第3回 パーキンソン病教室 講義資料

南風病院
第3回パーキンソン病教室
脳深部刺激療法
(Deep Brain Stimulation:DBS)
アポモルフィン注射療法
2012年12月11日
治療ターゲット
視床腹中間核
淡蒼球内節
視床下核
手術療法の適応基準
パーキンソン病で薬物治療にて改善が不十分な主要運動症状
並びに運動症状の日内変動とジスキネジアに対しては、両側視
床下核刺激術と両側淡蒼球刺激術が推奨される。視床下核刺
激術の方が両側淡蒼球刺激術より全般的な効果は高い傾向が
ある。L-dopaに対する反応性が良く、手術時年齢が若いほど手
術効果も高い傾向がある。
さらに薬物減量を目的とする場合には、両側視床下核刺激術
が推奨される。
一側の主要運動症状ならびに日内変動とジスキネジアの軽減
を目的とする場合は、症状の強い側の反対側の視床下核刺激
術、淡蒼球刺激術、淡蒼球破壊術が推奨される
薬物療法にて改善が不十分なパーキンソン病の振戦抑制には、
視床下核刺激術・破壊術、淡蒼球刺激術・破壊術、視床破壊術
が推奨される
若年性パーキンソン病で,L-DOPAによる症状の
激しい日内変動に悩んでいる患者
若年性パーキンソン病では,極めて尐量のL-DOPAが効力をも
たらす反面,wearing-off現象on-off現象と呼ばれる症状の変動,
ドーパ誘発性ジスキネジアと呼ばれる薬剤に起因する不随意運
動が容易に出現する.このような患者では,視床下核DBSに
よって症状の変動を軽減させることが可能である.
ジスキネジア
抗パーキンソン病薬による精神症状,消化器症状に悩む患者
高齢のパーキンソン病患者では,抗パーキンソン病薬の服薬量が
増加すると,幻覚や妄想といった精神症状に悩まされることが多い.
これはパーキンソン病で障害される黒質-線条体路(運動系)だけで
なく,思考や情動に関係する経路にもドパミンが利用されており,
抗パーキンソン病薬がこれらの経路を刺激するためである.
視床下核DBSは内服薬と異なり,思考や情動系に影響を与えること
なく,運動系だけを刺激することが可能である.このため精神症状の
ために十分量の抗パーキンソン病薬が服用できない患者では,
視床下核DBSは極めて有効な治療手段である.嘔気のために十分
量の抗パーキンソン病薬が服薬出来ない患者もいる.このような症例
でも視床下核DBSは有効な治療手段となる.
長期経過したパーキンソン病患者
発病後長期経過すると,L-DOPAの持続時間が短縮し,
wearing-off現象に悩まされることが多い.L-DOPAを過剰に
服薬すれば精神症状や不随意運動のリスクが増す.尐量で
我慢すれば,薬効が落ちて不本意な動きに終始することにな
る.このような症例が第3群である.視床下核DBSによって
ベースラインが上がるため,術前と同じ量の抗パーキンソン
病薬を用いると,ADLはワンランク向上する.ただしwearingoffが完全に消失するほどの効果は期待出来ないことが多い.
なお長期臥床によって,関節の拘縮や筋肉の廃用性萎縮が
進んでいる患者では,視床下核DBSを施行しても改善は期
待出来ない.
Parkinson病に対する外科的治療
淡蒼球破壊術 Pallidotomy
視床破壊術 Thalamotomy
脳深部刺激療法 Deep Brain Stimulation=DBS
パーキンソン病に対する脳深部電気刺激部位と効果
視床
Vim核
視床
VL核
淡蒼球内節
後腹側部
淡蒼球内節
中背側部
振戦
+++
+
++
?
++
筋強剛
++
+++
+++
?
+++
ジスキネジー
-
+++
+++
?
-
運動減尐
-
++
+++
?
