For the Education of Active Self

シリーズ 未来を担う人づくり
『やる気の満ちた自立型人材』を
育成するために
∼ 自己変革型の組織への転換を図るための教育等 ∼
富士重工業 ㈱ 航空宇宙カンパニー教育担当部長 大 野 秀 明
富士重工業株式会社 航空宇宙カンパニーは、高い自主開発能力を有する世界的航空宇宙企業を目指
し、全従業員が『改革的発想で、課題に主体的に取り組み、自己変革型の組織への転換を図る』ため
の教育に力を入れて取組んでいます。
1.会社概況説明
ヘリコプタにおいては、1960 年にベル社と技術提
携し、中型多用途ヘリコプタ UH-1 シリーズの生産
富士重工業株式会社の原点は、1917 年に創設され
を開始しました。陸上自衛隊向け対戦車ヘリコプタ
た「中島飛行機研究所」です。
「AH-1S」は陸上自衛隊がはじめて配備した対戦車ヘ
以来、航空機づくりの技術とスピリットを受け継
リコプタであり、そこで培われた技術がシステムイン
いで多種多様な航空機の開発 / 生産に携わっていま
テグレーターとして今日の基盤となっています。さら
す。防衛省関連の固定翼機においては、国産初の中等
に、ボーイング社とのライセンス契約に基き、日本独
ジェット練習機である「T − 1」をはじめ、初等練習
自仕様の戦闘ヘリコプタ「AH-64D」の製造・納入を
機「T − 3」、「T − 5」と数々の航空機を納入してきま
しています。
した。また、「次期固定翼哨戒機、次期輸送機」の 2
表1 会社概要
機種同時開発の設計・製造(主翼および垂直尾翼など
を担当)に参画しています。
大型旅客機においては、1973 年にボーイング社の
旅客機生産に参画して以来、ボーイング 767、777 な
どの開発・生産に関わってきました。特に 777 では、
主翼と胴体をつなぐ中央翼という重要部分を海外メー
カーとして初めて担当し、設計段階から開発・生産を
すすめており、次世代中型ジェット旅客機 787 でも中
央翼の開発・生産を担っております。また、エアバス
社とも超大型旅客機 A380 の垂直尾翼前緑・後緑の製
造を通じて協力しています。
商 号:富士重工業株式会社
設 立:1953 年 7 月 15 日
資本金:1,537 億円
代表者:取締役社長 森 郁夫
従業員:航空宇宙カンパニー(単独)2,183 名
(2011 年 4 月 1 日現在)
事業内容:航空機・宇宙関連機器ならびにその部
品の製造、販売および修理
本 社:東京都新宿区西新宿一丁目 7 番 2 号
事業所:栃木県宇都宮市、愛知県半田市
写真 1 宇都宮製作所(左)と半田工場(右)
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更に、当社が得意とする無人機の分野では、遠隔操
教育共に全社統一プログラムを作成し、実施すること
縦観測システム「FFOS」とその発展型の無人偵察機
で課題を解決しました。一方で、カンパニーの産業構
システムなどの無人ヘリコプタ、固定翼ジェット無人
造の違いも考慮し、カンパニー独自の教育もあわせて
機応用の無人機研究システム、日本版スペースシャト
実施しています。
ル実験機 HSFD による完全自動離着陸実験成功、無
人機技術を応用してモーターグライダーに制御システ
(2)全社統一の具体的教育プログラム
ムを装備した「FABOT」を使った小型有人機の完全
① 階層別教育プログラム
自動離着陸飛行にも世界で初めて成功しました。
階層別教育では、新入社員教育を初めとし職能資格
このように伝統と実績により裏付けられた高度な
改訂毎に、その階層に求められる業務遂行能力・発揮
品質と技術により、富士重工業株式会社航空宇宙カン
能力に合わせた教育を実施すると共にカンパニー間の
パニーは更なる発展へ向け、たゆまぬ努力を続けてい
人材交流を図っています。
ます。
② 職能別教育プログラム
職能別教育では、人間対応能力の強化を中心に据え、
2.企業理念
グローバル展開の加速に合わせた語学力の底上げと実
務能力の強化を図る為のプロフェッショナルプログラ
ム教育と、各カンパニーの産業構造の特徴にあわせた
当社の企業理念
