ISIT 第九回カーエレクトロニクス研究会 @福岡 国際標準化における競争と協調 ―欧州における車載ソフトウェアの開発と標準化の事例― 2011年 10月 14日 立命館大学 経営学部 徳田昭雄 1 報告内容 0. 報告の背景と方法 「マイコンを応用したハードウェア の上で、その機器や製品の機能 /性能を専用ソフトウェアで実現、 制御するシステムまたはサブシス テム」 ―欧州における車載組込みシステムの開発・標準化 ― 重層的オープン・イノベーション・システム 1. 2. 3. “標準で協調する” AUTOSAR “実装で競争する” AUTOSAR 日本自動車産業への含意 出所) 徳田編(2008) 2 結論 組込みシステムのモジュラー化を促進する AUTOSAR仕様の導入は、日本自動車産業にとって 一方では脅威であるが、他方では、競争優位の源泉 (タテのすり合わせ)を活用しながら、SW開発の複雑 性を解消していく絶好の機会。 © AUTOSAR 3 結論 ∵ AUTOSAR=「満艦飾で、帯に短し襷に長し」: 様々なユースケースを網羅している分、冗長なのでエコノミーで なく、高信頼性を保証するものでもない ∴ 効率的かつ高信頼なI/Fを「作り込む」には、サプライヤとの 垂直的な協調関係が必須 出所) 徳田編(2008) 解: AUTOSAR仕様の利用+垂直的協調関係 “作り込まれた 汎用性あるI/Fを 作り込む” 4 0.報告の背景と方法 5 報告の背景と方法 -エレクトロニクス化する自動車- ソフトウェア開発工数の増大= ① ECU 搭載個数(SW)の増化 × ② 制御プログラムの複雑化 (インテグラル+ネットワーク化) × ③ テスト・検査工程増大 報告の背景と方法 - ECU搭載個数(SW)の増加- 1台の車に30~100個超のECUが搭載され連動 パワートレイン ・エンジン制御 ・AT制御 ・ACC ・パワーステアリング セーフティ ・エアバッグ ・ABS ・スタビリティ制御 ・乗員検知 シャシー ・電動パワステ ・サスペンション インフォメーション エンターテインメント ・娯楽 ・サービス ・モバイル通信 ・情報処理 ・GPSナビゲーション ボディ & セキュリティ ・ドア制御 ・パワーウィンドウ制御 ・エアコン制御 ・ライト制御 ・ダッシュボード ・ゲートウェイ 報告の背景と方法 - ECU搭載個数(SW)の増加- メカからメカトロ、そして組込みシステムの時代へ 車1台のSW開発量はC言語のコード量1,000万行超え (A4 両面100行→250頁の本400冊=6m) Mechanics Mechanics Mechanics Electronics Electronics Computer Science (ソフトウェア) Computer Science 18 開発量 (全体) マルチメディア系システム(カーナビを除く) 15 走行支援系システム ボディ系システム ソフトウエア開発の増加倍率(倍) エアバッグ系システム シャシー系システム 12 ハイブリッド車 パワー・トレーン系システム 9 6 3 出所) 日経エレクトロニクス(2004/3/1) 0 1994年 1995年 1996年 1997年 1998年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 報告の背景と方法 -制御プログラムの複雑化- ECUを系列外の メーカから調達 する際、うまく つながらない ⇒プロトコルの 標準化 例)プリウス =エンジン+ブレーキ+モータ 出所) JasPar HP 報告の背景と方法 -テスト・検査工程増大- 多くのサプライヤで 作るため、OEMの 仕様が正確に伝わら ない→仕様レベルの 不具合の手戻り膨大 ⇒開発プロセスの標 準化やエンジニアリ ング技術 30× 15× 1× 10× 5× 出所) 徳田ほか(2011) 報告の背景と方法 -欧州調査の背景- 車載組込みシステムのコンセプトや技術が欧州発 アーキテクチャ, LAN(例), 開発環境 etc. システムの安全性を確保する開発プロセスも欧州主導 機能安全、品質管理(Automotive SPICE) etc. ⇒それら欧州発の技術が “デファクト標準” “デジュール標準” 欧州の実態調査 AUTSOAR の背後には、組込みシステムのR&D/標準化をめぐる 重層的オープン・イノベーション・システム 1. コンソーシアム形成(企業間コンソーシアム・レベル) 2. コンソーシアム間連携(バリューネットワーク・レベル) 3. 