類義語の使い分け 中心義理解のプロセスと訳語選択に関する一考察

第十回フランス日本語教育シンポジウム 2008 年 於リール(フランス)
10ème Colloque sur l’enseignement du japonais en France, Lille (France), 2008
研究発表:類義語の使い分け
中心義理解のプロセスと訳語選択に関する一考察
- 「きっと」 ・ 「かならず」 を例に -
牛山和子 (USHIYAMA Kazuko)
グルノーブル第三・スタンダール大学
はじめに
外国語学習における単語の意味理解は、多くの場合、辞書などの訳語に頼ることが多
い。日本語を学ぶ学習者 (ここでは主としてフランス語を母語とする学習者)も例外では
ないようだ。最近は電子辞書を使用する学生が増え、手軽に、そして短時間に単語の意味
を知ることができるようになり、学習を助けている。しかし、辞書が示す訳語・例文が学
習者が表出しようとする、あるいは理解しようとする文や発話に合致しない場合もある。
辞書で調べた単語を用いて書いた学生の作文に、不適切な語彙・表現の使用が少なからず
見られるのは多くの教師が経験上知るところであろう。このようなことは、二つ、あるい
は複数の類義語の中でどれを選択するか、辞書では同じ又は同じような訳語を持ちながら、
なぜある文・発話の中で A は使えて B は使えないのか(あるいは不自然なのか)という問い
に答える際にも問題となってくる。
本研究は、日頃から類義語の使い分けに関心を持つ LEA1年生の学生の質問が契機とな
り始められたものである。本稿では、話者の心的態度を反映すると言われる陳述副詞の中
から「きっと」と「かならず」を取り上げ、類義語の使い分けを学習者に提示する際に必要な
「中心義」選定のプロセスについて考察していく。
1. 類義語の定義
本稿での考察・分析に関連する研究分野としては、語彙意味論、語用論、位相論1など
があげられるが、ここではまず、研究対象である類義語について日、仏、英それぞれの定
義を確認しておきたい。一般に学習辞典として使用されている辞書を調べてみると、類義
語の定義は以下のように示されている。(定義内下線は筆者)
(…)「美しい」と「きれい」、「分類」と「類別」のように、普通の場合はほぼ同じ意味と思っ
て使っている言葉。類語。《『新明解国語辞典』(2003 : 1481) 》
Se dit de mots ou d’expressions qui ont un sens identique ou très voisin.
« Marjolaine » et « origan », « jaunisse » et « ictère » sont synonymes.《Le Robert
Micro Poche Dictionnaire de la langue française (1993 : 1238) 》
a word or phrase that has the same meaning as another word or phrase in the same
language: ‘Big’ and ‘large’ are synonyms. 《 Oxford Wordpower (2006 : 725) 》
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ここで見られるように、類義語の定義は辞書により若干異なっている。また、試みに最近
インターネットで広く利用されるようになった wikipedia の日、仏、英それぞれのサイ
トを検索してみると、フランス語サイトの定義では synonymes は「同義語」を意味し、英
語サイトでは synonyms は「同義、または類義の語」となっている。日本語サイトの定義は、
類義語を意味が似ている語 (quasi-synonym)とし、広義においては同義語も含む、という
