はじめに 平成 26 年は,災害の多い一年でした。2 月の豪雪にはじまり,8 月の広島市における土砂災害,9 月の御 嶽山噴火による火山災害など,あらためて自然の力の大きさを私たちの胸に刻む一年となりました。 日本は,外国に比べて自然災害が発生しやすい国土です。日本国土の面積は全世界の 0.28%です。し かし,マグニチュード 6 以上の地震の 20.5%が日本で起こり,全世界の災害で受けた被害金額の 11.9%が 日本の被害金額となっています。 高槻市においても,最大震度 6 弱のおそれがある南海トラフ大地震が,今後 30 年以内に約 70%の確率 で発生するといわれています。また,近年は集中豪雨や台風による浸水被害が起こっており,淀川の堤防が 決壊した場合には大きな被害がでることが予想されています。 このような状況のなか,子どもたちへの防災教育の重要性が高まっています。 防災教育の目標は,災害から命を守り抜くことです。そのためには,災害発生の仕組みを知り,社会と地 域の実態を知り,備え方を知る必要があります。そして,学んだ知識を「主体的に行動する態度」へ結び付け る教育活動が必要です。また,自然災害が多い日本においては,災害後の生活,復旧・復興を支える「支援 者となる視点」の教育が重要です。 今年度,高槻市では,第八中学校・磐手小学校・奥坂小学校の3校を,防災教育研究委嘱校に指定しま した。研究委嘱校では,代表児童生徒による岩手県大槌町の視察訪問,地域防災マップの作成,地域が実 施する防災訓練への参加など,家庭や地域の協力を得ながら,自然災害から命を守り抜くための防災教育 について実践的な研究を行いました。 この『たかつきの防災教育-子どもたちの命を守り抜くために-』は,今年度の研究委嘱校の実践をまと め,市内小中学校における実践的な防災教育の充実を図るために作成いたしました。 防災教育は,子どもたちの命を守り抜くことはもちろん,将来彼らが社会の安全を担う存在となるために不 可欠な教育活動です。各学校におかれましては,本冊子を有効に活用し学校や地域の実態に応じた実践 的な防災教育が展開されることを願っております。 最後になりましたが,本冊子の作成にあたりご協力賜りました関係者の皆様に対し,心よりお礼を申し上 げます。 平成 27 年 3 月 高槻市教育委員会 教 育 長 -1- 一 瀬 武 目 次 Ⅰ 高槻の自然と災害 1 自然とともに,高槻で暮らす・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7 2 高槻に影響があった主な自然災害・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 3 高槻で起こる地震や風水害の想定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10 4 高槻市の防災に関する取組・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 5 防災教育推進の背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 Ⅱ 学校における防災教育 1 学校に求められる安全教育・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19 2 学習指導要領との関連・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21 3 学校安全の構造と防災教育・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26 4 防災教育のねらい・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27 5 防災教育の目標・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28 -2- Ⅲ 防災教育の展開例 小学校防災教育の目標及び中学校防災教育の目標・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33 1 新聞紙でコップ作り<図画工作> 小学校 1・2年・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・34 2 防災探検まちあるき<生活> 小学校 1・2年・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36 3 災害対応ゲーム「クロスロード」<特別活動> 小学校 5・6年・・・・・・・・・・・・・・・38 4 地震を想定した避難訓練<特別活動> 小学校 1~6年・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40 5 自分たちで企画する避難訓練<総合的な学習の時間> 小学校 5・6年・・・・・・42 6 神戸のふっこうはぼくらの手で<道徳> 小学校 3・4年・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44 7 避難所運営ゲーム「HUG」<特別活動> 中学校・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46 8 災害図上訓練「DIG」<総合的な学習の時間> 中学校・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48 9 亡き母へのトランペット<道徳> 中学校・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50 10 地域が実施する防災訓練に参加・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・53 Ⅳ 防災シンポジウムの記録 1 市長挨拶・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・58 2 基調講演・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59 3 防災教育研究委嘱校の実践報告・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・68 4 岩手県大槌町被災地訪問の報告・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・72 5 パネルディスカッション・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・78 -3- -4- Ⅰ 高槻の自然と災害 1 自然とともに,高槻で暮らす 2 高槻に影響があった主な自然災害 3 高槻で起こる地震や風水害の想定 4 高槻市の防災に関する取組 5 防災教育推進の背景 -5- -6- 1 自然とともに,高槻で暮らす 豊かな自然とともに,人々が暮らす高槻市 高槻市は淀川や摂津峡をはじめとする豊かな自然に恵まれ,わたしたちはその自然から多くの恩恵を受 けて暮らしています。 しかし,自然は時として想像をはるかに超えた大きな災害となって襲いかかってきます。自然災害そのも のを防ぐことはできませんが,そのしくみを知り,正しく備えることで被害を最小限にすることができます。 「どっちもたかつき http://www.city.takatsuki.osaka.jp/welcome/」より 淀川(河川敷) 摂津峡 台風に伴う大雨で増水した淀川(前島付近) 大雨の影響で陥没した府道亀岡線 -7- 2 高槻に影響があった主な自然災害 自然災害は忘れた頃に同じところ,または,その近くで発生するといわれています。つまり,「時」だけでは なく「場」もくり返されるのです。 高槻市では,大正 6(1917)年に台風により淀川が決壊した「大塚切れ」をはじめ,河川による水害に度々 悩まされてきました。 以下には,これまで大阪府等に被害をもたらした地震や風水害の歴史を載せました。災害史全体からみ れば一部に過ぎませんが,現代にも起こりうる自然災害に対して多くの教訓を学ぶことができます。 (1)大阪府(高槻市)等に被害をもたらした地震の歴史 年 月 地域(名称) 大阪府の被害状況(単位:人,棟) 明治 24(1891)年 10 月 濃尾 M8.0 死者 24 負傷者 94 家屋全壊 1,011 昭和 2(1927)年 3 月 北丹後 M7.3 死者 21 負傷者 126 家屋全壊 127 昭和 11(1936)年 2 月 河内大和 M6.4 死者 8 負傷者 52 家屋全壊 4 昭和 19(1944)年 12 月 東南海 M7.9 死者 14 負傷者 135 家屋全壊 199 昭和 21(1946)年 12 月 南海 M8.0 死者 32 負傷者 46 家屋全壊 234 昭和 27(1952)年 7 月 吉野 M6.7 死者 2 負傷者 75 家屋全壊 9 平成 7(1995)年 1 月 兵庫県南部 M7.3 死者 9 負傷者 1,929 家屋全壊 874 掲載基準:濃尾地震以降,大阪府で人的被害(死者・行方不明者)が発生したもの 参考:地震調査研究推進本部 http://www.jishin.go.jp/main/index.html 平成7年 阪神淡路大震災の様子 「チャレンジ!防災48/総務省」より http://open.fdma.go.jp/e-college/bosai/ -8- (2)大阪府(高槻市)に被害をもたらした風水害の歴史 年 月 災害名 大阪府の被害状況(単位:人,棟) 昭和 9(1934)年 9 月 室戸台風 昭和 25(1950)年 9 月 ジェーン台風 昭和 27(1952)年 7 月 7 月豪雨 死者 41 家屋全壊(流出) 187 床上・床下浸水 192,238 昭和 28(1953)年 9 月 台風 13 号 死者 26 家屋全壊(流出) 877 床上・床下浸水 163,788 昭和 36(1961)年 9 月 第 2 室戸台風 死者 32 家屋全壊(流出)3,386 床上・床下浸水 121,217 昭和 42(1967)年 9 月 7 月豪雨 死者 5 家屋全壊(流出) 62 床上・床下浸水 136,660 昭和 47(1972)年 9 月 台風 20 号 死者 3 家屋全壊(流出) 8 床上・床下浸水 69,429 昭和 57(1982)年 8 月 台風 10 号 死者 8 家屋全壊(流出)70 床上・床下浸水 74,070 平成 9(1997)年 9 月 9 月豪雨 死者 1,812 家屋全壊(流出) 14,368 床上・床下浸水 183,740 死者 240 家屋全壊(流出) 10,625 床上・床下浸水 94,164 死者 1 家屋全壊(流出)0 床上・床下浸水 3,460 掲載基準:室戸台風以降,人的被害(死者・行方不明者)が発生したもの 参考:大阪府を襲った主な水害 http://www.pref.osaka.lg.jp/kasenkankyo/boujyo/saigaiitiran.html 大正 6 年 台風による大雨で 470mにもわたって堤防が 昭和 28 年 台風による水害での芝生地区の様子 決壊した様子(大塚切れ) 「淀川河川事務所」より 「高槻市芝生実行組合史」より -9- 3 高槻で起こる地震や風水害の想定 (1)高槻市で起こる地震の想定 今後 30 年以内に,最大震度 6 弱のおそれがある南海トラフ地震が,約 70%の確率で発生するといわれて います。また,有馬高槻断層帯が動いた場合には,最大震度 7 という大きな地震の発生が予想されていま す。 (左図)南海トラフ地震における高槻市の予想震度 (右図)有馬高槻断層帯地震における高槻市の予想震度 (2)高槻市で起こる風水害の想定 平成 24 年 8 月には,最大で時間降雨量 110mm の集中豪 雨があり,床上浸水 247 件,床下浸水 597 件という甚大な浸 水被害が発生しました。時間降雨量 80mm 以上は最も大きい 「猛烈な雨」の区分になるので,110mm は相当激しいもので あったということになります。 このように,近年は市内でも集中豪雨や台風による浸水被 害が起こっており,万一,淀川の堤防が決壊した場合には大 きな被害がでることが予想されます。 平成 24 年 8 月 集中豪雨により浸水した市内の様子 浸水想定区域図 「淀川河川事務所」より - 10 - 4 高槻市の防災に関する取組 (1)大規模災害に備え,市全域大防災訓練を実施(平成 26 年 1 月) 自助・共助力を高めるため,市全域で地域住民など約 2 万 2 千人の参加による大防災訓練を実施しまし た。この訓練では,大阪府北部を震源とする震度7の直下型地震を想定し,市内 130 カ所の避難所などを開 設しました。 また,けやき大通りでは多重衝突事故,JR高槻車両基地では列車脱線事故からの救出訓練などを行い ました。 1) 濱田市長挨拶 2) 庁舎からの負傷者救助訓練 3) 救援物資搬送訓練 4) 高槻市医師会による災害医療救護訓練 5) 非常食炊き出し訓練 6) 列車脱線事故からの負傷者搬出訓練 7) 出火車両の消火訓練 (2)市南西地域で市民避難訓練を実施(平成 26 年 11 月) 市南西地域の 21 カ所の避難所で,地域ごとに訓練が実施されました。 市民避難訓練は,平成 27 年度には北東地域,28 年度は南東地域,29 年度は北西地域で開催する予定 です。 1) 避難者名簿受付訓練 2) 防災資機材展示 3) 簡易水防工法 4) 災害時要援護者支援訓練 - 11 - (3)児童生徒による被災地支援の取組(平成 26 年 2 月) 市内全59校の代表児童生徒が,学校生活などについて議論する第 2 回高槻市児童生徒議会が平成26 年 2 月に開催されました。その中で,阿武山中学校を含むFグループは,全小中学校で東日本大震災によ って被災した学校へ支援を行うことを提案しました。 1) 被災地への支援について提案 2) 議員提案を全会一致で可決 3) 集合写真 この議員提案は全会一致で可決され,市全体でベルマークポイントを集め,岩手県大船渡市の大船渡第 一中学校へ,そのポイントでデジタルカメラを贈りました。 (4)防災副読本「たかつきの防災」を作成(平成 27 年 1 月) 防災副読本「たかつきの防災」を作成し,5年生児童に配付しました。子どもたちの防災・減災への意識を 高め,災害時に主体的に行動することができる「未来の防災リーダー」を育成することを目的としています。 内容は,風水害や地震災害といった高槻市 で起こりうる災害の特徴について学ぶとともに, これらの災害から身を守る方法などについて 話し合いを交えながら学習していく教材です。 - 12 - (5)防災教育研究委嘱校を指定(平成 26 年 4 月~平成 27 年 3 月) 小中学校にける防災教育の充実を図るため,実践的な防災教育を進めるモデル校として第八中学校,磐 手小学校,奥坂小学校の 3 校を「防災教育研究委嘱校」に指定しました。 研究校では,代表児童生徒による岩手県大槌町の視察や地域防災マップの作成,地域が実施する防災 訓練への参加など,防災教育について実践的な研究を行いました。 1) 岩手県大槌町の視察訪問 2) 地域防災マップの作成 3) 新聞紙でコップづくり 4) 地域が実施する防災訓練へ参加 5) 関西大学ミューズキャンパス防災倉庫の見学 6) クロスロード体験(関西大学と連携) 7) 市長表敬訪問(被災地視察訪問の報告) 8) 事前予告なしの避難訓練 9) ニュージーランド地震体験者の話 10) 防災シンポジウムでの報告 平成 27 年 2 月 1 日には防災シンポジウムを開催し,学校関係者や市の職員,地域の防災組織の方など へ,研究校の実践を広く発信しました。 - 13 - 5 防災教育推進の背景 (1)自然災害のリスクが高い日本 スイスの会社が平成 25 年にまとめた「自然災害リスク の高い都市ランキング」では,東京・横浜が世界1位と なりました。背景には,地震活動が活発な地域に位置 していることや,津波の危険性が高いことなどがありま す。 日本は東京・横浜のほか,大阪・神戸が5位,名古屋 が6位となりました。大阪・神戸は激しい暴風雨や河川 の氾濫,津波のリスクが高いことを受けてランクインして います。 自然災害リスク指数 「内閣府 防災情報のページ」より (2)防災教育をめぐる国の動き 国においては,平成 20 年 6 月に学校保健法を改正し,学校保健安全法として,各学校における学校安 全計画の策定・実施を義務付けました。 学校保健安全法(平成 20 年 6 月 18 日 改正) 学校においては,児童生徒等の安全の確保を図るため,当該学校の施設及び設備の安全点検,児童 生徒等に対する通学を含めた学校生活その他の日常生活における安全に関する指導,職員の研修そ の他学校における安全に関する事項について計画を策定し,これを実施しなければならない。 <学校保健安全法 第二十七条より抜粋> また,学校保健安全法に基づき,平成 24 年から概ね 5 年間にわたる学校安全に関する施策の基本的方 向と具体的な方策を示した「学校安全の推進に関する計画」が閣議決定され,学校安全に関する一層の充 実方策が示されました。 学校安全の推進に関する計画(平成 24 年 4 月 27 日 閣議決定) (1)安全教育における主体的に行動する態度や共助・公助の視点 事件・事故災害に対し,自ら危険を予測し,回避するためには,知識とともに,習得した知識に基づい て的確に判断し,迅速な行動をとることができる力を身に付けることが必要である。そのためには,日常 生活においても状況を判断し,最善を尽くそうとする「主体的に行動する態度」を育成する教育が必要で ある。このため,安全教育を各教科等における学習活動としてのみならず,学校の教育活動全体の中で 捉え,総合的に実施していくことが重要である。 <学校安全の推進に関する計画 Ⅱ学校安全を推進するための方策 1.安全に関する教育の充実方策より抜粋> - 14 - (3)防災教育をめぐる今後の動向 平成 26 年 3 月 28 日には,次期学習指導要領改訂を見据 え,安全教育の充実に係る方策や手立てに係る検討の視点 を明確にするため,第 7 期中央教育審議会スポーツ・青少年 分科会学校安全部会が設置されました。 11 月 19 日には審議のまとめが公表され,「安全教育につ いては各学校において確実に実施されることが重要であり, そのための時間の確保,指導内容のまとまりや系統性,中核 となる教科等を位置付けることの効果・影響,教材の在り方, 学習評価の在り方などについて,次期学習指導要領に向け た教育課程全体の見直し議論等の中で引き続き検討してい 中央教育審議会スポーツ・青少年分科会 く」としています。 学校安全部会「審議のまとめ」概要 阪神・淡路大震災で生き埋めや閉じ込められた (4)多くの命を救った自助・共助 人の救助者に関する調査 平成 7(1995)年に発生した阪神・淡路大震災では,6,434 人 にのぼる命が失われました。 地震により倒れた家屋の下敷きになった人々の多くは,家族 や近隣住民によって救助されました。 地震直後のすばやい救出活動のためには近隣住民の力が必 要であり,そのためには日ごろからのつきあいや,地域を知って おくことの大切さが認識されました。 参考:兵庫県南部地震における火災に関する 調査報告書 「社団法人 日本火災学会」より 平成 23(2011)年に発生した東日本大震災では,甚大な被害 の一方で,事前の防災教育により想定された避難場所が危険で あることを児童生徒が判断し,更に安全な場所に自主的に避難 して津波による危険を回避した学校がありました。 そのため,学校における防災教育の重要性が一層認識され るようになりました。 平成 23 年 東日本大震災の様子 「チャレンジ!防災48/総務省」より http://open.fdma.go.jp/e-college/bosai/ - 15 - (5)中学生が活躍した例~東日本大震災~ 宮古市田老地区では,保育所が防潮堤より海側にあ り,地震後に園児らは何とか山を背にした中学校へ避 難しました。 そこで,「津波だ!」「逃げろ!」という声があがりまし た。すぐ校庭を越え山へ逃げなげればなりません。 津波とがれきが押し寄せる中,それを見た中学生は 園児の手を引いたり,抱きかかえたりして,避難がはじ まりました。 園児らは山の急斜面が上がれません。中学生たち は,急斜面に立って,バケツリレーのように園児らを高 平成 23 年 東日本大震災の様子 台へ上げ,全員が無事避難できました。 「チャレンジ!防災48/総務省」より http://open.fdma.go.jp/e-college/bosai/ (6)事前の防災教育が救った多くの命~インド洋大津波~ 平成 16(2004)年に発生したインド洋大津波では,約 23 万人の犠牲者がでました。