8号 - 宮崎学園短期大学

目 次
「教育者」を考える(その1) ………………………………………………………… 山下 忍 … 1
統合保育の状況について
~保育実習Ⅱ後におけるアンケート調査からⅡ~ ………………………………… 野坂 敬 … 4
教育業績記録(Teaching Portfolio)導入に向けて
—IPDCA サイクル検証による自律型人材育成制度の提案— ……………………… 宗和 太郎 … 8
大学における情報メディアの活用
学習者特性・学習支援・e ポートフォリオ ………………………………………… 日髙 英幸 …12
幼稚園教育実習の研究保育アンケート集計結果
幼稚園教育実習(平成23年5月30日〜6月18日)の研究保育の実施状況 …… 常盤 哲郎 …15
学生と双方向で展開する授業実践
― 介護過程演習の取り組み ― ……………………………………… 花畑 明美・戸敷 早苗 …19
宮崎の神楽の魅力(Ⅱ)
― 舞の豊かさについて「採物」― …………………………………………………… 佐々木昌代 …25
保育の音楽におけるピアノ技術
―「弾き歌い」を行うことについての一考察― …………………………………… 中武 亮子 …28
イベント会場を彩る幼児のための手づくりおもちゃ ……………………………… 守川 美輪 …32
『人間の研究Ⅱ(勤労)』における指導の在り方 そのⅣ
~ 勤労観・職業観の育成を目指して ~ ………………………………………… 岩切 徹志 …35
小児体育Ⅱの指導について(その3)………………………………………………… 佐藤 芳信 …39
協同学習の授業形態が仲間への質問行動に対する認識の変容に及ぼす影響 …… 野﨑 秀正 …43
「教育相談」における学生の学習内容とニーズ ……………………………………… 江村 理奈 …46
コード伴奏法の指導法研究
~「あそびと音楽」での実践を通して~ …………………………………………… 後藤 祐子 …49
保育者の言動からその心を知るⅡ
~保育科2年生の授業における保育指導案作成を通して~ ……………………… 大坪 祥子 …52
質問力向上及び協同学習に関する指導法の研究
―保育科1年生の授業における協同学習を通しての一考察― …………………… 黒瀬美智子 …55
幼保一体化に関わる考察
―子ども・子育て新システムの具体的内容等を踏まえて― ……………………… 和田 政吉 …59
授業改善の試みについて ……………………………………………………………… 川野 哲朗 …63
小児栄養の指導の工夫
― 『食育』の指導を通して ― ……………………………………………………… 齋藤 典子 …67
地域共生における交流活動の一考察
- 1 年生・2 年生それぞれの視点から- …………………………………………… 川越 志保 …70
初年次教育におけるレポート執筆指導に関する一考察 …………………………… 桑畑洋一郎 …74
リテラシーの育成に関する指導法の研究 …………………………………………… 松野 隆 …78
高鍋藩の藩校明倫堂について
ー小学校地域教材研究のために ……………………………………………………… 黒木 國泰 …81
パクパク動物 指人形2種類(犬・熊) と動物お面
…………………………… 高橋 裕 …85
保育科「あそびと音楽Ⅰ・Ⅱ」における、
『コードによる弾き歌い』の指導について ………………………………………… 片野 郁子 …88
電子黒板と教育システム ……………………………………………………………… 大坪 勝郎 …91
理科学習における先行経験の変容-2 ……………………………………………… 伊東 信一 …94
幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続のための実践 …………………………… 湯地 正隆 …98
小学校家庭科の被服作品づくり
―食生活指導の教材に活用― ………………………………………………………… 坂元マモル …102
「あそびと言葉」の授業開発
………………………………………………………… 椋木 香子 …105
ドイツリート(歌曲)の演奏法の研究 ……………………………………………… 末平 浩康 …108
ピアノ再考
(楽器の誕生・変遷) …………………………………………………………………… 宮崎 賢二 …110
「ピアノ演奏」に関する教育研究
~「第22回宮崎ピアニストグループ定期演奏会」~ …………………………… 田中 幸子 …113
宮崎学園短期大学「こども音楽教育センター」の 20 年を振り返る ……………… 山下 恵子 …116
みやざき国際ストリート音楽祭の展望
~宮崎には音楽の咲く季節がある~ ………………………………………………… 井手 茂郎 …119
作曲法の授業での取り組みについて
~「ベートーヴェンのピアノソナタ」その3~ …………………………………… 池田 敦子 …122
五音音階と日本の音楽 ………………………………………………………………… 黒木亜美子 …125
日本経済を創造した近江商人たち …………………………………………………… 久保 良一 …128
The Goldilocks Zone and other Rare Privileges …………………………… Richard Baker …132
教師の見識 ……………………………………………………………………………… 大塚 稔 …135
要約の課題から ………………………………………………………………………… 原田 真理 …139
教員養成事始め(3)
宮崎県師範学校・宮崎県女子師範学校について …………………………………… 米良 栄州 …142
忍ケ丘クエストの試み ………………………………………………………………… 塚本 泰造 …146
最終講義の報告
―市民講座― …………………………………………………………………………… 市﨑 一章 …149
協同学習に関する指導法の研究 ……………………………………………………… 谷口 和子 …152
人間の研究Ⅰ「礼節」に関する一考察(その2)
~協同学習の段階的導入~ …………………………………………………………… 倉永 愛子 …155
「教育者」を考える(その1)
山 下 忍
1.はじめに
年刊の『教育研究』が発行され始めて、この平成23年度で第8号となることに、ひとつ
の驚きを覚えている。第1集が誕生するに当たっては、様々な意見があり危惧があった。「僅
か4000字の小論文で、どうして『教育研究』を記述することができようか」という意見
もあり、これについては、
「小論文には小論文なりの意義があろう」ということで落ち着いた。
一番危惧されたのは、発行の企画者が求めた「全教員が論題を決めて記述し提出する」とい
う点であった。定めた期日までに全員が漏れなく書く、それは、全教職員が一致協力して第
1周期の第三者評価をやり抜く、それも一番乗りでやり抜くと覚悟して、熱気あふれる姿で
日々を過ごしていた平成16年度においても、やはり大きな危惧事項であった。平成17年
3月発行の初刊の『教育研究』、次いで平成18年3月発行の『教育研究』の何れにも、「第
1号」「第2号」の号数が打たれていないのが、その間の事情をよく示していると私は思って
いる。そうした経緯を持つ『教育研究』が、様々の教育研究を掲載しながら遂に第8号の発
刊を見るに至った。このことは、本学にとって大きな慶賀すべき実績であると言っていい。
そうしたことごとに誇りを抱きながら、私は、第4号から第7号まで4回にわたって記した
「『教育』を考える」に次いで、「『教育者』を考える」を記述する。「教育者」である己を鍛え
てくれたものは何か、それを改めて想い起こし、自省し、感謝することは、そのまま「教育」
のあるべき姿を考えることになると思うからである。
2.教育者を鍛えあげてくれるもの
1)生徒・学生
教育者を鍛えあげてやまないものの第1は、教育される側の生徒であり、学生である。「さ
ずける側」が、「さずけられる側」によって鍛えられるのは、何も教育現場に限ったことでは
ないであろうが、ともかく学校教育においては、教師は常に指導する生徒・学生によって教
えられ、鍛えられる。
もう30数年も前のことである。その時、私は、新たな年度を迎えて、高校1年生のクラ
ス担任となった。私は受け持った生徒達に、「学級日誌」を存分に活用してほしいと語った。
高校の国語教師として歩き始めた当初から、私は接する若者達に、努めて本を読むように、
特に文学書に親しむようにと願った。同時にまた、「書くこと」を求めた。自分自身はもとよ
り、若者達もまた、
「沈思黙考」の時間を有することが大切であり、
「本を読み」「思いを記す」
行為は、自ずと沈思し、黙考する行為につながると考えたからである。
-1-
私の長く勤務した学校においては、幸いにして学級日誌に「余白」があった。二つ折で綴
じられている用紙にペーパーナイフを入れると、出欠や清掃の状況等を記す裏面に、大きな
余白が生まれた。私は、交替交替で日直を務め、日誌を記録する者たちに、その余白には、
「こ
こ数日で、印象深く目に触れたこと」、「ここしばらく考え続けていること」、あるいはまた、
「読み終えた書物に関する思い」等々を、少し長目に記してくれるように頼んだ。そして、そ
れら記されたものについては、担任としても思いを返すと、言葉を添えた。
4月が中旬、下旬と過ぎていっても、余白はなかなか埋まらなかった。「この学級には同じ
中学から来ている者は誰もいなくて、なかなか周囲になじめない」とか、「先生が要求する宅
習時間を確保するのは容易ではない」とか、そうしたことが数行書かれる程度で、それらに
対する担任の私の思いの方が分量的には多い状況であった。入学したばかりの高校1年生で
あれば、それが普通ということであろう。そうした中で、6月の12日、遂に日誌の余白に
書ける限りは書いて、それにレポート用紙をプラスしてのり付けし、勉強のこと、テストの
ことを、必死に記したものが誕生した。その貴重な文章は、
「僕は思う。まじめにこつこつやっ
ていくしか、脱出する道はないと」という一文でしめくくられていた。そして、その後に、
「今、
僕が思っていることを率直に述べてみました。どう思いますか。」と記されていた。私は最後
の部分に対して、「これについては全く同感だ」と記した上で、「ああでもない、こうでもな
いと思い悩み、様々な思念、観念にふりまわされるのが若さの特質だ。それ故に勉学に関す
る思いにしても千々に乱れたりもする。そこから脱出し、ある目標に到達する手段とは何か。
僕は、観念をふり払って、眼前にある具体的事項を一心不乱に消化していくことにあると考
える。君の場合は、特にそれが必要ではないか。」と担任としての思いを述べた。
この「レポート用紙1枚添加」の出来事があって以来、用紙の追加はしばしばとなった。
6月26日の追加用紙には、「現在7校時が終わったところ。書きたいといっても、とりたて
て書きたいことがあるわけではないが、やっぱり何でもいいから書いてみたい気がする。(ど
ういう心境の変化なんだろうか。今まで一度も書いてみたいと思ったことがなかったのに)。
さてと、それでは読書について書くことにしようか。」(前略、後略)こんな文章が書かれて
いた。そして、10月以降となると、レポート用紙の追加、それも、幾枚も継ぎ足されたも
のの追加は、ほぼ毎日となり、年度末が近づくと例外なしの大量記録となった。1、2例を
記すと、2月24日は、つけ足されたレポート用紙は5枚、内容は、
「その1・今日の出来事」、
「そ
の2・愛読書」、「その3・終わりにあたって」の3部構成となっている。3月17日のもの
は、レポート用紙は9枚、文字は小さめでびっしり、中味は、進路に関わること、自分の生
き方に関わること、好きな文学に関すること、身近かな選挙に関わっての政治への思い、さ
だまさしと小椋佳に関すること、エピローグ。そして、長い文章の最後に記されたのは、「そ
れじゃ、おしまいにあたって。みんなありがとう!ありがとうみんな!これからもよろしく!
みんな元気でゆこう!」という感謝の言葉であった。
随分と長々しく「学級日誌」について記した。しかし、私にとっては、30数年前に誕生
したこの「学級日誌」は、ただの「日誌」ではなかった。「宝物」であった。高校1年生が生
み成したこの一冊の学級日誌から、私は、多くのことを教えられ、また、鍛えられもした。
・若者というのは、はかり知れないエネルギーを持っている。
-2-
・若者のエネルギーは、一度点火されると、たちまちのうちに美しく、感動的に燃え広がる。
・若者のエネルギーに、どう点火させるか、教育はそこが勝負なのだ。
・若者のエネルギーが爆発する、それを教師としてどう受け止め、どう応じていくか、そこ
もまた教育の勝負どころなのだ。
実際にはもつともっと多くの教えを受けた。私は、30数年間、大切に手元に保持している
「学級日誌」を横手に置きながらこの文章を記しているが、教師にとっての「教師」の第一は、
間違いなく、
「教えを受けてくれる若者達」なのだと、今もまた改めて、つくづくと感じている。
私は、今一つ、若者のエネルギーの大きさについて記しておきたいことがある。
私は、卒業期を迎えた高校生がわが家を訪れた折に、ささやかなプレゼントをした。それは、
加藤周一の岩波新書版の『羊の歌』を贈る行為であった。
私は、かつて『羊の歌』を手にし、読了した時、己の青春を悔いた。加藤の幼少年期から
青春期にかけての過ごしようと、己のそれとの余りの違いに愕然とし、今更悔いても詮方無
しであるのに、随分と長い間悔い続けた。そういうこともあって、君達は悔い少なくあれと
願いながら、ささやかなプレゼントをし続けたのである。
そうした中で、忘れようもない出来事が生まれた。大学に入っても、時折状況を書き送っ
てくれていた者が、大学卒業を間近かにした時、特別に長い手紙をくれた。大学入学以来、
アルバイトで貯めた金で、文学のみならず、自然科学その他あらゆる分野の岩波新書を購入し、
書棚を充実したものにすることができた、先生からいただいた新書版の『羊の歌』が、その切っ
掛けとなってくれたとの報告であった。驚いたし、嬉しかったし、何より、教えられ、励ま
された。若者は大人の一寸した行為に感謝し、びっくり仰天する行動をとってくれるものな
のだ。そのことを忘れてはならないと思った。
3.おわりに
若者から受けた有難さについては、まだまだ数多くの記しておきたいことがあるが、
「生徒・
学生」のことについては、一旦ペンを置く。
次回からは、
「同僚」、
「地域の人々」、
「新聞」、
「書物」等の項目で、
「教え、鍛えられたことごと」
を記していきたい。
-3-
統合保育の状況について
~保育実習Ⅱ後におけるアンケート調査からⅡ~
野 坂 敬
1.はじめに
この調査は、平成21年度から学生が実習を通して得た情報をアンケートとして収集し、
蓄積し、「統合保育」(健常児と障害児の同一保育)の変化や実施状況及び、園が抱える課題
(説明を受けたもの)を傾向としてとらえようとしたものである。従って、正式に園に調査を
依頼して課題を明らかにし、そこから出した結果でまとめたものではないことを理解してい
ただきたい。あくまで、学生自身が保育所・園(以下園と表記)から直接「障害名」を説明
されたものと、保育士が実習にあたって説明していただいたものを基にまとめたものである。
従って、内容的には、学生の未熟な目を通したものを含んでいる事は否めない。しかし、時
代のニーズに呼応して多くの保育現場において行われるようになった「統合保育」の現状と、
利用する多様な障害児の特徴と支援体制を調べることは、「障害児保育Ⅰ・Ⅱ」の授業の中で
学生自身が実態を共有化し、「障がい」の特性や対応についての基礎的知識を高めるためには
有効な授業項目である。今年度は、平成21年度から23年度までの3年間を比較することで、
課題・傾向を明らかにし、次年度からの授業に活かしていきたい。
2.研究、調査の方法
2年時後期の2週間の実習終了後の「障害児保育」の授業の中で、①障害児の利用の有無
②障害名 ③保育の配慮点 ④ 気になる子の存在とその行動 ⑤ 保育士の対応 の5
項目について実習に参加した一人一人のアンケートの回答結果(平成21年度と平成22年
度調査)の2年間の比較で傾向を見ることとした。障害名については、基本的には、保育園
で説明を受けたものについてのみ障害名を入れ、学生の判断は除外する方法でまとめた。
(1)調査対象者は、保育科2年の「障害児保育」受講学生 21年度は、 計113名 (A、B、C、D)クラス
22年度は、 計153名 (A、B、C、D、E、F)クラス
23年度は、 計129名 (A、B、C、D、E、F)クラス
(2) 調査内容
① 障害児の保育園利用の有・無
② 障害名(保育園で説明を受けている障害名) ③ 気になる子ども(グレーンゾーン)の有無(障害名は診断されていないが障害が疑わ
れると説明された子ども)
④ グレーゾーンの児童の困っている行動
⑤ ②、④に対する保育(援助・指導)の状況
-4-
}
次年度まとめ予定
(3) 授業では、グループに分かれ、それぞれの実習先での状況を報告し合い、調査結果とし
てまとめ、各障害の特性と対応等について各園で行われている援助についての共有化を図り、
「望ましい保育の在り方」として討議し、発表という流れで「調査」を活用した。
3.調査結果と各項目の考察
(1)障害児の保育園利用の有無 図 1 表は、平成23年11月に行った実習園
131カ所の園に「障害のある子ども」の利用
があったかどうか(実習園から「障害名を診断」
されていると説明された児童数)を調べたもの
である。この表で見ると平成22年度と23年
度はそれほど大きな変化は見られておらず実習
先園の4割近くが障害児保育に取り組んでいる
事を示している。実習園は毎年同じ保育園にお願いしているわけではなく、学生の希望や居
住地域で依頼しているものである事を考えると、毎年違った保育園が実習先になっていると
いうことであり、22年度と大きな変化がなかったことは、多くの保育園が障害児童を受け
入れている事を現わしているものと推察することができる。(21 年度については、調査時の
質問の仕方が明確でなかったために推測を含んだ数字となった可能性がある。)
(2)障害児利用人数(1園当たり人数)
表は、1園当たりの障害児の利用数を現わし
たものである。
グ ラ フ 上 で は 大 き な 変 化 は 見 ら れ な い が、
23年度でみると1名利用が僅かに減り、2
名以上が微増している事が分かる。利用児の
増減は、保育所周辺の障害児童の利用希望の
有無によって変化していくわけであるが、近
年では、設備の改善や人的配置に予算が付く
など障害児保育環境も整備されるようになり、
且つ、保護者のニーズとしても保育の質を求める傾向が見られるようになり、「選択」が進む
ようになっている。従って、取り組みの良い保育園には多くの障害のある児童が入園待ちで
待機していることも見逃してはならない。
(3)
障害名(表は、利用人数を%で表してある。)
次ページの表 3 は、診断により障害名が判明している児童の障害名分布である(保育所か
らの説明があったもの⇒診断機関の診断名がついているものと判断)。
全体的に表の特徴をみると、知的障害や自閉症の利用数がこの表で見ると知的障害児の利
用が激減、自閉症が減少傾向にあり、逆に広汎性発達障害が増加している事を現わしている。
これは発達障害に関する診断基準の明確化や、保護者の障害に関する理解や受容しようとす
-5-
る意識が進んでいる事を現わしていると言える。
「広汎性発達障害」についても(現在は、表の中に占める割合が大きいが)、今後、保護者
の障害に対する保育園や周囲の支援体制が整い、親の精神的受容等が進めば ADHD や LD、
情緒障害等に分類されて細分化し、減少するものと考えられる。
(3)保育園利用障害名
今回の特徴をもう少し細かく見てみると、広汎性発達障害とアスペルガ―の診断が増加し
ていることから、知的障害や自閉症の数値が下がっている事が明確になっている。この診断
が進んだ側面を考えると
① 診断機関の充実と診断に至るまでの支援センタ等のコーディネーターの支援体制が充
実してきている。(親に対する細やかな支援と園との協力関係)
② 保育園側の各種の障害に対する理解がすすみ、関係機関との連携による専門的知識の
習得がすすみ、保護者への助言がなされるようになってきている。
上記の 2 点がグラフの変化に現れてきているものと考えられる。しかし、
「早期発見・早期療育」
が浸透しつつあるといっても、親の「障害受容」の面から考えると、障害を認めることは親
や子どもの「人生観」を変えることであり、また、当事者だけの課題ではなく周囲の意識も
含んでいるため、重く、大きな課題として横たわり、診断を飛躍的に進められない原因となっ
ている。
(4)
「気になる子ども」の有無
家庭や地域の養育機能の低下に伴い、近年、心理、行動面に問題を抱えている児童が数多
く報告されるようになっている。
この表では、学生が実習を行う中で指導保育士等から、「気になる子」として注意を向け
表 4 気になる子の有無
られていた児童の有無を調査したものである
が、学生自身の判断でアンケートに「有無」
にカウントされた傾向もあるとして見ていた
だければと思う。しかし、保育現場ではこれ
ら「気なる子」の対応は保育困難児として保
育士の業務過重の原因となっており、大きな
ストレスの一つとなっていいるといっても過
言ではない。
-6-
(5)「気になる子」(グレーゾーン)について(数字は%)
この表は、表4の内容(グ
レーゾーン)を行動面等
から具体的保育困難や気
になる行動等の内容を調
べたものである。
調査時点での基本は「気
になる子」として保育園
側が注意を払っている児
童であることを原則に調
査を行ったが、障害名が
確定していない児童の中
にも行動障害的児童の多さが保育現場での「保育 = 教育」を複雑にしている事が明らかなっ
ている。特に、「多動(衝動性含む)」、「かみつき」については他児を巻き込む事が多く、怪
我等で苦情につながるため、対応について保育士が一番気を使うところである。しかし、現
在のところ適切な対応がなされず、逆に行動規則を強めることで障害的行動を増幅させる結
果となっていることも考えられる。
4 まとめ (関係機関との連携と障害受容)
この表は、平成22年度の宮崎中
央地区の障害児者サポートセン
ター(発達障害支援)の1年間の
相談支援件数を表したものであ
る。この表で明らかなように行動
面や発達面に不安を感じながら
センターを訪問し、相談をしたに
もかかわらず診断までに至らな
かったケースが半数近くいる事
に着目したい。保護者が相談支援
センタ―を訪れるまでには、支援センターのコーディネーターと保育園との連携の下に援助
の留意点や保育士の係わりのあり方等の基礎的援助の助言が話し合われ、慎重な手続きの積
み重ねから保護者への説明が行われ、問題となる行動の解消に向けた取り組みが始まり、保
護者理解のもと家庭での行動改善も行われ、専門医師による診断へとつながり、特性に応じ
た「療育」が保育園・家庭で実施されることとなる。しかしながら、表に見られるようにセンター
での相談はできても、障害を告げられる恐怖から医師の診断までたどり着けない事が多く、
「障
害受容」の難しさが明確となっている。このことは、保育士養成の中で単に障害名や障害特
性を学ぶだけでなく、関係機関との連携のありかたや「受容」についての理解や自分自身の
受容について理解することの大切さを学ぶ事が必要であることを示しているといえる。 -7-
教育業績記録(Teaching Portfolio)導入に向けて
—IPDCA サイクル検証による自律型人材育成制度の提案—
宗 和 太 郎
人材育成について
人材育成について石渡朝男(2007)は次のように述べる。
「組織は人なり」「人は経営の要」と言われる。組織の存続は「人」にかかっている。人材
育成の基本は「自学」、すなわち「自ら学ぶこと」であると言われている。しかし、人を育て
る本質は自ら学ぶことであっても、自分から学ぼうとしなければ人は育たず、また放ってお
いて育つわけはなく、「自ら学ぶ」ための仕組みが必要である。
本学は平成 10 年より日本一の短大を目指して FD 活動に取り組んできた。その根本はやは
り「人」であり、日本一の教職員作りができる仕組みが大切である。
中央教育審議会は「学士課程教育の構築に向けて」答申(2008)において「FD を単なる
授業改善のための研修と狭く解するのではなく , 我が国の学士課程教育の改革を目的とした ,
教員団の職能開発として幅広く捉えることが適当である。」とした上で、大学に期待される取
組として次のような言及がある。
◆個々の教員の授業改善に向けた努力を支援する体制を整える。
教員の求めに応じて授業の実態を診断し , 具体的な助言を行うコンサルテーションの充
実に努める。優れた教育実践を行う教員に対し , 例えば , 顕彰や教育方法改善に向けた
援助を行うことを検討する。
◆教員の人事・採用に当たっての業績評価について , 研究面に偏することなく , 教育面
を一層重視する。
大学として , 自学の教員に求める役割・責務 , 専門性等を学内外に明らかにする。評価
に際しては , 教員の自己評価を取り入れる(教員は , 学生による授業評価の結果を自ら
の評価に反映させる)。評価の対象として , 例えば , 優れた教科書や教材の作成について
も積極的に位置付ける。FD に関する積極的な取組についても , 適切と認める場合は評価
の対象とする。さらに , 授業改善に向けた様々な努力や成果を適切に評価する観点から ,
教員が教育業績の記録を整理・活用する仕組み(いわゆるティーチング・ポートフォリオ)
の導入・活用を積極的に検討する。 教員の役割の機能分化(教育・研究・社会貢献など)
に対応した教員評価の工夫について研究する。
ここで言及されたティーチング・ポートフォリオは、1986 年カナダ大学教員協会で提唱さ
れた大学教員の業績書 Teachig Dossiers が発端であり、その後 1991 年アメリカ高等教育協
会が『ティーチング・ポートフォリオ』
(初版)を発行することで広がり、現在はマレーシア、フィ
-8-
ンランド、ケニア、イギリス、香港、エクアドル、ベラルーシ、南アフリカなど 2500 大学
が取り入れていると言われる(セルディン 2007)。
日本では弘前大学が教育改革の手法として注目し、4名の教員をカナダの先進校ダルハウ
ジー大学に派遣し、導入した(土持 2007)。その後、大学評価・学位授与機構が大学評価の
手法として注目し、前掲書を翻訳すると共にアメリカから第一人者を招き講演並びにワーク
ショップを開き、普及に力を入れている(大学評価・学位授与機構 2009)。
ティーチング・ポートフォリオ(TP)とは
ポートフォリオとは、もともと建築家、写真家、芸術家らの、これまでに生み出した作品
の中で最も優れたものをまとめた作品集を意味したが、大学教員の業績として軽視されてい
た教育業績を提示するものとしてティーチング・ポートフォリオは普及していった。ティー
チング・ポートフォリオ作成の主な目的は、自分の教育活動を省察することと人事評価の資
料として提出するためにある。目的によって、また大学によって、あるいは個人によって項
目・形式は様々であるが、自らの教育活動について振り返り、自らの言葉で記し、様々なエ
ビデンスによって記述を裏付けた、教育業績についての厳選された記録である。本文で 8 〜
10 頁以上にならないように制限している大学が多いようである。中心になるのは次の6つの
項目である。
①教育上の責任:何を担当しているか、全体の中で責任分担。
②教育理念(I):自分の教育活動が目指す理念、依拠する信念、教育と学習に関する自分の
考え方の成長と変化。
③教育の方法(PD)(目的・戦略・方法論)
:どのように教えているか、シラバス・テキスト・
授業スタイル・課題・試験・評価
④評価と成果(C)(根拠資料):学生による授業評価、同僚評価、学生による成果
⑤改善活動:教育改善の為に払った努力、研修・研究会への参加、学問的研究の反映。
⑥今後の目標(A)(短期的・長期的)
TP作成のメリット
①自分の目指す教育理念から方法を述べ、実際の達成度を証拠資料で説明し、今後の課題を
発見するTP作成プロセスが自己省察になり、主体的な教育改善すなわち自律型人材育成に
つながる。
②昇進・採用等における教育業績評価資料になる。
③ e- ポートフォリオ化することで、教員同士が教育改善努力を共有化(見える化)できる。
後任者に引き継ぎ資料となる。
④教育改善努力として広報発信材料を提供できる(公開しているところも多い)。
⑤作成にメンターがつくことによって、中教審答申で求められている改善手段についてのコ
ンサルタント役を果たすことができる。
TP作成のコスト
①本文7〜8頁のTPを作成する手間がかかる。セルディンらのワークショップはメンター
がついて作成に3泊4日で、それを短縮して開発した栗田らの「日本型ワークショップでも
2泊3日である(大学評価・学位授与機構 2009)。
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②文書作成並びに改善コンサルタントとしてのメンターが必要で、それらをどうやって確保
するかという問題がある。
TP作成の効果
形だけの提出書類を整えるなら、それらの作成に2泊3日も費やすのは徒労である。
栗田佳代子はよいTPについて次のように言う。
・「何のために・誰が読むのか」明確に意識されている
・自分の教育実践がしっかりと振り返られている
・責任—理念—方法—成果—目標の首尾一貫性
・選りすぐった項目と記述
・多様かつ的確なエビデンス
・更新する気が起こること
日本型ワークショップに参加してTPを作成した古賀暁彦(産業能率大学)は次のように
述べている(大学評価・学位授与機構 2009)。
正直なところ , ワークショップ参加後自分の作成したティーチング・ポートフォリオ
を読み返す機会は少なくなっている . しかし ,「大学教育に対する考え方・理念(ティー
チング・フィロソ フィー)」を記述したページだけはコピーして , 机の前に貼り毎日参
照している . 指導方法に迷いがでた時や指導上で手を抜いて楽をしたくなった時にこれ
を見て , 自らの活動を見直すようにし ている .3 日間かけて他者の支援をうけながら作
成したフィロソフィーは思った以上に裏切れないものだと自分でもその効果に驚いてい
る.
最近従業員に「クレド」カードを持たせる企業が増えている . クレドとは「経営者や
経営幹部 の想いをシンプルにわかりやすく社員の琴線に触れやすい言葉で伝えること
で , 理念の実現を一 人ひとりの行動に落とし込めるようにしたもの」(吉田 ,2008)で
ある . クレドを記述したカー ドを社員に常時携帯させる企業が増えているが , 今回作成
したティーチング・フィロソフィーは 私だけのクレドカードとなって日々の行動を支え
てくれているのである .(中略)
大学という組織の根底に「建学の精神」があるように , 教員一人一人がその活動の根
底に「ティーチング・フィロソフィー」を置くことで , 自らの教育活動に自信と一貫性
を持つことが可能となり , これが教員としての QOL 向上の礎になると考える .
同じく秦敬治(愛媛大学)は次のように述べる(大学評価・学位授与機構 2009)。
ティーチング・ポートフォリオは組織や評価者に対して提出することでその効果を発
揮するが , その作成プロセスは 教員自らの成長に効果を発揮すると言える . 作成プロセ
スを経ることで , 教員は確実に自己成長することができるのである . すなわち , 作成プロ
セスが FD の一活動になっているのである . そして , その価値はメンターによるカウン
セリングの質に左右される部分が多い . そのため , メンターの配置と育成がティーチン
グ・ポートフォリオ作成プロセスの意義を高め , 教員の教育活動開発につながると言え
よう .
同じく加藤由香里(東京農工大学)は次のように述べる(大学評価・学位授与機構 2009)。
- 10 -
ティーチング・ポートフォリオを作成する過程では , 教育活動についての「主張」と
それを裏付ける「資料」の収集が求められる . 自分の教育活動を反映する文書作成や資
料の収集・分類という作成プロセスそのものが , 最終的な文書と同じくらい重要とされ
ているのである . その理由として , ティーチング・ポートフォリオを書く , あるいは , 見
直すプロセスに「人を変える力がある」とされている(コヴィー ,p.180). メンティー
が自身のさまざまな教育活動について深く考え , 自分の行動と信念を結びつける活動を
意識的に行うからである . この「文書化」の過程 において , メンティーは , 深い反省 ,
注意深い分析 , 入念な表現 , 多くの書き直しを行い , 心の奥底の価値観と方向性を十分に
表現したティーチング・ポートフォリオと完成させることができる . このような活動は ,
教師の「現在」の教育活動だけでなく , 過去を振り返り , 未来に向けて の行動指針を明
らかにする効果もある .
自己点検評価ツールとしてのポートフォリオ
自分が目指すものを明確にし宣言し(ミッション・ステートメント)、方法・戦略を述べ、
現状評価を証拠資料と共に示し、今後の挑戦課題を明確にしていく TP 作成プロセスは、本
学の FD・SD 宣言から始まり、個人並びに組織の自己点検評価報告書を作成する取組に素地
はできていると言える。
目指すものを論理化することと、方法・戦略と証拠資料を基に現状評価し、課題を見つけ
ていくこのポートフォリオ作成は、われわれが形式的にやってきたことを首尾一貫させ、実
質化させていくものと言える。FD 活動と自己点検・評価活動を連結させ、無駄を省きながら、
本学の教育力の更なる向上を図る人材育成制度として導入を提案したい。
参考・引用文献
石渡朝男『実務者のための私学経営入門』法友社、2007。
ピーター・セルディン著・大学評価・学位授与機構監訳『大学教育を変える教育業績記録』
玉川大学出版部、2007 年。
土持ゲーリー法一『ティーチング・ポートフォリオ』東信堂、2007。
大学評価・学位授与機構『日本におけるティーチング・ポートフォリオの可能性と課題—ワー
クショップから得られた知見と展望—』、2009。
- 11 -
大学における情報メディアの活用
学習者特性・学習支援・e ポートフォリオ
日 髙 英 幸
はじめに
本稿では教育現場(教室)における学習者特性、学習支援、ポートフォリオ、e ポートフォ
リオについて報告している。前稿で述べたポートフォリオは、現在、教授システムとして活
用しているパソコン室内ネットワーク(LAN)に接続されたパソコンサーバーに「オープン・
ソース・ホルダー」を設定し、ポートフォリオ機能を持たせ、受講学生がファイリング(集積)
した学修成果物(レポート、収集資料、課題成果物等)を保存・整理し、共有することので
きる e ポートフォリオシステムとして、学習意欲を高め、スキルアップに繋がり、本稿では
その事例を紹介している。
今後の展開
授業を創出す研究、即ち教えるとはどういうことか、質の高い授業とは何か。学習理論の
研究とその基礎を踏まえ、その実践研究の中から、ポートフォリオ学習・教育を探ってみる。
本稿は先進的研究、平成20年度専門職大学院等における高度職業人養成推進プログラム「実
践的指導力育成を保証する評価指標の開発」(国立大学法人東京学芸大学)の基礎と成果を踏
まえて、今後の研究内容と展開を計画している。その中で、上記東京学芸大学の先進的研究
において、ポートフォリオ及びポートフォリオ評価の定義等が次のように提示されているの
で、本稿では、この研究内容を踏まえて授業研究を計画し、展開している。1)ポートフォ
リオ及びポートフォリオ評価の定義:(1)ポートフォリオの定義:教育研究におけるポート
フォリオとは、学生の「収集資料」や「研究成果物」、自己評価の「記録」、指導者の指導と
評価の「記録」などを、系統的に蓄積していくもの、
(2)ポートフォリオ評価の定義:ポートフォ
リオ評価とは、ポートフォリオの作成を通して、学生の教育研究に対する自己評価を促すと
ともに、指導者も学生の教育研究活動と自らの教育研究活動を評価するアプローチのこと。2)
ポートフォリオ評価の意義:ポートフォリオを用いた評価には、以下のような意義がある。
(1)
ルーブリックを用いて課題研究等の実態に基づき目標準拠評価を行うことができる。
(2)ポー
トフォリオを介して、個に応じた具体的な指導を行うことができる。(3)課題研究等への取
り組みを通じて、自己評価力を育成することができる。(4)課題研究等の成果や課題に関す
る説明責任を果たすことができる。3)ポートフォリオ評価の6つの原則:ポートフォリオ
を用いた評価には、以下のような6つの原則がある。(1)ポートフォリオの作成は、学生と
指導者との共同作業で、
(2)学生と指導者が具体的な「作品・記録」を蓄積、
(3)蓄積した「作
品・記録」を一定の系統性に従い、並び替えたり取捨選択したりして整理し、
(4)ポートフォ
リオづくりの過程では、学生と指導者、学生同士などで「ポートフォリオ検討会」を設定し、
- 12 -
(5)「ポートフォリオ検討会」は、学習の始まり・途中・締めくくりの各段階において行う。
(6)ポートフォリオ評価は長期的で継続的に行う。 4)ポートフォリオ評価の主な観点、
ポートフォリオ評価における主な評価の観点例は、以下の5点を挙げられる。(1)視点
Viewpoints:課題研究等の視点は明確か、(2)横断性 Connections:課題研究等関わる横断
的・総合的な領域を理解しているか、(3)論証 Evidence:課題研究等の主張や結論の根拠は
あるか、(4)表現の仕方 Voice:課題研究等の成果や課題を簡潔に説明できるか、(5)書式
Convention:課題研究等の報告書や成果物などは適切な書式でできているか、5)ポートフォ
リオの種類:ポートフォリオの種類は、大別して3つに分類することができる。(1)収集開
始段階:ワーキング・ポートフォリオⅠ;・学生は、指導者よる指導のもと、課題研究等に
関わるすべての「作品・記録」を時系列に沿って集積しながら、絶えず課題研究等の到達点
と課題を確認していき、(2)中間総括段階:ワーキング・ポートフォリオⅡ;学生は、指導
者よる指導のもと、ワーキング・ポートフォリオⅠの「作品・記録」を課題研究等の進展に沿っ
て系統的に整理したり、必要不可欠な「作品・記録」を抽出したり、中間段階での到達点と
課題を明らかにし、(3)最終総括段階:パーマネント・ポートフォリオ;学生は、指導者に
よる指導のもと、課題研究等の成果と課題を示すために、ワーキング・ポートフォリオⅡか
ら必要な根拠資料や説明資料となる「作品・記録」を抽出し、系統的かつ総括的に整理する。
■質を高める理解には、リアルな情報コンテンツを配信・提示できる情報メディアのネットワーク化(グルー
プ学習)、e ポートフォリオが、それを実現可能にし、効果的な動機付け(「化学のおもしろさが分かり・・・」)
や拡がりのある学習(「化学のこと(電子配置)がよく分かって良かった・・・」)を創出する。
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本稿で述べたように、化学のような質を高める理解には、リアルな情報コンテンツを配信・
提示できる情報メディアのネットワーク化(グループ学習)が、それを実現可能にし、効果
的な動機付けや拡がりのある学習を創出している。これら学習の構成としては、まずは授業
への「関心」を高める段階、「追究の視点」を明確にする段階、追究活動を展開しながら「表
現力」の向上をめざす段階(実行)、最終段階として、報告書(まとめ)を作成し、学習内容
を捉え直すこと(維持)が到達目標となる。そのためには、学生の個性が発揮され得ること
を考慮した「目標設定」(「課題提示」)が重要である。
■保育科2年「情報処理概論」では、学生が収集資料
や研究・演習成果物を e ポートフォリオへ。
実習素材と演習の課題・研究成果(作品・記録)。
先に述べた「e ポートフォリオ」は、その構成要素となる「課題発見・明確化」
「解決方法選択」
「方略確立」
「追求活動」
「結果獲得」
「成果集積・一般化」
「成果内面化(知識獲得)」に「評価」
を加えることで、「学習活動の展開」が完結し、多様な資質を持つ学生(学習者)一人ひとり
への効果的な指導に繋がるものと考える。情報メディアはこれを可能にしている。
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幼稚園教育実習の研究保育アンケート集計結果
幼稚園教育実習(平成23年5月30日〜6月18日)の研究保育の実施状況
常 盤 哲 郎
平成23年度幼稚園教育実習139名(保育科2年)のアンケート結果を集計した。
平成23年 5 〜6月に実施された幼稚園教育実習で研究保育を実施しましたか。
(はい、いいえ)
その回数は( )回。
自分の実施した研究保育の内容を記して下さい。(対象年齢や時間)
研究保育の反省や授業のなかの役に立ったことを書いて下さい。
部分保育の内容を書いて下さい。
研究保育を行った回数は1回が125人。2回が9人。3回が2名。0回は3名。
研究保育を行わなかったもの3名の理由は実習を中断した者1名。実施させてもらえなかっ
た者2名。
●3歳児を対象の研究保育の内容
桃太郎ごっこ遊び。はり絵(2名)。はじき絵。てるてる坊主(3名)。ゲームと制作。楽器
作りマラカス。新聞紙遊び(2名)。フィンガーペインティング。運動遊びフラフープ。魚釣
りゲーム(3名)。リズム遊び。手遊び歌遊び紙芝居。小麦粉粘土遊び。カードのフルーツバ
スケット。しっぽとりゲーム 。運動遊び。ボーリングゲーム。
●4歳児を対象の研究保育の内容
紫陽花の貼り絵。紙染め遊び。新聞紙で遊ぼう 。(切り破る、音を楽しむ、足で破る、ダン
スをしているように。雨に見立てて遊ぶ。 )紙コップのカエル。ひっかき絵。てるてる坊主
のレインコートを作ろう。カエルリレー。カードゲーム。モグラ表現遊び。パラシュート製作。
積み木を作って遊ぼう。リズム遊び。四歳を対象にして傘や長靴などの雨具を魚などにみた
てて水族館遊びをしました。新聞紙とペットボトルの制作。魚釣りゲームと制作(3名)。紙
のヘリコプター制作。はじき絵。フルーツバスケット(3名)。飛行機作りとゲーム(2名)。
あめふりくまのこの運動遊び。わらべうたのリズム遊び。もの当てゲーム。紙コップ工作(3
名)。牛乳パックのけん玉作り。お絵かき。フルーツバスケット。カタツムリのお面。手遊び
運動遊び 。紙コップけん玉。紙コップ粘土の動くおもちゃ。ロケット的あて遊び。ヨーヨー
作り。牛乳パックカエル作り 。なりきりゲーム。宝探しゲーム。
- 15 -
●5歳児を対象の研究保育の内容
年長組の楽器の音あて遊び。リトミック。マラカス、タンブリン、トライアングル、ウッド
ブロック、鈴などの楽器を聴く音あて遊び。ホッケーゲーム 。言葉遊びしりとり。動物や昆
虫になろう 。魚釣りゲーム(3名)。紙コップけん玉。紙風船作り。ウチワリレー。夏祭り
の御神輿作り。てるてる坊主の制作。絵本制作。動物バスケット。パラシュート作り。運動
遊び。絵合わせカードゲーム。ロケット作り。てるてる坊主(2名)。マットとボールの運動
遊び。動物の時計、お札取りゲーム。魚釣りゲーム。新聞紙遊び。カエルの時計。紙トンボ。
牛乳パックのたけとんぼ。ちぎり絵創作。時計を作ろう。表現遊び。運動遊び。紙コップ工
作(2名)。伝言ゲーム。新聞紙遊び。貼り絵。フルーツバスケット。絵合わせゲーム。製作
と的当てゲーム。貼り絵。ゲーム遊び。フルーツバスケット英語。言葉遊び。ゲーム。ストロー
トンボ。フィンガーペインティングの T シャツ。歌の指導。けん玉遊び。フルーツバスケッ
ト(3名)。紫陽花を作ろう(2名)。ビックリ箱の制作。言葉遊び。文字カード遊び。カエ
ルを作ろう。新聞紙遊び。食育遊び。小麦粉粘土のパン作り。カードパズルゲーム 。宝探しゲー
ム。運動ゲーム。植物昆虫探しゲーム。
異年齢クラス壁画制作(3,4,5 歳)。異年齢クラス、小麦粉粘土遊び。
上のデータで「年長児を対象の研究保育が多かったことが解る。」
反省や役に立った授業の内容
子供が初めて取り組む内容は、充分な余裕を持って時間設定すべきだった。何かに見立てて
考えさせ、制作させるのが4歳で難しいことが解った。指導内容が簡単すぎ、時間が余った。
指導案の時間設定どおりに行えなかった。授業の動物の動きが役に立った。音当てクイズで
