河口浚渫土の水田用耕作土への適用性に関する実験

河口浚渫土の水田用耕作土への適用性に関する実験
D06026
D06057
D06065
1.研究目的
年々、産業廃棄物が増える一方でそれを最終処分
する埋め立て処分場の確保が難しくなって来ている。
さらに、近年の環境問題への取り組みが国際的に高
まって行く中、産業廃棄物の有効利用が課題となっ
ている。特に資源の少ない我が国は、新たな資源を
使うよりも廃棄物といった価値を失った物を再利用
することが経済的であり、環境にも好ましい。
そこで、本研究では塩分を含む浚渫土に対して、
固化および除塩の効果を持つ石膏を主成分とする固
化材および産業廃棄物である廃石膏ボードから精製
される固化材を添加剤として用いて改質し、改質土
が水稲が生育できる水田耕作土として利用できるか
否か検討する。着目した主要な項目は以下の通りで
ある。
①耕作機械の走行性に必要な地耐力(qc)を満たす添
加剤配合量の検討
②添加剤による改質土の除塩効果の検討
③改質土の水素イオン濃度(pH)が植物の生育可能
な範囲となるかの検討
④pF(保水力)試験による改質土の正常生育有効
水分の検討
2.試料および実験
2.1 試料の特性
本研究では、荒川河口から採取した非自硬性汚泥
に属する浚渫土を使用した。浚渫土の粒径加積曲線
および物理的特性を図‐1 および表‐1 に示す。
通過百分率
(%)
100
荒川河口浚渫土
80
60
上久保 亮
中島 敏之
野村 智也
表‐1 荒川河口浚渫土の物理特性
土粒子密度(g/cm3)
礫 分(%)
砂 分(%)
粒度組織
シルト分(%)
粘土分(%)
液性限界(%)
コンシス
塑性限界(%)
テンシー
塑性指数
粘土 (CL)
土質名称
2.667
1.4
14.2
39.6
44.8
33.4
24.0
9.4
2.2 使用添加剤
使用添加剤として、以下に示す固化材 A,固化材 B
および高分子凝集剤の 3 種類を使用した。
①固化材 A:石膏を主成分とし、高含水の汚泥に
混合すると水分を吸収し短時間に凝結固化す
る作用がある。pH は中性領域で、その改質土は植
物が生育し魚毒性がない¹⁾。
②固化材 B:廃石膏ボードから精製されたリサイク
ル固化材。固化材 A 同様の性質を持っている。
③高分子凝集剤:少量添加する事で、高分子中の吸
着活性基が水素結合によって土粒子に吸着し、粒
子間架橋作用により団粒化構造を形成する²⁾。
2.3 改質土の作成
昨年の実験結果を参考に、フロー値 92mm に調
整した浚渫土に、高分子凝集剤を加えハンドミキサ
ーで 1 分間撹拌し、さらに所定量の固化材を加えて
ハンドミキサーで 1 分間撹拌する。固化材 A,B の添
加量は、浚渫土 1m3 に対して 100kg,200 kg,300
kg,400 kg,500 kg の 5 種類、高分子凝集剤は浚
渫土1㎥に対して 10 ㎏添加した。なお、高分子凝
集剤の影響を調べるために添加しないものも作成し
た。撹拌後の改質土はビニール袋に入れ直射日光を
避けて 25℃で養生した。表‐2 は、固化材の種類お
よび高分子凝集剤の配合が異なる計 15 種類の改質
土の湿潤密度ρt と含水比 w の一覧である。
表‐2 改質土の湿潤密度ρt および含水比 w
40
20
固化材A:添加量㎏/m3
湿潤密度 ρt (g/cm3)
含水比 w (%)
粘土 : 低塑性限界(CL)
ρs = 2.667 g/cm3
0
0.001
0.01
0.1
粒径 (mm)
1
固化材B:添加量㎏/m3
湿潤密度 ρt (g/cm3)
含水比 w (%)
固化材B:添加量㎏/m3
湿潤密度 ρt (g/cm3)
含水比 w (%)
10
図‐1 荒川河口浚渫土の粒径加積曲線
-2.1-
100-10
1.802
33.0
100-10
1.811
41.1
100-0
1.865
33.5
200-10
1.719
33.9
200-10
1.772
31.3
200-0
1.823
31.1
300-10
1.542
31.3
300-10
1.531
31.3
300-0
1.518
33.8
400-10
1.451
29.6
400-10
1.390
40.4
400-0
1.474
36.4
500-10
1.383
30.9
500-10
1.326
35.1
500-0
1.359
33.7
表‐3 試験及び計測の為の養生時間
試験及び計測
締固め試験
コーン貫入試験
一軸圧縮試験
塩分濃度及び電気伝導率測定
pH測定
pF (保水力) 試験
コーン指数qc (kN/㎡)