その中で,事前の防 災教育の教えから多くの人命を救った英国少女がいました。 ティリー・スミスさん(当時 10 歳)は,家族でクリスマス休暇を過ごすためにタイのプーケットに来ていました。 ホテルの前で泳いでいると,海が突然泡立ち,遠くに船が上下に大きく揺れるのを見ました。彼女は学校の 地理の授業で習っていた「津波」を思い出し,両親に「これ津波だよ。すぐに陸に上がらないと危ない」と声を かけました。両親もその言葉を信じ,周りの人々に声をかけました。 海やホテルの従業員約 100 人は,近くの高台に避難し被害を逃れることができました。 - 16 - Ⅱ 学校における防災教育 1 学校に求められる安全教育 2 学習指導要領との関連 3 学校安全の構造と防災教育 4 防災教育のねらい 5 防災教育の目標 - 17 - - 18 - 1 学校に求められる安全教育 これまでも,学校においては安全教育の充実に向けて取り組んできました。しかし,東日本大震災では多 数の児童生徒,学校等に甚大な被害が生じました。また,直近でも,台風や大雨による土砂災害,火山災害 など甚大な災害が発生しています。 このような中,安全で安心な社会づくりの担い手となる児童生徒への安全教育の重要性がより一層高まっ ています。 学校では,各教科,道徳,特別活動,総合的な学習の時間など,学校の教育活動全体において行われる 総合的な安全教育によって,児童生徒に安全を守るための能力を身につけさせることが求められます。 「学校安全の推進に関する計画」(平成24年4月閣議決定)においては,発達の段階に応じた安全教育 によって,以下のような能力を育むことが重要とされています。 ⅰ)日常生活における事件・事故,自然災害などの現状,原因及び防止方法について理解を深め,現 在や将来に直面する安全の課題に対して,的確な思考・判断に基づく適切な意思決定や行動選 択ができるようにすること。 【知識】【思考・判断】 ⅱ)日常生活の中に潜む様々な危険を予測し,自他の安全に配慮して安全な行動をとるとともに,自 ら危険な環境を改善できるようにすること。 【危険予測】【主体的な行動】 ⅲ)自他の生命を尊重し,安全で安心な社会づくりの重要性を認識して,学校,家庭及び地域社会の 安全活動に進んで参加し,貢献できるようにすること。 【社会貢献】【支援者の基盤】 また,国が定めた「第2期教育振興基本計画」(平成25年6月策定)の キーワードになっている「自立,協働,創造」は,学校における安全教育に おいても踏まえるべき重要な観点となっています。 - 19 - - 20 - 2 学習指導要領との関連 学校における安全教育については,学習指導要領の総則において,以下のように示されています。 学校における体育・健康に関する指導は,児童の発達の段階を考慮して,学校の教育活動全体を通 じて適切に行うものとする。特に,学校における食育の推進並びに体力の向上に関する指導,安全に 関する指導及び心身の健康の保持増進に関する指導については,体育科の時間はもとより,家庭科, 特別活動などにおいてもそれぞれの特質に応じて適切に行うよう努めることとする。また,それらの指導 を通して,家庭や地域社会との連携を図りながら,日常生活において適切な体育・健康に関する活動 の実践を促し,生涯を通じて健康・安全で活力ある生活を送るための基礎が培われるよう配慮しなけれ ばならない。 <小学校学習指導要領1章総則第1教育課程編制の一般方針より抜粋,中学校においても同内容> このことから,学校においては,児童生徒等の発達の段階を考慮して,学校の教育活動全体を通じて適 切に行われるよう,各教科,道徳,総合的な学習の時間,特別活動等における教育内容との関連を図る必 要があります。 以下には,防災教育のねらいに迫るため,学習指導要領における主な防災教育関連記述を示していま す。 - 21 - (1)小学校 教科 学 年 内 容 第 3 学年 (4)地域社会における災害及び事故の防止について,次のことを見学,調査したり 及び 第 4 学年 資料を活用したりして調べ,人々の安全を守るための関係機関の働きとそこに従 事している人々や地域の人々の工夫や努力を考えるようにする。 ア 関係機関は地域の人々と協力して, 災害や事故の防止に努めていること。 イ 関係の諸機関が相互に連携して,緊急に対処する体制をとっていること。 第 5 学年 (1)我が国の国土の自然などの様子について,次のことを地図や地球儀,資料など を活用して調べ,国土の環境が人々の生活や産業と密接な関連をもっているこ とを考えるようにする。 エ 国土の保全などのための森林資源の働き及び自然災害の防止 社 (4)我が国の情報産業や情報化した社会の様子について,次のことを調査したり資 会 料を活用したりして調べ,情報化の進展は国民の生活に大きな影響を及ぼして いることや情報の有効な活用が大切であることを考えるようにする。 イ 情報化した社会の様子と国民生活とのかかわり 第 6 学年 2内 容 (2)我が国の政治の働きについて,次のことを調査したり資料を活用したりして調 べ,国民主権と関連付けて政治は国民生活の安定と向上を図るために大切な 働きをしていること,現在の我が国の民主政治は日本国憲法の基本的な考え方 に基づいていることを考えるようにする。 ア 国民生活には地方公共団体や国の政治の働きが反映していること。 第 5 学年 2 内 容 B 生命・地球 (3)流水の働き 地面を流れる水や川の様子を観察し, 流れる水の速さや量による働きの違いを 調べ,流れる水の働きと土地の変化の関係についての考えをもつことができるよ 理 科 うにする。 ウ 雨の降り方によって,流れる水の速さや水の量が変わり,増水により土の様 子が大きく変化する場合があること。 (4)天気の変化 1 日の雲の様子を観測したり,映像などの情報を活用したりして,雲の動きなどを調べ,天気 - 22 - の変化の仕方についての考えをもつことができるようにする。 ア 雲の量や動きは,天気の変化と関係があること。 イ 天気の変化は,映像などの気象情報を用いて予想できること。 第 6 学年 2 内 容 B 生命・地球 (4)土地のつくりと変化 土地やその中に含まれる物を観察し,土地のつくりや土地のでき方を調べ,土 地のつくりと変化についての考えをもつことができるようにする。 ウ 土地は,火山の噴火や地震によって変化すること。 第 1 学年 1 目 標 及び 第 2 学年 (1)自分と身近な人々及び地域の様々な場所,公共物などとのかかわりに関心をも ち,地域のよさに気付き,愛着をもつことができるようにするとともに,集団や社 会の一員として自分の役割や行動の仕方について考え,安全で適切な行動が 生 活 科 できるようにする。 2 内 容 (1)学校の施設の様子及び先生など学校生活を支えている人々や友達のことが分 かり,楽しく安心して遊びや生活ができるようにするとともに,通学路の様子やそ の安全を守っている人々などに関心をもち,安全な登下校ができるようにする。 〔学級活動〕 2 内 容 〔共通事項〕 (2)日常の生活や学習への適応及び健康安全 カ 心身ともに健康で安全な生活態度の形成 特 別 活 動 〔学校行事〕 2 内 容 (3)健康安全・体育的行事 心身の健全な発達や健康の保持増進などについての関心を高め,安全な行動 や規律ある集団行動の体得,運動に親しむ態度の育成,責任感や連帯感の涵 養,体力の向上などに資するような活動を行うこと。 - 23 - (2)中学校 教科 内 容 [地理的分野] 2 内 容 (2)日本の様々な地域 イ 世界と比べた日本の地域的特色 世界的視野や日本全体の視野から見た日本の地域的特色を取り上げ,我が国の国土の 特色を様々な面から大観させる。 (ア) 自然環境 世界的視野から日本の地形や気候の特色,海洋に囲まれた日本の国 土の特色を理解させるとともに,国内の地形や気候の特色,自然災害と防災への努 力を取り上げ,日本の自然環境に関する特色を大観させる。 社 会 ウ 日本の諸地域日本を幾つかの地域に区分し,それぞれの地域について,以下の(ア)から (キ)で示した考察の仕方を基にして,地域的特色をとらえさせる。 (ア) 自然環境を中核とした考察 地域の地形や気候などの自然環境に関する特色をあ る事象を中核として,それを人々の生活や産業などと関連付け,自然環境が地域の 人々の生活や産業などと深い関係をもっていることや,地域の自然災害に応じた防 災対策が大切であることなどについて考える。 エ 身近な地域の調査身近な地域における諸事象を取り上げ,観察や調査などの活動を行 い,生徒が生活している土地に対する理解と関心を深めて地域の課題を見いだし,地域 社会の形成に参画しその発展に努力しようとする態度を養うとともに,市町村規模の地域 の調査を行う際の視点や方法,地理的なまとめ方や発表の方法の基礎を身に付けさせ る。 [第 2 分野] 2 内 容 (2) 大地の成り立ちと変化 大地の活動の様子や身近な岩石,地層, 地形などの観察を通して,地表に見られる 様々 理 科 な事物・現象を大地の変化と関連付けて理解させ,大地の変化についての認識を深める。 ア 火山と地震 (イ) 地震の伝わり方と地球内部の働き 地震の体験や記録を基に,その揺れの大きさや伝わり方の規則性に気付くととも に,地震の原因を地球内部の働きと関連付けてとらえ,地震に伴う土地の変化の様 子を理解すること。 - 24 - ウ 日本の気象 (ア) 日本の天気の特徴 天気図や気象衛星画像などから,日本の天気の特徴を気団と 関連付けてとらえること。 (イ) 大気の動きと海洋の影響 気象衛星画像や調査記録などから,日本の気象を日本付近の大気の動きや海洋の 理 影響に関連付けてとらえること。 科 (7) 自然と人間 イ 自然の恵みと災害 (ア) 自然の恵みと災害 自然がもたらす恵みと災害などについて調べ,これらを多面的,総合的にとらえて, 自然と人間のかかわり方について考察すること。 [保健分野] 2 内 容 (3) 傷害の防止について理解を深めることができるようにする。 保 健 体 育 ア 交通事故や自然災害などによる傷害は,人的要因や環境要因などがかかわって発生ず ること。 ウ 自然災害による傷害は,災害発生時だけでなく,二次災害によっても生じること。また, 自然災害による傷害の多くは,災害に備えておくこと,安全に避難することによって防止 できること。 技 術 家 庭 2 内 容 C 衣生活・住生活と自立 (2) 住居の機能と住まい方について,次の事項を指導する。 イ 家族の安全を考えた室内環境の整え方を知り,快適な住まい方を工夫できること。 〔学級活動〕 2 内 容 (2) 適応と成長及び健康安全 キ 心身ともに健康で安全な生活態度や習慣の形成 特 別 活 動 〔学校行事〕 2 内 容 (3) 健康安全・体育的行事 心身の健全な発達や健康の保持増進などについての理解を深め,安全な行動や規律ある集 団行動の体得,運動に親しむ態度の育成,責任感や連帯感の涵養,体力の向上などに資す るような活動を行うこと。 - 25 - 3 学校安全の構造と防災教育 学校安全のひとつの領域である「災害安全」は,次の図のように整理することができます。 防災教育には,防災に関する基礎的・ 基本的事項を系統的に理解し,思考力, 判断力を高め,働かせることによって防 災について適切な意志決定ができるよう にすることをねらいとする側面があります。 また,当面している,あるいは近い将来 予測される防災に関する問題を中心に 取り上げ,安全の保持増進に関する実践 的な能力や態度,さらには望ましい習慣 の形成を目指して行う側面もあります。 教育課程においては,主として,前者は(ⅰ)体育科・保健体育科をはじめとして,社会科(地歴・公民)・ 理科・生活科などの関連した内容のある教科や総合的な学習の時間などで取り扱い,後者は(ⅱ)特別活動 の学級(ホームルーム)活動や学校行事などで取り上げられることが多くあります。 また, (ⅲ)道徳教育は生命の尊重をはじめ,きまりの遵守,公徳心,公共心など,安全な生活を営むた めに必要な基本的な内容の指導を行うこととなっており,安全にとって望ましい道徳的態度の形成という観 点から,防災を含む安全教育の基盤としての意義をもっています。 (ⅰ)防災に関する学習 目 標 教科等 (ⅱ)防災に関する指導 適切に意思決定できる能力をはぐくむ 実践的な能力や態度をはぐくむ (計画的・系統的な学習) (様々な機会に全体で取り組む) ・体育科(保健領域) ・特別活動(学級活動,児童会生徒会活動, ・関連教科(社会科,理科,生活科など) 学校行事,クラブ活動) ・総合的な学習の時間(探究活動) ・部活動 ・自立活動 ・日常の生活 (ⅲ)道徳教育(道徳の時間) 目 標 安全な社会づくりに参画し,自分だけではなく他の人も含め安全で幸せに暮らせる社会をつく ろうとする態度をはぐくむ - 26 - 4 防災教育のねらい 防災教育は,様々な危険から児童生徒の安全を確保するために行われる安全教育の一部をなすもので す。防災教育のねらいは,安全教育の目標に準じて次のような3つにまとめられます。 ア 自然災害等の現状,原因及び減災等について理解を深め,現在及び将来に直面する災害に対 して,的確な思考・判断に基づく適切な意志決定や行動選択ができるようにする。 【知識】【思考・判断】 イ 地震,台風の発生等に伴う危険を理解・予測し,自らの安全を確保するための行動ができるように するとともに,日常的な備えができるようにする。 【危険予測】【主体的な行動】 ウ 自他の生命を尊重し,安全で安心な社会づくりの重要性を認識して,学校,家庭及び地域社会の 安全活動に進んで参加・協力し,貢献できるようにする。 【社会貢献】【支援者の基盤】 主体的に行動する態度(自助) 東日本大震災では,学校管理下において,教職員の適切な誘導や日常の避難訓練等の成果によって, 児童生徒等が迅速に避難できた学校があった一方,避難の判断が遅れ,多数の犠牲者が出た学校や,下 校途中や在宅中に被害に遭った児童生徒等がいました。自然災害では,想定した被害を超える災害が起こ る可能性が常にあり,自ら危険を予測し回避するために,習得した知識に基づいて的確に判断し,迅速な行 動をとることができる力を身につけることが必要です。日常生活においても状況を判断し,最善を尽くそうと する「主体的に行動する態度」を身に付けさせることが極めて重要です。 進んで安全で安心な社会づくりに参加し,貢献できる力(共助・公助) 自然災害が多い我が国においては,災害後の生活,復旧,復興を支えるための支援者となる視点も必要 です。ボランティア活動は,他人を思いやる心,互いを認め合い共に生きていく態度,自他の生命や人権を 尊重する精神などに支えられています。より良い社会づくりに主体的かつ積極的に参加・参画していく手段 としても期待されており,このことは,学校における安全教育の目標の一つである,進んで安全で安心な社 会づくりに貢献できるような資質や能力を養うことにつながっています。 - 27 - 5 防災教育の目標 これらの防災教育として必要な知識や能力等を児童生徒等に身に付けさせるためには,その発達の段階 に応じた系統的な指導が必要となります。 下記には,前述した防災教育のねらいを達成するため,各校種園ごとの目標を示しています。 (1)幼稚園 幼稚園段階における防災教育の目標 安全に生活し,緊急時に教職員や保護者の指示に従い,落ち着いて素早く行動できる。 ア 知識,思考・判断 イ 危険予測・主体的な行動 ウ 社会貢献,支援者の基盤 ①教師の話や指示を注意して聞 ①安全・危険な場や危険を回避 ①高齢者や地域の人と関わり, き理解する。 する行動の仕方が分かり,素 ②日常の園生活や災害発生時の安全 な行動の仕方が分かる。 早く安全に行動する。 自分のできることをする。 ②友達と協力して活動に取り組む。 ②危険な状況を見付けた時,身 ③きまりの大切さが分かる。 近な大人にすぐ知らせる。 (2)小学校 小学校段階における防災教育の目標 日常生活の様々な場面で発生する災害の危険を理解し,安全な行動ができるようにするとともに,他 の人々の安全にも気配りができる。 ア 知識,思考・判断 イ 危険予測・主体的な行動 ウ 社会貢献,支援者の基盤 ①地域で起こりやすい災害や地域に ①災害時における危険を認識し ①自他の生命を尊重し,災害時 おける過去の災害について理解 日常的な訓練等を生かして, 及び発生後に,他の人や集 し,安全な行動をとるための判断に 自らの安全を確保することがで 団,地域の安全に役立つこと 生かすことかができる。 きる。 ができる。 ②被害を軽減したり,災害後に 役立つものについて理解す る。 - 28 - (3)中学校 中学校段階における防災教育の目標 日常の備えや的確な判断のもと主体的に行動するとともに,地域の防災活動や災害時の助け合いの 大切さを理解し,すすんで活動できる。 ア 知識,思考・判断 イ 危険予測・主体的な行動 ウ 社会貢献,支援者の基盤 ①災害発生のメカニズムの基礎 ①日常生活において知識を基に ①地域の防災や災害時の助け や諸地域の災害例から危険を 正しく判断し,主体的に安全な 合いの重要性を理解し,主体 理解するとともに,備えの必要 行動をとることができる。 的に活動に参加する。 性や情報の活用について考 ②被害の軽減,災害後の生活を 考え備えることができる。 え,安全な行動をとるための判 断に生かすことができる。 ③災害時には危険を予測し,率 先して避難行動をとることがで きる。 (4)高等学校 高等学校段階における防災教育の目標 安全で安心な社会づくりへの参画を意識し,地域の防災活動や災害時の支援活動において,適切な 役割を自ら判断し行動できる生徒 ア 知識,思考・判断 イ 危険予測・主体的な行動 ウ 社会貢献,支援者の基盤 ①世界や日本の主な災害の歴 ①日常生活において発生する可能性 ①事前の備えや災害時の支援に 史や原因を理解するとともに, のある様々な危険を予測し,回避 ついて考え,積極的に地域防 災害時に必な物資や支援に するとともに災害時には地域や社 災や災害時の支援活動に取り ついて考え,日常生活や災害 会全体の安全について考え行動す 組む。 時に適切な行動をとるための ることができる。 判断に生かすことができる。 障がいのある児童生徒等については,上記のほか,障がいの状態,発達の段階,特性及び地域の実態 等に応じて,危険な場所や状況を予測・回避したり,必要な場合には援助を求めることができるようにする。 学校防災のための参考資料 「生きる力」を育む防災教育の展開(文部科学省) - 29 - - 30 - Ⅲ 防災教育の展開例 小学校防災教育の目標及び中学校防災教育の目標 1 新聞紙でコップ作り<図画工作> 2 防災探検まちあるき<生活> 3 災害対応ゲーム「クロスロード」<特別活動> 4 地震を想定した避難訓練<特別活動> 5 自分たちで企画する避難訓練<総合的な学習の時間> 6 神戸のふっこうはぼくらの手で<道徳> 7 避難所運営ゲーム「HUG」<特別活動> 8 災害図上訓練「DIG」<総合的な学習の時間> 9 亡き母へのトランペット<道徳> 10 地域が実施する防災訓練に参加 - 31 - - 32 - 小学校 防災教育の目標 (1) 1・2学年 ア 知識,思考・判断 イ 危険予測・主体的な行動 ウ 社会貢献,支援者の基盤 災害に関心をもつことができるように 災害により引き起こされる危険を 災害時には,自分で危険を回避し,大 し,災害時の安全な行動について考 感じ,大人の指示に従うなどして 人と連絡ができるようになる。 えることができるようになる。 適切な行動がとれるようになる。 (2) 3・4学年 ア 知識,思考・判断 イ 危険予測・主体的な行動 ウ 社会貢献,支援者の基盤 災害について基本的な理解がで 災害により引き起こされる危険につい 災害時には,家族や友達,周囲 き,災害を防ぐための工夫につ て関心をもち,自ら危険を回避する方 の人々と協力して危険を回避で いて考えることができるようにな 法を考えられるようになる。 きるようになる。 る。 (3) 5・6学年 ア 知識,思考・判断 イ 危険予測・主体的な行動 ウ 社会貢献,支援者の基盤 地域の災害の特性や防災体制 災害により引き起こされる危険を予測 災害時には,家族や友達,周囲の について理解できるようになる。 し,災害時には,自ら危険を回避する 人々の安全にも配慮し,他の人の役 行動ができるようになる。 に立つ行動ができるようになる。 中学校 防災教育の目標 ア 知識,思考・判断 イ 危険予測・主体的な行動 ウ 社会貢献,支援者の基盤 防災に関する日常の備えを見直 応急手当の技能を身に付け,自 災害時等の非常時にも,地域社 し,災害に対して適切な行動が 己の安全ばかりでなく他の人々 会の一員として,自主的に地域 できるようになる。 の 安全にも 配慮で きる よう にな の活動に参加できるようになる。 る。 - 33 - 1 新聞紙でコップ作り ★ 身近なものから防災に役立つものを作る。 防災に関心をもつことができるようにするとともに,新聞紙のような身のまわりのものを役立 てる力を養う。