49 2012年2月発行 株式会社メディコン この記事に関しては、メールアドレス:[email protected] までお問い合わせ下さい。 HBVワクチンでHBs抗体を 獲得できない医療従事者は どうするか? B型肝炎ウイルス(HBV:hepatitis B virus)は血液もしくは血性 矢野 邦夫先生 浜松医療センター 副院長 兼 感染症科長 兼 臨床研修管理室長 兼 衛生管理室長 '81年 名古屋大学医学部卒業。名古屋第二 赤十字病院、名古屋大学病院を経て、'89年 フレッドハッチンソン癌研究所、'93年 県西部 浜松医療センター。'96年 ワシントン州立大 学感染症科エイズ臨床、エイズトレーニング センター臨床研修修了。'97年 感染症科長/ 衛生管理室長に就任。2011年4月より現職。 体液の経皮曝露や粘膜曝露にて伝播し、その感染性は極めて高い。 HBs抗体を獲得していない人がHBe抗原陽性の血液で針刺しする と、感染する危険性はHIV陽性血液の100倍も高くなる※1。HBVは環 境表面にて安定しており、少なくとも7日間は環境表面で感染性を保っ ているという問題もある※2。従って、病院というハイリスクな環境に長 時間勤務している医療従事者はHBs抗体を獲得していなければなら ない。それにもかかわらず、HBVワクチンを接種してもHBs抗体を獲 得できないことがあり、その場合は適切な対応が求められる。ここでは CDCが2011年11月に公開した「医療従事者の免疫化:予防接種諮 問委員会の勧告」※3から関連部分を抜粋する。 H B V ワクチン に よ る H B s 抗 体 獲 得 に つ い て HBVワクチンは1コースとして3回接種(0、1、6ヶ月) (三角筋に筋注)する。こ > の場合、40歳以下であれば90%超の人がHBs抗体( = 10mIU/ml)を獲得できる。 しかし、40歳を超えると90%未満となり、60歳までになってくると75%程まで低 下する。喫煙、肥満、遺伝的要因、免疫抑制状態はHBVワクチンへの免疫反応を低 下させることが知られている。10mIU/ml以上のHBs抗体を獲得できた医療従事 者はHBVへの曝露があっても曝露後予防、血清検査、追加接種の必要はない。し かし、3回のワクチン接種にも拘わらず、HBs抗体が10mIU/ml未満の医療従事者 がHBVに曝露した場合には適切な対応が必要となる。 1コース( 3 回 接 種 )にて H B s 抗 体を 獲得できない人への追加接種について 1コース 1コ ス(3回接種)に反応しない人(10mIU/mL以上のHBs抗体が獲得できな い人)のうち、25∼50%の人が1回の追加接種によって抗体を獲得できる。通常量 もしくは高用量のワクチンを用いた3回の再接種をすれば44∼100%の人がHBs 抗体を獲得する。1コース後のHBs抗体価が測定可能であるものの低値(1∼9 mIU/mL)の人はHBs抗体を全く獲得できない人よりも再接種への反応が良好で ある。 [文献] ※1) Beltrami EM, et al. Risk and management of blood-borne infections in health care workers. Clin Microbiol Rev 2000;13:385-407. ※2) Bond WW, et al. Survival of hepatitis B virus after drying and storage for one week. Lancet 1981;1:550-1. ※3) CDC. Immunization of health-care personnel: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP) http://www.cdc.gov/mmwr/pdf/rr/rr6007.pdf ※4) CDC. A comprehensive immunization strategy to eliminate transmission of hepatitis B virus infection in the United States: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices. http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/rr/rr5516.pdf www.medicon.co.jp C lic k! Cl ic k! バックナンバーを、 順次公開しています。 再接種後1∼2ヶ月してから実施したHBs抗体検査で10mIU/mL未満の人 はHBV感染者もしくはprimary nonresponder( 註)であると考えられる。 primary nonresponderでは、遺伝的要因が関連しているかもしれない。 予防接種諮問委員会(ACIP:Advisory Committee on Immunization Practices)はnonresponderには2コース以上のワクチン接種を推奨して ※4 いない 。 1コース(3回接種)でHBs抗体を獲得できなかった 医療従事者がHBs抗原陽性の人や肝炎である 可能性が高い人に曝露した場合 B型肝炎用免疫グロブリン(HBIG:hepatitis B immune globulin)を1回 投与して、2コース目のHBVワクチン(3回接種)を開始する。曝露源の人が HBs抗原陰性であることが確認されたならば、2コース目を完了させ、HBs抗 体が獲得できたか否かを確認するための検査を実施する。曝露後予防として HBIGが投与された人での接種後検査はHBIGのHBs抗体が検出されなくなっ てから実施する(投与後4∼6ヶ月後)。 2コース(6回接種)でHBs抗体を獲得できなかった 医療従事者がHBs抗原陽性の人や肝炎である 可能性が高い人に曝露した場合 こちらも公開しています。 AJIC APICのオフィシャル ジャーナル CDCガイドライン HBIGを1ヶ月の間隔を空けて2回投与する。この場合は追加のワクチン接 種の必要はない。曝露源の人がHBs抗原陰性であることが確認されたならば、 追加の検査も治療も必要ない。 ・カテーテル関連尿路感染予防2009 ・血管内留置カテーテル由来感染予防2011 Cl ic k! 註:抗体産生の低い者をlow responder、抗体産生がみられない者をnonresponderという。免 疫抑制剤などで抗体産生がみられない者はsecondary nonresponderであり、何も誘因が ないにも拘わらず抗体産生のない者をprimary nonresponderという。 HBVに経皮または経粘膜曝露した場合の曝露後予防の推奨 対 応 接種既往あり 曝露者1)の ワクチン接種および 抗体反応の状況 曝露源 2)が HBs抗原陽性 曝露源が HBs抗原陰性 曝露源が未検査 または状況が不明 未接種 HBIG 3)x1および HBV 4)コース開始 HBVコース開始 HBVコース開始 Responder5) 対応不要 対応不要 対応不要 3回接種後 HBIGx1および 再接種開始 対応不要 曝露源がハイリスクならば HBs抗原陽性として対応する 6回接種後 HBIGx2 (1ヶ月間隔) 対応不要 曝露源がハイリスクならば HBs抗原陽性として対応する Nonresponder6) 抗体反応不明 曝露者のHBs抗体を 検査する 10mIU/mL以上ならば対応不要 10mIU/mL未満ならばHBIGx1 およびブースター接種 対応不要 曝露者のHBs抗体を 検査する 10mIU/mL以上ならば対応不要 10mIU/mL未満ならば再接種開始 1)曝露者:多くは医療従事者。針刺しで受傷した人など 2)曝露源:多くは患者。針刺しなどが発生した場合に感染源になる可能性がある人 3)HBIG(hepatitis B immune globulin) :B型肝炎用免疫グロブリン 4)HBV(hepatitis B virus) :B型肝炎ウイルス 5)Responder:ワクチン接種にてHBs抗体が獲得された者(10mIU/mL以上) 6)Nonresponder:ワクチン接種にてHBs抗体が獲得されない者(10mIU/mL未満) 本 社 大阪市中央区平野町2丁目5ー8(平野町センチュリービル1F) 06(6203)6541(代)
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