+++
すくみ足歩行
-
-
+
++
+
(+++:著効、++:有効、+:軽度有効、-:無効 )
視床下核
目標点と治療効果
視床
淡蒼球
視床下核
振戦
+++
++
++
筋強剛
++
+++
++
無動・動作緩慢
-
+*
++
歩行,姿勢反射障害
-
±*
++
日内変動
-
++
++
不随意運動
-
+++
++
*
脳深部刺激療法 Deep Brain Stimulation(DBS)
パーキンソン病に対するDBS療法:治療効果
手術時間:通常4~8時間
植込み手術の流れ
• 定位脳手術装置を取り付ける(局所麻酔)
• ターゲットの位置を確認する
• 電極を挿入する(頭蓋骨に小さな穴を開ける)。
• テスト刺激を行う
刺激発生器の植込み(胸部の鎖骨下皮下)
電極の植込みと同時に、または数日後に実施(全身麻酔)。
手術後について
通常、手術後は1~2週間入院する必要があります。
入院中に医師が、刺激発生器(パルス発生器)のスイッチをい
れて、刺激の調整を行います。 この刺激の調整は体外から、
プログラマーと呼ばれる機械を使って行われるので痛みを伴う
ことはありません。効果が十分に得られて、かつ副作用が現れ
ないような刺激条件に調節します。
手術直後の数日間は、手術の影響でふるえが自然に止まっ
てしまい、全くあらわれないことがあります。このような時は、医
師の判断でふるえが現れるまで刺激発生器(パルス発生器)の
スイッチをOFF(切)にしておく(刺激を止めておく)こともあります。
電気刺激の調節
医師は、症状を最適に調整するよう、また副作用を最小限
にするように、刺激発生器(パルス発生器)を調節します。
また、治療効果を最適にするよう今後の予定を立てます。
電気刺激を最適に調節できるようになるまでに、診察は数
回に及ぶことがあります。
回復
入院期間は医療施設によって異なりますが、通常、手術後は
1~2週間入院する必要があります。ほとんどの人は迅速に
回復し、傷が癒える間ほとんど不快に感じることはありません。
ただし、植込み後数週間は無理をしないように医師から指示
されます。
医師が患者さんの刺激発生器のスイッチをON(入)にする時
期を決めます。
通常は傷が完全に癒えた後になります(約4週間)。
退院後について
脳深部刺激療法(DBS)を植込まれた患者さんには、機器が植
込まれていることを示す患者手帳をお渡しします。この手帳は、
いつも携帯するようにしてください。
退院後に、軽い痛みや不快感、特に頭や首の部分に痛みを感じ
ることがあり、この状態は数週間続くこともあります。しかし、ほと
んどの患者さんは速やかに回復し、不快症状に悩まされることは
ありません。
手術後の自己管理については医師の指示は必ずお守りください
日常生活での注意事項
回復期間において、首を曲げたり、肩より上に腕を上げたり、
重いものを持ち上げたりするような動作については医師から
の注意事項に従ってください。
事故や転倒につながりかねない動作をする際はご注意くださ
い。突発的な動きをすると脳の電極が動いてしまうことがあり
ます。転倒すると、植込まれている機器装置の部品に損傷を
与えることがあります。損傷した植込み装置を交換するため
に手術が必要となることがあります
脳深部刺激療法(DBS)のリスク
脳内での出血
植込み材料に対するアレルギー
脳付近での脳脊髄液の漏れ
手術部位での痛み
てんかん発作
感染症
脳深部刺激療法(DBS)の副作用
うずくような感覚(知覚異常)
めまい
一時的な症状の悪化
不随意運動などの運動障害
話をしにくくなる(言葉の障害)
顔や手足の筋肉の強張りやしびれ
視覚の障害
軽いショックを受けるような感じ
ヤール重症度3度以上のパーキンソン病の患者さんで、申請し認定をうけて特定
疾患医療受給者票をお持ちの場合は、公費負担の対象となるため、自己負担は
ほとんどありません
脳深部刺激療法(DBS)植込み装置の交換
交換する
植込まれた刺激発生器には、電池が内蔵されているため、電池
がなくなった時には、刺激発生器を交換しなくてはなりません。
刺激発生器を交換する際は、脳に植込まれている電極はその
ままで、電池のなくなった刺激発生器のみを局所麻酔下で新し
い発生器に取り替えます。
刺激発生器の電池寿命は、一般的な刺激条件で一日24時間
使用した場合、植込まれた刺激発生器は約5年間使用できると
想定しています。ただし、この電池寿命は、刺激条件や電極の
植込まれた位置、一日の使用時間によって変化します。外来の
通院時に担当の先生は、電池容量のチェックを行ってくれます。
アポカインの効能・効果・用法・用量
効能・効果
パーキンソン病におけるオフ症状の改善(レボドパ製剤の頻回
投与及び他の抗パーキンソン病薬の増量を行っても十分に改善
しない場合)
用法・用量
パーキンソン病のオフ症状発現時に皮下投与する。成人にはア
ポモルヒネ塩酸塩1回1mgかた始め、以後経過観察しながら、
1回量として1mgずつ増量し、維持量(1回量1-6mg)を定める。
その後は適宜増減するが、最大1回6mgとする。)
アポカイン (アポモルヒネ塩酸塩)
オフ症状を改善する
非麦角系ドパミンアゴニスト(D1, D2受容体刺激薬)
自己注射製剤
注射後10-20分で効果発現、1時間持続
海外20カ国(英・米)で承認
パーキンソン病に対するアポモルフィン療法
(4.3MB)
動画
アポカインの推奨患者
オフ症状の程度
生活に支障がある 支障がない
仕事をしている
◎
◎
◎
○
仕事はしていないが、
外出機会が多い
あまり外出しない
○
X
まとめ
脳深部刺激療法
薬剤治療で調整困難なパーキンソン病にとって、劇的な効果を示す可能
性がある。
利点・安全性をよく理解し、手術を受けるかどうかを決断する。
アポカイン自己注射療法
オフ症状の改善に有効
注射手技は、効果を見ながら入院して指導します。
従来の薬剤療法のみでは、治療困難であったパーキンソン病も、新しい
治療法を組み合わせることで、更なる改善が期待出来る。