デジタル印刷機で築く新成長モデル 多彩なラインアップから最適なソリューションを提供 - フロントエンドから後加工まで㈱ミヤコシ(本社・千葉県習志野市津田沼 1-13-5、宮腰巖社長)は、印刷機械メーカーで唯一、デジタル印 刷機市場に参入、各種高速フルカラーデジタル印刷機でデジタル印刷市場を牽引している。フロントエンド から後加工までを含めたトータルソリューションを提供することで、世界中のユーザーから支持を得ている。 デジタル印刷の取り組みについて、POD 営業部の宮腰亨取締役部長に話しを聞いた。 - 印刷業界は変化の時を迎えていると言われていますが、現状をどう見ていますか。 宮腰 いろいろなシンクタンクから発表されている数字の通り、厳しい状況に置かれていると、日々営業を していて肌で感じています。その中で、どの印刷会社も生き残るために必死な取り組み、例えば小ロット対 応だったり短納期対応だったり、あるいは新規事業展開などと、いろいろ模索しています。 ミヤコシとして何が出来るのか、メーカーとしてどんな機械やソリューションを提供すればお役に立てるの か、日々考えています。 欧米向けの輸出が好調 ミヤコシの現状についてお話しますと、市場自体がシュリンクしていますので、非常に厳しい状況です。 ただ、アメリカとヨーロッパ向けにフルカラーインクジェットプリンターの輸出が増えており、それ以外の落ち 込み分をカバーしています。フルカラーインクジェットプリンターの輸出は 2007 年頃から始め、年々増えて きています。 - 日本の市場についてはどうですか。 宮腰 日本市場でもフルカラーインクジェットプリンターの販売に力を入れてきましたが、これからという状 況で、伸び代が大きいと見ています。各業界・各企業でもどういうビジネス展開が可能なのか情報収集を されています。メーカーとして単にハードを売るだけでなく、当社のシステムを使ってどういうアプリケーショ ンを構築できるのか、事例紹介なども含めて提案をしていきたいと考えています。 充実した「MJP シリーズ」 - デジタルシステムの中でも、インクジェットプリンターは年々品質や性能が上がり、関心が高まっていま す。ミヤコシでは、インクジェットプリンター「MJP シリーズ」が注目されています。。 宮腰 昨年、新たに MJP20F と MJP20D をリリースし、ラインアップを充実させました。「20F」は MJP シリー ズの最上位機種で、水性タイプのフルカラーインクジェットプリンターです。解像度は 600×600dpi、最大印 字幅は 20 インチ(541mm)で、毎分 200m の高速で走らせることができます。特色対応が特徴で、5 色分の ヘッドが乗せられるようになっています。ヘッドはピエゾ式ドロップオンデマンド方式のラインヘッドで、水性 顔料インクまたは水性染料インクが使用できます。 設置スペースをできるだけ少なくするため、1 タワー方式を採用しています。今までは全幅の用紙に表裏 の印刷をする場合、2 つのタワーが必要でした。それを 1 つのタワーに集約し、ヘッドの構成も 2 階建て構 造にしました。 「20D」は解像度が 600×600dpi、最大印字幅が 20 インチで、最高速度が毎分 100m のローボリューム向 けエントリーモデルです。これも「20F」と同じ省スペースの 1 タワータイプです。 2007 年に発売した従来の「20C」と「20D」「20F」は水性タイプです。水性インクジェットプレスなので基材 が限定され、どんな基材にもプリントできる訳ではありません。 水性インクでも幅広い基材に対応 水性タイプでも基材の制約をなくそうと昨年から開発を進めているのが、プリンターの中でアンカー剤を 塗布する方法です。印字をする前にアンカー剤を基材に塗布することにより、水性インクで、光沢紙をはじ めとする様々な用紙に高品質なフルカラー印刷をすることが可能になります。 アンカー剤を塗布する方法には、コーターで塗布する方法とインクジェットプリンターで行なう方法の 2 つ の方法があり、グロスコートやアートコートなどのコート系の紙にはコーターで、上質紙系の紙にはインク ジェットプリンターで塗布します。 基材対応力を高めるため、水性インクとは別に取り組んでいるのが、UV インク対応です。最初に開発し た MJP20V は解像度 600×600dpi、最大印字幅約 20 インチ、最高速度毎分 100m のパフォーマンスを持 っています。最大の特徴は多様な原反に使用できることです。シール・ラベル用途にも使えます。ただ、UV 乾燥機を使っているので熱の影響を少し受けます。 LED-UV を搭載した「20W」 この熱による影響を回避しようと、昨年リリースしたのが MJP20W です。この機械は長寿命・低消費電力 の LED-UV を使っています。LED-UV は赤外線を含まないため基材への熱の影響が少なく、「20V」よりさ らに幅広い用途に使えます。熱に敏感なフィルムや軟包装をはじめとする非吸収性基材にも対応していま す。MJP20W は解像度 600×600dpi、最大印字幅 20 インチ、最高速度毎分 100m です。 インクジェットプリンター「MJP」シリーズには、この他にもいろいろな種類・タイプがあります。アドオンタイ プのインクジェットシステム「Hybrid Inkjet」はハイブリッド方式のインクジェットプリンターです。既存の印刷 機にインクジェットヘッドが後付けできるシステムで、インラインで可変情報を印字することができます。 - いろいろな機種を揃えている理由は。 宮腰 ミヤコシは元々、ビジネスフォームの機械を作ってきたメーカーです。ビジネスフォームの世界はお 客様によってニーズがいろいろで、そのひとつひとつを形にしてきたというバックボーンがあります。インク ジェットプリンターについても要望にできるだけ応えようとした結果、数が増えました。 面白いものでは、テキスタイル向けのインクジェット捺染高速シリアルプリンター「TXP」があります。