並行輸入された経鼻インフルエンザ生ワクチンに含有される ウイルスの

720
原
著
並行輸入された経鼻インフルエンザ生ワクチンに含有される
ウイルスの感染価の定量
1)
国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター,2)東北大学大学院医学系研究科感染分子病態解析学分野,
3)
東北大学未来科学技術共同研究センター
佐藤
伊藤
1)
2)
光
洋子1)
菊地
大村
佑樹1)
達夫3)
真砂
西村
佳史3)
秀一1)
大宮
卓1)
(平成 27 年 6 月 1 日受付)
(平成 27 年 7 月 27 日受理)
Key words : influenza, live vaccine, focus forming unit
要
旨
現在我が国で承認されているインフルエンザワクチンは皮下注射による接種のための不活化ワクチンのみ
である.一方,世界的には生ワクチンもある.投与条件や保存条件,使用期限等の制限があるものの,鼻噴
霧式生ワクチンの Flumist はアメリカで 10 年以上使われており,臨床試験でも一定の効果が認められてい
る.このワクチンは日本では未だ承認されてはいないが,一部の医療機関が個人輸入の形をとって入手し,
医師の裁量により使用している.だが,そうした形での本邦での使用に際し,その生ワクチンとしての感染
価が担保されているか否かを調べる体制は全く整えられていない.そこで我々は,2013∼14 年と 2014∼15
年シーズンに同ワクチンを並行輸入業者経由で購入し,それに含まれる 4 株のインフルエンザウイルスのそ
れぞれについて FFU(focus forming unit)感染価を測定してみた.その結果,A 型インフルエンザウイル
スでは,含まれる H1N1pdm09,H3N2 株の双方とも,2013∼14 年シーズンでは添付文書に記載のある感染
価下限値の 1!
30 程度であり,2014∼15 年シーズンでは 1!
10 程度あった.一方,B 型については,記載の
感染価の下限値付近であった.これらのウイルスについてデジタル PCR を用いてウイルス遺伝子の絶対定
量を行った結果,A 型ウイルスは,B 型ウイルスの 1!
10 のコピー数であった.同ワクチンを到着後 4℃ に
保存し続け,感染価を経時的に測定したところ,B 型に 100.5FFU 程度の低下が見られ,かろうじて下限ラ
インにとどまった B 型の一株を除きすべてが,使用期限直前には下限の 1!
10 程度の感染価となった.今後
もしこの生ワクチンが本邦でも認可されるような場合には,ワクチンとして効果を発揮するのに必要な最低
限の感染価についての検討,そしてさらに,本邦での流通段階でその感染価が保たれていることを保証する
公的な監視体制が必要であろう.
〔感染症誌
序
89:720∼726,2015〕
ないと効果が低いことが知られている2).こうした問
文
現在我が国で承認されているインフルエンザワクチ
題点を解決するために,分泌型抗体である IgA の産
ンは,皮下注射による接種のための不活化ワクチンの
生を誘導できるようなワクチンが考えられており,そ
みである.これにより血中で中和抗体(IgG)の産生
れらは効率良く感染を防ぐことができ,さらに抗原性
が誘導されることで重症化を防ぐことが可能とされて
の少々のずれがあっても一定の効果が期待できるもの
1)
いる.一方で感染自体の予防は難しいとされ ,また
と期待されている3)4).この IgA を誘導するためには
ワクチン株ウイルスと流行ウイルスの抗原性が一致し
ワクチンの経鼻接種が効果的であり,本邦においても
経鼻インフルエンザワクチンの開発が進められてい
別刷請求先:
(〒983―8520)宮城県仙台市宮城野区宮城野 2
丁目 8―8
国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイ
ルスセンター
西村 秀一
る5).
一方,現在生ワクチンとして,鼻腔噴霧式インフル
エンザ生ワクチン(Flumist,MedImmune,USA)が
感染症学雑誌 第89巻 第 6 号
本邦での流通段階における Flumist の感染価
721
Table 1 Combinations of antisera for the neutralization
Antisera
Lot No.
