、実施する。
○振り返り
・自己評価シートで本時の反省をするととも
に、次時への課題を明確にする。
「授業の様子(自己評価シートの記入)」
・何名か反省と課題を発表する。
- 21 -
(5) 前時から改善した点について
改善した点
改善後の授業の様子
アドバイスができない生徒が多かった
アドバイスをし合う場面が増えた。
ため、以下の3点を行った。
生徒の自己評価でも「アドバイスでき
①発問を通してソフトボールに関する知
る」に○を付けた生徒が増えた。
識を深めさせ、アドバイスをする観点
を分かりやすくした。課題練習を実施
する前だけでなく、課題練習実施中も
生徒に同様の助言を行った。
②アドバイスとは、些細なことでも、相
手にとっては技能向上のための大きな
ポイントになるかもしれないことを伝
える。
③アドバイスしてもらったことを活かす
には、アドバイスされた側がどのよう
な姿勢で 受け入れ れば よいかに つい
て、生徒に伝える。
改善した点
改善後の授業の様子
教員側の評価と生徒の自己評価が一致
注意深く観察した結果、やはり合意
しなかった部分があったため、その生徒
形成できていなかった。ただし、今回
を特に注意深く観察した。
はその生徒は自己評価も合意形成で
また、「合意形成」とはどのような言
きるには○が付いていなかった。
動を求めているのかを改めて説明した。
合意形成として求める言動は、「全
員の意見について、そう考える理由ま
で理解したうえで意見をまとめるこ
と。」と伝えたことで、教員側の評価
と生徒の自己評価が一致した。
さらに、話合いの場面で合意形成の
ための調整をしているような発言が
増えた。
- 22 -
4
成果と課題
(1) 成果
本事例の成果として、次のようなことが挙げられる。
ア
評価を基に授業内容の改善を図ることでグループ学習がより活発になり、コミュニケーショ
ン力を向上できたこと
グループ学習の生徒の様子は、授業の展開①よりも展開②の方がより活発な話合いがなされて
いた。後に行ったゲームでも、自然にチームで作戦を考え合う姿が見られた。自分たちで考えた
作戦で、思う通りのプレイができたときの生徒たちの様子は、とても楽しそうである。
特筆すべき点は、生徒たちが話し合う様子が変化したことである。以前は特定の生徒が話合い
をリードして、意見を言う生徒と言わない生徒に分かれる傾向があった。しかし現在は、話合い
をリードする生徒は、みんなの意見をまずは聞き入れようという姿勢になっている。さらにあま
り意見を言わなかった生徒も、自分のアドバイスを仲間に受け入れてもらい、さらに感心される
などの経験によって、少しではあるが自信を持って発言ができるようになっている。
事後アンケート(資料4-Ⅲ)でも、「仲間と積極的に意見を交換したり、声をかけ合ったり
しながらソフトボールに取り組んでいる」と答えた生徒が事前アンケートの 31%から 83%(そ
う思う+ややそう思う)に増加している。ソフトボールが楽しいと答えた生徒(資料4-Ⅰ)も
53%から増加し 73%(そう思う+ややそう思う)となっている。
イ
ルーブリックによって評価が比較的容易にできたこと
評価の基準が明確になっていることで、観察で評価をする際も素早く判断をすることができた。
ルーブリックをもっているということだけでなく、ルーブリックを作成する段階で生徒の学習状
況をイメージしたことによって、基準に当てはめることが容易となった。また、この明確な生徒
のイメージによって、話合い活動中の言葉だけでなく、練習中の生徒の動きや、かけ合っている
言葉などからも考えていることを見取ることができた。
ウ
自己評価シートを生徒にも示すことで、生徒個々の目標が明確になったこと
ルーブリックの内容を基に生徒が自己評価することによって、生徒が学習の目標を理解しやす
くなった。事後アンケート(資料4)でも、自己評価シートを見ることで「さらにどんなことを
考えればよいかヒントを得られたか」(そう思う+ややそう思う)97%、「自分の学習を振り返
るのに役立ったか」(そう思う+ややそう思う)71%となっている。自己の学習を振り返り、見
通しを持つことができたことが分かる。学習を通して目指す具体的な姿を生徒に示し自己評価を
させることは、評価に役立つだけでなく、生徒を次の段階へ進めるための教員の手立てのひとつ
になり得る。
<資料4
事後アンケート結果>
質問項目
Ⅰ
ソフトボールは楽しいですか。
Ⅱ
バッティングの効果的な練習方法を考えることはできますか。
Ⅲ
仲間と積極的に意見を交換したり、声をかけ合ったりしながらソフトボールに取り組んでいま
すか。
Ⅳ
チームメイトの技術について、授業前と比べてアドバイスをすることができるようになりまし
Ⅴ
評価シートを見ることで、さらにどんなことを考えれば良いかヒントを得られましたか。
Ⅵ
評価シートは自分の学習を振り返るのに役立ちましたか。
たか。
- 23 -
<資料4―Ⅰ>
<資料4―Ⅱ>
<資料4―Ⅲ>
(2) 課題
本事例の課題として、次のようなことが挙げられる。
ア
授業中の評価と指導のバランスが評価に偏ってしまったこと
成果の「イ」で、ルーブリックで評価が比較的容易になったと述べた。これまでよりも容易に
できたことは確かであるが、授業中に評価することにおわれて、評価内容以外の生徒の活動状況
をよく見ることができなかった。今回はルーブリックで三つの観点を評価したが、今後はより精
選する必要がある。
イ
生徒同士でアドバイスし合うことがまだ十分ではないこと
授業の展開①での課題としてアドバイスができないことが挙げられた。授業内容の工夫によっ
て改善されたが、まだ十分とは言えない。事後アンケートでも、「授業前と比べて、アドバイス
- 24 -
することができるか。」(そう思う+ややそう思う)59%と、最も数値が低かった。課題を発見
したり、理解することはできても、そのことを相手に伝えたり、アドバイスに発展させることは、
かなり難しいことが分かる。こういったことは、簡単に身に付くことではない。年間を通して、
計画的に指導の機会を設けていくことが必要である。
- 25 -