GENIUS LOCI 序章~第一章では、著者は場所を現象学的に理解したうえで、その場所独自の本質、雰囲気を形 作ったものが、建築であるべきだとしている。 A 建築の 建築の現象学とは 現象学とは 建築を具体的な実存的用語において了解するような理論。 人間が生きている日常の生活・世界は、具体的な「現象」(人、動物、石、家屋、家具、など) からなっている。 諸々の現象のうちいくつかが、他の現象を含む事もある。 例:森林>樹木 都市>家屋>家具 「景観」とは、その様な包括的な現象である。 B 場所とは 場所とは 環境を規定する具体的用語。 生活が生起する空間(実存的空間) 具体的なもの(現象)からつくりあげられた、ひとつの全体的なもの。 ひとつひとつの現象が意味を持ってその場所をつくり、そこに独自の環境的性格を与える。(場 所の本質、雰囲気) 様々な文化の伝統や環境条件に応じて、日常の経験・行動は、非常に異なる仕方で生じ、また、 異なる特性を持つ場所を要求する。 C 建築とは 建築とは 人間に実存的足掛かりを与える方策。 「実存的足掛かり」とは「住まうこと」と同義語で、人間は、 環境の中にあって己れ自身を定位し、環境と己れ自身を同一化する事が出来るとき つまり 環境を有意味なものとして経験するとき はじめて、「住まう」のである。 建築家の務めは、GENIUS LOCI=場所の霊を目に見えるように視覚化し、有意味な場所を作り 出し、人間が「住まう」のを助けることである。 人工の場所とは、自然の場所について人間が理解するところの反映である。したがって、人工の場所 を研究するには、まず自然的基盤を取り上げ、自然環境との関係を研究の出発点とせねばならない。 D 自然を 自然を理解する 理解するカテゴリー するカテゴリー: カテゴリー: ①力 ②宇宙的秩序 ③性格 ④光 ⑤時間 ①力 建てることの第一の容態として、自然の諸力を具体化することがある。 ex.地中海建築に用いられている石材:山岳や岩塊に見出される堅牢性、永続性の象徴 エジプトのピラミッド:オアシスと砂漠との間に位置し、不毛な無辺のひろがりのあいだに肥沃な谷が 縦断するエジプトの空間的構造を視覚化している。 ②宇宙的秩序 自然を構造化された全体として理解しようとする欲求を満たすため、古代人たちは、様々な神殿の床や 壁や天井に、天上と地上について彼らが抱く普遍的なイメージを描き出した。 ex.ピラミッド:大地と天空を結びつけ、太陽を受け取る人工の山 北欧の住宅:単純な原型的住宅の構造を宇宙の球面へと投影 ③性格 自然の性格(雰囲気)は分節化によって具体化され、そのためには、象徴形式(様式)の言語が前提とさ れねばならない。 そのような言語の決定的段階は古代ギリシア人によって達成された。古代ギリシア人は自然の場所のさ まざまに異なる種類を正確に規定し、それらを基本的な人間の諸性格と関連付けた。そしてそれは象徴 的な建築物、すなわち神殿を建立することにより、現前性を与えられた。 ex.ドリス式円柱:男性的な人体のプロポーションとその美しさを兼ね備えている イオニア式円柱:女性的な繊細さ コリント式円柱:少女のほっそりした形姿 ④光 中世ヨーロッパ建築にはキリスト教の概念が大いに反映されている。 キリスト教世界は、実存的現実として生きられる精霊に基礎を置いていたので、古典建築の性格を擬人 的に分節する概念を否定した。そこで、神の顕現にほかならぬものとして”光”を用いて脱物質化を図っ た。 ex.パラティナ礼拝堂、アミアン大聖堂 光の建立:パラティナ礼拝堂 ⑤時間 時間は現象ではなく、現象の継起や変化の秩序であるが、人間は、基本的な時間構造を空間的特性 へと変換することによって、時間を「建てること」に成功してきた。 「生命」は「運動」である。「運動」は「方向」と「リズム」を持つ。したがって、「経路」は時間の次元を具体 化する基礎的な実存的象徴である。 また、経路が有意味な「目標」に達したとき、そこで運動が停止し、時間が永続性になる。したがって「目 標(中心)」も時間の次元を具体化する基礎的な実存的象徴である。 ex.ウイーン ベルヴェデーレ宮殿 ローマ サンタサビーナ教会堂 通路と目標:ベルヴェデーレ宮殿 人工の場所は、人間が己の環境を了解するところを、視覚化し、補い、象徴する。そのうえにそれはま た、数多くの意味を集め来らすこともできる。 真の定住地は、集め来らすことのうえに基礎を置いてい る。 農村、集落(土着のもの):土地に直結しており、その構造は環境によって決定される 都市住宅、都市:全体として自然環境への直接的な関係は弱く、まったく別の場所の局所性に根ざして いる別々の諸形態を、一まとめに取り込んで集合している。 →多種多様の意味を含む、世界の包括的中心 建てることをとおして、それぞれのゲニウス・ロキを有する人工の場所が創造される。このゲニウスは視 覚化され、相補され、象徴化され、あるいは集め来たらせるところのものによって決定される。 土着のもの:人工のゲニウス・ロキは自然のゲニウス・ロキと密着に一致されるべき。 都市のもの:ある町のゲニウス・ロキはもろもろのルーツを獲得するためその場所の霊気を含まねばなら ないが、またそれは一般的な関心の内容つまりルーツをほかのどこかに持ち、象徴化作用を手段として 移動されてきた内容をも集め来たらさねばならない(引用) 写真 パラティナ礼拝堂http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0926.html ベルヴェデーレ宮殿http://www.flickr.com/photos/fujisaki/962207/ E「住まう」 まう」事とは: とは: 「場所の性格」に準拠し空間的な定位作用を行いつつ、そこに集約される意味を環境の性格とし て体験し、そうして身体と精神の本来的な合一生においてひとつの雰囲気を体験する(同一化作 用)。このようにして人間は環境と友好的関係を取り結び、場所において庇護されかつその場所 を保全して、平和に住まう。 F 現代の 現代の場所〜 場所〜場所の 場所の喪失〜 喪失〜 今日の環境が示す性格には、調子の単一性が際立っており、何らかの多様性が見られるときでも、 それはたまたま過去から残された要素に由来する事が多い。新しい建築物の大多数の「現れ方」 は、非常に弱いものである。その蔓延した単一性を打破する事が試みられても、そのときはたい てい恣意的な思いつきの奇想が現れてくるのみである。性格が欠如しているとは、刺激を欠くこ とである。 こうした自体の兆候は、一般的には場所の喪失に現れる。喪失とは、自然のなかの場所としての 定住地の喪失であり、共通の生活の場所としての都市の商店の喪失であり、人が個別性と帰属性 とを同時に体験できるような有意味な副次的場所としての建築物の喪失である。 近代の環境が、人間の定位を困難にしている。また、人間のアイデンティティの確立は、一般的 には「特徴的な特質を持つ環境」で育つか否かに関わっていると言う事もできるので、環境危機 は人間の危機を意味する。
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