私の野球観(第1回)

私の野球観(第1回)
2007年12月24日(祝)
江東ライオンズ総監督
藤瀬時彦
私の野球観という事で、原稿依頼を受けましたが、あまりに抽象的なので、何から説明
したら良いか?そこで、選手達に、私が練習やミーティングでいつも言い聞かせている事
を、何項目かに分け、テーマを決めて考えていきたいと思います。
少年野球とは言え、野球スポーツである以上、勝つために練習し、試行錯誤し、また、
切磋琢磨するわけですから、まずは「勝ちと負け」というテーマから考えていきたいと思
います。
小学生・中学生では、あくまで少年野球なので、ただ勝ちを優先する指導ではなく、将
来を見据えた野球教育が必要になってくると思います。少年野球で、勝負に勝つことが、
選手の将来の基盤を作ることとは比例しないと思います。プロ野球が頂点としたら、少年
野球は三角形の底辺にありますので、野球に対する正しい考え方や、基本に忠実な技術指
導、日常生活の中での練習の重要性(素振り、ランニング)、毎日の練習が将来大きな夢に
つながっていくことをしっかりと意識さすことが重要だと思います。学童野球やリトルリ
ーグでは、おおよそにして、その選手本人の素質だけで、チームのレギュラーになること
が多いと思います。中学生のレベルになってきますと、親にもらった素質だけでは、答え
は出せません。毎日の練習や経験を生かした学習能力が必要になってきます。勝負に入っ
た時には、私は素質は信用しません。その選手が3年間しっかりとした意識の元で、どう
いった練習をしてきたかが、その選手の評価になります。練習はうそをつかないと言いま
すが、まさにその通りだと思います。どの選手もレギュラーを目指し、レギュラーになれ
ば、チームの一員として、大会に出場し、優勝を目指します。勝つことは非常に大事な事
ですが、レギュラーになったら補欠の選手に対する思いやりの心、試合に勝ったら、自軍
の力を誇示するのではなく、負けた相手に配慮する気持ちが必要だと思います。その思い
やりの心が選手として、また人間としての成長につながっていくと思います。
それでは、次に、勝つことの意味を考えていきたいと思います。よく自分に勝てない者
は、相手に勝てないと言いますが、まさにその通りで、個人としては毎日の積み重ね、チ
ームとしては監督の基、一丸となった厳しい練習が不可欠であります。それでは、勝負の
分かれ目というのはどういうことでしょうか。もちろん技術力や体力差、精神力の強さが
勝つためには必要となってきますが、自分達の力を 100%出し切ることが大事だと思いま
す。それでは、自軍の力を100%出すには、集中力とか、冷静な判断力とか、勇気を持
って試合に臨む強い気持ちとか、いろいろな要因が必要ですが、もっとも大事な事は、試
合に向けてのしっかりとした準備が必要になってくると思います。練習の時にいつもゲー
ムをしっかり意識し、試合と何一つ変わらない緊張感、またテンションの高さ、投手であ
ればまさに一球入魂、打者であれば一振り一振、魂を込めた練習、そうした、しっかりと
した準備が試合の時の緊張感や硬直感から救ってくれ、いつも平常心で戦うことが出来る
のだと思います。とは言え、実力がまったく互角の時には、何が勝負の分かれ目になるか
と言うと、そのキーワードは明るさと謙虚さではないかと思います。明るさと言うのは、
強さの裏返しでありますから、声が出るという事です。すなわち集中力があり、最後まで
諦めないという事につながってきます。また、謙虚さと言うのは、野球の中ではどういう
事でしょう。攻撃面で言えば、大きな一発を狙わず、バットを短く持ち、右方向にコツコ
ツと当てていく、バッティングまた、送りバット、エンドラン、自分を犠牲にしても走者
を進塁させる、犠牲的精神、自分がヒーローになろうとせずに、次の打者につなげていく
