2011年度後期2月合宿

2011 年度後期早稲田大学雄弁会
2 月合宿レジメ
自治
法学部 1 年 上田 隆太郎
目次
1 社会認識
2 理想社会・問題意識
3 地方自治の理論
4 地方自治の歴史
5 自治制度の種類
6 地方自治体の現状
7 改革の潮流
8 政策
社会認識
現在の日本は成長が不均衡な時代であり、地域主義の時代である。戦後日本国は全国規
模の地域政策によって国土の「均衡ある発展」を目指した。全国規模の地域政策とは、全
国総合開発計画を頂点とした国主導の計画行政であり、その性格は全国一律で画一的であ
った。このトップダウン式の政策を執行する末端機関として地域行政は位置づけられた。
しかし中央政府主導の地域政策は行き詰まりを見せ、一度埋まりかけた格差が再び広が
っている。この現状に対応すべく、地方分権論に代表される地域主義、すなわち地域的個
性を背景として、地域住民が主体となって「地域のことは地域で決める」社会を達成しよ
うとする試みが広がっている。地方分権推進一括法の制定や地域政党の誕生がその例であ
る。
理想社会・問題意識
私の理想とする社会は「安心して暮らせる便利で快適な社会」である。
「安心して暮らす」
とは、生活を営むための生業を持っているだけでなく、土着的な文化に囲まれて、暮らす
地域と精神的な繋がりを持つことで「安心」出来ることを言う。また、自分の所属する共
同体の意思決定に加わり、共同体の一員として尊重されることで「安心」出来ることを言
う。
「便利で快適」とは、日々の生活の質が担保されたことを言う。
安心して暮らすには生活のための賃金を得る場が必要である。しかし地方圏の経済は低
迷しており、就業の機会が不十分な為に、生産年齢人口が流出する。経済が収縮し人口が
流出すると自治体財政が悪化し、生活の質が担保出来なくなる。例えば社会インフラの整
備、運営が出来なくなる。
地域社会を支える最も身近な機構である地方自治体は消防・救急、地域交通、インフラ
整備等の安心、便利、快適の要素を満たす働きをする。教育や地域文化振興など地域文化
の保護も担う。
地方自治体の意思決定に住民が参加し、共同体という共通の場で発生する問題に共同体
の一員として関ることで住民の気概が満たされる為には、自治体の機関、つまり地方議会
や首長が住民の考えを聞き入れ、実際に反映させることが必要である。
しかし、その機関、特に地方議会が機能を空洞化させており、住民自治を具体化できな
くなっている。
統一地方選挙の投票率は 4 割台と低調であり、議会の活動は活発ではない。例えば傍聴
に訪れた住民に対して審議資料を配る議会は全体の半分に満たず、ホームページで審議内
容を公開した議会は 2 割である。さらに議員の賛否の公開はほとんど行われず、委員会採
決に関しても 9 割が非公開である。9 割以上の議会は市民と直接対話する場を設けていない。
議員は市民の目に晒されにくいので、責任の所在が不明確となり、ますます議会の活動は
蔑にされるのである。現状は私の理想とする社会である「安心して暮らせる便利で快適な
社会」を実現する妨げとなる。従って私は「地方議会の機能不全」に問題意識を抱くので
ある。
1 地方自治の理論
戦後の日本国憲法は一章を費やして「地方自治」を定めている。第八章九十二条「地方
公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基づいて、法律でこれを定め
る」の部分が日本の地方自治の基本理念である。
「地方自治の本旨」の明確な定義は無いが、一般には「住民自治」と「団体自治」の二
つを指すとされる。住民自治とは、地域団体の組織・運営を、地域住民がその意思に基づ
き自らの手で(選挙を通じて、または直接民主的に)行う原則1であり、団体自治とは、当該
地域団体が国家とは別個の法人格をもち、国家から相対的に独立して、自らの地域の事務
を自らの責任において処理すること2である。
憲法に規定され、当然のものとして受け入れられている「地方自治」は如何なる根拠に
依るのだろうか。
地方自治の理論的根拠は「伝来説」と「固有説」に分けられる。
「伝来説」とは、地方自
治権の本質は、国家の統治権から伝来するものとする説3である。近代国家の統治権は全て
国に帰属し、地方自治体は国の統治の一環を担うに過ぎず、その自治権も国から与えられ
水島朝穂『18 歳から始める憲法』法律文化社 p106
同上
3 自治基本条例における「信託論」について-中-
http://dp17299250.lolipop.jp/_userdata/jichi_200803hp.pdf(2012.2.14)