内容が簡単で発展させることの工夫が足りなかった。楽器の不備(カスタネットのゴムのゆ
るみ)を気づいていなかった。運動ゲームのルールの説明が充分でない内に対抗ゲームをさ
せてしまった。しりとりゲームをやったあとで色々な「こうすればよかった。」が解った。動
物になりきり遊びで、動く範囲を決めてすべきだった。(遠くへ行ったりして集合させられな
かった。)手遊び歌や絵描き歌が役立った。魚釣りゲームで用意した釣竿の糸がからまってし
まった事と、たくさん釣ったチームの勝ちをうまく伝えられなかった。小麦粉粘土の分量や
指導のねらいが役にたったが指導案のとおりに進められなかった。前実習での経験(研究保
育を見たこと)が役にたった。制作のとき言葉かけが少ないと自分で反省した。多くの先生
の前で研究保育を行い緊張した。子どもの目線でシミュレーションしておかないといけない
ことが解った。制作の材料(紙コップ)の材質に配慮が足りなくて、作品が潰れてしまった。
ひっかき絵の絵のサイズを考慮すればよかった。かえるリレーのルールの説明が難しく反省
した。カードゲームの準備が当日にまでなってしまった。紙風船作りで全体に説明をせずに
始めてしまい、一人一教えてまわるはめになった。子どもの個人差を考えないで指導案を作っ
て時間を大幅にオーバーした。お神輿を制作したが神輿の棒に当たって怪我をさせてしまっ
た。手遊び歌が集中させるときに役立った。制作(はがき用紙作り)で縦割りクラスの年少
のこどもに配慮が足りなかった。グループ作業の制作で平等に皆を見て歩くことが出来なかっ
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た。桃太郎ごっこあそびで、鬼退治のあそびを考えたが女の子や怖くて泣いてしまう子が、
参加しなかった。ダンボールで作ったトンネルをもぐらがくぐる遊びをしたが、もぐらを知
らないこと、ダンボールがグラグラしたり倒れたり、配慮に欠けた。制作(パラシュート作り)
で自分がイメージしたよりも時間がかかった。年長児の制作(ロケットつくり)で時間配分
が現場のみで解ると思い知った。制作の時間配分が混乱(ぐだぐだに)した。制作や遊びで
全体を見たり、一人一人を見たりが出来なかった。てるてる坊主作りで準備するものをこど
もの目線で用意するべきだった。時間が長くなりすぎて、集中が切れてまとめるのが大変だっ
た。制作指導で遅い子どもにかかりっぱなしになってしまった。作業中に次の説明に移って
しまい焦る気持ちにさせてしまった。表現の授業時間に体で動かして体験できていたので、
幼稚園でも恥ずかしがらずにできた。マット運動をしたが、まったくうまくいかず、失敗で
した。もっと周りを見ることと、説明をしっかり詳しくするべきだった。子どもとの関わり
方や研究保育の導入、指導案の書き方を活かすことができた。落ち着いてゆっくり話すこと
が出来なかった。時間配分が悪く、制作(紙とんぼ)した後の遊びが出来なかった。思いど
おりに子どもを動かす難しさを感じた。制作の仕上がりに個人差があって、一人にかかりっ
きりになった。共同制作(魚の絵)のサイズが小さすぎた。フルーツバスケットでコケたり
走りまわったり、泣いたりしている子どもの対応があまり出来なかった。3歳児に新聞紙を
丸める作業は難しいことが解った。くぐったり、跳んだりのフラフープ遊びで細かなところ
での配慮が足りなかった。紙の時計を作る時、円の大きさが小さくて、数字を書くのが難し
かった。自分の準備不足でシミュレーションが出来ていなくて、行動させる声かけが出来な
かった。指導案を保育直前に仕上げたので、頭に入っていなかった。教室に子供たちがきて
から準備にかかって、時間が足りなかった。折り紙の折る作業が子どもには難しいことが解っ
た。特点ゲームで大きい10点や20点より、理解しやすい、1点、2点が良いことが解った。
戸外では笛を持っていると良いことを教えてもらった。お喋りをやめさせるとき、「もうゲー
ムはしませんか?」と言ってしまい反省した。伝言ゲームで「後ろに回したくない。」と言う
子の配慮が出来なかった。騒がしいい時、敢えて小さい声で話して注意を向けさせたことを
誉められた。景品のメダルを渡すとき子どもの目線になって渡すべきだった。喧嘩や泣いた
時の対応が出来なかった。ゲーム中に集中が続かなくて、配慮が欠けていた。授業のペープ
サートが役に立った。ゲームのルールを理解させるのに時間がかかり、子どもにわかりやす
い言葉が出て来なかった。4歳にけん玉作りは少し難しかった。後から説明不足に気づいた
のでリハーサルの大事なことが解った。制作の32名をまとめるのが大変だった。フルーツ
バスケットで安全面など、経験を積んでいないと理解出来ないことが多くあると思った。ゲー
ムの説明の時、話を聞く姿勢の出来無い子への注意が全部同じになってしまった。制作とそ
れを使った遊びで、制作に時間がかかってしまい遊べなかった。手遊び、絵本の読み聞かせ
が役に立った。3歳児に2重円になるように指示しても理解できないことが解った。理解し
ていないときは一緒に行動する(見ているだけではなく…。)と良いと言われた。静かにする、
話を聞くなどのけじめが難しかった。ゲームをやりたくない子どもが一人いて、対応がうま
く行かなかった。時間を大幅に過ぎて指導案どおりにならなかった。子どもの様子を見なが
らのピアノが出来なかった。制作で完成させることができなくて、集中が切れて遊びに出か
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ける子などを出してしまった。授業での指導案作りが役に立った。現場でしか理解できない
ことばかりだと思った。授業ばかりが正しいとは言えなくて、その園の方針、担当の先生の
方針があると思った。グループで協力してポイントを集めるゲームで、集計の意味が伝わら
ないまま進めて、個人の得点を競うことになった。保育指導法Ⅱで指導案の書き方を習った
ので役に立った。「何々して下さい。」より「何々してね。」の方が興味をもったと思う。時計
を見ないで研究保育をしていて、帰りの時間を過ぎていた。
部分保育の内容
朝の会、帰りの会。預かり保育。出席確認。昼食のピアノ。絵本の読み聞かせ、紙芝居、手
遊び歌の指導をしました。制作(コマ作り)。音楽にあわせてゆっくり歩く。お祈り。アジサ
イの壁面飾りの制作。虫歯予防のゲーム。音楽にあわせてバスごっこ。リズムにのってもの
まね。折り紙。動物表現あそび。鬼ごっこ。輪投げ。絵あわせゲーム。季節の歌。ピョンピョ
ンかえるの制作。じゃんけん列車。黙想。プール。ペープサート。制作(時計)。仏参。フルー
ツバスケット。七夕飾りの制作。クイズ遊び。バス乗降。給食(準備、歯磨き)
以上
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学生と双方向で展開する授業実践
― 介護過程演習の取り組み ―
花 畑 明 美 ・ 戸 敷 早 苗
Ⅰ . はじめに
平成10年4月開設の本学専攻科(福祉専攻)は、これまでに13期生(584名)の修
了生を輩出し、多くは県内を中心とした介護福祉士・保育士をはじめとする福祉の現場で活
躍している。また、介護福祉士・保育士・幼稚園教諭(二種)の資格を有する本学修了生に
対する社会の期待は大きく、開設以来就職率 100%を継続している。
2055年には高齢化率40.5%で、現在の高齢化率の約2倍となり、わが国の人口構造
の急速な変化が予測されている。そのような時代を見据えて、介護人材の確保は急務である
と同時に、認知症高齢者や医療依存度の高い要介護者の増加に対応できる質の高い介護人材
の育成が求められている。しかし、介護現場の現実は他業種と比較しても離職率が高く、資
格の有無を問わず多様な人材が混在している現状である。本学修了生は介護福祉士の資格取
得後、現場の介護職のスーパーバイザーとして、社会福祉に貢献できる人材であることを期
待できる。
そこで、介護福祉士養成に求められている人材育成とは何かを明確にする必要があると考
え、教育研究第7号では、施設・学生アンケートを行い「施設側が求める人材」と専攻科(福
祉専攻)学生の考える「社会に求められる人材」のズレを明確にし、介護福祉士養成におけ
る今後の課題について考察した。その結果、チームで介護をする介護現場では、職員間での
意思の疎通を図ることが重要であり、高いコミュニケーション能力が求められていること。
また、要介護者のニーズに応じた生活支援を行う上で、なぜそのような支援が必要なのか、
疑問をもち論理的に物事を考え行動することが高く求められていることがわかった。
そのためには、根拠をもって自分の考えを述べることや自信を高めることが重要であると
考え、今回は、「介護過程演習」の授業で、学生の考えや気づきを大切に、学生個人の「存在
を認める」指導法の試みと、その効果について学生アンケート調査の結果をもとに考察し報
告する。
Ⅱ.研究の対象
1.授業科目:介護過程演習(通年科目・45回)
2.対 象:専攻科(福祉専攻)学生36人
Ⅲ.研究の実施・結果
1)介護過程演習の授業で事例に取り組む(10回/45回)
※実習Ⅱ-1から実習Ⅱ-2までの期間
- 19 -
①36人全員が同じ事例(M氏・80 歳・男性)をもとに取り組み、介護過程の展開
におけるアセスメント内容を各自のアセスメント用紙に記入する。
②指名された学生は、自分でアセスメントした内容を板書・発表する。
③板書されたアセスメント内容と異なった考えはないか学生に尋ね、指名された学生
は、板書・発表する。
④各自でワークシートに記したアセスメント内容と板書内容とを比較し、相違があっ
た場合は、新たな気づきとしてワークシートに追加メモをとり、今後の介護過程の
展開において役立てる。
◎介護過程とは
「介護過程は、利用者が望む『よりよい人生』『よりよい生活』を実現するという、介護の
目的を達成するために行う専門的知識を活用した客観的で科学的な思考過程をいいます。」
(介護福祉士養成講座編集委員会:2009)
2)介護過程演習の授業終了後に専攻科(福祉専攻)学生36人を対象に、アンケート
調査を実施する。
<介護過程演習に関するアンケート調査結果>
質問1.積極的に介護過程演習の授業に参加することができましたか。
「はい」28人、「いいえ」6人、「未記入」2人で、78%の学生が積極的に授業に参加し
たと答えている。また、1.の質問で「はい」と答えた学生の理由(復数回答)では、「積極
的に自分の考えを述べることができた」7人、
「分からないことは積極的に質問した」21人、
「授業がわかりやすかった」2人、「一生懸命授業に取り組んだ」1名という結果であった。
質問3.介護過程演習の授業では、はじめ自分の考えや意見を述べることに抵抗がありまし
たか。
「はい」23人、「いいえ」13人であった。また、「はい」と答えた学生23人(74%)
のうち、「授業を重ねるごとに自分の考えや意見を述べることに抵抗はなくなりましたか」の
問いに対し、
「はい」17人、
「いいえ」6人で、多くの学生が授業を重ねるごとに抵抗がなくなっ
たと答えた。また、その理由として、
「自分の意見を述べることが楽しくなった」5人、
「もっ
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と他者の意見を聞いてみたいと思うようになった」9人、「緊張しなくなった」「慣れてきた」
「意見を否定せず聴いてもらえた」各1人という結果であった。
質問6.介護過程演習の授業で、自分の意見を述べ他者の意見と比較したり、確かめたり
することは自信に繋がりましたか。
「はい」30人、「いいえ」6人で、83%の学生が自信に繋がったと答えている。その理
由として、
「他者から共感が得られた」14人、
「自分の考えを認めてもらえた」15人、
「様々
な意見があることを知ることができた」1人であった。一方、「いいえ」の理由として、「自
分に自信がないため、逆に他者と比較してしまい落ち込んでしまった」「自分の考えがちっぽ
けに見えた」「不安や緊張が大きかった」などがあった。
Ⅳ.考 察
質問1.「積極的に介護過程演習の授業に参加することができましたか。(図1参照)」では、
専攻科(福祉専攻)36人のうち、28人(78%)の学生が、積極的に自分の考えを述べたり、
分からないことを積極的に質問したり、介護過程演習の授業に積極的に参加することができ
たと答えている。
入学当初、要介護者の生活がどのようなものかイメージのできない学生も多く、介護過程
の展開においても、利用者が望む「よりよい生活」「よりよい人生」を実現することとはどの
ようなことなのかを考えることに難しさを感じている学生が多い。
しかし、年4回の介護実習体験を重ねるごとに学生は、介護福祉士としての知識や観察の
視点、コミュニケーション技術などを養うことの意味や重要性に気づく。また、実習体験を
通してより利用者の存在を身近に感じることで、様々な状況にある利用者に対し、幅広い視
- 21 -
点で利用者のニーズに応えたいという気持ちが芽生えるようになる。このことは、「実習Ⅱ-
1終了後に実施した介護過程の取り組みに関する学生アンケート調査結果(資料1参照)」か
らも読み取ることができる。さらに、介護過程のアセスメントにおいては、利用者に関わる
介護者の知識や経験、考え方が大きく影響するということを実感し、もっと介護福祉士とし
ての専門的な知識を多く学びたい、視野を広げたいという思いが強くなっていく。これらの
ことが、授業終了後に実施した学生アンケートの結果で、約8割の学生が積極的に自分の考
えを述べたり、質問をしたりすることで積極的に授業に参加することができたと答えている
ことの背景にあり、学生個人の授業の取り組みに対するモチベーションが向上したことの理
由の一つとして考えられるのではないだろうか。
質問3.「介護過程演習の授業では、はじめ自分の考えや意見を述べることに抵抗がありま
したか。(図2参照)」では、23人(56%)の学生が「抵抗があった」と回答している。
そのうち17人(74%)の学生が、「他者の意見を聞くことが楽しくなった」、「もっと他者
の意見を聞いてみたいと思うようになった」、「自分の意見を否定されず聴いてもらえた」な
どの理由から、授業回数を重ねるごとに抵抗がなくなったと答えている。「利用者と介護者の
関係性や援助展開のタイミング、さらには援助者の力量の違い等、対人援助サービスにおい
ては、誰がやっても必ず成功するといった正解は存在しないのである。」(原田:71)。介護
過程とは、介護の目的を達成するために行う専門的知識を活用した客観的で科学的な思考過
程であり、介護を実践するにあたって正しい答えがあるわけではなく、介護の在り方は一通
りではない。そのことは、授業を通して学生も理解しており、学生が発表する際は一旦学生
の表現を受け止め、「なぜそのような考えに至ったのか」という根拠を確認して、個人の考え
を尊重し取り入れながら授業を展開していく。そのことで、学生は、自分の考えを述べるこ
とに少しずつ抵抗がなくなっていくと考える。
また、授業終了後の授業アンケート調査の記述内容では、
「一対一で丁寧に教えてくれた」
「担
当の先生が決まっており、分からないことを質問しやすかった」「自分のペースでできるので、
集中して取り組めた」
「集中して取り組める環境だった」などの学習環境面の記述が多くあり、
全体の場では意見を述べることや質問ができない学生でも、個別的な指導を中心とする学習
環境が整うことにより、自分の考えを述べたり、質問したりすることに抵抗がなくなるとい
うことがわかった。「授業実践の課程において学生が示す気づき等の学びの内容(姿)を捉え、
その内容(姿)に応じた思考の支援を意識して教育していくことが必要である」(鈴木・水谷:
2011)。介護過程演習の授業は、一斉かつ一方的な授業形式ではなく、個別的な指導により
学生の反応を受けとめながら学生と双方向で展開することで、承認されたという気持ちや自
信を高め、学習意欲に繋げられるよう学生と双方向に展開することが効果的な教授法と言え
る。
質問6.「介護過程演習の授業では、自分の意見を述べ他者の意見と比較したり、確かめた
りすることは自信に繋がりましたか。(図3参照)」で、8割を超える学生が自信に繋がった
と答えており、他者からの共感や承認が得られたことが主な理由であった。介護過程演習の
授業では、今回の事例の取り組み以外でも、実習Ⅱ-1で担当した利用者の情報をもとに、
学内演習として介護計画の立案を行っている。実習中から指導担当教員と何度もやり取りを
- 22 -
重ね、「利用者は現在の生活に満足しているだろうか」「利用者の可能性に目を向けた、十分
な支援がなされているだろうか」「なぜこのような支援が必要かという根拠は明確であるか」
などと問いかけながら、学生のアセスメント用紙に記された内容について学生個人の考えや
思いを否定することなく、学生と向き合い丁寧に個人の考えを紡ぎ出す作業を行っている。
「エ
ビデンスと共に介護を発想する力を育てることが必要なのである。」(原田:2011)このよう
に、学生は自らの発想や考えについては、なぜそのような考えに至ったのかという根拠を述べ、
自分の考えに対して、他者からの共感や承認を得ることができるとそれが成功体験となり少
しずつ自信を高めることができる。さらに、教員の助言や他者の考えを取り入れることにより、
アセスメントの視点の広がりや新たな気づきを得ることができ、他者の考えに触れることの
おもしろさを実感できる。このような経験を重ねる毎に、少しずつ自分の考えを述べること
に自信がもてるようになると考える。
(資料1)
<実習Ⅱ-1後に実施した介護過程の取り組みに関する学生アンケート調査より>
質問6.はじめて担当利用者を受け持ってみての感想
・担当利用者に対して愛着がわいた。
・一人の利用者と向き合うことで利用者の現状や利用者の思いを知ることができた。
・会話や活動を見たりすると、利用者の方が今よりももっと良い環境で生活できるよう
な介護計画を立てていきたいと思った。
・この利用者にとって何をしてあげたらいいのだろうと真剣に考えることができた。
・どうすればもっと快適に生活を送れるか考えることが当たり前になった。
・利用者のニーズを考えられるようになった。
質問7.介護過程の取り組み全体を通して、実習Ⅱ-2に向けて改善すべきこと
・もっと知識をつけ、演習を真面目に取り組む。
・もっと職員の方からの視点を聞いたりして、アセスメントの視点を学びたい。
・少しでも早く利用者に応じた個別ケアの方法を知り、自分でできるようになりたい。
また、視野を広くして実習に取り組みたい。
・事前学習を行い、もっと充実した実習をする。
・計画を立てて、積極的に情報収集を行う。
・利用者に分かりやすく質問する。
・一つひとつ細かく観察して分析できるようになりたい。
Ⅴ.おわりに
介護福祉士養成における教育内容等の見直しに伴い、平成21年度より新カリキュラムが
施行され、介護福祉士資格取得時の到達目標として「求められる介護福祉士像」が掲げられた。
介護福祉士養成においては、新カリキュラムの特色を活かし、介護の専門職として身につけ
なければならない知識や技術は勿論、人間性をいかにして育むか、効果的な教育方法を確立
することが現在の課題である。
- 23 -
介護過程演習は、他の科目や実習を通して学習した知識や技術を統合できる能力を育むた
めに、演習や事例研究を中心とした授業を行っている。本研究の取り組みにより、早い時期
に利用者との出会いがあることで、学習意欲を高めるための動機づけとなる。また、介護の
思考過程を学ぶ上で、学生個人の考え、気づきを認めることが学習意欲を高めるためには重
要であることがわかった。今後も、学生の学習意欲を高めるために、学生の意見を丁寧に確
認しながら、効果的な授業法を模索し続けたい。また、今後の介護に対する社会的ニーズは
施設から在宅という地域での生活を継続できる介護が求められている。そのことを考えると
包括的なケアのできる介護福祉士に何が求められるか、専門性とは何かを更に探求すること
が課題である。
【引用文献】
1)介護福祉士養成講座編集委員会:介護過程,中央法規出版,2,2009
2)鈴木俊文・水谷なおみ:事例演習と共同学習を用いた生活支援技術(演習)の授業デザ
インとその可能性,介護福祉教育 31,中央法規出版,50,2011.
3)原田幹子:生きた介護過程を学ぶ方法,介護福祉教育 31,中央法規出版,71,2011.
【参考文献】
1)福祉・介護人材確保対策について,厚生労働省 HP 資料,(2012 年 2 月 17 日取得,
http://www.mhlw.go.jp/seisaku/09.html).
2)花畑明美・戸敷早苗・谷口和子:介護福祉人材育成の一考察 ―施設・学生のアンケー
ト調査から―,教育研究第7号,宮崎学園短期大学,2011.
3)花畑明美:学生の意欲向上に関する一考察 ―「ほめる指導」の試みから―,教育研究,
宮崎女子短期大学,2005. 4)介護福祉士養成教育に関する研究会:教育方法の手引き,社団法人日本介護福祉士養成
施設協会,2008.
- 24 -
宮崎の神楽の魅力(Ⅱ)
― 舞の豊かさについて「採物」―
佐々木 昌 代
宮崎の神楽について述べる。先回には、数多くの神楽が個性豊かに伝承されている
ことを宮崎の神楽の第一の魅力・特長として紹介し、その豊かさを保持していくには
共通項の地域的特徴を介して ‘ 支え合い ’ がなされるとともに、‘ 競い合い ’ によって
互いの個性が磨き合えるようなより広範な地域(神楽保存会)の連合、協働が望まれ
ることを記した。
今回は、神楽三十三番と数えられる舞(演目)の豊かさについて述べる。
宮崎では、夕刻から翌朝まで徹宵で行われる夜神楽も、早朝から夕方まで終日執行
される春神楽も、三十三番もしくはこれに近い数の舞を披露する。その中には、諸塚
おおかぐら
村の戸下神楽や椎葉村の栂尾神楽などのように、数年に一度執行される大 神楽で五十
数番、四十数番もの舞を披露するところもある。大神楽は、地域住民による病気平癒
などの祈願・成就がある場合に平年よりも大がかりに行う神楽のことであるが、最近
は全ての舞を確実に伝承していくために毎年あるいは年度を決めて行うところもある。
大神楽を執行して多数の舞を保持しているところがある一方で、過疎・高齢化の進行
による担い手不足などから披露する舞の数を制限せざるを得ないところもある。何れ
にしても保持に苦慮していることに変わりはないが、依然として宮崎には多数の神楽
が伝承され、それぞれの神楽においても相当数の舞が受け継がれ、祭で舞われている
のである。
これら演目としての舞は、神楽ごとに舞の型を持っているので、演目名が異なって
も舞の動きは基本的に同じである。装束、手に持つ採物、面、頭の被り物などを取り
去ってしまうと、同じ動きの舞が繰り返し披露されることになる。東西南北及び中央
に向かって、ときに緩やかに、ときに激しく、抑揚はあるものの同じような一流れの
動きによる舞が繰り返される。しかも、三十三番の演目がそっくりそのまま年々歳々
繰り返される。ややもすると見飽きて、夜神楽であれば睡魔に襲われてしまうことも
あるが、この律儀なまでの反復には、神に請い願う、神に感謝申しあげるというのは
こういうことであるのかとしみじみ思い知らされる。
例えば、調査のためにビデオ撮影をしている筆者の隣で、舞い手の奥様と思われる
婦人が「お父ちゃんも、まあ同じことを何遍も、何遍も、飽きもせんとよう繰り返す
ことやわぁ。」と文句を呟きながら、それでも熱心に夫らしき演者の舞い姿をビデオに
収めている。執拗な反復に苦笑いもしつつ、真摯な反復に敬意を払い、掌を合わせて
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神を拝む。神楽は、儀式でもあり、娯楽でもあるのである。
しかしながら、同じ動きの舞がまったく単調に反復されているのではない。舞は、
祭場を清め祓うもの、神の姿や神の威力を具象化したもの、子孫繁栄や五穀豊穣を神
に願うもの、天岩戸の天照大神再出現の顛末を劇的に表現したもの等々、その目的や
意味は豊富である。しかも、それぞれが象徴している目的や意味に従って、三十三番
の演目を執行する長丁場にメリハリを与え、観る者を飽きさせない様々な創意工夫が
仕掛けられ、性格付けがなされてもいるのである。これら舞ごとに仕掛けられている
様々な工夫を相互に比較しながら観ていくと、神楽をより楽しむことができる。
まずは、手に持つ採物である。宮崎の神楽では、扇、鈴、御幣、榊葉、面棒(竹の
棒の両端に幣飾りをつけたもの)、長刀、小太刀、鉾、弓、矢、襷、素襖(装束として
着用するものを脱いで採物として使用する)、盆、箕といった採物がほぼ共通に用いら
れている。さらに、地域独特の採物がこれらに加わることがある。
採物は、扇は「扇の手」、御幣は「幣の手」、榊葉は「花の手」、襷は「帯の手」、刀
は「剣の手」、弓矢は「弓の手」「矢の手」などのように、そのまま舞の呼び名となる
こともある。宮崎の神楽の特色の一つに、採物神楽が挙げられる所以でもある。
採物に込められている工夫は、神楽によっても、演目によっても、採物によっても
様々であるが、御幣がもっとも変化に富んでいる。色、形、大きさの違いは言うまで
もなく、扱い方(動かし方)は実に多様である。また、御幣は神楽が行われるたびに
新しく切って準備しなければならないこともあり、神楽が終わると希望する観客たち
に配られる。神楽を鑑賞するごとに御幣をいただき、持ち帰って溜めていくと、相当
なボリュームとヴァリエーション溢れるコレクションができる。
見応えがある採物の扱い方という点では、長刀や小太刀を使った舞である。長刀を
持った四人組で舞われる「神崇」は、多数の演目の中でも観客の注目をもっとも集め
る舞の一つである。長時間に渡る舞で、一人前の舞い手として地域住民に認められる
時期の若者が体力の限りを尽くしてエネルギッシュに演じる。疲労の色を滲ませなが
らも長刀の曲芸使いが見事に決まると、大いに拍手喝采を浴びる。呼び名は、地域に
よって「神師」「神示」「神随」などの漢字も用いられ、読み方は「かんし」「かんしい」
「かんしん」「かんすい」「かんずい」など一通りではない。漢字による表記が失われ
て、平仮名の呼称だけが残っているところもある。
一人一人の舞い手が素早い動きで身体すれすれに刀を振り回したり、額ぎりぎりに
刀を翳して止めたりする技を披露していく舞、四人の舞い手が互いの長刀の先を持ち
合い輪をつくって潜り抜け、順次舞い手が減っていく舞の二つに分けられるが、後者
の舞はその舞い振りから「岩潜」「岩くぐり」とも呼ばれる。椎葉村の尾向地域などで
は、朝日が昇る頃の一番眠い時間帯に「岩くぐり」が舞われる。神楽囃子や「待って
ました」「頑張れ」「いいぞ」といった掛け声が飛び交い、祭場の雰囲気が一気に盛り
上がって眠気が吹っ飛ぶ。所謂、目覚まし神楽である。
小太刀を用いる舞は、「一人剣」「振り上げ」などと呼ばれる。「神崇」の舞い手と
同じく、体力自慢の若者が単独で演じる。両手に一本ずつ小太刀を持ち、手首を利か
せて頭上すれすれで小太刀を交差したり、小太刀を構えたまま前転や後転を繰り返し
- 26 -
たりする。テレビもなく神楽の祭が唯一の娯楽であった時代ならば、小太刀を巧みに
操りながら颯爽と祭場を舞い巡る若者は、アイドルのように年頃の女性たちのハート
を射止めたことであろう。なお、神楽によっては四人舞の「神崇」と一人舞の「一人
剣」は一体として舞われることもある。
じゃきり
長刀を用いる舞には、素戔鳴尊の八岐大蛇退治を模した「蛇 切」もある。「綱神楽」
「綱切り」とも言われ、藁で太く編んだ綱を大蛇に見立てて舞い、最後に綱の大蛇を
切断する。蛇を切る、すなわち「邪念を立つ」の意味である。取り分け、屋外に広々
とした祭場を設える米良地方の「蛇切」は三十三番の演目の中でも一番のハイライト
である。長刀を縦にきりっと構えて大蛇に見立てた綱を軽快に跳び躱しながら舞い、
クライマックスで勢いよく振り上げた刀を「やぁあーっ」という掛け声とともに振り
下ろして一刀のもとに綱を裁断するシーンは本身の刀ならではの見せ場である。
綱の置き方や断ち切り方にも神楽によって工夫が凝らされているので、違いを見つ
ける楽しみも増す。例えば、同じ東米良の神楽であっても、銀鏡神楽では祭場に敷き
詰めた筵の上に雄雌の頭を取り着けた二本の綱を平行に置くが、尾八重神楽では交叉
して十文字に置く。高鍋神楽では宙に張られた綱を切断し、椎葉村の嶽之枝尾神楽で
は棒の先に綱を取り付けて蛇踊のごとく踊らせた後に切断していく。ただし、大蛇は
水神の化身である龍であるので、水の神を祭った神社では「蛇切」の演目はない。
しょうぐん
弓矢も面白い。東米良では「荘厳」「将軍」、高千穂では「山森」、椎葉では「森(弓
の手)」「森(矢の手)」などと呼ばれ、その名の通り、戦闘や狩猟の様が舞に取り入れ
られている勇壮な演目である。概ね二人舞で、順に弓、矢、弓と矢を持って演じられ
る。長刀や小太刀を持って舞う「神崇」「一人剣」と同様に、闊達な若者がその本領を
発揮する。興味深いのは、長刀の先を持ち合って舞う「岩くぐり」そのままに弓や矢
を持ち合って輪をつくる舞い方があることである。ただし、両方の演目で輪をつくる
ことはない。例えば、銀鏡神楽では、弓矢を使う「荘厳」は輪になって舞うが「神崇」
は輪にならない。
弓には「弓通し」という使い方もある。椎葉村の尾向地域などでは、祭場に集った
者全員が災厄や不浄を祓うために、二本の弓を合わせた中をその年に生まれた赤子を
先頭に次々と潜り抜ける。先頭の赤子は、無事な成長を祈願して、父母や舞い手など
に抱かれて弓を通り抜ける。同じ椎葉村の栂尾神楽では、弓に代えて半円形に曲げた
蔦葛を潜り抜ける。
神楽三十三番と数えられる舞の豊かさは、何
よりも、神楽を受け継いでいる舞い手の豊かさ
によって支えられている。幼い子どもから古老
に至る多様な世代、基本の型を踏まえながらも
醸し出される一人一人の人間的な個性があって
神楽は見応えがあるのである。採物も同様で、
舞い手の豊かさによって生かされる。追って、
型がある故に異なる世代の担い手、個性溢れる
舞い手が必要であることを述べたい。 - 27 -
目覚まし神楽(尾前神楽「かんしん」)
保育の音楽におけるピアノ技術
―「弾き歌い」を行うことについての一考察―
中 武 亮 子
1.はじめに
筆者は宮崎学園短期大学において、保育科の学生を対象に保育音楽の指導を行っている。
その中で、学生が苦手意識を持つものにピアノ演奏がある。
平成 17 年宮崎女子短期大学教育研究「保育現場につながる音楽の授業をめざして」の中
で筆者は、―保育の現場には、当然子どもがいることから、楽譜を見ながらピアノを弾くな
どという悠長なことはやっていられない。かなりの即興性も必要であることから、やはり技
術は不可欠である。(中略)「保育科のピアノは子どもとコミュニケーションをとるための道
具の1つであること」も伝えている。そのためには旋律だけが書かれた楽譜を見て伴奏をつ
けたり、曲によって伴奏を変えていくアレンジの力も必要になってくる。保育者は子どもと
向き合いながらピアノを弾かなければならないのである。(中武 2004:47)―と記述してい
る。この一文は保育現場への就職においてピアノ技術が年々重視され、それがかなりのプレッ
シャーになる学生も多いという状況の中で、保育におけるピアノ技術の必要性を記したもの
であった。それから 5 年を経てなお、ピアノ演奏が苦手であるという学生の声は多い。
本論では、保育におけるピアノ技術の必要性と保育の中での声の重要性を論じると共に、
現場で日常的に行われる「弾き歌い」の意義と、その技術を学生に習得させるための指導法
について考察する。
2.保育の中におけるピアノの役割
ピアノは鍵盤楽器に分類され、通常は楽譜通りに指で演奏されるが、場合によっては楽譜
によらない自由な即興演奏や、肘や拳による打鍵、弦を直接弾くなどの打楽器的な奏法もある。
また、高音から低音までの幅広い音域を持ち、演奏の仕方によって様々な場面や情景、感情
や状況などの表現が可能であることも大きな特徴と言える。
例えば童謡「ぞうさん」をピアノで弾く時、低音域のゆっくりしたテンポで弾くと、ぞう
の重さや大きさを表現することができる。同じく「おつかいありさん」を高音域の速いテン
ポで弾くことで、ありの小ささ、細かな動きを表現できる。また、ダンパーペダルを用いた、
低音域での半音とオクターブのトレモロは、オオカミや雷などの怖そうな雰囲気や感情、長
調のゆったりしたアルペジオは海や大空などの広々とした情景をイメージさせるなど様々な
表現の可能性を持つ。もっとも、これらの表現をそれぞれの事象に合う様々な楽器の音や奏
法によって表現することも、子どもの発達にとって重要であると考える。しかし、保育の現
場にとってピアノは、最も身近な楽器であることから、これを音楽表現の道具として保育者
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が使いこなせば、子どもの感覚に日常的に働きかけながら、様々な体験をしたり、豊かな表
現を行ったりする可能性も広がると考えられる。
3.保育における歌(=声)の重要性
ピアノによる弾き歌いの重要な要素として歌(=声)が挙げられる。
人の声の発現の瞬間からそれが表現の手段、コミュニケーションのツールとなる過程を山
下恵子は音楽療法の実践を通して、次のように論じている。―声の発現の瞬間から、声の様
態の変化過程において発現した声は、前言語的な声、言語的な声、歌う声、そしてこれら3
つを複合した繋合・共同存在の声の 4 種であった。前言語的な声は、気持ちを表現する声、
やりとりを行うための声、意味あるいは気持ちを他者に伝達しようとする声、歌としての声
へと変化した。言語的な声と歌う声は、クライエントに何かを表現したい気持ちやクライエ
ント一人ひとりの過去の歴史が反映される場合、更に共に声を出し合うことが喜びに繋がっ
た場合に変化した。―(山下 2005:125)これらは、子どもが発達していく過程で、音声か
ら喃語、意味のある単語、簡単な言葉のやりとりを経てコミュニケーションとしての言葉を
獲得していく過程と同じであると考える。
また、筆者は前出の教育研究の中で保育者に求める歌の技術について―専門の歌手のよう
にとは言わない。美声もいらない。しかし「声」というのは人間の身体から呼吸をともなっ
て直接出てくるものであるので、保育者の声は直接子どもの心に伝わる可能性がある。その
意味で、歌の技術は保育士にとって重要である。正しい音程、よくとおる声とともに、表現
力のある声が要求される。声も歌も子どもとつながるための道具なのである。(中武 2007:
47)―と記述した。
歌詞(=言葉)を持つ「童謡」や「手遊び歌」は、表現遊びの道具であると同時に、人の
感情や身体への意識、物の名前や大きさ、数量など、発達に関わる様々な要素を含むもので
ある。したがって、遊びの中で子どもたちにそれらが自然に伝わり、言語による表現をも豊
かに育むことが期待できるが、それには、保育者が子どもにとって心地よい声で歌ったり語
りかけたりしながら遊ぶことも、大切な要素の一つである。
実際に筆者は学生が実習でお世話になっている保育園を訪問した際に、美しいよく通る声
で手遊びをされている保育士さんや、優しい声、豊かな表現と表情で子どもたちに目配りを
しながら絵本を読む保育士さんと、それに耳をそばだてる子ども達に出会った時、その場か
ら足が動かなくなる程の感動を覚えた。この声と共に日常を過ごす子どもたちの中に、どれ
ほどの素晴らしい感覚が育つであろう。
4.「弾き歌い」とは何か
これまで、ピアノと歌(=声)の表現の意義や可能性について述べたが、「弾き歌い」は、
それらを同時に行うことである。ここではその意義について考える。
保育の現場で行われる手遊びの活動は、保育者自身の声や息づかい、表情や身体の動きに
より、子どもに最も近いところで行うコミュニケーションの活動であるので、これらの繊細
なやりとりを伝えるためには、ピアノの音はない方が良いと考える。
しかし、大人数で歌を歌ったり、身体表現等を行ったりする場合は、保育者の声だけで活
動を進めることは難しく、表現の幅も広がりにくい。音楽的空間を作るという意味ではCD
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による伴奏も有効だが、子どもの動きに合わせて多様な表現を引き出すことや、息を合わせ
て歌ったり演奏したりすることが目的となるときには、相手に合わせたり、相手を引っ張っ
たりすることができ、かつ、ダイナミックな表現も可能なピアノの伴奏が必要となってくる。
さらに、このような活動では保育者が歌うことで子どもの表現を引き出す可能性が大きい
ことから、ピアノを音楽的に弾きながら歌い、さらに子どもの様子を見ながら、必要があれ
ば指示を出す技術が要求される。このように「弾き歌い」とは、保育者が自身の様々な感覚
を統合しながら行う保育の技術であると言える。
5.「弾き歌い」を行う技術の指導について
はじめに、学生のピアノ演奏への苦手意識について述べた。保育科の学生の中には、幼少
よりピアノに慣れ親しみ、かなりの技術を持っている者が多数いる反面、本学に入学するま
でピアノを習ったことがない、弾いたこともないという学生も少なくないことは、その原因
の一つであると考えられる。保育科の学生がピアノ演奏の技術を習得するための授業として、
1、2年次に開講されている「器楽」がある。この授業はいわゆるピアノ教室で行われるよ
うな個人レッスンの形で、週に1回、一人当たり15分~20分行われる。学生たちは1週間、
個人練習をして次のレッスンに備えるが、この個人練習の充実が計れない場合、技術の習得
も難しくなる。
そのような中、1年次に開講され、筆者を含む複数の教員が担当する「あそびと音楽」と
いう保育音楽の授業の中では、『コードによるピアノ伴奏の基礎』として、「弾き歌い」を指
導している。
以下に、活動の構造について記述する。
①活 動 目 的:弾き歌いの意義を学びながら、レパートリーを増やしていく中で、グルー
プ活動による協働の精神を培う。
②活 動 形 態:30名~40名のクラスを、4~ 5名ずつのグループに分け、学生をリー
ダーとする活動を毎回15分程度行う。
③学 習 内 容:簡単な理論及び、「弾き歌い」の実践
④学 習 方 法:童謡を歌いながら、左手でコードによる伴奏付けを行う。次のステッ
プとして右手でメロディを弾きながら左手でコードによる伴奏付けを行
う。最終的には、左手でコードによる伴奏付けをしながら歌う。
④到達度の測定:課題曲の中から当日1曲を教員が指定して、学生が弾き歌いを行う実
技試験を数回実施する。
本実践では、グループ活動を行うことで、学生が主体的に取り組む姿が見え、その結果、コー
ドによる伴奏付けはやればできるものであるという学生の声も聞かれた。
次年度は、引き続き2年次の授業でもコードによる伴奏付けを取り入れて、より実践的な
取り組みをめざすと共に、1年次においては年度当初より、授業担当者全員で検討を重ねな
がら「弾き歌い」の技術向上を目指したいと考える。
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6.終わりに
今回「弾き歌い」について検討した結果、課題として、クラス授業で「弾き歌い」の実践
を行うことの限界と、学生のピアノ演奏への苦手意識の原因について検討することが急務で
あると改めて感じた。今後は、「器楽」の担当者とも連携しながら、保育者として現場で活用
できるピアノ演奏技術の指導法について、検討を重ねていきたい。
また、学生を保育者として育て、送り出す現場には、多くの子どもたちがいることを、指
導者としても常に意識して、保育における音や音楽の役割についての研究を重ねていきたい
と考える。
参考文献
山下恵子
2005『声の生成プロセスについて―ハンディキャップのある人を中心に―』
お茶の水女子大学博士論文
中島恵子 山下恵子
2002『音と人をつなぐコ・ミュージックセラピー』春秋社
松井紀和
1980『音楽療法の手引き』牧野出版
中武亮子
2004『保育現場につながる音楽の授業をめざして』宮崎学園短期大学 教育研究
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イベント会場を彩る
幼児のための手づくりおもちゃ
守 川 美 輪
1.はじめに
著者は生涯学習推進委員の一員として、学内で開催している「子育て支援セミナー」の運
営に平成 22 年度から携わってきた。著者は会場の装飾を担当しているが、生涯学習推進委
員のひとりから『見て美しく遊んで楽しいおもちゃをつくって装飾にしてはどうか』との意
見を得て、平成 23 年度の「子育て支援セミナー」に向けていくつかのおもちゃを製作した。
製作したおもちゃは、「子育て支援セミナー」(注1)の他、「地域共生」においての「保
育園納涼会」
(注2)、
「保育フェスティバル」
(注 3)で活用した。本稿では製作したおもちゃ
のうちの 2 種を取り上げ、その意図、製作方法及び幼児がどのように遊んだかについて報告
する。
2.おもちゃの意図と製作方法
(1)ワカサギ釣り 過日、輪切りの丸太内部をくり抜いて蓋をし、蓋の穴から
3 ツ鉤のついた釣糸で釣るおもちゃを見たが、それを参考に
して製作した。
製作したおもちゃは氷を模した穴から覗いて釣る面白さ
がある。魚は重みがあり、釣った時の手ごたえがある。釣糸
の先のフックを魚の紐に掛けて釣るが、揺れる紐を扱うので
集中力が必要である。紐で釣るのが難しい1,2歳児も楽し
めるように棒に直接フックをつけた釣棒も作成した。
2、3 名が一度に釣れるよう釣り場は大型の木製の箱(上
面 42.5㎝ ×45.5㎝高さ 42㎝)とし、桐集成材(厚さ 1.2㎝)
で作成した。側面に持ち手穴、蓋に 7 つの穴(直径 11㎝)
を開けた。蓋の固定のため裏面に桟を付けた。氷の張った湖をイメージし、箱の外面及び蓋
を白、箱の内面を水色に水性ペイントで着色した。
魚はワカサギの形状を参考にデザインし、
(体長 12.5㎝厚さ 1.5㎝)樟材で 12 匹作成した。
小穴を開けて目とし、目の後ろに縦に穴(直径 5㎜)を開け、22.5㎝の革紐を通して結んだ。
着色せずワックス仕上げとした。釣り糸はC字フックに結びつけたロウ引き丸紐(70㎝)を
使った。フックのネジ部に木玉を通し 3 本作成した。釣棒は 45㎝の丸棒に直接C字フックを
ねじこんで 3 本作成した。
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(2)フェルト布のドーナツ
ドーナツ状のおもちゃを乳
児の手足にはめてやると、そ
れを目で追い、さわって取ろ
うとすると知り、ドーナツ状
のおもちゃ製作を思い立っ
た。20 個のドーナツは直径
9.5 ㎝ の 円 形 に 直 径 4.5cm
の穴のある型紙を使用した。
フェルトに綿を入れて周囲を
刺繍糸で縫った。フェルト 7
色で裏表の組み合わせを変え
10 種類作成した。同じもの
が 2 個あり、それを探す遊びができるようにした。穴を何かに通すと楽しいのではないかと
考え、直径 25㎝の板に長さ 80㎝の枝を縦に取り付けた台を作成した。また、市販のトング 2 本、
21.5㎝角のステンレス皿を 2 枚準備した。
鈴のついたドーナツは直径 11.7㎝の円に直径 5.2㎝の穴のある型紙を使用し、10 個製作し
た。「雪月花」「春夏秋冬」「水」「空」「光」をテーマにデザインし、アップリケで模様をつけ
た。鈴は1~3個縫いつけ、振って音を出して遊べるようにした。
動物親子はドーナツ型の動物をつくり、それを繋げて遊べるようにした。親子馬2組と親
子豚 1 組である。馬はボタンを紐に通して留め、豚はスナップで留める。
3.幼児の遊び
(1)ワカサギ釣り
遊ぶ子どもは男児が多かった。1 ~ 2 歳児は釣り棒で釣ることができた。棒を前後構わず
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動かすので、周りにいる子どもにぶつかりそうでヒヤリとすることがあった。釣れると嬉し
そうにし、親や遊びを見守っている学生や教員に見せた。続けて何度も釣りあげていた。
ワカサギが横倒しになると釣りにくくなるので、時々並べ直す必要があった。遊びを見守
る学生にはその配慮が必要なことがすぐに分からないようであった。
釣り棒で上手に釣れようになった 2 歳児が、釣紐での釣りにチャレンジする姿が見られた。
蓋を取ってのぞきこむように釣る子どももいた。納涼祭ではレベル1は釣棒、レベル2は釣紐、