気持ち、それがボールを良く見ることにつながってきます。ストライク、ボールの判断が
しっかりと出来る打線が作れると思います。また、守りの面では、投手は力勝負、三振を
取りにいく投球ではなく、丁寧に低目をつき、内野ゴロを打たせて捕る投球内容、三振を
取りにいこうと思うと、どうしても球が高目にいき、一発を食らうと言うシーンがゲーム
の中では多々あります。勝ちを意識するのではなく、謙虚な心で、練習でやってきた事を
100%出すという心構えが大事だと思います。WBCで日本が世界一になった王ジャパ
ンがまさに、そのようなチームだと思います。王監督のもと、世界一になるのだという強
い目的意識、イチローという世界を知り尽している強いリーダー、明るさと謙虚さを兼ね
備えたスモールベースボール、日本中の野球に携わる、すべての人々が心から喜び、強い
刺激を受けたと思います。さて、野球の試合の中では、ピンチをどう切り抜け、チャンス
をどう物にするかで、勝負が決まります。ピンチの時は、自分を信じる事、勇気を持って
相手に向っていく気持ちが大事だと思います。投手であれば、かわそうとして、押さえら
れた試しがありません。内野手は失敗を恐れずに前へ出る事が大事です。普段の練習の中
で、いつも2アウト満塁、2&3を合言葉に緊張感を持った練習が必要だと思います。た
とえ、点を取られても、野球の神様はピンチとチャンスを同じだけ与えてくれます。劣勢
に置かれた時でも、チーム全員が最後まで諦めずに一丸となって戦い抜くことが大切です。
その強い気持ちが相手に伝わり、ミスを誘えたり、投手にプレッシャーをかける事になり
ます。全力プレーこそがチャンスを引き出す最大の要因になることは言うまでもありませ
ん。試合に臨んだ時には、勝つ事もあれば、負ける事もあります。
それでは、次に負けをどう生かすか、その事について考えていきたいと思います。私自
身が20年間も優勝出来なかったヘボ監督ですから、全国大会で優勝するまで頑張ってき
ました。もし、5∼6年で優勝していたら、これだけ野球を深く考えなかったと思います。
勝ちゲームというのは喜びもありますし、良い所ばかり目につき、細かなミスをどうして
も見失いがちになります。負けゲームこそが、チームの欠点やこれからのテーマや方向性
を教えてくれます。負けるが勝ちとよく言いますが、負けゲームをどう生かすか、同じ失
敗を繰り返さない負けゲームこそがチームを大きく育ててくれます。人生においても同じ
ことが言えると思います。職業面においても、私生活においても、うまくいく事より、思
うようにならない事の方が多いと思います。七転び八起きの精神で失敗しても何度でも立
ち上がる勇気や精神力が必要です。目の前の壁が一つ一つクリアしていく事で、その人の
自信と誇りが生まれてくると思います。安っぽいプライドを持つ事より、自分の力で築き
上げた誇りこそが、大人としての象徴だと思います。野球を通じて、子供達が負ける悔し
さや、勝つ喜びや、そうした貴重な体験は学校や日常生活の中では学べません。それこそ
が少年野球またスポーツの意味だと思います。私たち大人が大好きな野球を子供達と同じ
価値観を共有する事で伝えられる事の多さ、鉄は熱いうちに打てと申しますが、子供の頃
に勝負という厳しさで鍛えられた事は、一生の財産になると思います。勝つために努力す
る事、負けても負けても何度でも立ち上がる事、それこそが子供達が大人へと成長してい
く足がかりになると思います。プロ野球に行くような選手は、ほんのひと握りです。ほと
んどの子供達が高校野球までです。子供達が野球で多くの事を学び、それを生かし、立派
な社会人として活躍する事を願ってやみません。
少年野球また学生野球の本当の意味は、勝負に勝つ事ではなく、人を育てる人間作りに
あると思います。
次回のテーマは、チームワークとリーダーシップという事で考えていきたいと思います。
以上