ヒューマンエラーの対処法

生産工程管理者育成 テキスト
クオリティ・マネジメント 講義・演習 編
第4章
1
ヒューマンエラーの対処法
はじめに
シ ス テ ム を 構 成 す る 基 本 要 素 は 、 Man(人 )/Machine( 設 備 ) /Material( 材 料 )
/Method( 方 法 ) な ど 、 い わ ゆ る 4 M と し て 取 り 上 げ ら れ ま す 。 そ の 中 で 、 特 に
人の要素は、さまざまなばらつきの要因になる場合が多いのが特徴です。ばらつ
きをなくすためには、人の要素をいかに管理するかが必要となります。この管理
はシステムの中で人が関与する割合が高ければ高いほど重要になってきます。
一番欠かせないことは「人は本来エラーするもの」という前提のもとで、シス
テムを設計することです。
ここでは、人に基づくエラーがどのように発生するのか、その原因にはどのよ
うなものがあるのか、さらにヒューマンエラーを防止するにはどのような工夫を
したらよいのかを学習していきます。
2
ヒューマンエラーとは
人 間 そ れ 自 身 の 行 動 が 事 故 の 原 因 に な る こ と が あ り ま す 。例 え ば 、階 段 を 踏 み
外す、道具や機械を不適切に使用して怪我をする、などです。これをヒューマン
エ ラ ー( human
error:人 間 の あ や ま ち )と 呼 び ま す 。ち な み に 人 間 工 学 で は 、
「システムによって定義された許容範囲をこえる人間行動の集合」と定義してい
ます。
ヒューマンエラーは、
「 す べ き こ と が 決 ま っ て い る 」と き に「 す べ き こ と を し な
い」あるいは「すべきでないことをする」ことで発生します。ここでいう「すべ
きこと」とは、規則や手順、法律などで明示されていたりするものです。あるい
は、社会常識で暗黙的に決まっている場合もあります。
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第4章
ヒューマンエラーの対処法
したがって、ヒューマンエラー対策としては、すべきことをする人が「すべき
こ と を す る 」と 同 時 に 、
「 す べ き こ と が で き る よ う に す る 」、
「すべきことをはっき
り と 伝 え る 」な ど が 挙 げ ら れ ま す が 、こ れ は 後 ほ ど 詳 し く 見 て い く こ と に し ま す 。
3
ヒューマンエラーの原因
職 場 で 働 く 多 く の 人 は 、一 生 懸 命 に 仕 事 に 取 り 組 ん で い る に も 関 わ ら ず 、ヒ ュ
ーマンエラーはなぜ発生するのでしょうか?ヒューマンエラーと言いましても、
その原因は人間だけの問題でなく、対策も設備機器や作業環境など、人間を取り
巻くすべての要素をひっくるめて考えていく必要があります。
このような考え方をヒューマンファクターと呼びます。ヒューマンファクター
の 要 因 は SHEL(m-SHEL)、 4 M( 5 M) な ど が あ り ま す 。
3.1
SHEL モ デ ル
図 4.1 は 、 SHEL モ デ ル で の 要 因 を 表 し た も の で す 。
H
S
L
E
L
図 4.1
SHEL モ デ ル
56
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第4章
ヒューマンエラーの対処法
L(中 心 )
: 作 業 者 本 人 (Liveware)
S
: ソ フ ト ウ エ ア (Software) 作 業 手 順 や 作 業 指 示 の 内 容
H
: ハ ー ド ウ エ ア (Hardware)
E
:環 境 (Environment)
作業に使われる道具、機器、設備など
照 明 や 騒 音 、温 度 や 湿 度 、作 業 空 間 の 広 さ な
どの作業環境にかかわる要素
L
:周 り の 人 た ち (Liveware)
そ の 人 に 指 示 、命 令 を す る 上 司 や 、作 業
を一緒に行う同僚など、人的要素
: マ ネ ジ メ ン ト ・ ・ ・ L と SHEL と の マ ッ チ ン グ を と る た め 、 全 体
m
