2013年グローバルリスク報告書 - weforum.org

Insight Report
第8 回
グローバルリスク報告書
2013年版
An Initiative of the Risk Response Network
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© 2013 World Economic Forum
All rights reserved.
No part of this publication may be reproduced or
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ISBN: 92-95044-50-9
978-92-95044-50-0
REF: 301211
本報告書は2013 年1月に世界経済フォーラム
が出版した Global Risks 2013 Eighth Edition
の日本語版です。
翻訳・制作責任:
マーシュジャパン株式会社/
マーシュブローカージャパン株式会社
〒 163-1438
東京都新宿区西新宿 3-20-2
東京オペラシティタワー 38 階
Tel. 03-5334-8547
URL www.marsh-jp.com
2
Global Risks 2013
第8 回
グローバルリスク報告書
2013年版
An Initiative of the Risk Response Network
Lee Howell
World Economic Forum
Editor in Chief
World Economic Forum in collaboration with:
Marsh & McLennan Companies
National University of Singapore
Oxford Martin School, University of Oxford
Swiss Reinsurance Company
Wharton Center for Risk Management, University of Pennsylvania
Zurich Insurance Group
Global Risks 2013
3
図1:2012年と2013年のグローバルリスクの展望の比較 i
経済
環境
大規模でシステミックな金融破綻
長期間にわたる財政不均衡
4
4
気候変動への適応の失敗
エネルギー・農産物価格の急激な変動
極端な所得格差
流動性危機の頻発
制御できない
インフレ/デフレ
3.5
修復不能な汚染
長期間にわたる
労働市場の不均衡
3.5
新興経済の
ハードランディング
土地・水路管理の失敗
抗生物質耐性菌
前例のない地球物理的破壊
都市化の管理の失敗
規制の予期せぬ悪影響
2.5
2.5
3
生物種の乱獲
リスクが発生した場合の影響
リスクが発生した場合の影響
長期にわたるインフラ整備不足
3
3.5
磁気嵐に対する脆弱性
3
2.5
4
2.5
今後10年間に発生すると予測される可能性
脆弱化した重要国家
一方的な資源の国有化
パンデミックに対する脆弱性
不正取引の蔓延
3
3.5
4
今後10年間に発生すると予測される可能性
3
2.5
2.5
3
今後10年間に発生すると予測される可能性
4
経済
環境
地政学
重要システムの故障
社会
鉱物資源供給の脆弱性
新たな生命科学技術の
予期せぬ影響
サイバー攻撃
大規模なデータの
不正利用/窃盗
リスクが発生した場合の影響
誤った電子情報の大々的な流布
気候変動緩和対策の予期せぬ影響
3
知的財産管理体制の不備
ナノテクノロジーの
予期せぬ影響
宇宙ゴミの拡散
2.5
2.5
3
3.5
4
今後10年間に発生すると予測される可能性
出典:World Economic Forum
変化の一部は、標本の構成によるものである。詳しくは、セクション4「調査結果」を参照。
Global Risks 2013
慢性疾患率の上昇
実効性のない麻薬政策
テクノロジー
3.5
高齢化への対応の失敗
統制されない移住
グローバル化に対する反動
2.5
2.5
3.5
不正行為の蔓延
根強い犯罪組織
宇宙の軍事化
3
宗教的狂信主義の台頭
持続不可能な人口増加
テロリズム
リスクが発生した場合の影響
3.5
食糧不足危機
グローバル・ガバナンスの破綻
外交による紛争解決の失敗
4
4
水供給危機
4
大量破壊兵器の拡散
3.5
社会
4
リスクが発生した場合の影響
3
今後10年間に発生すると予測される可能性
地政学
i
温室効果ガス
排出量の増大
長引く
異常気象
テクノロジー
3.5
4
図2:2013年のグローバルリスクの展望
4.2
4.1
大規模でシステミックな金融破綻
4
水供給危機
大量破壊兵器の拡散
3.9
温室効果ガス排出量の増大
エネルギー・農産物価格の急激な変動
食糧不足危機
3.8
極端な所得格差
グローバル・ガバナンスの破綻
長期間にわたる労働市場の不均衡
持続不可能な人口増加
3.7
外交による紛争解決の失敗
高齢化への対応の失敗
宗教的
流動性危機
修復不能な汚染
狂信主義の
の頻発
重要システムの故障
台頭
長引く異常気象
パンデミックに対する脆弱性
テロリズム
制御できないインフレ/デフレ
抗生物質
耐性菌
脆弱化した重要国家
土地・水路
サイバー攻撃
管理の失敗
新興経済のハードランディング
不正行為の蔓延
鉱物資源供給の脆弱性
一方的な資源の国有化
3.6
3.5
3.4
新たな生命科学技術の予期せぬ影響
統制されない移住
グローバル化に対する反動
Backlash
against globalization
3.3
前例のない地球物理的破壊
気候変動緩和
対策の予期せぬ
影響
慢性疾患率の上昇
3.2
3.1
根強い犯罪組織
長期に
わたるインフラ整備不足
規制の予期せぬ悪影響
宇宙の軍事化
磁気嵐に
対する脆弱性
実効性のない麻薬政策
3
ナノテクノロジーの
予期せぬ影響
都市化の管理の失敗
生物種の乱獲
大規模なデータの不正利用/窃盗
誤った電子情報の大々的な流布
リスクが発生した場合の影響
長期間にわたる財政不均衡
気候変動への適応の失敗
不正取引の蔓延
知的財産管理体制の不備
2.9
2.8
宇宙ゴミの拡散
5
経済
4
2.7
環境
3
地政学
2
2.6
社会
1
1
2
3
4
テクノロジー
5
2.5
2.5
2.6
2.7
2.8
2.9
3
3.1
3.2
3.3
3.4
3.5
3.6
3.7
3.8
3.9
4
4.1
4.2
今後10年間に発生すると予測される可能性
出典:World Economic Forum
Global Risks 2013
5
図3:グローバルリスクマップ2013年ii
磁気嵐に対する脆弱性
Critical
systems failure
重要システムの故障
ハイパー接続世界での
デジタル・ワイルドファイヤー
宇宙の軍事化
長期にわたるインフラ整備不足
宇宙ゴミの拡散
Cyber
attacks
サイバー攻撃
誤った電子情報の大々的な流布
大量破壊兵器の拡散
Massive
incident of data fraud/theft
大規模なデータの不正利用/窃盗
テロリズム
宗教的狂信主義の台頭
外交による紛争解決の失敗
一方的な資源の国有化
Major
systemic financial
failure
大規模でシステミ
ックな金融破綻
根強い犯罪組織
不正取引の蔓延
実効性のない
麻薬政策
新興経済のハードランディング
規制の予期せぬ悪影響
知的財産管理体制の不備
不正行為の蔓延
グローバル・ガバナンス
土地・水路管理の失敗
の破綻
エネルギー・農産物価格の急激な変動
Chronic
labour market imbalances
長期間にわたる労働市場の不均衡
鉱物資源供給の脆弱性
食糧不足危機
水供給危機
グローバル化に対する反動
Severe income
disparity
極端な所得格差
気候変動への適応の失敗
生物種の乱獲
持続不可能な人口増加
長引く異常気象
前例のない
地球物理的破壊
都市化の管理の失敗
温室効果ガス排出量の増大
流動性危機の頻発
長期間にわたる
財政不均衡
高齢化への対応の失敗
慢性疾患率の上昇
抗生物質
耐性菌
制御できないインフレ/デフレ
統制されない移住
修復不能の汚染
気候変動緩和対策の予期せぬ影響
試される経済・環境面の弾力性
新たな生命科学技術の予期せぬ影響
パンデミックに対する脆弱性
健康問題への根拠なき過信
出典:World Economic Forum
ii
6
グローバルリスクの相互連関マップの完全版は、
「調査結果」の図37を参照。
Global Risks 2013
ナノテクノロジーの予期せぬ影響
Contents
セクション 1
8
はじめに
9
序文
10 エグゼクティブ・サマリー
13 コラム1:進化し続けているグローバルリスクの展望
14 序論
セクション 2
16 試される経済・環境面の弾力性
21
23
コラム2:グリーン成長行動アライアンス(G2A2)
ハイパー接続世界でのデジタル・ワイルドファイヤー
27
コラム3:ハイパー接続された世界
28 健康問題への根拠なき過信
34 コラム4:宇宙空間への依存度が高まる地球
セクション 3
36 特集:グローバルリスクに対する国家の弾力性の構築
42 コラム5:サプライチェーン・リスク・イニシアティブ
43 コラム6:レジリエンス・プラクティス・エクスチェンジ(RPE)
43
コラム7:弾力性のための実践の1年
セクション 4
45 調査結果
53 コラム8:グローバルリスク2013 データ・エクスプローラー
セクション 5
55 X ファクター
60 結論
セクション 6
61 付録1:調査
62 付録2:発生の可能性および影響
66 付録3:弾力性
74 謝辞
78 プロジェクトチーム
Global Risks 2013
7
Section 1
はじめに
Section 2
行 8 年目を迎える本報告書は、世界各地の専
門家 1,000 人以上を対象とした大規模な調査
を基に、急速に変化し、複雑化する世界の情
勢を把握しようとする意思決定者に方向性を
示し、情報を提供することを目的としています。
本報告書が読者の皆様にとって挑戦意欲と知
的刺激をもたらす契機となれば幸いです。ま
た、もしまだのようであれば、グローバル
リスクに対する国家の弾力性構築を目的とし
たプラットフォームを公的・民間セクターの
リーダーに提供する世界経済フォーラムの
リスク・レスポンス・ネットワークへの皆様の
参画を期待します。
Section 3
Section 4
信頼と成長を取り戻そうと世界的な努力が続
けられている中、世界情勢を改善する社会変
革の機会を掴み取ることが我々の共通目標だ
とすると、世界のリーダーが「リスク回避」の
姿勢を貫いてばかりでは許されません。ハイ
パ ー 接 続 世 界(Hyperconnected World)に
よってもたらされるダイナミズムに対応するた
め、我々は目前に迫る多様なグローバルリス
クに対する弾力性(Resilience)
を高める必要
があると考えています。
Section 5
本報告書が示す通り、その性質上、グローバル
リスクに国境はありません。また、気候変動
によって悪化している異常気象の影響は、温
室効果ガスの主要排出国だけに及ぶわけでも
ありません。ソーシャルネットワークに投稿さ
れた誤情報は 1000 分の 1 秒の速さで地球の
反対側まで拡散し、また、最も効果的な抗生
物質に対する耐性を細菌に与える遺伝子が国
際線を利用する乗客を通じて広がる可能性も
あるのです。
Section 6
したがって、本報告書では、上記 3 つのケース
スタディを通して、リスクの国際的、および
相互依存的な性質について、理解を深める機
会を提供しています。それぞれのケーススタ
ディにおいて、政府、ビジネス、市民社会と
いった各ステークホルダーの枠組みを超えた
協力、すなわち、グローバルリスクに対する
弾力性の構築という共通の目的を持ったパー
トナーシップ強化の必要性を説得力をもって
示しています。また、これらのケーススタディ
は、今日、主に国レベルで存在しているリス
ク緩和・管理のメカニズムを強化する必要性
についても提案しています。私たちは、
グロー
バルリスクを、マッピングし、説明することは
できるものの、それがいつ、どのように出現
するかを予測することはできません。したがっ
て、グローバルリスクに対する国家の弾力性
の構築が、極めて重要になってくるのです。
「Resilient Dynamism(強靱 な活力)」は、ダ
ボスで開催される世界経済フォーラム今年の
年次総会のテーマであり、『グローバルリスク
報告書 2013 年版』が、同じ考えのもとに刊
行されることを大変嬉しく思います。今年刊
8
Global Risks 2013
クラウス・シュワブ
世界経済フォーラム創設者兼会長
Section 1
序文
リー・ハウエル
マネージングディレクター
リスク・レスポンス・ネットワーク
Kaplan, R.S., and Mikes, A. Managing Risks: A New
Framework. In Harvard Business Review, 2012.
Global Risks 2013
9
Section 6
1
読者の皆様には是非、RRN に参画することで、
グローバルリスクに対する国家の弾力性を評
価し、向上させるためのアイデアや取り組み
を共有していただけることを期待しています。
Section 5
弾力性(Resilience)の概念も、本報告書の基
盤となっている今年のグローバルリスク意識
調査に影響を与えました。世界各地の専門家
を対象とする年次調査には、回答者の選択し
た国の 50 のグローバルリスクに対する弾力
性—正確には、リスクに適応し、回復する能
力の有無—を評価するように求める新たな質
問が加わりました。1,000 人以上の専門家に
よる回答の結果、今まで以上に多面的で、確
かなデータセットを得ることができました。
2012 年に改訂した手法に基づき、2013 年版
この研究活動に関連して、世界経済フォーラム、
リスク ・ レスポンス・ネットワーク(RRN)で
は、リーダーが最新のソーシャルネットワーク
技術を利用して弾力性の構築について学び、
寄与することを目的としたオンラインプラット
フォーム、「レジリエンス・プラクティス・エ
クスチェンジ」を創設しました。こうした新た
な取り組みにより、我々 RRN は、リーダーが
グローバルリスクのマッピング、緩和、モニタ
リングとリスクに対する弾力性の強化に取り組
むことのできる最先端の国際プラットフォーム
として役割を果たしたいと考えています。
Section 4
第 1 のリスク分類は、プロセスの寸断や従業
員によるミスなどの「予防可能」なリスクです。
第 2 のリスク分類は、潜在的な報酬と天秤に
かけた後に企業が自ら進んで取る「戦略的」リ
スク。そして第 3 のリスク分類は、本報告書が
「グローバルリスク」と呼ぶ「外的」リスクです。
「外的」リスクは非常に複雑に構成され、企業
が単独で管理し、軽減できる範囲を超えてい
ます(すなわち、外因的性質を持つ)
。この分
類は、戦略的な政策策定と意思決定のプロセ
スを向上させるだけでなく、公的・民間セクター
諸機関における私どもの報告書の有用性を高
めるのではないかと考えています。
今年の特集をもって、私どもはグローバルリ
スクに対する国家の弾力性の測定に向けての
第一歩を踏み出しました。ここでは、5 つの
国家レベルのサブシステム(経済、環境、ガ
バナンス、インフラ、及び社会)を、堅牢性
(robustness)、 冗 長 性 (redundancy)、 臨 機
応変性 (resourcefulness)、対応力 (response)
と回復力 (recovery) という 5 つの要素レンズ
を通して見ることにより、グローバルリスクに
対する国家の弾力性を全体的に評価する定性
的・定量的指標の使用を検討しています。そ
の狙いは、意思決定者が国家の弾力性の構
築の進捗を把握し、さらなる投資を必要とす
る領域を特定できるように、新たな実態分析
報告を作成することにあります。中間研究結
果は、今年の夏に発表する予定です。
Section 3
刊行 8 年目を迎える本報告書の総合テーマ
は、 弾力性(Resilience)です。 組織や国が
単独で管理または緩和しきれない事象である
グローバルリスクの外的性質を考えると、こ
れはずいぶん明白なことのように思われます。
それにも関わらず現在の組織リスクマネジメ
ントにおいて、グローバルリスクに対する弾
力性に関わる議論が軽視されたり、場合に
よっては全く考慮されないケースも多く見られ
ます。その理由の一つとして、グローバルリ
スクが既存の概念的枠組みに収まらないとい
う点が考えられます。しかし、幸いなことに、
状況が変わりつつあることもまた事実です。
近年、『ハーバード・ビジネス・レビュー』は、
グローバルリスクの考察にも応用できる簡潔
で実用的な分類法を発表しました 1。カプラ
ン教授とマイクス教授によって提案されたリス
クの分類は 3 種類あります。
また、独自のコンテンツとオンラインデータ
をウェブサイトに導入し、利用者がリスクの
展望や、2012 年版報告書で提示した 3 つの
リスクケースの 1 年後、弾力性をどのように
深めていくのかを検証し、オンラインでの操
作を通して各自で検討することを可能にしま
した。
Section 2
の報告書は、3 つの「リスクケース」を取り上
げ、調査データの分析のほか、調査を補足す
る専門家へのインタビューやパートナーとの
ワークショップを開催し、各テーマについて
より厳密な考察を重ねました。8 回目となる
本報告書では、学界からシンガポール国立大
学(NUS)とオックスフォード大学マーティン・
スクールという2つの新たなレポート・パー
トナーを迎えることにより、地理的範囲の広
がりと専門分野の深みを増すことに成功しま
した。また、 想像の限界を超えるため、総
合科学雑誌『ネイチャー』の編集協力を得て
「X ファクター」を刷新しました。
Section 1
エグゼクティブ・サマリー
Section 2
Section 3
世界経済フォーラムでは、今年も50のグローバ
ルリスクの展望を検討するために、世界中の産
業界、政界、学術界、そして市民社会の専門家
1,000人以上に調査協力を依頼し、その調査ア
ンケートの回答に基づいて『グローバルリスク
報告書2013年版』をまとめた。
今後10年で発生の可能性が最も高いグローバルリスクとして回答者が
指摘したのは、
「極端な所得格差」である。また、実際に発生すれば最
も大きな影響をもたらす可能性のあるリスクとして、
「大規模でシステ
ミックな金融破綻」が挙げられた。影響と発生の可能性の両方のラン
キングで上位5位に入ったリスクは他に2つある。
「長期間にわたる財政
不均衡」と「水の供給危機」である(下の図4を参照)。
図4:発生の可能性と影響:上位5位
Section 4
発生の可能性
ほぼ起こりえない
ほぼ確実
極端な所得格差
4.22
長期間にわたる財政不均衡
3.97
温室効果ガス排出量の増大
3.94
水供給危機
3.85
高齢化への対応の失敗
3.83
1
2
3
4
5
Section 5
発生の可能性の平均
影響力
影響力が低い
影響力が高い
大規模でシステミックな金融破綻
4.04
3.98
長期間にわたる財政不均衡
3.97
大量破壊兵器の拡散
3.92
修復不可能な汚染
3.90
Section 6
水供給危機
1
2
3
4
5
影響力の平均
出典:World Economic Forum
グローバルリスクの中で、実際に発生する可能性が最も高いリスクとし
て指摘されたのは、
「新たな生命科学技術の予期せぬ影響」である。
また、昨年の調査結果と比較して、影響の点で最も順位を上げたリス
クは、
「規制の予期せぬ悪影響」であった(図5を参照)。
10
Global Risks 2013
Section 1
発生の可能性
1938年、何千人ものアメリカ人がH.G.ウェルズのSF小説『宇宙戦争』を
ベースにしたラジオドラマを実際のニュース放送と混同し、火星人がア
メリカに侵略したと思い込んでパニックに陥った。今日、インターネット
が同じような、しかも深刻な地政学的影響をもたらしかねない社会的
パニックの源になる可能性はないだろうか。現代のソーシャルメディア
は、オープンなシステムの中で情報がまたたく間に世界中に拡散する
ことを可能にしている。しかし、ソーシャルメディアにおける行動規範
や規則は整備され始めたばかりであり、まだ確立されていない。現代
のハイパー接続されたコミュニケーション・システムの利便性について
は誰もが認めるところだが、このようなシステムは意図の有無を問わ
ず、人を惑わすような情報あるいは挑発的な情報もウイルスが拡散す
るように広めてしまう可能性がある。たとえば、満員の劇場で「火事
だ!」と叫んだら、現実世界ではどうなるだろう。これがもしバーチャル
な世界で起きたら、情報の正誤性に関わらず、猛スピードで情報拡散
されてしまうために、訂正が直ちに配信されたとしても、誤情報による
被害は避けられない。ソーシャルメディアの情報発信者や情報消費者
に、ネット情報の爆発的拡散による混乱のリスクを軽減するための責
任感や判断力をつける方法はあるだろうか。
ほぼ起こりえない
新たな生命科学技術の意図せぬ影響
3.11 [44th]
2013
2012
ほぼ確実
2.68 [49th]
気候変動対策の意図せぬ影響
3.23 [38th]
2.80 [46th]
3.45 [23rd]
持続不可能な人口増加
3.05 [38th]
新興経済のハードランディング
3.46 [21st]
3.07 [37th]
高齢化への対応の失敗
3.83 [5th]
3.44 [18th]
1
2
3
4
発生の可能性の平均値(カッコ内は順位)
5
影響力
影響力が低い
規制の予期せぬ悪影響
健康問題への根拠なき過信
3.18 [43rd]
2013
2012
影響力が高い
2.77 [48th]
一方的な資源の国有化
3.40 [30th]
3.02 [43rd]
長期間にわたる労働市場の不均衡
3.73 [11th]
3.38 [27th]
3.49 [27th]
3.15 [36th]
高齢化への対応の失敗
3.67 [14th]
3.36 [28th]
1
2
3
4
影響力の平均値(カッコ内は順位)
5
出典:World Economic Forum
3つのリスクケース
長引く経済システムの混乱は当面の間、世界の指導者たちの関心を奪
うことになりそうである。しかし、その間にも地球の環境システムへの
負担は増大する一方である。たとえば、この2つのシステムが同時に衝
撃を受けると、
場合によっては解決が非常に困難な事態となる
「パーフェ
クト・グローバル・ストーム」を引き起こしかねない。特に経済分野で
は現在、大胆な金融政策や緊縮財政政策を通じて、世界経済の弾力性
が試されている。環境面では温暖化が進み、極端な異常気象が頻繁
に起こることにより、地球環境の弾力性が試されている。ある分野で
突然大規模な破綻が起これば、他の分野における効果的な長期的解
決策に決定的なダメージを及ぼすことは必須である。将来の財政危機
や自然災害の発生の可能性を考えると、経済システムと環境システム
の弾力性を同時に構築する方策はあるのだろうか。
今年の特集では、国家のコントロールや影響力が及ばないグローバル
リスクに対して、各国がどのように備えるべきか、という課題を取り上
げている。一つの考えられるアプローチは「システム思考」であり、危
機から立ち直る「弾力性」という概念を国家に応用して考えることであ
る。本報告書では、堅牢性(robustness)、冗長性(redundancy)、臨機
応変性(resourcefulness)、対応力(response)と回復力(recovery)とい
う、弾力性を構成する5つの要素を紹介し、国の5つのサブシステム(経
済、環境、ガバナンス、インフラ、社会)に応用して考察する。その結果
が政策決定者にとって、国家の弾力性の診断ツールとなり、それを使っ
てグローバルリスクに対する各国の弾力性を評価し、モニターすること
が可能となる。
Global Risks 2013
11
Section 6
試される経済・環境面の弾力性
特集:グローバルリスクに対する国家の弾力性
の構築
Section 5
今回の報告書では、意識調査の結果の分析、専門家との協議、そして
さらなる調査に基づいて3つのリスクケースを提示している。この章で
は、それぞれのケースごとに、さまざまなグローバルリスクの興味深い
繋がりを示すとともに、それぞれのリスクが世界と各国に与える影響に
ついて考察している。3つのリスクケースは以下の通りである。
新たなパンデミック(広域感染症)や慢性疾患などの出現により健康
被害という脅威に常に晒されている。我々は科学的発見や新技術のお
かげで、度重なる困難を乗り越えてきた。しかし、過去の医学の成功
のおかげで、逆に安全について間違った感覚を持っていないだろうか。
現代では人命を守るために最も効果的で最も一般的な方法の一つと
して、抗菌性化合物(抗生物質)が使用されている。しかし、近い将
来、抗生物質が簡単には使えなくなる日が来ることは間違いない。抗
生物質が投与される度に、細菌には選択的な進化圧力が働く。という
のも、一部の細菌が生き残り、その生存を可能にした遺伝的変異を次
世代に伝えるからだ。これまでは、新たな抗生物質が絶え間なく開発
され、効力の弱まった、古い抗生物質に取って代わってきた。しかし、
人類の革新のペースは、細菌の突然変異ペースに後れを取っている可
能性がある。パンデミックを引き起こすような「殺人細菌」の変異株に
は、現在開発されている新薬は一つとして効かないかもしれない。新
種の抗生物質の開発を促す方法、そして抗生物質の過剰投与を防ぐよ
うにさまざまなインセンティブを調整する方法はあるのだろうか。ある
いは、我々は抗生物質ができる前の時代、ひっかき傷が命とりになる
ような時代へと逆戻りしているのだろうか。
Section 4
新興経済のハードランディング
Section 3
ハイパー接続世界でのデジタル・ワイルドファイヤー
Section 2
図5:発生の可能性と影響:ランキング変化上位5位
Section 1
Xファクターと『ネイチャー』
Section 2
最終章では、科学総合雑誌『ネイチャー』の編集者らと共同で作成した
「Xファクター」を取り上げている。ここでは50のグローバルリスクの
展望の先に目を向け、劇的な変化もたらしかねない5つの未知の要因
について、政策決定者に注意を喚起している。
-- 暴走する気候変動:我々はすでに後戻りできない段階に入り、地球
の大気は人類が生活し難い状態に急速に近づいている可能性があ
る。
-- 大幅な認知増強:スポーツでの薬物使用に似た倫理的ジレンマが、
日常生活、経済活動に広がり始めるかもしれない。また、その結果、
軍拡競争が起こる可能性も否定できない。
-- 地球工学の悪用:近年、気候を操作する技術の開発が進んでいる
が、国家や個人が地球工学を一方的に使用する恐れがある。
Section 3
-- 長寿にかかる費用:医学の進歩で人類の寿命は年々延びている。し
かし、長期にわたる緩和ケアは費用が高く、高齢化に関連する費用
の負担が我々にとっての新たな難題となっている。
-- 地球外生命の発見:宇宙のどこかに生命が存在するという事実が
立証されれば、人類の信念体系に深刻な心理的影響がもたらされ
る可能性がある。
Section 4
グローバルリスク報告書は、世界経済フォーラムのリスク・レスポンス・
ネットワークの主要な研究出版物である。リスク・レスポンス・ネット
ワークはグローバルリスクへの弾力性を構築するために、世界の意思
決定者が協力できる方法を探る独自のプラットフォームを提供してい
る。詳しくは www.weforum.org/risk を参照。
Section 5
Section 6
12
Global Risks 2013
Section 1
コラム1:進化し続けているグローバルリスクの展望
図6:グローバルリスク上位5位の変遷(2007–2013)
発生の可能性が高いグローバルリスクの上位5位
1位
2007
2008
2009
2010
2011
2012*
2013*
重要情報
インフラの故障
資産価格の崩壊
資産価格の崩壊
資産価格の崩壊
気象災害
極端な所得格差
極端な所得格差
Section 3
Breakdown of critical information infrastructure
2位
3位
先進国における
慢性疾患
石油ショック
中国の経済成長
鈍化 (<6%)
中国の経済成長
鈍化 (<6%)
水害
長期間にわたる
財政不均衡
長期間にわたる
財政不均衡
破綻国家&破綻
しつつある国家
慢性疾患
慢性疾患
不正行為
温室効果ガス
排出量の増大
温室効果ガス
排出量の増大
サイバー攻撃
水供給危機
4位
中国経済の
ハードランディング
石油・ガス価格 の グローバル・
急騰
ガバナンスの
欠如
5位
資産価格の崩壊
先進国における
慢性疾患
グローバル化の
抑制(新興諸国)
Breakdown of
critical information
財政危機 infrastructure 生物多様性の喪失
グローバル・
ガバナンスの
欠如
気候変動による
災害
水供給危機
高齢化への対応
の失敗
Section 4
中東の政情不安
1位
2008
2009
2010
2011
2012*
2013*
資産価格の崩壊
資産価格の崩壊
資産価格の崩壊
資産価格の崩壊
財政危機
大規模で
システミックな
金融危機
大規模で
システミックな
金融危機
Section 5
影響が大きいグローバルリスクの上位5位
2007
Section 2
年次グローバルリスク意識調査で上位にランクされてきたリスクは、どのように変化しているだろうか。図6は、過去7年間の上位リスク要因の変
遷を示している。報告書のセクション4に示されている通り、リスク要因の全体的な評価は少しずつ変化してきた。しかし、影響や発生の可能性
の相対的な評価に関しては、それほど大きな変化は見られない。興味深い点としては、大量破壊兵器の拡散が影響の評価で上位5位内にランク
された点が挙げられるiii 。
Breakdown of critical information infrastructure
グローバル化の
抑制
グローバル化の
抑制 (先進国)
グローバル化の
抑制 (先進国)
グローバル化の
抑制 (先進国)
気候変動による
災害
水供給危機
水供給危機
3位
国家間戦争・内戦
中国の経済成長
鈍化 (<6%)
石油・ガス価格の
急騰
石油価格の急騰
地政学的紛争
食糧不足危機
長期間にわたる
財政不均衡
長期間にわたる
財政不均衡
大量破壊兵器の
拡大
エネルギー・
農産物価格の
急激な変動
修復不可能な汚染
4位
パンデミック
(広域感染症)
5位
石油ショック
経済
石油・ガス価格の
急騰
パンデミック
(広域感染症)
環境
慢性疾患
Breakdown of
critical information
慢性疾患 infrastructure 資産価格の崩壊
財政危機
財政危機
地政学
社会
エネルギー価格の
急激な変動
Section 6
2位
テクノロジー
出典:World Economic Forum
iii
2011年以降、リスク調査の手法が大幅に変更された。2007年-2011年と異なり、2012年-2013年は調査で評価された50のリスク項目に変更はない。
Global Risks 2013
13
Section 1
序論
Section 2
Section 3
Section 4
グローバルリスクの種類は、絶えず変化している。世界経済フォーラムの『グローバルリスク報告書』は今年、刊行8年目
を迎える。今号の目的は2つある。第一の目的は、世界が今後10年間に
30 年前は、クロロフルオロメタン(CFCs)が世 わたり直面する可能性の高いリスクについて、異なるバックグラウンド
を持つ世界各地の専門家が現時点でどのように認識しているかを示す
界的なリスクとみなされ、大規模なサイバー攻 ことである。こうした意見を把握するため、さまざまな分野の有識者を
その後、専門家グループと
撃による脅威はもっぱら SF の世界の話として扱 対象に意識調査とインタビューを実施した。
のワークショップや会議を重ね、調査結果の分析と本報告書に示す3
われていた。また核兵器の拡散も科学者と政 つのリスクケースの作成が行われた。第二に、本報告書をもって世界経
済フォーラムは、引き続きグローバルリスクに関する意識を高め、戦略
治家の大きな関心の的だったが、宇宙ゴミの の策定にリスクをいかに織り込むことができるかについて考えるきっ
かけを提供するとともに、世界のリーダーたちにグローバルリスクへの
拡散については無関心だった。同じことは、当 取り組みを向上させるべく奮起を促したいと考えている。
時のアスベストと今日のカーボン・ナノチューブ
にも当てはまり、似たような事例は枚挙にいと 年次調査-グローバルリスクの評価
まがない。
グローバルリスク意識調査は、2012年9月に実施された。1,000人以上
Section 5
Section 6
新たな情報により、リスクをめぐる認識と現実
は変化し、往々にして、予期せぬ方向に向かう。
例えば、一部の人々の間では、温室効果ガス
の排出がもたらす脅威を考えると、核エネル
ギーの方が化石燃料よりも長期的に害が少な
いかのように思われていた。しかし、福島の原
子力発電所の大惨事は、日本国内の一般の認
識を変えただけでなく、ほぼ一夜のうちに欧州
の一部地域の政策まで変えた。
14
Global Risks 2013
の専門家が回答し、経済、環境、社会、地政学、テクノロジーの5つに分
類された50のグローバルリスクを評価した。調査回答者には、それぞ
れのグローバルリスクについて、
「このリスクが今後10年間で発生する
可能性は、5段階評価でどのぐらいだと思いますか?」
「このリスクがも
し発生した場合、その影響はどのぐらいの規模になると思いますか?」
という2つの質問をした。回答の総計を提示しているのが、図2の散布
図「2013年のグローバルリスクの展望」である。
50のリスクの評価においては、リスク間の相互依存性を考慮し、それぞ
れのつながりにも焦点が当てられた。調査回答者には、互いに強く結
び付いていると思われるリスクのペアを挙げてもらった。また、グロー
バルリスクの5つの分類それぞれについて、システム全体にとって最も
重要なリスクである「中枢リスク」も挙げてもらった。ペアとなったリス
クをすべてまとめたのが、セクション4「調査結果」の図37の「2013年リ
スク相互連関性マップ(RIM)」である。
さらに、回答者のバックグラウンドが回答者の認識にどのように影響し
ているかを調べるための調査データの分析も行われた。欧州在住者の
見解は、アジア在住者の見解と類似しているだろうか?若年層は、年上
の層とは違った形で世界を認識しているのだろうか?ある分野におけ
る専門家としての知識は、リスクの認識にどのように影響するだろう
か?こうした問いは、本報告書のセクション4で検討している。
Section 1
リスクケース-複雑なシステムを解明する
Section 2
本報告書で取り上げている50のグローバルリスクは、相互に依存し、
関連している。2つ、3つ、4つあるいはそれ以上のリスクが連なっていく
つも順列されると、理解することが難しくなる。したがって、図3に示す
ように、興味深いグローバルリスクの繋がりを明らかにするために、互
いに結び付いたリスクが織りなすネットワークの分析も行った。
セクション2においては、グローバルリスクの繋がりをリーダーにとって
重要な3つのケース、すなわち、気候変動への対応をめぐる課題に関す
る「経済と環境の弾力性」、インターネットを通じて拡散される誤った
情報に関する「ハイパー接続世界でのデジタル・ワイルドファイヤー」、
抗生物質耐性菌がもたらす人類の存続に関わる脅威についての
「健康
問題への根拠なき過信」を取り上げている。
Section 3
各ケースは、当初のネットワーク分析の結果に着想を得た後、最新のト
レンド、因果関係、意識水準、考えうる解決策に関する詳細な研究を通
じて練り上げられた。伝統的なシナリオ手法とは異なり、これらのリス
クケースは、起こりうる結果をすべて導き出そうとするものではない。
物事を明らかにするための取り組みであり、グローバルリーダーが速や
かに注目し、対策を取るべきリスクを説得力ある形で描き出す総合的
な試みである。読者におかれては、これらのケースをさらに緻密に検討
し、提示されているデータに基づいて各自のシナリオを作り上げてい
ただきたいiv。
Section 4
ネイチャー誌からのXファクター
-さらに先を見据える
Section 5
Xファクターに関する章は、新たに出現しつつあるが、まだ意思決定者
の意識に上っていない懸念要素について考察するように読者に呼びか
けるものである。50のグローバルリスクが「既知の既知」を表わしてい
るならば、Xファクターは、
「既知の未知」
とみなすことができる。Xファク
ターは、ネイチャー誌の編集陣との共同考案によるものであり、まだ主
流の場では語られていない最先端の科学研究に関する同誌寄稿者の
深い知識が取り上げられている。
弾力性-将来のショックに備える
iv
v
Section 6
今年の特集では、グローバルリスクに対する国家の弾力性の構築とい
う、重要性の高まりつつある課題について考察している。ここでは、5
つの国家レベルのサブシステム(経済、環境、ガバナンス、インフラ、社
会)を、堅牢性、冗長性、臨機応変性、対応力、回復力という5つの要
素のレンズを通して見ることによってグローバルリスクに対する全体的
な国家の弾力性を評価する定性的・定量的指標を紹介する。その狙い
は、意思決定者が国家の弾力性の構築の進捗を把握し、さらなる投資
を必要とする領域を特定できるように、未来の実態分析報告を作成す
ることにある。研究の中間報告は、今年の夏に発表する予定である。こ
こで提案されている枠組みを検討し、リスク・レスポンス・ネットワーク
にアイデアと提案をお寄せいただければ幸いであるv。
さまざまなトピックのケーススタディについて仮定の質問を投げかける世界経済フォーラムの
「What-If」インタビューシリーズも参照。 http://forumblog.org/tag/what-if/
http://www.weforum.org/risk または [email protected]
Global Risks 2013
15
Section 1
Section 2
試される経済・環境面の
弾力性
Section 3
Section 4
現在、全世界で経済システムと環境システムが
ストレスにさらされており、世界、及び国家レベ
ルにおける弾力性が試されている。世界的な経
済困難は引き続き、より大きな政治的注目とより
多くの財源を必要としている。
一方、
気温が上昇し、
異常気象が以前より頻繁に発生する兆しが見ら
れる中、気候変動による影響が明白になりつつ
ある。経済・環境問題に対応するには、構造的
変革と戦略的投資の両方が必要である。だが、
経済と環境の両方に、場合によっては同時に対
処する準備が各国にされてあるだろうか?
