PDFを見る - 富山県農林水産総合技術センター

平成26年3月号
発行 富山県農林水産総合技術センター
畜産研究所
〒939939-2622 富山市婦中町千里前山1
TEL 076076-469469-5921 FAX 076076-469469-5945
http://www.pref.toyama.jp/branches/1661/chikusan/
技 術 情 報
種豚選抜に有効な DNA マーカーの検討
~新系統豚「タテヤマヨークⅡ」の造成を利用して~
1.はじめに
当研究所では、総産子数と背脂肪厚を改良形質
とし、
「BLUP 法アニマルモデル」で推定された育
種価を用いて、大ヨークシャー種の新たな系統豚
の造成を行っています。総産子数や背脂肪厚は養
豚経営に直接関わる重要な形質ですが、特に、総
産子数などの繁殖形質は遺伝率が低く、選抜によ
る改良は困難であるとされてきました。しかし、
BLUP 法を用いれば、すべての血縁個体の情報に
基づき、季節などの環境要因を補正できるため、
遺伝率の低い形質についても効率的に改良を進め
ることができます。さらに、近年では「DNA マー
カー育種」と言われる DNA 情報を利用した育種
改良も試みられており、より効率的な改良手法と
して利用出来るのではないかと注目が集められて
います。
今回、新しい系統豚の造成を行うにあたり、総
産子数や背脂肪厚などの経済形質に関連する
DNA マーカーと言われている「エストロゲン受容
体遺伝子」
(ESR)を用いて、遺伝子多型と経済形
質との関連性について調査しました。そして、ESR
が種豚選抜に有効な DNA マーカーになり得るの
か検討を行いましたので、その概要を紹介します。
2.試験の概要
系統造成中の大ヨークシャー種について、初産
次の総産子数(TNB)と背脂肪厚(BF:105kg 時
に体長 1/2 部位でスキャナーにより測定)の推定
育種価を用いて選抜した種雌豚、第 0 世代(G0)
37 頭、第 1 世代(G1)68 頭、第 2 世代(G2)67
頭、第 3 世代(G3)60 頭、第 4 世代(G4)68 頭、
第 5 世代(G5)55 頭、計 355 頭を分析に供しま
した。これら種雌豚の耳刻片等からフェノール法
により DNA を抽出し、ESR について PCR-RFLP
(制限酵素断片長多型)法を用いて遺伝子型を判
定しました。制限酵素には AvaⅠおよび PvuⅡを
用いました。制限酵素部位ごとに「対立遺伝子頻
度」、
「均質度指数」および「ヘテロ接合個体率」
を計算し、世代推移を調査しました。また、遺伝
子型と TNB、BF、TNB の推定育種価(TNBBV)
、
BF の推定育種価(BFBV)との関連についても調
査しました。
3.試験の結果
ESR は全ての世代で A1 型および P1 型の遺伝
子頻度が高いが、世代の経過とともに A1 型およ
び P1 型の頻度が高くなる傾向になりました
(図 1、
2)
。その内、G4 において P2/P2 の遺伝子頻度は
理論値より有意に低くなりました。つまり、G4 選
抜において P2/P2 の遺伝子型を持つ個体が有意に
選ばれなかったことになります。
遺伝的多様性の指標である「均質度指数」は世
代経過とともに増加するのに対し、
「ヘテロ接合個
体率」は減少しました(図 3)
。このことは、遺伝
子が固定されてきていることを示しています。
TNB が多い個体および BF が薄い個体で A1 型
および P1 型の対立遺伝子を持つ傾向が見られま
したが、有意ではありませんでした(表 1、2)。
これに対し、TNBBV に対する解析では、A1/A1
の遺伝子型を持つ個体が他の遺伝子型を持つ個体
より有意に産子数が多く、かつ、P2/P2 の遺伝子
型を持つ個体が他より有意に産子数が少なくなり
ました。BFBV に対する解析では、P2/P2 の遺伝
子型を持つ個体が他より有意に背脂肪が厚くなり
ました。育種価は様々な環境要因を除いた値であ
るため、より信頼度が高くなります。
これらの結果から、TNB および BF について育
種価により選抜された本集団において、ESR の遺
伝子頻度は影響を受けた事が示唆されました。つ
まり、ESR は種豚選抜に有効な DNA マーカーに
なる可能性が示されたことになります。
AvaⅠ
1.0
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
0.203
0.324 0.299
PvuⅡ
1.0
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
0.175 0.162 0.173
A2
0.797
0.676 0.701
G0
G1
G2
0.825 0.838 0.827
G3
G4
A1
0.6
0.243
0.3
0.41
0.471
0.316 0.264
0.5
0.4
0.3
0.757
G0
0.7
0.59
0.529
G5
図 1 対立遺伝子頻度の推移
0.7
0.684 0.736
P2
0.2
HI
P1
0.1
0
He
G0
G1
G2
G3
G4
G2
G3
G4
HI:均質度指数 He:ヘテロ接合個体率
G5
図 2 対立遺伝子頻度の推移
G1
G5
図 3 遺伝的多様性の指標の推移
表 1 遺伝子型と TNB および TNBBV との比較
制限酵素
遺伝子型
A1/A1
AvaⅠ
A1/A2
A2/A2
P1/P1
PvuⅡ
P1/P2
P2/P2
異符号間に有意差あり
G0
G1
G2
G3
G4
G5
計
24
11
2
21
14
2
33
26
9
18
36
14
33
28
6
27
25
15
40
19
1
29
26
5
49
16
3
28
37
3
36
19
0
28
25
2
215
119
21
151
163
41
TNB(頭)
平均±標準偏差
10.1 ± 2.8
9.8 ± 2.9
9.3 ± 3.4
10.0 ± 2.8
10.2 ± 2.8
9.0 ± 3.1
TNBBV
平均±標準偏差
0.438 ± 0.466
0.271 ± 0.428
0.075 ± 0.545
0.430 ± 0.445
0.376 ± 0.454
0.044 ± 0.500
a
b
b
c
c
d
BFBV
平均±標準偏差
-1.964 ± 2.347
-1.753 ± 2.462
-1.149 ± 2.022
-2.228 ± 2.422
-1.849 ± 2.218
-0.419 ± 2.280
a
a
b
表 2 遺伝子型と BF および BFBV との比較
制限酵素
遺伝子型
G1
G2
G3
G4
G5
計
A1/A1
AvaⅠ
A1/A2
A2/A2
P1/P1
PvuⅡ
P1/P2
P2/P2
異符号間に有意差あり
33
26
9
17
37
14
29
26
6
24
23
14
32
19
1
24
23
5
45
16
3
27
34
3
36
19
0
28
25
2
175
106
19
120
142
38
4.おわりに
今回の研究では、
「エストロゲン受容体遺伝子」
についてのみ多型解析を行いましたが、繁殖形質
や産肉形質といった量的形質は多数の小さな効果
をもつ遺伝子(ポリジーン)によって支配されて
います。このため、今後は、
「プロラクチン受容体
遺伝子」や「卵胞刺激ホルモン受容体遺伝子」な
BF(mm)
平均±標準偏差
23.4 ± 4.4
23.8 ± 4.5
24.6 ± 4.1
23.1 ± 4.8
23.6 ± 4.2
25.3 ± 3.4
ど、他の遺伝子についての多型解析を行い、さら
なる種豚選抜に有効な DNA マーカーの検討を行
っていく予定です。
(養豚課 研究員 米澤史浩)