スライド 1

先進機能物質研究センター
年報 2008
はじめに
先進機能物質研究センター
センター長
高畠 敏郎
広島大学は「平成16~21年度の中期計画」において「世界をリードし得る学術研究領域を選び出し,
重点的な育成を図ることにより,研究拠点形成を促進する」と定めました。これに基づいて,先進機能物
質研究センターは学内共同教育研究施設として平成18年4月1日に設立されました。以来,当センター
は,革新的機能を有する物質を設計・創製し,物質科学分野の新しい研究領域を創出するとともに,若手
研究者を育成し,国際的な研究教育の拠点となることを目指して,活動してきました。平成20年度の活動
と研究成果を年報としてまとめましたので,忌憚の無いご意見やご助言を頂ければ幸いです。
本センターの組織は,「機能物質創製」,「機能開拓」,及び「マテリアルデザイン」をそれぞれ担当する
三つの部門からなり,それらが互いに協力することによって従来の部局の壁を越えたプロジェクト研究を
推進しています。推進している六つのプロジェクトは,国内外の研究ネットワークの要としての役割も果た
しています。各プロジェクトは固有の外部資金をもっていますが,当センター全体の運営経費としては,特
別教育研究経費(事業名:先進機能物質の推進)が平成21年度までは措置されています。
発足当初のプロジェクトは,「ナノ空間を利用する新機能物質開発」,「高容量ナノ複合水素貯蔵物質
の創製」,「複合的秩序を有する機能物質の創製と秩序機構の解明」,「分子集積デバイス材料開発」の
四つでした。平成19年度に「微小スケール量子機能物質のエレクトロニクス」,更に本年度は「ソフトマタ
ーの機構解明と新機能開拓」のプロジェクトを立ち上げました。それらの成果ハイライトを本年報にまとめ
ています。
大学院教育としては,学外や海外の著名な講師を招いて,5研究科共通セミナーの「物性セミナー」を
開催しています。本年度は学内教員が講師を務めたものも含めて計32回開催し,理工系大学院教育に
貢献しました。副センター長の小島由継教授は「水素エネルギー利用開発研究会」を2回主催し,その指
導学生を中心として「水素若手研究会」を開催しました。また,韓国成均館大学で開催した「広島大学-成
均館大学 先進機能物質に関する第2回セミナー」には,本センターのプロジェクトに関わる教員と院生
20 名が参加しました。これらのセミナーや研究会では,大学院生や若手研究者が最新の研究成果を発
表・討論しました。その結果,ユニークなアイデアが創出されるとともに,革新的機能を有する物質の設
計・創製を目指している研究者ネットワークの形成が進みました。学内においても,自然科学研究支援開
発センターからの支援を受けて,また放射光科学研究センターとの強い連携によって物質科学分野の研
究ネットワークが強化されています。
本年度末には外部評価を受けました。組織とスペースのあり方,全国の研究拠点との連携の進め方な
どについて頂いた助言を活かして,本センターを名実ともに先進機能物質研究の世界的拠点に発展させ
ていく所存でございますので,皆様には,これまで同様の温かいご支援をお願いする次第です。
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目
次
1.挨拶等
○センター長挨拶
1
○目次
2
○組織図
3
○センター規則
4
2.重点プロジェクト研究成果報告
7
ナノ空間を利用する新機能物質開発
8
複合的秩序を有する機能物質の創成と秩序機構の解明
10
分子集積デバイス材料開発
12
ソフトマターの機構解明と新機能開拓
14
高容量ナノ複合水素貯蔵物質の創製
16
微小スケール量子機能物質のエレクトロニクス
18
3.部門別成果報告
21
3.1 機能物質創製部門
22
3.2 機能開拓部門
35
3.3 マテリアルデザイン部門
44
4.センター活動内容
51
4.1 主催・共催会議報告
52
4.2 博士論文題目
67
4.3 特許出願状況
68
5.外部評価委員会報告
71
-2-
先進機能物質研究センター 組織図
センター長 高畠敏郎
運営委員会
高畠,山中,宇田川,小口,山本
副センター長 小島由継
井上,小島,世良,浴野,播磨,市川
マテリアルデザイン
部門長 小口多美夫
機能物質創製
部門長 山中昭司
機能開拓
部門長 宇田川眞行
マテリアルデザイン
機能物質創製部門
機能開拓部門
部門(7名)
(14名)
(8名)
重点プロジェクト
 複合的秩序を有する機能物質の創製と秩序機構の解明
リーダー:小口多美夫
 ナノ空間を利用する新機能物質開発
リーダー:山中昭司
 分子集積デバイス材料開発
リーダー:播磨裕
 高容量ナノ複合水素貯蔵物質の創製
リーダー:小島由継
 微小スケール量子機能物質のエレクトロニクス
リーダー:八木隆多
 ソフトマターの機構解明と新機能開拓
リーダー:戸田昭彦
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広島大学先進機能物質研究センター規則(平成18年3月31日規則第84号)
(趣 旨)
第1条
この規則は,広島大学学則(平成16年4月1日規則第1号)第18条の規定に基づき,広島大学
先進機能物質研究センター(以下「センター」という。)の管理運営に関し必要な事項を定めるも
のとする。
(目 的)
第2条 センターは,広島大学(以下「本学」という。)の学内共同教育研究施設として,革新的機
能を有する物質を設計・創製し,物質科学分野の新しい研究領域を創出するとともに,若手研
究者を育成し,国際的な研究教育の拠点となることを目的とする。
(組 織)
第3条
センターに,次の職員を置く。
(1)
センター長
(2)
副センター長
(3)
専任教員
(4)
その他必要な職員
2 センターに,前項に掲げるもののほか,研究員又は客員研究員を置くことができる。
第4条
センター長は,本学専任の教授をもって充てる。
2 センター長は,学術室センター等推進部門(以下「推進部門」という。)の意見を聴いて,学長
が任命する。
3 センター長は,センターの業務を掌理する。
4 センター長の任期は,2年とし,再任を妨げない。
5 センター長が辞任を申し出たとき,又は欠員となったときの後任者の任期は,その任命の日か
ら起算して1年を経過した日の属する年度の末日までとする。
第5条
副センター長は,本学専任の教授又は助教授をもって充てる。
2 副センター長は,推進部門の意見を聴いて,学長が任命する。
3 副センター長は,センター長の職務を補佐する。
4 副センター長の任期は,2年とする。ただし,4月2日以降に任命された場合の任期は,その任
命の日から起算して1年を経過した日の属する年度の末日までとする。
5 副センター長の再任は,妨げない。
第6条
センターの専任教員は,推進部門の意見を聴いて,学長が任命する。
第7条
研究員は,本学の教員をもって充てる。
2 研究員は,推進部門の意見を聴いて,学長が任命する。
3 研究員の任期は,2年とし,再任を妨げない。
-4-
4 客員研究員は,学外の研究者をもって充てる。
5 客員研究員は,推進部門の意見を聴いて,学長が委嘱する。
6 客員研究員の任期は,1年とし,再任を妨げない。
(運営委員会)
第8条
センターに,広島大学先進機能物質研究センター運営委員会(以下「運営委員会」という。)
を置く。
第9条
運営委員会は,次に掲げる委員で組織する。
(1)
センター長及び副センター長
(2)
大学院総合科学研究科,大学院理学研究科,大学院先端物質科学研究科及び大学院工学研
究科が,それぞれその教授又は助教授のうちから推薦する者1人
(3)
センターの専任教員(教授又は助教授に限る。)
(4)
運営委員会が必要と認めた者若干人
2 委員は,学長が任命する。
3
第1項第2号及び第4号の委員の任期は,2年とし,4月1日に任命することを常例とする。ただ
し,4月2日以降に任命された場合の任期は,その任命の日から起算して1年を経過した日の属す
る年度の末日までとする。
4 第1項第2号及び第4号の委員の再任は,妨げない。
第10条
運営委員会は,センターに関し次に掲げる事項を審議する。
(1)
管理運営の基本方針(教員人事及び予算の原案作成等を含む。)に関すること。
(2)
その他センターの運営に関すること。
第11条
運営委員会に委員長を置き,センター長をもって充てる。
2 委員長は,運営委員会を招集し,その議長となる。
3 委員長に事故があるときは,委員長があらかじめ指名した委員が,その職務を代行する。
第12条
運営委員会は,必要と認めたときは,委員以外の者の出席を求め,その意見を聴くこと
ができる。
(運営支援)
第13条
センターの運営支援は,学術部において行う。
(雑則)
第14条
附
この規則に定めるもののほか,この規則の実施に関し必要な事項は,センターが定める。
則
この規則は,平成18年4月1日から施行する。
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2. 重点プロジェクト成果報告
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ナノ空間を利用する新機能物質開発
研究メンバー
研究推進リーダー 山中 昭司(工学研究科・教授)
共同研究者 高畠敏郎(先端物質科学研究科・教授),梅尾和則(自然開発センタ
ー・准教授),鈴木孝至(先端物質科学研究科・教授),宇田川眞行(総合科学研究科・教授),荻田典男
(総合科学研究科・准教授),犬丸 啓(工学研究科,准教授),島田賢也(放射光科学研究センター・准
教授),佐藤 仁(放射光科学研究センター・准教授)
研究概要
物質には様々な“すきま”が含まれる。本プロジェクトでは,特に,ナノメータースケールのカゴ状の“す
きま”を有する3次元ネットワーク物質や,層間に“すきま”を有する層状結晶を中心に,構造の特徴を利
用して新規機能物質を開発する。本プロジェクトを融合の場として,化学と物性物理研究者が連携を密に
し,新研究領域の樹立を目指す。
主要な研究成果(20 年度)
(1)山中:層状窒化物TiNClのインターカレーションによる電子ドープを行い,ハニカム系だけでなく,直交
格子系においても超伝導体となることを明らかにした。この系では,アルカリ金属だけでなく,ピリジンのよ
うな有機塩基のインターカレーションによっても,超伝導を実現できることを示した。La-Si二元系の高圧状
態図を作成し,新規クラスレート超伝導体をLaSi5およびLaSi10を発見し,結晶構造を明らかにした。
(2)高畠:K8Ga16Sn30の単結晶育成に始めて成功し,負の巨大熱電能を観測した。Kはカゴの中心に位置
し,格子熱伝導率はBa8Ga16Sn30よりも数倍大きいことを見出した。Ba8Ga16Ge30のBaゲストは中心に位置
するとされていたが,p型とn型に依らず,わずかに非中心であることを確認した。
(3)宇田川:Ⅰ型クラスレート化合物Sr8Ga16Si30-xGex の単結晶におけるoff-centerがGe置換による異方的
膨張であり,off-centerと格子熱伝導率の低下との相関を明らかにした。
活動目標(21 年度)
層状結晶 ZrNCl および HfNCl において,Cl/F イオン交換により,フッ化物結晶を合成する。イオン交換に
より超伝導体となることを見いだしている。キャリヤードープの機構を解明する。ホウ素ドープグラファイトの
合成に着手している。高結晶性試料の高圧合成を進め,共同研究を推進する。クラスレートの熱伝導率
抑制におけるゲストの電荷とカゴの電荷キャリア役割を明らかにする。新規カゴ状物質を合成し,熱電変
換性能の増強を図る。それらのラットリングの対称性やエネルギーを決めるために,ラマン散乱,中性子
散乱,超音波実験を共同で進める。特にラマン散乱により熱電特性向上に非中心回転運動が有効との
知見に基づき,ゲスト原子の非中心化の機構を解明する。
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研究論文
[1] S. Yamanaka, et al., "Topochemical 3D polymerization of C60 under high pressure at elevated
temperatures," J. Amer. Chem. Soc., 130, 4303-4309 (2008).
[2] F. Zhuge and S. Yamanaka, "Ternary compound B4CN4 prepared by direct nitridation of B4C," J. Alloys
Comp., 466, 299-303 (2008).
[3] H. Horie, et al, "Controlled thermal decomposition of NaSi to derive silicon clathrate," J. Solid State
Chem., 182 129-135 (2009).
[4] M. A. Avila, et al, “Ba8Ga16Sn30 with type-I clathrate structure: Drastic suppression of heat conduction”,
Appl. Phys. Lett. 92, 041902 (1-3) (2008).
[5] K. Suekuni, et al, “Simultaneous structure and carrier tuning of dimorphic clathrate Ba8Ga16Sn30”, Phys.
Rev. B, 77, 235119 (1-8) (2008).
[6] Y. Jiang, et al, “EXAFS study of n- and p-type Ba8Ga16Ge30”, Phys. Rev. B, 78, 014411 (1-11) (2008).
[7] T.Hasegawa, Y.Takasu, N.Ogita, M.Udagawa, J.Yamaura, Y.Nagao, and Z.Hiroi; “Raman scattering in
KOs2O6”, Phys. Rev. B, 77 064303/1-6 (2008).
[8] Y. Takasu, et al; “Off-Center Rattling and Anisotropic Expansion of Type-I Clathrates Studied by
Raman Scattering”, Phys. Rev. Letters. 100, 165503/1-4 (2008).
報道発表
毎日新聞 平成20年5月20日
中国新聞 平成20年5月31日
科学新聞 平成20年6月6日
口頭発表を行った学会
国内:(1)日本物理学会年次大会,(2)日本化学会年会,(3)セラミックス協会年会,(4)日本熱電学会学術
講演会
国際会議等:(i) Intern. Conf. on Strongly Correlated Electron Systems (SCES08) (3件), (ii) 25th Rare
Earth Research Conf. (1件)
主要な外部資金
科学研究費基盤研究(S) 1 件, 科学研究費基盤研究(A) 1 件,科学研究費新学術領域研究 1 件
科学研究費特定領域研究 3 件,科学研究費基盤研究(B)3件, 科学研究費基盤研究(C)
国際共同研究の実績
(i) Prof. J. S. Tse, University of Saskatchewan, Canada
(ii) Prof. A. San-Miguel, University Lyon 1 and CNRS, France
(iii) Prof. F. Bridges, University of California, Santa Cruz, USA
(iv) Dr. D.T. Adroja, ISIS, Rutherford Appelton Lab., UK
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複合的秩序を有する機能物質の創成と秩序機構の
解明
研究メンバー
研究推進リーダー 小口 多美夫(先端物質科学研究科・教授)
共同研究者 鈴木孝至(先端物質科学研究科・教授),井上克也(理学研究科・教
授),城健男(先端物質科学研究科・教授),速水真也(理学研究科・准教授),獅子堂達也(先端物質科
学研究科・助教),秋田素子(理学研究科・助教),中村文彦(先端物質科学研究科・助教)
研究概要
マルチフェロイック物質の第一原理計算,新規マルチフェロイック物質の創製と純良単結晶の育成,キ
ラル分子磁性体の創製とその磁気構造の解明に関する研究を行った。
主要な研究成果(20年度)
(1)マルチフェロイック物質PbVO3とBiCoO3の磁性に関してスピン軌道
相互作用を含めた第一原理計算からその磁気異方性を議論した。類
似の結晶構造と電子状態をもつ両酸化物が異なる磁気異方性をもつ
起源が摂動論的な考察により明らかとされた。
(2)新規マルチフェロイックス系(C2H5NH3)2CuCl4において,単結晶
試料の温度を変化させながら高温偏光顕微鏡観察を行った。その結
果,Ⅰ相で明確なドメイン境界の消失を観測した。これは,これまで発
表された論文においてⅠ相の空間群がBmabであるとの主張を明確
に否定する。本物質群における構造相転移からの類推では,Ⅰ相は
I4/mmm,Ⅱ相はBmabであると推測され,本物質の構造相について
大幅な見直しが必要であることを初めて見出した(図1)。
図1
(3)クロム3価,マンガン2価を含むキラル分子磁性体の単結晶((R)および
(S)-GN)の単結晶のスピンダイナミクスについて,SPring-8, 九州工業大学
と共同研究を行い,キラル磁気構造特有の巨大非線形磁化率の発現を明
らかにした(図2)。この現象は全く新しい磁場発振の可能性を持っている。
活動目標(21年度)
(1)マルチフェロイック関連物質の電子状態に関して第一原理計算からア
プローチする。また,マルチフェロイック物質における複数秩序間の交差
相関効果を調べるため,ノンコリニア磁性を扱える第一原理計算手法を開
発し,逆ジャロシンスキー・守谷相互作用項の定量的評価を行う。
(2)(CnH2n+1NH3)2MeCl4の各種単結晶育成の継続,強弾性の関与(即ち外部応力による制御)見据え
た磁性・誘電性の交差相関効果の探索等を行う。また,銅化合物の構造は, 図2:キラル磁性体((S)-GN)
これまでの報告が間違いであることを突き止めたが,これに応じ各構造相
の高周波磁化率。基本波の
10%の強度で3次非線形磁
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化率が観測されている。
の正しい空間群の決定を行う。
(3)新規キラル磁性体の構築研究を進めるとともに,中性子散乱,非線形磁化率測定等の磁気構造解
明,磁気ダイナミックスに関する研究をさらに進める。
研究論文
[1] P. K. Baettig and T. Oguchi, “Why are garnets not ferroelectric? – A theoretical investigation of
Y3Fe5O12”, Chem. Mater. 20, 7545-7550 (2008).
[2] R. Morgunov, et al., “Spin solitons and spin waves in chiral and racemic molecular based
ferrimagnets”, Phys. Rev. B, 77, 184419 (2008).
[3] D. Kato, et al., “Synthesis and Magnetic Properties of Conjugated Radical Polymer”, Chem. Lett.,
2008, 694-695 (2008).
[4] Y. Yoshida, et al., “Crystal Structures and Magnetic Properties of [MnII(rac-pnH)(H2O)][CrIII(CN)6]・
H2O and Its Dehydrated Form”, Chem. Lett., 37, 586-587 (2008).
[5] T. Fujta, et al., “Commensurate to incommensurate transition in the chiral helimagnet CuB2O4”, J.
B
Phys. Soc. Jpn., 77, 053702 (2008).
[6] K. Nakao, et al., “LIESST effect and cooperativity of a 2-D Hofmann-type compound”, Chem. Lett.,
37, 292-293 (2008).
[7] R. B. Morgunov, et al., “Spin solitons and waves in chiral molecular ferrimagnets”, J. Exp. Thore.
Phys., 107. 74-82 (2008).
[8] Y. Yamane, et al., “Mechanochemical synthesis and order-disorder phase transition in fluoride ion
conductor RbPbF3”, Solid St. Ionics, 179, 605-610 (2008)
[9] Y. Yamane, et al., “Superprotonic solid solutions between CsHSO4 and CsH2PO4”, Solid St. Ionics,
179, 483-488 (2008).
口頭発表を行った学会
(1)日本物理学会,(2)日本金属学会,(3)日本化学会,(4)分子構造討論会,(5)錯体討論会,(6)日本セラ
ミックス協会,(7)日本応用磁気学会,(i)MRS, (ii)E-MRS, (iii)International Conference on Molecular
Magnetism,(iv)APS, (v)The 11th Asian Workshop on First-Principles Electronic Structure Calculations,他
主要な外部資金
(1) 科研費補助金(特定領域研究),(2) 科研費補助金(学術創成研究),(3) 科研費補助金(基盤研究
(B)),(4) 科研費補助金(基盤研究(A)), (5) 科研費補助金(萌芽研究),(6) 科研費補助金(若手 B)
国際共同研究の実績
(i) Prof. Dr. Stefan Blügel, Jülich Research Center, Germany,(ii) Prof. Dr. Ole K. Andersen, Max-Planck
Institute, Germany,(iii) Prof. Arthur J. Freeman, Northwestern University, USA,(iv) Dr. Marcin Matusiak,
Polish Academy of Sciences, Poland,(v) Prof. Vladimir Sechovsky, Charles University, The Czech
Republic,(vi) Dr. Garry J. McIntyre, ILL, France,(vii) Dr. Clara Gonzaez, Zaragoza Univ., Spain,(viii)
Prof. Javier Campo, Zaragoza Univ., Spain,(ix) Prof. Fernando Palacio, Zaragoza Univ., Spain,他 12 名
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分子集積デバイス材料開発
研究メンバー
研究推進リーダー
共同研究者
播磨 裕(工学研究科・教授)
山本陽介(理学研究科・教授),大下浄治(工学研究科・教授),塩
野毅(工学研究科・教授),佐野庸治(工学研究科・教授),瀧宮和男(工学研究
科・教授),河内敦(理学研究科・准教授),今栄一郎(工学研究科・准教授),吉田拡人(工学研究科・准
教授),大山陽介(工学研究科・助教),宮碕栄吾(工学研究科・助教),駒口健治(工学研究科・助教)
研究概要
分子集積デバイスの新機能化や超高機能化,超高効率化を目指して,画期的な有機材料(低分
子系,高分子系,高分子系ナノコンポジット,有機/無機コンポジット)の開発を行う。
主要な研究成果(20 年度)
(1) FAU・BEAゼオライト転換過程の途中で界面活性剤を添加し,得られたメソ多孔体の構造規則性の違
いおよびゼオライト類似の橋掛け水酸基Si(OH)Alの観察から,ゼオライト由来のナノパーツの存在を初め
て明らかにした。(2) Me2Si(NtBu)(Flu)TiMe2触媒がノルボルネンとAlR3で保護したω-アルケニルアルコ
ールとのランダム共重に有効であることを明らかにした。(3) o-(フルオロシリル)(ボリル)ベンゼンの合成に
成功し,この化合物が高いフッ化物イオン親和性を示すことを明らかにした。また,o-(ヒドロシリル)(ボリル)
ベンゼンの特異な環化反応の反応機構を明らかにした。(4) 今までに全く合成さえ試みられていなかった
超原子価6配位炭素化合物の合成に成功し,エックス線により構造決定を行うこともできた。Chem. Ind.に
ハイライトとして取り上げられた。(5) 自己凝集能をもつ新規な可溶性有機半導体の構造-特性相関に
ついて検討し,薄膜中での分子配列が半導体特性に与える影響が極めて大きいことを見出した。(6) 分
子カプセル中に水素原子を安全かつ簡便に挿入する技術の開発に成功した。(7) アルコキシ置換ケイ
素-オリゴチオフェン交互ポリマーで金属酸化物表面を修飾する手法を開発し,色素増感太陽電池に応
用した。
活動目標(21 年度)
(1) 既存のゼオライト等から得られる構造ユニットをナノパーツとして用いた全く新しい概念のゼオライトの
自在設計・合成法(ゼオライト転換法)の確立を引き続き目指す。(2) Me2Si(NtBu)(Flu)TiMe2触媒のリビン
グ重合能を利用して極性基を有するノルボルネン共重合体の一次構造について検討する。(3) (フルオロ
シリル)フェニルメタル化合物を用いた新規典型元素化合物の合成とその構造および動的挙動に関する
研究をさらに推進する。(4) 超原子価 5 配位 15 族元素化合物に対してこれまで考えられていた位置異性
化機構を覆す新しい知見を提出したい。(5) これまでに開発した高性能な半導体材料のサンプル供給体
制を確立するとともに,従来の特性を超えるような移動度(>5 cm2/Vs)を持つ材料を開発する。(6) これま
でに得られた知見を基に色素増感太陽電池の高効率化を目指す。(7) ケイ素-π電子系ポリマーの反
応を利用した新しい有機-無機ハイブリッド材料の合成法の開発と合成したハイブリッド材料の機能性の
検討を行う。
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研究論文
[1] H.Jon, et al., “An insight into process involved in hydrothermal conversion of FAU to *BEA zeolite”,
Chem. Mater. 20, 4135-4141 (2008)
[2] T. Shiono, et al., “Random copolymerization of norbornene with higher 1-alkene with
ansa-fluorenylamidodimethyltitanium catalyst”, Macromolecules, 41, 8292-8294 (2008)
[3] T. Yamaguchi, et al. “Synthesis and structure of a hexacoordinate carbon compound”, J. Am. Chem.