を眺めて、バランスをとっていく役回りのこと
3.2
4 M( 5 M)
ヒ ュ ー マ ン エ ラ ー の 原 因 、ヒ ュ ー マ ン エ ラ ー の 防 止 対 策 の 訴 求 先 と し て 次 の も
のが挙げられます。
・ man
:作業者本人、上司や同僚などの人間要素
・ machine
:道具、機械、設備などの要素
・ media
:照明、騒音を始めとする環境の要素、情報環境なども含まれ
る。情報伝達、表示、作業マニュアルなどもこれに該当する。
・ management
:制度や管理体制など、管理的な要素
・ mission
:作業の目的、目標に関する要素
4
ヒューマンエラーの種類
同 じ 仕 事 を し て い て も 、エ ラ ー を 起 こ す と き と 起 こ さ な い と き が あ り ま す 。 体
調が悪いときや時間がなくて慌てているときには、錯誤や手抜きの違反が多発す
ることは容易に想像できます。このような要因を背後要因と呼びますが、この背
後要因を管理することもエラー防止のためには重要です。
背後要因には以下に挙げるように、大きく分けて2つのものが考えられます。
また、ヒューマンエラーにはさまざまな種類があります。ここでは主に結果から
見 た エ ラ ー と 原 因 か ら 見 た エ ラ ー を 挙 げ ま す 。 こ れ ら を ま と め た も の が 図 4.2 で
す。
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第4章
4.1
ヒューマンエラーの対処法
背後要因
(1)
「余計なことをする違反」に影響する背後要因
内的要因:意欲や興味、善意がありすぎること
環境要因:意欲を必要以上に高める管理環境や人間環境
時 間 要 因 : 時 間 的 に 余 裕 が あ り す ぎ る 、「 暇 」 と い う こ と
(2)
「 手 抜 き 型 違 反 」「 錯 誤 」「 失 念 」 に 影 響 す る 背 後 要 因
内的要因:疲労、体調不良、飽き、意欲や興味がないこと、風邪薬やアルコ
ールの摂取、心配事
環境要因:暖かい温度、単調で静かな音、単調な作業
時間要因:人間の生体リズム、未明の覚醒水準低下
4.2
(1)
結果から見たヒューマンエラーの種類
Omission Error: 必 要 な タ ス ク や タ ス ク の ス テ ッ プ を 行 わ な か っ た
(やり飛ばし、やり忘れ)
(2)
Commission Error:タ ス ク は 行 っ て い る が 、違 う こ と を し た (や り 間 違 い )
(3)
Extraneous Error: 本 来 や る べ き で な い タ ス ク や 行 為 を 、 タ ス ク の 中 に
挿 入 し て い る (余 計 な こ と )
(4)
Sequential Error: タ ス ク 遂 行 の 順 序 が 違 う (順 序 違 い )
(5)
Time Error:や る こ と は や っ て い る が タ イ ミ ン グ が 早 す ぎ 、ま た は 遅 す ぎ
(タ イ ミ ン グ が 悪 い )
4.3
原因から見たヒューマンエラーの種類
(1)
人 間 能 力 的 に で き な い と い う 「 無 理 な 相 談 」「 で き な い 相 談 」
(2)
取り違い、思い違い、考え違いなどの判断「錯誤」
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ヒューマンエラーの対処法
(3)
し忘れなど、記憶の「失念」
(4)
その作業を遂行する能力、技量が不足している「能力不足」
(5)
すべきことを知らない「知識不足」
(6)
手抜きや怠慢などの「違反」
ヒューマンエラーの背後要因
体 調 ・意 欲 ・注 意 ・環 境 ・時
間
「できない相談」、「錯
誤」、「失念」、「能力不
足」、
原因からみたヒューマンエラー
Omission Error、
結果としてみたヒューマンエラー
Commission Error、
Extraneous Error、
図 4.2
ヒューマンエラーの種類と原因
5
ヒューマンエラー対策における設計思想
5.1
エラーをカバーするシステム設計・運用のアプローチ
