Twinkle:Tokyo Women`s Medical University

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僧帽弁狭窄症患者の心電図P波、とくに運動負荷時の変動
について
横山, 正義; 坂本, 敦
東京女子医科大学雑誌, 43(10):825-831, 1973
http://hdl.handle.net/10470/2253
Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database.
http://ir.twmu.ac.jp/dspace/
1
(愛鷹韓31第繍48翻言)
著〕
〔原
僧帽弁狭窄症患者の心電図P波,とくに
運動負荷時の変動について
東京女子医科大学日本心臓血圧研究所(所長:広沢弘七郎教授)
講師横山正義・講師坂本 敦
ヨコ
ヤマ
マサ
ヨシ
サヵ
モト
アツシ
(受付 昭和48年7月10日)
PWa鴨Changes on Exercise in Patie簸ts wi出Isolated Mitral Stenosis・
MasayosLi YOKOYAMA, M.D, and Atsushi SAKAMOTO, M.D.
The Heart Institute ofJapan(Director:Pro£K6shichiro HIROSAWA, M.D.)
Tokyo Women,s Medical College
Patients with mitral stenosis usua11y showed a marked increase in the negativity fbllowing exercise.
The P terminal fbrce in lead VI in 20 cases with iso1飢ed Initral stenosis was O.090 mm. sec. befbre exercise,
which increased to O.177 mm. sec.負)llowing the Master single exercise test.
Normal adults never showed such changes on exercise。 The phenomenoll was considered to be due
to the posterior rotatiorL of the P wave vector in the horizontal plalle, which wa呂induced by the
enlargement of the le銑atrial wall on exercise。
緒
P波の陰性化は著明になる.かかる変化は健康者
言
Ei難thoven1)以来,運動負荷をすると心電図標
にはほとんど認められなかった.
準肢誘導H,皿のP波が大きくなることは知られ
本報告にて,著者らは健康者および僧帽弁狭窄
ている2)∼4).しかし負荷時にP波の前額面ベクト
症患者の運動負荷前後のP波の形態につき述べ
ルがいかに変化するかは知られていない.また同
る.とくに負荷前後の心電図の同時誘導によるP
様に運動負荷時のP波水平面ベクトルの変化につ
波の分析をおこなった.
研究方法
いての研究は,Cortesら5)の断片的報告以外には
対照群として30人(症例番号21より50まで)の健康者
ない6).
著者らは6チャンネルの心電計を使用し,1,
1,皿,V3R, V1, V2誘導を同時記録した.僧帽弁
狭窄症患者は右側胸部誘導にて,僧帽弁狭窄症
に特徴的なP波の陰性化,または二相性のP波
(十,一型)を呈する.僧帽弁狭窄症愚者を運動
負荷し,心電図を記録してみると右側胸部誘導の
をえらんだ.男15人,女15人でいずれも病院の職員であ
る,年令は18才から30才までである.30人の胸部レント
ゲン像,12誘導心電図はいずれも正常で,心臓や肺の疾
患に関する病歴はない.対照群の負荷心電図をとるにあ
たって,Masterのシングルニ階段試験では負荷が軽度
なのですべてMasterのダブルニ階段試験を施行した。
運動負荷前に12誘導心電図と1,H,皿,V、R, V、, V、を記
一825一
2
録した.1,L皿,V3R, Vエ, V2の記録にあたっては, P
手術で診断を確認してある.20例は(症例番号1∼20)
波を大きくするために押送り速度は50mm/秒とし,1mV
洞調律であり,僧帽弁閉鎖不全症や他の心疾患をもたな
を20mmにした.1mVを20mmの高さにすると,(⊇RS波
い男6例,女14例であり,年令は19才から50才までで平
はしばしば振り切れてしまうが,P波は大きく記録され
均年令は33才である.対照群に対する運動負荷はMaster
る.P波を判読するとぎ,拡大レンズを使用する人もあ
のダブルニ階段試験であったが,僧帽弁狭窄症患者にダ
るが,上記のように大きくP波を記録すればかかる拡大
ブルニ階段試験の負荷は症例により不可能であるのでシ
レンズは全く必要ない.
