大学生の衣服に関する色彩嗜好と自己意識 University Student’s Color Preference in Clothes and Their Self-Consciousness 井落真子 キーワード:色彩嗜好 自意識 ユニークネス keywords:color-liking self-consciousness uniqueness 目的 近年、女性も男性もファッションに興味をもつ人が多くなってきている。様々な色の服が 売り出され、ファッション誌も以前に比べ種類が増えてきている。私たちは衣服を選択す るにあたって、季節や着用の場、好み、体型、流行、服種など様々な要素を考慮している。 そのなかでも私が注目したのは、自分が他人にどう思われているかを気にするために衣服 を選び着用する人と、色形など全く気にせず、ただ着られたらいいという考えで衣服を着 用している人がいるという点である。 衣服を設計する場合には、輪郭を明示し各部に分割したりそれぞれの部分の形態を関係 づける線(line)、線に囲まれた平面及び面によって囲まれた立体等の形態(shape and form)、 着用する環境等の空間(space)、衣服を構成する材料(texture)、及び色(color)の基本 的なデザイン要素を、一定のルールとに従って組み合わせる。これらの要因の中で、色及 び配色も衣服全体の印象を決定するうえで大きな要因になっていると思われる。色彩は膨 張感、温度感、重量感、距離感、硬質感等様々な性質をもっているので、これらの性質を 上手に利用することを多くの人は行なっている。たとえば、「膨張感」は同じ面積であって も色によって膨張してみえたり、収縮してみえたりする性質のことだが、この性質を上手 に衣服の色に取り入れている人々が多い。滝本・藤沢(1977)は白は膨張して見え、黒は 収縮して見えると述べているし、テレビや雑誌など様々なところでそのことはいわれてお り、多くの人々が知っていることだと考えられる。 ひと昔前まではファッションは女性の分野だと思われていたが、近年男性をターゲット としたスキンケア用品やメイクアップ用品、フレグランス、エステなどのアイテムは増加 している。また、体型や着装に関する記事を連載した男性ファッション雑誌も数多くみら れ、テレビ、新聞、雑誌、折り込み広告など様々なマスメディアを通して、ファッション やダイエットに関する情報が日常に溢れている。情報化社会といわれる今日、美に対する こだわりに男女差はなくなりつつあると推察できる。 そこで私は男女大学生に、自分自身のどの側面にどの程度注意を向けやすいかを測定す る自意識尺度を用い、その自己への関心度と衣服の色彩が関連しているだろうと予測した ので実際に検証したいと考えた。また他人と異なる独自な自己を求める欲求を測定するた めにユニークネス尺度を用いて測定し、色彩嗜好と関連するかどうか検証したい。 ここでは、井出(1998)による今井(1983)を参考に、 「被服とは人体を覆う目的の着装 物の総称で、かぶりもの・はきもの・装飾品など全てをさし、かぶりもの・はきものなど を除いた躯幹部を覆う被服を衣服」とする。 方法 被験者 調査対象者 大学生 男性 85 名、女性 117 名の合計 202 名を対象に行った。 調査期間 2005 年 11 月 16 日から 2005 年 11 月 30 日までを調査期間として行った。 調査方法 2005 年 11 月 16 日から 2005 年 11 月 30 日までの期間に友人に卒業論文作成にあたって、 自己意識と被服に関する色彩嗜好の調査とし、質問紙への回答をお願いし、質問紙に記入 してもらった。質問紙はその場で回収、または後日回収した。 また、2005 年 11 月 21 日1限に関西大学第3学舎の 4302 教室で行われた推測統計学の 授業において調査の協力をお願いした。こちらの場合も、質問紙はその場で回収、または 後日回収した。 調査表 自意識の尺度:自意識尺度日本語版(菅原、1984)を参考に作成した 21 項目を用い、5 件法で回答を求めた。 ユニークさの尺度:ユニークネス尺度(山岡・押見、1986)を参考に作成した 24 項目を 用い、5 件法で回答を求めた。 