国家間連携(超国家レベル) *1+2+3 11 オープン・イノベーションとは? H. チェズブロウ(H. Chesbrough, et al, 2006) 自社の技術を発展させたいなら他社の知識も活用できるし 市場への進出にも他社のリソースを活用すべき イノベーションに必要な知識や 技術はプロセスの様々なステージで導入可能 企業レベルだけでなく複数の分析レベルを持つことが必要 個人とグループ 組織と企業 バリューネットワーク 産業とセクター 国家体制 12 出所) 原典 : Chesbrough, H. W. et al. (2006) 報告の背景と方法 -EUの重層的オープン・イノベーション- 出所) 徳田ほか(2011) 13 バリュー・ネットワーク・レベルの連携 アーキテクチャ、SW/PF 開発環境/プロセス LAN ECU 開発支援ツール アプリケーション ソ フ ト ウ ェ ア ミドルウェア 通サ 信ー ビ 等ス OS (OSEK OS) ISO 17356 ハード ウェア 通信プロトコル アーキテクチャ 開発プロセス管理・アセスメント手法 AUTOSAR 実行環境 開発 AUTOSAR 基本ソフト 車載機器制御用 OSの国際標準 データ交換互換 フォーマットI/F FlexRay 実 装 Automotive SPICE 設計手法・品質保証 LIN, MOST AUTOSAR (AUTomotive Open System ARchitecture) 引継ぎ・連携 OSAR 引継ぎ・連携 HIS OSEK/VDX 連携 連携 FlexRay MOST LIN ASAM 標準化 連携 14 AUTOSARと欧州プロジェクトの関係 2004 1998 ●リスボン宣言 (’00) 2013 2008 ●新リスボン宣言 (’05) ●バルセロナ理事会 (’02) ユーレカ計画(1985~ 1985年開始 ITEA(1999~2008 : 32億€) EEA -> EAST-EEA(2002~2004) ITEA2(2008~2014 : 30億€) フレームワーク計画(1984~ 1984年開始 FP4 FP5(1998~2002) FP6(2002~2006) VESSA FP7(2007~2013) EASIS(2004~2007) SPARC(2004~2007) SW/PFの安全性・信頼性 冗長系制御システム PREVENT(2004~ FP 道路と航空運輸e-safety関連 AIDE(2004~ APROSYS(2004~ ADL GST(2004~ ATESST ATESST2(2008~ HAVE-IT(2008~ ETP 組込みシステムのARTEMIS関連 ARTEMIS ETP(2004~ ARTEMISIA(2008~ ARTEMIS JTI(2008~ EUプロジェクトと AUTOSARの分業 ISO 26262 AUTOSAR 15 1.“標準で協調する” AUTOSAR 16 “標準で協調する” AUTOSAR • “標準で協調し、実装で競争する” (Cooperate on Standards, Compete on Implementations) 出所)Overview on AUTOSAR Cooperation, 2nd AUTOSAR Open Conference (2010) 17 “標準で協調する” AUTOSAR • AUTOSARの課題解決アプローチ 出所)JARI(2011) 18 “標準で協調する” AUTOSAR • I/Fの設定によるSWのコンポーネント化・再利用 冗長。 処理速度↓ リソース 消費量↑ 出所) 徳田ほか(2011) 19 “標準で協調する” AUTOSAR • 垂直統合型開発モデルから水平型モデルへ 出所) 徳田ほか(2011) 20 “標準で協調する” AUTOSAR • AUTOSARスポークスマン 2011年10月1日~ • Frank Kirschke-Biller (Ford) © Kirschke-Biller, neuer Sprecher der AUTOSAREntwicklungspartnerschaft • “We are facing an accelerated use of AUTOSAR technology in the industry and a growing interest in the emerging markets.” 21 2.“実装で競争する” AUTOSAR 22 “実装で競争する” AUTOSAR 23 出所) AUTOSAR Open Conference, May 11, 2011. “実装で競争する” AUTOSAR • System Supplier – Bosch • RBEI (in):CUBAS(基本ソフト)、iSOLAR(システム設計) • ETAS: RTA-OSAK(基本ソフト)、ASCET(開発支援ツール) • Bosch Engineering:(試験ツール) – Continental • CES:(基本ソフト、開発支援ツール、試験ツール) • Software Vendor – VECTOR(de):MICROSAR(基本ソフト) – ELECTROBIT(fi):EB treos(基本ソフト) – dSPACE(de): SystemDesk(システム設計)、TargetLink(開発支援ツール) – GEENSYS(fr):基本ソフト、AUTOSAR Builder(システム設計) 出所) 各社資料より。 