分科会 2-C:日中双方の会計税務への取り組み方 日本側講演者 伊東 幸彦(上海ダイキン空調有限公司 社長) 和田 朝喜(デロイト・トウーシュ・トーマツ上海事務所 日系企業担当パートナー) 中国側講演者 張 張 伊東 克 (信永中和会計師事務所 董事長 主席パートナー) 躍 (遠大空調有限公司 董事長兼総裁) 氏 和田 氏 張 克 氏 張 躍 氏 (和田) お待たせしました。準備が整いましたので、始めさせていただきます。 本日の進行役とお話の一部を担当させていただく、監査法人トーマツの公認会計士の和 田と申します。99 年から上海に駐在しておりまして、日系企業を担当して、日系企業とお つきあいをさせていただいています。本日の講師の方を簡単にご紹介したいと思います。 まず、皆さまから向かって右側の方からご紹介させていただきますが、上海ダイキン空 調の伊東総経理です。上海ダイキンは、日系企業として中国で非常に成功を収められてい る有名な会社であり、その辺の秘訣等もお話しいただけるのではないかと思っています。 そのお隣は、張克公認会計士です。中国における有力な会計事務所である信栄中和会計事 務所の董事長で、中国の会計士協会の役員等をされており、また、大学の先生もされてい ます。非常に見識の高い方なので、中国の会計士としてのお話をお伺いできるのではない かと思っています。一番こちら側にいらっしゃるのが、張躍董事長です。遠大空調有限公 司の董事長兼総裁でいらっしゃいまして、遠大空調は、吸収式エアコンのメーカーとして 非常に成功をされている会社と聞いています。 この進め方ですが、私のほうでまず最初に中国の会計税務制度について、日本人の公認 会計士から見た特徴というのでしょうか、日本の規格から見て、この辺が特徴だなという ところを簡単にまとめてありますので、そこを最初にお話しさせていただきまして、次に 張克先生から中国の公認会計士の目から見た中国の会計制度の特徴等をご報告していただ きます。続いて、上海ダイキンの伊東総経理から、実務家として会計税務に対して日ごろ 持っておられる問題意識等々についてお話をいただきます。そして最後に、我々3人の話 を聞いていただいたうえで、中国の実業家として、張躍総裁からコメントを賜わりたいと 思います。そのあと、皆様方からご質問等をいただきたいと考えています。 1 それでは、時間も押していますので、まず私のほうから、日本人会計士から見た日中会 計税務制度の違いというところをご説明したいと思います。 (以下PPT併用) ○まずこの四つのポイントに絞って、簡単にご説明をしたいと思います。 まず一つは、いろいろな制度を制定する場合の日中のスタンスの違い、考え方の違いに ついて、簡単に最初に触れたいと思います。次に、日中における会計制度の違いの主な点 を簡単に要約させていただきます。続いて、税務制度における日中の違いの大きなところ をざっとご説明し、四番目として、私は会計士ですので、外資系企業に対する監査の必要 性、これも意外にご存じでない方も多いかと思いますので、ご紹介したいと思っています。 ○いろいろな制度制定についてのスタンスの違いということですが、一言でいうと、 「一気 呵成」と「熟慮断行」という言葉を挙げておきましたが、中国は一気呵成で、あっという 間に制度も作ってしまいますが、日本は熟慮断行、非常によく考えた上でやります。最初 は熟慮断行というよりも、やや優柔不断という面もあるのですが、日本人として「優柔不 断」と書くのは、やはりためらいがあったものですから、あえて期待も込めて「熟慮断行」 という言葉を選びました。中国では、例えば道路をつくるにしても、あっという間にでき てしまいます。日本などは都内の環状線をつくるのに何年もかかって、なかなかできない ということがあるわけです。同じように、制度面についても、かなり思い切って、あっと いう間に、勇気を持ってやってしまう。一方日本は、新しい制度を入れたときの影響等を 非常に慎重に考え、いろいろな議論を重ねてからやるという点があります。 一つ例を挙げると、キャッシュフロー計算書という決算書がありますが、これは実は日 本では、2000 年の3月決算から導入されました。従来は、決算書といえば、貸借対照表と 損益計算書の二つの計算書しかなかったわけです。これについて欧米では、基本財務諸表 というのは貸借対照表と損益計算書とキャッシュフロー計算書の三つがきちんとそろって いるのが常識なものですから、そういう意味で、日本の財務諸表は三つの財務諸表のうち の一つが抜けていたということで、まだ完全な会計制度の財務諸表の体系ではないという 指摘を受けていました。 日本では 2000 年の3月期から、しかも株式を公開している会社に限ってこうしたキャ ッシュフロー計算書が導入されました。実は、中国ではそれよりも早く、98 年 12 月期か ら、すべての会社に対してキャッシュフロー計算書の開示が要求されていました。これは 一例ですが、このように決めると本当に早い。いろいろな面でいえると思いますが、後発 のメリットというのでしょうか、世界中によいものがあれば、それをすぐ取り入れるとい う行動力の早さが中国にはあるのではないかと思います。 二番目の特徴としては、概括的な規定と詳細な規定です。中国では、一般的には概括的 な規定は出るのですが、それに伴なった詳細な規定がなかなか出ないので、実務に当たっ 2 ては非常に困るわけです。そういった困った点が出るのですが、やりながら順次それに合 う規定を出していって、流していくというやり方を取る例が多いように思います。 一方、日本では最初からあらゆる場合を想定して、詳細な規定を作ってから新しい規定 をやるという傾向にあると思います。そういう違いがあるので、一気呵成と熟慮断行とい う違いになって表れているのだと思いますが、このように制度の制定に対して当局のスタ ンスの違いがあります。 ○二点目ですが、日中の会計制度についての違いを簡単にご紹介したいと思います。まず 1点目は、これは中国にいらっしゃる方にはごく当たり前のことだと思うのですが、中国 では決算期は 12 月末と会計法という法律で決められています。したがって、企業は 12 月 末決算以外は選択できないのです。