これ はシャトルタイプのインクジェットプリンターで、綿やレーヨンなど天然繊維素材へのテキスタイル印刷に対 応。また、プロセスカラー4 色と特色 4 色の合計 8 色を使って捺染の意匠性を高める色表現を実現してい ます。2m 幅で、400 ㎡/時の能力があり、シリアルタイプのプリンターでは世界最速レベルに近いスピード を誇っています。 インクジェットプリンターに高い関心 「20W」「20F」「20D」は、昨年 6 月の個展で発表しましたが、印刷だけでなく、パッケージ、建材関係などい ろいろな業界から大勢の人が参加、インクジェットプリンターへの関心が極めて高いことを実感しました。 引き合いも増えており、細かい要望を聞きながら、ターゲットの仕事にいちばんマッチしたシステムを提 案しています。 - プリンターでは、インクジェット方式の他に、電子写真方式の開発にも取り組んでいますね。 宮腰 MD-Press5000 です。展示会などでプロトタイプを参考出品してきましたが、近く正式にリリースする 予定です。1200dpi と高解像度で、スピードは毎分 100m です。印刷幅が 487mm あるので、生産性が高い 機械です。ロール to ロール方式ですが、シートカットやジグザグ折りなどの後加工ユニットも用意していま す。 また、ドラムに工夫してメンテナンス頻度をなくすとともに、転写ローラー、クリーナーを含めた全てをカセ ット化したことでメンテナンスにかかる負荷も軽減しています。さらに、エンドレスブランケットの採用により さらに、長尺印刷やバナー広告の印刷も可能です。我々の評価ではある程度のところまできており、現在 細部の調整をしているところです。 - 実際に導入された会社ではどういう使い方をされていますか。 宮腰 量産機という位置付けで使われている例が多いと思います。当社がメーンにやっている機械は全て 連続紙タイプですので、極小ロット向けというよりは、ある程度ロットのある仕事に向いた機械です。です から生産性の向上に力を入れてきました。 フルカラーインクジェットプリンターの場合、2004 年にリリースした最初の機械はスピードが 40m でした。 そこから 60m、150m に上げ、「20F」では 200m を達成しました。 充実した後加工 - 後加工とフロントエンドについてはどのようなサポートをしていますか。 宮腰 後加工については、ビジネスフォームで開発したミシンや Z 折り、マージナルパンチ、スキップミシン (バリアブルミシン)、バリアブル製本などの後加工ユニットを、MJP シリーズをはじめとするプリンターにも 実装できるようにしています。 ある意味で、後加工の充実が今後の重要な差別化戦略のひとつになると考えています。印刷会社の先 にあるエンドユーザーのニーズが多様化しているので、後加工に対するニーズも今後ますます多様化して いきます。ミヤコシの 65 年の歴史の中で蓄積した技術を応用する形で、いろいろなニーズに応えていきま す。後加工のシステムに関してはプリンターのインラインに組み込むことも、オフラインという形で提供する こともできます。 ミヤコシが提供する商品は全てミヤコシ製です。プリンターとオフセットの印刷機と加工機を全て持ってい るメーカーは他にないと思いますので、そこの強みを活かしていきたいと考えています。 - 近年は、1 社で開発するよりも、連携したり協業したりすることが多くなっていますが。 宮腰 餅は餅屋というやり方もあるでしょうが、ミヤコシとしては今まで培ってきた技術があります。フォー ム印刷の延長線上で、請求書などのデータ処理のニーズに応えてモノクロインクジェットプリンターを開発 したように、自社の技術をフルに活用していく方針です。 フロントエンドについては、処理能力不足によってプリンターのパフォーマンスを落とさないような仕組み づくりをしています。また、PDF 入稿に対応するため PDF データをオン・ザ・フライで高速 RIP 処理できるシ ステムを MJP シリーズにプラグインできるようにしています。これによりパフォーマンスを落とすことなく PDF を高速処理しながら吐き出せる環境を作りました。 新分野にも積極的にチャレンジ - 今後はどのような展開を計画していますか。 宮腰 インクジェットプリンターでは今まで、生産性を上げることに注力してきました。今後はそれと平行し て品質面の取り組みも強化していくつもりです。アンカー剤ものそひとつですが、いろいろなやり方を研究 し、印字品質の向上にチャレンジしていきます。 また、これまでは紙媒体がメーンでしたが、紙以外の基材にも POD できる機械の充実にも取り組みます。 さらに、後加工や前工程のデータフローに関しても充実していきます。プリンターを紹介していく中で、どう いった仕事に向いているか、実際にどういう仕事に使っているか、紹介していきます。 ミヤコシは、ビジネスフォームの印刷機、ラベル印刷機、紙加工機、そしてプリンターを手掛けています。 市場のニーズにより、プリンターのウェートがどんどん高くなっていますが、プリンター以外の商品も引き続 き力を入れていくつもりです。 ラベル業界に対しては、UV インクジェットプリンターを中心に販売促進を強化していく計画です。ラベル 業界では後加工のニーズもありますから、その部分でミヤコシがお手伝いできることがあると思います。プ リンターだけでなく加工も含めたデジタルソリューションを提供していきます。 当社は、ニーズをひとつひとつ形にしてきた会社ですので、新しいことにチャレンジしやすい環境にある と思います。これからもお客様のニーズを形にすることに力を入れていきます。技術の蓄積がありますの で、難しい注文にも応えられる自信があります。これまで経験したことがないようなニーズも出てくると思い ますが、そうした未知のニーズにも積極的にチャレンジしていくつもりです。 (2011 年 03 月号 印刷界 掲載)
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