24 “実装で競争する” AUTOSAR • 日本 – JasParでの活動を通じてAUTOSAR準拠SWプラットフ ォーム開発 – 2010年2月 “JasPar版AUTOSAR”を搭載した試作車 – AUTOSAR Rel. 3.0の評価・検証をベースに • 安全系(トヨタ レクサス) • ステアリング系(日産 フーガ) • ITS系(ホンダ レジェンド) – “JasPar版”ソフトウェア自動生成ツールを同時開発 (イーソル, Change vision) 25 “実装で競争する” AUTOSAR • アジア – 新興国自動車メーカ(中国、インド)は既存SW資産 との整合性を考慮する必要が尐なく、ゼロから自社 アプリ構成を始めても問題ない – しがらみが無い分、新興国メーカは“急進的”に AUTOSAR導入が可能 – 先進国メーカは既存SW資産との 整合を図りながら “漸進的”に AUTOSAR導入 26 “実装で競争する” AUTOSAR • アジア – 2010年以降、AUTOSARにインドのタタや中国の SAIC, FAW, 奇瑞が加盟 • 新興諸国においてAUTOSAR化が進んでいく – 中国では2011年に“中国版AUTOSAR”とも称される CASA(China Automotive Electronics Industry Infrastructure Software Alliance)設立 • 開発ツールの国産化に向けた産官学連携 27 “実装で競争する” AUTOSAR • AUTOSARの使われ方 ToP とBoP 出所) 徳田ほか(2011) 28 “実装で競争する” AUTOSAR • ベース・オブ・ピラミッド(BoP) – 必要なSWプラットフォーム “大衆車市場向け” • 精密なインテグリティはさて置き、コンフォーマンステスト 仕様を満たしたSWモジュールを組み合わせた程度の仕 上がりでOKの大衆車市場 – AUTOSAR仕様の使われ方 “小さく作り込む” • メモリ容量が小さくて安価な部品で済むBSWを実装 • 実使用環境を想定してアプリを限定しながら AUTOSAR仕様の最適化(機能の取捨選択)の工夫 29 “実装で競争する” AUTOSAR • ベース・オブ・ピラミッド(BoP) – 産業構造 “垂直非統合の進展” • 新興諸国メーカは、HWコンポーネントの調達と組み立て に特化 • SWやキーHWコンポーネントについてはボッシュなどから AUTOSAR準拠システムの供給を丸ごと受ける • ボディやパワートレーンのドメインのうち、要件定義や概 要設計がすでに厳格で基本性能を単体で実現 ⇒OEMは上流工程をしっかりコントロールしつつ、下流プロ セス/検査やコンポーネントの開発はアウトソース – 競争の軸 “ライセンシング・ビジネス&再利用” • BSWやアプリケーション、開発支援ツールの再利用 • IPRの管理 30 “実装で競争する” AUTOSAR • トップ・オブ・ピラミッド(ToP) – 必要なSWプラットフォーム “高級車市場向け” • 先進的アプリケーションの実現 – AUTOSAR仕様の使われ方 “最適に作り込む” • HWのメモリ容量に制限がある条件の下 – 性能up(処理速度↑、リソース消費量↓)には、実ECU に必要な機能を絞り込み、I/Fの冗長性を排除 – システム統合の際の信頼性upには、AUTOSAR仕様で は不足する実使用に必要な信頼性機能を追加 ⇒モジュラー化の流れとはいえ、システム統合の際の 付加価値は依然とシステム・インテグレータの掌中 31 “実装で競争する” AUTOSAR • トップ・オブ・ピラミッド(ToP) – 産業構造 “垂直協業の進展” • アプリに応じて、自動車メーカ、サプライヤ、半導体メーカ がAUTOSAR仕様を最適に作り込んでいく • 開発プロセスについては、AUTOSAR仕様が規定していな い工程とのすり合わせ→シームレスなツール・チェーン – 上流への形式手法導入+下流の検査工程への関与 – 競争の軸 “アプリ&効率的・高信頼BSW” • 先進的アプリの商品性 • 先進的アプリを効率的・高信頼に実現する、AUTOSAR 仕様を利用したSWプラットフォームの開発 32 3.