Soc., 130, 6894-6895 (2008)
[4] A. Kawachi, et al., “Synthesis of B/Si bidentate Lewis acids, o-(fluorosilyl)-(dimesitylboryl)benzenes,
and their fluoride ion affinity”, J. Am. Chem. Soc. 130, 4222-4223 (2008)
[5] K. Takimiya et al., “Molecular ordering of high-performance soluble molecular semiconductors and
re-evaluation of their field-effect transistor characteristics”, Adv. Mater., 20, 3388–3393 (2008).
[6] Y. Harima et al., “Interference and electro-optical Kerr effects responsible for electroabsorption
spectra of transparent Parylene-C films”, Chem. Phys. Lett., 457, 115-118 (2008).
[7] J. Ohshita et al., “Selective Formation of Rearranged Silenes from Polysilylenone via 1,3- and
1,5-Silyl Migration”, Organometallics, 27, 5423-5425, (2008)
口頭発表を行った学会
(1) 日本化学会, (2) 日本化学会中四国支部大会, (3) 高分子学会, (4) 電気化学会, (5) 触媒学会, (6)
ゼオライト学会, (7) 石油・石油化学討論会, (8) 有機反応若手の会, (9) 有機ケイ素化学国際会議, (10)
応用物理学関係連合講演会, (11) 基礎有機化学討論会, (12) 典型元素化学討論会, (13) 有機 π 電
子系シンポジウム, (14) 無機高分子研究討論会, (i) International Symposium on Creation and Control of
Advanced Selective Catalysis, (ii) International Symposium on Materials Chemistry, (iii) International Thin
film Conference 08, (iv) IMID/IDMC/ASIA DISPLAY 2008, (v) International Display Workshop 08, (vi)
International Synposium on Organosilicon Chemistry, (vii) Post ISOS XV Symposium, (viii) Iketani
Conference
主要な外部資金
(1) 新エネルギー・産業技術総合開発機構,
(2) JST 重点地域研究開発推進プログラム(育成研究),
(3) 科学研究費補助金(基盤(S)) 1 件
(4) 科学研究費補助金(特定領域研究) 3 件
(5) 科学研究費補助金(基盤(B)) 5 件
国際共同研究の実績
(i) Prof. Jozef Drabowicz, Polish Academy of Science,Porland
(ii) Assoc. Prof. Juan Casado, Maraga University, Spain,
(iii) Prof. Jan O. Jeppesen, University of South Denmark, Denmark
(iv) Prof. Y.-W. Kwak, Kyungpook National University,Korea
(v) Prof. L. Dunsch, IFW, Germany
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ソフトマターの機構解明と新機能開拓
研究メンバー
研究推進リーダー 戸田 昭彦 (総合科学研究科・教授)
共同研究者 田口健(総合科学研究科・准教授), 梶岡寛(総合科学研究科・研究
員), 彦坂正道(総合科学研究科・特任教授), 岡田聖香(産学連携センター・研究
員), 渡辺香織(産学連携センター・研究員), 田中晋平(総合科学研究科・准教授), 佐藤清隆(生物圏
科学研究科・教授), 上野聡(生物圏科学研究科・准教授), 野々村真規子(理学研究科・助教)
研究概要
粘弾性場に支配された高分子結晶化,機能性高強度高分子における微細な
ナノ配向結晶化,脂質膜の作るナノ空間からの蛋白質結晶化,コロイド分散系に
おけるソフトマターの結晶化,高分子共重合体のメソフェイズ間転移キネティクス
の解明に関する研究を行った。
主要な研究成果(20 年度)
(1)未解決の問題であった高分子球晶形成機構に関して,自発歪みと界面不安
定性が動的にカップルする効果を検討し,分岐と再配向が連携する機構を提案
し,成長界面におけるラメラ晶の直接観察により定量的に検証した(図1)。(2)超
図1:ポリエチレン
薄膜からの高分子結晶化における分岐成長パターンの起源と物理機構について, バ ン ド 球 晶 と そ の
結晶性・非晶性ポリスチレンのブレンド超薄膜からの結晶化を検討した。分岐パタ
成長先端における
微結晶
ーン形成とその膜厚依存性について,構造特性長がブレンド試料粘度に依存することが明らかとなった。
(3)典型的汎用高分子であるポリプロピレンの過冷却融液を 102 s-1以上の超臨界伸長歪み速度下で結
晶化することにより,「ナノ配向結晶体」が生成することを見いだした。さらにナノ配向結晶が金属並みの
超高性能を示すことを明らかにした。(4)タンパク質結晶化時の溶液添加剤であるポリエチレングリコール
について,NaCl存在下での相挙動を調べ,格子モデルによる解析を試みた。その結果,3元系の格子モ
デルによって予測することが可能となった。また,蛍光相関分光測定が可能な共焦点顕微鏡を開発した。
(5)代表的な油脂トリラウリンの球晶形成機構を解明するため,マイクロビームX線回折測定を行った。球
晶は中心から動径方向にラメラ面を向けて成長し,分子の長軸どうしが相互作用し結晶化していくことが
明らかとなった。(5)モード展開による線形安定性と数値計算によって,高分子ブロック共重合体におけ
るFCC構造の安定性を明らかにした。また,密度汎関数理論を非線形ダイナミクスに拡張し,拡散係数,
音響減衰,音波のスピードなどを求めることができた。
活動目標(21 年度)
(1)高分子球晶の時空パターン形成機構について,場の勾配下での成長界面不安定性機構を明らかに
する。勾配場としては,圧力勾配,温度勾配の効果を実験的に検討する。(2)低分子量域を含む広範囲
の分子量やブレンド比の異なったブレンド超薄膜試料からの結晶成長パターン変化の定量的評価から,
分岐機構の詳細について検討する。また,蛍光ラベル等を施した非晶成分を用い,結晶化に伴う非晶成
- 14 -
分の拡散挙動と動的構造形成過程を明らかにする。(3)高分子の「ナノ配向結晶体」の生成メカニズムと
超高性能発現メカニズムを,放射光によるX線散乱,各種顕微鏡,力学・熱測定などを用いて解明する。
(4)ゲル中など,タンパク質分子の拡散を拘束するような環境下におけるタンパク質の動的挙動と,その
相挙動の相関を明らかにする。拘束空間中でのタンパク質分子の拡散挙動を光散乱法,蛍光顕微鏡法
などを用いて調べ,環境がタンパク質溶液の相挙動に与える影響について明らかにしていく。(5)トリラウ
リンの球結晶形成機構について,結晶による空間充填機構,分岐機構を検討する。また,パーム油含有
マーガリン中に見られる油脂の粗大結晶の成長機構を調べる。(6)弱偏析領域における FCC 構造と
BCC 構造のレオロジーを定式化し,貯蔵弾性率および損失弾性率を数値的,解析的に比較する。
研究論文
[1] A. Toda, et al., "Instability-Driven Branching of Lamellar Crystals in Polyethylene Spherulites",
Macromolecules, 41, 7505-7512 (2008).
[2] A. Toda, et al., "Branching and Higher Order Structure in Banded Polyethylene Spherulites",
Macromolecules, 41, 2484-2493 (2008).
[3] H. Kajioka, et al., "Branching and Re-orientation of Lamellar Crystals in Non-Banded Poly(butene-1)
Spherulites", Polymer, 49, 1685-1692 (2008).
[4] S. Ueno, et al., "Synchrotron radiation microbeam X-ray analysis of microstructures and the
polymorphic transformation of spherulite crystals of trilaurin", Crystal Growth & Design 8, 751-754
(2008).
[5] Y. Shinohara et al., "Microbeam X-ray diffraction analysis of interfacial heterogeneous nucleation of
n-hexadecane inside oil-in-water emulsion droplets", Crystal Growth & Design 8, 3123-3126 (2008).
[6] S. Majaniemi, et al., "First-principles and Phenomenological Theories of Hydrodynamics of Solids",
Eur. Phys. J. B66, 329–335 (2008).
[7] M. Nonomura, "Stability of fcc structure in block copolymer system", J. Phys.: Condens. Matter 20,
465104 (2008).
口頭発表を行った学会
(1) 日本物理学会,(2) 高分子学会,(3) 日本結晶成長学会,(4) 日本農芸化学会,(5) 日本油化学会,
(i) International Symposium on Non-equilibrium Soft Matter , (ii) EuroLipid 2008 , (iii) IUPAC
Symposium MACRO2008
主要な外部資金
(1)科学研究費補助金(特定領域研究),(2)科学研究費補助金(一般研究(c)),(3)科学研究費補助
金(若手(B)),(4)科学技術振興機構・育成研究(5)奨学寄附金 3 件
国際共同研究の実績
(i) Prof. W. Hu, Nanjing University, China, (ii) Prof. S. Rastogi, Loughborough University, UK, (iii) Prof.
Dr. M. Grant, McGill University, Canada, (iv)Dr. S. Majaniemi, McGill University, Canada
- 15 -
高容量ナノ複合水素貯蔵物質の創製
研究メンバー
研究推進リーダー 小島 由継(IAMR・教授)
共同研究者 藤井博信(IAMR・客員教授),秋葉悦男(産業技術総合研究所・客員
教授),市川貴之(IAMR・准教授),小口多美夫(先端物質科学研究科・教授),宇田川眞行(総合科学
研究科・教授),星野公三(総合科学研究科・教授),荻田典男(総合科学研究科・准教授),浴野稔一
(総合科学研究科・教授),杉本暁(総合科学研究科・助教),小島健一(総合科学研究科・教授),西山
文隆(工学研究科・助教)
研究概要
機械的粉砕法により軽元素(Li, B, C, N, Mg, Na)を含む種々のナノ複合物質(触媒添加MgH2 ,
Metal-C-H,Metal-N-H,Metal-B-H)や金属水素化物-アンモニア系を創製し,それらの特性評価と構造
解析を行った。また,軽元素水素化物単結晶のラマン散乱測定により構造を解析した。
主要な研究成果(20 年度)
(1)アルカリ金属水素化物 (LiH, NaH,KH) がNH3 と室温で反応し,水素を放出することを見出
した。水素放出後生成したアルカリ金属アミド (LiNH2, NaNH2, KNH2)は 573K以下の水素フロー
下(0.5 MPa)で反応して,水素化物とNH3に戻った。水素化
(2) 市販 LiH(結晶子サイズ:70nm)とミリングした LiH
(活性化 LiH,結晶子サイズ:28nm)のX線光電子分光
(XPS) 実験を行った(図1)。市販 LiH は LiOH に基づくス
強度 / arb. units
物の反応性はLi<Na<Kの順に向上した。
LiOH
LiOH
グラファイト
LiH
LiOH
LiH
活性化LiH,
250 eV
活性化LiH,
100 eV
LiH, 250 eV
LiOH, 245 eV
ペクトルを有し,LiOH 層に被覆されていることがわかった。
一方,活性化 LiH には市販 LiH では存在しないピークが明
25
20
15
10
5
0
結合エネルギー / eV(価電子帯)
確に観測された。これは LiH に基づくものと考えられた。
(3)LiNH2のラマン散乱実験を行い,その単結晶偏光依存
図1
活性化 LiH と LiH の XPS
性から振動を帰属し,温度依存性からLiが受ける4次の
スペクトル(入射 X 線のエネル
非調和性を決定した。その結果,100K以上ではLiの非
ギー:100 -250 eV)
調和性とNH2の回転のため,構造的に不安定な状態にな
っていることが示された。
(4)マグネシウム系ナノ複合水素貯蔵物質(Nb2O5添加Mg)の重水素吸蔵実験から求めた活性化エ
ネルギーEabsは 35kJ/molH2と見積もられ,軽水素吸蔵実験から求めた値(20kJ/molH2)に比べ小さ
いことがわかった。一方,水素放出過程の活性化エネルギー(Edes)は,Edes (D2) ≒ Edes(H2) ~ 70
kJ/molH2であり,MgH2の標準生成エンタルピー (76 kJ/mol H2)と同程度の値を示した。これから,
水素吸蔵と放出反応の律速過程は異なるものと考えられた。
- 16 -
活動目標(21 年度)
ナノ複合水素貯蔵物質,金属水素化物-アンモニア系や軽元素水素化物の単結晶について,観
察・分析 [固体高分解能核磁気共鳴測定(NMR),ラマン散乱,X線吸収分光分析(XAS),X線光
電子分光分析(XPS),走査型トンネル顕微鏡観察,イオンビーム分析,熱拡散率測定等]や第一原
理計算を行い,種々の水素吸蔵状態での動的挙動や構造安定性を解析する。また,これらの物質
について,放射光を用いた X 線回折,中性子回折・散乱の実験を行う。
研究論文
[1] H.
Miyaoka,
et
al.,
“Characterization
of
hydrogen
absorption/desorption
states
on
lithium-carbon-hydrogen system by neutron diffraction”, J. Appl. Phys., 104, 053511 (2008).
[2] S. Isobe, et al.,, “Evaluation of enthalpy change due to hydrogen desorption for lithium amide/Imide
system by differential scanning calorimetry”, Thermochimica Acta, 468, 35 (2008).
[3] W. Ishida, et al.,, “Hydrogenation properties of lithium intercalated graphite”, Carbon, 46, 1628
(2008).
[4] C. Wu, et al.,, “Hydrogen desorption properties of Li-BN-H system synthesized by mechanical
milling”, International J. Hydrogen Energy, 33, 3128 (2008).
[5] H.Y. Leng, et al., “Investigation of reaction between LiNH2 and H2”, J. Alloys. Compd. 463, 462
(2008)
口頭発表を行った学会
(1)日本物理学会年次大会,(2)日本金属学会春期大会,(3) 炭素材料学会年会,(4) 水素若手研究
会,(5)日本金属学会中四国支部大会,(6)水素若手研究会,(7)XAFS 討論会,(8)SPring-8 産業利
用報告会,(9)日本金属学会秋期大会,日本物理学会秋季大会,(10)触媒討論会,(11)JST Innovation
Bridge 広島大学研究発表会,(12)MH 利用開発研究会,(13)材料における水素有効利用研究会,
(14)HESS 水素エネルギー協会大会(15)FC EXPO2009
(i) 17th World Hydrogen Energy Conference, (ii) International Symposium on Metal-Hydrogen
Systems (Iceland), (iii) Carbon 2008 (Japan), (iv) Asia NANO 2008 (Singapore), (v) 日韓セミ
ナー (Korea), (vi) The Third LANL-NEDO-AIST Workshop on Fuel Cell Performance Improvement &
Hydrogen Storage, (vii) 2008 International Conference and Exposition on Hydrogen and PEM Fuel Cell
Technologies (台湾), (viii) The 3rd Japan-China Seminar on Hydrogen Storage Materials
主要な外部資金
委託研究(NEDO 水素貯蔵材料先端基盤研究事業-非金属系水素貯蔵材料の基礎研究-)
国際共同研究の実績
•
Prof. Bjorn Hauback, Institute for Energy Technology, Norway
•
Prof. Peter Edward, University of Oxford, UK
•
Dr. R. Kowalczyk, The University of Manchester, UK
•
Dr. Anthony Burrell, Los Alamos National Laboratory, USA
- 17 -
微小スケール量子機能物質のエレクトロニクス
研究メンバー
研究推進リーダー 八木 隆多(先端科学研究科・准教授)
共同研究者 高根美武(先端物質科学研究科・教授),浴野稔一(総合科学研究
科・教授),若林克法(先端物質科学研究科・助教),杉本暁(総合科学研究科・助
教)
研究概要
グラフェンの素子の磁気輸送現象測定による電子構造の研究,グラフェン・ナノリボンのエッジ状態の
解明,超伝導非平衡現象の制御と物理,極低温走査トンネル顕微鏡と分光による高温超伝導体のナ
ノスケール電子状態関する研究を行った。
主要な研究成果(20 年度)
(1) 1層から6層までのグラフェンの素子作製を行い,それらの低温輸送現象を調べ
た。単層においては,ディラックポイント付近で,正の磁気抵抗に続く異常な負の磁
気抵抗によって生じているカスプ状の磁気抵抗を発見した。グラフェン層数と正の磁
気抵抗の大きさの相関がキャリアポケットの生成と関連してい
ることを明らかにした。超伝導細線中における電荷インバラン
スの緩和が極めて弱い磁場によって制御されることを実験的
に示した。(2) アームチェア端グラフェン・ナノリボンの低エ
ネルギー領域において,準完全透過チャネルが現れることを
見出した.また,磁場を印加することによって,超伝導体細線
中における電荷インバランスの緩和を制御し得ることを理論
的に示した。(3) 層状窒化物高温超伝導体の原子像を初め
て観測し,これらの層状多形の電子状態のナノ分布に顕著な
違いを見い出した。また,ギャップ比が BCS 理論値の約 2.5
倍であることを発見した。これは,銅酸化物超伝導体や有機
超伝導体と同程度であり,従来の強結合理論では説明でき
ない。
図 1(上)シリコン基板上に作ったグラフェン(一
原子層のグラファイト)の光学顕微鏡写真。バーの
長さは 10μm。コントラストを調節してある。(下)
電子線リソグラフィーで素子の構造にした単層グ
ラフェンの光学顕微鏡写真。バーの長さは 5μm。
活動目標(21 年度)
(1) 高い移動度のグラフェンを作製し,グラフェンにおいてバリスティック系の実験をおこなう。また,超伝
導接合に現れると予想される特異なアンドレエフ反射などに関する研究を行う。(2) グラフェン・ナノリボ
ンにおける特異な量子伝導現象を,大規模数値シミュレーションによって詳細に検討する.また,超伝導
体中における非平衡準粒子の緩和現象についてさらに検討を進める。(3) 層状窒化物超伝導体多形
の電子状態のナノ分布の違いの原因を明らかにし,臨界温度との相関を解明するとともに,新鉄
ヒ素系高温超伝導体の電子対結合エネルギーについて微視的に解明する。
- 18 -
研究論文
[1] Y. Takane, “Asmyptotic behavior of the conductance in disordered wires with perfectly conducting
channels”, J. Phys. Soc. Jpn. 77, 014703 (2008).
[2] Y. Takane and K. Wakabayash, “Conductance fluctuations in disordered wires with perfectly
conducting channels”, J. Phys. Soc. Jpn. 77, 054702 (2008).
[3] Y. Takane and Y. Nagato, “Magnetic field effect on charge imbalance conversion in superconducting
wires”, J. Phys. Soc. Jpn. 77, 093713, (2008).
[4] K. Wakabayashi, “Peculiar electronic transport properties of nano-graphenes”, J. Phys. Chem. Solid.
69 (2008) 1162.
[5] K. Wakabayashi and M. Sigrist, “Enhanced conductance fluctuation due to the zero-conductance Fano
resonances in the quantum point contact on graphene”, J. Phys. Soc. Jpn. 77, 113708 (2008).
[6] T. Ekino, et al., “Temperature- dependent pseudogap-like features in tunnel spectra of high-Tc cuprates
as a manifestation of charge-density waves”, J. Phys. Condens. Matter 20 425218 (2008).
[7] T. Ekino, et al., “Pseudogap-like phenomena in cuprates as a manifestation of charge-density waves”,
Acta Physica Polonica A 114, 59 (2008).
[8] T. Ekino, et al., “Analysis of the pseudogap-related structure in the tunnel spectra of superconducting
Bi2Sr2CaCu2O8+d revealed by break-junction technique”, Low Temp. Phys. 34, 409 (2008).
[9] A. Sugimoto, et al., “Observation of local barrier height and electronic structure on cuprate
superconductor by STM/STS”, J. Phys. Conf. Ser. 100, 052003 (2008).
[10] A. Sugimoto, et al., “Nanoscale Modulation of Local Barrier Height on Bi-based Cuprate
Superconductors Observed by Scanning Tunneling Microscopy/Spectroscopy”, J. Phys. Soc. Jpn. 77,
043705 (2008).
口頭発表を行った学会
(1) 日本物理学会,(i) 29th International Conference on Physics of Semiconductor, (ii) International
Symposium on“Graphene Device: Technology, Physics and Modeling”, (iii) 25th International
Conference of Low Temperature Physics,
主要な外部資金
(1) 科学研究費補助金(特別推進研究),(2) 科学技術振興事業団戦略的創造研究推進事業(さきがけタ
イプ),(3) 科学研究費補助金(若手研究(B)),(4) 科学研究費補助金(基盤研究(B)),(5)広島大学藤
井研究助成基金
国際共同研究の実績
(i) Prof. Manfred Sigrist, Institute for Theoretical Physics, ETH-Zurich, Switzerland
(ii) Prof. Alexander M. Gabovich, Institute of Physics, National Academy of Ukraine,Kiev, Ukraine,
(iii) Dr. V. Drozd, Florida International University, Florida, USA.