1
2
て初めて正当性を得るとの考えである。反対に、
「固有説」とは地方公共団体の自治権は国
家が誕生する前から各地方が持っていた当然の権利だとする説である。
後者からはさらに「基本的人権説(新固有説)」が生まれる。国民は、基本的人権の内容
として、適切な統治を国家に請求する権利を有しているとし、その統治が適切かつ効率的
であるためには、身近な行政ニーズに応えられる統治団体、すなわち地方自治体が行う必
要があるとして、固有の権限を認めるもの4である。社会の問題はなるべく身近な場で解決
せねばならない(当事者主権)との考えであり、「補完性の原則」と呼ばれるものである。
4 地方自治の歴史
4-1 戦前の地方制度
日本は明治維新期に、プロイセンを範として国家システムを創った。地方制度もプロイ
セン流のヨーロッパ大陸型制度を輸入したものである。日本の地方制度の始まりは 1871 年
の廃藩置県である。江戸時代 300 近くあった藩を廃止し、新たに 3 府 72 県(当初は 302 県)
を設置した。同時に従来地域を代表していた庄屋・名主などの村役人を廃し、新たに中央
政府の地方官である区長・戸長を設置した。名望家を中心とした従来の地方自治を否定す
る中央政府の強引な手法は反発を招き、やがて地方の豪農を中心に、地方自治の確立が叫
ばれるようになる。
自由民権運動と軌を一にした地方自治制度の訴えに対して、明治政府は 1888 年に市制・
町村制を、1890 年に府県制・郡制を制定した。内務省を頂点に府県‐郡・市‐町村のヒエ
ラルキー構造を持つ制度である。この市制・町村制、府県制・郡制をもって近代の地方自
治制度は確立したとされ、以降第二次世界大戦終戦まで基本的には変わることはなかった。
戦前の地方制度においては、地方の郡や府県は国の地方行政機構として扱われ、府県知
事や郡長は、官選、つまり内務省の官吏が中央から派遣されるものであり、府県会議員は
下部の郡会・市会議員による間接選挙で、郡会議員は町村会議員の間接選挙で選ばれた。
市町村長も市会・町村会の推薦で選ばれ、公選の市会・町村会にしても有権者は多額納税
者に限られていた。
4‐2 戦後の地方制度
戦後、大陸型の中央集権的地方制度は大きく変革される。憲法で地方自治を保障し、府
県知事は公選とした。市町村長も議会を通じた間接選挙から住民による直接選挙へと変え
られ、直接請求制度も作られた。戦後の地方制度にはアメリカが大きく関与している。GHQ
民政局のティルトンを中心に始まった地方制度設計は、
「地方分権」
・
「二元代表制」の 2 つ
の原則を持っていた。地方制度に於ける二元代表制は世界的にも珍しく、民主化の一環と
してアメリカ本国の三権分立の理論を日本の地方自治に適用したものと考えられる。
しかし同時に機関委任事務なる制度が加えられる。その名の通り、国に業務を「国の機
4
同上(2012.2.14)
関として」地方に委任し、執行する制度である。都道府県知事と市町村長に国の地方機関
としての役割を持たせるものであり、国→都道府県→市町村のヒエラルキーを持つ新たな
中央集権体制を生み出す制度であった。
戦後の地方自治制度は、首長と地方議会を対等な機関とする二元代表制を採用したにも
かかわらず、首長の業務の大半は国の業務だった為、議会としても審議する余地を持たず、
戦後長きに亘って地方議会はお飾りであり、
「有って無き様なもの」だったのである。
また地方行政への国の関与も、旧自治省からの出向という形で温存され、中央集権的色
彩を残すものであった。
4‐3 現在の地方制度‐地方分権改革の潮流
これまで、地方自治体は日本の行政の三分の二を請け負ってきた。もちろん、自治体が
独自に行政を担っていたのではなく、国が決めたことを機関委任事務の名の下、委託業務
として処理していたに過ぎない。だが、2000 年 4 月、地方分権一括法が施行され、国によ
る地方自治体の支配の象徴であった機関委任事務が廃止されることになった。その結果、
地方自治体の業務は自治体自らが行う①自治事務、国の委託を受けて自治体が行う②法定
受託事務、③国の直轄事務に分類された。機関委任事務は都道府県業務の 7 割から 8 割、
市町村業務の約半分を占めていたとされるが、これらの大半が自治事務となったのである。
同時に地方議会は自治体の行う業務の 100%の領域について審議権を持つことになった。
地域のことを地域で決められるようになった一方で、今までのように国に頼り切った自