レベル3は釣棒の先に釣紐を結びつけた釣竿を使うように学生が呼び掛けて遊ばせたとのこ
とで子どもたちは喜んでやりたがったとのことである。
(2)フェルト布のドーナツ
遊ぶ子どもは女児が多かった。トングの数が少なく、遊びたい子どもが我慢していた。ト
レイの数も足りず、手近にあった箱やかごに入れて持ち運び遊んだ。親にドーナツを勧めたり、
注文をしたり、食べる真似をするなどのやり取りを楽しんだ。
棒に通す遊びは1~ 2 歳児がよくした。動物親子、鈴のついたドーナツで遊ぶ子どもは少
なかった。同じドーナツが 2 種類ずつあることは気づかず、同じものを集めたり、分類した
りするような遊びはなかった。鈴のついたドーナツは乳児の手足にはめるには大きすぎたた
め、はめてもすぐに取れてしまい、意図した遊びができなかった。
4.まとめと今後の課題
当初の目的の見て美しく、遊んで楽しいおもちゃで部屋を飾ることができた。イベント会
場にふさわしく子ども数名で一緒に遊べるおもちゃができた。
ワカサギ釣りは、手先の技能に応じて、蓋を開けたり、釣紐、釣棒を選んだりして遊ぶこ
とができた。幼児の棒の扱いについては安全に遊べるように見守らなければならない。横倒
しになったワカサギは立てるなどの援助が必要である。
フェルト布のドーナツは色と形で会場を美しく彩っていたが、子どもは取り立てて模様や
色に関心を持っている訳ではなかった。親子動物は繋げて遊ぶというように機能性を持たせ
たばかりにかえってつまらなくなってしまったように見えた。大人がおもしろいと思うもの
を子どもが喜ぶ訳ではないことに改めて気づいた。シンプルなドーナツは、重ねたり、箱に
入れて持ち歩いたり、子どもが様々な遊び方を見出だし、試すことが出来ていた。おもちゃ
の大きさが不適切で手足にはめて遊ぶという当初意図した遊びができなかった。
今後は幼児の発達心理学を学び、特に0,1歳児の脳の発達を促すおもちゃを意識して製作
したい。
(注 1)平成 23 年 7 月 13 日~ 15 日の 3 日間宮崎学園短期大学で開催した。
(注 2)平成 23 年 7 月 9 日に清武中央保育園で開催された納涼会に参加した。
(注 3)平成 23 年 10 月 22 日に同上短期大学研修室及び食堂で、12 月 3 日にイオンモール
宮崎イオンホールで開催した。
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『人間の研究Ⅱ(勤労)』における指導の在り方 そのⅣ
~ 勤労観・職業観の育成を目指して ~
岩 切 徹 志
1 はじめに
本学の建学の精神は「礼節と勤労」である。一般教育科目としての「勤労」の授業は、実
習があるので、体を動かすことが苦手な学生にとっては、積極的な取組にはつながらない。
炎天下での作業や小雨まじりの下での作業は嫌がられる。
「一生懸命頑張れ」
「さぼったらだめ」
などの叱咤激励だけでは、積極的な参加にはつながらない。
学生たちが、働くことをどのように考えているかをまず把握し、1年を通して働く意味を
しっかり考えさせ、「勤労観」「職業観」を育成につなげる指導が課題である。
また保育科DPの評価にもつながることを意識し授業を展開することが必要である。今回は、
「勤労観」「職業観」の育成に焦点を当て、1年間の授業を振り返ってみたい。
2 研究内容
アンケート調査を実施。【平成 24 年1月 調査人員218名】
(1)「学生が保育科を目指すきっかけになった理由は何ですか。」
① 子どもが好きだから 204名
② 保育園・幼稚園の先生の影響 67名
③ 保護者に勧められた 7名
④ その他 19名
※ 「子どもが好きである」という理由が圧倒的である。次いで、保育園・幼稚園の先生
の影響、保護者や先生に勧められたことがきっかけで、保育科に入学してきている。
(2)「卒業後の就職先は、
どこを希望していますか。」
☆ 保育園⇒約60%
☆ 幼稚園⇒約19%
☆ 児童養護施設⇒約7%
☆ 一般企業⇒約4%
☆ 高齢者介護施設⇒2%
☆ その他⇒約8%
【専攻科進学又は未定】
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(3)「あなたが考えている働く理由はどの項目に近いですか。」(3つを選択させた)
①自分が生きるためには、自分で稼ぐしかない。 69名
②収入を得ることで、生活の安定が得られる。 86名
③親から独立したい(自立したい)。 55名
④お金を稼いで、家の生活費を補わなければならない。 18名
⑤企業や職場・組織に所属することで「一体感」を得たい。 6名
⑥企業や職場・組織に所属しその集団組織の中で重要な役割を果たしたい32名
⑦生活を楽しむことは、ゆとりを持てる収入が必要である。 34名
⑧自分の「やりたいこと」を実現したい。 144名
⑨仕事を通じて、自分の能力を発揮し、自分を高めたい。 57名
⑩他の人と接する機会がある。 33名
⑪社会のしくみに影響を与えたい。 4名
⑫社会の利益のために能力を発揮したい。 6名
⑬お金をもうけて、大きなことをしたい。 6名
⑭自分の成長する手段として仕事をしたい。 95名
⑮エネルギーと情熱を仕事に向けたい。 9名
生活維持のために働く
① ② ④ ⑦ ⑬
社会貢献のために働く
③ ⑥ ⑩ ⑪ ⑫
自己実現のために働く
⑤ ⑧ ⑨ ⑭ ⑮
入学したころの調査では、
「生活維持のた
めに働く」という理由をあげる学生が大多
数であった。今回は、
「自己実現のために働
く」という回答が47%あり、「生活維持
のために働く」を約15%上回った。この
ことは、屋外での実習を数回体験する中で、
育てる喜びや達成感や成就感を味わい、
「自
己実現の喜び」を経験した学生が増加して
きたといえるのではないかと考える。
(4)「あなたは勤労の授業や実習に真剣に取り組みましたか。」
約90%の学生は真剣に取り組んでいるが、残りはあ
まり意欲的な取組ではなかったことが伺える。
実習では、積極的に取り組み、汗を流す学生がほとん
どであった。
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(5)「あなたは、勤労の実習で達成感を (6)「勤労の時間や実習を通して働く意味
味わうことができましたか。」 や大切さをつかむことができましたか。」
ほとんどの学生が、達成感を味わうとともに、働く意味や大切さを感じ取っているよう
である。保育科DPの評価項目にある「積極的に他者と関わることができる」「他者の立場を
思いやる行動ができる」「チームワークができる」「自他の個性を尊重し、互いのよさを高め
合うことができる」という内容については、授業を通して到達できたといえるのではないだ
ろうか。「自己実現のために働く」という回答が最も多かったことも、働く意味が生活維持だ
けではないということを、一人一人が感じ取ってくれていることの表れである。
(7)「勤労の時間や実習を通して学んだことや気付いてことはどのようなことか。」
・今食べている物は、農家の人たちが大変な思いをして育ててくれたものである。
・為すことによって学ぶことで仕事の成長につながる。
・嫌なことでも、自分の気持ち次第でどうにでもなる。
・「てんびんの詩」を視聴して、働くことの大切さが分かった。
・勤労の授業は、努力することを身近に感じられてとてもためになった。
・ソラマメやサツマイモは雑草などをきれいにすればきちんとなる。
・一生懸命したことで、達成感を味わうことができ、成長できるということ。
・人は互いに助け合いながら生きていること。
・働くことの大切さと働くことで人は成長するということ。
・何に対してもまじめにコツコツと努力を続けていれば、後から大きな成果として表れる
ことが分かった。
・人と人との関わりを大切にして生きる。 ・得るものはお金だけではない。
・人間は自分のやりたい仕事だと自分が育つこと。
・働く喜びや苦しみが分からないと、人の上には立てない。
・全てのものは小さなものの積み重ねで大きくなる。(積小為大)
・傲慢な人は、一生幸せになることはない。
・真の幸せは「自らが感謝して、他人から感謝される」ということ。
・「金残すは下、事業残すは中、人残すは上」
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(8)「勤労の授業で学んだことを就職先で生かそうと考えていることはどのようなことですか。
」
・活動に一生懸命取り組むこと。 ・一生懸命働けば必ず得るものがある。
・実習での協調性 ・働くことによる達成感・充実感
・コツコツと仕事をする。 ・きついけど頑張った分だけ喜びがある。
・人のために働くということ。 ・適当にしては、いいものはできない。
・働くことで心が豊かになる。 ・不平を言うより感謝する方がよい。
・自分たちで何か育てて収穫することの大切さ。
・自分のことばかりでなく、周囲にも目を向ける。
・人任せにせず、一生懸命働くということを忘れない。
・自分のためだけでなく、社会に貢献するために働く。
・実習で学んだ「周りの様子をしっかり見る」ということを生かす。
・植物を育てるときの1つ1つの作業にそれぞれ大切な意味があること。
・態度や物腰は言葉以上であるということを忘れない。
3 まとめ
年間10回の実習と講義・演習で授業を実施しているが、あわせて視聴覚教材「てんびん
の詩Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」を活用して人としての在り方、生き方を考えさせるようにしている。内容
は主人公の近藤大作少年が、商いの修行を通して、多くの人々と関わりながら成長していく
物語である。毎回、視聴後の感想を書かせているが、一人一人の心にいろいろな思いが刻ま
れていることが伝わってくる。『一番印象に残っている言葉は、学ぶということは人間を変え
るということ。この言葉は商人だけではなく、どの仕事でも同じではないと思いました。私
も将来は保育の仕事に就きたいと考えています。私も子どもたちから学んで良い方向に変わっ
ていきたいし、子どもたちも良い方向に変えられる保育士になりたいです。』『どんな時でも
他人のことを想う気持ちは回り回って自分へ良い事となって返ってくるのだと思いました。
私も常に相手を想い、行動しようと思います。やはり自分を支えるのは人徳なのだと思いま
した。共に生き、共に喜び合うという言葉を忘れません。』このように、商人を保育者に置き
換えて考えれば、全て自分のこれからに通じる内容であることを理解できている。
上記のアンケートの結果や感想からも分かるように、学生たちは、
「為すことによって学び」
将来の自分の仕事や生き方に向かって、着実に成長している。
これからも勤労の授業が、
「勤労観」「職業観」の育成と学生の成長の一助となるような「勤
労」の授業づくりに努めたい。
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小児体育Ⅱの指導について(その3)
佐 藤 芳 信
1 はじめに
保育科の小児体育の授業では、小児体育Ⅰを通して子どもの遊びを豊かに展開するために
必要な知識・技術の習得を目指し、小児体育Ⅱで教材等の活用及び作成の仕方を習得すると
ともに、保育の環境構成及び具体的展開のための知識・技術を習得することを目指している。
ここでは、昨年度の反省をもとに改善した小児体育Ⅱの授業への取り組みについて報告する。
2 研究内容
(1) 授業実践に向けた手続き
① 学生が小児体育Ⅰ・Ⅱを学習する上での基本的な授業の構想
○ 幼稚園教育要領及び保育所保育指針の健康領域:「健康なこころと体を育て、自ら
健康で安全な生活をつくり出す力を養う」より
・ 幼児は遊びの中で育つ。
・ 幼児期は遊びの中で社会性を身に付ける。
・ 健康なこころは幼児期から社会の中で育ち磨かれる。
・ 健康な体は幼児期の遊びで育つ。
・ 健康生活・安全生活は幼児期から自分でつくり出すことができる。
○ 科目全体を通しての約束
・ 保育所保育指針及び幼稚園教育要領の健康領域を理解する。
・ 運動遊びの楽しさを体験するため、自分自身がいろいろな動きに積極的に取り
組むようにする。
・ 安全に関する基礎基本を理解し、指導に生かすことができるにする。
・ いろいろ遊びを考え、分かりやすい説明や指導ができるようにする。
・ 幼児教育に携わる者としての自覚をもって学習に取り組む。
○ 毎時間の授業に向けての約束
・ 授業を休まない、授業開始に遅れない。
・ 忘れ物をしない、提出物を確実に出す、服装を整える。
・ 授業の主役として主体的に学習に取り組む。
② 小児体育における学習のねらい
<小児体育Ⅰ>
○ 幼児の心身の発育・発達、運動、安全について理解する。
○ 幼児の発育・発達特性に応じて十分に体を動かす運動遊びを身に付け、それらの
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指導法について学習し、指導者としての資質・能力を養う。
(自分の中に、いろいろな遊びの詰まった引き出しをたくさん持つ。)
<小児体育Ⅱ>
○ 運動遊びをもとにした授業づくりと実践的な指導方法研究を深める。
○ 自ら作成した指導過程をもとに模擬授業を実施し、幼児教育の健康領域のねらい
に迫る実践力を高める。
③ 小児体育Ⅱにおける授業の進め方
○ 第1時にオリエンテーションを実施して学習の進め方を確認させ、シラバスにつ
いて全体の流れをつかませる。
・ 「指導過程作成の日設定 →2~3日の模擬授業日設定」を繰り返す。1コマ 30
分間の模擬授業を2箇所で2コマ実施するので、90 分の授業で計4人が模擬授業
を実践することになる。
○ 指導過程作成は教室にて行い、その間机間を巡って状況を把握しながら個別指導
を進める。質問があればいつでも対応する。授業時間だけでは作成が終わらない
ので、家に持ち帰らせ熟考し反芻しながら指導過程を練らせることを宿題とする。
○ 模擬授業の進め方を確認させる。
1 保育者役と幼児役が元気よく挨拶する。
2 名前を呼びながら健康チェックをする。
3 本時の遊びの説明をする。幼児役は分からないことがあれば保育者役に質問する。
4 準備運動をする。
5 みんなで用具の準備をする。
6 保育者役は、常に「安全」に気を配る。
7 みんなで楽しく活動できたことを喜び合い、挨拶して終わる。
○ 模擬授業の日は、4人の模擬授業が終了したら、それぞれの授業に対して引き続
き事後研究を行う。
○ 事後研究では、各保育者役には実際に保育活動をやってみて、うまくいったこと・
嬉しかったこと・失敗したこと・困ったことなどを率直に発表させる。幼児役には、
よかったと思うところ・改善した方がよいところ・疑問に思ったところなどを自
由に発表させる。これらを通して具体的な理解をもとに次回の指導過程作成に生
かすようにさせる。
○ 授業の終わりに模擬授業の実践や事後研究の内容について講評し、次時以降の指
導過程作成や模擬授業の実践に生かすようにさせる。
・ 4つの模擬授業それぞれの良かった所(何が良かったのか、なぜ良かったのか、
どのように良かったのか 等)と、改善が必要な所又は改善が望ましい所(危
険性の問題、発達段階との問題、遊具等の準備の仕方に関すること 等)につ
いて総括する。
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(2) 授業の実際
模擬授業の実施は予定通りに進み、全学生に自分で作成した指導過程案で保育者役を体験
させることができた。教室で指導過程を考える時間と体育館で模擬授業を実践する時間の構
成もよかったと思われる。模擬授業後の授業研究会でのやりとりも次の指導過程作成に生か
された。
(3) 模擬授業後の事後研究の実際
どの模擬授業に対しても、保育者役・幼児役の双方から積極的な意見や感想等が活発に述
べられ、大変有意義な授業研究が行われた。小児体育の授業に対する動機付けが高まったと
いえる。
授業研究会の記録から スティックキャッチ の模擬授業に対する学生同士のやりとり
創作遊びの概要:1人1本の棒を床に立てて持つ。リズムに合わせて自分の棒を離して隣
の人の棒が倒れないうちにつかむ。これを繰り返して人間が移動していく。仲間とタイミン
グよく移動していくスリルを楽しむ。
<保育者役の反省・感想>
・ リズムに慣れるために先ず2人組で練習した。次に2列作ってミスなく移動していく
競争をした。思ったよりも楽しく盛り上がったので嬉しかった。終わる前に、全員で円
を作って一斉に移動する、という遊び方を取り入れたが、思いつきでやったので流れを
十分に把握しておらず、もたついてしまった。計画性がなかった。
・ 幼児役の人達からいろいろアドバイスをもらいながら進めた。アドバイスがありがた
かった。
・ 幼児には少し難しいかも知れない。
<幼児役の意見・感想>
・ 紙を丸めて紅白テープを巻き、きれいな棒を作っていたのがよかった。
・ 棒の太さは幼児にとってどれくらいがいいのか研究すべきだと思う。今日準備した棒
の直径はどれくらいだったのか。
(直径約4cmで巻いた。幼児には太いかも知れない。)
・ ドキドキしながらリズムに合わせて移動するのが楽しかった。
・ 幼児の中には棒を振り回したりする者がいないか心配もある。はじめに注意をした方
がよいのではないか。
・ 移動するとき隣の人とぶつかることもあるのではないだろうか。棒の間隔や移動する
速さなどの工夫が必要と思う。
玉入れ玉とばし の模擬授業に対する学生同士のやりとり
創作遊びの概要:2チームに分かれ、1チームが布を広げて持ち、もう1チームが布上に
玉を投げいれる。布を持つチームは布を揺らして投げ込まれた玉をはじき出す。決められた
時間内での攻防を楽しむ。
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<保育者役の反省・感想>
・ チームに名前をつけさせて団結力を持たせたり、作戦を話し合う時間を設けたりした
のでチームが協力して楽しく活動できたと思う。
・ ゲーム中におじゃみがバルーンの下に入ってしまって、拾う人が危険な場合があっ
た。バルーンの下に潜り込まないように指示すべきであった。
・ バルーンよりも小さい布を準備すると危険性がなかったかなと思う。
・ 学生でははじきとばす側が優勢だったが、幼児の力ではどうなるかわからない。
・ 両チームとも勝つために燃えたのでやって嬉しかった。
<幼児役の意見・感想>
・ 玉におじゃみを使い、布にバルーンを使うなど準備に工夫が見られた。
・ 幼児の力ではバルーンを動かしておじゃみをはじきとばすのは難しいのではないか。
小さい布の方が動かしやすいし、潜り込む心配もなくなるので改善するとよいと思っ
た。
・ 入れても入れてもはじき出された。きつかったけど必死になるので面白い。
・ 入れる側もはじき出す側も、どちらも楽しめるからよい。
・ おじゃみは1チーム7人に対して何個準備したのか。十分であったか。
(保育者:80個準備した。よかったと思う。たくさんあり過ぎると雑になる心配があ
る。)
・ 運動中の最大心拍数の測定結果は、玉入れが152回/分・玉とばしが112回/分で、
自分のRPE:主観的運動強度は、玉入れが4・玉とばしが3であった。入れる側・とば
す側で運動負荷が大きく違うことがわかった。
3 まとめ
本研究に取り組んで今回で3回目となった。関心・意欲・態度・能力等がそれぞれ異なる
一人一人に対する効果的な応じ方が相変わらず課題として残った。指導過程の練り方が足り
ないものがあったり、事後研究で毎回同じような反省や指摘が出されるなどの課題もあるが、
事後研究では毎回よく意見・感想・質問等を述べさせることができた。全員を引き込んで活
発な意見交換を展開することについては、概ね達成できたと考える。
模擬授業に対する動機付けの高まりは、オリエンテーション時の学習内容を確認する手続
きが機能したこと、指導案作成にあてる時間と模擬授業を実践する時間のバランスがとれた
こと、定期的に形成的評価を行ったこと、各事後研究会で出された一つ一つの意見・感想等
に対し、授業のまとめで丁寧にコメントしたこと、などが効果的であったと考えられる。模
擬授業の質を高めるため、今後さらに学生との向き合いを大切にしながら授業を一層高めて
いきたい。
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協同学習の授業形態が仲間への質問行動に対する
認識の変容に及ぼす影響
野 﨑 秀 正
学習場面においてわからないところを質問する行為は、人的リソースを活用した有効な学
習方略であり、教師や仲間に積極的に質問することが学習内容に対する理解の深化に繋がり、
学業達成を促すとされる。
しかし、授業場面において質問が積極的に起こることは少ない。この原因について、これ
までの研究では、学習者が質問をすることに対してネガティブな認識を持っているためであ
ることが指摘されている。例えば、教師に質問する場合においては、周囲の仲間の反応が気
になるといったことや、教師からの「こんなこともわからないのか」等の反応に対する評価
懸念のようなものがある。教師に対する質問については、こうした心理的要因の影響以外にも、
質問する時間がないといったような物理的な制約も伴う。
一方、仲間への質問については、回答者が 1 人に限定されないという点だけを考えても、
比較的生起しやすいことが考えられる。実際に、中学生を対象にした野﨑(2003)の研究では、
教師よりも仲間に対して多くの質問を行っていることが明らかにされている。仲間への質問
については、近年その重要性が指摘されているピア・サポートの観点からも教師に対する質
問と同じぐらい積極的に行われることが期待される。
しかし、仲間に対して質問する場合においても、学習者は、全くネガティブな認識を持っ
ていないわけではない。むしろ、自分と同じ立場の仲間に質問することは、相手に自分が学
習内容を理解できないという弱みをみせることになるため、よりネガティブな認識を持つと
いったことも考えられる。このような仲間への質問に対するネガティブな認識を変容させる
ためにどのような学習指導が効果的だろうか。その 1 つの方法としては、協同学習の授業形
態を導入することが考えられる。協同学習とは、ペアまたは少人数のグループに分かれて仲
間同士の協同により学習が進行する授業形態のことで、近年、初等教育から高等教育に至る
まで様々な教育実践の場において導入されている。協同学習が備えるべき条件について、ケー
ガン(S. Kagan)は、①互恵的な協力関係があること、②個人の責任が明確であること、③
参加の平等性が確保されていること、④活動の同時性に配慮していることの、4つを挙げて
いる。特に 1 つ目の条件である互恵的な協力関係については、これを強調した学習指導を行
うことにより、仲間との間にお互いを受容し、理解し合う雰囲気が醸成されるため、質問す
ることに対するネガティブな認識が低減することが考えられる。
本研究では、ケーガンが提唱する条件を踏まえた協同学習を 15 回にわたり実施したときに、
授業実施前と授業実施後では仲間に質問することへの認識がどのように変化するのかを検討
する。ケーガンが提唱する4つの条件を備えた協同学習を行う事で、仲間に質問することに
対するネガティブな認識が低下し、ポジティブな認識が向上することが期待される。
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方 法
1,対象授業、調査対象者、調査時期
宮崎学園短期大学保育科 1 年の4クラス(1クラス約 40 名)で行われた「保育の心理学」
の授業(後期全 15 回)を対象にした。授業は 2011 年 10 月 4 日から 2012 年 2 月 7 日まで
の期間に、各クラスともおおよそ 1 週間に 1 回のペースで合計 15 回行われ、ほぼ全ての授
業で協同学習を実施した。調査はこのうち 3 クラスの授業で実施し、合計 114 名の受講生に
対して第 1 回目の授業開始前と第 15 回目の授業終了後の計 2 回同じ項目に回答してもらっ
た。最終的に、2 回の調査の両方において全ての質問項目に回答していた学生 85 名(男子 1 名、
女子 84 名)を分析対象とした。
2,授業の構成と展開
今回分析の対象とした授業では、具体的に以下の方法を取り入れて、実施された。
⑴グループの構成 学習者同士の相互作用が最も起こりやすいとされる1グループ 4 人を目
安にグループを作った。また、グループメンバーについては、前期の学業成績を参考に全グルー
プの学業成績の平均値及び標準偏差がほぼ同じになるように調整した。
⑵エクセサイズの実施 授業に入る前にエクセサイズと称したコミュニケーショントレーニ
ングを行った。毎回、指定された内容について順番に各自 1 分間で話した。
⑶授業の展開 授業構成としては、1 コマ全てを協同学習で行うのではなく、前半 45 分を講
義形式の授業とし、後半 45 分に講義の内容について相互に意見を述べ合ったり、質問し合っ
たりする協同学習の形態を導入した。話し合いの前には、1 人につき 1 分間の時間を提供し、
順番に話していくというラウンドロビンと呼ばれる手法により各自意見を述べた。このこと
でケーガンの述べる③参加の平等性の確保と④活動の同時性への配慮の条件を満たすように
した。
⑷評価方法 評価は一部にグループ単位での評価を導入した。具体的には以下の 3 点につい
てグループでの評価を行った。1, 問題をグループで話し合い1つの解答をつくる、2, 授業で
学習した内容についてグループ毎に口頭での試験を行う、3, レポートはグループ単位で提出
するように指示し、全員分がないと受理しない、といった評価方法をとった。こうした評価
方法を実施し、かつ学生にそのことを伝えることで、ケーガンが提唱する③互恵的な協力関
係の構築、④個人の責任の明確化の条件を満たすようにした。
3,調査内容
仲間に対する質問への認識に関する項目を、野﨑(2003)を参考に 10 項目作成し、使用した。
各項目とも「全く当てはまらない」から「とても当てはまる」までの 5 件法で尋ねた。
結 果 と 考 察
仲間への質問に対する認識の 10 項目それぞれにおける授業前と授業後の得点について対
応のあるt検定を行った。その結果、
「1,私は、友達に質問することが好きです。」、
「2,私は、
友達に何を質問して良いのかわからないです」、
「9,先生ならともかく、友達に質問してもど
うせわからないと思います。」の 3 項目について、授業前よりも授業後の得点が有意に高いこ
とが明らかになった。平均値と標準偏差及び分析の結果を表1に示す。
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表1 協同学習による授業の実施前と実施後の仲間への質問に対する認識の平均値と標準偏差
項目内容
授業前
授業後
t値
1, 私は、友達に質問することが好きです。
3.51
3.72
2.27 *
(0.90)(0.88)
2, 私は、友達に何を質問して良いのかわからないです。
2.20
2.47
2.48 *
(0.86)(0.97)
3, 友達に質問しないで自分の力だけで解きたいです。
2.20
2.19
0.12
(0.94)(0.91)
4, 私は、友達に質問するとき、恥ずかしさを感じます。
2.18
2.18
0.00
(1.03)(1.04)
5, 私は、友達に質問するのが面倒くさい気がします。
1.94
1.91
0.40
(0.88)(0.93)
1.81
1.92
6, 私が質問すると、頭があまり良くないと思われるかもしれないと心配です。
1.08
(1.02)(0.98)
7, 友達に質問すると、私のプライドが傷つきます。
1.42
1.45
0.31
(0.62)(0.70)
8, 友達に質問することは勉強の役に立つと思います。
4.38
4.53
1.77
(0.67)(0.59)
9, 先生ならともかく、友達に質問してもどうせわからないと思います。
1.40
1.62
3.12 *
(0.54)(0.76)
10, 友達に質問することの内容がうまくまとまりません。
2.53
2.72
1.50
(1.05)(1.13)
注) * p < .05
まず、「1,私は、友達に質問することが好きです。」の認識が授業実施後に上昇していた
結果については、協同学習を実施することで仲間との間に親密な感情が芽生えたことにより、
仲間に質問することを好意的に認識するようになったためであることが考えられる。
一方、「2,私は、友達に何を質問して良いのかわからないです。」及び「9,先生ならとも
かく、友達に質問してもどうせわからないと思います。」の認識が授業実施後に上昇した結果
については、協同学習を実施したことによりネガティブな認識がむしろ高くなったことを示
しており、予想に反する結果となった。この原因としては、この2つの項目が仲間への質問
に対する情緒的な反応というよりは、仲間にうまく質問できるかどうかや仲間への質問が役
に立つかどうかといった質問スキルの問題や質問の効果に対する認識であったことが考えら
れる。つまり、今回実施した協同学習は主に仲間とのコミュニケーションの促進という親密
性の増大のような情緒面の改善に焦点化した介入が主であり、どのように質問したらよいか
やどのように回答したらよいかという具体的な質問の方法に関する指導は含まれていなかっ
た。そのため、今後は、質問スキル及び回答スキルの向上を目標にした指導も協同学習に組
み込むことで、仲間への相互質問の活性化を図るようにしたい。
参考・引用文献
野﨑秀正 2003 生徒の達成目標志向性とコンピテンスの認知が学業的援助要請に及ぼす影
響-抑制態度を媒介としたプロセスの検証- 教育心理学研究 , 51, 141-153.
ジェイコブズ・パワー・イン 2005 先生のためのアイデアブック-協同学習の基本原則と
テクニック- 関田一彦 監訳 ナカニシヤ出版
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「教育相談」における学生の学習内容とニーズ
江 村 理 奈
問 題 と 目 的
不登校やいじめなど学校不適応の問題が増加する中で,教員に求められる教育相談的機能
への需要は,年々高まっている。幼稚園教育要領(文部科学省,2008)にも子育て支援や障
害を持った子どもへの支援,地域の幼児教育に関する相談に応じるなど幼稚園教諭の役割の
重要性が強調されている。そのような状況の中,
「教育相談」は,教育職員免許法施行規則(文
部科学省,2010)に規定されている「教職に関する科目」の中の「生徒指導,教育相談及び
進路指導に関する科目」として開設されており,初等教育科においては,幼稚園教諭二種免
許状と小学校教諭二種免許状取得のために必修の科目となっている。
江村(2009)は,保育科を対象に,「幼児教育相談」を受講する学生が,どのようなニー
ズを持ち幼児教育相談を学ぼうとしているのかを明らかにするために,学生の幼児教育相談
におけるニーズについて検討している。その結果,学生は幼児教育相談の講義において,「保
護者への対応」について最も学びたいと考えていることが明らかになった。
そこで,本研究では,初等教育科の学生を対象に,「教育相談」の講義を受講した後の学習
内容に対する満足度とニーズについて検討することを目的とする。調査を通して,小学校教
諭や幼稚園教諭を志望する学生が,「教育相談」のどのような内容に対して学んで良かったと
考えているのか,また,さらにより深く学びたいと思っているのかを明らかにする。 方 法
(1)調査対象
初等教育科 2 年生(科目履修生を含む)22 名(男子 4 名,女子 18 名)。
(2)調査材料
教育相談の主な授業内容に対して,学生がどの内容を学んで良かったと思っているか 10
項目の質問項目について,4段階(全くそう思わない=1,あまりそう思わない=2,少し
そう思う=3,非常にそう思う=4)で回答を求めた。また,質問項目を含めて,さらに知
りたい,学びたい内容について記入することができる自由記述欄も設けた。
(3)調査時期
2012 年 2 月
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(4)調査手続き
教育相談の講義時間の一部を利用して実施した。調査は,成績に関係ないことを説明し,
無記名で行った。
結 果
(1)学生の学習内容への満足度ついて
Table 1は、学生の学習満足度得点の平均値と標準偏差を示したものである。Table1 から
みると,学生は,「保護者との対応について」最も学んで良かったと感じていることが明らか
になった。また,「自己覚知(自己理解)について」や「子ども理解について」の学習につい
ても高い値を示している。それに対して「地域社会・専門機関との連携について」の項目は,
10 項目中では,最も低い値を示しており,学生が学ぶ必要性を感じにくいことが示唆された。
Table1 学生の学習満足度得点の平均値と標準偏差(SD)
満足度
1 カウンセリングについて
2 特別支援教育について
3 発達障がいについて
4 保護者との対応について
5 非言語の心理療法について
6 不登校について
7 地域社会・専門機関との連携について
8 自己覚知(自己理解)について
9 社会性の発達・支援について
10 子ども理解について
総得点
3.90
(0.29)
3.68
(0.57)
3.91
(0.29)
4.00
(0.00)
3.77
(0.43)
3.82
(0.40)
3.46
(0.60)
3.96
(0.21)
3.82
(0.40)
3.96
(0.21)
3.83
(0.18)
(2)ニーズについて
学生が,教育相談の授業を受講した後に,さらにどのような内容について学びたいと思っ
ているかについて検討を行った。自由記述欄の回答から見てみると,「保護者との対応で,子
どもを協力して育てることについて,もっと詳しく知りたい。」,「手紙などで,保護者からク
レームがきた時の対応を知りたいなと思いました。」など,保護者との対応についての記述が
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最も多く,次いで,「発達障がいについてもっと学びたい。」という発達障がいや特別支援教
育についての記述が多かった。
これらの結果から,学生は,「保護者との対応」や「発達障がい」に関する内容について,
さらに学びたいというニーズが高いことがわかった。
考 察
本研究は,「教育相談」における学生の学習内容とニーズを検討することを目的として行っ
た。その結果,学生の教育相談における学習満足度は,「保護者との対応」や「自己覚知(自
己理解)」,「子ども理解」について高いことが明らかになった。また,さらなる学習のニーズ
としては,「保護者との対応」,「発達障がい」,「特別支援教育」であることが示唆された。
小学校教諭や幼稚園教諭を目指す学生にとって,「教育相談」の講義で求められていること
は,第1に,自己理解や他者理解を通して,子どもや保護者とのよりよい関係を築き,対応
できるようになりたいということであると考えられる。また,第2に発達障がいや特別支援
教育について理解し,対応できるようになりたいとの思いが強いことも伺える。
次年度以降の授業においては,「教育相談」の内容に保護者との対応や発達障がいについて
の内容をさらに増やし,深めていきたいと考える。また本研究では,「地域社会や専門機関と
の連携」についての学習内容に対して,学んで良かったという値が低かった。どうして地域
社会や専門機関との連携が必要なのかという点に関しても,より重点をおいて授業に取り組
んで行きたいと考える。さらに,今後も本研究の結果をいかし,授業内容の精選や学習意欲
を高める工夫についてさらなる検討を行っていきたい。
引用文献
江村 理奈 2009 「幼児教育相談」における学生のニーズに関する研究 宮崎学園短期大学教育研究第5号,64-66.
文部科学省 2010 教育職員免許法施行規則
文部科学省 2008 幼稚園教育要領
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コード伴奏法の指導法研究
~「あそびと音楽」での実践を通して~
後 藤 祐 子
1、はじめに
私は、今年度「あそびと音楽Ⅰ・Ⅱ」の授業を担当する中で、学生たちに保育の現場で活
用できる音楽力を身につけてほしいという願いをもって授業を行ってきた。その中でも「弾
き歌いできる」ことは、保育士に特に求められる能力であると思う。弾き歌いする場合、楽
譜通りに弾きながら歌う、コードを使って簡易伴奏をしながら歌うの 2 通りの方法が考えら
れるが、ここでは、コードを使った簡易伴奏を学生が身につけ即興的に使用できることを目
指して行った「あそびと音楽Ⅱ」の授業を振り返り、指導法について考察したいと思う。
2、授業科目・方法
平成 24 年 1 月 17 日に行った授業研究会での取り組みを取り上げながら、保育科 1 年前期
開講「あそびと音楽Ⅰ」、保育科 1 年後期開講の「あそびと音楽Ⅱ」において行ったコード伴
奏法に関する授業内容を振り返る。授業対象の詳細については以下の通りである。
(1)授業科目・対象
授業科目名
1
あそびと音楽Ⅰ(前期開講)
2
あそびと音楽Ⅱ(後期開講)
対象
履修人数
保育科 1 年 A クラス・音楽科 1 年
(他学科履修)
44 名
保育科 1 年 B クラス 39 名
保育科 1 年 A クラス
39 名
保育科 1 年 B クラス・音楽科 2 年
(他学科履修)
40 名
(2)授業方法
コード伴奏法を学生が理解し身につけ、応用できるよう以下の4点について毎回の授業で
指導を行った。
①コード表記をおぼえる ②コードの和音をおぼえる ③よく使うコード進行をおぼえる
④歌に合わせた伴奏アレンジを学ぶ
①と②のコード表記と和音構成については、音符とアルファベットの記されたカードを使
用し、毎回の授業で確認を行っていった。
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④の歌に合わせた伴奏については、メロディーとコードのみ記された楽譜を使用し、コー
ドの活用ができるようにした。使用した曲は以下の通りである。
かえるのうた きらきら星 ミッキーマウスマーチ とんでったバナナ さんぽ
もりのくまさん メリーさんの羊 オブラディ・オブラダ アイアイ ぞうさん
おもちゃのチャチャチャ 崖の上のポニョ
また、実際に音を出しながら、ハーモニーを聴いて調和のとれた和音の音色や、音のバラ
ンスについて感じることができるよう、グループに分かれてピアノで弾くことや、木琴を使
用して根音・第 5 音を使って伴奏する内容とした。授業人数が 40 名ということもあり、グルー
プでの実践が有効と考え行った。全体指導の際には、模造紙に歌詞を書き、歌詞と一緒にコー
ド記号を記し、歌いながら伴奏をすることができるようにした。
3、授業指導案
以下に、平成 24 年 1 月 17 日に行った授業研究会での指導計画を示す。
1.ユニット名 保育の専門的知識・技能を高める指導法の研究
2.研究授業者 後藤祐子
3.日 時 平成 24 年1月17日(火) 4限
4.場 所 331教室
5.授業科目 あそびと音楽Ⅱ
6.対 象 保育科 1 年 A クラス
7.本時の目標 保育現場で必要とされるコード伴奏法を学び、ピアノや木琴を使って実践することで
弾き歌いできる力を身につける。
8.指導過程
学習内容および学習活動
留意点
1、本時の目標について理解する。
○前回の振り返りを行い、コード伴奏法の
2、歌と手遊びを覚える。
○歌の情景を思い浮かべながら歌うように
②手遊びうたを実践する。
に意識づけする。手遊びでは、はっきり動
重要性について理解する。
①季節の歌をうたう。
伝える。音程をしっかりとって歌えるよう
き、子どもに伝わる表現となるように指導
する。
3、コードの復習、コード伴奏の練習を
する。
○コード記号と音符の繋がりが理解できる
ように復習をする。グループに分かれてピ
アノや木琴を使って、実際に音を確認しな
がらコード伴奏練習を行う。
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4、♪崖の上のポニョの合奏をする。
○簡単なコード進行を使って、学生にも親
しみのある曲を合奏し、コードの活用法に
ついて学生が理解できるようにする。コー
ド理解の難しい学生には個別指導する。
5、本時のまとめ
○次週までの課題について伝える。
9.ユニットのテーマに対する私の工夫と評価の観点
〔工夫点〕
・保育現場で活用できるコード伴奏法について、楽器を使用してグループで取り組めるよ
うにし、弾き歌いで使えるようにする。
〔評価の観点〕
・コードについて理解して実践できていたか。曲に合わせてコード伴奏する中で、学生が
できたという達成感を感じられたか。
4、結果・考察
コード伴奏法について、今年度は特に力を入れて指導をしてきた。毎回の授業の中で、コー
ド記号を見て階名で答えられるように(C →ド D →レ)カードやプリントを使用していっ
たところ、理解は定着していった。学生への授業記録シートや、授業評価アンケートの記述
の中にも、「コードが理解できた」「難しいと思っていたコードが少しはわかるようになった」
と記されていた。このことにより、コード理論についてはカードや音符などの視覚的教材を
使うことが有効であると考えられる。研究授業の中でも、歌詞カードを使い、歌詞カードにコー
ド記号を記すことにより、視覚的に確認し歌いながら伴奏するという練習をすることができ、
弾き歌いする力を身につけるという授業目標への段階を踏まえた指導ができたと思う。
前期の「あそびと音楽Ⅰ」では、手遊びや歌あそびの体験や実践を中心に授業を行ったため、
コードについては後期の「あそびと音楽Ⅱ」で主に指導した。前期よりコードの理論を少し
ずつ取り入れてはいたため、後期の「あそびと音楽Ⅱ」の授業でコードを使った実践的な内
容を行うことができたと思う。弾き歌いできる力を身につけることを目指していくには、他
科目と連携しながら音楽を活用できる保育士養成をしていくことが大事であると考える。今
後は、学生が楽しみながら理解し、コード伴奏することで、子どもたちとより近く歌をうたっ
たり、音楽を楽しむことができるということを体験し身につけることができるように、授業
内容の工夫と組み立てを行っていきたいと思う。
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保育者の言動からその心を知るⅡ
~保育科2年生の授業における保育指導案作成を通して~
大 坪 祥 子
はじめに
本学で授業を担当するようになった時に考えていたのは「保育指導案」作成の考え方を学
生に伝えたいということだった。昨年度の研究でも述べたように、本学の学生は「保育指導案」
に対してかなり苦手意識を持っている。苦手意識を持たずに保育指導案を作成できるように
なって欲しいという思いから、いろいろな手立てをしてきた。2年生後期に至るまでにいろ
いろな授業で保育指導案を作成している。全然書けなかった学生が、各項目を言葉で埋めて
いく。一見書けるようになったように見える。しかし、保育指導案の中に具体的な子どもの
姿が見えてこないものが多い。ただ項目が文字で埋まれば良いと思っているわけではない。
「保
育指導案」を作成することで自分が子ども理解、保育に対する理解がどれぐらいできているか、
あるいはできていないのかが明確になる。また自分の考えを文字にすることで自分の保育に
対する考えや子どもへの思いを振り返るきっかけとなる。保育指導案を作成することが何か
特別なことではなく、保育者の思いの詰まった保育そのものであることを学生に理解しても
らいたいと考える。
授業の内容
実際に保育指導案に含める内容は当日の出掛ける直前から園へ戻ってくるまでである。昨
年度同様、保育者が「自分のクラスの子ども達を園外保育に連れて行きたい」と考えてから、
当日、園外保育に行って帰って来るまでを7つ柱に分けて考えていくことにした。
<7つの柱>
①園外保育に出発する前までにしておかなければならないこと。②園を出発してから横断歩
道を渡る前まで。③横断歩道を渡る時。④公園に着いた時。⑤落ち葉や木の実を拾う時。⑥
公園から園へ帰る時。⑦園に到着した時。
今回、7つの柱の一つずつを具体的に考えるところから取り組んだ。そして今回最も大事
にしたことは保育者は「何のために」「なぜそうするのか」ということである。いきなり保育
者の言動の意味から考えることはハードルが高い。まずは1.予想される子どもの姿、2.
