「今月の一枚」 項 目 タイトル・内容 頁 特集1 盛況極めた第4回JB東京展

テキスタイル&ファッション
Vol.22 No.9 (2005.12.)
「今月の一枚」
項 目
特集2
アンケート
尾州の知と技
連載
新聞閲覧
読む統計
技術情報
タイトル・内容
盛況極めた第4回JB東京展
延べ914社から5199点のリクエスト
ビジネス本位の展示会として定着へ
2007春夏トレンド ネリーロディセミナーより
尾州景気短期観測
FDC匠ネットワークメンバー紹介⑦
縄文以来の伊達心15
05年尾州産地この一年
海外有名ブランド日本法人申告利益
ゾル−ゲル法による機能性材料の合成
技術動向
レスケミカルな材料の製造について
163
こんな特許が
特許出願公開広報目次(平成17年9月分)
165
特集1
頁
149
151
155
156
157
158
160
161
「学ぶ」
11月に開かれたBTEの06/07年秋冬トレンドの「ジェントルマンワーカーズ」コーナー。
学生たちが、熱心に見入っていた。ネリーロディのトレンド提案は尾州産地の 宝 だ。階上か
らフォーカス。
(FDC職員)
通巻22号
テキスタイル&ファッション
Vol.22 No.9 (2005.12.)
■ 特集
盛況極めた第4回JB東京展
延べ914社から5199点のリクエスト
ビジネス本位の展示会として定着へ
11月7∼9日、東京・青山ベルコモンズ9階で開催した「第4回JB(ジョイント尾
州)06/07秋冬東京展」(主催・FDC)の最終報告をお知らせします。
1.出展状況
1)出展者
16社
2)出展点数
出展16社計
730点
FDCインデックスコーナー
160点
JBパリ 9 月展出展作品
107点
計
997点
※なお今回は、JTC2005応募作品も内覧会形式で10階に展示した。
2、来場状況
1日目
143名
2日目
297名
3日目
451名
計
891名
来場者は前回の1,074名に比べて
183名減少した。この要因は①商談本
位の展示会になり、フリー来場が少なく
なった②会期が他のファッション大型
イベントや大手服地卸の展示会と重複
した③初日、JR山手線で事故があり、
交通の便が奪われた、などと推察できる。
見本反請求は過去最高の103点
3、受注状況
1)総数
<1日目>
<2日目>
<3日目>
<合
計>
サンプル請求 131社から 349社から 434社から 914社から
点数
700点
出展1社平均 8社から
見本反請求
2087点
22社から
2412点 5199点
27社から
57社から
44点
130点
151点
325点
33点
25点
45点
103点
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テキスタイル&ファッション
Vol.22 No.9 (2005.12.)
前回展のサンプル請求に比べて236点減少した。これは来場者の減少を反映したもの
だが、来場者1人当たりの発注点数は
2)1人当り発注
今回
5.84点
前回(6月)
5.06点
となり、
「来場者は減少したが、濃い商談」ができたことになる。すなわちよりビジネス本
位な展示会となった。
3)見本反受注
また実際の原反契約に接近したアパレルからの「見本反請求」は過去3回を大きく上回
る103点に達した。
(参考までに過去は数点)。これもビジネス本位の展示会であったこ
とを示している。出展者1社平均では約6点だが、まもなくその服地を使ったアパレルの
受注展示会が開催され、服地が本契約につながる期待を持たせた。
4、発注者内訳
<業
種>
アパレル
小売店
商社・服地卸
その他
<3日間計>
<割合%>
318社
35%
34社
4%
536社
58%
26社
3%
914社 100%
出展1社平均
57社
―――
商社・服地卸が過半数を超えているが、これは「トレンド把握」を目的とした内容と思
われる。アパレルが35%になっているが、この種の展示会では高い比率である。延べ3
18社のアパレルが尾州産地素材に関心を示し、サンプルリクエストしたことは大きな期
待を抱かせる。今回は、特に著名デザイナー(系アパレル)が多数来場し、見本反を多く
リクエストしたことが、注目される。
5、来場者の声(最終日)
FDCは会場で来場者アンケートを実施したが、その一部を紹介する。
1)展示会に対する意見
「コンセプトが明確」
、「展示が見やすい」(多数)、「テーマに統一感がある」
(複数)、「テ
ーマの説明がわかりやすい」、「時期的にタイミングが良い」、「会期に関しては要検討を」
2)出展素材に対する意見
「結構、面白い素材に出会えた」、
「カットソーを増やして欲しい」
(複数)、
「中国にはない
新しい素材が多かった」、「エレガントな素材が多い」、「もっと薄くて軽い素材を充実させ
て欲しい」
3) 尾州産地に対する要望などその他の意見
「他産地とのコラボレーションに期待している」、「納期を守って欲しい」、「後加工を含め
た新しい素材が多いが、素材そのものの追求を願いたい」
なお、次回開催は2006年5月で、前シーズンより1か月繰り上がる。
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■ セミナー
ネリーロディ2007年春夏トレンド
よい航海を..
.
風の神アイオロス(ギリシャ神話)と、すべての風に身をまかせて..
.
そよ風、あるいは暴風と、気まぐれな風の意のままに旅します。
4つの旅へ、もちろん船に乗って、いざ出発!
‐ジャンク(中国の帆船)あるいはサンパン(中国のはしけ)で、
ヨーロッパ植民地時代の「ノスタルジック・クルーズ」ヘ。
‐大西洋横断の「セレクト・クルーズ」には、豪華でエレガントな客船で出かけます。
‐小船で出かける「ノルディック・クルーズ」は、静かなフィヨルドの中を旅する
素朴な夏のバラードです。
‐歴史と冒険を求める、「トロピカル・クルーズ」には、コンキスタドール
(15 世紀末から 16 世紀半ばにかけて、南北アメリカ大陸やカリブ海で先住民の土地を征服した
ヨーロッパの人々)の威厳に満ちた3本マストの大型船を。
逃避への欲求は、現代社会の奥深くに認められる共通の心理です。
エキゾティシズムも、植民地時代の思い出に染まります。
ファッションにも植民地ムードが復帰し、地理がもてはやされます。
ヨーロッパの危機には、
世界中に広められ賞賛されていたヨーロッパ文化を思い出すことが必要です。
このシーズン、もう一つの重要ポイント:
前シーズンまでの傾向と正反対の新しいトレンドの明るさ、純粋な清らかさ、清潔感、
フレッシュ感覚。すべてが明快で、きっちりとして、分かりやすい。北欧のライフ
スタイルをイメージ。さらには、バイオ、より穏やかなライフスタイル、また同時に
新しい健康美、素朴な喜び..