ングルニ階段試験とした.心電図の記録方法は対照群に
撮影・.現像式のほうが直記式より精度は高いが,P波
同じ,この20例の僧帽弁狭窄症患者はいずれも入院中に
に関しては直記式でもヒズミが少ないといわれている.
交連切開術をうけている.20例ともに手術前に心臓カ
Masterのダブルニ階段試験の施行直後に1,H,皿・
テーテル検査を行ない,肺動脈模入学を記録した.襖動
圧とV、のPterminal forceとの相関をしらべてみた.
V,R, V、, V2の記録を前回と同様におこなった.運動負
荷前後の心電図につき,心拍数,前額面P波ベクトル方
New York Heart Associationの機能分類により20例
向,皿誘導のP波高,PQ間隔,V3R,V、,V,のPter−
をわけてみると,Class Hは15例, Clas畷が5人であっ
minal forceを観察した,
た.
V3R, V1, V2のPterminal forceはP波陰性部の波高
Masterのシングルニ階段試験は20例中の14例にて施
と時間とをかけた値である.これはMorrisら7)によって
行した.この14例はいずれもClass Hの患者であった.の
はじめられ1たものであるが,彼らはV、のP波を前部
こりの6例ではMasterのシングルニ階段試験でも施行
(initial portion)と後部(terminal portion)の二つに分
困難なので,運動負荷量をシングルニ階段試験の約半分
けた.しかしわれわれはMorrisらの記録方法よりP波
とした. この6例のうち5例はC翌ass皿の患者で1例の
を拡大してみても,P波を正確に前部と後部にわけるこ
みがClassπの患者であった.
僧帽弁狭窄症も重篤になれぽい一かなる運動負荷試験
とはできなかった.ただ,後部のP波が陰性となる場合
のみその波形領域は明瞭となり,それを正確に測定でき
も不可能となるが,対象の20例の中にはかかる重篤な患
る.したがって本研究では,P波後部が陰性となる場合
者は含まれていない.運動負荷はできる限り正確に1分
のみを研究対象とした.実際の測定値は結果め部でのべ
半で施行した,すべての負荷試験は同じ医師(著者の一
るごとく,対照群30例ではほとんどP波後部の陰性化は
人,M.Y.)がおこなった.
認められず,一方,僧帽弁狭窄症群ではそのほとんど全
僧帽弁狭窄症患者のP波は一般に不安定である.P波
部にP波後部の陰性化を認めた.著者らは陰性すなわち
の波形が安静時でもとき『どき変ることが多い.洞の中あ
マイナスのterminal forceだけをとりあつかったのであ
るいは洞の外でのWandering pacemakerを認めること
るが,記載にはマイナスを省略した.すなわち,・te㎜inal
が多い.しかし,運動負荷前後のP波を正確に比較する
forceの絶対値のみを1記述した. P波後部が陰堕してい
には,P波のoriginすなわち刺激のoriginの位置が同
ないときはすべてPterminal forceゼロと記述した.
一でなければならない.負荷前後で刺激発生のorig三n
te㎜inaHorceの時間単位は“秒”であり,P波波高
が変化したら,そのP波の比較はほとんど無意味となろ
の単位は“㎜”である.したがってte㎜inal forceの単
う,P波を6チャンネル心電計で長く記録すれぽP波の
位は‘‘mm sec”となる.われわれの記録では前記した
originの変化も容易にみつけだすことができる.一つの
ごとく1mVを20mmに拡大しているので,実際のP波波
P波とその次のP波波形が不連続的に変化している場合
高の測定値をエ/2倍してからte㎜inal forceを計算した。
はP波のoriginが変化したと考えた.運動負荷後は2
Morrisの論文やSaundersら8)の論文では,1mVを10
分間連続的に心電図を記録した.また負荷後5分でも心
㎜でP波の記録をしているので,われわれもこれになら
電図を記録した・
って,P波波高の実際の測定値に1/2を乗じたのである.
2例において負荷後のP波の波形が全く負荷前と変
P波の形は呼吸などでも多少変化するので,P波の波
り,それが数分つづいてから負荷前と同様なP波の波形
高や時間を測定するにあたっては連続5心拍の波高や時
に突如として復帰した.また他の1例では,負荷の心電
間を測定し,それを平均した.