講座や社内技能検定・国家技能検定制度に分けた教育
を実施しています。
① 私たちは常に先進の技術の創造に努め、お客様に
喜ばれる高品質で個性のある商品を提供します。
(3)航空宇宙カンパニー独自の教育プログラム
② 私たちは常に人・社会・環境の調和を目指し、豊
カンパニー全従業員が「改革的発想で、主体的かつ
かな社会づくりに貢献します。
果敢に各課題に取組む自己変革型の組織への転換」を
③ 私たちは常に未来をみつめ国際的な視野に立ち、
図る為、下記項目に重点を置き教育を進めています。
進取の気性に富んだ活力ある企業を目指します。
① 技能伝承及び強化、多能工化促進
この理念にもとづき、将来にわたっての当社のア
・若い世代への技能伝承と知識と技能の両面を兼ね
イデンティティを確固たるものとするため、安全や
備えた世界トップレベルの技能保持者を育成する
環境への対応を含め、高品質で個性的な商品やサー
ために、コース別に学科(通信教育)と実技(集
ビスの提供を機動的に展開しうる企業集団を目指し
合教育)の最適化を図ったテクノスクールを実施
ています。
し、学科や実技だけでなく、人間教育と職種転換
その為、以下の人材育成方針に沿った教育プログラ
教育をバランスさせ、国家技能検定の合格と国際
ムを作成・運用しています。
競争力にも耐えうるプロフェッショナルを育成し
ています。
3.人材育成方針
【テクノスクールのクラス】
① カスタム:基礎技能・基礎知識
「自ら問題を発見し解決に向け行動できる人材」の
② ベーシック:応用技能・応用知識
教育を通じて、当社が求める人材像である『やる気の
③ アドバンス:特殊技能・専門知識
満ちた自立型人材』を育成する。
・テクノスクールは平成 9 年から開講し、今年で
14 年を迎えます。更に平成 21 年度から、多能工
(1)過去の教育プログラムの課題
育成としてものづくり道場(写真 2)を立ち上げ、
これまでの教育プログラムは、階層別・職能別教育
教育研修プログラムの充実を図っています。
共に基本的な考え方は全社方針を踏襲するものの、各
・当初は、技能向上を重視した教育カリキュラムに
カンパニーの裁量で実施していた為、プログラム内容、
片寄りすぎて、「なぜそうしなければならないの
教育のボリューム、更には、カンパニーを越えた同一
か?」、「そうすることでどのような結果が生まれ
資格者間でのレベル差が生じると言う現象が起きてい
るのか?」と言う、ものづくりの思想・理念・知
ました。平成 22 年度からは富士重工業株式会社の従
識面が不足する教育になっていました。このよう
業員としての同一レベルを保つこと、また、カンパニー
な課題を解決する為に、カリキュラムにマネジメ
間の人材交流を図ることを目的とし、階層別・職能別
ント機能を持たせることと、設計・生産技術・検
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【計器類の使用方法】 【電気艤装】 【部品加工】
写真 2 基本技能の習得(多能工育成)
【作業解析による品質向上】 【検査工のものづくり実習】 【座学による知識技能習得】
写真 3 安全・品質・コストと知識技能の一体化
査・安全管理がリンクした安全・品質・コストと
は、業界や世の中をベンチマークとし、自社の現状
知識技能を一体化させた教育体系へと変更しまし
とギャップをしっかり認識することで、組織的な課
た(写 真 3 )。
題を形成・解決していく職場風土醸成に向けた教育
・また、製造部門として現状の職能別教育体系と教
具体的には、360 度評価(部下からのアンケート)
教育が不足しているか?」、「今後どのような教育
を用いて、職制自信が部下からどのように見られて
が必要になるか?」の分析も並行して進め、今後、
いるのかを認識し、自らの行動・マネジメント(時
不足が生じると考えられる航空機艤装組立工、航
間管理を含む)の変革、部下とのコミュニケーショ
空機構造組立工等々への職種転換教育が重要であ
ン向上を狙いとしています。
るとの考えに至りました。製造部門としては、人
・若年層をターゲットとしたビジネスマナー力向上
事ローテーションによる職種転換と、個人が取組
入社 2 年目・4 年目をターゲットに「自ら主体的
