文化・経済フォーラム滋賀では平成 23 年の発足以来、滋賀の文化の振興と経 済の活性化のための新たな方策について提言を行うことを事業の重要な柱とし てきた。平成 24 年から 27 年まで、下記の4つの提言を行うとともに、これら の提言の実践としての「文化ビジネス塾」の開催をはじめ、 「文化で滋賀を元気 に!賞」の表彰、「近江屋」研究プロジェクトなどの諸事業を行っている。 これらフォーラムの活動を総括しつつ、以下の提言を行う。 提 言 新生美術館計画の実現と滋賀の魅力の発見・発信へ これまでの提言 平成 24 年 『文化ビジネスの開発で滋賀の文化と経済に新展開を』 平成 25 年 『文化・芸術・ビジネスの見本市としての国民文化祭へ』 平成 26 年 『滋賀の文化を発信する国民文化祭を早期に、 スポーツイベントと連携した開催へ』 平成 27 年 『自然・歴史・暮らしが統合された地「近江」の発信を ~“近江遺産”“”近江八百八景”から日本遺産そして世界遺産へ~』 1 新生美術館計画の実現と滋賀の魅力の発見・発信へ 昨年 10 月、フランスから前ナント市長で前首相のジャン・マルク・エロー氏 が滋賀県を訪れ、文化による都市再生について講演をされている。また 12 月に は我が文化・経済フォーラム滋賀の主催により近江屋研究プロジェクト研究報 告会の一環として、前金沢市長山出保氏から歴史と文化のまちづくりについて お話を伺ったところである。 ナントも金沢もその文化をまちや経済の活性化につなげた、世界そして日本 での代表的な成功例であると言える。この二都市に共通するのは、歴史や伝統 を尊重し生かしながら文化に対するハード、ソフトの両面での多様で継続的な 投資がなされていることである。 滋賀県内では、これらの都市に匹敵するほどの継続的で大規模な文化投資を 見ることはできないとしても、滋賀は古代から開け、多様な歴史的な文化遺産 が蓄積し、それが琵琶湖に代表される自然に寄り添いながら、生活と一体とな って現代に息づく地である。これからの文化的な投資を戦略的に行うことによ って、ナントや金沢とは異なる形で、文化と経済が相互に刺激し合い、暮らし やすさと同時に新たな発展が生まれる地域として未来を拓くことが可能である と考えられる。 県内では近年の経済・財政状況から、文化関係での大規模な施設建設などは 見られなかったが、現在、県では新生美術館構想が進められている。それは大 2 津市瀬田丘陵の県立近代美術館を、神と仏の美、近代・現代美術、アール・ブ リュットという 3 つの分野の美術館として再整備しようとするものである。 近年の県立の大規模文化施設としてはびわ湖ホールと琵琶湖博物館が挙げら れるが、ともに県外や海外への強い発信力を持っており、新生美術館もそれに 続く施設になることが期待される。 もとよりこれらの文化施設は、県民が文化芸術あるいは自然について、体験 し、学び、考え、楽しむことにより、生きるための知恵や活力を得ることがで きる自由な場所でなくてはならない。また、それと同時に全国や世界から評価 される活動を展開する拠点としての機能、県内の様々な活動を結ぶ機能、未来 のための人材を育てる機能などが求められる。新生美術館については、これら を実現するための具体的な方策を明らかにされ、県民や有識者との議論を経て、 その構想の実現を図られることを期待したい。 新生美術館は、その建築を世界的に評価される設計事務所 SANAA が担当する ことも含め全国的な注目を浴びている。開館予定は 2019 年度であり、2020 年 の東京オリンピック・パラリンピックに向けての文化プログラム、また、2024 年の滋賀での国民体育大会・全国障害者スポーツ大会の開催に向けての文化プ ログラムなど文化に関して県民や国民の関心を喚起する様々な機会が続く時で ある。また、当フォーラムがこれまでも提言してきた国民文化祭の滋賀県開催 が視野に入る時期でもある。滋賀への来訪者も増えることが予想され、これを 滋賀の文化発信の好機とすべきである。 