(ア 知識,思考・判断) 図画工作(小学校 1・2 年) 割れずに,洗わなくてもよい食器として,新聞紙を使った新聞紙コップ作りなど,身の回り のものから防災に役立つものの作り方を学びます。 学習内容・活動 教師の支援等 災害後の生活をイメージする。 ・阪神・淡路大震災では水道が止まり復旧ま 災害後の暮らしについてどのような状況が起こ得るの で長くて3か月かかったことや,その間,水 か話し合う。 道のない不便な生活(給水車による給水, ・電気,ガス,水道などが使えなくなる。 トイレ用水の確保の苦労,川で洗たくなど) ・家で生活できなくなり,避難所で共同生活をするよう が続いたことなどを写真や映像を使って説 になる。 明する。 新聞紙コップ作りを体験する。 割れずに,洗わなくてもよい食器として,新聞紙を使っ た新聞紙コップ作り ・新聞紙を使った食器の作り方,ラップやビ ニール袋などの活用方法を説明する。 (一枚の新聞紙を四つ折りにしてから折り始 など ,身の回りのも めると,ちょうどよい厚さになります。) のから防災に役立 つものの作り方を学 ぶ。 感想を交流する。 ・災害時には,新聞紙コップのほか,普通の 実際に新聞紙コップを作った感想を交流する。 食器にラップを被せて使い,食器を洗わず 新聞紙以外でも食器づくりに役に立ちそうなものを考 に済むような工夫などがあったことを説明 える。 する。 - 34 - 保護者と一緒に新聞紙でコップ作り 奥坂小学校 1年生 紙食器の作り方 サバイバル紙食器づくり「チャレンジ!防災48/総務省」より http://open.fdma.go.jp/e-college/bosai/ 震災時,水道や電気・ガスなどのライフラインが機能しなかったことで発生した被害は,食器だけでは ありません。食器はあるが,食べ物がないという状態が数日間続いた地域もあります。最低限の食料(3 日分)は非常用に備えておくことが大切です。 - 35 - 2 防災探検まちあるき ★ 地域の防災に関する施設や設備を知る。 地域の防災に関する施設や設備を調べることを通して,地域のよさに気付き,愛着をもつ ことができるようにする。(ウ 社会貢献,支援者の基盤) 生活(小学校 1・2年) 実際にまちを歩きながら,防災に関する施設や設備の見学・インタビューなどを通して学 んだことを防災マップにまとめる実践的な活動です。 学習の進め方 見学の計画を立てる。 古曽部防災公園の調べ学習を行い,インタビュー内容を考える。 古曽部防災公園を見学する。 防災公園を訪れ,防災倉庫やかまどベンチなど,防災に関する施設や設備を見学する。 防災倉庫 かまどベンチ 簡易トイレ 古曽部防災公園マップをつくる。 見つけたことや知ったことを話し合い,防災公園マップに まとめる。 参観等で保護者に向けて発表する。 防災公園の見学やインタビューを通して見つけたことや学 んだことを,保護者に向けて発表する。 防災公園マップ - 36 - 地域公開授業での発表 奥坂小学校 2年生 <保護者の声> ・身近な防災公園ですが,意外にも知らなかった機能がたくさんあることがわかりました。災害がおこった ときには,子どもたちにおしえてもらったことが役に立つと思います。 ・防災公園は普段から遊びに通っている公園です。今回の発表を見ることで,わたしたち大人も防災に ついて考えるよい機会になりました。 ・災害用水タンクの仕組みや体育館の屋根の形状がどうして流線形になっているかがわかりました。実際 に災害が発生したときも,子どもたちが今回学んだことを活かして活躍している姿が想像できます。 古曽部防災公園 敷地面積約 4.5 ヘクタールの本市初の本格的な防災機能を 兼ね備えた地区公園です。身近な市民の憩いの場として多目 的広場には大型複合遊具や健康遊具等があります。大地震な どの災害発生時には,周辺住民の広域避難地としての機能と全 国からの救援物資等を受け入れ,供給を行う総合的な物流の 機能を備えた北部総合防災拠点となります。 安満遺跡公園 八丁畷町,阪急京都線とJR東海道線の間に広がる史跡安満 遺跡を含む,約 20.9 ヘクタール(甲子園球場の約5個分)にもお よぶ広大な敷地を「安満遺跡公園」として整備し,防災機能を備 えた緑豊かな公園を目指す取組が進められています。 一次開園は平成 31(2019)年を予定しています。 - 37 - 3 災害対応ゲーム「クロスロード」 ★ 災害対応時のさまざまなジレンマを体験する。 重大な判断を伴う災害対応を自らの問題として考える。自分とは異なる意見や価値観を 参加者同士で共有する。(ア 知識,思考・判断) 特別活動(小学校 5・6年) 災害対応カードゲーム教材「クロスロード」は,カードを用いたゲーム形式による防災教 育教材です。参加者は,カードに書かれた事例を自らの問題として考え,YES か NO か で自分の考えを示すとともに,参加者同士が意見交換を行いながら進めていきます。 学習内容・活動 教師の支援等 学習のねらいとルールを確認する。 ・クロスロードは「岐路」「分かれ道」という意味。 ・5 人 1 組を基本とする。 (奇数人数になるようにグループ ・他の人が判断した理由を聞くことで,多様な視点や価値観に触 を作ることが望ましい。) れることができる。 クロスロードを行う。 ・多数派の意見が正しく,少数派 1) 班の形になり,各自が「Yes」「No」カードを持つ。 2) 教師が問題を提示する。 3) 問題に対して自分なりの理由を考え「Yes」「No」を決める。 の意見が間違っているということ ではない。正解を探すのではな 4) カードを裏向きにして机に出す。 く,自分ならどのような選択をす 5) 全員がカードを出したら,一斉に表に返す。 るか,他者の意見をよく聞き自 6) 判断や決断の理由をそれぞれ述べ合い,意見交換する。 分の考えと向き合うことが大切 ● 多数派は得点を表す『青座布団』を手に入れる。 であることを説明する。 ● 一人だけ異なる意見を出した人は,貴重な意見として『金座 布団』を受け取り,最後に考えを述べる。 ふり返りをする。 ・災害時には,短い時間の中で ・ワークシートにクロスロードを体験した感想を書く。 選択を迫られ,選びとらなけれ ばならない場面があることを説 明する。 - 38 - 災害対応ゲーム「クロスロード」の体験 磐手小学校 5年生(協力:関西大学社会安全学部KUMC) クロスロードは,大地震の被害軽減を目的に文部科学省が進める「大都市大震災軽減化特別プロジェク ト」の一環として開発されました。阪神・淡路大震災において災害対応にあたった神戸市職員へのインタビ ューの内容がもとになっており,実際の対応において神戸市職員が経験したジレンマの事例をカード化し たものです。 クロスロードの設問例 神戸編 1015 番 あなたは:市役所の職員 未明の大地震で,自宅は半壊状態。幸い怪我はなかったが,家族は心細そうにしている。電車も止まって, 出勤には歩いて2,3時間が見込まれる。出勤する? YES:出勤する NO:出勤しない 神戸編 1026 番 あなたは:被災した病院の職員 入院患者を他病院へ移送中。ストレッチャー上の患者さんを報道カメラマンが撮ろうとする。腹に据えかね る。そのまま撮影させる? YES:撮影させる NO:撮影させない 市民編 5009 番 あなたは:市民 大きな地震のため,避難所(小学校体育館)に避難しなければならない。しかし,家族同然の飼い犬“もも” (ゴールデンレトリバー,メス3歳)がいる。一緒に連れていく? YES:連れて行く NO:置いていく <準 備> クロスロード【神戸編・一般編】 クロスロード【市民編】 クロスロード【災害ボランティア編】 商願番号 2004-83439(第 28 類)「CROSSROAD」:同 2004-83440(第 28 類) 不許複製 制作・著作:Team Crossroad チームクロスロード (網代剛、吉川肇子、矢守克也:50音順) - 39 - 4 地震を想定した避難訓練 ★ 落ちてこない・倒れてこない・移動してこない場所に身を寄せる どのような状況でも,「落ちてこない・倒れていこない・移動してこない」場所に素早く身を 寄せて安全を確保することができるようにする。(イ 危険予測・主体的な行動) 特別活動(小学校 1~6 年) 緊急地震速報の音源を利用し,「上からものが落ちてこない」「横からものが倒れてこな い」「ものが移動してこない場所」に身を寄せる訓練を通して,災害発生時に児童生徒が 常に安全に避難できるよう,実践的な態度や能力を養います。 学習内容・活動 教師の支援等 事前指導 ・写真や映像を使用し,地震が起きたときの ・具体的な災害時の様子を想起させる。 様子と,様々な状況に応じた自身の安全確 ・緊急地震速報と避難経路を知る。 保の仕方を説明する。 ・避難時の守るべきことを知る。 ・緊急地震速報について知らせる。 ・避難経路図を使い,教室などからの避難 経路を確認するよう促す。 ・教職員の指示がない場合でも自分で判断 し「落ちてこない,倒れてこない,移動して こない」安全な場所に身を寄せることを確 認する。 緊急地震速報の流れ 「気象庁」 ものが散乱している家の中 倒れたブロック塀 - 40 - 屋根瓦が崩れた家 学習内容・活動 教師の支援等 ・揺れが収まるまで机の下に入り脚をもたせ 「揺れたら」の訓練 るなど,落ちてこない,倒れてこない,移動 ・報知音(避難の放送)を聞いて,落ちてこない,倒れ てこない,移動してこない場所に身を寄せる。 してこない場所に身を寄せる。 ・二次対応の指示が出るまで自身の安全を 確保させる。 ・屋外に出る個所には落下物や段差,ある 「揺れが収まったら」の訓練 いは通路上に転倒物があることを想定し, ・教職員の指示で避難(二次対応)する。 落ち着いて移動するよう注意する。 ・運動場等に避難する。 ・外へ出たら駆け足で集合するよう促す。 ・運動場等に整列し,安全確認後,待機する。 ・人員確認をする。 ・学年に応じて指導する。 事後指導 【低】避難のルールは守られたか。報知音, ・教室へ戻り,訓練のふり返りをする。 あるいは揺れそのものを,一人一人が 上からものが落ちてこない,横からものが倒れてこな 察知した段階で,素早く身の安全を確 い,ものが移動してこない場所に素早く身を寄せて安 保すること。 全を確保することができたか。教職員の指示を待た 【中】休み時間,登下校中等だったらどうす ずに児童が自ら判断し行動できたか 等 るか。 【高】下級生等への配慮ができたか。 地震ショート避難訓練 緊急地震速報の音源を利用し,直後にやってくる大きな揺れに対して,上からものが落ちてこない,横 からものが倒れてこない,移動してこない場所に身を寄せる行動訓練です。 児童生徒が自ら考えて行動し,その行動に対して指導をする訓練を繰り返し実施します。 緊急地震速報の報知音 → 避難行動 → タブレット型PCで記録 → 避難行動についてのふり返り 奥坂小学校 <避難訓練実施上の留意点> 避難訓練の実施時期や内容は,毎年同じになりがちです。休憩時間中や清掃中,登下校中の場合など も想定し,災害の発生時間や場所に変化を持たせ,児童生徒がいかなる場合にも安全に対処できるように することが望まれます。 - 41 - 5 自分たちで企画する避難訓練 ★ 自分たちで避難訓練を企画し,プレゼンテーションを実施 身の回りに起こる危険を予測できる力や,的確に判断し,行動する力を身に付ける。 (イ 危険予測・主体的な行動) 総合的な学習の時間(小学校 5・6 年) 自分たちで実際の状況に近い避難訓練を目指して企画することで,避難訓練への意識 を高めます。 学習内容・活動 教師の支援等 これまでの避難訓練をふり返る。 ・前回の避難訓練がどんな様子で行われたか思い出 す。 ・日時,天候,どんな順番で訓練をしたかを 明示し,具体的に想起できるようにする。 ・教師用の実施計画書を見せながら思い出 自分たちで避難訓練を企画する。 させる。 ・実際に地震が起きたとき,どんな状況になるかを考え, ・全児童がもっと真剣に取り組むにはどうす 避難訓練の改善策を練る。 れば良いか話し合えるように,具体例を挙 ・校舎図を確認し,震度6の地震によって避難経路にど のような危険があるかを考える。 げる。 「平日の14時に震度6の地震が発生」と, ・防災マップから浸水地域や地域から避難してくる事態 であることを知る。 あらかじめ状況を示し,実際に起こりうる事 態を想定しやすいようにする。 プレゼンテーション大会を行う。 ・プレゼンテーション大会を行い,防災の専門家や地域 の方から助言を受ける。 ・災害に関する危険箇所,危険回避の方法 などを校舎図に盛り込ませる。 ・「避難まで」と「避難後」のそれぞれに焦点 を絞る。 感想を交流する。 ・自分たちで企画した避難訓練をふり返り,感想を交流 する。 - 42 - プレゼンテーション大会の様子 磐手小学校 6年生(協力:関西大学 城下 英行 助教,磐手地区コミュニティ協議会 副会長 吉田 義明さん) <留意点> 避難訓練は,消防法で定められた防火管理者が児童生徒等を安全に避難誘導するために行う訓練です。 学校においては,教職員が主体となって行う避難訓練と児童生徒の学習として行う防災活動の趣旨や目的 を理解し,区別することが大切です。 - 43 - 6 神戸のふっこうはぼくらの手で ★ 阪神・淡路大震災関連資料を使用した道徳の授業 避難所生活の中で主人公のぼくが気づいたことを考えることを通して,力を合わせて仕事 をする大切さを理解し,みんなのために進んで働こうとする態度を養う。 (ウ 社会貢献,支援者の基盤) 道徳(小学校 3・4 年) みんなの役に立つ 内容項目 4-(2) 学校が舞台であり,同年代の児童が主人公となっている。大便を処理する先生への驚きと大人の協 力,牛乳びんを温める小さな女の子の姿への申し訳ない思い,小さい子のために自分ができることに取 り組む姿など,地震という突発的な災害により生じた仕事の様子や主人公の思いが綴られている。 この主人公の仕事に対する意識の変容を児童に意識付けしていく中で,誇りや喜びをもって働くこと の大切さについて考えさせたい。 学習内容・活動 教師の支援等 導 入 大震災後の体育館や教室の様子を写真で見せる。 ・先生の姿やその姿を見て次々と手伝いだ した大人の姿を見て,「ぼく」の心にも変 展 開 化が表れたことを押さえる。 【中心発問】 「小さい子どもがにこにこ顔になってきたとき,ぼくは, ・少女の姿が深く心に刻まれていく「ぼく」 どんなことを考えていたでしょう。」 の心の動きを丁寧に押さえられるように, ・ぼくにもこんなことができるんだ。 一枚絵や少女の働いている様子の動作 ・なんだか元気がでてきた。 化などで少女の姿がイメージ化できるよう ・こんなに喜んでくれてうれしいな。 に工夫する。 ・子どもも自分たちでできることをやればいいんだ。 ・みんなにも声をかけよう。 ・みんなのために働くことが,自分の喜び であり,みんなの力になることが押さえら 終 末 れるようにする。 今日の授業の感想を書く。 - 44 - 「 あ り が と う 。 」 も ら っ た 。 と て も 温 か く 感 じ た 。 ロ で 少 し 温 め 、 そ れ を お 母 さ ん に わ た し て い る 。 し ば ら く 待 っ て 、 ぼ く は 牛 に ゅ う び ん を く も も ら お う と 、 テ ン ト の 前 に な ら ん だ 。 女 の 子 は 、 お 母 さ ん か ら わ た さ れ た び ん を コ ン 「 き み た ち が い る か ぎ り 、 神 戸 は り っ ぱ に 立 ち 直 る 。 」 み ん な 、 い き い き し て き た よ う だ 。 大 浜 先 生 は 、 い つ も こ う 言 っ て は げ ま し て く れ る 。 る こ と は 自 分 で す る よ う に し た 。 こ う し て 、 数 日 が 過 ぎ た 。 ぼ く も 、 水 や お べ ん と う を 受 け 取 り に 行 っ た り 、 自 分 の い る 場 所 の 整 理 を し た り 、 で き に つ れ て い っ て あ げ た と き 、 お ば あ ち ゃ ん は 安 心 し た よ う な 顔 を し た 。 の 楽 し そ う な 声 が 聞 こ え る 。 ま た 、 お 年 寄 り の 世 話 を す る 係 も で き た 。 手 を 引 い て 便 所 ち と 協 力 し て 、 ひ な ん 所 の 仕 事 を 分 た ん す る こ と に な っ た 。 こ う し て 、 今 で は 夕 方 に な る と 、 図 書 室 は 絵 本 や 紙 し ば い の 部 屋 に な り 、 子 ど も た ち こ の こ と が あ っ て か ら 、 ひ な ん し て き た お と な の 人 た ち は 、 先 生 や ボ ラ ン テ ィ ア の 人 た 「 そ う ね 。 ほ か に も 何 か で き る こ と は な い か 、 み ん な で 考 え よ う よ 。 」 そ う 言 っ た か と 思 う と 、 見 て い た お と な の 人 た ち が 次 々 と 手 伝 い だ し た 。 「 本 を 読 ん で あ げ た り 、 紙 し ば い を し て あ げ る の は ど う 。 」 「 先 生 、 す み ま せ ん 。 わ た し に も や ら せ て く だ さ い 。 」 「 ぼ く も そ う 思 う 。 」 た 。 ぼ く は 、 び っ く り し て 大 浜 先 生 の 様 子 を 見 て い る だ け だ っ た 。 そ の と き 、 手 ぶ く ろ を は め 、 ご み ぶ く ろ に も く も く と 、 す く っ て は 入 れ す く っ て は 入 れ を く り 返 し 「 ね え 、 小 さ な 子 の た め に 、 何 か で き る こ と を し よ う よ 。 」 ぼ く は 、 さ っ そ く 体 育 館 に ひ な ん し て い る 子 ど も た ち と 相 談 し た 。 - 45 - 便 所 を 見 た 先 生 は 、 す ぐ に ビ ニ ー ル の 手 ぶ く ろ と ご み ぶ く ろ を 取 り に い っ た 。 そ し て 〈 そ う だ 、 こ れ だ 。 〉 「 大 浜 先 生 、 来 て く だ さ い 。 」 こ し た 顔 に な っ て き た 。 ぼ く は 、 と っ さ に 大 浜 先 生 を よ び に 走 っ た 。 は ず だ 。 ぼ く は 、 必 死 で さ が し 、 そ の 子 の 所 に か け よ っ た 。 絵 を 見 せ て あ げ る と 、 に こ に 三 日 目 の 朝 、 一 大 事 が 起 こ っ た 。 便 所 に 行 く と 、 大 便 が 便 器 に 山 も り に な っ て い る 。 と 、 お 母 さ ん が 言 っ て い る 。 ぼ く は は っ と し た 。 ど こ か に く ま の 絵 が か い て あ る 本 が あ っ た ち の ひ な ん 生 活 が 始 ま っ た 。 先 生 の お か げ で 、 や っ と 体 育 館 の す み に こ し を お ろ す こ と が で き た 。 寒 さ の 中 で 、 ぼ く た 「 泣 い ち ゃ だ め 。 く ま の ぬ い ぐ る み は も う な い の よ 。 」 そ う 考 え て い る と き 、 小 さ な 子 ど も の 泣 き さ け ぶ 声 が 聞 こ え て き た 。 と 、 と つ ぜ ん ぼ く を よ ぶ 声 が し た 。 向 こ う で 大 浜 先 生 が 手 ま ね き し て い る 。 ぼ く に も で き る こ と は あ る の だ ろ う か 。 > 文 部 省 道 徳 教 育 指 導 資 料 ( 指 導 の 手 引 き ) 6 あ る 朝 、 外 は 冷 た い 雨 だ っ た 。 ふ と 運 動 場 を 見 る と 、 す み の 方 に 女 の 子 が す わ っ て 何 < 出 典 か し て い る 。 一 年 生 く ら い だ ろ う か 。 よ く 見 る と 、 牛 に ゅ う び ん を 温 め て 配 っ て い る 。 ぼ 「 宮 本 く ん 、 こ っ ち だ 。 こ っ ち に お い で 。 」 し な い で い る の が 、 申 し わ け な い よ う な 気 持 ち に な っ て き た 。 校 に 着 い た と き に は 、 体 育 館 や 教 室 は 、 ひ な ん し て き た 人 た ち で い っ ぱ い に な っ て い た 。 に 、 ま だ 、 女 の 子 と お 母 さ ん の す が た が あ っ た 。 ぼ く は 、 じ っ と 女 の 子 を 見 続 け た 。 何 も 地 し ん の あ っ た そ の 日 、 一 月 十 七 日 か ら 、 こ の 学 校 が ぼ く た ち の 家 に な っ た 。 