む自己啓発を両立させた教育カリキュラムを策定
に成長し、課題に取組む意識を醸成する教育」、「社
しました。
会人として、企業人として必要なビジネスマナーを
・更に技能者教育では、多くの改善手法を組み合わ
守る事が、職場のコミュニケーション向上につなが
せたカリキュラムを策定し、間接職場では OJT
り、生産性の向上にもつながることを意識付けさせ
をより実務に近い形で実施しています。直接生産
る教育」を実施しました。また、入社 6 年目をター
職場でも OJT により技能者教育を行なうことで、
ゲットに「職場のリーダーとなりうる人材育成」、
「職
職種転換者の早期戦力化とスキルアップの実現を
場のリーダーとして職場をどのようにまとめるか、
図っています。
職場の将来像をどのように描くかを考える」研修を
② 意識風土改革
・マネジメント層の意識改革
仕事における意識や、QCD に対する意識レベル
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を実施しています。
育カリキュラムを実行しながら、「今どのような
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実施しています。
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職能資格
各職場
階層別教育
全社共通
宇都宮主催
プログラム
プログラム
職能別教育
全社共通プログラム
語学集中
講座
プロフェッショナル
プログラム
OJ T
職場管理者層の マネジメント
変革研修
マネジメント強化
(部長・課長) (多面評価併用) 企業で働く上で
次期職制育成教育
新任係長・担当層の
意識付け教育及び
マネジメント教育
中堅社員に
必要な知識と
部下育成教育
若年層の
早期育成教育
必須且つ常にレベル
アップを求められる
ビジネススキルと
品質・コスト・育成
を意識した教育
新任係長・担当
として必要な
・コーチング
知識と技能を
・リーダーシップ
修得する為の研修
・プレゼンテーション
新任班長研修 ・マーケティング基礎
・ロジカルシンキング
等
グローバル化
を意識した海
外ビジネスに
通用する業務
遂行能力の底
上げとレベル
アップを目指
した語学を中
心とした教育
・TOEIC
対策講座
・英文ビジネス
ライティング
・中国ビジネス
スキルアップ
等
新入従業員受入研修
CATIA
火薬類
取扱 統計的
パソコン 手法
財務 信頼性
実務法 工学
実験
務
航空法 計画法
規
自主 等
保全士
等
各部
教育計画
ものづくり
道場
生計塾
生技教育
技術教育
通信教育・公的資格取得支援
等
若年層社員
経営候補者の
養成
(部長級以上)
6年目
研修
4年目
研修
2年目
研修
中堅社員
自己
啓発
社内技能検定
国家技能検定
係長・担当
スキルマ�プに基づく計画的能力開発及び育成
職制
各部
主催
教育
宇都宮主催
プログラム
公開 品質管 技能
講座 理講座 検定
等
図 1 教育体系
③ スキル・知識・技能向上
・生産性向上
生産性の更なる向上に向け、効率且つ的確に改善
4.教育体系
図 1 に教育体系を示します。
活動を促進させる為の分析方法の教育をはじめ、
設備
故障・不具合によるロス時間を最小限に抑えるための
自主設備保全に関する教育を実施しています。
5.おわりに
・不具合防止
弊社は、本編で述べた教育プログラムを機能的に運
「お客様との信頼関係強化」、「不具合のコスト低
用し、従業員一人ひとりの意識変革と双方向のコミュ
減」に向け、不具合を未然に防止するための意識教
ニケーションの充実を図りながら「自ら問題を発見し
育を実施しています。
解決に向け行動できる人材」教育を通じ、「やる気の
・各部門主催教育
満ちた自立型人材」の育成に取組んでおります。
各部門の業務スキルを向上させるため、各部門独
自に教育スケジュールを立てて開催する教育と全従
業員が一定レベルのスキルと意識を保つ為の教育を
実施しています。
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