人 は 本 来 エ ラ ー す る も の と い う 前 提 に 立 っ た と き 、そ れ を カ バ ー す る シ ス テ ム
を設計して運用していくには、次のアプローチが基本といわれています。
(1)
人 を 使 わ な い シ ス テ ム に す る (無 人 化 )
(2)
人 が ミ ス し に く い シ ス テ ム に す る (フ ー ル プ ル ー フ 化 )
(3)
人がミスしないように訓練する
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第4章
(4)
ヒューマンエラーの対処法
人がミスしても、すぐに発見し、その影響が広がらないようにする
(フ ェ ー ル セ ー フ 化 )
人間が、度忘れ、見間違い、操作ミスを起こすのは本来的な性質です。いくら
注意を喚起したところで、エラーを防ぐことはできません。そのため、こうした
人間そのものが持っている性質はそのまま受け入れた上で、
「作業の対象となる物
の形状・色、作業で使用する設備、作業指示票の様式、作業の手順などの作業方
法 (作 業 を 構 成 す る 人 以 外 の 要 素 )を 工 夫 す る こ と で 、 エ ラ ー お よ び そ れ に 起 因 す
るさまざまのトラブルを防止する」という「エラープルーフ化」に向けた取り組
みが必要です。
これは、ポカヨケ、フールプルーフなど呼び方はいろいろとありますが、要は
「人間」を変えられないならば、作業方法などの人間以外の要素を工夫し、人間
の特性に合った作業をつくろうという考え方で、エラー防止に取り組む場合の重
要なアプローチです。
こ れ に 関 す る (2)の 「 フ ー ル プ ル ー フ 」 と 、 (4)の 「 フ ェ ー ル セ ー フ 」 を 次 に 詳
しく説明します。
5.2
フールプルーフ
馬 鹿 な こ と を し て も 大 丈 夫 、つ ま り 機 械 や シ ス テ ム に 対 す る 知 識 の 乏 し い 者 が 、
いいかげんな取り扱いをしようとしても大丈夫なように機械、システムを設計す
ることです。人間が操作・作業手順を誤ったりしたときや、トラブル処理のとき
でも危険な状態にならないようにするという意味です。例えば、最後をやらない
で先に進もうとするとアラームを鳴らすようにしたり、先に進めない仕組みに設
備機器を設計したりすることなど、です。自動車であれば、キーを外さずに運転
席のドアを開けるとアラームが鳴るのも、この例です。身の回りには、し忘れて
いると安全側に停止して事故を起こさないようにするものが多いことに気がつき
ま す 。暖 房 機 器 は 3 時 間 た つ と 自 動 的 に 停 止 し ま す し 、ATM で は 現 金 を 取 り 忘 れ
て い る と 、ATM の 中 に 現 金 が 取 り 込 ま れ る な ど の 処 理 が さ れ る よ う 設 計 さ れ て い
ます。
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第4章
5.3
ヒューマンエラーの対処法
フェールセーフ
故 障 が 生 じ た と き に 、 危 険 な 側 で な く (事 故 や 災 害 に 結 び つ く こ と な く )、 安 全
側に作動して安全が確保できるようにする設計思想のことです。
6
具体的な対策方法
こ こ で は 、 4.3 で 学 習 し た 「 原 因 か ら 見 た ヒ ュ ー マ ン エ ラ ー 」 に 対 す る 具 体 的
な対策法を述べていきます。原因から見たヒューマンエラーは次のようなもので
した。
(1)
人 間 能 力 的 に で き な い と い う 「 無 理 な 相 談 」「 で き な い 相 談 」
(2)
取り違い、思い違い、考え違いなどの判断「錯誤」
(3)
し忘れなど、記憶の「失念」
(4)
その作業を遂行する能力、技量が不足している「能力不足」
(5)
すべきことを知らない「知識不足」
(6)
手抜きや怠慢などの「違反」
6.1
人 間 能 力 的 に で き な い と い う 「 無 理 な 相 談 」「 で き な い 相 談 」 の 対 策
視力、聴力、判断力、記憶力、操作力、巧緻動作能力などには特性と限界があ