ぼ く が 学 三 十 分 ほ ど し て 、 も う 一 度 、 そ の 場 所 に 行 っ て み た 。 し ず く の 飛 び 散 る テ ン ト の す み 神 戸 の ふ っ こ う は ぼ く ら の 手 で び ん を 温 め だ し た 。 心 を こ め て 女 の 子 に お 礼 を 言 っ た 。 女 の 子 は 、 ぼ く を 見 て に っ こ り 笑 い 、 ま た 、 牛 に ゅ う 7 避難所運営ゲーム「HUG」 ★ 避難所で起こる様々な出来事にどう対応していくかを模擬体験 災害時要支援者への配慮について考え,災害時に中学生が果たすことのできる役割や, 防災活動に積極的に参加しようとする意識を高める。(ウ 社会貢献,支援者の基盤) 特別活動(中学校) 避難所に見立てた体育館や教室を描いた平面図に,「足が不自由な女性」「生後1ヶ月 の赤ちゃんを連れた女性」など,事情の違う避難者を適切に配置できるかを模擬体験しま す。H(hinanjo避難所)U(unei運営)G(gameゲーム)の頭文字を取ったもので,英語で 「抱きしめる」という意味です。避難者を優しく受け入れる避難所のイメージと重ね合わせ て名付けました。 学習内容・活動 教師の支援等 災害後の暮らしについて考える。 避難所での生活について具体的にイメージする。 避難所運営ゲーム「HUG」を行う。 ・ライフラインが使えなくなったり, 避難所での生活が余儀なくされ ることなど,写真や映像を使い 具体的にイメージさせる。 1) ゲームの進め方を説明する。 2) 設定条件を説明する。 ・避難当日の設定条件(震度,気 3) 「体育館」「敷地図」「間取図」「教室」用紙を置き,ゲームス ペースを作る。 象 条件 ,季 節 ,時 間,被 災 状 況 , 避 難者 の 様 子) を 説明 す 4) カードを順番に読み上げてからスペースに出し,参加者は 体育館等にどのように配置するかを相談する。 「雨が降っている」「盲導犬を連れている」「妊婦」「高齢者」 る。 ・カードは1世帯分をまとめて読 み上げるようにする。 など,様々な状況にどう対応するか,グループで考え判断 <進め方のポイント> する。 参加者が前のカードを配置し終 5) カードをすべて配置したらゲーム終了。 わる前に次のカードを読み上げ る。 ふり返りをする。 工夫したことや気を付けたことをワークシートに書き,ゲームを 体験した感想を交流する。 - 46 - 避難所運営ゲーム「HUG」の体験 第八中学校 2 年生 避難所運営ゲーム HUG HUG は,避難所運営をみんなで考えるための ひとつのアプローチとして,静岡県が開発したも のです。避難者の年齢や性別,国籍やそれぞれ が抱える事情が書かれたカードを,避難所の体 育館や教室に見立てた平面図にどれだけ適切 に配置できるか,また避難所で起こる様々な出 来事にどう対応していくかを模擬体験するゲーム です。 避難所の様子(チャレンジ!防災48/総務省) 参加者は,このゲームを通して災害時要援護者への配慮をしながら部屋割りを考え,また炊き出し 場や仮設トイレの配置などの生活空間の確保,視察や取材対応といった出来事に対して,思いのまま に意見を出しあったり,話し合ったりしながらゲーム感覚で避難所の運営を学ぶことができます。 <準 備> 「避難所 HUG」 登録商標第 5308380 号 不許複製 平成19年に静岡県が開発した防災ゲームで,授産所製品として製造,販売されています。 参照:静岡県地震防災センター http://www.pref.shizuoka.jp/bousai/e-quakes/manabu/hinanjyo-hug/ - 47 - 8 災害図上訓練「DIG」 ★ 災害を想像する。「災害を知る」「まちを知る」「人を知る」 災害発生を想定し,自分たちの住む地域の防災対策における現状と課題について考え る。児童生徒の防災意識の向上を図るとともに,自分たちの生活のあり方や,地域の人と の関わり方について考える。(イ 危険予測・主体的な行動) 総合的な学習の時間(中学校) DIG(ディグ)は,参加者が地図を使って防災対策を検討する訓練です。地域で地震等の 大きな災害が起きた場合を想定し,参加者全員で対応を考えます。 Disaster(災害),Imagination(想像力),Game(ゲーム)の頭文字を取って命名されまし た。DIG という単語は「掘る」という意味を持つ英語の動詞でもあり,転じて,探求する,理 解するといった意味をもっています。このことから,DIG という言葉には,「災害を理解す る」「まちを探究する」「防災意識を掘り起こす」という意味も込められています。 学習の進め方 災害図上訓練「DIG」の説明 ・災害図上訓練「DIG」の概要を説明する。 □災害発生を具体的に想定する。 □地域の避難所や防災施設の位置を確認する。 □地図に書き込みを行い,地域の防災マップを完成させる。 □地域の防災上の課題について考える。 □参加者の防災意識と連帯感の向上を目指す。 被害状況の説明 ・参加者が被害の状況をイメージしやすいように,写真や映像を使い説明する。 例 「1月17日午前5時46分、高槻市で震度6強の地震が発生しました。」 ・自分と家族は無事です。 ・室内は家具などが倒れ散乱しています。 ・電気,水道,ガス,電話はストップしています。 ・火災の発生が予想されます。 ・自宅の周辺で倒壊している建物があります など。 - 48 - (チャレンジ!防災48/総務省) 学習の進め方 地図への書き込み ・地域の防災施設等にドットシールとペンで色分けして記入する。 ・土砂崩れ,河川氾濫,大規模火災,建物崩壊など,地域で起こりうる被害を書き加える。 地域の防災施設等 ■自宅 ■避難場所 ■コンビニエンスストア ■商店(スーパー) ■公共施設(警察・消防署・病院・公民館 など)■消火栓 ■ガソリンスタンド ■鉄道 ■幹線道路(緊急車両通行道) ■薬局 ■公園 第八中学校3年生(協力:安満自治会) 災害発生時「あなたなら,どうしますか。」 ・次の(1)~(3)について,各自が周りの人と相談せずに付箋紙に記入する。 (1)災害発生直後,あなたは何をしますか? (2)災害発生から3時間後,あなたは何をしていますか? (3)避難場所に行くときに,あなたは何を持っていきますか? 話し合い ・模造紙に,各参加者が書いた付箋紙の内容をグループで話し合いながら貼る。 ・なぜ,そう思ったのかを説明しながら,同じ意見の付箋紙は上に重ねていく。 成果の発表 ・地域の防災マップ作成を通して気づいたことや話し合った内容をグループごとに発表する。 ・全体のまとめとして,「災害伝言ダイヤル(171)の活用法」「避難時に持参すると役立つもの」など, 災害発生時の行動について助言する。 - 49 - 9 亡き母へのトランペット ★ 東日本大震災関連資料を使用した道徳の授業 辛いことや苦しいことから逃げず,それらを乗り越える力をもっていることを信じ,人間とし ての誇りや喜びをもって力強く生きていこうとする心情を養う。 (ウ 社会貢献,支援者の基盤) 道徳(中学校) 人間の弱さの克服,人間の気高さ,生きる喜び 内容項目3-(3) 東日本大震災による津波で母や祖母を亡くした高校生の佐々木瑠璃さんが,悲しい気持ちに区切り をつけようと,亡き母たちにトランペットを吹く。その後,東京で被災地支援慈善コンサートに出演した実 話をもとにした資料である。 自ら悲しみに区切りをつけようと決心し,たくさんの人に支えられていることに心から感謝する瑠璃さ んの生き方には,深い感動を覚える。そこで,瑠璃さんの辛く苦しい気持ちに共感するとともに,それら を乗り越えて人間としての誇りや喜びをもって力強く生きていくことの大切さを捉えさせたい。 学習内容・活動 教師の支援等 導 入 瑠璃さんが海に向かってトランペットを吹く写真を見 ・資料中の写真と合わせて東日本大震災 て,どんなことを感じたかを発表する。 の様子を話し合わせ,資料への関心を高 めさせる。 展 開 【中心発問】 「コンサートの演奏後,大きな拍手を聞きながら,瑠璃さ ・前向きに生きようとしている自分を多くの んはどんな思いを抱いただろうか。」 人が応援してくれる喜びを感じ,これから ・こんなに多くの人が自分を応援してくれているのか。 も力強く生きていこうと考える瑠璃さんの ・たくさんの人に迎えられて,私は幸せ者だ。 気持ちに気づかせたい。 ・これからも強く生きていきたい。 終 末 今日の授業の感想を書く。 参考資料 朝日新聞(2011 年 4 月 12 日,5 月 10 日,5 月 15 日) - 50 - し か し 、 母 は 来 な か っ た 。 瑠 璃 さ ん の 自 宅 は 海 岸 か ら 二 キ ロ 近 く 離 れ て い た の で 、 津 波 だ け だ っ た 。 ポ ケ ッ ト か ら 携 帯 電 話 を 取 り 出 す と 、 「 三 時 二 十 一 分 落 ち 着 い て 。 あ な た た っ 。 雪 瑠 ( 「 三 ( て 校 ( お よ 落 家 い が 璃 か ち 時 族 る 庭 母 ち さ っ 着 二 と の さ ら ん た い 十 の み 気 真 ん つ は 、 て 一 ん 分 ん 、 き 喜 お 。 分 な が 中 早 、 ん 母 あ 、 は 悪 に く 辺 だ さ な 携 人 来 り 。 ん た 帯 大 く の な な 丈 は は 電 は か い 大 そ 話 夫 っ 暗 た て か 丈 こ に だ く ま く な 夫 に 母 ろ る り な 。 ) 。 い の う ほ が り ) な 宣 か ど で 始 。 さ め 子 ) だ き い っ て 、 。 さ た い 家 」 ん 。 た 族 う 。 か が ず 目 ら 迎 メ く の え ー ま 前 に ル り の が き な 校 入 た が 舎 っ 生 ら は た 瑠 右 徒 。 璃 に が さ 左 次 ん に 々 は と に 思 揺 下 っ れ 校 た 動 し 。 き て 、 い 立 っ す ぐ に 遺 体 安 置 所 に 向 か っ た 。 遺 体 と な っ た 母 を 前 に 、 瑠 璃 さ ん は た だ 呆 然 と す る が 津 波 に の ま れ 、 水 没 し て し ま っ た と い う 。 直 後 に 、 避 難 し て き た 人 た ち の 世 話 を す る た め に 市 民 会 館 に 行 っ て い た 。 そ の 市 民 会 館 は 崩 れ 落 ち た 。 み ん な の あ と を 追 っ た 。 教 室 と い う 教 室 の 窓 ガ ラ ス は 音 を 立 て て 割 れ 、 廊 下 の 壁 や 天 井 ま だ 揺 れ る な か 、 み ん な は 楽 器 を 置 い て 一 斉 に 校 庭 に 走 っ た 。 瑠 璃 さ ん も 遅 れ ま い と 「 危 な い ! 外 に 出 よ う 。 」 直 後 に バ リ バ リ ー ッ と い う 音 を 立 て て 天 井 が 落 ち て き た 。 誰 か が 叫 ん だ 。 練 習 し て い た 仲 間 は 全 員 う ず く ま っ た 。 「 地 震 だ あ ! 。 」 さ お し 水 自 が 中 宅 親 そ れ 震 父 母 「 「 「 す 「 そ 母 ね 市 し た 災 は さ る ぇ み に の 戚 れ さ 役 て 。 か そ ん と 、 つ 投 二 宅 な そ 、 お き げ 階 で ら う が 所 ら ん の 父 母 、 の の い 言 待 五 屋 大 行 が さ 高 出 に 翌 い っ さ 日 っ る 台 方 は 上 丈 ぽ ん 日 て て 後 た が ず に 夫 が つ は に れ 、 い 、 た 、 母 だ 何 。 ま り 。 逃 と 二 た 父 、 母 の 十 だ だ と 」 れ い 階 の は の 。 」 人 っ わ 言 て う ま は 遺 て か っ 、 一 体 で 、 母 行 頭 私 か 命 。 ら た 達 と が そ の 方 が に 。 が な を 見 財 し す 取 メ 取 て る 左 つ 布 わ ー い り ん か か り 、 津 目 が ら 残 ル だ っ 止 必 波 に く が 包 さ た 。 な め 死 に 帯 れ れ 」 。 れ い に た 襲 き ま 母 て た の 浮 わ を の ま は い ん 巻 だ か 中 、 市 る だ い っ び れ か 数 と よ の た 上 、 た 家 父 ら 日 嘱 い 、 。 が に う そ 見 が 託 こ っ 何 の 情 つ 過 隆 職 て に か 報 い 、 か 道 ぎ 員 っ 目 が が な さ と た た の ぶ ん あ さ し と 。 前 つ る い て 、 に か だ 。 っ 働 市 っ て 浮 っ じ い た た の ゃ 。 か て 職 拍 。 あ 」 ん 子 聞 い 員 け で て 、 か そ い に ば 、 ら 窓 地 た の 父 知 中 畳 か は 震 ら に ら 、 に の - 51 - ド ド ー ン と い う 音 と と も に 校 舎 が 縦 に 横 に 激 し く 揺 れ た 。 に 着 い た 。 市 に 住 む 高 校 二 年 生 の 瑠 璃 さ ん は 、 学 校 で 所 属 す る 吹 奏 楽 部 の 練 習 中 だ っ た 。 突 然 、 親 戚 の 人 は そ う 言 う だ け だ っ た 。 そ の 後 は 互 い に 会 話 を 交 わ す こ と も な く 、 親 戚 の 家 千 年 に 一 度 と い わ れ る 大 地 震 と 巨 大 津 波 が 東 日 本 を 襲 っ た と き 、 岩 手 県 陸 前 高 田 「 家 に 着 い て 落 ち 着 い て か ら 話 す か ら 。 」 「 ね ぇ 、 お 父 さ ん は 。 」 D の 「 負 け な い で 」 を 力 い っ ぱ い 吹 い た 。 の 舞 台 に ト ラ ン ペ ッ ト を 手 に し て 立 つ の は 、 佐 々 木 瑠 璃 さ ん 。 そ し て 、 瑠 璃 さ ん は Z A R テ ィ で 開 催 さ れ た 被 災 地 支 援 慈 善 コ ン サ ー ト に は 、 千 五 百 人 の 聴 衆 が 集 ま っ て い た 。 そ そ う 考 え て い た 瑠 璃 さ ん は 、 一 瞬 胸 騒 ぎ が し た 。 ( お 母 さ ん は 市 役 所 で 仕 事 を し て い て 来 ら れ な い か ら 、 お 父 さ ん が 来 る は ず 。 ) 翌 日 の 昼 過 ぎ に な り 、 迎 え に 来 た の は 親 戚 の 人 だ っ た 。 平 成 二 十 三 年 ( 二 〇 一 一 年 ) 五 月 二 十 日 夜 七 時 、 東 京 都 新 宿 区 に あ る 東 京 オ ペ ラ シ 不 安 に か ら れ な が ら 、 体 育 館 で 一 夜 を 明 か し た 。 ( お 母 さ ん 、 聞 え ま す か 。 い ま 私 は 舞 台 の 上 に 立 っ て い ま す 。 ) ん は 大 丈 夫 だ ろ う か 。 ) ( お 母 さ ん は メ ー ル を く れ た か ら 大 丈 夫 。 で も 、 お じ い ち ゃ ん 、 お ば あ ち ゃ ん 、 お 父 さ 亡 き 母 へ の ト ラ ン ペ ッ ト を 知 っ た 。 は 届 か な い と 信 じ 切 っ て い た が 、 そ の 夜 、 ワ ン セ グ で 、 陸 前 高 田 市 が 壊 滅 状 態 で あ る こ と 偶 然 近 く を 歩 い て い た 新 聞 記 者 が ト ラ ン ペ ッ ト の 音 を 聞 き つ け た こ と か ら 、 瑠 璃 さ ん の 翌 日 の 新 聞 に 、 ト ラ ン ペ ッ ト を 手 に す る 瑠 璃 さ ん の 姿 が 写 真 で 紹 介 さ れ た 。 そ の 日 、 ま で も 鳴 り 響 い て い た 。 出 典 学 研 『 中 学 生 の 道 徳 か け が え の な い き み だ か ら 3 年 』 立 ち 尽 く す 瑠 璃 さ ん の ほ お を 、 涙 が 流 れ て 止 ま ら な か っ た 。 と ぎ れ と ぎ れ の 言 葉 は そ の 後 、 涙 で 言 葉 に な ら な か っ た 。 割 れ ん ば か り の 拍 手 が い つ に 背 中 を 押 し て い た だ き あ り が … … 」 ( お 母 さ ー ん 、 お ば あ ち ゃ ー ん 、 私 は 元 気 、 心 配 し な い で 。 ) 「 こ ん な に も 素 晴 ら し い 舞 台 に 立 て て 、 迎 え て い た だ け る な ん て 、 私 は 幸 せ 者 。 皆 さ ん れ て い っ た 。 顔 を 覆 っ て 号 泣 し た 。 が あ る 方 に 向 か っ て ト ラ ン ペ ッ ト を 力 い っ ぱ い 吹 い た 。 青 く 澄 ん だ 空 に 、 そ の 音 は 吸 い 込 ま 促 さ れ て 再 び 舞 台 に 上 が っ た 瑠 璃 さ ん は 、 さ ら に 大 き く な る 拍 手 に こ ら え 切 れ ず 、 こ れ で は 聞 か せ ら れ な い と 練 習 し た 。 そ し て 、 四 月 十 一 日 、 自 宅 の 跡 に 足 を 運 び 、 海 で な く 楽 団 員 全 員 が 拍 手 を し て い た 。 り に 吹 く ト ラ ン ペ ッ ト の 音 色 は ひ ど い も の だ っ た 。 で 一 礼 し て 舞 台 を 降 り た 。 し か し 、 聴 衆 の 拍 手 は 鳴 り や ま な か っ た 。 見 れ ば 、 聴 衆 だ け 瑠 璃 さ ん は 、 自 転 車 で 往 復 三 時 間 か け て 学 校 へ ト ラ ン ペ ッ ト を 取 り に 行 っ た 。 久 し ぶ た が 、 ト ラ ン ペ ッ ト の 音 は 会 場 い っ ぱ い に 響 き 渡 っ た 。 演 奏 を 終 え る と 、 瑠 璃 さ ん は 笑 顔 宝 物 で あ る 。 い よ い よ コ ン サ ー ト の 日 が や っ て き た 。 瑠 璃 さ ん は 、 途 中 何 度 も 流 れ 落 ち る 涙 を ぬ ぐ っ ラ ン ペ ッ ト 。 瑠 璃 さ ん の ト ラ ン ペ ッ ト は 、 祖 母 が 「 ず っ と 続 け て ね 。 」 と 言 っ て 買 っ て く れ た か せ る こ と を 思 い 立 っ た 。 母 が 好 き だ っ た 曲 だ 。 小 学 校 四 年 生 の と き か ら 続 け て い る ト そ う 思 う と 心 が 決 ま っ た 。 母 の 葬 儀 を 機 に 気 持 ち に 区 切 り を つ け よ う と 、 Z A R D の 「 負 け な い で 」 を 亡 き 母 に 聴 ん て … … 。 こ の 依 頼 は お 母 さ ん た ち が 用 意 し て く れ た 舞 台 な の か も し れ な い 。 ) ( 亡 く な っ た 幼 な じ み が い る 、 両 親 を 亡 く し 転 校 し た 友 人 が い る 。 そ れ に 比 べ れ ば 私 な こ の 震 災 で 瑠 璃 さ ん は 、 母 と 祖 父 母 、 そ し て 叔 母 、 従 兄 弟 を 亡 く し た 。 母 の 火 葬 が 終 わ っ た の は 、 三 月 二 十 九 日 。 「 瑠 璃 、 昼 間 で も い い 、 少 し で も 寝 な い と だ め だ ぞ 。 体 が 参 っ ち ゃ う ぞ 。 」 瑠 璃 さ ん は 母 の 遺 影 に 向 か っ て 手 を 合 わ せ た 。 「 う ー ん 、 す ご い じ ゃ な い か 。 お 母 さ ん に 聞 い て み た ら ど う … … 。 」 「 ね え 、 お 父 さ ん 、 私 に 出 演 依 頼 が き た の 。 ど う し よ う 。 」 - 52 - っ た 。 そ ん な 姿 を 見 て 、 父 が 心 配 そ う に 言 っ た 。 瑠 璃 さ ん は 依 頼 書 を 手 に 悩 ん だ 。 そ の 後 も 寝 つ か れ な い 日 が 何 日 も 何 日 も 続 き 、 出 さ れ た 食 事 を 半 分 も 残 す 有 り 様 だ し ょ に 演 奏 で き る な ん て 夢 の よ う な こ と 。 ) ま っ た の よ お 、 お 母 さ ん 。 ) で は さ き 上 ( 夜 ね た 手 れ た ぇ 。 だ 。 、 布 、 っ さ 団 お た さ に 母 ね い 潜 さ と な る ん い こ と 、 つ と 、 私 も で 涙 、 言 口 が こ っ げ と れ て か く ん め ら れ か ど ど な た し う く こ た や 流 と こ っ 。 と れ て 、 母 家 た 生 の 。 き 姿 族 母 て で と が い 消 キ 過 っ ャ た え ン ご ら る プ し い こ に た い と 行 日 の な っ 々 、 く た が 教 次 こ 次 え か と か て ら 、 。 