欧州における自治体による 国際協力活動現況調査の概要 (抜粋)

欧州における自治体による
国際協力活動現況調査の概要
(抜粋)
財団法人日本国際交流セン ター
2006年11月
A.欧州の政府系援助機関と地方自治体等との連携のあり方
1.概況
2.欧州のODA政策の方向性
3.自治体の国際協力と政府との連携のまとめ
B.欧州における自治体や市民団体の国際協力活動の現状と援助組織の
多元化の動向
1.概要
2.各国の特徴
(1)ノルウェー
(2)オランダ
(3)イタリア
(4)英国
(5)ドイツ
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欧州 にお け る自 治 体 によ る国 際協 力 活動 現況 調 査
A.欧 州 の政 府 系援 助機 関 と地 方 自治 体等 との 連携 のあり方
1.概 況
欧州各国では政府機関と自治体との間で国際協力に関しての連携を図る場合、自治体の
連合組織に対して個々の自治体の行う国際協力活動事業のコーディネーションを委託するこ
とが通常行われている。自治体連合組織が政府の意向を受けて各自治体が行おうとする国際
協力事業についての財源の分配、活動内容のアドバイス、さらには事業の一部実施(オランダ
の例)を行っている。これは、もともと自治体自らが国際協力を行う意思を持ち、そのパートナー
シップを政府に求めたことが原点にあるためと考えられる。すなわち、自治体自体が国際協力
を行うイニシアチブをとっており、政府は財源等での側面的な支援を要請され、それに応える
という図式である。
自治体が国際協力を行いたいと考えるのは、ひとつは住民からの強い要請を受けて自治体
として国際協力に踏み込む場合と、自治体の首長自身の信念によって活動が開始される場合
の二つのケースがあると考えられる。
欧州には歴史的に途上国との個人的なつながりを持つ人々が多く存在する。植民地時代に
途上国で何らかの仕事をした経験のある人々、ミショナリーとして途上国を訪れた人などである
。またキリスト教の存在も、途上国の人道支援を行う必要性についての一般市民の高い認識
に結びついていると思われる。さらに、途上国からの移民が各国で急増しており、コミュニティ
でのそうした新住民の増加がきっかけとなり、あるいは彼らを橋渡し役として途上国への支援
活動が開始されるケースもある。
自治体連合組織が外務省等からの委託を受けて自治体に対する国際協力の予算の分配を
行う際、単なる資金の分配に留まらず、それぞれの自治体が行う活動の質の向上に関わって
いる点は重要である。そこには専門家がおり、国によっては数十名の専門的な知識を有するス
タッフが待機している。また評価についてもより厳密な考えが導入されている。
自治体の行う国際協力活動は国際協力としての効果(途上国におけるインパクト)の側面と市
民交流による相互理解・啓発の二つの側面を有する。とりわけ前者についてはより明確な評価
の手法が導入されている。
また政府からの予算が得られるのは基本的には前者の国際協力に関するもの(ノルウェーは
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例外的に両方)であり、市民による国際交流事業については自治体あるいは地域社会が負担
するケースが多い。ただ一方で、途上国との市民交流自体が先進国側の国民の地球市民意
識の向上につながる点を高く評価して政府として支援すべきという考えが生まれ始めている。
自治体の国際協力の活動の規模やレベルはNGOに比べるとまだ小さく、また援助関係者の
間での理解も比較的低いといえる。その一方で、ミレニアム開発目標(MDGs)を中心に社会全
体で国際協力を推進するムードが高まっており、その中で自治体の国際協力や市民間交流も
活発化の方向にあるといえる。
2.欧 州 のO DA政 策 の方向 性
今回、調査対象とした欧州の国々のODAの政策の方向性について高い類似性があり、欧州
内においてはODAに関する各国間の広範な連携が図られていると考えられる。以下は各国の
ODAに共通していると考えられる点である。
(1) ミレニアム開発目標 (MDGs)の 達成が各国の共通のテーマとなっており、途上国の貧困
削減が一義的な目標として定着している。一方、日本では議論となっている国益増進の一助
としてODAを捉えるという見方は少なくとも明示的には見られない。
(2) 効率的な援助政策としてODAの現地化・分権化が進みつつあり、中央政府や援助機関か
ら途上国にある大使館に権限の移譲を行っている。国際機関への拠出は中央政府を通じて