.
一休みして、そして新たな生活に向けて再出発すべき時ではないでしょうか?
北欧の海辺で繰広げられる素朴でフレッシュな、健康的かつ穏やかな美の感覚は
夏の必須事項の一つとされます。
徹底的、それとも無
旅の多面性を通して、このシーズンの概念の新たな区分が明らかになります:
郷愁、あらゆるものが混じり合うメルティングポット(るつぼ)と、
上昇しつつあるトレンドとして際立つ、明快さ。
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Select cruise セレクト・クルーズ
−厳選された旅−
避暑地のイギリスジェット族、大西洋横断のクルージング、イタリ
アのストローハットとクレープのドレスに身を包んだ美しい女性、
といった30年代風のエレガンス..
.
ファッションの世界で、スポーツのインスピレーションがデビュー。
といってもテニス、ゴルフ、ヨットといった非常に品の良いスポー
ツです。
(カラー)
白、生成り、明るいニュートラル、流木、泡と、よりダークな2色(ユニフォームマリンブルー、
ボルドー)とのコントラストで。
サーモンピンク、赤を添えて全体をフェミニンタッチに。
白のトータルルック、グレイッシュニュートラル/生成り/サーモン系のデリケートなトリオとい
ったハーモニーの演出も可能。
ここに提案されたカラーは、すべて無地カラーとして使えます。
(素材のキーポイント)
高級感のあるコットンクレープやバスケット織りで演出する、エレンガントなレトロスポーツルッ
ク。
厚手コットントワルやハーフリネントワルのタック使いやフライフロントのパンツ。
アールデコ風幾何学柄、マット/シャイン使いのダマスクやジャカード。
コットン/シルク、ウール/シルクを中心とする、豪華でエレガントなファブリック。
ビスコースリネンを実現。
リネンは、リネン本来のエレガンスを生かすべく、極細番手、光沢仕上げで用いられます。
ルックスは、控えめでクリーン。
一段とコンテンポラリーな BCBG(上品でおしゃれな)スタイル、モダンクラシック感覚。
Nordic cruise ノルディック・クルーズ
−北欧への旅−
水の都の静けさ、東欧、北欧の町 ―― マリアンバド、ブダペス
ト、ベルゲン..
.―― にちなんだシックなテーマ。
エレガントなフレッシュ感覚が漂います。
ロマンティックでモダンなテーマ:スカンジナビアのとある海岸
やフィヨルド、あるいは湖が背景に。
陽光を浴びた、さわやかな夏、北欧の海岸に立並んだ小屋は、と
っても魅力的です。
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テキスタイル&ファッション
Vol.22 No.9 (2005.12.)
(カラー)
グレーをおびた白っぽいカラー:白、スカイブルー、フレッシュバターイエロー、砂利のグレー。
カラー+酸性カラー+フレッシュカラー:やさしいハーフグリーン、モーブ、クレマンテアィーヌ、
赤。
(素材のキーポイント)
コットンルックがトップ、コットンやビスコースとブレンドしたフレッシュウール。
マット効果が主役。
非常にクリーン、陽気でフレッシュなルックの白っぽいトワル、白の横糸を通したギャバジン。
ソフトな多色使いストライプのコットントワルやコットンサテン、時に繊細なサテンストライプを
使ったものも。
清潔感のある控えめなマット/シャイン効果を見せるミニモチーフが求められます。
Nostalgic cruise ノスタルジック・クルーズ
−郷愁の旅−
前年の春夏シーズンのエスニックテーマに続くイメージながら、
よりニュートラル、よりエレガントなヴァージョンです。
昔の旅のノスタルジー、 ゆっくり
と
瞑想
がキーワード。
魅惑的な旅ながら、その雰囲気は非常に豪華で、タージマハルタ
イプのインドの宮殿や、デリケートなスタッコ装飾とムシャラビ
ー(アラビア建築特有の張出し格子)が美しいモロッコのリヤド、
あるいはタイの寺院などを思わせます。
(カラー)
洗練されたフェミニンカラー:パールがかったベージュやスキンカラーのようなピンクからティロ
ーズまで。
一段とカジュアルで色みの強いニュートラル、例えばアンバーがかった赤褐色、チーク材のブラウ
ン、バンブーグリーン、ジェードグリーン。
(素材のキーポイント)
このテーマでは、天然植物素材のラスティックブレンドが主役です。
リネンを筆頭に、多数のウールブレンド、ヘンプ、ブーレットシルク..
.コットンファイバー。
また、よりカジュアルな感覚でメンズパターンのインスピレーションをも取り入れています。
細かいメンズ織り柄の落ち着いたイメージ、リネン/ポリアミドブレンドでサッククロス風。
軽くスラブの入ったグラウンドに、不規則なテニスストライプ諸撚糸使い、ミックス調ルックのバ
スケット織り。
トーンオントーンのジャカード:間仕切りのスタッコ装飾モチーフやオリエンタル風な扇のモチー
フ。
ウォッシュト仕上げ、染色仕上げ、ウォッシュアウト仕上げが重要。
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テキスタイル&ファッション
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Tropical cruise トロピカル・クルーズ
−熱帯への旅−
人を酔わせるような魅惑的なトロピカルムード、時が止まり、ジ
ャングルがコンキスタドール(アメリカ遠征に加わったスペイン
の冒険家)の宮殿に侵入。
植物が甦り、つる科植物が壁やバロック風の扉、窓枠などを伝っ
て伸びます。
ワイルドでラスティックであると同時に、とってもおしゃれな歴
史の香りがするトロピカルなテーマです。
(カラー)
くすんだカラー、アースブラウン、カカオ、つる科植物、ジャングルのグリーン、モスグリーン、
シュロのグリーン、ペトロールグリーンに、うっとりするようなプラム、バーントオレンジ、フク
シャピンク、イチジクの紫といったカラーが乱入してきます。
(素材のキーポイント)
素材のブレンドとファンシーヤーンが主役:ウール/シルク/リネン/ポリエステル/ビスコー
ス..