定義を提示している。本稿では、類義語の定義を狭義及び広義の両面から捉えていく。
2. 類義語のカテゴリー
類義語の中には、類義関係2の持つ様々な性質から、その使い分けを説明できるものが
かなりあると思われる。ここでは、そうした類義語のカテゴリーとして (1) 丁寧さのレベ
ル (Niveau de langue、敬語など) による区別、(2) 時代やテキスト・談話ジャンルによ
る区別、(3) 語や表現が持つニュアンスによる区別、(4) 位相による区別の4つを挙げる。
第一のカテゴリー (丁寧さのレベル)では、
「食べる」・「召し上がる」、
第二のカテゴリー (時
代、テキスト・談話ジャンルによる区別)では、古語 vs 現代語(「そなた」・「あなた」)
、和
語 vs 漢語・外来語 (「てがみ」・「書簡」・「レター」)、書き言葉と話し言葉 (「しかし」・「で
も」)、一般的な口語表現 vs 俗語的表現 (「麻薬」・「ヤク」) など様々な対立・対照関係が見
られる。また、第三の、語や表現が持つニュアンスによる区別の例としては「小さな出来事」
vs「些細な出来事」、第四のカテゴリーである位相による区別 (地域3、年齢、階層、性別、
職業などによる違い) の例としては「酒」vs「お酒」、「耳下腺炎」vs「おたふく風邪」などが挙
げられる。一方で、以上のような類義関係ではその使用域の違いを説明できない類義語も
あり、使い分けの説明に分析を要する。本稿での研究対象語である「きっと」と「かならず」
もこうした分析を必要とするタイプの類義語と言えよう。
3. 研究目的・研究課題
「きっと」・「かならず」を例に、本稿では以下の三点を類義語研究の目的・課題として
設定する。
1/ 比較する類義語それぞれの“中心義”と“共通義”を割り出す分析表の提案
2/ 日仏対照の観点からの類義語理解・訳語選定に関する考察
3/ 中心義を明確にする例文・用例についての考察
中心義とは、他の類義語との区別を可能にする、その語独自の、または特徴的な意味・用
法を指し、共通義とは文字通り類義語間で共有される意味・用法を指す。研究課題の第二
点目及び第三点目は、それぞれの類義語に相当する訳語の選定についての考察である。和
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仏辞典 (電子辞書も含む) や仏和辞典などにある訳語は、確かにある語の意味理解を助け
る。しかし、辞書の訳語だけでは他の類義語との使い分けがはっきりわからない場合もあ
る4。そういったとき、一語対応の訳だけで なく、中心義の意味・用法がはっきり見え
る、より詳しい訳語・訳文を学習の場で与えることが大切ではないかと考える。
4. データ・資料
今回、分析資料としたのは、1/ 和仏辞典の訳語および例文、2/ インターネット上の
用例、3/ 青空文庫収録の小説 (5編)から収集した 「きっと」と「かならず」の使用例、計
260 例である。和仏辞典は、Nouveau Petit Royal Dictionnaire Japonais – Français
(2003)、インターネット上の用例は 2008 年 2 月から 4 月にかけて収集したもの、小説は、
夏目漱石『こころ』(1914)、宮沢賢治『注文の多い料理店』(1924)及び『銀河鉄道の夜』
(1934)、堀辰雄『風立ちぬ』(1936)、太宰治『走れメロス』(1940)を資料とした。資料の
内訳は以下の通りである。
和仏辞典
小説
インターネット
7
36
82
8
18
80
「きっと」を含む例
「かならず」を含む例
5
「きっと」+「かならず」
0
0
29
データ数小計
15
54
191
データ総数 260
表 1 分析資料
観察データを辞書に限定しなかった理由は、辞書の例文だけでは、たとえ複数の辞書を観
察したとしても、例文数が限られ、プロトタイプ的な似通った例文しか集められないので
はと考えた為である。この点、インターネットから得たデータは、実際の使用に基づく多