引き続き行われているが、有償資金協力は行われていない国が多い。
(3) 途上国政府の財政支援 を行うことによって特定のセクターに焦点を定めた援助が行われ
る傾向があり、援助機関はそのモニタリングや評価を中心的な活動としている。
(4) 一国での援助では限界があるため他国との協調した援助が積極的に模索されている。
3.自 治 体 の国 際 協力 と政府 との連 携 のま とめ
(1) 上記のODAの方向性の中で、自治体あるいはNGOと政府と間での連携も変化している。
とりわけ、評価の重要性が高まり、援助活動の質的向上を目指す試みが行われている。自治
体のもつノウハウを現地で活かすためのコーディネーターあるいはアドバイザー役の存在が重
要であると考えられている。
(2) 自治体の行う国際協力についての政府の関与のあり方は、財政支援が主流である。それ
を行うに当たって政府と個々の自治体との仲介役を各国の自治体連合組織が担い、そのスタ
ッフがコーディネーター役として個々の自治体の活動の質的な向上が図られている。
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(3) グッドプラクティスとして認識されているものは地域社会の多数のアクターが参加して行わ
れる活動との認識が共通している。イタリアやオランダでは特定の途上国の自治体を対象に多
数の自治体が同時に参加する方式も自治体連合組織の仲介によって行われている。
(4) 自治体の国際協力活動 (Municipal International Cooperation, MIC) はそれぞれの国毎
に違いがあるが、政府は自治体の行う国際協力の重要性についての一定の認識を持ってい
る。ただし、NGOに比べると自治体への財政支援の枠組みは規模が小さい。
(5) 貧困削減を実施する上で、途上国のローカルガバナンスの強化の必要性の認識が次第
に高まりつつある。そして達成のために途上国の自治体の強化とその手段としてMICの重要
性が次第に認識されつつある。
(6) 自治体が国際協力に関わることによって、途上国のローカルガバナンスの強化が図られる
とともに、市民間の交流自体にも意味があるとの見方が根づいている。
(7)一方、ノルウェーのNORADを除くと、国際協力に関して中央政府から自治体へ支出される
補助金は市民交流は対象とならず途上国の地域社会の発展にに直接寄与する活動に限定さ
れている。。
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B.欧 州 にお け る自治 体 や市 民団 体 の国際 協力 活動 の現 状 と
援 助組 織 の多元 化 の動向
1.概 要
欧州においては国際協力に関して政府機関以外にもさまざまなアクターがそれぞれの独自
性や特徴を活かしながら活発な活動を行っている。アクターの多様性の根底には欧州が過去
に宗主国として植民地支配を行い、歴史的に多面的な関係が開発途上国との間に存在する
ことが理由として考えられるが、近年、国際協力について欧州全体での大きなうねりが見られ
る。
それはMDGs(ミレニアム開発目標)という共通の目標の下に、国を超え、また政府・民間・自
治体の枠を超えて国際協力活動の底辺の拡大を図る動き、一般市民を巻き込んだ運動が展
開されていることである。
MDGsに乗り遅れるなとばかりに自治体やNGOでは活発な活動が展開され、また途上国へ
の援助活動だけではなくMDGs達成のための市民を対象としたさまざまなキャンペーンも積極
的に行われている。欧州の市民の間に見られる国際的な連帯感(international solidarity)や
地球市民(global citizenship)としての意識を育成するための開発教育や商品を介して途上国
の弱者に職を与えるフェアトレードなどの運動にも勢いがついている。また青少年の育成の観
点からも途上国との青少年交流が欧州各国で活発化している。
自治体の国際協力についてみると、各国でさまざまな国際協力活動が従来から展開されて
いる。自治体間協力の特徴として、先進国と途上国のコミュニティ同士が連携し協力しあうこと
で、多様なアクターの参加による双方向性を持ち得ることについての認識が定着し始めており
、イギリスでは自治体を含むコミュニティ同士の国際連携としての「リンキング」を国際協力の一
つの核として政策的に取り組むことへのロビー活動が展開され始めている。また自治体の援助
の質の向上のためのしくみや評価制度も各国で導入されている。さらにMDGsに関連した動き