金融危機から5年経った今でも、
マクロ経済に関する懸念は、リーダー
の心に重くのしかかっている。この事実は、世界経済フォーラムの四半
期ごとのグローバル・コンフィデンス・インデックスviやグローバルリス
ク意識調査のデータによって裏付けられている。調査の回答者は、
大規模でシステミックな金融破綻をこれからの10年におけるシステミッ
クな重要性が最も高い経済リスクとしてランク付けした。
また、全く同じ回答者が、気候変動への適応の失敗と温室効果ガス排
出量の増大を、10年以内に現実化する可能性が最も高いと思われるグ
ローバルリスクに挙げていた。前年の調査と比較すると、気候変動へ
の適応の失敗がシステム全体で最も重要なリスクとして温室効果ガス
排出量の増大に取って代わった。このデータの変化は、環境に関する
議論が、地球の気候が変わりつつあるのかという観点から、
「どの程
度」、そして「どれぐらいのペースで」変化しているのかという議論へと
移行しつつあることを反映している。
Section 5
図7:「試される経済と環境の弾力性」に関連するリスクの繋がり
大規模でシステミックな金融破綻
気候変動への適応の失敗
Section 6
グローバル・
ガバナンス
の破綻
食糧不足危機
水供給危機
極端な所得格差
長引く異常気象
長期間にわたる労働市場の不均衡
温室効果ガスの排出量の増大
長期にわたる
財政不均衡
環境システム
制御できないインフレ/デフレ
経済システム
出典:World Economic Forum
16
Global Risks 2013
vi
グローバル・コンフィデンス・インデックスは、世界経済フォーラムが開発した指数で、世界経済、
グローバル・ガバナンス、国際協力の 3 領域における意思決定者の信頼感を示す。詳細につい
ては http://www.weforum.org/ConfidenceIndex を参照のこと。
Section 1
調査から浮かび上がってくる状況は明白である。スーパーストームのよ
うに、このままでは2つの大規模なシステムはいずれ衝突する。経済シ
ステムと環境システムそれぞれに生じるストレスの相互作用は、全世界
と各国の弾力性を試す未だかつてないほど厳しい試練となるだろう。
50
100
150
債務総額(対GDP比)
200
-5
0
5
10
15
20
必要調整額(対GDP比)
出典:Global Economic Prospects, Managing Growth in a Volatile World, the World Bank (June
2012)に引用された、IMF Fiscal Monitor, 2012をもとに編集
現在のユーロ圏の不安定さは、今後も数年間にわたって世界の見通し
を方向付けるものと思われる。これに関連するシステミックな金融破
綻のリスクは、限定的ではあるものの、完全には排除できない。ユーロ
圏全域で緊縮財政に反対する声が上がっていることを考えると、一切
の妥協を拒む「強行的」政府の選出は、経済的な麻痺をさらに悪化さ
せてユーロ圏危機を頂点へと至らしめ6、すでに信頼が薄らいでいる世
界的な金融システムの不安定化を招く恐れがある7。
長引く世界経済の脆弱性により、利用可能な公的資金が制限され、戦
略的な投資プロジェクトに限られた資金を投入することに対して慎重
な姿勢が強まっているために、長期的な解決策にまで目を向けること
ができない状態が続いている。経済的沈滞に対処するために現在取ら
れている対策に関連して浮上する問題は他にもある。主要中央銀行が
デフレを食い止めるために踏み切った大規模な量的緩和は、いずれ必
然的に不安定なハイパーインフレにつながるのだろうか?構造的経済
改革は長期的に必要とされる雇用増大をもたらしうるだろうか?
Section 5
世界経済は、相変わらず脆弱な状態にある。国際通貨基金は、先進諸
国の経済成長の鈍化を予測しており、2012年から2017年までの年成長
率は1.3%-2.6%にとどまるとしている2。この状況は、財政の脆弱性と
相まって、引き続き財政支出を圧迫すると思われる。先進諸国におけ
る政府債務と赤字の現在の水準を考えると、
「米国、日本および多くの
ユーロ圏諸国の債務対GDP比を引き下げて」もっと低い水準で安定さ
せるまで、
「何年にもわたる政治的・経済的協調が必要となる」だろ
う3 。また、新興経済国と先進国の経済成長は、2010年のピーク時に
比べて鈍化すると予想されている4。
0
Section 4
長引く世界経済の脆弱性
ドイツ
英国
フランス
ベルギー
アイスランド
米国
アイルランド
ポルトガル
イタリア
日本
ギリシャ
Section 3
今日の社会経済的課題は途方もなく大きく、迅速な手当てが必要だ
が、利用できる公的資源は限られている。特に、世界経済に深刻な混
乱をもたらしかねない気候変動の長期的影響を回避するために必要
な資金は逼迫している。我々は、恐ろしい負のフィードバック・ループに
直面しているのである。リスクマネジメントの論理からすれば、現在よ
りはるかに大規模なものになりかねない将来の気候関連損失から重
要インフラと経済活動の拠点を守るためには、各国が今から投資しな
ければならない。そればかりでなく政治的に見ても、新たな雇用を創出
し、可能な限り経済成長を再活性化するためにも、この投資には強い
妥当性がある。しかし、戦略的インフラへの投資は、その短期的・長期
的メリットにかかわらず、言うは易し、行うは難し、である1。職業、業
種、地理的地域の違いを超えた同意に基づく新たなアプローチが必要
とされている。また、何が最善の行動計画かについて不確実性が多い
状況にかかわらず、断固として行動する能力も必要である。今行動する
ことをためらっていては、次世代の負担をさらに増やすだけである。
フィリピン
タイ
メキシコ
アルゼンチン
ケニア
マレーシア
モロッコ
パキスタン
ブラジル
インド
ヨルダン
Section 2
各国家は、さまざまな時期に同時に出現する複雑な難題に対処できる
だろうか?皮肉な見方をする者は、将来の環境損失は実際のところ、
経済刺激効果をもたらすと言うかもしれない。これは、大震災後の復
興活動が長期的にはGDP全体を押し上げる働きをすることになるよう
な、GDP中心の成長政策を批判する際に使われるのと同じ理屈であ
る。しかし、この考え方は、2つの現実を無視している。まず、人類の歴
史において現代ほど多くの人々が都市部に住み、働いている時代はな
い。この人口集中は今後も続き、環境関連の損失を史上最大の規模へ
と拡大させる可能性が高い。第二に、多くの主要経済国の抱える債務
は、もはや持続不可能な水準に達しかねない。このような財政上の制
約に直面する中、世界的な成長を促進するために臨時の金融政策が取
られているものの、そのような政策に対しては、事実上、実験的にすぎ
ないと指摘されている。
図8:財政安定化のために必要なさらなる赤字削減(2011年)
Section 6
Global Risks 2013
17
Section 1
地球の気候に関する議論の変化
Section 2
Section 3
気候変動の緩和のための取り組みは、国家レベルでは、排ガス規制や
助成金などの領域においてこの15年間で大きく進展した。たとえば米
国では、民間セクターからの投資資金に合わせて、スマートグリッド投
資助成プログラムへ34億ドルが拠出された8。にもかかわらず、多極化
の進む今日の地政学的状況においては、気候変動の緩和について国
際 的 合 意 を取り付 け、効 果 的 に実 施 することが 難しくなって い
る。2009年に開催されたコペンハーゲン気候変動会議の準備段階で
地球温暖化を摂氏2度までに抑えるために掲げられた誓約は今日、こ
の2度という目標を満たすには全体的に不十分であるように思われ
る9。現行の政府政策と政策意図の声明に基づく最近のシナリオ予測
では、長期的には摂氏3.5度以上の気温上昇が起こりうると予測してい
る。2011年半ばまでに採用または実施された政府の政策や対策を超
えるような変化がないと仮定したより悲観的なシナリオによれば、摂
氏6度を超える上昇も考えられるという10。
現在の緩和のためのコミットメントが達成されなければ、早くも2060年
代に地球の平均気温が現在より摂氏4度も高いレベルに到達する可能
性がある。これは、激しい熱帯低気圧の発生頻度の増大、海面上昇に
伴う沿海都市の浸水、一部の地域における干ばつの悪化など、さまざ
まな悪影響をもたらすと思われる。こうした影響は全体として、巨額の
経済的損失だけでなく、住民の立ち退き、食糧不安の増大、水不足の
悪化を招くであろう11。
近年の気候・気象現象(図10に一部を図示)により、我々は自然災害に
よる経済的・人的損失を改めて気づかされた。このような自然災害は、
気候変動が続くにつれ頻発し、深刻化する可能性が高いことが判明し
ている。たとえば、2011年のタイ洪水による推定経済損失は300億米
ドル12、ハリケーンカトリーナによる推定経済損失は1,250億米ドルに上
った。一方、2003年に欧州を襲った熱波により3万5,000人が命を落と
し13「アフリカの角」と呼ばれる地域で発生した2011年の干ばつは、数
万人の命を奪うとともに950万人14もの人々の暮らしを脅かした。最近
ではハリケーン・サンディが巨額の損害を残し、現時点の損害額はニュ
ーヨーク州とニュージャージー州だけでも700億米ドルを超えると推定
されている15。そのような災害から、多くの経済国が依然として今日の
気候現象によるダメージに対して脆弱であることが判明した。未来の
気候現象ともなればなおさらである16。
気候変動のペースと規模をめぐるコンセンサスは形成されていないも
のの、議論が気候変動に対する適応方法へと移りつつあることは、あ
る程度の気候変動は避けられないという認識の高まりの表れである。
適応にもっと注目するよう求める主張は、気候変動の緩和努力はもは
や続ける価値がないと暗黙に認めるものと解釈されることから、一部
の方面では論議を呼んでいる。しかし、緩和のための取り組みの効果
が薄いほど、適応をめぐる課題も明白になるだろう。したがって、緩和
と適応については、実現しうるあらゆる相乗効果を活用しつつ、協調し
て取り組む必要がある。
Section 4
図9:地球温暖化がさまざまなセクターに与えうる影響
産業革命前と比較した気温−IPCCシナリオA1B
Section 5
発生年:
2030
2050
1°C
2°C
氷河の溶解に伴う
地域的な水供給への脅威
Section 6
食糧
生態系
社会
3°C
4°C
5°C
より激しい暴風雨、森林火災、干ばつ、洪水、熱波の発生
気象
水
2080
氷河の溶解に伴う地域的な水供給への脅威
多くの開発途上地域における作物生産量の低下
広範にわたる生態系への
不可逆的なダメージ
海面上昇による
世界主要都市への脅威
多くの先進地域における作物生産量の低下
絶滅の危機にある生物種が
はるかに増大
10億人以上が移住を迫られる可能性−紛争リスクの増大
出典:Shaping Climate-Resilient Development: A Framework for Decision-Making. 2009. Economics of Climate Adaptation Working Groupをもとに編集
18
Global Risks 2013
Section 1
図10:2011年の主な自然災害に関連する経済損失
Section 2
250億米ドル超
Section 3
50億∼250億米ドル
10億∼50億米ドル
2億5,000万∼10億米ドル
1億∼2億5,000万米ドル
5,000万∼1億米ドル
5,000万米ドル未満
地震、津波、火山活動
異常気象
洪水
Section 4
暴風雨、ひょう
出典:Swiss Reinsurance Companyのsigma自然災害データベースをもとに作成
近年、気候適応に関連する施策と報告が次々と登場しているvii。貧しい
国々には、適応活動への投資のために国際社会からの資金援助が必
要となるだろうが、適応努力は本来、地域的なものであり、国、企業、
個人が主としてそれぞれの適応費用を負担しなければならない。
vii
政策立案者は、提案されている対策の実効性をめぐる不確実性と意
図せぬ影響のリスクを突きつけられると、その地域における将来の気
候変動の正確な時期や発現、影響についてより詳細な分析とデータを
待ちたいと思いがちであり、決断を下せなくなる。今後の気候の変化、
特に異常気象の予測をより的確なものにするためには、科学研究への
支援の強化と計算能力・データの向上が必要である。
た と え ば、
「 気 候 変 動 適 応 対 策 の 経 済 性 作 業 部 会 」 に よる「Shaping Climate-Resilient
Development: A Framework for Decision-Making」
、気候変動に関する政府間パネル特別報告
書「Managing the Risks of Extreme Events and Disasters to Advance Climate Change
Adaptation」
、さまざまな地域・セクターにわたり民間セクターが実施している優れた取り組みと
気候変動適応活動(一部は、NGO や公的セクターと共同で実施されている)を取り上げる
UNFCCC ナイロビ作業計画の民間セクター・イニシアチブを参照 39。
Global Risks 2013
19
Section 6
気候変動の被害者の間には、過去の温室効果ガスの排出者に損失の
補償を求めようとする動きもある。気候変動による「消滅」の危機に
直面しているアラスカのキバリーナ村は、石油・石炭会社に対して4億
米ドルの賠償金を求める訴訟を起こそうとして却下されたものの20,21、
将来の同様の訴訟は原告に有利に展開するかもしれない。50年前、米
国のたばこ業界は、1997年に健康関連の賠償金として3,680億米ドル
の支払いに同意することになるとは想像もしなかっただろう22。一部の
企業にとって、気候変動の緩和に投資することは、グローバルリスクの
軽減の問題であると同時に、企業リスクマネジメントの問題でもあ
る。
気候変動が明白になりつつあるというコンセンサスが強まる中、多く
の学問領域(たとえば、林学、水資源・土地管理)を横断するデータは
まだ限られている。あるいはデータがあっても、容易に入手できない
か、気候適応に関してすぐに実行できる決定を促すような形で伝達さ
れていない。しかし、十分な科学データが揃った頃には、すでに手遅れ
の状況になっている可能性もあり、未来の気候リスクに対応するには、
今日あるいは数年以内に人間が判断を下さなければならない。気候の
ような複雑なシステムは、本質的に非線形の性質を持つ。システムを
通じた連鎖反応は、予測不可能であり、連鎖反応を引き起こした誘因
の規模に正比例しない。限られた量のデータと計算能力の限界は、地
域レベルでの今後の気候の変化に関する明確な予測を妨げる大きな
障害となっている23,24。たとえば、地球温暖化がガイアナの降雨パターン
に与える影響に関する予測は決定的なものがなく、2030年までに降雨
量が5%減少して洪水リスクが低下するというものから、降雨量が10%増
加して洪水リスクが著しく悪化するというものまでバラつきがある25。
Section 5
気候変動の影響モデルをつくるために、多種多様な仮定を立てること
が可能だが、経済的コストが驚くほど巨額に上ることは明らかである。
気候に関連する物理的環境、健康、食糧安全保障の変化による経済的
コストの総額について考察しているマーサーによるレポートは17、さま
ざまな気候シナリオにわたって2030年までに2兆米ドルから4兆米ドル
という数字を提示している18 。EUの気候変動専門家グループは、地球
の気温の上昇とともに増大する気候変動の影響によるコストは、長期
的にはGDPの5%から20%(あるいは、それ以上)に上る可能性がある
としている19。
不確実な環境における決断力ある行動
Section 1
Section 2
その一方、リーダーは最善の決断を下しているという完全な保証がなく
ても決定を下す必要性に迫られていることを受け入られるだろうか?こ
れは、口で言うほど簡単ではない。注目と資源を必要とする問題が同
時多発している場合は特にそうである。たとえば、2008年の金融危機
を振り返ると、喫緊のマクロ経済問題により、気候変動に関する交渉
からミレニアム開発目標までの他の重要なグローバル・ガバナンス問
題に対する注意がそれた。しかし、危機の最中におけるG20の行動
は、大胆で協調的な国際的行動の可能性も示している。
Section 3
グローバルリスクは最終的には国家的対応を必要とするため、このよ
うな手ごわい経済・環境問題に直面したときにどのように決定を下す
かについて、より一層の注意が必要である。認識は一般に、人々が客
観的な現実を見る受動的なプロセスとみなされている。しかし、認識
とは実際のところ、それを通じて人々が自分自身にとっての現実を構築
する、能動的な理解のプロセスである26。認知心理学と意思決定の研
究によれば、曖昧さと複雑性に直面した場合、人間は「経験則」を使っ
て判断するというviii。このアプローチは通常は役に立つものの、時には
間違った予測に基づく判断につながることもある。心理学者は、そのよ
うな間違った予測に基づく判断を「認知バイアス」27と呼んでいる。我
々が入手できる最良の情報にどう対応し、情報をどのように意思決定
構造に統合するかは、この認知バイアスに影響される。認知バイアス
は、不安定な経済見通しが続く中でゆっくり忍びよる将来の気候変動
の脅威に対処する際に、特に重要となる。いくつか例を挙げよう。
Section 4
-- 我々は、リスクの発生の可能性を見積もる際、直近の個人的経験を
重視しすぎるきらいがある。たとえば、米国のこれまでの経験か
ら、大洪水の直後に洪水保険を購入する人が増えることが分かって
いる。平均すると、そのような形で洪水保険に入った人は、保険金を
請求するような事態が起こらなければ2年から4年で保険を更新し
なくなる。彼らはえてして、保険を一種の保障としてではなく、割に
合わない投資と見るからである28。
Section 5
-- 「双曲割引」として知られているプロセスを通じて、我々は、後から
生じるコストとメリットよりも、目の前のコストとメリットを過度に
重視する傾向がある。たとえば、数年後にならなければメリットが
感じられない場合、気候変動の適応策への投資など、事前に対策費
用を負担することに対して個 人は及び腰になることが少なくな
い 29,30。
-- 問題のリスクについて予測される発生の可能性が懸念となる水準を
下回っている場合、我々は防御対策を怠ってしまう。たとえば、発生
する確率の低い自然災害については、その発生の可能性自体を完全
に無視してしまうのである。このバイアスは、リスクに対する誤った
認識により、悪いことが起こる可能性を過小評価してしまう傾向に
よってさらにひどくなる31,32。
Section 6
上記のような認知バイアスの累積的影響により、我々は何かしら口実
を見つけて、長期的で比較的不確実なものとして認識されているリス
クに焦点を当てる必要はないと自らを納得させてしまいがちになる。
曖昧さの完全排除が不可能であることは、問題が比較的長期にわたる
ことと相まって、気候変動と関連リスクに対する実効性ある行動への
道のりにおいて認知バイアスが克服しがたい大きな障害として残る可
能性が高いことを意味している。
viii
「経験則」という表現は、厳密には正確ではないがほとんどの日常的状況においては十分用を
足すような、経験に基づくおおざっぱな推定の仕方を意味する。
20
Global Risks 2013
気候変動対応型の考え方に基づく新たなアプ
ローチの探求
人間の認知バイアスの影響を認識することは、経済・環境問題が同時
に起こった場合の未来の破滅的状況に対する弾力性の構築に向けた
第一歩となりうる。そうして初めて、我々は、乏しい公的資源と先細り
しているリスク軽減対策予算に照らして、短期的・長期的にさまざまな
要求を平等に比較検討できるようになる。
経済的圧力のかかる中で環境的な弾力性を構築するという難題に取
り組むには、現行の政策と戦略の見直しが必要である。たとえば、一
部の国では、政府の保険制度と建築許可政策がいまだに、沿海地域
や洪水リスクの高い地域における都市化を防ぐどころか推進する働き
をしている33。その結果、気候リスクに対して脆弱な広域が生みだされ
ている。世界各地の136の港湾都市を分析した2007年のOECDの研究
は、特に気候変動の影響と都市化の複合効果により、沿岸洪水にさら
されている住民の数が2070年までに3倍に増える可能性があると結論
付けている34。
地球の気温がある程度上昇することが確実となりつつある事実を踏
まえると、意思決定のあらゆるレベルに「気候変動対応型」の考え方
が浸透していなければならない。
「気候変動対応型」とは、もともと農
業に由来する用語で、気候適応という点で弾力性を増大させるだけで
なく、温室効果ガスの排出を減少させるような農業を表わす35。気候変
動対応型の考え方では、戦略上・運営上の意思決定に気候変動分析を
織り込む。さらに可能であれば、気候変動の緩和と適応に関連するさ
まざまな取り組みの間の相乗効果を模索する。特に、都市計画、水・食
糧安全保障管理、投資政策、人口政策の立案においては、そのような
考え方が不可分の一部となる。2006年、フィンランドは、輪番制による
欧州連合議長国の任期中に、交通や都市計画から農業、雇用政策な
ど他の職務を担当する大臣に、自身の決定が国民の健康に及ぼす影
響を考慮に入れることを促す政策改革を導入した36 。全ての大臣がそ
れぞれの担当領域において、気候変動対応型の考え方に基づいた政策
の実施を促すためには、前述と同じような政策改革が必要なのかもし
れない。
一部の主要経済国が現在直面している債務危機は、スマートグリッド
投資助成金などの気候変動対応型の活動に必要な資金の調達を一層
難しくすると思われる。とはいうものの、民間セクターもここで重要な
役割を担っている。米国では、重要インフラのおよそ80%が、政府で
はなく民間セクターによって所有または運営されている37。経済システ
ムと環境システムの衝突を切り抜けるための準備対策の多くは、重要
資産を強化し、潜在的な将来のリスクと賠償責任から身を守るための
民間セクターの取り組みの中に見出される可能性が高い。
公的資金の逼迫により気候変動関連問題に対処するための公的資金
も不足していることを考えると、新たな資金調達モデルを見つける必
要がある。民間資金は、分野と利害関係者の垣根を越えた革新的な官
民協力を通じて引き出すことができる。拡張性のある効果的なパート
ナーシップを実現するためには、さまざまな公的機関と専門分野の関
係者が歩み寄って互恵的で経済的に持続可能な解決策に取り組む必
要がある。これは、簡単に克服できる課題ではない。というのも、多種
多様な利害が関わっていることに加え、専門家も分野が異なればそれ
ぞれ相反する偏りを持っていることが多く、彼らは自らの専門分野に
特化した考え方をするからである。それでも近年、効果的なパートナー
シップが出現し始めている。多くの新興経済国においてグリーンインフ
ラが不足している現状に対処するために、金融、インフラ、エネル
ギー、農業の各セクターの主要企業50社以上が公的機関と手を携え
て、グリーン成長行動アライアンス(G2A2)を立ち上げた。コラム2に
詳しく述べているように、このイニシアティブの目的は、グリーンインフ
ラに対してより多くのの民間投資を引き出すことにある。
革新的なパートナーシップの例としては他に、中国の一企業が政府、業
界団体、国際NGOと協力して、業界全体に環境に優しいプレハブ製法
を普及させ、現時点で360ヘクタールの森林を守り、年間31万4,000トン
の温室効果ガス排出削減に成功している事例がある。デザーテック
Section 1
ファンデーション(Desertec Foundation for Clean Energy Generation)
は、再生可能エネルギー創出のために砂漠で大規模な太陽光発電を
可能にして北アフリカ、中東、欧州の市場への供給を目指す55の事業
会社と金融会社・機関からなる産業イニシアティブの立ち上げを支援
している38。
問題の提起
-- 同じ考えを持つ市町村、企業、コミュニティが認知バイアスにとら
われない新たな気候変動対応型のアプローチを推進するには、どう
すればよいだろうか?
-- 資源の限られた、相互連結性が強まっている世界において、企業間
の競争と協力の適正なバランスを見つけるためには、業界の垣根を
越えた協力をどのように見直せばよいだろうか?
グリーンインフラへの投資が不足している現状に対処するため、2012
年にメキシコで開催されたG20サミットで、金融、インフラ、エネル
ギー、農業の各セクターの主要企業50社以上が公的金融機関とともに
グリーン成長行動アライアンス(G2A2)を立ち上げた。当時のメキシコ
大統領フェリーペ・カルデロンが議長を務めるG2A2は、2年間で4つの
戦略的活動を追求する。
1. 官民 の 協 力 のため の 革 新 的 なモデルを 明らか にする:G 2 A 2
は、2013年世界経済フォーラム年次総会において、既存の資金源を
明確にし、民間資金を引き出すような公的政策を実現する革新的な
方法を指摘する報告書を発表する予定である。
Section 3
-- 現在の人口動態傾向を考えると、気候変動の緩和・適応努力と繁栄
に対する欲求の折り合いをどのようにつけられるだろうか?
環境の悪化を招くことなく、どのように経済成長を実現させるかという
問題に頭を悩ませている新興経済国の多くは、持続可能な水、エネル
ギー、輸送および農業インフラへの投資の誘致を目的とする「グリーン
成長」戦略の策定に取り組んでいる。2012年B20グリーン成長タスク
フォースによれば、年間1兆米ドルもの民間セクターからの投資が必要
とされている。しかし、投資リスクの認識と相まって、一部の技術はあ
まり実績がないために、民間の資本提供者はグリーンな成長に投資す
ることに消極的なことが多い。
Section 2
世界が公的資金の逼迫に直面すると同時に気候変動の影響が増大す
る中、政府(公益を推進)、企業(革新的な製品とソリューションを探
求)、法律専門家(賠償責任の恐れを軽減)、科学(質の高い裏付けデー
タと分析を提供)、金融セクター(新たな金融商品を創出し、未来に悪
影響を及ぼすような損失を回避)の間の協力がなくては、環境・経済
面の弾力性の限界に効果的に対応することは不可能である。
コラム2:グリーン成長行動アライアンス
(G2A2)
2. 国レベルで民間投資を刺激する:G2A2は、ケニア、ベトナム、メキシ
コ政府と協力して、国内外の民間セクターが関与する革新的な資金
調達モデルの開発に取り組んでいる。
Global Risks 2013
Section 6
世界経済フォーラムは、G2A2の事務局として活動している。
Section 5
4. 成功したアプローチの規模拡大と再現を支援する:政府、開発銀
行、金融機関が成功モデルを迅速に導入して再現し、その規模を拡
大できるように、G2A2は、ケーススタディを「グリーン投資レポート
(Green Investment Report)」に取りまとめ、G20開発作業部会や
気候ファイナンスに取り組むファイナンストラック(Finance Track)
グループ、UNFCCCの「変革へのモメンタム・イニシアティブ」、国際開
発金融クラブなどの政策プラットフォームや投資家ネットワークと協
働する。G2A2はまた、国連の「万人のための持続可能なエネル
ギ ー」イニシアティブと、気 候 変 動 に 対 する世 界 投 資 家 連 合
(Global Investor Coalition on Climate Change)とも密接に協力す
る予定である。
Section 4
3. 政策アジェンダを形成するための新たなアイデアとモデルを提供す
る:G2A2は、グリーンな自由貿易、エンドユーザーによる再生可能エ
ネルギーへの資金供給、機関投資家、エネルギー効率に関する作
業部会を設立している。エネルギー効率に関する作業部会は、エネ
ルギーサービス企業のための新たな資金調達構造の試験運用を目
指している。グリーンな自由貿易に関する作業部会は、太陽光発電
などのクリーンテクノロジーに関する自由貿易規制の確立を呼びか
けている。
21
Section 1
参考文献
Section 2
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23. Based on comments from expert review.
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Section 5
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30. Laibson, D. Golden Eggs and Hyperbolic Discounting. In The Quarterly Journal of Economics,
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Section 6
31.
Based on comments from expert review.
32.
Kunreuther H., Meyer, R. and Michel-Kerjan, E. Overcoming Decision Biases to Reduce Losses
from Natural Catastrophes.Behavioural Foundations of Policy. In E. Shafir (ed), 2012. Princeton:
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33.
Based on comments from expert review.
