1 - 素形材センター

「自動車の変化と機能材料の動向」
自動車の動向と材料への期待
トヨタ自動車 ㈱ 近 田 滋
CO2 排出量削減、エネルギー問題など、自動車を取巻く環境に対し、自動車メーカでは様々な環境に優しい車
の開発が行われている。本文では、ハイブリッド車を中心に、自動車の動向と材料への期待を述べる。
図 1 に示すように世界各地において自動車の保有台
1.はじめに
数は増加が予想され、2020 年には 12 億台になるとの
1)
自動車産業は持続可能なモビリティ社会(sustain-
予想がされている 。
able mobility)を作らなければならない。今日、自動
このような状況において、自動車を取り巻く環境問
車を取り巻く環境に対し、トヨタでは Zero - nize(造
題、特に CO2 による地球温暖化の問題が表面化して
語)、Maximize をビジョンとして掲げてきた。環境負
いる。
荷 Zero、交通事故 Zero、交通渋滞 Zero を目指した持
続可能な発展のための Zero - nize と、人が車に求める
Fun to Drive、Excitement、Comfortable を通じ心の
豊さを最大化する Maximize である。
とりわけ環境の世紀と言われる 21 世紀において、
負の遺産と言われる地球環境問題、都市環境問題、エ
ネルギー問題の早期解決が期待されている。
2.CO2 の現状
ガソリン車が登場して 120 余年が経過し、2002 年に
は 8 億台を超える自動車が世界中に普及するに至って
いる。
図 1 自動車の保有台数予測 1)
特集「自動車の変化と機能材料の動向」企画趣旨
編集委員 浅見淳一
ものづくり関連の製造では、ほとんどが地球温暖化、環境問題を意識せざるを得ない。さらに、現在で
は原油の大幅値上がりから拍車がかかり自動車そのものへの見直しが、各方面から検討が進んでいる。し
かし、電気を動力源にして自動車を動かすことに、心細さを感じていた人もいると思う。このイメージを
払拭するような技術的な事実で裏付けされつつあることを再認識していただくことも意図した。
ここで取り上げる燃料がガソリン系から電気系主体に移行すると、心臓部である駆動系に直接、おおき
な変化及び影響が出てくる。このことは、従来から言われていたことではあるが、ここに来て、電池、発
電機の発達がめざましい事を実感する必要がある。また、単に自動車構造が変わると言うことではなく、
自動車産業とエレクトロニクス産業という産業構造が「異質」のものをうまく結合させなければ成功はお
ぼつかないことが言われている。そのように波及的な影響を認識する上でも、興味あることとして、ここ
に新ためて特集を組みました。
1
図 2 に各年代における大気中の CO2 濃度を示した。
2)
車が総走行距離 9.4 万 km と仮定すると、CO2 は約 26 t
産業革命以降、CO2 濃度は急激に増加している 。
排出され、その 86%が走行時に発生する。因みに、人
これらが地球温暖化現象の原因と考えられ、京都議
間から排出される CO2 は約 30 t と言われており、自動
定書批准により大幅な CO2 削減が求められていると同
車は、その走行時に排出される CO2 の排出量を極限ま
時に世界各地域においても様々な CO2 削減への動きが
で減らさなくてはならない。
強化されている。
図 5 には、車両重量と CO2 排出量の関係の一例を示
した。モード走行による CO2 排出量ではあるが、車両
重量を台当たり 200 kg 軽減は CO2 排出量、約 1 t 軽減
に相当するため、車両重量軽減は極めて重要である。
図 2 大気中の CO2 濃度の推移
図 3 には、1998 年における日本国内の CO2 排出量を
3)
セクター別に比較したデータを示す 。全 CO2 排出量の
うち、18%の CO2 が、運輸・自動車より排出されている。
図 5 軽量化による CO2 排出量低減
その取組み例として、図 6 に自動車における使用材
料構成を示した。軽量化のために、鋼板・鋼材比率が
減少し、非鉄・樹脂の使用比率が増加している。
図 3 日本国内の CO2 排出量比較
図 4 では、自動車から排出される CO2 の総量を、製造
4)
時、走行時などに場合分けした時の比較を行っている 。
日本における平均的自動車走行として、2,000 cc の
図 6 自動車用材料構成比の推移
3.究極のエコカーを目指して
図 7 に、究極のエコカーを目指したトヨタ自動車の
取り組みを示した。
山の頂上にたとえた‘究極のエコカー’を目指し、
様々な取り組みを行っている。山の裾野にある電気、
ガソリン、代替燃料などを基盤に、自動車の各技術領
図 4 自動車の CO2 排出量
2|素形材 2008 .8
域において、絶え間ない技術開発が行われている。
自動車の変化と機能材料の動向
図 7 究極のエコカーを目指した取り組み
図 8 トヨタハイブリッドシステム
エコカー=ハイブリッド車と捉えがちであるが、こ
運動エネルギーを電気エネルギーに変換し電池に蓄え