保育者の動きや言葉掛け、3.保育者の言動の意味と一つずつ段階を経て考えていくことと
した。
まずは予想される子どもの姿についてである。一つの場面を取り上げ、子どものしそうな
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行動を尋ねてみる。「虫を見つけて座り込む」「段差があったら取りあえず登ってみる」「歩い
ていて遅くなると、慌てて走って前の子に追いつく」など次々話してくれる。また違う場面
では「たくさん葉っぱを拾う」「拾った葉っぱを友達にかける」「葉っぱを拾おうとしたら虫
が出てきたので、興味が虫の方に移る」「葉っぱを拾うことを嫌がる」など話す。もう出ない
だろうとさらに尋ねてみると、更に違った子どもの姿を話してくれる。2年生後期になると、
学校での学びも最終的なまとめに入り、そして自分の学びを確認する場として最後の実習を
こなす。この時期に「保育指導案」の授業をしていると明らかな学生の成長を感じる。いろ
いろな子どもの姿を思い浮かべることができるようになった。
次に、その時保育者はどのような言動をするかということを考えていく。例えば「葉っぱ
を拾うことを嫌がる」そういう子にはどうしたらよいかと考える。どうしたらよいかを考え
るためには「なぜその子が嫌がっているのか」、その理由を考えなくてはならない。「手が汚
れるから」「虫が出てきて怖くなったから」という。更に皆で意見を出したり、教員がヒント
を出したりする。「その日の体調が悪く、気分が乗らない」「一緒に拾いたい友達が他の子と
先に行ってしまった」「集めたい葉っぱがない」「今何をしたらよいかわからなかった」など
予想していく。そうすると目に映る子どもの姿としては「葉っぱを拾っていない」だが、子
どもはさまざまな理由でそうするということが分かる。そしてそのさまざまな理由を考えな
がら目の前にいる子どもの「その時の気持ち」に気付き、関わっていくことが大事であり、
保育者の言動は子どもの思いを感じ取ることによって決定されてくることが理解できるよう
になる。
最後に保育者の言動の意味である。授業中、学生によく聞くことがある。例えば、朝、登
園した時の子どもの姿として「朝の挨拶をする」とある。そのことに対する「保育者の援助・
留意点」を聞くと、「子どもの方に体を向け、元気よく挨拶をする」と答える。しかしこれは
保育者が実際に行った行動をそのまま書いただけである。朝の登園時はいろいろな情報を得
る大事な機会である。先生は子ども達が登園してくると、学生が話したように、きっと子ど
も達の方に体を向け、あるいは駆け寄って、触れ合いながら言葉を掛ける。していることは
その通りなのだが、その時に何を思いながらそうしているのかが大事である。「機嫌はどうか」
「表情はどうか」「体調はどうか」「けがをしていないか」「(女の子なら)留めているゴムやピ
ンなどはどういうものであったか(種類はどうか、個数はどうかなど)」などさまざまな情報
を子どもから直接得ようとする。
(もちろん情報は保護者から直接入ってくる場合があったり、
自分が気付かなかったことを連絡帳で知る、もう一度確認したりすることもあるが・・・。)
また直接言葉を交わしたり、触れ合うことで子どもに先生のぬくもりが伝わり、安心感につ
ながる。このようなことを思いながら「子どもの方に体を向けて、朝の挨拶」をしてるので
ある。
このように保育者の言動の意味を考えていくことでどういう思いでそうしたのか、その保
育者の保育に対する思い、子どもへの思いが見えてくる。どのような思いをいだいている人
が自分のすぐそばにいてくれるのかは子どもにとって大きな問題である。保育指導案上の「保
育者の援助・留意点」はそのように保育者の人柄や思いが良く分かる項目でもある。
このように順番に考えていく中で「ねらい」との関係にも着目する。保育者はこの場面で
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どのようなことを経験して欲しいと感じていたのかを考える。学生は保育者が計画した活動
を子どもが楽しんでくれればそれで良いと思っていたが、保育には「意味」があることに気
付く。子どもが示すさまざまな言動に、保育者がどのようにかかわったか、そして保育者の
言葉の掛け方や行動によって子どもの気づきや興味・関心が変わっていくことにも気づいて
いく。子どもから出たどの動きを、あるいはどの言葉を拾いながら、さも子ども達自身がそ
のことに気付いたように子ども達の興味・関心をつなげていくことが出来たら、どんなに楽
しい保育だろうと思う。
授業を振り返って
保育者の言動によって子どもの興味・関心の具合も変化する。そう考えるとその日のその
活動の中で保育者が最も子ども達に経験して欲しいと思っていることを十分経験させてあげ
られたかという視点も当然必要になる。「ねらい」としたことを十分に経験できる「予想され
る子どもの活動(保育の流れ)」であったか、そのことにどれだけの時間を保障してあげられ
たかという「時間」、その日最も経験して欲しいと思っていることをどのような保育者の援助
によってなされていったのかという「ねらい」と「予想される子どもの活動」と「保育者の
援助・留意点」の関わり。この一枚の保育指導案の項目のすべてが「ねらい」と繋がっていて、
この一枚に保育者の思いが詰まっていることを学生が実感できるようにしたい。
おわりに
保育者の言動にはすべて意味がある。子どもに掛ける言葉、そのことを行うタイミング、
どういうものを使うのかなど考えることは多い。計画の段階でじっくり子どもの姿を思い浮
かべ、考えて行うこともあれば、その時の状況で瞬時の判断が求められる時もある。保育所
保育指針の総則の中に「保育所における保育士は、・・・・(抜粋)、倫理観に裏付けられた専
門的知識、技術及び判断をもって、子どもを保育するとともに、子どもの保護者に対する保
育に関する指導を行うものである。」という記述がある。判断も保育者の専門性の一つである。
いつも授業をしながら思うことがある。教員自身が理解していること以上のことを学生に
伝えることができない。だから最終的には私自身の質が上がらなければ学生の質も上がって
いかないのではないかということだ。そう思いながら来年度はもっと学生にとっても理解の
できる授業を展開したいと思う。次は「環境構成」の欄にはどのようなことを記していった
らよいかについて深めたい。
参考・引用文献
・森上史朗他、2011、『幼稚園教育指導資料第1集 指導計画の作成と保育の展開』
文部省、フレーベル館
・『保育所保育指針-平成20年告示-』、2008、厚生労働省、フレーベル館
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質問力向上及び協同学習に関する指導法の研究
―保育科1年生の授業における協同学習を通しての一考察―
黒 瀬 美智子
1 はじめに
保育士の仕事は、人と関わりながら新しい発見をし、共同で考えを深めていくことが大切
であり、実際の仕事においては、子どもとの関わりを基盤とし、保育者同士のチームワーク
や多様な保護者との関わりもパートナーシップを築きながらやらなければならない。
そこで、本学の保育士を目指す学生に低年齢児保育の授業を通して、自力・2名・4名の
班編成を行い、課題解決の学習活動へと段階を踏ませながら取り組ませ、本時目標を達成さ
せるために班リーダーを中心にした発表をもとに学級全員でみがき合い学習活動を取り入れ
た協同学習を目指すことにした。また、相互評価を取り入れ、「読む・聴く・書く・話す」力
とコミュニケーション力を育てる授業を実施することにした。
2 主体的な活動を目指した授業の流れ
ひとり一人に学習意欲を持たせ、進んで学習活動に取り組ませながら学習班リーダーを育
てるために、学生には、視聴覚・教科書の活用及び演習を取り入れた協同学習を核にした授
業の進め方ついて下記の内容を示した学習プリントを提示し、授業の見通しを持たせ学級全
員で授業を作り上げていくことを説明した。
学習の流れ(学習プリント)
本時学習のねらい・課題を確認する。⇒自力で課題をまとめる。⇒2名で協同学習をする(読
む・発表・聴く・補足や補充し合う)⇒4名で協同学習をする(課題を解決する)⇒班の
代表が発表する。(クラス全員で学習目標を達成する)⇒教師のまとめ⇒学習の振り返り(自
己評価・友達評価)
当初は、教師主導で協同学習を進めたが、学習プリントで授業の見通しを持たせたことで
学習活動が馴れてくるにつれ学生自身で学習班リーダーを中心に協同学習を進めることがで
きるようになった。このことは、教師の机間指導が全ての班に行き渡るようになっていった。
3 授業の実際
(1)協同学習の手立て
①グループ編成(4名のグループ編成)
グループ編成は、話し合いを活発にし、誰とでも話す聴くというコミュニケーションをと
らせるために単元ごとにグループ編成を変えることにした。すぐに積極的な話し合いは無理
であると考え、学園生活の仲良しグループ⇒グループリーダーをクラスで選出し、選出され
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たリーダーが班員を選ぶグループ⇒教師が決めたグループ⇒今までにグループになったこと
のない人達とのグループという段階をとった。グループ学習活動の回数を重ねるごとに級友
との繋がりが広がり、ひとり一人が意欲的に話し合う姿が見られるようになってきた。課題
として、グループ編成には、短時間で決定できるような場の設定と内容の工夫をしていくこ
とが大事であると考えた。
②2名の協同学習 〖資料1 単元「危機管理」のVTR視聴〗
「資料1」は「危機管理」の授業で視聴覚教材を活用した自
力・2名の学習活動の協同学習記録を載せたもので、左側に
は、視聴した内容や大切な言葉を自分の力で書く活動の記録
で、右側は視聴後に 2 名で発表し合い補足・補充した事を朱
書きさせた記録であり、その後、感想や相互評価を書かせた。
2 名の協同学習の感想は「友達のメモを見ると受け止め方や
新しい考え方を学んだ」「聴き洩らしを補うことができた。」
「要点を確認することができた」といった内容が書かれており、
ほとんどの学生が気づきや学びを書いていた。
視聴覚教材を活用しての授業は、映像を視聴した後には、
ほとんどの学生が危機管理について理解することができてい
たので、協同学習でさらに理解を深め本時学習目標にせまる
ことができた。どのグループも意見交換が意欲的に行われ、楽しく取り組む姿を見ることが
できた。
③4名の協同学習
〖資料2 単元「気になる乳児の行動とその理解」の教師の支援〗
教科書を活用して課題を解決していく協同学習では、教科
書をまとめてくる授業外学習(家庭)を班員全員で分担し責
任をもってやってくるようにさせたが、当初はやってこない
学生もみられた。そこで、授業外学習がしっかりやれる学生
については分担されていない箇所もしてくるように示唆した。
このことでほとんどの学生が課題をやってくるようになって
いった。自力で教科書を読んでまとめ発表する過程では、苦
手な学生もいて 2 名・4 名の協同学習は、視聴覚教材を活用
した授業に比べると教師の支援や手立ての必要に迫られた。
〖資料2〗では、自力解決・2 名、4名の協同学習の場で机間
指導の際に、個別支援や称賛そして書かれたことに確認の赤
○をつけることにした。このことは、学生一人ひとりと教師とのコミュニケーションが図られ、
学習意欲へと繋がることになっていった。
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④学習班のリーダーを育てる
〖資料3 みがき合う協同学習とリーダーの発表〗
協同学習を推進していくには、学習班リー
ダーを一人でも多くの学生に経験させ、リー
ダーの立場や班員として話し合いに臨む姿勢を
考えさせたり気づかせたりすることが大切であ
ると考え、だれでもリーダーになれることを説
明した。リーダーには、協同学習でまとめたこ
とをノート発表や黒板に書かせて発表の機会を
与え、教師が発表内容を称賛し、充実感や満足
感を味わわせ自信を持たせるようにした。また、
リーダーの発表後の本時目標を達成させるため
の学級全員での学習活動の中での教師の発問やまとめ方の工夫を研究していく必要がでてき
た。課題として、学習班リーダーを育てるには、誰でもやれる気持ちややれたという充実感
を持たせる手立てとして、リーダーの仕事内容を具体的に文章等で示し、マニュアルにそっ
てやらせてみる時間を設定することも大切であると気づかされた。
4 授業の振り返り(自己評価・相互評価・教師の評価)
グループ活動後や授業の最後に自己評価・相互評価(友
達評価)を取り入れたことは、友達とノート交換をして
書かせたことや発表を通して要点のまとめ方や自分の言
葉で発表することを学ばせることができた。このことは、
授業中や授業外学習(家庭)の中で、意欲的な取り組み
や積極的な協同学習活動へと広がっていくことになった。
(1)自己評価の内容を抜粋(原文のまま)
・まとめることが苦手だったけど最近は慣れてきてま
とめられることができるようになった。友達ともしっ
かり話し合えてよかった。
・教科書を読みとることが難しかった。みんな短くま
とめることがうまかった。読む力をつけていきたい。
・今回は、いろいろなまとめ方を教わった。次回は短
くまとめられるようにしたい。
短時間で評価を文章に書かせるためには、教師が評価視点を絞って評価させることも取り
入れた評価方法の工夫が課題として残った。
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(2)相互評価(友達評価)の内容を抜粋(原文のまま)
・文章を読んで一生懸命書いた姿が想像できた。
・的確に要点をまとめてプロみたい。
・書くのが速くてびっくりした。また、わから
ないところは教えてください。
相互評価では、言葉だけではなく絵
文字や色ペンを使ったカットなどが見
られ楽しみながら書いていることがう
かがえた。特に、友達から書いても
らった文章を読みながら笑顔や会話が
広がっていく光景が見られたことは、
学生同志の信頼関係を深めていくこと
ができたと考えた。
(3)教師のアンケート評価の内容を抜粋(原文のまま)
・自分から進んで話していて、自分が発表できない時は話を振ってくれてとても話し合い
がしやすい雰囲気を作ってくれてやりやすかった。
・友達が言ったことが間違っていたら意見を言ってくれて自分の意見を言う力ができた。
・一人では気づけないところが分かり、普段話さない人とも話すことができてよかった。
・自分の意見を述べたり友人の意見を聞いたりと意見交換をする中で自分の意見が変わっ
たり、新しい意見が生まれたり・・・とても有意義な時間を過ごすことができた。
学生の評価を見て、授業の中に協同学習を取り入れた学習活動をさせたことは、課題も
残っているが学生にとってもよかったのではないかと考えることができた。
5 まとめと今後の課題
○ 授業の中に協同学習を取り入れたことは、課題解決にむけて主体的に関わろうとする姿
を見ることができるようになったことや学習目標の達成に向けて自分の力や級友と共に解
決していける場を通して学生自身が自分の力を見つめ直したり友達の力を借りたりするこ
とでさらに大きく自分を成長させることにつながった。また、自分達で学習づくりをしよ
うとする雰囲気が高まり、友達とのコミュニケーションも深めることができよりよい学級
づくりもできた。
・課題としては、本時目標を達成する協同学習の場における教師の支援や手立ての工夫・改
善をする。リーダーの育成や机間指導における支援の在り方を工夫する。授業外学習(家
庭)の課題の与え方について改善をする。
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幼保一体化に関わる考察
―子ども・子育て新システムの具体的内容等を踏まえて―
和 田 政 吉
1 はじめに
社会の変化に伴い幼稚園を取り巻く環境は急速に変化し、保護者や地域社会の幼稚園に対
するニーズが多様化するとともに、幼児教育の重要性が再認識されている。 こうした中、昨年度から引き続いている幼保一体化の問題、すなわち「子ども・子育て新
システム」の動向を注視していく必要がある。特に、子ども・子育て新システムは、現在の
私学助成と就園奨励費が「子ども園」(仮称)給付に移行したとき、どうなるのか、著者が園
長を務める宮崎学園短期大学附属みどり幼稚園の経営とも関わって決して目が離せない状況
が続いている。
併せて、急速な少子化の進行や昨今の経済状況等による共働き家庭の増加傾向により、保
育所では待機児童が問題となる反面、幼稚園では園児数は減少傾向にある。平成18年10月、
就学前の教育・保育ニーズに対応するための新たな仕組みとして「認定こども園」制度が創
設され、県内では、平成23年5月1日現在22施設が認定こども園の認定を受けている状
況もある。
そこで、本稿では、幼保一体化に関わる国の施策の動向と子ども・子育て新システムの基
本制度案要綱の概要及び幼保一体化に関わる課題等について考察してみたい。
2 幼保一体化等に関わる国の施策等
幼稚園と保育所の役割に関するこれまでの経緯をみると、昭和38年10月の「文部省・
厚生労働省共同通知」によれば、「幼・保は機能を異にするもので、それぞれの充実整備及び
両施設の適正配置の必要があるとともに、保育所の持つ機能のうち、3~5歳児の教育に関
するものは、幼稚園教育要領に準ずることが望ましい。」としている。即ち、幼稚園と保育所
の関係について、二元行政でそれぞれ充実整備することを主張し、保育所を教育機能制度的
に明確に位置づけた。昭和46年6月の「中央教育審議会答申」によると、「経過的には、保
育所でも幼稚園に準ずる教育が受けられるようにすることを当面の目的とし、将来は、保育
所で幼稚園の要件を具備したものに幼稚園の地位を付与する方法を検討する。」としている。
併せて、同年10月の「中央教育審議会答申」によると、「保育所においては、長時間にわた
る養教一体の保育が望ましく、幼・保双方の地位を併せ持つような形態は児童福祉の上で望
ましくない。」とし、幼稚園と保育所の機能の明確化を強調している。昭和56年6月の「幼
稚園及び保育所に関する懇談会報告」によると、「幼・保はそれぞれ異なる目的、機能の下に
- 59 -
必要な役割を果たしてきており、簡単に一元化できる状況ではない。幼稚園の預かり保育、
保育所の私的契約などの両施設の弾力的運用について検討する必要がある。」とし、周囲の一
元化論議に対して国は依然として消極的姿勢を貫いている。
昭和62年4月、内閣総理大臣直属の諮問機関として設置された「臨時教育審議会第3次
答申」では、幼保一元化に関する内容が盛り込まれた。即ち、①幼児は、その成長につれ、
家庭における生活とならんで徐々に集団生活の機会の拡充を図ることが望ましいが、この場
合であっても幼児の発達段階や教育上の観点からは幼児教育の基本は基本的には4時間程度
を目途にすることが適切であると考えられていること。②保護者の就労など何らかの理由に
より保育に欠ける乳幼児については、児童福祉の観点から必要な措置が講じられる必要のあ
ること。③3~6歳児については、幼児教育の観点から、教育内容を共通的なものにするこ
とが望まれる。以上の内容のことからも幼稚園・保育所それぞれの制度的充実を図ることが
強調されている。
「1990年代に入り、女性の社会参加の進展や核家族化により、保育のニーズが増加し、
待機児童が社会問題化した。一方で、少子化の進行等により、幼稚園児の減少、一部幼稚園
での定員割れが生じていた。これらを背景に幼稚園において、正規の教育時間終了後も引き
続き在園児を夕方まで預かり『預かり保育』が普及した。」(「立法と調査」2010.12 NO.311
内閣委員会室 野田亜悠子)
幼稚園と保育所の連携、一元化をめぐる問題が新たに取り上げられるようになったことを
受けて、平成8年12月、「地方分権推進委員会第一次勧告」において、「少子化時代の到来
の中で、子どもや家庭の多様なニーズに的確に答えるため、地域の実情に応じ、幼稚園・保
育所の連携強化及びこれらに係る施設の総合化を図る方向で、幼稚園・保育所の施設の共用化、
弾力的な運用を確立する。」という勧告が出された。
これらを受けて、平成14年11月には、地方分権改革推進会議が「事務・事業の在り方
に関する意見」を公表し、「必要な児童福祉策は、引き続き実施するとしても、施設としての
幼稚園と保育所、制度としての幼稚園教育と保育は、それぞれの地域の判断で一元化できる
ような方向で今後見直していくべきである。」と提言し、幼保一元化への促進を図ってきてい
る。
平成16年8月の「就学前の教育・保育を一体と捉えた一貫した総合施設について(中間
まとめ)」を受けて、同年12月、中央教育審議会幼児教育部会と社会保障審議会児童部会の
合同の検討会議において更に検討を進め、「就学前の教育・保育を一体として捉えた一貫した
総合施設」の在り方について審議のまとめを行っている。本審議のまとめでは、「規制改革や
地方分権等の流れも踏まえ、地域が自主性を持って地域の実情や親の幼児教育・保育のニー
ズに適切にかつ柔軟に対応することができるようにするための新たなサービス提供の枠組み
を提示しようとするものである」としている。
平成18年3月に「就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する
法律案」が国会に提出され、6月9日に可決成立し、6月15日付けで公布され、就学前の
教育・保育を一体として捉え、一貫して提供する新たな枠組みとしての認定こども園制度が
同年10月から施行されている。これまでの幼稚園、保育所に幼保一元化施設を加えること
- 60 -
により、保護者の就労形態にかかわらず、子どもが保育・教育の機会を等しく得ることがで
きるようになることから保護者の選択肢の拡大が図れることになる。全国、宮崎県の認定こ
ども園の認定件数は次の通りである。
表1 2010(平成 22)年4月1日現在 ( )内は前年度の数値
認定件数
全国
宮崎県
公私の内訳
公立
種類別の内訳
幼保連携型
私立
幼稚園型
保育所型
532(358) 122(87) 410(271) 241(158) 180(125) 86(55)
17(11)
1(1)
16(10)
1(1)
14(8)
2(2)
地方裁量型
25(20)
0(0)
出典:文部科学省・厚生厚労省・幼保推進室「認定こども園の平成 22 年 4 月 1 日現在の認
定件数について」2010
年 4 月 10 日)より 平成21年12月、閣議決定された緊急経済対策において、幼保一体化を含め、新たな次
世代育成支援のための包括的・一元的システムの構築を進めることになり、平成22年6月
に「子ども・子育て新システム基本制度案要綱」がとりまとめられた。この要綱では、幼稚
園と保育所の一体化、幼稚園教育要領と保育所保育指針の統合などが盛り込まれており、平
成25年度の施行を目指すこととされた。同年9月には、
「作業グループ」のもとに3つのワー
キングチームが設置され、「基本制度」「幼保一体化」「こども指針(仮称)」に関する検討が
行われている。
平成23年7月に出された少子化社会対策会議決定の「子ども・子育て新システムに関す
る中間とりまとめ」によると、給付設計や幼保一体化を中心とした制度設計が示された。幼
保一体化に関わる基本的な考え方として、すべての子どもの健やかな育ちと、結婚・出産・
子育ての希望がかなう社会を実現するため、①質の高い学校教育・保育の一体的提供、②保
育の量的拡大、③家庭における養育支援の充実の3点を目的としている。具体的には、①学
校教育・保育に係る給付を一体化した「こども園給付」(仮称)を創設することにより、学校
教育・保育に関する財政措置に関する二重行政の解消及び公平性の確保を図ること、②学校
教育・保育及び家庭における養育支援を一体的に提供する総合施設(仮称)を創設すること
の2点を推進することになった。併せて、多様な保育事業の量的拡大を図るため、
「こども園」
(仮称)については、学校法人、社会福祉法人、株式会社、NPO等、多様な事業主体の参入
を可能とした。
平成23年11月、「政府は、平成25年度から段階的に導入予定の幼保一体化を柱とする
新子育て施策『子ども・子育て新システム』について、文部科学省に幼稚園行政の一部を残
す方向で検討に入ったことが分かった。」(H23.11.5 宮崎日日新聞)
新システムでは、当初、すべての子育て施設を「こども園」(仮称)として一体化すること
にしていた。しかし、乳児保育所や幼稚園、幼保一体化施設である「総合施設」などの併存
を容認し、それらの施設を「こども園」と総称し、指定を受けた施設に「こども園給付」を
交付する仕組みを導入することになった。図1に記載されているように、幼稚園関係者の反
対等もあり、幼稚園の一部に対して私学助成の一部を残す形となっている。
- 61 -
平成23年12月末、政府の「こど
も・子育て新システム」についてまと
めた最終案が出された。「子ども関連の
施策が内閣府、厚生労働省、文部科学
省と分立している所管は、将来的に『子
ども家庭省(仮称)』の実現を目指すと
明記。存続に批判が出ていた私立幼稚
園の私学助成も大幅に見直す方針を盛
り込んだ。」
(H23.12.26 讀賣新聞)また、
今回の最終案では、体制の見直しに合
わせ、新システムを掌握する「子ども
子育て担当大臣」の常設化を検討する
ことも盛り込まれている。具体的には、
「①私学助成のうち幼稚園運営に対する
基本的補助は新設される『こども園給
付』に統合する、②預かり保育や地域
子育て支援などの福祉的取り組みは市
町村事業のなかで助成する。」
(23.12.26
讀賣新聞)などが明らかになっている。
3 おわりに
質の高い学校教育・保育の一体的提供、保育の量的拡大、家庭における養育支援の充実等
の効果を期待する幼保一体化に関わる新システムの案等が次々出されているが、その概要を
的確に把握することはもとより、山積する課題等をしっかり見極めていく必要がある。併せて、
著者が勤務する附属幼稚園として、今何ができるのか、同園の中長期計画に基づいてどのよ
うな道筋を立てて事業計画を推進していけばよいのか真剣に検討を続けていく必要がある。
〔参考・引用文献〕
1 宮崎日日新聞(H23.7.6)、(H23.11.5)
2 讀賣新聞(H23.12.26)
3「立法と調査 2010.12 No.311」内閣委員会調査室 野田亜悠子
4「岐阜県における幼保一体化型施設の現状と課題」徳広圭子・田中まさ子
5「子ども・子育て新システムの基本制度案要綱」同「中間とりまとめ」
6「私幼時報・12」全日本私立幼稚園連合会・全日本私立幼稚園幼児教育研究機構
7「たのしい保育園に入りたい!」村山祐一 新日本出版社 - 62 -
授業改善の試みについて
川 野 哲 朗
1.はじめに
今年度も、教育研究の趣旨にもとづき、提示されている内容の中で、「教科内容の構成に関
わる工夫」に関連しテーマを設定した。
私自身、授業評価や自己点検評価等で授業内容の改善点は多々上げられるが、学生との学
びの契約であるシラバスやカリキュラムに関連し、自分が担当している科目の授業内容や位
置づけが、学生の学びのニーズを十分に反映できていないのではと考える。過去の内容を引
きずり、テキストや資料に依存し、指定養成校として「与えられた」教育を学生に施してい
ないだろうか。これらのことをふまえた授業改善の2つの試みについて報告したい。
2.シラバスを通した学びの意識づけ このことについて、担当科目のうち、保育科2年の社会福祉援助技術(通年、2単位、演習)
について下記の要領で実施した。なお当該科目は、平成23年度より修業教科目の改正(児
童福祉法施行規則 指定保育士養成施設)により、系列の中では「相談援助」に変更となっ
ている。よって、平成22年度のシラバス(旧カリキュラム)をもとにシラバスを作成し授
業を実施した。
(1)目的 ①シラバスによる授業(内容)の意識づけ
②各授業内容の関連性、流れ、組み立ての理解
③理解度の自己評価
④授業改善(教員)
※①②について、適宜関連する課題(自己学習)を課し、レポート(一部)を提出させた。
(2)シラバス配布と評価の説明、記入
初回にオリエンテーションを実施。冊子のものとは別にシラバスを配布。上記目的を伝え
たうえで、「三段階の理解度」と「質問や学習を深めたい事項」を毎回の授業終了時に記入、
提出させた。記入内容から学生の学びのニーズを把握し、次回以降の授業内容の修正や方法
の改善に努めるとともに、質問事項について回答。年間を通じて継続実施。なお、記入提出
が評価対象となる旨も伝えた。
- 63 -
配布シラバス ※一部
授 業 計 画 表
回
トピック名
概 要
理解度 ・ 質問等
・授業(演習)の進め方・評価に
ついて
・社会福祉援助技術の概要を知る
1
オリエンテーション
2
社会福祉援助技術の体系 ・社会福祉の体系を理解する
3
社会福祉援助技術の意義 ・社会福祉援助技術の意義と種類
と種類
を知る
4
社会福祉援助技術の歴史
・社会福祉援助技術(ソーシャル
ワーク)の歴史を知る
5
ケースワークの基礎①
・ケースワークの定義、基本原則
を理解する
<記入例> 理解度、質問等
2回:理解度2 もうちょっと調べてみたい → 調べたことを確認
3回:理解度3 保育士は子供だけを見るのではないことを強く感じた → 再度強調
4回:理解度2 ドイツのエルバーフェルト制が何か分からない → 回答
5回:理解度3 バイステックの7原則をきわめたい → 対応不十分
※ケースワークの原則について、学生の関心は高かったが対応は不十分であった。時間数増
を含め、シラバス変更の必要あり。
※理解度が高く、取り組み状況も良かったロールプレイングやグループによる事例研究、社
会資源調査等について、さらに学習効果を意識し演習の精度を高めるためにも、シラバス
を変更したほうがよい。 (3)学生によるシラバス作成
25回目の授業終了時、毎回の評価をもとにシラバス作成の課題を出した(28中13名
提出)。課題内容は以下の通りである。
・これまでの学習をふまえ(残りはシラバス確認)、シラバスを作り変えてみてください。
※例えば、授業内容で、もっと時間数を増やす、関心のあったものを深める、保育の事
例を多く入れる 等
目的は、シラバスを通して、学習のふりかえりと学習内容の再確認、まとめにも入る残り
5回の授業の見直しである。実際に利用するシラバスの修正にもつなげられるが、前述のと
おり、本科目は内容も含め変更となるため、ここでは取り上げなかった。ただ、
「グループワー
クの実際」(20回から23回)に関連して、「プログラムにしたがって実施する」に対する
要望が多かったため、一部修正して実施した。また、新しい科目(相談援助)では、「コミュ
- 64 -
ニティワーク」関連の演習はないと思われるが、今回のシラバス評価では、周辺地域や社会
資源の関心や調査意欲は高く、他科目の中で再編できればと考える。
専攻科(福祉専攻)では、介護過程における実施(関連授業、実習)の中で、SOAPに
より実施内容を見直し変更しているが、授業においても、学生と教員双方向の主観、客観的
情報(SとO)にもとづくアセスメント(A)と授業の見直し(P)が必要であると考える。
年間を通してのCP、DPやPDCAサイクルも、一回一回の授業の積み重ねによるもので
あることは言うまでもない。
3.学びの関係の意識づけ
保育科1年の社会福祉論(後期、2単位、講義)で、保育士資格取得関連の27科目を示し、
下記の援助関係における位置づけ及び各問いについて、評価対象課題として記入してもらっ
た。※授業9回目(相談援助の意義・原則・方法・技術)で実施。
問1)①~⑥について、本学保育士資格取得のための必修科目と特に関連があると考え
る領域を別紙(※省略)に記入、整理してください。
例)・社会福祉論(③⑤) ・保育実習(①②④⑥) ・教育心理学(①④)
問2)保育士資格を取得するために学ぶことと援助関係について述べなさい。
問3)①~⑥の中で、特に関心が高いものを1つ選び、その領域についてさらに深く学
びたい内容を上げなさい。
問4)①~⑥の中で、特に難しいと思われるものを上げ、その理由及びどのように学ん
でいきたいか述べなさい。
※各科目の内容については、シラバス参照もしくは1年次の各授業内容を思い起
こしてみる。
学びの関係(カリキュラム)を自分で組み立てることで学習の意識づけを図り、回答内容を、
残り5回と次年度の授業改善に活かしたいと考え実施した。ただ、学生だけでなく私自身も
他科目のシラバスを十分に把握できていないこと等により、具体的な授業改善に活かされて
いない。特に1年前期授業のオリエンテーションで取り上げ、実施方法や内容を変え、あら
ためて実施したい。
- 65 -
4.おわりに
福祉の世界では、実態はともかく、利用者本位や自立支援(自己選択・自己決定)が謳わ
れており、また、介護過程においては、ニーズをもとにした援助目標を立てプランを作成し
なければならないが、教育においても、学生の学びのニーズをふまえた教育内容の改善が必
要であろう。大学全入時代と言われている中でも、本学あるいは指定養成校の学生、専門職
としての適性は別として、学生は、学びのニーズを伝えるための個々の資質があり(AP)、
学ぶ内容に関心を持ち、学びたい内容を選択し意欲的に取り組むことができ(CP)、自分の
望む形で自己実現したいと考えている(DP)と思う。これまで、小中高校と、学習指導要
領等で事細かに定められた教育、教科目標や内容により教育を受けてきた学生は、ある意味、
与えられる教育に慣れているとも思う。卒業後の生活や人生を自ら設計し創っていくために、
あるべき社会人像や学びの目的、到達点を提示するとともに、学びの依存度が高くならない
よう配慮しながら、「何のために学ぶのか」「何を学ぶべきなのか」学生自身に感じ考えさせ、
学ぶ姿勢を持たせることが重要だと考える。
平成23年度学習成果に関する研修会(本学開催)、佐藤准教授の講演の中で、情報公開に
関する大学教育関係法規の改正(義務化)もふまえ、「教員中心から学生中心へ、教育中心か
ら学習中心へ、個人の教育活動から組織の教育活動へ」との提言があった。このような組織
としての教育改革や構築とあわせ、私自身、授業改善の主体として、教員個人の教育に対す
る姿勢や専門分野の研究も含めた個人の教育活動のあり方を探り構築しつつ、次年度の授業
改善につなげたいと考える。
- 66 -
小児栄養の指導の工夫
― 『食育』の指導を通して ―
齋 藤 典 子
Ⅰ はじめに
「幼稚園教育要領」及び「保育所保育指針」では、子どもの教育の側面から、
「健康」
「人間関係」「環境」「言葉」「表現」の5領域を設定している。この5領域を食育にお
いて用いることは、子どもの発達を確認する一つの手立てとなる。なぜならば、食育
の活動内容は、子どもたちがさまざまな体験を通し、相互に関連し合いながら、次第
に達成していくものである。しかし、子どもは個人差や発達の差が大きく、その特性
から5領域を明確に区分することが困難なため、総合的に展開する必要がある。食育
における保育士の役割は、子どもが自分自身で『どんな食べ物をどのように食べれば
よいか』を考えることができ、食に興味をもつように導くこと(食の自立を目指す)であ
る。まず、学生は自分の体について知り、健康であるためにはどうしたらよいかを考
える必要がある。
そこで、昨年に引き続き、学生の実践力育成のための方策を考え『食育』の指導を
行った。
Ⅱ 研究の内容
1、研究のねらい
『食育』で育てたい力を明確にし、保育園や幼稚園での現状の実態把握を行い、
学生個々の『食育』への関心を高め、実践力の育成を図る。
2、研究の実際
食育は、人としての自立と自尊の生涯学習として位置づけられるものであり、乳
幼児期の食育のねらいは、望ましい生活習慣の定着と「食を営む力」の基礎を培う
ことである。子どもの食生活や栄養に関する養護や教育は、子どもの食行動の発達
や生活を把握し、活動においては、子どもと共感的に理解し合い学び合う姿勢が求
められる。そこで下記の (1) ~ (4) をおさえ、学生への学習支援の工夫を試みた。
(1) 食環境・生活上の課題・食と心の課題等の把握
地域の食の環境、食文化の伝承の崩壊、遊びの変化、おやつ、ゲーム etc
(2) 保育所における食育に関する指針
基本的な考え方として、6つの視点を盛り込んでいる(楽しく食べる子どもに)。
子どもが「食」と関わりながら、心身ともに成長し、社会性を身につけて楽し
く食べられる子どもに育っていくことは、生活の質(QOL)の向上につながり、]
[ 食を営む力」を形成していく基礎となる。食育指針が実践をめざす5つの子ど
も像(「おなかがすく、リズムをもてるこども」「食べたいもの、好きなものが
- 67 -
増える子ども」 「一緒に食べたい人がいる子ども」 「食事づくり、準備に関わる子
ども」 「食べ物を話題にする子ども」)は、理想的な子ども像ではあるが、それぞ
れが独立したものではない。関連し合い統合されて一人の人間として育ってい
くための子育てにおける道標となる。
(3) 健康づくりのための食生活指針 食習慣の基礎づくりとしての食事(幼児期)として、①食事のリズムの大切さ、
規則的に ②何でも食べられる元気な子 ③うす味と和風料理に慣れさせよう
④与えよう、牛乳、乳製品を十分に ⑤一家そろって食べる食事の楽しさを ⑥
心がけよう、手づくりおやつの素晴らしさ ⑦保育所や幼稚園での食事に関心
を ③外遊び、親子そろって習慣に、 厚生労働省から示されている。
(4) 保育における食育と5領域の関連性
食育で取りあげたい力 健康:心身の健康は生活の源であることを認識す
る。生活や空腹のリズムを確立する。人間関係:会話を楽しみ味わって食べる。
当番活動や役割分担を通して、人とかかわる力や喜びを体験する。環境:収穫
や飼育を通して、自然現象や数量に興味をもつ。生命の尊さを学ぶ。言葉:共
食で言葉を覚え、言葉を交わす喜びを身につける。園での体験を家族に伝える。
表現:おいしい表現で楽しみ合う。楽しい食事を記録に残す。食文化に関心を
もつ。
(5) 保育所での食の指導
実際に自分の食育媒体を使って、研究保育か部分保育を実践することを課し
た。その結果を『食育授業の実践』としてまとめる。実習保育園での食育指導
調査の2枚を実習終了後に提出。
(6) 公開授業「たべものくいず これなあに?」の視聴
本学卒業生の幼稚園教諭による研究保育を DVD に収録した。自作品である
が、食育指導のまとめとして視聴し、就職してからの実践に役立てる。
《内容》見て当てようクイズ そっくりさんを探そうクイズ 食材変身クイズ
食べ物シルエットクイズ 触って当てようクイズ おいしく食べようクイズ お料理クイズおいしく食べよう
(7) 食育だよりの発行
家庭との連携の一つ。食育だよりは健康教育の視点を踏まえた家庭の食生活
改善に値するもので、「食」 への意欲や関心、行動を育てる手立てともなる。
冬休みの課題として、1月の食育だより作成。班で相互評価後、クラス全員へ
回覧し、良い点は今後の参考にする。A、B クラス交換でも回覧。
Ⅲ、食育の授業の流れ
栄養に関する専門的な知識の学習→子どもの食生活の現状把握→食育の必要性・
目的・留意点→食育の指導案作成→食育媒体(教具)作成→模擬授業→実習園での
活用、食育指導調査 →反省・評価・改善・再計画 →食育だより作成
Ⅳ 学生の感想から
○導入のシルエットクイズから子ども目の前で実際に調理し、食べることで子どもにど
- 68 -
んな味? 固さは ? と問いかけながら、子どもを主体に考えを導く食育の研究保育の
DVD を見て、ここまでするのかと驚いた反面、子どもの集中力が途切れないような工
夫が沢山してあるところを見習いたいと思った。私も子どもに 「食」 の指導をするとき
は、実際に触れて、食べたり、育てたりと五感を使って肌で感じてもらいたい。また、
自分の食生活も改めないといけない。私たち大人が子どもの食習慣を身に着けさせ、
生涯の QOL の向上、健やかに生活できることを教えていかなければならないと思う。
○食育活動にはさまざまな媒体や方法があるが、そのクラスに、その年齢に合った食育
を行うことが最も大切だと思った。乳児のころから食べることは “ 楽しい ” と感じて
いる子とそうでない子では、食についての関心も変化してくると思うので、継続的に
行っていくことが必要だと考える。そのためには、保育者の計画が重要で改めて自分
の仕事の重みを感じた。そして 「食育」 は子どもだけでなく、子を育てる親にも働きか
けていかなければならない。そのための園だより作りはとても楽しく、勉強になった。
○食育はなぜ必要なのか、その目的は何か、この授業で学ぶことができた。食育の研究
公開の DVD を視聴して、どのように声をかけたら子どもが食材に興味をもつのかが
よく分かった。また、こんなふうに活動したら子どもも楽しいだろうな、と気づくこ
とができ、実際の現場の保育を見せていただいたことはとても勉強になった。自分で
は考えもつかないアイディアで活動しているので、こんな考えもあったのかと感じ、
保育者としての知識が増えていくようでとても楽しかった。小児栄養では食について
たくさんのことを学んだ。それをしっかりと自分の知識として、実際の現場で子ども
たちに伝えられるように努力していきたい。 Ⅴ まとめ
食育のねらいは、食品や栄養の知識を理解させて、正しい食習慣を身につけさせ、
食を選択する力の基礎を育成し、自立へと導くことである。小児栄養の授業を通して、
まずは、学生に自分の食生活を振り返らせ、問題点に気づかせ改善の方向性を示すこ
とができた。保育園実習での食の指導は、学生の実践力の育成に繋がり自信を得たと
確信する。今後、学生には、インターネットの普及やテレビ番組などによって、さま
ざまな情報が簡単に入手できるようになり、フードファディズムなどの問題も浮き彫
りにされ、情報が氾濫している中で、自分で取捨選択して食についての正しい知識と
実践方法を見につけることが重要であると考える。
Ⅵ 今後の課題
食育を通しての「いのちの教育」が可能になり、「心豊かな」子どもたちが育ち、さ
らに子どもたちが成人したときは、楽しい思い出として食事場面が思い出され、自分
たちもあの楽しい食事を次世代の子どもたちに伝えようとの気持ちが湧いてくること
を願っている。子どもへの食育の常時指導のあり方について、学生の保育実習に向け
ての実践力を育成できる指導方法をさらに研究する必要がある。
※参考文献 子どもの食と栄養演習書(小川雄二編著) 子どもの栄養・食育ガイド(編集坂本元子)
食育活動の道しるべ(高橋美保著) 子どもの食と栄養(呉繁夫・廣野治子編集) - 69 -
地域共生における交流活動の一考察
- 1 年生・2 年生それぞれの視点から-
川 越 志 保
1.研究の目的
「地域共生Ⅰ」「地域共生Ⅱ」(以下、地域共生Ⅰは「地Ⅰ」、地域共生Ⅱは「地Ⅱ」とする)
は、地域との連携を図りながら、学生同士や地域の子ども障がい者など多様な人々との交流
を通して、コミュニケーション力、企画力、計画力、発想力、工夫性、実行力、協調性を高
め、主体的な関わりによって社会に役立てることを実感することを目標にした演習授業であ
る。1年生を対象に「地Ⅰ」、2年生を対象に「地Ⅱ」となっており、「地Ⅱ」の履修学生は
1年時に「地Ⅰ」を履修して交流活動を経験した学生である。
筆者は、交流活動の中でも、「地Ⅰ」「地Ⅱ」それぞれを履修している学生が共に参加する
交流活動において、先輩・後輩としてのお互いの存在をどのように感じているのかに視点を
置き、それぞれの学生の経験からの学びを分析する。
2.研究方法
【対 象】
「地Ⅰ」履修学生 21 名(保育科)
「地Ⅱ」履修学生 9 名(保育科)
【方 法】
交流活動実施後に学生が提出する活動評価記録と、授業最終回で実施する交流活動報告会
の発表から、先輩・後輩に関する内容を取り上げ、交流活動の準備から当日の学生を観察し
た様子と総合して分析する。
3.経過及び結果
【交流活動①】
ハートピア細見クリニック
総合博物館古民家園における七夕イベント 7 月 2 日(土) 9:00 ~ 15:00
参加学生:地Ⅰ- 8 名・地Ⅱ- 8 名
「地Ⅰ」学生の動き
○前日の練習
学生の様子
「地Ⅱ」学生の動き
○七夕ペープサートの ○前日の練習
演技役割がある学生は、
2 年生と一緒に練習す
る。 お 互 い に 指 摘 し な
がら練習する 2 年生の
様子に緊張する。
○その他の学生は、2 年
生の練習を見学する。
- 70 -
学生の様子
○リハーサル時間が少
ないため真剣に練習に
取 り 組 む。 演 技 の 改 善
点を挙げながら練習す
る。
○ 9:00 集合・準備
○自主的な挨拶やまわ
りの様子に気付いて動
く こ と が な く、 指 示 に
しぶしぶ応じているよ
う に 見 え る。 ま た、 何
もないと直ぐ座り込む。
○参加児童と一緒に七 ○会場が和室だったこ
夕飾り付け
と も あ る が、 参 加 児 童 ○ 12:45 集合
よりも行儀の悪さが目
立 つ。 し か し、 児 童 と
は非常に仲良く関わり、
また児童に配慮しなが ○「BINGO」 ゲ ー ム と
ら飾り付けをする。
七夕ペープサート披露
○「BINGO」 ゲ ー ム と ○ペープサートの演技
七夕ペープサート披露 役割のある学生は非常
に 緊 張 し て 演 技 す る。
演技後は達成感が窺え
る。
○会場に着くと自主的
に 挨 拶 し、 準 備 に 取 り
掛 か る。 ま た、 お 互 い
に役割の確認をし合う。
○ 緊 張 し な が ら も、 笑
顔で会場の反応に合わ
せながらペープサート
とゲームを披露する。
○ 演 技 終 了 後、 主 催 責
任者に自主的にお礼を
言いたいと申し出る。
【交流活動②】
南今泉保育園 納涼会 7 月 2 日(土) 17:30 ~ 20:30
参加学生:地Ⅰ- 7 名 地Ⅱ- 6 名
「地Ⅰ」学生の動き
学生の様子
「地Ⅱ」学生の動き
○ 駐 車 場・ 入 口 の 交 通 〇 学 生 同 士、 こ そ こ そ ○発表の準備
話しながら園庭や入口
整理(交代)
の隅に立っていること ○ 園 児・ 保 育 士 と 一 緒
が 多 く、 指 示 待 ち の 状 に盆踊り
態である。
○ 園 児・ 保 育 士 と 一 緒 ○予定になかったこと
に盆踊り
だ っ た の で、 驚 い た 様
子 で 踊 り の 輪 に 入 る。
次 第 に 笑 顔 に な る が、
学生同士で顔を見合わ ○七夕ペープサート披
せていることが多い。 露
○七夕ペープサート披 ○ペープサートの演技
露と手伝い
役割がある学生は、2 年
生の指示通り真剣な表
情で演技に取り組む。
学生の様子
○ 控 室 に 入 る と、 各 自
段取りよく準備する。
○予定になかったこと
で踊りを知らなかった
が、 笑 顔 で 園 児 に 視 線
を合わせながら見様見
真似で踊る。
○臨機応変に判断しな
がら披露する。
【交流活動③】
清武中央保育園 納涼会 7 月 9 日(土) 18:30 ~ 20:30
対象者:園児・保護者
「地Ⅰ」学生の動き
学生の様子
「地Ⅱ」学生の動き
○担当の模擬店に分か ○担当の模擬店近くに ○担当の模擬店に分か
れて準備する。
立って周囲を見ている。 れて準備する。
指示があれば動けるが、
立って見ていることが
多い。
○模擬店、販売開始。 ○園児との関わりに集 ○模擬店、販売開始。
中 す る。 次 第 に 笑 顔 が
出る。
- 71 -
学生の様子
○保育士の忙しい様子
を 察 し、 何 か 手 伝 え る
ことがないか積極的に
確認して動く。
○ 全 体 に 配 慮 し て、 特
に園児の様子には配慮
しながら模擬店内で園
児とふれあう。
【活動評価記録から】
[ 地Ⅰ ]
➢ 2 年生を見て、子どもたちとの接し方がよくわかった。1 年という差が保育について
多くのことを学んでいる差に感じた。また、心を広くして子どもたちと接している感
じがして、自分もできるようにしたいと思った。
➢ 2 年生の先輩方を見ていると、返事とかテキパキ動くところとか、私たちとは全然違
うなと思いました。私もそんな風になれるように頑張ろうと思いました。
➢ 恥ずかしかったし難しそうだったのでやらなかったけど、2 年生の発表を見てペープ
サートの演技をすればよかったと思った。
[ 地Ⅱ ]
➢ 1 年生と他のメンバーと協力してできたので、自分もとても楽しく活動することがで
きた。
➢ 会場から 1 年生が歌を歌ってくれたので、演技がしやすかった。
➢ 1 年生も、もっと前に出る活動をしたらよかったのではないかと思った。
4.考察
「地Ⅱ」の 2 年生は、1 年時の「地Ⅰ」で 7 つの交流活動を経験してきており、その内容は
保育園の行事から高齢者施設でのふれあい、地域でのイベント支援活動と幅広く、十分な経
験を経ての「地Ⅱ」であった。今回の 3 つの交流活動で、交流先からの依頼内容を 2 年生に
伝えると、直ぐに自分たちでアイディアを出し合い計画していた。その積極性は、1 年時の
経験から見通しが立ちやすかったこともあったと思われる。しかし、元々本学で学ぶことに
対する動機づけが明確で、地域共生の授業以外でもチャレンジ精神のある学生たちであった
ことも影響しているであろう。お互いよい意味で意識し、支えあってきた学生のグループで、
2 年時の「地Ⅱ」もみんなで履修を決めている。その様子は、「地Ⅰ」の 1 年生のとって非常
に模範的な保育士を目指す先輩であったと思われる。
このような「地Ⅱ」の先輩の様子に、交流活動①の前日練習では、
「地Ⅰ」の 1 年生は、特
に 2 年生から指摘を受けたわけでもないのに「先輩たちは怖い。」というイメージができてし
まい、非常に緊張した様子があった。しかし、
「地Ⅰ」の 1 年生だけの交流活動の様に消極的
で「誰かするだろう」といった様な依存し合っている時の印象とは違い、ペープサート演技
の役があった学生はセリフをしっかり覚えてくるなど、非常に責任をもって交流活動に臨ん
でいた。真剣に交流活動に臨む 2 年生の存在が影響していたと思われる。また、交流活動を
振り返っての自己評価で、1 年生からは「もっと積極的に役を引き受ければよかった。」と、ペー
プサートを実際に見ることで、活動意欲がわいてきている。おそらくこの後悔は、次にある
何かのチャレンジの時に一歩を踏み出す力になると思われる。
交流活動②③においても、1 年生にとって「地Ⅱ」の 2 年生の姿は、自分たちが目指して
いるものの具体的なイメージになったはずである。
「地Ⅱ」の 2 年生にとっても、交流活動での「地Ⅰ」の 1 年生の存在は、先輩を自覚させ
る存在であったことは間違いない。プライドを刺激するものでもあっただろうし、何かあっ
- 72 -
た時に 1 年生をリードしなければとも感じていたと思われる。また、
「地Ⅰ」の学生の姿に昨
年の自分を重ね、今の自分の成長を自覚していたのではないだろうか。
今回は 2 年生が非常に積極的なメンバーであり、1 年生も交流活動の経験から様々なこと
を気付く力のある学生であった。もしその様な学生でなかったとしても、この様な機会は同
じ目標をもった 1 年生と 2 年生がそれぞれの立場から何かを感じ気付く機会になるのではな
いかと思われる。今後もこの形態で交流活動を可能な限り継続し、普段の授業ではなかなか
経験できない先輩と後輩の交流から学ぶ機会を計画していきたいと思う。
5.おわりに
学生と同様に、筆者自身も地域との連絡や交流活動をとおして、この授業の目標である「社
会に役立てること」を実感できていたように思う。この交流活動にご協力頂いた、地域の方々
や地域交流推進委員会の先生方に感謝申し上げる。
<参考文献>
宮崎学園短期大学 平成 19 年度・20 年度・21 年度私立大学等経営費補助金特別補助(教育・
学習方法等改善支援)「自他共生をめざす地域連携教育 交流体験ワークショップを通したコ
ミュニケーション力の育成」事例報告書
大学生とマチに出よう 地域共生授業をつくる 安渓遊地 安渓貴子 みずのわ出版(2010)
- 73 -
初年次教育におけるレポート執筆指導に関する一考察
桑 畑 洋一郎
1. はじめに
本論文は、初年次教育においてどのようにレポート執筆指導を行いうるか、本年度の「忍ヶ
丘学びのサポート」の内容総括と、他短期大学における初年次教育プログラムの内容検討を
通して考察するものである。このことは、次年度以降の「忍ヶ丘学びのサポート」のさらな
る実効化につながり、本学教育において意義深いものであると考えられる。
本論文は以下の構成を取る。第 2 節では、今年度の「忍ヶ丘学びのサポート」におけるレポー
ト執筆指導を振り返る。第 3 節では、九州内の他短期大学が、初年次教育においてどの程度
レポート執筆指導が実施しているのか検討する。最後に第 4 節では今後の「忍ヶ丘学びのサ
ポート」への示唆を導き出したい。
2.「忍ヶ丘学びのサポート」におけるレポート執筆指導
レポートの執筆が初年次教育において設定されることは一般的に見られることである。た
とえば、上田・富田(2010)の調査によると、対象となった大学・短期大学の 28 校中 17
校が初年次教育を、さらにその内 15 校がレポート執筆に関する指導を行っている。
表 1: 保育者養成校における初年次教育の内容
図書館の利用の仕方
16 校
レポートの書き方
15 校
大学生としての心構え・学習態度
16 校
保育者としての心構え・学習態度
16 校
ディスカッション
12 校
先輩との交流会
10 校
マナー講座
12 校
その他
7校
(上田・富田 2010: 66)を元に作成
- 74 -
以上のように、レポート執筆に関する指導は、初年次教育における一般的なプログラムの
1 つであると言える。本学でも同様に、今年度より開始された「忍ヶ丘学びのサポート」に
おいてもこうした傾向を受けてレポート執筆指導が 2 コマ設定された。
ただし本論文で焦点を当てたいのは――そして他短期大学と比較したいのは――レポート
執筆指導に費やす時間数の多寡とその妥当性である。本学の「忍ヶ丘学びのサポート」では、
レポート執筆指導が――日本語表現の講義も含めて――設定されていたが、それは他短期大
学とくらべて多いのか少ないのか。
3. 他短期大学ではどのようにレポート執筆を指導しているか
それでは、他短期大学ではどの程度の時間を費やしてレポート執筆の指導を行っているの
か。以下では、このことを、各短期大学のシラバスを参照しながら確認していきたい。
まず対象とする短期大学の選定を行う。本論文では、便宜的に九州地区内の短期大学を
対象とし(文部科学省「公私立短期大学」http://www.mext.go.jp/b_menu/link/daigaku3.
htm より選定)、各短期大学の HP からシラバスを閲覧した。それによって、各短期大学――
の保育・幼児教育系学科がある場合はそこに絞って――がレポート執筆指導に費やしている
コマ数を算出したものが以下の表である。コマ数の算出においては、シラバス内で「レポー
「レポート」ではなく「小
ト」と明記された単元をレポート執筆指導単元と判断した(1)。なお、
論文」の指導が行われている短期大学もその旨明記の上コマ数を算出した。また、紙幅の関
係があるため、各短期大学の HP の URL は割愛した。
表2:九州各短期大学におけるレポート執筆指導の指導時間
短期大学名
科目名と選択・必修の別
指導時間
鹿児島県立短期大学
「かごしまカレッジ教育」(選)
5 コマ。
大分県立芸術文化短期大学
「時事ニュース研究」(選)
3 コマ。
折尾愛真短期大学
「国語表現法Ⅱ」(必)
2 コマ。
九州大谷短期大学
九州女子短期大学
詳細なシラバスの掲載なし。
「文章力をつける」(選)
九州造形短期大学
詳細なシラバスの掲載なし。
近畿大学九州短期大学
レポート執筆指導科目なし。
久留米信愛女学院短期大学
シラバス掲載なし。
9 コマ。
(1)したがって、シラバスに明記されていないため本論文では取り上げられていないが、実質的にはレポー
ト執筆指導を行っている単元が存在する可能性はある。
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表 3:九州各短期大学におけるレポート執筆指導の指導時間(続き)
短期大学名とシラバスの URL
香蘭女子短期大学
科目名と選択・必修の別
指導時間
レポート執筆指導科目なし。
純真短期大学
「文章表現法」(選)
15 コマ。
精華女子短期大学
「保育基礎ゼミⅡ」(卒必)
1 コマ。
西南女学院大学短期大学部
「日本語表現法」(選)
筑紫女学園大学短期大学部
「日本語表現法」(選)
東海大学福岡短期大学
「情報リテラシー I」(必)
中村学園大学短期大学部
シラバス掲載なし。
西日本短期大学
レポート執筆指導科目なし。
東筑紫短期大学
レポート執筆指導科目なし。
福岡医療短期大学
レポート執筆指導科目なし。
福岡工業大学短期大学部
「大学基礎講座」(必)
福岡こども短期大学
レポート執筆指導科目なし。
福岡女学院大学短期大学部
レポート執筆指導科目なし。
福岡女子短期大学
九州龍谷短期大学
佐賀女子短期大学
「日本語表現」(選)
「文章表現法」(選必)
レポート執筆指導科目なし。
長崎玉成短期大学
シラバス掲載なし。
長崎女子短期大学
レポート執筆指導科目なし。
「大学教育入門」(必)
尚絅大学短期大学部
シラバス掲載なし。
中九州短期大学
シラバス掲載なし。
大分短期大学
レポート執筆指導科目なし。
東九州短期大学
シラバス掲載なし。
別府大学短期大学部
レポート執筆指導科目なし。
別府溝部学園短期大学
「日本語表現法」
南九州短期大学
レポート執筆指導科目なし。
鹿児島国際大学短期大学部
レポート執筆指導科目なし。
鹿児島純心女子短期大学
レポート執筆指導科目なし。
鹿児島女子短期大学
第一幼児教育短期大学
沖縄キリスト教短期大学
沖縄女子短期大学
1 コマ。
3 コマ。
「小論文」が 2 コマ。
レポート執筆指導科目なし。
西九州大学短期大学部
長崎短期大学
「小論文」が 2 コマ。
「日本語表現の基礎 B」(選)
「小論文」が 2 コマ。
「小論文」も含めて 6 コマ。
「小論文」も含めて 2 コマ。
15 コマ。
レポート執筆指導科目なし。
「表現技法」(必)
レポート執筆指導科目なし。
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15 コマ。
以上のように、レポート執筆指導科目が設定されている場合は、多くの短期大学が本学よ
りも長時間を費やして指導を行っていることが分かる。また、レポート執筆指導そのものの
科目がない場合も、「卒業研究」等の少人数の演習科目が設定されていて、その中でレポー
トも含めた専門的文章表現技術が指導されている短期大学も多い(たとえば西日本短期大
学は「卒業研究」という通年の必修科目を設定している http://www.nishitan.ac.jp/joho/
syllabus/2011hoiku.pdf 参照)。また、仮に「レポート」と明記されたコマ数がそれほどな
い短期大学でも、日本語表現や文献の探し方、資料の読み方と組み合わせた講義内容を採用
している。つまりは、短期大学等高等教育機関で学習していく上でのレポート執筆指導に関
連するスキルの教授を必要視しているのはほとんどの大学で共通しており、また、そのため
に体系的かつ一貫した講義内容が、それなりの時間数を費やす形で設定されていることも多
くの大学で共通している。
4. おわりに
本学では、今年度より「忍ヶ丘学びのサポート」が開始された。初年次教育を行い、学生
生活に馴染めるようにというのが最大の目的だと考えられるが、「馴染む」ためにどの部分に
力を入れるべきなのかという点には議論の余地がある。学生にどのような力を付けてほしい
のか、そのためにはどういったプログラムが必要なのかということを議論し、力を入れる部
分を見定めた上で、より効果的な形態と内容を講じていくことが重要であろう。九州圏内の
他短期大学の取り組みもそのことを示唆している。
以上をふまえて今年度のレポート執筆指導を振り返ると、やはり詰め込みすぎであったと
いう反省点が残る。これにさらに、第 10 回の「報告資料の作り方」まで入れて 3 回の講義
で行うのは無理があったことは否めない。与えられた回数と初年次教育用のテキスト(田中
編 2009)を勘案しながら設定した内容ではあったとは言え、レポート執筆・報告資料作成
を学習するためには、より効果的な内容・配分の設定がありえたと考えられる。次年度の「学
びのサポート」でもレポート執筆指導を行うのならば、今年度以上に時間を多く取ることが、
また、講義内容全体に一貫性を持たせた形で講義を設定することが、学生が様々な能力を習
得し学生生活に馴染むためには必要となるだろう。
文献
田中共子編,2009,『よくわかる学びの技法第 2 版』ミネルヴァ書房 .
上田敏丈・富田昌平,2010,「保育者養成校における入学前・初年次教育の現状に関する調査」
『中国学園紀要』9:63-72.