として、途上国の草の根レベルの開発の担い手として自治体の役割と能力の強化を目指す政
府および自治体の活動が始まっている。
2.各 国 の特徴
(1)ノ ルウ ェー
a. ODAの概要
ノルウェーは人口470万人と福岡県より小さいながらODAは143億クローネ(2,620億円)と総国
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民所得(GNI)に対するODAの割合はすでに1%に近く世界有数の国際協力推進国である。
ノルウェーは2002年に今後のノルウェーの開発援助に対する取組の基本的な姿勢を示す
ものとして「貧困削減に関する行動計画」を発表した。本行動計画の中で、ノルウェーは、2015
年までに世界の貧困を削減するというMDGs達成のため、ODAの大幅な増額、具体的には
2005年までに経済援助の対GNI比率を1%まで引き上げることを目標に掲げた。また、経済援
助のみでは、貧困から抜け出すことは出来ないことから、持続的な経済成長を達成するための
多国間貿易システム及び債務救済策の向上、投資に関する法制度の確立、開発途上国産品
の市場アクセスの向上等が必要であるとしている。貧困撲滅及び開発の前提として、平和と生
命及び財産の安全が保障されていることが必要不可欠であり、このため紛争の解決及び予防
に努力するとともに、紛争終結後の移行期における市民の利益保護、人権保護の促進に尽
力するとしている。
b. ODAの関連機関
ノルウェーの援助政策は外務大臣及び開発援助大臣と議会の協議を経て決定される。外務
省内には外務大臣及び開発援助大臣の2大臣が存在している。援助に関して中心となる「国
際開発政策局」が全体の調整にあたる中で、地域担当の「地域局」及び国際機関を通じた援
助担当の「国際関係局」が関係部局として開発援助に携わっている。
二国間援助は、ノルウェー開発協力庁(NORAD)により実施されてきた。NORADは2004年3
月現在、本庁に280名を擁する。ノルウェー政府は2003年9月NORADを主体とした援助の執
行体制改革を行い、外務省の開発援助にかかる政策立案機能強化を図るとともに、途上国で
の政策の執行権限をNORADから各国大使館へ移し始め、2004年には新体制が整った。
c. 自治体による国際協力の特徴と傾向
ノルウェー開発協力庁(NORAD)は自治体の国際協力の活動に関して、ノルウェー自治体連
合(KS)を通じて財政支援を行っている。NORADとKSの間にはMIC(Municipal International
Cooperation)に関する資金提供の協定がありその協定に基づいてKSでは自治体の国際協力
事業を実施している。
2000年にNORADとの間でMIC(Municipal International Cooperation) に関する提携が結ば
れ、KSがNORADに代わって個々の自治体への予算を分配することになった。年間予算総額
は50万ドル(5,890万円)程度である。現在、ノルウェーの自治体はアフリカ諸国、パキスタン、ロ
シア、セルビアモンテネグロの自治体との間で国際協力活動を行っている。
「KS2004年MICガイドライン」によれば、MICの目的は(1)途上国の自治体の事業能力強化、
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(2)途上国における市民参加の促進、(3)ノルウェーの地域社会の国際理解の増進である。
MICの中心的な活動として、ノルウェーと途上国の自治体間の相互の経験交流と、途上国の
自治体スタッフ及び議員の能力強化事業がある。ノルウェーの自治体はMICを実施するに当
たって戦略的に活動を考え、途上国への資金援助を超えた市民の参加を促すことが求められ
ている。また途上国理解に関する全国的なキャンペーンにも率先して参加することを期待され
ている。
(2)オ ランダ
a. ODAの概要
オランダは貧困削減を援助政策の主要目的に掲げ、ODAの対GNP比0.8%を政策目標とし
て設定している。2004年の経済協力実績は、対GNI比0.74%の42億3,500万ドルで、世界第6
位の援助国となっている。MDGsを自国援助政策のガイドラインと位置づけ、MDGsで設定され
た対GNP比0.7%の目標をすでに達成している。
オランダでは、限られた資源をより有効に利用するとの観点から、長期的な二国間援助の
対象国を限定する政策をとっており、現在36か国を対象に二国間援助を実施している。特に