こでいうハイブリッド技術とは、ハイブリッド車のみ
る。このエネルギーは発進時や加速時のモータ駆動力
の適用技術ではなく、様々な技術を駆使して、自動車
に使用される。
の永遠の課題ともいうべき軽量化、安全、環境と共に、
これら一連の作用によりエンジン効率の良い運転域
先に述べた Maximize、すなわち車から得られる心の
を選択利用するため、燃費が向上するわけである。
豊かさ等が調和した技術を全て含めたものが‘ハイブ
図 9 にハイブリッド車特有のコンポーネントであ
リッド’技術である。
る、電池、インバータ、モータを示す。
これらの技術の集大成として‘究極のエコカー’を
目指している。
4.ハイブリッド車
これまで述べてきた車を取巻く課題に対する一つの
方向として、ハイブリッド車について述べる。
最近の英和辞典や英英辞典などで‘hybrid’を見る
と、交配種・雑種・混成物といった従来の表記に加え、
ハイブリッドカー《ガソリンエンジンと電気モータを
併用する自動車》と記述されるほど、浸透した言葉に
図 9 ハイブリッド車特有のコンポーネント
なっている。
従来のガソリン車の部品に加え、これらの新しい専
1997 年に、最初の量産ベースのハイブリッド車と
用部品を限られたスペースに搭載し、かつお客様に適
して‘プリウス’をお客様にご提供を開始して以来、
切な価格でご提供するためにも、これまで以上の小型
2005 年 に は 累 計 50 万 台、2007 年 に は 累 計 販 売 台 数
化・軽量化・低コスト化等が技術開発において極めて
100 万台を突破するに至っている。
重要になってくる。
昨今の原油高騰、ガソリン価格の急騰もあろうが、
お客様の、環境・エネルギーに対する関心の深さを改
5.モータにおける取組み
めて感じる次第である。
ここでは、モータ用材料における取組みを中心に述
図 8 にハイブリッド車において、燃費が向上する仕
べる。
5)
組みを示す 。車両が停止している時やエンジン効率
図 10 にトランスミッションにおける市街地走行時
の悪い動作点では、エンジンを積極的に停止し無駄な
と高速道路走行時の動作頻度を示す 。図中濃淡で頻
燃料消費を回避する。走行中はエンジンが最高効率に
度を示しており、濃い部分での動作頻度が高い。実走
なるように制御し、走行必要エネルギーがエンジン出
行における車両燃費向上のためにはこれら軽負荷領域
力を上回る時は不足エネルギーを電池から供給し電池
での損失低減が重要である。
充電量不足時には余剰エネルギーを電池に蓄える。制
モータの損失は主としてコイルで発生する銅損と鉄
動時は駆動用モータを発電機として利用し、減速時の
心で発生する鉄損の二つに分離されるが、図 11 に示す
5)
3
図 10 市街地走行と高速走行の運転領域
図 12 モータコア用材料への期待
図 11 モータ損失の分布
図 13 高エネルギー積・高耐熱磁石への期待
5)
ように、軽負荷領域では鉄損の占める割合が大きい 。
待が高まっている。また、近年は希土類元素使用量を
また、モータ小型化に伴い高速回転化が必要となるが、
低減する技術開発も行われている。
それに伴い鉄損の影響が顕著になるため、燃費向上の
ために鉄損抑制技術が重要である。
6.おわりに
このような背景から、求められるモータコア材料性
ハイブリッド車駆動用モータのみならず、自動車では
能の一例として示したのが、図 12 である。
様々な小型モータ、アクチュエータが搭載され、その数
市場の JIS グレード電磁鋼板に対して、燃費向上、
は車両 1 台当たり 150 個を超えるものもある。
モータ小型化のため、更なる低鉄損化とともに、高磁
文頭で述べたように、Zero - nize、Maximize の実現の
束密度材料が必要とされる。
ため、これら各構成材料の更なる性能向上が期待される。
現在のような電磁鋼板積層によるコア構造では、2
次元的磁気回路設計に止まり、磁気回路設計に制約が
参考文献
あるため、圧粉磁心のような 3 次元的磁気回路設計の
1 )Handbook of Automotive Industry 2001
可能性を持ったコア材料への期待も大きい。
2 )IPCC 95 年度報告書
初代プリウス開発より、トヨタでは、サイズ、重量
3 )環境庁 二酸化炭素排出量調査報告書 1998
効率、信頼性、コストなど多面的な開発評価から、永
久磁石埋め込み型モータを採用している。
永久磁石の発展過程に関しては、ネオジウム磁石採
用により、ハイブリッド車用駆動モータの性能を向上
させてきた。
図 13 に示すように、モータ小型化のため、更なる
高エネルギー積と高耐熱性を具備した磁石開発への期
4|素形材 2008 .8
4 )栗原康著 「 有限生態学 」 岩波新書
5 )神谷宗宏 論文 「HV 駆動用モータの高出力密度化に関
する研究 」 2008
トヨタ自動車株式会社 HV 材料技術部
http://www.toyota.co.jp/
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