※その他ネットの資料については本文中に URL を記載。ただし、各短期大学の HP の URL
については紙幅の都合上割愛した。
- 77 -
リテラシーの育成に関する指導法の研究
松 野 隆
1 学習内容
リテラシー活用能力の向上を図る一方策として本学習に取り組む。
2 本時目標
「教育課程論」の授業で学んだ内容の中から、もっと深めたい内容を選定し、各種リテラシー
を駆使しながら進めてきた個人の研究を発表する。
3 指導観
学生のリテラシー活用能力が低い現状を改善したい願いからの取組である。具体的には、4
月から 6 月までの授業の中で、学生自らが選定した課題について、図書館の資料やコンピュー
タ等を活用しながら個人研究に取り組み、学んだ成果を発表するものである。本時では、数
名の者に発表させ、それぞれ研究してきたことへの満足感や達成感を味わわせたい。
4 指導過程
学習内容及び活動
導 入
○本時のねらいを確認する。
・約1カ月間にわたり、個人で
研究してきた内容について発
表する。
指導上の留意点
資料・準備
・課題設定、本時までの流れなど
について整理する。
・分かりやすい発表であったか、
自分のためになったかなどに視
点を置いて、他人の発表を聞く
よう促す。
展 開
終 末
○発表を聞き、質問したいこと
や感想などを発表する。
(聞く視点)
・分かりやすいか
・ためになったか
・どのような感想をもったか
・挙手、意図的指名などにより意
見を発表させる。
発表者の資料
・他人からどのようなことを学ん
だかにも触れたい。
感想用紙
○本時のまとめと次時の予告を
聞く。
・リテラシー活用の大切さと次
時は特別活動の学習であるこ
とを告げる。
・今後、積極的にリテラシーを活
用することの大切さに触れる。
・授業内容についての感想を三行
程度書かせる。
5 工夫したところ
○学生個々が、リテラシーを活用する前に、事前指導に力を入れた。
○他人の取組を知ることにより、今後の自分の学習に生かせるよう配慮した。
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○毎時間最後に、本時の授業内容についての感想を三行程度書かせるようにした。
授業を参観しての意見等
【良かった点】
・特に「調べて、知識を得る、得ようとする」ことから、そのことを「読み書き話す(発表
する)」ことについて、学生の個人研究への取組は効果的だと思いました。またそこに至
るまでの指導者のご指導の様子も窺えました。そして、それらの方法について敢えてしば
りを設けず、指導者の言葉にあったように、学生が思うように、形式にとらわれず取り組
ませたことも、リテラシー向上には必要だと思いました。
・宮崎国際大学生の受講もありましたが、聞く態度も含め、よい雰囲気、互いに心地よい刺
激の中で進められたと思います。
・特に初等教育科の青木さんの発表について、資料も含め、理路整然としており、明瞭であ
りすばらしいと思いました。
・最初、話し声が気になっていました。宮崎国際大の学生もかなり混じっているということ
で、雰囲気も違うのかと思いましたが、発表に入る段階で集中を見せ、私語も消えたの
で、自由にものを考えられる授業だと思いました。強制して静かにさせると、頭も体も固
くなってしまうように感じます。柔らかさを保って集中させるやり方を身につけたいと思
いました。
・当日の発表ですが、さすがにみんな落ち着いて話ができており、自分で研究した内容を理
解している様子が窺えました。
【課題・疑問点と改善方法について】
・本来のリテラシーそのものではないと思いますが、指導案にあったように、学生の研究
(知識・情報)に対する意見を取り上げ、情報の内容について考えを深める場面もあって
よかったかなと思います。(例 谷さんの「生きる力」に対する疑問を取り上げる等)
・学生が自ら学ぶ上で、リテラシー(「読み書き話す」こと、「調べて、知識(情報)を得
る、得ようとする」こと、「知識を活用する」こと)の向上は、その基礎となりますが、
この3つを取り上げ、授業研究のテーマにするには大き過ぎないかとも思います。昨年度
のように、「読み書き話す」は切り離し、昨今強調されている「情報収集と活用」として
のリテラシーに絞って、テーマを設定してもよいのではないかと思います。また、情報を
活用することにプラスして、情報(知識)をコントロールすること、必要であれば情報の
是非について検討する(疑問をぶつける)ことも必要かと思います。
・宮崎国際大学生も受講していましたが、授業や他の教育活動等、もっと本学学生との交流
があればよいと思います。国際大への編入や高校生へのPRにもつながると思います。
・学生は、自分の研究したことについての感想を発表していましたが、他人の発表を聞いた
感想を発表させてもよかったのではないか。
・学生が、それぞれの課題について研究を深める前段の指導をどのようにされたのか。
- 79 -
授業者より
学生のリテラシー活用能力が低い現状を改善したい願いから、今回、本研究授業に取り組
んだものである。具体的には、4月から6月までの授業「教育課程論」の中で、「もっと深く
研究してみたいこと」や「解明してみたい疑問点」などを一つ選び、図書館の資料やコンピュー
タ等を活用しながら個人研究に取り組み、学んだ成果を発表するものである。5月23日の
授業において、予想される課題を提示し、どのように研究を進めていけばよいかを具体的に
説明し、約5週間の個人研究期間を設け、本時の発表につないだ。
学生は、それぞれ工夫を凝らしながら、苦労と共に、満足感や達成感を味わったものと思う。
たとえば、次のような感想に表れている。
○「生きる力」を育成する理由がなぜ PISA 調査とつながるのかがあまり理解できなかった。
PISA 調査は学力調査であり、読解力・数学的、科学的リテラシーから成り立っていて、あ
まり主体性などとは関係がないのではないか、と思った。脱「ゆとり教育」が行われてい
るが、その方が PISA 調査には直結してくると思う。
「生きる力」を育むことは、人間力の育成につながると思う。だから、今起こっている様々
な社会問題の解決にはつながるだろう。「生きる力」は、主体性・行動力・思いやり・健康・
そして、社会で自分を成長させるために必要な力として、多くの児童や生徒に培ってもら
いたい。そのためには、この4年間で、教育について広く深く、様々な知識と経験を身に
つけていきたい。
○教員の職務について調べていくうちに思ったことで、憲法や教育基本法、学校教育法など、
様々な法律と密接に関係しているということがありました。どの職を見ても、厳しく、ま
た、細かく定められており、やはりそれほどまでに教員という職が不正や誤りの許されな
い存在であることに改めて気づかされました。教育に携わる職業として、児童生徒にどの
ように接するべきか、また、どのようなことを守り、どのようなことをしなければならな
いかを学ぶよい機会になりました。自分が小・中・高の時は、何も考えずに学校生活を送っ
てきましたが、今回調べてみたことで、どれだけの人が自分のためにどんなことをしてく
ださっているのかを実感することができました。そして、自分が将来、小学校教諭になる
という夢もさらに強いものになりました。
○今回、教育委員会について調べたが、分かったことはほんの一部だと思う。なぜなら、法
律を主に調べたからだ。なので、これを機に、実際、教育委員会で働いている父に話を聞き、
具体的にどのようなことをしているのか知っていきたいと思う。
学生は学びへの意欲をもっていることが今回の取組で、はっきり感じることができた。そ
して、自ら課題を見出し、リテラシーを活用してそれを解明する努力を惜しまないことも同
時に感じられた。そのような学生の現状を見たとき、私たちに求められていることは、学生
にこのような機会を意図的に与え、彼らに満足感や達成感を与えることではないかと思う。
- 80 -
高鍋藩の藩校明倫堂について
ー小学校地域教材研究のために
黒 木 國 泰
1 はじめに
近世の城下町に藩校があったということは誰でも知っている。しかし、郷土の藩校につい
て説明せよ、といわれると、多くの人が寡黙になるだろう。ところが、小学校社会科学習指
導要領解説の第3学年及び第4学年内容(5)ウの「地域の発展に尽くした先人の具体的事例」
のなかに、なんと藩校がとりあげられている。(註1)心配することはない。実際には、近世
い ぜき
沖積平野の開発事例をとりあげるのが一般的であり、宮崎県の副読本にも、松井 井堰、用水
路がとりあげられている。(註2)
しかしながら、藩校もまた教材として考えておく必要はある。
藩校が全国的に設立されたのは18世紀中葉以降であり、わが日向の地でも同様であ
る。内藤藩は学問所(学寮)を1768年(明和5年)、高鍋藩の明倫堂と都城の稽古館は
1778年(安永7年)、佐土原藩の学習館は1825年(文政8年)、飫肥藩の振徳堂は
1831年(天保2年)に創建されている。もとより藩校が正式にできるまでに、学問修練
の場がまったくなかったわけではないし、藩校が早くできたから優れているというわけでも
ない。
とくに飫肥藩には安井息軒先生という日本儒学を集大成した大儒学者が現れている。残念
ながら、もはや儒学の時代ではなかったので、同じ飫肥藩生まれでハーバード大学で学問を
積んだ小村寿太郎が、歴史的には功罪こもごも大きな役割を果たした。
さて小稿でとりあげる高鍋藩明倫堂は、全国レベルでの優れた人材を多く生み出している。
しかし、残念ながら知名度が低い。いかに優れていたかは、3万石の小藩でありながら、今
日に残された漢籍の質量を見れば一目瞭然である。
(『高鍋藩明倫堂文庫図書目録』1984年)
小稿は、財団法人正幸会の平田和彦先生、高鍋町教育委員会からの依頼により、高鍋町に
明倫堂コーナーを設けるためのパネル・資料(無記名)に供されたものである。再録するに
あたり、もと縦書き文であったものを横書き文に改めたので、若干の修正を施した。なおパ
ネル文作成にあたって、宮崎学園短期大学教授 原田真理先生に文章添削をいただいた。記し
て感謝申し上げたい。また石川正雄先生『高鍋町史』(1987年)、
『明倫堂記録』(1982
年)、安田尚義先生『高鍋藩史話』(1968年)に学ぶところが大きかった。両先生を偲び、
学恩に感謝申し上げたい。
- 81 -
2 明倫堂の創立と沿革
高鍋藩の藩校明倫堂は、第七代藩主秋月種茂公により、安永7年(1778)に創建された。
種茂公は、上杉鷹山公の兄上であり、鷹山公から尊崇されていた開明君主であった。この地、
高鍋町が文教の街といわれ、多くの俊秀を生み出してきた基礎は、明倫堂の創建によるもの
である。
かど
これより先、第五代秋月種弘公は正徳3年(1713)10月に城内角の屋敷に稽古所を
設け、武芸修練の場とした。享保4年(1719)6月には、稽古所で学問修練も併せ行われ、
享保13年(1728)4月には典医山田玄随が医書の講義もしている。
たねみつ
第六代秋月種美公は家老三好善太夫を稽古担当とし、学問武芸の修練に力を注ぎ、財津十
郎兵衛や千手八太郎廉斎ほかの俊秀を江戸や京都に藩費留学させた。彼らは山崎闇斎門下の
なかでも傑出した学者となり、のちに明倫堂の設立運営、さらには藩政に大きな役割を果た
した。
秋月種茂公は学問教育を重視し、稽古所の改革を行った。それでも稽古所に出席者が少な
かったため、儒臣千手八太郎は辞職を覚悟で四ヵ条の進言を行った。第一に経学の学びの場
は閑静でなければ深い思考ができないので、新たに学校を建設すべきであること。第二に優
れた教師が必要であること。そのために家中の秀才を江戸・上方の学校に留学させて優秀な
教師を養成すべきこと。第三に小学校と大学校を立て、小学校では小学・家礼の講書を行い、
手習・素読・諸礼などによって孝悌忠信礼譲廉恥の道を説き聞かせ、大学では修己、治人、治国、
平天下の道に達するように努めさせること。第四に学問は己を責めて人を咎めない厳格なも
のであり、自ら好んで行う者は少ないので、藩士の子弟に対し義務教育にすべきこと、など
である。
この八太郎の献策に種茂公は感銘し、ただちに新たに学校を建設し小学、大学の二校をつ
くること、留学制度を設けることを実行した。さらに明倫堂にも庶民を受け入れるとともに、
庄屋による庶民教育にも努めた。
秋月種茂公はこの学校を「明倫堂」と名づけて、建学の精神を明らかにするために自ら「明
倫堂記」を書いた。いわば高鍋藩の教育基本法である。その内容は次のようなものである。
昔から政治は教育を先とする。教育が起れば人材が出る。有能の士が上に立てば、人民は
喜んでその治に服するようになる。国を治める本は君主であり、君の心身が正しくなければ
ならない。またこれを輔ける人物がなくてはならない。しかも家老、奉行など指導層ばかり
でなく、すべての人々が、それぞれの役割に応じた人物でなければならない。すなわち上に
立つ者も下の者もすべての人が学校教育を受けるべきであり、従って人材を養成する学校が
大切である。人材が多く出るようになると風俗も改まり、戸を締めなくても盗賊がなく、道
もとい
に落ちた物を拾うものがないようになる。ここに理想の政治が実現する。つまり政治の基は
教育にあるわけである。この学校に学ぶものは、この精神を体し勉めて怠ってはならない。
すなわち、優れた人材を得ることが政治の根本であり、そのために学校を設立するのだと
述べている。当時の学問は経学であり、学問の目標は「明人倫」にあった。種茂公がこの学
校を人倫を明らかにし、これを教える所と認識していたことは、命名にも明らかである。人
倫とは人として守るべき道であり、人倫を明らかにするとは単に知識技能の修得にとどまら
- 82 -
ず、体得し実践すべきものであった。したがって教師は人倫の指導者であるとともに、自ら
実践する模範となる人でなければならなかった。明倫堂で学ぶ者たちも、「明人倫」の体得実
践を求められたのである。
の ち 幕 末 に な る と、 明 倫 堂 も 時 代 の 要 請 を 受 け て 種 々 の 改 変 が 行 わ れ た。 弘 化 元 年
(1844)には医学館を開設した。また寄宿寮建設の要望を受け、嘉永6年(1853)に
せっしろう
寄宿寮切偲楼を付設し、規模を広げた。
かくして幕末維新の激動期において、明倫堂により高鍋藩が優れた人材を政財界に送り出
し、かつは軍事的にも維新政府に大いなる貢献を果たすことができたのである。
明治5年の近代的な学制開始に至り、明倫堂はその役割を終えたが、秋月種茂公の明倫堂
の精神は、今日に至るまで生きているといえる。
3 明倫堂の教育内容
ぎょうしゅうさい
明倫堂創設時には、小学校行習齋に入学義務があるものは上士すなわち騎馬以上の格式の
しつけ
嫡男だけであり、八、九歳で入学し、素読・手習(書道)・躾方などを修練した。中下士身分
の嫡男はなるだけ出席すべきとされた。のちに幕末の安政4年(1857)7月から、藩士
全員の就学となり、さらに就学が仕籍に入る条件となったので、二男以下も11歳までに必
ず入学しなければならないことになった。
入学を望む者は先ず父母の許しを受け、礼服を着けて教授・助教の自宅に行って願い出る。
かみしも
許されると麻の上下を着用して出席する。
毎日の学習は次のようであった。早朝洗面の後、衣服を改め、かねて依頼をしておいた近
所の師家に行って素読を受ける。これを「朝読み」といった。
明倫堂は9時始業である。座席の序列は身分格式、貴賤や入学の前後にかかわらず、長幼
の序(生年月日順)に従った。素読は朝読みの師に授かったところやかねて読んだところな
そら
ど一字一句に気をつけて繰り返す。文字を見定めず空読みをしてはならない。手習は読み方
筆法に心をつけ、一、六の日には清書を持参する。
講書はこれを書き控え、よく理解し納得のいくまで幾度でも質問すべきとされた。義理を
あやまち
討論し、善を責め過を正す場合は互いに隠忍してはならないという厳しさがあった。
諸礼は日用の礼儀につき稽古し、平日も立ち居ふるまいに気をつけ、年始、始業の時や一
書の開講または終了のときも肩衣(上下)を着けること等のほか、次のような約束があった。
素読・手習のときはもちろん、普段も声高や無用の雑談は慎み、卑劣な話、政治向きの話、
人物の評判などをしてはならなかった。姿勢を正しくし、足を投げ出したり、もたれたり、
あぐらを組んではならないとされた。
午後3時に終業の際、書物や机は整頓してしまい、教授・助教の許しを受け一礼して退出
する。明治2年(1869)に国学科が設けられてからは、時間数増加のため、午後4時退
出となった。
途中で諸士に出会ったときは、その身分格式に応じ手厚く礼儀を尽くす。言葉遣いに注意し、
諸生の中で年長の人や同年の人には何兄と呼び、年少の者には何生と呼ぶ。心やすく親しい
間でも無礼の会釈があってはならない(「おれ」「お前」と呼んではならない)とされた。
- 83 -
また補助教員として行習斎の優等生から保正を選び、保正は諸生の世話をした。保正が自
分より年少であっても、何兄と呼ぶべきであるとされた。
行習斎での教科を学習順序に挙げると次のとおりである。孝経、小学の内篇・外篇。大学、
論語、孟子、中庸の四書。近思録。詩経、書経、易経、春秋、礼記の五経。以上の素読と、
孝経と小学内外篇の講釈、外に礼式、書道、数学の指導が行われた。のち明治2年には国学
たまぼこ
なおびのみたま
かみよのまさごと
あしかび
科が設けられた。教材は玉鉾百首、直日霊、神代正語、神代葦芽、古語拾遺、祝詞正訓、万
葉集巻一、巻二、皇典文彙である。
行習斎では定期の試験が行われた。
(一)古典の読み(素読)の試験が月2回。
(二)書道(筆道)、
月1回。(三)古典の暗唱(背誦)試験、月 1 回。天保3年(1832)から2回。以上の三
事の試験が毎月行われる。これを三事試という。
著察斎に進級した者は毎月六度の教授・助教の講書の聴聞と武芸の稽古を続け、30歳ま
で卒業(消帳)は許されなかった。更に文武の攻究錬磨に意欲のある者は、その年限を超え
て精進することが許された。藩主の御前での講義試験が隔年の春秋2回行われた。このとき
行習斎諸生は、素読、躾方、手習の様子を上覧に供した。著察斎生は寄宿寮が設けられてか
らは、寄宿または通学を命ぜられた。著察斎の上級者は、今でいうと大学院の年限に相当す
るわけであり、相当の学問を積んでいたといえる。彼らの多くは高鍋藩において生涯を終え
たために、世に名だたる学者はいないけれど、その質の高さは相当のものがあったと推察で
きる。
むすびにかえて
かの『論語』の冒頭「学而」に「学而時習之、不亦説乎、有朋自遠方来、不亦楽乎、人不
知而不慍、不亦君子乎」とある。学問をする喜び、友との交友の喜びを語り、その後に人知
らずしてうらみず、また君子ならずや、と述べる。孔子が自身を他から知られず評価されず、
自ら寂しい思いをした経験を踏まえてのこととおもう。
上杉鷹山公は兄の秋月種茂公を尊敬し、自ら種茂公よりも高名なることを恥じたといわれ
ている。種茂公が傑出していたけれども、地方小藩の高鍋藩主であるがために世に知られて
いないのと同様に、高鍋藩士にも傑出した人物がいたことを我々は知るべきであろう。明倫
堂の大先達に学ぶこと、多大である。
註
(1)文科省『小学校学習指導要領解説 社会編』(平成20年6月)には、「用水路を開く,
藩校や私塾を設ける,……など,地域の発展に貢献してきた人々が,強い信念をもって情
熱を傾け,よりよい生活を求めて努力したことや,これらの先人の働きや苦心によって地
域の人々の生活が向上したことなどを取り上げる」とある。
(2)黒木國泰「小学校中学年社会科開発事例について 17 世紀初頭日向国清武川の松井五郎
兵衛儀長の疎水事業Ⅰ・Ⅱ」『教育研究』4・5号(2008年、2009年)。
- 84 -
パクパク動物 指人形2種類(犬・熊) と動物お面
高 橋 裕
今回は、指人形になる犬のパクパク人形
を作ってみました。
指を使った、獅子舞(頭部)みたいなも
のと考えていただければ、理解できるかと
思います。
犬は、我が家のゴールデンを作ってみま
した。目の位置と上下の顎の形を変えると
恐竜にな矢印ります。
- 85 -
指人形 B(熊)
こちらは、中指に(頭)差し込み人
差し指・薬指が手となる人形です。
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動物お面
狐・アライグマ
ほぼ同じ型紙ですが、
耳の形・眼の位置・鼻の穴の形を変えています。
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保育科「あそびと音楽Ⅰ・Ⅱ」における、
『コードによる弾き歌い』の指導について
片 野 郁 子
はじめに
毎年、この教育研究では、どのような学生にどのように授業を実施し、どのような成果が
あがったかを報告してきた。
筆者は本学に於いて、初等教育科、保育科、音楽科の学生に対して、その科のレベルに応
じて旋律に伴奏を付けるための能力を知識面、技術面で身に付けさせるための授業を実施し
ている。
本稿は、平成 23 年度入学保育科 E,F クラス 80 名を対象とした、
「あそびと音楽Ⅰ・Ⅱ」のコー
ドネーム指導についての報告である。
本授業の目標
本学保育科のディプロマポリシー(以下 DP と記載)の1項目は「①保育者としての社会
的使命と責任を自覚し、専門的な知識・技術の習得に努め、常に自己の資質向上に努めるこ
とができる(知識・技能・向上心」)と設定されている。これは、本学DPのⅤ「大学で学ぶ
専門的知識や技能を実際場面に活用できる。(実践力)」対応している。本授業は、この DP
を反映して、幼児の歌をコードネームを見ながら引弾き歌いできる知識と技能を身に付け、
保育の場面で生かすことが出来ることを目標に実施された。
目標設定の理由
幼稚園教諭、保育士は、近年ピアノの弾き歌いが出来ることが特に求められるようになった。
それは、様々な幼稚園、保育園の採用試験の試験内容に「弾き歌い」が入っていることから
も証明出来る。
長年ピアノのレッスンを経験してきた学生にとっても弾くだけでなく、歌いながら弾くと
いう作業は難しいことである。ましてや、全く経験がないか、かなり短い期間しかレッスン
をしてこなかった学生にとっては至難の技に感じられるようである。
難しい伴奏の形をそのまま楽譜通りに再現するのではなく、コードネームによって自分の
弾きやすい形に伴奏を変えて余裕をもって保育活動に当たることができたら、音楽歴のほと
んどない学生には福音であろうと考える。また、音楽歴の長い学生にとっても楽曲理解がよ
り深まると考えられる。
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対象学生について
ピアノ学習歴、ピアノ以外の音楽経験など、入学時の学生の実態をアンケートによって調
査した。80 名中、74 名の回答があり以下その結果を示す。 考えていたよりも、ピアノ歴
8 年以上のピアノ経験者が多く、ピアノが弾ける学生が多いことが就職率が高い一因ではな
いだろうか。
授業の方法
「あそびと音楽」では、毎年、年齢に応じた手遊びや、幼児のうたの修得も大事な内容であ
るので、この事については、一年間を通じて指導し、それらの曲を使って、音楽理論やコー
ドネームの基を指導している。
例えば、学生向けシラバスにある曲を中心に、拍子、調、その他の音楽の基礎と共に英語
音名の理解から始まるコード理論を、鍵盤ハーモニカによる演習を織り混ぜて指導するなど
である。今年度は、毎回、ワークシート(添付楽譜)に記入させ、回収して添削し、ひとり
でも理解出来ないままで取り残される学生が存在しないよう配慮した。
- 89 -
授業の成果
まず、普段の授業中、課題曲については長三和音と短三和音のコードを全ての学生が押さ
えることができるようになった。さらに、筆記試験でも試験問題についてほぼ全ての学生が
正確に回答した。
実技試験では、全ての学生がメロディーにコードネームのみを付した課題曲楽譜を見て弾
き歌いできた。
次に実技試験のコードに関する問題についてある学生の回答を添付する。この学生は、G
については、不正解であるが、このようにほとんどの学生が、回答出来た。
考察
入学時は、ピアノ歴が長いなど、音楽に関わってきた学生とそうでない学生の差は非常に
開いていたが、どの学生にとっても未知の分野であったコード伴奏による弾き歌いを、皆非
常に努力して修得した。
勿論かなり初歩的な段階ではあるが、この方法で培った技能は必ず現場の活動に生かされ
ると考える。
毎年様々な、工夫を試みて、学生の興味・関心を高め、理解に繋がるよう努力しているが、
今年度は毎年の内容に更にワークシートへの記入と提出を徹底させることを試みた。皆熱心
に取り組んだと評価したい
問題点、課題
アンケートにより、改めて能力差を痛感した。全くの初心者、入学時ピアノを始めて一年
以内の学生への対策をこれから考えてゆかねばならないと考える。これは、「あそびと音楽」
の時間だけでは到底解決できない。器楽(ピアノ)の授業との連携を体系的に図り、指導を
進めて行きたい。
- 90 -
電子黒板と教育システム
大 坪 勝 郎
はじめに
昨年に引き続き電子黒板に着目した。電子黒板利用の汎用スタイルを構築し利用の普及に
あたっていきたいと考える。教育のスタイルも様々であるが当面は、様々なスタイルについ
て考えて行きたい。
目的・手段
教育分野により様々ではあるが視聴覚等に訴え教育の効率を向上させる様々な試みがなさ
れてきた。現段階においても様々な試みがなされているが、そういった中でも情報機器を活
用した教育である電子黒板に着目したい。もちろんさらに小型化し通信機能も備えたタブレッ
ト型端末も多く出てきて本学においても様々な分野の方の注目を集めている。しかし、今か
ら十数年前になるが某メーカーよりデジタルカメラが発売された時に移動型プレゼンテー
ション端末として大変注目した。たいへんコンパクトであり多くの情報を持ち歩くことが可
能となった。やがて西暦2000年を迎え情報機器が様々なデジタル機器と結びつくように
なるとともにインターネット博覧会(インパク)を迎え様々な年齢層からインターネットや
デジタル機器といったものが着目されるようになってきた。こういった流れの中でパーソナ
ル・タブレットというのは実に着目すべきものではあるが様々な方向性や可能性を秘めてい
る以上は商業的に様々な試みがなされる大きな流れの入口に立っている段階と言える。各社
の動向に着目しながら今後の取り扱いについて考慮する段階である。
今年度であるが、やはりプレゼンテーションという観点から見て行きたい。昨年度は、ユー
ザインターフェースに着目し一般的プレゼンテーションとの違い(優位)はプレゼンテーショ
ンにインタラクティブ性を持たせた点にあった。利用者にとってプレゼンテーションの利用
中に次のようなことが可能となっていた。
① 語句を調べる
語句 → クリック → 説明(別のページやオブジェクト)
アニメーション・ムービー
② 説明用アニメーション
画像(従来型のもの) → 操作(次のアニメーションへと繋がるもの)
項目①においては別に保存されたページを呼び出す形式のものであり、②においては、使
用者があらかじめ理解するタイミングにおいて操作することによって「あらかじめ計算され
た特別な動作」のように操作するが普通のアニメーションの動作をゆっくりな状態にしただ
けのものであった。このままでも効果は充分なのだがさらに使い勝手を向上するために汎用
ライブラリ化して他の先生方にも利用していただくことを狙いとしたい。
- 91 -
表1.プレゼンテーション構成の基本概念
語句説明
用語
解説
用語
図
図2
用語
オブジェクト
オブジェクト2
用語
アニメーション
アニメーション2
設問
解説
解説2
設問
解説
解説2
様々な問題設定
解説
解説2
動作説明
問題設定
グループ学習
自主学習項目
学習度合いに合わせ → スピードコントローラブルあるいは深度コントロール可能と
するとより効果的に活用できる。
上記において解説・図・オブジェクト・アニメーションなどと簡略化したが当然ながらこ
れらの中にはさらなる用語や状況の解説も必要となってくる点には配慮が必要と思われる。
上記項目には、もっと汎用性が必要であると思われる。分野によりコンピュータで学習する
に適した図やアニメーションが少ないかもしれない。コンピュータを専門としない教員にも
利用可能なものがどれほど入手可能であろうか。これらはそれぞれの分野において確認する
必要がある。コンピュータにおける互換とともにインターネット、あるいは各教育機関のネッ
トワークにおいて充分に配慮される必要がある。
今回、新たに加わるのは、ナビゲーション部分である。ここまでの部分は、深めて考慮す
ると興味深いシステムとなる。利用者にとっても興味深い教材となるだろう。もちろんここ
まででも大きな容量の記憶装置やネットワークが利用可能であることは言うまでもない。シ
ステムの構成については後述するとしてナビゲーション部分の構成について記述したい。基
礎学習、あるいは応用学習においても学習中に関連項目の理解の確認といったものが必要と
なってくる。関連分野の学習内容を簡易な操作で呼び出すことができたり、関連項目へと完
全に移行することが可能であるとしたら学習の助けになる。表1は、昨年度作成した情報処
理論のプレゼンテーション(MicrosoftPowerPoint によるもの)をかなり意識して記述した
ので情報分野的言い回しが目立つかもしれないが科学的根底を持つ分野ならほぼそのまま使
えるのではないだろうか。このあたりは今後とも各分野の専門の方や指導者のご意見を参考
に修正していきたいと思う。各分野において大きな視点で分類する分野と小さな分野に分類
する境界や考えかたは様々であると予測可能なので仮暫定分類として改良を重ねていきたい
が多くの分野を考える時、様々な構成が考えられるだろう。ある程度のモデルを作成し構成
するのが理想的であるが一人の能力では難しいと思われる。全体の流れをコントロールする
ものは、次のようになる。
- 92 -
従来の部分
(全体の 95%程度)
図1.ナビゲーション視点からの画面
画面のサイズは新たな物においても様々な考え方があるようでまだ安定的サイズや比率を
示すことはできないが比較的新しい電子黒板(やや横長イメージのもの)と考えていただき
たい。上記は紙面の都合でたいへん窮屈な比率となっているがあくまでも一般的な物を想定
して設計している。中央四角部分は、従来のナビゲーション部分と考えていただきたい。今
後ぜひ設計上で考慮していただきたいのはほんの僅かではあるが周辺部分にある。もちろん
ハードウェア的にボタンなどを設計して利用可能にすれば素晴らしいものが設計可能である
がそういった役割は今後はタブレット型端末にて設計が可能である。ハードウェアに依存し
すぎるとシステムとしての維持も難しい。そこで従来の画面をやや縮小して空いた上下左右
のエリアにナビゲーションボタン等を配置するものとする。
・ナビゲーションボタン(プレゼンテーションの内部と外部)
・アニメーションのスピードコントロール(表1下部参照)
・画面の明るさ等のコントロール(ハードウェア構成に依存)
以上のようにいくつかの点に配慮しながら設計する必要があるが今回は多くの利用者や商
業的なことは意識せずに考えてみようと思う。今後もシステム構成に入ってくる点は次のと
おりだ。
・タッチパネル型電子黒板(最低限のインタラクティブ性であると考慮)
・ネットワークあるいはWi-Fiが利用可能である(必ずしも必要ではないがシステム全
体のデータ量等を考慮するとシステム全体として必要になる)
・情報端末(オプショナルではあるがパーソナル端末も実験上配慮したい)
システム構成としては Windows 上で動く端末(本学の場合はノートパソコン)とプラズ
マディスプレイ型の電子黒板が利用可能である。今年度においてタブレット型端末も準備で
きたのでなんらかの成果が見いだせたらその都度公表したいと思う。
学生の指導等も含め今後ともインタラクティブでデジタルな新時代の基礎となるシステム
を提案していきたい。
- 93 -
理科学習における先行経験の変容-2
伊 東 信 一
Ⅰ 研究の目的
理科の問題解決的学習過程で活用する先行経験について、生活科の学習との関連性を考慮
しながら、自然の事物・現象に対する児童の先行経験の違いを下学年(1~3年)の学年別に、
また、調査の対象を都市部と農村部の地域性を考慮して調査し比較する。
Ⅱ 研究の内容・方法
生活科が新設される以前の小学校理科においては、第1学年で「磁石のはたらき」、第2学
年で「物のとけ方」についての学習内容が構成されていた。
低学年理科におけるこの 2 つの学習内容は、平成元年の生活科の新設により、それぞれ第
3学年の「物の性質」における「電気・磁石について、及び、第5学年における「物の溶け方」
の学習として再構成された。その後さらに、平成11年5月の改訂では、第3学年の「磁石
の性質」及び「電気の通り道」として2つの内容に分けて構成され、第5学年の「物の溶け方」
については指導内容の精選化が図られて構成されることになった。そして、平成20年8月
の理科の改訂でも「磁石のはたらき」と「物の溶け方」についての2つの内容は前回の改訂
と同じ学年で構成されている。
この2つの学習内容が低学年時に実施されていたという理科教育のこれまでの経緯を考え、
さらに、低学年時における先行経験に関する現在の児童の実態を把握することは、中・高学
年における問題解決的学習を実践する上で非常に大切なことである。
そこで調査に当たっては、小学校理科の「A物質・エネルギー」領域の第3学年における
「磁石の性質」、及び、第5学年の「物の溶け方」に関して、第1・2学年と第3学年の生活
経験の有無について比較し、分析・考察していきたい。そして、生活科の新設以前の理科で1・
2年の児童が学習した内容が、生活科での学習内容の違いによって先行経験としてどのよう
な違いが見られるか、2つの学校を比較し考察していくこととした。
なお、この調査研究に関しては、前回は宮崎市中心部の宮大附属小学校を対象として下学
年児童について調査分析を行った。宮大附属小学校は生活科の学習で磁石遊びに関する単元
を構成している学校である。
今回の調査は宮崎市郊外に位置する小学校で、生活科の学習内容として「磁石遊び」に関
する学習内容は取り扱っていない。
また、身近な自然の動・植物との関わり方についての体験活動の有無についても質問肢を
作成し、児童の体験活動の傾向について調査・考察した。
Ⅲ 調査対象 都市部の小学校(前年度に結果分析・考察)
※ 宮崎市宮大附属小学校
- 94 -
農村部の小学校(本年度に結果分析・考察)
※ 宮崎市立清武小学校1~3年生(計267名)
※ 学年別調査人数 1年生 = 83人
2年生 = 79人
3年生 = 105人
Ⅳ 調査期間 平成21年10月下旬~11月上旬
Ⅴ 調査結果及び分析
研究資料収集のための調査問題は、次の4つの観点から作成した。
○ 観点1; 第3学年の学習内容「磁石の働き」に関する先行経験の変容
○ 観点2; 第5学年の学習内容「物の溶け方」に関する先行経験の変容
※ これらの観点に関する調査結果は、次の通りである。
1 「磁石の働き」に関する先行経験の変容についての調査
表―1 磁石について;学年別比較~1・3年 (1年;83人・3年;10 5人)
選択肢回答者数(人)
1 年
3 年
質 問 肢
Yes
No
Yes
No
1
あなたは磁石を知っていますか。
78
5
104
1
2
あなたは磁石で遊んだことがありますか。
64
19
81
24
3
あなたは磁石を持っていますか。
63
20
76
29
4
あなたの家には磁石がありますか。
66
17
95
10
《 分析 》
○ 1年生と3年生を比べると、磁石で遊んだ経験については両学年ともに77%で、遊
びの経験の差は見られない。
2 「物の溶け方」に関する先行経験の変容についての調査
表―2 シャボン玉について;学年別比較~1・3年 (1年;83人・3年;10 5人)
選択肢回答者数(人)
1 年
3 年
質 問 肢
Yes
No
Yes
No
1
あなたはシャボン玉を知っていますか。
82
1
105
0
2
シャボン玉を飛ばして遊んだことがありますか。
80
3
101
4
3
シャボン玉ができる水を作ったことがありますか。
49
34
42
63
※「シャボン玉の水はどのようにして作りますか。」~石けん、シャンプーなどの回答
○ シャボン玉に関する調査の回答では、1~3年生ともに遊んだ経験に関しては大きな
差は見られない。
- 95 -
○ シャボン液を作ることに関する経験は1年生が41%、3年生は60%の児童が作っ
た経験がないと回答している。
Ⅵ 考 察
これらの調査の結果から、この小学校における児童の発達段階による先行経験の違いにつ
いて次のようなことがわかった。
まず、観点1の「磁石の働き」に関する先行経験についてであるが、磁石で遊んだ経験の
ある児童は1・3年生ともに77%であり、磁石遊びの経験がない児童が23%となって両
学年の間には差が見られない。(表―1参照)。 調査した学校では、1・2年生における生活科の学習で「磁石」を使って遊ぶ生活科の単
元は構成されていない。もし、「磁石遊び」に関する単元が構成されているとすれば、3年生
の段階ではその経験がないという児童の割合は減少すると思われる。
前回の研究紀要で分析した別の小学校においては、1年生と3年生の間には「磁石遊び」
の経験の差はかなりの違いが見られた。この小学校では1年生の生活科で「磁石遊び」に関
する単元が構成されていたので、両学年の間に先行経験の違いが見られたのは当然である。
3年生における改訂後の理科の学習内容で「磁石の性質」に関する単元を指導するとき、
磁石についての先行経験の違いは、問題解決的学習を推進していく上で指導過程に大きく影
響すると考えられる。
次に、観点2の「ものの溶け方」に関する1・3年生の先行経験の違いについては、次の
ようなことが考えられる。
しゃぼん玉については全員が知っており、また、ほとんどの児童がしゃぼん玉で遊んだ経
験がある。しかし、“ しゃぼん玉ができる水 ”(シャボン液)を自分で作ったことがない児童
は1年生41%、3年生57%であった。(表―2参照)
「しゃぼん玉遊び」をする場合、現在では “ シャボン液 ” が市販されているのでそれを使っ
て遊ぶことが多いと思われる。
しかし、このことは例えば石けんなどを水に溶かしてシャボン液を作るような「物の溶け
方」についての現象面からの経験が少ないということであり、3年生の発達段階においても、
自分で石鹸等を水に溶かしてしゃぼん液が作れることを体験的に認識している児童は少ない
ということがわかる。砂糖や食塩が水に溶ける時、現在の低・中学年児童の “ 見方や考え方 ”
はどのような捉え方をしているのであろうか。
生活科の新設によって、それまでは第2学年で学習していた「ものの溶け方」に関する学
習経験が、現在の第5学年の児童にとっては「ものの溶け方」の理科学習を進めるうえでの
先行経験は少ないと考えられるのではないだろうか。
このことから、生活科の活動の中に「物の溶け方」に関する活動内容を工夫する必要があ
るのではないかと考えるのである。
Ⅶ まとめと今後の課題
今回の研究では、農村部の小学校における児童1~3年生を対象に調査した結果について
考察していった。
前回の調査研究で、生活科における学習を考えるとき、学習の対象となる地域の社会環境
- 96 -
や自然環境は各学校によって異なり、各地域の特性によってかなりの違いが出てくることを
指摘した。
従って、各学校における生活科の学習内容が異なることによって、児童の先行経験にも違
いが生じてくるのは当然であろう。
今後、本研究と平行して同一の調査を都市部にある他の学校でも実施しているので、その
調査結果と本調査を比較し地域性を考慮して分析・考察する予定である。
なお、身近な自然環境における動・植物についての体験活動の調査結果については、紙面
の都合で次年度に紹介したい。
最後に、本調査研究に関して全面的に協力頂いた、宮崎市立清武小学校の先生方並びに関
係各位に深甚の謝意を表したい。
※ 参考文献
1.学習指導要領解説 理科編(平成20年8月) 文部科学省
2.学習指導要領解説 生活編(平成20年8月) 文部科学省
3.小学校学習指導要領解説理科編(平成11年5月) 文部科学省
4.同 上 (一部補訂) (平成19年10月) 文部科学省
5.小学校学習指導要領解説生活編(平成11年5月) 文部科学省
6.小学校指導書 理科編(平成元年6月) 文 部 省
7.小学校指導書 生活編(平成元年6月) 文 部 省
8.小学校指導書 理科編(昭和53年5月) 文 部 省
9.小学校学習指導要領の展開理科編(高野恒雄・武村重和編) 明治図書刊
10.心理学の研究法;実験法・測定法・統計法(加藤 司著) 北 樹 出 版
11.心理統計 ノンパラメトリック法(岩原信九郎著) 日本文化科学社
12.行動科学のBASIC ノンパラメトリック法(篠原弘章著) ナカニシヤ出版
13.生活科はこうすればどうだろうか(1990) 宮崎大学教育文化学部 附属小学校編
14.生活科の授業展開と新しい評価(角屋重樹著) 小 学 館
15.小学校理科指導事典(柿内・武村・蛯谷・荻須著) 第 一 法 規
16.理科教材・基本的事項の精選と指導(小島 基著) 明治図書出版
17.学ぶ力を育てる理科教育(1985)
筑波大学附属小学校 理科教育研究部編
18.新学習指導要領を生かした理科の授業(中学年)(日置光久編著) 小 学 館
19.理科の授業をどう創るか(角屋重樹著) 明治図書出版
20.「体験」で子どもを動かすには(日置光久・森本信也編著) 東洋館出版社
- 97 -
幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続のための実践
湯 地 正 隆
1 はじめに
近年の子どもの育ちについては,基本的な生活習慣が身に付いていない,他者とのかかわ
りが苦手である,自制心や耐性・規範意識が十分に育っていないなどの課題が指摘されている。
また,小学校1年生などの教室において,学習に集中できない,教師の話が開けずに授業が
成立しないなど学級がうまく機能しない状況(いわゆる「小1プロブレム」)にある学校が見
られる。加えて,多くの情報に囲まれた環境にいるため,世の中についての知識は増えてい
るものの,それらは断片的で受け身的なものが多く,学習に対する意欲や関心が低いことが
指摘されている。
そこで,幼児期(特に幼児期の終わり)における学びの基礎力の育成において,幼児が人
やものに興味をもち,かかわる中で様々なことに気付くとともに,それらを深め,広げてい
く過程の中で,自己発揮と自己抑制を調整する力を育む必要がある。それらを通じて,個人
として,また社会の構成員としての自立への基礎を養わなければならない。
具体的には,「学びの自立=自分にとって興味・関心があり,価値があると感じられる活動
を自ら進んで行うとともに,人の話などをよく聞いて,それを参考にして自分の考えを深め,
自分の思いや考えなどを適切な方法で表現すること」,「生活上の自立=生活上必要な習慣や
技能を身に付けて,身近な人々,社会及び自然と適切にかかわり,自らよりよい生活を創り
出していくこと」,「精神的な自立=自分のよさや可能性に気付き,患欲や自信をもつことに
よって,現在及び将来における自分自身の在り方に夢や希望をもち,前向きに生活していく
こと」の「三つの自立」を養うことが大事ある。そこで,本稿では附属幼稚園の年長児のお
こなった小学校教育への接続のための実践事例(三つの自立)を紹介してみたい。
2 研究の仮説
ア 小学校への期待を膨らませているこの幼児期の終わり(年長期)に,小学校で行われ
ている学習活動を園生活に取り入れることにより,円滑に小学校生活に移行することが
できるであろう。
イ 小学校を訪問し,直接に児童とふれ合いながら
一緒に過ごす中で,小学校生活のイメージを広
げることにより,進学への期待を高めることが
できるであろう。
3 研究の実際
ア 数遊び(学びの自立)
プリントを使用し,簡単な数遊びを行う(プ
リントにある絵=風船・チョコレート・カブト
- 98 -
ムシなどの数をかぞえ色塗りをする)→少しずつ難度が高くなる→先生と答え合わせ
をする。
○ 数量については,生活の中で必要感を感じて数えたり,量を比べたりして日常生活の
中で知らず知らずのうちに数や量にふれて生活している。しかし,数や文字についての
理解力には,個人差が大きい。数遊びの中で進めていくことにより,活動に対する興味
関心が高まったようである。小学校での授業に繋げられることを期待する。
イ 町内散策・地図作り(学びの自立)
園周辺を散策し,どのような建物(施設)
があるかを調べ歩く→園周辺の地図を作る→
自分たちが住んでみたい町を絵に描く。
○ 園周辺には,色々な建物があることを知
り,人々の生活に役立っていることに気付く
ことができたようだった。これから先,公共
施設や人々の暮らしについて考えながら生活
し,小学校の生活科授業に繋がることを期待
する。
《今後に必要な取り組む内容》
・ 文字遊び(鉛筆遊び) ・ 時計の見方 ・ 紐結び 等々
ウ 小学校での給食体験(生活上の自立)
教頭先生に挨拶→小学生の給食準備を観察→給食当番に配膳をしてもらい一緒に食事
(机・椅子共に,小学校で使用するもの)
○ 小学校訪問を楽しみにする子どもが多かっ
た中,当日は見慣れない環境に緊張し,食が
進まなかったり,小学生となかなか会話をす
ることができなかったりする子どもも見られ
た。相手が5年生で身体も大きく圧倒された
様子だった。しかし,完食する子どもがほと
んどだった。実際に小学校の校内を見学した
り,児童と会話をしたりしたことで,小学校
へのイメージが広がり,進学への期待がより高まったことと考える。どの小学校も食事
時間内に食べ終わるように努力させることを要望された。よって,園でも小学校と同じ
ように,昼食を20分間内で食べるように習慣づけることを確認し指導にあたった。最
初から20分で食事を済ませることは難しい状況だったので,少しずつ時間を短縮して
いった。
食べる時間を設定することにより,子ども達も時間を意識し,目標をもって食べるよ
うになってきた。小学校給食でも,時間を意識しながら食事するのではないかと期待す
る。
エ 小学校入学までに身につけること(生活上の自立)
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卒園後に入学予定の近隣小学校に連絡を取り,小学校入学前に園で配慮しておくべき
7点が示されたので幼稚園で指導した。
・ 自分の意志が伝えられること。 ・ 人の話がきちんと聞けること。 ・ 身の回りのことが自分でできること。
・ 返事,挨拶ができること。 ・ 早寝早起き,朝食をとること。
・ 正しい言葉遣いができること。 ・ 自分の名前の読み書きができること。
○ 話を聞くことが理解することになり,自分の表現に繋がる。子どもたちも少しずく聞
く姿勢が身についてきており,友達の考えに耳を傾け,自分の気持ちを伝えることはで
きるようになってきた。また,返事や挨拶の基本的な生活習慣も身についてきた。定期
的に整頓の時間を設定して指導した結果,使った物をその都度きれいに片付ける子ども
が増えている。名前の読み書きについては,製作活動等でメッセージカードを書くこと
も多く,文字が分からなくなったときには自分で「あいうえお表」を見ながら書いている。
オ 当番活動の実施(精神的な自立)
・ 朝の会(朝の会を進める) ・昼食(昼食準備を進める)
・ お手伝い(配り物や,片付けの手伝い,トイレのスリッパ並べなどを行う)
・ 帰りの会(帰りの会を進める) ・靴箱掃除(朝の会前に靴箱掃除を行う)
・ 水やり(ベランダで栽培している,ピーマン・パプリカ・えんどうの水やりを行う)
○ 最初は,教師の声かけや援助がないと戸惑
い,進めることが難しい様子だったが,次第
に活動に慣れていくと自分たちで環境を整え
て行動したり,友達同士で声かけ合ったりす
るようになった。また,当番活動を楽しみに
登園する子どもも増え,学級への所属意識の
向上も見られるようになった。小学校生活の
中でも,園で行った当番活動を思い出し,小
学校における日直などの係活動にもスムーズ
に取り組めるのではないかと期待する。
4 研究の成果と課題