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Global Risks 2013
Section 1
ラジオが普及していた1938年、何千人ものアメリカ人がH.G.ウェルズの
小説『宇宙戦争』を翻案とする番組をニュース放送と勘違いし、米国
が火星人に侵略されたとパニックに陥って警察署に電話が殺到すると
いう事件が起こった。
Section 5
インターネットは、今なお急速に進化しつつある未知の領域である。現
世代は、瞬時に情報を伝達し、共有することができる。しかも、その規
模はかつてなく大きい。ソーシャルメディアは、情報が世界中に猛スピー
ドで拡散することを可能にしている。このメリットは明白であり、十分
に記録されている一方、我々のハイパー接続された世界は、意図の有
無を問わず誤解を招くような情報や扇動的な情報が一気に拡散し、深
刻な影響をもたらすことをも可能にしかねない。このような事態が発
生する確率は今日、メディアの高度化にかかわらず、ラジオが破壊的技
術として導入された当時に比べて急激に高まっている。ラジオは、
「一対多数」のコミュニケーションチャネルであったが、インターネット
は「多数対多数」のコミュニケーションチャネルである。
Section 4
今日、ラジオ放送によって同じような広範囲にわたる誤解が引き起こ
されるとは想像しがたい。その理由としては、放送局がより慎重で責
任ある行動を取るようになったこと、メディアが規制対象産業となって
いること、リスナーが知恵をつけ、懐疑的になったことなどが挙げられ
る。何よりも、インターネットがニュース速報を確認したり否定したりす
る手段をいくつも提供するようになるにつれ、ニュース産業そのもの
が変化を遂げつつある。しかし、1938年のラジオと同様、インターネッ
トもまだ比較的初期段階の媒体である。ツイート、ブログ、動画投稿が
現代において同じような社会的パニックを引き起こすかもしれないと
いう考えは、そう現実離れしているわけではない。
Section 3
デジタルコミュニケーションの普及による誤っ
た情報の爆発的な流布というグローバルリスク
は、テロリズムからサイバー攻撃、グローバル・
ガバナンスの破綻まで、さまざまなテクノロジー
及び地政学的リスクの繋がりの中心に位置す
る。このリスクケースにおいては、ハイパー接続
の状態が、現実世界に大きな損害を与える「ハ
イパー接続世界でのデジタル・ワイルドファイ
ヤー」
(電子情報が山火事のように爆発的に拡
散し結果として引き起こされる混乱)をいかに
招きうるかを検証する。また、オープンでアクセ
スしやすいシステムの乱用がもたらす課題と、
そ のような 結 果 を 防 止するため の 試 みが
誤った方向に進んだ場合のよりいっそう大き
な危険性について考察する。
Section 2
ハイパー接続世界での
デジタル・ワイルドファイヤー
図11:「ハイパー接続世界でのデジタル・ワイルドファイヤー」に関連するリスクの繋がり
Section 6
重要システムの故障
サイバー攻撃
大規模なデータの不正利用/窃盗
誤った電子情報の大々的な流布
テロリズム
宗教的狂信主義の台頭
外交による紛争解決の失敗
大規模でシステミックな金融破綻
グローバル・ガバナンスの破綻
グローバル化に対する反動
出典:World Economic Forum
Global Risks 2013
23
Section 1
ソーシャルネットワークサイトを利用している
米国のインターネットユーザーの年齢層と
各年齢グループに占める利用者の比率
18-29歳
30-49歳
50-64歳
65歳以上
80
67%
73%
76%
60
83%
86%
58%
61%
48%
40
25%
7%
25%
16%
22%
4%
13%
2009年12月
11%
2009年4月
0
16%
12%
7%
5%
2008年11月
20
47%
36%
36%
26%
2010年5月
100
2008年5月
Section 3
デジタル・ワイルドファイヤー、つまり電子情報の爆発的拡散による混
乱は、どうすれば防ぐことができるだろうか?ネット上の匿名性と言論
の自由に対する法的な制限は、一つの手段として考えられるが、望まし
くない影響をもたらす恐れがある。また、デジタル・ワイルドファイヤー
の出どころが国家や国際機関の場合はどうなるだろうか?最終的に
は、1938年の悪名高い「宇宙戦争」放送事故以来、ラジオの放送局と
リスナーの間で発達したのと同様の責任の精神と健全な懐疑的態度
をソーシャルメディアの情報提供者と消費者が培う必要があるだろう。
このリスクケースは、潜在的な問題を明確に認識し、実行可能な解決
策に注意を向けることがそのような精神の発達を促進することになる
のかどうかを問う。
図13:年代別に見たユーザー
2005年9月
Section 2
ウィキペディアが示すように、インターネットには自己修正メカニズムが
ある。誰でも誤った情報をアップロードできるものの、通常はウィキペ
ディアのボランティアコミュニティが誤りを見つけて迅速に修正する。ウィ
キペディアのサイトに誤った情報が短い間掲載されたことによって、現
実の世界に深刻な影響が及ぶ可能性はほとんどない。しかし、ソーシャ
ルネットワークを通じて一気に拡散したデマが、事実上修正されるまで
の間に破壊的な影響を及ぼす可能性は十分ある。同様に、問題となっ
ているコンテンツを作った本人が、インターネット上でそれが第三者に
よって悪用またはゆがめられて伝えられていることに気付いてさえい
ないことがある。あるいは、ある言語から別の言語への翻訳ミスが引
き金となることも十分考えられる。我々はそのような状況を、デジタル・
ワイルドファイヤーの一例として考えることができる。
出典:“Search Engine Journal”, http://www.searchenginejournal.com/wp-content/
uploads/2011/09/social-media-black.jpeg, 2012をもとに編集。
ソーシャルメディアのメリットとリスク
Section 4
くさび形文字から印刷機まで、いつの時代においても、新たなコミュ
ニケーション技術がどのように社会を形成することになるのかを予測
することは難しい。しかし、今日のハイパー接続された世界における
情報の創造・伝達の規模とスピードは、歴史的に類を見ない。フェイ
スブックは、誕生してから 10 年足らずのうちに 10 億人以上のアクティ
ブユーザーを記録し、ツイッターは7年間で 5 億人のアクティブユーザー
を獲得した。中国で主流のマイクロブログ・プラットフォームの Sina
Weibo(新浪微博)は、2012 年夏にアクティブアカウント数が 4 億を
超えた 1。YouTube には、1 分ごとに、48 時間相当のコンテンツがアッ
プロードされる。ソーシャルメディアの世界は、多文化的で若い。図
12は世界各地でどのようなソーシャル・ネットワーキング・プラットフォー
ムが好まれているかを示し、図 13 は米国における年齢グループごとの
ソーシャルメディア利用の傾向を示している。
図12:ソーシャルメディアの世界
Section 5
国別の主流ソーシャルメディア・ネットワーク
ロシア
VKontakte
Odnoklassniki
Facebook
Section 6
米国
Facebook
Twitter
Linkedin
英国
Facebook
Twitter
Linkedin
中国
Qzone
Sina Weibo
Renren
エジプト
Facebook
Twitter
各国の主流ネットワーク
Facebook
Qzone
VKontakte
Odnoklassniki
Orkut
Mixi
Zing
Cloob
Draugiem
ブラジル
Orkut
Facebook
Twitter
インド
Facebook
Orkut
Twitter
南アフリカ
Facebook
Twitter
Linkedin
オーストラリア
Facebook
Twitter
Linkedin
データなし
出典:“Search Engine Journal”, http://www.searchenginejournal.com/wp-content/uploads/2011/09/social-media-black.jpeg, 2012をもとに編集。
24
Global Risks 2013
日本
Mixi
Twitter
Facebook
Section 1
しかし、情報をソーシャルメディアを通じて一気に世界的に拡散するこ
とが可能であるがために、損害を被っている個人や組織もある。いくつ
か例を挙げよう。
-- 2012年11月、BBCはある大物政治家が児童虐待への関与疑惑を報
道したが、その後、被害者が人違いをしていたことが明らかになっ
た。BBCは政治家の名前を挙げなかったものの、身元がツイッター
上で簡単に判明し、およそ1万件のツイートやリツイートで名前が取
り沙汰された10。名誉を傷つけられた政治家は、この誤った情報を
ツイッター上で広めたあらゆる人々を訴えたほか、賠償金18万5,000
ポンドでBBCと和解した11。
デジタル・ワイルドファイヤーが
最も危険となる時
これらのケースは、電子情報の爆発的拡散による混乱が最も危険とな
る二つの状況のうちの一つを示している。つまり、緊張が高まっている
状況においては、正確な情報を伝えることが可能になる前に、誤った
情報や不正確な映像表現が被害をもたらしかねない。現実世界でたと
えるならば、混雑した劇場の中で「火事だ!」と叫ぶようなものである。
たとえ火事など起こっていないという認識が広がるのに1、2分しかか
からなくても、そのわずかな間に、出口に殺到する群衆に押しつぶされ
て命を落とす人がいるかもしれない。
-- 政治の世界では、市民運動を通じてある問題に関するグループコン
センサスが形成されたかのように偽装する手法について、草の根運
動をもじって「偽装草の根運動」と呼ぶ。2009年のマサチューセッ
ツ州上院特別選挙では、偽のツイッターアカウント群が、ある候補者
を中傷するウェブサイトへのリンクを広めることに成功した19。
-- 偽のツイートが市場を動かし、デジタル・ワイルドファイヤーに乗じ
て利益を得る可能性をもたらしている。2012年7月にロシアのウラジ
ミール・コロコルツェフ内相を騙ったツイッターユーザーが、シリアの
バッシャール・アル=アサド大統領が「殺害されたか負傷した」と
ツイートしたところ、そのニュースがデマだとトレーダーが気付くま
でに、原油価格が1ドル以上も上昇した20。
-- 2012年、バンガロールのテクノロジーセンターからアッサム州出身
者3万人がパニック状態に陥って逃げ出す騒ぎが起きた。きっかけ
は、同州で発生した住民同士の暴力紛争に対する仕返しとして攻撃
されると警告する携帯メールを受信したことだった21,22。
フォーブス誌とデロイトがインタビューした企業の重役は、自社が直面
する最 大のリスクの一つにソーシャルメディアを挙げた 2 3 。たとえ
ば、BPのメキシコ湾原油流出事故の後、BPの最高経営責任者トニー・
ヘイワードが「一部の地域では黒い砂浜が流行っている」などと言った
と伝えるパロディーのツイッターアカウントは、BPの企業ツイッターアカ
ウントの12倍のフォロワーを引き付けた24 。この例は、冗談のつもり
だったかもしれないが、風刺が事実と取り違えられることもありう
る。2012年10月、イランの政府系通信社は、世論調査の結果、農村部
の白人アメリカ人の間ではオバマ米大統領よりもイランのアフマディネ
ジャド大統領の方が人気という、風刺ウェブサイト「ジ・オニオン」発の
ニュースを報道した25。
もう一つの危険な状況は、考えの似通った人々の集団内で情報が流
れ、その情報を修正しようとしてもなかなか受け入れられない場合で
ある。ハリケーン・サンディによるニューヨーク証券取引所(NYSE)の
Global Risks 2013
25
Section 6
2012年10月、ハリケーン・サンディがニューヨークを襲っていたとき、あ
る匿名のツイッターユーザーがニューヨーク証券取引所(NYSE)の立会
場が3フィートも浸水したとツイートした。他のツイッターユーザーがす
ぐにそのデマを修正したものの、一足先にCNNがそのデマを報道して
しまった13。メキシコでは、銃撃戦のデマがソーシャルネットワークを
通じて広がったために、母親が不必要に子供を学校に行かせなかった
り、店が休業したりといった事態が発生している14。英国では、イラクの
バスラにおける英国軍の小規模な作戦行動に関連するビデオ映像が
ロイター通信から流され、YouTube、Blinkxを通じて広がり、重大な軍
事的失敗があったという誤った印象が英国民の間に根強く残ってし
まった15。
デジタル・ワイルドファイヤーが偶然発生することはもちろんあるが、
拡散させることで何らかのメリットを得る人々が故意に誤情報を流す
こともありうる。いくつか例を挙げよう。
Section 5
これらのケースは、不満を抱いた顧客からのユーモアある反応から
名誉毀損、宗教感情を煽る侮辱まで、全く性格の異なるケースである。
これらを結び付けているのは、ハイパー接続の状態がその影響を増幅
し、ごく少数の大組織だけが情報を広く流す能力を持っていたイン
ターネット登場前の時代には考えられなかったような規模にまで拡大
させたということである。この新たな現実は厄介な意味合いも持って
いる。
「偽装草の根運動」、風刺、
「トローリング(擬
似餌釣り)」、発信元の特定の難しさ
Section 4
-- 米国の一個人によってアップロードされた「イノセンス・オブ・ムスリ
ム」というビデオがYouTubeで公開されたことが、中東各地の暴動
の火種となった。暴動により50人以上が命を落としたと推定されて
いる12。
したがって、考えを同じくする個人が集まった2つの異なるオンライン
世界の中で互いに相反するデマが流れ、一触即発の状況を生み出す
リスクを過小評価すべきではない。ガザにおける2012年11月のイスラ
エルとハマスの衝突の最中に、双方がツイッターを幅広く利用した18。
将来の状況について相反する情報がどちらか一方の側を信じる傾向が
ある人々の集団に流れ、広がっていくうちに影響力を持つようになる。
情報の信憑性を測る役割を果たす共通の情報源を持たないことによ
り、力をいっそう強めていく状況が起こりうることを示唆している。
Section 3
-- ユナイテッド航空で移動中、荷物係にギターを壊されたとして賠償
を求めたが却下されたミュージシャンが「United Breaks Guitars
( ユナイテッド 航 空 はギターを壊 す)」という歌 を 作って演 奏
し、YouTubeにアップロードしたところ、1,200万回以上の閲覧が
あった。動画が急速に広まるとともに、ユナイテッド航空の株はおよ
そ10%下落し、株主に約1億8,000万米ドルの損失をもたらした8,9。
被害に関するツイートのケースでは、他のツイッターユーザーがすぐに
正確な情報を投稿し、最初の誤った情報をあえて信じ続ける者は誰も
いなかった16。しかし、誤った情報がすでに確立された世界観の中に入
り込んで、取り除くことが難しくなるケースは想像に難くない。これは、
たとえばフェイスブック上の友人のネットワーク上でやりとりされる情
報のように、情報があまり公に目につかない社会的なネットワークや、
電子メールや携帯メールなどの「外から見えにくい」社会的ネットワー
クで大きな問題となりうる17。そのような「信頼できるネットワーク」に
おける誤情報の拡散は特に、発見・修正が難しい。というのも、情報の
受け手は、このネットワーク内で発生した情報を信用しがちだからであ
る。
Section 2
この現象は、さまざまな変革的影響をもたらしている。エジプトとチュ
ニジアにおけるツイッターとフェイスブックの利用状況に関する研究は
「アラブの春」の到来にソーシャルメディアが果たした役割を明確にし
ている2,3。ソーシャルネットワーキングサイト「Patientslikeme.com」は、
同じ病気を持つ人々を結び付け、新たな治療法の開発促進に役立って
いる。ツイッターのメッセージやネットワークの分析は、選挙結果 4、映
画の興行成績5、特定のブランドに対する消費者の反応など6,7の予測に
成功している。
Section 1
デジタル・ワイルドファイヤーの出どころを突き止めるのは、必ずしも
容易ではない。抜け目のないサイバー攻撃者が痕跡を隠し、その結果、
不正確な情報や扇動的な情報を流したとして、無実であるのに組織や
国が非難される可能性が高まることもありうる。その時点での緊張関
係によっては、誤った発信元の特定は、発信元が特定されなかった場
合よりもはるかに悪い結果を招く場合もある。
Section 3
グローバルなデジタル精神を目指して
Section 4
世界各地において、政府は、暴力やパニックを引き起こすことを理由に
言論の自由を制限する現行法がどのようにオンライン活動にも適用さ
れうるかという問題に取り組んでいる。こうした問題は、激しい論争を
招きかねない。たとえば英国では、フライトがキャンセルされたことに
腹を立てて空港を爆破すると脅す狂言をツイッターに投稿した男性が
当初、裁判で有罪判決を受けたが、控訴審で判決が覆された27。
オンライン上の法的な言論の自由に妥当な制限を定めることは難し
い。なぜなら、ソーシャルメディアは最近の現象であり、デジタル社会
の規範がまだそれほど確立されていないからである。この問題は、抑
圧的な体制下における内部告発者や政治的反主流派のツールとしての
インターネットの利便性を深刻に損なうことなく、オンラインの匿名性
維持にどの程度の制限を課すことができるかという頭の痛い問題であ
る。
Section 5
たとえそのような制限を強制することが可能であるとしても、どの機関
にその権限を任せるのだろうか?2012年12月にドバイで開催された
世界国際電気通信会議では、国際電気通信連合28が準拠している1988
年条約の改正を目指して議論が繰り広げられた。一見したところ問題
のなさそうな技術規制が意図せぬ悪影響をもたらしかねないとの批判
が出たことから論争に火がついた。
「スパム対策からインターネットト
ラフィックの『サービスの質』の確保まで、表向きはさまざまな名目で
策定された」規則が、
「各政府によって、情報の流入を抑制したり、遮
断したい特定のコンテンツを取り除いたりするために使われる可能性
がある」というのである29。一部の改正条項は、
「インターネットとプラ
イベート・ネットワークに対する国家の検閲と規制に国連のお墨付きを
与える」ものとみなされたため30、米国は改正条約に署名することを拒
否し、カナダや一部の欧州国もその決定を支持した31。
Section 6
「質」のチェックの導入をする動機が疑わしい場合、誰を信頼すれば
よいのだろうか?また、誤った情報が流れた場合、その流れに介入し、
中断させることのできる権限を持った公的機関を設立するにはどうす
ればよいのだろうか?
さらに、教育と動機という奥の深い問題もある。ソーシャルメディアの
利用者は往々にして、従来のメディア機関の編集者と比べると中傷や
名誉毀損などの問題に関連する法律に詳しくない。また、その多くにと
って、適切な事実確認がされていない情報を拡散したことによって失う
ものも、従来のメディア機関に比べると少ない。しかし、新たな規範が
出現していることを示す兆候がある。図14は、2012年10月のハリケーン・
サンディの 最 中 に見ら れ た 誤 情 報と修 正 のツイートを 示して い
る。NYSEの浸水に関して誤った情報を伝える@ComfortablySmugの
ツイートは、ニュージャージー州の通りをサメが泳いでいる様子や自由
の女神像に巨大な嵐雲が迫っている様子を描くニセの写真を流すツイー
トに比べて、リツイートの数がはるかに少なかった。ソーシャルメディア
を分析する専門家によれば、これは驚くにあたらないという。ビジュア
ルコンテンツは、テキストだけのコンテンツよりもはるかに広く拡散し
やすいからだ。それに加えて、@ComfortablySmugと@CNNweather
が投稿した誤情報ツイートは、@BreakingNewsが投稿した修正と比較
26
Global Risks 2013
すると、誤情報のツイートから修正情報が投稿されるまで1時間足らず
しかなかったとはいえ、リツイートの数が著しく少ない32。
サメや自由の女神の写真の方がリツイートされやすかったのは、無害
で、驚きがあって、何よりも重要なことに娯楽的価値が高かったからだ
と考えることができる。@BreakingNewsからの修正ツイートに対する
関心の低さも、娯楽的価値によって説明できる。人々は、NYSEの浸水
のように、深刻な結果に繋がる可能性がある情報をその真偽を確認せ
ずにリツイートしようという気にならなかったのかもしれない。このこ
とは、規範の出現を示唆すると同時に、CNNなどの信頼できる情報源
が負う事実チェックの責任を改めて強調している。メディア企業に
とって、このようなミスはいつか訴訟リスクになりかねない。
ソーシャルメディア利用者に責任の精神を植え付ける方法を探ること
に加えて、ソーシャルメディアの消費者は情報源の信頼性と偏りを評価
する能力をもっと身につける必要があるだろう。ここでは、技術的ソリュー
ションが役に立つかもしれない。研究者や開発者は、オンラインで流
れている情 報や 情 報 源の 信 頼 性の評 価に役 立つL a z yTr u t h 33 、
Truthy34、TEASE 35などのプログラムやブラウザー拡張機能に取り組ん
でいる。真偽が問われている情報を指摘する、広範にわたる高度な自
動警告表示が発達し、インターネットユーザーをスパムやマルウェアか
ら守るプログラムのように普及することも考えられる。
図14:時間の経過によるリツイートの推移
2000
ニュージャージー州でサメが泳ぐ
自由の女神像の頭上に巨大な嵐雲
@comfortablysmug−NYSEの浸水
1500
1時間当たりの件数
Section 2
企業にとってより懸念が大きいのは、市場が重大な発表を待ち構えて
いるときに誤情報が流れることかもしれない。2012 年 10 月 18 日、
ナスダックは、グーグルの決算発表が事前に漏れたことがきっかけと
なって(決算内容が思わしくなかったことも相まって)、同社の株式時
価総額が 220 億米ドルも下落したことから、グーグル株の取引を停止
した 26。このケースでは、情報は信頼できる筋からのものであったが、
都合の悪い時期に誤情報やうわさが出ることによっても影響が甚大に
なることが懸念される。
@cnnweather−NYSEの浸水
@BreakingNews−誤情報の修正
1000
500
日付
10月30日
10月31日
出典:“#Sandy: Social Media Mapping” . Social Flow, http://blog.socialflow.com/
post/7120245759/sandy-social-media-mapping, 2012.
利用者が販売業者の信頼性を評価できるようにするeBayのフィード
バック評価は、そのようなサービス発達のひな型となりうる。これまで
のところほとんどの評価システムは、特定のウェブサイトに限定されて
おり、利用者がつけた評価を信頼性の記録としてオンライン上どこで
も持ち運べるわけではない。とはいえそれが望ましいモデル、あるい
は実現可能なモデルなのかどうかは、現時点では不明である。思想上
の理由から情報が論争を呼んだり情報の発信元が故意に偽られたり
といったことは今後も、多くの難題をもたらすと思われる。しかし、情
報をその源までたどり、情報源がコミュニティ全体によって公式なもの
とみなされているかどうかについて情報を提供するようなシステムは
開発できるだろう。そのようなシステムはまた、情報源の身元を保護し
つつ、その情報源が他のインターネットユーザー層によってどのぐらい
広く信頼されているかも明らかにすることができる。
グローバルなデジタル精神がどのようなものになるのか、その発達を
助けるにはどうすればよいのかは、まだ明らかになっていない。しか
し、ハイパー接続世界でのデジタル・ワイルドファイヤーがもたらすリ
スクを考えると、それらの難しい問題を提起し、議論に踏み切るリーダー
シップが必要とされている。
Section 1
参考文献
-- 国の法律あるいは高度技術を通じて誤った情報のオンライン上の
拡散をコントロールすることは、言論の自由—全ての社会において
等しく尊重または称揚されているとは言えない人間的価値—に対
する制限について、扱い難い問題を提起する。市民の自由に関する
問題についてこれ以上社会の間に分裂を生じさせることなく、グ
ローバルなデジタル精神を規定するために建設的で国際的な議論
を始めるには、どうすればよいだろうか?
1.
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3.
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-- 情報とその情報源の信頼性を評価する個人の能力を高めるような、
メディア(あるいは情報)を使いこなす新たな重要な能力を一般市
民の間に普及させるために、どのような行動を取ることができるだ
ろうか?
コラム3:ハイパー接続された世界
デジタルメディアにおける文化とガバナンスの形成
メキシコシティ、イスタンブール、ブリュッセル、ニューヨーク、ニュー
デリーで開催された一連のワークショップにおいて、また、comScoreと
オックスフォード大学が共同実施した15カ国におけるインターネット利
用に関する調査の支援を得て、このプロジェクトは、2012年と2013年に
以下を達成することを目指している。
2. 地域的な価値観および文化の違いと、それらがボーダーレスなデジ
タル世界ではどのように反映されるかを明らかにする。
4. 特に技術革新に関連して、成功の可能性が高いステークホルダー間
の協力的な取り組みや特定の組織集団のリーダーシップの事例を取
り上げる。
このプロジェクトは、米連邦通信員会や欧州委員会などの規制機関の
協力の下、出版業界、ソーシャルメディア業界、広告業界からのメディ
ア、エンターテインメント、情報産業関連のパートナーが主導して取り
組んでいる。
Crude And S&P”. ZeroHedge.com, http://www.zerohedge.com/news/supposedly-faketweets-about-syrian-president-assads-death-cause-all-too-real-spike-crude-and-s, 2012.
21.
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872396390443324404577595733604592276.html, 2012.
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forbes.com/sites/forbesinsights/2012/08/07/social-media-risk-is-like-wildfire-wheres-the-fireengine/, 2012.
24.
Fournier, S., Avery, J. The Uninvited Brand. In Business Horizons, 2011, 54(3):193-207.
25. Reals, T. “Iran News Agency Picks Up “Onion” Story, Tells Iranians Rural Americans Prefer
Ahmadinejad to Obama”. CBS News, http://www.cbsnews.com/8301-202_162-57522363/
iran-news-agency-picks-up-onion-story-tells-iranians-rural-americans-prefer-ahmadinejadto-obama/, 2012.
26.
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Third-Quarter Profit Sliding 20%”. The Wall Street Journal, http://online.wsj.com/article/SB1000
0872396390443684104578064671358259436.html, 2012.
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28. Waters, R., Thomas, D., Fontanella-Khan, J. “Fears Grow over Efforts to Govern the Web”. The
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29.
Ibid.
30. Nakashima, E. “U.S. Refuses to Back U.N. Treaty, Saying it Endorses Restricting the Internet”. The
Washington Post, http://www.washingtonpost.com/world/national-security/us-refuses-toback-un-treaty-saying-it-endorses-restricting-the-internet/2012/12/13/ba497952-4548-11e28e70-e1993528222d_story.html, 2012.
31.
Pfanner, E. “U.S. Rejects Telecommunications Treaty”. The New York Times, http://www.
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32.
Lotan, G. “#Sandy: Social Media Mapping”. Social Flow, http://blog.socialflow.com/
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33.
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theverge.com/2012/11/14/3646294/lazytruth-fact-check-chain-email, 2012.
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35.
“Tease: Trust Enabling Augmented-Reality Support for Information-Environments”. http://
www.tease-project.info/, 2012.
Global Risks 2013
27
Section 6
3. 短期的には効果があるように見えるが長期的には非常に高くついた
知的財産関連の規制政策の例を紹介し、政府や企業による介入を
効果的で持続可能なものにするために必要な環境と条件を探る。
20. Durden, T. “Fake Tweets About Syrian President Assad’s Death Cause All Too Real Spike In
Section 5
1. デジタルメディアに関する問題点を考えるために代替的な枠組みを
開発する。そのような枠組みは、デジタル世界における表現の自由、
知的財産、プライバシーなどの問題に関する共通の理解と枠組みを
導き出すために取られた行動(たとえば、知的財産の保護)ではな
く、ステークホルダーの意図(たとえば、イノベーションに報酬を提
供し、コンテンツにアクセスできるようにする)を出発点とする。
Section 4
世界各地で、デジタルコンテンツに関する規則が形成されつつある。法
律や政策が作られ、文化的規範が出現し、業界連合が形成されつつあ
る。活発な動きを見せているこの環境においては、政府、産業、市民と
いった主要なステークホルダーの集団それぞれの期待と利益が絡み
合い、衝突することも少なくない。政府の政策やビジネス戦略におい
ては、期待される成果を達成し、意図せぬ結果を避けるために、相互
に結び付いた数多くの要因を考慮に入れる必要がある。
Section 3
-- 各ステークホルダーグループはどこに注目して、オンラインの情報源
を確認すべきだろうか?利用者にとって分かりやすい、信頼性と情
報の質を示すさまざまな目印をどのように広めることができるだろ
うか?
Section 2
問題の提起
Section 1
Section 2
健康問題への
根拠なき過信
Section 3
Section 4
人類は常に感染症の脅威にさらされてきた。世
界的に見ると、健康に関する危機の兆候を監
視し、互いに警 告し合う態 勢は向上してい
る。100年前と比べると、パンデミック(広域感
染症)による死者ははるかに少なくなった。ま
た、1980年代以降のHIV治療の発達が示すよう
に、現代医学は絶えず、新たな疾病に新たな治
療法で対処している。しかし、そのような現代
医学の成功は、科学が常に救いに来てくれると
いう過信を私たちに植え付けることになっては
いないだろうか?
人間の健康に対する脅威が消えることは決してない。ワクチンや抗生
物質のおかげで、かつての主要な死因であった疾患も克服できるよう
になった。しかし、心臓病やガン、糖尿病などの慢性疾患の罹患率は
上昇している。SARSや鳥インフルエンザ、豚インフルエンザなどの近年
の流行病を抑えることはできているものの、致死性のウイルスが突然
変異により他の生物種からヒトへとたやすく伝染することも明らかに
なってきている1。これまではうまく制御できてきたものの、新たな生
物学的変異が人間の編み出した対応策をいずれも攻略することになる
ため、人類にとって壊滅的な事態が起こらないとは限らないのであ
る。
ウイルスがマスコミを賑わせることが多いが、実は私たちの過信が人
間の健康にもたらす最大のリスクは、抗生物質耐性菌である。我々は、
突然変異に対して先手を打つことのできない細菌の世界に住んでお
り、現在、人間の健康リスクに対する弾力性は、どの程度までの対応
の遅れなら許容できるのかが試されている。
Section 5
我々の調査回答者は、このグローバルリスクを、パンデミックに対する
脆弱性、知的財産管理体制の不備、慢性疾患率の上昇、新たな生命科
学技術の意図せぬ影響などの他のグローバルリスクと関連付けてい
る。暴風圏が予測不能な形で衝突するように、これらのリスクの不測の
相互作用は今後10年間、医療システムに過度の負担をかけ、社会・経
済システムに予測不可能な打撃を与える可能性がある。
Section 6
図15:「健康問題への根拠なき過信」に関連するリスクの繋がり
知的財産管理体制の不備
慢性疾患率の上昇
抗生物質耐性菌
新たな生命科学技術の予期せぬ影響
パンデミックに対する脆弱性
出典:World Economic Forum
28
Global Risks 2013
Section 1
マーガレット・チャン、
世界保健機関(WHO)事務局長、2012年3月2
Section 4
有用なグローバルデータが全体的に不足しているために、細菌の拡大
の予測は難しく複雑である。一方、こうした状況を効果的に監視するた
めに努力を惜しまない領域では、不穏な予測が出現しつつある。図16
は、2種類の耐性病原菌に関する最新のデータと、2008年から2011年
までの傾向を示している。有名な抗生物質耐性菌-「MRSA」としてよ
く知られているメチシリン耐性黄色ブドウ球菌-は、拡大の勢いが弱
まり、減少に転じているが、それでも以前予測されていた速度で減少し
ているわけではない5。クレブシエラ・ニューモニエ(肺炎桿菌)に関し
ては、広範囲にわたって増大の傾向にあるix。
抗生物質以降の時代とは事実上、我々の
知っている現代医学の終焉を意味する。
連鎖球菌性咽頭炎や子供の膝のすり傷の
ような些細なことが再び致命傷となる可能
性がある
Section 3
現在、細菌に有効な新しい合成物が数種類開発中ではあるが、新たな
抗生物質の発見と開発のスピードが過去に比べ数十年遅れていると専
門家らは警告している。さらに私たちが注意しなければならないの
は、致死率最高50%という特定の「殺人細菌」の存在である。この細
菌は一番効力の強い抗生物質(カルバペネム)に対して新たに耐性を
つけており、現在開発パイプラインにある医薬品のいずれにも効果が
ないということである3。2011年に米国立衛生研究所で感染者18人のう
ち6人が死亡したケースが示しているように、たとえ世界で最も進んだ
医療センター内であっても、抗生物質耐性感染症は致命的になる恐れ
がある4。
これを受けて専門家は、あらゆる抗生物質が一般的な感染症の治療
にさえ効かなくなるシナリオを深刻に受け止め始めている。
Section 2
我々の多くは、必要な時にいつでも抗生物質が使えると思っている
が、近い将来にそうではなくなるかもしれない。抗生物質を投与するた
びに、ある細菌集団の中でその薬品に耐性を持つ少数の細菌が力を
つける。特定の抗生物質が使われれば使われるほど、その抗生物質に
耐性を持つ細菌が選択されて残り、増殖する。これまでは新たな抗生
物質が絶え間なく出現して、次第に効き目を失っていた以前の抗生物
質に取って代わってきたため、リーダーたちはこの問題を見て見ぬふり
をすることができた。今、状況は変わりつつある。
図16:多剤耐性を示す血流感染症の比率、EU/EEA、2011年時点の状況および2008-2011年の傾向
B. 3系統の抗生物質(第3世代セファロスポリン、
フルオロキノロン、アミノグルコシド)に混合耐
性を持つクレブシエラ・ニューモニエ
耐性菌の割合
Section 5
A. メチシリンに耐性を持つ黄色ブドウ球菌
(MRSA)
Percentage Resistance
1%未満
1∼5%未満
5∼10%未満
10∼25%未満
Section 6
25∼50%未満
50%以上
データの報告なし、
または分離株が10株未満
対象外
と の記号は、2008∼2011年のそれぞれの重要な増減傾向を示す。
これらの傾向は、2008∼2011年中に継続的に報告を行った研究所に基づき計算された。
出典:European Centre for Disease Prevention and Control, EARS-Net, 2012
ix
欧州疾病予防管理センターの欧州抗菌剤耐性サーベイランス・ネットワーク(EARS-Net)のイン
タラクティブ・データベースの最新のデータ(2012年公表)に基づく。http://ecdc.europa.eu/en/
activities/surveillance/EARS-net/database/Pages/database.aspx
Global Risks 2013
29
Section 1
抗生物質耐性菌がもたらすコスト
Section 2
抗生物質耐性菌の拡大は、あらゆる者に影響を及ぼす。人間の健康に
対する影響は、貧困国において特に重大なインパクトとなりうる。衛生
状態の悪さ、水質の汚染、都市部の人口過密、内戦、そして、栄養不良
やHIVの免疫力が低い人々が集まることによって、病原菌の拡大が助長
されるからである6。しかし、高所得国においても、抗生物質を必要と
せずに一生を過ごせる者はほとんどいない。
Section 3
抗生物質耐性菌が原因で命を落とす者の数は、心臓病やガンに比べ
ると少ないと思われるかもしれない。たとえば現在、院内感染した
抗生物質耐性感染症による年間死亡者数は、米国では10万人、中国で
は8万人、欧州では2万5,000人を下回っている7,8,9。しかし、専門家は、
これらのほんの数年前のデータは、現在ではさらに悪化している可能
性があると考えている。
『グローバルリスク報告書』は今後10年間を調
査対象としているが、この間に、致死率の高い抗生物質耐性菌が広範
囲に波及すると予測することは、決して非現実的ではない10。
抗生物質の使用は、感染症の治療に限られないことにも注意が必要
である。抗生物質は感染を防ぐことによって、心臓手術、臓器移植、早
産児の生存、そして関節リウマチのような自己免疫疾患や血液、骨髄、
リンパ節のガンに対する集中的な免疫調節治療などの医療措置を可
能にする。高齢化、食生活の変化、身体活動量の低下などの人口動態
や生活様式の傾向に伴い、外科手術を通じて治療されている慢性疾
患の罹患率が今後増えることが予想できるがこれらは効果的な抗生物
質なしには行うことはできない。
抗生物質耐性菌は我々の医療システムを揺るがすだけではない。抗生
物質耐性菌によるコストは、経済システムにとっても、社会システムの
安定性にとっても深刻な問題となる。抗生物質耐性感染症が米国の医
療制度にもたらす年間コストはすでに、210億米ドルから340億米ドル
に上ると推定されている11。米国以外でも、GDPの損失はすでに、0.4%
から1.6%と推定されている12。抗生物質耐性菌の世界的拡大による影
響としては、家畜の治療不可能な感染による食糧不足も考えられ、国
の指導者が病原菌の拡大を遅らせようとする中で、食品の貿易が制限
されたり、旅行や移住も制限されたりする可能性もある13。図17は、全
世界における抗生物質耐性菌によるコスト、影響、負担の概要を示し
たものである。
Section 4
図17:抗生物質耐性菌(ARB)の拡大X
アジア
欧州
• EU:抗生物質耐性菌の社会的コストは年間 15億
ユーロ55、生産性損失日数は 6億日相当と推定さ
れる59。
• タイ:年間 14万件以上 の抗生物質
耐性感染症が発生し、年間3万人以
上の患者が死亡。年間生産性損失は
200万米ドル規模49。
• ロシア:83.6%の家庭で抗生物質がむやみに使わ
れ抗生物質耐性菌は大きな懸念である61。
• 日本:東京の都市部河川で抗生物質
耐性病原菌が広範に存在50。
Section 5
北米
• 米国:院内感染しで年間9万9,000人が
死亡。その大半は、抗生物質耐性病原菌
による56。
• 米国:抗生物質耐性病原菌による、米国
の医療制度の負担コストは 年間210億
∼340億米ドルと推定される56。
• 中国:抗生物質の過剰処方 51と抗生
物質耐性の急増52。
中東・北アフリカ
• エジプト:ガン治療中に血液感染にかかった
若者を調査したところ、感染したの38%が抗
生物質耐性病原菌であったことが判明55。
• イスラエル:抗生物質に耐性を示した症例の
約50% において抗生物質耐性病原菌が致
命的となったことが判明63。
Section 6
南米
• ペルー、ボリビア: 51%超の院内
感染症が抗生物質耐性病原菌に
よる57。
• ブラジル:MRSAの感染率が 60%
にも上る58。
• インド:4年間(2002∼2006年)で抗
生物質耐性病原菌の耐性薬剤が7種
類から21種類に増加53。
• ベトナム:環境汚染を通じて農業が
抗生物質耐性菌の拡大を助長54。
• パキスタン:新生児のアシネトバクタ
ー感染の71%が抗生物質に耐性が
あることが判明55。
サハラ以南のアフリカ
• タンザニア:子供の抗生物質耐性病原菌
による死亡率がマラリアを 2倍以上 上
回った55。
• ナイジェリア:アジアからアフリカに抗生
物質耐性病原菌の急速な拡大がみられ
る62。
南極
• 南極の動物と水サンプルにも耐性菌
が検出されている64。
x
30
図中の簡潔な説明に関する具体的な詳細情報は、本章の文末脚注の参考文献を参照のこと。
Global Risks 2013
Section 1
域における耐性の拡大は、質の悪い模造医薬品の不正売買によってさ
らに助長されている。
耐性の発達によって抗生物質が効かなくなるまでの時間をできるだけ
遅らせたいのであれば、抗生物質の使用をできるだけ控える必要があ
る。しかし、誤ったインセンティブと情報不足が相まって、抗生物質が
不要な場面で使用されているというのもまた事実である。
一方、たとえば、成長促進剤として、抗生物質は世界中で家畜の飼育と
魚の養殖にも過剰に使用されている。耐性菌は家畜との接触を通じ
て、食物連鎖を介して、あるいは畜産・養殖業からの廃水を通じて人間
に伝染するほか、病院や医薬品工場からの廃水を通じても伝染する可
能性がある20,21。ある研究では、工場から付近の河川に毎日45キログラ
ム、実に4万5,000回分に相当するシプロフロキサシン(膀胱感染症と
副鼻腔感染症の治療に一般的に使われる抗生物質)が流出しているこ
とが判明した22,23。このような環境汚染の結果、近年、南極のように遠
く離れた地でも抗生物質耐性菌が発見されている24,25。
一部の医療制度は、抗生物質の過剰処方を促すようなゆがんだインセ
ンティブを内包している。たとえば中国では、医薬品の販売が病院の
収入の大きな割合を占めており、2010年まで医師の給与は、処方薬の
販売による利益と関連付けられていた。ある調査によれば、北京の小
児病院の患者の98%は、単なる風邪に抗生物質を処方されていたとい
う15。2009年のデータは、中国の入院患者の74%が治療や予防対策の
ために抗生物質を処方されることを示唆している16。
これまでは耐性菌の拡大によって以前の抗生物質の効果が薄れてくる
と、それに取って代わる新型の抗生物質が登場していた。しかし、新し
い抗生物質の医薬品開発パイプラインは、干上がりつつある。ここ数
年、新型の抗生物質が市場に登場していることは事実だが、医薬品開
発が進歩しているわけではない。最新の抗生物質は、実は数十年前の
科学的発見の賜物なのである。さまざまな系統の抗生物質が発見さ
れた年(市場に導入された年ではなく)を示す年表(図18)は、1987年
以来、新たな系統の抗生物質がまだ一つも発見されていないことを示
している26。この原因に関しては、いくつかの競合する重複的な説明が
ある。
第一に、製薬会社にとって、糖尿病や高血圧症などの慢性疾患の治療
薬の方が高い投資収益率をもたらす。また、抗生物質とは異なり、こう
した医薬品の耐性は問題とならず、急速に広範にわたって市場に浸透
する可能性がある。一方、新型の抗生物質は、最後の手段としての治療
として温存される可能性が高く、いざ必要になった場合にも数週間し
か使われないため、製薬会社の売上げが上がらない28, xi。
Section 5
興味深いことに、グローバルリスク意識調査の回答者は、抗生物質耐
性菌を国際的な知的財産管理体制の不備と結び付けていた。このグ
ローバルリスクは調査において、
「イノベーションと投資を促すための
有効なシステムとしての国際的な知的財産保護体制の喪失」と定義さ
れている。すなわち、単なる知的財産保護の仕組みを超えて、知的財
産保護制度の最終目的は価値あるイノベーションを促すことであると
Section 4
多くの医療制度では、抗生物質を処方薬に限定していない。処方箋が
なくても薬局や市場で簡単に購入できるため、不適切な自己治療が
抗生物質耐性菌の拡大を助長しているといえる。たとえばインドでは、
「最後の砦」として使用すべき強力な抗生物質の薬局販売が2005年
から2010年までの間に6倍近く増えた17。残念なことに、本当に必要な
場合における抗生物質の入手を不当に制限することなく、抗生物質の
過剰使用を防ぐにはどうすればよいかという問題に簡単な答えはな
い。インドの国家調査特別委員会は抗生物質の市販中止を提言したも
のの、インドの厚生大臣は、そのような措置を取ると、医薬品を処方す
る医師がいない農村部の患者にとって事実上、抗生物質の入手が不可
能になるとの懸念を示した18,19。低・中所得国では幅広い種類の抗生物
質が満足に入手できないことも、問題の一部となっている。こうした地
新型の抗生物質の開発が遅れている理由
Section 3
処方箋がなければ抗生物質を入手できないように使用を制度上で制
限していても、医師は、ウイルスに抗生物質が効くと誤解している患者
から抗生物質の処方を迫られるケースがある。たとえば、ヨーロッパで
行われた調査の中で、フランスの回答者の半数以上がインフルエンザ
の様な疾患に抗生物質を期待していることが判明した14。細菌感染と
ウイルス感染を正確に区別できない、あるいは細菌感染の種類を正確
に特定できない現在の診断法が、医療過誤訴訟に対する懸念と結び
付いた結果、重度の感染症においては特に、どれか一つは効くだろう
との期待から医師が使える限りの抗生物質を混合して処方する傾向が
生じている。この正確性の欠如が細菌の耐性拡大をさらに後押しして
いるのである。
Section 2
抗生物質の乱用の原因
図18:抗生物質の発見の空白期間27
さまざまな系統の抗生物質の発見日。1987年以来、新たな系統は発見されていない。
1970
1980
1990
-1
98
7
1960
リポ
ペ
プ
チド
1950
ホ
ス
ホ
マ
イシ
ン
ム
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-1
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96
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9
ン
-1
97
1
カ
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ゾリ ム 19
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76
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97
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1940
アミ
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ー
- 1 47
局
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94
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19
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- 52
リフ オシ 195
キノ
3
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5
ン
ン
-1
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95
サミトリ
7
ド ムト
¦フ プ
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ン -1
酸 9
- 1 61
96
2
ペ
ニ
シリ
ン
-1
ス
92
ル
8
ホ
ン
アミ
ド
-1
93
2
1930
2000
2010
Section 6
1920
発見の空白期間
出典:World Economic Forum、Silver, L.L. Challenges of Antibacterial Discovery. In Clinical Microbiology Reviews, 2011, 24:71-109をもとに編集
Global Risks 2013
31
Section 1
いう考えを包含している。この連関性から浮き彫りされるものは、長期
的な商業的見返りの約束を通じて抗生物質開発への初期投資を促す
ことができていないというグローバル市場の失敗であり、この失敗は、
マラリア撲滅のための医薬品や流行性インフルエンザのワクチンにも
当てはまる29。
Section 2
第二に、規制がもたらす負担も新型の抗生物質の開発を妨げている30。
多くの中小製薬会社は、臨床試験に関する複雑な要件を満たすため
の費用を負担するだけの財力がない。こうした負担は、多くの有望な
新種の薬剤の開発を妨げる危険がある31。
Section 3
第三に、ゲノミクス、ナノ工学、合成生物学などの新たな生命科学技術
の可能性の探究にますます多くの努力が費やされているが、細菌性疾
患の治療における新たなアプローチを生み出すには至っていない。こ
の状況がもたらした意図せぬ結果の一つは、細菌を死滅させる天然化
合物を発見するという伝統的アプローチに研究者が目を向けなくな
り、発見がますます難しくなるということである32, 33。
健康に関する人間の過信とは、我々が持っている技術が有効に機能し
続けるものと思い込むことだけでなく、より大きく素晴らしい科学の躍
進がすぐそこに迫っていると決めてかかることも意味する。既存の抗生
物質が効かなくなる前に、抗生物質に取って代わる医薬品が開発され
る保証はないのである。
どう対処すればよいのか?