- 19 -
- 20 -
3. 部門別成果報告
- 21 -
3.1 ▲機能物質創製部門▲
部門長 山中 昭司
部門の目的
本学における基礎・応用化学,物性物理,材料工学の研究者が,センターを拠点として連携を密にし,
得意とする研究手法を駆使して,未来材料の芽となる新物質を創製する。新エネルギーの創製と効率変
換のための物質開発,環境に優しい高分子材料,夢の超伝導材料開発,新規半導体デバイスの設計に
繋がる機能性有機材料開発を目指す。機能開拓部門およびマテリアルデザイン部門との連携により,基
礎から応用にわたる研究を効率的に推進する。
研究組織
部門長 山中昭司(工学研究科 教授):エキゾチック超伝導体の開発、超高圧・高温合成
高畠敏郎(先端物質科学研究科 教授):熱電変換物質の開発
小島由継(先進機能物質研究センター 教授):水素貯蔵ナノ複合物質の開発と機構解明
市川貴之(先進機能物質研究センター 准教授):高機能エネルギー貯蔵物質の開発
坪田雅己(先進機能物質研究センター 特任助教):軽元素系水素貯蔵物質の開発
佐野庸治(工学研究科 教授):ゼオライトの自在設計・合成
播磨 裕(工学研究科 教授):機能分子の組織化を利用するオプトエレクトロニクス材料の開発
井上克也(理学研究科 教授):透明キラル分子磁性体の合成と物性
瀧宮和男(工学研究科 教授):新しい有機半導体材料の開発、高性能有機 FET を目指して
山本陽介(理学研究科 教授):新超原子価6配位炭素化合物の合成
河内敦(理学研究科 准教授):新規有機典型元素化合物の効率的合成
塩野毅(工学研究科 教授): 有機チタン錯体触媒によるポリオレフィンの精密合成
特筆すべき成果
1. 巨大非線形磁化率を有するキラル磁性体の発見(Phys. Rev. B, 2009)
2. ポリオレフィンを精密に構造制御できる新規重合触媒を開発
3. 有機電界効果トランジスタ用半導体材料として期待できる DNTT の大量合成法を新たに開発し,全
国の研究機関に配布,共同研究を行った。
4. 色素増感太陽電池のエネルギー変換効率を大幅に改良できる有機色素を開発した。
5. ミリング法による軽元素水素吸蔵材料の合成と構造解析,吸蔵放出特性の総合的な研究,2007 年
MRS Fall Meeting の Outstanding Symposium Paper に選ばれた。
6. 三方両錐5配位構造を有するアンチモン化合物において,速い配位子交換による異性化の機構を
初めて明らかにした。
7. ゼオライトの局所規則構造を利用する転換合成法を開発,CHA ゼオライトの効率合成に成功。
8. 熱電変換効率に優れるクラスレートの低い熱伝導機構を解明,Phys. Rev. B の Editors suggestion に
選ばれた。
9. 層状窒化チタンに電子をドープし,新規超伝導体を誘導した。部門間の共同研究により,超伝導ギャ
ップのトンネル顕微鏡観察にも成功している。
- 22 -
透明キラル分子磁性体の合成と物性
井上
克也(理学研究科 教授)
1.研究の概要
時間反転対称性と空間反転対称性の二つの破れを同時に持つ,キラル磁性体の構築/物性研究
を進めている。キラル磁性体では,特異なスピン構造,スピンダイナミクス,磁気光学効果を持つと考え
られる。特にキラル磁性体の磁気構造は基本的知見としてその解明は重要である。昨年度単結晶中
性子線回折により,極低温下での磁気構造を明らかにした。本年度は,この知見をもとにして極低温下
から常磁性までの磁気相図を明らかにした。またキラル構造特有のスピンダイナミックスに伴う非線形
磁化率について明らかにした。
2.研究成果
2.1 キラル磁性体の磁気相図
我々のグループでは既に30種類近い透明キラル分子性磁性体の構築に成功しており,昨年度そ
のうちの4種類のキラル磁性体について極低温下磁気構造をフランス,ラウエーランジェバン研究所の
高フラックス回折計 VIVALDI(Very Intense Vertical Axis Laue Diffractometer)を用いて明らかにするこ
とに成功した。この極低温下磁気構造は,イオン磁気異方性による整合的キラル磁気構造であった。こ
の結果と下記に示すスピンダイナミックスにより,極低温下から常磁性までの磁気相図を明らかにした。
[文献] Clara González, Javier Campo Garry J. McIntyre, Fernando Palacio, Youhei Numata, Yusuke
Yoshida, Koichi Kikuchi, Katsuya Inoue. “The search for magnetic chiral phases in the nuclear chiral
compound [Cr(CN)6][Mn(S)-pnH(H2O)](H2O)”, Manuscript in preparation.
2.2 キラル磁性体の巨大非線形磁化率
キラル磁性体(RGN 等)の単結晶の交流磁化率では磁気相転移点直下で異常が見られる。この異常
について,周波数解析を行ったところ,非常に大きな奇数の非線形磁化率を含むことが明らかとなった。
これまで知られている奇数の非線形磁化率は,基本波応答に対して 10-4 程度のスピングラスによる3次
の非線形磁化率が知られているが,今回の観測では 3 次非線形磁化率が 10-1 程度の非常に強い強度
を持ち,さらに 5 次,7 次,9 次,11 次までの非線形磁化率が定点直下で観測された。このような観測例
は初めてである。またこの結果はらせん磁気構造によるゴールドストーンモードによると考えられ,磁気
相転移点直下では非整合的キラル磁気構造を持っていると考えられた。
[文献] Masaki Mito, Kazuyuki Iriguchi, Hiroyuki Deguchi, Jun-ichiro Kishine, Koichi Kikuchi,
Hiroyuki Ohsumi, Yusuke Yoshida and Katsuya Inoue, Giant nonlinear magnetic response in a
molecule-based magnet, Phys. Rev. B 79, 012406 (2009)
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ナノ複合物質の水素貯蔵機構解明
小島
由継(IAMR
教授)
1.研究の概要
軽元素系水素貯蔵物質(LiH, LiBH4, NH3, MgH2, AlH3, NH3BH3 等)の質量水
素密度は水素吸蔵合金に比べ大きく,水素貯蔵タンク軽量化が計れる。しかし,現状の水素吸蔵・放
出速度,反応温度と水素貯蔵量は実用的な水素貯蔵材料として不充分である。燃料電池自動車には
水素吸蔵・放出速度が速く,不安定(生成熱の大きさ小)で,水素貯蔵量の多い材料が必要である。こ
のような特性は従来の軽元素物質のみでは達成できず,ナノ複合化によって可能になるものと考えら
れる。本研究では軽元素(Li, B, C, N, Na, Mg, Al 等)を含む種々のナノ複合物質の水素貯蔵機構を解
明し,高性能水素貯蔵材料として応用するために必要な基盤技術の原理確立を目指している。
2.研究成果
2.1 ミリングによって合成した Li-BN –H 複合物質の水素放出特性
BN-NHx 試料は六方晶窒化ホウ素(hBN)と,水素(H2),アンモニア(NH3)の雰囲気下でミリング
処理を施すことにより合成された。その後,BN-NHx と LiH をミリングすることで,Li-BN-H
複合物質が得られた。ミリングによって,水素とアンモニアが化学的に hBN に吸蔵されている
ことが示された。h-BN をミリングすることによって形成されるナノ構造がアンモニア吸蔵に重
要な役割を果たすことがわかった。Li-BN-H 複合物質は 100℃付近から水素を放出し,200℃ま
で昇温するとアンモニア発生無しに水素を放出した。
[文献] C. Wu, H. Miyaoka, T. Ichikawa, Y. Kojima, “Hydrogen desorption properties of Li-BN-H
system synthesized by mechanical milling”, International J. Hydrogen Energy, 33, 3128 (2008).
2.2 Li-C-H (水素化グラファイト/LiH)系における水素吸蔵放出状態の中性子回折による解析
水素化グラファイト(CnanoHx)と LiH をミリングすることで Li-C-H 複合物質を合成した。この物質は
350℃で水素を放出し,CnanoHx や LiH に比べ低下した。Li-C-D 複合物質の中性子回折により,C-D,
Li-D の相関が動径分布関数から認められた。水素放出後,C≡C 三重結合と Li-C の相関が存在し,こ
れは Li2C2 の生成を示唆した。また,動径分布関数から C-D の存在も示唆した。
[文献]
H. Miyaoka, K. Itoh, T. Fukunaga, T. Ichikawa, Y. Kojima, H. Fuji, "Characterization of
hydrogen absorption/desorption states on lithium-carbon-hydrogen system by neutron diffraction", J.
Appl. Phys., 104, 053511 (2008).
3.その他の成果
トムソンサイエンティフィックの統計ツール Essential Science Indicators (ESI)が被引用する最先端
研究領域を代表する論文(コア論文)のグループの中で,前の 2 ヶ月と比較して最近 2 ヶ月でコア論文
数の伸び率が一番高い,特に成長の著しいリサーチフロントである Fast Moving Fronts に選定された
(小島由継, 2007 年 11 月)。2007 MRS Fall Meeting で発表した”A New Concept of Hydrogen Storage
Using Lithium Hydride and Ammonia”が Outstanding Symposium Paper for the 2007 MRS Fall Meeting
に選定された(Y. Kojima, S. Hino, K. Tange, T. Ichikawa, 2008 年1月 16 日)。
- 24 -
ゼオライトの自在設計・合成
佐野
庸治 (工学研究科
教授)
1.研究の概要
分子レベルの細孔を有するゼオライトは,その“分子ふるい作用”により触媒,
吸着・分離剤等として古くから幅広く利用されている。一般に新規ゼオライトの設
計は,複雑な分子構造の有機分子を設計し,それを構造規定剤に用いることにより行われているが,
有機合成化学のようには所望の結晶構造を有するゼオライトを自在に設計・合成することができないの
が現状である。そこで本研究では,既存のゼオライト等から得られる構造ユニットをナノパーツとして用
いた全く新しい概念のゼオライトの自在設計・合成法(ゼオライト転換法)の確立を目指している。
2.研究成果
2.1 ゼオライト転換法による CHA 型ゼオライトの合成
ゼオライト転換過程では,ゼオライトの分解により生成した局所的規則構造を有する構造ユニットア
ルミノシリケート種が,有機構造規定剤(SDA)存在下でゼオライトへ再構築されていると考えられている。
本年度は,SDA にベンジルトリメチルアンモニウム水酸化物を用いた FAU→MTN ゼオライト転換過程
において合成温度をより低温にすることにより,FAU ゼオライトと類似した構造ユニットを有する CHA ゼ
オライトの合成に成功した。
[文献] M. Itakura, et al., “Synthesis of high-silica CHA zeolite from FAU zeolite in the presence of
benzyltrimethylammonium hydroxide”, Chem. Lett., 37, 908-909 (2008).
2.2 ワームホール構造を有するリン酸カルシウムメソ構造体の合成
リン酸カルシウムは生体適合材料として注目されており,その高表面積化を目的とした研究が活発
に行われている.その中でも,界面活性剤を用いたメソ構造制御に関する研究は注目されている.しか
し,リン酸カルシウムはイオン間の相互作用が強く,結晶性物質の生成が優先的に進行するため,メソ
構造制御は非重に困難である.本年度は,カルボキシル基又はアミノ基を2つ有する界面活性剤(N-ラ
ウロイル-L-グルタミン酸と 4-ドデシルエチレントリアミン)を用いることによりワームホール構造を有するリ
ン酸カルシウムメソ構造体の合成に成功した.
[文献] N. Ikawa, et al., “Templating route for mesostructured calcium phosphates with carboxylic acidand amine-type surfactants”, Langmuir, 24, 13113-13120 (2008).
3.その他の成果
触媒学会主催の第2回触媒道場(平成 20 年 6 月 28 日)において,井上貴之の発表「Choline 存在
下での FAU ゼオライトからの LEV ゼオライトの合成」が若手ポスターセッション優秀発表賞に選ばれた。
また,IUMRS International Conference in Asia 2008(平成 20 年 12 月 12 日)において,井川信彰の発
表「Mesostructural control of calcium phosphates constructed by ionic frameworks using surfactants with
amino and carboxyl groups」が奨励賞に選ばれた。
- 25 -
有機チタン錯体触媒によるポリオレフィンの精密合成
塩野
毅(工学研究科物質化学システム専攻教授)
1.研究の概要
エチレン,プロピレンなどのオレフィンを遷移金属触媒により付加重合
して得られるポリオレフィンは,軽量かつ安価で優れた物性と加工性を併せ持つうえに,立体
特異性重合や共重合などにより高性能化・高機能化が可能であり,環境負荷の低い汎用ポリマ
ーとして重要性が増している.近年では,ノルボルネンなどの環状オレフィンとエチレンとの
共重合体が,低吸湿性・高耐熱性を有する光学特性に優れたプラスチックとして注目されてい
る.一方,リビング重合は,ポリマーの一次構造を精密に制御する手法として有用であるが,
高活性でオレフィンの立体特異性重合を進行させる触媒系はこれまで知られていなかった.筆
者らは,先に,[t-BuNSiMe2(Flu)]TiMe2(1)を乾燥修飾メチルアルミノキサン(dMMAO)で
活性化した触媒がプロピレンのシンジオタクチック(syn-)特異的リビング重合を高活性で進行
させることを見いだし,1の特長を生かした新規な触媒の開発を進めてきた.その結果,1の
フルオレニル配位子の 3,6-位に t-Bu を導入した錯体(2)により,リビング性を保持したまま
活性と syn- 特異性を著しく向上させることに成功した.平成20年度は2の特長を生かした新
規オレフィンブロック共重合体の合成について検討した.
2.研究成果
2-dMMAO 触媒は,プロピレン,ノルボルネンいずれのモ
ノマーも高速でリビング重合させるが,適当量の iBu3Al 共存
下で重合を行うと,前者ではモノマー消費後成長鎖が
i
Bu3Al と速やかにアルキル交換するのに対し,後者では交
換反応が極めて起こりにくいことを明らかにした。この現象を
N
Me
Me
Si
Ti
Me
Me
N
Me
Me
Si
Ti
Me
1
Me
2
利用して,ノルボルネンとプロピレンの逐次添加を繰り返す
ことにより,ポリノルボルネン―block―ポリプロピレンを触媒的に合成することに成功した
1)
。さらに,2
-dMMAO 触媒によるプロピレン重合のプロピレン圧依存性について調べた結果,プロピレン圧によら
ずリビング重合が進行するが,生成ポリマーの立体規則性は syn-構造からアタクチック(ata-)構造まで
プロピレン圧に応じて変化することを明らかにした。この現象を利用して,重合中プロピレン圧を変化さ
せることにより,syn-連鎖と ata-連鎖からなる任意のステレオブロックポリプロピレンを合成しうることを明
らかにした 2)。これらのステレオブロックポリプロピレンは,上述した iBu3Al とのアルキル交換を組み合わ
せることにより触媒的に合成することも可能であり,精密に構造の制御されたポリオレフィンを効率的に
合成しうる触媒として今後さまざまな応用が期待される。
[文献]
1) Z. Cai, Y. Nakayama, T. Shiono: Catalytic Synthesis of a Monodisperse Olefin Block Cpolymer Using a
Living Polymerization System; Macromol. Rapid Commun., 29[6], 525-529 (2008).
2) Z. Cai, Y. Nakayama, T. Shiono: Facile Synthesis of Tailor-Made Stereoblock Polypropylenes via
Successive Variation of Monomer Pressure; Macromolcules, 41[17], 6596-6598 (2008). 41[22], 8292-8294
(2008).
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ナノ空間に重元素を内包する熱電変換物質の開発
高畠
敏郎(先端物質科学研究科
教授)
1.研究の概要
温度差が電気を生み出し,逆に電気が熱を奪うという熱電現象は,廃熱を利
用した発電やフロンを使わない冷却に応用できる。高い熱電変換性能には,熱起電力が大きく,電気
抵抗が小さく,しかも熱伝導率が低いという三つの特性が要求される。最近,熱伝導率を低減させる機
構として,ナノメートルスケールのカゴに内包された原子のがらがら運動(ラットリング)が注目されている。
本年度は,カゴ構造をもつクラスレートの良質単結晶を作製し,その熱電変換機能を開拓した。ラットリ
ングの本質を捉えて,その知見を熱電性能の高いカゴ状物質の創製に活かすために,精密結晶構造
解析(山中グループ),ラマン散乱(宇田川グループ),超音波測定(鈴木グループ),光電子分光
(HiSOR),中性子散乱(産総研熱電グループ)などとの共同研究を進めている。
2.研究成果
2.1 ポリタイプクラスレート Ba8Ga16Sn30
本化合物の VIII 型に加えて I 型の結晶育成にも成功し,後者の格子熱伝導率は I 型クラスレートの
どれよりも小さいだけでなく,熱を伝えにくい典型物質のシリカガラスと比較しても小さい事を見出した。
結晶構造解析によって,14面体中の Ba 原子はカゴの中心から 0.43 Å もずれた四つの位置を占めるこ
とが判った。n 型と p 型で構造上の差異は認められなかった。比熱の解析とラマン散乱から求めたラット
リングのエネルギーは 20 K であり,I 型クラスレートのなかで最低であった。これらの結果から,分裂サイ
ト間のラットリング/トンネリングが熱を伝える音響フォノンを激しく散乱することが明らかになった。
[ 文 献 ] K. Suekuni, et al., “Simultaneous structure and carrier tuning of dimorphic clathrate
Ba8Ga16Sn30”, Phys. Rev. B 77, 235119 (1-8), 2008. Editors suggestion
2.2 Ba8Ga16Ge30 のゲストの変位と局所構造
この化合物の Ba ゲストは14面体のほぼ中心に位置するとされていた。ところが Ba K 端のX線吸収
の微細構造の解析によって,中心から 0.15 Å ずれていることが判明した。この変位に比べて上に述べ
た Ba8Ga16Sn30 における Ba の変位 0.43 Å は2倍もあるので,中心からの変位が大きいほど熱伝導率は
抑制されると言える。一方,Ba8Ga16Ge30 では n 型に比較して p 型の熱伝導率は小さいが,本実験では
Ba の局所環境の電荷キャリア依存性を見出せなかった。
[文献]Y. Jiang, et al., “EXAFS study of n- and p-type Ba8Ga16Ge30”, Phys. Rev. B 78, 014111, 2008.
2.3 強磁性クラスレート Eu8Ga16Ge30
この化合物の内包する Eu2+の磁気モーメントは,Tc = 36 K で強磁性秩序することが知られていた。
育成した単結晶の電気抵抗は Tc でのピークに加えて 24 K 付近にも肩を示した。カゴの Ge の一部を
Si で置換すると,電気抵抗の肩は消失するとともに,Tc における比熱の跳びが倍増した。この結果は
磁気モーメントの大きさが変調している特異な強磁性状態が Eu8Ga16Ge30 で実現していることを示唆す
る。
3.その他の成果
中国新聞 平成20年5月31日 宇田川眞行,高畠敏郎 「夢の熱電物質開発へ」
科学新聞 平成20年6月6日 宇田川眞行,高畠敏郎 「熱伝導抑制原子の動き解明」
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新しい有機半導体材料の開発
瀧宮
和男(工学研究科 教授)
顔写真
幅 30mm
1.研究の概要
前年度に引き続き有機電界効果トランジスタ(OFET)用半導体材料の開
発を行った。この中で,1)dinaphtho[2,3-b:2',3'-f]thieno [3,2-b]thiophene (DNTT)を OFET 用半導体
の“標準材料”とすることを目標にその新規合成法の開発研究,および,2)自己組織化可能な
可溶性有機半導体の開発,について以下の成果を得た。
2.研究成果
2.1 DNTT の新規合成法の開発
半導体としての優れた特性(移動度~3.0 cm2/Vs)と大気中での安定性を兼ね備えた DNTT を他の
研究機関や企業に広くに供給することを目指し,その大量合成を可能にする方法の検討を行った。そ
の結果,入手の容易な原料から,数グラムオーダーでの合成できる手法を確立するに至った。現在,
DNTT の試験用サンプルは,大学や公的研究機関等に提供され始めており,優れた特性と高い安定
性が再現されるだけでなく,新たな素子構造のトランジスタや単結晶トランジスタに応用されている。
2.2 可自己組織化可能な可溶性有機半導体の開発
有機半導体材料の可溶化のために導入した置換基の自己凝集能を利用して,高次構造を構築する
という指針のもと,幾つかの拡張π電子系において新規材料を合成し,その構造,分子配向,さらには
薄膜トランジスタの特性について検討を行った。その結果,拡張π電子系と長鎖アルキル基の適切な
組み合わせにより,多くの材料においてラメラ層状構造(層状構造)を実現できることが明らかとなった。
一方,トランジスタとしての特性は,ラメラ構造内のπ電子系層内の分子の相対配置により大きく依存し,
分子配列に基づく電子構造が極めて重要であることを実験的に明らかにした。
[文献] 2,6-Dialkylbenzo[1,2-b:4,5-b´]dithiophenes (Cn-BDTs) as Soluble Organic Semiconductors for
Solution-processed Organic Field-effect Transistors, Tomoya Kashiki, Eigo Miyazaki, Kazuo Takimiya,
Chem. Lett., 37, 284–285 (2008). Molecular Ordering of High-Performance Soluble Molecular
Semiconductors and Re-evaluation of Their Field-Effect Transistor Characteristics, T. Izawa, E.
Miyazaki, K. Takimiya, Adv. Mater., 20, 3388–3393 (2008).
3.その他の成果
以下の記事で本研究の成果が取り上げられた
1. 化学(2008 年 1 月号)「有機トランジスターを高性能化させる新しい材料」
2. 化学工業日報(2008 年 9 月 24 日付)「n 型の有機 FET 開発」
3. 日刊工業新聞(2008 年 12 月 4 日付)「電流縦に流し高密度化」(共同研究による成果)
NEDO 産業技術研究助成事業(若手グラント)成功事例 30 選に選定された
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機能性分子の組織化とオプトエレクトロニクス材料の開発
播磨
裕(工学研究科
教授)
1.研究の概要
高性能分子集積デバイスの開発を目途に,機能性分子の規則的な集積から
得られる有機半導体の組織化に関する研究を推進している。エレクトロニクスや
オプトエレクトロニクス材料への展開を視野に入れ,新規分子の合成と新しい機
能の探索,デバイス評価,物性・デバイス評価のための新規計測技術の開発を
行ってきた。
2.研究成果
2.1 高効率色素増感太陽電池の開発
色素増感太陽電池(DSSC)のエネルギー変換効率の改善を目指し,DSSC 用有機色素の開発を行
った。Donor-π-acceptor 構造を有するオキサゾカルバゾー系色素を合成し,機能評価と併せて基礎的
な光物性を調査した結果,分子骨格に嵩高い置換基を導入することにより,色素から TiO2 への電子注
入効率化が 100%となることを見出した。
2.2 変調分光法の開発
分子薄膜内での電荷移動を担うイオン種を分光学的に検出する新規な変調分光システムを開発し
た。可視から近赤外領域にわたる計測システムを設計・開発し,有機 EL 素子の HTL 層に広く用いら
れている TPD や NPD 薄膜に適用した結果,これら有機分子のラジカルカチオンが溶液中で示す吸収
帯のうち,近赤外領域の光吸収帯が薄膜状態では消失していることを見出した。この事実は,近赤外
の吸収帯が IV-CT(intervalence-charge transfer)によることを強く示唆している。また,本手法を透明な絶
縁性薄膜に適用し,従来の解釈では説明不可能な分光スペクトルを観測した。この新規な現象を理論
的に解析した結果,薄膜内での光干渉効果と電気光学 Kerr 効果によることを明らかにした。
[文献] Y. Harima et al., ”Interference and electro-optical Kerr effects responsible for electroabsorption
spectra of transparent Parylene-C films”, Chem. Phys. Lett., 457, 115-118 (2008).