3 歴史、自然、暮らしが一体になった滋賀の文化の特質については昨年の提言 で触れたところであるが、滋賀の風土は、訪れる人自身が一定の時間をかけた 体験を通して、その人にふさわしい価値を発見することが出来る場所である。 司馬遼太郎は、 『街道をゆく』を近江からはじめ、白洲正子は『近江山河抄』で、 近江のことを「えたいの知れぬ魅力」と形容した。近江に惹かれた先達になら って、風土に溶け込んでそれを学び、楽しむことは、文化や環境の持続性を確 かなものにし、新たな観光のあり方にもなる。来訪者には滋賀ならではの発見 に満ちた滞在をしてもらう必要がある。 新生美術館構想では、 「美の滋賀」の入り口として、多くの人を県内各地に誘 うことが、その使命として謳われている。これは価値発見のために重要な考え 方である。滋賀の魅力はどこか一か所、何か一つではなく、多様な小さな魅力 が遍く各地に潜在していること、そしてその発見が一人一人に委ねられている ことである。新生美術館だけでなく様々な施設、機関、組織において県内各地 の魅力へと誘う機能を備え、それらがつながり、そして同時に、関係する団体 や企業、行政が滋賀の文化発信と受け入れ体制の整備を行うことが必要である。 そして、滋賀の魅力に深く参入する人たちを増やすことで、大量消費やマスツ ーリズムではない持続可能な文化、環境、観光の実現へとつなげるべきである。 4 文化・経済フォーラム滋賀 提言とりまとめ経過(2015-6 年度) 2015(平成 27)年 10 月 4 日 シンポジウム「近江を考える」 全体進行 加藤賢治 琵琶湖は世界遺産になれるか―祈りと暮らしの水遺産― 講師 (公財)滋賀県文化財保護協会普及専門員 大沼芳幸 「近江」発信のための戦略は? 大沼芳幸 川戸良幸(琵琶湖汽船(株)代表取締役社長) 楠山純秀( (公社)びわこビジターズビューロー広報宣伝部副部長) コーディネーター 井上建夫 10 月 31 日・11 月 1 日 「第 30 回国民文化祭・かごしま 2015」視察 12 月 2 日 第 1 回文化経済サロン 「足元の宝を見つめて暮らしを楽しむ」 講師 (株)他郷阿部家代表取締役・(株)石見銀山生活文化研究所代表 取締役所長 松場 登美 12 月 12 日 第 7 回文化ビジネス塾 「重要文化的景観―大溝の水辺景観」 講師 高島市教育委員会 山本晃子 大溝水辺景観まちづくり協議会 神原未來 12月 13 日 第 2 回文化経済サロン 「文化芸術と地域の活性化」 講師 びわ湖ホール音響デザイナー・大阪芸術大学准教授 小野 隆浩 12 月 16 日 第 1 回提言チーム研究会 講師 滋賀県総合政策部文化振興課新生美術館整備室長 馬渕 兼一 12 月 23 日 近江屋研究プロジェクト研究報告会「現代近江屋考」 報告 成安造形大学附属近江学研究所研究員 加藤賢治 石川亮 「歴史と文化のまちづくり」 講師 前金沢市長 山出 保 5 2016(平成 28)年 1 月 15 日 第 2 回提言チーム研究会 講師 (公社)びわこビジターズビューロー専務理事 廣脇 正機 (株)まちづくり大津取締役 秋村 洋 提言チーム研究会参加者 赤木俊夫 洋 石川亮 木村至宏 中村順一 井上建夫 近藤洋子 橋本敏子 梅村徹弥 竹村憲男 馬場章 加戸栄子 田中健之 藤原和子 加藤賢治 田中正彦 藤原昌樹 岸野 谷祐治 待文麻呂 村田 三千雄 (参考) 2015 年 10 月 18 日 2017 年フランス・ナント市における日本のアール・ブリュット展 開催記念講演会 (主催:アール・ブリュット魅力発信事業実行委員会) 「少数者が、世界の見方を革新する」 講師 演出家・劇作家・東京藝術大学特任教授 平田 オリザ 「甦るナント~文化による都市再生の軌跡」 講師 前ナント市長(名誉市長) ジャン・マルク・エロー 6
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