教育分野を援助政策の中心に据え、予算は増加傾向にある。遅くとも2007年には援助予算総
額の15%が教育支援に向けられ、特に識字率の向上や初等教育と基礎職業訓練の質の向
上に充てられることになっている。またエイズ・結核・マラリア対策支援にも力を入れエイズ対策
担当大使も設置している。NGOによる援助活動も活発であり、2005年のODA予算総額の約15
%が対NGO支援に向けられている。
b. ODAの関連機関
オランダ外務省は二人の大臣からなり、外務大臣以外に開発協力担当大臣がおかれている
。開発協力担当大臣が管轄する開発協力局は、ソーシャルサービス(ジェンダー問題等も含
む)部、教育部、貿易・経済部、効率・マネジメント部の4部門に分かれる。外務省は援助政策
の実施に関し主要な責任を有し、ODAの実施は二国間援助(多くがセクター別支援、すべて
贈与)、多国間援助(世銀、国連等の国際機関への資金拠出)、民間団体(NGO)を通じて行
われる。贈与資金の支出については、オランダ開発途上国投資銀行(オランダ国立投資銀行
の100%出資機関)が政府の業務を代行して行っている。
c. 自治体による国際協力の特徴と傾向
自治体の国際協力に対する活動はヨーロッパの中でも極めて活発といえる。400ほどの自治
体のうち昨年には110以上の自治体がMDGsの垂れ幕を掲げるなど、途上国支援についての
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意識は極めて高い。
2004年に外務省が自治体の国際協力 (MIC) についての評価を実施し、その結果、一定の
成果が見られるものの国際協力としての成果、インパクトが小さすぎることが明らかになった。
そこで、外務省が個々の自治体が行う国際協力への支援に代えて、自治体の連合組織VNG
の下部機関であるVNGインターナショナルを中間組織として自治体による国際協力を推進す
る「LOGO Southプログラム」が生まれた。
国際協力活動を行うほとんどの自治体は、VNGインターナショナルのこのプログラムに参加
している。VNGインターナショナルのプログラムでは自治体の持つ専門性の活用をより高度に
行うための仕組みが整えられており、自治体としての成果に対する満足度も高まっている。
VNGインターナショナルでは2004年に自治体の国際協力の効率化を図るため、対象国とな
る途上国を11カ国に限定し、それぞれの国毎に自治体が協力する分野を定めるようになった
。その結果、一つの国で同じ分野で複数の自治体が活動することにより自治体間の相互の情
報交換が促進された。また援助活動の質の顕著な向上が見られ、そのことがオランダの地域
住民の理解と支持に結びついている。
また、VNGインターナショナルでは独自の活動として、途上国の地方分権の推進と自治体の
強化を推進しており、途上国の地方分権化の推進のために自治体連合の設立に力を入れて
いる。
(3)イ タ リア
a. ODAの概要
イタリアの最大の優先事項は貧困削減に置かれており、食糧安全保障、教育、環境保護等
の分野を通じて、開発途上国自らが開発計画を策定する努力に対する支援を強化している。
さらに、重債務貧困国の債務削減措置の迅速な実施を重要視して、ジェノヴァ・サミットの成果
を踏まえて債務削減措置を実施しており、アフリカ諸国を中心に債務帳消しに関する協定を
締結し、2004年5月時点で総額17億5,000万ユーロ(2,650億円)の債務の帳消しを行っている
。
b. ODAの関連機関
イタリアの政府開発援助は、1987年に成立したODA基本法の下で実施されており、二国間
援助(有償、無償・技協、食糧援助、文化・教育関係)及び国連関係機関に対する拠出につ
いては、外務省開発協力総局が一元的に管理・実施し、世銀等国際金融機関に対する拠出
については、経済・財政省が管轄している。また、有償資金協力については、外務省からの指
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示を受けて中期信用金庫が借款協定の締結、貸付実行・回収業務を行っている。中期信用
金庫は更に、開発途上国における伊・現地企業合弁事業に対する資金援助も行っている。
外務省開発協力総局は13課から構成され、2004年6月時点での職員数は449名である。案
件の発掘等は在外公館を中心になされており、1998年には20か国における在外公館内に
ODA関連の海外事務所が設立されている。
c. 国際協力の特徴と傾向
イタリア自治体による国際協力を推進するため、イタリア外務省には分権的協力