.陽気なツイードを演出して。
従来から秋冬シーズンに多用されてきた、歴史を感じさせるジャカードモチーフが、新たな解釈で
にぎやかな植物パターンの中に溶け込みます。
リネン、シルクをベースにした、より軽やかなファブリックにオパール効果。
カラールーレックスヤーン使いのダマスク。
異番手ヤーンミックスで演出した、豪華なつる科植物を思わせる、絡まったような表面効果、大柄
な多色使いのストライプ。
植物パターンの不揃いなカットアウトを使った、デラックスなカムフラージュルック。
第3回JY
(ジャパン・ヤーン・フェア)
開催します。
平成18年2月7日(火)∼9日(木)
10:00∼17:00
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テキスタイル&ファッション
Vol.22 No.9 (2005.12.)
■ 尾州景気観測
91%「景気回復時期、判断できず」
「テキスタイル&ファッション」誌は、毎年2回、業界アンケートによる尾州産地景気短期観測(尾
州短観)を実施しているが、2005年12月度は1.64ポイントで12月としては03年観測
以来最低を記録した。これは2005∼06年の 暖秋 による受注低調を反映したもので、景気
の回復見通しに関しても91%が「判断できない」と厳しい見方をしている。(5段階評価)
関連業種減少の懸念も
ルの期近発注が際立っていることをうかが
今回の対象シーズンは06年春夏物だが、
秋の高い温度が影響して小売店頭の売れ行
わせた。06年春夏物の今後の受注見通しに
きが不振だったため、これを反映してアパレ
かんしては「少ない」が73%、
「昨年並み」
ルの春物生地手当ても低調で、産地への発注
が27%で、「多い」は皆無だった。
は押さえられており、73%が受注は「少な
こうした景気の現状に対して回復時期に
い」と回答している。景況に関しては各5
関する見通しは91%が「判断できない」と
0%が「大変悪い」
、
「やや悪い」と回答、
「普
しており、
「来年以降」は9%だった。
通」、
「やや良い」、
「大変良い」はいずれも皆
また現在の問題点としては「受注量の減
無だった。その結果、短観指数は1.64ポ
少」がトップで、次いで「受注単価の下落」
、
イントとなり、12月調査では最低を記録し
「小ロット化」、
「短納期」の順になった。こ
た。
れらは産地泣かせのワースト4で、人材や後
継者以上に産地の悩みとなっている。
06年春夏物の商況は「昨年並み」30%、
「遅い」60%、「早い」10%で、アパレ
当面の問題点
12
9
10
10
7
8
6
7
6
6
6 6
4 4
4
3
2
3
2
0
材
確
保
難
人
期
継
者
後
短
納
ト
落
ッ
小
ロ
下
単
価
加
工
単
価
注
受
受
注
量
下
減
落
少
0
今回
前回
03年 6 月
1.54
12月
1.72
04年 6 月
1.45
12月
1.80
05年6月
1.58
12月
1.64
なお、11月にかけて明らかになった染色整理業などの相次ぐ廃業から、当面の問題点として
「関連業種の減少」を懸念する声が今回初めて出された。この理由として「原油高による燃料コス
ト増に対して価格転嫁が進まない」という実態も問題点として指摘された。
(アンケート協力団体=尾北織物工業協同組合、尾州織物工業協同組合、IWSノミニーコンパ
ニーリミッテッド日本支社アジア開発センター、愛知羊毛紡績会、名古屋毛織工業協同組合、尾西
毛織工業協同組合、愛知県毛織物整理協同組合、尾北毛織工業協同組合、津島毛織工業協同組合、
日本毛整理協会、毛製品検査協会=順不同)
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テキスタイル&ファッション
■尾州の知と技
Vol.22 No.9 (2005.12.)
「FDC匠ネットワーク」メンバー紹介⑦
FDC匠ネットワークメンバーに聞く
―――――――――質問します―――――――――
質問1:職歴は?
質問2:主に携わった業務は?
質問4:貴方が伝承しているもの(こと)は?
質問3:尾州産地の現状認識は?
質問5:その伝承に必要なもの(こと)は?
プロの技術者が不足している
整理加工の匠・佐藤
質問1:昭和39年
功さん(所属・三井物産インターファッション)
ソトー入社
平成13年
同退社
平成13年
I・R・J 入社
平成15年
非常勤勤務
平成16年
三井物産インターファッション嘱託兼務
質問2:染色整理=技術、開発、品質管理、生産管理
補修及び物流=営業、品質管理
質問3:繊維関連のすべての職種においてプロの技術者が不足している。これは経営者の問題なの
か、人材を育てる、技術を継承させる力量が不足している。
質問4:特にない。
質問5:私の技術というよりも、産地全体が技術の必要性をいかに理解しているか、否か。必要と
考えるになら、企業努力として人材育成をはかり、技術の伝承を真剣に考えなければなら
ない。そのためには企業としてのポリシー、ビジョンが必要である。その際、行政の支援
を期待すること自体、考えが甘いと思う。
匠の技イコール経験、勉強、努力、研究開発の意欲。
糸染め一筋41年、製品・反染めも
糸染めの匠・新木一一さん(所属・一陽染工)
質問1:昭和39年
57年
新木染工入社(兄弟で 18 年間)
一陽染工設立
質問2:糸染め 41 年。6 年前から製品・反物染めを開始
質問3:小ロット、多品種でクィック納期が要求されている。また高品質が求められている。
質問4:糸については麻綿の細番手高密度が可能な染色方法。当社の場合はカラーインデックが特
に多い。
質問5:人材育成、企業努力。
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テキスタイル&ファッション
■ 連載
Vol.22 No.9 (2005.12.)
