拘束預金の話(その1) - Hi-HO

SMC金融・経済マーケットレポート
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ReporterYourFinancialBrain SMC豊島 健治
『中小企業と銀行取引 №22』
拘束預金の話(そのⅠ)
株価の低落は、いよいよ我が国の金融システ
ムを容易ならざる状況に追い込んでいる。株式
持合いは成長期に形成された我が国独特の経済
システムであるが、その中心にいた銀行は大量
の株式を保有している。この持合いシステムの
維持は困難と自覚し緩やかな持合い解消を目指
していたが、市場がそれを許さなかったという
べきか。銀行は大手も含めて保有株式に深刻な
評価損(含み損)を抱えてしまった。売れば損
失が実現して自己資本に毀損が生じてしまうの
で処分できない、と云って保有を続けても評価
損を加味した銀行格付けが行われ、市場の信任
が低下して資金調達にも影響が出てくる。
こうして追いつめられた銀行がどんな行動を
とってくるのか不安になる。
そんな不安の一つに企業が銀行に預けている
定期預金があると思う。その定期預金は何の目
的で預けてあるのだろうか。若し、将来の設備
投資や不測の事態に備えて預けてあるのなら、
現下の状況を考えるとそれなりの対応が必要だ。
もちろん、借入債務のない銀行に預けている
のなら問題はないが、借入債務がある場合「拘
束預金の知識」を持っておく必要がある。
銀行に債務を負っている者の預金を銀行では
「債務者預金」と呼んでいる。一般的に、債務
者預金は銀行にしっかりと管理されている。そ
れは、銀行と融資取引をしている経営者であれ
ば実感として肌で感じておられるかもしれない。
銀行借入と見合いになっていて事実上使えない
預金のことを「見合い預金」とか「ニラミ預金」
と呼んでいるが、この種の預金(自由に解約出
来ない預金)は建前の上ではとうの昔に銀行か
ら消えたことになっている。
債務者の預金をただ貸出があるだけで事実上
拘束することは、不公正取引に当たる(銀行の
優越的地位の濫用)とされ厳に禁じられている。
金融機関では既に20年以上前に「そうした預
金は全て整理し債務者に通知し解放いたしまし
たのでございません」と当局にも正式に報告し
て、統計的には存在しない預金である。
銀行は、正式に担保設定(預金証書を銀行に
預け預金請求権に質権を設定する)する以外に
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は、債務者の預金を拘束することは出来ない。
≪ただ、別の理由をつけて拘束することはある
(緊急拘束という)。これについては別途説明
したい≫ それにも拘わらず事実上おろせない
と感じる預金があるとすれば、それは銀行と債
務者という関係から生じた心理的なものが原因
となっているだけと認識すべきで、銀行に預金
を押える正当な理由や根拠は何処にもない。
当然ではあるが手許に証書のある預金は何時
でも引出可能で、若し銀行がそれを拒否するこ
とがあればそれは不当行為として法的に弾劾さ
れることになる。
では債務者が定期預金をスムーズに解約出来
るかと云えば、そうではないというのが実態だ
ろう。窓口に証書を出しても、貸付担当者が飛
んできてあれやこれやと解約を思い止めようと
する。「そうではありませんが、今後の取引の
こともあるので」等と意味不明な事を云って心
理的圧力をかけるてくる。借りている者の立場
は弱いもので、正に「優越的地位の濫用」が堂々
と行われるわけだ。その意味では、建前上絶滅
したはずの拘束預金は、現実には「不平等な紳
士協定」という形で命長らえている。
しかし、非常時には紳士協定等と云ってはい
られない。預金=キャッシュは、経営活動を維
持して行く上で最も重要な資源の一つである。
その重要な経営資源を銀行に固定させておくこ
との是非も問われなければならない。
固定させておく方が有利なのか、それとも流
動化させた方がベターなのか。漫然と定期預金
をしていては、銀行側から「貸金と相殺可能預
金」とカウントされる恐れがある。
それを避けるには定期預金を借入のない銀行
に置いたり、流動性の高い証券(MMF等)に
しておくことだ。イザという時はいつでも使え
る。それが現実的に不可能であるとすれば、な
し崩し的に定期預金を取崩し形を変えておくこ
とだ。今後借入を起こさないことが確実な銀行
であれば強硬に解約すればいいが、そうでない
場合は上手くやる必要がある。定期預金担保で
借入れて後日相殺するのも方法である。
いずれにせよ、定期預金は使うために預ける
もので、借入の見合いにやるものではない。そ
の原則を貫くのは困難な側面があるが、強い財
務内容を築くことがそれを可能とするだろう。
1998.9.12(第121号)
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