り、これに適合するようなシステムにします。
(1)
「~にくい」ものをなくす
人 間 工 学 設 計 基 準 の 活 用 を し ま す 。つ ま り 、
「見にくい」
「聞きにくい」
「わかり
にくい」
「覚えにくい」
「扱いにくい」
「 押 し に く い 」な ど と い う こ と は 、人 間 の 特
性に反することであって、能力を超えることをさせられた証左です。こうした場
合 に は 、早 晩 、ヒ ュ ー マ ン エ ラ ー は 必 ず 起 き る ! ! と 考 え た ほ う が 良 い で し ょ う 。
(2)
「注意」表示を解消する
事 業 所 の 中 の さ ま ざ ま な「 注 意 表 示 」を 解 消 し ま す 。
「 頭 上 注 意 」、
「高電圧注意」
「足元注意」など、注意しないと作業ができないことを表明していることです。
「~注意」をなくせないかを常に考えて下さい。
(3)
職務を再設計する
61
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第4章
ヒューマンエラーの対処法
加 齢 と と も に 基 礎 的 な 身 体 能 力 は 低 下 し ま す 。例 え ば 、重 量 物 を 使 う 職 場 で は 、
若者ならば大丈夫でも中・高齢者では労働災害を引き起こす心配が出てきます。
6.2
取り違い、思い違い、考え違いなどの判断「錯誤」の対策
錯 誤 は 「 取 り 違 い 型 」「 思 い 込 み 型 」 の 2 つ に 分 か れ 、 そ れ ぞ れ に お い て の 対
策が必要となります。
(1)
「取り違い」の防止
・違うものを、同じところにおかない。
例 え ば 、二 酸 化 炭 素 ボ ン ベ と 酸 素 ボ ン ベ を 同 じ ボ ン ベ 庫 に 収 納 し て は い け ま
せん。
・物理的識別をつける
色分けしても、識別のために印字しても気がつかない場合があります。その
ため物理的形状を違え、見た目にも触った感触も全く違ったものと意識付け
させる必要があります。
・「 識 別 部 分 」 を 意 識 す る 癖 を つ け る
識別部分を指差し確認、声出し確認させることが大切です。
(2)
「思い込み」の対策
・合致性を高める
システム構造を使用者の思い込みに合致させておきます。
・一貫性を高める
機械の操作方法が同じものを一貫して採用すべきです。
・寛容性を高める
作 業 手 順 を 1 つ に 決 め る 必 要 が な い の で あ る な ら ば 、ど ち ら の 手 順 で も 使 え
るようにしておきます。
・明瞭性を高める
明瞭な表示、指示を行います。
・ワーストケースから考えるくせをつける
事 故 時 の 被 害 が 大 き い シ ス テ ム で は 、ワ ー ス ト ケ ー ス か ら チ ェ ッ ク を す る 必
要があります。
・一歩ひく
一 歩 ひ い て 視 点 の 転 換 を し ま す 。何 度 も 試 し て う ま く い か な い と き は 、前 提
を変えて理解を試みることが重要です。
62
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第4章
6.3
ヒューマンエラーの対処法
し忘れなど、記憶の「失念」の対策
失 念 (し 忘 れ )の 3 つ の パ タ ー ン が あ り 、 そ れ ぞ れ の 対 策 を 次 に 述 べ ま す 。
(1)
作業の主要部分の直前の失念
・メインイベントの直前にいろいろと作業を行わせないようにします
・メインイベントの前の作業をクロスチェックします
・フールプルーフ機構を徹底します
(2)
作業の主要部分の直後の失念
・作業の主要部分を最後にします
・フールプルーフ機構を徹底します
・最後の部分をチェックする管理的仕組みを作ります
(3)
未来記憶の失念
・メモなどを活用することにより記憶を外在化します
6.4
その作業を遂行する能力、技量が不足している「能力不足」の対策
管理側が次のような対策をとります。
・ 仕 事 に 対 し て 必 要 と さ れ る 技 量 (ス キ ル )を 有 す る 人 を 現 場 に 配 置 し ま す 。
・「 で き な い こ と は し な い 」 躾 と 、「 さ せ な い 」 管 理 を 徹 底 し ま す 。