A/California/7/2009 (H1N1) pdm09
020101
−
+
+
+
+
A/Victoria/361/2011 (H3N2)
013051
+
−
+
+
+
B/Florida/4/2006 (Yamagata lineage)
029061
+
+
−
+
+
B/Brisbane/60/2008 (Victoria lineage)
020101
+
+
+
−
+
A/
H1N1pdm09
A/
H3N2
B/
Massachusetts
B/
Brisbane
Negative
control
Desired purification virus
ある.2003 年にアメリカ食品医薬品局(FDA)が認
材料と方法
可し,アメリカでは 10 年以上の使用実績があり,臨
ウイルス感染価定量用の培養細胞:Madin-Darby
床試験でも一定の効果が確認されている.ただし,生
canine kidney(MDCK)細胞として 2 種類(大日本
ワクチンであるがゆえに使用法にいくつかの制限があ
製薬より購入した MDCK 細胞ならびに国立感染症研
る.すなわち,接種対象者の 2 歳から 49 歳までの健
究所板村繁之博士より供与された米国 P. Palese 研究
常者への限定,さらには重症化リスクの高い免疫不全
室由来の MDCK 細胞)を用いた.
者及びそのような患者と接触する可能性のある者や妊
ワ ク チ ン:輸 入 代 行 業 者(Monzen,東 京)か ら
婦,5 歳未満の喘息患者,長期アスピリン内服者,重
2013∼14 年シーズンの Flumist(Lot
度の卵白アレルギー患者への投与禁忌等の投与制限が
2174)
及び,2014∼15 年シーズンの Flumist(Lot Num-
ある.また,コールドチェーンの維持も重要であり 2∼
ber:CK2009)を購入し,本研究に使用した.本ワク
8℃ 保存が必須であり,有効使用期限も 18 週と短い6).
チ ン に 含 ま れ る ウ イ ル ス は A!
California!
7!
2009
この Flumist は日本ではいまだ承認されてはいない.
(H1N1)pdm,A!
Texas!
50!
2012(H3N2)
,B!
Massa-
Number:BH
だが現実的には,代理店により輸入されたものが,一
chusetts!
2!
2012(山 形 系 統)
,B!
Brisbane!
60!
2008
部の医療機関で医師の裁量のもと使用されているのが
(ヴィクトリア系統)の 4 種であった.どちらも製造
実状である.一般的に,生ワクチンについては,含ま
後 7 週前後で当ウイルスセンターに到着し,当セン
れる活性ウイルスの量の担保は重要である.本邦の流
ター到着後は,一部は直後に−80℃ に保存し,残り
通段階での生ワクチンの感染価については,麻疹ワク
は定量実験に使用する直前まで 4℃ の冷蔵庫にて保管
7)
8)
チンや水痘ワクチンでの報告例はある が,インフル
した.Flumist のシリンジに含まれるウイルス液は,
エ ン ザ ワ ク チ ン に 関 し て 試 み ら れ た 報 告 は な い.
実験直前に霧状にならないように静かに試験管内に滴
Flumist は低温馴化した 4 種のインフルエンザウイル
下させ回収した.
6.5
7.5
スを,1 製品 0.2mL 中にそれぞれ 10 ∼10 FFU(fluo-
抗体:ウイルスの中和に用いた抗体は Table 1に示
rescent focus units)含んでいるとされている6).我々
す 4 種のインフルエンザウイルス HI 試薬「生研」(デ
は以前本邦で,このような特殊な流通を経て使用され
ンカ生研,日本)(HA 抗原に対するニワトリ抗血清)
ているこの生ワクチンの感染価を調べる目的で
で あ る.こ れ ら は Receptor
Destroying
Enzyme
2013∼14 年シーズンの Flumist を入手し,その感染
(RDE)(デンカ生研,日本)による非特異的インヒ
価についてプラークアッセイを用いて解析した.その
ビターの除去ののち,50% ニワトリ血球浮遊液と反
結果,ワクチンに含まれる活性ウイルスの量が,添付
応させ赤血球自然凝集素を除去する前処理を施した
文書に記載されている量の 1!
