ハンディカメラ入力によるビリヤード戦略発想支援システム - HVRL

ハンディカメラ入力によるビリヤード戦略発想支援システム
内山 英昭
斎藤 英雄
慶應義塾大学大学院 理工学研究科
1. はじめに
ビリヤードは,球を打つ方向,強さ,それら
に基づくキュースティックの動かし方など様々
なことを考慮しながら行う必要がある.しかし
ながら,初心者が球の力学的な挙動を考慮しな
がら狙い方を決定することは難しい.そこで,
本研究ではビリヤードの戦略発想支援システム
を提案する.戦略とは,ゲームを有利に進める
ための狙い方を決定することであり,手球の初
速度と方向を算出し,最適な球の軌跡を示すこ
とで狙い方の発想を支援する.
本手法では,戦略をビリヤード台上の球の配
置に基づいて決定する.このため,ハンディカ
メラによってビリヤード台を撮影した画像列か
ら画像処理によって球の位置を算出する.次に,
各ポケットに対し,的球を入れることが可能な
パスが存在するか(ポケット可否)を判別する.
最後に,手球に初速度と方向を与えて力学シミ
ュレーションを行って最適な初速度と方向を探
索し,結果として球の軌跡をディスプレイに CG
を用いて表示する.今回は複数あるビリヤード
ゲームの種類のうち,ナインボールを対象とす
る.
2. システムの概要
図 1 に本システムの入力と出力を示す.ハン
ディカメラでビリヤード台全体が写るように撮
影した複数視点の画像列を入力とする.入力画
像列から推定した球の配置に基づき,出力では
図 1 の(b)に示すように,手球(打つ球)を的球
(狙う球)に当てる位置(イメージボール),
(a) 入力
(b) 出力
図 1 入出力の例
Billiard Supporting System based on Strategy Analysis from
Handy Camera
Hideaki UCHIYAMA and Hideo SAITO
Graduate School of Science and Technology, Keio University
狙うポケット,球の軌跡をアニメーションで示
す.OpenGL を用いて 3 次元的に描画をしている
ため,視点を変えて見ることができる.
3. 位置の算出
1 枚の画像から球の 3 次元位置を算出する.初
めに,色を用いてビリヤード台と球の領域を分
類して抽出する.抽出されたビリヤード台の領
域を多角形近似し,その形状からビリヤード台
の平面射影行列を算出する.この平面射影行列
を用いて球の 3 次元位置を算出する.
4. 最適な球の初速度と方向の算出
ゲームを有利に進めるために,球の配置から
ルールに基づいてポケット可否を判別した後,
力学シミュレーションを行って最適な初速度と
方向を算出する.
4.1. ナインボールのルール
9 つの的球と 1 つの手球を使用し,テーブル上
にある最も小さな数字の的球に当て,9 番の的球
をポケットにいれた者の勝ちとなるゲームであ
る.以下に戦略の算出に関係するルールを示す.
① ポケット成功時,連続してショット
② ポケット失敗時,ショット権は交代
③ ファール時,フリーボール(任意の位置に
手球を置くことができる)
4.2. ポケット可否の判別
各ポケットに対し,ポケット可否を判別する.
各ポケットと的球の位置関係からイメージボー
ルの位置が一意に決まり,手球とイメージボー
ル間,ポケットと的球間のベクトルの成す角と
それらの間の障害物の有無によってポケット可
否を判定する.
フリーボールの場合,的球の周辺に置いたと
仮定し,入れられるポケットの探索を行う.
4.3. 初速度と方向の算出
ポケット可否の判別結果を基に,手球を打っ
た後の理想的な球の配置を算出する.初速度に
よって結果の球の配置は大きく異なるため,速
度を変化させて摩擦と衝突を考慮した力学シミ
ュレーションを行い,理想的な球の配置となる
球の初速度と方向を算出する.
ポケットが可能な場合と不可能な場合では,
打った後の理想的な球の配置が異なる.それぞ
れの場合について以下に理想的な配置を示す.
①
ポケットが可能な場合
ポケットが成功すると連続してショットで
きるため,次の的球が狙いやすい位置に手
球がくるように打つ.
②
ポケットが不可能な場合
ポケットを失敗すると相手と交代するため,
相手が打ちにくい位置に手球と的球がくる
ように打つ.(これをセーフティと呼ぶ)
手球に初速度と方向を与えて,球の衝突につ
いてのシミュレーションを行い,シミュレーシ
ョン前と後の球の配置の評価を行う.図 2 のよ
うに,評価は距離と角度について行う.距離が
短い,角度が 180 度に近ければ大きければ打ち
やすくなる.各狙い方において,最良な評価の
場合の初速度と方向を算出する.
図 3 ポケットを狙う場合
図 4 のセーフティの結果,図(b)において手球
と的球の間に他の球があり,打ちにくい配置に
なっていることが分かる.
(a) 解析結果
(b) 理想の配置
図 4 セーフティを狙う場合
(a) 球の位置
(b) 最適な軌跡
図 5 フリーボールの場合
図 2 評価する項目
5. 結果
ポケットを狙う場合,フリーボールの場合に
ついて,シミュレーション前の球の位置と最適
な手球の軌跡を示し,セーフティを狙う場合は
手球の軌跡とシミュレーション結果の理想的な
配置について示す.
6. まとめ
ビリヤードの戦略発想支援システムとして,
画像列を入力とし,解析結果を CG を用いて表示
するシステムを提案した.今後,タブレット PC
や携帯電話などに本システムを導入していける
ようにする.また,球の動きのみを表示してい
るため,理想的な手の動きも表示する.
参考文献
(a) 球の位置
(b) 最適な軌跡
[1] S. C. Chua, et al., “Decision Algorithm for Pool
Using Fuzzy System,” ICAIET2002, pp.370-375,
2002.
[2] T. Jebara, et al., “Stochasticks: Augmenting the
Billiards Experience with Probabilistic Vision
and Wearable Computers,” ISWC1997, pp.138145, 1997.
[3] 緒方祐介, 有田大作, 谷口倫一郎, “ビリヤ
ードを対象としたプロジェクタ・カメラシ
ステムによる実世界作業支援,” 2006-CVIM154, pp.181-188, 2006