オーストラリアで「星幕」を使う

オーストラリアで「星幕」を使う
テントのトップ(屋根)を取り去ったかつてない斬新なアイデア
で風や寒さをしのぎながら星空を楽しむことができる「星幕」
。
テントトップを装着すれば、一般的なテントとしても使える。
キヤノンEF8-15mmF4(15mmF4)
キヤノンEOS 6D(赤外カットフィルター換装改造)
ISO5000 2014 年 4月3日23 時 18 分(現地時間)
30 秒露光 西オーストラリア州サーバンテス近辺にて
32 月刊 星ナビ 2014 年 6 月号
「星幕」を西オーストラリアで試す
「星幕」を西オーストラリアに持っていった。
この 4月上旬、ちょうど星仲間たちと西オースト
ラリアへ星空を撮影しに出かける計画があった
ので、実際の観測現場で使用感を試してみる
ことにした。
オーストラリアのパースへのフライトは、シン
ガポール航空を利用した。シンガポール航空
では、2013 年 11 月からエコノミークラスの受
託手荷物重量が従来の 20kg から30kg へ拡大
された。カメラやレンズは機内持ち込みにする
として、三脚や赤道儀など機材が多く飛行機へ
の預け入れ荷物がかなり重くなる天体観測遠
征にはうれしい改定だ。
この受託手荷物重量の拡大によって、機内
預け荷物に余裕ができ、撮影機材の他に「星
幕」を持って行くことが可能となった。
「星幕」は寝袋やアルミロールマットとともに
二重にしたビニール袋に入れてパッキングした。
撮影機材や着替えを入れたハードケースに加え、
軽量キャリーケースに「星幕」を入れていくこ
とも考えたが、軽量とはいえ数 kg はあるキャリ
ーケース自体の重さも他の機材に当てたかった
ので、「星幕」などはまず壊れることはないだ
ろうと判断して、ビニ−ル袋包装とした。これで、
スーツケースとあわせてジャスト30kg! われな
がらみごとな計量となった。
寝袋とアルミロールマットは「星幕」内での
休憩や仮眠用に用意した。キャンプ用品まで
は持って行けなかったので、宿泊自体はモータ
ーホテルを使った。移動はレンタカーだ。
■「星幕」の主な仕様(数値は実測値)
ポータブル天体観測テント
どこでもドーム
テント寸法
サークルトップ
収納時サイズ
総重量
価格
底面対角 2.8m×天井高 1.7m
直径 2m 高さ1.3m
60×20×20cm
4.5kg(ペグなど付属品込)
39,085 円(税込)
●問い合わせ先 天文ハウス TOMITA
TEL 092-558-9523
URL http://www.y-tomita.co.jp/
TOMITA 星幕
九州の天文ハウスTOMITAからポータブル天体観測テント
「星幕 - HOSHIMAKU -」が発売された。
屋根が大きく丸く開いていて、中から星を見ることができるテントである。
星を見たり撮影したりすることは、夜間に長時間、野外で過ごすということ。
そんなとき、この「星幕」は、移動式天体観測ドームのように
快適な星見環境を提供してくれる。
レポート/谷川正夫
今回の遠征荷物。
ビニール袋には
「星 幕」とと も
に寝袋やアルミ
ロ ー ル マットが
入っている。
「星幕」のセット内容
「星幕」一式はキャリーバッグにコンパクトに
収まっている。一式を収納したキャリーバッグ
の 大きさは 約 60cm×20cm×20cm。ペグも
含めたトータルの重量は約 4.5kgで、楽に持ち
運びできる。
キャリーバッグからセット一式を取り出して内
容を確認してみる。
「星幕」は、メインテント1 枚、
テントトップ 1 枚、支持ポール 4 本、サークル
トップポール 1 本、テントトップポール 2 本、テ
ントトップ用固定金具 1 個、風が強い時に用い
る張り縄 4 本、固定用ペグ 8 本、そして、短い
ポール 1 本(強風時のテント変形防止の支え
ポールの内訳。左から支持ポール 4 本、
サークルトップポール 1 本、テントト
ップポール 2 本、短ポール 1 本。
などに使用する)で構成されている。
テント生地は、通常の軽量テントに使用され
ているものと同様の素材だ。高品質で高い防
