実装用電極における Ta/Ag 多層膜に関する研究

実装用電極における Ta/Ag 多層膜に関する研究
田
八
三
電子技術部
篠
機械・材料技術部 解析評価チーム 曽
電子技術部 電子デバイスチーム
口
坂
橋
原
我
慎
雅
俊
雅
勇
一
彦
朗
康
スパッタ法により Si 基板上に Ta/Ag 多層膜を成膜し,300℃の大気雰囲気中における高温放置試験を行い,
その前後の相互拡散及び酸素混入の様子並びに表面状態等について評価した.これにより,当該多層膜をパワー
デバイスの裏面電極等における実装用電極として使用した際の信頼性について検討した.
キーワード:パワーデバイス,実装,電極,多層膜,信頼性
1 はじめに
成膜は,RF マグネトロンスパッタ法により真空中で連
続的に行った.このときの成膜条件を表1に示す.
SiC を用いたパワーデバイスの開発が進んでおり,電
表1
成膜条件
気自動車の高温環境等への対応可能性が拡大している.
Base Pressure
これに伴い,パワーデバイスの裏面電極等における実
Substrate Temperature
装用電極について,Si デバイスの動作温度(150℃以下)
を超える高い耐熱性が求められている.特に,300℃に
おいて信頼性の高い実装用電極として Ti/Pt/Au 多層膜
等が提案されている1)が,Pt 等の高価な材料を使用し
ているため低コスト化が課題である.
本研究では,銀ナノ粒子ペーストによる接合等に向
けて最表面に Ag 層を用いた多層膜を対象とした.また,
2.0×10-4Pa
Sputtering Gas
Ar
Sputtering Pressure
1.2Pa
RF Power
Thickness
2.2
R.T.
75W
Ta
50nm
Ag
200nm
評価
バリア層については,融点が 3017℃と高く,電気抵抗
Si/Ta/Ag について,ダイシングを行い試料表面を観
率が 25.5×10-8Ω・m(300℃)と Pt と同程度であるこ
察して膜剥がれの有無を調べることにより,膜の密着
となどから,Ta を選択して低コスト化を図った.そし
性について確認した.ダイシングは,50μm幅のブレ
て,Ta/Ag 多層膜を成膜し,その耐熱性評価を行い,当
ードを用いて,純水で冷却し切削屑を洗い流しながら
該多層膜を使用した実装用電極の信頼性について検討
行った.このとき,切断速度は 1mm/s とした.
した.
次に,試料を 300℃の大気中に 30 時間放置した.
2 実験
また,イオンスパッタを併用したオージェ電子分光
分析法(以下,「AES」という.)により,Ag 層から Si
2.1
層に向かって深さ方向の元素組成分析を行い,2 次電子
試料作製
380μm厚の Si 基板上に Ta 及び Ag を順に成膜し,
実験用試料(以下,
「Si/Ta/Ag」という.)を作製した.
神奈川県産業技術センター研究報告 No.18/2012
像(以下,
「SEM 像」という.
)の観察を行った.このと
き,スパッタ速度は 2.5nm/min(SiO2換算)とした.
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3 結果と考察
文献
Si/Ta/Ag の作製後,ダイシングを行ったところ膜の
剥離は見られなかった.これにより,当該多層膜の密
着性について大きな不具合が無いことを確認した.
1)T. Ito et al.;Microelectronics Reliability,
52,199–205(2012)
2)京セラ株式会社;薄膜結晶質 Si 太陽電池,特開 2002
図1に高温放置前後の AES による元素組成分析を行
–261302(2002)
った結果を示す.これより,高温放置後に Ag が Si の
3)珍田 聡 他;表面技術,45,78-81(1994)
近傍まで拡散しており,30 時間を超える長時間の高温
4)茶畑 嘉仁 他;第 40 回応用物理学会北海道支部学
放置時には Ag と Si が直接接触すると考えられる.さ
らに,Ag と Si の密着力が弱いことが報告されている
術講演会,A-25(2004)
2)
ことから,当該多層膜の密着性及び機械的強度が低下
する可能性があると考えられる.また,高温放置前に
高濃度の酸素混入は見られないが,高温放置後には最
大 40at%程度の酸素が混入しており,機械・電気特性
が劣化した可能性がある.ここで,350℃以上の大気中
において酸素が Ag 層を透過して下地層に混入すること
が報告されている3)ことから,300℃で実施した本実験
においても同様の現象が起こったと考えられる.
次に,図2に高温放置後の Ag 表面の SEM 像観察を行
った結果を示す.これより,高温放置前には無かった
0.5-2μm 程度の大きさの粒状構造が見られた.ここで,
Ta 膜の結晶構造について,300℃以上で大気暴露がある
場合にはα相とβ相の混合相に変化することが報告さ
れている4)ことなどから,本実験においても結晶構造
が変化し,Ag の拡散及び酸素混入等が均一ではなくな
り粒状構造が出現する一因となった可能性がある.こ
れについては,高温放置時の各層の結晶構造と相互拡
散等の関係に関する研究により確認する必要がある.
4 結論
Si/Ta/Ag を 300℃の大気雰囲気中に放置した場合,
Ta 層において Ag の拡散及び高濃度の酸素混入等が見
られ,機械・電気特性が劣化する可能性がある.した
がって,本研究における Ta/Ag 多層膜を使用した実装
用電極は,300℃で大気暴露が発生した場合には,機械
的・電気的信頼性が著しく低下することが懸念される.
図1
AES 分析結果;(a)高温放置前(b)高温放置後
今後は,融点が 3422℃と高く,電気抵抗率が 12.4×
10-8Ω・m(300℃)と Pt や Ta より低いことなどから,
W をバリア層に選択して低コスト化を図り,W/Ag 多層
膜を使用した実装用電極の信頼性について検討する.
図2
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Ag 表面の SEM 像(高温放置後)
神奈川県産業技術センター研究報告 No.18/2012