すべての会社が 12 月末決算です。日本はご存じのよ うに、会社が決算期をいつに決めてもいいわけです。日本では結果として3月決算が多い わけですが、別に2月決算でも4月決算でも8月決算でもよく、それは選択可能です。中 国の場合は法律で決められているので、そういう選択の余地がないという点が一つの違い です。 二番目は会計の勘定科目についてですが、会計処理をするときに、日本ではいろいろな 勘定科目は会社が自分の会社の実態に合った勘定科目を設定すればよいわけですが、中国 では、大きな勘定科目(大科目)はすでに法律で決められており、これ以外の科目を使用 することはできないようになっています。これも日本で実務をやっている者からすると、 非常に奇異に感じる点です。ただし、無理やり同じ勘定科目を使うように当てはめていく ものですから、横で比較するときには便利だという利点はあると思いますが、企業の実態 を表しにくいというデメリットも反面あるのではないかと思います。 ○次は減損会計です。これは、日本については、非常に大きな議論を呼んでいまして、こ ういう会計を導入すると、景気に悪影響を及ぼすからやめたほうがよいというような意見 も経済界からあったりして、非常に議論呼んだところですが、結果的に 2005 年4月1日 開始事業年度から適用することになっています。減損会計というのは、簡単に申しますと、 持っている固定資産の価値が下がった場合には評価減をするという会計の手法ですが、実 はこれも、最初に申し上げた一気呵成ではないですが、中国ではすでに導入済みです。と いうのは、中国では 2001 年 12 月から新しい会計基準が導入されていて、この内容につい ては後ほど張克先生からご説明があるかと思いますが、これは国際会計基準に非常によく 似た進んだ会計基準です。その中で、減損会計というのがあり、中国ではすでに入ってい ます。そういう意味でも、日本よりもはるかに早く適用されています。しかし、実務指針 のようなものは全く出ていないものですから、実務の運用においては、まだまだ混乱が出 ているというのが実情です。 3 ○四番目ですが、これは会計にあまり詳しくない方には少し分かりにくいかもしれません が、持分法という会計の手法があります。これを簡単にいうと、例えば、30%の持ち分を 持っている関係会社があった場合、 その関係会社が仮に当期 100 の利益を出したとすると、 30%持っているわけですから、100×30%で 30 の利益をその持っている会社の利益として 計上するといったような会計手法です。この持分法という会計手法を中国では個別財務諸 表、その株を持っている会社の財務諸表に対しても持分法を適用するわけですが、日本で は個別財務諸表ではなくて、連結決算を作った場合に初めて持分法を適用するという違い がありますので、この点で大きな違いがあるということがいえます。 もう1点、債権放棄を受けた場合の勘定処理で、特に貸方の処理ですが、これも日中で 違いがあります。日本では、債権放棄を受けたほうは債務を返さなくてもよくなるわけで すから、特別利益という形で損益計算書に利益として計上するわけですが、中国ではこれ は資本準備金として処理して、損益計算書に計上されないという会計のルールになってい ます。この結果、日本の親会社が欠損を抱えている子会社を支援して損を消そうと思って、 親会社の債権を日本の感覚で放棄しても、つまり特別利益で利益計上して損を消せると思 って日本の親会社がやったところ、中国の会計に従えば、これは利益として計上するので はなくて、資本準備金としてしなければならないので、親会社の意図がうまく通じないと いうことにもなりかねません。ただし、1点注意をする必要があるのは、会計上は中国で は資本準備金として処理しますが、税務上は課税所得となりますので、これは課税所得を 構成するという点が一つの注意点です。 もう1点、ここには書いていませんが、リース会計についても少し日中の違いがありま す。中国では、ファイナンスリースといわれるリースは資産計上しなければなりません。 これも国際化基準、あるいはアメリカの会計基準と同じであり、より国際的に近い進んだ 会計基準なのですが、日本では周期方式というのが認められていますので、この点でも違 いがあります。 ○次は、日中の税務制度の違いについて、簡単にご説明したいと思います。 一つは、これも日本にいらっしゃる方には意外かもしれませんが、日本でいう法人税、 中国では企業所得税といいますが、これは二つの法律に分かれていて、中国の会社に適用 される法人税法と外資系企業に適用される法人税法がそれぞれ別の法律になっていて、二 本立てになっています。この点が非常に特徴的です。ちなみに日本では、外資系の会社で あっても日本の会社であっても、法人税法という同じ法律が適用されるわけですが、中国 では法律自体が違っているという状況になっています。いずれは一緒にしようという動き があるのですが、今、改正案等を検討中というように聞いていますが、いつ改正されるか は今のところはっきりはしていません。 ○次は、付加価値税についてご説明いたします。付加価値税、これは日本では消費税です。 4 中国では増値税という名前の付加価値税がありますが、日本との最大の違いは、インボイ ス主義ということで、増値税インボイス、増値税の伝票ですが、増値税発票といいますが、 これがないと仕入税額控除ができないという点が一つの特徴です。日本では帳簿方式です から、帳簿に記帳されている費用項目等に従って計算して仕入税額控除ができるわけです が、中国の場合には、仕入れたときに仕入先からもらった増値税発票の現物がないと、い くら帳簿に記帳されていても、仕入れ税額控除ができません。したがって、それをなくす と税額控除ができないという点があります。 二つ目は、固定資産にかかわる、固定資産を購入したときの増値税が控除できない。日 本では当然消費税は控除できるわけですが、中国では控除できないという違いがあります。 三つ目は、輸出をした場合です。これは、付加価値税の基本的な考え方としては、輸出 というのはゼロ%課税というのが一般的な考え方で、仮に 100%輸出だと、売り上げ×ゼ ロ%でゼロとなります。