科教研報 Vol.24 No.3 教材イラストの利用形態と期待される効果 How to use Illustrations as teaching material and their benefits 小松 幸廣 松田 知子 KOMATSU, Yukihiro MATSUDA, Tomoko 国立教育政策研究所 相模原市教育委員会 National Institute for Educational Policy Research Sagamihara city board of education [要約] 授業で直ぐに使え、役に立つ教材イラストを目指して制作・提供を行ってきた。 作成リスト作りから提供方法の検討、教材化に向けた分析、イラスト作成用原稿作り等の 手順を経てイラストを制作した。 [キーワード]教材データベース,教材イラスト 1.はじめに トがあったら良いと思われる事例を集めそこ 小中学校を対象とした教科、道徳、学級 からイラスト原稿を起こしてイラスト化してき 活動などの教材用イラストを制作し、提供 た。イラストを作成・提供するに当たって し て い る 。 制 作 し た イ ラ ス ト は 約 4,000 枚 、 検討してきた事項は以下のとおりである。 授業活用例などとともに国立教育政策研究 1)授業に役立つ教材イラストの提供 所 お よ び 、 相 模 原 市 e-ネ ッ ト SAGAMI上 で 提 授業で役立つとはどの様な教材かその条 供している。 件を検討する。 本イラストはイラストを教材として使い 2)イラストの効果と事例の教材化 たいという先生方からの要望に応えたもの 聞き取り調査などでイラストが必要とされる である。開発に当たっては学校の教育活動 場面をリストアップしたものについて期待する の中から図やイラストが必要と思われる事 学習効果や用法について検討した。 例を集め、これらをイラスト化した。 3)イラスト作成原稿とイラスト化 教材イラストの制作に当たっては編集・ イラストとして視覚化する際に行った教材 加工することなく直ぐに利用できことを目 の分析・検討について考察した。 指した。また、想定する学習場面や効果に ついて検討を加え、描き込むアイテムやシ 3.研究の内容 ーン、場面展開等を記入したイラスト原稿 1)授業に役立つ教材イラストの提供 を作った上でイラスト化している。 イラストを授業で使いたいという先生方の 本稿ではイラスト原稿作りで行った学習 要望をみると、「イラストは使いたいけれど自 場面の想定と期待される効果を中心に考察 分で描くのは難しい」、「教材(イラスト)を作 する。 っている時間がない」、「空き時間が無くて授 業展開を考えている隙がない(小学校)」な 2.研究の目的 ど、イラストの持つ学習効果はわかりつつも 教材イラストの開発目的は授業に役立つ 自ら作るには技術的な問題や時間的な制約 教材の提供であり、イラストを使った授業が、 があることがうかがわれる。このためイラスト 児童生徒にとって楽しいくわかりやすいことを は編集や加工をしなくても直ぐに使えること 期待するものである。このために授業でイラス が求められる。 21 一方、教材としての完成度からみると素材 2)イラストの効果と教材化 (部品)としてイラストを提供する場合と直ぐ イラストを作る候補として挙げられた事項に に 使 え る よ う な 完 成 形 (教 材 ) で 提 供 す る 場 合 ついて学習上の効果、学習用途、利用場面、 とが考えられる。それぞれの特徴については 利用する形態を検討した。 次のようになる。 <イラストに期待する学習上の効果> 素材での提供:編集・加工すれば様々に利 ○楽しく学習させたい 用できる。データベース化したとき簡単な ○学習内容を生活化、実践化したい キーワードで検索できる。イラストの大き ○わかるを大切にしたい さやタッチ等が異なると統一感が損なわれ ○正確に教えたい る。目的に合ったイラストを揃えるのが難 ○児童生徒が自分で学ぶ力をつけたい しい。素材の性格上、制作意図が分かりづ <学習上の用途> らい。このため利用目的とのずれが生じや ○学習のきっかけ:イラストやマンガを使 すい。編集加工が必要になる。 って事例を提起し、学習への導入を図りた い。 完成形(教材)での提供:直ぐに使える。 ○ 説 明 ( 解 説 ): 実 験 の 手 順 や 操 作 を 説 明 汎用性が無く用途が限られる。キーワード する。現象や器具などの仕組みを説明する での検索は難しい。利用例など解説がない ○理解補助:文章を読んでもイメージでき と使い方がわからない。 ない学習者への支援情報として(国語読解 補助、音楽鑑賞) これらの点について検討した結果イラス ○視点や要点を示す:文章だけではわかり トは展開例などの説明をつけて完成形で開 づらい点の視覚化(体育とびばこなど) 発・提供することにした。 ○記憶:記憶を補助するツールとして(英 語のフラッシュカードなど) 教材の提供はデータベース化してキーワ ○まとめ・整理:ワークシートとして(実 ードで検索するのが一般的である。本イラスト 験 ・ 観 察 、総 合 学 習 、社 会 年 表 、調 べ 学 習 ) も当初はこの方法で進めてきたが、教科、単 ○自己評価:児童生徒に自己評価させるた 元別にまとまっていた方が利用しやすいとい め の わ か り や す い 学 習 カ ー ド( 休 み の 評 価 、 う意見が多くよせられた。