10∼1!
1,000 程という低
後,実験に使用した.使用した抗血清は添付文書によ
9)
いものであった .だが,用いた感染価の測定法が,製
ると,対応する型に対してそれぞれ 80∼160 倍の HI
造者側はフォーカスアッセイであり,測定法が違って
抗体価を示すとされている.なお,使用した抗血清は
いたことがその低感染価の原因であることも考えられ
HI 試験を行い,1 つの抗血清が他の 3 種類のそれぞ
たため,更に慎重な検討を行う必要があった.そこで
れのウイルスと交差反応しないことは確認済みであ
本研究で 2014∼15 年シーズンのワクチンも同様に入
る.
手し,更に凍結保存していた前シーズンのワクチンも
ウイルスの純化:Flumist に含まれる 4 種のウイル
あわせてフォーカスアッセイで感染価を測定し,さら
スの各ウイルスについての感染価を測定するために,
にデジタル PCR を用いてウイルスゲノムのコピー数
Table 1の組み合わせの 3 種のウイルスに対する抗血
の絶対量を測定し,その結果,いくつか注意すべき点
清と反応させた.これにより 3 種のウイルスを中和さ
を見出したので報告する.
せ,残りのウイルスを目的のウイルスとして獲得し(純
化)定量した.中和反応は,各抗血清 50μL ずつの混
平成27年11月20日
722
佐藤
光 他
Table 2 Pprimers and probes for Digital PCR analysis
Target
Name
Sequence (5 -3 )
NIID-swH1 TMPrimer-F1
H1pdm09 HA
H3 HA
Type B/Yamagata HA
Type B/Victoria HA
AGAAAAGAATGTAACAGTAACACACTCTGT
NIID-swH1 TMPrimer-R1
TGTTTCCACAATGTARGACCAT
NIID-swH1 Probe2
(FAM) CAGCCAGCAATRTTRCATTTACC (MGB)
NIID-H3 TMPrimer-F1
NIID-H3 TMPrimer-R1
CTATTGGACAATAGTAAAACCGGGRGA
GTCATTGGGRATGCTTCCATTTGG
NIID-H3 Probel
(FAM) AAGTAACCCCKAGGAGCAATTAG (MGB)
Type B HA F3yam v2
Type B HA R3yam v2
CCTGTTACATCCGGGTGCTTYCCTATAATG
GTTGATAACCTKATMTTTTCATATCCTCTG
FAM-Type B HA Yamagata
(FAM) TCAGGCAACTASCCAATC (MGB)
Type B HA F3vic v2
Type B HA R3vic v2
CCTGTIACATCTGGGTGCTTTCCTATAATG
GTTGATARCCTGATATGTTCGTATCCTCKG
FAM-Type B HA Victoria
(FAM) TTAGACAGCTGCCTAACC (MGB)
合液と,-PBS で 100 倍希釈した Flumist 液を室温で
た10).デジタル PCR 解析には,PCR 反応試薬として
30∼60 分反応させることにより行った.
TaqMan Gene Expression Master Mix(Life Tech-
プラークアッセイ並びにフォーカスアッセイによる
nologies,USA)並びに 20X GE Sample Loading Re-
ウイルス定量:ウイルス液を MEM で希釈し,単層
agent(Fluidigm,USA)を,デ ジ タ ル PCR 解 析 用
培養した MDCK 細胞に接種し,33℃ の 5% CO2 イン
の集積流体回路として qdPCR 37K IFC(Fluidigm,
キュベータ―で 1 時間反応させた後,5μg!
mL のトリ
USA)を,PCR 反応・解析機器として Biomark
HD
プシンと 0.8% アガロースを含む MEM を細胞表面に
(Fluidigm,USA)を使用した.PCR 反応・解析手順
重層し,33℃ の 5% CO2 インキュベータ―で 4 日間培
は qdPCR 37K IFC 及び Biomark HD の手順書に従っ
養したものについて,それぞれの染色を実施した.