それに対してもし国内仕入れがあれば、国内仕入れにかかわる付 加価値税を控除するとマイナスになりますから還付を受けられるわけですが、中国の場合 には、必ずしも 100%還付されるわけではないという点が一つの特徴です。 今、日本と中国と併せてご説明しましたが、日本では帳簿主義だということ、そして固 定資産にかかわる消費税も控除できること、輸出にかかわる消費税は還付されるという点 が中国とは違うところです。 ○最後は、監査の必要性です。一般に、日本では監査というと、ごく一部の会社のみが公 認会計士の監査を要求されているわけです。ちなみに、商法の規定によって、資本金が5 億円以上、あるいは負債が 200 億円以上の会社、もしくは上場している会社のみが、会計 監査を要求されるものですから、はっきりいうと、かなり大きな会社のみが日本では公認 会計士による監査を要求されます。これに対して中国では、すべての外資系企業は、中国 の公認会計士の監査を受けて、その結果を4か月以内に関係当局に出さなければならない という規定になっていますので、この辺も随分違います。したがって、日本では、監査を 受けた経験がないような一般的な会社でも、中国に関係会社を作った場合には、そこで会 計監査が必要になってくるという点がありますので、ご留意をいただければよいかと思い ます。 時間の都合で、非常に早足のご説明になりましたが、まず私の方で、このように日中に おける会計と税務の違いを簡単にご説明させていただきました。このあと張克先生から、 中国人の公認会計士として、中国の会計制度についてご説明をいただきたいと思います。 どうもありがとうございました。 (張克) 私の日本語はよかったでしょうか。合っていますでしょうか。来る前に、 「よろ しくお願いします」という言葉も教わりましたが、長いので覚えられませんでした。とに 5 かく、この場をお借りして、中国の会計基準の発展のプロセスおよびその動向、現状につ いてご紹介申し上げます。中国の会計基準について理解していただければ、幸いに思いま す。時間の制限もあって、どれぐらい詳しくできるかわかりませんが、よろしくお願いし ます。 (以下PPT併用) ○この 20 年、中国の会計システムは、抜本的な変革を行いました。会計の基準、会計制 度および財務諸表のすべてに大きな変化が遂げられました。生まれ変わりのような抜本的 な変化だといえます。このような変化を通じて、中国の会計システムは国際的な軌道に乗 り、世界の仲間入りを果たしました。 50 年代に入って、中国は計画経済に沿った会計制度を作りました。とにかく計画経済に 適合したものでありました。そのときに統一したものはなく、財政省がそれぞれの分野、 業種にさまざまなものを与えます。ですから、数はなんと十数種類にも上ります。これは、 非常に厳格に作られていますが、柔軟性に欠けていました。例えば、固定資産用の資金は、 使う用途がなくても流動資金としては扱えませんでした。 もう一つ、昔の会計制度は、それぞれ独立していて、互いに関連性が全くありませんで した。また、互いに融通することもできません。幸い、計画経済の時代には、業種間の分 野別の交流が非常に少なかったものですから、それほど問題になったことはありませんで した。 ご存じのように、70 年代末から 80 年代初期に、中国の改革開放が始まりました。改革 開放の一環は、対外開放と外国資本の吸収・導入です。外国資本の導入に伴い、中国の会 計制度と外国の会計制度との間の矛盾点が浮き彫りにされました。中国の会社の財務状況 は、往々にして外国企業に理解されませんでした。ですから財政省では、そのような状況 の中で、外弁企業向けの会計制度、当時「三者企業」という言い方があって、外資企業に は単独のものはありませんでした。中外合資企業に対する会計制度を、外国関係の企業に 適用していました。 ○1985 年に入って、以上のような制度を一つにし、外国企業向けの会計制度というものが 作られました。 もちろん、当時の状況の中で、このような会計制度は十分に需要を満たすことはできた のです。しかし、時がたつにつれて、計画経済時代に援用してきた会計制度と、さらに改 革開放初期の会計制度との間の矛盾点がますます大きくなってきました。80 年代の後期に 入ると、内部と外部の環境に大きな変化がありました。その会計制度の変更を求める声が 日増しに高まりました。いくつかの要因があります。外国資本がどんどん中国市場に入り ました。80 年代の半ばから、中国は世界でも屈指の外資導入の国になりました。そして 80 年代の終わりごろ、中国企業の株式への上場が始まりました。さらには、対外輸出、国 6 際貿易も大きな発展を遂げ、年々倍増するような状況が続いていました。それに国営企業 も市場経済に沿ったものに移行し始め、利潤を追求するタイプの企業への移行を始めまし た。さまざまな要因が集中して、1日も早い国際的な会計制度を求める声に集約したわけ です。 ○中国政府もこの重要性を認識し、全面的に会計制度を見直し、さらに立て直すことにし ました。88 年 10 月、財政省内部で、会計基準作りの研究グループを発足させました。さ まざまな資料の収集・準備を開始したわけです。そして、93 年2月、会計基準委員会も発 足し、30 にわたる計画が打ち出されました。この中に、さらに専門家グループの作業部会 が二つあって、一つは外国の専門家、ISS(アメリカ国際会計基準委員会)のメンバー も招へいされています。アメリカ会計基準委員会、あるいはイギリスや香港の会計団体の 基準作りの専門家をも招き、その経験を参考にしました。それと同時に国内の専門家グル ープも作られていて、国内の慣行、しきたり、商行為の分析にあたりました。 93 年 11 月、財政省は、企業会計基準(基本基準)を発表しましたが、これは国際基準 と多くのところで共通したものです。基本概念や大きな枠組みは一致しています。 その後、13 にわたる業種会計制度、株式有限公司会計制度も打ち出されました。基本的 な基準というのは、実務あるいは具体的な操作(オペレーション)に関する項目がなかっ たので、移行時の過渡的な措置として、株式有限公司会計制度が必要でした。実は、これ は一つの時代への逆行ともいえるものでしたが、非常にしかたのない状況の中の産物でし た。 ○こうした取り組みは、以前のような古い会計制度とは大きく異なり、多くの古い項目を 切り捨て、新しい内容を盛り込んでいます。こうして伝統的な業種別の会計制度から、全 体を対象とした会計基準が誕生したわけです。大枠ができ上がりました。そして具体的に はいくつかのステップ、ラウンドに分けて、徐々に発表されていきました。 草案の制定に関しては、中国の状況、市場の成熟程度、あるいは実行可能程度などを十 分に検討したうえで、さらに国際基準との整合性にも配慮しつつ作りました。 そして 97 年、徐々に具体的な会計基準を発表していきました。最初のものは、Related Party Disclosures、内部関係およびその取引の開示です。皆さんは不思議に思うかもしれ ませんが、なぜ財務諸表ではなくて、このような情報の開示なのでしょうか。関係する各 方面の関係およびその取引状況の開示でしょうか。外国では、これは多分ずっとあとの内 容になるわけですが、原因は、当時の中国の会計基準委員会は、あるコンセンサスに達し ました。発表の順番は必要度の高さに応じて決めましょうということで、当時はインサイ ド取引が横行して非常に大変な状況でした。ですから、緊急に必要な状況の中で最初に発 表されたのが、この内部の関係とその取引の開示でした。 そして、今年の9月 30 日までに、すでに 16 の基準が発表されました。そして全国を挙 7 げて企業会計制度を実施しています。徐々に古い従来の業種別の会計制度に取って代わっ ていきます。 また、今現在、制定中のものもあります。88 年の作業部会の発足からすでに 15 年たち ましたが、この間の成果には素晴らしいものがあったと思います。現行の中国会計基準は、 IAS(国際基準)とかなり高いレベルの一致点といいましょうか、整合性があると思い ます。 ○それでは、具体的に見ていただきましょう。中国の会計基準とIASの対比です。左側 は中国の具体的な項目の内容、1、2、3というのは発表の順番です。英語の部分は国際 基準です。そして皆さん番号に注意してご覧ください。つまり番号は1、2、3ではなく ばらばらなのです。 ○時間の関係でいちいち読むことはできませんが、ここで第6の「投資」をご覧いただき ましょう。国際基準では第 28 条、第 31 条です。この二つの項目を中国では一つの項目に まとめているのです。そして最後に 16 の「中間報告」は最新の決定事項です。 ○それでは、現在制定中のものをご紹介します。この一覧表もIASと対応して作ってい ます。左側は現在制定中の中国の会計制度です。実は、IASにはなくて中国のほうにあ る基準、規則もあるわけです。あるいは逆のケースもあります。 ○それでは、まとめに入らせていただきます。中国のPRC(会計制度)は、IASを十 分に参考にしたうえで、それと同時にUS GAAP(イギリスの会計基準)をも参考にし て、それをベースにして作りました。制定のプロセスは、非常に順調でした。非常に完成 度の高いものだと思います。 ○原則的に国際基準との違いはほとんどありません。そして、重要な部分においては、両 者は一致しています。まず、全体的なフレーム、原則は完全に一致しています。また、原 則的な方向、誘導という基礎・基盤も同じです。価格の計算の決定、勘定価格の基礎も同 じです。そのほか取引に関する基本原則、会計政策も同一だと考えます。 ○具体的に広げませんが、ここで差異点についてもふれておきます。全体的には、公的に 許せるような価値ということにIASが重きを置いているのに対して、中国は信頼性、簿 価を基準に価値をおいています。また、IASは選択の幅を広く設けており、いくつかか ら選択できるようにしているのに対して、中国は1種類しかありません。また、IASで は専門家による判断の項目が設けられているのに対して、中国はただ具体的なガイドライ ンしか示していません。また、いくつかの原則に関する反映がIASでは非常に強いのに 8 対して、中国は若干弱いのです。これは、やはり中国の国情、つまり専門的なものよりも 具体的なものを重んじるという中国の事情の反映だと思います。 また、IASは現価のモデルを非常に重視しているのに対して、中国はコストの計算を 多く採用しているという特徴があります。もう一つは、IASは非常に原則性を重んじま す。細かいところよりも原則性、しかし中国は実務的な操作のほうに配慮しています。実 務的な操作可能ということを強調していて、非常に具体的になっています。逆に、IAS にあって中国の制度にない項目もあります。例えば、利潤がそうです。利潤に関する基準 が設けられているのに対して、PRCにはありません。 ○それではまとめてみます。中国の会計基準作りは、20 年近くの発展を通じて、IASに かなりの程度接近してきました。一致点を非常に増やしています。もちろん、国際会計基 準を中国にそのまま持ってきたわけではありません。非常に共通しているということです。 実は全く同じ基準作りが3分の1、非常に相似性の高いものが3分の1、そして相違点の あるところが3分の1です。また、国際のほうは、やはり大きな原則に関するものに重点 を置いていますので、私個人も 100%IASを取り入れる必要はないと思います。やはり 国際の経験を参考にしつつ、自国に合った会計制度、そして両者の整合性に配慮すればよ いと考えています。IASの原則、枠組みをベースにして、それを踏まえて自国に合った 会計制度を作る必要があると思います。 ○現在、中国の会計基準は、US GAAPと比べると、それほど相違点がありません。I ASとの間の相違点よりも小さいのです。また、日本のGAAPに比べると、私は日本の 専門家ではありませんので何ともいえませんが、7年前に日本の公認会計士と東京証券会 社に上場する中国の企業2社に対して日本の同僚と共同作業を行いましたが、そのときの 経験から見ると、やはり日本のGAAPは、IASとも相違点があります。また、中国ほ ど厳格ではありません。もちろん、これは7年前の話であり、聞いた話によると、97 年以 降、日本は会計基準の国際化を推進してきました。