○ 住んでいるところにより,進学する小学校は様々だが,園周辺の環境について見たり,
調べたりすることにより,地域環境に対する関心が高まり,小学校における生活科の学
習への接続に繋がった。
○ 実際に小学校児童と会話をしながら給食をすることは,進学前の子ども達にとって貴
重な体験になった。しかし,設定された給食の時間という,慣れない環境に戸惑う子ど
もは多いので,小学校への期待と希望をもてるように,幼稚園と家庭が一緒になって丁
寧に支援していきたい。
○ 小学校の給食指導の中で20分以内に食事をとらなければならないが,園だけでなく
家庭でも意識付け指導しいかなければならない。実際に20分以内に全員が食事を済ま
せることはなかなか難しい。今後も,最初から20分で食べさせるのではなく少しずつ
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時間を短縮して,最終的には20分で食べさせ,小学校給食に対応する能力をつけてい
きたい。
○ 毎日,当番活動をすることにより,子ども達一人ひとりが責任をもって主体的に取り
組むようになったことは成果であり,小学校での係活動に生かしてほしい。
○ 実際に小学校と連絡を取り合うことは頻繁にはないが,子どもたちがスムーズに進学
できるように,幼稚園も小学校生活について関心をもち,積極的に学習したり,情報を
収集したりすることが大切である。また,進学した子どもの小学校における様子につい
ても,連携した情報交換をするようにしていきたい。
5 おわりに
幼稚園では計画的に環境を構成し,遊びを中心とした生活を通して体験を重ね,一人一人
に応じた総合的な指導を行っている。一方,小学校では,時間割に基づき,各教科の内容を
教科書などの教材を用いて学習している。このように,幼稚園と小学校では,子どもの生活
や教育方法が異なる。このような生活の変化に子どもが対応できるようになっていくことも
学びの一つとしてとらえ,教師は適切な指導を行うことが必要である。しかし,生活の変化
が大きすぎると,子どもはその生活の変化にうまく適応できないこともある。子どもは小学
校入学と同時に突然違った存在になるのではなく,子どもの発達と学びは連続していること
から,幼稚園教育と小学校教育の円滑な接続のため,連携を図るようにしなければならない。
幼児と児童が交流することによって,幼児は,児童に憧れの気持ちをもったり,小学校生
活に期待をよせたりすることができる。実際に交流を行う中で,児童と「一緒に遊ぶ」「一緒
に生活する」という体験を通して,幼児は自分の近い未来を見通すことができるようになる。
さらに,幼児が,近隣の小学校へ出かける場合には,小学校の校舎や校庭,学校生活の流れ
の一端を知るよい機会になり,小学校生活に安心感と期待感をもつことにもつながる。一方
で児童は,年下の幼児と接することで,自分の成長に気付いたり,思いやりの心を育んだり
することができる。これらのことから,幼児と児童にとって意義のある交流活動とすること
が求められており,今後も機会あるごとに小学校での体験活動を進めていきたい。
【参考図書】
・ 幼稚園教育要領解説 文部科学省
・ 幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方について(報告)
幼児期の教育と小学校教育の円滑な接続の在り方に
関する調査研究協力者会議
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小学校家庭科の被服作品づくり
―食生活指導の教材に活用―
坂 元 マモル
1 はじめに
被服の作品は生活に役立つ小物を製作している。手縫いや、ミシンを用いた直線縫いによ
り目的に応じた縫い方を考えて製作し活用できるようにする。新学習指導要領では基礎基本
の技術を身につけながら、平易なものから難しいものへ、単純なものから複雑なものへと製
作をするように述べてある。このことに基づいて簡単な小物の製作を行い、発展的作品とし
てエプロンシアターを製作、食生活指導の教材として活用してみてはどうかと考えた。
授業時数の関係から、小物作りは授業時間内に指導を行い、エプロンシアターについては、
放課後指導としたが、全員出来あがらなかったので夏休みの宿題とした。
2 被服製作の基礎的な技能
(1)基礎基本の技能
玉結びや玉どめ、並み縫い、かがり縫い、ボタン付けの仕方、洋裁道具の安全な使い方を
理解し、これらの知識や技能を活用して小物を作成した。
<学生の作品>
枕カバー、リース、帽子、刺し子エプロン、ランチョンマット、フォトフレーム等
(2)被服製作の発展的な技能
ミシンを用いた直線縫いにより目的に応じた縫い方を考えて製作する。
① 布を断つ
② しるしをつける まち針をとめる
③ しつけをかける
④ ミシンで縫う
ミシンの使い方
① 安全に気をつけて
② 操作に注意
③ 指導者として注意をすること
・授業前に正常に作動するか確認をしておく
・台数は余分に用意しておく
<エプロンシアターの製作>
応用的技能の習得
並み縫い、半返し縫い、本返し縫い、まつり縫い、かがり縫い、玉結び、玉止め、ミシン縫い、
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アイロンかけ、裁断の仕方、まち針のうち方
エプロンシアターの製作では以上のような技能を習得できる。
3 日常の食事と調理の基礎
食品の栄養素の特徴や体内での主な働きが分かり給食や家庭での食事をバランスよくとる
ことができるようにエプロンシアターを見ながら食べ物の働きがあることに気付かせる。
食品の分け方を覚えるために「えいようのうた」があることを伝える。児童生徒に歌を歌
いながら、楽しく学ばせる。食品の働きを知り、栄養素を考えて食事をとる大切さが分かる
ようにする。
えいようのうた 「ごんベさんのあかちゃん」のかえうた
1 からだを つくるの なんでしょう
それは あかの たべものよ
おにくに さかなに まめ たまご
ぎゅうにゅう こざかな のりわかめ
2 ねつや ちからに なるものは
それは きいろの たべものよ
ごはんに うどんに いも さとう
あぶらや バターが エネルギー
3 ちょうしを だすもの なんでしょう
それは みどりの たべものよ
キャベツに きゅうりに ねぎ だいこん
にんじん かぼちゃに ほうれんそう
4 あか き みどりを とりそろえ
きちんと たべれば じょうぶなこ
うんどう べんきょう おてつだい
もりもり かつやく げんきなこ
※赤・黄・緑のフレーズは五大栄養素の名前にかえてよい。
3つのグループに分けられた食品には、それぞれ共通の栄養素が含まれていることを知る。
・主にエネルギーになるものは
炭水化物、脂質
・主に体をつくるのは
たんぱく質、無機質
・主に体の調子を整えるには
ビタミン、無機質
4 学生の感想
・日常の生活に役に立つものを作りました。ランチョマットは、ミシン縫いがきれいで、ア
イロンがけもしたので、きれいな出来あがりになりました。コースターは小さいので、細か
い作業が多く、悪戦苦闘しました。帽子はとても作り方が簡単だったので、また作ってみた
いなと思いました。完成したこの3つの作品を自分の生活に役立てたいと思います。
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・縫いものをほとんどしたことがなく、とても難しかったです。どうにかエプロンシアター
が完成して時は涙がでるくらい嬉しかったです。苦労しがいがありました。
・エプロンシアターは長い時間をかけコツコツと作り、ようやく完成した作品です。作る過
程で特に以下の部分に苦労をしまいた。先ず製作は本にあるままを作るのではなく見るもの
の印象に残る大きさ等を工夫したことです。全体のバランスも考えて作るところが難しかっ
たです。次に縫う作業です。ミシンで縫えない厚い重なった布部分は針での手縫いです。ミ
シンで縫った部分と手縫いの部分をできるだけ差が出ないように作りました。
完成した作品で子どもたちが大変喜んでくれました。誰に向けて製作をするのかしっかり
意識すれば少しでもよい作品になると感じました。
5 まとめ
学生の作品を評価してみて、驚くほど上手な出来栄えのもの、反面初めて針を使うのでは
ないかと思われる学生もおり、生活経験不足から「縫う」という技術においてかなりの個人
差があった。経験不足の学生に指導を重ねることで、作品を作るのに布・針(縫い針、ミシ
ン針)・糸(手縫い糸、ボタンに使用する糸、ミシン糸)の使用が異なることが理解できた。
学生が自ら製作することで指導をするとき児童の理解できない所も分かり、児童に理解しや
すい授業ができると考えられる。したがって製作実習の指導に十分対応できるために学生は
自から体験を重ね、納得いくまで教材研究を行う必要があると思われた。
≪参考文献≫
新学習指導要領 家庭
ポイント授業づくり 家庭 編著 金子佳代子 藤原佳代子
はじめての家庭科指導 監修」櫻井純子 内野紀子 嶋海多恵
明日の授業に使える 小学校家庭科 澤田悦子
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「あそびと言葉」の授業開発
椋 木 香 子
1.はじめに
今年度、保育士養成カリキュラムの変更に伴い、
「あそびと言葉」
(演習)の授業が新設された。
そこで、新設科目のねらいに沿った新しい授業をこのたび開発した。この授業は非常勤の工
藤道子講師と分担して受け持った。工藤講師は宮崎市立図書館で数年間、特定非営利活動法
人 MCL ボランティアとして絵本の読み聞かせやストーリーテリングのコーディネイトを行っ
ており、授業開発に際しては工藤講師と相談をしながら進めたことを付記しておく。
2.授業の計画とねらい
授業目標は「絵本や紙芝居など、子どもの遊びを豊かに展開するための言語表現に関わる
知識・技術を習得するとともに、子どもの表現活動を支援する教材の活用や具体的な展開に
ついて学ぶ」である。絵本や紙芝居といった児童文化財の特徴や展開のポイントについては、
「保育内容の研究 言葉」の授業で指導しているが、1 時間程度の扱いであり、実践的な内容
については十分扱えない。また、紙芝居やペープサート、簡単なポップアップ絵本等の製作
については、「保育内容の研究 表現」や図画工作に関する授業の中で取り扱われているよう
であるが、子どもの言語表現の指導に特化したものではない。絵本については、昨年度まで
は筆者が担当する「児童文学」(講義)の中で 5 時間程度をかけて行ってきたが、講義という
授業形態の性質上、実践的内容については十分取り扱えなかった。
今回、子どもの言語活動、表現活動の支援・指導のための科目が新設されたことは、旧カ
リキュラムでは十分取り扱えなかった実践的、発展的内容を指導できる時間が確保されたこ
とを意味する。そこで、この授業では、「絵本」「紙芝居」「人形劇」「ストーリーテリング」
について、それぞれの特徴と保育指導の展開の基本的考え方を教えると共に、実際に読み聞
かせや人形劇をやりながら、実践力をつけることをねらいとした。
授業計画の概要は以下の通りである。
第1回~第6回
絵本、読み聞かせに関する内容(読み聞かせの練習)
第7回・第8回
紙芝居に関する内容(紙芝居の実演練習)
第9回・第10回
人形劇に関する内容(指人形とペープサートの実演練習)
第11回
ストーリーテリングに関する内容(ストーリーテリングの練習)
第12回・第13回
教材の作成と活用(人形劇・ストーリーテリングのいずれかを選択
して、発表用に準備・練習する)
第14回・第15回
グループに分かれて発表会(人形劇・ストーリーテリング)
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絵本の読み聞かせは簡単にできるものと考えられがちだが、実際にやってみると意外に難
しく、「子どもが集中して聞いてくれない」などの相談を実習生や現場の先生方から受ける。
実は、年齢にあった良い絵本の選び方が難しく、絵本の特徴や絵本の内容が子どもの興味関
心と一致していないと、上記のような問題を抱えることになる。
また、学生にとっては「赤ちゃん絵本」
(0 ~ 3 歳児対象の文字が極端に少ない絵本)や「文
字なし絵本」をどのように読んでよいか分からないらしく、講義だけの授業では、読み聞か
せの本質的な教育的意義を十分理解させることが難しかった。
読み聞かせにしろ、人形劇にしろ、その教育的意義の第一は、子どもと保育者、または子
ども同士のコミュニケーション力を育成することにある。「演じる」技術が必要な紙芝居や人
形劇、ストーリーをイメージして自分のものとして語るストーリーテリングに比べ、絵本の
読み聞かせは難しい技術は必要なく、無理なくコミュニケーション力を育むことができる。
そこで、前半に絵本に関する内容を多くし、グループで読み聞かせをし合う経験を積み重
ねた上で、紙芝居や人形劇、ストーリーテリングに挑戦するような授業計画にした。
3.ストーリーテリングの教材開発
今回の授業開発にあたり、特に教材研究に時間をかけたのがストーリーテリングである。
他の内容については、これまでの指導経験があったが、ストーリーテリングに関しては素人
に近く、どのように指導を行うか頭を悩ませていた。
このとき、工藤講師からご紹介いただいたのが、宮崎語り手の会「おはなし さんぽ道」の
那須道子先生であった。那須先生は「全日本語りネットワーク」にも所属され、全国各地の
語りについても詳しく、宮崎市ではボランティアとして、市立図書館を始め、幼稚園や保育
所でも語り(ストーリーテリング)を行っておられる方である。那須先生から基本文献を紹
介していただき、ご本人にもお会いして、ストーリーテリングの本質や特質、歴史、方法、
指導上のポイントなどをうかがった。授業構想当初は、生のストーリーテリングを学生に聞
いてもらいたいと思い、ゲストティーチャーとしておいでいただけないか交渉したが、すで
に予定があるとのことで、代わりにテレビラジオ用に集録したストーリーテリングを授業で
は使わせていただいた。
授業では 1 時間をストーリーテリングの特徴と保育指導の展開、およびストーリーテリン
グの練習方法に当てた。ストーリーテリングは 1 時間で身につく技能ではない。そこで、一
人でどのように練習をすると効果的であるかを、那須先生のご提案を基に指導した。その上で、
次の 2 時間をかけて、ストーリーテリングでの発表を選択した学生は、ストーリーテリング
の題材を見つけて、自分たちなりにアレンジして練習し、最終回で発表するという形式にした。
この授業は今年度の授業相互参観で公開し、授業研究会を行った。
4.授業の実際と反省点
今年度の「あそびと言葉」の授業では、ねらいに基づき、前半 1 時間程度を実演を交えた
それぞれの児童文化財の特徴、保育指導の展開の基本的考え方の指導にあて、後半 30 分程
度を実技・実演を実際に行いながら実践力を養う時間とした。
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絵本の内容の授業では毎回一人に 1 冊ずつ、さまざまな絵本を用意し、3 ~ 4 名のグルー
プになって、お互い読み聞かせをし合うようにした。紙芝居では 1 つの紙芝居をグループで
分担して読み合い、その次の時間にはグループごとに紙芝居を選んで、みんなの前で実演し
てもらった。人形劇はさまざまな種類があるが、1 時間の中で力をつけやすいものとして、
折り紙で指人形を作り、即興でお話を作るという活動を行った。2 回目の人形劇の時間では、
人形劇の中でも保育現場で比較的使いやすいペープサートを取り挙げた。本学の守川美輪講
師にご協力いただいてペープサートを作成し、基本の使い方をもとにアレンジを考えさせ、
実演練習をした。
毎回ワークシートを作成し、自己評価や相互評価を行いながら、友達を認め合い、自分の
成長が実感できるよう工夫した。また、自分達がアレンジして作ったものを記録させ、発表
会につなげていけるよう配慮した。
最終的には、授業全体を通して学んだ集大成として、人形劇とストーリーテリングをみん
なの前で実演してもらった。ただ、2 時間の準備時間では十分ではなく、ほとんどの学生が
授業時間外に質問に来たり、個別指導を受けたりするなどして、発表会に臨んだ。人形劇の
人形は手作りとし、原作をもとにアレンジして構成を工夫するように課題を出したので、グ
ループごとに創意工夫した作品が出来上がった。授業全体を通して、学生にはたくさんの力
がついたことと思う。
授業者側の大きな反省点は、教材作成の際に指導略案を書かせたことである。保育現場で
人形劇やストーリーテリングを行う際には、実施の流れを考えておく必要がある。1年前期
では指導案の書き方の指導を十分受けていないと予想し、通常の指導案ではなく、簡単にね
らいや実施計画を書くよう「指導略案」を特別に作成し、書き方も説明したのだが、実際に
作成させてみると、予想以上に学生にとって難しいことが分かった。読み聞かせや人形劇な
どの技術的な実践力をつけるということと、子ども達を対象とした保育を行う際の指導案と
して、それらの活動を計画していくことに大きな隔たりがあることを改めて痛感させられた。
指導案の作成は子どもの発達や様々な指導法との関連、環境構成や記述の仕方等、多くの
指導事項を含んでおり、この授業内で取り扱いきれない高度な内容を含む。しかし、発表会
の計画は最低でも考えるべきことである。この授業の中で、授業目標を達成できるレベルで
の計画の立て方と指導をどう行うかが来年度の大きな課題である。
5.おわりに~ PDCA サイクルに基づく授業開発
ここでは新設科目「あそびと言葉」の授業開発について、授業のねらいと計画、実践と結
果について、総合的な考察を行った。どんなに考えて準備をしたとしても、実際にやってみ
ないと分からないことも多い。大切なのは、次への改善をどう図るかである。今後も計画・
実践・評価・改善を繰り返しながら、授業改善に努めていきたい。
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ドイツリート(歌曲)の演奏法の研究
末 平 浩 康
はじめに
声楽を専門的に勉強し始めて 50 年近くが過ぎようとしている。イタリア古典歌曲や日本
歌曲やオペラ、オラトリオなどを歌い続けるうちに、ドイツリートに出会い、そのすばらし
さと魅力に取りつかれた。ドイツリートというと、シューベルト、シューマン、ブラームス、ヴォ
ルフなどの作曲家を挙げることができるが、とりわけシューベルトの作品は、ドイツ歌曲の
真髄ともいうべきものを有していると考える。シューベルトの数百曲の歌曲をはじめ、連作
歌曲集「美しき水車小屋の娘」「冬の旅」「白鳥の歌」を歌いながら、その解釈と演奏法につ
いて研究したことを述べていきたいと思う。
解釈と演奏の実践
1.シューベルトの歌曲(「野ばら」と「魔王」)の演奏法
数百曲の歌曲を残したシューベルトの作品は、どれをとっても珠玉の作品といえる。とり
わけ有名な「野ばら」(Heidenröslein)は、ゲーテの詩に作曲家が曲を付けたものであるが、
短いながらもその韻律や構成は見事なものである。また、音楽と詩の関係や大切さを表した
ものといえる。ヘルマン・ヘッセの「詩は音楽にならなかった言葉、音楽は言葉にならなかっ
た詩」と述べていることが、音楽と詩両方の重要さを証明している。ゲーテの詩がどれほど
偉大だったかは、150 人の古今の作曲家たちがこの詩に作曲をしたかでわかる。シューマン、
ブラームス、メンデルスゾーンそしてベートーヴェンまでもがスケッチを残している。この
曲の演奏は、歌曲であるが、ドラマ性をよく演じることである。シューベルの「魔王」(ゲー
テ詩)もドラマ性を持った優れた作品であり、私も何十回と歌い続けている。この歌に登場
する 4 人、語り手・父・子・魔王をどう表現するか。4 人の声色(音色)を変えて演奏する
ことも試みた。歌う位置を変えて演奏することも試みたが、聴衆に最も理解しやすい演奏ス
タイルは、あまりおおげさなアクションや声色の違いを強調することなく、目線や身体の方
向(向き)によって演奏することが今のところの結論である。語り手は、正面を向き、遠く
に目線を置きながら淡々としゃべるように歌う。馬に乗り、我が子を小脇に抱えた父は、右
斜めに目線をやり語り続ける。父にすがる子は、左斜め上の方向を見つめ父に語り、時に自
分だけに見える中央の魔王に視線を向け歌う。魔王は、中央に立ち、ここだけは、手や腕の
身体の動きを伴いながら左右、上下立体的な視線を感じさせながら歌う。これが、今のとこ
ろ私が「魔王」の説得力ある演奏する一つの考え方である。
2.連作歌曲集「冬の旅」の演奏法
私はこの作品を3度演奏した。1 回目は 30 歳半ば、2 回目は 40 歳前半、3 回目は 60 歳の
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時である。1 回目は、24 曲からなる大曲を必死に覚え、格闘したと言ってもいいくらいの精
一杯の演奏であった。いくら詩が偉大であっても音楽の力には到底及ばないと思っていたの
である。具体性を持った言葉を抽象的な具体的でない音楽が超えてしまうと信じて演奏して
いたのである。しかし、このことは、研究していくうちにある意味で一面的な捉え方でしか
なかったと思い知らされる。
2 回目は、徹底的に詩を分析、翻訳も含め研究した。その上に立ち、歌うことに向かった。
詩と音楽の結び付きを本当に理解し演奏したものである。
3 回目の演奏をするにあたっては、
第一に、
楽曲の形式やスタイルの分析に力を注いだ。特に、
拍子や間の捉え方や感じ方に重点を置いた。第 1 曲目の「おやすみ」
(Gute Nacht)は 2 拍
子の歌い方について考えた。この曲は 4 分の 2 拍子で書かれており、決して 4 拍子に聴こえ
てはならない。失恋し、死を覚悟した若者が、凍てついた冬の雪と氷の道を歩いていくリズム
は決して早くなく、こせこせしたリズムになってはいけない。日本人が 4 分の 2 拍子を苦手
とするのは、ひょっとすると、外国人の足の長さが影響しているかもしれないと思う。足を引
きずりながら、雪の道を重々しい足どりで歩まなければならない 2 拍子でなければならない。
他にも数曲の 4 分の 2 拍子の曲が存在するが、第 1 曲のような分析を行いつつも、第 12 曲目
の「孤独」
(Einsamkeit)の出だしの 2 拍子には相当な配慮をしながら演奏しなければならない。
左手における1拍分と右手における1拍分とが、強拍を打つことなく無機質にも思えるほど平
衡に始まらなければならないと思う。もちろん、前奏に続いて歌も続かねばならぬ。
2 拍子として考えねばならない 8 分の6拍子の曲の演奏も万全の注意を払わなければなら
ない。第 13 曲目の「郵便馬車」(Die Post)は、8分音符の 3 つ分を 1 拍として感じなけ
ればならないが、その中の 8 分音符(♪)のひとつひとつを意識して、リズムのエネルギー
を感じつつ演奏されなければならない。その時、はじめてその 8 分の 6 拍子のリズムは郵便
馬車の馬の足取りとして聴こえてくるはずである。
第 17 曲目「村にて」(Im Dorfe)の8分の 12 拍子の捉え方は難しい。もともと、8 分系
で書かれた大きな拍子(複合拍子)は、それぞれ 2 拍子、3 拍子、4 拍子という単純拍子と
して考えなければならないが、Etwas Langsam(大変ゆっくりと)という速度の指定があ
ると「間」が保てなくなるのである。これも大きな拍子の中に 8 分音符をしっかりエネルギー
として感じて演奏したつもりである。
曲の途中にある休符や音のないブレスの取り扱いには、相当の配慮が必要である。休符や
ブレスは単なる「休み」ではない。次へ移行するための準備であり、息の流れと音の方向や
意識の流れを絶対止めないで演奏することである。
おわりに
ドイツ歌曲(ドイツリート )の解釈と演奏法をシューベルトの個々の歌曲曲 2 曲と「冬の
旅」の数曲の解釈・分析そして演奏法を一部しか論じられなかったが、さらに、シューベル
トの他の作品やシューマンやブラームス、ヴオルフの作品についても今後の研究で述べてい
きたいと思う。
さらに、この研究が自分の声楽主科や副科の学生へのレッスンへ反映されて行くことがも
う一つの課題であると考える。 - 109 -
ピアノ再考
(楽器の誕生・変遷)
宮 崎 賢 二
はじめに
学生が何気なく毎日弾いているピアノについて素朴な質問する時、ピアノという楽器その
ものを、あまりにも知らないことに驚かされる。きっと目の前の鍵盤を指で動かすことばか
りで、考えもしないのではないだろうか。ピアノの簡単な内部の構造・機能、名前すら知ら
なかったこともある。この程度だけは知識として頭に入れて練習に励んでもらいたいと思う
ことしばしばで、「ピアノ再考」を論じてみたい。ピアノという楽器の誕生、名前の由来、発
達段階を経て最近では電子ピアノの普及率が高くてそれで育った学生も多く、いろいろ問題
もかかえている。時代の変化と共に電子ピアノのような電気技術のめまぐるしい進歩やその
他にも映像、CD,コンピューター、テレビ等の音楽に与える影響を考えると、本来の楽器・
音を見失いがちであり、最低の基本的知識が必要と考える。
ピアノの誕生
一般的にはイタリア人のバルトロメオ・クリストフォリ(1655 ~ 1731)が「クラヴィチェ
ンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」(弱い音も強い音も出るチェンバロ)という名前で作っ
た打弦楽器がピアノの発明とされている。詳しくは 17 世紀後半、イタリア、メディチ家の
フェルディナント公が、チェンバロはもはや人の感情を表現するには物足りなくなって心情
の語れる人の声のように強弱の付けられる鍵盤楽器をと望み、チェンバロ造りのクリストフォ
リに託し 1709 年に出来上がったのがピアノの誕生とされている。音域は49鍵、4オクター
ブでこの音域は人の声のバスからソプラノの音域をカバーするものであった。しかし当時オー
ストリアでもチェンバロの改造がされてピアノの発明をみる形跡があり、ピアノの誕生はイ
タリアではなくドイツだという説もあるが、歴史的にはイタリア文芸誌に発表されたクリス
トフォリのレポートによるピアノ誕生が妥当であろう。ピアノの名称本来は「ピアノフォルテ」
「フォルテピアノ」というのが正しい呼び名であり、演奏表現の可能として弱音(ピアノ)もフォ
ルテ(強音)も共に出せるということが、セールスポイントであった。このピアノとフォル
テが出せるという可能性はその後のピアノの発達の経過をみた場合、ひたすら音量の増大と
強力なフォルテの表現を追求する方向に進んできてしまったにもかかわらずその名前が弱音
を意味するピアノという言葉だけが残った。このことは皮肉と言えばそれまでの話であるが、
音を大切にする我々音楽する者に何か基本的考えを与えているように思える。楽器の王者と
言われるピアノは確かにオーケストラをバックに音の響き、強力な音で演奏可能な楽器であ
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るが本来はピアノ(弱音)を大切にし、音の伸び・デリケートな響きを表現するものである。
ドイツ語でピアノのことをハンマーフリューゲルや単にフリューゲルと言ったりするが、こ
のフリューゲルとは翼・羽を意味して音が空中に舞い上がる、ヒラヒラと飛んでいくと解釈
すべきである。
「フォルテピアノ」の時代
クリストフォリのピアノ誕生以来、そのうわさがヨーロッパ全土に広まり、各地でピアノ
の改革が次々と始まる。大きな流れとしてタイプとしては 2 つ、即ちクリストフォリに代表
されるチェンバロから発展したグランドピアノ型ピアノとクラヴィコードから改良されたス
クエア型ピアノでターフェルピアノといいドイツから発達してイギリスで全盛になった。打
弦機構のアクションからみると 3 つに分けられる。1つはイギリス式の突き上げ式、2 つめ
はドイツ式跳ね返り式(後のウィーン式)、3 つめがフランスのエラールの発案になるレペティ
ションアクションである。これらはそれぞれに特徴があり当時のピアノ作曲家に大きな影響
を与えた。バッハ、スカルラッティ、ヘンデル、ハイドン、クレメンティ、モーツァルト、ベー
トーヴェン等のピアノ作品をみるとピアノの改革と関係がありそれぞれの作曲家の特徴・性
格と絡まって大変興味深いものがある。バッハ等は最初に紹介されたピアノを「ピアノなど
という代物はボイラーマンが無骨な機械を作ったようなもので、とうてい優雅な音色を奏で
る楽器とはいえない」とあからさまな敵意を示し、頑固に拒否反応をみせている。バッハ晩
年の頃は改良されたピアノを認めているようである。中でもムツィオ・クレメンティ(1752
~ 1832)はピアノという楽器の発展に果たした役割が大きくたいへん重要である。クレメン
ティが生きた時代は、バッハやスカルラッティからモーツァルト・ベートヴェンを経てロマ
ン派のショパン・リストに至る激しい鍵盤音楽史の、転換期に位置している。即ちチェンバ
ロからフォルテピアノの移行期、更にはピアノ革命(金属フレーム等の採用)の時期でもあっ
た。当時彼は「フォルテピアノの父」と人々から呼ばれ、演奏家・作曲家・教師、更にはピ
アノ製作家・楽譜出版者として活躍し、ヨーロッパ全土で高く評価されていた。今でこそク
レメンティのピアノソナタの楽譜が発売されて少し見直されているものの、最近までは簡単
なソナチネやピアノ教則本の作曲家としてのみ名を知られ、しかも若いころに競演したモー
ツァルトによる酷評だけが強調されすぎて、鍵盤音楽史に重要な位置を占めていたことが忘
れられている。ここでクレメンティとモーツァルトの競演について触れてみたい。
クレメンティとモーツァルトの競演
クレメンティとモーツァルトのピアノ競演は、音楽の歴史上興味深いものであると同時に、
鍵盤楽器の歴史上に最も重要な出来事である。前にも触れたようにこの競演でのモーツァル
トのクレメンティに対する酷評・悪口のみが残り、大事なピアノの発達段階からみた問題点
や当時の時代背景等が無視されている。時は、1781 年 12 月 24 日、クリスマス・イヴの日
にウィーンの皇帝ヨーゼフ 2 世の前で行われた。その時のモーツァルトのクレメンティの演
奏に対する批評が次のようなものである。「右手の指は巧みに動くが、見どころは 3 度のパッ
セージだけで、感情も趣味もまったくなく、ただ機械的に弾いている。」ここで重要なのは時
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代背景も重なって当時のピアノの発達段階のメカニックが大きく異なっていたことである。
モーツァルトの使用したウィーン式ピアノは当時ウィーンで好まれていた弱音方向の幅が大
きく、美しくなめらかなタッチのピアノであった。それに対してクレメンティはイギリスの
ロンドンを中心に、市民文化が定着しつつあり、聴衆数の増大に伴ってホールも次第に大き
くなったことから当然強く豊かな音量の出せる楽器であるイギリス式メカニックのピアノを
使用した。使用楽器の違いは作品にも影響しており、ウィーンの歌うような軽やかさをもっ
た作品に対してロンドンの作品では劇的な表現、大胆なタッチで強弱を明確にするものであっ
た。そのあたりをよくみつめながら考慮しないと一方的にモーツァルトの言葉だけでこの音
楽史上興味深い 2 人の競演を語ってはならない。
時代の革命とピアノの革命
チェンバロ、クラヴィコードを独奏楽器の地位にまで高めたバッハ、スカルラッティ、そ
してそこからピアノが誕生し、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン等によって次々に
名曲が世に出てくる。彼らの要求に応えてピアノが急速に改革された。
したがって我々がモーツァルト、ベートーヴェンのピアノ曲を弾く背景にはピアノ革新に
努力した、イタリア、トイツ、イギリス、フランス等のピアノ製作者の功績を見逃してはな
らない。特にベートーヴェンのピアノソナタ全曲をながめた時にピアノ改革の流れが見える。
それともう一つ大切なことはピアノ改革発展と音楽の時代変遷の裏に、社会情勢の変化が大
きく影響している。フランス革命などで代表されるように貴族専制主義が次第に腐敗し、自
由な新しい社会思想を求めて民衆が立ち上がる。当然音楽もサロン的なものから、大ホール
に多くの大衆を集めて入場料をとるコンサート形式が誕生。ピアノも更に音量と響きを求め
て開発が必要になってくる。又同時期に進行していた産業革命からピアノの工業化が始まり
楽器の王者としての道が開けていった。
おわりに
我々が学生と共にピアノという楽器を目の前にして、日常的状況に弾いている中で楽器と
しての本質的理解が失われているように思われる。あまりにもピアノという楽器の現在の既
成事実をうのみにして、何も考えずにピアノにむかい、ただ弾くことへの疑問である。ピア
ノは歴史的変遷の末に今があるということを、しっかり考えピアノに向かえばおのずと楽器
を大切にするであろうし、弾き方も変わってくる。ピアノ再考をじっくり行う必要性を感じる。
ピアノには他の楽器には見られない減衰音、倍音などがあり複旋律の可能性や立体感を作る
いわゆる 3 次元の世界を表現できる。ピアノも素晴らしさを再確認したいものである。
参考文献 ニューグローブ世界音楽事典 音楽大事典(平凡社)
新訂音楽辞典(音楽之友社)
ピアノとピアノ音楽(音楽之友社)
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「ピアノ演奏」に関する教育研究
~「第22回宮崎ピアニストグループ定期演奏会」~
田 中 幸 子
1、はじめに
宮崎ピアニストグループは、1990年に発足し、今年で22年目になります。宮崎ピア
ニストグループ(以下、会と略称します)は宮崎学園短期大学音楽科卒業生、あるいは宮崎
学園短期大学音楽科研究生や科目等履修生として学んだ門下生に生涯学習をサポートするた
めに結成しました。メンバーは現在67名で短大、幼稚園、ヤマハ、河合などのピアノ講師
やホームレスナーとして活躍しています。会は音楽家相互の親睦を深め、技術向上を図りあ
わせて、地域音楽文化の発展に寄与するため年一度の定期演奏会や幼稚園、老人ホーム等の
ボランティアコンサートを多数開催しています。運営に関する業務を会員が行い、私は演奏
の指導をしています。
2.第22回ピアニストグループ定期演奏会
2011年12月11日(日)メディキット県民文化センター(宮崎県立芸術劇場)アイザッ
クスターンホールで第22回ピアニストグループ定期演奏会を開催しました。
・プログラムと私のコメント
1、I、Sさん。
♪ 「バラード」 ドビュッシー作曲
☆オープニングはしっかり安定した演奏が聴けるIさんに即決定しました。
音楽教室を経て現在一般事務をやりながらピアノの勉強を続けています。
ドビュッシーの美しい響きが感じ取れ、色彩豊かで魅力ある演奏でした。
2、N、Sさん。
♪ 「版画」 より 塔 ドビュッシー作曲
♪ 「前奏曲集第1集」 より 西風がみたもの ドビュッシー作曲
☆現在短大の科目等履修生と研究生をしています。短大吹奏楽部でもホルン、フルー
トと4年間頑張ってくれました。Nさんの塔、西風がみたものは繊細なものからオー
ケストラにも匹敵する迫力で演奏しました。
3、E、Nさん。
♪ 「超絶技巧練習曲」 より マゼッパ リスト作曲
☆武蔵野音楽大学ピアノ専攻を経て短大の研究生として勉強しました。
現在フラワー装飾技能士として活躍しながらピアノの勉強を続けています。
超難曲のマゼッパを高い技巧で情熱と集中力をもって演奏しました。
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4、O、Sさん。
♪ 「ため息」 リスト作曲
♪ 「献呈」 シューマン作曲(リスト編曲)
☆結婚で東京在住になりましたが今年もレッスンに通い出演しました。 東京の音楽教室で講師をしながらピアノの勉強を続けています。
ため息の感傷的なメロディーと献呈の愛に満ちた美しい音楽が流れました。
5、N、Aさん。
♪ 「アレグロ」 シューマン作曲
☆宮日コンクールグランプリ、第2回国際障害者ピアノフェスティバル銀メダルなど
受賞。23年度は「ドキュメント九州」で紹介され好評により3度も放送されました。
入退院の中、本番に向けての努力と姿勢に拍手を送りたい。
変化する音楽の流れが丁寧に伝わりました。音色の美しさが光っていました。
6、T、Мさん。S、Мさん。
♪ 「くるみ割り人形」 より
こんぺい糖の踊り、花のワルツ チャイコフスキー作曲
☆現在短大研究生のTさんは23年度宮崎ピアノコンクールで優秀賞、日本クラシッ
クコンクールでは宮崎県代表になりました。Sさんは音楽教室で講師をしながらピ
アノの勉強をしています。初めての出演で先輩達の音楽に対する真剣な姿勢が刺激
になった二人のようでした。華やかに奏でました。
7、H、Yさん。K、Rさん。
♪ 「動物の謝肉祭」
より ・序奏と獅子王の行進 ・水族館 ・化石
・白鳥 ・終曲 サン・サーンス作曲
☆同じ音楽教室で講師をしながらピアノの勉強をしている先輩、後輩の二人です。標
題がついた5曲を丁寧に演奏しました。二人の研究熱心さが曲の仕上げに出ていて
安心感のある演奏でした。
8、T、S。E、Sさん。
♪ 「ハンガリー狂詩曲第2番」 リスト作曲
☆Eさんは定演に1~22回全て出演です。高校の非常勤を3校と音楽教室で講師を
しながらピアノの勉強を続けています。教え子とのデュオは私自身とても嬉しいで
す。ラッサン、フリスカの特徴をしっかり出せたと思います。
9、K、Rさん。
♪ 「バラード1番」 ショパン作曲
☆音楽教室で講師をしながらピアノの勉強をしています。定演当日の午前中は音楽教
室の発表会で大変だったと思いますが、しみじみとした情感、あたたかな感情、激
しい情熱が伝わる演奏でした。
10、H、Eさん。
♪「ピアノソナタ第3番」第4楽章 ショパン作曲
☆音楽教室で講師をしながらピアノの勉強をしています。定演ではデュオが多く、久
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しぶりのソロ演奏で緊張感もあった様ですがフィナーレの大きさと華やかさがある
演奏でした。
11、Y、Sさん。
♪「鏡」より 道化師の朝の歌 ラヴェル作曲
☆武蔵野音楽大学に編入、卒業後音楽教室で講師をしながらピアノの勉強を続けてい
ます。ラヴェルのスペイン的な楽曲の中でも名高い難曲を、安定したテクニックで
表現力豊に聴かせました。暖かな演奏でした。
12、N、Yさん。S、Yさん。
♪「ガイーヌ」より ・歓迎の踊り ・剣の舞 ハチャトゥリアン作曲
☆同級生だった二人は、音楽教室で講師をしながらピアノの勉強をしています。広く
親しまれているバレー音楽「ガイーヌ」から2曲を緊迫感と重量感をもって演奏し
ました。
13、Y、Мさん。H、Yさん。
♪「パガニーニの主題による変奏曲」 ルトスワフスキ作曲
☆同級生だった二人は、音楽教室での講師を経てピアノレスナーをしながらピアノの
勉強をしています。定演では6回目のデュオ。息の合った演奏でこのスピード感と
多彩な表現の難曲を聴かせました。 14、K、Мさん。K、Yさん。
♪「アンダルシア」よりマラゲーニャ レクウォーナ作曲
☆K、Мさんは宮崎、K、Yさんは福岡の音楽教室で講師をしながらピアノの勉強を
しています。K、Mさんは16回、K、Yさんは21回目の出演。ここ数年デュオ
を組んでいます。バランス、響きが良くスペインの独特な雰囲気が豊で、持ち味を
しっかり聴かせてくれました。
15、T、Kさん。H、Kさん。
♪「ファンタジー」 スクリァービン作曲 ☆同級生だった二人は、音楽教室での講師を経てピアノレスナーをしながらピアノの
勉強をしています。お互い二人の子供を育てながらの演奏。T、Kさんは17回、H、
Kさんは10回目の出演。ここ数年デュオを組んでいます。
よく研究され表現力、テクニックともしっかりした音楽を作りあげました。
以上のように、第22回宮崎ピアニストグループ定期演奏会は終了いたしました。
無事終了出来たのも宮崎学園短期大学をはじめ、後援を引き受けられた各団体の皆様のご
協力の賜ものと、会員一同深く感謝しております。
3、おわりに
1 回 1 回の演奏会を大切に22年間続けれたのも、出演者の意気込みが大きいと思います。
また演奏会のお手伝いを短大の私の門下生がしています。先輩達の音楽に対する姿勢も勉強
してほしいと願っています。これからも地域音楽文化の発信者として会員と協力し頑張って
いきたいと思います。今後共、宮崎学園短期大学をはじめ、各団体の温かいご理解とご指導
を切にお願い致します。
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宮崎学園短期大学「こども音楽教育センター」の
20年を振り返る
山 下 恵 子
1.はじめに
「宮崎学園短期大学こども音楽教育センター」(以下、センターと略す)は、感性豊かな子
ども達を育てるための音楽教育法を研究・開発することを目的として、平成 3 年に前身の「母
と子どものための音楽研究所」(以下、音楽研究所と略す)として開設され、今年で創立 20
年を迎えた。この間約 300 名の子ども達が在籍し、現在は 80 名の子ども達がセンターでのレッ
スンを受けている。
本稿では、センターにおける 20 年の活動を振り返り、センターの社会的貢献及び教育的
意義について考える。
2.センターの歴史的変遷
①音楽研究所設立の趣旨と活動内容
前身の音楽研究所は、幼児に自然に無理なく幅広い音楽能力を身につけるための音楽教育
法を実践研究し、将来的には、地域の音楽活動の活性化を図り、音楽文化豊かな街づくりに
貢献できる子ども達を育てていきたいという願いのもとに設立された。音楽研究所では、音
楽教室の実施、幼児音楽教育や音楽療法に関する研究会等の企画・実施、幼稚園・施設等で
行う幼児向けのコンサートやボランティアの 3 つの活動が行われた。音楽研究所は、短大常
勤教員と非常勤講師によって運営された。特に、主要な活動である音楽教室には、健常な子
どもを対象とするコースと障がいのある子どもを対象とする2つのコースを作り、障がいの
ある子どもを対象とする教室は県内で始めて実施することになった。この教室は、県内外か
ら注目を集め、テレビや新聞等で数多く取り上げられた。
②音楽科音楽療法コース・専攻科(音楽療法専攻)の設置
音楽研究所における実践・研究活動は継続され、障がいのある子どものための教室の生徒
数は増加し始めた。平成 5 年頃より、障がい児・者、高齢者を対象とする “ 音楽療法 ” には
大きな関心が寄せられ始めた。そのような時代の流れ、また、障がいのある子ども達への音
楽教室を実施していた実績もあり、本学では平成 9 年 4 月に全国に先駆けて音楽科に音楽療
法コース、平成 14 年 4 月には専攻科(音楽療法専攻)が設置された。本学独自のカリキュ
ラムを構築し、学内の音楽研究所において音楽療法の臨床実習を行い、理論と実践を結びつ
けた音楽療法士養成教育を進めていくことになった。音楽研究所は、平成 11 年には「音楽
療法教室」となり、平成 19 年 4 月には現在の「こども音楽教育センター」へと名称が変更
された。
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③現在のセンターについて
開設 20 年を迎えた現在のセンターは、音楽教室を継続的に実施し、同時に学生の実習機
関としての役割を担っている。音楽教室には、“ ミュージック・セラピーコース ”、“0 歳児
から 5 歳児の Yu-on(音遊び)コース ”、更に “ アンサンブルコース ”、“ ドラムコース ” な
どがある。障がいの有無に関わらず、約 80 名の方々が本学に通い、音楽教育や音楽療法を
受け、音楽で自己を表現することを楽しんでいる。
このセンターは、音楽科、保育科、専攻科(音楽療法専攻)学生の音楽療法臨床実習や音
楽療育実習の場として活用され、学生達は毎年音楽療法士や音楽療育士取得のための実習を
行っている。
3.センターの社会的貢献について
センター開設以来、10 年以上教室に通っている子ども達が数多くいる。その中に、3 歳か
ら同じメンバーで活動し、現在中学校 3 年生と高校 1 年生の 5 名グループがある。5人の子
どもたちは、幼少期から音楽を使った自己表現活動に取り組んできた。コミュニケーション
を取ることが難しかった子ども達は、様々な困難を乗り越え、長い年月をかけてお互いに助
け合い、力を合わせて音楽を創りあげるグループへと成長している。次の文章は、13 年間通っ
ている母親が、寄せて下さったものである。
「笑顔と音楽」
娘は、インフルエンザによる後遺症で、感情をうまく表す事ができませんでした。すが
る思いで訪ねて 13 年目になります。音楽を通じて、明るい、笑顔いっぱいの娘に成長して
くれました。今まで娘にとって一番良い道を、一緒になって考えて下さった先生方には感
謝の気持ちでいっぱいです。
そしてこの 5 名グループは、平成 23 年には、シーガイアで開催された福祉関連大会のオー
プニングにおける演奏依頼を受けた。850 人の観客の前で演奏した子どもは、次のような感
想を寄せた。
本番の前、控室でみんなは緊張していました。私も胸がドキドキしました。でも本番で
は 850 人のお客さんの前でみんなで演奏することが出来ました。850 人のお客さんが拍手
してくれました。“ 手のひらを太陽に ” を演奏するとき、お客さんが一緒に歌ってくれまし
た。とてもうれしかったです。誰かのために演奏することは、自分がうれしい気持ちにな
ります。だから、これからも音楽を続けたいと思います。
これまで多くの子ども達と保護者が本学に足を運んで下さった。センターのこの 20 年間
の活動を通して、本学が提供できる物的資源と人的資源を少しではあるが社会に貢献できた
のではないかと考える。本学の恵まれた音楽施設を十分に活用させて頂き、先生方と共に実践・
研究ができ、その事によって子ども達や地域の方々に喜んで頂くことができたことは、私た
ちの大きな力になったと思う。
4.センターの教育的意義について
さて、学生達は実習を通して、たくさんの子ども達と出会っていく。ある時は、長年通っ
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ている子ども達の方が先輩であり、学生達は子ども達から指導を受けることもある。重度心
身障がい児に初めて出会った学生は、戸惑いを感じ言葉すら発することができない時もある。
ある学生は、自閉症の子どもがパニックになった場面で、子どもがかわいそうであると涙を
流した。そのような中でも、音楽は子どもと学生を繋ぎ、学生の歌声に笑顔を見せてくれる
子どももおり、子どもの笑顔に学生の笑顔が重なるたくさんの場面を見てきた。講義で理論
的に学んだことを、すぐに現場で体験できるということで学生は多くの気づきを持てたよう
に思う。しかし、もう一方で、障がいのある子ども達と共に音楽をすることの難しさに挫折
感や無力感を覚えた学生もおり、理想と現実のギャップに苦しむ学生の姿に出会った。この
ような障がいのある子ども達との実習に対し、現在は健常な子ども達の 0 歳から 5 歳児の
“Yu-on コース ”(遊音コース)での実習が増えている。ここでの実習は学生達を楽しい世界
へと導いており、子ども達と一緒に音で遊ぶ学生の姿は実に生き生きとしたものである。こ
のようにセンターは、学生に多様な音楽体験の機会を提供していると言える。
私自身の教育経験において、障がいのある子どもたちや健常児に数多く接することができ
たこと、更に 10 年以上同じ子どもたちと関わりを持つことができたことは、生涯発達、臨
床発達、死生観という視点をより明確なものとした。特に、病気のために天国へと旅立っていっ
たセンターの 6 人の子ども達からは、
「今日一日を精一杯生きること」というメッセージを頂
いた。もっと生きたいと願いながら、願いがかなわなかった子ども達がセンターにいたこと
を学生達に語り継いでいきたいと思う。このような私のセンターにおける臨床経験は、学生
に「理論と実践の一体化」を提唱することになり、教育的な意義を一層深めていったと言える。
5.おわりに