(Cooperazione Decentrata) の担当部署が置かれている。外務省としては分権的国際協力を
進めることによって自治体が国際協力に参画することの意義を、相手国に対する自治体ノウハ
ウの提供という効果に加え、自国の市民の国際協力に対する理解の向上にも役立つと考えて
いる。
分権的協力の枠組みの中では、個別の自治体が直接、外務省の分権的協力担当課から資
金を得る場合もあれば、自治体がコンソーシャムを組むことで自治体の連合組織を通じて資金
を得る場合もある。
その例としてイタリア市町村連合体(ANCI)では外務省との連携でイタリア−バルカン諸国自
治体パートナーシップ事業を行った。この事業ではバルカン4カ国(クロアチア、ボスニア・ヘル
ツェゴビナ、セルビア・モンテネグロ、アルバニア)とイタリアの23の自治体が参加し、12のパー
トナーシップが結ばれた。それぞれの12のペアとなった都市の間で協力分野(公営住宅、観光
開発、廃棄物リサイクル、沿岸保全、上水道、交通など)が決められ協力活動が行われた。この
事業は自治体だけではなく国際機関、NGO、自治体の外郭団体、大学も参加し人材育成と技
術移転を目的としたセミナー、研修などが30カ月の期間にわたって行われた。
自治体の途上国支援の意識も高い。世界の貧困と戦う首都を標榜するローマ市ではアフリ
カ4地域との国際協力活動をNGOとの協力によって実施しており、極めて先進的な自治体外
交を展開しようとする意欲が見られる。
(4)英国
a. ODAの概要
英国は開発途上国における貧困削減を援助の目標として掲げて、貿易、投資、債務、農業
、環境等関連部分を統合した総合的見地からの開発途上国の開発支援を目指している。
2002年には、持続可能な開発の促進及び人々の福祉改善を通じた貧困削減が開発の目的
であることを明記した「国際開発法」が成立した。
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2004年の英国の援助実績は78億3,600ドル(9,230億円)であり、対前年比24.7%の増加とな
っている。英国の援助は原則として無償であり、2001年4月より、英国の二国間援助は100%ア
ンタイドとなっている。
b. ODAの関連機関
英国の政府開発援助は、閣内大臣を有する国際開発省(DFID, Department for
International Development)の責任の下に一元的に行われている。また、貿易、投資、債務、
農業、環境等途上国の開発に関する政策の一貫性を確保すべく、他の関係省庁との連携に
も力を入れている。
DFID職員は2003/04年度で1,833名で海外事務所は67か所となっている。DFIDでは海外
事務所への権限委譲が進んでおり、200万ポンド (4億5千万円) までの案件で政策的判断が
必要とされない案件の発掘・形成は現地で行われている。英国政府はNGOを災害援助、ボラ
ンティア派遣等の面で積極的に支援しており、2003/04年度では約2億2,000万ポンド(490億
円)の援助をNGO経由で行うなど重要な援助チャネルと位置づけている。
c. 自治体による国際協力の特徴と傾向
英国政府のODAでは途上国政府への財政支援(Direct Budgetary Support)が主流となり、
技術協力はほぼ姿を消している。この潮流の中で、英国国際開発庁(DFID)は、自治体が行う
国際協力に関して支援プログラムを持っていない。唯一あるのは英国連邦自治体フォーラム
(CLGF, Commonwealth Local Government Forum) の実施するGood Practice Schemeへの財
政支援のみである。CLGFは英国連邦内の自治体間の国際協力を長年推進しており、近年に
はミレニアム開発目標 (MDGs) を達成するためには、途上国で実際の事業を担う自治体の
能力向上が不可欠と訴え、世界的な関心を集めるようになってきている。
一方、英国で興味深いのは、コミュニティや同種団体同士が国を超えてパートナーシップを
結ぶリンキングの活動である。技術協力に留まらず、同じ立場で協力と交流を行おうという考え
で、英国では自治体同士のみならず、学校間、病院間、教会間、NPO間、スポーツクラブ間
などさまざまな市民団体同士のリンキングが途上国との間で行われている。政府レベルでも英
国教育技能省(DFES)は英国のすべての学校は2010年までに海外とリンクすることを求めてい
る。 英国では政府の自治体の国際協力活動への関与は限定されているものの、自治体およ