治体運営は出来なくなったのである。
地方分権の流れを受けて、2000 年 7 月、地方分権推進委員会第二次勧告は、
「地方分権
の推進に伴う自己決定権と自己責任の拡大等に対応し、地方公共団体の意思決定、執行機
関に対するチェック等において、地方議会の果たすべき役割はますます大きくなる5」と述
べた。
だが、そもそも地方議会議員と首長を別個に選挙する二元代表制度自体の意義を問い直
す考えもある。下に述べる通り現状の地方議会が空洞化していること、それにも関らず自
治体は活動し続けていることから、地方議会不用説も現れている。大阪市長の橋下徹氏は
「地方議院内閣制(一元代表制)」の導入を提言している。
5 自治制度の種類
世界の地方自治制度は概ね 2 種類に分類される。英米型(アングロ・サクソン系)と大陸型
(ヨーロッパ大陸系)である。イギリス由来の英米型地方自治は英連邦諸国やアメリカに受け
つがれ、フランス由来の大陸型は南欧諸国、ラテンアメリカに広がり、ドイツや北欧でも
受け入れられた。
英米型の地方自治制度は「分離・分権型」の制度である。地方自治体は憲法上の地位を
もたず、自治体の権限は法律が個別に列挙した事務に限定される。国が全国的に事務を行
5
地方分権推進委員会第二次勧告(2000 年 7 月 8 日)
いたい場合は、地方自治体に委任せず、国が独自に各地方に出先機関を設置する。
自治体は一度与えられた権限について、国から自治体に監督が及ぶことはなく、国と自
治体は基本的に隔離されている為、自治体の自律性は高い。しかし、自治体に対して国会
が圧倒的に優越しており、極論すれば国会議員の一存で自治体が消滅する可能性もあるこ
とから、地方自治制度として問題点が大きいとする向きもある。
一方プロイセンやフランスで生まれた大陸型の地方自治制度は、「集権・融合」のシステ
ムとされる。大陸型制度の下では、地方政府はあくまで国の下部組織に過ぎず、国から指
示・監督を受ける立場にある。各地域における行政を地方自治体が行う際に、中央政府が
各事務内容に深く関与する仕組みであり、地方政府の業務が国、広域自治体、基礎自治体
の間でしばしば重複することから、
「集権・融合型」システムと呼ばれる。融合型とは、英
米型制度のように、団体ごとの役割分担が明確化されていないという意味である。大陸型
制度が生まれたヨーロッパ大陸諸国では、地方に割拠した封建諸勢力を解体し、中央政府
の影響力を強化せねばならなかった。ゆえに地方政府に自治を認めさせず、中央政府(内務
省)から各地方へ官吏を派遣し、中央の統治が全国に及ぶようにしたのである。戦前の日本
では大陸型の自治制度が採用されており、全国の府県知事は内務省からの出向者で占めら
れていた。
6 地方自治体の現状
従来は機関委任事務に対して審議権や条例制定権を持たなかった地方議会だが、地方分
権改革が進んだ結果、地方議会の担う役割は急増している。いまや議会は自治体の全業務
に対して審議権、条例制定権を持ち、自治体の予算を見直す権限も与えられた。分権の受
け皿である地方議会の現状はいかなるものだろうか。全鳥取県知事の片山善博は、地方議
会の実態を指して、
「全国の地方議会は八百長と学芸会をやっている」と批判した。平成 17
年の第 28 次地方制度調査会答申では、地方議会の審議の空洞化・儀礼化、女性・若年層の
仮称代表、議員提案の少なさ、チェック機能の甘さ、市民参加の少なさ等が指摘された。
地方議会に期待されている役割は主として以下の 3 つである。
1 住民代表機能
2 行政のチェック機能
3 政策立案機能
議会への批判が高まる中で、全国の地方議会で「議会基本条例」が制定されつつある。
議会基本条例は簡単に言うと地方議会の憲法である。議会と議員の役割・責務や、住民参
加の拡大、首長との緊張関係の維持について詳細に記されており、行政監視や議員提案の
充実化、市民参加の拡大についての具体的な取り組みが定められている。
日本初の議会基本条例は北海道栗山町で生まれた。栗山町は、夕張市に隣接する自治体
であり、隣町の財政破綻は栗山町民に危機感を持って受け止められた。夕張市議会の行政
監視が健全に行われていれば夕張市の財政破綻を未然に防ぐことは出来た。議会が責任を
持って自治体の予算を管理せねば、との危機感から議会改革が推し進められたのは言うま
でもない。
都道府県議会では三重県議会が最も早く議会基本条例を可決した。栗山町議会、三重県
議会の機会改革は全国の議会改革のモデルケースとなり、2009 年までに全国 68 の議会が
基本条例を制定している。