図にてL皿,aVFのP波が著明に陰性となっており,
研究対象としては,僧帽弁狭窄症患者として連続20例
冠静脈洞調律を思わしめた.かかる症例はいずれも洞調
の手術例を選んだ.症例はすべて手術前のものであり律
,ではないと判断して本研究対象の20山中には含めなか
一826一
3
つた.
BEFoRE ExERc【sE
結
コ
AF丁ER Ex【E clsE
R
コ ニ じ コ ド
ごロ
コ
↓」レこニレこF柴・ごτ雪.
果
対照群30例のP波の所見は表1に記したようで
ある.1誘導のP波は約1.Ommの高さから1.5㎜
の高さに変った.前額面ベクトルは十5QOから十
」詮寸寸でト圏レ
編謡↑縮轟1:lll卿
65。に変った.運動負荷で前額面ベクトルが減少
した例はなかった.30例のControl群の中で1例
(Case 33)だけ,運動負荷前後でのベクトル変
化を呈しなかった.
表1 健康者(30例)における運動負荷前後
のP波の所.見
Before
After
exerclse
exerclse
male
Pulse rate
female
Pwave ampli
tude in II
Frontal P wave
vector
67.3±
11,2/min.
68.荘一
8.4/min.
99.3±
17,2/min.
105.5±
20.0/min.
male
1.11±0.45mm 1.54±0.65mm
female
0,97=ヒ0.27mm 1.43±0.44.mm
male
53.6=±=!5.30
劃塘搭識1;1盤辮
響料ざ愚謬帯
歌1;ll継懸鯛
.量謹垂塾瓢幽
71.0±10.50
一
female 44.O±13.50 63.3±11.10
図1 症例26(cQntroi群),25才,男子,運動負荷
前後のV3R, VD V2にて,陰性のPtermin−
上記の値は平均値と標準偏差を示す.
al forceは;忍められない.
対照群のV3Rをみると,負荷前では30例中に4
例だけが陰性Pterminal forceを示した.負荷
例だけ陰性Pの存在を認めた.負荷後の心電図で
後では30例中7例が陰性Pterminal forceを呈
も,これら4例は同様に陰性P波を示した.し
した.他の23例は負荷前後ともに陰性P波を呈し
かし,Pterminal forceの程度には変化なかった
なかった.陰性Pterminal forceを呈してもそ
(表2).その値はいずれも0.010mm. sec以内
の値はいずれも0.020mm・secであった(図1).
であった.他の26例では,運動負荷前後ともに,
V3RのP波に陰性部はなかった.すなわちPter−
対照群のV2では,運動負荷前後のすべてに
おいて,P波はプラスであり,陰性Pterminal
minal forceはゼロであった.
forceは全く認められなかった.
対照群のV1をみると,負荷前では30例中に4
僧帽弁狭窄症患老20例のうち(洞調律でないと
表2 健康者(30例)にて,陰性のPterminal forceを示した症例
\一一一堕
、∼、\
へも
cases
\
Case 24(male)
V3R(mm. sec.)
before exercise
0.QO4
Case 27(male)
0.004
Case 33(male)
0
Case 40(female)
0
V1(mm. sec.)
after exercise
0.OO4
1
0.004
before exercise
0.OO4
0.004
o
0
0
0
V2(mm. sec.)
after exercise
before exercise
after exercise
O.004
o
o
0.016
0
0
O.020
0
0
0.OO9
0
0
Case 44(fe血ale)
O.OO4
0.004
0.004
0,004
0
0
Case 45 (female)
0.010
0,010
0.0!0
0.0!0
0
0
o
0.OO8
0
0
Case 50 (female)
0
0
一827一
4
た.負荷前では2Q例中4例にてP波は2.5㎜を越
脳,SEC,
α200
えていた.負荷後では2Q例中6例にてH誘導のP
o
o
波は2.5㎜を越えていた.
o
OO
岩
臣0・150
前額面の電気軸はEinthoven三角から計算する
o
と平均十51。から十62。に変った.僧帽弁狭窄症な
≦
どのように左房が拡大しておる疾患にても前額面
薔。・loo
oo o
よ
o
0,050
O
o
ユ0
20
ベクトルはまったく左傾せず,対照群と同じ値を
o
呈しているので興味深い.運動することによって
o
o
o
前額面ベクトルが垂直の方向に近づくのも,対照
群と僧帽弁狭窄症群とで同じである.