2.3 ガラス基板上への導電性フィルムの固定化技術の開発
ガラス基板表面への導電性有機材料の固定化を目途に,末端にトリエトキシシリル基を有するオリゴ
チフォエンを合成した。ポリシルセスキオキサンはシロキサン結合で形成される三次元ネットワーク型ポ
リマーであり,対応するトリアルコキシシランの加水分解・重縮合により簡便に合成できる。開発した試
薬はガラスや ITO 表面の水酸基と脱水縮合し,基板表面に化学結合を介して強固に塗布でき,簡便
に基板に導電性を付与することができる。(国内特許申請準備中)
2.4 分子カプセル中への水素原子の包摂技術の開発
籠状分子内へ水素原子を挿入し,安定化させることに成功した。開発した新技術を用いるこ
とにより,ガンマ線照射とは異なり,安全かつ短時間で水素原子を分子カプセル内に挿入する
ことが可能となった。(国内特許申請準備中)
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エキゾチック超伝導体の開発
山中
昭司(工学研究科
教授)
1.研究の概要
当研究グループでは,物質のすきまを利用してキャリヤーをドープし,新規エ
キゾチック超伝導体の開発を行っている。研究対象の“すきま”を有する物質は,主に層状結晶やカゴ
状のネットワークを有するクラスレート化合物である。昨年我が国で発見された新規高温超伝導体
Fe/As ニクタイドも層状物質である。酸化銅系高温超伝導体や MgB2 と共に,層状物質が超伝導探索
の宝庫であることを強く示唆している。これらは“多孔質超伝導体”と位置づけることができる。当研究グ
ループでは独自の高温高圧の極限条件の積極的な使用も視野に入れて,これら新規超伝導体の開
発に取り組んでいる。
2.研究成果
2.1 層状窒化物 TiNCl のインターカレーションと超伝導
層状窒化物MNX (M = Ti, Zr, Hf; X = Cl, Br, I)には2種類の層状多形がある。2重のハニカム格子
からなる型結晶は,アルカリ金属を層間にドープ(インターカレーション)することによって,あるいは層
間からハロゲン原子を一部取り除く(デインターカレーション)ことによって,窒化物層に電子をドープす
ることができ,超伝導体となる。型結晶はFeOClと同形で直交した窒化物層を有する。型結晶は大気
中で不安定であり,これまでほとんど研究されて来なかった。TiNClは型構造の多形だけが知られて
いる。昨年度,TiNClにアルカリ金属やピリジンをインターカレーションすることに成功し,超伝導体とな
ることを発表した。本年度は引き続き,インターカレーションに伴う構造変化を詳細に調べ,そのバンド
構造を計算した。アルカリ金属とピリジンでは,得られる臨界温度Tcがそれぞれ,16 Kと8.3 Kであり,バ
ンド構造からも電子ドープや超伝導の機構が異なるように思われる。ピリジンの代わりに,種々のアミン
分子を用いて,超伝導特性の違いを検討している。
2.2 コインターカレーションによる超伝導の異方性
層状結晶に特徴的な反応にコインターカレーションがある。アルカリ金属のインターカレーションと同
時に,大きな溶媒分子が金属原子に配位して,層間を広げ,異方性がさらに顕著になる。型 ZrNCl お
よび HfNCl のコインターカレーション化合物を合成し,超伝導の異方性への効果を調べた。層間が大
きく拡大することにより,磁化の温度依存性曲線に可逆温度(Tirr, irreversibility temperature)が観察され,
温度範囲 Tc-Tirr が印可磁場と共に大きく拡大した。これは層間距離の増大により,磁束が著しく運動し
やすくなることを示している。NMR の緩和やシフトからも,このことを確認した。
2.3 新規シリコンクラスレートの開発
Ba-Si 二元系において,Ba24Si100, Ba8Si46, BaSi6 のクラスレートを見いだし,前二者の化合物は超伝
導体となることを報告している。本年度は La-Si 二元系について,高圧下での状態図を作成し,新たに
LaSi5 および LaSi10 の2種類の Si リッチ相が存在することを見いだした。LaSi5 には急冷相()と徐冷相
()があり,相は超伝導体となった。3種類の単結晶構造解析に成功し,興味深いことに,LaSi10 では,
La を含む La@Si18 多面体が面を共有する新規クラスレート相であることを見いだした。LaSi10 は Tc = 6.8
K で超伝導を示した。引き続き,新規クラスレートの高圧合成と物性探索を行う。
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超原子価5配位アンチモン化合物の異性化機構
山本
陽介(理学研究科化学専攻 教授)
1.研究の概要
三方両錐構造を有する 5 配位 15 族元素化合物は分子内で配位子の位置を
非常に速く交換して異性化することが知られているが,その異性化機構は未だ完
全には解明されていなかった。その異性化機構として Berry pseudorotation (BPR)機構と turnstile
rotation (TR)機構が提唱されているが,立体的な制限のない場合には BPR 機構で異性化するという考
え方が実験及び計算から支持されている。一方,TR 機構はその存在さえ疑わしいとされ,これまで全く
詳細が不明であった。そこで,TR 機構を観測するには BPR 機構を除外する必要があると考え,BPR 機
構に必要な分子運動を抑制できる強固な三座配位子を開発した。TR 機構を証明するには性質の近
い二つの置換基を有する 5 配位化合物が必要であったが,最終的に 5 配位アンチモン化合物を用い
て TR 機構での異性化を証明することに初めて成功した。
2.研究成果
2.1 超原子価5配位アンチモン化合物の TR 機構による異性化の証明
TR 機構を証明するには性質の近い二つの置換基を有する
5 配位化合物が必要であったが P, As では環ひずみのために
合成出来なかった。そこで,原子半径が大きく,5 配位状態が
安定なアンチモン原子を用いて合成を試みた。
F3C
F3C
F3C
O
Sb
ArLi
Xyl
Et2O
O
Sb
Xyl
O
Sb
Ar
Xyl
Cl
Ar
1
A
B
2 (Ar = p-ClC6H4)
27%
3 (Ar = p-CF3C6H4) 52%
クロロスチボラン 1 に各種アリールリチウムを作用させることで 2 つの炭素単座配位子を有する化合
物 2, 3 を共に二種類の立体異性体 (A, B) の混合物として得た。2 は X 線結晶構造解析によって両方
の立体異性体の構造を決定することに成功した。純粋な 3A を溶媒に溶解させたところ徐々には 3B へ
と異性化し,最終的に平衡混合物となった。これらの化合物は強固な三座配位子により BPR 機構で異
性化することが不可能であると考えられるため,TR 機構で異性化したものと考えられる。温度可変
NMR を用いた反応追跡による反応速度測定をおこない,反応の活性化パラメータを算出したところ,ト
ルエン-d8 における活性化エントロピーがほぼ 0 であることから,この反応が分子内反応であることが示
唆された。また,ドナー数の大きい溶媒であるほど活性化エンタルピーが減少することから,遷移状態
もしくは中間体において配位性溶媒が 3 へと配位することによる安定化があることが示唆される。
さらに異性化機構の詳細を理解するため,3 の異性化における計算による反応経路解析を岐阜大
学工学部の安藤教授におこなって頂いた。溶媒を含まない状態での計算では,基底状態における計
算構造は結晶構造をよく再現し,活性化エネルギーもトルエン-d8 中での実測値と良い一致を示した。
また,そのときの分子運動は TR 機構で提案されている運動と一致したことから,この異性化が TR 機構
で進行していると結論できた。一方,1つの CH3CN 分子を含んだ系の計算では,基底状態では
CH3CN 分子は 6 と大きく離れているが,中間体 3-TS において CH3CN 分子がアンチモン原子に配位
することで安定化していることがわかった。 このときの活性化エネルギーも CH3CN 中での実測値とよく
一致した。これは TR 機構による異性化の存在を証明し,その性質を明らかにした初めての例となっ
た。
- 31 -
高機能エネルギー貯蔵物質の開発
市川
貴之(IAMR
准教授)
1.研究の概要
エネルギーの高効率利用を目的として,高機能なエネルギー貯蔵材料の開発
を進めてきた。これらの開発には,物質の持つ本質的な特性を明らかにする基
盤的研究が必要不可欠であり,その機能発現機構や物質の厳密なキャラクタリゼーションに焦点をあ
て,研究を進めている。また,本年度はよりいっそうの産学連携および国際協力の強化を目的として,
大学発ベンチャーの設立,企業との共同研究,さらには中国の研究機関への訪問,南アフリカにて開
催された副学長フォーラムへの参加,韓国にて開催された第二回日韓セミナーへの参加を果たした。
2.研究成果
2.1 ミリング処理による黒鉛層間化合物の合成とその水素化特性
水素
これまでの研究で,アルゴンなどの不活性ガスの雰囲気にてミリ
ング処理した黒鉛は,水素ガスのような活性なガスの場合と比較し
て,アモルファス化しやすいことを報告してきた。これら二種類のナ
ノ構造を有する黒鉛を予め作製し,リチウムと混合してミリング処理
することにより,リチウムがインターカレートした二種類の黒鉛層間
アルゴン
化合物を合成した。さらに,これらの水素化特性について評価を行
った。図はこれら二種類の黒鉛層間化合物を,水素雰囲気におい
て昇温処理した際にやり取りする熱のプロファイルを示し,確認さ
れるピークは発熱反応を意味している。結果から,二種類の異なる
温度で水素化反応が進行する様子が見てとれる。これらはそれぞ
れ,黒鉛層間化合物(低温ピーク)とリチウムカーバイドの水素化による,炭素材料と水素化リチウムへ
の不均化を表していると同定された。
[1] W. Ishida, H. Miyaoka, T. Ichikawa and Y. Kojima “Hydrogenation properties of lithium intercalated
graphite”, Tanso 46, (2008), 1628
2.2 アンモニア分解におけるペロブスカイト型酸化物の触媒効果
通常 400℃以上で分解反応が進むアンモニアを,より低温で分解するための触媒としてペロブスカイ
ト型酸化物に注目し,その触媒効果について研究を行った。ペロブスカイト酸化物である SrTiO3 ,
BaTiO3 とともに,それぞれ容器内に 0.6MPa のアンモニアを導入して,室温にてミリング処理を施した。
いずれの場合にも処理後のミリング容器内に水素ガスが生成されることが確認され,アンモニア分解に
対して触媒作用を有することが示唆された。
[1] B. Paik, et al., “Catalytic effect of ATiO3 (A= Sr, Ba) in ammonia decomposition during mechanical
milling”, under preparation.
- 32 -
新規有機典型元素化合物の効率的合成を指向した活性種の創製と応用
河内
敦(理学研究科 准教授)
1.研究の概要
われわれは,特異な構造,結合特性または反応性を有する有機典型元素化
合物の合成に取り組んでいる。典型元素の特性を最大限に活かした化合物を選
択的かつ効率的に合成するには,既存の合成法・反応剤に頼るばかりでなく,そ
の化合物合成に適した新規な反応剤(活性種)を開発することが重要となってくる。われわれは,異な
る2つの典型元素を o-フェニレン骨格で連結した o-ジメタラベンゼンに注目し,研究をおこなっている。
われわれが開発した反応剤 o-(フルオロシリル)フェニルリチウムを用いて,従来法では合成が困難な新
規典型元素化合物の合成に成功している。
2.研究成果
2.1 o-(フルオロシリル)フェニル基を有するベンゾシラゲルマシクロブテンの合成
o-(フルオロシリル)フェニルリチウムとジクロロゲルミレンとの反応により,ゲルマニウム原子上に2つの
o-(フルオロシリル)フェニル基を有する,ベンゾシラゲルマシクロブテンを合成することに成功し,その構
造を X 線結晶構造解析により明らかにした。この化合物のように異なる高周期 14 族元素を複数含むシ
クロブテン類縁体はこれまでに例がなく,その反応性に興味が持たれる。また,官能基(フルオロシリル
基)を有するシクロブテン類縁体としても極めて珍しい例である。
2.2 {トリス[o-(フルオロシリル)フェニル]ゲルミル}ポタシウムの合成
ベンゾシラゲルマシクロブテンに[2.2.2]クリプタント存在下,フッ化カリウムを作用させるとケイ素−ゲル
マニウム結合が切断され,{トリス[o-(フルオロシリル)フェニル]ゲルミル}ポタシウムが生成することを見
出した。この化合物は,求核剤であるゲルミルアニオンの周りを求電子剤であるフルオロシリル基3つが
取り囲むという,特異な構造を有していることが X 線結晶構造解析から明らかになった。
さらにこのゲルミルポタシウムに BF3•Et2O を作用させると,ゲルミルアニオンのフルオロシリル基への
求核攻撃が進行し,ベンゾシラゲルマシクロブテン環が再生した。
このようにして,14 族元素間結合の切断−再結合によるシクロブテン環の開環−閉環を可逆的に制御
することに成功した。
3.その他の成果
長江沙織(修士 1 年)の第 19 回基礎有機化学討論会(2008 年 10 月)におけるポスター発表「TMP
塩基によるホウ素原子置換ベンゼンのオルトメタル化反応の開発」がポスター賞に選出された。
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軽元素系水素貯蔵物質の開発
坪田
雅己(IAMR
特任助教)
1.研究の概要
今日,地球温暖化を促進し,かつ枯渇が迫っている化石燃料に代わるシンエ
ネルギーの開発が急がれており,中でも水素と電力をベースとしたクリーンなエネルギー社会の構築が
注目を浴びている。水素を利用するための要素技術として,コンパクト・軽量に吸蔵でき,かつ穏やか
な条件で吸蔵放出を起こす特性が要求される。近年,前者を満たす物質として軽元素系水素貯蔵物
質が注目されている。本年度は,水素吸蔵のメカニズムを解明するために,重水素化した良質試料を
作製し,その結晶構造を開拓した。本質を捉えて,その知見を水素貯蔵特性の高い物質の創製に活
かすために,中性子散乱(ノルウェーエネルギー工学研究所),放射光を用いた散乱,光電子分光
(SPring-8,HiSOR)などの共同研究を進めている。
2.研究成果
2.1 重水素化同位体リチウムイミド 7Li2ND の中性子散乱実験による結晶構造特性
リチウムイミド Li2NH はについて,吸収の少ない 7Li および非干渉性散乱の小さい D を使った 7Li2ND
を作製し,中性子回折実験を行った。その結果,これまで報告されている回折パターンには含まれな
い小さなピークを観測し,提案されている結晶構造では説明の出来ない別の結晶構造を有しているこ
とを明らかにした。
2.2 リチウムハイドライド LiH の光電子分光実験
ミリング(機械的粉砕)処理によって LiH とアンモニア NH3 の反応特性が異なる。この原因を調べるた
めに,ミリング前後における LiH の光電子分光実験を行った。ミリングしていない LiH とミリングした LiH
とでスペクトル形状に差異があり,ミリングしていない LiH の試料表面は水酸化した LiOH で覆われてい
ること,ミリングによって試料表面に清浄な LiH が現れることを明らかにした。この結果は,ミリングによっ
て粉末粒子が破断され,清浄表面が出現した結果反応率が上昇することを意味する。
[1] Y. Kojima, et al., “Molecular Hydrogen Carrier with Advanced Nano-Hydride and Ammonia”,
Submitted to J. Materials Research.
2.3 新規金属アミド LiAl(NH2)4 における全散乱実験による構造特性
LiH と複合化することで 6.1 質量%もの多量の水素を 130℃という理想的な温度で放出するリ
チウムアルミアミド LiAl(NH2)4 の熱分解反応を調べた。昇温脱離ガス質量分析より,昇温によ
り 100℃から熱分解反応が進行し,135℃に放出ピークを伴いながら NH3 を放出することが確認
出来た。放射光回折実験より,分解反応過程における種々の温度で熱処理を施すと,100℃まで
は熱処理なしの試料と同じ回折パターンを保つものの,NH3 放出が起こる 120℃以上では回折
ピークのブロードニングが起こること,300℃以上では消失することを明らかにした。また,放
射光全散乱実験より二体分布関数を得ることに成功し,高温では非晶質化することを実験的に捉
えた。
- 34 -
3.2 ■機能開拓部門■
部門長 宇田川 眞行
部門の目的
電子・軌道・スピン・空隙等の複合自由度を持つ強相関電子系からソフトマターまでの幅広い物質群で
現れる興味ある物理現象,例えば,超伝導,磁性,軌道秩序,マルチフェロイック,構造変化,分子拡散
などの起源を,光,熱測定,超音波,走査トンネル顕微分光などの多様な測定手段と多重環境条件を有
機的に組み合わせて総合的に解明することを目的とする。さらに,機能物質創製部門およびマテリアル
デザイン部門との密接な連携をすすめながら,得られた知見を基にナノファブリケーション等の手法を用
いて,従来にない新しい機能の開拓を目指す。
研究組織
部門長 宇田川眞行(総合科学研究科 教授):低温・光物性
浴野稔一(総合科学研究科 教授):トンネル分光・顕微鏡
世良正文(先端物質科学研究科 教授):マクロ物性
鈴木孝至(先端物質科学研究科 教授):低温・超音波物性
伊賀文俊(先端物質科学研究科 准教授):放射光物性・機能物質創製
荻田典男(総合科学研究科 准教授):低温・光物性
八木隆多(先端物質科学研究科 准教授):ナノスケール物性
戸田昭彦(総合科学研究科 教授):ソフトマテリアル
特筆すべき成果
低温・光物性グループではカゴ状化合物における系統的なラマン散乱による研究から,大きなカゴに
捕獲された原子は大きな非調和性を持つことを実験的に決定し,ラットリング運動がカゴの中の非中心回
転運動であることを初めて見いだした。層状窒化物超伝導体の原子像が極低温走査トンネル顕微鏡を用
いて初めて観測でき,その結果,面内原子配列が異なる多形での電子状態分布に顕著な違いがあること
も見い出した。マクロ物性測定では,交換相互作用を起源としない強磁性を圧力下での CeB6 で初めて見
出し,長距離ダイマーによる基底状態が YbAl3C3 で観測できた。超音波グループでは,LaFe4Sb12 におけ
る超音波分散はモード選択性を持たないことを初めて明らかにし,TbB4 での O22 を秩序変数とする強四
極子秩序を初めて発見した。カゴ状近藤半導体 YbB12 では 50T 近傍の MI 転移が1次の相転移であるこ
とを準等温過程測定が可能になったパルスマグネットで明らかにし,ギャップ内状態の周期的振動を磁気
抵抗で観測した。ナノスケールグループは,ランダウ量子化と関連している異常な負の磁気抵抗が単層
グラフェンのディラックポイント付近で表れることを発見し,グラフェン素子の作製にも成功した。ソフトマテ
リアルグループでは,高分子鎖折り畳み歪みと成長界面不安定性の効果に着目し,球晶成長界面にお
けるラメラ晶の直接観察から,長きにわたり未解決の高分子球晶形成機構を解明した。
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光散乱によるカゴ状物質の研究
宇田川 眞行(総合科学研究科
教授)
1.研究の概要
熱電材料の特性は,大きな電気伝導度と小さな熱伝導度が共存する場合に
向上することが知られており,カゴの中に捕らえられたゲスト原子のラットリング運動が熱伝導率の低下
に有効であると指摘されている。本研究グループでは,低い熱伝導率がゲスト原子の運動とどの様な
相関があるかを解明するために,一連のカゴ状物質 六硼化物素 RB6, 充填スクッテルダイト RT4X12,
Ⅰ型クラスレート化合物 R8Ga16Ge30,La3Pd20X6,β パイロクロア KOs2O6 のラマン散乱実験を行っている。
ラマン散乱の単結晶偏光依存性から振動を帰属し,ゲスト原子の振動数の温度依存性から4次の非調
和性を実験的に決定できることを示した。その結果,大きなカゴでしかもゲスト原子とカゴの原子の間の
相互作用が小さい場合に4次の項の寄与が大きくなり,実験的には低温で振動数が低下する異常な
現象となる。この現象が上記の各結晶で普遍的であることを明らかにした。特に,クラスレート化合物の
場合には,ゲスト原子の off-center の局所振動が格子熱伝導率を低下させることも明らかにし,ラットリ
ング運動がカゴの中の非中心位置での回転運動であるとの微視的知見を得た。
2.研究成果
2.1 Ⅰ型クラスレート化合物の研究
Ⅰ型クラスレート化合物の混晶系 Sr8Ga16Si30-xGexによって,カゴの大きさを変化させた。その結果,
x=0 ではゲスト原子がカゴの中心に位置するのに対して,x を増加させると非中心距離が増大すること
が得られ,この非中心距離と格子熱伝導率の抑制との相関も見いだした。これにより 1995 年に Slack
が提案したラットリングの微視的運動状態を世界に先駆けて確立した。
[文献] Y. Takasu, et al. “Off-Center Rattling and Anisotropic Expansion of Type-I Clathrates Studied by
Raman Scattering”, Phys. Rev. Letters. 100, 165503/1-4 (2008).