4 地方議会に期待される役割
地方議会に期待される役割は主に以下の 3 つである。
1. 住民代表機能
2. 行政のチェック機能
3. 政策立案機能
1.住民代表
住民自治の具体化の為、地方議会は民主的な正当性と代表制が担保されなければならな
い。さらに地方議会議員は一度公職に就いた後も恒常的に住民と接触し、住民の意思を反
映させなければならない。地方議会はその役割をはたしているだろうか。第 28 次地方制度
調査会(平成 17 年 12 月 9 日)は、住民参加への取り組みが遅れていることや審議の不透明性
を指摘し、議会に対し改善を求めている。
住民と直接対話する機会の有無
ある
9%
ない
91%
地方分権推進委員会第二次勧告は、地方分権の進展に伴い住民のニーズがより正確か
つ迅速に反映されることを地方議会議員は地域住民の代表として地域の意思を決定し、行
政執行を監視し、政策立案を通して具体化する役割が期待されている。
しかし住民との対話の機会を持つ議会はほとんど無く、議会の決定を住民に報告し意見
を聴く場を担保する議会も珍しい。議会の決定を市民に報告した例は 3%しか無く、規定は
あっても強制ではない為に形骸化する場合もある。
議会報告会・意見交換会の開催義務
規定があり開催義務あり
規定あり開催義務なし
規定なし
3% 3%
94%
2.行政のチェック/政策立案
地方分権が進み、自治体にも経営責任が問われるようになった為、地方議会の役割であ
る行政監視機能や政策立案機能は今後ますます重要となる。夕張市が深刻な財政危機に陥
った大きな理由には、市の赤字隠しに市議会が最後の最後まで気付けなかったことが挙げ
られている。
行政監視・政策立案の為に議員が用いる手段は「一般質問」である。一般質問は本会議
で行われる審議で、議員が一人一人演壇に立ち、首長や行政職員に質疑を行い、首長以下
行政職員がこれに回答するものである。時間はおよそ 30 分から 1 時間であり、質問の形式
をとりつつも実際には政策の提言を行う議員もいる。一部の議会は、テレビ中継やネット
配信によって一般質問の内容を住民に公開している。
この一般質問、上手く使えば有効だが、現実には全ての議会で有効に使われてはいない。
議員が職員に質問を作らせ、議員は本会議でそれを読み上げるだけ、などの例が報告され
ている。6日ごろから行政に携わり、専門知識を蓄えている行政職員と素人の議員では情報
量や知識量に圧倒的な差がある為、議員としても効果的な質問が出来ないのである。実際、
単純な事実関係の確認に終始する質問も多く、条例提案型の質問は殆ど無い。
6
佐々木信夫『地方議員』p77
議員提出条例
議員提出の条
例案があった
7%
議員提出の条例
案がなかった
93%
また、聞きっぱなし、言いっぱなしの質問が通常であり、執行部からの反問権は保障さ
れていない。結果に対して常に責任を負っている首長に対して議員の責任は問われない為、
責任の非対称が生じ、結果として議会側の緊張感は生まれにくい。
執行部の反問権
100
90
80
70
認めていない
60
50
慣習として認めている
40
30
条例・会議規則等で認めて
いる
20
10
0
本会議
委員会
地方議会は行政の監視役である為、条例提案を行う必要は無いとする意見もあるが、地
方議会の役割は単に監視に留まるものでは無い。日本の地方自治制度は二元代表制を採用
し、決定を議会に、執行を首長に委任しているからである。議会がチェックするのは議会
の決定を首長が忠実に実行しているかどうかであり、何を行うか決定するのはあくまで議
会である。
一般質問は議員個人が特に責任を負うことなく、執行部に意見を述べる場である。一般
質問が行われる間、他の議員は沈黙し、賛否を示すことは無い。本会議では兎も角、専門
部会である委員会に於いても議員間の討議は行われていない。この為、現状の地方議会は
合議制であるとは言い難い。議員間の情報共有や、議会の意思を形成する為にも議員同士
の恒常的な議論は必要不可欠である。
本会議で行っ
ており議事録
に残す
10%
議員同士の討議
委員会で行って
おり議事録に残
す
8%
本会議で行って
いるが議事録に
残さない
0%
行っていない
79%
委員会で行っ
ているが議事
録に残さない
3%
また全国の地方議会が抱える問題として議会の総与党化が挙げられる。議会の総与党化
とは、本来行政の監視機関であるはずの地方議会が首長の翼賛機関と化すことである。
二元代表制を採用する地方議会では本来は与党、野党の区別は存在しない。チェック機