縄文以来の伊達心⑮
メリノ・ラムは紡毛仕上げで風合い
マテリアル・コンサルタント
川島茂信
3)毛抜け:アンゴラのニット製品の毛抜
極細カウントの毛糸を紡績し、半幅のモス・
けは日本人には嫌われている。フランスでは
セルのウール着物地を織った。何千年と絹の
大衆向けアンゴラ高率混製品でも、ナイロン
文化を楽しん で き た 日 本 人 に は FINE
を上手く使って抜けない工夫をしているの
MERINO WOOLは 最 も 重 要 な 羊 毛 で あ り 、
で、わが国でも一工夫が必要とされる。
モ ヘ ア 、カ シ ミヤ、等各種獣毛から日本人好
みの製品を作るにもFINE MERINO &MERINOの助
織物の場合は毛抜けしないので広範囲に
けが必要だった。
上手く使われている。昔、フランスで普通の
兎類の毛を100%で緯糸を紡績し、カシミヤ
日本に於ける48/2梳毛糸の原料の買い付
の様な美しい照りを持ったベロアコート地
けは、定期相場の価格を基準にして繊度むら
が織られた。最高に暖かく、強靭で一生着ら
の少ない、毛足の揃った色の白い、色毛の混入
れる織物として愛好されたが、目付けの重さ
しない、良質の羊毛を買い付け、綿糸の様な真
と、生産性の悪さからか、戦後衰退した。
直な糸を紡績する事を誇りとする伝統ができ
ている。欧州では途中の糸の風合いよりも、最
アンゴラでも緯糸をアンゴラ100%で紡績
し織ると、カシミヤ織物の光沢が出て、アン
終製品の仕上がりを考えてCONTROLされている。
ゴラの素晴らしい純白が生かされた紳士向
IRREGULARITYを第一に原料を選定するので、中
け替え上着、婦人向けコート地ができる。昔
心より細めの短いSIDEと、太めの長いSIDEを、
からの商品として、一見ニットの様に極めて、
基準のGRADE品より安く買い、BLENDして紡績し、
軽く織られたヘリンボーン調の織物もある。
意識的に小むらを作り、その小むらが製品の風合
いとなり、染色の色に深みを出し、深味のある
毛の特質の良さを消費者に伝えるのである。
「メリノ・ラム、ファイン・メリノ」
風合いを出すために、時には紡毛紡績の様な
1789年に初めて純メリノ種の羊が南アフ
リカ経由シドニー湾にもたらされて以来、僅
極端にIRREGULARな原料調合で梳毛紡績する。
か二百年余りだが、温度差の少ない温暖な気
時には梳毛紡績でも風合いや、色出しのためには、
候と、豊かな牧草に恵まれ、且つ執念の品種
CARDINGによりBLENDする。
改良により、今日世界に冠たる、最高に細く
紡績油にしても、日本では定期相場規格を基
て、繊度むらが少なく、純白で、色毛や刺毛
準にするから、糸の段階で見栄えが良く、色が
の混入しない、最高の羊毛原料が生まれた。
白く仕上がり、生産性のみを考えて、加工工程
メリノ種でも誕生間もない子羊は、古代種で
の中で毛が傷まず、最終製品までOILINGによっ
て毛質を守るという配慮に欠ける。
あった時の脂肪尾半時代の名残として、外側
原毛を完全に洗い、水溶性の合成油を使うが、
は粗硬毛で被われ下に細い綿毛が密生してい
る二重構造を持っている。2・3ヶ月でこの粗
欧州では糸での見てくれは悪くても、最終製品
い保護毛は脱落し、生後6ヶ月で最高に柔らかい、
までの工程において、毛が痛められないで良質
うぶな毛質になる。このラム・ウールは「優れ
の風合いが守られる事を第一にOILINGする。
た毛質はCOMBINGによって均一化してしまう事
技術的に許される限り原毛の残滓を残すよ
を避ける」理屈で、梳毛ではなく紡毛で紡績し
うに洗い、鹸化度の良い動物油、植物油を主と
た方が風合をより一層生かすことが出来る。
して用い、僅か鉱物油を混ぜる場合もあるが、
最終の仕上げで一挙に石鹸を使って洗い落と
梳毛紡績向けにはジロン・ラム等の毛足の
長いラムが用いられる。我々の大先輩は大正
すので、仕上がった製品の毛が生き生きとし
の初めには、FINE MERINOから梳毛ミュールで
ている。
157
テキスタイル&ファッション
Vol.22 No.9 (2005.12.)
■ 編集長が選ぶ2005年・尾州産地、この1年
05年、尾州産地、この1年
JBパリ展など進んだ海外戦略
今年も尾州産地では様々な動きがあった。商品開発、技術開発、構造改善、販路拡大、海外戦略
など、枚挙にいとまがない。編集長の独断で今年の「ニュースあれこれ」をまとめた。
***************************************************
■万
博■***************************************************
・田中テキスタイルは4月、愛知万博会場で
ァッション」をテーマにしたファッションシ
行われた「ECOテキスタイル・アンド・フ
ョー「ジャパン・ファッション・ファンタジ
ァッションショー」
(愛知県主催)にケナフ、
ー」を開催したが、竹、紙、トウモロコシ、
ホワイトパイン(白松)、大豆繊維を提供し
大豆などの素材の一部を尾州産地企業が提
た。愛知県下の専門学校生が作品を制作し、
供した。デザイナーは森英恵氏など。なおそ
ショーで見せた。
れらの素材解説はFDCが担当した。
・日本博覧会協会は9月、「自然の英知とフ
*************************************************
■海外戦略■*************************************************
・JB(ジョイト・尾州)ブランド構築事業
ーノ、C/ディオール、フェレなどの世界的
実行委員会は3月、尾州産地として初めての
なアパレルが含まれており、朝日新聞、日本
海外展示会をパリ・ルーブル美術館で16社
経済新聞などがトップ記事として取り上げ、
1グループが参加して行った。06年春夏向
尾州産地の評価を高めた。
け生地160点、製品4体のほか、江戸時代
・中伝毛織は2月、上海で05年秋冬物展示
の陣羽織、火事羽織、明治天皇着用のフロッ
会を開催。約1000を展示した。現地アパ
クコートなど日本のテキスタイル文化収蔵
レル、日系アパレルなど多数が来場し、イタ
品も展示した。この展示会は主に「JBブラ
リアのテキスタイルデザイナーとの共同企
ンド」の欧州における訴求を目的としたもの
画「テクスター」、日本ならではの後加工を
だが、来場者368名で、多くが尾州産地素
施した「尾州の匠」など提案した。また同社
材と衣装文化に感嘆の声を上げていた。
は9月、上海に代表事務所を開設した。
アルマーニなどが尾州素材リクエスト
・いわなかは3月、パリの製品展「トラノイ」
同委員会は9月、11社が参加して第2回
に出展した。また同社は9月、パリで開催さ
JBパリ展示商談会をテル・ドゥ・ルーブル
れたPV(プルミエールヴィジョン)に初め
で開催した。会期中に278名が来場し、4
て出展した。
6社から488点のサンプルオーダーがあ
・安福繊維は5月、日中3社合弁による見本
った。会期に先立って先遣隊(小池・小池毛
専門の糸染め会社嘉興茶福染色有限公司を
織社長、墨・艶金興業社長)がイタリア、フ
設立した。資本金80万㌦で、安福繊維の出
ランスの著名アパレルを訪問し、10社から
資比率は20%。5㌔から100㌔まで噴射
152点のサンプルオーダーを確保してい
式と回転式の染色機50台を導入し、月産5
た。その中にアルマーニ、エルメス、モスキ
0㌧の生産能力で立ち上げた。半年後に50
158
テキスタイル&ファッション
Vol.22 No.9 (2005.12.)