ですから、現状の日本のGAAP(会 計基準)については、私はあまり存じ上げていないので、コメントはできません。私の紹 介から、中国と国際的な慣行との間の大きな相似点についてお分かりになっていただけた らと思います。 ○それでは、どうして中国はまだ粉飾決算や国際ルールにそぐわないようなやり方がある かという声をどのように説明したらよいのでしょうか。私はこのように考えます。これは、 まだまだ事項の段階では不測しているのです。原因は基準作り、制度そのものではありま せん。やはり市場がまだ未熟であり、一部はまだ基本的な要件ができていないのです。例 えば、欧米ではM&Aに使われる資金は、中国の国有企業の場合、上場したときに資金が 必要になりますので、シミュレーション方法で財務諸表を作るわけです。そうすると、や 9 はり粉飾決算というか、いつわりの財務諸表を作ってしまうのです。これが原因の一つで す。また、一部の上場企業の目的や動機が不純であることも指摘しなければなりません。 ○また、効果のある監査チェック体制がないからです。また、会計事務所のスタッフの素 質がまだまだ不足しており、ときとしてはそうした不正行為の手助けをする会計士もいる ことはいます。 最後になりましたが、この 20 年の改革を経て、中国は計画経済時代の会計制度を大き く変えて、今の市場経済に適合した会計制度に移行しました。まだ完全ではありませんが、 非常に優れた枠組みを持った国際的な慣行とも整合性のある制度を作り上げています。 皆さん、ありがとうございました(拍手) 。 (和田) 張先生、中国の会計制度について、歴史的背景にもふれながら、非常に丁寧な ご説明をいただきまして、ありがとうございました。 それでは続きまして、上海ダイキン空調の総経理であります伊東さんからお話をお伺い したいと思います。伊東総経理、よろしくお願いいたします。 (伊東) ただ今ご紹介にあずかりました上海ダイキンの伊東でございます。 簡単に会社紹介のあと、本題に入らせていただきます。 (以下PPT併用) ○本題では、税務局の改善事例と残された課題について、発票発行の事例を中心にして説 明させていただきます。 ○まずダイキン工業は、中国事業拠点として上海ダイキンを中心とする五つの生産拠点、 新しい三つの空調の新生産拠点、ダイキン中国を中心とする 27 の販売拠点からなってい ます。上海ダイキンは 95 年 11 月に設立、生産開始が 97 年3月で、資本金 33 億円、ダイ キン出資率 70%、売上高 250 億円、従業員 1000 人。99 年には、上海市より白玉蘭賞を 受賞しています。商品は住宅用、事務所・店舗用、中・大型ビル用、工場用というライン ナップです。代理店は 670 店の専門店があります。サービス、技術力を有した店ですので、 安心して据え付け工事も依頼していただけると思います。 ○それでは、本題に入ります。まず中国事情ですが、中国を一言でいうのは困難です。ヨ ーロッパの場合、フランスは、ドイツは、イタリアは、イギリスはと、皆さんそれぞれ国 をもっていうわけですが、中国といえば中国と一言で済ませてしまいます。例えば、人口 の例をとってみると、フランスは浙江省と同じ 5000 万人、イギリスは湖北省と同じ 6000 10 万人、ドイツは四川省と同じ 8000 万人ということで、国土から見ても、日本の 26 倍の国 土、23 省5自治区、56 の民族からなっています。特に、連合国家というイメージが非常 に強く、地域性が強いということです。それから中国の変化のスピードが速い。これは和 田先生もお話しになられましたが、例えば携帯電話ですが、公衆電話から一気に携帯電話 に走るということで、非常にスピードが速い。法律、企画などでもそうです。新しいもの をどんどん取り入れて変わっていっています。2~3年もすると、すっかり様変わりする という状況です。 法律、特に税制面では、内容の解釈が地方に任されていることが多く、詳細が明確では ありません。こういったことから、ノウハウ本として使えるものがないゆえんだというこ とです。本件を話すにあたっても、実際には、上海という私のいるところでの問題で説明 することになるかもしれませんが、できるだけ普遍的な話に合わせて話をさせていただき たいと思っています。 ○まず、古くて新しい問題がある「発票」について話をさせていただきます。 発票は、請求書と領収書の二面を持つということは、皆さんご存じかと思いますが、感 覚的には領収書のイメージが強いのではないかと思っています。この発票、増値税を考え るに当たって、企業としての留意点を述べさせていただくと、下記の四つになります。 一つめは、新会社設立時約3か月程度は税務局からもらえる発票の枚数、件名に制限が あります。したがって、3か月程度は、税務署の前に立って、発票を並んで買いに行くこ とが往々にしてあります。保証金制度、例えば、フィージビリティ・スタディで売り上げ などもはっきりわかっていることですから、保証金制度によって企業が必要とする発票の 枚数を発行できれば、中国税務局としても増収につながるのではないかと思います。 二つめは、増値税発票は、売り上げの 17%の金券であるということです。これをよく失 念されている会社が往々にしてあると思います。金庫への保管や持ち運びについて、厳重 な管理をしなければならないということです。 それから、三つめは売上計上と増値税発票の発行の関係です。特に領収書としての意識 が強いために、お金をいただいてから発票を発行すると、本来請求書としての機能ですか ら、売り上げの計上がめちゃくちゃになってしまいます。このような会社も往々にしてあ ることを耳にします。 四つめは、仕入増値税の早期入手という問題です。案外、大手の企業でもできていない のではないかと思います。一つは、先ほど申し上げた売り上げということに関しては、領 収書というイメージで、お金が入金してから払う。発票の場合は、請求書という逆の立場 で、まず発票をもらってから支払いをする。もらったらもういいのではないかと考えてい ることが1点です。それから、日系企業は往々にして、検収翌月末現金というような支払 いの基準が、頭に入っていることがあります、したがって、仕入当月内に発票をもらうこ とは少ないかと思います。