演 ら 何 次 奏 次 で へ と 会 へ と 死 う に 思 ん か 来 い で ん て 出 し ( 東 京 フ ィ ル ハ ー モ ニ ー と い え ば 日 本 を 代 表 す る 交 響 楽 団 。 そ の 交 響 楽 団 の 奏 者 と い っ 瑠 璃 さ ん は 驚 い た 。 ま せ ん か 。 」 と 書 か れ て い た 。 依 頼 書 は す ぐ に 瑠 璃 さ ん の も と に 届 け ら れ た 。 そ こ に は 、 「 私 た ち と い っ し ょ に 演 奏 し 安 藤 さ ん は 新 聞 社 を 通 し て 、 早 速 瑠 璃 さ ん に 出 演 依 頼 書 を 送 っ た 。 人 間 は 決 し て 一 人 じ ゃ な い 。 何 か の き っ か け に し て ほ し い 。 」 井 を 見 つ め る 日 が 続 い た 。 「 目 頭 を 押 さ え ト ラ ン ペ ッ ト を 持 つ あ の 写 真 か ら 、 悲 し い 音 が 聞 え て く る よ う で し た 。 予 定 さ れ て い た 被 災 地 支 援 慈 善 コ ン サ ー ト 「 故 郷 」 の 呼 び か け 人 の 一 人 で あ っ た 。 そ れ か ら と い う も の 、 瑠 璃 さ ん は 、 現 実 を 受 け 入 れ る こ と が で き ず 、 空 っ ぽ の 心 で 天 ッ ト 奏 者 、 安 藤 友 樹 さ ん の 目 に と ま っ た 。 安 藤 さ ん は 宮 城 県 出 身 で あ り 、 五 月 二 十 日 に は そ こ に い な さ い 。 」 と い う メ ー ル の 文 字 が 涙 で か す ん だ 。 姿 を 写 真 に と っ た の だ っ た 。 そ し て そ の 写 真 が 、 東 京 フ ィ ル ハ ー モ ニ ー 交 響 楽 団 の ト ラ ン ペ 10.地域が実施する防災訓練に参加 ★ 将来の防災リーダーを育てる 自主防災訓練への参加を通して,将来,地域を担うべき児童生徒が,災害時に「自分に できる役割」を考え,適切に行動できる力を育てる。 災害によって被災した場合には,地域の方々と協力して避難生活を送ることになります。そのため,地 域の実施する避難訓練への参加を促し,小さい頃から地域の一員であることの自覚をもてるようにするこ とが大切です。 防災訓練のプログラム<例> 9 時 00 分 サイレン及び有線放送の合図 9 時 30 分 学校グランドに集合 煙体験ハウス 火災時に発生する煙 の危険性を学びます。 ・参加人員の集計を発表 ・訓練内容と注意事項の説明 10 時 00 分 訓練開始 バケツリレー 避難者名簿の作成 火災や水害の発生を 10 時 15 分 煙体験ハウスの体験 10 時 30 分 バケツリレーによる消火訓練 10 時 45 分 消火器の取り扱いの説明と消火訓練 想定し,災害時の初 期対処法を学びます。 起震車体験 11 時 00 分 救命救助法 救命救助法 ・心肺蘇生法 AEDの使い方や, ・自動体外式除細動器(AED) 心肺蘇生法を学び ・三角巾の使用方法 ます。 11 時 15 分 倒壊家屋からの救出訓練 11 時 30 分 放水訓練 炊き出し訓練 非常食炊き出し訓練 地域の方と一緒に, 12 時 00 分 炊き出しの非常食の試食 非常食(アルファ米) 12 時 30 分 訓練終了 の作り方を学びます。 自主防災組織は,自治会や地区コミュニティなどが中心となって結成される,地域の防災力を高めるため の活動を行う団体です。「自分の身は自分で守る」という自助,「自分たちの地域は自分たちで守る」という 共助の意識を高め,日頃から地域で防災訓練などを積極的に実施されています。 - 53 - 地域が実施する防災訓練に参加 磐手小学校,第八中学校(協力:安満自治会,消防団安満班,消防協力会) 阪神・淡路大震災や東日本大震災では,普段から地域住民と連携している学校においては避難所と しての運営が円滑に行われたという事例があります。 防災教育においては,地域の絆づくりという視点が大切です。 - 54 - Ⅳ 防災シンポジウムの記録 1 市長挨拶 2 基調講演 3 防災教育研究委嘱校の実践報告 4 岩手県大槌町被災地訪問の報告 5 パネルディスカッション - 55 - - 56 - 防災シンポジウム を守り抜くために ‐未来のまちづくりを担う子どもたちの育成‐ 日 時 : 平成 27 年 2 月 1 日(日)午後 2 時 30 分~午後 4 時 30 分 場 所 : 高槻現代劇場 大ホール 【第1部】基調講演 河田 惠昭 (関西大学 社会安全学部 教授) 【第2部】実践報告・パネルディスカッション 研究委嘱校実践報告 服部 毅 (第八中学校 首席) 大槌町視察訪問報告 福田 幸平 (第八中学校 2 年) 岡安 信太朗(第八中学校 2 年) 大西 風和 (磐手小学校 6 年) 横田 直哉 (磐手小学校 6 年) 市原 千智 (奥坂小学校 6 年) パネルディスカッション ・コーディネーター 河田 惠昭 (関西大学 社会安全学部 教授) ・パネリスト 濱田 剛史 (高槻市長) 吉田 義明 (磐手地区コミュニティ協議会 副会長) 上道 小太郎 (第八中学校 校長) 福田 美幸 (奥坂小学校 6 年) - 57 - 濱田市長 皆さん,こんにちは。高槻市長の濱田剛史です。 挨拶 東日本大震災の際には,想定された避難場所が危険である 防災シンポジウムの開催にあたりまして,一言ごあいさつ申し と児童生徒自らが判断し,安全な場所に自主的に避難して津 上げます。 波による危険を回避した事例がありました。 本日は,防災シンポジウムに,このように多数の皆様方にご 本シンポジウムでは,「命を守り抜くために-未来のまちづく りを担う子どもたちの育成-」と題しまして,関西大学社会安全 来場いただき,誠にありがとうございます。 学部の河田教授による基調講演と,研究委嘱校の実践報告, さて,今年は,阪神・淡路大震災から20年となり,各地での そして,地域・行政・学校の代表が参加するパネルディスカッシ 取組がテレビや新聞でも大きく取り上げられています。震災の ョンを実施いたします。 記憶が薄れる中,改めて,災害への備えについて考える機会 本日の防災シンポジウムを契機といたしまして,学校・家庭・地 も多くなっております。 域と協働した,さらなる防災対策の推進に努めてまいる所存で 本市におきましても,「ともに支え合う安全・安心のまち」の実 す。 現に向け,地区コミュニティにおける「地区防災会」の結成と継 結びになりますが,本日ご来場いただきました皆様方の,ま 続した市民防災活動の支援,学校における防災教育の充実を すますのご活躍とご多幸をご祈念申し上げますとともに,本市 の「安全・安心のまちづくり」に向けた取り組みに対して,今後と 新たに今年度の重点施策に加えております。 も皆様方のなお一層のご理解とご協力をお願い申し上げまし 防災教育研究委嘱校として研究実践を進めていただいてい て,開会にあたりましての挨拶とさせていただきます。 る第八中学校区には,子どもたちが「自助」の力だけではなく, 本日はどうぞよろしくお願い申し上げます。 安全で,安心な社会づくりに貢献する「共助」の力を育てていく 防災教育について研究していただいております。 58 基調講演 命を守り抜くために けないということですね。 自然と人間は,知恵比べをしている。自然は,人間社会の弱 い部分を攻めてくる。だから,どこが弱いかわからないと対応の ‐未来のまちづくりを担う子どもたちの育成‐ しようがない。 例えば,高槻でも山のほうの古い分譲住宅は,空き家が目 立っています。高齢化が進んで,子ども達は就職で東京に行 ってしまって,おじいちゃんとおばあちゃんだけ残った。そして, おじいちゃんが亡くなって,おばあちゃん一人で住んでいる。 そして,おばあちゃんが認知症になったので,特別養護老人ホ ームに入る。そうすると,そのおうちが空き家になっている。高 槻でも古い分譲住宅地では,とても空き家が目立つようになっ てきています。 これは実は危ないですね。なぜかというと,家というのは,人 日頃やっていることしか出来ない が住まないととても痛みが激しいのです。ですから,地震が起 東日本大震災の教訓は,「日頃やっていることしか出来ない。 あるいは,日頃やっていないことは,失敗する」ということであり これば潰れやすいとか,あるいは犯罪が起こりやすいとか。街 に人が少なくなってくると犯罪が増えるということが起きます。高 ます。 槻の駅前はどんどん高層マンションが建って,人が住むように 毎日の生活の送り方が,災害が起こったとたんに問題になり なっていますが,周辺は実は高齢化が進んで人が少なくなっ ます。例えば朝,大阪に勤務しているお父さん,今日一日の計 てきている。こういう格差が実は出てきている。これは,災害が 画を言わずに出たら,帰ってくるまでどこにいるかわからない。 起こるととても被害が大きくなるパターンであります。したがって, これでは,地震が起こったときに安否確認できないのです。で どこが弱いか想像する能力が要ります。 すから,今日の予定がどうだということを家族全員がみんな知 防災とか減災とか事故防止っていうのは,最終的には人を っている。小学校6年生のお嬢ちゃんは,学校から帰ってきた 相手の問題解決ですから非常に広い知識が要ります。リベラ ら塾へ行く。塾で8時頃まで勉強して,地下鉄に乗って帰って ルアーツと言いますが,専門的な知識だけでは解決できない きて,梅田から阪急で帰る。このようなことがわかっていないと, っていう特徴があります。 地震が起こって電車が動かなくなったとたんに,安否確認しな わたくしども社会安全学部で学生を教育するときには,いろ いと危ないっていうことになるのです。 いろなことを実は教えています。決して,専門的なことだけわか つまり,日常生活の延長上で災害に備えないと,起こったと っていればいいのではありません。もっと言いますと,今,社会 たんに,日頃やっていることしか出来ない。日頃やっていない の常識というものがどんどんなくなっている。そういう時代にな ことは,失敗するということです。 ってきました。ですから,常識はずれの人が増えているっていう ことですね。これは,とても危険です。 災害に立ち向かう そういうことで,災害に立ち向かう,負けてはいけないという 学校教育もわざわざそのためのものでなくて,教育の中に防 基本的な姿勢がいるということです。 災,あるいは事故防止,こういったものが入っていなければい 59 わが国の長期的な災害発生傾向 で一番困るのは,ご承知のように首都直下地震とかあるいは西 では,わが国の長期的な災害発生傾向はどうかというと,残 日本全域が大きな被害を受ける南海トラフの巨大地震が起こる 念ながらこれからもどんどん災害が起こるということです。 と東日本大震災被害の十倍ぐらいです。こうなると,国がひっく ご承知のように,地球の温暖化が進んでいます。これは炭酸 り返ってしまうのです。ご承知のように,日本政府は,1000 兆円 ガスを中心とした温室効果ガスが相変わらずどんどん出ている の借金を抱えているのです。それでもなお国債が安定している からであります。特に一番出しているのが中国です。 のは,日本は先進国で安定しているということがあるからです。 なぜ中国で温室効果ガスがこんなに出るかと言うと,石炭が だから,たんす貯金,銀行とか保険会社が国債をどんどん買っ 安いからです。だから,冬の暖房は石炭でやっているのです。 ている。災害が起こった途端,だれも買わなくなってしまう。す ですから,どんどん CO2 が出てくる。では,なぜ石油を使わな なわち,復興基金は集まらないのです。つまり,復興できないと いのかというと,コストが高くなる。経済競争力が落ちる。インド いうことですね。そういう意味では,東日本大震災の復興は 10 もそうです。だから減らすべきでありますが,もともと温室効果ガ 年では終わりません。日本の経済成長率からいくと 20 年はか スを一番出したのは,アメリカ合衆国です。日本も出しました。 かります。2008 年に隣の中国で四川大震災が起こりました。 ソ連も出しました。 87000 人が亡くなったのですが,3 年で復興が終わりました。ご でも今となっては,先行する先進国が利益を一手に取ってし 承知のように,当時の中国の経済成長率は 10%を越えていた まって,後から対策をするのは途上国だっていうのは割に合わ のです。だからお金があって早く終わったのです。日本は,東 ないというので,なかなか国際協調はうまくいきません。そう言 北の東日本大震災の復興は,やっと本格化しようとしている。 っている間にどんどん地球の温暖化が進んで台風の大型化, 遅々として進んでいない。何故か。お金がないのです。だから 総雨量の増加が起こっている。 進まないのです。阪神大震災の後,被災者生活再建支援法と 例えば,2 年前の 11 月フィリピンに上陸した台風 30 号は, いう法律が出来ました。今はどうなっているかというと,年齢制 上陸時の中心気圧が 895hPa でした。日本記録は,1934 年, 限,所得制限なしに 1 世帯あたり全壊家屋に 300 万円出ること 大阪に上陸した室戸台風 911hPa です。もし 895hPa なんていう になっています。これは,150 万円は都道府県が作った基金か 台風が大阪とか東京にやってくると,満潮の海面より下をゼロメ ら出ます。150 万円は政府が出す。ところが,東日本大震災が ートル地帯と言いますが,全部水没する。守りようがないので 起こる前に,都道府県が出している1軒当たり 150 万円の基金 す。 がなくなってしまいました。 わが国は,そういうことが起こらないと対策をやらない国にな ですから東日本大震災では,政府が特例を設けて全部政府 っています。1959 年に伊勢湾台風が起こって 5098 人亡くなり が立て替えているのです。 ました。その時に,災害対策基本法という法律が出来たのです。 1961 年というのは,日本がまだまだ貧しい国でした。ですから こんな状態で,首都直下地震とか南海トラフ巨大地震が起こ ると,300 万円支払えないっていうことが起こるのです。 この法律は,「二度と被害を出さない」という法律です。お金の 風水害の激化傾向 ない時代にあっては,災害が一度起こると,繰り返さない。こう いうかたちで,お金を大切に使う。理にかなったやり方です。し 地球温暖化による風水害の激化傾向というのは,台風の大 かし,この考え方を言い換えると,被害が発生しないかぎりやら 型化,あるいは雨が降ればものすごく降るのです。今,日本記 ないっていうことです。被害が起こって初めて対策をやる。それ 録は,2011 年 9 月の台風 12 号で,紀伊半島中央部,大台ケ 60 原というところで,1808.5mm降りました。1.8m降ったのです。 できます。情報だけでなく,音楽を聞いている方,あるいはゲ でも台湾では大きな台風が上陸すると 3000mm,3m降っている ームしている方,四六時中スマホとにらめっこしている人がいっ のです。なぜ日本で 1800mmで,台湾で 3000mmか。原因は ぱいいるじゃないですか。だけど,災害の情報なんて絶対に取 台湾の周辺海面水温が 2 度日本より高いのです。ということは, りにいかないのです。自分が望まない。そして,大雨が降ると, いずれ日本の周辺海域の水面温度も,台湾並みに地球の温 大阪府がエリアメールを出すのですが,これがまた馬鹿げてい 暖化が進むと 2 度高くなる,3000mm降るということです。 て,府下に出た警報を全部出すものですから,高槻に何が起 わたしたち高槻に来てびっくりしたのは,しょっちゅう雨が降 こっているかは,メールを全部見なきゃわからない。行政は,出 るのですね,山の方から。ちょっと雲が出てくると雨が降る。わ せばいいと思っているんですね。高槻に出ているかどうかは, たし,大阪から通っているのですが,大阪が晴れているのに, メールを片っ端からチェックしないとわからない。 高槻の駅降りたら雨降っているっていうのが,結構あるのです。 だから,エリアメールってとても有効なのに,まだまだ使い方 ここは,雨が降りやすいところであることは,間違いないと思い はアマチュアだっていうことですね。 ます。 ですけど,大阪は高潮の経験があるので,これから起こらな それがどんどん降るようになる。ですから高槻でもゲリラ豪雨 いっていう保証はない。準備しなければいけない。それから南 によって駅前が浸水するとかいう,大規模な浸水は起こってい 海トラフの地震,首都直下地震,あるいは大阪にも上町断層帯 ませんが,その端緒を示すような現象は,最近しばしば起こる という活断層があります。マグニチュード 7.6 です。こんなものが ようになりました。 動いたら大阪が壊滅します。死者 42000 人。みんなそんなこと 集中豪雨,ゲリラ豪雨もこれから頻発するでしょう。そして, 起こらないと思っている。ですから他人ごとになっている。 実は日本は今,災害で起こっていないのは,高潮だけです。で 地震・火山噴火活動の活発化 も大阪は,1934 年の室戸台風で 2000 人が亡くなりました。それ から戦後,昭和 25 年(1950 年)にジェーン台風,昭和 36 年 でも9月27日に,木曽の御嶽山が噴火したではないですか。 (1961 年)の第二室戸台風で,大きな高潮,氾濫災害を被って あれは前,1979 年に噴火しているのです。もう 40 年近く噴火し います。ですから大阪の地下鉄出入り口は,道路から 70 セン てないからみんな忘れていたのです。そうしたらよりによって, チまでの高潮の浸水は,地下に入らないようになっています。 一年で一番登山客の多いときに噴火したのです。9月 27 日は 全部の駅がそうなっています。しかし,南海トラフの地震が,マ 土曜日です。そして全山紅葉。頂上付近には 250 人いました。 グニチュード9で起きますと,JR 大阪駅前で津波の深さが2m 快晴無風で,頂上付近でご飯食べよう,お昼ご飯食べよう,そ になります。北の地下街は水没します。それがイメージできな う言っている 11 時 52 分に噴火しました。あれが夜中だったらだ いと,十分避難する時間があるにもかかわらず,地下で水没し れも死んでないのです。今の冬山のときだとほとんど登ってい て溺れ死ぬっていうことになるのです。 ないですからだれも亡くならない。つまり,一番起こってほしく 大阪の人って高をくくるんですね。「そんなんうそや」って言う ないときに噴火が起こった。ですからこの教訓は,首都直下地 んですよ。起こってみないとわからないじゃ困る。命っていうの 震が東京オリンピックの最中に起こるということも考えておかな がなくなってからしまったと思ってもダメですね。ですけど,なか ければいけないっていうことです。 なかそういう情報を共有化しない。みなさん,スマホを持ってお 特に東京オリンピックは,7 月の下旬から 8 月の下旬までやり られるでしょう。スマホでとても情報が簡単に手に入れることが ます。オリンピックとパラリンピック。この季節は台風シーズンで 61 はないですか。超大型の台風が東京湾に上陸するということも 日本の防災は,一度被害が起こると二度と繰り返さないとい 考えておかなければならないということです。それが教訓です。 う形です。ですから地下街の安全性は,火災とガス爆発だけで その教訓を無視することは簡単です。そんなものが起こるか。 す。グランフロント大阪へ行くと,大きな池が口を地上に向けて でも起こった途端にそう言っておられる方が犠牲になるってい 開けていますが,あんなものは作ったらいけないのです。あそ うことです。 こから水が入ったら,北の地下街は,総面積 15 万平方メートル あるのです。世界一です。名前は,ディアモールとか三番街と 災害に対してもろくなっている社会 か,そういう名前が付いているけど,全部つながってるでしょう。 そして,これから災害が頻発しようとしているときに,わたした 15 万平方メートルって,床から天井まで 5mと考えても 75 万 ちの社会は災害にどんどんもろくなってきている。なぜか。高 立方メートルですよ,たった。南海地震の津波が 4mで来て,上 齢者が増えている。高齢者は判断力が鈍っている。残念ながら 1mが堤防を越えるとして,一波だけで大阪市内に 1 億 8 千万 体力だけではない。高速道路を逆走する 70%が高齢者です。 立方メートル入るのです。地下鉄全部入れて,地下街も入れて ですから警察庁は,これから交通標識を高齢者にもわかりやす 1500 万立方メートルです。ということは,あっという間に水没す いように変えなきゃいけないと言っています。あるいは,振り込 るのです。あっちから水が入ってきたら,こっちから逃げたらい め詐欺。確かに高齢者しかお金持っていないですよ。若い人 いのではないですよ。あらゆる出入り口から水が入る。まして, が 300 万円も 400 万円も持っていない。お金持っているのは高 阪急,大丸,阪神の各百貨店で一階に水が入ったら,エスカレ 齢者。