Section 4
これまで数多くの報告書、ワークショップ、会議が、抗生物質耐性菌の
拡大に対処するための政策や戦略を提言してきた。世界保健機構
(WHO)は2001年に、抗菌薬耐性を抑制するためのグローバル戦略
を打ち出した34。しかし、製薬業界が今後も解決策を見つけるだろうと
いう思い込みが、この問題を比較的優先順位の低いものと考える意思
決定者の姿勢を助長している。問題を複雑にしているのが、抗生物質
耐性菌に国境はないという事実である。したがって、国境、分野を越え
たステークホルダー間の強力な国際協力なしにできることには限りが
ある。抗生物質耐性菌の世界的拡大に対して有効な対応を取るために
は、市場の失敗とグローバル・ガバナンスの破綻の回避に取り組む必
要がある。
市場の失敗に対処するために、製薬会社により多くの新型抗生物質を
開発するように奨励するインセンティブが提案されている 35。たとえ
ば、事前買取制度を通じて政府や慈善団体は、所定の有効性基準を満
たす新薬を一定量購入する約束をすることができる。このような制度
は、新たな抗生物質を開発するインセンティブを民間企業に与える一
方、それらの新たな抗生物質の販売とマーケティングを公益に適うよう
に限定することができるxii。
官民パートナーシップも、新たな抗生物質を開発するインセンティブを
与えるという点において有望である。一例は、革新的医薬品イニシアティ
ブ(IMI)という、EU委員会と欧州製薬業団体連合会による20億ユーロ
規模の取り組みであり、その一環として抗生物質の発見と開発のため
の資金が確保されている36。IMIは、共同研究プロジェクトをサポートす
る中立的な第三者として機能し、産業界と学界の専門家のネットワーク
を構築する。
また、公的資金や慈善資金を利用して、製薬業界の研究者との学術的
協力はもちろん、企業間協力の増大にもインセンティブを与えることも
できる。抗生物質のイノベーションの躍進のためには、学界、民間企
業、政府政策者の間で知識を集積し、共有することが必要となる37。グ
ラクソ・スミスクライン(GSK)やビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団な
どの企業や財団は、秘密保持と特許による専売がイノベーションの基
盤であるという考えを否定し、
「オープンラボ」という研究アプローチ
をいちはやく実践している。GSKは、共同で抗生物質の発見に取り組
むためにトレス・カントス研究所を学界、政府、バイオテクノロジー関連
の社外研究者に開放している。また、ビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財
団は、
「アボット・ラボラトリーズ、アストラゼネカ、バイエル、イーライ
リリー、グラクソ・スミスクライン、メルク、サノフィの研究チームと、4つ
の学術機関および政府機関の科学者を結集する『結核治療薬推進
(TB Drug Accelerator)』プログラムを企画している」38。
規制の枠組みに透明性と安定性が欠けていることや各国の臨床試験
プロセスが一致していないことなど、新型の抗生物質の開発を妨げて
いる認可規制上の障害に対処するためには、国際的な取り組みが必要
となる39。
Section 5
同様に、データ収集の改善を促し、抗生物質耐性菌の世界的拡大をよ
り正確に継続的にモニタリングできるようにするためにも、国際的な
協力が必要であろう40。過去10年にわたる欧州の経験は、抗生物質の
使用と耐性に関するデータが公表され、抗生物質耐性菌の抑制とコン
トロールに関して各国の協調政策が導入・施行されれば、人間の医学
における抗生物質の使用を大幅に削減できることを示している41。
Section 6
しかし、農業、水産養殖、畜産における抗生物質の使用を減らすため
には、より多くの取り組みが必要となるだろう。北欧諸国がどうやって
大きな進歩を遂げたか—答えの一つは、群れの規模の小ささかもし
れない—を理解し、
「人間の健康と産業的農業に関するピュー慈善財
団キャンペーン(Pew Charitable Trusts Human Health and Industrial
Farming)」のような啓発キャンペーンにおいて何が奏功するかを評価
するには、更なる研究が必要であるxiii。図19は、食糧となる動物を育て
るために使われる抗生物質の数値が、欧州のように厳しく規制されて
いる市場においても、いまだに高いことを示している42。
xi
32
Global Risks 2013
当面のところ、新薬の研究開発の優先順位はいまだに投資収益率に基づいて決定され、
ピーク時の年間世界売上高が数十億米ドルに達する医薬品(たとえば、慢性疾患治療用)
の研究開発が優先されている。そのような医薬品は、リネゾリドやダプトマイシンのような
抗生物質の近年の売上高が示しているように、ピーク時の年間世界売上高が5億米ドルか
ら10億米ドルの新型の抗生物質よりも優先される。
「ブロックバスター」がピーク時の売
上高が年間10億米ドル以上の医薬品と定義されていた15年前なら、この売上高水準も満
足できるレベルとみなされていただろう。1997年に最もよく売れた医薬品(全体)は売上
高36億米ドルであり、売上高10億米ドル以上の医薬品(したがって、
「ブロックバスター」
とみなされた)は28種類あった。最もよく売れた認可抗生物質は、売上高15億米ドルで9
位に入っていた。2011年になると、最もよく売れた医薬品は売上高107億米ドルを記録
し、119種類の医薬品が売上高10億米ドル以上を記録した。最もよく売れた認可抗生物質
は、売上高14億米ドルで28位だった。
(専門家へのインタビューに基づく)。
xii
製 薬 研 究 開 発 に適 切 なインセンティブ を与えるため のメカニズ ムの 概 要 につ いて
は、Morel, C.M. and E. Mossialos. Stoking the Antibiotic Pipeline. In BMJ, 2010. 340 48
Section 1
-- 抗生物質耐性菌が国境も生物種の境界も越えることを考えると、そ
の脅威に対処するにはどうすればよいだろうか?気候変動とパンデ
ミックと同様なレベルの抗生物質耐性菌に対する可視性と政治的
取り組みの機運を高めるには、どうすればよいだろうか?
-- 慢性疾患治療薬の研究開発への投資収益率の方が高いことを考え
ると、抗生物質の発見、研究開発を再び活発化させるにはどうすれ
ばよいだろうか?どのようなインセンティブが実現可能だろうか?ど
うすれば抗生物質に関する学界と中小企業の取り組みを促進でき
るだろうか?
-- 新たな薬剤が利用可能になるまで、現在の抗生物質をどのように維
持すべきだろうか?家畜の飼育と魚の養殖における抗生物質の過剰
使用に対処するために、インセンティブをどのように調整すべきだろ
うか?医療財政制度においては、どのようなインセンティブが最も効
果的だろうか?現在の抗生物質の有用性を保つ取り組みにおいて国
際機関がグローバルリーダーの役割を果たせるようにするために、
どのようなサポートができるだろうか?
図19:食糧生産動物用の抗生物質の販売43
Section 3
ノーベル受賞者の故エリノア・オストロムは、
「どちらの現象も再生
不能な世界の資源が関わっており、どちらも人間の活動によって引き
起こされ、我々の行動と本質的に結び付いているという点において」
抗生物質耐性菌の問題を気候変動問題にたとえ、
「この問題は、国際
協力を通じてしか対処できない」と指摘した。気候変動とは異なり、ど
のような行動が必要か分かっているという点については、楽観的にな
れる理由の一つである。問題は、行動を起こす意志とメカニズムを作
り出すことである45。
問題の提起
Section 2
新たな抗生物質が利用できるようになった場合、その使用を必要な症
例に制限するには国際協力が必要となる。これは、抗生物質の入手を
低・中所得国にとっての開発支援の問題として考慮し、ガバナンスの問
題について協力を促す国際的な仕組みを見い出さなければならないこ
とを意味している。この取り組みにおいては、医療システムにおける経
済的インセンティブの調整による過剰処方の問題への対処、不必要な
自己治療の問題に対処するための教育的介入、細菌感染の存在とその
種類を診断するための技術 xivと抗生物質管理の向上を通じた抗生物
質使用のコントロールにおける相互の経験から学ぶ機会がある44。
母集団補正単位(PCU*)当たりの食料生産動物**用の
抗生物質の販売(2010年/ミリグラム表記)
300
その他
Section 4
プロイロムチリン
ポリミキシン
250
アミノグリコシド
フルオロキノロン
リンコサミド
マクロライド
トリムトプリム
スルホンアミド
150
ペニシリン
テトラサイクリン
Section 5
ミリグラム/PCU
200
100
0
Section 6
オーストリア
ベルギー
チェコ共和国
デンマーク
エストニア
フィンランド
フランス
ハンガリー
アイスランド
アイルランド
ラトヴィア
リトアニア
オランダ
ノルウェー
ポルトガル
スロヴェニア
スペイン
スウェーデン
英国
50
* population correction unit/動物体重1キロ
** 馬を含む
出典: Sales of veterinary antimicrobial agents in 19 EU/EEA countries in 2010. 2012. European
Medicines Agencyをもとに編集。
xiii
xiv
ReAct- 抗 生 物 質 耐 性 に 対 する 行 動(Action on Antibiotic Resistance)、 抗 生 物 質 アク
ション(Antibiotic Action)、抗 生物 質 耐 性に取り組む 世界連合(World Alliance against
Antibiotic Resistance、WAAR) などのキャンペーン同様、人間の健康と産業的農業に関す
るピュー慈善財団キャンペーンは、抗生物質の有効性を維持するために、あらゆるセクター
における意識改革と国際的政策の形成に取り組んでいる。これらの諸団体のウェブサイト
には、豊富なコンテンツと資料が掲載されている。
今日の分子診断技術は非常に費用効果の高い方法で細菌感染の有無を診断し、さまざま
な抗生物質に対する細菌の感度を測定することができる。高・中・低所得国の医療システ
ムにおいて、より効率的で適切な治療と抗生物質の使用を実現するためには、これらの技
術をさらに拡大する必要がある。
Global Risks 2013
33
Section 1
コラム4:宇宙空間への依存度が高まる地球
Section 2
宇宙空間におけるインフラへのダメージは、あまり一般に理解されて
いないグローバルリスクの一つであり、毎年このリスクについて専門家
の意識調査が行われている。世界経済フォーラムの「宇宙安全保障に
関するグローバル・アジェンダ・カウンシル」のメンバーは、人工衛星の
重要性が広く認識されていないことが、このリスクが常にグローバルリ
スクの展望の中で下位に位置している理由を説明していると考えてい
る。我々が現代的でモバイルな生活を送るための最も重要なインフラ
が人工衛星によって成り立っていることを正しく認識している人はほと
んどいない。
-- 電話・インターネットネットワーク、金融市場、銀行業界、データセン
ター、エネルギーネットワークの日常業務はすべて、人工衛星によっ
て伝達される正確な時間情報に依存している。
Section 3
-- 人工衛星なしには3,000億ユーロ規模の世界のテレビ産業は機能し
ないだろう46。同様に、EUだけでも年間600億ユーロ規模の社会経
済的便益をもたらしていると推定される天気予報も実現しないだろ
う47。
-- 土地・水路利用の誤った管理:各国政府は、アマゾン熱帯雨林の森
林開拓などの活動を監視し、違法伐採を特定するためにリアルタイ
ムに近い形で衛星画像を利用し始めている。
-- 大量破壊兵器の拡散/外交による紛争解決の失敗:人工衛星は、
軍縮協定の進捗を監視することにより、大量破壊兵器のコントロー
ルにおいて重要な役割を果たしており、信頼構築に必要な透明性と
措置を向上させるためのかけがえのない手段となりうる。
地球、大地、大気、海洋を見渡し、世界の隅々に声を届けることができ
る人工衛星は、さまざまなグローバルリスクに対する我々の弾力性の
強化を可能にする存在である。宇宙ベースの重要インフラの持続可能
な管理運営を確実にし、これらの重要システムが故障した場合の影響
を過小評価しないようにするためには、この事実がもっと幅広く認識
される必要がある。
図20:人工衛星から見た海氷の厚さ
-- 緊急事態における救助活動の通信は、モバイルネットワークに過負
荷がかかっている場合、人工衛星を頼りに行われる。平和維持活動
や軍事任務も、セキュリティ性の高い衛星通信に依存している。
Section 4
人工衛星は、グローバルリスクの展望において捉えられている三大「ブ
ラックスワン」事象(注:事前にほとんど予想できず、発生した場合の
衝撃が非常に大きい事象)—すなわち、国家間の紛争においてターゲッ
トにされること、強力な磁気嵐、宇宙ゴミとの衝突—の危険にさらさ
れている。しかし、発生の可能性は低いが影響は大きいこれらのリスク
は、衛星事業者が昼夜を問わず目を光らせる類いのリスクではない。
彼らは、地球上の短期的なリスクをはるかに懸念している。社会が宇
宙からの目に見えないシグナルへの依存を強めるにつれ、近視眼的な
周波数(人工衛星が通信に使う電波を指す用語)の管理がもたらす不
測の長期的影響が極めて重要な衛星サービスを脅かしている。規制当
局は、新時代のデジタルサービスを提供するために乏しい周波数資源
を共有したいという要望への対応に追われる一方で、不可視だが重要
なサービスがなおざりにしている。
Section 5
これらは、人工衛星に対しては物理的リスクであるだけでなく、グロー
バルリスクとして列挙されているうちの最も発生の可能性が高く、影響
も大きなリスクに対して私たちの対応力や反応力を著しく減退させるリ
スクである。
-- 温室効果ガス排出量の増大と気候変動への適応:人工衛星を使っ
た画像、データ、通信を利用して、異常気象の早期警告システムを
整備し、洪水、砂漠化、海面および気温の上昇をリアルタイムで
モニタリングすることができる。
Section 6
-- 食糧・水危機:人工衛星画像は、食糧供給状況の追跡や、耕作地と
飲料水資源の質とそれらに頼っている住民の居住地と人口密度の
評価を可能にする。衛星通信は、効果的で確実な食糧配給や配給
を実施する救援隊員自身の安全の確認を容易にする。
-- 極端な所得格差:世界を衛星放送でつなぐことは、たとえば、僻地
における初等教育の普及、自宅が医療施設から離れているために命
を落としかねない人々への保健医療や遠隔治療の提供、あるいは、
他の通信インフラが存在しない地域におけるマイクロファイナンス
などの重要な解決策の実現など、様々な活動を通して、個人の生活
に広範に及ぶ根本的な影響を与える。
-- 重要システムの故障:電話、インターネット、金融市場あるいは銀行
機関、データセンターからエネルギーネットワークに至るまで、ほぼ
すべてのネットワークインフラが時刻合わせのために人工衛星を使
用している中、人工衛星インフラに対するリスクは、国際的通信機
能の崩壊を引き起こしかねない。
34
Global Risks 2013
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Global Risks 2013
35
Section 1
Section 2
特集:
グローバルリスクに対する
国家の弾力性の構築
Section 3
Section 4
理想の世界であればグローバルリスクには国際 グローバルリスクは、多くの国で同時に出現することがあるため、国境
を共有する国や基礎的諸条件が類似している国、あるいは同じ重要シ
的な対応がなされるだろうが、現実世界ではい ステムに依存している国を通じて拡大する可能性がある。この特集
は、グローバルリスクに対する国の備えを評価するために、
「弾力性」
ざシステム障害や大災害が生じたとき、国とそ という概念を用いた診断の枠組みを構築しようとする先駆的な取り組
の地域社会が最前線に立つことになる。相互 みである。
依存性が高まっているハイパー接続された世 ここで提案する弾力性の枠組みは、伝統的なリスク評価方法では必ず
しも明らかにされない、グローバルリスクへの備えに内在する弱点を
界においては、一国がグローバルリスクへの対 明らかにするという意味において、国の意思決定者にとって「MRI」の
役割を果たすものと思われる。この枠組みは、世界経済フォーラムや
処に失敗すると、その影響が他国にも波及しか その他の研究機関が作成した定性的 ・定量的指標の候補を紹介する
ねない。したがって、ショックに耐え、適応し、そ 試作版である。読者の協力を得てこの枠組みをさらに改良し、2013年
夏にはグローバルリスクに対する国家の弾力性について、詳細な中間
こから回復する能力を統合したグローバルリス 結果を発表する予定である。
クに対する弾力性がますます重要になりつつ
リスクの種類
ある。本特集は、以下の2つの原則を軸に構成
グローバルリスクに対する国の弾力性を評価するためには、リスクを
されている。
適切な組織的文脈において定義する必要がある。本報告書では、公的
xv
Section 5
- グローバルリスクは国レベルで出現する。
- どの国も単独ではその発生を防ぐことはで
きない。
セクター組織と民間セクター組織の見解を区別していないが、
「組織
が直面するリスクの種類の定性的な違い」を理解する重要性を明確に
する1。ハーバードビジネススクールの教授であるロバート・カプランと
アネット・マイクスは、3種類のリスクを区別している。
1.予防可能なリスク - プロセスの崩壊や人為的ミスなどの
リスク
2.戦略的リスク - 潜在的な収入とリスクとを比較した際に自
ら進んで取るリスク
3.外的リスク - 人の影響力やコントロールを超えるリスク
Section 6
ビジネスの場合、カプランとマイクスは、最初の2つの種類のリスクには
伝統的なリスクマネジメント手法を通じて対応することが可能である
としており、主に企業文化、規制当局や業界、関連機関の指令の厳格
な遵守に焦点を当てている。一方、外的リスクの外因的性質を考える
と、この3つ目のリスクに対する好ましいアプローチは、リスクに対する
弾力性を培うことである2。
もう一つのリスク分類法は、次の2点を問うてみることである。発生の
可能性と潜在的な影響は、どのぐらい予測可能か?また、その対処方
法について我々どれくらいの知識があるだろうか?そのリスクを予測す
ることができ、それについて多くを知っているならば、リスクを予想し、
その影響を軽減し、損失を最小限に抑える具体的な戦略を編み出すこ
とができる。図21が示すように、予測しにくいリスクに対処する場合、あ
るいはそのようなリスクの対処法に関する知識がほとんどない場合、
弾力性が最も重要となる3。
xv
36
Global Risks 2013
本報告書では、定性的データとは意識調査を指す。
Section 1
高
予測戦略よりも
弾力性を重視
予測戦略を利用
弾力性を強化
予測戦略よりも
弾力性を重視
低
少ない
多い
リスクとその有効な対処法に関する知識の量
出典:Comfort, L. K., Boin, A., & Demchak, C. C. The Rise of Resilience, in Designing Resilience:
Preparing for extreme events. Pittsburg: University of Pittsburgh Press, 2010をもとに編集
したがって、本報告書における「弾力性の高い国」の暫定的定義は、そ
の活動の継続性を維持しつつ、1)環境の変化に適応し、2)突然のショッ
クに耐え、3)以前のものであれ新たなものであれ望ましい平衡状態に
戻る能力を有する国、ということになるxix 。この定義を構成する3つの
要素は、回復可能性(危機の後に迅速な回復を遂げる能力)と適応性
(環境の変化に対する適時な適応)の両方を包含している。
国家の弾力性:5つのサブシステム、5つの構成要素
この診断ツールは、国を複数のサブシステムで構成される一つのシス
テムを扱うことによって、グローバルリスクに対する国の弾力性を測定
することを狙いとしているxxi。そのようなサブシステムの弾力性を測定
する方法はすでに数種類存在するが、たいていは経済や生態系に関連
しているxxii 。しかし経済システムの弾力性を高める要素は、生態系の
弾力性を高める要素とは異なる(脅威とリスクが異なるだけでなく、他
のシステムとの相互連関性も異なる)。したがって、本報告書の目的
は、図23に示すように5つの部分からなる最初の枠組みを用いて、国の
全体的な弾力性を測定するための枠組みの試作版を提示することに
ある。この枠組みでは、国は5つxxiiiの中核的サブシステムで構成されて
いる。
1. 経済サブシステム:マクロ経済環境、モノとサービスの市場、金融市
場、労働市場、持続可能性および生産性などの側面を含む10。
2. 環境サブシステム:天然資源、都市化、生態系などの側面を含む。
3. ガバナンス・サブシステム:制度、政府、リーダーシップ、政策、法の
支配などの側面を含む。
4. インフラストラクチャ・サブシステム:重要インフラ(たとえば、通
信、エネルギー、輸送、水、医療)などの側面を含む11。
5. 社会サブシステム:人的資本、医療、地域社会、個人などの側面を
含む。
「ストレス」とは、長期的な困難を意味することもあれば、緊急の危機を意味することもある。
「システミック」とは、特定の部分ではなく、
「システムに関連している」ことを意味している。
これは、システムがその中核的機能を遂行し続ける能力を指す。
xix
現行の弾力性の定義は、作業定義である。
xx
この文脈における「システム思考」とは、システムの設計、再設計に対するシステムの柔軟性
と適応性、そして危機に直面した場合に有機的に自身を再設計するシステムの能力に焦点を
当てている。
xxi
多くの指数や研究はそのトピック、問題点または主題を複数のシステムに細分化している(使
われている用語は同じではなく、カテゴリー、次元、環境、領域などの言葉が同じような意
味で用いられている)。たとえば、UNESCAP の環境開発部による「持続可能性、弾力性およ
び資源効率に関する研究(Sustainability, resilience and resource efficiency study )」、ユーラ
シアグループによる「グローバル政治リスク指数(Global Political Risk Index)」、平和基金会の
「失敗国家指数」、国際赤十字・赤新月社連盟による「地域社会の弾力性および弾力性を強
化するプログラム要素の理 解(Understanding community resilience and program factors
that strengthen them )」、チューリッヒ州立銀行による「持続可能性指数」、マネー・マターズ・
インスティテュート
(Money Matters Institute)による
「国の豊かさのトライアングル指数
(Wealth
of Nations Triangle Index)」、国際経営開発研究所の「世界競争力スコアボード」などである。
xxii
米州開発銀行による「リスクマネジメント指数」は、リスクマネジメントのパフォーマンスを
評価する。米州開発銀行による「一般化している脆弱性指数(Prevalent Vulnerability Index
)」は、(i) 脆弱性にさらされている度合いと脆弱性の影響の受けやすさ、(ii) 社会経済的な
脆弱性の不均衡、(iii) 社会的弾力性の欠如、という 3 つの大まかな分類を通じて各国の一
般化している脆弱性の状態を評価する。英連邦本部/マルタ大学による「経済的回復力指数
(Economic Resilience Index)」は、国の弾力性を (i) マクロ経済的安定性、(ii) ミクロ経済的
な市場の効率性、(iii) ガバナンス、(iv) 社会的発展、という 4 つの主要指標を通じて測定する。
英連邦本部による「複合脆弱性指数(Composite Vulnerability Index)」は、国の脆弱性を (i)
専門的多様性の欠如、(ii) 輸出依存、(iii) 自然災害に対する影響、という 4 つの主要要素を
通じて測定する。イェール大学/コロンビア大学による
「環境持続可能性指数
(Environmental
Sustainability Index)」は、(i) 環境システム、(ii) 環境ストレス、(iii) 環境ストレスに対する人
間の脆弱性、(iv) 社会・制度的能力、(v) 地球規模での環境管理、という 5 つの中核的構成
要素を通じて、各国の環境保護能力を測定する。
xxiii
5 つの中核的サブシステムには、競争力のさまざまな側面が含められている。
xxiv
2013 年に、この枠組みにおける 5 つの中核的サブシステムを定義し、検証し、確認するため
のワークショップと専門家会議が開催される予定である。
xvii
xviii
図22:弾力性の高いシステム
弾力性とは…
ストレスを受 けた
後 により素 早く元
の状態に戻り、より
大きなストレスに
耐え、ある一定のス
トレス 量 による阻
害が少なくてすむ
混乱が生じた場合
にシステムの機能
を維持する
危機に耐え、危機か
ら回復し、危機に対
応して再び組織化
する能力
物体の場合
システムの場合
適応性の高い
システムの場合
出典:Adapted from Martin-Breen, P. & Anderies, J.M. “Resilience: A Literature Review”.
Rockefeller Foundation, http://www.rockefellerfoundation.org/news/publications/
resilience-literature-review, 2011をもとに編集
Global Risks 2013
37
Section 6
xvi
Section 5
近年の未曾有の災害を受けて、
「弾力性」は、さまざまな学問的領域に
おいて流行語になっており、それぞれの学問的領域が独自の暫定的定
義を定めている。工学の領域で長年使われている定義4では、弾力性と
は、
「ストレスを受けた後により素早く元の状態に戻り、より大きなスト
レスに耐え、ある一定のストレス量による阻害が少なくてすむ」ための
能力であるxvi。この定義は、橋や超高層ビルなどの物体に一般的に適
用されている。しかし、ほとんどのグローバルリスクは、システミックxvii
な性質を持つ。物体とは違ってシステムは、元通りになるだけでなく、
基本的な機能を実行するための別の方法を模索する、すなわち適応す
ることにより、弾力性を示せることもある5。システムの場合、弾力性の
もう一つの定義は、
「混乱が生じた場合にシステムの機能 xviiiを維持す
ること」である。
何がシステムの弾力性を高めるのだろうかxx?先述した橋などの物体と
は異なり、システムは極めて複雑で、生じうるストレスを数学的計算に
よって予測することはできない8。システム思考は、システムの堅牢性、
冗長性、臨機応変性、対応力と回復力など、以下のセクションにおいて
定義する構成要素を検討することによって弾力性を評価するための土
台となる9。
Section 4
弾力性:暫定的定義
弾力性は、地域社会から国までさまざまな主体に当てはまるが、各主
体を調べるときに他から切り離さないことが重要なポイントである6。
一つの国を、より小さなシステムから構成され、より大きなシステムの
一部を構成している一つのシステムとして考える必要がある。国家の
弾力性は、それらのより小さなシステムとより大きなシステムの弾力性
に影響される7。
Section 3
世界経済フォーラムの『グローバルリスク報告書』で毎年取り上げられ
ている、10年先を対象期間とした50のグローバルリスクの大半は、この
リスクに分類される。50のグローバルリスクには、突如出現する、ある
いは緩やかな変化を通じて出現する可能性のあるリスクが含まれる。
これらのリスクは世界経済フォーラム、リスク・レスポンス・ネットワーク
がマッピング、および、モニタリングしている既知のリスクだが、この相
互接続している世界においては特に、それらがどのように、いつ出現し
うるかについて、また、各国にとってどのような一次的・二次的影響を
及ぼすかについては、不確実な点もある。
システム思考
Section 2
リスクの予測可能性
図21:有効な対策に関する知識がほとんどない予測不能なリスク
には、弾力性が最も適切
Section 1
図23:国家の弾力性の枠組み(試作版)
マクロシステム
Section 3
弾力性の構成要素
Section 2
サブシステム
回復力の
弾力性
China
economic
弾力性の
hard
landing
パフォーマンス
国
経済
環境
ガバナンス
インフラ
社会
堅牢性
堅牢性
堅牢性
堅牢性
堅牢性
冗長性
冗長性
冗長性
冗長性
冗長性
臨機応変性
臨機応変性
臨機応変性
臨機応変性
臨機応変性
対応力
対応力
対応力
対応力
対応力
回復力
回復力
回復力
回復力
回復力
出典:World Economic Forum
Section 4
図23に示すように、5つのサブシステムそれぞれが弾力性を構成する5
つの要素、すなわち1)堅牢性、2)冗長性、3)臨機応変性、4)対応
力、5)回復力を用いて、詳細にわたって評価される。これらの5つの構
成要素はさらに、
「弾力性の特性(堅牢性、冗長性および臨機応変性)
」
と「弾力性のパフォーマンス(対応力と回復力)」の2種類に区分するこ
とができる。これらの構成要素の測定は難しい研究課題である。とい
うのも、それぞれを裏付ける属性が多数存在する上に、属性自体が重
複し相関関係にあるためである(付録3は、定性的・定量的指標の候
補を挙げているxxvi)。
Section 5
Section 6
本報告書では、国家的競争力のミクロならびにマクロ経済的基礎を測
定する世界経済フォーラムの年次『グローバル競争力報告書』
(GCR)
のアプローチを採用しているxxvii。国家の弾力性という概念同様、国家
の競争力の測定においては、より定性的な評価を必要とする概念や国
際的に比較可能な統計データが入手しにくい概念を把握するために、
国際的なデータソースとフォーラムの年次エグゼクティブ・オピニオン
調査(EOS)のデータの両方を利用している。今回初めてとなる取り組
みのため、我々は、EOSのデータを用いて各国の弾力性の構成要素を
評価するところから分析を始めたxxviii。
2011年から『グローバル競争力報告書』は、
「持続可能性調整後グロー
バル競争力指数」の試作版を掲載しているxxix 。これは、繁栄と成長の
傾向を測定するだけでなく、環境管理と社会的持続可能性を考慮に入
れた「成長の質」という考えを組み込んだものである。成長の質は、弾
力性の重要な側面であり、今後この枠組みをさらに発展させる中で取
り上げる予定である。
弾力性の特性(堅牢性、冗長性および臨機応変性)
各国の弾力性の状態を説明するのに使われるのが、以下に挙げる3つ
の弾力性の構成要素である。これらの構成要素はすでにシステムに組
み込まれていると考えられるため、国に備わっている弾力性の評価を
可能にする12。付録3には、3つの弾力性の特性に関連する意識データ
と、定量的データとして利用可能なデータを掲載している。
A. 堅牢性
堅牢性は、信頼性という概念を包含しており、混乱と危機を吸収し、そ
れらに耐える能力を指す13。弾力性のこの構成要素の根底にある前提
は、
1)フェールセーフ(二重安全)機構と防火壁が設計上、国の重要ネ
ットワークxxxに組み込まれており、かつ 2)その国の意思決定の指揮
系統が状況の変化に対応してモジュール化されれば、国の一部へのダ
メージが広範囲に波及する可能性が低くなる、の2点である。
属性の例
-- システムの健全性のモニタリング:サブシステムの質を定期的に
モニタリングし、評価することにより、その信頼性を確保する(図23
を参照)。
-- モジュール性:システムの一部における予期せぬショックが他の部
分に拡大するのを防止するように設計されたメカニズムは、ショック
の影 響を局部にとどめることができる。これはたとえば、20 07
年–2008年の金融危機における投資銀行部門からリテール銀行部
門への危機の波及などが例として挙げられる。
-- 適応性の高い意思決定モデル:ネットワーク化された経営構造は、
状況に応じて組織の一元化の度合いを強めたり弱めたりすることを
可能にする。たとえば、2011年の東日本大震災による大混乱の中で
も日本の小売企業ローソンの店舗は営業を継続することができた14。
こうした方策には、利害関係の競合を乗り越えるための適切な投資
とインセンティブ構造の整備も含まれる。
xxv
xxvi
xxvii
xxviii
xxix
38
2013 年に、この枠組みにおける弾力性の 5 つの構成要素を定義し、検証し、確認するた
めのワークショップと専門家会議が開催される予定である。
提案されている指標は、現在利用可能な指数と指標の例である。
2005 年以来、世界経済フォーラムは、「グローバル競争力指数(GCI)」という、国家的
競争力(国の生産性の水準を決定付ける一連の制度、政策および要素と定義される)の
ミクロ経済的・マクロ経済的基礎を測定する総合的ツールに基づいて競争力の分析を行っ
ている。GCR は、競争力の向上の妨げになっている障害を各国が克服するための最善の
戦略と政策について見識を提供し、ステークホルダー間のディスカッションを刺激する
ことを目的としている。
「グローバル競争力報告書」は、経済の競争力が高いほど、経済危機を乗り切ることがで
きると述べている。
詳しくは、http://www.weforum.org/sustainablecompetitiveness を参照。
Global Risks 2013
xxx
重要ネットワークは、情報通信技術に限定されない。重要な社会、政治、環境、経済ネットワー
クもそこに含まれる。
Section 1
D. 対応力
冗長性とは、余剰能力とバックアップシステムを持ち、混乱が生じた場
合に中核機能を維持できるように備えてあることを意味する15。この構
成要素の前提は、国の重要インフラと制度の設計に、目標達成と目的
遂行のための多種多様な手法、政策、戦略またはサービスが重複して
組み込まれていれば、ストレスや一部のインフラの障害に直面しても国
が崩壊する可能性が低くなるということである。
対応力とは、危機に直面したときに素早く動く能力を意味する20。弾力
性のこの構成要素においては、国家が社会のあらゆる部分から関連情
報を収集し、その関連データと情報を他者に伝達する効果的な方法を
持っているかどうかということに加え、意思決定者が新たに出現しつつ
ある問題を素早く認識する能力が評価される。
属性の例
-- コミュニケーション:効果的なコミュニケーションと伝達される情報
に対する信頼は、危機が生じたときに、ステークホルダーが情報を
素早く広めて共有し、情報の受け手からの協力と迅速な反応を確保
する可能性を高める。
-- 重要インフラの冗長性:中核的機能を日々維持するためには厳密に
は必要ではないが、危機が発生した場合に中核的機能を維持する
のに必要なモジュールの複製を設計する。
C. 臨機応変性
属性の例
-- 自己組織化のための能力18:これには、社会的・人的資本の規模、ソー
シャルネットワークと国家との関係、そして対面型ネットワークを可
能にする制度の存在などの要素が含まれる。これらの要素は、政府
機関が機能を停止し、地域社会が自己組織化して基本的な公共
サービスの提供を継続しなければならない状況において特に重要
となる。
弾力性のパフォーマンス(対応力と回復力)
属性の例
-- 積極的な「未来予測」:この属性に欠かせないのが、既存の知識に
おける不足を明らかにし、それらの不足を埋めるための研究を関係
方面に委託する、分野横断的なステークホルダー間の取り組みであ
る24,xxxii。
-- 監督行政上の機敏なフィードバック・メカニズム:未来予測活動から
得た新たな情報をもとに行動を起こすシステム―たとえば、
「自動
的政策調整発動要件」を定める―は、政策の見直しを行わなければ
ならない状況を明確にすることができる25。
これらの属性が重複し、補完関係にあることを示す一例として、包括的
参加は「対応力」の主要な属性として挙げられているが、回復力や臨
機応変性などの他の領域においても欠かせない。また、上記では適応
性の高い意思決定モデルの属性としてのみ言及されているものの、集
団行動に伴う問題と利害関係の競合を乗り越えるために必要な投資と
インセンティブの構造と設計の必要性は、弾力性の全ての特性に当て
はまることである。共通の弾力性の強化によって恩恵を受けるものの、
現時点ではインセンティブが不足している、あるいは必要な行動を起
こすための時間とリソースが足りないと感じているステークホルダー
は多い。
xxxi
xxxii
弾力性のないシステムや変更のきかないシステムは、十分に回復する可能性が低いが、柔軟
で新たな現実に適応する意欲または能力のあるシステムは回復しやすい。
未来予測活動の種類と応用の例は、Amanatidou, E., Butter, M., Carabias, V., et al.によって
提案されている。未来予測の概念と手法については、Lessons from initiating policy
dialogues on emerging issues. In Science and Public Policy, 2012, 39:208-221を参照。
Global Risks 2013
39
Section 6
弾力性のこの2つの構成要素は、危機に見舞われたときにシステムが
どのように働くかを示す。対応力と回復力は、リスク、事象、時間に左右
される。これらの構成要素は、システム間の比較を可能にするととも
に、具体的な測定値と結果をもたらすことで、弾力性の特性の適切な
調整を可能にする。グローバルリスクに対処するにあたっては、枠組み
を適応させる能力も非常に重要である。
回復力とは、危機や事象が発生した後にある程度の正常性を取り戻す
能力を意味する。これには、システムが柔軟性と適応性を発揮して、リ
スク出現後の新たな状況や状況の変化に対処すべく進化する能力も含
まれる23,xxxi。弾力性のこの構成要素においては、情報を公共政策やビ
ジネス戦略に反映させる国家の能力と戦略、ならびに状況の変化に適
応するための行動を取る意思決定者の能力が評価される。
Section 5
-- 創造性とイノベーション:国や産業におけるイノベーション能力は、
予備のリソースの入手可能性、そして学問的領域、組織、社会集団を
隔てる境界の硬直性と関連している19。
E. 回復力
Section 4