色彩について:色彩に関しては嗜好色・嫌悪色・衣服としてよく着用する色(以後着好 色とする)とその理由・着用したくない色(以後着嫌色とする)とその 理由・色としては好きだが着用したくない色(以後色好着嫌とする)と その理由・調査当日着用している服の色(以後着用色とする)を、色に 関しては 19 の選択肢から選んでもらい、理由に関しては記述で回答を求 め、またやせてみえる色(以後やせる色とする)と回りで流行っている 色(以後流行色とする)をさきほどと同じように 19 の選択肢から選ん でもらった。 1 2 3 4 5 6 7 8 9 11 12 13 14 15 16 17 18 19 10 結果 まず、自意識尺度に関して、菅原(1984)と同様に、尺度の因子分析(主因子法、Varimax 回転)を行った結果、自意識尺度 21 項目からは 1 項目が削除され 20 項目となったが、菅 原(1984)と同様、公的自意識因子・私的自意識因子の2因子が抽出された。また、ユニ ークネス尺度に関しても、山岡・押見(1986)と同様に、尺度の因子分析(主因子法、Varimax 回転)を行った結果、ユニークネス尺度 24 項目からは 8 項目が削除され 16 項目となり、 内面因子・目立ちたがり因子・個性因子の3因子が抽出された。 次に、嗜好色、着好色、着用色、やせる色、流行色の選択傾向を見た。 黒, 25人, 12% グレイ, 2人, 1% 白, 8人, 4% 赤, 15人, 7% ベージュ, 1人, 0% ピンク, 26人, 13% 茶, 1人, 0% カーキ, 3人, 1% 紫, 5人, 2% エメラルド, 8人, 4% 緑, 8人, 4% オレンジ, 13人, 6% クリーム, 4人, 2% 赤茶, 0人, 0% 黄緑, 10人, 5% 黄, 10人, 5% 青, 38人, 19% 水色, 19人, 9% 青緑, 6人, 3% 図2 嗜好色(全体) オレンジ, 2人, 1% ピンク, 6人, 3% 赤, 5人, 2% 赤茶, 1人, 0% 紫, 12人, 6% 青, 11人, 5% 青緑, 2人, 1% 水色, 3人, 1% 黄緑, 0人, 0% 黒, 74人, 37% 黄, 1人, 0% 緑, 8人, 4% カーキ, 5人, 2% 茶, 17人, 8% ベージュ, 10人, 5% グレイ, 25人, 12% 白, 18人, 9% 図7 着用色(全体) クリーム, 1人, 0% エメラルド, 0人, 0% 赤 ピンク 紫 オレンジ 赤茶 青 青緑 水色 黄 黄緑 クリーム 緑 エメラルド カーキ 茶 ベージュ 白 グレイ 黒 赤 ピンク 紫 オレンジ 赤茶 青 青緑 水色 黄 黄緑 クリーム 緑 エメラルド カーキ 茶 ベージュ 白 グレイ 黒 紫, 2人, 1% オレンジ, 0人, 0% 水色, 0人, 0% 赤 赤茶, 3人, 1% 青緑, 3人, 1% ピンク 青, 8人, 4% 紫 黄, 1人, 0% オレンジ 黄緑, 1人, 0% 赤茶 クリーム, 3人, 1% 緑, 8人, 4% 青 青緑 黒, 100人, 50% 水色 エメラルド, 1人, 0% 黄 黄緑 カーキ, 7人, 3% クリーム 緑 茶, 14人, 7% エメラルド カーキ グレイ, 11人, 5% ベージュ, 7人, 3% 茶 白, 17人, 8% ベージュ 白 グレイ 図4 着好色(全体) 黒 ピンク, 11人, 5% 赤, 4人, 2% 紫, 1人, 0% 赤茶, 1人, 0% オレンジ, 1人, 0% ピンク, 3人, 1% 赤, 1人, 0% 青, 5人, 2% 青緑, 1人, 0% 水色, 3人, 1% エメラルド, 2人, 1% クリー ム, 1人, 0% カー キ , 2人, 1% 茶, 3人, 1% 白, 10人, 5% グレイ, 6人, 3% 黒, 161人, 80% 図8 やせる色(全体) 赤 ピンク 紫 オレンジ 赤茶 青 青緑 水色 クリーム エメラルド カーキ 茶 白 グレイ 黒 赤, 5人, 3% ピンク, 12人, 6% 黒, 66人, 34% 紫, 41人, 21% オレンジ, 2人, 1% 赤茶, 2人, 1% 青, 3人, 2% 青緑, 6人, 3% グレイ, 7人, 4% 水色, 2人, 1% 白, 13人, 7% 黄, 1人, 1% ベージュ, 2人, 1% 黄緑, 1人, 1% 茶, 17人, 9% クリー ム, 2人, 1% カー キ , 5人, 3% 緑, 6人, 3% エメラルド, 2人, 1% 図9 流行色(全体) 赤 ピンク 紫 オレンジ 赤茶 青 青緑 水色 黄 黄緑 クリーム 緑 エメラルド カーキ 茶 ベージュ 白 グレイ 黒 次に自意識尺度と色の選択の関連を見るため、着好色とやせる色の一致している人と一 致していない人に分け、一致群と不一致群の公的自意識・私的自意識の平均値の差を検定 するために t 検定を行った。