ただいま、ページを読み込み中です。5秒以上、このメッセージが表示されている場 合、Adobe® Reader®(もしくはAcrobat®)のAcrobat® JavaScriptを有効にしてください。 日皮会誌:118(1) ,37―42,2008(平20) Adobe® Reader®のメニュー:「編集」→「環境設定」→「JavaScript」で設定できます。 「Acrobat JavaScriptを使用」にチェックを入れてください。 手足の色素性母斑の有病率と消失率 なお、Adobe® Reader®以外でのPDFビューアで閲覧されている場合もこのメッセージが表示さ れます。Adobe® Reader®で閲覧するようにしてください。 ―石垣島での乳幼児追跡調査― 林田 清芽1) 吹譯 紀子1) 古庄 要 憲浩2) 細川 知聡1) 蜂須賀淳一1) 深川 1) 師井 1) 洋一 純2) 古江 増隆1) 林 修司 旨 城戸真希子1) 占部 和敬1) いとなり,老年期には減少するといわれている1).また 小型の色素性母斑においては成長,成熟および消退傾 本邦において足底に加えて手掌,手背,足背の色素 向を示す所見が著明であるといわれている.しかし本 性母斑の有病率や,色素性母斑の経年的な変化の追跡 邦における手掌,手背,足背についての有病率の報告 調査などの報告は少ない.さらに乳幼児に関しては, はなく個人の成長に伴う経年的な変化の追跡調査や, 色素斑の疫学的報告は海外をあわせてもかなり少な 無作為に抽出された集団に関する調査報告は少ない1). い.そこで我々は,石垣島に在住の就学前の 0 歳から とくに就学前の乳幼児に関しては,本邦での報告はな 6 歳の乳幼児に対し,2004 年と 2006 年に計 1,011 例の い. 検診を行い,手足の色素性母斑を統計学的に検討した. 今回我々は,石垣島在住の 6 歳以下の子供の足底に 部位別の有病率は露光部である手背が最も多く 5.7% 加えて手掌,手背,足背の色素性母斑の有病率と消失 であり,ほか手掌 2.5%,足底 3.3%,足背 2.2% であっ 率を,検診によって調査した. た.また年齢別による有病率は 0 歳∼1 歳は 3.6% で あったが,その後徐々に増加し,3 歳で約 16% まで増 加した後は横ばいであった.色素性母斑の部位による 大きさには有意差はなかったが,足底にある例は他部 対象と方法 2004 年と 2006 年に石垣島の保育園児に対し,両親 の同意を得て手足の色素性母斑の調査を行った. 位より大きい傾向にあった.2 年間の追跡調査では, 対象園児は, 2004 年は対象園数 9 園 299 人 (男児 159 2004 年 に 存 在 し て い た 色 素 性 母 斑 11 例 中 5 例 人,女 児 140 人) ,2006 年 は 14 園 712 人(男 児 385 (45.5%)は存続し,6 例(54.5%)では消失していた. 人,女児 327 人)で,合計 1,011 人(男児 544 人,女児 2004 年に色素性母斑を全く認めなかった 78 例中, 467 人)であった.年齢分布は 0 歳∼6 歳で,0 歳児, 2006 年に新たに色素性母斑が出現していた例は 13 例 6 歳児は少なく,3 歳児が最も多かった.このうち 2004 (16.7%)であった.今回の調査によって,乳幼児の手 年及び 2006 年ともに受診したものは 89 人(男児 43 足の小型の色素性母斑は,自然消失する例も多いが, 人,女児 46 人)であった.年齢分布は 2 歳∼6 歳で 4 新生する例も多い事が明らかになった. 歳児が最も多かった(表 1) . はじめに 色素性母斑は一般に乳児期には少なく,徐々に増加 し思春期で急増,壮年期にやや増加するがやがて横ば 検診した園児の手掌,手背,足底,足背を診察し, 肉眼的に色素性母斑を認めた場合は,大きさやその場 所を図に記載した.手掌には指腹,手背には指背,足 底には趾腹,足背には趾背もそれぞれ含めて検討した. 各 項 目 の 2 群 間 の 平 均 値 の 有 意 検 定 に は Mann- 1) 九州大学大学院医学研究院皮膚科学分野 (主任:古江 増隆教授) 2) 九州大学医学部総合診療部(主任:林 純教授) 平成 19 年 3 月 8 日受付,平成 19 年 8 月 20 日掲載決定 福岡市東区馬出 3―1―1 別刷請求先: (〒812―8582) 九州大学大学院医学研究院皮膚科学教室 林田 清 芽 Whitney U test を用いた. 結 果 1.全園児の手足の色素性母斑の有病率 2004 年と 2006 年をあわせた総数で検討した.