臨機応変性とは、危機に適応し、柔軟に対応し、可能であればマイナ
スの影響をプラスの影響へと変える能力を意味する16。システムの適応
性が高いということは、弾力性に影響する能力の実現に不可欠な柔軟
性を備えていることを意味する17。弾力性のこの構成要素の根底にあ
る前提は、産業界と地域社会がそれぞれのネットワーク内部で信頼を
構築することができ、自己組織化する能力を持っていれば、より大きな
国レベルの制度やガバナンスシステムが難局に陥ったり崩壊したりし
た場合に、自主的に対応し不測の難題を解決するための解決策を見つ
ける可能性が高まるということである。
-- 包括的参加:公的セクター、民間セクター、市民社会それぞれのステー
クホルダーの包括的参加は、地域的状況におけるグローバルリスク
の根底にある問題点について共通の理解を構築し、重要な相互依
存性が見過ごされる可能性を少なくするとともに21、参加者間の信
頼を強化することができる22。
Section 3
-- 解決策と戦略の多様性:特定の機能のためのメカニズムを多様化す
る。多様性と効率性・冗長性とのバランスを取ることで、国と地域社
会は、そのようなメカニズムを持たない場合より効果的に対処し、
適応できるようになる。
属性の例
Section 2
B. 冗長性
Section 1
国家の弾力性の定性的評価
Section 2
診断の枠組みの策定に向けた第一歩として、我々は、弾力性を評価す
る意識調査のデータの検討に着手した。世界経済フォーラムは今年か
ら、次の2つのグローバル調査に弾力性に関する質問を導入した。1)グ
ローバルリスク意識調査(GRPS)においては、フォーラムの有識者ネッ
トワークを対象に、グローバルリスクに対する回答者の国xxxiiiの弾力性
に関する意識を測定し、2)エグゼクティブ・オピニオン調査(EOS)に
おいては2012年、政府のリスクマネジメントの有効性を評価する26。
Section 3
定性的評価は、国ごとの統計データを含む定量的評価と連結され
るxxxiv。これにより、意識データと客観的データ(すなわち、定性的デー
タと定量的データ)を一体化した評価が得られ、弾力性、リスクマネジ
メント、競争力、持続可能性の間のパターンの分析が可能になる(例は
付録3を参照)。リーダーが自国の弾力性を向上させるためにどのよう
な支えが必要かを評価したい場合、意識調査が適切な出発点となると
いうのが我々の作業仮説である。
図24:弾力性に関する質問は、弾力性の「回復力」要素を左右する
変数になりうる
国
経済
環境
ガバナンス
インフラ
社会
堅牢性
堅牢性
堅牢性
堅牢性
堅牢性
冗長性
冗長性
冗長性
冗長性
冗長性
臨機応変性
臨機応変性
臨機応変性
臨機応変性
臨機応変性
対応力
対応力
対応力
対応力
対応力
回復力
回復力
回復力
回復力
回復力
グローバルリスク意識調査(GRPS):弾力性に関する質問
出典:World Economic Forum
GRPSxxxvの回答者1,000人以上に、リスクごとに、各自が専門とする国に
ついて以下の質問をした。
図25:経済および環境リスクに適応し、回復する各国の能力xxxviii
「このリスクがご自分の国*において現実化した場合、ご自分の国に
は、その影響に適応する能力やその影響から回復する能力がどのぐら
いありますか?」
ブラジル
ドイツ
(*「ご自分の国」とは、回答者情報ページにおいて選択した国を指します)。
Section 4
この質問により、グローバルリスクの影響に適応する、あるいはその影
響から回復する国の能力に関する回答者の意識を把握することが可
能になる。調査では、グローバルリスクの5つの分類(経済、環境、地政
学、社会、テクノロジー)全てについて、回答者にこの能力を評価しても
らう。ここでは、経済的なグローバルリスクが国の経済サブシステムに
大きな影響を与え、環境に関するグローバルリスクが国の環境サブシ
ステムに大きな影響を与えると仮定する(下図24を参照)xxxvi。このセ
クションでは、国のサブシステムが経済・環境に関するグローバルリス
クによって引き起こされた危機の後でどのように回復すると予想され
るかを分析することに重点を置く。
インド
イタリア
日本
中華民国
ロシア連邦
スイス
英国
米国
Section 5
1
改訂後のGRPSから収集したデータから、ブラジル、中国、ドイツ、イン
ド、イタリア、日本、スイス、ロシア、英国、米国の計10カ国について、分
析に十分な回答が得られた27, xxxvii。図25は、経済リスクと環境リスクそ
れぞれについて、リスクから回復し、適応する各国の能力を示してい
る。
1.5
2
2.5
3
3.5
4
4.5
国の回復/適応
経済リスクに対する国の平均回復力
環境リスクに対する国の平均回復力
許容誤差
出典:World Economic Forum
Section 6
経済・環境のグローバルリスクに対する適応力と回復力が最も高いと
みなされたのは、スイスであった。イタリアとインドは両方とも比較的
低評価であった。日本は、環境リスクに対する適応力と回復力に関し
てはスイスに匹敵するとみなされたが、経済リスクに関しては低かっ
た。これは、日本の経済状況と景気後退リスクをめぐる失望感を反映
していると考えられる。
GRPSの質問は、提案されている弾力性の枠組みの「対応力」要素に関
する一つの指標である。つまり、回答者が特定の種類のグローバルリ
スクに適応し、回復する国の能力をどのように見ているかを表わす。国
家の弾力性に関する枠組みの構築において分析を進めることで、弾力
性を構築するためにより多くの投資とリソースを必要とする領域が明ら
かにされるだろう。
xxxiii
xxxiv
xxxv
xxxvi
xxxvii
40
国とは、回答者が専門とする国をいう。
統計データは、オープンソースのデータベースやその他の指数から入手したものも含む。定
性的・定量的指標の候補に関する詳細は、付録3を参照。
年次グローバルリスク報告書は、主にグローバルリスク意識調査からのデータに基づいて作
成されている。http://www.weforum.org/reports/global-risks-2012-seventh-edition
1種類のリスクが、そのリスクが当初出現したサブシステムだけでなく、国の複数またはすべ
てのサブシステムにどのように影響しうるかについて今後、さらなる取り組みを通じて明らか
にする予定である。
これらの国は、計算された許容誤差が0.5単位未満であった。これらの国とその他の国の標
本サイズと許容誤差について詳しくは、付録3を参照。
Global Risks 2013
xxxviii
図中の誤差を示す棒線は、分類ごとの各国の許容誤差(95%信頼性水準における)を示す。
Section 1
エグゼクティブ・オピニオン調査:リスクマネジメントの有効性に関す
る質問
図27:政府のリスクマネジメントの有効性と国の全体的な競争力
に関するスコア
xxxix
エグゼクティブ・オピニオン調査(EOS)
の回答者1万4,000人以上
に、次の質問をおこなった。
南米
ドイツ
英国
北米
4.8
アジア
政府のリスクマネジメントの有効性
4.6
米国
中国
4.4
インド
4.2
スイス
イタリア
ブラジル
4
3.8
日本
ロシア連邦
3.6
3.4
3.4
3.6
3.8
4
4.2
4.4
4.6
4.8
5
5.2
5.4
5.6
5.8
Section 3
調査28の結果、危機に際して有効かつ効率的に対応する能力は、5つの
サブシステムすべてにわたる優れたリスクマネジメントと関連している
ことが判明している。EOSの上記の質問は、政府のリスクマネジメント
の有効性に関する企業経営者の認識を把握するものであった。した
がって、この分析では、図26に示すように、ガバナンス・サブシステムと
弾力性の「対応力」部分に焦点を当てる。
欧州
5
Section 2
「あなたの国の政府が主要なグローバルリスク(金融危機、自然災
害、気候変動、パンデミック等)のモニタリング、それに対する準備、対
応、緩和のために実施している全体的なリスクマネジメントの有効性
をどのように評価されますか?」
(1=主要なグローバルリスクが効果
的に管理されていない、7=主要なグローバルリスクが効果的に管理さ
れている)
5.2
6
グローバル競争力指数のスコア
出典:World Economic Forum
図26:政府のリスクマネジメントの有効性は、ガバナンス・サブシ
ステムの「対応力」要素を左右する変数になりうる
国
環境
ガバナンス
インフラ
社会
堅牢性
堅牢性
堅牢性
堅牢性
堅牢性
冗長性
冗長性
冗長性
冗長性
冗長性
臨機応変性
臨機応変性
臨機応変性
臨機応変性
臨機応変性
対応力
対応力
対応力
対応力
対応力
回復力
回復力
回復力
回復力
回復力
-- 政治家の統治能力
Section 4
経済
分析を進めたところ、リスクマネジメントと関連していると思われる他
の指標が明らかになった。これらについてはさらなる精査が必要とな
る。相関分析から、政府のリスクマネジメントの有効性とEOSの以下の
7つの指標との間にゆるやかな関係があることが分かったxli(詳細は、
付録3に掲載)。
-- 政財界の関係
-- 改革の実施効率
-- 政治家に対する国民の信頼
-- 政府支出の無駄の多さ
最も関連性の高い質問は、直感的に予想されると思われる。7つの指
標のうち、最も相関性のある質問は、リーダーシップに関する質問、す
なわち政治家の統治能力である。これは、
『グローバルリスク報告書
2012年版』の特集「東日本大震災」で、国レベルのリスクマネジメント
におけるリーダーシップの教訓で確たるものとなった。また、
「カント
リー・リスク・オフィサー」を創設すべきという『グローバルリスク報告
書2007年版』の提言も裏打ちしているxlii。
上記で明らかにされたその他の興味深い関係は、政財界の関係と企
業業績の向上のための政府のサービス提供である。これらの関係につ
いてはさらなる分析が必要だが、モニタリングとリスクへの準備を強化
するための効果的な情報共有能力を示していると考えられる。また、
政府の無駄遣い、改革プロセスの効率性と腐敗を評価することによっ
て、有効なリスクマネジメントは透明性と適応性が高いという結論を導
き出せる可能性がある。
このサブセクションの分析は、国家の弾力性評価の確立に向けた我々
の今後の取り組みを初めて紹介するものである。また、GRPSとEOSの
質問から、弾力性を構成する各要素の指標をどうあぶり出していくか
を理解するための第一歩でもあり、2013年夏の中間報告書の定量的
データによってさらに補完する予定である。
xli
xxxix
エグゼクティブ・オピニオン調査は、CEOと経営幹部を対象に実施されており、年次グローバ
ル競争力報告書とグローバル競争力指数、持続可能な競争力に関する研究は、主にこの調査
のデータに基づいている。 http://www.weforum.org/issues/global-competitiveness
xl
これらの国の標本サイズは十分な規模だった。
xlii
分析の結果、エグゼクティブ・オピニオン調査のほとんどの質問(リスクマネジメントに関す
る質問以外)の間に強い関係があることが分かっている。
企業の世界における最高リスク責任者に類似する「カントリー・リスク・オフィサー」は、さま
ざまな利害関係を横断してリスクのポートフォリオを管理するための中心的存在となって、
国にとってのリスクの優先順位付けを行い、政府が単にグローバルリスクに対処するだけで
なく、グローバルリスクの管理を開始するために必要な将来の活動に取り組めるようにす
る。
Global Risks 2013
41
Section 6
図27は、政府のリスクマネジメントの有効性とその国の全体的な競争
力との間につながりが存在する可能性を示している。図に表示される
ように、リスクマネジメントの有効性の高い国は、競争力の点でもスコ
アが高く、リスクマネジメントの有効性の低い国は、競争力の点でもス
コアが低いように思われる(日本を除く)。グローバルリスク調査から
抽出した10カ国 xlについてEOSの質問をさらに分析すると、財界リー
ダーの間で、リスクマネジメントの有効性が比較的高いと認識されてい
るのはドイツ、スイス、英国の政府であることが分かる。GRPSの結果
ではインドとイタリアのスコアが低かったものの、EOSの回答に基づく
と、リスクマネジメントの有効性が最も低いとみなされていたのはロシ
アだった。それに加えて、図25では、日本は環境リスクから回復する能
力が高いとみなされていたが、政府のリスクマネジメントの有効性に
ついては、他国に比べて評価が低かった。
-- 企業業績の向上のための政府のサービス提供
Section 5
出典:World Economic Forum
-- 腐敗と贈収賄の撲滅対策
Section 1
国家の弾力性評価に向けた次のステップ
Section 2
『グローバルリスク報告書』は早くも2007年に、
「カントリー・リスク・
オフィサー」の創設を提言していた。本特集で提案している国家の弾
力性評価は、カントリー・リスク・オフィサーやその他の意思決定者
が、国の弾力性の水準を一定の基準に従って評価・監視し、弾力性と
他の目標との間でどのようなバランスを取る必要があるかを理解し、さ
らなる投資を必要とする領域を特定することを可能にする。
国家の弾力性評価は、たとえば、意思決定者がサプライチェーンにお
ける弾力性について考える上でも役に立つだろうxliii。世界経済フォーラ
ムの「サプライチェーンにおけるダイナミックな弾力性」プロジェクトに
よれば、この問題は、最近の大規模なサプライチェーンの途絶を受け
て政治課題や経営課題の上位に浮上しつつあるものの、信頼できる
データが欠如しているために弾力性への投資に消極的な傾向が残って
いるという(コラム5を参照)。
Section 3
また、弾力性を構築するためにリーダーが取れる実際の行動に関する
知識も不足している。この不足に対処するために、リスク・レスポンス・
ネットワークは、最新のソーシャルネットワーク技術を利用して、効果
的な実践に関する知識をオンラインで蓄積し、共有する「レジリエンス
・
プラクティス・エクスチェンジ(Resilience Practices Exchange)」を立
ち上げた(コラム6を参照)。
Section 4
全体的な見通しとしては、リスク・レスポンス・ネットワークの目標はス
テークホルダーのグループの垣根を越えてリスクと弾力性に対する意
識の文化を醸成し、国際社会における共通のディスカッションの枠組
みを構築することである。国家の弾力性の測定方法に関するご意見を
http://www.weforum.org/globalrisks2013 または [email protected]
までお寄せいただければ幸いである。
コラム5:サプライチェーン・リスク・イニシアティブ
世界経済フォーラムが2011年5月に立ち上げたサプライチェーン・リス
ク・イニシアティブ(SCRI)は、グローバルなサプライチェーンを守るた
めのより優れたリスクベースのアプローチの必要性に対処する取り組
みである。2012年には、
『サプライチェーンおよび輸送リスクに対処す
るための新モデル』という報告書を発表した。米国国土安全保障省の
ジャネット・ナポリターノ長官も、ダボス・クロスターにおける2012年年
次総会の席で「グローバル・サプライチェーン・セキュリティのための米
国国家戦略」を打ち出すことによって、世界的な対話の強化を呼びか
けた。
取り組みのフェーズ1では、優先順位と実行に関する提言について合意
を取り付ける(下表は、必要な改善と将来の重要性に基づいて、調査
回答者が順位を付けたリスクマネジメントの優先順位を示している)。
1. 弾力性の基準とプログラムに関する各国間および各機関間の整合
性を向上させる
2. サプライチェーンおよび輸送リスクを調達、経営およびガバナンスの
プロセスの一環として、より明確に評価する
3. リスクマネジメントに焦点を当てた、サプライヤー、顧客、競合他
社、政府の信頼できるネットワークを構築する
4. 双方向の情報共有と標準化されたリスク評価および定量化ツール
の共同開発を通じて、ネットワークリスクの可視性を向上させる
5. システミックな混乱に関する問題発生前と問題発生後の情報伝達
を向上させ、世間の議論をよりバランスの取れたものにするために
セキュリティと便宜のバランスを調整する
サプライチェーン・リスク・イニシアチブのフェーズ2 xlviでは、アジア、欧
州、北米全域で地域的ワークショップを実施し、以下の目的のために
各国政府と各種業界からサプライチェーンとリスクの専門家を招集し
た。
-- リスクと脅威の展望について共通の理解を深める
-- 弾力性の高いグローバル・サプライチェーンのための詳細な計画作
りに取り組む
Section 5
-- サプライチェーン全体にわたり透明性を向上させる
フェーズ2では、フェーズ1において特定された脆弱性(たとえば、石油
依存や脆弱な情報フロー)を取り上げ、弾力性を構築するための共通
の取り組みに焦点を当てた。リスク評価は弾力性とは切っても切り離
せない関係にあり、政府と組織の戦略に影響を及ぼすことから、弾力
性に重点が置かれている。フォーラムでは、政府や企業間の情報共有
の向上、法的基準の調和、弾力性の高いサプライチェーンを構築する
ための共通のリスク評価の枠組みの策定などの措置が挙げられた。
Section 6
リスク評価の枠組みの策定は、サプライチェーンの適応性を高めて弾
力性を構築するために不可欠である。その中心的な構成要素は、サプ
ライチェーン全体にわたる可視性の向上のためのデータと情報共有で
ある。
xliii
xliv
42
「サプライチェーンにおけるダイナミックな回復力」プロジェクトにおける世界経済フォーラ
ムの研究成果は、複数の作業定義を提供しており、その中には、中核的機能を再編して継続
的に提供する能力、大規模な混乱から立ち直る能力、集団による同時的取り組みを通じて
キャパシティを開発する能力に関連する概念が含まれている。
詳細については、
「レジリエンス・プラクティス・エクスチェンジ」のコラムを参照のこと。
Global Risks 2013
xlv
詳細は、[email protected] まで。
Section 1
コラム6:レジリエンス・プラクティス・エクスチ コラム7:弾力性のための実践の1年
ェンジ(RPE)
2012年のリスクケースに見る、弾力性を向上させるための実践
意見交換
投稿
実践
ディスカッション
評価
実践
検討
イノベーション
出典: World Economic Forum
- 相互接続性の負の側面:ハイパー接続の進む世界においては、成功
と失敗の影響は、大きく増幅されやすい。サイバー空間の弾力性は、
サイバーセキュリティを組織の取締役会レベルの問題として扱うこ
と、政府と民間企業が信頼できる空間で情報を共有し、サイバー攻
撃による緊急事態において各国政府が協力する仕組みを作ること、
不可避の人為ミスをできる限り防ぐ手段を組み込んだ機器およびシ
ステムを設計することによって強化することができる。
上記ケースについての詳細な回答は、http://www.weforum.org/
globalrisks2013/followup2012を参照のこと。
Section 5
このイニシアティブの目的は、提案された実践についてコミュニティ内
で議論を行った後、評価とイノベーションのプロセスを通すことで、そ
の実践をさらに改良するプロセスを開発することにある。このプロセ
スは、オンライン上での意見交換に限らない。実際の会議や仮想会
議、ワークショップその他形式でフォーラムのリスク・レスポンス・ネッ
トワークが関与することもある。
- 不完全なセーフガード:国境を超えるリスクに対する管轄区域ごと
のセーフガードは、相互依存性の高い、変動の激しい環境において
はすぐに時代遅れになる可能性がある。弾力性を向上させる実践方
法は、金融システムの安定性と流行性インフルエンザという全く異
なる2つの領域に共通するテーマを探すことによって見つけること
ができる。ここでクローズアップされた弾力性を高める実践方法
は、実施されているセーフガードの前提条件の見直し、セーフガード
の策定においてストレステストやシナリオプランニングなどの先見
的手法を取り入れること、インセンティブの活用、政府や他の組織
の間の国境を超えた協力の推進などである。
Section 4
図28 :レジリエンス・プラクティス・エクスチェンジのプロセス
- ディストピアの種(ユーラシアグループとのさらなる協力による)
:財
政、高齢化、雇用の各トレンドが組み合わさって新たなタイプの脆弱
化した国家が出現する脅威が存在する中、現代的で持続可能な社
会的契約を作り上げるために、民間セクター、市民社会、地方・中央
政府、そして多国間国際機関が一致協力する必要がある。ここでク
ローズアップされた弾力性のための実践は、全体的な洞察に基づく
解決策に複数のステークホルダーを関与させること、種々のトレンド
を継続的にモニタリングして仮定の見直しを可能にすること、移民
に対する開放的で受容的な姿勢の促進、革新的な財政モデルの採
用などである。
Section 3
インタラクティブな形でアイデアを集積できるオンラインプラットフォー
ムを提供することで、RPEは、組織、産業、国の中で、経済、環境、地政
学、社会、テクノロジーの各領域を越えて、グローバルリスクに対する
弾力性を向上させることを目標としている。デジタルプラットフォーム
により、多種多様な有識者のコミュニティがさらなる意見交換や評価、
イノベーションのたたき台として既存の実践を投稿し、議論を重ねて、
検討することが可能になる。
(図28)
世界経済フォーラムのリスク・レスポンス・ネットワークは、PwCと協力
して、
『グローバルリスク報告書2012年版』で取り上げた3つのリスク
ケース―ディストピア(逆理想郷)の種、不完全なセーフガード、相互接
続性の負の側面―を改めて検討し、それぞれのケースにおいて明らか
にされたリスクに対する弾力性を向上させるための実践を、我々のイン
タラクティブ型ウェブサイトから集めて分析した。
Section 2
レジリエンス・プラクティス・エクスチェンジ(RPE)は、グローバルリスク
に対する国と組織の弾力性を向上させる見識やアイデアを共有するた
めの世界経済フォーラムのイニシアティブである。
RPEは、セキュリティ保護されたプラットフォームであり、現在フォーラ
ムのリスク・レスポンス・ネットワークとグローバル・アジェンダ・カウン
シル・ネットワークのメンバーのみがアクセスできる。RPEは、世界経済
フォーラムのセキュリティ保護された信頼できるオンライン・プラット
フォームを通じてアクセスできるxlvi。
Section 6
弾力性構築の実践例
- G20による国際的な金融安定理事会(FSB)の設立:国境や組織を
超えて金融サービス規制当局と国際基準設定機関のまとめ役とな
る規制機関を設立する。
- インドネシア、アチェ地方を襲った2004年の津波へのインドネシア
政府の対応:2004年のインド洋地震津波災害の後、インドネシア政
府は、アチェ地方の救援活動を効果的に主導する実際的な地域
ベースの政府機関を設立した。
- サイバーリスク情報共有のための政府間パートナーシップ:サイバー
リスクに対して確かな情報に基づく国際的対応を可能にするため、
各国政府は、他国の政府や機関、企業を含む国際パートナーと情報
を共有する機関を設立している。
詳細については [email protected]まで。
xlvi
このイニシアティブのフェーズ2に関する報告書「サプライチェーンにおけるダイナミックな回
復力」は、ダボス・クロスターで開催される2013年1月の年次総会で発表される予定である。
イニシアティブのこのフェーズについて詳しくは、http://www.weforum.org/issues/supplychain-riskを参照。
Global Risks 2013
43
Section 1
参考文献
Section 2
Section 3
1.
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2.
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Bruneau, M., Chang, S. E., Eguchi, R. T., et al. A Framework to Quantitatively Assess and Enhance
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Section 4
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Bruneau, M., Chang, S. E., Eguchi, R. T., et al. A Framework to Quantitatively Assess and Enhance
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20. Bruneau, M., Chang, S. E., Eguchi, R. T., et al. A Framework to Quantitatively Assess and Enhance
the Seismic Resilience of Communities. In Earthquake Spectra, 2003, 19:733.
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22. Swanson, D., Barg, S., Tyler, S., et al. Seven Guidelines for Policy-Making in an Uncertain World.
Section 5
In Creating Adaptive Policies: a Guide for Policy-Making in an Uncertain World, Swanson D. and
Bhadwal S., (eds). 2009, Sage: London; Kickbusch, I. & Gleicher, D. “Governance for Health in the
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Section 6
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Catastrophes: Strategies for Reaction and Response. New Jersey: Pearson Education, Inc, 2010.
44
Global Risks 2013
Section 1
調査結果
Section 2
それでも、一部のリスク、特に重要システムの故障などのテクノロジー
リスクの場合、回答が他のリスク、たとえば長期間にわたる財政不均衡
に比べて分散しているのは興味深い。前者については専門家の間でそ
れほど意見が一致しておらず、後者については意見がより一致してい
るように見受けられる。
xlvii
標本に関する詳細な説明は、付録1を参照。
Global Risks 2013
45
Section 6
この結果は、平均値だけではなく、各リスクに対する個別の回答にも該
当する。図30の色付きのマスは、50のリスクそれぞれについて回答が
散布図の中でどのように分布しているかを示している。45度の線から
外れていた回答もいくつかあったが、調査回答者によって選択される
回数が最も多かった影響と発生の可能性の組み合わせ(色の濃いマス
によって示される)は、50の図のほぼ全てにおいて、この対角線の近く
に位置しているように見える。
Section 5
過去のグローバルリスク報告書において観察されたように、発生の可
能性と影響の間には強い関係が存在する。点は、45度の直線の周辺に
ゆるやかに並んでいるように見える。また、図の右下や左上の隅に位
置している点はない。調査回答者は、発生の可能性の高い事象と影響
の大きさを関連させていると思われる。
Section 4
しかしながら、グローバルリスクの展望における点の位置に関しては興
味深い差異がいくつかある。大規模でシステミックな金融破綻や長期
間にわたる財政不均衡、極端な所得格差などの一部の経済リスクは、
右上隅に分布し、影響と発生の可能性のスコアが4前後(5段階評価
で、平均評価としては高い)となっている。テクノロジーリスクに関して
は、軸の中央に近くに位置し、影響と発生の可能性のスコアは3以下で
ある。
Section 3
このセクションでは、年次グローバルリスク意 リスクの展望
識調査の結果を詳細に示す。調査結果は、世 回答者には、50のグローバルリスクそれぞれについて、そのリスクが今
界経済フォーラムの関係コミュニティからの 後10年間に発生する可能性と発生した場合の影響について5段階で評
価するように求めた。
有識者1,000人以上の見解をまとめたものであ
図29は、各分類における50のグローバルリスクそれぞれに対するこれ
る。回答者の年齢層は19歳から79歳までと幅 ら2つの尺度の平均値を示している(50のグローバルリスクを一つの
統合されたグラフとして示している図2「2013年のグローバルリスクの
広く、また回答者はそれぞれに、様々な種類の 展望」の散布図も参照)。散布図上のほぼすべての点が、1から5まで
機関に所属し、異なる分野を専門としている。 の軸の中間点の右上部(3以上の領域)に位置しており、50のグローバ
ルリスクの大半が平均して、発生の可能性が高く影響が大きいと評価
されたことを示している。
回答者の出身国は100カ国以上を数えるxlvii。
Section 1
図29:グローバルリスクの展望に挙げられたリスクの分類と説明
経済
経済
5
4
Section 2
1
3
5
4
4
リスクが発生した場合の影響
リスクが発生した場合の影響
リスクが発生した場合の影響
10
9
6
9
6
8
2
7
3.5
4
1
3
10
3.5
経済
4
5
3
8
2
Section 3
7
10
4
2.5
3
環境
6
2.5
3
今後10年間の発生の可能性
リスクが発生した場合の影響
リスクが発生した場合の影響
リスクが発生した場合の影響
Section 4
3.5
4
長期間にわたりインフラ・ネットワークへの投資が不足し、イン
フラを十分に強化・確保することができない
7
流動性危機の頻発
銀行や資本市場からの資金調達不足が繰り返し起こる
8
極端な所得格差
富裕層と最貧困層の格差が拡大する
9
規制の予期せぬ悪影響
規制が所期の効果を達成できず、むしろ産業構造、資本の流
れ、市場の競争に悪影響を及ぼす
3
修正不能な汚染
大気、水、土地が、生態系、社会の安定、健康、経済的発展を脅
かすほどの規模で恒久的に汚染される
4
土地・水路管理の失敗
森林伐採、分水、採鉱その他の環境を変えるプロジェクトが生
態系と関連産業に壊滅的な影響を与える
5
都市化の管理の失敗
不十分な都市計画、都市のスプロール現象(郊外に宅地が無
秩序・無計画に広がってゆく現象)、および関連するインフラが
環境悪化の要因を増幅させ、農民の離村に効果的に対処でき
ない
6
長引く異常気象
リスク地域における建物の密集、都市化または異常気象の発
生頻度の増大と関連して被害が増大する
6
7
温室効果ガス排出量の
増大
政府、企業、消費者が温室効果ガス排出量を減少させて二酸化
炭素吸収量を増大させることができない
5
8
生物種の乱獲
種の絶滅または生態系の崩壊による生物多様性の不可逆的喪
失の恐れがある
9
前例のない地球物理的
破壊
既存の予防対策では対応できないほどの前例のない規模また
は予想を超える頻度で、地震や火山活動などの地球物理的災
害が発生する
10 磁気嵐に対する脆弱性
巨大な太陽フレアの影響で重要な通信・ナビゲーションシステ
ムの機能が停止する
4
62
4
1
8
7
56
4
5
8
9
長期にわたる
インフラ整備不足
政府・企業が人々を守り、気候変動によって影響される事業の移
行を図るための実効性のある対策を施行または実行できない
7
3.5
10
3
6
人を死に至らしめる細菌の抗生物質耐性が増大する
2
1
大規模でシステミックな金 システム上重要な金融機関または通貨制度が崩壊し、世界の
融破綻
金融システム全体に影響を及ぼす
気候変動への適応の失敗
2.5
3
5
2
7
10
3
3
3.5
Section 5
2.5
4
1
8
9
2.5
3
今後10年間の発生の可能性
10
2.5
3
地政学
2.5
3
今後10年間の発生の可能性
3.5
4
3.5
4
地政学
4
2
2.5
3.5
リスクが発生した場合の影響
リスクが発生した場合の影響
リスクが発生した場合の影響
8
1
6
2
1
10
5
4
8
2.5
3
今後10年間の発生の可能性
6
2.5
3
今後10年間の発生の可能性
3.53
4
10
3.5
4
社会
4
10
2.5
3
4 2.5
今後10年間の発生の可能性
9
3.5
8
Global Risks 2013
3.5
4
19
2
6
10
4
6
4
2
3.5
社会
7
7
1
脆弱化した重要国家
経済的・地政学的重要性の高い国家が弱体化し崩壊の可能性が
高まる
2
大量破壊兵器の拡散
核、化学、生物、放射線技術・物質の利用可能性が危機をもたらす
3
根強い犯罪組織
高度に組織化され、統制された根深い国際的ネットワークによ
る犯罪が横行する
4
外交による紛争解決の
失敗
国際的紛争が武力紛争へとエスカレートする
5
グローバル・ガバナンス
の破綻
脆弱または不適当な世界機関、協定またはネットワークが競合す
る国益や政治的利害関係と相まって、
グローバルリスクへの対応
の協力態勢を阻害する
6
宇宙の軍事化
防衛戦略の中核として商用、民間、軍用の宇宙資産および関連す
る地上システムが標的にされる
7
不正行為の蔓延
委任された権限を私利私欲のために濫用する行為がはびこる
8
テロリズム
個人または非国家グループが大規模な人的または物的損害を
与えることに成功する
9
一方的な資源の国有化
国家による一方的な主要商品の輸出禁止、埋蔵資源の備蓄、自
然資源の収用の動きが見られる
7
10
2.5
7
7
10
3
3
3.5
4
8
3
10
6
46
5
4
10
3
2.5
3
社会
5
4
1
3.5
地政学
の影響
Section 6
3
4 2.5
今後10年間の発生の可能性
2
3.5
4
重要な新興経済国の成長が突然鈍化する
抗生物質耐性菌
4
4
9
新興経済の
ハードランディング
2
3.5
3.5
環境
4
1
4
3
エネルギー・農産物価格の 急激な価格変動は必要な商品を消費者の手の届かないものに
急激な変動
し、成長を鈍化させ、市民の抗議行動を誘発し、地政学的緊張
を高める
価格・賃金と比較した金銭価値の極端な上昇または下落を是
正できない
3.5
環境
3
4 2.5
今後10年間の発生の可能性
3
特に若者の間での技能格差の拡大と高い不完全雇用率が重な
り、循環的というより構造的な高い失業率が長期にわたり継続
する
10 制御できないインフレ/
デフレ
2.5
2.5
3
9
今後10年間の発生の可能性
長期間にわたる労働市場
の不均衡
1
3
3
3.5
長期間にわたる財政不均衡 政府の債務超過が是正されない
2
8
2
7
1
8
5
10
10 不正取引の蔓延
4
世界経済全体を通じた人とモノの不正取引の拡大に歯止めが
かからなくなる
リスクが発生した場合の影
リスクが
2.5
3
10
2.5
3
今後10年間の発生の可能性
3.5
4
社会
2.5
4
2.5
3
今後10年間の発生の可能性
3.5
10
6
3.5
4
5
2
8
9
3
3.5
6
3
7
1
グローバル化に対する
反動
国境を越えた労働力、モノ、資本の移動性の増大に対する抵抗
が強まる
2
食糧不足危機
適切な量と質の食料・栄養を十分にまたは安定して入手すること
ができない
3
実効性のない麻薬政策
違法な薬物使用を減らすどころか犯罪組織を勢いづけ、薬物使
用者を白眼視し、公的資源を浪費する政策が支持され続ける
4
高齢化への対応の失敗
高齢化に関連する費用と社会的課題の増大に対処できない
5
慢性疾患率の上昇
疾病がもたらす負担と長期的な治療費の増大が、平均余命と生
活の質に関する近年の社会的進歩を脅かす
6
宗教的狂信主義の台頭
社会の分裂を招き、地域的緊張を増幅させるような強硬な宗教
思想が台頭する
7
統制されない移住
資源不足、環境悪化、および機会、安全、社会的安定の欠如が引
き金となって大規模な集団移動が生じる
8
持続不可能な人口増加
人口規模とその増加率が資源、公的機関、社会の安定に、ますま
す強い圧力を加える
9
パンデミックに対する
脆弱性
疾病監視システムが不十分であり、国際協調が失敗に終わり、ワ
クチン生産能力が不足する
10
7
1
4
1
4
5
3.5
4
3.5
4
10 水供給危機
食糧・エネルギー生産などの資源集約型システムの間の競争の
激化と相まって、真水の質と量が低下する
1
重要システムの故障
システムの単一点の脆弱性が重要情報インフラとネットワーク
の連鎖的故障を引き起こす
2
サイバー攻撃
国家の後援を受けた、
または国家と関連した犯罪者やテロリスト
によるサイバー攻撃が相次いで行われる
3
知的財産管理体制の
不備
イノベーションや投資を促す効果的システムとしての知的財産
保護制度が損失する
4
誤った電子情報の大々的
な流布
意図的に扇動するような情報や誤解を招く情報、不完全な情報
が急速かつ広範に広がり、危険な影響をもたらす
5
大規模なデータの不正利 個人情報が前例のない規模で犯罪利用、
または、不正利用される
用/窃盗
6
鉱物資源供給の脆弱性
産業の希少鉱物に対する依存度が増大する
(新たな供給源からの
資源採掘から市場までの長いリードタイムを伴う)
7
宇宙ゴミの拡散
人工衛星が密集している地球の周回軌道上に急速に蓄積しつ
つある宇宙ゴミが重要な衛星インフラを危険にさらす
8
気候変動対策の意図せ
ぬ影響
地球工学または再生可能エネルギー開発への取り組みが新た
に複雑な課題をもたらす
9
ナノテクノロジーの意図
せぬ影響
原子・分子レベルの物質の操作がナノ材料の毒性に対する懸念
を生じさせる
テクノロジー
Section 3
3
2.5
3
今後10年間の発生の可能性
Section 2
8
9
リスクが発生した場合の影響
リスクが発生した場合の影響
4
2
社会
2.5
3
Section 1
3
6
2.5
4
2.5
3
今後10年間の発生の可能性
テクノロジー
1
2.5
3
8
5
4
9
1
3
7 10
8
5
4
9
2
6
3
2.5
3
今後10年間の発生の可能性
7
3.5
4
2.5
2.5
3
今後10年間の発生の可能性
3.5
4
Section 5
リスクが発生した場合の影響
リスクが発生した場合の影響
10
3
3.5
2
6
Section 4
3.5
4