6.5
すべきことを知らない「知識不足」の対策
管理側が次のような対策をとります。
・「 知 ら な い こ と は し な い 」「 知 ら な い こ と は 聞 く 」 の 躾 を 徹 底 し ま す 。
・「 Why」 を 教 え る 知 識 教 育 を 行 い ま す 。
「 Know How」 だ け で な く 「 Know Why」 教 育 で 、 な ぜ と い う 原 理 を 教 え る
ことが必要です。
・規則型マニュアルと標準型マニュアルを区別します。
規則型・・・この手順どおりに従わなくてはならない強制的な色彩のあるマ
ニュアル
標準型・・・初心者へのガイド、先人の知恵、失敗しないやり方などのノウ
ハウをまとめたマニュアル
63
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第4章
6.6
ヒューマンエラーの対処法
手抜きや怠慢などの「違反」の対策
根本的には、規則を説明し、遵守を説得します。そして納得し、遵守の態度を
みせてもらい、実行してもらいます。
7
ヒューマンエラーをなくしていくために
今 後 、ヒ ュ ー マ ン エ ラ ー を な く し て い く た め に は 過 去 に 起 き た エ ラ ー の 事 例 を
分析して活用することが効果的です。なぜならば、過去のエラー事例にはさまざ
まな情報が含まれているためです。そのための分析・活用手法を見ていきます。
7.1
ヒューマンエラーの分析
QC(品 質 管 理 )の 管 理 手 法 で あ る 連 関 図 が 役 に 立 ち ま す 。連 関 図 は「 な ぜ な ぜ 問
答」といわれるものです。
ま ず 発 生 し た 問 題 を 書 き 、「 そ れ が 起 こ っ た の は な ぜ か ? 」 を SHEL、 ま た は
4 M( 5 M) の 要 素 を 意 識 し な が ら 順 次 書 き 出 し て い き ま す 。 こ の 場 合 、 正 解 を
求める必要は全くありません。その問題に多少なりとも関係すると思われる要因
を書き出していくことが重要です。これにより一見関係のないような要因がエラ
ーの背後に横たわっていることに気づくことが多いものです。何人かで討論しな
がら作成すると効果的です。
7.2
インシデントレポートの作成
インシデントを含むヒューマンエラー報告シートを作成させることも重要で
す。インシデントとは、事故にはならなかったヒヤリハットなどのことです。準
事故、潜在事故と考えればよいでしょう。事故の底辺にあるエラーや、不安全要
因 に 関 す る デ ー タ を 集 め て 、事 故 防 止 に 役 立 て よ う と す る 仕 組 み で す 。こ れ を「 イ
ン シ デ ン ト ・ レ ポ ー テ ィ ン グ ・ シ ス テ ム ( IRS)」 と 呼 び ま す 。
ここで、
「 ハ イ ン リ ッ ヒ 法 則 の 教 え 」を 紹 介 し ま す 。ハ イ ン リ ッ ヒ の 法 則 は( 注
1 )に 挙 げ た よ う な 法 則 で す 。こ こ か ら 得 ら れ る 教 え は 、
「死亡事故や重症事故を
調査してその対策を講じるよりも、もっと多くのデータが得られる軽症事故やエ
ラー事例を分析すべき」というものです。
つまり、ヒヤリハット体験を大切に扱い、災害防止の管理活動に活かすことを意
味しています。
64
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第4章
7.3
ヒューマンエラーの対処法
IRS を 行 う 場 合 の 注 意 点
何よりも、実施の目的をはっきりとさせることです。
例 え ば 、管 理 者 と 作 業 者 と い う 立 場 の 違 い に よ り IRS 実 施 の 目 的 は 次 の よ う に
異なってきます。
(1)
管理者
・集計・分析して職場の弱点を知る、防止のための作業改善のポイントを得る
・ ヒ ヤ リ 報 告 の 一 つ 一 つ を 調 べ 、災 害 に つ な が る 恐 れ の あ る も の は そ の 内 容 を
分析し、その対応を図る
・ヒヤリ報告を集計し、人、モノ、または管理の面から、問題の所在を抽出す