た.
プラークアッセイでは,培養後重層させた寒天層を
取り除き,そのまま細胞層を 0.1% クリスタルバイオ
レット,20% メタノール液で染色し,染色されない
穴 の 数 を プ ラ ー ク 数 と し て カ ウ ン ト し た(plaque
成
績
1.本研究におけるウイルス定量におけるプラーク
アッセイとフォーカスアッセイの感度比較
我々の先行研究でのプラークアッセイで,Flumist
の成分ウイルスがきわめて低い感染価を示した結果9)
forming unit:PFU)
.
一方フォーカスアッセイでは,培養後重層させた寒
についての妥当性の有無を調べる目的で,到着時に
天層を取り除いた後,細胞層を 4% パラホルムアルデ
−80℃ で 凍 結 保 存 し て お い た 2013∼2014 年 の
ヒドで 10 分間室温で固定した後,酵素免疫法により
Flumist を使用し,プラークアッセイとフォーカス
感染細胞を染色した.固定した細胞層に 5% スキムミ
アッセイの二つの方法で各成分ウイルスの感染価を調
ルク!
-PBS で希釈したウサギ抗インフルエンザ A 血
べてみた.なお,1 回の凍結保存融解で同ワクチン中
清もしくはマウス抗インフルエンザ B 血清を加え
のウイルスの感染価が低下しないことは,同じく到着
37℃ で 1 時間反応させた後,5% スキムミルク!
-PBS
時に凍結させた 2014∼15 年シーズンの Flumist を用
で希釈したペルオキシダーゼ標識抗ウサギ IgG 抗体
いた予備実験で確認済みである(data not shown).
もしくはペルオキシダーゼ標識抗マウス IgG 抗体を
結果,ほとんどの株でフォーカスアッセイがプラーク
加え 37℃ で 1 時間反応させ,その後 Vector VIP Per-
アッセイよりも高い感染価を示し,信頼性が高いこと
oxidase Substrate Kit(Vector Laboratories,USA)
がわかった(Fig. 1A)
.また,これらの感染価は,由
で染色し,染まった細胞群のフォーカスをカウントし
来の異なる 2 種の MDCK 細胞を用いた実験の間で,
た(focus forming unit:FFU)
.
どのウイルス株に対しても,その差は最小で 1.3 倍,
デジタル PCR:ウイルス液からの RNA の抽出及び
cDNA の合成は,QIAamp
Viral
RNA
Mini
Kit
最大で 2.5 倍であった.
こ の よ う な 感 染 価 の 違 い が 生 じ た 理 由 と し て,
(Qiagen,オランダ)
,High Capacity cDNA Reverse
Flumist に 含 ま れ る ウ イ ル ス の MDCK 細 胞 で の プ
Transcription Kits(Applied Biosystems,USA)を
ラーク形成能が低い可能性が考えられた.そこで,
用いて,それぞれのメーカーの手順書に従って行った.
フォーカスアッセイを行った MDCK 細胞を顕微鏡下
Flumist に含まれる 4 種類のウイルスを区別するため
で観察したところ,免疫染色でフォーカスを形成して
に,Table 2に示したプライマーとプローブを用 い
いても,細胞群の大きな脱落がないために肉眼的にプ
感染症学雑誌 第89巻 第 6 号
本邦での流通段階における Flumist の感染価
723
Fig. 1 A) The titers of the viral components in the 2013-2014 Flumist determined using the plaque assay and
focus assay. The range of titers described in a package insert was shown with the gray belt. B) Microscopic
views of the focus assay. A focus that did not form a plaque (left panel) and a focus that formed a plaque (right
panel). C) The proportion of foci that did not show the loss of cells at the center of foci. Each column represents the mean±SD of three wells.