[報道発表] 毎日新聞 平成 20 年 5 月 20 日,中国新聞 平成 20 年 5 月 31 日,科学新聞 平成
20 年 6 月 6 日
2.2 β パイロクロアの研究
β パイロクロア KOs2O6 の偏光ラマン散乱から格子振動を帰属した。この結晶では,ゲスト原子の K の
みならず,K の回りの酸素の格子振動も低温で振動数が低下する非調和性が強い系である。今後,大
きな非調和性と超伝導との相関を解明することが課題として残っている。
[ 文 献 ] T.Hasegawa, Y.Takasu, N.Ogita, M.Udagawa, J.Yamaura, Y.Nagao, and Z.Hiroi; “Raman
scattering in KOs2O6”, Phys. Rev. B, 77 064303/1-6 (2008).
2.3 水素貯蔵物質のラマン散乱
Li 系の水素貯蔵物質 LiNH2 についてのラマン散乱を行い,偏光依存性による格子振動の帰属を行
った。更に,Li は大きな非調和振動であることと NH2 は低温でその回転運動が消失することが得られた。
この結果は反応性と関連しており,成果を現在執筆中である。
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STM/STS による高温超伝導体の電子状態の微視的解明
浴野
稔一(総合科学研究科
教授)
1.研究の概要
原子分解能を有する極低温超高真空走査トンネル顕微鏡/分光装置
(STM/STS)や独自に開発した磁場中 break-junction トンネル分光装置(BJTS)を
用いて,様々な高温超伝導物質の結晶表面原子像やエネルギーギャップを観測している。STM/STS
は結晶表面と電子状態を同時に直接観測できる唯一の実験手段であり,この利点を生かして物質の
電子伝導特性をサブナノメートルレベルで明らかにし,高温超伝導発現機構の解明への指針を得るこ
とを目的としている。このような研究を,山中昭司教授(工学研究科)や A.M. Gabovich 教授(ウクライナ
国立科学アカデミー)と共同で進めている。
2.研究成果
2.1 層状超伝導体-HfNCl0.7 の STM/STS 観測
ハニカム状の面内原子配列をもつ-HfNCl0.7(Tc = 24 K)の STM 測定を初めて行ない,鮮明な
Hf 原子像を観測した。STS による電子状態の測定では,少なくとも 10 nm x 10 nm 程度の範囲でほぼ
均一である事が明らかとなった。この均質性は,矩形面内格子構造を有し顕著な不均一分布を示す
-KxTiNCl の場合と対照的である。これらの違いが本質的なものか否かは現時点では定かでないが,
型特有の面内格子構造が均一な電子状態を保持している可能性も考えられる。また,この実験で決
定されたギャップ比 2/kBTc=8-10 は BCS 理論値を大きく逸脱しているが,これは銅酸化物高温超伝
導体や有機超伝導体と同程度であり非常に興味深い。
2.2 高温超伝導体でみられる擬ギャップの電荷密度波ギャップによる解釈
銅酸化物高温超伝導体で見られる擬ギャップは超伝導発現機構とも深く関わるとされており,様々
な形成機構が提唱されているが,その起源は未だ不明である。このテーマに関しては,Gabovich 教授
と実験理論両面からの共同研究を継続しており,その取り組みの一つとして,不均一な電荷密度波
(CDW)ギャップをもつ s 波超伝導体を仮定したトンネル接合の電流—電圧特性を,様々な条件下で詳
細に計算した。それによると,低温における Bi2Sr2CaCu2O8+d の BJTS スペクトルは,上の仮定によりほ
ぼ完全に再現することができ,Tc 以上の高温で実際に観測される擬ギャップの振る舞いも計算で再現
できることが分かった。さらに,CDW 状態の位相を考慮することで,多様な擬ギャップスペクトルの観測
データを概ね再現することが出来た。このように,Bi 系高温超伝導体の擬ギャップに見られる様々な特
徴が,CDW ギャップの存在により説明できることを示した。
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強弾性相を有する新規マルチフェロイックス系の研究
鈴木
孝至(先端物質科学研究科
教授)
1.研究の概要
(CnH2n+1NH3)2MeCl4 (Me = metal)は,誘電秩序や磁気秩序を示すだけでなく,
強弾性相をも有する。これまで,この物質系については誘電体としてその相転移機構の解明に興味が
持たれてきた。例えば,エチルアンモニウム基と鉄イオンをもつ EAFeC は[*],降温とともにブリルアンゾ
ーン X 点フォノンのクエンチに起源を持ち3次元 XY モデルによって記述される体心正方晶(I4/mmm)
の原型相から底心斜方晶(Bmab)への構造相転移を示した後,誘電秩序相,新たな構造相,更に磁気
秩序相へと逐次相転移を繰り返す。また,底心斜方晶相は強弾性をもつことも知られている。
我々は,この物質系が電場・磁場の交差相関だけでなく,応力も加えた3元交差相関が期待出来る
初めてのマルチフェロイックス系であると位置づけ,この観点から研究を行っている。昨年度に我々が
EACuC においても誘電秩序が存在することを初めて見出したこともあり,20年度は EACuC を中心に
物性測定,構造測定等を行った。
2.研究成果
2.1 EACuC の構造相空間群の訂正
新規マルチフェロイックス系(C2H5NH3)2CuCl4 (EACuC)において,周囲温度・湿度を管理した蒸
発法により,1辺が 1cm を超える純良単結晶を育成した。この単結晶試料について,気体冷媒吹きつ
け型試料温度可変プレパラートをもちいて,試料温度を変化させながら高温偏光顕微鏡観察を行った。
その結果,温度 360K におけるⅡ相では強弾性分域生成に起源をもつとみられる明確な分域構造を
観察した。ところが,昇温し 380K すなわちⅠ相で試料を偏光顕微鏡観察すると明視野・暗視野にかか
わらず完全に分域が消失した。これまで発表された論文では,Ⅰ相の空間群が Bmab であると報告さ
れてきた。しかしながら,本物質群においては Bmab と Abma は等価であるから必ず分域が存在しな
ければならないが,実際には消失した。一方,Ⅱ相においては分域が出現した。したがって,本物質群
における構造相転移からの類推では,Ⅰ相は I4/mmm,Ⅱ相は Bmab であると推測され,本物質の構
造相について大幅な見直しが必要であることを初めて見出した。
2.2 交差相関測定
本物質群における交差相関測定のための実験設備を整備した。角度回転型誘電率測定用試料ホ
ルダを製作し 16T 超伝導磁石に設置したヘリウム3クライオスタットに導入した。一方,電場中の磁化測
定のため,電場印可可能な MPMS スクイッド用試料ホルダを開発した。
3.その他の成果
新規超伝導量子干渉素子等を開発し,国際特許出願した。(国際出願,PCT/JP2008/002069,「圧
力によって超伝導体から絶縁体へ遷移する超伝導体薄膜を用いた圧力検出装置」,ジョセフソン素子
および超伝導量子干渉計」,広島大学,鈴木孝至,2008.7.31。
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希土類化合物における新奇基底状態の探索
世良
正文(先端物質科学研究科
教授)
1.研究の概要
希土類化合物における新奇基底状態の探索を目指して研究を進めている。従
来のマクロ測定にミクロな手段である NMR(谷田),中性子・X 線散乱(松村)が加わり,総括的な研究
体制が整った。試料作成体制も整いつつある。物質としては,希土類六硼化物を中心として研究を進
めているが,本年度からダイマー基底状態をもつとされる YbAl3C3 の研究をスタートさせた。
2.研究成果
2.1 圧力誘起相転移(CeB6, PrB6)
CeB6 では Oxy-型反強四極子,Txyz-反強八極子相互作用,反強磁性交換相互作用の共存・競合の
結果,低温・低磁場で奇妙な振る舞いを示すことが分かっている。CeB6 に圧力をかけると強磁性秩序
が出現することを分子場計算により予想していたが,実際に圧力下電気抵抗測定により圧力誘起強磁
性秩序の出現を見出した。この強磁性秩序は多極子相互作用の共存によるものであり,通常の意味で
の交換相互作用を必要としない強磁性の初めての例であると思われる。PrB6 では圧力下で四極子秩
序の可能性もある新しい秩序相が TIC=6.9K の高温側に出現することを見出した。
[ 文 献 ] S. Ikeda et al. “Unusual Enhancement of Magnetization by Pressure in the Antiferro
-Quadrupole-Ordered Phase in CeB6”, J. Phys. Soc. Jpn. 76 (2007) 064716, H. Iwakubo et al.
“Pressure-induced phase transitions in PrB6”, Phys. Rev. B78 (2008) 012409.
2.2 CexLa1-xB6 の IV 相秩序変数
IV 相は Γ5u 型の反強八極子秩序ではないかとされていたが,中性子散乱の結果,それを強く支持す
る結果が得られた。しかし,同時に誘起される Oxy-型強的四極子秩序は CeB6 本来の反強八極子秩序
と競合する関係にあり,CexLa1-xB6 全体像の解明には到っていない。ごく最近,x<0.5 においては Nd,
Pr 添加により IV 相転移温度が大きく上昇するという結果を得た。IV 相秩序の機構解明の大きな手が
かりになると思われる。
2.3 CeB6 の秩序変数の共鳴 X 線による直接観測
松村により,CeB6 の共鳴 X 線回折実験がなされた。2p-4f 遷移に相当する共鳴ピークが磁場で誘起
される現象を観測し,解析により Ce の 4f 軌道に Txyz-型磁気八極子が誘起されていることを見出した。
2.4 YbAl3C3 における長距離ダイマー基底状態
YbAl3C3 においてダイマー基底状態が実現している可能性が落合らにより指摘された(2007)。われ
われのグループでは Lu ドープ効果を調べることにより,ダイマーが 3d 化合物のように最近接イオン間
で形成されるのではなく,長距離イオン間で形成されることを見出した。磁場によりスピンギャップを壊し
た H=7T より高磁場側の低エネルギー励起も異常であるなど通常のダイマーとは異なる性質をもってい
ることを見出した。
[文献] T. Matsumura et al. “Structural Phase Transition in the Spin Gap System YbAl3C3”, J. Phys. Soc.
Jpn. 77 (2008) 103601.
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ソフトマター結晶化における非平衡構造形成
戸田
昭彦(総合科学研究科
教授)
1.研究の概要
高機能・高性能化が要求されるソフトマター材料の構造制御には,結晶化機
構の理解が重要である。ソフトマターの結晶化では,ソフトマター自身のつくる粘弾性ネットワーク場に
より,容易に平衡から遠く離れた系が実現されるため,形態不安定性,自励振動,複雑な時空パターン
など,非線形非平衡系でみられる多彩な時空構造が重要な現象となる。そこで,近年発展の著しい非
線形非平衡動力学の立場を機軸とした,ソフトマター結晶化の研究が待たれている状況にある。本年
度は,結晶性高分子を対象物質として,固液界面不安定性,結晶分岐の時空パターン,結晶配向や
成長速度の自励振動,粘弾性時空構造内での結晶化など,粘弾性場に強く支配されたソフトマター結
晶化の非線形非平衡動力学について研究を行った。
2.研究成果
2.1 ポリエチレンバンド球晶における高分子微結晶の分岐と再配向機構
結晶性高分子材料は球晶とよばれる高次組織から構成される。球晶の形成には高分子板状微結晶
の分岐・再配向が不可欠である。本研究では,Fingering 不安定性により微結晶の分岐が起こり,分子
鎖折り畳みに由来する内在応力により,分岐時に微結晶が再配向するというモデルを提案した。同心
円状の縞模様をもつポリエチレンバンド球晶について,モデルの予想を実験的に成功裏に検証した。
本成果により,40 年以上にわたる分岐機構に関する論争に終止符が打たれた。
[文献] A. Toda, M. Okamura, K. Taguchi, M. Hikosaka, H. Kajioka, "Branching and Higher Order
Structure in Banded Polyethylene Spherulites", Macromolecules, 41, 2484-2493 (2008).
2.2 ポリブテン1非バンド球晶における特性長の決定と球晶形成機構
文献[1]では,同心円状の縞模様をもつ高分子球晶について,微結晶の分岐と再配向による形成機
構を議論した。本研究では,縞模様を持たないポリブテン-1 非バンド球晶について,成長界面不安定
性が分岐の主因であること,分岐時の再配向がランダムな向きに起こり,非バンド球晶の高次組織の相
関が決定されることを明らかにした。
[文献] H. Kajioka, M. Hikosaka, K. Taguchi, A. Toda, "Branching and Re-orientation of Lamellar
Crystals in Non-Banded Poly(butene-1) Spherulites", Polymer, 49, 1685-1692 (2008).
2.3 ポリエチレンバンド球晶における成長界面不安定化機構
文献[1]では,ポリエチレンバンド球晶について,微結晶の分岐と再配向による球晶形成機構に関す
る成長界面不安定性モデルの予想を実験的に確認した。本研究では,成長界面の不安定化を引き起
こしうる組成勾配場と圧力勾配場の二つの可能性について判別することを目的として,球晶高次構造
と微細構造について,分子量依存性を検討した。その結果,ポリエチレン球晶では,結晶-非晶の密
度差を埋め合わせるために必要とされる,溶融体内部の流動を引き起こす負圧に由来する圧力勾配
が不安定性を引き起こしていることが明らかになった。
[文献] A. Toda, K. Taguchi, H. Kajioka, "Instability-Driven Branching of Lamellar Crystals in
Polyethylene Spherulites", Macromolecules, 41, 7505-7512 (2008).
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希土類ホウ化物の強磁場誘起相転移
伊賀
文俊(先端物質科学研究科
准教授)
1.研究の概要
正方晶希土類四ホウ化物(R=Tb,Er,Tm)は c 面内でフラストレーションのモ
デルである Shastry-Sutherland 格子と同じ構造を有し、RKKY 型反強磁性相互作用が近接、次近接間
で競合している。TbB4 では c 軸方向でのみ磁化過程に9段の磁化ステップが出現し、TmB4 ではどの
方位にも多段ステップ構造が見つかったが、これらは、イジング的なスピン構造と XY 型と呼ばれる横
成分格子により構成される磁気超格子形成によるものらしいことが、中性子回折によりわかってきた。
立方晶近藤半導体 YbB12 の高磁場ホール効果よりキャリヤの磁場依存性を調べ、10T までは伝導電
子数が増大し、その後、50T の転移後の再上昇まで変化しないことをみいだした。さらに Lu 置換系
Yb1-xLuxB12 では、その低磁場での磁場依存性がなくなることもわかった。
2.研究成果
2.1 TbB4 及び TmB4 の多段磁化ステップと磁気的長周期構造
TbB4 では c 軸方向に 9 段の磁化ステップが磁場 15-30T にわたって飽和磁化の分数量子化状態と
して出現する。東北大金研、フランス・グルノーブルの ILL との共同研究により、40T までのパルス磁場
中で中性子回折を行い、特に 1/2 磁化プラトーが現れる磁場領域とそれに対応する回折ピーク強度の
磁場依存性を調べた。実験前は、4つの Tb イオンを含む単位格子を基に、フェロ的 Ising 格子と c 面
内に成分を持つカイラルスピン状態を保った XY 型格子が隣接する1x2型の2倍の超格子と予想して
いた。しかし、実験と予想値が大きく食い違い、いろいろなモデルを検討した結果、現在は、Ising 型と
XY 型が平面内で交互に配列する2x2型の4格子構造が有力視されている。ストライプ構造の形成も考
えられる。この結果から、他の分数プラトーは、より複雑な超格子が実現している可能性が高い。
TmB4 は TN1=11.7K, T*=10.7K, TN2=10K で3段の逐次転移を示す。粉末中性子回折から T*,TN1 で
8倍に近い非調和の長周期構造をもち、TN2 以下は k=[100]の単純反強磁性状態であることが判明して
いる。また TN2 以下でのc軸の磁化過程は 3 段のステップを示すが、ここでも 1/8,1/2 プラトーでいずれも
8倍の整合長周期構造が見つかった。磁気相でこのような磁気的長周期構造が見つかったのは RB4
の中では TmB4 だけである。モーメントの大きい系の Shastry-Sutherland 格子では、フラストレーション効
果は弱く、磁気秩序は妨げないが、永久磁石のドメイン構造のように、あちこちの磁化方向を向いた磁
気超格子の集まりになることで、エネルギーの利得を得ているように思われる。
2.2 近藤半導体 YbB12の強磁場ホール効果と Lu 置換効果
YbB12 は 200K のエネルギーギャップをもつ近藤半導体である。50T の強磁場で非金属金属転移を
示すが、転移前に磁気抵抗の磁場依存性に 7-8T 程度の周期的な振動が方位依存性を持って、現
れることが、希釈冷凍機を使った実験により明らかになった。この異方的な振動は、混成効果と類似の
対称性を持つことから、ギャップ内状態を調べるため、強磁場ホール効果を測定した。10T まではキャリ
ヤが磁場に対し比例して増加する傾向を示すが、その後は頭打ちとなる。低磁場ではギャップ内状態
のバンドが磁場で大きく広がっていくが、10T 以上では 200K のエネルギーギャップに達し、それ以上
広がらなくなったものと考えられる。Lu で 1%と置換すると、この頭打ちの磁場はすぐに消えてしまうが、
ギャップ内状態が大きく広がってしまい、磁場に対して反応しにくくなったためと考えられる。
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光散乱によるカゴ状物質の研究
荻田
典男(総合科学研究科
准教授)
1.研究の概要
熱電材料の特性は,大きな電気伝導度と小さな熱伝導度が共存する場合に
向上することが知られており,カゴの中に捕らえられたゲスト原子のラットリング運動が熱伝導率の低下
に有効であると指摘されてきた。本研究グループでは,低い熱伝導率がゲスト原子の運動とどの様な
相関があるかを解明するために,一連のカゴ状物質 六ホウ素化物 RB6, 充填スクッテルダイト RT4X12,
I 型クラスレート化合物 R8Ga16Ge30,La3Pd20X6,β パイロクロア KOs2O6 のラマン散乱実験を行っている。
ラマン散乱の単結晶偏光依存性から,スペクトル中にはカゴの振動,ゲスト原子の振動,また,ゲスト原
子の結晶場準位間遷移が観測されている事を示した。スペクトルの温度,圧力,磁場依存性を詳細に
測定し,その解析から,原子振動の非調和性,電子系との相互作用,また,結晶場準位の決定,その
準位の起源の解明等を行なった。
2.研究成果
2.1 充填スクッテルダイト RT4X12 の研究
希土類 R,遷移金属 T,プニコゲン X の3元系化合物”充填スクッテルダイト”もプニコゲンがカゴを作
りその中心にゲスト原子である希土類が位置している。Pr スクッテルダイト(R=Pr)は,温度-圧力-磁場
変化により,金属相,非金属相,超伝導相,磁場誘起秩序相等,多様な相を示す。これらの多様相の
起源の1つに「準4重項基底状態」が示唆されており,直接,間接的に準4重項基底状態が観測されて
いる。ラマンスペクトル中にも準4重項基底状態が確認され,このピークの解析から準4重項基底状態
の原因が,プニコゲン原子が作るカゴの形状,即ち「歪んだ20面体」にあることを示唆した。この結果を
基に,構造変化を伴う PrRu4P12 の金属非金属相転移における原子変位と結晶場準位の関係を明らか
に し た 。 [ 文 献 ] N. Ogita, R. Kojima, T. Hasegawa, M. Udagawa, H. Sugawara, and H.
Sato,”Crystal Field Excitations of Filled Skutterudite PrRu4P12 by Raman Scattering”,Journal
of Physics: Conference Series,
(2009) in print.
2.2 希土類ホウ化物 RB6 の研究
希土類 R,ホウ素 B をそれぞれ,ゲスト原子,カゴと見なす事ができるカゴ状物質である。実際,ホウ
素原子は強固に結合し,非常に硬いカゴを形成している。ゲスト原子である希土類 R は,カゴと弱く結
合して振幅の大きい振動をしている。このゲスト原子の振動の振動振幅,振動エネルギーが温度低下
に伴い減少する事はすでに報告しているが,その効果が4次の非調和性に起因している事を示唆し
た。
また,非調和性の寄与を定量的に扱う為に,4次の非調和成分を含んだモデルを提案した。
2.3 水素貯蔵物質のラマン散乱
Li 系の水素貯蔵物質のラマン散乱を行っており,反応過程の測定を目的とした温度依存性の測定
を中心に研究中である。
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微小スケール量子機能素子の研究
八木
隆多(先端物質科学研究科
准教授)
1.研究の概要
1ミクロンから数ナノメータ程度の大きさになると,物質はバルクでは現れない
性質をしめすことがある。また、新しい物質であるが、非常に小さいものしか得られない場合もある。こう
した物質の有用な性質を用いて機能素子を開発できれば従来の素子の性能を凌駕するものが得られ
る可能性がある。最近注目されている機能物質の一つは,炭素が二次元の蜂の巣格子状に並んだグ
ラフェンである。グラフェンは層状物質のグラファイトの一層分であるが,低電子密度でも電子が高速に
運動するため高速なスイッチングなどの動作が期待される。グラフェンは,炭素原子からなる通常の物
質でありながら,そのバンド構造の特殊性から,電子が二次元の質量ゼロのフェルミオンとしてディラッ
ク方程式と同等の方程式にしたがい,その性質は未知な部分が多い。グラフェンの電子状態の本質を
捉えて,その知見を機能素子の創製に活かすために,量子輸送理論(高根グループ),ラマン散乱(宇
田川グループ),X 線構造解析(鈴木グループ)などと共同研究を進めている。本年度は,単層および
多層のグラフェン素子の磁気輸送に関しての研究と,グラフェンを大量に生成する方法を開拓した。
2.研究成果
2.1 単層グラフェンの低温磁気輸送とディラック点での特異な磁気抵抗
単層グラフェン素子を作製し,磁気抵抗測定をおこなった。グラフェンでもっとも興味深いのはディラ
ックポイント付近の挙動である。私たちは,正の磁気抵抗に続く異常な負の磁気抵抗によって生じてい
るカスプ状の磁気抵抗の磁場依存性を発見した。ディラック点ではゼロ磁場では状態密度がゼロであ
るが,磁場をかけると n=0 のランダウ準位の状態密度が生成し急速に増大する特殊な電子構造に由来
すると考えている。
2.2 多層グラフェンの磁気抵抗とキャリアポケット生成
単層グラフェンのバンド構造は,K 点付近の電子バンドとホールバンドが一点で接する。グラフェン
層数が増えると,次第にグラファイトの半金属的なバンド構造に戻り,キャリアポケットが生成する。これ
を明らかにするために,1層から6層までのグラフェンに関して磁気抵抗測定をおこなったところ,正の
磁気抵抗の大きさが,3層よりも層数が多いと急に磁気抵抗が増大するのが観測された。これは,キャリ
アポケットの生成する層数とほぼ一致していることが明らかになった。
2.3 グラファイト相関物質を用いた,グラフェンの大量生成
グラフェン素子を作る場合に,もっとも困難なのは,グラフェンをグラファイトから剥離して作るステッ
プである。 このステップについて,グラファイト層間化合物(GIC)を出発母体とすることで解決すること
ができた。 私たちは安定な SbCl5 の GIC を用いることで大量にグラフェンを生成し,それを素子化して
輸送現象測定をおこなうことに成功した。
- 43 -
3.3 ●マテリアルデザイン部門●
部門長 小口 多美夫
部門の目的
量子力学の基本原理に基づくシミュレーション手法を用いて物質の構造や性質を予測しモデル化する
ことによって,新たな機能物質をデザインすることを目的とする。そのため,研究基盤としてのシミュレーシ
ョン・デザイン手法の開発を行い,実験グループとの協同により機能物質の創製を試みる。また,大学間
連携や研究ネットワークの研究拠点ノードとしてマテリアルデザイン分野での若手人材育成を計る。
研究組織
部門長 小口多美夫(先端物質科学研究科 教授)
城健男(先端物質科学研究科 教授)
高根美武(先端物質科学研究科 教授)
星野公三(総合科学研究科 教授)
樋口克彦(先端物質科学研究科 准教授)
若林克法(大学院先端物質科学研究科 助教)
吉田博(大学院先端物質科学研究科 客員教授 [阪大院基礎工・教授])
特筆すべき成果
★ 表面 Rashba 効果の一般的な性質を群論的考察から解明。専門雑誌の速報版(FTC)として出版。 [T.
