2,独禁法の名称、1条の目的規定について 独 禁 法 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律 「私的独占の禁止」+「公正取引の確保」に関する法律 *独禁法は、「独占を禁止する」だけではなく、 「公正取引の確保」も重要な目的 独禁法は、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」という非常に長い 正式名称なのですが、私は独禁法の正式名称を知っておくことは結構重要なものだと 思っています。 独禁法と聞くと、どうしても巨大企業の私的独占などが想像されるかもしれないので すが、必ずしもそういう分野だけではありません。独禁法の中では公正取引の確保と いう分野も非常に重要なものとなっています。「独禁法」という一般的に使われている 名称の中に「公正取引の確保」を関連させる文字が一つも入っていないので、このこと が独禁法のイメージを壊しているのではないかと思います。独禁法はその補助立法で ある下請法とともに、私的独占の禁止だけではなく公正取引の確保もその重要な目的 となっていることを指摘しておきたいと思います。 独禁法1条 この法律は、私的独占、不当な取引制限及 び不公正な取引方法を禁止し、事業支配力 の過度の集中を防止して、結合、協定等の方 法による生産、販売、価格、技術等の不当な 制限その他一切の事業活動の不当な拘束を 排除することにより、公正且つ自由な競争を 促進し、事業活動の創意を発揮させ、事業活 動を盛んにし、雇用及び国民実所得の水準 を高め、以て、一般消費者の利益を確保する とともに、国民経済の民主的で健全な発展を 促進することを目的とする。 規制方法 私的独占 不当な 取引制限 規制の三本柱 不公正な 取引方法 事業支配力の過度の集中の防止 →第4章、独占的状態の規制 法律の1条の目的など大きな意味を持たないと思われるかもしれませんが、独禁法 に関してこの目的の部分はかなり重要です。私は独禁法が初めて分かったと思えたの が、独禁法を学び始めて6~7年たってからではないかと思うのですが、翻って考えて みるとそれは独禁法の目的が理解できたからではないかと思います。それまではどうし ても違和感のある法律でありました。 独禁法の1条というのは非常に長い文言で構成されています。ここでは、私的独占、 - 1 - 不当な取引制限、不公正な取引方法の3つをまず禁止しておりまして、これが規制の 3本柱といわれています。この3つが独禁法では重要なのですが、通常注意すべきは 不当な取引制限と不公正な取引方法が比較的多いのではないかと思います。しかし ながら、これからは私的独占も重要になるように思います。それはなぜかというと、1つ は、昨年の改正で私的独占の排除行為を課徴金納付命令の対象とされたことです。 これと合わせて、排除型私的独占に関するガイドラインも公表されています(また、近 年、音楽著作権協会の JASRAC に私的独占の排除で法的措置を取られました)。 この3つがとにかく重要で、基本的にはこの3つを覚えておけば、それ程大きな間違 いではないというか、独禁法にそれほど複雑なバージョンがあるわけではありません。 事業支配力の過度の集中の防止というのは、企業結合規制などちょっと専門的なこと になっていきますけれども、基本的にはこの3つを覚えておくというだけのことでありま す。 第1条の構成(立法目的をめぐる諸説) 規制方法 ↓ ①公正且つ自由な競争を促進し ②一般消費者の利益を確保するとともに ③国民経済の民主的で健全な発展を促進すること 上記の内、通説は①が独禁法の目的であるとしている(競 争政策の実現) 判例(最判59.2.24)は、①を直接目的、②と③が究極目 的であるとする。 ただ、いずれの説を採るにしても①「公正且つ自由な競争を 促進する」ことは重要 上記の表にありますように、独禁法の1条の目的では、①公正且つ自由な競争を促 進し、②一般消費者の利益を確保する、③国民経済の民主的で健全な発展を促進す る、という3つの事項が書かれています。 この中で、「一般消費者の利益を確保する」というものがありますが、独禁法と一般 - 2 - 消費者の利益確保というのは全然違う世界のことのように思えますが、このように1条 の目的で明確に書いておりますので、公正取引委員会のほうも消費者保護に非常に 力を入れています。 この3つの事項に関して、立法目的をめぐる諸説というものがありまして、細かいこと は省略しますが、結論として①の「公正且つ自由な競争を促進する」というのが中心的 な目的であるというのが通説になっています。 この点判例は、1が直接の目的で、2、3が究極の目的であるという折衷的な言い方 をしていますが、いずれの説をとるにしても、公正且つ自由な競争を促進するというの が、独禁法の目的の中で非常に重要なファクターである点につき、争いはありません。 このことがどのような意味を持つのかということでありますが、例えばこういう事例を 考えてみて頂ければと思います。 甲は、コンピューターが普及し始めた当初、将来インターネット事業が拡大すること を予測して、巨額の借金をし、寝る間も惜しんで働き、特定のインターネット事業につ いてシェアのほとんどを獲得し、ほぼ独占する状態に至った。 甲は、自らの能力と努力によって、事業を成功させたのである。このような甲は、A 取引分野において独占状態を維持したいと考えている。 甲の考え方は、独禁法上どのように評価すべきか。 もちろん犯罪を行っているわけではありませんので、何も悪いことはないということに なるのですが、独禁法上はどうかということです。 この設例では、甲は寝る間も惜しんで、リスクもかけて成功させたということで、不当 な手段は何一つ使っていません。したがって、このような状態を維持したいというのは、 いわば当然のことなのですが、独禁法上はどうかというと独禁法上は認めないというこ とになります。私が独禁法になじむことができなかったのも、このことを何の躊躇もなく (「何の躊躇もなく」という点が重要です)「イエス」と断言することがどうも理解できなか ったからなのです。 前述のように独禁法の中心的な目的が「公正且つ自由な競争を促進する」ものであ ることから、少なくともA取引分野では「競争」の存在そのものがなくなっている以上、こ の状態を維持するということは許されないという結論に導かれるのは当然であるといえ - 3 - るでしょう。 実際、独禁法の規定の中では独占的状態に関する規定(独禁法8条の4)というも のがありまして、 「独占的状態があるときは、公正取引委員会は、第8章第2節に規定する手続に 従い、事業者に対し、事業の一部の譲渡その他当該商品又は役務について競争 を回復させるために必要な措置を命ずることができる。」 と規定しています。これは現行法にある条文で、独占的状態にあることが条件で、その 人がその状態に至った過程は特に問題としていないわけであります。とにかく独占状 態はだめだというのが基本のスタンスにあるわけで、独占的状態にある瞬間に、独禁 法上は認めないという考え方です。ですので、甲の考え方は、独禁法上は評価できな い、独禁法上は認められないということになります。 ちなみに、独占的状態とは何かということですが、その重要な要件は事業分野の占 拠率といわれるもので、1事業者で 50%を超える、あるいは2つの事業者によって 75% を超えるとされています。現実には、50%とか 75%というのはそんなにたくさんはない と思いますが、この基準ですと、例えば今の携帯電話の分野でドコモと au が合併する というようなことは絶対できません。後に話しますが、合併というのは、会社法上適法 であったとしても独禁法上はまた別の観点から見ております。要するに会社法上適法 な行為と独禁法上違法な行為とは全然別です。したがいまして、ドコモと au の合併が 会 社 法 上 どれだけ適 法 であったとしても、独 禁 法 上 認 められる余 地 はないと思 いま す。 このように、独禁法というのは非常にフラットな物の見方といいますか、公正且つ自 由な競争を目的としているというその存在そのものが重要であるというふうに考えてい るものであります。 - 4 -
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