ペグ袋の中には、耐風用張
り縄 4 本、スクリュー式ペグ
8 本が入っている。
水性をもっているとのこと。丈夫で縫製もしっ
かりしている。
テントの固定用ペグはスクリュー式で、大き
なハンドルが付いていて地面へのねじ込みもし
左からテントトップ、ペグ袋、ポール、
メインテント。キャリーバッグにこれら
のセット一式を収納することができる。
やすそうだ。通常のペグとは違い、ハンマーを
必要としないところが簡単で便利。このペグは
8 本付属しているが、八角形の底面の角をペグ
で固定するためにすべて使い切ってしまう。つ
まり、4 本付属している耐風用張り縄をセットす
るためのペグは別途用意しなければならない。
近くに木や車などがあれば、そこに結ぶことも
できるが、一般的にはペグを使ってロープの支
点とするので、張り縄用にさらに4 本のペグも
同梱してほしいところだ。
設営は慣れると簡単
組み立ては比較的簡単にできた。取り扱い
説明書では二人以上で組み立てることをすすめ
オーストラリアへのテントの持ち込み
オーストラリアへの入国の際には
審査が厳しい。入国カードに書かれ
ている持ち込もうとする物品のリスト
にチェックをしなければならないのだ
が、「星幕」のようなテントは、土
の付着したレクリエーション備品にあ
てはまるので、一応 9 番にチェック
を入れた。そして、検疫を通過する
ときには「星幕」を見せる気満々で、
言われてもいないのにテーブルの上
に置いたのだが、係官は「星幕」
には見向きもせず、携行していた正
露丸を真剣に眺めていた。
「星幕」
は心配をよそに難なく検疫を通った。
過去にオーストラリアに来たときの
出入国カードの持ち込み物品チェック欄。
他の大陸から離れている農牧畜国のオーストラリアは検疫に厳しい。
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経験からしても、やはり食物など口
に入れるものは入念に見るようだ。
すべてをキャリー バッグに入 れたときの 重 量は約
4.5kg。容易に持ち運びができる。
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ているが、慣れてしまうと一人でも10 分くらい
で完成させることができた。初めてで取り扱い
説明書を見ながらでも20 分あれば組み立てら
れるだろう。
完成形はドーム型テントの変形と呼べそうな
姿である。一般的なドーム型テントは 2 本の支
持ポールを対角に立て、底面が四角形になるが、
「星幕」の底面は八角形で、湾曲させた 4 本
の支持ポールを2 本ずつ互いにクロスさせ張力
で自立させている。
設営手順は、メインテントを広げ、伸ばした
4 本の支持ポールをそれぞれテントのポールス
リーブに通し、ポール差し込み口に支持ポー
ルの先端を8 箇所順番に入れて起き上がった
ら、支持ポールにフックをかけたり、クロス部
を結んだりする。ここまでの手順は一般的なア
ウトドア用ドーム型テントと同様なので、登山
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やキャンプでドーム型テントを組み立てたこと
のある人なら戸惑うことはない。
「星幕」では、さらに星空を見るための開口
部に直径 2m のサークルトップポールを取り付
けて完成となる。このサークルトップポールの
接合部が、分解のときに外しにくいことがあった。
湾曲させているため接合部にテンションがかか
って、真っ直ぐのポールを抜くよりも大きな力
が必要になる。ポールの継ぎ目が外れにくくな
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ったときには、ねじりながら引っ張ればよいの
だが、このサークルトップはいったん円形に継
いでしまうとねじることができなくなる。ポール
の継ぎ目を金属もくしくは強化プラスチックのジ
ョイント部品を介して接合するようにすれば、
外しやすくなるかもしれない。
「星幕」は、屋根を張って通常のテントのよ