様な用例収集を可能にしてくれた。更に 1910 年代から 1940 年代のやや時代をさかのぼる
小説を取り上げたのは、引用の際の著作権の問題を考慮したこと、また、本研究では副次
的な要素であるが、時代や作家によって「きっと」や「かならず」の用法が異なるかについて
も知り得る資料として選んだ6。
5. 分析方法
以下に、一般に用いられる二つの類義語分析法と本稿において提案する代入表を用い
た分析法について紹介する。
5.1 内省法と計量法
類義語の使い分けを調べる際は、通常「内省」による方法 (内省法)と「統計」に基づく方
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法 (計量法) の二つがある(野田 2000:69)。前者は、一つ一つの例文について類義語と
の入れ換えが可能かどうかを観察する方法、後者は多くのデータをもとに、類義語の使わ
れる言語環境や、ある語が用いられるコミュニケーション場面7などを調べるもので、大
規模なコーパスをもとに類義語それぞれの意味・用法を調べていく方法である。
5.2 分析表による類義語分析
内省法も計量法も類義語の使い分けを調べる有効な手段である。しかし、内省法の場
合、特に自分が作った例文 (作例)を分析する場合には、最終的に自分自身の言語使用域
が判断の基準となり、分析の客観性8や用法の広がりを知るなどの点で問題があると思わ
れる(土屋 2000:6-7)。また、計量法は、大量コーパスの利用・分析システムが整ってい
る場合は、各類義語の用法・使用域を漏れなく知ることもできようが、日々の授業の中で
類義語を分析する教師としては、常に大量コーパスに当たる時間は取れないのではないだ
ろうか。現場の教師にとってより確実で効率的な方法は、定評のある類義語辞典 (大野・
浜西 (1985), 秋本・秋元・秋元 (2004) など) や表現辞典 (砂川 (代表) [1998] 2003 な
ど) にあたり、そこから学生が理解できる例文を探したり、示された用法をもとに例文を
作ることだろう。しかし、教師としての自己研鑽や研究という視点に立ったとき、類義語
の中心義と共通義を探す別の方法はないだろうかと考えた。それが今回試案として作成し
た「代入による類義語分析表」(以下 「類義語分析表」 と略す)である。
5.3 「類義語分析表」作成と中心義選定のプロセス
「類義語分析表」9(次頁参照)は、以下の手順で作成した。まず、文の主要構成要素と
して、文を大きく「主題部分」と「コメント部分」に分けた。主題部分には「主題カテゴリー」
と「主題例」を設定した。主題カテゴリーには、第一に「人」を選び、これを更に以下の3つ
に下位分類した。1/ 表現主体としての「私」、2/ その対話者・読み手である「~さん」、3/
第三者としての「人」である。また主題カテゴリーの最後に自然現象・絶対真理などの一般
的事実や事象を取り上げたのは、話者・書き手の意思や感情ではコントロールできない客
観の世界と分析する語との共起関係について調べる為である。分析対象語 (ここでは 「き
っと」と「かならず」) は、便宜上、主題部分の後に配置した。コメント部分は ①「品詞カ
テゴリー」、②「文のカテゴリー」(「命題のモダリティ」とも呼ばれる)、③「時制」、そして、
話者・書き手の様々な発話態度を表す言語指標に属する ④ 「助動詞」(推量、意志、希望、
可能 etc.) と ⑤「補助動詞」 (依頼、援助 etc.) を設定し10、①~⑤の計 5 項目の代
入分析が行えるようにした。また、この作業と同時進行で、例文・用例を収集し (表1
参照)、その観察を通して分析表の項目を見直すという作業を数回にわたって行った。
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コメント
主題部分
主題カテ
品詞カテゴリー
文のカ
主題例
分析語
~は
き
か
Nom
Adj.