ラークとして認識されない箇所があることがわかった
べ 1!
10 程度の(Fig. 2)低い感染価であった.B!
Mas-
(Fig. 1B)
.それらの頻度を調べたところ,A 型イン
sachusetts は添付文書の記載範囲の感染価があった一
フルエンザウイルス 2 株,B 型インフルエンザウイル
方,B!
Brisbane は添付文書記載の下限値の 1!
2 程度
ス 2 株でそれぞれ約 60%,20∼40% 程度あり(Fig.
であった(Fig. 2)
.
1C)
,これが二つの定量法の間のウイルス検出におけ
る感度の差につながっていることが示唆された.よっ
3.デジタル PCR を用いたウイルス量の比較
2 シーズンのワクチンに含まれていたウイルスは,
て,これ以後の解析には,感度の高いフォーカスアッ
特に A 型インフルエンザウイルス 2 株についての,当
セイの方を用いることにした.
センター到着直後の低力価については可能性として,
2.2013∼14 年と 2014∼15 年シーズンのワクチン
の感染価の検討
製造からこちらでの測定までの間の約 7 週間のどこか
でウイルスの失活があったか,あるいは製造段階でも
到着直後に凍結保存しておいた 2013∼14 年シーズ
ともと含有されていたウイルスが少なかったかの 2 つ
ンの Flumist について,フォーカスアッセイにより,
が考えられた.そこで後者の可能性を調べる目的で,
定量をやり直した.その結果,A 型インフルエンザ
デジタル PCR を用いてウイルス遺伝子の定量を行っ
ウイルス 2 株ともに,添付文書に記載のある感染価下
た.これは各プライマーとウイルス遺伝子の相性によ
限値の 1!
30 程度であった.一方,B 型については,2
るプライマー内の増幅効率の違いなどの影響を受けず
株ともに記載の感染価のかろうじて下限値あるいはそ
にウイルスの絶対量を測定できる定量法である.その
れより 1!
2 程度低い値であった.(Fig. 1)
.先に述べ
結果,両シーズンとも遺伝子量からみたウイルス量は
たように凍結融解によるウイルス価の低下は考慮しな
すべてのウイルス株で 108.5∼109.5 の範囲で大差のな
くてよいことを前提に考えれば,当研究室へ到着した
かったものの,FFU の結果と類似して B 型インフル
時点ですでに感染価が低下していた可能性が考えられ
エンザウイルス 2 株に比べ A 型インフルエンザウイ
た.そこで 2014∼15 年シーズンの Flumist について
ルス 2 株のコピー数が 1!
10 程度であった(Fig. 3)
.
もフォーカスアッセイで測定してみたところ,A 型
4.ワクチンの保存時間と感染価の関係
イ ン フ ル エ ン ザ ウ イ ル ス 2 株 は,と も に 105.5∼106.0
保存による経時的な感染価の低下の有無を検討する
FFU と添付文書に記載されている感染価下限値と比
目的で,到着から 4℃ 保存を続けていた 2014∼15 年
平成27年11月20日
724
佐藤
光 他
Fig. 2 The FFU titers of the viral components in the 2013-14 and 2014-15 Flumist
on arrival
The range of titers described in a package insert was shown with the gray belt.
Each column represents the mean±SD of three wells.
Fig. 3 The genome copy numbers of the viral components in the 2013-14 and
2014-15 Flumist analyzed with digital PCR
Each column represents the mean±SD of two wells
考
シーズンの Flumist の感染価を適宜フォーカスアッセ
察
イで経時的に測定した(Fig. 4)
.その結果,A 型イ
今回我々は,本邦では未承認ではあるものの医師の
ンフルエンザウイルス 2 株はともに測定開始時から使
裁量のもとでの投与を目的に流通しているインフルエ
5.5
6.5
用期限直前まで 10 ∼10 と低いまま経時的な低下は
ンザ生ワクチン Flumist に含まれるウイルスの感染価
認められなかった.一方 B!
