第14号 - 清和大学短期大学部

図書館だより
【世間話について】
第14号
2014.1
竹内 直人
みなさん、世間話していますか。世間話は広辞苑で「世間の出来事などについての、気の置けない雑談」
とされています(「気の置けない」は誤用の多い言葉でしたね。気づかいしなくてよいという意味でした)。
そうすると、みなさんが短大の廊下を歩きながら、あるいは学生ホールで(大きな声で)している話も、
一般的には世間話とほぼ同意と考えられます。世間話に類するものとして無駄話、おしゃべり、雑談、よ
もやま話などがあげられるとすれば、それは立派な世間話です。
その世間話を amazon で検索すると、
○「知っていると役に立つ世間話」竹中平蔵・宝島社
○「仕事で使える世間話の極意30」小沢亮・オープンアップス
なんていう本がヒットします。竹中氏は前書きの中で「自分が関心のある問題―たとえば次の選挙、株価
の変動、エネルギーの問題、中国や韓国の問題―から関心を広げていってください。この本は、そうした
ことのきっかけを作ってもらうためのものです」と述べ、教養として身につけるべき知識として世間話を
とらえています。出版社の売りたい都合によるものか、世間話が役立つとか、世間話が仕事で使えるなど
奇妙きてれつな題になっています。あるいは、ほぼ同義でとらえられるのか「“内向型”のための雑談術
―自分にムリせずラクに話せる51のルール」(渡瀬謙・大和出版)など雑談の方法を説くハウツー本も
あります。
これから皆さんが就職して、保育者となり、保護者との会話や同僚との会話をスムーズにする必要が出
てくるでしょう。また、営業の仕事の際、お客さんに対しいきなり商品の説明などをしてしまっては警戒
され思うようにならないかもしれません。あるいは、気になる異性に対しても、彼氏・彼女に対しても気
すべ
の利いた話ができることは大切な「術」なのかもしれません。
ここで改めて世間話って何だろうと考えてみるために、まず「世間」を考えてみましょう。
○『「世間」とは何か』阿部謹也・講談社
この本は「社会」という「世間」の類語との比較により、「世間」は顔見知りの人と人との具体的なつ
ながりであり、自分が加わっている比較的小さな人間関係の環であるとしています。とすると、世間話は
自分と直接関係する人間関係で行われる会話ということになります。また、
○『日本の世間話』野村純一・東京書籍
では、物語というハレの日、非日常の言語行為に対して、日時に制約されることのない平常のケの日にお
ける気楽な雰囲気の中での自由で気随な言語行為であるとしています。
いずれにせよ、世間(=世の中)に対する興味を持ち続け共有していくのは、奥ゆかしさを持った日本
人の良さなのかもしれません。この本の中を少しのぞいてみますと、世間話として「口裂け女」や「六部
殺し」など、怪談と感じる話が様々な地域で語られている類型が紹介されています。口裂け女は三人姉妹
の末っ子。末っ子があまり可愛いので、上の姉二人がそれをねたんで鎌で口を裂いた。年齢は二十歳。精
神病院に入っていたが、そこを抜け出して逃走中であった。常に鎌を持ち、赤いセリカに乗
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っている。走るのは100メートルを11秒台。ポマードが嫌いなので、ハンカチにその匂いを滲み込ま
せ、追い掛けられたらそれを投げるとよいといわれた。マスクをしていると大変な美人で長い髪だそうで
す。みなさんが知っている話と同じでしたか?元々の話に尾ひれが付いていますね。ポマードやセリカっ
てちょっと古い気もしますが、整形手術が原因だとか100メートル11秒とか何だか現実的な要素が入
り込み、先に挙げた社会人としての知識としての「世間話」とはかけ離れたナンセンスの中にユーモアが
表れています。
「役立つ」「使える」といった尺度で計られる世間話は、会話の苦手な(?)、あるいは経験不足を補
うためにある程度必要なことかもしれませんが何とも寂しいものです。自分の生活の場において直接関係
する人々に自分らしく語る、素直に語ることを期待します。(本学講師)
この本を読んでみよう
文中の作品
•『知っていると役に立つ世間話』 竹中平蔵
宝島社
2013
•『仕事で使える世間話の極意30』(eBook:Kindle版)
小沢亮
オープンアップス
•『“内向型”のための雑談術-自分にムリせずラクに話せる51のルール』 渡瀬謙
2010
•『「世間」とは何か』(講談社現代新書)
阿部謹也
講談社
1995
•『日本の世間話』(東書選書)
野村純一
東京書籍
1995
2013 ※
大和出版
注)※印のついた書籍は、電子書籍のため所蔵しておりません。
おすすめの本
•『日本世間噺大系』(新潮文庫)
伊丹十三
新潮社
2005
•『江戸東京の噂話-「こんな晩」から「口裂け女」まで』
野村純一
大修館書店
2005
•『ふるさとお話の旅3 千葉 南房総ちょっとむかし』
野村純一・監修 飯倉義之・編
星の環会
2005
•『「空気」と「世間」』(講談社現代新書)
鴻上尚史
講談社
2009
『図書館だより』 第14号
2014年1月4日発行
❏編集・発行
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