Verbe
肯定
っ
な
名詞
形容詞
動詞
(断定)
と
ら
学生
明るい
英語を
真面目
話す
軽い
皆が買う
ゴリー
ず
人:
私
話者
山田さん
対話者/
あの人
第三者
代名詞
物
この鞄
布製
便利だ
行事
お正月
休み
楽しい
歌を歌う
華やか
抽象名刺
場所
愛
パリ
真実
美しい
国境を
発展的
越える
フランス
高い
皆が
の
綺麗
訪れる
忙しい
映画に
賑やか
行く
高地
標高に
より
より
高い
変わる
200 度より
学校で
小さい
習う
首都
時
自然現象
あした
平地での
晴天
100 C
水の沸点
絶対真理
三角形の
事実・
内角の和
180 度
現実
表 2 中心義理解の為の類義語分析表 -陳述副詞の場合-(試案)
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部分
テゴリー
時制
助動詞(抜粋)
補助動詞→
(依頼など)
否定
疑問
過去
推量
意志
希望
可能
伝聞
命令
/…/
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→
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6. 「きっと」、「かならず」の中心義
類義語分析表の作成及び例文・用例観察の作業を通して見えてきた 「きっと」と「かな
らず」の中心義のフランス語訳及び基本的な使用域を以下に示す。
■ きっと
■ かならず
Selon moi, il est sûr que…/ il est
Cela
se
réalise,
réalisera
certain que…
immanquablement
(fait affirmé par le locuteur )
(fait affirmé par le locuteur ou fait
affirmé par la réalité)
話し手の判断・意志・希望・決意などを述
話し手の判断・意志・希望・決意などを述
べる
べるが、
事実に関わる判断にも使える
事実に関する判断には使えない
○ あの人はきっとドイツ人だ。
* あの人はかならずドイツ人だ。
表 3 「きっと」・「かならず」の中心義とフランス語訳の提案
両語とも、文内のモダリティに関わるという点で、本質的に主観性を内包しているが(益
岡 2007:2) 「かならず」は話し手の主観の及ばない客観領域、絶対真理・事実との共起が
可能である。これに対して「きっと」は主観性の度合いが高く、客観的事態との共起は難し
いと思われる。それぞれの中心義のフランス語訳11は、この点が明確になるよう配慮し
た。
7. 中心義検証 実例観察
ここでは、表 3 に示した「きっと」と「かならず」の中心義の使用域検証を兼ね、分析資
料の中からいくつか実例を見ていく。検証は「内省法」 (4.1 参照) によって行う。
7.1 「かならず」の用法上の制約
以下の例文は「きっと」の実例である
(資料:和仏辞典)。点線の部分には、「きっと」は当
てはまるが、「かならず」は不適当である。
例文 1 彼は…………長い間病気だったに違いない
例文 2 彼は…………気が変わったのだろう
これらの例でもわかるように、「かならず」は、事実にかかわる判断や推量、又は相手の心
情や行動など“相手領域”に関わる事態とは共起しないことがわかる12。もう少し例を
挙げる (資料:インターネット)。
例文 3 …………それはこれからも変わらないでしょう
例文 4 …………今の自分はこんな顔.生活のリズム治さなきゃ…
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例文 5 これでダメなら…………ダメ
例文 6 一緒に幸せを感じたら…………それでいい
例文 7 君の前世は…………デンデン虫だよ
これらの例文も「きっと」の実例であるが、「かならず」への置き換えは不適当と思われる。
例文 3~6 までは、未確定のこと、事実であるかわからないことに対する 話者・書き手の
確信、ここでは特に自分自身に言い聞かせるような“自己(内)確認”のような用法である。
例文7は、先の例文 1、2 と同じく、事実に関わること、相手領域内の事態という点で「か
ならず」の使用が不適当・不自然であると理解される。
7.2 「きっと」の用法上の制約
次に「きっと」の用法上の制約を確認する為、「かならず」が使用された実例をいくつか挙
げる (資料:インターネット)。6.1 と同様に、検証は内省法により行う。
例文 8
本文には…………ページ番号をふること
例文 9
暗証番号は…………確認しましょう
例文 10
申し込んだブログネタには…………参加するべきですか?