センターにおける 20 年を振り返ると、センターのたくさんの子ども達やその保護者の方々
と真剣に向き合い、そして笑いあい、時には涙を流しながら、子ども達の成長を共に喜び合
えた 20 年であったように思う。その歴史の中に学生達がしっかりと足跡を残し、皆で音楽
によって繋がりあえたのだと思う。音楽は人と人との心をつなぐ架け橋となるものである。
この忍ヶ丘の地で「こども音楽教育センター」が、地域の方々、学生、教員をつなぐ “ 音楽
の架け橋 ” となることを夢見ている。
<謝辞>
これまでセンターに通ってきて下さった子ども達、保護者の方々、方法論を模索して下さっ
た先生方、汗と涙を流しながら頑張った学生達、センターを支えていただいた多くの方々に
心より感謝申し上げます。
<参考文献>
山下恵子「母と子どものための音楽研究所における音楽療法活動の試み」『宮崎音楽療法研究
会 会誌』第 1 号 1996:28-31
山下恵子「宮崎女子短期大学における音楽療法士養成教育 10 年を振り返る」『日本音楽療法
学会会誌』Vol.7/No.1 2007:38-40
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みやざき国際ストリート音楽祭の展望
~宮崎には音楽の咲く季節がある~
井 手 茂 郎
現在、宮崎県立芸術劇場を中心に開催されている「宮崎国際音楽祭」は、16年が経 過した。
1993年秋、宮崎県立芸術劇場の完成に伴い、青木賢治宮崎県立芸術劇場館長を総監督
とし、徳永二男氏(元NHK交響楽団コンサートマスター)を総合プロデューサーに置いて
1996年3月に第1回「宮崎国際室内楽音楽祭」が開催された。
第6回(2001年)まで世界的なヴァイオリン奏者であるアイザック・スターン氏を迎
えて室内楽を中心に毎回企画されていたが、第7回(2002年)から名称を「宮崎国際音
楽祭」に変え、第9回(2004年)からはアーティスティック・ディレクターとして指揮
者のシャルル・デュトア氏を迎え、これまでの室内楽に加えオーケストラも登場するなど大
きな音楽祭となった。
一方、2004年には県立芸術劇場の自主
事業を始め国際音楽祭を側面から応援しよう
と一般の方々から募った「県立劇場ボランティ
ア会」(富田裕子会長 会員約30名)が発足
した。
その年に開催される第9回音楽祭を盛り上
げるため、ボランティア会は「街角コンサート」
の開催を始めた。
会場は、県立劇場、美術館の周辺、あるいは
オープニングパレード(宮崎学園高校)
高千穂通り、デパート近くのポケットパークなどを利用。地元の音楽グループ数団体がリレー
式に出演する野外コンサートとなった。
小さなコンサートではあるが、とてもアットホーム的なコンサートとなり県民を楽しませ
ている。
ボランティア会は、趣旨を賛同頂いた団体への出演交渉、当日の椅子や音響の準備、進行、
著作権の申請なども行い、まさに手作りのコンサートを今日まで消えることなく街角で行っ
ている。
2006年、“ 音楽をもっと身近に楽しもう ” と言うキャッチフレーズで、音楽祭関連イ
ベントとして「みやざき国際ストリート音楽祭」が計画され、開催されるようになった。
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この運営については、官民一体となった画期的な実行委員会が組織された。
私も実行委員会の一員として当初から参加しているが、昨年は本学の学生20名がボラン
ティアとして参加し、このストリート音楽祭を支えた。
宮崎市の橘通りを歩行者天国にして、県知事
や音楽祭関係者が出席して開かれるオープニ
ングセレモニー、そして宮崎学園高校吹奏楽部
を中心とした華やかなオープニングパレード、
さらに各交差点ごとに野外の特設ステージを
設けての演奏会。
クラシック、ポピュラー、ジャズ、吹奏楽な
どの団体やグループが入れ替われながら演奏
徳永二男・三浦文彰コンサート
するなど各ステージは多彩な内容のプログラ
ムとなった。
また、メインステージでは国際音楽祭の出演者による演奏も行われ、民放テレビ局の中継
も行われている。
このように「みやざき国際ストリート音楽祭」は宮崎国際音楽祭開催の時期(4月末から
5月中旬の日程)に併せ、毎年 “ 街に音楽があふれ県民が身近に楽しめる野外音楽祭 ” とし
て成長を始めた。
この国際ストリート音楽祭もすでに6年が経過し、県内外から多くの演奏家や団体が参加
し今日に至っているが、残念なことに未だ海外からの参加が無いのが現状である。
宮崎国際音楽祭に参加している海外の演奏
家に出演してもらうことが出来たらそれは理
想的なことであるが日程や経費などの問題が
生じる。
以前、このストリート音楽祭で中・高校生
の吹奏楽合同演奏会を行い、来県している指
揮者のシャルル・デュトア氏に合同演奏の指
揮を依頼した経緯があったが、時間的な問題
もあり実現出来なかった。
山下洋輔ジャズコンサート
しかし「国際ストリート音楽祭」という言葉を使用している以上、今後検討しなければな
らないし、海外から一人でも多くの演奏家や団体の参加が望ましい。
そのためには、どうしたら良いのかを模索してみた。
○海外から関係者を招へい
幸い宮崎は隣国である韓国、また台湾との直行便も就航している。
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身近であるこの二国の関係者の理解をもとめ参加を募ってはどうであろうか。
一つの例として、台湾の嘉義市(台湾の南西部、人口 274,000 人)で、毎年音楽祭が開催
されている。
この嘉義市の音楽祭は屋内外で開催され、
世界中の団体が毎年参加し、特に街でのパレー
ドは盛大である。(宮崎のストリート音楽祭と
の共通点が多くある)
過去、日本からも高等学校の吹奏楽なども
招かれている。 この嘉義市の音楽祭の関係者を招き、本県
本学学生も参加した街角コンサート
のストリート音楽祭を視察していただくほか、
音楽祭のオープニングセレモニーへの参加や、併せて意見交換会などを行い、嘉義市の音楽
祭の内容も伺うことが出来る。
このことによって本県のストリート音楽祭の方向性も出てくるし、将来は宮崎県からも嘉
義市の音楽祭に参加するなどの交流も行えば、まさに音楽祭から生まれた国際交流が出来る
のではないだろうか。
韓国についても同様の計画で進める。
○ 観光客の誘致
一方、みやざき国際ストリート音楽祭の聴く側にも外国人の人たちはほとんどいない。
県内在住の外国の方にも何らかの参加を呼びかけ、今後、県・市また観光協会等とも連携
を取り、ストリート音楽祭に併せて、韓国・台湾などからの観光客の誘致も必要である。
東北の祭りなどと比較すると現存する宮崎市中心部の祭りは、国内外から多くの観光客を
誘致できる内容とまでは行かない。
このストリート音楽祭開催日に他のイベントや祭りを重ねるなど計画し、より宮崎をアピー
ル出来る内容にしたいものである。
国際色豊かなストリート音楽祭でありたいし、このことによって街が活性化されたい。
《宮崎には音楽の咲く季節がある》このようなキャッチフレーズで新たな宮崎を作りたい
ものである。
(写真提供:宮崎県立芸術劇場)
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作曲法の授業での取り組みについて
~「ベートーヴェンのピアノソナタ」その3~
池 田 敦 子
はじめに
現在作曲法の授業では、和声様式の音楽形式中最も重要なものの一つとしてソナタの第 1
楽章として発達してきたソナタ形式を、学生が自分の力で分析できるようになることを最終
目標として授業を行っている。その教材には、本年度もベートーヴェンのピアノソナタを用
いた。ベートーヴェンは、その生涯に32のピアノソナタを作曲したが、作曲年代によって
次のように分けることができる。
時期区分
ベートーヴェン年代
作 品
第一期
1793 年 ~ 1800 年 に 至 る 約 7 年 Op2-1, 2-2, 2-3, 7, 49-1, 49-2, 10-1,
間で、ベートーヴェン 23 歳から 10-2, 10-3, 13, 14-1, 14-2, 22
(13 曲)
30 歳までの期間
第一期から
第二期への
過渡期
1801 年~ 1802 年の 2 年間でベー
トーヴェン 31 歳から 32 歳の期間
Op26, 27-1, 27-2, 28, 31-1, 31-2,
31-3(7 曲)
第二期
1803 年 ~ 1809 年 に 至 る 約 6 年
間で、ベートーヴェン 33 歳から
39 歳までの期間
Op53, 54, 57 (3 曲)
第二期から
第三期への
過渡期
1809 年~ 1815 年の約 6 年間で、
ベートーヴェン 39 歳から 45 歳ま Op78, 79, 81a, 90 (4 曲)
での期間
第三期
1815 年~死に至るまでの期間
Op101, 106, 109, 110, 111(5 曲)
授業では、第一期に属する作品2の2、イ長調を次のように分析した。
◆提示部
◎第1主題……2つの部分に分かれる。
・第1部…重要な動機 a、a’、b を含み、すべて下行形を示している。
スタッカートが多い。
- 122 -
・第2部…第1部の下行形に対して、上行形を示している。スラーが多い。
動機 c が各声部に置かれて、カノン的な組み合わせが行われている。
属和音に終始する。
◎主題の確保
・第1主題の第1部は1回しか現れない。(確保は、冒頭は同じであるが
その後、同じことを繰り返さないのが普通である。)
・続けて第2部に入る。cの組み合わせであるが、ソプラノとバスを入れ替えている。
◎推移……2つの部分に分かれる。
・第1部…第1主題の第2部の a‘’、c を応用して、主音、属音から出発している音
形を組み合わせている。2小節単位である。
・第2部…C の音形のみであり、第2主題が暗示されている。
◎第2主題
・動機 a が応用されており、本来属調であるべきところが、ここでは属調の同名短
調のホ短調である。
◎確保
・短3度ずつ上に、ト長調、変ロ長調で行われている。最後は動機aが応用されている。
◎推移……2つの部分に分かれる。
・第1部…属調で、a’’ が応用され、4小節単位のメロディーとなっている。
- 123 -
・第2部…第1主題の推移と同じ形を属調で行っている。
ただし、上下(ソプラノとバス)が入れ替わっている。
◎終止
・動機aの4度下行を4度上行で用いている。
◆展開部……4つの群に分かれている。
◎第1群…第1主題の第1部の展開が行われている。主題を右手と左手に交互に出しなが
ら発展している。ハ長調で始まり、変イ長調―へ短調―ハ長調と転調している。
◎第2群…第1主題の第2部を発展している。動機cを用いている。
◎第3群…第1主題の第2部の冒頭をカノン風に扱っている。
へ長調―ニ短調―へ長調―ニ短調―イ短調と転調している。
◎第4群…第2主題の発展が行われている。なお左手は、a’’ の動機を用いて、属音を保続
している。
参考・引用文献
「ベートーヴェンピアノソナタ」 諸井三郎著 音楽之友社
- 124 -
五音音階と日本の音楽
黒 木 亜美子
1. はじめに
五音音階とは、西洋音楽理論でいうところの、1 オクターブの中に五つの音を持つ音階の
ことである。日本・東洋音楽に多くみられるが、西洋(スコットランド等)や、南北アメリ
カ大陸の先住民、南海諸島、またアフリカ大陸の一部にもよく見受けられるものである。
当然、日本は、これらの五音音階文化圏の中にあると言える。
ところが、明治維新以降、日本の音楽教育システムは、西洋のクラシック音楽の理論が用
いられるようになり、いわゆる 1 オクターブ七音音階を基礎とするようになった。そうした
中で、音楽取調掛(現・東京芸術大学音楽学部)の、上原六四郎の「俗学旋律考」により、
日本固有の民俗音楽(主として民謡)は、陽旋法(半音を含まない五音音階)と、陰旋法(半
音を含む五音音階)とに分類され、長く教育現場で教えられてきた。
2. 音階分析の現状
しかし、この分類法に該当しないものも多く、また、日本(民俗)音楽の音階論については、
現在でも模索されている。
その中で、最も良く当てはまるものとして応用されているのが、小泉文夫が「日本伝統音
楽の研究Ⅰ」
(音楽の友社・昭和 33 年)において発表した、第三章 “ 比較音楽学的方法によるー
音階の研究 ” 及び第四章 “ 音階についての諸問題 ” で提唱した、民謡における『テトラコル
ドによる分類』である。即ち、完全 4 度間隔で 1 オクターブ内に核音を置き、その各々の中
間音 1 個との位置関係から、“ 短 3 度+長 2 度 ” の『民謡のテトラコルド』、“ 長 2 度+短 3
度 ” の『律のテトラコルド』、“ 短 2 度+長 3 度 ” の『都節のテトラコルド』、“ 長 3 度+短 2
度 ” の『琉球のテトラコルド』によって構成される音階である。次に、雅楽で使われている『呂
旋法(長 2 度間隔の 3 音+短 3 度+長 2 度)』と、
『呂陰旋法(長 2 度+短 2 度+長 3 度+短
2 度+長 3 度)』別名『呂的律音階』或いは『律音階の変型』~この二つは、ヨナ抜き音階と
も呼ばれることが多い。(以下、移動ド読みで記す。)【ラドレミソラ】【ソラドレミソ】【ソラ
♭ドレミ♭ソ(ミファラシドミ)】【ドレミソラド】【ドレミ♭ソラ♭ド】の五種類の分類法が
存在する。
3. 目的
小泉は、これを民謡で証明したのであるが、それが広く、一般のいわゆる「歌謡曲」のジャ
ンルにも使われていることを提唱したのが、小島美子である。(昭和 53 年東京芸術大学音楽
学部楽理科講義、NHK人間大学講座 1994 年 1 ~ 3 月放映、「音楽からみた日本人」1997
年NHK出版、第 3 章 ‘ 古い音を探るには ’ ~第 5 章 ‘ 歌垣の故郷 ’)
曰く、当時人気絶頂であったピンク・レディーの曲「ピンクのサウスポー」等で、民謡音
- 125 -
階が使われている、というのである。(㋹㋹㋹ド㋶㋹㋹㋹㋹ド㋹㋯㋯㋹ド㋶=○印核音~ラド
レミソラ=民謡音階)必ずしも曲全体に使われているわけではないが、大部分は民謡音階で
成り立っている。
当時学生であった筆者には完全には理解できなかったが、ミニスカートで大げさな振りを
つけて歌う、いわゆる “ アイドル ” の歌う曲に日本の音階が使われている、という指摘は強
烈に印象に残っている。それも、1 曲にとどまらず、かなりの数のヒット曲が、その範疇に入っ
ていることに気づかされ、本学音楽科就任以来、そのインパクトを学生に与えるべく、「音楽
通論」の授業でのレポートとして日本のポピュラー音楽の中から日本の音階が使われている
曲を探すことを課してきた。即ち、“ その他の音階 ” として「スコットランド音階は五音音
階である」程度しか書かれておらず、かつ相変わらず学校現場では、「日本の音階=陰旋法、
陽旋法」とされてきていることに一石を投じるべく指導してきた。おそらく、学生たちも、
「灯
台もと暗し」であってきたと考えている。
4. 現状
現在の「中学校学習指導要領音楽」では、“ 我が国及び諸外国の様々な音楽を取り扱う ”
ように規定されている。
しかしながらそれは、幼児教育期においては “ アニメソング等の、今、子供たちに人気の
ある曲 ” をも取り扱ってきたことに対して、完全に “ 学校の音楽(或いは総合学習等)” は
別になってしまっていて、わずかに吹奏楽部の編曲されたレパートリーや、文化祭などで演
じられる以外は、むしろ “ 学習の妨げになるもの ” 視されていることは、我々が受験生であっ
た頃とあまり変わりがないように見受けられる。
しかし、現代の生徒・学生たちは、
「携帯」や「i ホン」等で、いつでもどこでもそれらの ‘ 流
行曲・人気曲 ’ に接することができることが大きく違うのであるが。
大人の世代でいうと、“ カラオケ ” や “ NHKのど自慢 ” 等に登場する曲は、一部(森山
良子の曲等)を除いて、学校現場では取り扱われないことが多いであろう。
だが、圧倒的に人気のある「日本の音楽」は、学校教育現場以外に存在する。
そして、それらの曲には、まさに「灯台もと暗し」で、伝統的な日本の音階が使われて人
気を得ている場合が多いのである。
今年度のレポートについては、アンジェラ・アキの「手紙」
(㋯㋹ドド㋹㋯ソ~ドレミ㋶~
=律音階またはヨナ抜き音階)が挙げられていたが、新曲というよりも、永年のヒットチャー
ド○
ド ㋹ミ○
ド ㋶㋞○
ド ㋹ミ○
ド ㋶㋞○
ト曲からの引用が多く、坂本九の「上を向いて歩こう」
(○
ド○
ド ㋹ミミ㋞㋶㋶㋞㋶㋞ミ㋹~=律音階またはヨナ抜き音階)や、谷村新司の「昴」(ド㋹
㋯㋹㋯㋹ド㋹㋶ド㋹㋯㋹㋯ソ㋶ソ㋯㋹ド㋹~=民謡音階)、西条秀樹の「YOU NG MAN」
(「昴」に同じ)等の “ 昭和の歌謡曲 ” が多かった。
ここで、いわゆるJポップの曲に目を向けてみよう。(NHKTV,日曜日 18:10 ~ 18:
40 の『MJ』より筆者聴き取り)
2月5日放送の、男子新体操の振りを付けたABC ‘ Zの曲は、(㋶ド㋹㋹ド㋹㋞ラ㋞㋞㋶
㋞~民謡+律の複合音階)であり、またハードロック系のTHE BAN DIES の「ROC
ド ㋹ミドラ㋞ラド~=律音階or呂旋法または
K MY BABY」は、(ミレドラ㋞ラレ○
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ヨナ抜き音階)、同じくロック系のABC-Z ’ の「ZA ABC 5 STA RS」は民謡音階、
2月 12 日放送のV 6 の「バリバリBUD DY !」も同じく民謡音階である。
また、紅白歌合戦で最年少記録として話題をさらった「マルマル・モリモリ」は、ヨナ抜
き音階に相当する。
さて、ここで【日本的】と思われている演歌にも目を向けてみると、やはり律音階のもの
が多い(ヨナ抜きと取れるものもあるが)が、全くの西洋音階で作曲されたものもある。例
えば、細川たかしの「北酒場」は、
(㋯ソソ㋶ソ㋯レドレ㋯~=民謡音階)、氷川きよしの「き
よしのずんどこ節」は(㋶㋶㋶ファ㋯~㋶㋶㋶㋛ド㋶㋛ド㋯ファ㋯~=都節音階)であるが
水前寺清子の「365 歩のマーチ」等には西洋の七音音階が使われている。
【昭和の歌謡曲】【平成のJポップ】等と言われたりもするが、要は、現代の人々に親しま
れている曲には「日本の音階」が含まれているのである。
考察
筆者は、更にこれらに欧米(主としてアメリカの黒人の人々から生じたもの)のポピュラー
音楽の影響も多く存在していることを指摘したい。ジャズの源流である黒人霊歌や、そこか
ら発展していったジャズ・ロックの曲、また、ヨーロッパ系移民のアイルランドやスコット
ランドの音楽からも同じように発展していったもの(ビートルズの歌にも一部存在する)を、
日本の音楽界は模倣してきた場合が多いが、(いわゆるポップス系?等)その際に同時に上述
の(ヨナ抜き音階とされるが)五音音階を取り入れてきたことも影響しているのではないか
と考える。(もとより奴隷としてアメリカに連れてこられた人々の出身地のアフリカにも五音
音階圏は存在する。)
ド ソラ㋯㋹○
ド ㋹㋯㋹㋹○
ド㋹
例えば、ウルフルズの「バンザイ~好きでよかった~」は(○
㋯㋞㋶~)等をはじめ、ニューミュージック系のもの等までその影響が及んでいる。ユーミ
ド ㋹○
ド ㋯㋹○
ド ~)や、サザンオー
ンの荒井由美時代の「ルージュの伝言」(㋞㋞㋞㋯㋞㋞㋶○
ルスターズ(桑田佳祐)の曲、ちなみにKポップの中にもその傾向はみられる。
結論
ここで、
「日本の音楽」は西洋音楽を基とした音楽教育にも関わらず、“ 伝統音楽のしっぽ ”
或いは “ 西洋のポピュラー音楽の片鱗 ” を持つことは明白であると言えよう。
筆者流に言わせてもらうと、『DNAの記憶』は生き続け、永く歌い続けられていくだろう
ことは明白だと考える。
今後とも「クラシック音楽中心の学校教育?」と、それとは違う、と排斥してきている曲
とを区別するのではなく、広く「日本の音楽」として受け入れていくことが肝要である、と、
考えるのである。
- 127 -
日本経済を創造した近江商人たち
久 保 良 一
はじめに
平成期に入り、日本経済は欧州や米国の財政危機など世界の経済は大きなうねりの中にあ
り、日本もこれらに奔走されながらも、経済の強さを世界に示している。それは、円高、ユー
ロ安、ドル安にそれらは如実に表れている。ただ、今年、貿易収支が31年ぶりに赤字になっ
たのは気がかりだか。
そういう経済基盤はいつ頃から、だれがそれらを作り上げてきたのかを検証する。ここに、
日本人の知恵と創造性そして勤勉さが現在の日本経済の基盤を確実なものとしている。
(1)商人の興り
日本の経営でよく知られているのは、近江商人「中村治兵衛」、松坂商人「三井高利」、経
営の神様「松下幸之助」などや米国では科学的管理法を唱え実践した「フレデリック・テー
ラー」、人間関係論の「メイヨー」、現在では「ドラッガー」などの経営学者が、経営学や経
営管理論また生産管理論などにおいてその手法や哲学が論じられ、また科学的管理法の手法
は世界の企業でも導入され「ものづり日本経済」に大きく貢献している。
そこで、日本の経営基盤のルーツをたどってみるとその歴史は古い。南北朝時代に商人が
興り、さらに室町時代になって酒屋や問丸、土倉などが金貸しをやったり、租税の請負や運
送業、海外貿易をやっていた。この時代の近江商人や大坂商人、堺商人、博多商人は、町の
顔役、年寄りとして活躍が目立っている。今で言えば、各地区や団地などの自治会長という
存在だと言うべきだろう。もっといえば、町長や市長、区長などのように自治権をもつていた。
そのころの商人は、武士とあまり変わらない。刀も持っているし今で言う兵隊ももつていた。
したがって、戦国大名と一戦を構える体制や気概もあった。この時代の商人は、金儲けを主
とする江戸時代の商人とそれぞれ違う特色を持っていた。
(2)近江商人の精神
江戸時代から明治時代にかけて、大商人が競って軒を並べていたのが「江戸の日本橋」「大
坂(新大阪)の船場」そして「京都の室町」であり、商いは、特に「呉服」などの繊維関係
が多かった。ここで、商いをするということは、全国の商人たちの憧れであり、名誉なこと
であった。そしてこれらの競争に勝ち残っていくためには商人に高い能力が求められた。こ
れらの地に、全国から多くの商人が集まったが、一番、多かったのが近江国(滋賀県)の琵
琶湖周辺の近江商人である。従業員はすべて近江出身が原則であった。
近江商人は、
「商い」というのは、何よりも自分で儲けて生計を立て、子供のために美田(財
- 128 -
産)を残すのが目的であり、世のため、人のために役立つのはまやかしであるというのが近
江商人の哲学である。この考え方の中に、「売り手よし 買い手よし 世間よし」がある。こ
の「三方よし」は、まず自分が儲かる生き方をしなければならない。だから、「売り手よし」
が一番最初にくるのである。だが、お客様にも満足してもらえなかったり、世間の評判が悪
くなったりしては商いが長続きしないし人の道にも反するから「買い手よし」「世間よし」で
なければならない。この言葉は、江戸中期に現れた近江麻布商人「中村治兵衛」の跡取りに
残した「24ケ条の行商の心得」3m の長さの家訓にその原点を見いだすことができる。そ
れは、
「商品を買った人が良い買い物をしたと思ってくれるような商売をしろ !」「一度に大き
な利益を得ようとしてはいけない」
「行商先ではお客だけでなく、その他の人々を大切にしろ」。
この生き方こそ、まさに「商人の生き方」であり、「商人道の神様」として崇拝された。近江
商人の「自利利他」の精神は商道徳の神髄を示す哲学として使用人の間で受け継がれていった。
「三方よし」の哲学は、現代経営の企業家にとっても経営の模範ともなった。例えば、経営
の神様「松下幸之助」は「世の為、人の為になり、ひいては自分の為になるということをやっ
たら、必ず成熟します」と言っている。これらは、「三方よし」の哲学そのものであり、この
「三方よし」の哲学を社訓に掲げる会社は多い。この考え方そのものが「人間はなぜ働くのか」
の問いの答えにもなっているからである。働く目的が個人生活の充足(売り手よし)と社会
貢献(買い手よし 世間よし)という公共性にあることを見事に言い表している。
このような精神の下、近江商人は、武士の時代に商人として天秤棒を担いで堂々と生きな
がら全国で活躍した。
(4)現代における近江商人
近江商人にルーツにもつ企業は非常に多い。例えば、日本を代表するデパートで「高島屋」
「西
武」も近江出身者によって創業されている。九州福岡の天神にもある「三越」も近江から伊
勢に移った商人が創業した。「白木屋」
(今はない)も近江商人が創ったデパートである。また、
商社である「三井物産」が三越と同じルーツ。「伊藤忠」「丸紅」の創業者も近江からでてい
る。さらに、「日本生命」「日本旅行」「ワコール」も近江出身者が設立した。また、「富士通」
「富士電気」などを含む「古河グループ」は、近江商人の代表格の一つで、明治初期の混乱の
中で倒産した「小野組」が興したものである。
現代においても、京都の老舗は、先祖に近江出身者が多いだけでなく、京都の経済風土と
して「近江商人」が深く根付いている。現在でも日本の創業200年を超える長寿企業が
3000社もあり、その数は世界の40%を占める。欧米でもっとも多い国は、ドイツだが、
800社あまりにすぎない。日本の数が飛び抜けているのは、経営者が利益の追求よりも、
事業の持続に価値を置いてきたからである。バブル崩壊後の不況下でも、目先の利益を追っ
てマネーゲームを繰り返したり、もっと儲けたいからと事業拡大に貧欲だったりした会社は
おかしくなった。ほとんどがアメリカをまねた会社である。それをしなかった会社は、ちゃ
んと残り続けた。老舗の業績は、その80%が成長が横ばいだった。老舗は、いっときの繁
栄を得た会社がその繁栄の要因によっておかしくなる知恵として持っている。
- 129 -
(5)近江商人の「三方よし」経営について
現代の経営学は、主に人間を中心とした経営が中心となり、企業の目的の最大利潤の追求
は第二次的なものとし、人を育て、社会に貢献することにより利益は二次的に発生するもの
であると論じる経営学者、実務者が多い。ドラッガーは、著「現代の経営」の中で、「マネジ
メント」とは、事業のマネジメント(理念、方針、戦略、中期経営計画)から管理者のマネ
ジメント(ヒト、モノ、カネ、時間の最適配分)そして人と仕事のマネジメント(適性人事、
モチベーション)を回すことであり、よく言われる「顧客の創造」に結びつけている。それは、
需要(お客様が欲求しているものに購買力が伴ったもの)に対し、その欲求に企業が商品を
提供(供給)することであり、そこには、企業家の行動が市場を開拓するという考え方が横
たわっている。したがって、企業が望む適正価格で購入してくれる顧客を創ることであると
いっている。このような、経営戦略、戦術から生まれる「利益」は、将来の費用・業績を計
るもの差しであり、顧客満足と生産性の向上を高めることに利益が発生してくるといってい
る。それは、利益は経営力を計るもの差しとも言える。近江商人も各地の消費地に商いに行
き、消費者が欲しがっているものを提供し、また、その地の特産品を買い、それを帰りなが
ら売りさばいた。そこには、大きな利益は出ないがここに「三法よし」の哲学が息づいている。
近江商人が美田を残すというのも経営力を計るもの差しともいえよう。
そこで、近江商人の「三方よし」経営について、本学の受講生に記述してもらつた。
「三方よし」経営は、今の日本に最も必要で忘れてはならないことだと強く感じた。今の日
本に関わらず世界で言えることですが、人をだますことで利益を得る人々が増えているよう
に感じます。「世のため、人のためひいては自分のため」本当に忘れてはいけない商人の基本
がここにあると思いました。(中略)「売り手、買い手、世間」この三つを考え、「世のため、
人のために役立つ」これを目標にしているからこそ、今の世の中や売り手が欲しいものや、
求めているものを感じることができるのではないかと思いました。その積み重ねや信頼から
自分の利益につながるのだと思います。私は何となく商人はずるいというか利益一番という
イメージがありました。時代劇の見すぎだなと本当に思いました。今もある老舗等はその心
を忘れなかったからだと思い直しました。「三方よし」の経営は長く続けるための一番の秘訣
だと思いました。(初等教育科Kさん原文)。そして中には、一年生の時の「勤労」の時間に
近江商人の「天秤棒の詩」をDVDを鑑賞したと記述した学生もいた。
今日、企業の目的は最大利潤の追求と社会貢献であり、この目的を推進、達成するためには、
知恵を持つ「人作り」の育成が最大の課題になっている。先人の「三方よし」の経営理念は、
企業の目的達成や本学の建学の精神「礼節と勤労」にも通ずるものであり人間教育でもある。
おわりに
日本経済は、現在、米国、中国についてGDPは世界三位である。明治時代の米国からの
技術導入から始まり、現代において「もの作り日本」の地位を築いてきた。今日、世界の不
透明感からの新興国の台頭、欧州、米国の財政危機そして日本産業の空洞化など、今後の日
本経済の在り方が問われ、さらに日本人の知恵がためされる時でもあろう。それが、知識基
- 130 -
盤社会の到来でもある。このような時代だからこそ、先人の知恵が今日の経済、経営に役立っ
てくるに違いない。時代は過ぎても近江商人の「三方よし」の経営は不滅である。
参考文献 「現代の経営」ドラッガー ダイヤモンド社
経営学総論 久保良一 宮崎学園短期大学
農商の偉人(対談)桑田忠親、南条範夫 暁教育図書株式会社 大商人の金言 八幡和郎 三笠書房
ドラッガー入門 藤屋伸二 日本能率協会マネジメントセンター
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The Goldilocks Zone and other Rare Privileges
Richard Baker
The ideal location of our planet has been appreciated for some time, as acknowledged
by NASA’s web site:
"This porridge is too hot," Goldilocks exclaimed.
So she tasted the porridge from the second bowl.
"This porridge is too cold."
So she tasted the last bowl of porridge.
"Ahhh, this porridge is just right!" she said happily.
And she ate it all up.
"Goldilocks and the 3 Bears" children's story
Scientists hunting for alien life can relate to Goldilocks.
For many years they looked around the solar system. Mercury and Venus were too hot.
Mars and the outer planets were too cold. Only Earth was just right for life, they thought. Our
planet has liquid water, a breathable atmosphere, a suitable amount of sunshine. Perfect.
(NASA, 2003)
However, NASA’s web page goes on to describe the relatively extreme conditions
in which some organisms have been found in recent years, particularly the ‘new’ species of
extreme-loving microorganism, Tindallia californiensis, found by NASA scientists Richard
Hoover and Elena Pikuta in California’s Mono Lake. The web page suggests, therefore, that
‘The Goldilocks Zone is bigger than we thought’.
This statement seems consistent with the idea that the Earth is not at all unique, and
the widespread view that organic life is probably abundant in the universe. Such a view of
the Earth’s(lack of) significance is challenged by Gonzalez and Richards(2004), who call it
the ‘so-called’ or ‘misnamed’ Copernican Principle.(They also prefer the term ‘Circumstellar
Habitable Zone’ for the Goldilocks Zone). Not content merely to show that the Earth is ‘not an
average planet around an ordinary star in an unremarkable part of the Milky Way’, their main
thesis is that the Earth is precisely positioned ‘not only for life, but also to allow us to find
answers to the greatest mysteries of the universe’. Thus their book, The Privileged Planet, is
sub-titled ‘How Our Place in the Cosmos is designed for Discovery’.
Chapter 1 deals with eclipses, particularly solar eclipses. The authors mention the
importance of total(perfect) eclipses for observing the sun’s chromosphere, prominences and
- 132 -
the solar flash spectrum, and for measurements of starlight deflection, particularly Eddington’s
confirmation of a prediction of Einstein’s General Theory of Relativity(that gravity bends
light). They point out that ‘super-eclipses’(when the Moon was closer to the Earth, so
apparently bigger than the sun’s disc) would not allow more than a few moments of such
measurements, and also that, as the Moon moves further from the Earth and the sun’s apparent
girth increases, total eclipses will cease in about 250 million years. Thus they conclude that the
current equal sizes of the observed discs of the Sun and the Moon have, in effect, been timed
to coincide with the presence of human observers on the Earth.
In the same chapter, the authors point out the significance of a large moon(much larger
relative to its host planet than any other moon in the solar system) for life on Earth: it ‘stabilizes
the rotation axis of its host planet, yielding a more stable, life-friendly climate.’ The Earth’s tilt
varies between 22.1 to 24.5 degrees over several thousand years(currently 23.5 degrees), but
without a large moon, the variation in the tilt would be more than 30 degrees, with catastrophic
climatic effects. A larger tilt would cause ‘searing heat, hot enough to make Death Valley in
July feel like a shady spring picnic’ in the summers and ‘viciously cold months of perpetual
night’ in the winters, but a small tilt ‘might lead to very mild seasons, but it would also prevent
the wide distribution of rain so hospitable to surface life’. The Moon’s effects on tides are, of
course, well known, and the writers have more to say on this, as well as more speculative ideas
on the origin of the moon, which may have ‘helped form Earth’s iron core’ which ‘in turn, may
have been needed to create a strong planetary magnetic field’.
‘As for the host planet, it needs to be about Earth’s size to maintain plate tectonics, to
keep some land above the oceans, and to retain an atmosphere’. In a country like Japan, which
suffered such disastrous effects from the great earthquake and tsunami of March 2011, we may
have some doubts about the value of plate tectonics, which we naturally associate with such
phenomena. However, chapter 3 begins with this quote from Ward and Brownlee(2000):
Plate tectonics plays at least three crucial roles in maintaining animal life: It promotes
biological productivity; it promotes diversity(the hedge against mass extinction); and it helps
maintain equable temperatures, a necessary requirement for animal life. It may be that plate
tectonics is the central requirement for life on a planet and that it is necessary for keeping a
world supplied with water.
True to their theme, Gonzalez and Richards, before dealing with habitability, describe
the role of seismology for studying, not just earthquakes themselves, but also the internal
structure of the Earth. They go on to deal with planetary magnetism and magnetic reversals(the
latter they compare with both tree rings and modern bar codes). The strong magnetic field
‘contributes mightily to a planet’s habitability by creating a cavity called the magnetosphere,
which shields a planet’s atmosphere from direct interaction with the solar wind’ and it ‘serves
as the next line of defense against galactic cosmic ray particles, after the Sun’s magnetic field
and solar wind deflect the lower-energy cosmic rays.
As for the extremophiles(organisms like Tindallia californiensis), they say ‘we may
- 133 -
not find similar organisms in isolated extraterrestrial settings, because these Earthly organisms
are not nearly as independent of other life as it appears’.
Other factors they consider include:
• A planet’s mass – ‘terrestrial planets significantly smaller or larger than Earth are
probably less habitable’.
• The availability of fossil fuels and minerals, vital for technological development.
• The atmosphere – clear enough for the development of astronomy, but thick enough
to support animal life.
• The role of Jupiter and other giant planets vis-à-vis asteroids and comets.
• The unsuitability of the other terrestrial planets in the solar system, as well as the
larger moons of Jupiter and Saturn, for supporting life.
• The early measurements of the distance of the Sun(measuring the angle between the
first or third quarter Moon and the Sun).
• The suitability of our Sun(a relatively uncommon type) to support life in the
Circumstellar Habitable Zone, vis-à-vis the more common white dwarf stars and other
types of star.
• Measurements of the distance of stars by trigonometric parallax.
• The location of the solar system between the Sagittarius and Perseus spiral arms of
our galaxy, and the availability of various chemical elements in different locations.
• The fine-tuning of physical laws, without which life would be impossible.
After considerable discussion of the real significance of the Copernican Revolution,
Gonzalez and Richards turn to the Search for Extraterrestrial Intelligence(SETI). Because
of the very special conditions they have identified for the development of life and especially
for a technological civilization, they find it unlikely that such a search will find anything,
notwithstanding the storyline in ‘Contact’, a film based on Carl Sagan’s book of the same
name, in which the heroine finds a radio signal from a distant star that includes a sequence of
prime numbers.
No such signal has been found so far, but in their concluding sentence, the authors say
that perhaps we have been ‘staring past a cosmic signal far more significant than any mere
sequence of numbers, a signal revealing a universe so skillfully crafted for life and discovery
that it seems to whisper of an extra-terrestrial intelligence immeasurably more vast, more
ancient, and more magnificent than anything we’ve been willing to expect or imagine’.