Oguchi and T. Shishidou, J. Phys.: Condens. Matter 21, 092001 (2009).]
★ 第一原理分子動力学シミュレーションを用いて、高温・超高圧下の液体カーボンの圧力−誘起構造変
化、および超高圧領域のナトリウムの融解曲線における融点極大現象を解明。専門誌の表紙を飾る。
[星野公三,高圧力の科学と技術,Vol. 18,No. 4,343-350 (2008).]
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量子シミュレーション手法の開発と応用
小口 多美夫(先端物質科学研究科
教授)
1.研究の概要
機能の新たなる開拓のためには,量子力学の基本原理に基づくシミュレーショ
ンにより物質の構造や性質を予測し新たな機能物質をデザインすることが重要
かつ不可欠となってきている。本研究では,量子シミュレーションに必要な手法の開発を第一の目的と
している。また,種々の物質系に対して具体的に量子シミュレーション手法を応用し,物性予測や機能
物質のデザインに資するとともに,手法開発にフィードバックすることを第二の目的とする。
2.研究成果
2.1 量子シミュレーション手法の開発
我々は、局所密度近似(LDA)を超えた GW 近似に基づく第一原理計算手法の開発を目指している。
本年度は,GW 近似計算で基本部分となる Fock 演算子の計算手法と計算コードの開発を行った。
Fock 演算子には Coulomb 相互作用による発散が含まれ,k•p 法を応用して発散を押さえながら効率よ
く行列要素の数値計算が実行できる手法を提案した。この他,ノンコニリア磁性を扱う手法等の定式化
及びコード開発も行った。
[文献] T. Shishidou and T. Oguchi, “k•p formalism for use with linearized augmented plane waves”,
Phys. Rev. B 78, 245107 (13 pages) (2008).
2.2 量子シミュレーション手法の応用
LDA の範囲での量子シミュレーション手法を種々の凝縮系に応用した。具体的に応用した物質系、
物性として,超伝導物質系(硼素ドープダイヤモンド,硼素ドープ SiC),熱電変換物質系(ハーフホイ
スラー型半導体),強誘電体・反強誘電体系(SnTiO3,ガーネット Y3Fe5O12),軽元素水素貯蔵物質,
表面における Rashba 効果等が挙げられる。
[文献等] M. Onoue, F. Ishii and T. Oguchi, “Electronic and thermoelectric properties of the intermetallic
compounds MNiSn (M=Ti, Zr and Hf)”, J. Phys. Soc. Jpn. 77, 054706 (8 pages) (2008); J. Nakamura, N.
Yamada, K. Kuroki, T. Oguchi, K. Okada, Y. Takano, M. Nagao, I. Sakaguchi, T. Takenouchi, H.
Kawarada, R. C. C. Perera, and D. L. Ederer, “Holes in the Valence Band of Superconducting
Boron-Doped Diamond Film Studied by Soft X-ray Absorption and Emission Spectroscopy”, J. Phys.
Soc. Jpn. 77, 054711 (6 pages) (2008); T. Tsumuraya, T. Shishidou, and T. Oguchi, “Theoretical analysis
of X-ray absorption spectra of Ti compounds used as catalysts in lithium amide/imide reactions”, Phys.
Rev. B 77, 235114 (7 pages) (2008); M. Kriener, Y. Maeno, T. Oguchi, Z.-A. Ren, J. Kato, T. Muranaka,
and J. Akimitsu,
“Specific heat and electronic states of superconducting boron-doped silicon carbide”,
Phys. Rev. B 78, 024517 (10 pages) (2008); P. K. Baettig and T. Oguchi,
“Why are garnets not
ferroelectric? – A theoretical investigation of Y3Fe5O12”, Chem. Mater. 20, 7545-7550 (2008); Y. Uratani,
T. Shishidou and T. Oguchi,
“First-principles study of lead-free piezoelectric SnTiO3”, Japan. J. Appl.
Phys. 47, 7735-7739 (2008).
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遷移金属化合物の軌道秩序と X 線分光・散乱
城
健男
(先端物質科学研究科
教授)
1. 研究の概要
磁気的秩序の観測方法は多く存在するのに対し,軌道秩序即ち縮退した軌道
の電子占有の偏りが作る秩序の観測方法は多くはなく,最近,内殻 X 線吸収線二色性や共鳴 X 線散
乱が注目されている。本研究は,遷移金属化合物における d 軌道の占有状態と軟 X 線領域の吸収線
二色性,共鳴 X 線散乱における線二色性の関係を,1イオン模型を中心とする局所模型に基づき,具
体的な系について理論面から明らかにする。また,磁気的秩序と電気分極が共存する系の電子状態
の解明において,種々の X 線分光が果たす役割を調べる。
2.研究成果
2.1 遷移金属酸化物の軌道秩序と共鳴 X 線非弾性散乱
LaMnO3 では、c 面内の1つの副格子点で2重縮退 Mn eg 軌道 3x2-r2 と y2-z2 の重ね合わせ状態、も
う1つの副格子点で 3y2-r2 と z2-x2 の重ね合わせ状態が交互に占有された反強的軌道秩序が報告され
ているが、どのような重ね合わせ状態が実現されているかを実験的に特定することは容易ではない。こ
の系を例にとり,重ね合わせ状態即ち Mn3d 軌道秩序の秩序変数を特定する上で,入射・放出 X 線の
エネルギーと直線偏光を指定した Mn2p-3d 共鳴 X 線非弾性散乱が果たす役割を調べた。その結果,
非弾性散乱が、秩序変数を特定する上で X 線吸収とは相補的な有用な役割を果たすことを,1イオン
模型に基づき明らかにした。
2.2 YMnO3 の電子状態と内殻 X 線吸収線二色性
YMnO3 において,O K 吸収端,Mn L 吸収端の線二色性の実験と理論解析により,Y 4d 軌道および
Mn 3d 軌道の占有状態を明らかにした。これにより,X 線吸収線二色性が,この系の multiferroicity の
出現機構を解明する上で有用であることを示した。
[文献] D.-Y. Cho, et al. (他14名), A. Tanaka and T. Jo, “Ferroelectricity Driven by Y d0-ness with
Rehybridization in YMnO3”, Phys. Rev. Lett. 98, 217601/1-4, (2007).
2.3 面心立方格子第一種反強磁性体の多重スピン密度波と格子変形
格子定数 a の FCC 格子上の第一種反強磁性体では、変調波数ベクトル Qx, Qy, Qz (Qx =2π/a(1,0,0)
等)は同等ではあるが同一ではなく、一般にはそれらの重ね合わせ状態(多重スピン密度波)が実現さ
れる。対称性から、一般の多重スピン密度波状態は格子変形を伴う。例えば γMn1-xNix 合金では、ネー
ル温度以下で温度を T、Ni の濃度を x とすると、T-x 面で立方晶、c/a<1, c/a>1 の二種類の正方晶、斜
方晶を含む相図が観測されている。2体のスピン間相互作用である古典的ハイゼンベルグ模型を拡張
し、高次の相互作用を考慮したスピン系と格子系とのカップリングを考慮したハミルトニアンに基づき、ミ
クロな立場から γMn1-xNix 合金で観測されている相図を説明するとともに、各相で実現される磁気構造
を明らかにした。
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超伝導体細線中における非平衡準粒子の輸送現象
高根
美武(先端物質科学研究科
教授)
1.研究の概要
超伝導体中に準粒子電流を注入すると,電極近傍に非平衡準粒子が励起さ
れる。この非平衡準粒子の分布は,エネルギーインバランスと電荷インバランスの二成分に分解して考
えることが出来る。前者は半導体における電子-正孔励起とほぼ同等であるが,後者は準粒子の電荷
中性を破る特異な励起モードであり,超伝導状態に特有である。勿論,浮いた準粒子電荷はクーパー
対の密度変化によって相殺され,全体の電荷中性は保たれる。非平衡準粒子の輸送現象は 1970 年
代から 80 年代にかけて盛んに研究され,そのおおよその振る舞いは明らかとなった。しかし,当時の実
験には制約も多く,積み残された課題も少なくない。特に,低温領域における振る舞いを明らかにする
ことは,超伝導量子エレクトロニクスを発展させる上で重要な課題のひとつである。本年度は,超伝導
細線中における「電荷インバランスの緩和に対する磁場効果」と「スピン偏極した非平衡準粒子の輸送
現象」について理論的に検討した。今後,八木グループとの共同研究により,得られた成果を実験的
に検証して行く予定である。
2.研究成果
2.1 電荷インバランスの緩和に対する磁場効果
電荷インバランスの振る舞いに最も強い影響を与えるのは緩和時間である。転移温度近傍ではフォ
ノン散乱による緩和が支配的であり,絶対零度近傍の低温領域ではクーパー対の弱い異方性に起因
する不純物散乱効果が重要となる。このような緩和機構は外部から精密に制御することが不可能であ
るため,電荷インバランスの振る舞いに関する理解の深化を阻む要因となっていた。我々は,弱い外部
磁場を印加することによって,電荷インバランスの緩和時間を制御し得ることを示した。
[ 文 献 ] Y. Takane and Y. Nagato, “Magnetic field effect on charge imbalance conversion in
superconducting wires”, J. Phys. Soc. Jpn. 77, 093713 (1-4), 2008.
2.2 超伝導スピントロニクス素子におけるスピン偏極した非平衡準粒子の輸送現象
強磁性金属(F)から電流を注入することにより,超伝導体(S)にスピン偏極した非平衡準粒子を励起
することができる。Poli et al. は FSF 二重トンネル接合の一方の電極から注入したスピン偏極非平衡準
粒子を,数百ナノメートル離れた他方の電極において検出する実験を行った。その結果,温度の低下
に伴ってスピン信号は増大するが,0.1[K]程度で飽和することを見出した。この振る舞いを説明する理
論を提案し,検出側の強磁性電極における準粒子分布が飽和の原因となることを指摘した。
[文献] Y. Takane, “Spin injection and detection in a mesoscopic superconductor at low temperatures”,
J. Phys. Soc. Jpn. 78, 2009 in press.
3.その他の成果
若林克法(マテリアルデザイン部門)との共同研究により,グラフェンナノリボン等の完全透過チャネ
ルを持つ量子細線系における特異な電気伝導現象に関して成果を挙げた。
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第一原理シミュレーションによる液体とナノ物質の研究
星野
公三(総合科学研究科
教授)
1.研究の概要
第一原理分子動力学シミュレーションは,原子配列(構造)と電子状態を同時
に求めることができる方法であり,規則性をもたない多様な系の構造と電子状態の相関を調べるのに有
効な方法である。本研究では,①液体金属の構造と電子状態,特に,高温・高圧下の構造の特徴の解
明,および,②ナノ構造化グラファイトの水素の吸蔵・放出機構の解明をめざして研究を進めている。ま
た,③古典的分子動力学シミュレーションによるカーボンナノチューブの格子欠陥周辺の構造緩和の
研究も行った。
2.研究成果
2.1 高温・高圧下における液体金属の構造の研究
第一原理分子動力学シミュレーションにより,液体ナトリウム,液体スズおよび液体ゲルマニウムの構
造を調べた。液体ナトリウムの融解曲線を第一原理分子動力学シミュレーションでもとめ,最近の実験
と比較検討した。特に,高圧下では原子間距離が近づくため,コア状態の波動関数の重なりを考慮す
ることが重要であることを示した。また,液体スズおよび液体ゲルマニウムにおける共有結合性と構造の
関係について詳しく調べた。
[文献] A. Yamane, F. Shimojo and K. Hoshino, “Effects of Inner-Core 2p States on Melting Curve and
Structure of Dense Sodium at High Pressures”, J. Phys. Soc. Jpn. 77, No.6, 064603 (7pp) (2008), S.
Munejiri and T. Masaki, T. Itami, F. Shimojo and K. Hoshino, “Static and dynamic structure and the
atomic dynamics of liquid Ge from first-principles molecular-dynamics simulations”, Phys. Rev. B 77,
014206(12pp) (2008)
2.2 ナノ構造化グラファイトのエッジにおける炭化水素の結合状態
第一原理分子動力学シミュレーションにより,ナノ構造化グラファイトのエッジにおける炭化水素 CH2,
CH3 の結合状態を調べた。特に,温度上昇にともなう C-H ボンドの振動モードの変化について調べた。
これらの研究成果は,日本物理学会第 63 回年次大会(2008 年 3 月,近畿大学)において口
頭発表した。
2.3 カーボンナノチューブの格子欠陥周辺の構造緩和の研究
単層カーボンナノチューブの格子欠陥周辺の構造緩和を,チューブの半径の関数として古典分子
動力学シミュレーションにより,環境依存型相互作用ポテンシャルを用いて調べた。カーボンナノチュ
ーブにおける点欠陥が温度上昇にともなって 5‐1DB 欠陥へと構造緩和することを,単層カーボンナノ
チューブで示し,その起源について議論した。これらの研究成果は,日本物理学会第 63 回年次大
会(2008 年 3 月,近畿大学)において口頭発表した。
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新しいバンド理論の開発
樋口
克彦(先端物質科学研究科
准教授)
1.研究の概要
新しいバンド理論に向けて,これまでに Levy の制限つき探索の理論を拡張す
ることで,任意の物理量を基本変数に選べる拡張された制限付き探索(ECS)理論を開発してきた。今
年度は,二次簡約化密度行列の対角要素(対密度)を基本変数に選んだ対密度汎関数理論を用いて,
実際に電子構造計算を行いその有用性を実証した。また,ECS 理論における交換・相関エネルギー汎
関数の開発に向けて,交換・相関エネルギー汎関数が満たすべき関係式を新たに導出した。ここで得
られた関係式は,既に開発済のヴィリアル法に適用できる。
2.研究成果
2.1 対密度汎関数理論による電子構造計算
ECS 理論をもとに,対密度を再現するハンド理論の開発に取り組んでいる。単一スレーター
行列式による再現を目指した理論は,探索範囲の制限があるものの,相関効果を明確に含んだ
N 表示可能な対密度を得ることができる。そういった意味で,波動関数理論のハートレー・フ
ォック近似に相当する「対密度汎関数理論の出発理論」と見なすことができる。この理論の能
力を定量的に計るために,ネオン原子によるテスト計算を行った。計算に必要となる相関運動エ
ネルギー汎関数の近似形としては,今年度開発した2種類の近似形を用いた。その結果,いずれの近
似形を用いても,本理論は相関エネルギーの約 2 割をカバーすることがわかった。
[文献]M. Higuchi and K. Higuchi, “Pair density functional theory utilizing the noninteracting reference
system: An effective initial theory”, Phys. Rev. B 78, 125101 (2008), K. Higuchi and M. Higuchi,
“Computational scheme for the ground-state pair density”, J. Phys.: Condens. Matter., 21 064206 (2009).
2.2 ECS理論における交換・相関エネルギー汎関数
ECS理論を用いて具体的な電子構造計算を実行するためには,電子密度と任意に選択された物理
量の汎関数の形で交換・相関エネルギー汎関数を与える必要がある。今年度は,ECS理論の交換・相
関エネルギー汎関数に含まれる運動エネルギー部分(以下,相関運動エネルギー汎関数と呼ぶ)に関
する新しい総和則を導出した。相関運動エネルギー汎関数は,参照系と現実の多体系の運動エネル
ギーの差に相当する量で,ヴィリアル関係にもあらわれた量である。今回得られた結果とヴィリアル関係
をあわせることで,交換・相関エネルギー汎関数に関する新しい総和則が得られる。この交換・相関エ
ネルギー汎関数に関する新しい総和則は,既に開発したヴィリアル法にも適用できる有用な関係式で
ある。
[文献]K. Higuchi and M. Higuchi, “Kinetic energy contribution to the exchange-correlation
energy functional of the extended-constrained search theory”, Phys. Rev. A. (2009) in press.
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ナノカーボン物質系の電子物性理論
若林
克法(先端物質科学研究科
助教)
1.研究の概要
2004年に一原子層のグラファイトシート(グラフェン)が実験的に容易に作製できる
ことが指摘され以降, グラフェンの特異な電子物性を利用した電子デバイスの実現
を目指して, 国内外において実験および理論の両面から爆発的な勢いで研究が進んでいる。このような世
界的な研究の大きな流れの中で, グラフェンにおける強いナノスケール効果, そしてエッジ状態に磁気的な
異常などを, 理論的な先行研究として我々は明らかにしてきた。本研究では、ナノスケールまでに微細化・
微細構造形成が可能となった時点で明瞭になる特異な電子物性を理論的に解明し, その特性を積極的に
生かしたデバイスの設計提案が目的である。
2.研究成果
2.1 グラフェンナノリボンにおける完全伝導チャンネル
グラフェンのフェルミ準位近傍の電子状態を担うπ電子によるエネルギーバンド構造を見ると, 価電子帯
と伝導帯が第一ブリュアン域の K 点においてのみ波数の1次で点接触をし, ちょうどそこにフェルミ準位がく
る. K 点近傍の低エネルギー電子構造はバレーと呼ばれ, 各バレーのπ電子状態は形式に質量のないディ
ラックフェルミオンとして記述される。グラフェンが2つの独立な K 点をもつこと反映して, 不純物や端の乱れ
による散乱によって, 2つのバレー間に散乱が起きるか否かで, 伝導特性に大きな違いが現れる。たとえば,
ジグザグ端をもつリボンでは, エッジ状態に由来する部分フラットバンドの存在のために, 伝導チャンネルに
おける2重縮退が破れ, 2つあるバレーのうち片側だけに着目すると, 左向きと右向きチャンネルの数に差
が生じる。このため, 長距離不純物によってバレー間散乱が抑制されると, 余った一つの伝導チャンネルは,
完全伝導チャンネルとして働き, 準一次元系にも関わらず局在が起きないという特異な性質を示す。このこ
とから, グラフェンナノリボンは高い伝導性を有する量子細線になりうることがいえる。
[文献] K. Wakabayashi, Y. Takane, M. Yamamoto, and M. Sigrist, “Edge effect on electronic transport
properties of graphene nanoribbons and presence of perfectly conducting channel”, CARBON(Elsevier),
vol. 47 (2009) page. 124-137, K. Wakabayashi, Y. Takane, M. Sigrist, “Perfectly Conducting Channel
and Universality Crossover
in Disordered Graphene Nanoribbons”, Phys. Rev. Lett. 99, 036601
(2007).
2.2 グラフェン上に形成される量子ポイントコンタクトを介した電子伝導
ナノグラフェン量子ポイントコンタクトにおけるコンダクタンス揺らぎを数値解析によって調べ,
ファノ共鳴による強いコンダクタンス揺らぎが低エネルギー領域で現れることを見いだした。これ
はグラフェン系に特有な現象であり, 通常の半導体構造では現れない特異な伝導現象である。
[文献] K. Wakabayashi, and M. Sigrist, “Enhanced conductance fluctuation due to the zero-conductance
Fano resonances in the quantum point contact on graphene,” J. Phys. Soc. Jpn. (Letters), vol. 77, No. 11,
113708 (2008).