例文 11
生後 91 日以上の犬は、…………登録と年 1 回の狂犬病予防注射をしなけれ
ばなりません
例文 12
なんで公園には鯉や鴨が…………いるのか
点線の部分には、「かならず」は当てはまるが、「きっと」は不適当である。例文 8~11 を見
ると、「かならず」には、使用法や決まり、注意事項などを伝えるという用法があるのに対
して、「きっと」にはこうした用法がないことがわかる。例文 12 からは「かならず」が、一
般性・恒常性・規則性・反復性を描写できるのに対し、「きっと」は主観性が高く、そうし
た事態との共起が難しいことが理解される。総じて「きっと」の使用域は、話し手が判断し
たり断定したりできる事態に限られるが、「かならず」は社会や法律、自然原理など、客観
的事態とも共起すると言えよう。以上の点を踏まえ、「きっと」と「かならず」の共通義及び
中心義を以下のような図にまとめた。
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中心義
かならず
客観的・具体的
な事実に基づい
て事柄の反復性・
恒常性・規則性を
描写
きっと
主観的・直感的な
視点から自分で
話し手の確信や 判断・確定・決定・
強い意志・希望・ 決断し得る事柄の
描写
決意などを描写
共通義
相手に属する事実や 相手の心的領域に関する
推量・判断には使えない
自然原理や絶対真理
に関する推量・判断には
使えない
なにかの使用法など
についての“指示”には
使えない
構文上の制約 : 否定形とは 共起しない
図 1 「きっと」・「かならず」:共通義と中心義13
8. 結論にかえて
本稿では三つの研究課題を掲げた (3. 研究目的・研究課題 参照)。第一点目の「類義
語分析表」 (表 2 参照) に関しては、今後も検討を重ねていく必要がある。具体的には、
談話・コミュニケーション機能を重視し、モダリティについての考察を深め、代表的な言
語行為を表内に組み込んでいくことを考えている。実例観察の重要性は言うに及ばないが、
類義語分析表を用いることの利点もあるのではないかと思う。例えば、今回 260 の実例に
あたったが、その中には「きっと」の談話機能の一つである「願いを込めた依頼・懇願」の例
は見られなかった。類義語分析表に言語行為やコミュニケーション機能を観察する項目を
加えることで、こうした用法にも気づくことが出来るのではないかと思う。第二点目の課
題、類義語の中心義のフランス語訳については、訳語・訳文として選ぶフランス語自体の
ニュアンスや意味範囲について理解を深め、よりよい訳文選びに努めたい。第三の課題で
ある類義語の使い分けを明確に示す例文の選定に関しては「構文・用法・談話機能」の三点
を押さえた例文が望ましいと考えている。研究を進め、類義語の豊かな意味の広がりを学
習者に伝えていけたらと思う 14。
献辞 2008 年 4 月、AEJF 日本語教育シンポジウムでお目にかかり、近い将来、共同研究
をとお約束させていただいた故・六笠恵美子さんの御霊(みたま)にー
注
1
地域、年齢、階層、性別、職業などによる言語使用の違いなどを研究する分野。
2
類義関係については『大辞林』特別ページ 「言語の世界 1-2 類義語」により詳しい説明が
ある。本稿で挙げた類義関係の例もこのページを参照している。
3
本稿での分析対象語の一つである「きっと」は、長野県南部の伊那谷(いなだに)という
地域では、最後に「で」をつけ、「きっとで」の形で使われるとの報告がある。
(例. 明日はき
っとで いい天気でしょう)http://inadani.jp/c13/dt/001342.php (2008 年 3 月検索)
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4
参照した和仏辞書の訳語は以下のとおりである。「きっと① sûrement, certainement, à
coup sûr ②sans faute 」 ; 「 か な ら ず ① sûrement, certainement, nécessairement
②toujours」となっており、最初の二つの訳語は同じものが選ばれている。
5
「きっと」
と「かならず」を組み合わせ、主観的確信を“補強する”例がかなり観察された。
6
口頭発表の際は、時間の関係で小説から収集したコーパスに言及することはできなかった。
7
例えば、自然会話に表れる「から」と「ので」の比較観察において 「ので」 はかなり改まった
場面で、「から」はくつろいだ場面で多用されることが確認されている。
(野田 2000:70)
8
土屋(2000:6-7)によると、現代語の用例探しの第一人者、見坊豪紀(1914-1992)は、
徹底して作例による内省法を廃し、実例に当たって、その語の用法を確かめる方法を取っ
たという。
9
口頭発表の際、「資料 2」として配布したもの。紙面の関係で、表の最後の部分は簡略表記
と させていただいた。
10
この表は現在改良中であり、「助動詞」、「補助動詞」は、「コミュニケーションモダリティ」
として項目立てする予定である。
11
中心義のフランス語訳で使用した単語は、CNRS と Caen 大学のオンライン類義語辞典を
参考に選定した。
12
小説のコーパスから 「きっと」を「かならず」に置き換えられない例を二例挙げる。
例 (1) 「きっとお頼(たの)もうしておいた [就職] 口のことだよ」と母が推断してくれた」
(夏目漱石『こころ』より [ ]内は筆者) 例 (2)「うん、これはきっと注文があまり多く
て仕度(したく)が手間取るけれどもごめん下さいとこういうことだ」(宮沢賢治『注文の多
い料理店』より)