10 新たな生命科学技術の意 遺伝学および合成生物学の進歩が意図せぬ影響や事故を引き
図せぬ影響
起こす、
または武器として利用される
注:この散布図は全ての回答から水平軸と垂直軸それぞれで測定する50のグローバルリスクの発生の可能性と影響の平均値を示している。
Section 6
Global Risks 2013
47
Section 1
図30:調査回答の分布
経済
環境
地政学
社会
テクノロジー
長期間にわたる
労働市場の不均衡
抗生物質耐性菌
気候変動への
適応の失敗
脆弱化した
重要国家
大量破壊兵器
の拡散
グローバル化に
対する反動
食糧不足危機
重要システム
の故障
サイバー攻撃
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
2
2
2
2
2
2
2
2
2
1
1
1
1
1
1
1
1
影響
Section 2
長期間にわたる
財政不均衡
発生の可能性 3
4
1
5
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
1
5
2
3
4
1
5
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
1
2
3
4
5
1
2
3
4
Section 3
エネルギー・
農産物価格の
急激な変動
新興経済の
修復不能な汚染
ハードランディング
土地・水路管理
の失敗
根強い犯罪組織
外交による
紛争解決の失敗
実効性のない
麻薬政策
高齢化への
対応の失敗
知的財産管理体制
の不備
誤った電子情報
の大々的な流布
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
2
2
2
2
2
2
2
2
2
1
1
1
2
3
4
1
1
5
2
3
4
1
1
5
2
3
4
1
1
5
2
3
4
5
1
1
1
2
3
4
5
1
2
3
4
1
1
5
2
3
4
2
1
1
5
2
3
4
5
1
1
2
3
4
5
1
2
3
4
大規模で
システミックな
金融破綻
長期にわたる
インフラ整備不足
都市化の管理
の失敗
長引く異常気象
グローバル・
ガバナンスの破綻
宇宙の軍事化
慢性疾患率の上昇
宗教的狂信主義
の台頭
大規模なデータ
の不正利用/窃盗
鉱物資源供給
の脆弱性
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
2
3
4
1
5
2
3
4
1
5
2
3
4
1
5
2
3
4
5
1
2
3
4
1
5
2
3
4
1
5
2
3
4
1
5
2
3
4
5
5
5
1
1
2
3
4
1
5
2
3
4
5
Section 4
流動性危機
の頻発
極端な所得格差
温室効果ガス
排出量の増大
生物種の乱獲
不正行為の蔓延
テロリズム
統制されない移住
持続不可能な
人口増加
宇宙ゴミの拡散
気候変動緩和対策
の予期せぬ影響
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
2
3
4
1
5
2
3
4
1
5
2
3
4
1
5
2
3
4
5
1
2
3
4
1
5
2
3
4
1
5
2
3
4
1
5
2
3
4
5
1
1
2
3
4
5
1
2
3
4
Section 5
規制の
予期せぬ悪影響
制御できない
インフレ/デフレ
前例のない
地球物理的破壊
磁気嵐に対する
脆弱性
一方的な資源
の国有化
不正取引の蔓延
パンデミックに
対する脆弱性
水供給危機
ナノテクノロジー
の予期せぬ影響
新たな生命科学
技術の予期せぬ
影響
5
5
5
5
5
5
5
5
5
5
4
4
4
4
4
4
4
4
4
4
3
3
3
3
3
3
3
3
3
3
2
2
2
2
2
2
2
2
2
2
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
5
1
1
2
3
4
5
1
2
3
4
5
注:上記の図は、個々の調査回答がグラフの縦軸・横軸上で、発生可能性と影響それぞれの測定スコアのありうる組み合わせにわたってどのように分布しているかを示している。マスの色が濃いほど、その
特定の組み合わせが調査に参加した専門家によって選ばれた回数が多かったことになる。
出典:World Economic Forum
前年との比較
Section 6
個々の点には若干変動があるものの、リスクの展望におけるリスクの
全体的な分布は、前年の散布図と類似している(図1を参照)。このこ
とは驚くにはあたらないかもしれない。意外なのは、今年の回答者が
前年の調査の回答者よりも、リスクの発生の可能性がより高く、その影
響がより大きいと見ていることである。前年と比べると、発生の可能性
の平均スコアは、0.15単位(5段階評価で)高く、影響の平均スコアは
0.13単位高かった。
影響の増大の一部(差異のおよそ4分の1)は、調査標本の平均年齢が
下がり、以下に示すように、年齢が若いほどリスクの影響を評価する際
に、高いスコアをつける傾向があることによって説明できる。しかし、
標本の年齢とその他の異なる特性を加味して調整しても、多くのリスク
に関して、予測される発生の可能性と影響が増大している。
48
Global Risks 2013
発生の可能性と影響のスコアの両方が著しく上昇した、特に興味深い
ケースは以下の通りである。
-- テクノロジーリスク:新たな生命科学技術の予期せぬ影響、気候変
動緩和対策の予期せぬ影響
-- 経済リスク:規制の予期せぬ悪影響、新興経済のハードランディング、
長期間にわたる労働市場の不均衡
-- 世界的な人口構造の不均衡の両面:持続不可能な人口増加、高齢
化への対応の失敗
-- 地政学的リスク:一方的な資源の国有化
平均スコアが前年から低下したリスクは、ごく少数だった。発生の可能
性については、流動性危機の頻発、地磁気嵐に対する脆弱性、宇宙ゴミ
の拡散がこれに相当する。影響の点で統計的に有意な減少が見られた
唯一のリスクは、食糧不足危機であった。
Section 1
所属機関別
調査回答者には、個人的なバックグラウンド、すなわち年齢、性別、居
住地、所属機関の種類、専門分野について尋ねた。この属性データを
利用し、リスクの展望を色々な方法で切り分けて、特性を持つさまざま
なグループがグローバルリスクをどのように認識しているかを調べた。
同様に、さまざまな分野の機関で働く人々の認識がどのように異なっ
ているかを調べることも可能である。今年は、前年ほど違いが目立た
ない。しかし、一つ目を引くのは、多くのリスクについてNGOで働く人々
の方が他の機関で働く人々に比べて高いスコアをつける傾向があると
いうことである。特に、NGOに所属する人々は多くのリスクについて、
政府セクターの回答者よりも発生の可能性が高いと見ており、財界の
回答者よりも影響に高いスコアをつけている(詳細な結果は、付録2を
参照)。
4
4
3.5
3.5
3
3
発生の可能性 3
3
3
4
4.5
発生の可能性 3
ラテンアメリカ
3.5
4
4
4
3.5
3.5
3
3
4
4
3.5
3.5
3
3
発生の可能性 3
3.5
4
4.5
影響
影響
発生の可能性 3
3.5
4
4
4
4
3.5
3.5
3
3
4
4
3.5
3.5
3
3
3.5
4
4.5
影響
3.5
4
4.5
発生の可能性 3
出典:World Economic Forum
影響
影響
4.5
4.5
4.5
サハラ以南のアフリカ
4.5
4
Section 6
北米
3.5
3.5
その他
4.5
発生の可能性 3
発生の可能性 3
4.5
発生の可能性 3
4.5
影響
4.5
4.5
Section 5
4.5
4.5
NGO
中東/北アフリカ
4
国際機関
4.5
4.5
3.5
影響
3.5
影響
3.5
影響
4
発生の可能性 3
4.5
Section 4
4
4
政府
欧州
4.5
3.5
影響
アジア
4.5
3.5
企業
4.5
影響
図31:居住地域別の比較
発生の可能性 3
学界
4.5
Section 3
ラテンアメリカの散布図は、同地域に居住する回答者がリスクの影響
に高いスコアをつける傾向があることを示している。たとえば、実効性
のない麻薬政策の影響を、他の地域の回答者よりも著しく大きく捉え
ている。また、アジアに居住する回答者の平均的回答は、他の地域よ
りも寄り集まる傾向があることも興味深い。
図32:所属機関別の比較
影響
たとえば、図31は、北米居住の回答者が多くのリスクについて、他の地
域の回答者よりも発生の可能性が高いと評価する傾向があることを示
している。点は散布図の右方にかなり偏って位置しており、多くのリス
クについて、他の地域とは統計的に有意な差がある。これらのリスクに
は、長期間にわたる財政不均衡、長期にわたるインフラ整備不足、温
室効果ガス排出量の増大、大量破壊兵器の拡散、サイバー攻撃が含ま
れる(詳細な結果については付録2を参照)。
発生の可能性 3
3.5
4
4.5
発生の可能性 3
3.5
4
Section 2
居住地域別
4.5
出典:World Economic Forum
Global Risks 2013
49
Section 1
年齢別
男女間の認識の差は非常に明白であり、女性の方がほとんどのリスク
の発生の可能性と影響の両方で、男性よりも高いスコアをつける傾向
があった。平均すると、女性の発生の可能性のスコアは男性よりも0.11
単位高く、影響のスコアは0.21単位の差があったxlviii。
図34は、40歳以下の回答者が41歳以上の回答者よりもほとんどのリス
クについて、その影響のスコアを高くつける傾向があることを示してい
る。41歳以上のグループの方が影響のスコアが著しく高かったリスクは
一つもない。
ほとんどの個別リスクに関して、この差異は5%水準で統計的に有意で
あった。男性の方が女性よりも発生の可能性が高いと評価したリスク
は、グローバル化に対する反動だけであった。
多くのリスクについて、若い専門家が発生の可能性についても高いスコア
を選ぶ傾向があった。しかし、41歳以上の回答者が40歳以下の回答者
よりも、今後10年間におけるリスクの発生の可能性をより高く評価して
い た 例 外 が い くつ か あ る 。長 期 に わ たるインフラ 整 備 不 足 、
気候変動への適応の失敗、温室効果ガス排出量の増大、大量破壊兵
器の拡散である。
Section 3
男性の方が全般的に女性ほどリスクについて懸念していないという全
体的な結論は、他の種類のリスクに対する認識を尋ねる他の調査にお
いて観測された結果と一致している1。この結果の理由については、文
献によって意見が一致していない。女性の方が男性よりも全般的にリ
スクを避けたがるという意見もあれば、男女とも同じようにリスクを認
識しているものの、懸念するリスクが異なるため、調査がどのリスクに
ついて尋ねているかが重要だという意見もある。どちらの意見も、専
門家の認識を参考にしてグローバルリスクを特定・評価し、最も適切
な情報に基づいて決断したいと考えるリスク管理責任者や政策立案者
にとって重要な意味合いを持つと思われる。
ハイレベルの意思決定者が、年齢別、性別で比較した場合に、グロー
バルリスクについての懸念が最も低い傾向にあるグループ、すなわち年
齢の高い男性に属していることが多いのは興味深い。
図33:性別による比較
環境
4.5
4
4
3.5
3
3
図34:年齢グループ別の比較
経済
環境
4.5
4
4
3.5
3.5
発生の可能性 3
3.5
4
発生の可能性 3
4.5
地政学
3.5
4
4.5
3
3
社会
4.5
4.5
4
4
影響
Section 5
4.5
影響
3.5
影響
Section 4
経済
4.5
性別による違いとは対照的に、精神測定学的文献には、年齢がリスク
の認識に及ぼす影響についての明確な説明がない。一部の研究では、
年齢が若いほどリスクに対する懸念が低い傾向があると結論付けて
いる2。しかし、そうした研究のほとんどは、思春期の若者を対象とし、
運転や飲酒、喫煙などの個人的なリスクに関するものである。この結
論が、30代、40代の専門家の間のグローバルリスクの認識に該当しな
いのは当然である。一方、十代の若者だけでなく全体的な年齢による
差異を調べている研究では、若者の方が一般にリスクを高く認識する
という今回の調査の結論を裏付けている3。
影響
Section 2
性別
発生の可能性 3
3.5
3
3
4
発生の可能性 3
4.5
地政学
3.5
4
4.5
3.5
4
4.5
社会
4.5
4
4
3.5
3.5
3
3
影響
4.5
発生の可能性 3
3.5
4
4.5
発生の可能性 3
3.5
4
4.5
男性回答者
影響
4.5
影響
テクノロジー
発生の可能性 3
女性回答者
4
3.5
4
4.5
発生の可能性 3
テクノロジー
4.5
41歳以上
3.5
40歳以下
4
3
3.5
影響
発生の可能性 3
3.5
4
4.5
3
出典:World Economic Forum
影響
Section 6
影響
3.5
3.5
発生の可能性 3
xlviii
3.5
標本の他の特性を加味して調整すると、差異はそれぞれ0.087単位と0.18単位となる。
出典:World Economic Forum
50
Global Risks 2013
4
4.5
Section 1
3.5
3
3
影響
影響
3.5
発生の可能性 3
3.5
4
4.5
発生の可能性 3
3.5
4
4.5
3.5
4
4.5
社会
地政学
4.5
4.5
4
4
3.5
3.5
3
3
発生の可能性 3
3.5
4
4.5
発生の可能性 3
テクノロジー
Section 4
これらの結果は、興味深い課題を提起している。経済専門家が非専門
家よりも経済問題をより熟知しているのだろうか、それともイデオロギ
ー的な違いが働いているのだろうか?テクノロジー専門家は、テクノロ
ジーの領域においてより知識が豊富なのだろうか、それとも新しいテク
ノロジーに対する好奇心が彼らのリスク認識を鈍らせているのだろう
か?また、専門家の方が大きな懸念を抱いている場合、そのことは、彼
らの意見にもっと耳を傾けるべきだということを意味するのだろうか、
それとも彼らは他の脅威について十分知らないまま、自分の専門領域
にある問題をより強く感じているだけなのだろうか?
4
影響
一方、経済問題の専門家の極端な所得格差の影響と発生の可能性に
対する懸念は、非専門家よりも低い。同様に、テクノロジー専門家の
ナノテクノロジーの予期せぬ影響の発生の可能性と影響に対する懸念
は、非専門家のそれよりも低い。
4
Section 3
また、社会リスクについても、専門家が他の回答者よりも警戒感を示し
ているリスクが数多くあった。たとえば、慢性疾患率の上昇、持続不可
能な人口増加、統制されない移住である。経済リスクについては、この
パターンが当てはまったのは、長期間にわたる財政不均衡のみであっ
た。その他の経済リスク、そして地政学とテクノロジーの領域における
リスクの大半については、統計的に有意な差異はほとんどない。
環境
4.5
影響
印象的なのは、環境専門家と他の分野の専門家の差異である。環境専
門家は、環境リスクに分類される10のリスク全てについて、影響と発生
の可能性の両方で他の専門家よりも高いスコアをつけており、
これらの
差異のほとんどは5%水準で統計的に有意であった(付録2を参照)。
経済
4.5
Section 2
最後に、専門分野に関する知識がリスクの認識にどのように影響する
かを観察することも可能である。回答者には、50のリスクの5つの分類
のうち、自らを専門家とみなす分野を一つずつ申告してもらった。すべ
てのリスクに対して一般化はできないが、専門家のリスクに対する懸念
が他の回答者に比べて高くスコアされている興味深いケースがいくつ
かある。
図35:専門家別の比較
4.5
対象分野の専門家
対象分野の非専門家
4
3.5
3
発生の可能性 3
3.5
4
Section 5
影響
専門知識別
4.5
出典:World Economic Forum
Section 6
Global Risks 2013
51
Section 1
Section 2
中枢リスク
- 大規模でシステミックな金融破綻(経済)
5つの分類それぞれについて、調査回答者に、その分類の中でシステ
ミックな重要性が最も高いと考える「中枢リスク」を選んでもらった。
これらのリスクは、他のリスクに及ぼすその影響を考えると、リーダー
と政策立案者が特に注意すべきリスクである。図36は、この質問に対
する回答が選択肢の間でどのように分布しているかを示している。中枢
リスクに選ばれたリスクの上位は、今年は次の通りである。
- 気候変動への適応の失敗(環境)
- グローバル・ガバナンスの破綻(地政学)
- 水供給危機(社会)
- 重要システムの故障(テクノロジー)
昨年の報告書と比べると、経済、環境、社会の分類において3つの中枢
リスクが入れ替わった。
図36:分類別の中枢リスク
経済リスク
Section 3
大規模でシステミック
な金融破綻
環境リスク
2013
気候変動への
適応の失敗
22.7 %
2012
26.4 %
20.8 %
極端な所得格差
長期間にわたる
財政不均衡
32.0 %
10.3 %
7.6 %
Section 4
新興経済の
ハードランディング
5.0 %
4.4 %
流動性危機の頻発
2.6 %
長期にわたる
インフラ整備不足
3.2 %
4.1 %
Section 5
0
9.3 %
10
20
8.9 %
6.2 %
3.8 %
4.9 %
13.6 %
3.9 %
3.4 %
3.5 %
慢性疾患率の上昇
5.1 %
2.1 %
1.5 %
3.2 %
2.9 %
統制されない移住
1.3 %
8.3 %
実効性のない
麻薬政策
0.6 %
10
20
1.9 %
0.4 %
0
30
40.1 %
14.1 %
13.8 %
Section 6
12.0 %
10.6 %
9.5 %
4.7 %
3.8 %
1.6 %
1.7 %
0
回答率
9.8 %
7.2 %
7.8 %
4.9 %
6.8 %
8.1 %
3.4 %
3.0 %
ナノテクノロジーの
予期せぬ影響
0.8 %
0.6 %
宇宙の軍事化
12.8 %
8.7 %
知的財産管理体制の不備
2.6 %
不正取引の蔓延
4.1 %
大規模なデータの
不正利用/窃盗
1.9 %
根強い犯罪組織
18.1 %
15.1 %
新たな生命科学技術の
予期せぬ影響
5.3 %
一方的な資源の国有化
1.0 %
0.6 %
0.8 %
宇宙ゴミの拡散
10
44.8 %
誤った電子情報の
大々的な流布
14.7 %
大量破壊兵器の拡散
20
30
21.7 %
鉱物資源供給の脆弱性
11.7 %
脆弱化した重要国家
20
20.9 %
気候変動緩和対策の
予期せぬ影響
8.5 %
テロリズム
2013
2012
重要システムの故障
サイバー攻撃
12.8 %
外交による紛争解決
の失敗
10
回答率
テクノロジーリスク
29.2 %
2013
2012
不正行為の蔓延
Global Risks 2013
13.9 %
9.1 %
回答率
グローバル・ガバナンス
の破綻
52
11.9 %
パンデミックに
対する脆弱性
地政学的リスク
出典:World Economic Forum
12.3 %
10.9 %
グローバル化に
対する反動
5.8 %
0
30
回答率
9.4 %
高齢化への対応
の失敗
13.2 %
磁気嵐に対する
脆弱性
2.8 %
23.9 %
14.9 %
宗教的狂信主義
の台頭
7.0 %
生物種の乱獲
1.7 %
規制の予期せぬ
悪影響
9.5 %
前例のない
地球物理的破壊
4.2 %
17.1 %
食糧不足危機
9.0 %
抗生物質耐性菌
2.2 %
制御できない
インフレ/デフレ
14.9 %
修復不能な汚染
1.7 %
22.4 %
13.0 %
持続不可能な
人口増加
31.6 %
土地・水路管理
の失敗
3.5 %
2013
2012
水供給危機
17.2 %
長引く異常気象
6.8 %
長期間にわたる
労働市場の不均衡
26.2 %
22.0 %
都市化の管理
の失敗
19.9 %
エネルギー・
農産物価格の
急激な変動
2013
2012
温室効果ガス排出量
の増大
18.1 %
社会的リスク
30
40
0.4 %
0
回答率
10
20
30
40
Section 1
図37:2013年リスク相互連関性マップ(RIM)
磁気嵐に対する脆弱性
重要システムの故障
Militarization
宇宙の軍事化
of space
宇宙ゴミの拡散
Prolonged
長期にわたるインフラ整備不足
infrastructure neglect
サイバー攻撃
Section 2
誤った電子情報の大々的な流布
大量破壊兵器の拡散
テロリズム
大規模なデータの不正利用/窃盗
宗教的狂信主義の台頭
脆弱化した重要国家
外交による紛争解決の失敗
一方的な資源の国有化
大規模でシステミックな金融破綻
根強い犯罪組織
不正取引の蔓延
グローバル・ガバナンスの破綻
規制の予期せぬ悪影響
実効性のない
麻薬政策
気候変動への適応の失敗
新興経済のハードランディング
鉱物資源供給の脆弱性
土地・水路管理の失敗
不正行為の蔓延
エネルギー・農産物価格の急激な変動
長期間にわたる労働市場の不均衡
食糧不足危機
水供給危機
グローバル化に対する反動
極端な所得格差
Section 3
知的財産管理体制の不備
生物種の乱獲
持続不可能な人口増加
前例のない
地球物理的破壊
長引く異常気象
都市化の管理の失敗
温室効果ガス排出量の増大
長期間にわたる
財政不均衡
高齢化への対応の失敗
流動性危機の頻発
慢性疾患率の上昇
統制されない移住
気候変動緩和対策の予期せぬ影響
修復不能な汚染
修復不能の汚染
Section 4
制御できないインフレ/デフレ
抗生物質
耐性菌
新たな生命科学技術の予期せぬ影響
パンデミックに対する脆弱性
ナノテクノロジーの予期せぬ影響
出典:World Economic Forum
図39:連関リスクが多いリスクの上位10位
相互連関性
最後に、調査回答者に、最も強く相互に連関していると思うリスクのペ
アを選んでもらったxlix。選ぶペア数は、最低3組、最大10組とした。
理論的に可能な最大1,225通りの組み合わせから、529組のペアが調査
回答者によって選ばれた。選ばれる回数が多かった組み合わせの上位
を図38に示している。
79
72
68
59
0
20
40
60
80
100
回答数
出典:World Economic Forum
xlix
食糧不足危機
33
都市化の管理の失敗
33
32
不正行為の蔓延
エネルギー・農産物価格の急激な変動
30
気候変動への適応の失敗
30
持続不可能な人口増加
30
長期間にわたる財政不均衡
29
0
10
20
30
40
50
コラム8:グローバルリスク2013 データ・
エクスプローラー
90
極端な所得格差
グローバル化に対する反動
グローバル・ガバナンスの破綻
気候変動への適応の失敗
40
出典:World Economic Forum
宗教的狂信主義の台頭
テロリズム
エネルギー・農産物価格の急激な変動
食糧不足危機
脆弱化した重要国家
連関するリスクの数(連関性の度合い)
図38:選択されたリスクの組み合わせ上位5位
グローバル・ガバナンスの破綻
大規模でシステミックな金融破綻
41
極端な所得格差
Section 6
また、連関するリスクが最も多いリスクはどれか(図39を参照)、5つの
中枢リスクがネットワークのどの部分に位置しているか(図40を参照)
を観察するのも興味深い。
44
Section 5
全回答者が選んだ全てのペアを集約したものが、上記の図37「2013年
リスク相互連関性マップ(RIM)」に示すネットワーク図である。この図
は、他のリスクと連関しているリスクほど中心近くに配置され、連関の
弱いリスクは中心から遠い位置になるように組み立てられている。線
の濃さは、どれだけ多くの回答者がその特定の組み合わせを選択した
かを示す。
グローバル・ガバナンスの破綻
2つのリスクが結び付けられている場合、それは単に、回答者がその2つの間に何らかの相関
関係があると考えていることを意味する。因果の方向性までは推論できない。
『グローバルリスク報告書2013年版』と併せてご覧いただきたいの
が、関連ウェブサイトに掲載されているデータ・エクスプローラーであ
る。サイトでは、グローバルリスクの展望、グローバル相互連関性マッ
プ、国家の弾力性に関する2つの新たな調査項目からのデータをインタ
ラクティブな形で閲覧することができる。また、データ・エクスプロー
ラーからは、リスク・レスポンス・ネットワークによる「What-If」インタ
ビューシリーズ l を含む、フォーラムの他の関連報告書、ビデオ、ブログ
記事や、本報告書において取り上げた50のグローバルリスクそれぞれ
に関する様々なデータにアクセスできる。グローバル・データ・エクスプ
ローラーはこちらht tp: //w w w.weforum.org/globalrisk s2013/
dataexplorer を参照のこと。
Global Risks 2013
53
Section 1
図40:中枢リスクとその連関リスク
磁気嵐に対する脆弱性
重要システムの故障
長期にわたるインフラ整備不足
長期にわたるインフラ整備不足
サイバー攻撃
誤った電子情報の大々的な流布
Section 2
大規模なデータの不正利用/窃盗
誤った電子情報の大々的な流布
テロリズム
テロリズム
宗教的狂信主義の台頭
脆弱化した重要国家
脆弱化した重要国家
外交による紛争解決の失敗
外交による紛争解決の失敗
一方的な資源の国有化
大規模でシステミックな金融破綻
大規模でシステミックな金融破綻
気候変動への適応の失敗
根強い犯罪組織
グローバル・ガバナンスの破綻
Global governance
failure
グローバル
・ガバナンスの破綻
規制の予期せぬ悪影響
知的財産管理体制
の不備
不正行為の蔓延
エネルギー・農産物価格の急激な変動
エネルギー・農産物価格の急激な変動
前例のない
地球物理的破壊
極端な所得格差
グローバル化に対する反動
水供給危機
生物種の乱獲
長引く異常気象
持続不可能な人口増加
都市化の管理の失敗
長期間にわたる財政不均衡
鉱物資源供給
の脆弱性
食糧不足危機
グローバル化に対する反動
持続不可能な人口増加
土地・水路管理の失敗
温室効果ガス排出量の増大
統制されない移住
都市化の管理の失敗
修復不能の汚染
修復不能な汚染
Section 3
制御できないインフレ/デフレ
新たな生命科学技術の予期せぬ影響
気候変動緩和対策の予期せぬ影響
抗生物質耐性菌
重要システムの故障
長期にわたるインフラ整備不足
長期にわたるインフラ整備不足
サイバー攻撃
誤った電子情報の大々的な流布
大量破壊兵器の拡散
大規模なデータの不正利用/窃盗
テロリズム
脆弱化した重要国家
宗教的狂信主義の台頭
脆弱化した重要国家
外交による紛争解決の失敗
大規模でシステミックな金融破綻
Section 4
新興経済のハードランディング
根強い犯罪組織
規制の予期せぬ悪影響
グローバル・ガバナンスの破綻
不正行為の蔓延
グローバル化に対する反動
極端な所得格差
気候変動への適応の失敗
根強い犯罪組織
気候変動への適応の失敗
グローバル・ガバナンス
知的財産管理体制 の破綻
エネルギー・農産物価格の急激な変動
の不備
食糧不足危機
不正行為の蔓延
外交による紛争解決の失敗
一方的な資源の国有化
大規模でシステミックな金融破綻
エネルギー・農産物価格の急激な変動
土地・水路管理の失敗
鉱物資源供給
の脆弱性
食糧不足危機
水供給危機
極端な所得格差
長引く異常気象
長期間にわたる労働市場の不均衡
持続不可能な人口増加
持続不可能な人口増加
都市化の管理の失敗
温室効果ガス排出量の増大
統制されない
長期間に
移住
修復不能な汚染
修復不能の汚染
わたる財政不均衡
流動性危機の頻発
統制されない移住
修復不能の汚染
修復不能な汚染
慢性疾患率の上昇
パンデミックに対する脆弱性
ナノテクノロジーの予期せぬ影響
Section 5
重要システムの故障
長期にわたるインフラ整備不足
サイバー攻撃
誤った電子情報の大々的な流布
大量破壊兵器の拡散
大規模なデータの不正利用/窃盗
テロリズム
宗教的狂信主義の台頭
脆弱化した重要国家
大規模でシステミックな金融破綻
不正取引の蔓延
新興経済のハードランディング
グローバル・
ガバナンス
の破綻
外交による紛争解決の失敗
一方的な資源の国有化
気候変動への適応の失敗
根強い犯罪組織
規制の予期せぬ悪影響
不正行為の蔓延
土地・水路管理
の失敗
知的財産管理体制の不備
Section 6
極端な所得格差
グローバル化に対する反動
長期間にわたる労働市場の不均衡
流動性危機の頻発
高齢化への対応の失敗
慢性疾患率の上昇
エネルギー・
農産物価格
の急激な変動
生物種の乱獲
持続不可能な人口増加
長期間にわたる
財政不均衡
都市化の管理
の失敗
統制されない
移住
l
修復不能の汚染
修復不能な汚染
鉱物資源供給の脆弱性
食糧不足危機
水供給危機
長引く
異常気象
前例のない
地球物理的破壊
温室効果ガス排出量の増大
気候変動緩和対策の予期せぬ影響
制御できないインフレ/デフレ
新たな生命科学技術の予期せぬ影響
出典:World Economic Forum
1.
Finucane, M. L., Slovic, P., Mertz, C. K., & Flynn, J. Gender, Race, and Perceived Risk: the ’White
Male’ Effect. In Health, Risk and Society, 2000, 2:159-172; Gustafson, P.E. Gender Differences in
Risk Perception: Theoretical and Methodological Perspectives. In Risk Analysis, 1998,
18:805-811; and Harris, C. R., Jenkins, M., & Glaser, D. Gender Differences in Risk Assessment:
Why do Women Take Fewer Risks than Men. In Judgment and Decision Making, 2006, 1:48-63.
2.
Deery, H.A. Hazard and Risk Perception among Young Novice Drivers. In Journal of Safety
Research, 1999, 30:225-236; and Jonah, B.A., & Dawson, N.E. Youth and Risk: Age Differences in
Risky Driving, Risk Perception, and Risk Utility. In Alcohol, Drugs & Driving, 1987, 3:13-29.
3.
Savage, I. Demographic Influences on Risk Perceptions. In Risk Analysis, 1993, 13:413-420.
l
54
「What If ?」シリーズは、学界、財界、政府、市民社会の国際的専門家が過小評価されて
いるとみなしているリスクについて新たな見識をもたらすことを狙いとしている。仮定シナ
リオを詳細に検討することによって、リーダーは、複数のシステム間や問題間の複雑な相
互連関性を明らかにすることができる。また、グローバルリスクをシナリオとして検討する
ことによって、専門家は、微妙な問題を表面化させることができる。What-If シリーズは、リー
ダーがそのようなリスクに対する回復力を評価し、リスクがもたらす機会を逆に生かせるよ
うにするためのプラットフォームである。
Global Risks 2013
温室効果ガス排出量の増大
都市化の
urbanization
管理の失敗
気候変動緩和対策の
予期せぬ影響
Section 1
Xファクター
Section 2
Section 6
Xファクターは、最新の科学的発見に基づく深
刻な問題である。
しかし、国家の破綻や異常気
象、飢饉、不安定なマクロ経済、武力紛争といっ
た一般に緊急性の高い懸案事項とされる問
題からは若干離れたところにある。むしろ、現
時点では曖昧にしか理解されていないが、将
来、潜在的リスク
(または機会)が顕在化する
要因となりかねない、大局的な問題を内包し
ているものである。
Section 5
いかに高度なコンピュータモデルでも、地球のような複雑なシステム
に関わる全ての要素を把握することは不可能であり、温暖化がどのぐ
らい顕著で、どのぐらいのスピードで進むのか(さらに、それが読者の
住んでいる地域の降雨量や暴風雨の大きさにどう影響するのか)を予
測するのは困難である。しかし、海洋1と陸上の作用が結び付いた環境
システムにおける自然の『フィードバック』の観点からみると、温暖化
は、科学者の多くが予測しているよりも劇的で、人類が適応しにくいも
のかもしれない2 。このフィードバックは、気候変動を増幅させ、地球の
システムを根底から崩壊させるに至る可能性を持つ。有識者の間で
は、こうした臨界点がどこにあり、あとどのぐらいで達するのか、予測
は可能なのか、臨界点を超えたときに何が起こるのか、という問題が
盛んに議論されている3。
Section 4
多くの不確実要素が存在する中、我々は絶えず
「X(エックス)ファクター」を究明しようとして
いる。Xファクターとは、新たに出現しつつある
懸念要素で、将来重要となる可能性をはらん
でおり、その影響が未知のリスクである。将来
を見据え、やがて出現する問題を突き止める
ことができれば、将来の課題を見越して先手
を打ち、不意を突かれて後手に回るような事
態に陥ることはない。
し、地球の気候は変動しやすいものでもある。太陽を周回する地球の
軌道がわずかに変化しただけで、地球の気候に大きな影響を与えかね
ない。温室効果ガスの排出により増大している二酸化炭素のような温
室効果のある分子の大気中濃度の変化もまた然りである。
Section 3
この章は、
リスク・レスポンス・ネットワークが 暴走する気候変動
総合科学雑誌『ネイチャー』の協力を得て、読
気候変動の脅威についてはよく知られている。しかし、我々は、すでに
者各位が懸念している目下の問題のより先に 後戻りができない段階を通り越してしまったのだろうか?人間が、地球
環境を住みにくい状態に追い込むような連鎖反応の引き金をすでに引
ある一連の5つのXファクターについて考え、 いてしまったのだとしたら、どうすればよいのだろうか?
国や企業に準備と対策を検討してもらうこと
自然の温室効果は、生命にとってなくてはならないものである。それが
なければ、地球の平均地表温度は零度をはるかに下回るだろう。しか
を狙いとしている。
Global Risks 2013
55
Section 1
Section 2
最もよく知られる正のフィードバックのメカニズムは、いわゆるアイス・
アルベド・フィードバックだろう。地球の温暖化が進むと、雪と海氷が減
少する。雪や氷が溶けると、黒い地面と水面が現れ、より多くの太陽光
が吸収されるようになる。太陽光の吸収量が増えるにつれ、融解と温
暖化が更に進み、フィードバックループの勢いは自然に加速していく。
たとえば、2012年7月、グリーンランドの地表を覆う氷の97%が融解す
るという前例のない事態が起こり、グリーンランドの氷床が黒ずんだ状
態になった。これにより、多くの太陽エネルギーが吸収され、加速的に
氷が融解してしまった。
Section 3
夏季における北極の海氷の完全な融解—北極は2040年頃までに、季
節によって完全に氷がなくなることが予想されている—は、温室効果
ガスが削減されて気温が下がれば、人間の時間的尺度で元に戻せるか
もしれない。
しかし、グリーンランドと南極大陸を覆っている厚さ数
キロメートルの氷床は、いったん消滅すると、地球の温度が下がっても
そう簡単には再現しない。新しい氷が形成される場所は、高度の低い
ところ、つまり気温がより高いところになるからである。
永久凍土の融解、土地利用、植生変化、雲量の変化による影響は、ま
た別の大規模なフィードバックメカニズムをもたらす。永久凍土の融解
と規模縮小だけでも、2040年までに630億トンから2100年までに
3,800億トンの炭素の放出につながるのではないかと考える科学者も
いる4。
人工内耳はろう者にとってすでに標準的な治療である。神経系の人工
補装具・装置をコントロールする埋め込み式装置は急速に発達しつつ
あり、数年後にはさらに普及が進んでいるだろう。視覚障害者のため
の人工網膜は少し遅れているが、この分野は急成長を遂げつつあり、
実現も遠くないと思われている。
Section 4
Section 5
Section 6
最後に、それ自体が自然の温室効果ガスである水蒸気によるフィード
バック作用は、とてつもなく大きなものになりかねない。大気の温度が
上がるほど、より多くの水分を保持できるようになる。人間による化石
燃料の燃焼に反応して平均気温が上昇すると、蒸発量が増え、水蒸気 こうした機材と人体をつなぐ最善の接点はいまだに、侵襲的な脳電極
の大気濃度が上昇し、温室効果がさらに強まる。金星では、おそらくこ (非侵襲的な手法も機能するが、速度が遅く、非効率的)に依存して
れが温室効果の暴走を引き起こし、初期に存在していたと思われる海 おり、それが健康な人々による使用を妨げる大きな要因になっている。
洋が一滴残らず蒸発してしまったと言われている。
しかし、10年もすれば、脳活動を記録する新たな方法が開発される
か、非侵襲的な信号がもっと効率的に解読されるようになると思われ
幸いにも、人為的な気候温暖化によって金星のそれと類似する温室効 る。脳と機器・センサーとの直接的な接点が我々の生きている間に実
果の暴走が発生する可能性はほぼない。それでも、気候変動に関する 現することも決してありえない話ではなく、金銭的な余裕がある人々を
政府間パネル(IPCC)の科学者は、地球上の水蒸気フィードバックは、 対象にした神経生物学的増強という新たな領域への扉が開かれつつあ
二酸化炭素の増大による温室効果だけでも倍増させるぐらい強力にな る。
る可能性があると主張している。
こうした変化は、さまざまな分野において、プロスポーツの世界におけ
気候変動に関する過去10年間の議論は、地球の気候のような巨大なシ る「ドーピング」をめぐる議論と似た倫理的問題を引き起こすだろう。
ステムの変換に人間に責任の所在があるのか、ということに重点を置 大幅な認知増強を自由市場で購入できるようにすべきだという考え
いていた。しかし、地球の気候を動かす自然のメカニズムが人類を新た を、我々は受け入れるのだろうか?あるいは、スポーツ競技における運
な未知の平衡状態へと容赦なく放り出す中、気候変動に対処するため 動能力向上薬物のケースのように、より公平な競争の場を維持するた
の弾力性と適応力を強化する最善の方法を議論せざるを得ない段階 めの規制が求められるのだろうか?