Massachusetts は測定開
の検討を行った.添付文書には 1 シリンジ 0.2mL 中
始時には添付文書の記載範囲内の感染価があったもの
に 4 種のウイルス株がそれぞれ 106.5∼107.5FFU 含まれ
の徐々に低下し,使用期限直前には記載範囲際下限ま
ているとの記載があるが,どの細胞に対する感染価で
で低下した.B!
Brisbane は測定開始時から添付文書
あるのか記載はなく,われわれは一般的にインフルエ
に記載されている感染価よりも 1!
2 程度低く,さらに
ンザウイルスの定量に最も使用されている MDCK 細
1!
10 程度までの低下があった.また,2013∼14 年シー
胞を用いた.
ズンの Flumist を製造から 4℃ で 1 年以上保存してい
5.0
我々自身による先行研究で 2013∼14 年シーズンの
6.5
ワクチンをプラークアッセイで測定した結果,きわめ
あったものが,4 株すべてが検出限界以下であった
て低力価のウイルスしか検出できず9)その時点で問題
たものの感染価を測定した結果,到着時点で 10 ∼10
.
(<104FFU)
視したが,今回フォーカスアッセイを試みた結果,プ
感染症学雑誌 第89巻 第 6 号
本邦での流通段階における Flumist の感染価
725
Fig. 4 The FFU titers of the viral components in the 2014-15 Flumist kepy at 4 C
over time. X-axis shows weeks from the manufactured date of Flumist
The range of titers described in a package insert was shown with the gray belt.
Each column represents the mean±SD of three wells.
ラークアッセイよりも高い感染価が検出され,ワクチ
ことから(Fig. 2)
,低めに出た感染価は 2 シーズン
ンに含まれるウイルスの MDCK 細胞に対するプラー
連続した出来事であったと考えられる.今回我々が入
ク形成能が低かったことがわかった(Fig. 1)
.ワク
手できた 2 つのワクチンの各成分ウイルスで,感染価
チンに使われているウイルスは,すべて内部遺伝子が
が添付文書記載の下限より 100.5∼101 程低めであった.
低温馴化したものであるため感染実験は 33℃ で実施
中でも A 型インフルエンザウイルス 2 株は B 型イン
しているものの,それらには多くの変異が導入されて
フルエンザウイルス 2 株に比べ 1!
10 程度の感染価で
6)
いるため ,プラーク形成能の低いウイルスとなって
あったため(Fig. 2)
,デジタル PCR によるウイルス
いる可能性が考えられた.よって,生ワクチンの感染
遺伝子を対象に定量してみたが,その結果も同様に
価の評価はフォーカスアッセイで行うことが望ましい
A 型インフルエンザウイルス 2 株の量が B 型インフ
ものと思われる.たが,このフォーカスアッセイでも
ル エ ン ザ ウ イ ル ス 2 株 の 1!
10 程 度 で あ っ た(Fig.
結果は,プラークアッセイよりも高い感染価となった
3)
.このことから,ワクチン製造時にはすでに絶対量
とはいえ,たとえば A 型インフルエンザウイルス 2
的に A 型インフルエンザウイルス 2 株は B 型インフ
株は,添付文書記載の感染価より 1!
10 から 1!
30 程度
ルエンザウイルス 2 株よりも 1!
10 程度しか含まれて
であり,B 型インフルエンザウイルス 2 株も,ひとつ
いなかった可能性がある.
は最初から添付文書記載の感染価下限より 1!