関として全体が野党的でなければならないからである。
しかし、議会の中にも首長に賛同するもの、反対するものがおり、彼らが議会内の与野
党勢力となるのである。
議会運営で議会が総与党化してしまうのは以下のプロセスによる。
① 議会に執行権が無く、政策立案能力も事実上ない
② 議員は地方選挙において政治家としての実績をアピールし難い。
③ 首長には執行権があり、政策立案能力もある(大量の行政職員を抱えている為)
④ 首長の理念、政策に賛同することで首長の実績と議員の実績を一致させる。
⑤ 議会が首長の翼賛機関となる
こうして地方議会に期待される行政のチェック機能は失われていくのである。
7 改革の潮流
議会への批判が高まる中で、全国の地方議会で「議会基本条例」が制定されつつある。
議会基本条例は簡単に言うと地方議会の憲法である。議会と議員の役割・責務や、住民参
加の拡大、首長との緊張関係の維持について詳細に記されており、行政監視や議員提案充
実化、市民参加の拡大についての具体的な取り組みが定められている。
日本初の議会基本条例は北海道栗山町で生まれた。・栗山町は、夕張市に隣接する自治体
であり、隣町の財政破たんは危機感をもって栗山町民に受け止められた。夕張市議会の行
政監視が健全に行われていれば夕張市の財政破綻を未然に防ぐことは出来た。議会が責任
を持って自治体の予算を管理せねば、との危機感から議会改革が推し進められたのは言う
までもない。
都道府県議会では三重県議会が最も早く議会基本条例を可決した。栗山町議会、三重県
議会の議会改革は全国の議会改革の手本となり、2009 年までに全国 68 の議会が基本条例
を制定している。
8 政策
8‐1 議会基本条例の制定
各議会の運営上の基本原則を纏めた「議会基本条例」を制定する。地方分権が進み、
自治体の責任は大きくなっている。議会基本条例は議会改革に必要な取り組みを個別に定
めたものであり、各議会の議員は基本条例に拘束される。
取り組みの具体的な内容は、
市民参加の拡大
「議会報告会」を定期的に開催し、住民と議員が熟議を行う場を担保する。
住民の利便を考慮し、休日・夜間の開会を行う。
審議公開を行い、住民の発言権を認める。
議員情報をインターネット等を通じて公開する
審議・政策立案能力の向上
政策委員会を設置し、議員間の討議の場を設ける。
議員による政策立案を補助する政策スタッフを議会事務局に設置する。
現状開かれていない公聴会、参考人制度を活用し、議員の専門知識の向上を図る。
当選後、議員研修を義務化する
これらの個別具体的な改革は①合議制機関としての議員間討議、②議会としての政策立
案機能の発揮、③住民に開かれた議会活動、を軸としている。
議会基本条例は更に、議員と執行部の関係についても厳しく規定する。
こうして議会が、自治の上での争点を示し、解決策の提案を住民の参加とともに行う機
関として自治体の一翼をなす存在とあることを目指すのである。
議会基本条例は各議会が個別に制定するものであり、その内容はそれぞれに異なること
だろう。しかし、原則としては、徹底した住民参加、情報公開に基づくものである。
住民参加なくして自治とは言えない。住民自らが地域を動かしていく為に、議会はその
あり方を変えなければならない。
参考文献
稲継裕昭『地方自治入門』有斐閣コンパクト
水島朝穂『18 歳から始める憲法』法律文化社
重森暁『地方分権‐どう実現するか』丸善ライブラリー(1996)
佐々木信夫『地方議員』PHP 新書(2009)
日経グローカル『地方議会改革マニフェスト』日経新聞出版
日経グローカル『地方議会改革の実像あなたのまちをランキング』日経新聞出版
阿部孝夫『地方自治の意義と形態』高崎経済大学地域政策学会(1999)
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/refer/200912_707/070702.pdf
www.ndl.go.jp/.../publication/refer/200607_666/066608.pdf
e-chihiro.com/img/sotsuron.pdf ·
www.tkfd.or.jp/admin/file/pdf/lib/26.pdf
www1.tcue.ac.jp/home1/c-gakkai/kikanshi/ronbun1-3/abe.pdf
www.tkfd.or.jp/admin/file/pdf/lib/35.pdf
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