(アンペール高校) テレビ会議システムによる日本語の遠隔授業

第三回フランス日本語教育シンポジウム 2001 年フランス・リヨン
3ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Lyon France, 2001
テレビ会議システムによる日本語の遠隔授業
MARRET 山崎比彩乃
アンペール高校
自己紹介
1980年より日本語教育に携わっていますが、現在の勤務先であるリヨンの公立ア
ンペール高校〔Lycée Ampère〕では1989年から教鞭をとっています。週11時間
のアンペール高校での授業のほかに、95年からリヨンの南西 70kmの所にある人口
2万の町アノネの公立ボワシダングラ高校〔Lycée Boissy D’Anglas〕にテレビ会議
〔フランス語で VISIO-CONFERENCE〕で8時間半、アンペール高校の一室から日本
語の遠隔授業をしています。
ボワシダングラ高校〔以下 BDA 高校〕と日本語教育
アルデッシュ盆地の生徒が通学しています。多くは寄宿生で日本語を勉強するために
バランスやグルノーブルから来ている生徒もいます。日本語は Enseignement de
Détermination ではなく Option Facultative, 自由選択科目として教えられています。
99年11月14名の日本語学習者が奈良県立高取高校に3週間短期留学,2001
年3月には姉妹校提携を結び、14名の日本人生徒を受け入れました。今後隔年で生徒
の交換留学をする予定です。
99年11月の日本留学は当地で大変なインパクトを生み、その結果2000年度の
一年生の日本語学習者が従来の15名程度から23人に膨れ上がりました。落伍者が多
く、高2、高3は現在それぞれ5名と4名です。
遠隔授業開設の経緯
94年11月、地方分権政策のひとつとして, アルデッシュ県開発プロジェクト
100 が打ち出され、その中の、普段受けられない教育をテレビ会議システムで受けられ
るようにすると言う計画の検討が BDA 高校に命じられました。BDA 高校内の調査に
基づき日本語が選ばれ, BDA はグルノーブル教育区, アンペールはリヨン教育区と、
教育区は異なるけれども同じローヌアルプ州の高校であるアンペール高校に依頼があり
ました。CARIP(Centre Académique de Ressources en Informatique Pédagogique)の
技術サポートのもとに1年をかけて準備をし、95年の秋休みの後から1年生11名で
クラスを開けました。
設置費は一部は高校の予算で、残りの大方はローヌアルプ州が負担しました。
授業の実際
授業は BDA の生徒のみが対象で、アンペールの生徒とはいっしょではありません。
その点では合同で授業をしているケースに比べ教室運営は楽と言えます。
技術的には教室用カメラと文書用カメラが双方に有り, テレビモニター画面にどちら
かの映像が移ります。ビデオも直接伝送することが出来ます。映像, 音声ともに伝送
はすべてニュメリス回線を使って行われます。現地には AIDE EDUCATEUR〔以下
アシスタント〕がおり、機械の操作, 生徒の監視, 出欠管理, 教材管理等をしてくれ
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ます。アシスタントは学生生活指導課で働く若いフランス人で日本語は分かりません。
なお、1学期に一回は現地に赴いて授業をするようにしています。
問題点と工夫
1. 音声の問題
BDA では当初より音声の問題があり試行錯誤を繰り返しましたが, 解決に至ってい
ません。現在, 教室全体用のマイクが教室の中央に一本天井から下がっているだけな
ので, 周辺5―6人は普通の発声でも聞こえますが, 以外の生徒にはマイクに向かっ
て声を上げてもらわないと聞こえません。従って発音上の欠点も聞き取れません。又,
マイクから遠い生徒がおしゃべりをしていても教師には聞こえません。
声の発信地に方向性がないため、生徒数が10人を超えると、生徒が質問をしたり自発
的に答えたりしたとき、誰が話しているのか分からず、生徒の習熟度を知るひとつの目
安を失っていると言えます。
大人数のクラスでオラルのペアワークをした場合、現地にいるアシスタントに少なく
ともフランス語のおしゃべりをせずにきちんと練習をしているかは教室内を回って見て
もらっていますが, 教師本人は巡回できないので, マイクの下の生徒のミスしか直す
ことが出来ません。席順は休み毎に回転させるようにしています。
なお、教師側のマイクは口元20センチの位置にあるので生徒が教師の発声を聞くには
全く問題ありません。カセットによるヒアリング練習にも支障はないはずです。
2. 映像の問題
23 人全員が画面に入るようにカメラズームをセットすると、一人一人が小さくなる
ため, 印象薄い生徒の顔を判別することが出来ません。
3. 教師が現場にいないことから生じる教育的問題
机間巡視ができないので、きめこまかに筆記ミスを直してやることが出来ません。交
代で文書カメラに来させチェックするようにしています。
4. 直接のコンタクトの欠如から来る心理的問題
文書カメラを使っているときは教室全体用のカメラが使えません。生徒は教師の姿が
見えないと監視させていないような気がするようです。また、コミュニケートするとき
はやはり、相手の顔が見えないと落ち着かないので, たとえ文書カメラを使っている