2 程度低
含有される活性ウイルスは,当然予定された量が確
く,もう一方は経時的に感染価が低下し添付文書記載
保されているべきである.だが,一方で量の少なさや
の下限付近であった(Fig. 4)
.全体的に到着時から
保存中の低下の理由が何であれ,大事なのは,そうし
感染価は低かったものの,すべてのウイルス株が有効
た感染価で生ワクチンとしての能力が担保されるか否
使用期限までに劇的な感染価の低下はなかった.これ
かであろう.米国予防接種諮問委員会(ACIP)は,効
はワクチンに安定剤として加水分解ブタゼラチンが含
果のモニタリングまでやっており,その結果,2014∼
まれていたためかもしれない.これらの成績は由来の
15 年シーズンの Flumist が 2∼8 歳の接種者で H1N1
異なる 2 種の MDCK 細胞で大きな違いはみられな
pdm09 に対する効果がなかったために 2015∼16 年
かったことから,おそらく用いた細胞が特別だったわ
シーズンの接種勧告を控えている11).効果のモニタリ
けではなく一般化されて良いものと思われる.
ングは容易ではない一方で,感染価のモニタリングは,
また,2013∼14 年および 2014∼15 年シーズンの 2
比較的容易で本邦でも実施可能であろう.今後もし本
つのロットが到着直後の感染価の測定で差がなかった
邦でも認可されるような場合には,最低限,現場で用
平成27年11月20日
726
佐藤
いられる前の流通のどこかの段階でモニタリングし必
要な感染価を保障する,公的な監視体制が望まれる.
だが,それを生かすためには,そのまえにワクチンに
含まれるウイルス感染価が最低限どの程度あれば生ワ
クチンとしての効果が期待できるのかについてのスタ
ディが望まれるところである.
利益相反自己申告:申告すべきものなし
文
献
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光 他
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Available from:http:!
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www.aafp.org!
news!
hea
lth-of-the-public!
20150304acip-laiv.html
Infectivity Titers of Each Component of the Influenza Virus in the Live Vaccine Purchased
from a Parallel Import Distributing System
Ko SATO1)2), Yuki KIKUCHI1), Yoshifumi MASAGO3), Suguru OHMIYA1),
Hiroko ITO1), Tatsuo OMURA3) & Hidekazu NISHIMURA1)
1)
Virus Research Center, Clinical Research Division, Sendai Medical Center,
Department of Medical Microbiology, Mycology and Immunology, Tohoku University Graduate School of Medicine,
3)
New Industry Creation Hatchery Center, Tohoku University
2)
Currently in Japan, the only approved influenza vaccine is the inactivated vaccine which is injected subcutaneously. On the other hand, there is a live vaccine available elsewhere in the world. Flumist, an intranasal influenza live vaccine which contains four strains of infectious viruses, has been used in the United
States for more than 10 years;the vaccine has been found effective in clinical trials, while it has some limitations such as those on subjects for the administration, strict storage conditions, relatively short expiration
date etc. It is not yet approved in Japan, but available through personal import by some medical institutions,
and prescribed based on the decision of the doctor. However, in Japan, there is no checking system whether
the vaccine contains appropriate amounts of infectious viruses or not. In the present study, we purchased
2013―14 and 2014―15 years lots of Flumist from a parallel importer and measured the amount of infectious
viruses of each component of them using the focus assay. Consequently, for type A influenza viruses, the tit30 of the lower limit of those
ers of both of H1N1pdm09 and H3N2 viruses in the 2013―14 s lot were 1!
Massachushown in the package insert and 1!
10 in 2014―15 s lot, while those of type B viruses, both of B!
setts and B!
Brisbane viruses marginally cleared the lower limit. The digital PCR analysis showed that the
absolute genome copy numbers of type A viruses were 1!
10 of those of type B viruses. The relatively
higher titer of B!
Massachusetts also gradually decreased over time during its storage at 4̊C and finally
reached the lower limit at about one week before the expiration date. In case it is approved officially in the
future to be used in Japan, some studies will be required to elucidate the minimum viral titers of the components necessary for effective live vaccine. In addition, there should be a system to check the titer during the
distribution process in Japan.
感染症学雑誌 第89巻 第 6 号