色素 性母斑を同一部位に複数もつ例は 1 例に数え,また, 38 林田 清芽ほか 表 1 検診園児の性別,年齢 全検診園児数 年齢 男 女 左表中 2004年と 2006年に検診した園児数 合計 年齢 男 女 合計 0 7 11 18 0 0 0 0 1 86 79 165 1 0 0 0 2 3 118 140 107 111 225 251 2 3 1 7 1 10 2 17 4 135 101 236 4 20 18 38 5 6 51 7 52 6 103 13 5 6 15 0 14 3 29 3 合計 544 467 1, 011 合計 43 46 89 図 2 手足の色素性母斑の年齢別有病率 図 1 部位別有病率 他部位にわたり複数もつ例はそれぞれの部位で 1 例に 2.色素斑の大きさ,個数 数えた. 色素斑の大きさは記載のあるもののみ検討した. 全園児の有病率は手掌が 1,011 例中 26 例 (2.5%) ,手 2004 年と 2006 年の両年ともに色素斑が認められた例 背 58 例 (5.7%) ,足底 33 例(3.3%) ,足背 23 例 (2.3%) は, 2006 年のデータを採用した. 大きさは長径とし, であり,手背の有病率が一番高かった(図 1) .4 カ所 1 人に複数個あった場合もそれぞれを別個として検討 をあわせた年齢別の有病率は 0 歳では 0% であった した. が,1 歳では 165 例中 6 例(3.6%) ,2 歳で 225 例中 21 手足 4 カ所の合計の色素性母斑の数は,1 個が最も 例(9.3%)と増加を示し,3 歳以降は 3 歳 251 例中 40 多 く 全 体 の 83.3% で,2 個 が 15.1%,3 個 が 1.6% で 例(15.9%),4 歳 236 例中38 例(16.1%),5 歳 103 あった.そのうち男児は 2 個有する例が 65 例中 7 例 例中 19 例(18.4%)と横ばいであった.6 歳では 13 (10.8%) ,女 児 は 2 個 有 す る 例 は 61 例 中 12 例 例中 1 例(7.7%)と減少した(図 2) . (19.7%) ,3 個有する例は 2 例(3.3%)であった.男女 色素性母斑の男女それぞれの有病率は,男児 544 例 中 65 例 (11.9%) , 女児 467 例中 61 例 (13.1%) であり, 女児の方が高かった. ともに 4 個以上有する例は認めなかった.部位別では 手背に 2 個認めた例は 8 例(14.3%) ,足底では 1 例 (3.0%) ,足 背 で は 1 例(4.3%)で あ っ た.手 掌 に 2 個以上有する例は認めず,また全部位とも 3 個以上有 する例は認めなかった(表 2) . 手足の色素性母斑の有病率と消失率 色素性母斑の大きさは,年齢による差は認められな かった(図 3) .部位別の色素性母斑の大きさの平均値 39 は,他部位に比べて大きい傾向にあったが,有意差は なかった(図 4) . は手掌が 1.69mm, 手背が 1.59mm, 足底が 2.04mm, 足背が 1.48mm であり,部位別で大きさに有意差はな 3.色素性母斑の 2 年後の経過 かった(図 4) .しかし,手背にあった 2 例のみが 10 2004 年と 2006 年の両年に検診を行えた園児は総数 mm 以上(10mm,17mm)であり,他のものはすべて 89 人であった.そのうち 2004 年に色素性母斑を有す 4mm 以下であった.Kallas ら2)は 10mm 以上の色素性 る例は 11 例であった.そのうち 2006 年もそのまま存 母斑を先天性の可能性があるとして解析から除外して 続して認めた例は 5 例(45.5%)で,6 例(54.5%)は おり,今回の調査でも同様に 10mm 以上の 2 例を除外 消失していた.1 例は手背にある 2 個とも消失してい して解析すると,手背に有する例は手掌,足底に有す た.存続していた例については,大きさは 1 例が不変, る例に比べて有意に小さかった.また足底に有する例 1 例が増大(2mm→4mm)していた.個数については 2 例が 1 個から 2 個へ増加していた.また,2004 年に 色素性母斑を全く認めなかった 78 例中,2006 年に新 表 2 色素性母斑の個数 1個(%) 2個(%) 手掌 手背 足底 2 6 (1 0 0. 0) 4 8 (8 5 . 7) 3 2 (9 7 . 0) 0(0. 0) 8(14. 3) 1(3. 0) 足背 2 2 (9 5 . 7) 1(4. 3) 1 0 5 (8 3 . 3) 19(15. 1) 手足合計 たに出現していた例は 13 例(16.7%)であった(図 5) . 3個(%) 考 察 6 歳以下の園児の手足の色素性母斑の有病率は手掌 が 2.5%,手背 5.7%,足底 3.3%,足背 2.3% であり,手 2(1. 6) 背に多い傾向にあった.