最中でもできる限り教室用カメラに切り換えるようにしています。また、文書カメラを
使っているときは手だけでも文書といっしょに映るようにして, 教師の存在感をアピ
ールしています。
語学の授業の分析
次に実際にどのように私が日本語の授業を進めているかという分析に従って, 具体
的な問題点を挙げてみます。
A. 講義
イ. 文法解説
黒板代わりの文書カメラを使って説明をしています。人数が多く画面から遠いところ
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に座っている生徒にも見えるようにズームアップすると短い文でも一行に収まらなかっ
たり,〔高校生レベルでは自分のノートには右に十分余白があっても律儀に黒板に書い
てあるとおり行変えをして写す生徒が結構いるのです。〕、いくつも文が書けなかったり
と言う弊害はあるもののおおむね、支障はありません。
ロ. 文化紹介
ビデオや写真を使っての紹介は出来ますが, 実物に実際に触ったり, 日本食品を味
見したりすると言う楽しみを与えることが出来ないのが残念です。
B. 筆記練習
イ. 字の修得
机間巡視ができないので字体を訂正してやることができません。交代で生徒を文書カ
メラに来させて書かせても時間の関係上、全員のチェックはできません。
ロ. 文法練習
まじめに勉強する生徒の場合は問題ありませんが, 中には下を向いていても, 何も
やっていなかったり, 他のことをしている生徒というのも必ずいるわけで, そのあた
りの点検も出来ません。つまり、自主性のない生徒は普通の授業形態の時よりも落伍す
る可能性が多いわけです。
C. 口頭練習
イ. 反復練習
ロ. 自由回答
いずれの場合も生徒側の音声が良く取れないので, 発音ミスのチェックは残念なが
ら目をつぶるしかありません。マイクから遠い席の生徒の場合は文法ミスを聞き落とし
ている可能性も大いにあるので、必ず私が回答を繰り返すようにしています。
D. 試験
イ. 口頭試験
マイクの下に来させてやっています。
ロ. 筆記試験
問題を郵送し, アシスタントに監督してもらっています。
E. 宿題
教室で一緒に直す宿題の場合はきちんとやってきたかどうかの点検が難しいこと,
提出させる宿題の場合は郵送するので, 返却に時間がかかることが問題です。
F. アトリエ
折り紙は何とかやっていますが、習字や茶道はリヨンの高校ではしても BDA ではや
ったことがなく、申し訳なく思っています。
教材の観点から捉え直したテレビ会議の長所と欠点
以上いろいろな問題点を述べましたが, 唯一の長所と言えば常に教室にビデオプロ
ジェクターの役を果たす文書カメラがあることでしょう。30人のクラスでは絵葉書を
見せることは出来ませんが, 文書カメラのおかげでわざわざトラペンにせずそのまま
使えますし, 絵教材をもとに質問することも簡単です。
教科書、ヒヤリング練習用カセットに関しては普通の授業と変わりなく使えますが,
ビデオは直接向こうのモニターに伝送した場合, 今のところ一時停止が出来ないのが
欠点です。
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そしてなんと言っても実物を使った会話の授業、たとえばこけしや風呂敷,そして日
本のお金を使って買い物の会話を実際にやらせるときには楽しみに欠けます。
成果
技術的トラブルやプリント配布の手順が教師が現場にいるときほどスムーズに行かな
かったり、机間巡視の代わりに生徒のノートを文書カメラで確認していると時間を取っ
たりなどして進度はアンペール高校の75パーセントです。教師の現場でのフォローが
難しいため, 自主性のある生徒でないと、ついていくことができません。そのため落
伍者は多いですが, 2年生以降は生徒数が減り、遠隔授業の欠点がクリアされるため、
残った生徒はよい成果を上げています。
結論
知識の伝達のための授業には支障がありません。一週間後の授業計画を考え予め練習
問題を郵送しておくという計画性が必要です。音声上の問題, 画像の問題から、一ク
ラスの人数を10人以下に押さえれば、効率のある授業が出来ます。
財政的に可能ならば, 教室カメラと文書カメラ双方用のモニターを設置すれば、生徒
は文書を見ながらも教師の存在を感ずることができ、生徒の規律を管理する上で心理的
に効果を発揮すると思われます。
1999年 6 月24日の BULLETIN OFFICIEL25号で発表された教育省の外国
語教育に関する通達の中に、あまり普及されていない外国語の教育をテレビ会議システ
ムを使うなどして大いに推進することと言う一文があります。今後技術の発展にともな
って, こう言った形の授業形態が増える可能性があります。また、必ずしも授業でな
くとも, Centre de Documentation Pédagogique や GRETA , IUFM にあるテレビ
会議設備を使ってフランスの日本語学習者と日本のフランス語学習者が1年に2―3回
交流すると言う事も考えられます。日本ではテレクラスというアソシエーションが仲介
の労を取ってくれています。テレクラスのサイトは www1.sphere.ne.jp/teleclass です。
さあ、普段の教室を出て, 日本への扉を開けてみましょう。
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