だから振り込め詐欺の犠牲者は,ほとんどが高齢者です。 ーターとか階段伝って,地下に水が来る。ガラス戸一枚で,地 でもこんなこと,守ろうと思ったら簡単です。誰かに相談したら, 下鉄御堂筋線,谷町線とつながっている。だから地下街は,単 すぐ詐欺だってわかるのです。自分ひとりで判断するから,相 に階段から水が落ちてくるだけではない。道路からつながって 手はプロですからやられてしまうのです。だから変な電話かか いる階段から落ちてくるだけじゃなくて,百貨店の一階から水 ってきたら,おかしいと思ったら言ってくださいね。大阪弁でい が入る。あるいは,銀行の一階のロビーから水が入って地下か いですよ。「あんたそれほんまか」って。相手,びっくりして切っ ら水が出てくるって。止めようがないのです。そんなこと起こっ てしまうのです。 たことがないから対策がゼロです。ゼロということは,自分で判 相手はプロですから,「お宅の息子さん実は東京で交通事 断しなけりゃいけないっていうことです。たかをくくって,立って 故を起こした。今警察にいるけれども,わたし弁護士だけど,今 おれない揺れが1分以上続いているのに,「だいじょうぶだよ」 お金をこれだけ送っていただいたら,何とか起訴されずに済み と地下街でうろうろしていたらやられるということですね。 そうだ」という。お父さん,お母さんびっくりするじゃないですか。 でも,残念ながらそんなこと大阪市も大阪府も言わないので 特に一人息子が東京で頑張っていて,全然連絡もしないのが, すよ。なぜかというと,今,大阪都構想でしょう。地下鉄の民営 突然そんな電話がかかってきたらびっくりしてしまいますよね。 化,水道の民営化,儲かることしか言わない。 それに乗じて振り込め詐欺はどんどん。昨年だけで550億円 人々が本当に必要な情報をみんなに出すっていうことを政 取られたのですよ。 治家はやらなくてはいけない。自分の票につながらない事はや それから,高度経済成長で被害が多様化している。地下街 らないっていう,そういうふうになってしまっている。ですから, に水が入るなんていうことは,本格的には日本で起こってない 大阪は非常に危ない。世界で一番危ない都市は,大阪市で んです。 す。 62 防災教育の原点 よ。だから,大阪も京都も全く防災には関心がないという社会に わたしどもは,専門家ですからわかっているのですが,なか なってしまった。そしてすでに,神戸では災害が起こったら,近 なか住民には理解できない。そして,20 年前に阪神大震災が 所づきあい,つながりがとても大事だと。 起きました。大きな反省がありました。やっていた研究ほとんど 阪神・淡路大震災のあと被災地では犯罪が減ったのです。 役に立っていなかった。難しすぎてだれも使えなかったのです。 犯罪だけじゃありません。放火が減りました。それだけ地域の われわれは,世界に通用する英文ジャーナルに投稿できるか 人が地域のことを考え始めたっていうことです。ですから神戸 どうかで,助教が准教授になり,准教授が教授になる。だけど は,震災前に比べると犯罪も減り放火も減るっていう,住民が 起こった途端に5500人の方が亡くなって,大学でやってきた 自分たちの街づくりを自分たちがやるっていう社会になってき 研究成果がほとんど使われていない。難しすぎて使えないの ました。今調べても,参画意識は神戸あるいは西宮,芦屋は全 ですね。そういう反省があって,それ以降,実践的研究に入れ 国に比べると 10%以上高いのです。みんな人ごとでない。だか 替えました。ですから,社会安全学部でやっている研究は,実 ら行政に任せておいたらいいんじゃなくて,福祉とかそういう問 践的研究です。学校教育に役に立つ,あるいは,高槻の市役 題は,住民が手を出さないと出来ないのです。そこのところは, 所でも使っていただけるような成果を出すというかたちで,でき 神戸が,あるいは阪神・淡路大震災の十市十町は,とてもうまく るだけ安全安心な社会にしなければいけないっていうことです。 いっている。みんな人ごとでないって思っていただいているっ ですけど,大学は,それでは評価してくれないのです。科学的 てことなのですね。 にレベルが高いかどうかっていう,そういう基準が未だに,実は 防災教育の偏った展開 横行しているということですね。そんなものは,急には変えられ ませんが,でも除々にそれを変えていく努力はやっています。 そして,防災教育も阪神大震災から始まりました。当初は, ですから,阪神大震災の時に,人と防災未来センターを 121 億 ゲームを作ったり,教材作ったり,ビデオを作ったり。ハウツーも 円で政府と兵庫県が作ってくれました。これがあったおかげで, のばかりやっていたんですね。でも本当は,命が尊くて生きて 1.17,あの日だけでなくて,前後長い期間にわたって,メディア いくことが大切だっていうのが,防災教育の基本です。これは, がテレビあるいは新聞を通して阪神・淡路大震災のことを伝え 防災教育だけではありません。交通安全教育もそうです。でも てくれました。 交通安全教育って失敗しているではないですか。高等学校卒 1年以上かかって,メディアの若いディレクターとか若い新聞 業して無免許で車を運転して登校する小学生の列に突っ込む 記者に 4 回にわたって,毎回 6 時間ずつ阪神・淡路大震災は, という,こんなこと起こっているということは,小学校,中学校, どういう災害であったかという学習会を設けました。そうしないと 高等学校で教えている交通安全教育は,自分が被害者になら 1 月 17 日だけが伝えられて,1 月 18 日からは,何の記事も何 ない教育をやっているんです。交差点をどう渡るかなどです。と のニュースも載らない。原爆の日がそうでしょう。突然 8 月 6 日 ころが卒業したとたんに,無免許で運転するっていう。こんなこ に広島が脚光を浴びて翌日からゼロです。こんなことになった とが全国で起こっているっていうことは,交通安全教育はいっ らだめです。ですからその努力をしました。 たいなんだって。これは,命が尊い,あるいは生きていくことが 兵庫県も一生懸命努力をしていますから,伝える,備える, 大切だということを基本的に教えてないから,警察がやってき 生かすということで県民運動につながっている。 て校庭に白線引いて,手を挙げて交差点渡りましょう。そんな 大阪はだめですよ。大阪都構想なんて何の関係もないです ハウツーものばかりやっていても,命が尊いなんていう教育は 63 できないわけです。 小学校,中学校ではいろいろな勉強をしているから,兵庫県 の小中学生は,いろいろなことを知っていて賢いですよ。 「副読本」の利用 文科省の学習指導要領は,最低限のことしか書いてない。 阪神大震災が起こって,兵庫県は副読本を作りました。こん ですから,そのあとの工夫は自治体でやっていただく必要があ な本格的にやっているのは,兵庫県以外にありません。大阪府 るのです。防災教育は推進すべきだと思っている。中央教育 もやりたいそうですがお金がないそうです。副読本できないで 審議会でもやっている。でも,決まるまでに時間がかかるんで す。県立高校に環境防災科ができました。あるいは2年先に, す。決まるまでに何もやらなくていいのかというと,それはやら 兵庫県立大学で防災教育の大学院を作る。こんなことをやろう なくてはならない。 としているのは,兵庫県だけです。そしてこのように副読本を作 防災教育は,本格的に始まってもその効果が発揮されるま りました。小学校低学年,高学年,中学校,高等学校用の4冊 でには,さらに長い年月が必要です。 作りました。作るの大変でした。学校の先生に全面的に協力い あの釜石の奇跡を起こした,釜石の子ども達が,成人になっ ただいて,わたし委員長で作ったのですが,小学校,中学校は, て,家族を持って,自分の子どもが生まれて,その子どもにお 全部学校に備え付けてあるんです。それを使って勉強する。実 父さん,お母さんはこうだったと,そこまでかかるのです。防災 は,小学校中学校,兵庫県の公立小中学校は,95%くらい使 教育の効果は,直ちに出てくる特効薬ではありません。その子 っていただいているんです。ところが,高等学校に行くと普及 どもが大人になって,そして社会人になって,家庭を持って自 が 9.8%です。高等学校は,この副読本を使ってやってないの 分の子どもにそれを教えることが出来て,初めて防災教育は完 です。ホームルームの時間は,何をしているかというと受験勉 結するっていう長丁場の仕事になっている。 強させているんです。高校の教師というのは,物理とか化学と この 15 年中央防災会議の専門委員でいろいろやってまいり か担当ごとにいて,それがクラスの担任をしている。そうすると, ました。防災教育も議論しました。民主党政権の時代に防災対 例えば東日本大震災でどれぐらいの人が犠牲になったなんか 策検討推進会議があって,「ゆるぎない日本の再構築を目指し については,ホームルームで話題にしない。 て」という報告書に,災害文化の継承発展。これは防災教育で 2012 年の入学試験で,推薦入学で 85 人,関西大学社会安 す。ですから,この報告書には,「命の尊さ,生きていくことの大 全学部に来たんです。面接のときに,全員に東日本大震災で 切さをやってください。自ら判断,決断し,行動する力を備える どれぐらいの人が犠牲になったと聞いたら,85 人中,「およそ1 ような教育をやってほしい。学習を家庭,学校,地域,職場等 万人から2万人」と答えたのは,一人ですよ。ひどいのは,60 人 においてやるべきだ」という答申を出しました。これを自由民主 から 200 万人まで。ということは,学校で東日本大震災のことを 党政権になってからも踏襲して,一昨年とその前の年のそれぞ 話題にしていないっていうことでしょう。それが高等学校の実態 れ 6 月に災害対策基本法が改正されて,防災教育をやらなけ です。もちろん,教科はちゃんと教えていただかないといけな ればいけないということになりました。そして,賢くなった。 いですが,せめて東日本大震災のことを生徒たちと一緒に先 イギリスやハワイの例 生がしゃべることをなぜやらないんだ。兵庫県も高等学校だけ は,防災教育はどうしようもないね。研修会なんかで言うのです でも避難勧告が出ても1%しか逃げない社会になってしまっ けど,私立の有名な受験校があるから,余計に公立高校では た。なぜそうなったのか。 チャレンジする熱が少ないのでしょうね。 例えば,イギリスで,朝 5 時ごろにホテルで非常ベルがなりま 64 した。なんのアナウンスメントもなかったですが,宿泊客は黙っ 全壊したので,自分は被災者だと避難所でじっとしていたので て全員階段を下りて,玄関前ポーチに集まりました。188 人いま す。これが動くのがボランティアです。 した。中には,若い女性で,バスタオル1枚の人が 2 人いました。 日本は,欧米からシステムを入れるときに手前勝手に判断し つまり,非常ベルがなるっていうことは,とても危ないということ てしまう。ボランティアセンター作らなかったら,ボランティアが が共通認識なのです。 動かないって,そうではないでしょう。隣近所のために働くのが 日本では,旅館とかホテルで夜中非常ベルがなって火災が ボランティアです。 起こると,犠牲になる方が出てしまうのです。なぜか。みんな間 阪神大震災は,周りから入ることが出来ました。でも,南海ト 違いだと思ってしまうのです。だから避難が遅れるのです。 ラフ巨大地震が起こったら高知県なんかは全体が孤立するか アメリカ,ハワイでは避難命令が出るとワイキキの超高層ホテ ら中に入れないのです。ボランティアは待てど暮らせど来ない ルに泊まっていても,全員ボンネットバスに乗って高台に連れ ですよ。じゃあ,ゼロかっていうとそうではないですよ。全員が て行かれるのです。「ホテルの30階なんて津波は来ないじゃな 死ぬわけではないです。今のところ,5 万 5 千人亡くなるといっ いか」ということは,理由にならないのです。停電して水が運べ たって,人口 70 何万人かいるのですから,全員が死ぬわけじ ない。エレベータが動かなくなったら,そんなところで長いこと ゃない。生き残った人が被災者のために動く。これがボランティ いれないのだから全員避難させられる。 アです。 日本は何か導入するときに,ちょっと入れ替えるってことをや 考えなければいけないこと っています。だからボランティア,ボランティアといっても,ヨーロ 日本だと超高層マンションに住んでいる人は,洪水や高潮 ッパのボランティアのような自助の力強さはないということです。 のとき高みの見物だと思っているのです。避難勧告出たって, 防災教育の目的 絶対に逃げない。 みんな自分のこととして考えている。つまり,欧米先進国は, ですから,防災教育の目的は,このように命の尊さ,生きるこ 災害情報は住民市民の安全にとって必要である。従って,そ との大切さを学ぶ。ハウツーものじゃないということですよ。です れに従うのはあたりまえだ。わがまちは自分たちの手で守る。こ からそのためには,災害はなぜ起こるか,地震はなぜ起こるか。 れがボランティア活動なのです。日本のボランティア活動は, あるいは,高槻でどんな被害が出るのか。そうならないために 間違っているのです。災害が起こったところに,被災地以外の はどうすればいいか学んで,勇気を持って実践する。 ところから助けに来るのがボランティアと思っているのです。 例えば大阪は,ゼロメートル地帯に今 128 万人住んでいます。 阪神大震災で,140 万人のボランティアが出た。ボランティア そのうちの半数にしか津波避難ビルがないのです。あとは決ま 元年になりました。でもほとんどは,阪神・淡路大震災以外の被 らない。ビルのオーナーは,住民が勝手に新しいビルに逃げ 災地から来たのが大半です。元々のボランティアっていうのは, てくることがウエルカムじゃない。そんなことは言いませんが,な 被災地で被害を受けなかった人たちが被災者のために頑張る かなか協定に合意してくれない。そんなのは簡単ですよ。避難 のがボランティアというのです。 するときに石ころ1個持っていくのですよ。ガラス扉が閉まって そういう意味では,阪神大震災のとき,家が全壊して家族ぐ いたら割って入ったらいいのです。なぜか,憲法は生存権を保 るみで避難所に逃げてきた。その中の 10 人のお父さんのなか 障しているのです。命が危ないとなったら,犯罪じゃないので で,3 人は救助救命活動に参加しました。7 人は,自分の家が す。でも勇気いるでしょ。まさか,市役所の職員がそうやれとは 65 言いません。僕は関係ありません。だからレンガ一個持ってい だからみんな津波は,引き波で始まると思っているのです。そ って割ればよい。それやらなかったら死ぬんですよ。 んなことありません。押し波で来る場合もあるのです。12年間 自ら判断し,危険を回避する力をつける。より安全安心を確 使われたんです,この教科書。だから高齢者は,津波は引き波 実にする。誰かがやれじゃあないんですよ。自分がガラスを割 で第一波始まると思うから,津波警報が出たら,かつてはみん らなくてはいけない。勇気が要るっていうのはこういうことです。 な海へ津波を見に行ったのです。ずっと引いていくと思ってい るから。そういう誤解が生まれました。ですからわたしどもは,き 防災教育の主流化 ちっとそれは書かせていただきました。わたくしは,研究者です そして,防災教育の主流化。主流化というのは,はじめから から。 それを考えろということ。途中から考えてはいけないっていうこ あるいは,読売新聞とテレビ NNN と関西大学で「勇気をもっ とです。ですから先生方は,児童生徒が犠牲になってほしくな て」という冊子を作りました。メセナでおよそ1万部作りました。 い。それに役立つ知識を教えて率先して実践する人間を育て 全国の中学校に配布しました。最近高槻の中学校に全部いっ る。子ども達に死んでほしくないと思わなければいけない。知 ていないというのがわかって,ストックから全部お送りさせてい 識を教えるのではないのです。 ただきました。いろんな努力をしている。 子ども達に「死んだらあかんぞ」って。そして,具体的な内容 1938 年(昭和 13 年)に六甲山に大雨が降りました。このとき の背景にこれがないと防災というのは生きてこない。 の土砂崩れで 715 人亡くなっているんです。この復旧工事は だから,防災という教科を作れなんて言ってないんですよ。 中学生がやっているんです。これ左側は男子生徒。右下は女 算数でも理科でも国語でも,そういうことを入れ込むのは可能 子生徒です。ブルマ姿でモッコ担いでいるんですよ。80年前 です。新しく教科を作れと言っているのではないんです。今あ にそんなことあったんですよ。 る教科の中にそういう精神を入れていただきたいっていうことで 今,災害が起こったら復旧は公共事業だといって,ほったら すね。実はわたしが書いた小学校5年生の教科書「百年後の かしになっているんですよ。昔はみんなで寄ってたかって復旧 ふるさとを守る」を全国の5年生 70 万人が使ってくれています。 事業やったんです。そういう時代にやっぱりボランティアとか生 4年間で 280 万人。この4月から改定されます。東日本大震災 まれているんですけども,「俺は税金払っているから市役所が が起こって津波で非常に大きな被害が出ていますから,少し文 やるのがあたりまえなんや」そんなのは,民主主義じゃないん 章をやわらかくしました。これをまた 4 年間使ってくれると合計 です。自分で出来ることは全部自分でやるというのが民主主義 560 万人の日本の小学 5 年生が使ってくれる。それに津波のこ です。 とがちゃんと書かれているんです。 地域と一体化した防災教育 何が困るかというと,「稲むらの火」という教材があります。こ れはフィクションです。元々は,小泉八雲が「A Living God」とい ですから,防災教育というのは,特に地域とのつながりが大 う小説を書いたのですが,中井常蔵という和歌山南部中学の 切。あとのパネルディスカッションでそれが出てきます。学校の 国語の教師が文部省の教材公募に応募して採択されたので 中に限定したらだめです。子ども達を地域が育てるってことに す。内容は,1896 年の明治三陸津波と 1854 年の安政南海地 しないと,なかなかうまくいかない。 震津波を合体したのです。むちゃくちゃ迫力があるのです。津 例えば,石巻市の大川小学校で 74 人の小学生が亡くなっ 波がどんどんどんどん沖へ海面が下がって引いていったって。 たのです。なんでそんなことになったのか。あそこは地域の避 66 難場所になっていたのです。地域のお年寄りも逃げてきたので 素敵な街にしていただくと,高齢化で少子化で,どんどん街 す。学校の子ども達と高齢者が避難するときに,一番列の先頭 の力がなくなっていくなんて考えなくてもいい。 に高齢者がいたのです。ゆっくりしか動けないじゃありませんか。 わたしどもの大学も頑張りますが,ここにお住まいの方たち そこに津波が来たんです。だから,小学5,6年の男子生徒が がきちっとやっていただくことがとても重要だと考えますので,こ 何人か助かっただけで,あとは全部亡くなりました。 のあとのパネルディスカッションで,市長も交えてお話したいと 今,防災訓練を学校だけでやっていると,避難所になってい 思います。ご静聴ありがとうございました。 るし地域住民も逃げてくるんです。ですから,学校だけで閉じ て防災訓練をしていたら,現実にはそうはいかないということで す。 地域の中で,中学生はとても役に立つということがわかりまし た。そこで地域とつながっていく,地域が児童生徒を大切には ぐくむところであるという認識が生まれ,コミュニケーションが活 発になります。学校だけ孤立しているんじゃない。学校と地域 が一体化していくということです。 神戸市の全小学校に防災福祉マップというのがあります。こ れは,小学校5,6年生が作っているのですが,子ども達だけで はできないんで,PTA とか地区の自主防災組織が一緒になっ て作っているんです。なにがおもしろいかというと,防災福祉と いう名前が付いているので,例えば,一人住まいのおばあちゃ んのところへ行って,「名前載せてもいいか」って,子どもが行く とおばあちゃんはいいって言うんです。市役所の職員が行くと だめだっていうのです。だから,どこにハンディキャップを持っ ている人が住んでいるかはわからないっていうのが普通ですが, 子ども達が行くと載せてもいいとなる。 子ども達が作る地図には,春先にみつばちがぶんぶん飛ん でいるところ,マムシが出るとか,あるいは出会いがしらに自転 車と交通事故が起こるところとか,薬局の場所とか,とても使い 勝手のいいマップが,小学校毎に備えてあるのです。 そういうふうに地域と学校が連結しているっていうのが,とて も安全安心な街につながっているということです。 高槻は素敵なところですし,住宅地としてどんどん価値が上 がっている。その価値が上がっているのは何故かという中身を みなさまがたの力で作っていただきたい。 67 1年生は,生活科の授業で校内を歩き,子どもたちの視点で 研究委嘱校実践報告 地震が起こったときに危険な場所について考えました。