うに使うこともできる。屋根を付けるには、2 本
■
「星幕」の組み立て
のテントトップポールをクロスして取り付け、テ
①まずボトム部の 8 つの角が出るよう
にメインテントを広げ、支持ポール
をテントのポールスリーブに通す。
ントトップをかぶせ、ロープやベルクロテープ
で固定するだけなので、急な雨にもすばやく対
応できる。
②八角形の角にあるポール差し込み
口に支持ポールの先端を入れる。
③支持ポールにフックをかける。ポー
ル 1 本に4 箇所、全 16 箇所ある。
④支持ポールのクロス部分を結ぶ。
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テントの固定は確実に
組み立てが終わったら、八角形のテント底面
⑤スクリュー式のペグで地面に固定。
の角にある穴へスクリュー式のペグを通し地面
⑥連結したサークルトップポールを開
口部のポールスリーブに通し円形
に接合する。通常使用をするため
には、これで完成。テントトップを
使用する場合には、2 本のテントト
ップポールの先をテント内側のポケ
ットに差し込む。
へ固定する。地面がアスファルトやコンクリート
⑦テントトップをかぶせ、固定用ロー
プとベルクロテープ(マジックテー
プ)で固定する。
の駐車場ではペグを差せないので、大きな石
やコンクリートブロックにロープを通して固定し
たり、水を入れて重りにするポリタンクや砂袋
ウェイトなどを活用しよう。
日本国内で車を使って移動する場合は、テ
ントを固定するための重りを運ぶこともできる
が、今回のオーストラリア遠征では重りまでは
持っていけなかったので、強い風に煽られて「天
幕」が浮き上がる場面もあった。
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■ 星幕の大きさ
(実測値)
「星幕」は比較的立ち上がったデザインなの
テントトップ
で風を受ける面積が大きく、加えて大きく開い
サークルトップ
たトップ部から風が入り込むという構造上の弱
さがある。風がある時は、必ず耐風用の張り
縄を張るとともに、テント内の風上側に重量物
直径約 2m
を置くという対策も必要になる。とにかく、テ
ントの底面に風を入れないことが肝要だ。
「星幕」には、ファスナーで開け閉めする出
高さ約 1.7m
高さ約 1.3m
入り口が向かい合った 4 面に設けられているの
で、向きに気を遣うことなく設営できるし、風
がある時は、風下側の入り口を開け放っておけ
高さ約 1.4m
ばトップの開口部から吹き込む風の圧力を逃が
すこともできる。
対角約
いずれにしても「星幕」は、本格的なアウト
2.8m
ドア用のテントではないので、強風や悪天候下
での野営には適さない。あくまでも晴天下で星
空観望を楽しんだり、曇天時にテントトップを
張ってテント内で待機したりする用途向きだ。
取扱い説明書の注意書にも「危険な状況下で
の使用は避けるように」とある。
広い内部スペース
「星幕」を組み上げて中に入ってみると、か
なり広く感じられ、そこそこ大きな天体望遠鏡
でも設置できそうだ。大きさを実測してみると、
底面の対角で内寸約 2.8m、円形のサークルト
ップの直径は 2m、そのサークルトップポール
までの高さは約 1.3m、アーチ状に曲げられた
支持ポールの一番高いところで約 1.4m。これは、
大人が立ち上がって視界が遮られることなく地
平線まで見渡すことができる高さだ。
「星幕」のサークルトップの高さは調整でき
「星幕」内に天体望遠鏡を立てても内部空間はまだまだ余
裕がある。望遠鏡を立てなければ、車座に座って 6∼8 人、
シュラフに入って寝ころんでも 4∼5 人は収容できる。
ないので、天体望遠鏡でどのあたりの地平高
度まで星を見たいかとか、天体望遠鏡に当た
る風の影響をどれくらい遮りたいかで、望遠鏡
の三脚の高さを調整して架台の不動点高(ド
イツ式赤道儀なら赤経軸と赤緯軸の二つの回
転軸が交わる点)を決めるとよいだろう。
天体望遠鏡を設置した状態で寝転ぶことが
できるのは 3 名くらい。立っていれば 5∼6 名は