その結果、公的自意識において一致群の平均値は 39.20、不一 致群の平均値は 37.96 となり、有意差は見られなかった(t=-1.103,df=197,n.s.)。私的自意 識 に お い て 一 致 群 は 32.70 、 不 一 致 群 は 30.95 と な り 、 有 意 差 は 見 ら れ な か っ た (t=-1.626,df=195,n.s.)。また、着用色とやせる色の場合も同様に行った結果、公的自意識 に お い て 一 致 群 は 38.44 、 不 一 致 群 は 38.45 と な り 、 有 意 差 は 見 ら れ な か っ た (t=0.009,df=198,n.s.)。私的自意識において一致群は 30.36、不一致群は 32.38 となり、 有意傾向差が見られた(t=1.763,df=195,p<.10)。 着好色と流行色について同様にt検定を行った結果、公的自意識において着好色と流行 色の一致群の平均値は 37.68、不一致群は 38.82 となり、有意差は見られなかった (t=0.780,df=191,n.s.)。私的自意識において一致群は 29.03、不一致群は 32.30 となり、有 意差が見られた(t=2.319,df=189,p<.05)。また、着用色と流行色の場合では、公的自意識 に お い て 一 致 群 は 36.95 、 不 一 致 群 は 38.95 と な り 、 有 意 差 は 見 ら れ な か っ た (t=1.430,df=192,n.s.)。私的自意識において一致群は 31.18、不一致群は 31.85 となり、 有意差は見られなかった(t=0.493,df=189,n.s.)。 嗜好色と着好色について同様にt検定を行った結果、公的自意識において嗜好色と着好 色 の 一 致 群 の 平 均 値 は 36.69 、 不 一 致 群 は 39.11 と な り 、 有 意 傾 向 差 が 見 ら れ た (t=1.884,df=198,p<10)。私的自意識において一致群は 32.00、不一致群は 31.67 となり、 有意差は見られなかった(t=-0.620,df=196, n.s.)。また、嗜好色と着用色の場合では、公的 自意識において一致群は 36.78、不一致群は 38.71 となり、有意差は見られなかった (t=1.181,df=199,n.s.)。私的自意識において一致群は 31.89、不一致群は 31.73 となり、 有意差は見られなかった(t=-0.104,df=196,n.s.)。 また、着好色とやせる色において、高学年のみでt検定を行った結果、公的自意識におい て一致群は 36.58、不一致群は 39.66 となり、有意差が見られた(t=-2.130,df=100,p<.05) 。着用色とやせる色において、文系のみでt検定を行った結果、私的自意識において一致群 は 32.76、不一致群は 30.30 となり、有意差が見られた(t=2.066,df=178,p<.05)。着好色 と流行色において、女性のみでt検定を行った結果、私的自意識において一致群は 32.81、 不一致群は 28.14 となり、有意差が見られた(t=2.667,df=110,p<.001)。 次にユニークネス尺度と色の選択の関連を見るため、着好色と流行色の一致している人 と一致していない人に分け、一致群と不一致群の内面・目立ちたがり・個性の平均値の差 を検定するためにt検定を行った結果、内面において着好色と流行色の一致群の平均値は 23.33、不一致群は 24.82 となり、有意差は見られなかった(t=-1.584,df=188,n.s.)。目立 ちたがりにおいて一致群は 14.56、不一致群は 14.59 となり、有意差は見られなかった (t=-0.041,df=190, n.s.)。