公開授 業では,自分たちでまとめた校内の危険箇所や地震への備え を発表するとともに,災害後の生活に備えて,保護者と一緒に, 身近にある新聞紙を利用したコップづくりを体験しました。 2年生は,「町探検」で,古曽部防災公園を訪れました。古曽 部防災公園は,本格的な防災機能を兼ね備えた公園です。大 地震などの災害発生時には,高槻市北部の総合防災拠点とし ての機能が備えられています。子どもたちは,見学やインタビ ューを通して学んだことを防災公園マップとしてまとめ,地域公 開授業では,災害に備えることの大切さを保護者や地域の 方々に向けて発信しました。 防災教育研究委嘱校の実践報告及び被災地訪問報告を行 磐手小学校の6年生は,総合的な学習の時間に,子どもた います。高槻市立第八中学校 服部です。よろしくお願いいた ちが自分たちで企画する避難訓練に取り組んでいます。これま します。 でに体験してきた避難訓練の改善点や,地震が起こったときに 今年度,第八中学校,磐手小学校,奥阪小学校の3校は, どんな危険があるかを話し合い,グループごとに避難訓練の実 市の「防災教育研究委嘱校」の指定を受けました。 施計画を立てました。 この実践報告では,委嘱校3校が実践した代表的な取組を 子どもたち同士でアイデアを出し合い,企画した実施計画は, 報告いたします。 東日本大震災以降,学校では,自らの命を守る自助とともに, クラスや学年全体の場で発表します。発表会には,専門家とし て大学の先生,地域の方にも参加していただき,より実践的な 安全で安心な社会づくりに参加し,貢献できる力を身に付ける 訓練となるよう,アドバイスをいただきました。 ための防災教育の重要性が高まっています。 第八中学校 3 年生は,地域を知り,防災について考えるた 磐手小学校と第八中学校の小中学生は,地域が実施する めに校区の防災マップを作成しました。防災マップは,地図上 防災訓練に参加しました。 の河川や大きな道路に色を塗り,避難所などの災害時に役立 災害によって被災した場合には,地域の方々と協力して避 つ施設にシールを張り,完成させていきます。子どもたちは, 難生活を送ることになります。そのためには,地域が実施する 地域の方の協力を得て,自分たちが住んでいる町の特徴や, 防災訓練に積極的に参加し,小さい頃から地域の一員である 災害が起こったときの危険箇所を話し合い,それぞれがもって ことの自覚をもてるようにすることが大切です。訓練当日は,バ いる防災についての情報を共有しながら,防災マップを完成さ ケツリレーによる消火訓練や,消防団による放水訓練,非常食 せました。完成させた防災マップは,地域の方々にも広く発信 炊き出し訓練など,地域の方々と協力して防災訓練を行いまし しようと,近くの公民館や校区の小学校に掲示しています。 た。子どもたちは,防災訓練に参加することを通して,地域の その他にも,第八中学校区では,関西大学との連携・学生 一員としての自覚や役割を,体験的に学ぶことができました。 ボランティア(KUMC)による特別授業,安全ミュージアムの見 奥坂小学校では,11月の地域公開授業で,学校で行う防 学,事前予告なしの避難訓練など,年間を通して,防災教育に 災に関する取組を保護者や地域に向けて発信しました。 68 パワーポイント提示資料 取り組みました。 防災教育の目標は,災害から命を守り抜くことです。 災害から命を守り抜くためには,災害発生の仕組みを知り, 社会と地域の実態を知り,備え方を知る必要があります。そし て,学んだ知識を「主体的に行動する態度」へ結び付ける教育 活動が必要です。また,自然災害が多い日本においては,災 害後の生活,復旧・復興を支える「支援者となる視点」の育成 が重要です。 防災教育研究委嘱校では,保護者や地域の方々に,教育 の場へ積極的に参加していただくことで,より充実した防災教 育を実践することができたと考えています。 8 月には,研究委嘱校の取組の一環として,代表児童生徒 8 名による岩手県大槌町の被災地視察訪問を行いました。視察 訪問の様子は,実際に参加した代表児童生徒から報告を行い ます。 69 70 71 向けてがんばっている』ということを伝えてもらうのが一番ありが 大槌町視察訪問報告 たい。」と話してくれました。 松橋先生のお話をお聞きした後,高台から大槌町を眺めま した。以前は家がすぐ目の前まであったそうですが,3 年半経 った今も,家はほとんど建っていません。 これが,現在の町の様子です。思っていた以上に,復興は進 んでいないと感じました。 次に,大槌町立小中学校に向かいました。 大槌町小中学生との交流 ●市原 大槌町では,小学校4校,中学校1校が,震災により 使用できなくなりました。仮設校舎を建て,授業が再開された のは震災から約半年後のことでした。 大槌町の復旧・復興の状況 プレハブの体育館です。バレーコート1面分が敷ける大きさ ●福田 今から岩手県大槌町視察訪問の報告を行います。 です。ここには,小中学校が同じ敷地にありますが,校庭も体 僕たちは,昨年 8 月 20 日,21 日に岩手県大槌町の視察訪 育館も,1つしかありません。この場所を,多くの部活動が分け 問を行いました。視察訪問の目的は,2つあります。1つ目は, 合って活動しているため,活動する場所や時間が十分にとれ 現在の大槌町の復旧・復興の状況を視察し,震災を理解する ないそうです。 こと。2つ目は,現地小中学生との交流を行い,災害時に小中 仮設校舎の教室です。机・棚・イス・クーラーは寄贈されたも 学生が果たすことのできる役割について学ぶことです。 のだそうです。しかし,仮設校舎には,図書館やパソコンルー 岩手県大槌町は,平成 23 年 3 月 11 日に発生した東日本大 ムがありません。また,教室の壁が薄く,となりのクラスの音が聞 震災で,大きな被害を受けました。津波による浸水は,最高で 22 メートル。死者,行方不明者は,合わせて人口の 1 割近い 1, こえてしまいます。 時間割に「ふるさと科」という時間があり,校長先生にこの教 200 人を超えています。 科が何かを尋ねました。大阪でいう「総合の時間」らしく,「震災 1日目,ぼくたちは,飛行機とバスで岩手県大槌町へ向かい で失われた伝統」について学び,復興を目指す社会の中で, ました。 自分にできる役割について学習するそうです。大槌町独自の 大槌町に着いて,はじめに,中央公民館で役場の方に震災 教科で,町を愛し,復興を担う人材を育てることが目的です。 当時の様子を聞きしました。この方は大槌町教育委員会の松 橋先生です。この2日間,大槌町を案内してくださいました。 ●大西 校舎を見せていただいたあとに,大槌町小・中学校の 松橋先生の話では,大槌町の復旧の状況は,10 段階でいう みなさんと交流をしました。 とまだ「1」か「1.5」とのことです。「大阪に住んでいる私たちに できることはありますか?」という僕たちの質問に,松橋先生は, はじめに「語り部プロジェクト」より,「被災地から伝えたいこ と」と題して,復興に向けての取組を紹介してくれました。 「東北の復興はもう終わったものと思われている。」「みなさんに 「語り部プロジェクト」は,中学校の生徒会で構成され,これ は,今の町の様子をきちんと見てもらって,大槌町は『復興に 72 までの全国からの支援に対する感謝の気持ちや,現在の大槌 大槌町の小中学生は,復興に向けて前向きにがんばってい 町,学校の様子,そして,復興に向けた思いを発信するために ます。 活動しています。 わたしたちは,交流を通して学んだことを高槻に帰ったとき 学校生活の紹介では,一人ひとりが目標を持ち,明るく前向 にしっかりと伝えられるようにしていきたいと思いました。 きに授業に取り組んでいること,仮設校舎への感謝の気持ちを 込めて,掃除にも一生懸命に取り組んでいるという話がありまし 大槌の町の様子 た。 ●横田 2日目は,松橋先生とバスで大槌町を巡り,今の大槌 年に2回ある避難訓練は,小学生と一緒に訓練していて,中 町の復旧・復興の状況を視察しました。 学生が低学年の手を引いて避難します。大震災を経験した大 これは,旧大槌町役場です。震災直後,町長始め,役場の 槌町の小中学生は,この避難訓練に,真剣に取り組んでいるこ 方々は,余震によって庁舎が崩れるのを恐れ,庁舎前の駐車 とを話してくれました。鉄道がいまだに復旧されていないことの 場に机を運び,災害対策本部を設置したそうです。 問題点や,震災前よりも活気のある街として復興,再生してほ 大槌町には,最初の揺れから40分後に,津波が襲ってきま しいといった思いを語ってくれました。 した。津波接近の警報を受け,屋上に避難しようとしましたが, 語り部プロジェクトの最後には,「自分たちも将来,大槌に残 町長を含め,役場の方40名は,津波に飲み込まれ亡くなられ る人,離れる人,戻ってくる人,さまざまだと思いますが,それ ました。役場が全壊したことや,全職員の3分の1の方が亡くな ぞれの立場で,大槌のことを考え,何らかの形で復興に携わっ ったことで行政機能が麻痺してしまい,町の復興に大きく影響 ていきたい。」「これからも,笑顔と感謝を忘れずに,大槌の復 がでたそうです。津波は堤防を越えてからわずか200秒で全 興のために頑張っていきたい。」と話してくれました。 域を飲み込みました。大きな穴は,津波によって流されたロッ そのあとの交流では,震災後の生活での体験が,自分の将 カーにより破壊された跡です。津波は,すごい速さで,まるで 来の夢につながっているという話を聞きました。例えば,避難 「壁」のように迫ってきたそうです。 所で料理を振舞ってもらったのが嬉しかったので「料理人」に 民宿の上に乗った遊覧船「はまゆり」です。保存すべきとの なりたい人,「全国からきてくれた警察官の存在が心の支えに 声も上がりましたが,余震による落下の心配があったため,震 なった」ので警察官になりたいという人がいました。他にも薬剤 災後2ヶ月目に撤去されました。 師や保育士,学校の先生になりたいという将来の夢を持って前 高台にある中学校の隣には仮設住宅が並んでいます。大槌 向きに頑張っていて,みんな強いなという印象を受けました。 町では,住宅の54%が津波によって流出しました。町内には, 写真の彼は,今から 3 年前の高槻シティー国際ハーフマラソ 現在も 48 か所の仮設住宅団地があり,ここから通う小中学生や, ンに,大槌町から招待された 25 人の小中学生のひとりです。 一人暮らしのお年寄りも少なくないとのことです。 「どんな支援を必要としていますか」という質問に,彼は,「高 大槌町の市街地だった場所です。この場所に住宅を建てる 槻のハーフマラソンに参加したときの,大阪の印象がとても良 ためには,地盤を安定させるため,約2.2メートルの「盛り土」 かった。」「これからも,大槌と高槻で,このような交流の活動を 工事を行う必要があります。 続けてくれることが一番嬉しいです。」と答えてくれました。 小中学生との交流をとおして,わたしたちは,震災は過去の ●福田 大槌町は,「災害につよいまちづくり」を進めています。 ことじゃなくて,「今,現在のことなんだ」と改めて感じました。 防潮堤の高さを,これまでの 6.4 メートルから 14.5 メートルにし, 73 パワーポイント提示資料 海岸近くは公園にする予定です。盛り土で土地をかさ上げし, 高台に,公共施設や商業施設,住宅を建てる計画です。 現在は,復旧作業が進み,瓦礫がなくなり大型車も通れるよ うになりました。しかし,大槌町は,平地が少なく,その少ない 平地には仮設住宅が建設されていて,多くの方が暮らしていま す。大槌町の復興には,まだまだ時間がかかることを実感しま した。 被災地訪問を通して学んだこと ●福田 大槌町に到着して,すぐ目に入ったのは,一面に広 がる何もない景色と,町を走る工事車両でした。 ぼくは,復興は進んでいるものと思っていました。 大槌町の小中学生との交流では,身内の方が亡くなったこと や,町が流されて,多くのストレスを感じながら生活していること を教えてくれました。 とても辛く悲しい出来事を経験しながらも,ぼくたちが出合っ た小中学生は,夢をもち,周りの人に感謝をしています。 「自分たちのまちは,自分たちが復興させるんだ」という姿勢 に,「強いな」という印象を受けました。 「大槌町は,今,復興に向けてがんばっています。」 その意識を持ち続けることが,ぼくたちと大槌の方々とのつ ながりなのだと思います。 震災を「遠くのこと」ではなく,「自分のこと」として考えること。 受身だった自分が,何事も,率先して動かなければならない という意識へと,変わることができた,貴重な二日間となりまし た。 これで,被災地視察訪問の報告をおわります。 ご静聴ありがとうございました。 74 75 76 77 パネルディスカッション 濱田 剛史(高槻市長) ●河田 今日のシンポジウムは学校で取り組んでいることを皆 さんに知っていただこうということでやっていただいているんで すが,じゃあ,次に学校で行っている取組について,上道先生, 議題1 お願いできますか。 子どもたちの命を守るために,それぞれの立場 で取り組んでいること ●上道 先ほど,本校の服部先生から1年間,第八中学校区と ●河田 まず,子どもの命を守るために,現在取り組んでいるこ して具体的にどのように取り組んできたかということを報告させ とを市長からお願いします。 ていただきましたし,また,子どもたちの方からは,昨年の夏休 みに大槌町に訪問した際の報告をさせていただきました。防災 ●濱田 子どもたちという事になりますと,今やっていますのが 教育を学校で取り組む時に,まずは,命の大切さを子どもたち 防災教育。先ほど先生のご講演にもありましたが,以前に先生 にしっかりと教員が伝えていくということ,子どもたちが,実際に と対談させていただいた時に,防災というのは,子どもへの教 災害に遭遇した時に,自分の命をしっかりと自分で守れる力を 育が非常に重要である,子どもが意識を持てば,大人も意識を 身につけるということ,それに加えて,災害が発生した時に,友 持つんだということを教えていただきまして,これはいいなという 達や家庭,あるいは地域の人々の助けになるようなことがない ことで防災教育に取り組みました。具体的には,防災副読本を か,どのようにすればそのような力になれるかということを考える, 作りまして,子どもたちに配布して教育していただいたり,先ほ あるいはそういう力を育むということではないかと思っていま どの研究委嘱校の取組などがあります。 す。 あと,昨年の1月に行いました大防災訓練。全市域でやると 小学校の段階では,自分の命は自分で守る,その力をしっ いうのが一番の意味だったんですが,言葉は悪いんですが, かり身につける,低学年から高学年にかけて,発達段階に応じ 出来るだけ大きく派手にして,市民の皆さんに防災の意識を持 て,おもに避難訓練等を中心にやりますけれど,奥坂小学校 ってもらおうということと,やはり子どもたちに関心を持ってもらう ではミニ避難訓練というのをやっておられます。災害はいつ起 ということで,大防災訓練をやりました。 こるかわからないといわれますが,学校では避難訓練は予告を して,授業の途中の何時何分になったら非常ベルが鳴って, 一斉に避難するよということを年に何回かするわけです。実際 78 は給食を食べてる最中かもしれないし,給食を配ってる時に起 ご紹介いただけますか。 きるかもしれないし,小学校ですと 20 分休みに起きるかもしれ ●吉田 今年度,地域として,研究委嘱校のいくつかの取組に ない,先生が近くにいない時かもしれない,どういう時に災害が かかわることができました。ひとつは,第八中学校の地域防災 発生しても,自分の命を守る行動が取れるようにと学校では考 マップ作成への協力,ひとつは,磐手小学校の子どもたちが計 えていかねばならないと思っています。 画する避難訓練の取組への参加です。学校からは,わたした 中学校では,その上で,地域の防災訓練に参加,参画をさ ちの地域で実施している防災訓練への参加がありました。 せていただいて,中学生として,たとえば避難所が開設された 私たちの地域では,磐手小学校の運動場をお借りして,2年 ときに,地域の大人の方たちと協力して,何が出来るか,自分 に1回,隔年ですが,防災訓練を行っています。防災訓練を行 たちはどういう力になれるかということを体験したい,あるいは考 うにあたり,事前に小学校へ書類を出しに行ったところ,磐手 える。その中で,防災マップを作ったり,避難所を運営するため 小学校の校長先生から,今年は第八中学校区が市の防災教 のシミュレーションゲームをしたり,災害発生時にどのような役 育研究委嘱校となったので,地域の防災訓練にぜひ子どもた 割ができるのかを考え,そのために必要な力をつけることが求 ちを参加させてもらえないかという話をいただきました。 められています。 私も以前から,磐手地区,特に旧村は,高齢化が進んでお るのと,今までは,農業中心であったが,会社勤めが多くなり, 若い世代がいなくて,災害が起これば,小学校であれば特に 高学年,また,中学生の手を借りなくてはならないと思っており ましたので,たいへんよい機会になったと考えています。 上道 小太郎(第八中学校 校長) ●河田 ありがとうございました。校長先生,全国でもそうなん ですけど,防災訓練とか避難訓練は,毎年,同じことを繰り返 す学校が多いんですよ。そうじゃなくて,半分は定番メニューで, 吉田 義明(磐手地区コミュニティ協議会 副会長) 残り半分は前と違うことをやっていただく。そのためには,中学 校の 3 年間で,どんな能力を身につけてもらいたいかという戦 ●河田 はい,ありがとうございます。 略を,学校で作ってほしいんですよ。そうすると高校へ行くとき たとえば奈良県では,昔,小さいお子さんが誘拐されて殺さ に,少なくともこういう知識は持っているとか,こういうことは知っ れるということがあったじゃないですか。それで,奈良県は防災 ているとか,こういうことやったって。一番困るのは,毎年毎年 と防犯を兼ねた地域活動をやっていただいているんですね。 同じことをやって,みんな飽きてくるのですね。それ,ぜひお願 具体的にどういうことかというと,たとえば犬の散歩をする人た いしますね。では,次,地域で頑張っていただいている磐手地 ちが,登下校の時に集まって,子ども達と一緒に行動するって。 区コミュニティ協議会の吉田さんに来ていただいているので, やはり過疎になってくると,一人の子どもが登下校で歩いてい 79 るということが起こりますので,犬の散歩をする時間を地域で合 ●河田 君,めちゃくちゃ賢いよ。僕の小学校の時は漫画しか わせておいて,一緒に歩いて帰る。学校ごとに交通の整理とか 読んでなかったですからねぇ。 やっていただいている地域の方がおられるんですけど,そうい 君が今,三つ上げてくれたこと,普通の大人でも,なかなか, う趣味を登下校にあわせるというようなことで,一緒に行動する その一つでもやらないですよ。僕たちは,防災の研究者だから ということを奈良県ではやっているんですね。ちょっと,そういう ね,世界各国で災害が起こったら調査に行くんですよ。なぜ調 ことも参考にしていただけたらいいかなと思います。 査に行くかというと,自分の目で確かめないと,テレビとかで放 じゃ,次に福田さんにお話を聞きましょう。被災地に行かれ 映されるやつは,だってちっちゃいじゃない。大槌の町行った たんですけど,どうして行きたいと思ったんですか? ら,目の前,全部,被災地なんだよ。これって,行かないとわか らないんだよねぇ。 ●福田 一つ目は実際にこの目で被災地を見たかったからで 単に見に行くだけじゃなくて,そこで何が起こったのかとか, す。東日本大震災が起こった当時,私は,まだ2年生でした。 復興進めている人の思いというか,つまり,被災地だけじゃなく, なので,まだ津波や地震の怖さは,よくわかりませんでした。し そこにいる人に興味を持ってくれているのはとてもいいことなん かし,6年生になった今でも,東日本大震災について放映して です。防災って,結局ね,最後は人なんですよ。家が壊れたり, いるテレビを見て,津波や地震が奪っていくものについて考え 物が流されたりするけど,最後は,そこに住んでいる人がどうな るようになりました。そして,テレビでは伝えきれないこともある んだって,これが一番問題なんでね。 のではないかと思いました。 あなた,小学校6年生だけど,並の小学生じゃないね。立派 二つ目は復興を進めた人たちの思いを知りたかったからで な小学生,いい大人になりますよ。じゃあね,大槌の町どうだっ す。被災者の方々は,体だけではなく,心にも深い傷を負って た?大槌の町見て,印象に残ったこと教えて。 いらっしゃると思います。そんな中でも,復興を進めていった 方々は,どのような思いで,どのようなことをしたのかということを ●福田 復興が思ったほど進んでいませんでした。私が,被災 知りたかったからです。 