3.その他の成果
日本物理学会会誌(2007 年 5 月号)に, ナノグラフェンに解説が掲載され, 図が表紙として使用された。
- 50 -
4. センター活動内容
- 51 -
4.1 主催・共催会議報告
先進機能物質研究センター講演会
工学研究科 教授 山中 昭二,総合科学研究科 教授 宇田川 眞行
会議名称:「先進機能物質研究センター講演会」
日程:2008 年 12 月 20 日(土)+2008 年 12 月 27日(土)
会場:先端科学総合研究棟 304S
主催:広島大学先進機能物質研究センター
概要:広島大学先進機能物質研究センターのプロジェクト研究の進捗状況及びと将来展望についての
方向性について議論した。
1日目:12月20日(土)
9:00 - 9:10 高畠先進機能物質研究センター長:始めに
9:10 - 9:35 山中昭司 :直交格子層状窒化物超伝導体の開発
9:35 - 10:00 高畠敏郎 :新規熱電変換カゴ状化合物
10:00 - 10:25 鈴木孝至 :強弾性トリフェロイックス
10:40 - 11:05 播磨 裕
:分子薄膜中の電荷担体の光学吸収スペクトル測定
11:05 - 11:30 瀧宮和男 :有機エレクトロデバイス
11:30 - 11:55 市川貴之 :軽元素系水素貯蔵物質の作製と解析
13:15 - 13:40 小口多美夫:時間反転のないRashba効果
13:40 - 14:05 世良正文 :CeB6における圧力誘起強磁性と
YbAl3C3における長距離間ダイマー基底状態
14:05 - 14:30 宇田川眞行:最近のラマン散乱の研究
14:30 - 15:00 高畠先進機能物質研究センター長:将来構想
2日目:12月27日(土)
9:00 - 9:25 井上克也:カイラル磁性体の磁気構造相図と特異なスピンダイナミックス
9:25 - 9:50 山本陽介:超原子価5配位および6配位炭素化合物研究から
触媒反応への展開
9:50- 10:15 戸田昭彦 :ソフトマターの構造形成と場
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「第2回日韓セミナー」国際ワークショップ
広島大学-成均館大学間の部局間協定による国際研究会
先端物質科学研究科 准教授 伊賀 文俊
会 議 名 称 : 2nd Sungkyunkwan University-Hiroshima University Workshop on Advanced Materials
Research
日程:2008 年 11 月 8 日(土) - 11 月 9 日(日)
会場:大韓民国京畿道水原市成均館大学 Research Complex Building 1(8 階)
主催:成均館大学自然科学部,広島大学大学院先端物質科学研究科
共催:Center for Nanotubes and Nanostructured Composites,広島大学先進機能物質研究センター
概要:本ワークショップは,2005年に本学先端研と韓国の成均館大学との間の部局間協定を元に始まっ
たもので,両国の第1回を2006年に広島で,第2回を韓国側で行ったものである。協定の内容は
共同研究や学生交流,研究会開催の為の国際交流協定を柱としている。本学からの参加者は先
端物質科学研究科の教員8名,大学院生8名,職員1名,先進機能物質研究センターの専任教員
1名,総合科学研究科の教員3名,大学院生3名,計24名。学生も含め全て英語による口頭発表,
ポスタープレゼンテーションにより意見交換を行った。強相関化合物,ナノ構造を持つ物質,フラス
トレーション磁性体,かご状化合物,多極子秩序,超伝導体,水素貯蔵物質,マルチフェロイック化
合物等の多岐にわたる物質の最新の現状(実験結果)および物性理論を議論した。
プログラム
11月8日(土)
9:30-9:40
Welcome Address
C-Y. Park
9:40-9:50
Welcome Address
T. Jo
9:50-10:00
Opening remarks
Y-B. Kim
Session I
Advanced Materials I
Chairman:J-Y Rhee
10:00-10:25 Phase Transition in VO2 nanowires
D. J. Kang
10:25-10:50 Complex-Orbital Order in Transition-Metal Compounds
A. Tanaka
10:50-11:15 Two-dimensional metal-insulator transition of SrTiO3/
J-C. Lee
(Sr0.88,La0.12)TiO3 superlattice
11:15-11:40 High field magnetization of Kondo semiconductor YbB12
and Shastry-Sutherland lattice RB4 (R=Tb, Er and Tm)
11:40-13:00 Lunch
- 53 -
F. Iga
Session II
Advanced Materials II
Chairman: T. Jo
13:00-13:25 Research activities of nano-composite materials for
T. Ichikawa
Hydrogen storage
13:25-13:50 5-Subgstituted Isophthalate-Based Electrochromism
S-U. Son
13:50-14:15 Raman Scattering Investigation of Guest Ion Motion
M. Udagawa
in Cage Compounds
14:15-14:40 Equivalent LC-circuit mode for the resonances of cut-
J-Y. Rhee
wire pair structures used in Left-Handed Metamaterials
14:40-15:00 Group Photo & Coffee
Session III
Advanced Materials III
Chairman: T. Oguchi
15:00-15:25 Multipolar Ordered State in Pr-based Intermetallic
T. Onimaru
Compounds
15:25-15:50 Spin-Lattice Coupling of Multiferroic (Y, Lu)MnO3
J-G. Park
Systems
15:50-16:15 Magnetic Phase Transitions in nRB4 (R=Tb, Dy, Ho) with
T. Matsumura
Geometrical Frustration
16:15-16:40 Recurrent character of biased random walk on regular
H-K. Lee
lattices
16:40-17:00 Coffee Break
Session IV
Special Lecture I
Chairman: C-Y. Park
17:00-17:30 Local phonon dynamics in thermoelectric clathrates
T. Takabatake
with off-center rattling ions
17:30-18:00 Recent progresses in carbon nanotube-based flexibletransparent conducting film
18:00-19:00 Lab Tour
11月9日(日)
- 54 -
Y-H. Lee
Session V
Advanced Materials IV
Chairman: D-J. Kang
9:35-10:00
Crystal Electric Field Study in Pr-based cage compounds
N. Ogita
by Raman scattering
10:00-10:25 Electric structure of epitaxial graphene on SiC
J-R. Ahn
10:25-10:50 Terahertz spectroscopy by means of compact sensor chips J. Kitagawa
10:50-11:15 Manipulation and trapping of metallic and semiconducting
G-H. Kim
nanoparticles into nanogapelectrodes for device applications
11:15-11:40 Surface electronic states on the layered nitride super-
A. Sugimoto
conductors observed by SZTM/STS
11:40-13:00 Lunch
Session VI
Chairman: F. Iga & J-R. Ahn
13:00-14:40 Poster Session Presentation & Discussions
Session VII
Special Lecture II
Chairman: T. Takabatake
15:00-15:30 General aspects on the Rashba effect
T: Oguchi
15:30-16:00 DNA nanostructures for NanoBioDevices
S-H. Park
16:00-16:10 Concluding remarks
J-Y. Rhee
16:10-16:20 Closing Address
F. Iga
- 55 -
平成20年度 第一回水素エネルギー利用開発研究会
先進機能物質研究センター 教授 小島 由継
会議名称:第一回水素エネルギー利用開発研究会
日程:2008年7月9日(水)
会場:広島大学東千田キャンパス B棟2階大講義室,広島市中区東千田町一丁目1番89号
主催:広島大学水素プロジェクト研究センター,広島大学先進機能物質研究センター,
広島市産業振興センター
後援:中国経済産業局
協賛:独立行政法人科学技術振興機構,(社)中国地域ニュービジネス協議会,
広島大学水素プロジェクト研究会
概要:広島大学水素プロジェクト研究センターと(財)広島市産業振興センターが共同主催で2007年9月
に本研究会を立ち上げ,2年目を迎える。本年度第1回研究会では,(財)国立環境研究所・藤野純
一主任研究員,横浜国立大学・太田健一郎教授,マツダ株式会社・森本賢治主幹研究員によって,
低炭素社会,持続型成長社会,水素自動車に関する講演がなされた。
参加者数: 130 名
講演数:口頭発表3件
プログラム
7月9日(水)
13:30-13:40 挨拶
水素エネルギー利用開発研究会
代表 小島由継
13:40-14:40 日本低炭素社会に向けた挑戦-なぜ必要か、どうすればできるか-
(独)国立環境研究所 地球環境研究センター 温暖化対策評価研究室
主任研究員 藤野純一
14:40-15:40 持続型成長を担う水素エネルギー
横浜国立大学大学院工学研究院
教授 太田健一郎
16:00-17:00 マツダの水素自動車開発の取り組み
マツダ株式会社 技術研究所
- 56 -
主幹研究員 森本賢治
平成20年度 第二回水素エネルギー利用開発研究会
先進機能物質研究センター 教授 小島 由継
会議名称:第二回水素エネルギー利用開発研究会
日程:2008年11月11日(火)
会場:広島大学東広島キャンパス,中央図書館1階ライブラリーホール
東広島市鏡山一丁目2-2
主催:水素エネルギー利用開発研究会,広島大学(先進機能物質研究センター,水素プロジェクト
研究センター),中国経済産業局,(財)広島市産業振興センター(先端科学技術研究所)
協賛:広島県,独立行政法人科学技術振興機構JSTイノベーションプラザ広島,(社)中国地域ニュービ
ジネス協議会,マツダ㈱,岩谷産業㈱,広島大学水素プロジェクト研究会
概要:広島大学水素プロジェクト研究センターと(財)広島市産業振興センターが共同主催で2007年9月
に本研究会を立ち上げ,年数回の外部講師による口頭発表講演会を行っている。本年度第2回研
究会では,大阪ガス株式会社・上殿紀夫シニアエンジニア,(独)産業技術総合研究所・秋葉悦男
副研究部門長,東京工業大学・平井秀一郎教授を招いて,家庭用燃料電池,水素貯蔵技術,CO2
隔離技術に関する講演,さらに,水素自動車の展示および試乗会が行われた。
参加者数: 90 名
講演数:口頭発表3件
プログラム
11月11日(火)
11:10-11:15 挨拶
水素エネルギー利用開発研究会
代表 小島由継
11:15-12:15 家庭用燃料電池コージェネレーションシステム-純水素駆動 PEFC を含めて-
大阪ガス(株) 燃料電池システム部
上殿紀夫
15:00-16:00 水素貯蔵技術の現状と将来
(独)産業技術総合研究所 エネルギー技術研究部門
秋葉悦男
16:10-17:10 CO2の地中・海洋隔離技術
東京工業大学 炭素循環エネルギー研究センター
展示試乗会 サタケメモリアルホール駐車場
- 57 -
平井秀一郎
第三回水素若手研究会
先進機能物質研究センター 教授 小島由継
会議名称:第三回水素若手研究会
日程:2008年8月20日(水) 13:00 ~ 8月22日(金)12:00
会場:広島大学先端物質科学研究科401N(20日,21日),学士会館レセプションホール(22 日)
主催:水素若手研究会実行委員
後援:財団法人 池谷科学技術振興財団,広島大学先進機能物質研究センター
協賛:日本金属学会,炭素材料学会,日本鉄鋼協会,触媒学会
概要:若手研究者の基礎力を向上させるために,水素利用研究における著名人による講義形式のセミナ
ー,および最先端で活躍している若手研究者の専門分野に関するセミナーを開講している。平成
20 年度は,産業技術総合研究所関西センター・境哲男先生,JASRI・本間徹生氏,岩谷産業株式
会社・広谷龍一氏,上智大学・花田信子氏を招き,それぞれ電池材料,X 線吸収実験,水素インフ
ラ構築,ヨーロッパでの研究活動に関する講演が行われた。さらに,先進機能物質研究センターの
研究室紹介,見学も行われた。
参加者数: 41 名
講演数:口頭発表 4件,ポスター発表 26 件
プログラム
8月20日(水)
13:00-13:30 開会式
13:30-15:00 セミナー(XAFS 分析の基礎と応用)
JASRI 本間徹生
15:15-16:45 セミナー(水素エネルギー普及を目指したインフラ構築) 岩谷産業株式会社 広谷龍一
17:15-19:15 ポスターセッション
8月21 日(木)
9:00-12:15 セミナー(電池技術が切り開く未来社会-材料技術の革新)産業技術総合研究所 境哲男
13:00-15:00 ラボツアー (広島大 小島研究室)
15:15-18:30 セミナー(電池技術が切り開く未来社会-材料技術の革新)産業技術総合研究所 境哲男
20:00-22:00 若手研究者によるポスターセッション
8月22日(金)
9:00~10:30 セミナー(ヨーロッパでの研究活動に関する体験を交えた講演)
10:40~12:00 反省会・閉会式
- 58 -
上智大学 花田信子
第6回広島大学ソフトマターコロキウム
総合科学研究科 教授 戸田昭彦
会議名称:第6回広島大学ソフトマターコロキウム
日程:2009年1月15日(目)
会場:広島大学総合科学研究科 A704 号教室
主催:広島大学先進機能物質研究センター
概要:ソフトマターの関わる研究に携わる広島大学関係者が集まり,ゲストも招待して定期的に行う研究
会である。今回は,放射光を用いたμビームX線回折の結晶高次構造解析への応用,高分子で構
成されるタイヤの物理的力学的特性発現機構について議論した。
プログラム
14:30-14:35
はじめに 戸田昭彦
14:35-15:45
脂質球晶の μ ビームX線回折 上野 聡(広大院生物圏)
16:00-17:10
自動車タイヤの力学的特性 小澤洋一(ブリヂストン タイヤ材料開発部)
17:20-18:30
高分子球晶の μ ビームX線回折 梶岡 寛(広大院総合科)
- 59 -
第2回広島大学ラットリング研究会
総合科学研究科 教授 宇田川 眞行
会議名称:「第2回広島大学ラットリング研究会」
日程:2009 年 2 月 22 日(日), 23 日(月)
会場:先端科学総合研究棟 302S
主催:広島大学先進機能物質研究センター
1日目:2月22日(日)
第Ⅰ部 ラットリング機構の解明,コーディネーター:宇田川 眞行
13:00 - 13:20 藤秀樹(神戸大):A02-002計画班の事務連絡
13:20 - 13:50 筒井智嗣(SPring-8):放射光実験から見たゲスト原子のダイナミクス
13:50 - 14:20 藤秀樹(神戸大):ホスト核NMRで見るクラスレート化合物のラットリング特性と今後
の展開
14:20 - 14:50 根本祐一(新潟大):超音波計測によるラットリングとトンネリングの観測
14:50 - 15:15 休憩
15:15 - 15:45 鈴木孝至(広島大):超音波分光法を用いた巨大振幅原子振動がもたらす新しい
電子相の研究
15:45 - 16:15 宇田川眞行(広島大): ラマン散乱による巨大振幅振動の研究計画と最近の結果
16:15 - 16:45 李 哲虎(産総研):中性子散乱で見るクラスレート化合物のフォノン
16:45 - 17:15 岩佐和晃 (東北大):中性子散乱によるラットリング研究
-東北大学グループの現状と展望17:15 - 17:45 討論(座長:藤秀樹)
18:00 -
懇親会
2日目:2月23日(月)
第Ⅱ部 ラットリング物質の創製,コーディネーター:高畠 敏郎
9:00 -
9:15 高畠敏郎(広島大):A02-001計画班の事務連絡
9:15 -
9:45 菅原仁(徳島大):スクッテルダイト化合物の単結晶育成の現状
9:45 - 10:15 関根ちひろ(室蘭工大):スクッテルダイト化合物の新物質探索
10:15 - 10:30 休憩
10:30 - 11:00 武田直也(新潟大):カゴ状物質Ce3Pd20Si6の熱処理効果
11:00 - 11:30 高畠敏郎(広島大):クラスレートの非中心ラットリングと熱伝導抑制
11:30 - 11:55 討論(座長:高畠敏郎)
- 60 -
第Ⅲ部 カゴ状物質等を利用した高性能熱電変換材料の研究開発
13:00 - 13:10 高畠敏郎(広島大) 経緯報告とクラスレート単結晶の熱電性能向上
13:10 - 13:35 小柳剛(山口大):SPS法によるクラスレート焼結体の作製と熱電気的特性
13:35 - 14:00 赤井光治(山口大):クラスレート化合物の電子構造と熱電高性能化の可能性
14:00 - 14:10 休憩
14:10 - 14:35 河野 欣(デンソー): Ba8Ga16Sn30(type-I, type-VIII)の電子構造と熱電特性
14:35 - 15:00 小原春彦(産総研),上野和夫(産総研):高性能熱電材料のモジュール化,評価
技術
15:00 - 15:25 田口隆志(デンソー):産業用排熱発電システムの概要と市場
15:25 - 16:00 討論(座長:田口隆志)
- 61 -
The University of Western Cape-Hiroshima University Workshop
先進機能物質研究センター 教授 小島 由継
会議名称:UWC-HU Workshop in Hiroshima University
日程:2009 年 3 月 12 日(木)
会場:広島大学先端科学総合研究棟 302S 号室
主催:広島大学(先進機能物質研究センター,水素プロジェクト研究センター)
概要:本ワークショップは,広島大学と南アフリカの西ケープ大学の水素エネルギー関連の共同研究実
施を前提に開催された。水素製造・貯蔵・利用に関する様々な研究発表がなされ,将来の共同研
究の可能性について議論がなされた。
プログラム
10:30-11:00 Recent Activities in Kojima Group
Y. Kojima
11:00-11:30 Synchrotron Radiation X-ray Study for Hydrogen Storage Materials
M. Tsubota
12:00-13:30 Lunch
13:30-14:30 Activities and collaboration potential at SAIAMC related to; H2 storage (modified Metal
Hydrides), H2 separation & PEM fuel cells
B. Bladergroen
14:30-14:45 Break
14:45-15:15 Preparation of Highly Permeable Hydrogen Separation Membranes Using Structured
Alkoxides
T. Tsuru
15:15-15:45 Molecular dynamics simulation of gas permeation through microporous amorphous ceramic
membranes
T. Yoshioka
15:45-16:00 Break
16:60-16:30 Electrode Properties of Ball-milled Graphite
T. Ichikawa
16:30-17:00 Hydrogen Storage System Composed of Ammonia and Metal Hydride
H. Miyaoka
- 62 -
物性セミナー開催状況(IAMR 主催)
第 317 回
2008 年 4 月 23 日(水)14:35-
先端科学総合研究棟 405N 号室
福永 香 氏,(独)情報通信研究機構
タイトル
第 318 回
テラヘルツ波分光による文化財の非破壊分析
2008 年 5 月 2 日(金)16:00-
理学部 E002 号室
山田 幸司 氏,北海道大学大学院地球環境科学研究院
タイトル
第 319 回
鈴木-宮浦クロスカップリングを用いた発光センサー分子の開発
2008 年 5 月 23 日(金)16:00-
先端科学総合研究棟 405N 号室
五十嵐 潤一 氏,茨城大学理学部
タイトル
第 320 回
共鳴 X 線散乱の最近の展開
2008 年 5 月 22 日(木)16:30-
先端物質科学研究科 402N 号室
石井 史之 氏,金沢大学大学院自然科学研究科
タイトル
第 321 回
ノンコリニア磁性の第一原理計算:マルチフェロイクスとグラフェンナノリボン
2008 年 6 月 25 日(水)16:00-
先端科学総合研究棟 405N 号室
佐々木 健一 氏,東北大学大学院 理学研究科
タイトル
第 322 回
エッジ状態の連続理論とその応用
2008 年 7 月 9 日(水)13:40-
広島大学東千田キャンパス B棟2階大講義室
藤野 純一 氏,(独)国立環境研究所 地球環境研究センター
タイトル
第 323 回
日本低炭素社会に向けた挑戦 ―なぜ必要か,どうすればできるのか―
2008 年 7 月 9 日(水)14:40-
広島大学東千田キャンパス B棟2階大講義室
太田 健一郎 氏,横浜国立大学大学院工学院
タイトル
第 324 回
森本
賢治
タイトル
第 325 回
持続型成長を担う水素エネルギー
2008 年 7 月 9 日(水)16:00氏,マツダ株式会社
広島大学東千田キャンパス B棟2階大講義室
技術研究所
マツダの水素自動車開発の取り組み
2008 年 6 月 13 日(金) 17:00-
先端科学総合研究棟 402N 号室
A.A. Belik 氏,物質・材料研究機構
タイトル
Effects of doping on structural, physical, and chemical properties of multiferroic BiMnO3
and BiCrO3
第 326 回
2008 年 6 月 17 日(火)16:00-
先端科学総合研究棟 302S 号室
Cedomir Petrovic 氏,Condensed Matter Physics, Brookhaven National Laboratory
タイトル
Heavy Fermion Semiconductor FeSb2
- 63 -
第 327 回
2008 年 7 月 29 日(火) 16:30-
先端物質科学研究科 402N号室
西松 毅 氏,東北大学金属材料研究所
タイトル
feram コードによる BaTiO3 強誘電体薄膜キャパシターのヒステリシス・ループの分子動力
学計算
第 328 回
2008 年 7 月 28 日(月)16:00-
先端科学総合研究棟 402N 号室
鬼丸 孝博 氏,先端物質科学研究科
タイトル
第 329 回
希土類金属間化合物の非磁性基底状態が創出する多彩な多極子秩序構造
2008 年 8 月 29 日(金)14:00-
先端科学総合研究棟 405N 号室
S. E. Mkam Tchouobiap 氏,山口大学
タイトル
Quasiharmonic approximation model for ferroelectric phase transition:quantum effects in
STO-type crystals
第 330 回
2008 年 9 月 3 日(水)14:00-
理学研究科 C212 号室
Vladimir Khovaylo 氏,Institute of Radio Engineering and Electronics of Russian Academy of
Sciences
タイトル
第 331 回
Ni2+xMn1-xGa: phase transitions, magnetic and magnetocaloric
2008 年 9 月 3 日(水)15:00-
理学研究科 C212 号室
鹿又 武 氏,東北学院大学工学部
タイトル
第 332 回
松村
武
タイトル
MAGNETIC PROPERTIES ON SHAPE MEMORY ALLOYS Ni2Mn1+xIn1-x
2008 年 9 月 26 日(金)16:00-
先端科学総合研究棟 402N 号室
氏,先端物質科学研究科
希土類四ホウ化物 RB4(R=Tb, Dy, Ho)における奇妙な磁気相転移現象と幾何学的フラ
ストレーション
第 333 回
2008 年 9 月 30 日(火)16:00-
先端科学総合研究棟 402N 号室
谷田 博司 氏,先端物質科学研究科
タイトル
第 334 回
結晶場基底状態に非磁性 2 重項Γ3 をとる立方晶 Pr 系化合物の多極子揺らぎ
2008 年 10 月 21 日(火)17:00-
理学研究科 C212 号室
白井 正文 氏,東北大学 電気通信研究所
タイトル
第.335 回
高スピン偏極ヘテロ接合界面の第一原理設計
2008 年 11 月 11 日(火)11:15-
中央図書館1階ライブラリーホール
上殿 紀夫 氏,大阪ガス(株) 燃料電池システム部
タイトル
第 336 回
家庭用燃料電池コージェネレーションシステム-純水素駆動 PEFC を含めて-
2008 年 11 月 11 日(火)15:00-
中央図書館1階ライブラリーホール
秋葉 悦男 氏,産業技術総合研究所 エネルギー技術研究部門
タイトル
水素貯蔵技術の現状と将来
- 64 -
第 337 回
2008 年 11 月 11 日(火)16:10-
中央図書館1階ライブラリーホール
平井 秀一郎 氏,東京工業大学 炭素循環エネルギー研究センター
タイトル
第 338 回
山口 政紀
タイトル
CO2の地中・海洋隔離技術
2008 年 11 月 11 日(火)14:00-
先端科学総合研究棟 401N 号室
氏,(株)東陽テクニカ
低温測定制御セミナー
-液体ヘリウム(4.2K),液体窒素(77K)レベルでの低温測定ノウハウ-
第 339 回
2008 年 12 月 11 日(木)17:20-
先端科学総合研究棟 401N号室
Marcus Heide 氏,Research Center Juelich, Germany
タイトル
第 340 回
Antisymmetric exchange interactions at magnetic surfaces
2008 年 12 月 11 日(火)16:20-
先端科学総合研究棟 401N号室
澤 博 氏,名古屋大学 大学院 工学研究科
タイトル
第 341 回
放射光構造解析を用いた結晶中の自由度の直接観測
2008 年 12 月 8 日(月)14:00-
理学研究科 C212 号室
Se-young Jeong 氏,Department of Nanomaterials Engineering, Pusan National University
タイトル
Hydrogen Mediated Ferromagnetic Switching Effect in Co-doped ZnO semiconductor
and the properties of metal single crystal
第 342 回
2008 年 12 月 18 日(木)14:45-
理学研究科 C212 号室
大隅 寛幸 氏,理化学研究所播磨研究所 放射光科学総合研究センター
タイトル
第 343 回
X線磁気回折による磁気構造物性研究の新展開
2009 年 1 月 21 日(水)16:30-
先端科学総合研究棟 405N 号室
齋藤 理一郎 氏,東北大学大学院理学研究科
タイトル
第 344 回
グラフェンと BN ナノリボンのエッジ状態
2009 年 1 月 15 日(木)10:30-
理学研究科 C212 号室
小口 多美夫 氏,先端物質科学研究科
タイトル
第 345 回
表面 Rashba 効果の群論的考察
2009 年 1 月 15 日(木)13:30-
理学研究科 C212 号室
坂本 一之 氏,千葉大学大学院融合科学研究科
タイトル
第 346 回
超高品質有機単結晶薄膜の電子構造
2009 年 1 月 15 日(火)14:40-
理学研究科 C212 号室
小田 竜樹 氏,金沢大学・理工研究域数物科学系
タイトル
第 347 回
表面磁気異方性と電子状態
2009 年 2 月 4 日(水)16:00-
理学研究科 C212 号室
Claudio August MARCELLI 氏,Laboratori Nazionali di Frascati, Italy
タイトル
SR a brilliant sources for solid-state researches in the IR and far-IR energy domain
- 65 -
第 348 回
2009 年 1 月 30 日(金)16:00-
先端科学総合研究棟 304S
Myung-Hwa Jung 氏,Department of Physics, Sogang University, Seoul, Korea
タイトル
Proposal for a new class of spin Hall material with high thermoelectric power and strong
spin-orbit coupling
第 349 回
2009 年 2 月 20 日(金)16:00-
理学研究科 B305 号室
Javier Campo 氏,Zaragoza University, Spain
タイトル
第 350 回
Neutron diffraction for Nano materialsMagnetic Interaction
2009 年 2 月 23 日(月)16:00-
理学研究科 B305 号室
Fernando Palacio 氏,CSIC, Spain
タイトル
第 351 回
Neutron diffraction for Nano materialsMagnetic Interaction
2009 年 3 月 12 日(木)13:30-
先端科学総合研究棟 302S
Bernard Bladergroen 氏,The University of the Western Cape, South Africa
タイトル
Activities and collaboration potential at SAIAMC related to H2 storage (modified Metal
Hydrides), H2 separation & PEM fuel cells
- 66 -
4.2 博士論文題目
学生氏名:井川 信彰,主査:佐野 庸治(工学研究科・教授)
題目:Synthesis of Calcium Phosphate/Designed Organic Molecule Composites
学生氏名:浦谷 佳孝,主査:小口 多美夫(先端物質科学研究科・教授)
題目:First-principles study of piezoelectric and multiferroic materials
学生氏名:沖本 真広,主査:山本 陽介(理学研究科・教授)
題目: Synthesis of Functionalized 7-Sila- and 7-Germanorbornadienes toward Generation of
Functionalized Silicon and Germanium Active Species
学生氏名:山道 秀映,主査:山本 陽介(理学研究科・教授)
題目:Synthesis, Structure, and Isomerization of Group 15 Element Compounds Bearing a
Rigid Tridentate Ligand
学生氏名:Hery Jon,主査:佐野 庸治(工学研究科・教授)
題目:A Study on the Improvement of Beta zeolite(*BEA) Properties; Toward Alternative Synthesis
Methods
学生氏名:圓谷 貴夫,主査:小口 多美夫(先端物質科学研究科・教授)
題目:First-principles study on light-element hydrogen-storage materials
学生氏名:中川 鉄水,主査:小島 由継(先端物質科学研究科・教授)
題目:Hydrogen storage properties of Metal-Boron-Hydrogen system
学生氏名:日野 聡,主査:小島 由継(先端物質科学研究科・教授)
題目:Thermodynamic properties of the lithium amide/imide hydrogen storage system
学生氏名:道村 真司,主査:伊賀 文俊(先端物質科学研究科・准教授)
題目: Fractional Magnetization Plateaus and Competing Magnetic Interactions in Rare-earth
Tetraborides RB4 (R=Er, Tm)
学生氏名:山根 阿樹,主査:星野 公三(総合科学研究科・教授)
題目:Structure of Liquid Metals at High Temperatures and High Pressures Studied by Molecular
Dynamics Simulations
- 67 -
4.3 特許出願状況
2008 年度 特許出願件数 合計 8 件
1.