日本自動車産業への含意 33 日本の自動車産業への含意 • 改めてAUTOSARとは? – アーキテクチャル・イノベーションの実現に向けたコ ンソーシアム・レベルの漸進的オープン・イノベーシ ョン・プロセス – 製品アーキテクチャをモジュラー型に変えるべく、 HWとSWの間に新たなオープンI/Fを構築するため の企業間の長期的協調プロセス – 各社の既存ソフトウェア資産との互換性が考慮され るとともに、共通で利用できる追加的な機能が漸次 追加されながら、ドメインフリーの汎用性の高いオ ープンI/Fの構築が図られている 34 日本の自動車産業への含意 • 改めてAUTOSAR仕様とは – 「満艦飾で、帯に短し襷に長し」 – 様々なユースケースを網羅しているが、高信頼性を 保証するものでもなく、冗長なのでエコノミーでもな い (直ちに使い物にならない) – ∵欧州の自動車メーカ他による「ヨコのすり合わせ」 の成果が活かされた汎用性が高いI/F – =各社のニーズがふんだんに盛り込まれた非常に 冗長なI/F(最大共通分母:eine sinnvolle Grundgesamtheit なI/F) – ∴このような性質のI/Fが普及し易いのは当然 35 日本の自動車産業への含意 日本の強み“タテのすり合わせが活かせる =“作り込まれた 汎用性あるI/Fを 作り込む” • AUTOSAR仕様を利用して効率的かつ高信頼なI/F を構築するには、サプライヤとの垂直的な協調 関係が必須 • とはいえ、I/Fを曖昧にしておきながら自動車メー カとサプライヤが断続的に協働し、開発プロジェ クトごとに個別最適なシステム(I/Fの束)の構築 に寄与するモデルは× • SW開発の複雑性の増大を前にして、曖昧なI/Fに 基づいて仕上がってきたものを物理的に合わせ 込んでいく協業モデルは限界 36 日本の自動車産業への含意 • 日本の強み“タテのすり合わせ”が活かせる ①ドメイン毎に機能レベル(マイコン容量)に応じた 「システム・セグメンテーション」 ECUサイズ ドメイン 37 日本の自動車産業への含意 • 日本の強み“タテのすり合わせ”が活かせる ②セグメント別にI/F(BSWモジュール)と開発環境の作り込み ③同一セグメントについて「AUTOSAR仕様をベースに一旦作り 込んだI/F」を企業や車種を問わず出来るだけ再利用 従来のI/F「曖昧さ」の程度を、AUTOSAR仕様を使って尐しず つ明確にしてみる。 AUTOSAR仕様を「参照モデル」として活用してみる。 AUTOSAR仕様の導入は、日本自動車産業にとって 一方で は脅威であるが、他方では、競争優位の源泉 (タテのすり 合わせ)を活用しながら、SW開発の複雑性を解消していく絶 好の機会。 38 日本の自動車産業への含意 ③同一セグメントについて「AUTOSAR仕様をベースに一旦作り 込んだI/F」を企業や車種を問わず出来るだけ再利用 断続的変更依頼とレビュー →ソースが仕様書(∴アドホックI/F) 階層構造を参照し 汎用的I/Fを構築 39 主な参考文献 • Chesbrough, H. W., Wim Vanhaverbeke and Joel West, eds. (2006) Open Innovation: Researching a New Paradigm. Oxford: Oxford University Press. • Fürst, S. (2009) “AUTOSAR – A Worldwide Standard is on the Road”, AUTOSAR: presentation material @ Baden Baden, 8th Oct. 2009. Thomas Nolte. (2009 ) "Hierarchical Scheduling of Complex Embedded Real-Time Systems" presentation material of ETR’09@Paris, 3rd Sep. 2009. • • 徳田昭雄編著(2008)『自動車のエレクトロニクス化と標準化』 晃洋書房 • Tokuda, A(2009) International Framework for Collaboration between European and Japanese Standard Consortia in Kai. Jacobs, eds. Information and Communication Technology Standardization for E-Business Sectors, IDEA Group Publishing: 157-170. • JARI (2011) 『自動車電子技術の動向調査 報告書』JARI • 徳田昭雄・立本博文・小川紘一編(2011)『オープン・イノベーション・システム:欧州 における自動車組込みシステムの開発と標準化』 晃洋書房 40 41
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