に急速に入っているのかもしれない。
加えて、認知増強が取り返しのつかない方向に進む重大なリスクもあ
る。認知増強薬は、特定の神経伝達物質系をターゲットにすることで
機能するため、広範囲に作用すると思われる。他のシステムに意図せ
大幅な認知増強
ぬ影響が及ぶ可能性は高く、たとえば、学習能力を高めるための薬物
によって、危険を冒すことをいとわなくなったり、作業記憶を高めるた
かつてはSF世界の出来事であった超人能力が現在、急速に現実味を帯
めの薬物によって、衝動的な行動が増加する可能性も考えられる。最
びつつある。世界が認知能力を増強した者としていない者に二分され
近の研究によれば、TMSを使って、記憶力の増強だけでなく、人の善悪
てしまうことは倫理的に認められるだろうか?軍事的には、どのような
の思考を操作したり、道徳的判断を停止させたりすることも考えられる
影響が生じるだろうか?
という。あるいは、記憶を「消去」したり、侵襲的な処置や鈍器外傷が
なくても故意に脳損傷を生じさせたりするためにTMSが使われること
科学者は、アルツハイマー病や統合失調症などの精神疾患の治療に必 もありうる。
要な医薬品や治療の開発に熱心に取り組んでいる。進歩に時間がか
かっているが、それほど遠くない将来に既存の認知増強薬物(たとえ
ば、リタリンやモダフィニル)を強化する化合物が発見されることは十
分考えられる。そうした薬物は重い神経系疾患の治療のために処方さ
れるものだが、新たな有効化合物が知的能力や認知能力を増強すると
みなされ、仕事や学業で競争相手より優れた結果を残したいと望む健
康な人々によって認可外に使用されることは目に見えている。
能力増強は、薬物だけでなく機材によってももたらされる可能性があ
る。ヒトを対象にした一握りの研究から、電気的刺激—埋め込み電極
を通じた直接的な刺激、あるいは経頭蓋磁気刺激(TMS)を用いて頭
皮を通じた刺激—によって記憶力を高められることが分かっている。
56
Global Risks 2013
Section 1
このような進歩は20年–50年後、教育やトレーニング、社会のグループ
間格差、インフォームド・コンセントあるいは搾取、戦争行為に関する
国際法といった問題への対処を決定付ける社会的規範に重大な影響
を及ぼすことが考えられる。
地球工学の悪用
しかし、そこで浮かび上がるのが、そう簡単には判断できない無数の波
及効果をめぐる倫理的、法的、科学的な課題の数々である。問題は、
太陽からの入射は気候システム全体を動かしているため、太陽光を減
問題は、太陽放射管理を実際に試すには、大規模展開しかないという
ことである。これにより、大規模な研究と技術の実用展開を一体化さ
せることになり、その結果、国際ルールに従わない国に、科学を隠れみ
のにした政治的口実を与える可能性もある。たとえば、地球温暖化の
影響が最も顕著な北極圏をピンポイントで狙うことが可能かどうかに
ついて多くの研究がなされているが、影響がすぐに北極圏から他の地
域へと移行する可能性があると唱える研究者もいる。太陽放射管理を
現実に試すならば、世界規模で行わなければならないという意見が多
い。
こうした複雑な問題により、局地的な実験によって概念を実証する方
法を探っている科学者もいるが、ほとんどの地球工学はコンピュータ
モデリングを通じて行われている。しかし全体的には、より協調的な
政府の科学研究プログラムが求められているにもかかわらず、この種
の科学には安定した財源がない。
これは、国際ルールに従わない者たちによる実験が野放しになる隙を
与えていることを意味する。たとえば、海面上昇に脅かされている島
国が、失敗を覚悟で実験に踏み切ったり、善意ある資産家が自らこと
にあたろうとするかもしれない。これが現実となりつつあることを示す
兆候がある。実際に2012年7月、アメリカの実業家が人工的にプランク
トンの大量発生を生じさせようとカナダ西海岸沖の太平洋に100トンも
の硫酸鉄を散布し、論争を呼んだ。プランクトンは二酸化炭素を吸収
した後、海底に沈み、炭素を除去するといわれている。この手法は、海
洋肥沃化として知られるもう一つの地球工学である。衛星写真から、
結果的に1万平方キロメートルにもわたる人工的なプランクトンの大量
発生に成功したことが確認されている。
li
最も詳細なコスト・工学分析は、Aurora Flight Sciencesが現在ハーバード大学に所属するデ
イビッド・キースの委託を受けて実施したものである。2011年7月に正式に完了したその分析
によれば、航空機の小編隊で百万トンの硫黄化合物―今日までの温暖化作用のほぼ半分を
相殺するに足る―を成層圏に注入することが可能であり、そのコストは年間100万米ドルから
200万米ドルだという。
lii
SPICE(成層圏粒子注入気候工学プロジェクト)は、英国政府出資の地球工学研究プロジェク
トで、太陽放射管理のために係留気球から粒子を成層圏に注入する方法の実現可能性を評価
することを目的としている。
Global Risks 2013
57
Section 6
この実業家の意図は、金の卵となる温室効果ガス排出権を獲得するこ
とであったが、その行為は2つの国際協定に違反している可能性があ
る7。関係者は、この事件が今後の動向を示す一つの前触れではないか
と懸念している8。
Section 5
多くの研究は、航空機を使った硫黄注入に焦点を当てている。最近の
調査によれば、航空機の小編隊で100万トンの硫黄化合物—今日まで
の温暖化作用のほぼ半分を相殺するに足る—を成層圏に注入するこ
とが可能であり、そのコストは年間10億米ドルから20億米ドルだとい
う51。理論的には、この技術は惑星の温度自動調節装置のような役割
を果たし、人間が地球の気温を直接コントロールすることを可能にす
る。太陽の光を弱めることによる直接的な影響は、数週間から数カ月
以内に感じられるようになる。
しかし、これをきっかけに、地球工学専門家の間では、一国または一握
りの国が国際社会を無視して実用展開や大規模な研究を進め、国際
的な危機を引き起こすという想定シナリオが検討され始めている。地
球の気候が事実上、国際ルールに従わない国、あるいは資産家に乗っ
取られ、予期せぬ損害が農業、インフラ、世界の安定に及ぶことも考え
られる。
Section 4
地球工学は、様々なものを指して使われる言葉だが、
「太陽放射管理」
として知られるようになった科学領域と結び付けられることが多い。
太陽放射管理とは、過去の大規模な火山噴火が起こった時のように、
微粒子を成層圏に送り込むことで、降り注ぐ太陽エネルギーの一部を
ブロックし、反射させて宇宙に戻すというものである。数十年にわたる
技術進化と、温室効果ガス削減のためのエネルギーインフラの全面的
改革をめぐる政治論争とは対照的に、太陽放射管理は即効性があり、
実施費用も安い。ただし、副作用を考えると、費用が結果的に非常に
高くつくこともありうる。
様々なガバナンス問題の解決の難しさ(英国における比較的単純な
SPICE lii 実験ですら、激しい論争を呼び頓挫した)を考えると、太陽放
射管理を近いうちに実用展開できるとは考え難い 6 。英国の王立協会
を始め、多くの学術機関や政策機関がそのような技術がもたらす影響
について、慎重な研究と幅広い対話を呼びかけている。
Section 3
気候変動をめぐる懸念の高まりを受けて、科学者は、国際的合意を得
た上で地球の気候を操作する方法を探っている。しかし、この技術が
国際ルールに従わない国家や個人に乗っ取られたらどうなるだろうか?
らせば、地球上でのエネルギーと水の動きも根本的に変えてしまうこ
とである。天候や気候のパターンが変化すればほぼ必ず恩恵を受ける
者と損害を受ける者が生まれる。しかし、因果関係を突き止め、ある特
定の地域や国への影響を数値化することは非常に困難である。
Section 2
開発者の意図に関わらず、このような新しいテクノロジーの影響は、全
く新しい種類のデュアルユース・ジレンマをもたらす(デュアルユースと
は、有用な目的のためにも、実質的に有害な目的のためにも使用でき
るテクノロジーを形容するのに使われる)。こうした薬物が軍隊や法執
行との関連において、あるいは正反対に、犯罪組織やテログループの
間でどう使われるようになるかは、想像に難くない。戦闘部隊の神経
系増強合戦を引き起こすことも考えられる5。
Section 1
長寿にかかる費用
Section 2
人をより長く生きながらえさせる技術が進んでいる。我々は、長期的な
介護と緩和治療を必要とし、何よりも費用のかかる多くの高齢者に対
処するために次世代が苦労する未来の社会を形成し始めているのだろ
うか?
20世紀の医学が残した恩恵は、ゲノムの解読とそれに付随する進歩に
よって今まさに爆発的に開花しているように思われる。心臓病やガン、
脳卒中などの致命傷といわれる病に対抗する大きな医学の進歩がま
もなく実現することが期待されている。しかし、こうした進歩はリスク
も高める。死をもたらすわけではないが深刻な身体的障害をもたらす
他の病気が主流となり始めることで、現代の一般的な死因からは守ら
れているものの、生活の質が低下し、虚弱な高齢者が増えることで、社
会に与える影響を考えてみて欲しい。
Section 3
現在すでに、欧米においてそのような未来の基盤が構築されている傾
向を見ることができる。ベビーブーム世代の人口統計値に基づくと、ア
ルツハイマー病を患っているアメリカ人の数は、控えめに見積もっても
今世紀半ばまでに少なくとも現在の2倍の1,100万人になるという9。他
の多くの国でも、同じような増加が予測されており、世界の認知症患
者の数は20年ごとに倍増し、2050年には1億1,500万人を突破する見込
みである10。低・中所得国において高齢者人口が増える反面、おそらく
出生率が下がることも、一つの大きな要因となる。
Section 4
こうした高齢者を介護するための負担費用は、特に高所得国において
莫大な金額に上る。たとえば英国が毎年、認知症患者の介護に投じて
いる費用(230億ポンド)は、脳卒中(50億ポンド)、心臓病(80億ポン
ド)、ガン(120億ポンド)の医療費を全て合わせた額に迫る勢いだ11。
しかも、こうした疾患患者数は増える一方である。
Section 5
米国の高齢者向け医療制度のメディケアについて考えてみよう。政策
の変更(たとえば、受給資格年齢の引き上げ)が行われないと仮定し
た場合、メディケアの支出は今後75年間にわたり、納税者の拠出金で成
り立っている収入を24兆米ドルも超過すると予想されている12,liii。この
支出傾向は、公的支援に限ったことではない。米国では、高齢者によ
る公共・民間消費の累計が過去50年間で急激に増加している。負担の
比率が特に顕著なのは、急速に高齢化が進んでいる国である。たとえ
ばドイツでは、消費者1人当たりに対する実質的な生産者の比率が
2030年までに25%近く落ち込むと予測されている13。
平均寿命は1840年以降、10年ごとに安定して伸びてきたが、こうした
伸びは必ずしも、より健康な晩年を過ごせることを意味するわけでは
ない14。したがって将来、身体の不自由な高齢者が新たに急増するかも
しれない。就寝・起床介助や10段ほどの階段を上るといった動作の手
助けなど、身の回りの世話が必要とされる50歳~64歳までのアメリカ
人の比率は、2007年までの10年間で著しく増加した。原因のトップは
リウマチで、糖尿病も次第に大きな割合を占めるようになっている15。
迫り来る嵐を避ける解決策はないのだろうか?長生きの助けとなり、生
活の質の向上にも役立つ予防対策は、いくつかある。誰もがその効果
を知りながら、実践されていない予防対策の中で特に重要なのが、運
動である。そのメリットは人間の生理機能の強化、病気の予防など、あ
らゆる方面に及ぶ16。コスト面の影響を軽減する明白な対策としては、
公的財源から高齢者を支える制度、たとえば年金収入、社会的サポー
トサービス、医療費負担の軽減などの資格年齢の引き上げと、定年の
引き上げ、つまり高齢者にもっと長い間、経済的に生産的な存在であ
るように求めることが考えられる。
「高齢化の先延ばし」モデルを用い
た最近の分析によれば、メディケアと社会保障制度の受給資格年齢を
数年引き上げれば(それぞれ65歳から68歳、67歳から68歳)、これら
の制度が負担する数十億ドルの増大コストを全額相殺できるという17。
しかし、公的サービスの受給年齢の引き上げは万能薬ではない。その
理由の一つには、財政コストだけが課題ではないからである。高齢化
の影響は、都市計画のモデルケースの変更から介護に関する社会的規
範への影響まで、社会のいたるところで見られる。慢性疾患が(すなわ
ち、根治治療の開発によって)短期疾患になり、全ての市民が慢性疾
患をうまくコントロールできるようになると同時に、富を生み出せるよ
うな解決策を見つけるためには、更なる研究がを進める必要がある。
地球外生命の発見
Section 6
現在の宇宙探査のペースを考えると、地球外生命や人間の生命を維持
できる他の惑星の発見は、夢物語ではなくなりつつある。これは、科学
への出資と人類の自己イメージに、どう影響するだろうか?他の恒星に
も軌道を周回する惑星が存在することを示す証拠が初めて見つかった
のは、1995年に入ってからのことであった。今では、遠く離れた恒星を
周回する「太陽系外惑星」が何千も発見されている。太陽に似た恒星
の「ゴルディロックス・ゾーン」
(暑すぎず、寒すぎない)に位置する地
球ほどの大きさの惑星を見つけるというNASAのケプラー・ミッション
は、始まってわずか3年だが、すでに数千の候補を見つけ、中には地球
と同じ大きさの惑星も一つ発見している。ケプラーが宇宙のごく一部
にそれほど多くの惑星候補を見けたという事実は、銀河系に太陽のよ
うな恒星の周りを回る地球のような惑星が数え切れないほど存在する
ことを示唆している。10年後には、地球が独特の存在ではないという
だけでなく、宇宙のどこかに生命が存在することを示す証拠も見つ
かっているかもしれない。
太陽系外惑星を調査している天文学者がある日、化学的な生命の兆
し、たとえば酸素のスペクトルを見つけたと仮定してみよう。酸素は、
植物によって絶えず補充されていなければ地球の大気から瞬く間に消
失してしまう、反応性の高い元素である。こうした生命の世界を地上か
らも宇宙からも詳細に調べるため、新たな望遠鏡の開発に資金が流れ
始めるだろう。有人宇宙飛行への挑戦、そして人類や使者となる人工知
能ロボットが恒星間移動を乗り切るために必要な技術の開発に、新た
な財源と知力が引き付けられるかもしれない。
liii
58
http://www.gao.gov/financial/fy2011/11stmt.pdf の「financial statements(財務諸表)」
セクションの46及び47ページを参照。メディケアパートA、BおよびDの総負債を合計する
と、24兆5,000億米ドルとなる。
(3兆2,520億+18兆8,540億+7兆4,660億)
Global Risks 2013
この発見はきっとその年のトップニュースとなり、大きな関心を呼ぶだ
ろう。しかし、だからといって世界がすぐに変わるわけではない。地球
Section 1
発見がもたらす最大の短期的影響は、科学そのものに関するものだろ
う。観察の結果、別の恒星の周りに人類の将来の住処が見つかった、
または我々の太陽系の中、たとえば火星の極方面に、木星の衛星エウ
ロパの氷に閉ざされた表面下の海洋に、あるいは土星の衛星タイタン
の炭化水素の湖にさえ、生命体が存在することが分かったとしよう。
科学者はすぐに、あるがままの状態の生命体を研究するために、ロボッ
ト探査あるいは有人探査を送り込むことを要求し始める。出資機関
は、興奮の渦に巻き込まれ、その要求に耳を貸そうとするかもしれな
い。
芽生えたばかりの宇宙経済にとって2012年は、最初の民間宇宙飛行船
が国際宇宙ステーションとのドッキングに無事成功し、有名資産家らが
小惑星採掘を現実にするという意思を相次いで表明するなど、宇宙交
易の誕生を見た重要な1年となった。
「第2の地球」や我々の惑星以外
での生命の発見は、新世代の宇宙起業家に、銀河系の有人探査をフィ
クションから現実にするという挑戦に立ち向かう意欲を与えるかもし
れない。
Schmittner, A. & Galbraith, E.D. Glacial Greenhouse-gas Fluctuations Controlled by Ocean
Circulation Changes. In Nature, 2008, 456:373-6.
2.
Arneth, A., Harrison, S. P., Zaehle, S., et al. Terrestrial Biogeochemical Feedbacks in the Climate
System. In Nature Geoscience, 2010, 3:525-532.
3.
Lenton, T. M., Held, H., Kriegler, E., et al. Tipping Elements in the Earth’s Climate System. In
Proceedings of the National Academy of Sciences, 2008, 105:1786-93.
4.
Schuur, E.A. & Abbott, B. Climate Change: High Risk of Permafrost Thaw. In Nature, 2011,
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5.
Tennison, M.N. & Moreno, J.D. Neuroscience, Ethics, and National Security: The State of the Art.
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6.
Cressey, D. Cancelled Project Spurs Debate over Geoengineering Patents. In Nature, 2012,
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7.
“Decision Adopted by the Conference of the Parties to the Convention On Biological Diversity
at its Tenth Meeting: X/33 Biodiversity and climate change”. UNEP, Convention on Biological
Diversity, http://www.cbd.int/climate/doc/cop-10-dec-33-en.pdf, 2010; and Lukacs, M. World’s
Biggest Geoengineering Experiment ‘Violates’ UN Rules. In The Guardian, 2012.
8.
Macnaghten, P. & Owen, R. Environmental Science: Good Governance for Geoengineering. In
Nature, 2011, 479:293.
9.
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Care, and Services”. U.S. Department of Health and Human Services, Advisory Council on
Alzheimer’s Research, http://aspe.hhs.gov/daltcp/napa/AdvCounRec.pdf, 2012.
10. Dementia: A Public Health Priority. 2012. Geneva: World Health Organization;
11.
Ibid.; and Luengo-Fernandez, R., Leal, J. & Gray, A.M. UK Research Expenditure on Dementia,
Heart Disease, Stroke and Cancer: Are Levels of Spending Related to Disease Burden? In
European Journal of Neurology, 2012, 19:149-54.
12.
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pdf, 2011.
13.
Lee, R. & Mason, M. “Population Aging and the Welfare State in Europe”. Global Trends 2030,
http://gt2030.com/2012/08/01/population-aging-and-the-welfare-state-in-europe/, 2012.
14.
Crimmins, E.M. & Beltrán-Sánchez, H. Mortality and Morbidity Trends: Is There Compression of
Morbidity? In The Journals of Gerontology Series B: Psychological Sciences and Social
Sciences, 2011, 66B:75-86.
15.
Martin, L. G., Freedman, V. A., Schoeni, R. F., et al. Trends in Disability and Related Chronic
Conditions among People Ages Fifty to Sixty-four. In Health Affairs (Millwood), 2010, 29:725-31.
16.
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Science, 2003, 299:1346-51.
17.
Goldman, D. Personal Communication. In Nature, Editor 2012.
Section 4
長期的に見れば、この発見は、深遠な心理学的・哲学的な意味合いを
持つと思われる。たとえば、生命体(たとえ、化石化した生命体であっ
ても)が太陽系に見つかれば、生命の発生はそう難しいことではな
い―宇宙の中で生命が出現できる場所ならどこでも出現することがで
きるということになる。つまり、生命とは、恒星や銀河系と同じように
自然で、どこにでも存在する宇宙の一部である、ということになる。単
純な生命の発見でも、他の知的な生物の存在をめぐる推測をかきた
て、人間の哲学と宗教を支えてきた多くの前提を揺るがすだろう。
1.
Section 3
参考文献
Section 2
外生命が発見されたと報じられるのは、今に始まったことではないか
らである。20世紀の変わり目に、米国の天文学者パーシヴァル・ロー
ウェルは、火星には滅亡しつつある文明によって建設された広大な運
河システムが縦横に走っていると(自分自身も含め)多くの人々に信じ
込ませた。だが、人類が唯一の生命体ではないという考えは、友好と
地上の調和を重んじる時代を導くのに役立ったわけでも、1914年の第
1次世界大戦の勃発を防ぐことができたわけでもなかった。
Section 5
一般の人々は、基礎教育と啓蒙活動を通して科学と宇宙について高度
な知識を身につけ、精神的な柔軟性を養うことができる。それが、宇宙
における人類の立場に関する重大な発見とパラダイムシフトに対する
心構えを築き、好ましくない社会的影響を防止するのに役立つと思わ
れる。
Section 6
Global Risks 2013
59
Section 1
結論
Section 2
今年、刊行8年目を迎える『グローバルリスク報告書』は、システム思考
の観点から弾力性というテーマを特集したものである。外因的性質を
持つグローバルリスクは、単独の組織だけで適切に管理または緩和す
ることはできない。我々は、カプラン教授とマイクス教授の概念的枠組
み1を紹介し、グローバルリスクのような「外的」リスクを「予防可能」な
「戦略的」リスクと対比させることで、グローバルリスクへの対処法を
明確に考えられるようにした。いつ、どのように出現するかを予測する
ことが難しいリスクに対しては、弾力性を培うことが最善の対処法で
ある。
Section 3
本報告書を通して、リスクの相互依存的な性質から構成されるシステ
ムという文脈の中でリスクを捉え、弾力性を構築する最善の方法を明
確に考えられるようにすることを目指した。本報告書で取り上げられて
いる3つのリスクケースは、2つの大規模なシステムに対するストレスが
同時に高まったス場合(「試される経済・環境面の弾力性」)、一見そ
れほど重要でないように見えるシステムが予想以上のダメージをもた
らす 場 合(「 ハ イパ ー 接 続 世 界 で の デ ジタル・ワイルド ファイ
ヤー」)、そして変化し続ける問題に常に一歩リードして対処するシステ
ムの能力が今後も続くと我々が過信した場合(「健康問題への根拠な
き過信」)に、どういう事態が生じるかについて論じた。また、特集に
おいては、弾力性の高いシステムをどう構築すべきかについてシステム
理論的な考えを探り、5つの特徴—冗長性、堅牢性、臨機応変性、対応
力、回復力—を国家の一部のサブシステムにどのように適用できるか
を説明した。
Section 4
これまでと同じく、本報告書は、さまざまな場を通じて今年1年間、継
続的に行われる対話の出発点となるものである。そうした対話の場と
なるのが、リスク・レスポンス・ネットワークのメンバー専用のバーチャル・
プラットフォーム、弾力性を促進するレジリエンス・プラクティス・エクス
チェンジや本報告書のパートナーとそのステークホルダーとのワーク
ショップ、世界各地で開催される地域会合、そしてもちろん、中華人民
共和 国 及びスイスのダボス・クロスタースで 開 催される世界 経 済
フォーラムの年次総会である。ちなみに2013年の年次総会のテーマ
は、
「Resillient Dynamism(強靱な活動)」である。
Section 5
2013年の具体的な取り組みとして、我々は、世界の政 策 決 定者が
グローバルリスクのマッピング、緩和、そしてモニタリングに取り組み、
グローバルリスクに対する弾力性を強化するための一助として、リスク
専門家の信頼できるネットワークの構築を進める。また、特集におい
て提唱した国家の弾力性評価を発展させ、更なる改良に努める。現代
世界がハイパー接続の状態にあることを考えると、グローバルリスクに
直面する中で弾力性を構築する最善の手法を理解することが緊急に
必要とされている。
Section 6
世界経済フォーラムのこれらの取り組みおよびグローバルリスクに関
するその他の活動に関する詳細は、www.weforum.org/riskで紹介し
ている。世界経済フォーラムへのご連絡は、[email protected]まで。ま
た、ツイッターの@WEFRiskでも情報を発信している。
1
60
Kaplan, R.S. & Mikes, A. Managing Risks: A New Framework. In Harvard Business Review,
2012.
Global Risks 2013
Section 1
組織の種類
国際機関 - 95 (7.7%)
政府 - 100 (8.1%)
その他 - 102 (8.3%)
Section 2
付録1:
調査
図41:調査標本の内訳
企業 - 519 (42.1%)
NGO - 198 (16.0%)
学界 - 220 (17.8%)
居住地域
グローバルリスク意識調査は、2012年9月にオンライン調査とし
て実施された。調査の目的は、企業、学界、NGO、国際機関、
公的セクターおよび市民社会を代表する有識とトップレベルの
とリーダーで構成される世界経済フォーラムのコミュニティの見
解を、標本抽出して調査することである。6,000以上の調査協力
依頼を送付したところ、1,234人の回答者から有効な情報を記
入した調査票が返送された。そのうち全ての項目が完結された
回答は、2011年の469件に対し、1,006件であった。
アジア - 274 (22.2%)
北米 - 327 (26.5%)
専門とする国
中東/北アフリカ - 83 (6.7%)
サハラ以南のアフリカ - 95 (7.7%)
欧州 - 316 (25.6%)
ラテンアメリカ - 132 (10.7%)
北米 - 302 (24.5%)
アジア - 306 (24.8%)
年齢
3
20-30
294
30-40
249
40-50
288
50-60
216
60-70
70-80
Section 5
19-20
調査標本には、様々な分野の専門家が含まれている。回答者の
29%は女性で、回答者の平均年齢は43歳である。グローバル・
シェーパーズ・コミュニティlivという、20歳から30歳の若手リー
ダーの新グループを含めたことにより、対象年齢グループの幅が
前年より広がった。
125
21
100
200
300
回答数
Section 6
調査標本は、上述したターゲットとする調査母集団に極めて類
似している。地域別および機関の種類別の回答者の分布は母
集団とほぼ同一である。一方、平均年齢は若干低く(2歳)、女性
の割合が若干多い(3パーセントポイント)。なお、このデータ
は、この特定の調査母集団よりも広範な母集団を代表すること
を意図するものではないことを注記する。
欧州 - 368 (29.8%)
ラテンアメリカ - 116 (9.4%)
Section 4
2012年の調査では、所属機関の種類が増加したことに加え、回
答者の出身地域もさらに多様化した(図41参照)。居住国とし
て申告された国は101カ国、各自が専門とする国として申告され
た国は115カ国に上った。この数字は、居住国として選択された
国が69カ国にすぎなかった2011年と比較して大幅に増加してい
る。また、アジア、ラテンアメリカ、中東/北アフリカ、サハラ以
南のアフリカを代表する回答者数が伸び、アジアでは日本、中
国、インド、ラテンアメリカではコスタリカ、メキシコ、ブラジル、
サハラ以南のアフリカではナイジェリアと南アフリカからの回答
数が増加した。
Section 3
調査標本
サハラ以南のアフリカ - 72 (5.8%)
中東/北アフリカ- 77 (6.2%)
専門分野
経済問題
612
社会問題
569
地政学的問題
372
テクノロジー問題
327
環境問題
234
100
200
300
400
500
600
回答数
注:複数回答は専門分野に関する設問のみ可
出典:World Economic Forum
liv
詳しくは、http://www.weforum.org/community/global-shapers を参照。
Global Risks 2013
61
Section 1
調査票
調査票は、以下の質問からなる3つのセクションで構成されている。
セクション1は、上述した属性情報を尋ねた。
Section 2
セクション2では、本報告書で取り上げた50のグローバルリスクそれぞ
れについて、そのリスクが今後10年間に発生する可能性と発生した場
合に世界に与える影響を5段階でどのように評価するかを尋ねた。
今年は更に、セクション1において回答者が最も専門知識を持っている
と回答した国について考察し、その国が50のグローバルリスクそれぞ
れの影響に適応する力やその影響から回復する力を評価する新たな
質問が導入された。
Section 3
上記の3つの質問に対する回答の選択肢は、リッカート尺度で表示さ
れ、画面上のスライダーを使って1(低い)から5(高い)までの値を0.5
刻みで選べるようにした。
経済、環境、地政学、社会およびテクノロジーというリスクの分類それ
ぞれについて、セクション2の最後の質問で、システミックな観点から見
て最も重要なリスクを「中枢リスク」とし、それに該当すると思われるリ
スクを選択してもらった。回答は、ドロップダウンメニューを使って、各
分類に属する10のリスクから一つを選ぶ形式であった。
Section 4
最後にセクション3では、回答者に各リスクの組み合わせ間の強い連関
性を特定してもらった。回答者には、50のリスクのリストから最低3組、
最高10組の組み合わせを選択してもらい、選択してもらったリスクをそ
のペアとなるリスクのボックスにドラッグしてもらった。
誤差の範囲
回答の幅と調査標本のサイズに基づき、95%信頼区間で誤差の範囲
を計算することができる。
付録2:
発生の可能性
および影響
発生の可能性:比較
調査回答の数を地域別に見た場合、最も少なかったのはサハラ以南の
アフリカの64、最も多かったのは欧州の330であった。また、ステーク
ホルダーのグループ別に見た場合、最も少なかったのは国際機関の88、
最も多かったのは企業の471であった。表1に示すように、50のグローバル
リスクのうち、グループ間で統計的に有意な差異がなかったのは、
エネルギー・農産物価格の急激な変動と大規模でシステミックな
金融破綻の2つのみであった。他の48のリスクについては、グループ間
の差異が少なくとも一つ存在した。最も差異の大きいリスク、特に地域
間の差異が大きいリスクは麻薬政策の失敗であった。
50のリスクのうち40歳以下と41歳以上の回答者の間で統計的に有意
な差異があったリスクは8つだけであった。これらのリスクのうち4つ
は、環境の分類に属していた。具体的には、気候変動への適応の失敗、
修復不能な汚染、温室効果ガス排出量の増大、前例のない地球物理
的破壊であった。
Section 5
Section 6
中枢リスク(図36)に関する質問については、誤差の最大範囲 lvi は2.7
パーセントポイントである。
同様に、環境の分類は、専門家と非専門家の間で統計的に有意な差異
のあったリスクの割合が最も高かった。差異がある場合、一般に、専門
家の方がリスクの発生の可能性が高いと認識していた。ただし、非専
門家の方が発生の可能性が高いと捉えていたリスクが4つあった。
極端な所得格差、制御できないインフレ/デフレ、宗教的狂信主義の
台頭、ナノテクノロジーの予期せぬ影響である。興味深いことに、宗教
的狂信主義の台頭は、リスク相互連関性マップにおいて最も連関性の
強いリスクの一つであった。
国の回復および適応性に関する質問については、誤差の範囲は、その
質問においてどれだけの回答者が対象となる国を評価したかに大きく
依存している(上記のように、調査回答者がどの国を評価するかを選
択することができる)。付録3の表は、数値について詳述している。
最後に、男性と女性で統計的に有意な差異を観察した際、女性の方が
悲観的であり、リスクの発生の可能性をより高く評価する傾向にあっ
た。男女の意見の差が最も大きかったのは、前例のない地球物理的破
壊のリスクに関するもので、0.41の差異(5段階評価)があった。
1,234人の回答者全員が回答したグローバルな発生の可能性とグロー
バルな影響に関する質問(図1、2、29、30)については、誤差の最大範
囲 lvは0.07単位である。
表1-2
居住地域
lv
lvi
62
誤差の範囲は、50のリスクそれぞれについて若干異なる。付録2の表3を参照。
誤差の範囲は、5つの分類と選択されうる回答ごとに異なる。
Global Risks 2013
ステークホルダー
As
アジア
Ac
学界
E
欧州
B
企業
LatAm
ラテンアメリカ
G
政府
NthA
北米
IO
国際機関
MENA
中東/北アフリカ
N
NGO
SSA
サハラ以南のアフリカ
Other
Other
Section 1
表1:今後10年間のグローバルリスクの発生の可能性に関するグループ間lviiの比較lviii
リスク
居住地域
ステークホルダー
年齢
性別
40歳以下
41歳以上
専門知識
男性
女性
専門家
非専門家
NthA > その他全ての地域
-
-
-
4.02 > 3.91
長期間にわたる労働市場の不均衡
NthA, SSA > E, LatAm
-
-
3.65 < 3.79
-
-
-
-
-
-
-
-
-
エネルギー・農産物価格の急激な変動
新興経済のハードランディング
NthA > E, LatAm, MENA, SSA
As > MENA
大規模でシステミックな金融破綻
-
-
-
NthA > その他全ての地域
-
-
3.24 < 3.38
-
-
流動性危機の頻発
NthA, E, MENA > LatAm
-
-
-
-
極端な所得格差
NthA > As, E, LatAm
NGO > G
-
4.19 < 4.31
4.15 < 4.29
規制の予期せぬ悪影響
NthA > LatAm
B > NGO, Ac, G, IO
制御できないインフレ/デフレ
As > NthA, E, LatAm
SSA > LatAm
抗生物質耐性菌
NthA > As, LatAm
E > LatAm
Other > IO
気候変動への適応の失敗
NthA > As, E, MENA
NGO > G
修復不能な汚染
-
NthA > As, E, MENA
都市化の管理の失敗
NthA > As, E, MENA
長引く異常気象
NthA > As, E, MENA
温室効果ガス排出量の増大
NthA > その他全ての地域
生物種の乱獲
NthA > MENA
前例のない地球物理的破壊
As > MENA, E
NthA > E
磁気嵐に対する脆弱性
脆弱化した重要国家
NGO > IO
NGO > B
-
3.41 > 3.21
-
3.12 < 3.24
-
-
3.67 > 3.36
3.69 < 3.81
3.71 < 3.89
4.04 > 3.69
3.48 > 3.24
3.25 < 3.6
3.62 > 3.28
-
3.54 < 3.77
3.91 > 3.53
-
3.64 < 3.8
-
3.64 < 3.85
4.07 > 3.61
-
4.28 > 3.86
3.87 < 4
3.9 > 3.64
-
3.24 > 3.11
3.06 < 3.47
-
As > E, MENA
-
-
2.53 < 2.75
-
NthA > As, LatAm
-
-
-
-
大量破壊兵器の拡散
NthA > その他全ての地域
-
3.14 < 3.3
-
3.34 > 3.18
根強い犯罪組織
NthA, LatAm > As, E
-
-
3.4 < 3.61
3.57 > 3.41
外交による紛争解決の失敗
NthA > As, E, LatAm, SSA
NthA > As, LatAm
-
-
-
グローバル・ガバナンスの破綻
E > As
-
-
-
-
宇宙の軍事化
As > LatAm
-
-
2.75 < 2.95
-
不正行為の蔓延
NthA > As, E
-
-
3.69 < 3.87
-
テロリズム
NthA > As, LatAm, E
-
-
-
-
一方的な資源の国有化
NthA > MENA, LatAm, SSA
-
-
-
-
不正取引の蔓延
NthA > As, E, LatAm