References
Gonzalez, Guillermo and Richards, Jay W., 2004: The Privileged Planet: How Our Place in the Cosmos is Designed for Discovery(Regnery, Washington)
NASA, 2003: http://science.nasa.gov/science-news/science-at-nasa/2003/02oct_goldilocks/
Ward, Peter D. and Brownlee, Donald, 2000: Rare Earth
(Copernicus, New York)
- 134 -
教師の見識
大 塚 稔
現代ほど教師の見識が求められている時代はない。とりわけ大綱化が叫ばれて久しい大学
教育の現場において、その感は強い。意欲関心の薄い学生に迎合するかのように、教育内容
まで薄っぺらなものにしてしまっているのではないだろうか。教師が教えるべき内容を持た
ずに、学生の主体性という言葉に便乗して、結局、教師自身の勉強を疎かにできる土壌を生
んでしまった気がしてならない。教師自身が、勉強の面白みや辛さを知らずに、学生たちに
勉強の面白さや辛さを分からせることはできない。教師自身が研鑽に励まないで、学生に勉
強を強いるのは余りにも自己欺瞞がすぎるだろう。教え方の工夫も、教育効果の確認も、確
かに必要なことではある。しかし教育効果が簡単に測れない教科目も多い。また教え方が内
容より優先されるということも、いかにも不自然なことだろう。
学生を主体にして進める学習も、中等教育までなら多少の意味はあるかもしれないが、高
等教育の現場にまで持ち込んでいいような教育方法だろうか。学習を支援するというのでは
なく、学習を導くこと、その時に必要になる力が教師の見識である。朱熹は四書を大学、論語、
孟子、中庸の順に学習するべきだと諭した。教師たるもの、このような朱熹の見識を持ちた
いものだと思わざるを得ない。仮にその順番に問題があるにせよ、師自らが範を示すという
のが、教師の見識ではないだろうか。
園児だけで問題を解かせたり、考えさせたりしても、出てくる結果はたかが知れている。
これは誰にでも分かるにちがいない。しかし園児を学生に入れ替えただけで、その事実が見
えなくなる。私には学生も園児も同じように映るのだが、現代の大学教育は、約6割の進学
率を盾にして、学生を園児のように扱おうとしているように見える。しかし彼らには、到達
地点をどこに置くかという大切なところが、おそらく教師ほどには見えないだろう。1次元
の生活しか知らないものには、2次元の生活の広さが分からない。2次元の生活しか知らな
いものには、3次元の立体的な世界が分からない。3次元の世界の素晴らしさに気づいてい
る者だけが、2次元や1次元の狭隘さが分かるのである。高みにあってこそ、下界が分かる
のであって、下界にしかいない者たちで、何をどのように話し合おうと、頂上の高みには至
れない。
分からない者に、分からないということを含めて指導するのが、教師の務めであろう。園
児が嬉々として楽しむのを支えるのは結構なことだが、同じように嬉々として喜んでいるの
では、教師としての務めを果たしているとは言えない。教師はどこまでも、方向を指し示し
て自ら見本を見せねばならない。見本を見せずして、ただ遊ばせているだけなら、教師は不
要だろう。分からないということを分からせることも、教師の大きな務めである。教師の見
識もそのようなところにあるのではないだろうか。いてもいなくても済むような存在なら、
- 135 -
いない方がましにちがいない。現代の教育は、しかしながら、親切さを装いながら、このよ
うな教師自滅の方向に進んでいるような気がする。
だからこそではないのだが、最近の教師自身の能力は、悲しむべきことに、学生以上に低
下している。恩師と現在の自分とを比べてみても、その違いは歴然である。愕然とするほど
の開きがある。特にサボってきたわけではないが、現在の私には、ドイツ語もフランス語も
読めないし、ラテン語やギリシャ語はもちろん読むことはできない。かろうじて英語だけが
何とか読めるという程度にすぎない。語学ができることが、すべてではないが、単に語学だ
けを取り出しても、恩師たちとの差はあまりにも大きい。ましてや一行の文章にも、膨大な
読書の跡をさらりと込めるような語り口は、浅学なものにはとうてい真似ることはできない。
さりげなく書かれた言葉に、どれほどの意味が込められていたのかが分かるのには、同じよ
うに膨大な読書をしなければならない。ただ上っ面だけをなぞっただけでは、結局、何も分
かりはしないのである。そのことを分からせてくれたのも、恩師が残してくれた著作であった。
専門に秀でた尊敬するに足る教師の存在こそ、教育のすべてだということが、短兵急に教育
の効果や結果ばかりを追い求めている現代の大学教育には、まったく見えなくなってしまっ
た。あまりにも悲しい現実である。
確かにシラバスは完備した。GPAも整備された。教職関係の科目については、履修履歴
も作成された。いかにも整然としてことが進んでいるように見える。また事実そうではあるが、
肝心の、教師自身が専門とする中身を、じっくりと養う時間と労力が奪われてしまった。ま
た自分の無知を自覚する時間も、同時に極端に乏しくなってしまった。それほど能力の高く
ない学生たちを相手に教えるだけなら、蓄積された知識で何の不自由も感じない。そのよう
な日常ばかりを過ごしていると、教育の効果は考えはしても、自分の無知に思い至ることは、
はなはだ少ない。教師自身が自分の無知を痛切に感じながら日々研鑽せずにいて、学生だけ
に学習させようとするのはあまりも矛盾に満ちた指導と言わねばならない。何よりもその矛
盾に気づく必要があるのだが、大綱化は、眼に見えた効果を求めるに急であって、教師自身
に無知の自覚を持たせなくしてしまった。
いたずらに過去を賛美する気はない。昔にも今以上に粗末な教師は沢山いたのも事実であ
る。日本語訳で哲学書を読んでいたある教師が、訳の意味の理解に苦しんで、こともあろうに、
また別の日本語訳を持ってきて、両者の訳を比較して悩んでいた姿が今でも目にこびりつい
ている。情けなく思った。しかしそのような教師ばかりではなかった。
私の恩師野田又夫は、戦前の京都学派のように、独創を気取る思想家ではなかった。大切
なことほどさらりと述べることを信条とした。努力の跡を、いささかも見せない。弱音を吐
かずに、下士官のごとく自ら範を示す哲学者であった。京都学派の思想家たちが西田や田辺
を慕って大風呂敷を広げるなか、野田は、飽くまでも、文献を適切に読み解く努力を重ねた。
戦前の京都学派には、文献を地道に読み解く努力が不足していた。そういう認識に立ってい
たに違いない。戦後の京都学派を担った逸材である田中美知太郎などは、戦前の下地のない
京都学派の独創を公然と批判したが、野田は、ことをあらげることなく、そっと自著の扉に
そのことを示めすコロサイ書の一節―なんじ心すべき、人を惑わすむなしき哲学をもてなん
じらを奪い去る者あらん(コロサイ書第2章8節)を忍ばせた。まさに巧みな恐るべき思想
- 136 -
家であった。過去の思想家たちの文献を徹底的に読み解く努力こそが哲学的思索を育てる本
道だというのが、野田の姿勢であった。
また文献史家としての彼の力量は群を抜いて卓越していた。その語学力も半端なものでは
なかった。デカルトを語り(世界の名著『デカルト』、岩波新書『デカルト』)、パスカル(岩
波新書『パスカル』)を語り、ロックを語り、ルソーを語り、カント(世界の名著『カント』)
を語った。ラッセルを訳し、アランを訳した。そしてルネサンスの思想家たち(岩波新書『ル
ネサンスの思想家たち』)を視野に取り込み、ギリシャ、インド、中国の3つの伝統(『哲学
の三つの伝統』)をさりげなく懐に収めた。秀でた語学力と抜きんでた思索力とで、和辻が望
んだような、日本語で哲学のできる数少ない思想家となった。これだけだと、いかにも合理
的な理性の人とも思われがちだが、母校の大阪高校で心理学やフランス語などを教えていた
時代には、日高次郎の名で、雑誌コギトに「ヘルダーリン考」などを寄稿していた。
彼は、西田幾多郎などの京都学派からは距離をとったが、田中美知太郎のように表だって
批判することはなかった。しかしその思想家としての炯眼は鋭く、他の追随を許さなかった。
戦後の京都学派は、独創を気取る思想家たちを輩出することはできなかったが、地味ながら
文献を読み解こうとする研究者には大きな影響を与えた。これはしかし半面、並みの文献史
家たちを委縮させる弊害を生んでしまった。そして彼以降の京都学派には、もはや大局を見
通す哲学史家もいなければ、独創を誇示する哲学者もほとんどいなくなってしまった。これが、
現代の京都学派の姿であり、日本の思想界の現状でもある。
このような思想家だからこそ、弟子を積極的に育てる風ではなかった。弟子たちと徒党を
組んで何かを企てることもなかった。不幸にして、井上庄七や橋本峰雄などの愛弟子たちが
彼より先に亡くなったこともあって、彼の思想家としての意味は、日本の哲学界においても
それほど目立つことなく現在に至っている。野田又夫著作集もすでに書店には見られなくなっ
た。大切なものほど忘れ去られる現状に、抑えきれない悲しみを覚える。
野田又夫は次のような歌を残した。
あ
雪の野におりたちをれば そのかみの 心のうづきまた生れむとす
中学時代から他人の家で住み込みの家庭教師をしたという経緯から考えると、幼い頃の心
のうづきはいかばかりであったことかと痛まれる。彼は、それを西田のように切々と情を表
に出して訴えることはしなかった。まさに儒学者然としたカルテジアンであった。
これが、恩師野田又夫についての私なりの捉え方である。このような想いを私に抱かせた
事実こそ、掛け替えのない教育の一つなのだと信じて疑わない。教育とは、アランの言葉を
借りれば、「まさに人間を継ぐこと」だと言われる。自分は、このような師に伍して、あらん
限りの努力を惜しむべきではないと、日々叱咤しているのだが、いかんせん時代はあまりに
も変わってしまった。
親切があだになり、過保護があだになるとは、もはや大きな声では言えなくなってしまった。
これで果たして、いいのだろうか。
旧約聖書の「シラの書」にはこうある。
「子供を甘やかす者は傷の手当に明け暮れ、子がわめき叫ぶのを聞く度に心を煩わす。馬は
馴らさなければ手に負えなくなり、子はしつけなければわがままになる。子供は放任すれば、
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お前を驚きあわてさせ、溺愛すれば、お前を嘆かせることになる。子供と一緒になって笑い
興じるな。さもないと、共に悲嘆に暮れることになり、最後には、歯ぎしりをして後悔する
ことになる」。(シラ書30・7-13)
また『パンセ』には、こうある。
「誉めてばかりいると、子供の時からすっかり駄目な人間ができてしまう。まあまあお上手
なお話ができましたこと。まあまあ、とてもお上手に作れましたよ。なんておりこうさんな
んでしょう」。(151)
大切なものこそ、耳に痛い。教師の見識とは、その痛さをきっぱりと分からせながら、一
個の見識を持って、一定の方向を指し示すことではないだろうか。
- 138 -
要約の課題から
原 田 真 理
23年度後期の「現代人間文化論Ⅰ」で、新聞記事の要約と感想を課した。そこには、こ
れまでとは異なる傾向が見えてきた。この実態を示すとともに、これからの指導について考
えたい。
1,学生の要約文例
〔もとの新聞記事(2011 年 11 月 30 日 宮日新聞)〕 高知大は 29 日、早産や母体内での発育不全などで脳性まひになった赤ちゃんに、出産
時にへその緒から採った臍帯血(さいたいけつ)を投与する治療を臨床研究として実施す
ると明らかにした。
臍帯血に含まれる幹細胞が働いて、損傷した神経細胞などを修復、再生するとみている。
国内初の試みで、新たな再生医療として期待される。
厚生労働省が 11 月上旬、安全性や有効性を確かめる臨床研究計画を承認しており、来
年2月にも対象者を決める。対象は5年間で 10 人を目指し、妊娠 33 週未満で生まれたり、
出生時の体重が約1500㌘未満になる可能性が高かったりするなど脳性まひを発症しや
すいケース。
高知大病院(高知県南国市)で出産することが条件で、出産直後に臍帯血を採取し、赤
血球や血小板を取り除いて凍結保存。生後半年~1歳ごろに、脳性まひと診断された場合、
解凍して血液を点滴する。本人の臍帯血を使うため、拒絶反応を起こす心配がない。
脳性まひは主に母体内で胎児が脳に損傷を受け、運動機能などの障害が起きるもので、
千人に2人程度の割合で発症するとされる。根本的治療法はなくリハビリが中心。
※下線部は、学生がマーカーを付した部分
〔学生の要約文〕
高知大は 29 日、早産や母体内での発育不全などで脳性まひになった赤ちゃんに、出産時
にへその緒から採った臍帯血を投与する治療を臨床研究として実施すると明らかにした。臍
帯血に含まれる幹細胞が働いて、損傷した神経細胞などを修復、再生するとみている。対象
は5年間で 10 人を目指し、妊娠 33 週未満で生まれたり、出生時の体重が約1500㌘未満
になる可能性が高かったりするなど脳性まひを発症しやすいケース。高知大病院(高知県南
国市)で出産することが条件。脳性まひは主に母体内で胎児が脳に損傷を受け、運動機能な
どの障害が起きる。
一見して明らかなように、この学生の要約文はもとの記事の抜き書きである。重要と考え
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た部分にマーカーを付しそれをつなぐという、要約の手順に従った作業をしているようであ
るが、選んだ情報の羅列に終わってしまった。
学生がこのような要約文を提出したのには、同情の余地がある。これは「現代人間文化論Ⅰ」
の課題であるが、要約文を書くことが中心ではなく、新聞を読むことを課しその証拠として
記事の切り抜きに要約文と感想をつけたノートの作成を求めたものであった。授業では、①
「ことば」に関することを調べてグループ発表(授業)を行うこと、②新聞から興味のある記
事を切り抜き、その要旨をまとめるとともに意見感想を付すこと、③興味のある記事につい
て内容の紹介と意見を述べることの3点を課した。個人の地道な取り組みとグループでの協
同作業に加え、人前に立って話すことにも慣れさせようという欲張った試みである。グルー
プ発表は3,4週に1度回り、受講生にとっては準備に時間もとられてかなり大変だったよう
である。その中での要約の課題だったので、あまり時間をかけることもできず、とにかく書
いておけばいいという思いもあったのかもしれない。しかし、むしろ時間的制約があるなか
で長々と文章を丸写ししたところに、学生の弱点が表れているといえよう。
2,要約ということ
そもそも要約とは何か。『広辞苑』で「要約」を引いてみると、①として「文章などの大要
をとりまとめて短く表現すること。またそのとりまとめた言葉や文」とある。表現法のテキ
ストでは、「全体の内容を短くまとめて、人に伝えるためのもの」として、「知りたい情報が
コンパクトに詰まった要約文」とあり、「情報発信者は,必要に応じて内容を的確にまとめる
力が必要である」とする。さらに「要約はあくまで元の文章の書き手の意見をまとめるもの
である。自分の意見や感想は極力含めないようにしなければならない。」(沖森卓也・半沢幹
一編『日本語表現法』三省堂)と述べている。
「知りたい情報」また「必要に応じて」という場合、「知りたい」や「必要」の主体は要約
の読み手あるいは利用者ということになるから、「元の文章の書き手の意見」をまとめても厳
密に客観的と言えるかどうかは疑わしいが、恣意的に筆者が記した内容を歪曲することは避
けなければならないのは当然であり、このあたりが要約における共通認識といってよいであ
ろう。
では、要約はいかに行うのか。要約のまとめ方の手順について、テキストの説明から抜き
出してみよう。①「文章全体の中でポイントとなることばやキーセンテンス(主題文)をと
らえ,主題(何を言おうとしているか)を見定める」②「段落ごとに要点をつかみ,主題を
導くための全体の構成を考える」「全体を眺めてみることが大切である。その中で,どれが骨
でどれが肉なのかを見分ける」③「主題文を書いてみよう。それを中心に元の文章の構成に
従いながら,要点を肉づけしていくとよい」(前掲書)これが一般的に学生に指導する要約の
手順で、私も含め多くの教師はこのような手順を教えていると思われる。もっともこれらの
手順を守ってまとめていくのは、課題として要約文を作る場合か、かなりの長文もしくは重
要な書類等の要約に限られるであろう。一般の文章たとえば新聞記事や雑誌のコラムの内容
を他人に伝える場合、多くは一度に①から③までを、それも無意識のうちに行うことが多い。
新聞を読みながら内容を家族に伝えることなど、ごく普通の行為である。つまり、我々は一
- 140 -
般生活における情報程度であれば、最初に触れた段階で中心となる情報(テキストの表現に
よれば「骨」)をつかみ、それに付随するある程度の情報(「肉」)もとらえることができてい
るのである。音声情報においても同様で、テレビのニュースを伝える際にメモをとる人はい
ない。日常生活の会話ではこうした記憶言いかえれば情報の要約をもとにした情報交換が行
われているのであり、要約はいわば日常茶飯事とも言えるのである。
3,要約文から見えること
要約文を書く作業は、情報の取捨選択である。短く何があったかのみを記せば、字数も少
なく情報をまとめなおすのに頭を悩ませることもない。しかし、今回の課題ノートに、一部
の情報だけを書いて要約文のふりをするものはなかった。マーカーを引きながら読んでおり、
きわめて真面目な態度である。それにもかかわらず、情報を自分で組みたてるという要約に
一番重要な「頭」の作業を省いているものが目立った。マーカーを引く際に読んだはずだが、
材料として蓄積されていないのである。材料を組み立て自分の表現で簡潔に言い換えるとい
う作業が、学生にとって時間のかかる大変なものになっていることが窺える。記事には見出
しの横に内容をまとめているものもあり、その部分を写せば用は足りるのだが、学生はその
部分も含めてマーカーを引き、全体から抜粋して抜き書きしていた。分量が少なすぎたり一
箇所からの丸写ししてはいけないのではと、学生なりに考えた結果かもしれない。しかし、
それはそれで、要約の本質を理解していないということを示している。
「要約」を課せられる場は限られているかもしれないが、情報の取捨選択は日常生活で常に
おこなっている行為である。人の話を聞くことも、相手の話から情報をつかみとり自分の中
で再構成することにほかならず、我々の記憶はありのままを収めたものではありえない。日々
の生活そのものが大事な情報を頭に入れ再構成して自分のことばでまとめるという作業の訓
練であり、国語教育だけがそれを行う場ではない。今回の要約の課題によって、学生が成長
してくる過程で、自然にまた教育的指導を受けて身についていると信じてきた力が、実は身
についていないのではないかという疑問を感じることになった。これまでの私の授業におけ
る要約の指導は、添削を中心に行ってきた。それは、書けないという学生がいなかったため
である。しかし、授業でできても、ふだん使えないのでは実力とはいえない。限られた時間
で情報をつかみ、それを自分のことばで再構成する力を育成するという視点から、新たな指
導の取り組みを考えたいと思う。来年度の指導では自分のことばで再構成する力の育成を重
要なテーマの一つとし、新たな授業計画を立てることとした。考えてみると、講義の聞き方、
ノートを取る方法について教えることの必要性が認識されて久しい。講義に限らず、情報収
集とその整理が苦手な学生は日常生活レベルでも何らかの支障をきたすことがあるのではな
いかと思ったりもするのである。
〈参考文献〉
1.新村出編『広辞苑 第四版』(岩波書店,1991 年)
2.沖森卓也・半沢幹一編『日本語表現法』(三省堂,1998 年)「第 2 章まず文を書こう」(舩
戸美智子執筆)
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教員養成事始め(3)
宮崎県師範学校・宮崎県女子師範学校について
米 良 栄 州
はじめに
本県における教員養成は、明治 6 年、仮小学講習所での講習に始まり、本格的な教育は、
宮崎学校においてであった。しかしながら、明治9年、宮崎県が鹿児島県に編入されたこと
により、宮崎学校も廃止された。宮崎県の教員養成は停滞を余儀なくされたのである。
1 宮崎県の再置と師範学校
宮崎県が廃止されて鹿児島県に編入されて以来、政治・経済・教育その他、色々な局面に
おいて不都合な状況が見られるようになった。そこで宮崎県の再置を目指した運動が展開さ
れた。幾度かの挫折を経ながら粘り強い運動が成果を上げたのは、明治16年に至ってから
であった。当時の教育状況については、引き継ぎ文書に次のように書かれている。(注1)
「1 学事は概して不振の状況なり其然る所以のものは日向国は一体に学資甚だ乏しく加る
に人戸稀疎にして僅に一二百戸を以て一学校を設置するもの多く随て其準備に欠くある等に
依れり・・・・・。」宮崎県の再置が実現したものの、経済状態は困窮を極めていたようである。
文部省は宮崎県の再置に伴い、教育令第33条「各府県ハ小学校教員ヲ養成センカ為ニ師
範学校ヲ設置スヘシ」を根拠に師範学校の設立を求めてきた。
しかしながら宮崎県においては、附属小学校が明治14年の台風で校舎が壊され、児童に
多くの犠牲者等を出したこともあり、すぐに師範学校を設置できる状態ではなかった。その
状況について、次の記載が見える。(注2)
「本県々立師範学校ハ県治創設ノ際ニ方リ、急遽事ヲ処し難キヲ以テ本年ニアリテハ未ダ
之ヲ設置スルニ至ラズ。町村立宮崎学校ハ小学校教員ヲ養成スルヲ目的トシ、明治9年11
月・・・・設置セシモノ・・・・、而シテ諸校ハ14年台風ノ為ニ校舎転覆シタル後、更ニ
新営シタリト雖モ、今尚開校ニ至ラズ、・・・・。」当時、県内小学校教員数は訓導15名、
準訓導4名、授業生774名の合計793名であった。師範学校設置について文部省から強
い督促を受けながらも、本県財政事情はとてもこれを許さない状況であった。
2 宮崎県師範学校
明治17年12月、県は必要な予算を計上して県議会の議決の下に宮崎県師範学校設置を
決めた。そして明治18年2月、宮崎県師範学校が開校する事になった。修業年限4年の高
等師範科と修業2年半の中等師範科からなり、生徒70名を定員としている。初代校長は太
田忠恕であった。また、教員不足解消を意図して、校内に半年間の教員講習所を設けた。
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明治18年師範学校令が公布された。(注3)
第一条「師範学校ハ教員トナルヘキモノヲ養成スル所トス 但生徒ヲシテ順良信愛威重
ノ気質ヲ備ヘシモルコトニ注目スヘキモノトス」
第二条「師範学校ヲ分チテ高等尋常ノ二等トス高等師範学校ハ文部大臣ノ管理ニ属ス」
第三条「高等師範学校ハ東京ニ一箇所尋常師範学校ハ府県ニ各一箇所ヲ設置スベシ」
第四条「高等師範学校ノ経費ハ国庫ヨリ尋常師範学校ノ経費ハ地方税ヨリ支弁スベシ」
第七条「尋常師範学校長ハ其府県ノ学務課長ヲ兼ヌルコトヲ得」
第九条「師範学校ノ学資ハ其学校ヨリ之ヲ支給スヘシ」
第十条「高等師範学校ノ卒業生ハ尋常師範学校長及教員ニ任スヘキモノトス但時宜ニヨリ
各種ノ学校長及教員ニ任スルコトヲ得」
第十一条「尋常師範学校ノ卒業生ハ公立小学校長及教員ニ任スヘキモノトス但時宜ニヨリ
各種ノ学校長及教員ニ任スルコトヲ得」
第一条に教師の資質として「順良、信愛、威重」の3つを掲げている。その意味するもの
について「宮崎県史 通史編 近・現代第3章」において、次のように解説している。
「順良とは上司(その頂点には国家ないし天皇がある。)に対しての絶対的な従順を意味す
るものであるし、信愛とは同僚(共同体としての教師の総体)の友情、すなわち情緒的な側
面も含む人間関係をつくることであり、威重とは「重々しくいかめしい挙動。また、作法に
かなった立居振舞い」(広辞苑)と説明されるように、教師としての子供や親に対する威厳を
意味していた。換言すれば森(文部大臣)にとっての理想の教師とは国家と国民のあいだに
位置するとともに、服従と命令の文脈でとらえられる人間像であった。」
師範学校出の教師が型にはまったタイプとして見られる背景には、師範学校における基本
的な考え方が根底にあったのではないだろうか。
第十条で高等師範学校と尋常師範学校に分けることが規定されている。宮崎県師範学校も
宮崎県尋常師範学校へと名称が変更になった。
尋常師範学校においては、倫理、教育、国語、漢文、英語、数学、簿記、地理歴史、博物、
物理化学、農業手工、家事、習字、図画、音楽、体操等の教科について授業が実施されている。
(注4)
卒業生の服務について、服務規則は次のように定めている。
第一条「尋常師範学校卒業生ノ服務年限ハ卒業証書受得ノ日ヨリ十箇年トシ其間教職ニ従
事スルノ義務ヲ有スルモノトス」
第二条「尋常師範学校卒業生ハ卒業証書受得ノ日ヨリ五箇年間其府知事県令指定ノ学校ニ
奉職スルノ義務ヲ有スルモノトス 但郡区長ヨリ推挙ニ係ル生徒ハ卒業証書受得
ノ日ヨリ五箇年間郡区長指定の小学校ニ奉職スルノ義務ヲ有スルモノトス」
これらから、卒業証書の期限は10年間であること、卒業後は指定の学校への奉職を義務
付けられること、特に郡区長から推薦があって入学した生徒は、地元小学校への奉職を義務
付けられていたことが分かる。
その後、明治30年の「師範教育令」公布によって、尋常師範学校が師範学校へと名称が
変更された。
- 143 -
3 就学率と教員養成
明治20年代後半から30年代にかけての本県の就学率は下表のとおりである。
(注5)
明治年
26
28
30
32
34
36
38
40
男
77,1
79.0
82.4
90.6
96.6
97.7
98.7
98.8
女
40,6
43.9
50.9
59.0
81.8
89.6
93.3
96.1
平均%
58.7
61.2
66.7
77.8
88.1
93.2
95.6
97.4
就学児童の増加に伴い、義務教育年限も6年に延長された。この事により教員養成が緊急
の課題になっていた。小学校教員の不足は、各郡にとっても深刻な問題であり、明治32年
度の「宮崎県学事年報」には「学級数九百四十箇ニ対シ本科正教員不足実ニ五百七名ナリ」
とし一人当たり生徒数は110名にのぼったという。(注6)
4 宮崎県女子師範学校
大正15年の就学率は99.4%に増加し、全国平均以上になったという。女子の就学率も
男子と変わらなくなり、一層女性教員の養成が課題となってきた。また高等女学校や実業学
校なども各地に設立されたため、補修科や教員講習所などが設けられたが、それでも教員の
不足を補うことは難しかったようである。
明治40年、師範学校内に女子部がおかれていたが、大正15年廃止となり女子師範学校
が正式に設置されることになった。本科1部定員200名、修業年限5年、第2部定員40名、
修業年限2年で、第4宮崎小学校(現大宮小学校)を代用附属小学校としたようである。(注7)
「師範学校規定」によると、女生徒に課すべき学科目として、修身教育、国語及漢文、歴史、
散り、数学、博物、物理及化学、家事、裁縫、習字、図画、手工、音楽、体操となっている。
(注8)
5 おわりに
昭和26年宮崎県師範学校、宮崎県女子師範学校が廃止されるまで、本県初等教育の要と
して多くの教員を輩出してきた。
師範学校の生活について残された記事を見ると、自宅通学生を除いて寄宿舎生活を送って
いたようである。1室に数名異学年の学生が生活を共にし、強い絆で結ばれていたことが分
かる。下記の「五省」を胸に刻みながら、教師道を目指して多くの若者が学んでいたのである。
3回にわたって本県初等教育教員養成の歩みについて概観してきた。今後の講義に役立て
ていきたい。
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注1 宮崎県政八十年史 P707 注2 宮崎県政八十年史 P723 注3 学制百年史 資料編 P174
注4 学制百年史 資料編 P175
注5 宮崎県女子師範学校沿革史 P55 注6 宮崎県史資料編 近・現代3 P951 注7 宮崎県政八十年史 P729
注7 宮崎県女子師範学校沿革史 P81~82
注8 学制百年史 資料編 P181
- 145 -
忍ケ丘クエストの試み
塚 本 泰 造
本稿では、人間文化学科の今年度の新設科目「ソーシャル・ラーニング」において、学生
たちの確かな反応と成長がみられた 1 トピックについて報告します。
1.はじめに
人間文化学科 1 年は、3 コースから成り立っています。昨年度までの学科のカリキュラムで、
全コース共通の科目であり、かつ、学科の 1 年生全員が集うものは、
「人間の研究Ⅰ・Ⅱ」と「人
間関係トレーニングⅠ・Ⅱ」のみでした。それも、学科の人数が明教庵に収まるかという点、
また、人間関係トレーニングⅠ・Ⅱが選択必修でコースアワーも含むものであったという点、
学科の学生が必ず全員取るような資格がない点、などからすれば、人間文化学科の学生たち
に対する教育の上では、自己が学科の一員(を代表する存在)であること、多様な人たちと
コミュニケーションをとる機会を得ること、この二点が不足していたと考えられます。
今年度の新設科目「ソーシャル・ラーニング」は、こうした学科教育の弱点を補うべく、1
年前期の卒業必修科目として、学科の 1 年生全員が集う形で行われました。
今回は、いわば新ネタの連続だった「ソーシャル・ラーニング」のトピックの中から、学
生たち全員がよく反応し、この科目と単元の目指すところがある程度達成できたと判断でき
るものを報告します。それは「忍ケ丘クエスト」という 3 週間、3 ステップのトピックでした。
2.「忍ケ丘クエスト」の概要
今年度の「忍ケ丘クエスト」は、5月 25 日、6月2日、6月9日(いずれも木曜日2限目)
の3回にわたって行われました。
参考としたのは、京都産業大学の学生支援改革の試みです。この大学では、平成 16 年か
ら複数のキャリア形成支援科目を実施しており、その発展の結果、F 工房(本学の FD 推進
委員会と学生支援部が相当)が中心となって、ファシリテーション「ある種のノウハウと経
験に裏打ちされた、協働のプロセスを支援していこうとするマインドのようなもの」i を育む
様々なプログラムを、年間行事として行っています。その一つに、9月9日・10日の2日間、
ファシリテーション研修合宿が行われていますが、1日目のプログラムに「松の浦クエスト」
というものがあります。
このクエストの目標は「課題解決(自己紹介、クイズ、周辺の観察など)をしながら散策
することで、グループメンバーの交流促進と協調性向上をめざす」ii ことです。具体的な課
題としては、「セミナーハウス周辺にある果樹を探して撮影し、それらの名前をまとめて報告
せよ」「湘西線を走る電車をできるだけ多くの種類撮影して報告せよ」「松の浦水泳場の管理
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人のおじさんから出されるクイズに解答せよ」などです iii。
このプログラムを参考に、宮崎学園短期大学の人間文化学科へ「移植」し、再編集するに
あたって、二点留意しました。
・目標を踏襲しつつ、物理的・時間的な制限を考慮すること。つまり狭い本学キャンパス
の中の90分間に収まるような、グループによる諸活動であるべきこと。
・京都産業大学の合宿参加者は、計16名(教職員7、学生8、外部1)でした。本学科1
年生全員を対象にすると、およそ3倍の人間を動かすことになるので、活動はシンプル
なものであるべきこと。
さらに、この体験を、今後の糧となるように定着させるには、受け身の姿勢でゲームに参
加するだけでなく、運営する側にも回ることが必要であろうと考えました。
数日の本学散策と思考の末、以下の枠組みで行うこととしました。
① 以下の3回分のプログラムとする。
1回目 教師主導による実践例示(運営の基本型を示す)
2回目 学生による運営のための役割分担・運営準備
3回目 学生による実践(参加と運営を二つとも体験する)
② 活動単位は大きくは3グループとし、限られた時間内で参加だけでなく運営も経験さ
せるために、1グループをさらに小さな3グループに分ける。
③ 樹木の多いキャンパスであること、蔵書の豊富な図書館があること、この本学の特徴
を活かす。ただし、時間内に終了させるために、散策範囲を限定する。
④ チームワーク・協力=「報告・連絡・相談」の具体的実践とする。携帯電話をトランシー
バーとして活用するのも可とする。
3.具体的な課題
以下にそれぞれの回の具体的な課題を示します。いずれも、樹木名をキーに、図書館を一
種の関所として使うことになります。散策エリアは6か所としました。
1回目の課題は、「以下の樹木はどこにあるか、コミュニティ(小グループのこと)で報告
せよ」というもの。例えば、「花水木 エリア( )」「黒鉄黐 エリア( )」。
こうすることで、学生たちは、漢字名がわからなければ、図書館で辞書・図鑑を手分けし
て探し、わかったらまた手分けして各エリアを探し、見つかったら連絡しなくてはなりませ
ん。そして図書館のチェック役の教員のところへ、全員そろってから答えを提出するように、
と指示しておきましたので、集合場所などの相談も必要になり、自然と、身近なキャンパス
で協力分担の「ほう・れん・そう」を実践します。
2・3回目は、前回の体験をもとに、今度は、学生たちが指令を作り、それを他のグルー
プに試みることも含みます。分担して準備するとともに、各グループ相互が限られた時間内
に参加と運営を行えるように、課題を基本・応用・発展の3種類に分けました。基本は「○
○(仮名一文字)からはじまる名前の樹木はどこに?」、応用は「○○(漢字名)という樹木
はどこに?」、発展は「○○(部首名)のある樹木はどこに?」です。小グループは他の2グ
ループのために指令を2つ作る必要があります。
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実際の授業ではさらに細かな注意が必要です。例えば、指令は20分ほどで終わるような
ものであること、基本では同じ仮名文字で始まる樹木がないか一度全員で見てみること、ど
うしても見つからない場合は図書館に全員で相談に来ること、など。
次に、学生たちがどのようなことを学んだかを整理してみます。
4.学生の記述から
学生たちの振り返りの記述から、「○○が大切だとわかった・うまくなった・楽しかった」
等の文脈で使われている事柄で主なものは、以下の通りでした。
協力すること 15 ほう・れん・そう9 連絡を取り合う6 経験を重ねること2
協力して問題を作る2 役割分担をきちんと守る2 責任2
「○○が難しいとわかった」等の文脈で使われている事柄で主なものは、以下の通り。
人にわかりやすく伝える・指示することの難しさ 17 問題を作る大変さ5
学生の代表的な記述を引用すると、
・クエストをやってみて気づいたことは、みんなで協力することの大切さです。自分ひと
りではできないことも、みんなで意見をだし合い、連絡し、話し合う、「報連相」をき
ちんと理解することができました。
・ホウレンソウを体験するということでしたが、皆と連絡を取るのが一番大変でした。
さらに、具体的な難しさを記したものを若干引用すると、
・クエストの運営はやっぱり何回もやらないとだめだなと思いました。自分の言葉で説明
することができるようになりたいと思いました。
・自分達が説明をする時、先に指令書を渡してしまうと全員、問題の方に気がいくので、
最後に渡した方がいいのかなと思いました。
・他の班の人に指示をしてみて、「こちらを見て下さい」など、細かいけれど大事なこと
を思い出せました。
おおよその目標は達成したようです。大きな反省点としては、このプログラムを連休明け
ではなく、4月当初に行うべきであったということです。
最後に、多忙な中を授業に協力していただいた、久保学科長・谷口先生、そして授業のな
い週にご参加いただいたベーカー、米良両先生に御礼申し上げます。
i 京都産業大学キャリア教育研究開発センター F 工房(2010)
『京産大発ファシリテータマ
インドの風 ~ファシリテーションの定着による学生支援改革~』「諸言」
ii 注ⅰ、p6
iii 注ⅰ、p 41
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最終講義の報告
―市民講座―
市 﨑 一 章
1.はじめに
平成元年後期に本学に赴任し、英語教師として22年半勤続したが、一時は隆盛を極めた
英語ブームは瞬く間に去ってしまい、不況から来る志願者の教養系学科離れや少子化等の影
響でとうとうここを去る時がやってきた。今年もニューライフアカデミーとして開講された
市民講座は、元来、文部省生涯学習局が、高度化・多様化する女性の学習要求に応えるべく、
文部省の補助事業として、宮崎県教育委員会と本学が企画運営主体となり、平成5年から始
まったものである。現在は県教委は後援団体の一つとなり、本学の自主的な事業になって講
座回数は当初より減じたものの、今回でかれこれ19回目となった。
講座を担当した教師が異口同音に感心するのは、受講者の熱心さである。年齢層は圧倒的
に高齢者が多いが、受講の際の眼の輝きは、大学生のそれよりむしろ若々しく、そういった
受講生を迎えると教師側も気合いが入る。筆者にとっては今回が4回目の担当となるが、な
かなか担当したくても巡って来ないチャンスであり、今回の講座は日常指導している学生の
後期末試験の後に組まれ、いよいよ本学での自らの最終講義になると知った時、ますます身
が引き締まる思いがした。題目「英単語よもやま話―語源・形態・音特徴―」は半年以上前
に提出していたものの、100分程度と限られた時間でどういった内容を扱うか、熟考を重
ねたが、結局、配布資料が仕上がったのは、本番の前日であった。本稿では、その内容と、
講座終了後のアンケート結果を報告する。
2.講座内容
過去に担当した3回の講座内容とは重複が少ないように配慮して、英語の根幹となる英語
史に関わる基礎内容と、英語学の柱となる音声・統語(形態)・意味の3部門のうち、一般市
民がとっつきやすいと思われる音声と形態を扱うことにした。以下が、当日した配布資料の
概要である。
Ⅰ . 語源
ブリテン島に住んだ人種/国民と使用言語
紀元前・・・ケルト人とケルト語
1世紀半ば~5世紀半ば・・・ローマ帝国の支配; ラテン語の流入
5世紀半ば・・・ゲルマン民族の侵入; 英語の誕生
the Angles(自らを Engles と呼ぶ)→ 言語は Englisc → English
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8世紀半ば~11世紀半ば・・・ヴァイキングの侵攻; 古ノルド語の流入
1066年・・・ノルマン人による征服; フランス語/ラテン語の大量流入
16世紀~17世紀半ば・・・ルネッサンスの影響でラテン語の流入
英語辞書に掲載の単語の語源比率
Ⅱ . 形態; 英単語の造語方法
・複合語: 複数の語をつなぐ(意味は特殊化);breakfast, swim suit
・派生語: 接頭辞や接尾辞を付加する;unkindness, liberty(< F < L)
・混交語: 意味や音声の似た複数語の語の部分どうしをつなぐ; shill
・頭字語: 複数の語の頭文字や最初の音節をつなぐ;UFO, posh
・切り詰め: 短縮する; ad, mobile + vulgus → mob
・異分析: 勘違いから、切るべきでない箇所で切ってしまう; a nickname,
(逆形成): 元々無かったのに、接尾辞が付加されたものと勘違いして、それを削
除してしまう; babysitter→babysit, editor→edit
・語根創造: 無から単語を創り出す; Kodak, googol
*擬音語(音声は存在するので純粋な語根創造ではない)bow-wow, atchoo/achoo, 以上の造語方法に、借入語が加わって、英語の語彙ができあがっている。
Ⅲ . 音特徴 (以下、母音を V, 子音を C で示す)
日本語は、例えば平仮名表記する場合、単独の V から成る母音文字と CV 構造から成る子音
文字があるが、一つひとつの文字の長さはほぼ一定で、音単位としてはモーラと呼ばれている。
よって、何かを発話した場合の所要時間は、一定の時間 × 平仮名の数となる。また、単独 C
の「ん」を除けば、平仮名がどう組み合わさっても末尾は V で終わる。他方、英語は、C で
終わる単語が多く、一つの V を基点に、最大で、前にはCが3つ、後ろには4つまで連続す
ることがある。母音を中心としたきこえの山を、音節という。
・子音連結
マクドナルド [CVCVCVCVCVCV] vs MacDonald [məkdánld]
・強勢とピッチ
日本語が、ひとつひとつのカナをほとんど同じ強さで音の高さを変えて意味の差を表わす
のに対して、英単語はいずれかの音節(母音)が強く発音されると共に、そこは長くかつ高
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くなる。また文においては、伝えたい意味内容を大きく担っている語(内容語)とそうでな
い語(機能語)に分類され、前者は強く長く高く丁寧に発音され、後者の発音要領はその逆
になる。
石(いし) vs 医師(いし)
He is búsy at the óffice and dóesn’t come hóme till níght.
・リズム
英語は、知覚上、強勢が置かれる音節(強音節)と強音節の間は、ほぼ等間隔であるとみ
なされる傾向がある。よって、強音節間に弱音節が入れば入るほど、その弱音節の部分は圧
縮され、スピートアップすると共に手抜き発音となる。
Dógs éat bónes.
The dógs éat bónes.
The dógs éat the bónes.
The dógs will éat the bónes.
The dógs will be éating the bónes.
3.受講後のアンケート(抜粋)
・英語は苦手でしたので、歴史まで考えたことはありませんでした。今までこの講座を知
らなかったことがとても残念です。今後も参加したいと思います。
・「語源」についての内容が興味深く面白かった。音の特徴に関する内容だけで、本日受
講した価値がありました。
・何年ぶりかで英語の授業を受け、楽しかったです。英語のリズム感、強弱、日本語と違
うことを再認識しました。映画をみる時参考にしたいと思います。
・大変リズミカル、かつ楽しきひとときを有難うございました。「英語と母国語の関係」
「モーラと音節の関係」etc.いろいろ勉強になりました。
・英語の語源から発音のしかたまで、楽しく学ぶことができました。以前途中で投げ出し
てしまった英語をまた始めてみようかなという気持ちになりました。
・時間の関係もありましたが、少々早口で、ついていくのが大変な時もありました。
4.おわりに
概ねありがたいご意見を賜ったが、短大生による授業評価同様、未だに解消されないのが
筆者の「早口」である。今後も英語教師としてやっていく上で、常に自らの教育を振り返り、
より向上しようという姿勢を保ち続けたいと思う。そして、今回、日頃付き合っている素直
な短大生とは別に、彼らに負けない純粋な学習意欲を持った宮崎の一般市民をお迎えして宮
崎での最終講義ができたことを、この上なく幸せに思う。最後に、すばらしい舞台を提供し
ていただいた関係各位に心よりお礼申し上げたい。
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協同学習に関する指導法の研究
谷 口 和 子
1.はじめに
協同学習に関する指導法の研究のユニットに所属し、どうすれば学生の学習意欲が出てく
るのか、どうすれば授業に対しての理解が深まるのかを考え、授業の工夫、教材の工夫が必
要なのではという考え方に賛同し、授業を展開することにした。今までの一方的な講義で学
生はあくまでも「受身」の授業であると、少し難しい言葉や理解しにくい事柄に対して、疑
問を持ちながらも質問ができない状況であった。質問をし、その時間内に疑問を解決すると
いう作業が授業中にできることが望ましいことである。
お互いに分からないところは調べ、質問をし、グループ内で解決できるというところまで
到達でき、質問力が向上するまではいかないが、4~6名の小グループを作り、皆の前で質
問することが恥ずかしいということを乗り越え、発言ができる様にグループ学習を試みるこ
とにした。
2.実施した授業と対象学科・コース
①グループ作り
・福祉専攻科での「心身医学Ⅰ」の中の「骨格」についてのグループ学習を実施した。学生
36名(男子9名 女子27名)を1グループ6名で6グループ作り、各グループの一人
ひとりのメンバーが役割分担を決め、調査し、文章を書き、ビジュアル的に分かりやすい
絵を描き、発表するという授業形態にした。
・人間文化学科医療秘書コース1年生(女子24名)の「医療用語」の授業で同じように共
同学習を実施した。1グループ4名6グループ作り『バイタルサインとは』という学習内
容で、体温、脈拍、呼吸、血圧について調査、文章まとめ、発表、質問という形態で実施
した。
②授業の展開
(福祉専攻科)
メンバー一人ひとりの役割は自然と絵の得意な学生、文章をまとめるのが得意な学生と決
まり、1枚の模造紙に書く作業が始まった。他のグループの内容を見学したり、出来具合を
調査したりする中で、「へぇそうなってるんだ」「複雑だけど絵に描いてみると分かりやすい」
等々、意外にも質問をし合ったり、調査したことを教えあったりして、自分のグループ内の
事だけでなく、他のグループのしていることから学びあっていることが分かった。
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(医療秘書コース1年生)
各グループが調査し、1枚の模造紙に仕上げるという作業は変わらないが、質問することに
抵抗がある(恥ずかしい)のか、疑問があってもなかなか他のグループに質問できない状況
であった。何を質問するかをあらかじめ各グループに知らせておき、それについてしっかり
調べるという形式にして実施したが、自分のグループ内で調べることが精一杯で、質問に対
しての回答がうまくできないようであった。
③評価
福祉専攻科の学生は年齢が1年生と比較すると2歳の差がある。調査する内容や調査方法
が解剖生理学的にみて理解を深め人体の組織をより理解できるようになったと思われる。そ
のことは、後期授業の「心身医学Ⅱ」で、「日常生活における移動の方法」や「心身機能低下
が移動におよぼす影響」を進める中で骨格を理解することで『なぜ移動をするのか』という
内容についても、年度当初に比べ〈初めて聞いたという表情がなくなり〉スムーズに理解す
ることができるようになったと感じられた。
1年生においては、学科コースは違うが、初めて聞くこと、見ることばかりであり、専門
用語に関しては何をどう理解するのかが極めて困難な状況であった。しかし、グループでそ
れぞれ役割分担を決め調査し模造紙に書き込むことが、理解のきっかけになったようである。
しかし、授業中の質問で学習したことを思い出すことができない、ノートのどのページに書
いたのか分からない、探すことができないなど、今一つ人体についての理解ができていない
状況である。
3.授業評価のアンケートの結果
アンケートの質問内容(協同学習についてどう感じたか)
(1)非常におもしろい
(2)勉強になる
(3)1つのことに時間がかかる
(4)つまらない
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(5)一方的に授業を受けたい
医療秘書コース1年生に実施した結果
(1) 4
(2)18
(3) 1
(4) 0
(5) 2 であった。
(5)の2名の意見では、1年生の前期において初めての専門用語であったこともあり、また、
授業を聞いて自分なりにノートにまとめていきたい、という意見もあった。
協同学習の良さについて、
・授業を受けることも勉強になるが、グループでまとめて発表する事で、今まで知らなかっ
たことが自然と分かるようになった。
・他のグループの発表を見て聞いて、理解が深まった。
・皆で調べ模造紙に書くという作業を通じて、分からないところを教え合ったり、ここはこ
うなんじゃないかと考えながら学びあうことができた。
・普段何も気にせず過ごしていて、どうして体温は一定なんだろうなどと考えたことはなく
グループの発表を聞き、理解し、身体に関する知識を身につけることができた。自分の身
体・健康について興味を持つようになった。
・協同学習では他の人に伝えなければならないということもあり、より学びが必要だと思っ
た。
・自分が分かっていないと相手に説明して伝えることができないということが分かった。
・協同学習をすることで、グループの人の意見や自分の意見と比較することができ、いろい
ろな考え方があっておもしろかった。
・グループ毎に調べる内容が違っていたので多くの情報を一度に知ることができた。
・一つのことに時間がかかるから、一つのことをやり終えただけでも達成感がわいた。等々
多くの意見が出た。
専攻科の学生はグループで協同学習することがより深く理解できることになったと
の意見が多く見られた。
4.今後の課題
昨年度より、質問力向上および協同学習に関する指導法の研究ユニットのメンバーになり、
昨年は自身がよく理解していないこともあり、何の結果も出せない状況であった。
授業が通年ではないということと、医療秘書コースについては認定試験、検定試験に合格さ
せること、福祉専攻科においては介護福祉士としての「これだけは覚えておいて欲しい」と
いう国家資格にふさわしいラインがあるので、その問題をクリアすることが課題である。そ
して疑問を持ったらいつでも、すぐその場で質問ができ解決していけるような授業展開をし
ていく必要がある。よって教材研究及び授業内容の工夫に関して今後いろいろな方法を駆使
し、学生におもしろくそして理解しやすい授業に展開していきたいと考えている。
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人間の研究Ⅰ「礼節」に関する一考察(その2)
~協同学習の段階的導入~
倉 永 愛 子
1 はじめに
建学の精神「礼節と勤労」の中で「礼節は自他の人間性を共に尊び、かつ己を律する精神
であり、それは平和で幸福な社会を築くための根本原理」と示される。
一般教育科目、卒業必修1年生開設の本授業は、春夏秋冬通年の演習授業である。オリエ
ンテーション時に実施したアンケートによると、「礼儀作法に関する受講は初めてである」と
答えた学生は1年保育科 C(76.9%)、D(84.6%)、E(75.0%)、F(65.0%)初等教育科・
音楽科(74.3%)、人間文化学科(66.0%)で6クラス平均 73.6%の学生が「初めて学ぶ」
ことが分かった。この数値は、これまでの本学学生に対する筆者の認識を覆すものである。
本稿では、学生の実態を踏まえ、協同学習を段階的に取り入れる試みを通して、学生一人一
人が積極的に他を思いやる心遣いや、その場の状況を的確に捉え判断し気働きのできる「人
としての在るべき姿」の実現に向けた礼節の具現化への取組みについて考察する。
2 授業目標と内容
礼節の授業はあくまでも相手がいることを前提とし、他を敬い、気遣い、思いやることが
できる心の成長のうえに成立するものであるということを認識しておくことが大切である。
学生が他者への感謝と思いやりの心を重んじ、人としての節度をわきまえた品位のある生き
方ができるいわゆる修養的教養を身に付けることを目標とする。
学生が明教庵の和室に入り、床の間の軸や時節の花を拝見し黙想するこの静寂の時は、日
本の伝統文化を愉しみ己と向き合う大切な一時である。
前期は基本的な立ち居振る舞い(和室や
洋室等でのあいさつやお辞儀の仕方を中心
とした基本的な所作)、言葉遣い(敬語の使
い方、電話のかけ方と応対)、職場でのマ
ナー、冠婚葬祭の作法(弔事の心得、金包
み等)を、後期は茶道、手紙の書き方(お
礼状等)、訪問と応対(もてなしの心、座布
団の扱い、茶菓のすすめ方といただき方)、
食事作法(和洋中の食事のマナー、箸づか
い等)の内容を学生は1年間で学び身に付けていくことになる。
前期の前半と後半、後期の 3 期に分け、次に述べるような段階的な協同学習の取組みを行っ
た。
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3 授業の実践
(1)見極める目
前期の前半では、まず建学の精神を理解し、礼節を学ぶに当たっての自己練磨の目標を各
自が立てる。学生は「精神を練磨し高度の人格を形成するように努める」修養の時であり場
であることを理解し、心を形として表す所作とはいかなるものであるのかを「基本的な立ち
居振る舞い」で学ぶことになる。手本を示し DVD で確認させ、心のこもった礼儀作法につ
いて心の目でしっかりと見極めていく演習を繰り返し行う。
利休の弟子のなかでも「もの」の見方について心を砕いたとされる山上宗二は、利休から
伝授された茶の湯の秘伝を著述した「山上宗二記」の中で「茶の湯道具は云うに及ばず、何
にても、見るほどの物、善悪を見分け、人の誂物をしおらしく数奇に入りて始むる事専一也。
目利きに嫌うは、むまきに似たる物をすく目利きを嫌う也。」つまり、物事の善し悪しを見極
め、また習事は古を専らにすべきであるが、常に創意工夫を旨としその時代に合うようにす
べきであると説いている。(古賀健藏 1996)
学友のあいさつやお辞儀などの懸命な姿を見ることで、美しい立ち居振る舞いに繋がる心
に気づかせ、互いに良いところを伝え合い学び合う時間を「実技テスト」時に設けた。2人
1組になり、相手の所作を見ながら①②(①美しいと感じた所作、②助言)の2点を互いに
相手のノートに書き入れる。学生は実技テストの各項目を受験後に振り返り5段階で自己評
価し、更なる課題を見つける。教師側は採点して総合評価を行い、特に素晴らしい点や改善
すべき点をその場で伝える。学生はノートの記録をもとにして互いに評価し合う。当然のこ
とながら美しい所作というものを理解していなければ、学友の姿を観察し助言はできない。
良いところを誉められ、改善点を助言してもらうことは、自己肯定感や自己練磨に繋がる。
互いを認め合い励まし合うコミュニケーションは学生にとって大きな励みと自信になったよ
うである。
(2)相手の立場や場を汲み取る心
前期の後半では、「言葉遣い」「電話のかけ方」「職場でのマナー」「冠婚葬祭」の授業の中
で質問力をつける取組みとして「礼節質問カード」を作成・活用した。これらの単元は座学
中心の授業形態であるため、学生自身に毎時の学習ポイントをどこに置くのかを明確にさせ、
主体的に自らの課題を見付けて学ぶ姿勢を育てることとした。
導入時に質問カードを配付し毎回違うテーマを設定した。例えば、保育科のクラスの場合は、
保育士になった自分が、「・・・の場面にいる子どもに対し、どのように言葉かけをすること
で、どのような子供に育つか」「保護者からの・・・についての電話にどのように対応するか」
「職場で・・・の場合にはどのように対応するか」というように具体的な場面や立場に立って
考えさせ、質問カードに質問を最低 3 つは書くように促した。学生によっては、意欲的に数
多く書く者も出てきた。授業後に回収し、質問カードに書かれた質問の中から要を得た質問
を一つ選んで印を付け各自に返却した。学生はその印の付いた自作の質問に答えを書き、そ
の質問がどのような考えで作った質問であるかを一言書き添え、その後 3 人 1 組になり自分
の考えを述べ合わせた。
質問カードのテーマを示したことで、具体的に自分だったらどうするかという一歩踏み込
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んだ視点から授業を受け、考えをまとめることができたようである。授業の中で得た知識が
具体的に日常生活や実習先において、自分の考えや言動に結び付け活かされることを期待し
たい。
質問力を鍛える具体的な方法について齋藤は、三色ボールペンで質問を色分けする方法
や「谷川俊太郎の33の質問」のすばらしさについて述べている。また、質問を発するため
には、まずその前提として自分なりの考えがなくてはいけない。質問ができないということ
は、相手の考えに対処すべき自分の考えがないことを意味する。言葉によるコミュニケーショ
ン能力は、あくまで地道な学習と訓練によって身に付けるものであると述べている。
(齋藤孝
2003)
(3)気働き
後期では、「茶道」「手紙の書き方」「訪問と応対」「食事作法」を学ぶ。それまでに 15 時
間で学んできたことが少しずつ身に付き、形となって現れる。中でも「訪問と応対」は、こ
れまで授業で学んできた基本的な立ち居振る舞いや言葉遣い、時候の挨拶、茶道の学習成果
を結実させる単元と言える。
そこで、協同学習を取り入れた「訪問と応対」の授業を実践した。まず、訪問する側とも
てなす側の基本的な心得と所作を学ぶ。3人1組になり、それぞれが①②③の各専門家(①
訪問する側、②もてなす側、③座布団の扱い・煎茶の淹れ方・風呂敷の扱い方のポイントア
ドバイザー)となる。色分けしながら要点を理解し、互いに質問形式でジグソー学習を行った。
その後、それぞれの担当を交代させて演習を行い、アドバイザー担当が他の二人のカードに
「良かった点とアドバイス」を書き入れ、3時間で各自①②③を体験し、互いにカードをもと
に評価し合い学習する時間となった。
いかにして相手のことを思いやる言葉を紡ぎ出すか、もてなしの心をどのようなタイミン
グで形に表して伝えていけばよいか、実際に学友と相対することで気付くことは多かったよ
うである。普段の生活の中で意識した立ち居振る舞いや言葉遣いを心がけ、さりげない気働
きができるような人になりたいと感想を述べる学生が多かった。
4 学生の取組みと自己評価集計結果
最後の30時間目の講義で1年間の自己評価をする時間を設け、(Ⅰ)毎日の生活の中(学
内外)で意識して取り組み向上を目指していること、(Ⅱ)学んだ礼儀作法をその場面で活
かしていけるように理解し取り組んだか、(Ⅲ)1年間で習得できたと実感できる所作、(Ⅳ)
自由既述で集計を行った。以下の結果は、「初めて学ぶ」と回答した平均値に近い1年保育科
C(回答者36名)と初等教育科・音楽科(回答者28名)の結果である。
(Ⅰ)毎日の生活の中(学内外)で意識して取り組み、向上を目指しています。(5 段階評価)
1 清潔感溢れる学生の姿 ( 5:50% 4:45% 3:5% 2:0% 1:0% )
2 和室での立ち居振る舞い ( 5:48% 4:47% 3:5% 2:0% 1:0% )
3 洋室での立ち居振る舞い ( 5:30% 4:58% 3:12% 2:0% 1:0% )
4 言葉遣い ( 5:38% 4:50% 3:12% 2:0% 1:0% )
5 食事作法 ( 5:45% 4:39% 3:14% 2:2% 1:0% )
6 電話のかけ方 ( 5:47% 4:44% 3:9% 2:0% 1:0%)
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(Ⅱ)学んだ礼儀・作法をその場面で活かしていけるように理解し取り組みました。
(5 段階評価)
7 手紙やはがきの書き方 ( 5:39% 4:50% 3:9% 2:2% 1:0% )
8 冠婚葬祭の作法 ( 5:38% 4:48% 3:14% 2:0% 1:0% )
9 金包みのマナー、表書き ( 5:42% 4:44% 3:11% 2:3% 1:0% )
10 茶道、茶菓実習 ( 5:58% 4:36% 3:6% 2:0% 1:0% )
11 訪問と応対の心得 ( 5:61% 4:30% 3:9% 2:0% 1:0% )
(Ⅲ)トータル実技の自己評価 ・・・(習得できたと実感できる所作)
① 明教庵入口での所作(身だしなみの確認 82%、会釈後の入退出 89%、扉の開け閉め
96%)
② 靴のマナー (下座で脱ぐ 79%、跪座で靴をそろえる 82%、靴の扱い 86% )
③ 洋室の入室・退室 (ドアの開閉 93%、会釈後の入退出 75% )
④ 椅子のマナー (あいさつ時は立礼 86%、下座 or 左側から静かに座る・立つ 82% )
⑤ トイレのマナー (気配り ・・・ スリッパ 93%、洗面所 79%、ペーパー 71% )
⑥ ふすまの開閉 (枠を扱う 96%、手の所作 89%、会釈後の入室 100% )
⑦ 歩き方 (和室 100%、廊下 54% )
⑧ 立ち方、座り方 (跪座の姿勢 82%、背筋を伸ばす 93%、足をそろえる 86% )
⑨ 美しいお辞儀(心を込めたお辞儀 96%、あいさつ 100%、背筋 93%、手と指 79%、視線
96%)
(Ⅳ)心あたたまる言葉、ひととき、できごと、学びなどの自由記述
黙想のひととき、窓からの風景、鳥のさえずり、美在心、一期一会、和敬清寂、気働き、心遣い、
気配り、笑顔、あいさつ、感謝の言葉、礼節の授業
5 考察と今後の課題
今年度取り組んできた礼節の授業研究を考察する。
学生の実態を踏まえて「初めて学ぶ」学生に対し、いかに主体的に取り組ませ、修養的教
養を身に付けさせていくかということに焦点を当て授業を組み立て展開してきた。通年30
時間を大きく3つの段階に分け、それぞれの授業形態に添ったサブテーマを設け、協同学習
を段階的に導入し実践した。
集計結果から見えてくるのは、「初めて学ぶ」学生にとって最初は戸惑いも大きかったよう
だが、互いに学び合い、気付いたことを伝え合い繰り返し演習することで身に付いた所作も
多く、学習効果は評価できる。100%の数値には目を見張るものがある。学生は懸命に目標
に向かって取り組み、自分の成長した姿を評価し、自信と誇りを持つことができたのではな
いかと思われる。
来年度は、学生の自己評価から見えてきた洋室での心得と所作の定着を課題とし、さらに
礼節の具現化への取組みを深めていきたいと考える。
参考・引用文献
小笠原忠統、1988、「日本人の礼儀と心」
古賀健藏、1996、「ものの見方」
齋藤孝、2003、「質問力」
千宗左、2001、「茶の湯随想」
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教 育 研 究
平成24年3月発行
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