恨み映画

新ヒラリ ズム
7 の7
陽羅
義光
祟る
横溝正 史の ミステ リー小 説、『八つ 墓 村』だっ たか 、
「祟りじ ゃ~ 祟りじ ゃ~」
という 台詞 が繰り 返しで てく るもの が あって、 映画 も大ヒ ットし て、
どういう わけ か金田 一耕助 を渥美 清が や っていて 、
「祟りじ ゃ~ 」は、 流行語 になり 、
「祟りじ ゃ~ 」は、 小学生 もさか んに 口 走り、
「祟りじ ゃ~ 」を知 らない 者に は、祟 り があると いう 話も出 て、そ の後
『 男はつ らい よ』を 観ると 、
「祟りじ ゃ~ 」を知 ってい そう にない 寅 さんが、 祟ら れてい る感じ がし
て、実に オソ ロシイ もので あった 。
そのと おり 、
〈祟り〉
はオソ ロシ イので ある。
現代作 家は 、
(それも 「純 文学作 家」と いわれ てい る 者は)
〈祟り〉
なんて 言葉 を使う と、莫 迦にさ れる と おもって 使わ ないの だが、
『日本書 紀』
から、 明治 時代に 至るま で、よ く使 わ れたので ある 。
例えば 、人 口に膾 炙した 、夏目 漱石 の 、
『坊っち ゃん 』の一 節。
【是も親 譲り の無鉄 砲が祟 ったの であ る 】
とにか く、 あれも これも 、祟っ ちゃ う のである 。
なぜな ら、
〈祟り〉 とは 、
〈非合理 〉の 代わり 言葉で あり、 世の 中 は非合理 が多 いのだ から、
〈祟る〉 ので ある。
〈祟る〉 の語 源はは っきり しない が、 日 本古来の 、
〈神〉と の関 係の中 からう まれて きた と いうこと はた しかだ 。
だから 、
〈祟り神 〉が ある。
〈祟り神 〉は 、少な くはな いが、 いち ば ん有名な のは 、
〈お岩さ ん〉 かな。
ごぞん じ鶴 屋南北 の、
『四谷怪 談』 の、
〈お岩さ ん〉 である 。
『四谷怪 談』 は、
『仮名手 本忠 臣蔵』 の裏バ ージョ ンで あ る。
主人公 民谷 伊右衛 門は、 義士 になれ な かった不 忠の 侍で 、 人間的 にも
最低であ る。
仇討ち に参 加しな かった から 最低な の ではなく 、男 の厭な 部分を 総て
持ってい て、 男の好 い部分 を全く 持っ て いないか ら、 最低な のであ る。
この悪 党以 下の悪 党が、 妻であ るお 岩 を、
〈お岩さ ん〉 にして しまっ た。
「お化け のス ーパー スター 」であ る、
〈お岩さ ん〉 の物語 は、君 もよ く知っ て いるだろ うか ら、省 くとし て、
マルチな 文学 者小林 恭二は 、
『新釈四 谷怪 談』で 、
【お岩さ んは 江戸市 民によ って 人為的 に 創られた 〈祟 り神〉 である 】と
いってい る。
『四谷怪 談』 を上演 する際 には 、事前 に 田宮神社 にお 参りし な いと 祟り
がある。
嘘か真 か、 その具 体的な 事例も ある 。
お参り を忘 れて、 舞台の 上のみ なら ず 、現実生 活上 でも、
〈お岩さ ん〉 になっ てしま った女 優数 知 れず、と か。
「触らぬ 神に 祟りな し」と いうが 、
〈お岩さ ん〉 の〈祟 り神〉 は、嘘 か真 か 、触らな いと 祟りが ある。
いや失 礼、 嘘か真 かは関 係ない 。
〈祟り神 〉は 、そん な次元 の神様 では な い。
宮崎駿 のア ニメー ション 映画に は、 と きどき、
〈祟り神 〉が 登場す るが、 これは 獣の 化 身であり 、
〈お岩さ ん〉 ほどの スーパ ース ターで は ないから 、あ の手こ の手で 鎮め
ることが でき る。
けれど も、
〈お岩さ ん 〉が半 端では ないの は 、その 恨 みが半端 では ないか らであ る。
伊右衛 門と その悪 友ども に、余り にも ひどいこ とを された からで ある 。
醜い顔 の腫 れは、 死んで も治ら ず、 復 讐しても 治ら ない。
簡単に は鎮 まらな い、
〈祟り神 〉に なる他 はない 。
現代は 、美 容整形 が盛ん だから 、
〈お岩さ ん〉 も、い つまで も祟 ってい な いで、整 形手 術して 元の美 貌に
戻ればい いの に、と 思う者 は解っ てい な い。
死んで も治 らず、 復讐し ても 治らな い のは、そ の顔 の醜い 腫れの みで
はないか らだ 。
〈お岩さ ん〉 の恨み は、じ つは 肉体を 傷 つけられ た恨 みより も、精 神を
傷つけら れた 恨みの ほうが 大きか った の ではない か。
相変わ らず 、騙す 人間、 騙さ れる人 間 が沢山い て、 減るど ころか 増え
続ける今 日、
〈祟り神 〉の スーパ ースタ ー大 活躍の 場 面も、増 え続 けるに ちがい ない
のである 。
オソロ シヤ 、オソ ロシヤ 。