小島
由継:
「水素吸蔵ステーション,水素供給ステーションおよび複合カートリッジ」,
出願番号:特願 2008-059931,出願日 2008 年 3 月 10 日
2.
小島
由継:「水素化リチウムの活性化方法及び水素発生方法」,出願番号:特願
2008-133967,出願日 2008 年 5 月 22 日
3.
小島
由継:「水素発生方法,水素発生材料の製造方法,水素製造装置,及び,燃料電
池システム」
,出願番号:特願 2008-168085,出願日 2008 年 6 月 27 日
4.
小島
由継:「アンモニア製造方法」
,出願番号:特願 2008-231125,出願日 2008 年 9
月9日
5.
小島
由継:
「微粉化黒鉛の製造」,出願番号:特願 2008-304868,出願日 2008 年 11 月
28 日
6.
小島
由継:「アルカリ金属水素化物の製造方法及び製造装置」,出願番号:特願
2008-314900,出願日 2008 年 12 月 20 日
7.
塩野
毅:ホアン・テ・バン:環状オレフィン/スチレン類共重合体の製造方法;特開
2008-816741
8.
鈴木 孝至:「圧力によって超伝導体から絶縁体へ遷移する超伝導体薄膜を用いた圧力検出
装置」,出願種別:国際出願,出願番号:PCT/JP2008/002069,出願日:2008年7月31日
2007 年度 特許出願件数 合計 12 件
1.
佐野
庸治:「メソポーラスメタロシリケートおよびその製造方法ならびにその用途」,
出願番号:特願 2007-288944,出願日 2007 年 12 月 14 日
2.
小島
由継:
「水素貯蔵材料およびその製造方法」,出願番号:特願 2007-110361,出願
日 2007 年 4 月 19 日
3.
小島
由継:「水素貯蔵材料の製造方法」,出願番号:特願 2007-155127,出願日 2007
年 6 月 12 日
4.
小島
由継:
「水素貯蔵材料の製造方法再生方法」,出願番号:特願 2007-179531,出願
日 2007 年 7 月 9 日
5.
小島
由継:
「水素貯蔵材料およびその製造方法」,出願番号:特願 2007-239243,出願
日 2007 年 9 月 14 日
6.
小島
由継:「金属水素化物の製造方法」,出願番号:特願 2007-239376,出願日 2007
年 9 月 14 日
7.
小島
由継:「水素発生方法、水素発生材料の製造方法、水素製造装置、及び、燃料電
池システム」
,出願番号:特願 2007-255558,出願日 2007 年 9 月 28 日
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8.
小島
由継:「燃料電池システム」,出願番号:特願 2007-255987,出願日 2007 年 9 月
28 日
9.
小島
由継:「水素貯蔵材料の製造方法」,出願番号:特願 2008-041805,出願日 2008
年 2 月 22 日
10.
小島
由継:
「水素供給装置及び燃料電池システム」,出願番号:特願 2008-048356,出
願日 2008 年 2 月 28 日
11.
小島
由継:
「水素供給装置及び燃料電池システム」,出願番号:特願 2008-051734,出
願日 2008 年 3 月 3 日
12.
「光電極,その製造方法,及び光電変換デバイス」,出願番号:特願 2007-059923,出
願日 2007 年 3 月 9 日
2006 年度 特許出願件数 合計 9 件
1.
播磨
裕:「色素増感太陽電池の酸化物半導体電極の製造方法及び酸化物半導体電極」,
出願番号:特願 2006-112788,出願日 2006 年 4 月 14 日
2.
樋口克彦「電流増幅装置」,出願番号:特願 2006-212395,出願日 2006 年 8 月 3 日
3.
小島
由継:
「水素貯蔵材料および水素発生方法」,出願番号:特願 2006-154291,出願
日 2006 年 6 月 2 日
4.
小島
由継:
「水素貯蔵材料およびその製造方法」,出願番号:特願 2006-163873,出願
日 2006 年 6 月 13 日
5.
小島
由継:
「水素貯蔵材料およびその製造方法」,出願番号:特願 2006-164848,出願
日 2006 年 6 月 14 日
6.
小島
由継:「水素ガスの精製方法」
,出願番号:特願 2006-250512,出願日 2006 年 9
月 15 日
7.
塩野
毅:プロピレンと共役ジエンとの共重合体の製造方法,登録番号:特開
2006-143969,登録日 2006 年 6 月 8 日
8.
塩野
毅:新規マルチブロックコポリマー,その製造方法,及びその利用,登録番号:
特開 2006-183042,登録日 2006 年 7 月 13 日
9.
山中
昭司:「リン捕集材及びその製造方法並びにリン捕集方法」,出願 番号 :特願
2006-008120,出願日 2006 年 1 月 17 日
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5. 外部評価委員会報告
平成21年3月
- 71 -
2009.03.04
広島大学先進機能物質研究センター外部評価会
平成21年3月4日(水)
13-17時 先端物質科学研究科会議室302S
評価委員
秋光 純 先生 (青山学院大学理工学部 教授)
秋葉悦男 先生 (産業技術総合研究所 エネルギー技術研究部門副研究部門長)
吉田 博 先生 (大阪大学大学院基礎工学研究科 教授)
13:00-13:30
高畠敏郎
組織,3年間の活動,将来構想
設立の経緯 3部門と重点プロジェクト
運営委員会と運営 特別教育研究経費の活用
国際的教育研究拠点に向けて 平成22年度概算要求
13:30-13:40
宇田川眞行,山中昭司,小島由継
研究会と国際ワークショップ
13:40-13:50
世良正文,山本陽介
教育への貢献
13:50-14:00 休憩
14:00-15:30
研究プロジェクトの紹介,重点プロジェクトの内容と成果,展望,外部資金
14:00-14:20 山中昭司 ナノ空間を利用する新機能物質開発
14:20-14:40 小口多美夫 複合的秩序を有する機能物質の創製と秩序機構の解明
14:40-15:00 塩野毅 分子集積デバイス材料開発
15:00-15:10 休憩
15:10-15:30 戸田昭彦 ソフトマターの機構解明と新機能開拓
15:30-15:50 小島由継 高容量ナノ複合水素貯蔵物質の創製
15:50-16:10 八木隆多 微小スケール量子機能物質のエレクトロニクス
16:10-16:30
研究室の現場を視察
16:30講評と質疑応答
17:00 終了
- 72 -
本評価報告書は「広島大学先進機能物質研究センター」高畠敏郎センター長の要請に
基づき,平成 21 年 3 月 4 日,広島大学においてセンター長はじめの個々のセンター研究員
からの研究・教育に関する同センターの3年間の活動報告を受け,それに基づいて外部評
価委員会の判断をまとめたものである。
平成 21 年 3 月 19 日
評価委員長 秋光 純 (青山学院大学 理工学部 教授)
評価委員
秋葉悦男 (産業技術総合研究所 エネルギー技術研究部門 副研究部門長)
評価委員
吉田 博 (大阪大学 大学院基礎工学研究科 教授)
- 73 -
(1)センターのミッションと総合評価:
平成18年に設立された「広島大学先進機能物質研究センター」(以下センター)は,機能物質に関
する独創的な研究者で構成される六つのプロジェクトと三つの部門からなり,広島大学の特色を打ち
出した研究センターと言える。学内だけでなく外部機関との積極的な共同研究を通したシナジー効果
により,革新的機能をもつ物質をデザインし,新機能物質を創製し,様々な物性評価手法や理論的手
法を駆使することにより,社会にとって必要となる新規機能を開拓する研究が行われている。3年間の
活動の結果,物質科学の新しい学術領域を創出し,若手研究者の人材育成を通して,国際的な研究
拠点が形成されつつある。このようなユニークな組織は他の国立大学法人には無いので,広島大学と
してエネルギー・環境調和材料開発のための中核的研究拠点と位置づけ,教員組織の拡充を含む強
力な支援が必要である。
研究面
現時点までのセンターの研究成果は,人類の未来にとって問題解決が緊急を要するエネルギー問
題や環境問題を解決するための基礎科学領域の創成と,これらの問題解決の基礎となるインパクトの
ある物質・材料の提供である。これらの研究成果の中からは,多くの優れた成果が得られており,問題
解決のための新しい研究の展開が予想される。特にエネルギー・環境問題の解決に資する次のような
世界トップレベルの優れた物質・材料を創製してきている。
1.水素エネルギー社会に不可欠の水素貯蔵物質
2.ナノ空間を利用した高効率熱電変換物質
3.太陽光を効率よく電気に変換できる安価な色素増感太陽電池材料
4.エネルギーをロス無く運び蓄えるナノ空間を利用したエキゾチック超伝導体
5.省エネルギーのための有機分子エレクトロニクス材料
6.マルチフェロイック・スピンエレクトロニクス材料
7.量子機能ナノエレクトロニクス材料
8.ボトムアップの自己組織化を利用した新機能ソフトマテリアル
今後,本センターの研究成果の中でも世界に誇れる広島大学オリジナルの研究成果を基に,物質の
ナノスケールサイズのすきまを活かすという独自の物質創製指針とマテリアルデザインを融合すること
により,ナノスケール超構造の低次元電子状態や原子の非調和振動を積極的に利用した高効率熱電
材料,層状超伝導物質,ナノ複合水素貯蔵物質などの高効率エネルギー変換材料,高密度エネルギ
ー貯蔵材料,省エネルギー輸送・貯蔵材料,環境調和材料などを創新する新しいフェーズへの展開
が期待される。
人材育成面
関係する研究科専攻と連携して,大学院生や若手研究者を積極的に国際研究集会,国際ワークシ
ョップ,および,国際共同研究に派遣し,積極的に情報発信させる努力も行われている。さらに,センタ
- 74 -
ーの構成員は,国際会議やワークショップを3年間で6回主催し,他の追随を許さない広島大学オリジ
ナルの研究成果を世界に向けて情報発信している。各プロジェクトを担っている若手研究者や大学院
生が積極的に共同研究に参加することにより,日本を代表する企業や研究機関,海外の大学や研究
機関との共同研究で大きな成果を生みつつある。
今後は研究を支える若手研究者,特に博士後期課程の学生を増やす必要がある。そのためには,
関係する研究科専攻との連携によって,若手研究者に対する経済的支援,アカデミックポジション以
外の多様なキャリアパスの開拓など,一層の努力が望まれる。
(2)重点プロジェクトによる研究活動の評価:
1.ナノ空間を利用する新機能物質開発:(リーダー 山中昭司 工学研究科)
広島大学オリジナルな超伝導物質や熱電変換物質の開発によって,「すきまの科学」領域の開拓を
牽引しており,将来への大きな展望を確立したことが高く評価できる。
2.複合的秩序を有する機能物質の創製と秩序機構の解明:(リーダー 小口多美夫 先端物質科学
研究科)
第一原理計算によるマテリアルデザインと実験グループとの綿密な連携が図られている。マルチフ
ェロイックマテリアルのデザインから物質創製,物性評価,機構解明までの全体として優れた総合力
を発揮している点が高く評価できる。
3.分子集積デバイス材料開発:(リーダー 播磨 裕 工学研究科)
次世代ナノエレクトロニクスの有力候補である有機・分子エレクトロニクスのための基本要素分子を
創成し,ボトムアップによる自己組織化や個々の要素のトップダウンによるプロトタイプのデバイス原
理の確認と創成が行われている点が高く評価できる。プロジェクト内外との連携を強め,各自の役割
と目標について発信することが期待される。
4. ソフトマターの機構解明と新機能開拓:(リーダー 戸田昭彦 総合科学研究科)
ソフトマター自身の創る場と弱い相互作用による反応機構を解明し,自己組織化に関する独自の学
理を確立した。その学理を活かして,超高性能汎用高分子材料の開発への道筋を示した点で高く
評価できる。
5.高容量ナノ水素貯蔵物質の創製:(リーダー 小島由継 先進機能物質研究センター)
軽元素を用いた現実的な燃料電池車のための水素貯蔵と連続運転時水素放出を可能にする高容
量ナノ複合水素貯蔵物を創成し,世界トップクラスの水素貯蔵軽元素材料とナノ触媒を開発し,産
学官連携へと進展させていることは高く評価できる。
- 75 -
6.微小スケール量子機能物質のエレクトロニクス:(リーダー 八木隆多 先端物質科学研究科)
理論と実験との共同によって,グラフェン単分子膜をベースとした微少スケールナノデバイスをデザ
インに基づいて創製し,新規な量子機能を実現し,将来のナノエレクトロニクスへの道を切り開いた
ことは高く評価できる。超伝導素子とグラフェンの組み合わせに新規性があり,展開に期待が持て
る。
7.部門とプロジェクトの関係:
マテリアルデザイン,新機能物質創製,機能開拓の三部門との検証を関連することにより,上記の六
つのプロジェクトが有機的に連繋し,また,互いに強く刺激しあって新しいエネルギー・環境調和材
料の創製へと結びついていることが高く評価できる。今後はグループごとにより一層,内外との連携
を強化発展させていただきたい。
(3)教育・人材育成活動評価:
大学院生・若手研究者
学内では5研究科共同の物性セミナーを3年間で78回開催し,物質・材料分野の院生教育に貢献
している。大学院生や若手研究者を国際研究集会,国際ワークショップ,および,国際共同研究に派
遣し,積極的に情報発信させている努力は高く評価できる。他研究機関との交流を通して自由な雰囲
気での教育も行われている。センター構成員は3年間で国際会議やワークショップを6回開催し,その
場で広島大学オリジナルの研究成果を大学院性が世界に向けて情報発信させたことも高く評価できる。
ただし,センター構成員25名が主査を務めた博士取得者が3年間で24名というのは,十分な数とは言
えず,先進機能物質に関する大学院教育と人材育成への組織的な活動が望まれる。
大学院生と若手研究者の新規キャリアパスの構築
広島大大学特別研究員および特別教育研究経費による博士研究員を3年間に延べ5名(外国人を
含む)採用し,内3名をアカデミックポストに送り出している。この他にもプロジェクトで雇用した博士研
究員は15名に上る。センター構成員の所属する部局が中心となって,企業研究者や開発者を講師と
して招き,大学院生・若手研究者向けのセミナーを開催し,アカデミックポジション以外の新規なキャリ
アパスを構築しようと努力している。その成果の一例として,大学院生が軽元素利用技術の開発を行う
ベンチャー企業を興した点は特筆に価する。今後は研究センターとしてより組織的にキャリアパスへの
取り組み,又それと表裏一体をなす大学院生を増やすための組織的な取り組みが望まれる。
(4)社会貢献評価:
社会への情報発信
他大学の大学院生や企業の研究者も参加できるセミナー等を開催し,また,新聞やテレビ等を通し
た情報発信により,センターの研究成果を社会に広報する努力も行われている。また,各研究グルー
- 76 -
プは日本を代表する企業との産学連携により,多くの共同研究を行っていることも高く評価できる。
特許等の技術移転
水素貯蔵材料,新規マルチブロックポリマー,色素増感太陽電池,環状オレフィン/スチレン類共重
合体などの製造方法について毎年10件程度の特許を出願していることは,プロジェクト研究成果の社
会貢献として高く評価できる。
(5)管理運営評価:
センター長のリーダーシップ
センター長は,三つの部門からなる多様な六つのプロジェクトをうまく取り纏め協奏による共働効果
を誘発するよう努力している。また,このような物理,化学,計算科学,固体分光,物性評価などの多様
な分野から構成される学際研究の中で,社会的に緊急度の最も高い課題であるエネルギー・環境調
和材料への新しい展開を予感させる広島大学オリジナルの独自な研究成果が得られたことは,センタ
ー長のユニークな管理運営手法によるところ大であり,高く評価できる。
人員管理とリスク管理
現時点では,専任教員は教授1名と准教授1名に限られ,学内研究員23名,プロジェクトの外部資
金での雇用による特任助教2名の共働によってセンターの活動が進められている。しかし,占有スペー
スが大学から与えられていないために,専任教員はその居室も間借り状態である。もし,このような状
態を放置しておけば,安全衛生管理,知的財産の管理,情報セキュリティーなどのリスク管理に重大な
支障が発生する危険があり,この点を改善することは緊急の課題であるといえよう。
(6)将来構想,将来計画と新たな展望に関する評価:
・
中期計画・中期目標:センターの次期中期目標を明確にし,これまでの独創的な研究成果を基に,
新規にエネルギー・環境調和材料に関する概算要求を行い,広島大学としてエネルギー・環境調和
材料に関する先端的研究教育拠点を形成している点は大変高く評価出来る。
・
外部資金:特別教育研究経費の他に各プロジェクトは年間2千万円から1億円の外部資金を獲得し
て,センターの活動を支えている。
・
産学連携:今後伸ばすべき課題としては,
1.企業との共同研究に対する一層の取り組み,又それに伴う客員研究員の増加
2.研究センター内外及び企業との共同研究テーマの発掘
3.大学院生・若手研究者へのより一層の教育の充実及び博士修得後の新しいキャリアパスに対す
る組織的開拓
・
中核的教育研究拠点化:上記概算要求により,特別教育研究経費による財政的基盤を確立すること
が望まれる。
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・
大学の支援:研究成果の教育へ反映,社会人教育,大学院生・学部生への教育のため,広島大学と
して留保ポストの配分等が望まれる。
(7)その他の評価:
限られた人的資源と財政基盤の中で各研究グループは,自助努力によってこれらの不足分を補填
し,エネルギー・環境という社会にとって最もインパクトの大きいテーマにおいて独創的な研究成果を
次々に発信していることは高く評価できる。
これら個々の研究者の高い業績と共に,各研究者間のより緊密な共同研究体制を組むと同時に次
世代の研究を支える大学院教育に関してもより組織的に取り組まれる事を切望する。
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http://www.hiroshima-u.ac.jp/iamr/