地に行く前に,もう 3 年もたっているのだから,ほとんど復興は 三つ目は高槻に住んでいる私たちに,被災地のためにでき 終わっているものだと思っていました。しかし,実際に高台から ることを見つけたかったからです。以上の三つの理由で私は被 下を見下ろした時に,役場の方に,「震災前にあそこに商店街 災地訪問に参加しようと思いました。 がありました」と言われても,町には何も建っていなくてわからな かったです。なので,そのことをしっかり高槻に帰って来てから, みんなに伝えていけたらいいなと思いました。 ●河田 僕は,4年前に起こって,直後に入ったんですよ。町 全体が茶色かったですよ。3ヶ月ほど経って行ったらね,雑草 が生えて,ゴルフ場みたいになってるの。そうすると,そんな災 害が起こったということが,全く印象として出てこないんですよ。 福田 美幸(奥坂小学校 6 年) ですから,被災地というのは時間とともに訴えるものが変わっ ていく。だから,希望を言えば,ちょっと時間をあけて,どうなっ 80 ているのかなということがとても大事でね。いっぺん津波が来た 議題2 ところに仮設住宅できないでしょう,危ないところだから。だから, それぞれの取組における成果 みんな小高い所に学校も仮説住宅も作っちゃってるので,昔 ●河田 じゃあ,次,2番目にいきましょう。学校三つ,委嘱して の町というのは何もない状態でずっときているわけ。 いただいて,市長,どんな成果があったか,教えていただけま これから本格的に復興が始まるので,これから出来ていく。 すか? 被災した人たちも行政も,こんな大きな災害,経験したことない から,なかなかどうしていいかわからないじゃない,雛形がある ●濱田 今の福田さんの存在がまさに成果だと思うんですけど わけじゃないし。神戸は地震で潰れたけど,潰れたものみんな も。私も平成23年,大震災の年に東北に行かせていただいて, そこにあったんですよ。今度は,津波で全部流されちゃったん まさに福田さんとほとんど同じ感想を持ったんですよね。大槌 で,何もかもがなくなって,体だけ助かった。こういうところの街 町と陸前高田に行かせていただいたんですけども,降りて,町 づくりって,とても大変なんだよね。 を見たときに何にもないんですね。 それで,交流をしていただいたんだけど,印象に残ったこと 阪神大震災のときも,神戸に行かせていただいたんですが, って,どんなことがあります 町はそれは凄い状態ですけど,東北の大震災の場合は何もな いということで,逆に以前の大槌町の町というのを知らないわけ ●福田 小中学生の皆さんが前向きだったことです。私が,も ですから,どれだけ凄いのかということが逆にわからないのがあ し東日本大震災というつらい体験をしていたら,きっと立ち直れ って,家も何もないわけですから,通り一遍のお見舞いの言葉 なかったと思います。 というのが逆に言うと出ないといいますか,何と言ったらいいの でも,中学生が,今,大槌町の復興のために取り組んでいる かわからないくらいの凄さを感じてたなぁと思います。 ことなどを私たちに教えてくれました。 それを福田さんはじめ,小中学生に災害の凄さといいますか, たとえば,大槌町の特産物を集めた「大槌夢パック」の話を 恐ろしさというものを目の当たりに感じてもらったというのが,そ 聞きました。「大槌夢パック」は,自分たちで,宣伝や販売をし れだけでも大成果だと思っています。今回の東日本大震災は, ていました。その話を聞いて,本当に大槌町が好きで,心から 特に千年に一回あるかないかという大津波というのを聞いてい 復興を願っているんだなと感じました。 ますので,そういう意味ではぜひ,こういった取組で疑似体験 をしてもらうというのは非常に重要かなと思っています。 ●河田 今の話を聞いていて,大人と違って子どもって純粋な それと,地域の大防災訓練をさせていただいて,課題がいろ んだよね。本当に困っていることに同情するしね,素晴らしいこ いろ出たんですけども,一つは年齢層による参加の偏りがクロ とに感激するしね,そういう心って,町を復興する時にはとても ーズアップされました。60 代,70 代の方は結構参加していただ 重要なんだよね。ふだん,そういうことを思う機会がほとんどな いてまして,50 代くらいまでは参加者が多いんですけども,20 いでしょう。だけど,災害が起こると,ふだん経験をしたことがな 代くらいになってくると,ほとんど参加していただけなかったとい いことが起こって,あらためて自分たちの人間性というか,そう う課題がありました。 いうものが問われる,難しく言うとそうなるんだけどね,子どもっ いろいろ仕事とかそんなことで忙しいのがあるのかもしれな てとても純粋なんだよね。それって,これからも大事にしてくだ いですけど,やはり,こういった子どもに対する,研究委嘱校も さいね。 含めて,防災教育をすることで,やはり,防災への取り組みとい 81 いますか,関心を繋げていかなければならないと考えてます。 学生に被災地の様子を伝えてくれた,非常に大きな成果だっ たと思います。 ●河田 実は,今日,朝,滋賀県の栗東へ行ってきたんですけ 今年の1・17は土曜日でしたので,翌週に中学校でも,「釜 どね,雪がずいぶん積もっていまして,その時思ったのは,高 石の奇跡~子どもが語る 3・11~」というビデオを見ながら道徳 齢者が一人で町歩きすると危ないなぁ,滑りやすくなってます の時間をさせていただいたんですけど,やはり,先ほど言った からね。たとえば,子どもたちと手を取り合って外出するという ような体験を聞いてから,ビデオを見たり,読み物を読んで感 か。高槻でも,時々,雪降るじゃないですか,その時,少し勾配 想を書くのと,また違った学習ができたんではないかと思って があるところで足滑らすということが高齢者にとってごく普通の います。 ことなんですよね。そんな時,一人でスーパーマーケットやコン 一つだけ子どもの感想をご紹介させていただきます。この1・ ビニに行くっていうだけでも危ないんでね,身近なところで子ど 17の道徳の取組を終えて,「自分には関係ない,自分だけは もたちと仲良くしていただいて,たとえば外出する時は,一緒に 大丈夫という認識が大きく変わりました。自分の身は自分で守 手をつないでいくとか,そういったことって,とても大事なことな る,その最低限のことを実行できるように,しっかりと力を付けて んですよね。ですから,災害だけじゃなくって,日常生活の中 いかなければといけないと思います。そして,いつか自分の周 で,子どもたちの力を借りるっていうか,特に中学生ぐらいにな りの人のことも守れるようになりたいです」。 ったら,大人顔負けのいろんなことやってくれますんでね。学 まさに,このことが,子どもたちにとって大きな成果を表して 校だけにとどまらずに,学校の力を地域に発揮していただくと いるんじゃないかと思います。 いう,そういうことでも,これから展開していただいたらいいのか また,お隣の吉田さんの安満自治会の防災訓練に参加させ なと思います。 ていただくことができましたけれど,地域によっては,自主防災 じゃあ,次,校長先生,お願いできますか? 組織がまだ十分に出来ていない校区もございますので,やはり, 実際は災害が起きたときに,子どもたちは,必ずしも学校にい ●上道 はい,先ほど奥坂小学校の福田さんの話にもありまし るとは限りませんし,生活の場は地域ですので,子どもたちが たけれども,阪神淡路大震災というのは,今年がちょうど 20 年 地域の中で具体的にどんな活動をしていくかというときに,地 で,今,小学生,中学生にとっては遠い歴史の彼方の話なん 域の皆さんとの連携というのが欠かせないですね。学校だけで ですね。東日本の大震災も地理的に遠いということもありまして, は,当然,空回りしてしまうと思います。今後,防災に関する地 動画とか画面では見るけども,実体験としては,なかなか二つ 域の取組を進めていく,学校と連携を強めていくということが非 の大きな震災の体験を今の子どもたちに伝えるというのは非常 常に大きな課題ではないかと考えています。 に難しいことだと考えています。 幸い,八中校区の小学生,中学生 8 人,昨年の夏に,実際 ●河田 高槻は先進的な所ですから,学校でやっていただい に被災地を訪れて,自分たちの目で見て,被災した中学生か ているんですけど,実は,今日,会場にお見えになっている大 ら,実際に自分たちの耳で体験を聞いて,大きな衝撃を受けて, 人の方に問題があるんですよね。なぜかというと,学校では避 強い思いをもって大阪に帰ってきてくれました。それぞれの学 難勧告が出たら避難しなければいけないということを習ってい 校でも,報告集会を開いて,実際の体験してきた子どもたちが るんですよ。ところが,家庭でね,お父さんとかお母さんが,そ 語り部になって,他の実際には行けなかった多くの小学生,中 んなんあたらへんから行かんでもええんや,こういうことを言うん 82 ですよね。つまり,子どもたちは一生懸命,学校で学んでいる は重たいなと言いながら一生懸命に取り組んでくれました。非 んだけど,それを家庭でもっと膨らましていただかないといけな 常食の炊き出し訓練では,中学生と自治会の方で一緒に行い いんだけども,案外,家庭で災害に冷淡といいますか。ですか ました。重い材料の運搬や盛り付けなどは中学生が活躍してく ら,もうじき 3・11,4 年目に入るんですが,ぜひ,そういった時 れて助かったと聞いております。アルファ化米を試食しましたが, に,自分が持ってる知識を子どもたちに教えるということはとて 子どもたちは,初めて食べたがおいしかったと好評で,おかわ も重要なんです。 りまでしていました。 実は,1・17から 20 年たったんですが,神戸市の市民の 将来の地域の担い手を育てるためにも,子どもたちが防災 40%は全然知らないんですね。どうしてるかというと,被災した 訓練に参加することは,私たちの思いと重なったので大変良か 人は,そのことをしゃべるのは嫌なんですよ。ところが,子どもた ったと思っております。 ちが大きくなってきて,それを親に聞く年代になってきたんです よ。そうすると,お父さん,お母さんは本当はあんな悲しい思い ●河田 よかったですね。そういう具体的な体験をされたという 出しゃべりたくないけども,自分たちの子どもがこういう目にあっ ことは貴重なことだと思います。 てはいかんという思いで,いろんなことを語り継いでいただいて 最後に福田さんに聞きましょう。学校で取り組んでいただい るんですよ。 て,福田さん,どういうことを学びました? だけど,幸い,高槻は,1・17 の時,殆ど被害がありませんで した。実際にはそういう体験されていない。だから,言わないん ●福田 はい,私たちの学校では,二つのことをやりました。一 じゃなくて,いろんなメディアを通して知識を持っていただいた つ目は,防災パンフレットを作り,二つ目は予告なしの避難訓 ら,共通の話題として取り上げていただきたい。 練をしました。 防災教育というのは学校だけで出来るものではないんで,家 一つ目の防災パンフレットは,非常時に持ち出す袋の中身 庭でも進めていただきたい,地域でも進めていただきたいとい などを自分たちで調べて,まとめて書きました。自分たちで調 うことなんですね。それで,吉田さんに,ぜひ,その点お聞きし べて書くことで,地震のために準備しておくことや実際に地震 たいんですが,いかがでございますか。 が起こったときのとるべき行動などの知識が増えたと思います。 二つ目の予告なしの避難訓練は,地震はいつ来るのかわか ●吉田 子どもたちが防災訓練に参加するにあたって,事前 らないので,実際の地震を想定した避難訓練をやりました。ま の打ち合わせで,学校からは,子どもたちには地域の一員とし た,被災地の方々は,避難訓練をしっかりやってほしいと言っ ての自覚を育てたいという話がありました。この計画の段階で, ていたので,みんなにそのことを伝え,私も集中して避難訓練 子どもたちが担うことが出来る役割は子どもたちに担ってもらお をやろうと思いました。 うと考えました。子どもたちには煙体験ハウス,起震車には全 員が体験し,煙の恐ろしさ揺れの恐ろしさを体で覚えてもらっ ●河田 ありがとう。市長よかったですね。こういう賢い小学生 たと思います。バケツリレーは,地域住民と子どもが交互に並 が,この試みをやったから,こういう子どもたちが出てきている び,協力して実施しました。倒壊家屋からの救出訓練では んですね。ですから,いきなり全部の小学生,中学生じゃなし 60kg あるダミーの人形を救出します。ダミー人形の両脇に手を に,伸びる子どもをどんどん見つけてやっていただきたいなぁと 入れて引き出しますが,足が挟まっているから動かない,60kg 思うんです。 83 議題3 ●河田 吉田さんいかがですか。地域ではどんどん高齢化も 未来のまちづくりを担う子どもたちに期待する 進んでいると思うんですが,その点も踏まえて,子どもたちにど こと んなことを期待したいですか? ●河田 じゃあ,以上のことも含めて,子どもたちに期待するこ とが,学校の防災教育にあると思うんですが,市長いかがです ●吉田 私自身,今年度,研究委嘱校の取組に関わって,子 か? どもたちの防災意識の高さには驚きました。そして,地域の子 どもたちの力は,大変大きいなぁと感じました。子どもたちには ●濱田 福田さんの発言を聞いて,これ以上言うことはないん これからも,地域の防災訓練に参加して,体で覚えてもらい, ですけども。むしろ,我々,大人がもう少ししっかりせないかん 一人ではできない,みんなと一緒に力を合わせることの大切さ なと思ってます。 を知っていただきたいと思っております。 先ほど楽屋で河田先生とお話していただいて,南海東南海 先ほど,上道校長先生が課題としてお話いただきましたが, 地震が 30 年代で 70%の確立であると,かつ 2030 年くらいから 現在,高槻市コミュニティ市民会議では市内全域 32 地区に地 急激に確立が上がってくると聞きました。ちょうど福田さんの世 区防災会の設立を進めています。来期には,磐手地区でも防 代だと,就職をして,仕事をようやく覚えてという,そのぐらいの 災会の設立を考えております。本年は,阪神淡路大震災が起 年頃なのかと思います。 きて 20 年の節目になりますので,大震災を経験された語り部さ ぜひとも,我々としては,子どもたちにこういった防災教育と んに来てもらって,話を聞きたいと思っております。その時は, いうものを高槻ではしっかりとやっていって,これを面倒くさがら 阪神淡路大震災を経験していない八中校区の小学生,中学 ずに勉強してもらって,もし万が一の地震が起こったときには, 生にも参加を呼びかけようと思っておりますので,よろしくお願 地域のリーダー,家族のリーダー,社会のリーダー,防災リー いいたします。 ダーとして活躍できるような,そんな教育,環境を作っていきた いなぁと思っています。 ●河田 どうもありがとうございます。 恥ずかしながら,地震が起こっても,我々が子どもの頃という 上道先生,こういう試みをやられて,あらためて子どもの可能 のは通り一遍の訓練しか経験したことがなくって,地震が起こり 性っていうか,そういうものにお気づきになられた思うんですが, ましたと言ったら机の中にもぐるという,それだけの,あと校庭に その辺も踏まえてお話いただけますか。 行くぐらいの防災訓練しかしていなかったですから。今,ちょっ と大きな地震が起これば,どうしていいか分からないという方が ●上道 大きな震災,災害が起きますと,想定外という言葉が 結構,いらっしゃるんじゃないか。そういうのではなくて,しっか 最近よく聞かれて,いや,それではいかんやろとも言われるん り災害に備えていけるようにしたい。 ですけども,学校はたとえ想定外といわれるような大きな災害 あと,もう一つ,高槻は,地震もそうなんですが,やはり,水 が発生しましても,子どもの命は守り抜く,教職員の命も守ると 害の記憶が多い町ですので,そういう歴史も教えていきたい, いうことが出来る場所でなければならないと思っております。 情報も提供していきたいと思っていますので,それについても そのために,先ほど河田先生にもご指摘いただいたような予 学んでいただけたらなと思っています。 定調和の訓練だけではなくて,いわゆる本番に備えたと言いま すか,さまざまな想定に対応した避難訓練が出来るように,ま 84 た,家庭と地域が一丸となって防災教育を進める必要があると はほとんど何も建っていませんでした。それを見て,私たちが 思いますし,子どもたちは,さまざまな可能性,大きな可能性を 過ごしている当たり前の生活が大切だということをあらためて感 一人ひとり持っております。 じました。 必ずしも,将来,高槻に定住するということはなくて,全国に そして,今当たり前の生活が出来るのは,家族,友だちなど 羽ばたき,世界に羽ばたいていく子どもたちがたくさんいるわ 身近な人の支えがあるからこそだと思いました。なので,身近 けです。 な人に感謝して,将来,私も感謝される存在になりたいと思い とはいっても,防災を含めて,地域を担う人材というのは絶対, ました。 不可欠なわけでございまして,そういう子どもたちを地域の皆さ ん方とご相談をしながら,連携しながら,いかに育てていくかと いう,将来想定される災害に備える力というのは今の子どもた ちにしか期待できない。それを見通して青少年の健全育成を 地域で担っていく必要があるんではないかと思っております。 もちろん,地域の主体性を尊重しつつ,学校がそれに対して どのような役割を果たすことが出来るか。地域教育協議会を通 じて学校と地域の連携は深まっていますが,より一層地域と学 ●河田 ありがとう。 校の連携や協働のあり方について模索していかなければなら 今日,ここにおられる高齢者の方,いかがですか。今の福田 ないかなあと思っております。 さんのことば聞いて,涙出てくるじゃないですか。それぐらい, ●河田 ありがとうございます。 逆に高齢者の方,子どもを大事にしていただいてますか。「迷 じゃあ,最後に,福田さん,こんな,とても大切な経験して,これ 惑なやっちゃな」と思っている人,多いんじゃないですか。 でも,やっぱり,まちというのは,いろんな方たちが協力しな から何かやりたいことあるかな? いと,安全・安心だけじゃなくて,うまくいかないことがいっぱい ●福田 東日本大震災が起こったときに,津波から逃れるため ありますので,災害が起こると,その矛盾が大きく拡大して出て に,中学生が率先してお年寄りや小学生の手を引いて逃げた くるという嫌な性質を持っているんです。ですから,災害が起こ 地域があると聞きました。もし,高槻で地震が起こったときに, る前から,どんなまちであるかということが,災害が起こった途 私も手助けを必要とするお年寄りの方々と一緒に逃げるなど臨 端にバッと出てくる。 機応変に対応したいと思いました。そのためには,日ごろから もちろん,これから高槻市は学校での防災教育を中心にしっ 地域の行事にも積極的に参加して,どのあたりに住んでいる かりやっていただくと同時に,ふだんの高槻市民の人たちの生 方々に手助けが必要かということなど知っておきたいと思いま 活においても,高槻市役所の役割,あるいは,皆様方自身の した。 役割,地域の役割,学校の役割,すべてがとても実は,つなが っていて,大事だということを,今日,4 人のパネリストの皆さん また,自分が持っている知識を,知識だけにとどめるのでは の意見を聞いていただいて理解いただけたと考えています。 なく,いざと言う時に行動に移せるようにしたいと思いました。大 高槻市は,これからも学校での防災教育を学校だけに閉じ 槌町は小・中学校など,まだ多くの建物が仮設でした。また,町 85 ずに,地域に開かれた形で展開していただくことになると思い ますので,みなさん方も,「学校でこんなんやっているよね」じゃ なくて,皆さん方の家庭と直結しているという形で,今,福田さ ん,いいこと言ってくれましたが,こういう充実した市民としての 生活が出来るのに対する感謝といいますか,それがないと文 句ばっかり出てくる,「こんなこと出来ないのか」「あんなことやら ないのか」という文句ばっかり出てくるようなまちにしてはいけな いんです。一人ひとりのご努力といいますか,協働と言うんで すけども,そういうことが,これからは特に重要ではないかと思 っています。 短い時間でまとめるということには至りませんが,今日,素敵 な話題を提供していただいたパネリスト 4 人の方に拍手をいた だいて,これで終わりたいと思います。 どうも,ご静聴ありがとうございました。 86 たかつきの防災教育 ー子どもたちの命を守り抜くためにー 作成協力校 高槻市立磐手小学校 高槻市立奥坂小学校 高槻市立第八中学校 事務局 高槻市教育委員会 教育指導部 教育指導課 協力 高槻市 総務部 危機管理室 87 高槻市教育委員会事務局 教育指導部 教育指導課 〒569-8501 高槻市桃園町 2 番 1 号 ℡072-674-7631 88 た か つ き
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