台を導入し、月産60㌧まで引き上げる。
06年1月、ピッティウオモに出展
・西川毛織は中国に「馬鞍山西川毛織有限公
・「尾州房」は11月、2006年1月のピ
司」を設立、10月、操業を開始した。総投
ッティウオモに出展する、と発表した。三幸
資額は600万㌦、資本金は300万㌦で、
毛糸紡績、時田毛織、野村産業、艶金興業で
豊田自動織機のエアージェット織機6台、ベ
構成する尾州房グループはアドバイザーな
ルギー・ピカノールのレピア10台など設置
どの協力を得て、メンズのスーツ、ジャケッ
した。年間生産量9万反のうち、当面中国工
ト、パンツ、シャツなど出展する。
場の生産は20%以内に押さえる。
*************************************************
■イベント■*************************************************
・FDCは2月、42社の参加を得て第2回
・FDCは6月、第3回JB(ジョイント・
ジャパンヤーンフェアを開催。来場者は30
尾州)06年春夏東京展を開催した。15社
00名を上回り、日本を代表する「ヤーン展」
1グループが参加した。前年6月に行った第
として2回目にして定着した。
1回展を上回る906人の来場者があり、5
(第3回は2006年2月7∼9日)
869点のサンプルリクエストがあった。
************************************************
■人材・人事■************************************************
・日本毛織物等工業組合連合会(毛工連)理
・ザ・ウールマーク・カンパニーは9月、
「羊
事長に6月、長大(株)の長尾大八郎氏が就
毛研究会」を結成、年12回の講座を行う予
任した。
定。
・経済産業省は6月、「05年度産学連携製
・尾州・テキスタイル・カレッジは10月、
造中核人材育成事業」で、FDCが中核教育
受講生が2002年の開講以来500名を
機関となって進めるプロジェクトを採択し
超えた、と発表した。
た。
************************************************
■伝統・文化■************************************************
・尾州産地の歴史を物語る貴重な資料や設備
3月、閉館した。
を完備していた博物館「テキスタイル館」が
***********************************************
■M&A提携■***********************************************
・神田毛織は3月、イトイテキスタイルの国
ール服地事業とファッション事業に対して
内営業権の一部を譲り受けた。
ミノバが生産機能を提供する。
・御幸ホールディングスは5月、紳士服地の
・みづほ興業は8月、中小繊維製造事業者自
世界的卸売り会社を傘下にもつフランス・ド
立事業にインパナ事業が採択されたのに伴
メール持ち株会社と資本提携した。御幸子会
い、国内の加工メーカー11社と連携、その
社・イギリス・ミノバとドメール子会社・ド
技術を活用した特徴ある織物の加工・製造・
メール服地事業会社が株式を持ち合い、ドメ
販売に本格的に乗り出した。
*****************************************
■構造改革・経営革新■*****************************************
織物をバーコーダー管理
・いわなかは4月から扱い生地のバーコード
159
テキスタイル&ファッション
Vol.22 No.9 (2005.12.)
管理を始めた。市販のバーコードリーダー機、
営業活動を支援するため、販売先の売掛債権
読み取りコンピュータを導入したほか、独自
を買い取るファクタリングサービスを始め
の管理ソフトも開発した。品番、生地幅、混
た。併せて販売を代行するエージェント、顧
率、目付けなどの情報を入力、ハンガー見本
客ニーズにあった素材開発のコーディネー
すべてに個別のバーコードを付けた。
ターとも契約した。中小繊維製造事業者自立
・岐阜県毛織工業組合は8月、組合員企業の
事業に採択され、実施するもの。
******************************************
■コラボレーション■******************************************
・いわなか、野口は11月、経済産業省・中
・いわなかは10月、東京で鈴倉インダスト
小企業基盤整備機構が行った「CBF」(ク
リー、丸萬商店、佐藤繊維と共同でテキスタ
リエーション・ビジネス・フォーラム)に参
イル見本市「プレミアムジャパンクラブ」を
加した。
開催した。
***************************************************
■新技術■***************************************************
世界初のインレー織物開発
な柄が出すことが可能になった。
・愛知県産業技術研究所・尾張繊維技術セン
・ソトーは9月、アメリカの加工溶剤メーカ
ターは9月、既存の織機に取り付けるだけで、
ー・ナノテックス社とライセンシー契約を結
織物の必要な部分によこ糸を織り込むこと
んだ。同社の撥水・撥油などの機能加工「ナ
ができる(インレー)装置を世界で始めて開
ノテックス」で、ウールを中心とするテキス
発した、と発表した。これにより織物に自在
タイルメーカーからの受託加工に応じる。
=====読む・統計=====
わが国、繊維・ファッション業界は依然厳しい状態にあるが、一部に好調な業界がある。海外有
名ブランド・ジャパン社がそれ。帝国データバンクがまとめた海外ファッションブランドジャパン
社(日本法人)の04年度法人所得申告額は計1258億円で、調査開始の93年以降で最高を更
新。前年比は3%増で、03年の18%増よりは伸び率は下がったが、上昇勢いに変わりはない。
<ジャパン社申告利益=億円>
400
364
この数字にはないが、イ
350
300
タリア・アルマーニグルー
250
プ の05年上半期の連結
200
売上高は前年同期比8%
124
150
108
94
100
増となったが、日本での販
90
60
50
46
44
43
売は13%増だった。尾州
産地としても輸出、ジャパ
0
シャ
ネル
ン
リシ
ュモ
クス
ロレ
ッ
キ
゙ス
ティ
ファ
ニー
グ
ッチ
グ
ルー
プ
アテ
゙ィタ
ナイ
゚
エル
メス
ギ
ャッ
プ
ン社を含めて「元気印」の
ルー
フ
LV
Jク
゙
41
海外アパレル対策が急務
だ。
160
テキスタイル&ファッション
Vol.22 No.9 (2005.12.)