例えは、私どもの仕入れは月に約 15 億円あり、これに対して 11 増値税は2億円です。この2億円がキャッシュフローとして1か月早めにすれば助かると いうことです。金利でいうと、年間約 1,000 万円が浮くことになります。 ○続きまして、増値税の申告システムについて、税務局の改善事例と残された課題につい てご報告させていただきます。 増値税の申告期限については、売上増値税が翌月 10 日、仕入増値税が当月末の最終日 となっています。これがくせ者でして、なかなかうまくいかないというのが一つのポイン トになっています。皆さんご存じのように、売上増値税の発行システムについては、売上 増値税の発行機を税務局から購入し、増値税の券面や明細を画面インプットしています。 ○ただし、これが二重インプットになっているのです。もともと企業でお使いになられて いるコンピュータには、これらのデータがすでに入っているのが実態です。売上増値税の 発票の発行と明細をここに出していますが、これを二度インプットしているということで す。 ○今年の1月から、この発票の発行について、国税局の内規により改善されています。二 重インプットを廃止するために、企業がお持ちの独自のシステムと発票の発行システムを つないでもよいということに改善されています。案外こうした関係については、大手の企 業でもご存じないのではないかと思います。ただし、このシステムを改善するに当たって は、1社が指定されており、それ以外の会社はシステムの変更ができないということにな っています。 残された課題については、この発票の発行システムをインターネットで直接税務署に報 告・確認するというシステムの完備だろうと思います。それによって、さらに一層の省力 ができると思っています。 企業としての留意点については、発票の取得枚数、相手の要求等による複数件の出荷を 発票1枚にまとめる際のルール化をきちんとしなければならないことだと思っています。 ○続きまして、仕入増値税の申告システムについて報告させていただきます。これも今年 の1月から、特定地域、特定企業に限りインターネットの Web サイトにて税務局へ報告・ 確認することが可能になっています。従来は、この下のところに書いてあるような一覧表 を独自で作り、たくさんの枚数の発票を税務署に持参します。そうして税務署で確認の判 こを押していただくというのが従来のやり方だったと思います。 ○新しい方式については、発票の読み取り機を税務署から購入し、まず発票を読み取りま す。読み取ると、読み取り画面で、下に発票そのもののイメージ、それから関連する数字 がすべて上のほうに出てきます。万が一読み取れない場合は、自分で直し、そこを確認し 12 て送信するということで、夜の 12 時まで受け付けています。 ○夜の 12 時までに税務署にインターネットで送ると、翌日、左の表のように、1件1件 「これは確認しました」ということで、送り返してきます。最後のページには、税務署の 承認印が入っています。このような形で確認を取りますので、発票を持っていく必要はあ りません。 ○残された課題について、ご報告します。仕入増値税の〆切期限は、先ほど申し上げまし たが、売上増値税と〆切期限が別になっています。したがって、月末仕入れ分を同月内に 控除しようと思うと、特に遠方の協力企業から発票をもらう場合は、物理的に困難です。 そこで、〆切期限を5日から6日ぐらいにすると、そうした企業からも発票がもらえ、同 月内に仕入控除が可能だと思います。 二つ目は、仕入増値税の報告システムを全中国企業に展開することです。 三つ目は、売上増値税のシステムと同様に、企業内のシステムと仕入増値税のシステム をつなぐことです。これらの三つができると、大きな省力化につながるだろうと思います。 ○最後に、ビビッドな話題ですが、皆さん方も耳にされている件で、特許権使用料に関す る関税についての新しい法律が出ています。今年7月に法改正され、ロイヤリティ・商標 使用料に関しても輸入部品対価としての関税を支払うことになりました。 この問題点については、この法律の内部には、計算式は明記されていません。したがっ て、地方により、解釈が異なるということが一つあります。 二つめは、二重課税問題です。役務提供としてのロイヤリティ・商標使用料と、物品に 対する課税としての関税・増値税の二重課税という意味合いです。 三つめは税務管轄問題ということで、関税については国税ですが、営業税は地方税です。 本法律が決まりましたので、国税としてはいわゆる関税を取っていきますということにな るのですが、では営業税はどうしてくれるのということについては、地方の管轄ではなか なか請け合ってもらえていないと聞きます。 こうした問題は、和田先生が先ほど言われた熟慮断行、一気呵成というような話と同様 に、逆に熟慮断行をしていただきたい面であろうかと思います。 それでは、私の発表を終わらせていただきます。ありがとうございました(拍手) 。 (和田) 伊東総経理からは、実務に即した大変役に立つご説明をしていただきまして、 皆様方のご参考になったのではないかと思います。ありがとうございました。 それでは最後に、張躍董事長から中国の実業家として会計税務に関して日ごろ感じてお られるような点を、あるいは、今お話が出たことに対するコメントでもけっこうですが、 ひとつコメントをいただければ幸いです。よろしくお願いいたします。 13 (張躍) 大変申し訳ありませんが、発言原稿を作ってきませんでした。先ほどのお二人 の講演を聞いて、大変勉強になりました。私は企業経営、技術の管理を日ごろ行っていま す。税務や会計については素人です。 私の企業は個人経営の民営企業です。これは兄弟と一緒にゼロからスタートした企業で、 15 年の歴史を持っています。15 年間で少しずつ資本を積み立ててきました。8年前まで、 銀行から融資を受けたことはありませんでした。今は、投機資本は7億人民元、実際は十 数億の資金があります。100%中国的なやり方で携わってきました。今までは、一つの分 野に集中して経営しましたが、空調、天然ガス、気体の経営、燃料、エネルギー、暖房の 関連です。 おかげさまで、さまざまな高い評価を受けました。