さらに手背にある例の約 14% が 2 個以上有しており,他部位よりもその割合が高 かったことも考慮にいれると,手背は露光部位であり, 日光の紫外線刺激が影響している可能性が示唆され 図 3 年齢別の色素性母斑の大きさ 40 林田 清芽ほか 図 4 色素性母斑の部位別の大きさ 人種間で足底,手掌の色素性母斑の数に差はないとい う Gallagher らの報告3)とは異なった結果となった.ま た,五十嵐らによると,小学 1 年生の足底の色素性母 斑の有病率は 2.81%,中学 1 年生のは 3.72% であり4), 本調査の有病率とあまり違いはなかった.本邦の成人 を中心とした検討では, その有病率は 8.9% であり5), 足底の色素性母斑は思春期以降に増加していく可能性 が示唆された.男女比は,体全体の色素性母斑の数に ついては,海外報告例では男が多いとする報告が多い としている6)が,我々の調査では有病率も,複数個もつ 例の割合も女児の方に多かった.年齢別の有病率は 1 歳で 3.6%,2 歳で 9.3%,3 歳で 16.0% であり,それか らは横ばいであったことより,色素性母斑は 2∼3 歳ぐ らいから徐々に出現してくると考えられた.また,今 回の検討では 6 歳児では有病率が下がっているが,こ れは検診数が少ないためと思われた.0 歳児に関して 図 5 色素性母斑の経過 も検診数が少なく,今後数を増やして検討する必要が ある. 乳幼児の体表面積はこの年代で 1 歳から 3 歳で約 た. Kallas らは 9 歳の手掌の色素斑の有病率は 9.8%, 1.3 倍,1 歳から 5 歳で約 1.6 倍に増加するため,色素性 足底は 3.3% と報告しているが2),それと比較すると手 母斑の平均の大きさも,加齢に伴い増加するのではな 掌の有病率は低く,足底はほぼ同率いう結果となった. いかと考えていたが,今回の検討では年齢で大きさに 手足の色素性母斑の有病率と消失率 41 差は認めなかった.乳幼児期の色素性母斑の増大に体 6 例が 2006 年には消失していた.小型の色素斑は成 表面積の増加はかかわっていないことが示唆された. 熟,消退を示す所見が著明であるとされているが1),今 色素性母斑の大きさは,手背の 2 例を除いて全部 4mm 回その割合が 54.5% であり,予想以上に高頻度である 以下であった.また,色素性母斑の部位別の大きさに ことが明らかとなった.また,2004 年に色素性母斑を 有意差はなかったが,足底にある例は他の部位と比べ 認めなかった 78 例のうち,2006 年に新たに色素性母 て大きい傾向にあった.足底は最も荷重がかかる部位 斑を生じていた例は 13 例(16.7%)であった.3 歳以上 であり,加圧による色素性母斑の増大傾向があるので の有病率が横ばいであったことを考慮に入れると,色 はないかと推測した. 素性母斑は新生,消失を繰り返している可能性も示唆 今回我々が追跡調査をし得た園児は 89 例のみで あったが,2004 年に認めた 11 例の色素性母斑のうち 文 1)木村鉄宣:神経堤起源細胞系母斑,玉置邦彦,飯塚 一,清水 宏,富田 靖,宮地良樹,橋本公二,古 江増隆編:現代皮膚科学大系,11, 母斑・母斑症・ 悪性黒色種,中山書店,東京,2004, 33―47. 2)Kallas M, Rosdahl I, Fredriksson M, Synnerstad I : Frequency and distribution pattern of melanocytic naevi in Estonian children and the influence of atopic dermatitis, J Eur Acad Dermatol Venereol, 20 : 143―148, 2006. 3)Gallagher RP, Rivers JK, Yang CP : Melanocytic nevus density in Asian, Indo-Pakistani, and white children, J Am Acad Dermatol, 25 : 507―523, 1991. 4)五十嵐俊弥,内田 勉,大川 章ほか:前橋市にお された.今後本検診を継続し,さらに多数例での検討 を深めていきたい. 献 ける小・中学校皮膚科定期検診;中学 1 年生のア トピー性皮膚炎:健診後の追跡調査および疫学的 調査成績,日臨皮会誌,75 : 44―53, 2003. 5)小串葉月,川崎純子,影下登志郎,尹 浩信,石原 剛:日本人における足底色素性病変の疫学的解析 とダーモスコピー所見,日皮会誌,115 : 2284―2288, 2005. 