ゾル−ゲル法による機能性材料の合成
1.はじめに
触媒としては、塩酸、硝酸、酢酸などの酸やア
ンモニアなどの塩基の他に、有機アルミネート
ゾル−ゲル法は、溶液から出発して、ゲル(多
が知られている。
孔質材料)
、有機無機ハイブリッド、ガラス、
セラミックス、ナノコンポジットなどを合成す
調合溶液を数十℃に保って原料化合物の加
る材料合成法である。セラミックスやガラスの
水分解と重縮合反応を起こさせると、酸化物微
製造に際しては、普通は粉末原料混合物を高温
粒子または高分子が分散している液体、すなわ
まで加熱して焼結や溶融を行うが、ゾル−ゲル
ちゾルとなり、さらに反応を進めると、粒子が
法では、それより低温で材料が合成できるとい
つながってゲルとして固化する。ゲル化した時
う特徴がある。また、真空蒸着、スパッタリン
点で、ゲルが水や溶媒を含んでいるならば、こ
グ、化学気相凝着などの気相法と違って、ゾル
れを蒸発させて乾燥ゲルとする。乾燥ゲルは、
−ゲル法は液相法である。
普通多孔質である。乾燥ゲルを最終製品として
2.ゾル−ゲル法のプロセス
利用する場合には、最高処理温度が 100∼150℃
第 1 図に、ゾル−ゲル法の材料合成プロセス
かそれより低いので、有機物の分解が起こらな
と生成物の微細構造のモデルを示す。ゾル−ゲ
い。したがって、必要な成分として溶液に加え
ル法法では、まず出発溶液を調製する。このた
た有機物の機能を利用するナノコンポジット
めには、普通、原料化合物、溶媒、加水分解に
や有機無機ハイブリッドを作ることができる。
必要な水、触媒を混合して均質溶液とする。酸
数百℃で加熱すると、ゲルはガラスあるいはガ
化物を作るのが目的であれば、原料化合物とし
ラスに近い状態になって強度を増す。出発溶液
ては対応する金属のアルコキシッド、アセチル
中に、無機(酸化物、カルコゲン化物、ハロゲ
アセトネート、酢酸塩などの金属有機化合物お
ン化物)または金属微粒子の原料を入れておき、
よび硝酸塩などの無機塩が使用される。有機無
加熱によって微粒子を析出させると、微粒子が
機ハイブリッドやナノコンポジットを作る時
分散した機能材料が得られる。有機分子の結晶
には、必要に応じてその他の有機化合物や無機
微粒子である有機ピグメントを導入し、200℃
化合物を加える。溶媒としては、アルコール類、
近くまで加熱して、ピグメントを分解すること
メトキシエタノール、ジオール、有機酸などが
なくゲルを強化することも可能である。
ゲルを数百℃以上の温度で加熱すると、粒子
使用される。
の焼結が起こって細孔がなくなり、ゲルは緻密
な透明ガラスや結晶性無機材料であるセラミ
ックスとなる。緻密化に必要な加熱温度が、従
来の方法に比べて数百℃も低いので、ゾル−ゲ
ル法はこのような意味でも低温合成法であり、
高温にすれば分解して逃げてしまうような物
質を含む材料を作ることを可能にする。
3.ゾル−ゲル反応
第2図に示す模式図からわかるように、溶液
が微粒子や高分子の分散したゾルになり、
第 1 図 ゾル−ゲル法のプロセスと生成物を示
すブロックダイヤグラム
161
テキスタイル&ファッション
第2図
Vol.22 No.9 (2005.12.)
テトラエトキシシランから石英ガラス体を合成する過程
方法である。
微粒子がつながって凝集体のゲルとなる時
に起こる反応が、ゾル−ゲル反応である。ゾル
4.2 ファイバーの作製
−ゲル反応は、一般に加水分解と縮合からなる
「ゾル−ゲル法によりファイバーを作る」とい
が、反応の詳細は目的とするゲルの化合物の種
う時のファイバーには、二通りある。一つは光
類、出発溶液の組成、触媒の種類や濃度、反応
ファイバーで、もう一つのより一般的な場合は、
時の温度・雰囲気によって種々さまざまである。
粘性ゾルから直接ファイバーを引くもので、耐
4.コーティングフィルム、ファイバー
熱性繊維として使われる。ここでは、後者の一
ゾル−ゲル法の最大の特徴は、溶液あるいは
つである耐熱シリカファイバーについて作り
ゾルの状態で成形することによって、粉末成形
方を説明する。
成分・組成を調節して、粘性状態で曳糸性を
過程を経ないで成形ゲル体が得られることで
ある。成形体ゲルは微粒子からできているので、
示すと思われる出発溶液から、実際にファイバ
従来の方法に比べてはるかに低温で焼結が起
ーが引けるかどうかを実験室的に調べるため
こり、ガラスやセラミックスの緻密体が容易に
には、石英ガラス棒を粘性ゾルに浸して引き上
得られる。最終目的物がゲルの場合には、工夫
げ、糸ができるかどうかを調べればよい。この
すれば常温に近い温度で成形体が得られる。特
方法で糸が引けることが確かめられたら、容器
に、有機無機ハイブリッドやナノコンポジット
の下方のノズルから粘性溶液を垂らし、ドラム
などの新しい材料については、ゾル−ゲル法は
に巻き付けることによって工業的にゲルファ
ほとんど唯一の作製法ではないかと考えられ
イバーを製造することができる。
ている。
4.1 コーティング膜の作製
コーティング膜を作るにはゾルを基板に塗
布する。この方法には、ディップコーティング
や、スピンコーティングのようなしばしば使用
されている方法の他に、プリンティング、スプ
レーコーティング、ラミナーフローコーティン
グなど種々の方法がある。ディップコーティン
第3図連続紡糸したシリカゲルファイバーの束
グは、基板を垂直にしてコーティング液に浸し、
上方に引き上げ、基板に付着した液膜を空気中
加工技術 Vol.40 No.6 (2005)
(気相中)でゲル化させるものである。スピン
ゾル−ゲル法のあらましより
(愛知県産業技術研究所
コーティングは、回転する基板上に液を垂らし、
三河繊維技術センター開発技術室 広瀬)
遠心力で液を基板全体に広げてゲル膜とする
162
テキスタイル&ファッション
Vol.22 No.9 (2005.12.)