8 。
僧帽弁狭窄症20例証5例にて,P波上額面ベク
30 MMHG
トルの角度は変化しなかった.他のエ5例ではいず
PuLMoNARY wEDGE PREssuRE
れも多少とも前額面ベクトル角度の増加をみた.
図2 肺動脈引入圧とV、のPterminal force
前額面ベクトル角度が減少した症例はない.
僧帽弁狭窄症患者群のV3Rの記録をみるに,陰
判定した3例は除外してある),男はわずか6例で
他の14例は女である.P波の諸計測にあたって,
性Pterminal forceは0.057から0.097mm. sec
男女別にはせず,20例全体のP波の平均値と標準
に増加した.V3Rでは安静時に20例中4例がゼロ
偏差値を求めた.
のterminal forceを示した.しかし運動負荷後で
は20例中!例がゼロのterminal forceを示したの
肺動脈帳入圧は18.0±6.2㎜㎏であった.この
抄入圧と安静時心電図V1のPterminal forceと
陰EF。RE E・ERCISE
擁懸盤姦
の相関関係をしらべたのが図2である.この図か
ら両者の相関は多少あってもその程度は強くない
ものと考えられる.
20例の僧帽弁狭窄症患者では,Masterのシン
グルニ階段試験によって,心拍数は69/分から
111/分に増加した.この増加率はMasterのダブ
ルニ階段試験を施行した対照群と類似である(表
『...《EI三三..盤⊆5RCISE
素蟹糧叢
錨誕.轟講ま
3).
.・・一・.・一」・・一1.一一一二1一→一=一}・尋一刀
一=
H誘導のP波波高は1.70㎜から2.32㎜に増加し
熊輩.i尋蒔毒弄.華
表3 僧帽弁狭窄患老(20例)における運動負
荷前後のP波の所見
蘂婆lll庭1叢……≒
・・…eex・・c・・el・・…ex・・c・・e
Pulse rate(/min.)
Pwave amplitude
三nlead lI(㎜)
Frontal P vector(o)
Pterminal force
in lead V3R(mm. sec)
Pterminal force
in Iead V1(mm。 sec)
Ptemlinal force
in lead V2(mm。 sec)
69.0±13.5
111.0=ヒ14.2
1.70±0,65
2.32±二〇.76
5!±21
62±17
0.057=ヒ0.052
0.097=ヒ0。078
0.090±0.065
0.177±O,113
0.026±0。044
0.076±0.097
1亙lll:・li墾:ll}1ヨ翌畷濃=:.、
號塩鮪i.h
層=一
函3 症例18(僧帽弁狭窄症),19才,男子.V、R,
V1, V2のPte㎜hlal forceは運動負荷前は,
0, 0,040,0.020mm・sec・であったが,運
動負荷後は著明に増加して,それぞれ,
上記の値は平均値と標準偏差値を示す.
0.090, 0.280, 0.210mm. sec.となった.
一828一
5
みで,他の19例ではV3RのP波がいくらかなりと
疾患の際,P波の後半のベクトルは水平面にて後
も陰性部分を呈していた.
方に回転する.したがってV1誘導で記録する
と,このP波の後半のベクトルが深い陰性の振幅
僧帽弁狭窄症群のV、をみると,全例に陰性P
terminal forceを示した.負荷前は0.090であっ
としてあら:われる.
たものが負荷後では0.177mm. secとなった(図
僧帽弁狭窄症患者の食道造影をすると,食道が
左房後壁の圧迫をうけて後方に変位していること
3).
V2のPterminal forceを計算すると0.026か
がわかる.
ら0.074mm. secに増加している.負荷前は20例
Kasser and Kennedy13)をま, V1のterminal force
中11例にてP波の陰性化が多少なりとも認められ
と左房の体積とは高度な相関を示すと報告してい
た.:負荷後では20例中17例にP波の陰性化を認め
る。彼らによれぽ,V1のterminal forceと左房
た.
内圧とは相関がそれほど高くない.
このようにP波の陰性化に関してはV1誘導が
最も著明で,次がV3R,次がV2であった.この
portionが陰性の方向に大きくふれるのはどうし
傾向は運動負荷前後とも同じである.