考えられる。耕作機械の走行性に必要な地耐力(qc)
は 400 kN/m3 と言われている為、どの添加材も
210kg/m3 添加することにより走行に必要な地耐力
を満たすことが出来るが、固化材 B および高分子凝
集剤の添加が無いものに関しては改質効果が少ない
ことが読み取れる。
養生時間
練り混ぜ直後
締固め試験直後
7日養生
7日毎に105日まで養生
7日毎に105日まで養生
7日養生以降
2000
1600
走行可能線
1200
800
210
125
165
固化材A-10
固化材B-10
400
固化材B-0
0
100
200
300
固化材添加量
400
500
(㎏/㎥)
図‐2 固化材の添加量とコーン指数の関係
固化材添加量と一軸圧縮強度 qu との関係を図‐3
に示す。なお、石膏系固化材は短時間で固化するこ
とが分かっている為7日養生したものを試料とした。
固化材の種類および凝集材の有無に関わらず、添加
量 300 kg/m3 で最も高い一軸圧縮強度が得られた。
しかし凝集剤を添加しないものに関しては、凝集剤
を添加したものと比較すると強度が得られないこと
が読み取れる。
(kN/m2)
160
140
120
一軸圧縮強度qu
2.4 実験内容
改質土の特性を調べるため、コーン貫入試験、
一軸圧縮試験、塩分濃度試験、pH 試験および pF(保
水力)試験を行った。
コーン貫入試験は、締固め試験(A‐a 法)で突き固
めた供試体について JIS A 1228 に従って貫入試験
を行いコーン指数 qc を求めた。
一軸圧縮試験は、コーン貫入試験と同一の締固め
試験後の湿潤密度ρt となるように圧縮機で作成し
た供試体について行った。
pH 試験は JGS 0211、塩分濃度試験は JGS 0212
に従い改質土の炉乾燥質量に対する水(試料中の水
を含む)の質量比が 5 倍となるように蒸留水を加え、
塩分が一定になるまで 30 分以上静置し、3 時間以内
に試料の塩分濃度および pH 値を計測した。なお、
測定の際は pH を測定した試料液を塩分濃度の測定
に使用すると塩化カリウムの混合による誤差を生ず
る為、塩分濃度の測定は pH 測定に先立って行った。
pF 試験は、
遠心分離機を使用する遠心法を適用し
た。この方法では、pF 値 2.5~4.2 の範囲まで測定
が可能であるが、今回使用した遠心分離機では回転
数の問題から pF 値 2.5~3.4 までしか測定できなか
った。回転数 n は次式で求められる。
pF=2・log n + log 12.6 - 4.95
ここに、pF=2.5,2.7,3.0 および 3.4 とした。
試験は改質土約5g を 12 時間水中養生し、それぞ
れの pF の値に相当する回転数に設定した遠心分離
機で 60 分遠心分離した後体積含水率を測定し、そ
の値をそれぞれの pF に対する体積含水率とした。
各試験および計測のための必要な養生時間を
表‐3 に示す。
固化材A-10
固化材B-10
固化材B-0
養生時間:7日
100
80
60
40
20
0
0
100
200
300
固化材添加量
400
500
(kg/㎥)
600
図‐3 固化材の添加量と一軸圧縮強度の関係
3.結果および考察
3.1 改質土の力学特性
図‐2 は,コーン指数と固化材添加量との関係を示
したもので、図中の凡例は配合量を示している(例え
ば固化材 A‐10 は使用した固化材名‐高分子凝集
剤 10kg 添加を表す)。図を見ると、全ての固化材と
も添加量を増やすとこでコーン指数qcが高くなる
ことが分かる。添加量 500 kg/m3 で値が下がってい
るのは、手作業で行ったことによる人為的誤差だと
-2.2-
3.2 改質土の塩分濃度
固化材および高分子凝集材を浚渫土に添加したと
きの塩分濃度の経時変化を図‐4,5,6 に示す(図中の
凡例、例えば固化材 A‐100‐10 は浚渫土 1 ㎥に対
し固化材 A を 100 ㎏‐高分子凝集剤 10kg 添加を表
す)。一般に水稲が生育できる塩分濃度の範囲は 0.0
~0.3%、0.1%以上で下葉の枯れあがりがみられ、さ
らに 0.2%以上になると草丈が短くなり、葉先のよじ
れや巻き込み症状を呈するようになり、0.3%を超え
るとこの症状が激しくなり生育できなくなると言わ
れている。また塩分濃度が 0.05%以下で上述したよ
うな症状が表れず、健全な水稲が生育できる基準と
なっている³⁾。
0.35
石膏系固化材 : 固化材A
高分子凝集材 : 添加10kg/㎥
初期値:0.20
0.30
塩分濃度
(%)
0.25
0.20
0.15
添加量 : kg/㎥