■技術動向
レスケミカルな材料の製造について
近年、世界各地での自然災害のニュースが多くなってきました。これは、地球温暖化が大きな
要因のひとつと考えられています。この原因となっている二酸化炭素などの温室効果ガスの削減
には、製造・使用・リサイクル・廃棄までを考慮して環境への負荷の低減に配慮していく必要が
あります。ここでは、温室効果ガスの削減に大きな効果のある木材を化学物質をできるだけ使わ
ずに(レスケミカル)加工する技術について解説します。
1.はじめに
が爆発的に気化し、数百倍に体積膨張するこ
木材は、太陽エネルギーと二酸化炭素と水
とにより細胞壁内部から破壊され粉末状にな
から生産されるため、石油などの化石資源と
ります。
爆砕処理によって得られたセルロースは
は異なって再生産することができます。
また、
廃棄する際に焼却して二酸化炭素を放出しま
結晶化度が高く、分子量は若干低下している
すが、樹木等が生長する際に吸収されること
ものの分子量分布が狭く粒の揃った微結晶セ
により循環します。このため樹木などの生物
ルロースとなります。これは医薬品の錠剤成
が生産するものを利用することが温室効果ガ
形助剤、
高分子フィラー等として有効であり、
スの削減に大きな効果があります。
また、アルカリに溶けるためデンプンと均一
このような生物資源を有効に利用するこ
に混合することができ、食品添加物等に用い
とが重要なのですが、製材の廃材、おが屑、
られています。
建設廃材などが未利用のまま捨てられていま
3.高圧水蒸気処理による圧縮成形加工
す。これらを利用する際にも、例えばおが屑
高圧水蒸気による処理は、セルロースの結
に接着剤を混ぜて成形物を作る場合もありま
晶構造の変化を利用するもので、加工された
すが、例えその接着剤が無害なものであって
ものは従来の曲げ木のように熱水につけて元
も、
その製造には無駄なエネルギーが使われ、
に戻ってしまうことはありません。
例えば丸太から角材を製造する場合この
再利用する際には木材と接着剤を分離しなけ
ればなりません。
方法によれば無駄な廃材もでません。
木材は高圧水蒸気を用いて爆砕処理や圧
縮成形をすることにより加工できます。これ
は熱と水のみを使用するもので環境への負荷
は非常に少ないものです。この加工は、木材
の主成分であるセルロースの結晶形態が熱処
理により安定な形態へ転移することを利用し
たものです。
2.木材の爆砕処理
爆砕処理とは高温・高圧の飽和水蒸気によ
り短時間(2-4MPa、1-30min)の処理後、瞬
時に圧力を開放する処理のことで、内部の水
163
図1 丸太から圧縮成形加工で作られた角材
テキスタイル&ファッション
Vol.22 No.9 (2005.12.)
工程の一例を挙げますと次のようになり
ます。①120℃の水蒸気で 30∼60 分加熱し木
材を軟化させ、②1∼2MPa の圧力で 10 分程
120℃の水蒸気で
度かけてゆっくり角材に圧縮する。(この時、
軟化させ圧縮
木口から生理活性のあるリグナンやそれらの
配糖体を多く含む樹液が出てきます。これも
圧縮成形して
利用価値が高いものです。)③蒸気圧を 180℃
180℃で固定処理
に上げて 20∼30 分間固定処理し、蒸気の導
入を止める。④木材内部の温度がおよそ 80℃
以下になってから成形された木材を取り出す。
この加工では細胞壁は、破壊されずなめら
図3 圧縮成形加工のフロー
かに屈曲しています。このため乾燥時の応力
もこの屈曲した壁で分散されるため、乾燥割
れを起こしません。
また、このような屈曲した細胞壁の特性を
生かすと写真のような通常では考えられない
こともできます。
図4 皿状に圧縮成形加工した平板
6.結び
ここでは特に高圧水蒸気による圧縮成形
加工について紹介しましたが、レーヨンや綿
などのセルロース系繊維についてもこの技術
が応用でき、従来はホルマリンや液体アンモ
ニア及び各種樹脂を用いていた形態安定加工
図2 馬蹄形に変形させた木材
についても、より環境への負荷の少ない方法
通常であれば、このような曲げ方をすれば
への転換が可能となります。
すぐに割れてしまいますが、この加工をした
ものは、外側の面の細胞壁が元の状態になる
参考資料
長さまで伸ばすことができるためです。
1.棚橋;レスケミカル・ケミカルフリーな材料改質,
その特徴を生かすことにより圧縮成形で、
Cellulose Commun.Vol.8,No.2(2001)
次に示すような灰皿のようなものが成形でき、
プラスチックの代替とすることができます。
(愛知県産業技術研究所
尾張繊維技術センター 岩井茂彦)
164
テキスタイル&ファッションVol.22 №9(2005.12)
特許出願公開広報目次(平成17年9月分)
愛知県産業技術研究所尾張繊維技術センター抽出
発 明 の 名 称
吸音材
公開番号
出願番号
2005-266445 2004-080206
出 願 人
大和紡績(株)
ポリトリメチレンテレフタレートマルチフィラメ
2005-264424 2005-138047
ント糸
旭化成せんい(株)
有機無機複合ナノファイバ、有機無機複合
構造体及びこれらの製造方法
2005-264421 2005-040528
(財)川村理化学研究所
ナノファイバー合成紙およびその製造方法
2005-264420 2005-039051
東レ(株)
難燃性再生ポリエステル繊維
2005-264418 2005-034511
ユニチカファイバー(株)
炭化型ポリエステル系繊維構造物
2005-264417 2005-030363
東レ(株)
車両用表皮材及びその製造方法、自動車
用内装材及び自動二,三輪車用シート材
2005-264408 2004-082995
本田技研工業(株)
帯状繊維材料の流体処理方法および装置
2005-264406 2004-082781
サカイオーベックス(株)
繊維束の開繊幅測定方法および装置
2005-264405 2004-082780
サカイオーベックス(株)
繊維の製造方法及び製造装置
2005-264401 2004-081792
日本バイリーン(株)
カーボンナノチューブを天然繊維へ被覆す
る方法
2005-264400 2004-081773
国立大学法人 岡山大
学
難燃性ポリエステル系人工毛髪繊維
2005-264397 2004-081033
(株)カネカ
繊維の改質方法
2005-264396 2004-081023
グンゼ(株)
湿潤時に通気性が向上する織物および繊