13
「かならず~ない」は通常使われないが、「かならずしも~ない」の形での使用はよく見ら
れる。
14
シンポジウム口頭発表の際、“中心義の特徴 (イメージ図)”と題して「きっと」・「かな
らず」の特徴をグラフ化して示し、
この方法に関心を持ってくださった方からご質問をいた
だいた。改良を加え、次の機会に、より明確なイメージ図をご紹介できればと思う。
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助動詞』荒竹出版株式会社
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明治書院
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仁田義雄(2000)「用例を利用する-文法研究の場合-」『日本語学』Vol.19 N°5, 56-65
明治書院
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野田尚史(2000)「用例の分類法・分析法」『日本語学』Vol.19 n°5, 66-75 明治書院
益岡隆志(2007)
『日本語モダリティ探究』くろしお出版
三吉礼子・吉木徹・米澤文彦(1999)『話し手の判断・意識を伝える 助動詞(初・中級)
』
専門教育出版
辞書・辞典など
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Comment employer les synonymes ? Quelques réflexions sur le processus
d’analyse du sens noyau et le choix de leur traduction
- le cas de « kitto » vs. « kanarazu » Kazuko USHIYAMA (Université Stendhal-Grenoble 3)
Etant arrivés à un certain niveau de l’apprentissage, il semble que les apprenants commencent à s’intéresser à l’emploi des synonymes. Cette étude a été suscitée par la question d’un étudiant en cursus LEA 1ère année : quelle différence y a-t-il
entre kitto et kanarazu ? Une question simple en apparence mais à laquelle il est
difficile de répondre concrètement. Cette étude a pour objet de rechercher une procédure
pour s’approcher du sens noyau de chaque mot synonyme. La méthode d’analyse est basée sur l’opération de substitution utilisée dans le domaine de la linguistique entre autres. A travers différents types de substitution dans la partie « topique » et dans la partie
« commentaire », l’observation et l’analyse portent sur la sphère d’emploi (l’emploi distinct) des termes étudiés et leurs caractéristiques en terme d’usage langagier. Les données principales de la présente étude se sont constituées (1) par la traduction du mot
d’entrée et par des phrases exemples indiquées dans des dictionnaires (dictionnaire japonais–français en particulier), (2) par l’emploi réel des locuteurs / scripteurs natifs de la langue japonaise (corpus via Internet) et (3) par des romans modernes ou
contemporains japonais. Dans le cadre de l’étude de l’emploi des synonymes, cet article veut souligner les trois points suivants : 1/ Présenter une matrice de l’analyse des synonymes, 2/ Analyser des synonymes dans l’optique contrastive franco-japonaise et 3/
Approfondir la réflexion pour trouver de bonnes phrases exemples permettant de faire
comprendre le sens noyau de chaque mot synonyme.