非常に独立した経営を保っていて、 国のためにも多くの納税を行ってきたと思います。毎年1億元以上納めてきました。昨年 度、民営企業の納税者ランクで第1位です。また、中国空調設備、空調関係は、300 社あ りますが、我々のランクは第3位です。税金の面で、非常に国に寄与したのではないかと 自負してはいますが、しかし私個人は、直接税務にはあまりかかわっていません。しかし、 スタッフには、自分の人生観、価値観といったものを常に話しています。数年前から言っ ている言葉ですが、税金逃れ、あるいは税を少しでも減らすという気持ちがあってはいけ ません。ですから、私は彼らを 100%信頼しています。我々の納税の書類などは 100%き れいで正確だと自負しています。絶対にトラブルに遭うことはありません。これは、実は 中国の民営企業の中でまれなのかもしれません。というのも、税金というのは大きな問題 で、経営者にとっても頭の痛い分野であるわけです。私は、ほぼ7割のエネルギーを経営 や技術の開発に費やしています。あとの 30%の中のいくつかは税金、税務、会計に費やし ているかもしれません。 しかし中国では、どの企業もこのような会計改革、税務改革で多くの恩恵を政府から受 けています。優遇政策はたくさんあるわけです。ここでうらやましく思っているのは、外 資企業にはたくさんの優遇政策があります。しかも、素晴らしい専門家集団がいます。非 常に合法的な手段で税金の軽減ができるわけです。とりわけ、沿海地域の優遇政策はダン トツなのです。私たちは長沙市にあって、中国では内陸部に位置しています。 会社を作って以来、私は財務、会計で悩んだことはありません。また、私のスタッフは、 非常に法律をよく遵守し、汚職もありませんし、不正もありません。これは自慢です。実 は、会計スタッフの汚職、内部の汚職、横領が、今中国の民営企業の中で非常に大きな問 題になっています。ですから重要な分野なのです。経営にとっては、大きな問題です。私 は幸い非常に素晴らしいスタッフに恵まれていますので、心配はしていません。 この会議に出席してから、さまざまな三角債の債務の話題や、資金の回収、中国の問題 点、あるいは代金の未払いなどが、昨日の分科会で非常に話題になっていました。この辺 には私は非常に経験があります。ユーザーとの取引の中で、代金をもらい損ねて品物を渡 14 してしまったような例は1件もありません。もちろん、会社の信用問題というのは、外国 では、アメリカ、日本では非常に重要な問題で常識なのですが、中国はまだそうはいきま せん。相手の信用に細心の注意を払わなければ、契約を結べないわけです。数年前までこ の代金の返済の滞りが大きな問題でした。多くの企業がそれによって経営の破綻をきたし ています。 ある会合の中で、もし代金の未払いに遭ったら、これはもう泣き寝入りするしかないと いうことでした。国有企業もそうです。中国は信用、誠実という意識に欠ける。三角債務 がなぜ発生するのか。なぜそういう未払いが起きるのか。それは、あまりにも利益を急い で追求したがる結果だと思います。今まで私たちの経験の中で、この問題、資金の回収は ほぼ 100%、回収していないのは 1,000 分の1です。ですから、極めて健全な経営を保っ てきました。もちろん、お客さんをなくしたり、オーダーをなくしたり、あるいは非常に 欲しくても手にいれることができないようなケースも多々あるわけです。しかし我々は、 きちんとした基準がなくてはならない。この基準を守らなければ、長期にわたっていつか は問題になってしまう。いくら利益がありそうな話でも、怪しいものであれば、やはり手 を出してはいけません。 増値税は非常に難しいです。消費税、財務諸表、その文書に不正があれば、実はこれは 企業にとって、リスクを負う結果になります。不正を働くということは、結果的には企業 にとって破滅を招くわけです。私たちは日本を含め、海外から原材料をたくさん仕入れて います。輸出業者として、輸出仲介会社の選択を間違えてしまえば、大きな問題になって しまいます。 2~3年前私たちは、一生懸命輸出代理店の選択、調査をしました。非常にリスクの高 い分野であり、選ぶのはたやすいことではないというのがわかりましたので、自分で 100% 自力でそのような輸入業務をしました。リスクを減らすために、自分で輸入業務をやりま した。誠実、信用は非常に重要です。仕入先に対する注文も、私たちは非常に厳しいです。 彼らの書類の作り方がきちんとしているかどうか、非常に厳しく言っています。互いにき ちんとしなければならないと思います。信用というのは、やはりその企業にとって看板で すから、イメージ、暖簾ですから、この問題はますます重要になってきました。 実は2年程前、中国の中で最も尊敬を受けている企業はどこかというアンケートが実施 されました。その評価の中で、我が社は第2位の尊敬すべき企業です。なぜそのような評 価をいただけたかというと、やはり、誠実、信用、法律違反をしない、不正は行わない、 これに尽きると思います。 それから納税に関してですが、もし一企業が社会に対してさらに大きくお返しをすると いうことであれば、企業も社会に注目されることになり、重要視されることになり、お客 様からも大変尊敬される重要な理由となると思います。 私たちは「ウィンウィン」とよく言います。企業と企業の間でもウィンウィン、企業と 顧客の間でもウィンウィンだと思います。企業と政府の間でも、ウィンウィンの関係は成 15 り立つのではないかと思います。中国で企業を経営していくというのは、私が思いますに、 やはり信用の問題がとても重要になってきます。 以上です(拍手) 。 (和田) 張躍董事長さん、本当にありがとうございました。 私がお聞きして感銘を受けたのは、張躍董事長が多額の納税をされて、それに対して国 家に貢献していると誇りに思っているとおっしゃられたところと、あとは従業員に対して も、コンプライアンスの重要性をおっしゃっておられ、この点について非常に感銘を受け ました。このような民間の企業経営者が中国でもどんどん出てきているという点が、一つ 大きな点だと思います。 ご存じのように、今、中国は税収不足に悩んでいまして、その結果として、一つは財源 がないものですから、輸出増値の還付が遅れているとか、あるいは財源がないからその率 を引き下げるというようなことも出てきています。