てであろうか,種々なる心疾患の安静時心電図を
考
運動負荷により,V3R, V1, V2のPterminal
案
みるに,左心房拡大を呈する症例にPterminal
以前から皿,皿誘導;のP波は運動負荷にて増高
forceの陰性化をみる. これから類推するに,運
するといわれてきたが,その真の原因は明確でな
かった.1・i・awaら4)は右心房と左心房との興奮
動負荷でPterminal forceがさらに陰性の方向
をむくのは運動負荷後左房圧が上昇し,それによ
がほぼ同時に接近しておこるとP波波高が増加す
って左心房が拡大するためであろう.左心房は左
るのだと説明した.しかし運動負荷後のH誘導の
:右および後方へと拡大するが,V3R, V1, V2の位
P波波高が負荷前の2倍以上に達することがとき
置からでは後方拡大が主に表現されるものと考え
どきみられる.また1誘導のP波波高は運動負荷
られる.
によりかならず減少するので,著者らは前額面の
肺動脈二三圧と Pterminal forceとは図2で
P波ベクトルの方向の変化によってE,皿誘導の
みるごとく,直接の相関はない. したがってP
P波が増高するものと推察している.
terminal forceが決定される因子は左房圧そのも
僧帽弁狭窄症患者では左房負荷があるので,P
のでなく,左房圧上昇によりひきおこされる左房
波前額面電気軸も左傾すると一般には考えられて
壁の拡大・伸展であると考えられる.ファロー四
いる.しかし,P波を拡大して記録し,実際にP
二症根治術後,肺血流量が増加し,チアノーゼ消
波前額面電気軸をしらべてみると,正常老でも左
失し,心不全の徴候もみられない状態で,V8R, V1
房負荷のある症例でもほとんどかわらない値を示
のP波がしぼしぼ陰転ずる症例をみているが,右
す.運動負荷後の変化をしらべても前額面電気軸
房との関連において左房壁が伸展すれぽ,V3R,
に関する限り,正常者と左房負荷症例の間に変化
V1のPterminal forceが陰転ずると考えられ
をみない.
る.
運動負荷前後のPQ時間, H誘導のP波巾など
P波を大きく記録すると二つの山が認められる
ことが多い(この山の境界はあきらかでない).こ
も測定してみたが,ほとんど変化しない,PQ
の二つめの山は左心房の心筋の脱分極によって生
時間は負荷後は多少短縮する.したがって,V3R,
ずるものと考えられている9)覗).ところが,正
V1などにみられるP波の運動負荷後の陰性化に
常者にてはP波の二つめの山のベクトルの方向は
刺激伝導の遅延は関係していないものと推察され
Vエ誘導とほぼ垂直となる.したがってVエ誘導に
てP波の二つめの山のベクトルはほとんどあらわ
れない.Sanoら12)の研究によれぽ,左心系の弁
る.
われわれは大動脈弁閉鎖不全症,心房中隔欠損
症,肺動脈弁狭窄症などの患者に同様の運動負荷
一829一
6
広沢弘七郎心研所長なら!びに今野草二外科主任教授
試験をし,P波の変化を観察してみた14).これら
の疾患をもつ患老でも,運動負荷で陰性Pter−
の御校閲を深謝する.
文 献
1)E…皿tboven, W・;Weiteres ueber das
minal forceが出現または増加するが,その程度
は僧帽弁狭窄症患者の場合に比較して非常に軽度
Elektrokardiogramm. Arch f d ges Physiol
であった.僧帽弁狭窄症のときだけがとくに著明
122 517 (1908)
2)Scherf」D. and A.1. Scha昼er。: The electro−
にPterminal forceがマイナスとなるのは,運
cardiographic exercise test. Amer Heart J
動負荷により簡単に左房圧が上昇してしまうため
43 927.(1952)
であろう.左房圧が上昇すれぽ心房壁は圧迫伸展
3)Rosen,1。L and M. G兄rdbefg.=The
ef正ヒcts of nonpathologic factors on the electro−
せざるをえない。
cardiogram.1. Results of observations under
controlled condition. Amer Heart J 53494
Sutnickら6)は左心不全があるときも,V1で陰
性P波が出現するという.また急性心筋硬塞のと
(1957)
4)Irisaw窺,麗。 and I。 Seyama・3 The con一
きも同様の変化がでるという15).