び自治体連合は活発に活動している。英国では自治体、コミュニティによる国際協力に対する
関心は一般に高い。430ある英国の自治体のうち100以上がフェアトレードタウンに参加するな
ど、国際的な意識の地域社会への広がりが見られる。リンキングを英国およびグローバルなレ
ベルで推進するための数十のNGOや国際交流団体が参加した協議会であるBUILD(Building
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Understanding through International Links for Development)がある。BUILDでは現在、先進
国と途上国間のリンキング活動のベストプラクティスを国連として表彰する制度 (ゴールドスタ
ー) の創設の提唱を行い始めている。
(5)ド イツ
a. ODAの概要
ドイツは、米国、日本、フランス、英国に続く、世界第5位のドナー国(DAC統計ベース)であ
る。貧困対策として、国連のミレニアムサミットで採択された「ミレニアム開発目標(MDGs)」を受
けて、2001年には行動計画2015を閣議決定したほか、重債務貧困国の債務救済については
1999年のケルンサミットにおいて総額700億ドル(8兆2,440億円)のケルン債務イニシアティブを
主導した。独自の基準に基づいて二国間援助対象国の中で重視する国として約70か国(うち
、36か国が重点国)に絞り込み、他のドナー国の二国間援助及び多数国間援助並びにEUの
援助政策と密接に連携している。
b. ODAの関連機関
ODAの中心は連邦開発協力省 (BMZ) が担っている。援助計画の企画・立案に関して
BMZが中心となっており、予算についても、自然災害・人道支援関連の予算が外務省で計上
されているがそれ以外の援助予算は原則としてBMZに計上されている。
援助の実施にあたって、JICA、JBICに該当する機関として、技術協力については技術協力
公社(GTZ)、資金協力については復興金融公庫(KFW)が中心的役割を果たしている。両機
関とも、ドイツ政府の援助政策の実施のみならず、EU、国際機関、第三国から委託された業務
も実施している。その他の実施主体として、ODAカウントされる額としては小さいものの、自然
災害等において機動的に現場で緊急援助を行う連邦技術支援庁(THW:内務省所管)等が
存在する。
c. 自治体による国際協力の特徴と傾向
ドイツは中央政府の下に16の州があり、各州が憲法を持つ連邦国家である。16州のうちベル
リン、ブレーメン、ハンブルグは都市がそのまま州を兼ねる都市州である。ドイツの地方自治は
州政府の下に二層の地方政府からなり、州のすぐ下に郡と郡に属さない規模の大きな都市が
第一の層を形成する。その下には郡に属する市町村が第二の層となっている。
ドイツの自治体はアジェンダ21の活動の一環として途上国の自治体とパートナーシップを結
んでいるケースが多い。BMZは自治体の国際協力活動を支援するため、各州政府との協力に
よって 「Communities in One World」を設立した。この組織は自治体間の国際協力や自治体
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によるフェアトレード、自治体の移民政策の推進に携わっており、情報の提供、活動について
のアドバイス、研修事業を実施している。
ドイツの自治体の中でブレーメン市は積極的な国際協力活動を行う市として知られている。
国際協力の予算として毎年、約87万ユーロ(1億3千万円)を計上し、インドと中国ではバイオガ
ス、水力設備、下水施設の整備を実施し、女性の教育と職業訓練事業をインドで、ナミビアで
は自治体の機能の強化と職業訓練を兼ねた太陽エネルギー利用活動を実施している。西サ
ハラでは難民キャンプの支援をベルリン州政府等の他の自治体とともに行っている。また各年
毎に国際協力活動や人権、民主化に功績のある人物にブレーメンソリダリティ賞を授与してい
る。
ドイツのNGOは2000年の時点で3億9,000万ユーロ(ODA全体の7.2%、590億円)を政府から
得ている。ドイツの主要NGOとしてカトリック系のミゼレオール(Misereior)、緑の党に近く約60カ
国でアドボカシーを中心に100以上のNGOと協力関係にあるハインリッヒ・ボル基金、教育支
援を行うNGO、プラン等がある。
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