0.10
A-100-10
A-200-10
A-300-10
A-400-10
A-500-10
例 : A-100-10
浚渫土1m3に対し,固化材A100kg,高分子10kg
0.05
健全な水稲生育範囲 : 0.0~0.05%
0.00
0
14
28
42
56
経過時間
70
(日)
84
データのバラツキが少なくなったのは、改質土が均
一状態に近づいたことおよび人為的誤差が少なくな
った為と考えられる。
3.3 改質土の pH 値
石膏系固化材および高分子凝集材を浚渫土に添加
したときの pH の経時変化を図‐7,8,9 に示す。
一般に植物が生育可能な pH の値は 4.5~8.0 の範
囲であるとされており、その中でも水稲の正常な生
育のために望ましい pH の指標値は 6.0~7.5 とされ
ている⁴⁾。
10.50
石膏系固化材 : 固化材A
高分子凝集剤 : 添加10kg/㎥
初期値:9.36
9.50
98
8.50
112
7.50
pH
図‐4 塩分濃度の経時変化(固化材 A)
6.50
添加量 : kg/㎥
生育可能範囲: 4.5~8.0
A-100-10
A-200-10
A-300-10
A-400-10
A-500-10
5.50
0.35
初期値:0.20
0.25
4.50
例 : B-100-10
浚渫土1m3に対し,固化材B100kg,高分子10kg
3.50
14
28
0.20
健全な水稲生育範囲 : 0.0~0.05%
添加量 : kg/㎥
B-100-10
B-200-10
B-300-10
B-400-10
B-500-10
14
84
0.10
0.00
0
28
42
56
経過時間
70
(日)
98
42
56
経過時間
70
84
(日)
初期値:9.36
9.50
8.50
112
石膏系固化材 : 固化材B
高分子凝集剤 : 添加10kg/㎥
7.50
6.50
添加量 : kg/㎥
生育可能範囲 : 4.5~8.0
B-100-10
B-200-10
B-300-10
B-400-10
B-500-10
5.50
石膏系固化材 : 固化材B
高分子凝集材 : 添加0
初期値:0.20
0.30
例 : B-100-10
浚渫土1m3に対し,固化材B100kg,
高分子10kg
4.50
3.50
0.25
0
14
28
0.20
0.15
添加量 : kg/㎥
0.10
例 : B-100-0
浚渫土1m3に対し,固化材B100kg,高分子0
0.05
健全な水稲生育範囲 : 0.0~0.05%
0.00
0
14
28
42
56
経過時間
70
(日)
84
図‐8
B-100-0
B-200-0
B-300-0
B-400-0
B-500-0
98
112
10.50
図‐5 塩分濃度の経時変化(固化材 B)
0.35
98
図‐7 pH の経時変化(固化材 A)
pH
0.15
0.05
塩分濃度 (%)
例 : A-100-10
浚渫土1m3に対し,固化材A100kg,
高分子10kg
0
42
56
経過時間
70
84
(日)
98
112
pH の経時変化(固化材 B)
10.50
初期値:9.36
9.50
8.50
112
石膏系固化材 : 固化材B
高分子凝集剤 : 添加0
7.50
図‐6 塩分濃度の経時変化(固化材 B・凝集剤無)
現段階の実験結果では、固化材の種類および高分
子凝集材の有無に関係なく除塩効果が表れていない
ことが分かる。数値にバラツキが見られる原因とし
て、固化材による表面層の形成具合が場所によって
異なり、この不均一性によって計測日毎に塩分濃度
に違いが生じたためと考えられる。時間経過と伴に
-2.3-
pH
塩分濃度 (%)
0.30
石膏系固化材 : 固化材B
高分子凝集材 : 添加10kg/㎥
6.50
添加量 : kg/㎥
生育可能範囲 : 4.5~8.0
5.50
4.50
例 : B-100-0
浚渫土1m3に対し,固化材B100kg,高分子0
3.50
0
図‐9
14
28
42
56
経過時間
70
84
(日)
B-100-0
B-200-0
B-300-0
B-400-0
B-500-0
98
112
pH の経時変化(固化材 B・凝集剤無)
図を見ると、どの固化材を添加しても添加直後に
pH 値が下がりその後あまり変化が見られない。こ
のことから、石膏系固化材は時間の経過に関係なく
pH 値を下げる事が分かる。しかし、改質土の pH
値は植物の生育範囲外にあるため、植生には適用で
きない。pH 値においてバラツキが見られる原因も
塩分濃度の経時変化の結果と同様で表面層の形成具