これは既に利用す 学期末に行う自己評価など) る教科や教材が決まっている場合には、一々 ○遊び・ゲーム:紙芝居、カードゲーム、 キーワードを入れて検索するのは煩雑だとい すごろくなど うものだ。こうしたことから、キーワードでの検 ○工作として:ペーパークラフトの型紙な 索に加えて教科単元別の樹構造にして一連 ど のイラストをまとめて提供できるようにした。 <授業や学級活動などでの利用場面> また、一つの教材で用いるイラストの枚 ○教科の授業で使う:わかるを大切にした 数について検討したところ、ほとんどが複 い、きちんと教えたい、正確に教えたい、 数枚の構成となった。この事からも提供は 楽しく、飽きさせない工夫 教科単元別が適しているといえる。 ○学級活動で使う:理解と実践力を大切に イラストの制作リストを作る際に想定した利 したい(食育、安全教育、長期休業前の指 用者は主に学級担任、養護教諭、教科担当 導 な ど )、 標 語 や 注 意 事 項 の 解 説 や 喚 起 に 教 諭 、 栄 養 士 、 ALT 、 児 童 生 徒 で あ る 。 使いたい 22 ○道徳で使う:事例をイラストやマンガに 方法によって次のように分類した。 して内容を読み取りやすく提示したい ○解説・理解補助 ○保健指導で使う:養護教諭が保健指導な ○まとめ どに使う。標語や注意事項の解説や喚起に ○ゲーム 使いたい ○自己評価 ○安全指導で使う:安全教育の担当者など ○標語 が使う。標語や注意事項の解説や喚起に使 ○思考のきっかけ いたい ○印刷掲示 <利用形態> ⑥ 吹 き 出 し ( 吹 き 出 し に 入 れ る 言 葉 ): イ ○拡大印刷:掛け図、教室掲示、ポスター ラスト中の登場人物に解説させる場合に語 等 らせる言葉 ○プロジェクター投影:パソコンやメモリ ⑦ 解 説 ( イ ラ ス ト 上 で 表 示 す る 解 説 ): 文 に取り込んで投影 章での解説や文字での表現が必要な場合に ○印刷配布:学習カードや資料として印刷 挿入文字・文の指定 して配布 ⑧教材活用例:学習展開案や利用例、活用 ○印刷掲示:紙芝居、フラッシュカード、 アイディア等を記載 カードゲーム、説明書、学習カード、型紙 ⑨関連イラスト:手順や時間の流れなど複 などとして印刷、印刷の上パウチして使う 数のイラストで構成しているもの (体育、野外学習) ○パソコンで利用:オーサリングツール、 作成したイラスト原稿はイラストレータ ワープロなどに取り込んで個別支援など に渡してイラスト化を図った。 ○工作用:ペーパークラフトの型紙などと イ ラ ス ト は A5 版 、 イ メ ー ジ デ ー タ に し して利用 た と き の サ イ ズ は 300dpi と し た 。 3)イラスト作成原稿とイラスト化 教材作成リストを基に学習上の効果、学習 用途、利用場面、利用する形態等の検討を 行いイラスト作成原稿を作った。 イラスト制作原稿の項目と記載内容は次の 通りである。 ①教科、単元:学校種類と教科名、単元名 ②タイトル:イラストに付けたタイトルで <小学 3 年国語「サーカスのライオン」読 子どもにも分かる呼称を心がけた。 解支援用教材> ③イラストシーン:どの様なイラストシー ンにするのかを文章によって表した。必要 な場合には絵コンテも加えた。 ④使用アイテム:イラストの中にどの様な アイテムを描くのかを示すものである ⑤イラスト種類:イラストは授業での利用 23 作成には小中学校の先生や校長経験者な ど多くの方々にアイディアを出してもらう とともに教材分析からイラスト原稿の作成 に関わっていただいた。ここに感謝を申し 上げる。 <食育カルタ:一部> < 情 報 教 育 ( 道 徳 ) マ ン ガ 「 個 人 情 報 」: 一部> < 小 学 校 音 楽「 鑑 賞 ピーターとおおかみ」 イメージ化補助として:一部> <国語(学活)教訓的慣用句:一部> 参考文献 1 ) 小 松 幸 廣 ( 2 0 0 9 )「 小 中 学 校 向 け イ ラ <小学校英語 カ ー ド ゲ ー ム 「 動 作 」: 一 ス ト 教 材 の 開 発 と 日 本 語 教 育 で の 活 用 」. 部> 日本語教育連絡会議報告書 2 ) 松 田 知 子 ( 2 0 0 7 )「 配 慮 を 要 す る 児 童 4.まとめ へ の 一 斉 授 業 に お け る 個 別 支 援 」. 平 成 1 8 これらイラストを使った授業での評価は 年度 研究協力者研究報告書 わかりやすいと概ね好評である。小学校国 3 ) 小 松 ・ 松 田 ( 2 0 0 7 )「 教 材 用 イ ラ ス ト 語で行った授業研究では、学習が遅れがち の 制 作 と デ ー タ ベ ー ス 化 」. 日 本 科 学 教 育 な児童に対しての支援としてイラストが有 学会年会論文集 効であることが確かめられた。 本イラストは著作権フリーになっており 参考資料 利用情報が付加してあるので、パソコンに CASTELJ 日 本 語 教 育 用 イ ラ ス ト : 取り込んで直ぐに利用できるできるように http://202.23.86.77/castelj2/ なっている。これらのイラストを多く利用 イ ラ ス ト 教 材 デ ー タ ベ ー ス : していただければ幸いである。 http://202.23.86.77/kyouzai/ 24
© Copyright 2024 Paperzz