維製品
2005-264389 2004-080380
帝人ファイバー(株)
光触媒機能を持つナノファイバーシートおよ
2005-264386 2004-080181
びその製造方法
学校法人慶應義塾
炭素繊維束およびその開繊方法
2005-264383 2004-079922
東レ(株)
新規な消臭性材料及びその製造方法
2005-264382 2004-079913
独立行政法人産業技術
総合研究所
着用快適性に優れた織物及びユニフォーム 2005-264381 2004-079466
東洋紡績(株)
柔軟剤組成物
2005-264380 2004-079418
コグニスジャパン(株)
ポリエステル系布帛の製造方法
2005-264378 2004-079370
花山工業(株)
静電紡糸法による繊維集合体の製造方法
及び繊維集合体製造装置
2005-264374 2004-078901
日本バイリーン(株)
パイル形成不織布
2005-264367 2004-076791
(株)オーツカ
綿状体の製造方法
2005-264364 2004-076009
帝人(株)
防護具およびそれを用いてなる防護衣
2005-264360 2004-075819
東レ(株)
防護具およびそれを用いてなる防護衣
2005-264359 2004-075818
東レ(株)
繊維混用物の染色方法
2005-264357 2004-075761
オペロンテックス(株)
ポリオキシメチレン樹脂製延伸体の製造方
法
2005-264355 2004-075545
ポリプラスチックス(株)
ポリフェニレンサルファイド繊維および工業
用織物
2005-264349 2004-074780
東レ(株)
165
テキスタイル&ファッションVol.22 №9(2005.12)
発 明 の 名 称
炭素繊維およびその製造方法
公開番号
出願番号
2005-264346 2004-074012
出 願 人
帝人(株)
ポリエステル仮撚加工糸およびその製造方
2005-264345 2004-074010
法
帝人ファイバー(株)
低収縮性熱接着繊維およびそれを用いた不
2005-264344 2004-073975
織布
東レ(株)
全芳香族ポリアミドと炭素系材料からなる樹
2005-263951 2004-077748
脂組成物およびコンポジットファイバー
帝人(株)
インクジェット捺染インクセット、インクジェッ
ト捺染用ブラックインク及びそれを用いたイ
ンクジェット捺染方法
インクジェット捺染インクセット、インクジェッ
ト捺染用ブラックインク及びそれを用いたイ
ンクジェット捺染方法
2005-263837 2004-074054
コニカミノルタホールディ
ングス(株)
2005-263836 2004-074053
コニカミノルタホールディ
ングス(株)
インクジェット捺染インクセット及びインク
ジェット捺染方法
2005-263835 2004-074052
コニカミノルタホールディ
ングス(株)
高強度補強タイヤ
2005-263218 2005-136337
ザ・グッドイヤー・タイヤ・
アンド・ラバー・カンパ
ニー
車輌用吸音材
2005-263118 2004-081263
豊和繊維工業(株)
繊維強化塩化ビニル系樹脂シート
2005-262468 2004-074194
ウエーブロックホール
ディングス(株)
光触媒担持体
2005-262022 2004-075178
(株)大林組
不織布、不織布の製造方法、及びこれから
なる電気二重層キャパシタ用セパレータ
2005-259983 2004-069497
日本バイリーン(株)
吸収性不織布
2005-256273 2005-128364
マクニールーピーピー
シー・インコーポレイテッ
ド
グルコマンナン層を有する布加工物および
その製造方法
2005-256272 2005-112874
(有)スズルネス
ナノファイバー不織布およびポリマーアロイ
繊維不織布
2005-256267 2005-032073
東レ(株)
防縮性及び抗ピリング性に優れた獣毛紡績
2005-256233 2004-070853
糸及びその製造方法
ユニチカテキスタイル
(株)
チタニア繊維光触媒およびその製造方法
2005-254173 2004-071069
東邦チタニウム(株)
耐切創性に優れた編物及びその利用
2005-248345 2004-057376
東洋紡績(株)
遮光性に優れる軽量ブレンド繊維、およびそ
2005-248340 2004-057145
れからなる繊維製品
東レ(株)
ポリエステル糸ならびに特定ポリエステル糸
2005-240267 2005-003663
を使用したエアバッグ
ミリケン・アンド・カンパ
ニー
高密度耐炎繊維不織布及び炭素繊維不織
布、並びにそれらの製造方法
2005-240224 2004-051919
東邦テナックス(株)
機能性撚糸とその製造方法及び機能性撚
糸を用いて作られた織編物
2005-240190 2004-047368
英大産業(株)
極細繊維からなるスライバー
2005-232672 2005-062239
カネボウ(株)
縮れ状炭素繊維とその製法
2005-232667 2004-245101
昭和電工(株)
166
編集室より
11月末に片岡毛織が来年3月で廃業することが明らかになった。廃業の挨拶の行間に無念さを
読み取ったが、まさに尾州産地の現在を象徴する出来事である。言うまでもなく片岡毛織は尾州毛
織業界の創業的企業で、創業者の片岡春吉翁は先駆者である。翁の業績については周知のことだが、
なぜ毛織物を手掛けたのか、これはあまり知られていない。明治29年、翁は全国機業地を回り、
当時の織物産地の研究をした。その結果「京都の西陣、関東の絹織物は完成している。しからば、
洋装化で需要が拡大する毛織物を興そう」との考えに至った。そして単身、東京モスリンで修行し、
明治31年、故郷で毛織業を始めた。「中国(のコスト)には勝てない」、「イタリア(の感性)に
追いつけない」わが国の毛織物。翁は「尾州オリジナル」を目指して功なり、名を上げた。来たる
べき新年が素晴らしい年になることを祈って。1年間のご愛読ありがとうございました。
(MY)
テキスタイル&ファッション
編集・発行
監修
協力
財団法人一宮地場産業ファッションデザインセンター
愛知県産業技術研究所尾張繊維技術センター
愛知県繊維振興協会
愛知県産業技術研究所三河繊維技術センター