合が場所によって異なるために違いが生じると考え
られる。
3.4 改質土の pF(保水力)値
pF(保水力)試験の結果を pF-水分曲線として図‐
10,11,12 に示す。
4
石膏系固化材 : 固化材A
高分子凝集材 : 添加10kg
3.8
3.6
初期しおれ点
pF (保水力)
3.4
3.2
3
2.8
2.6
2.4
2.2
2
20.0
原土
A-100-10
A-200-10
A-300-10
A-400-10
A-500-10
25.0
例 : A-100-10
浚渫土1m3に対し,固化材A100kg,高分子10kg
30.0
35.0
40.0
体積含水比 θ
45.0
50.0
55.0
図‐10 pF-水分曲線(固化材 A)
4
石膏系固化材 : 固化材B
高分子凝集材 : 添加10kg
3.8
3.6
初期しおれ点
pF 試験では、植物の生育に適した含水比を求め
ることができる。pF1.8~3.0 の間で植物が最も良く
育つことができ、pF3.8 で植物はしおれてしまう⁵⁾。
即ち曲線が緩ければ緩いほど適応範囲が大きくなる
ので、少しの環境変化のみでは植物に影響を及ぼさ
ない良い土壌であることが分かる。
今回の実験結果より、原土の水分特性を上回る配
合量は、固化材 A は 200kg および 300kg、固化材 B
に関しては 100kg であったが、凝集剤無添加では原
土の水分特性を上回る配合を見出せなかった。
4. 結論
本研究では、改質土の材料特性を実験的に把握
し水田用耕作土への適用性について調べた。結果
をまとめると以下のようになる。
①固化材の添加量が増加するに従い改質土の強度は
高くなり、どの添加材も 210kg/m3 添加すること
により走行に必要な地耐力を満たすことが出来る。
②除塩効果は、固化材の種類および凝集剤の添加量
に関係なく変化はあまり見られず、水田用耕作土
としての利用は困難であるという結果となった。
③pH の経時変化はあまり見られず、植物が生育す
る pH 値の範囲に収まらず植生には適応しない。
④pF の値は、
固化材の添加量および凝集剤の添加に
より固化材 A は添加量 200kg,300kg、固化材 B
は添加量 100kg において水田耕作土として利用
しやすい土壌となる。
pF (保水力)
3.4
3.2
全体を通して、固化材の種類および凝集剤に関係
なく除塩効果および pH 値の中性化の検討について
は十分な効果が得られなかった。しかし、耕作機械
の走行に可能な地耐力、pF(保水力)の値は固化材添
加量を変えることで改質できた。強度に関して言え
ば、固化材 A および凝集剤を添加したものが最も高
い強度となる。今後、塩分濃度が変化し得る可能性
がある為、継続的な測定が必要になる。
3
2.8
2.6
2.4
2.2
2
20.0
原土
B-100-10
B-200-10
B-300-10
B-400-10
B-500-10
25.0
例 : B-100-10
浚渫土1m3に対し,固化材B100kg,高分子10kg
30.0
35.0
40.0
体積含水比 θ
45.0
50.0
55.0
図‐11 pF-水分曲線(固化材 B)
4
3.6
〈参考文献〉
石膏系固化材 : 固化材B
高分子凝集材 : 添加0
3.8
1). 有田正光, Masamitsu Arita, 江種伸之, Nobuyuki Egusa, 小尻
初期しおれ点
利治, 中井正則, 中村由行, 平田健正, 吉羽洋周 :
「地圏の環
pF (保水力)
3.4
境」2001 ,東京電機大学出版局, p208
3.2
3
2.8
2.6
2.4
2.2
2
20.0
2). 奥村智美:
「固化処理した泥土の盛土材料への適用性に関する研
原土
B-100-0
B-200-0
B-300-0
B-400-0
B-500-0
25.0
究」 2007 年度修士論文
3). 島根県農業技術センター:農業用水中の塩分濃度と水稲(コシヒ
カリ)の生育,2010.1.13
例 : B-100-0
浚渫土1m3に対し,固化材B100kg,高分子0
30.0
35.0
40.0
体積含水比 θ
45.0
50.0
http://www.pref.shimane.lg.jp/nogyogijutsu/
55.0
4). 香川の環境:香川県緑化技術マニュアル,2010.1.18
http://www.pref.kagawa.lg.jp/kankyo/index.htm
図‐12 pF-水分曲線(固化材 B・凝集剤無)
5). 山崎不二夫他:土壌物理,養賢堂,1977.10
-2.4-