個性において一致群は 12.24、不一致群は 12.63 となり、有意差 は見られなかった(t=-0.770,df=190, n.s.)。また、着用色と流行色の場合では、内面におい て着好色と流行色の一致群の平均値は 24.32、不一致群は 24.58 となり、有意差は見られな かった(t=-0.291,df=189,n.s.)。目立ちたがりにおいて一致群は 14.74、不一致群は 14.56 となり、有意差は見られなかった(t=0.246,df=190, n.s.) 。個性において一致群は 12.71、 不一致群は 12.53 となり、有意差は見られなかった(t=0.337,df=190, n.s.)。 考察 今回の調査では有意差が認められるものが少なかった。その理由にまず、季節や天候、 気温などが関係していると思う。先ほども述べたように、今回は 2005 年 11 月中旬から下 旬という秋から冬になる肌寒い時期に行ったが、初夏など気温が高い、暖かい時期に行え ば結果はかわっていたかもしれない。また、体型に関する意識についてたずねなかったが、 このことも衣服を決める上で関係しているのかもしれない。そして、質問紙において菅原 (1984)のとおりに公的自意識・私的自意識をわけて質問紙を作成したが、わけたことに よって被験者に違う質問をしていると思われ、結果に影響を及ぼしたかもしれない。わけ ずに一つの大問にすれば有意差が認められたかもしれない。 よく着る服の色と流行色の一致群・不一致群の私的自意識に差が認められたのは、他の 色と合わせやすいとか自分に似合うかどうかという、自分主体となって衣服を選んでいる 人が多かったからであろう。女性だけの場合でも差が認められたのは、女性は自分に興味 があり、その次に他人なのであろう。その証拠に男性だけでは差は認められなかった。全 体で差が認められたのも女性がほとんどその結果を左右したのだろう。また、高学年だけ のよく着る服の色とやせる色の一致群・不一致群の公的自意識に差が認められたのは、大 学生の1・2回生と3・4回生では、高学年はもうすぐ社会人になるという無意識の自覚 があるため他人の目を気にし、子供から大人へ変わりたい、きれいに見られたいとゆう欲 望が強いのだろう。また、文系だけの着用色とやせる色の一致群・不一致群の私的自意識 に差が認められたのは、文系は一般的に女性の方が多く在籍しており、他人と比べること が多くなるため、鏡に映った自分自身がやせてみえることで満足しているのではないだろ うか。 今回は、大学生に限って調査を実施した。しかし、子供やお年寄り、高校生や一般社 会人など、違う年齢層で調査を行えば結果はおそらく変わるであろう。また、大学生でも 地域や女子大・共学でも結果は異なっていたであろうし、被服科の生徒からデータをとれ ばさらにかわっていたであろう。 また、調査をするにあたり、色の作成ミス、提示の仕方、質問のわかりにくさなどさま ざまな不備があったかもしれない。色提示を見ずに質問に答えている被験者も中にはいた ようだった。色に関する調査は質問紙ではむずかしく、実験で行うほうがよいだろう。質 問紙調査でもうまくいくような仕方は、今後の研究課題だ。 参考・引用文献 堀洋道・山本真理子・松井豊 1994 心理尺度ファイル‐人間と社会を測る‐ 垣内出版 54-57、168-171 神山進 1999 被服行動の社会心理学―装う人間のこころと行動― 中島義明・神山進 1996 人間行動学講座1 まとう―被服行動の心理学― 日本繊維機械学会・被服心理学研究分科会 渋川育由・高橋ユミ 高森寿 1989 北大路書房 1983 配色事典 1988 被服心理学 河出書房新社 日本繊維機械学会 2-3 女子大学生の自己の体型に関する意識と衣服の色彩嗜好 部紀要、人文科学第 38 号 高森寿・安部香織里 2003 1977 熊本大学教育学 99-112 男女大学生の自己の体型に関する意識と色彩嗜好 教育学部紀要、自然科学第 52 号 滝本孝雄・藤沢英昭 朝倉書店 熊本大学 21-31 入門色彩心理学 大日本図書 [転載・引用をご希望の場合は必ず事前に下記までご連絡ください。] 著作責任者: 土田昭司[関西大学] 連絡先: [email protected] 最終更新日: 2006 年 3 月 19 日
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