る
(2)
作業者
・ヒューマンエラーへの関心を高める、情報を共有し、他山の石とする。自己
管理意識の涵養を図る
災 害 防 止 の た め の 安 全 教 育 の 目 的 は 、作 業 者 が 自 分 で 自 分 の 身 を 守 る た め に 必
要な知識、技能、心がまえ、身がまえを育てることにあります。
特 に 、 大 切 な こ と は 「 身 が ま え 」「 心 が ま え 」 で あ り 、 こ れ に は 強 い 自 律 心 が
必 要 と な り ま す 。ヒ ヤ リ ハ ッ ト 報 告 の 目 的 の 1 つ は 、ヒ ヤ リ 体 験 か ら 作 業 者 が 自
己反省し、この自律心を育てる学習活動に役立たせることにあります。
IRS 実 施 の そ の 他 の ポ イ ン ト と し て は 次 の よ う な も の が 挙 げ ら れ ま す 。
・ 提 出 ル ー ト は 直 属 上 司 で な く 、例 え ば リ ス ク マ ネ ー ジ ャ ー な ど へ 直 接 提 出 さ
せる
・起票に過度の負荷がかからないようにする
・必ず現場へのフィードバックをする
報告することで、ヒューマンエラーの低減につながらなくてはならない
65
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第4章
ヒューマンエラーの対処法
( 注 1 ) ハ イ ン リ ッ ヒ の 法 則 ( 1 : 29: 300 の 法 則 )
米国の安全技術者ハインリッヒが見出した法則。1 件の大事故が起こるまでに
は 、 29 件 の 中 程 度 の 事 故 が あ り 、 300 件 の 微 小 事 故 が あ っ た と い う も の (図 4.3
参 照 )。
大事故
中程度の事故
微 小 事 故
図 4.3
ハインリッヒの法則
<参考文献>
[1]
小 松 原 明 哲 :『 ヒ ュ ー マ ン エ ラ ー 』、 丸 善 株 式 会 社 、 2003
[2]
芳 賀 繁:
『うっかりミスはなせ起こる
- ヒ ュ ー マ ン エ ラ ー の 人 間 科 学 -( 第
3 版 )』、 中 央 労 働 災 害 防 止 協 会 、 1998
[3]
谷 村 冨 男 :『 ヒ ュ ー マ ン エ ラ ー の 分 析 と 防 止 』、 日 科 技 連 、 1995
[4]
『 ク オ リ テ ィ マ ネ ジ メ ン ト 』 2003 年 7 月 号
66
(財 )日 本 科 学 技 術 連 盟 、 2003
生産工程管理者育成 テキスト
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第4章
ヒューマンエラーの対処法
「ヒューマンエラーの対処法」演習
1
事前
各 受 講 者 は 下 記 に つ い て レ ポ ー ト を 作 成 し 、発 表 の 準 備 を し て お い て 下 さ い 。
①
貴 社 に お い て 、「 ~ に く い 」 も の が な い か を 徹 底 的 に 調 べ て 下 さ い 。
「見にくい」
「聞きにくい」
「わかりにくい」
「覚えにくい」
「扱いにくい」
「押しにくい」などということは、人間の特性に反すること、能力を超
え る こ と を さ せ ら れ た 証 左 で す 。早 晩 、ヒ ュ ー マ ン エ ラ ー は 必 ず 起 き ま
す!
②
貴社において、
「 ~ 注 意 」表 示 が な い か を 調 べ て 下 さ い 。ま た こ う し た「 ~
注意」をなくせないかを検討してみて下さい。
「 頭 上 注 意 」、「 高 電 圧 注 意 」「 足 元 注 意 」 な ど 、 注 意 し な い と 作 業 が で
き な い こ と を 表 明 し て い る こ と で す か ら 、こ う し た 表 示 は 無 い に 越 し た
ことはありません。
③
貴 社 に お い て 、こ れ ま で に 発 生 し た ヒ ュ ー マ ン エ ラ ー を 1 つ 取 り 上 げ て 、
Q C (品 質 管 理 )の 管 理 手 法 で あ る 連 関 図 を 使 用 し て 分 析 し て 下 さ い 。
2
当日
各受講者からレポート内容を発表してもらい、全員で討議をします。
67