入ることができる。天体撮影を行う場合には、
パソコンや大型のバッテリー、撮影用のアクセ
サリーなども余裕で置ける広さだ。
ところで、テントの中に天体望遠鏡を立てる
時は、三脚用のフラットナーを使ったり、敷物
をあてがってテントの生地に穴を空けないよう
に注意しよう。三脚の先端の石突は地面に食
い込ませるものでけっこう尖っているからだ。
テントトップを取り付けたときの天井までの
「星幕」内から星空を見上げる。
星野写真撮影では、街灯など横
からの光を防ぐこともできる。
36 月刊 星ナビ 2014 年 6 月号
高さは約 1.7mとけっこう高い。トップを閉じて
通常のテントとして使う時の空間容積は大きく、
中に入っても圧迫を感じることはない。
大きな天窓から眺める星空は最高
「星幕」は、周囲に街灯などがあった場合、
その光を遮光してくれる。風もよけられるので
体感温度の低下を防げるし、天体望遠鏡への
風の影響も軽減できる。
遠征先での天体写真撮影、天体観測での用
途はもちろん、自宅の庭で継続して天体望遠
鏡を使いたい場合、簡易天文台ドームとしての
使い道も考えられる。長期間使用していないの
で耐久性についてはわからないが、望遠鏡を
片付けるのが面倒なときなど、望遠鏡を入れ
テントトップを取り付け、1/4 だけ開いて
みた。風が強いとき、夜露が降りるときは、
このような使い方もいいかも。
たままテントトップを取り付けてしまえば、夜露
や多少の雨風は防いでくれる。晴れた夜は、
テントトップを外して屋根を開放すればすぐに
観測を始めることができる。もちろん、ペグや
重り、防風ロープなどでしっかり固定しておか
なければならない。
「星幕」内から星を眺めることは、空へ向か
う開放感があってとても気持ちがよい。周囲を
遮断し天に開いた円形の大きな窓から、星空
だけを集中して見ることができるからだ。プラ
イベートな空間、快適な環境で寝転びながら
星を見るという至福の時が過ごせる。この広さ
があればアウトドアチェアやサマーベッドを置く
こともできる。同好会の観望会などでは、真ん
中に座卓を置いて、車座に座ってオープンスペ
ースの休憩所とするのも良い。状況が許せば
コタツも持ち込める。ユーザーの工夫しだいで
「星幕」の活用法はどんどん広がる。
2 本のテントトップポールを十字に張って
テントトップ(屋根)をかぶせたところ。
ドーム状になったテントの天井までの高
さは約 1.7m あるので、背の高い赤道儀
を立てたまま収納することもできる。
オーストラリアでのテント泊
オーストラリアではルックアウト(見晴らしのよい場所)の駐車場はもちろん、道路
脇にあるレストエリアでもキャンプや車中泊が禁止されている。つまり「寝泊りはモーテ
ルやキャラバンパークなどの宿泊施設でせよ」ということのようだ。美しい風景の眺めら
れる駐車スペースには、必ずキャンプ禁止の標識があった。オーストラリアは何度か来
ているが、こんな標識を見た記憶はなかった。テントを張るなんてことをするつもりもな
かったから注意がいかなかったのかもしれない。
そんなわけで、
「星幕」を張る場所探しに困ってしまった。
「星幕」は見るからにテントだ。
これを張ったらキャンプなのか? 星を見るためにテントを立てたら違反なのか?レンジャー
に見られたらやばいことになるかもしれない。しかし、その中で朝まで寝るわけではない。
あくまでも星を見るためのアイテムだ。そして、曇れば撤収してモーテルへ帰る。と、
腹をくくって「星幕」を張ったのだった。結局、誰に
も会わなかったので、とがめられることなく使用感を確
かめることができたが……。これは日本国内でも同じ
ことだが、オーストラリアではキャラバンパーク(オー
トキャンプ場)、あるいはオーナーの許可を得てファー
ムステイで利用しよう。キャンプ禁止場所では、宿泊
用の幕営ではない旨を伝えて使用の可否を管理者に
問い合わせれば無用のトラブルを回避できる。
キャンプ禁止の標識はいたるところにあった。
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