丘guration of the P wave during mild cxercise.
和田16)は負荷心電図にてV1に陰性P波があら
Amer Heart J 71467(1966)
われる症例を“潜在性心不全”とよんでいるが,
5)Corte5, F。 and L.A. Solo舐.;Unpublished
observations, cited by Sutnick, A.1. and Solof鳴
負荷後V1でP波が陰性となるのは,かならずし
も心不全の発生と関係ないと著者らは考えてい
L.A.8)
6)Sutn三cL:, A.1。 and L.A. SolofL: Posterior
る.V1のP波の陰性化は水平面P波ベクトルが
rotation of the atrial vector. An electro−
後方にむくものと単純に理解してよい17)僧19).
cardiographic sign of lef℃ ventricular failure.
Circulatめn 26913(1962)
僧帽弁狭窄症を交連切開術によって手術しても
7)Morris, J・J・, Jr・, E・H・Estes・R・E・Whalen.
右側胸部誘導の陰性P波はほとんど不変である.
H.K。, Jr. Tbompso血, and H.1)。 Mclntosb.3
P−wave analysis in valvular heart disease.
Circula亡i・n 29242(1964)
8)Saunders, J.L, J・8・ Calatayud, K・J・
Scbulz, V. Mara油残。, A.S. Gooch and
H.Go豆dberg.= Evaluation of ECG criteria
しかし手術がうまくゆくと手術後患者に運動負
荷試験をさせてもPterminal forceが増加しな
い.このことについては別の機会にのべようと思
う.
結
長)rP−wave abnQrmalities. Amer Heart J
語
74 757 (三967)
20例の洞調律の僧帽弁狭窄症患老にMaster
9)Wenger, R・and I)・Ho㎞ann・Cudner.=
Observations on thc atria of the human heart
singleの運動負荷試験をし,心電図を記録した.
by direct and semi−dircct electrocardiography.
V1のPterminal forceは負荷前は0.090mm. sec
Circulation 5870 (1952)
であったが,負荷後は0.177mm・secとなった.
10)Rey血。且ds, G.= The atrial electrogram in
mitral stenosis. Brit Heart J 15250(1953)
健康老には運動負荷後このような変化はみられな
11)Puecb, P., M。 Esclav董5sat, D. Sodi.Pa1・
い.
1ares and F. Cisnems.= Normal auricular
運動負荷でPterminal forceが増加する理由
activation in the dog’s heart. Amer Heart J
47 玉74 (1954)
は左房圧が上昇しそれによって左房壁が拡大し,
12>San⑪, T., H.K. HeUerste量n and E。P. Vayda.2
P波水平面ベクトルが後方にむくためと考えられ
Pvector loop in health and disease as studied
by the technique of elcctrical dissection of
る.
the vectorcardiogram (dif琵rential vector
cardiography). Amer Heart J 53854(1957)
僧帽弁狭窄症の患者は左房負荷があってもP波
の平均前額面電気軸は正常者と同じであり,運動
13)Kasser,1。 and J.M。 K:ennedy。:Thc
負荷後の電気軸は僧帽弁狭窄症患者も正常老もと
relationship of increased le疵atrial volume
and pressure to abnormal P wave on the
もに約10∼200右傾する.
electrocardiogram. Circulation 39339(1969)
14)横山正義・坂本敦:運動負荷後のP波の変
動.呼吸と循環2163(1973)
一830一
7
15>Grossman, J.1. and AJ. Delman。=Serial
(1972)
18)前田如矢:心電図による心電負荷診断基準の
検討,とくに本邦人健康人における偽陽性率
Pwave changcs irl acute myocardial infarction.
Amer Heart J 77336(1969)
一左房負荷基準について一.Jap Circul J 36
16)和田 敬;第36回日循総会(金沢)心不全シ
1164 (1972)
ンポジウム(1972)
19)川真田恭平:心房負荷心電図の解析.Jap Ci「・
17)横山正義・乃木道男:負荷心電図における僧
cul J 32 1045 (!968)
帽弁狭窄症患者のP波について.医療26315
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