ぜひ今後、張躍董事長のような企業家 がどんどん出てこられて、納税をたくさんしていただいて、財政が潤ってきちんと還付す るところは還付をしていただくということができればよいと思っています。特に、外資系 企業の方々からは、公平な調停だったら話はわかるが、どうしても取りやすい外資系から とるところがあるのではないかというような不満も聞かれますので、そういったことも納 税意識が高まれば、だんだん解消されてくるのではないかと思います。 本当にありがとうございました。 それでは、このあとご質問を皆さんの中から、ぜひいただきたいと思います。せっかく の機会ですから、どうぞご遠慮なく。 どうぞ。マイクのところに来ていただきまして。 (質問者1) 会計士の張先生にお伺いしたいのですが、中国には付加価値税として増値 税と営業税と両方あるのですが、両設されている増値税と営業税のために、非常に不合理 な状況が起こるかと思います。例えば、建設業では、部材の仕入れに関しては増値税がか かって、これは還付できないですからコストになる。一方で売り上げについては、5%の 営業税が取られる。私は、近々その増値税と営業税は一本化されるべきだと思うのですが、 何かそういうスケジュール等はご存じないでしょうか。 (張克) 普通は、営業税と増値税というのは並行しては行われないものなのです。営業 税になれば、増値税では納めません。先ほどおっしゃったような状況は、確かにあること はあります。一企業の中でとある業務に携わる際に増値税も営業税も納めなければならな いというケースはあることはあります。しかし、それは二重課税ということではないと思 います。おっしゃっている質問の中心部分というのは何でしょうか。営業税の部分が控除 されないという意味なのでしょうか。今後、この税がどうなっていくかということに関し 16 ては、私はとても言える立場ではありません。中国の今後の税収がどうなっていくかとい うことに関しては、情報は何も得ていません。現状だけは分かります。営業税もあり、増 値税もある。しかし、それはそれぞれ違った業務に対する課税ということです。 (和田) ありがとうございました。 若干補足させていただくと、ご質問の方がおっしゃられたように、建設業の場合、売り 上げは全部営業税になり、仕入れ部材については増値税が載っています。売り上げが営業 税なものですから、控除という概念が適応されなくて、全部負担しているという形になっ ています。確かに、これは理屈的には非常に不合理な税体系になっていて、一つは増値税、 一つは営業税と流通税が二つに分かれているわけです。日本のように消費税という一つの 税法になっていないものですから、この理論的な欠陥は前々から指摘がありました。おっ しゃるように、いずれ統一するであろうといわれていますが、具体的なスケジュール等が どうなっているかは、張先生がおっしゃったように未定だというのが現状だと思います。 ほかにご質問の方がいらっしゃれば。どうぞ。 (質問者2) 伊東先生にお伺いします。 今の質問とよく似ているのですが、先ほどのプレゼンテーションの中に、ロイヤリティ 等が増値税の対象になっているような表がありました。私の理解するところでは、増値税 というのは物の輸入に対してかかるものであり、したがって、なぜロイヤリティにかかっ ているのかというのは重大な問題だと思います。ロイヤリティは輸入した部品のノウハウ 代としてのロイヤリティが、中国の企業から日本へ払われるレートの中に含まれていると みなされているときは、分からないでもない。しかし、普通部品を日本から買うときは、 そのノウハウ代はオンされて買っているはずですから、ちゃんと増値税、輸入税は払われ ているわけです。したがって、ロイヤリティを払うのはおかしいと思います。そのご見解 を聞かせていただければと思います。 (伊東) 私の見解ではなくて、逆に中国の国税のほうで今徴収しようとしている、それ ぞれの解釈の問題だろうと思います。基本的には、関税をかけ、そのあと増値税もかける というのが国税の見解であり、今仕入れコストとしてロイヤリティ(商標使用料)を物品 に付加したもののコストとして関税、増値税をかけるということをされています。各地域 によって、このやり方がばらばらですが、基本的には、関税と増値税がかかります。私が 先ほど申し上げたのは、もともとはロイヤリティ(商標使用料)は基本的には役務提供で すから、役務提供としての営業税、それから源泉税はお支払いしていただく。それに対し て、今度は物品、いわゆるコストとしての関税と増値税がかかってきているというのが実 態のようです。 17 (質問者2) 今のご説明でよりはっきりしたことは、そのロイヤリティが関税の対象に なっているということは、日本から入ってくる物品の中に、評価に入っていないから、ロ イヤリティがその意味合いを含んでいるという認識をされたと思うのです。 (伊東) そうです。 (質問者2) それは、実態と多分違うと思うので、ぜひ契約的な手配をきちんとされて、 ロイヤリティとは中国の企業で作る技術料に対する対価であって、仕入れるときの部品に はすでに日本側のノウハウ代は入っていて、輸入するときの評価に入っているわけですか ら、二重の関税評価になるという観点でぜひ頑張っていただきたいと思います。 (和田) ありがとうございました。 あと少し時間がありますので、どなたかあと一人、ご質問の方がいらっしゃれば、いか がでしょうか。よろしいですか。 ご質問がないようです。それでは、ちょうど時間でもございますので、終わりにさせて いただきます。どうもありがとうございました。 それから最後に1点お願いがございます。日中経済討論会に関するアンケート表という のを、これは日本語・中国語両方ありますが、出口のところでお配りしますので、まこと にお手数ではありますが、ご記入をいただきまして、回収箱に入れていただければ幸いで す。どうかよろしくお願いします。 どうもありがとうございました(拍手)。 18
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