6)Valiukeviciene S, Miseviciene I, Gollnick H : The prevalence of common acquired melanocytic nevi and the relationship with skin type among children in Lithuania, Arch Dermatol, 141 : 578 ― 586, 2006. 42 林田 清芽ほか Prevalence and Disappearance of Childhood Nevi on the Hands and Feet : Cohort Study of Young Children on Ishigaki Island Sayaka Hayashida1), Chisato Hosokawa1), Zyunichi Hachisuka1), Makiko Kido1), Noriko Fukiwake1), Shuji Fukagawa1), Yoichi Moroi1), Kazunori Urabe1), Norihiro Furusho2), Jun Hayashi2)and Masutaka Furue1) 1) Department of Dermatology, Graduate School of Medical Science, Kyushu University, Fukuoka, Japan 2) Department of General Medicine, Kyushu University Hospital, Fukuoka, Japan (Received March 8, 2007 ; accepted for publication August 20, 2007) There are only a paucity of data and information on the prevalence and natural history of nevi on the hands and feet, especially among young children. We examined the prevalence of nevi on four regions of the skin, including the palms, dorsa of hands, soles, and dorsa of feet on children aged 0-6 years old who participated in a cohort study. Fifty-eight of 1,011 children (5.7%) had nevi on the dorsa of their hands, 33 (3.3%) on their soles, 26 (2.5%) on their palms, and 23 (2.3%) on the dorsa of their feet. The prevalence of nevi was highest on the dorsa of the hands, indicating a plausible influence of frequent exposure to ultraviolet rays. The prevalence of nevi increased gradually until the age of 3 years old and then plateaued. Nevi on the soles were likely to be larger than those on other areas, but there weren t any statistical differences. There was no correlation between the size of nevi and age. In our cohort study, 89 children had skin examinations in both 2004 and in 2006. Interestingly, 6 out of 11 (54.4%) nevi which had been present in 2004 had disappeared by 2006. Furthermore, 13 of the 78 children who had had no nevi on any of the 4 areas in 2004 had developed new nevi by 2006. (Jpn J Dermatol 118 : 37∼42, 2008) Key words : cohort study, nevus, nevi, children, prevalence, disappearance, hands and feet
© Copyright 2024 Paperzz