芸術の楽しみ A 星聖子 ゴシック美術とはロマネスクとルネサンスに挟まれた、キリスト教と共に栄 えた美術様式のことであり12世紀半ばに北フランスでおこったものである。 ゴシックという言葉は本来建築に使用された言葉で、絵画より建築や彫刻にそ の特性がよく表れている。ここではゴシック建築を後に述べるロマネスク建築 と比較しながらその特徴をとらえていく。 まずパリ大聖堂西側、サント・シャペル上堂、ランス大聖堂、ストラスブー ル大聖堂、ソールズベリー大聖堂、ケルン大聖堂、ブルゴス大聖堂をみてみる。 一抱えもある石のブロックを積み上げて彫刻が施されているデザインだが遠目 からみると全体像はとても細かい花やクローバーのようなディテールの集合の ようになっている。そしてこの建築デザインの特徴はディテールの反復が荘厳 さを醸し出している。一見おなじ形の連続かのように見える構造、絵でも一つ 一つが細かく違っていたりするのも特徴である。またこれらには尖ったアーチ や飛び梁などの技術が使われており、これらの全体的な美的効果が重要視され ている。 これと比較して、ゴシック以前にあったロマネスク様式を形成する基本的要 素は、バシリカ式プランと半円形アーチである。古代ローマ建築に多く用いら れた石造穹窿の技術は、キリスト教時代に入った当初、しばらく衰退しており、 聖堂には木組の天井が架せられるのが通例であった。しかし、石造技術の復興 発展に伴い、半円形アーチを用いた円筒穹窿や、円筒を交差させた交差穹窿が 開発されていった。同時に入口、窓、柱間の梁などの構造やデザインに半円形 アーチが用いられ、ロマネスク建築はいわば半円形の集合体となっている。石 造穹窿はまず側廊部に架せられ、身廊部に及んでいく。その際、身廊部は穹窿 の重量による横圧の処理法が容易に解明されなかったのに対し、側廊部の横圧 は壁体を厚く堅固なものとし、さらに外壁面に沿って控壁を付設することによ って比較的容易に解決された。この場合、内壁に広い空間を生じ、種々の装飾 の場が提供されるが、窓の面積が制限されて、堂内の外光による照明が著しく 弱まった。その後トリフォリウムが設置され、身廊穹窿の重量を分散して壁体 に負わされる横圧を軽減するとともに、身廊上部に明層を設けて堂内への採光 を可能にした。また放射状祭室群と周歩廊が整備され、空間構成が統一された だけでなく、巡礼聖堂としての機能を充実させた。トゥールーズのサン・セル ナン聖堂やスペイン北西部のサンティアゴ・デ・コンポステラ大聖堂にその好 事例がみられる。またノルマンの侵入したノルマンディーやイングランドでは、 西正面に双塔を据え、これは後のゴシック式聖堂の正面形式となる。ライン川 流域に造営されたシュパイエルやウォルムスの大聖堂に代表されるドイツのロ マネスク聖堂では、トリフォリウムが形成されず、小円柱が添付された大角柱 が身廊の明層まで伸び、上昇感を強調する垂直性への最初の志向を示している。 またカロリング朝時代の典型的な聖堂様式である二重内陣形式が採用され、皇 帝の聖堂建築にふさわしい、力強い空間構成を具備している。 イタリアでは、ローマの初期キリスト教時代におけるバシリカ様式、北部イタ リアに早くから現れたロンバルド様式、それにアルプス以北のロマネスク様式 が複雑に混交した多様な建築様式が生み出される。ただし二重内陣式や放射状 祭室群などの複雑なプランや、上昇感を強調する壁面構成は取り入れられず、 空間構成は単純である。ミラノのサンタンブロッジョ聖堂では、バシリカ様式 の伝統的な前庭部を備えていながら、交差穹窿にはリブのもっとも早い使用例 がみられる。フィレンツェのサン・ミニアート・アル・モンテ聖堂にみられる 木組の天井もバシリカ様式の遺風を伝えているが、正面は古代ローマ由来のモ チーフである円柱やアーチで装われている。ロマネスク建築はゴシック建築に 使われるデザイン技術が部分と部分の組み合わせで構成されているのが特徴で ある。 ここまで調べてきてわかったのはゴシックの特徴を包括して述べるのはとて も難しいということである。一見するとロマネスクの特徴を複雑化しているだ けのように見えつつもその境界はあいまいで定義づけができない。しかしロマ ネスク建築とゴシック建築ではその複雑さ、完成度の高さは後者の方が優れて いるように見える。石造りの、複雑だが素朴な色合いと対照的に内部は豪奢な 宗教絵、ステンドグラスなどで彩られたゴシック美術はそれ以前の美術形態に はない、その後の文化の足がかりのように感じられる。 参考文献 小学館 世界美術大全集 ロマネクス ゴシック1・2
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