-
-
3.38 < 3.57
-
グローバル化に対する反動
NthA > LatAm
-
-
3.18 > 3.04
-
食糧不足危機
NthA > As, LatAm
-
-
3.55 < 3.71
3.69 > 3.52
実効性のない麻薬政策
LatAm, NthA > As, E, SSA
E > As
-
-
-
-
高齢化への対応の失敗
NthA, E > As, LatAm, SSA, MENA
慢性疾患率の上昇
NthA > As, E, MENA, LatAm
宗教的狂信主義の台頭
NthA > As, E, LatAm
統制されない移住
NthA, E > As
パンデミックに対する脆弱性
その他全てのステ
ークホルダー > G
NGO > G
NthA > E, MENA, LatAm
As > E
水供給危機
-
-
-
-
-
3.37 < 3.57
3.52 > 3.36
-
-
-
3.59 < 3.71
-
3.34 < 3.63
3.5 > 3.36
-
3.52 > 3.38
3.39 < 3.6
3.53 > 3.37
-
-
-
-
-
NGO > G
-
-
4 > 3.6
-
3.78 < 4.01
-
重要システムの故障
NthA, E, As, SSA > LatAm
Ac, Other > IO,
NGO
-
-
-
サイバー攻撃
NthA > その他全ての地域
E > SSA
Ac, B, NGO > IO
-
-
4.01 > 3.75
知的財産管理体制の不備
As, E, NthA > MENA
B>G
-
-
3.13 > 2.96
誤った電子情報の大々的な流布
As > LatAm
-
-
-
大規模なデータの不正利用/窃盗
NthA > As, E, LatAm
B > IO
-
-
3.68 > 3.46
鉱物資源供給の脆弱性
E > LatAm, MENA
As > MENA
NGO, B > IO
-
-
-
宇宙ゴミの拡散
-
Ac > IO
-
-
2.97 > 2.83
気候変動緩和対策の予期せぬ影響
NthA > E
Other > IO
-
3.17 < 3.36
-
ナノテクノロジーの予期せぬ影響
-
-
-
2.71 < 3
新たな生命科学技術の予期せぬ影響
-
-
-
3.08 < 3.22
lvii
lviii
Section 6
-
Section 5
-
持続不可能な人口増加
NGO > G
-
Section 4
土地・水路管理の失敗
-
3.25 > 3.11
Section 3
-
長期にわたるインフラ整備不足
Section 2
長期間にわたる財政不均衡
2.69 < 2.83
-
分散分析(ANOVA)により、サブグループの平均値がすべて等しいかどうかを検定した。平均値が等しくないリスクについては、シダック法による事後検定を行い、どのグループ間の一対比較の差
異が5%水準で有意かを明らかにした。
統計的に有意な差異のみ表示している。そうでない場合、表のセルは空欄になっている。
Global Risks 2013
63
Section 1
影響:比較
Section 2
予測される影響に関しては、リスクの48%について地域的な差異が見
られた。最も差異の大きかったリスクの分類は環境で、最も差異が少
なかったのは経済であった(表2を参照)。統計的に有意な差異が存
在する場合、ラテンアメリカの回答者は、これらのリスクの50%につい
て他の地域の回答者よりも影響を大きく認識していた。鉱物資源供給
の脆弱性のリスクを除き、欧州の回答者は概して他の地域の回答者よ
りも、リスクの影響を小さく認識していた。
ステークホルダー・グループの間では、統計的に有意な差異が見られ
たのはリスクの半数未満で、NGOは影響をより大きく認識し、企業は
影響をより小さく認識する傾向があった。ただし、その中でも、2つの
例外があった。新興経済のハードランディングと高齢化への対応の
失敗である。
Section 3
40歳以下の回答者と41歳以上の回答者の間では、リスクの半数につい
て統計的に有意な差異が存在し、若い世代の方が影響を大きく認識し
ていた。差異が最も大きかったのは修復不能な汚染であり、その差は
0.32単位であった。
男性と女性の意見は、50のリスクのうち39について大きく異なってい
た。特に差異が目立ったのは、地政学の分類においてであり、10のリスク
全てに差異が見られた。大きな差異のあった39のリスク全てにおいて、
男性の方がリスクの影響を小さく認識していた。差異が最も大きかっ
たのは根強い犯罪組織であり、その差は0.43であった。
Section 4
統計的に有意な差異が最も少なかったのは、専門家と非専門家の間で
あった。統計的に有意な差異があったリスクはわずか15で、地政学の
分類には一つもなく、テクノロジーの分類では一つのみであった。差異
が存在する場合、専門家の方が一般に、リスクの影響を大きく評価し
ていた。例外は、極端な所得格差とナノテクノロジーの予期せぬ影響
の2つであった。
Section 5
Section 6
64
Global Risks 2013
Section 1
表2:実現した場合のグローバルリスクの影響に関するグループ間lvixの比較 lvx
リスク
居住地域
ステークホルダー
年齢
性別
40歳以下
-
-
長期間にわたる労働市場の不均衡
-
-
エネルギー・農産物価格の急激な変動
-
-
新興経済のハードランディング
-
大規模でシステミックな金融破綻
-
長期にわたるインフラ整備不足
B, Ac > G
NthA > E
流動性危機の頻発
-
3.86 > 3.62
-
専門知識
男性
女性
-
専門家
非専門家
4.03 > 3.92
3.68 < 3.88
-
3.84 < 3.98
-
-
-
-
-
4.1 > 4
-
-
-
-
-
極端な所得格差
SSA > As, E
Ac, NGO, Other > B
規制の予期せぬ悪影響
SSA > E, NthA
As > E
Other > Ac, IO
3.71 > 3.61
3.24 > 3.13
3.15 < 3.29
-
3.62 < 3.75
-
3.71 < 4.06
3.72 < 3.89
3.12 < 3.33
3.25 > 3.11
-
-
3.63 > 3.52
-
-
-
-
3.63 > 3.51
-
-
-
3.82 > 3.5
3.55 < 3.92
-
3.66 > 3.5
3.47 < 3.83
3.72 > 3.54
-
NGO > B
-
3.8 < 4.16
4.17 > 3.84
修復不能な汚染
LatAm > E, NthA
土地・水路管理の失敗
LatAm > As, E
都市化の管理の失敗
LatAm > E
NGO, Other > B
-
3.31 < 3.59
3.6 > 3.33
長引く異常気象
NthA, LatAm > E
NGO > B
-
3.56 < 3.87
3.95 > 3.57
温室効果ガス排出量の増大
NthA > As
NGO > B, G
-
3.82 < 4.04
4.23 > 3.8
NGO > B
-
3.29 < 3.55
3.72 > 3.27
3.25 < 3.55
-
生物種の乱獲
NGO > Ac, B
NthA, LatAm, As > E
-
磁気嵐に対する脆弱性
LatAm > NthA, E, As
-
脆弱化した重要国家
-
大量破壊兵器の拡散
NthA > As
根強い犯罪組織
LatAm > As, E, NthA
IO, NGO > B
3.45 > 3.24
-
-
-
3.5 < 3.63
-
-
3.86 < 4.07
-
3.3 > 3.13
3.09 < 3.52
-
3.61 > 3.46
外交による紛争解決の失敗
-
-
-
3.64 < 3.81
-
グローバル・ガバナンスの破綻
-
Other > B
-
3.74 < 3.92
-
3.24 > 3.1
3.1 < 3.33
-
3.57 > 3.38
3.38 < 3.69
-
宇宙の軍事化
-
不正行為の蔓延
LatAm > As, E
SSA > E
テロリズム
NthA, As, MENA > E
不正取引の蔓延
MENA > As, E, NthA
LatAm > As, E
SSA > E
3.5 < 3.82
-
NGO > IO
-
-
3.36 < 3.53
-
NGO > Ac, B
-
2.91 < 3.33
-
グローバル化に対する反動
-
-
食糧不足危機
-
-
実効性のない麻薬政策
LatAm > その他全ての地域
高齢化への対応の失敗
-
慢性疾患率の上昇
LatAm, NthA > E
宗教的狂信主義の台頭
NthA > E, As
持続不可能な人口増加
-
NGO, B > G
-
-
3.94 > 3.73
NGO > B
3.42 > 3.28
-
-
3.76 < 4.01
-
2.95 < 3.25
3.14 > 2.94
3.25 < 3.58
3.44 > 3.27
-
3.59 < 3.76
-
-
3.27 < 3.69
3.49 > 3.3
-
3.78 > 3.64
3.63 < 3.91
パンデミックに対する脆弱性
NthA > E
-
3.68 > 3.54
3.56 < 3.71
-
水供給危機
LatAm > E, As
-
4.12 > 3.87
3.89 < 4.22
4.05 > 3.93
3.74 > 3.52
重要システムの故障
-
-
サイバー攻撃
-
-
知的財産管理体制の不備
-
-
3.05 > 2.94
-
3.47 < 3.63
-
3.8 > 3.63
-
誤った電子情報の大々的な流布
MENA > E, NthA
-
3.36 > 3.15
3.15 < 3.48
-
大規模なデータの不正利用/窃盗
MENA, LatAm > E
-
3.34 > 3.21
3.2 < 3.46
-
鉱物資源供給の脆弱性
E > NthA
NGO > IO
-
-
-
宇宙ゴミの拡散
LatAm, As > NthA
NGO > B, IO
Other > IO
-
2.73 < 2.96
-
-
気候変動緩和対策の予期せぬ影響
-
Other > B
3.27 < 3.57
-
ナノテクノロジーの予期せぬ影響
-
NGO > B, IO
3.09 > 2.91
2.9 < 3.23
2.84 < 3.04
新たな生命科学技術の予期せぬ影響
-
NGO > IO
3.43 > 3.3
3.29 < 3.53
-
lvix
lvx
Section 6
統制されない移住
NGO > B
3.67 > 3.52
Section 5
一方的な資源の国有化
NGO > Ac, B, G
Other > B
Section 4
前例のない地球物理的破壊
Section 3
制御できないインフレ/デフレ
抗生物質耐性菌
気候変動への適応の失敗
Section 2
長期間にわたる財政不均衡
41歳以上
分散分析(ANOVA)により、サブグループの平均値がすべて等しいかどうかを検定した。平均値が等しくないリスクについては、シダック法による事後検定を行い、どのグループ間の一対比較の
差異が5%水準で有意かを明らかにした。
統計的に有意な差異のみ表示している。そうでない場合、表のセルは空欄になっている。
Global Risks 2013
65
Section 1
発生の可能性と影響-平均スコアと誤差の範囲
Section 2
以下の表は、発生の可能性と影響の平均スコアとその誤差の範囲
(95%信頼水準に基づく)を示している。誤差の範囲が大きければ大
きいほど、結果が調査母集団全体の「実際」の数値に近似していると
いう信頼性が低くなる(付録1を参照)。
表3:発生の可能性と影響の平均スコアとその誤差の範囲
Section 3
Section 4
Section 5
Section 6
リスク
発生の可能性
影響
長期間にわたる財政不均衡
3.97 +/- 0.05
3.97 +/- 0.05
長期間にわたる労働市場の不均衡
3.69 +/- 0.05
3.73 +/- 0.05
エネルギー・農産物価格の急激な変動
3.71 +/- 0.05
3.88 +/- 0.05
新興経済のハードランディング
3.46 +/- 0.05
3.49 +/- 0.05
大規模でシステミックな金融破綻
3.44 +/- 0.06
4.04 +/- 0.05
長期にわたるインフラ整備不足
3.32 +/- 0.06
3.19 +/- 0.05
流動性危機の頻発
3.36 +/- 0.05
3.66 +/- 0.05
極端な所得格差
4.22 +/- 0.05
3.8 +/- 0.05
規制の予期せぬ悪影響
3.31 +/- 0.06
3.18 +/- 0.06
制御できないインフレ/デフレ
3.18 +/- 0.05
3.57 +/- 0.05
抗生物質耐性菌
3.42 +/- 0.06
3.57 +/- 0.06
気候変動への適応の失敗
3.76 +/- 0.06
3.9 +/- 0.06
修復不能な汚染
3.35 +/- 0.06
3.65 +/- 0.06
土地・水路管理の失敗
3.61 +/- 0.06
3.57 +/- 0.05
都市化の管理の失敗
3.69 +/- 0.06
3.39 +/- 0.06
長引く異常気象
3.7 +/- 0.06
3.65 +/- 0.06
温室効果ガス排出量の増大
3.94 +/- 0.05
3.88 +/- 0.05
生物種の乱獲
3.68 +/- 0.06
3.36 +/- 0.06
前例のない地球物理的破壊
3.17 +/- 0.06
3.33 +/- 0.06
磁気嵐に対する脆弱性
2.59 +/- 0.06
3.16 +/- 0.06
脆弱化した重要国家
3.38 +/- 0.06
3.53 +/- 0.05
大量破壊兵器の拡散
3.23 +/- 0.06
3.92 +/- 0.06
根強い犯罪組織
3.46 +/- 0.06
3.21 +/- 0.06
外交による紛争解決の失敗
3.58 +/- 0.06
3.69 +/- 0.05
グローバル・ガバナンスの破綻
3.69 +/- 0.06
3.79 +/- 0.05
宇宙の軍事化
2.81 +/- 0.06
3.16 +/- 0.06
不正行為の蔓延
3.74 +/- 0.06
3.47 +/- 0.06
テロリズム
3.64 +/- 0.06
3.59 +/- 0.06
一方的な資源の国有化
3.35 +/- 0.06
3.4 +/- 0.06
不正取引の蔓延
3.43 +/- 0.06
3.03 +/- 0.06
グローバル化に対する反動
3.14 +/- 0.06
3.34 +/- 0.06
食糧不足危機
3.6 +/- 0.06
3.83 +/- 0.06
実効性のない麻薬政策
3.41 +/- 0.06
3.03 +/- 0.06
高齢化への対応の失敗
3.83 +/- 0.05
3.67 +/- 0.05
慢性疾患率の上昇
3.43 +/- 0.06
3.35 +/- 0.05
宗教的狂信主義の台頭
3.66 +/- 0.06
3.64 +/- 0.06
統制されない移住
3.42 +/- 0.06
3.39 +/- 0.06
持続不可能な人口増加
3.45 +/- 0.06
3.71 +/- 0.06
パンデミックに対する脆弱性
3.2 +/- 0.06
3.6 +/- 0.06
水供給危機
3.85 +/- 0.05
3.98 +/- 0.05
重要システムの故障
2.96 +/- 0.06
3.62 +/- 0.06
サイバー攻撃
3.82 +/- 0.06
3.52 +/- 0.06
知的財産管理体制の不備
3 +/- 0.06
2.99 +/- 0.06
誤った電子情報の大々的な流布
3.36 +/- 0.07
3.24 +/- 0.06
大規模なデータの不正利用/窃盗
3.52 +/- 0.06
3.27 +/- 0.06
鉱物資源供給の脆弱性
3.42 +/- 0.06
3.45 +/- 0.06
宇宙ゴミの拡散
2.87 +/- 0.06
2.8 +/- 0.06
気候変動緩和対策の予期せぬ影響
3.23 +/- 0.06
3.35 +/- 0.06
ナノテクノロジーの予期せぬ影響
2.79 +/- 0.06
2.99 +/- 0.06
新たな生命科学技術の予期せぬ影響
3.11 +/- 0.06
3.36 +/- 0.06
付録3:
弾力性
付録3.1
世界経済フォーラムのエグゼクティブ・オピニオン調査の回答者1万
4,000人以上 lxiに、各自の国の政府によるリスクマネジメントの有効性
を評価するように依頼した。
「あなたの国の政府が主要なグローバルリスク(金融危機、自然
災害、気候変動、パンデミック等)のモニタリング、それに対する
準備、対応、緩和のために実施している全体的なリスクマネジメ
ントの有効性をどのように評価されますか?」
(1=主要なグロー
バルリスクが効果的に管理されていない、7=主要なグローバル
リスクが効果的に管理されている)
表4は、各国の平均結果をスコアの高い方からランク付けして示したも
のである。シンガポールと多くのイノベーション主導型経済国(フォー
ラムのグローバル競争力指数のステージ3)は、要素主導型(ステージ
1)経済国よりも上位に入っている。この表はまた、各国の調査標本の
サイズと誤差の範囲、ISOコード、発展のステージも示している。黄色
で示している国は、
特集で紹介した事前分析に使用した国であり、
グロー
バルリスク意識調査からの利用可能な標本サイズを基準に選出されて
いる(表5を参照)。
lxi
66
Global Risks 2013
エグゼクティブ・オピニオン調査は、フォーラムの代表的な意識調査であり、自社が事業を
行っている国に対する中小企業の経営トップの意識を標本抽出して調べるために毎年実施
されている。
Section 1
表4:エグゼクティブ・オピニオン調査質問2.07「リスクマネジメン
トの有効性」の結果lxii
シンガポール
SGP
ステージ3
171
6.08
0.11
53
スペイン
ESP
ステージ3
90
4.03
0.36
2
カタール
QAT
1から2への過渡期
113
6.01
0.18
54
ヨルダン
JOR
ステージ2
155
3.92
0.24
3
オマーン
OMN
2から3への過渡期
75
5.55
0.26
55
タジキスタン
TJK
ステージ1
97
3.91
0.35
4
アラブ首長国連
邦
ARE
ステージ3
163
5.47
0.17
56
ステージ2
86
3.90
0.35
5
カナダ
CAN
ステージ3
101
5.41
0.20
57
ポーランド
POL
2から3への過渡期
205
3.87
0.19
6
スウェーデン
SWE
ステージ3
76
5.41
0.28
58
チェコ
CZE
ステージ3
159
3.87
0.25
7
サウジアラビア
SAU
1から2への過渡期
94
5.41
0.29
59
ペルー
PER
ステージ2
83
3.83
0.31
8
ニュージーランド
NZL
ステージ3
52
5.40
0.24
60
エチオピア
ETH
ステージ1
57
3.83
0.34
9
フィンランド
FIN
ステージ3
36
5.32
0.43
61
ウルグアイ
URY
2から3への過渡期
80
3.80
0.33
10
チリ
CHL
2から3への過渡期
78
5.20
0.29
62
オーストリア
AUT
ステージ3
105
3.80
0.29
11
ノルウェー
NOR
ステージ3
74
5.15
0.24
63
カーボベルデ
CPV
ステージ2
103
3.75
0.27
12
メキシコ
MEX
2から3への過渡期
268
5.13
0.15
64
リトアニア
LTU
2から3への過渡期
148
3.74
0.25
13
オランダ
NLD
ステージ3
81
5.06
0.25
65
アイルランド
IRL
ステージ3
60
3.70
0.34
14
マレーシア
MYS
2から3への過渡期
78
4.97
0.25
66
フィリピン
PHL
1から2への過渡期
126
3.69
0.25
15
香港
HKG
ステージ3
68
4.96
0.35
67
日本
JPN
ステージ3
111
3.67
0.28
16
カザフスタン
KAZ
2から3への過渡期
100
4.93
0.35
68
アルメニア
ARM
ステージ2
77
3.65
0.28
17
ドイツ
DEU
ステージ3
127
4.90
0.25
69
ブルキナファソ
BFA
ステージ1
39
3.64
0.46
18
トルコ
TUR
2から3への過渡期
84
4.83
0.28
70
ベナン
BEN
ステージ1
81
3.62
0.40
19
スイス
CHE
ステージ3
77
4.82
0.32
71
ギニア
GIN
ステージ1
57
3.61
0.44
20
英国
GBR
ステージ3
102
4.81
0.28
72
ナミビア
NAM
ステージ2
81
3.60
0.32
21
ボツワナ
BWA
1から2への過渡期
78
4.80
0.27
73
ロシア
RUS
2から3への過渡期
413
3.60
0.14
22
ガンビア
GMB
ステージ1
84
4.78
0.26
74
アイスランド
ISL
ステージ3
92
3.58
0.31
23
台湾
TWN
ステージ3
70
4.75
0.26
75
イラン
IRN
1から2への過渡期
560
3.57
0.13
24
ブルネイ
BRN
1から2への過渡期
41
4.75
0.39
76
ニカラグア
NIC
ステージ1
77
3.57
0.25
25
ルクセンブルク
LUX
ステージ3
44
4.65
0.43
77
ザンビア
ZMB
ステージ1
88
3.57
0.33
26
アゼルバイジャン
AZE
1から2への過渡期
89
4.63
0.30
78
モザンビーク
MOZ
ステージ1
87
3.56
0.35
27
モーリシャス
MUS
ステージ2
91
4.58
0.31
79
リベリア
LBR
ステージ1
84
3.56
0.31
28
エストニア
EST
2から3への過渡期
82
4.54
0.31
80
ジャマイカ
JAM
ステージ2
75
3.53
0.30
29
米国
USA
ステージ3
390
4.53
0.14
81
ガーナ
GHA
ステージ1
77
3.53
0.31
30
中国
CHN
ステージ2
369
4.51
0.13
82
ボリビア
BOL
1から2への過渡期
71
3.52
0.27
31
フランス
FRA
ステージ3
128
4.51
0.27
83
コートジボワール
CIV
ステージ1
91
3.46
0.30
32
オーストラリア
AUS
ステージ3
67
4.49
0.41
84
コスタリカ
CRI
ステージ2
94
3.44
0.27
33
バーレーン
BHR
2から3への過渡期
63
4.47
0.38
85
コロンビア
COL
ステージ2
281
3.43
0.17
34
南アフリカ
ZAF
ステージ2
45
4.42
0.38
86
ベトナム
VNM
ステージ1
94
3.40
0.30
35
マルタ
MLT
ステージ3
57
4.36
0.44
87
東ティモール
TLS
ステージ2
33
3.39
0.61
36
ガボン
GAB
1から2への過渡期
48
4.34
0.36
88
ドミニカ共和国
DOM
ステージ2
90
3.38
0.32
37
モロッコ
MAR
ステージ2
40
4.33
0.45
89
セネガル
SEN
ステージ1
91
3.35
0.33
38
インド
IND
ステージ1
119
4.31
0.27
90
リビア
LBY
1から2への過渡期
68
3.33
0.40
39
イタリア
ITA
ステージ3
86
4.24
0.32
91
モンゴル
MNG
1から2への過渡期
82
3.27
0.31
40
バルバドス
BRB
2から3への過渡期
69
4.24
0.34
92
ブルガリア
BGR
ステージ2
119
3.26
0.24
41
韓国
KOR
ステージ3
98
4.23
0.25
93
ラトビア
LVA
2から3への過渡期
98
3.24
0.29
42
モンテネグロ
MNE
ステージ2
74
4.20
0.35
94
BIH
ステージ2
100
3.22
0.24
43
セイシェル
SYC
2から3への過渡期
32
4.20
0.51
ボスニア・ヘルツ
ェゴビナ
44
イスラエル
ISR
ステージ3
50
4.19
0.40
95
カメルーン
CMR
ステージ1
61
3.21
0.36
45
ブラジル
BRA
2から3への過渡期
141
4.16
0.23
96
トリニダード・トバゴ TTO
2から3への過渡期
149
3.21
0.23
46
パナマ
PAN
ステージ2
132
4.15
0.20
97
スリナム
SUR
ステージ2
36
3.17
0.37
47
デンマーク
DNK
ステージ3
128
4.10
0.28
98
スロバキア
SVK
ステージ3
65
3.11
0.33
48
カンボジア
KHM
ステージ1
73
4.09
0.33
99
マリ
MLI
ステージ1
99
3.06
0.35
49
インドネシア
IDN
ステージ2
88
4.08
0.32
100
マラウイ
MWI
ステージ1
60
3.05
0.38
50
ベルギー
BEL
ステージ3
83
4.07
0.36
101
ナイジェリア
NGA
ステージ1
102
3.05
0.31
51
ポルトガル
PRT
ステージ3
114
4.06
0.25
102
グアテマラ
GTM
ステージ2
83
3.04
0.29
52
プエルトリコ
PRI
ステージ3
70
4.05
0.40
103
ハンガリー
HUN
2から3への過渡期
103
3.03
0.32
青色で示している国は、グローバルリスク意識調査の回答に基づき十分な標本サイズが得
られた国である。
ISO
経済発展のステージ
MKD
マケドニア
(旧ユーゴスラビア)
Section 6
1
国
Section 5
経済発展のステージ
Section 4
ISO
Section 3
国
lxii
順位
95%信
頼水準
リスクマ に お け
ネジメント る 誤 差
標本数 のスコア の範囲
表は次ページに続く
Global Risks 2013
Section 2
順位
95%信
頼水準
リスクマ に お け
ネジメント る 誤 差
標本数 のスコア の範囲
67
Section 1
Section 2
Section 3
Section 4
Section 5
順位
国
ISO
経済発展のステージ
95%信
頼水準
リスクマ に お け
ネジメント る 誤 差
標本数 のスコア の範囲
104
バングラデシュ
BGD
ステージ1
84
3.03
0.31
105
エジプト
EGY
1から2への過渡期
73
3.02
0.33
106
ガイアナ
GUY
ステージ2
89
3.02
0.31
107
クロアチア
HRV
2から3への過渡期
107
3.00
0.23
108
ウガンダ
UGA
ステージ1
87
2.99
0.30
109
タイ
THA
ステージ2
75
2.98
0.37
110
キプロス
CYP
ステージ3
78
2.97
0.30
111
モーリタニア
MRT
ステージ1
78
2.97
0.37
112
ケニア
KEN
ステージ1
109
2.93
0.31
113
モルドバ
MDA
ステージ1
112
2.93
0.25
114
タンザニア
TZA
ステージ1
97
2.90
0.29
115
レソト
LSO
ステージ1
80
2.87
0.34
116
スロベニア
SVN
ステージ3
109
2.84
0.28
117
クウェート
KWT
1から2への過渡期
37
2.81
0.62
118
セルビア
SRB
ステージ2
99
2.81
0.31
119
ウクライナ
UKR
ステージ2
108
2.65
0.27
120
ネパール
NPL
ステージ1
91
2.64
0.28
121
アルジェリア
DZA
1から2への過渡期
33
2.64
0.57
122
シエラレオネ
SLE
ステージ1
99
2.59
0.31
123
ルーマニア
ROU
ステージ2
98
2.53
0.27
124
スワジランド
SWZ
ステージ2
50
2.52
0.39
125
チャド
TCD
ステージ1
103
2.49
0.27
126
パキスタン
PAK
ステージ1
106
2.47
0.24
127
ジンバブエ
ZWE
ステージ1
63
2.46
0.28
128
ホンジュラス
HND
1から2への過渡期
85
2.43
0.27
129
レバノン
LBN
2から3への過渡期
38
2.42
0.39
130
マダガスカル
MDG
ステージ1
88
2.40
0.21
131
パラグアイ
PRY
ステージ2
78
2.29
0.26
132
エルサルバドル
SLV
ステージ2
34
2.28
0.41
133
キルギス
KGZ
ステージ1
96
2.21
0.26
134
ブルンジ
BDI
ステージ1
90
2.18
0.21
135
ハイチ
HTI
ステージ1
66
2.16
0.29
136
ギリシャ
GRC
ステージ3
78
2.12
0.23
137
イエメン
YEM
ステージ1
52
2.12
0.35
138
アルゼンチン
ARG
2から3への過渡期
96
2.08
0.25
139
ベネズエラ
VEN
1から2への過渡期
38
1.68
0.28
一方、グローバルリスク意識調査の回答者には、各自が専門とする国
の、リスクの影響に適応する能力やその影響から回復する能力につい
てリスクごとに質問した。
「あなたの国には、グローバルリスクによる国家的な影響に適応す
る能力やその影響から回復する能力がどのぐらいありますか?」
表5は、適応性/回復性のスコアの高い順に各国をランク付けしたもの
である。エグゼクティブ・オピニオン調査のリスクマネジメントに関する
質問の結果同様、ここでも、シンガポールと多くのステージ3のイノベー
ション主導型経済国がステージ1の要素主導型経済国よりも上位に
入っている。表には、各国の調査標本サイズに関する詳細と経済発展
のステージも記載している。表5の国を経済発展のステージという観点
から分析すると、国のグループ分けに関する有用な方法が見えてくると
ともに、経済発展のステージによるグループ分けが最善の方法かどう
かが検証できるlxiii。
『グローバル競争力報告書2012-2013』において、
経済発展のステージは、以下のように定義されている。
-- 第1ステージにある経済国は、主に要素主導型(factor-driven)であ
り、その要素賦存量-主に、低熟練労働力と天然資源-を頼りに競
争している。
-- ステージ1からステージ2への過渡期。
-- 第2ステージにある経済国は、効率主導型(efficiency-driven)の発
展ステージに移行している。賃金が上昇している一方、価格を引き
上げることはできないため、より効率的な生産プロセスの開発と製
品の品質向上を開始しなければならない。
-- ステージ2からステージ3への過渡期。
-- 第3ステージにある経済国は、イノベーション主導型(innovationdriven)のステージに移行している。賃金がかなり上昇しているた
め、企業が新しい、あるいは独自の製品、サービス、モデル、プロセ
スを武器に競争することができなければ、上昇した賃金と関連する
生活水準を維持できない。
青色で示している国は、特集セクションで紹介した事前分析に使用し
た国である。誤差の範囲が0.5単位未満(95%信頼区間で1単位未満に
相当)となることを保証するのに十分な標本サイズがその国にあるか
どうかを基準に選出した。66カ国については、標本サイズが5未満で
あったため、以下の表から除外しているlxiv。
Section 6
lxiii
lxiv
68
Global Risks 2013
経済発展のステージによるグループ分けは、現時点で本報告書のために利用できる最良の
データである。他のグループ、たとえば一人当たりGDPや所得水準によるグループ分けの可
能性を探るために更なる分析を進める予定である。
表5に挙げている国のうち、標本サイズが小さいものについては誤差の範囲が大きくなるた
め、詳細な分析からは除外した。
Section 1
表5:グローバルリスク意識調査の弾力性に関する質問の結果
10
3.66
0.93
2
ノルウェー
ステージ3
6
3.56
1.62
3
スウェーデン
ステージ3
8
3.46
1.07
4
スイス
ステージ3
32
3.37
0.43
5
アラブ首長国連邦
ステージ3
11
3.28
1.01
6
カナダ
ステージ3
18
3.27
0.63
7
中国
ステージ2
72
3.26
0.25
8
チリ
2から3への過渡期
6
3.24
1.71
9
米国
ステージ3
283
3.23
0.12
10
デンマーク
ステージ3
8
3.21
1.20
11
オランダ
ステージ3
20
3.19
0.51
12
ドイツ
ステージ3
40
3.19
0.36
13
イスラエル
ステージ3
8
3.16
1.26
14
オーストラリア
ステージ3
13
3.15
0.76
15
ベルギー
ステージ3
7
3.15
1.35
16
日本
ステージ3
60
3.07
0.29
17
ブラジル
2から3への過渡期
35
3.01
0.44
18
韓国
ステージ3
6
2.96
1.32
19
英国
ステージ3
64
2.95
0.29
20
メキシコ
2から3への過渡期
25
2.93
0.52
21
インドネシア
ステージ2
9
2.9
1.08
22
サウジアラビア
1から2への過渡期
9
2.87
1.21
23
ポーランド
2から3への過渡期
14
2.86
0.74
24
チュニジア
ステージ2
16
2.85
0.77
25
ロシア
2から3への過渡期
35
2.84
0.48
26
フランス
ステージ3
6
2.81
1.63
27
ベトナム
ステージ1
13
2.79
0.77
28
南アフリカ
ステージ2
25
2.77
0.57
29
タイ
ステージ2
6
2.75
1.51
30
コスタリカ
ステージ2
11
2.74
0.97
31
ペルー
ステージ2
6
2.73
1.65
32
インド
ステージ1
64
2.71
0.28
33
パナマ
ステージ2
13
2.67
0.95
34
イタリア
ステージ3
31
2.67
0.40
35
マレーシア
2から3への過渡期
10
2.64
0.80
36
トルコ
2から3への過渡期
11
2.61
0.95
37
ウクライナ
ステージ2
11
2.54
0.99
38
クウェート
1から2への過渡期
7
2.52
1.48
39
エジプト
1から2への過渡期
10
2.47
0.89
40
モーリシャス
ステージ2
9
2.46
1.01
41
アルゼンチン
2から3への過渡期
6
2.46
1.41
42
ドミニカ共和国
ステージ2
5
2.44
1.94
43
スペイン
ステージ3
9
2.4
1.10
44
フィリピン
1から2への過渡期
9
2.4
0.89
45
パキスタン
ステージ1
10
2.37
1.17
46
コロンピア
ステージ2
7
2.34
1.20
47
ヨルダン
ステージ2
7
2.23
1.48
48
ナイジェリア
ステージ1
16
2.21
0.66
49
エチオピア
ステージ1
7
2.08
1.41
表6:弾力性の構成要素の指標の候補 lxvi
弾力
性の
構成
要素
構成要素の
属性
堅牢性 システムの
健全性のモ
ニタリング
指標となりうるエグ
ゼクティブ・オピニ
オン
調査の項目
定量的指標となりうる指数
自然環境の質
世界銀行の
ヘルスケア・システ ロジスティクス・パフォーマンス指数
ムの質
全体的なインフラ
の質
教育システムの質
モジュール
性
クラスター開発の
状況
適応性の高
い意思決定
モデル
権限委任に対する ヘリテージ財団「2012年経済的自由度指
積極性
数」の経済的自由度指数
冗長性 重要インフ
ラの冗長性
解決策と戦
略の多様性
臨機 自己組織化
応変性 のための能
力
Gwartney, J., Lawson, R., & Clark, J. R.
Economic Freedom of the world, 2012の
世界経済的自由度指数(Economic
Freedoms of the World Index)
現地サプライヤー
の数
埋蔵量
再生可能な淡水資源
WHO「世界健康統計」の医師密度
バリューチェーン
の大きさ
イェール大学「環境パフォーマンス指
数」の環境パフォーマンス指数(生態系
の活力)
デジタルコンテン 国連開発計画「人間開発指数」の教育指
ツのアクセシビリ 数
ティ
バーチャルなソー
シャルネットワーク
の利用度
創造性とイノ 最新テクノロジー
ベーション
世界銀行「世界開発指数」の研究開発費
GDP比率
対応力 コミュニケー 政治家に対する国 IREXのメディア持続可能性指数(Media
ション
民の信頼
Sustinability Index)
包括的参加
企業と政府の関係 企業の規制環境
世界銀行「国別政策・制度評価」の構造
政策分野の項目
回復力 監督行政上 改革の実施効率
の機敏なフィ
ードバック・
メカニズム
積極的な
「未来予測」
クラスター間の協
力
世界銀行「アクショナブル・ガバナンス指
標データ・ポータル(Actionable
Governance Indicators Data Portal)」の
アクショナブル・ガバナンス指標
一部の研究は、この属性について、定量的
指標となりうるデータを提案している。た
とえば、研究開発およびイノベーションの
ための官民パートナーシップの開発や中
核的研究拠点・ネットワーク、地域研究主
導型クラスター、イノベーション・ポールの
推進など。(Manjón, J. & Vicente J. A
Proposal of Indicators and Policy
Framework for Innovation Benchmark in
Europe. In Journal of Technology
Management and Innovation, 2010,
5:13-23.)
表7は、本報告書の特集で取り上げた国家の弾力性の枠組みの変数と
なりうる、エグゼクティブ・オピニオン調査の質問を示している。
lxv
lxvi
定性的指標それぞれに関する詳細な質問は、表7を参照。
これらの指標候補は、現在、調査中である。さらなる開発、研究、精緻化を年内に実施する
予定である。
Global Risks 2013
69
Section 6
ステージ3
Section 5
標本数
シンガポール
Section 4
国*回答者が専門とする国 経済発展のステージ
1
Section 3
順位
特集セクションで示したように、堅牢性、冗長性、臨機応変性、対応力
および回復力という5つの構成要素を用いて国のシステムを評価する。
各構成要素は、主要属性によってさらに詳しく定義され、それぞれの属
性について、定性的lxv・定量的指標の候補を挙げている(表6を参照)。
Section 2
95%信頼
水準にお
ける 誤 差
の範囲
適応性/
回復性の
スコア
付録3.2
Section 1
表7:エグゼクティブ・オピニオン調査の質問
Section 2
Section 3
Section 4
Section 5
変数の名称
エグゼクティブ・オピニオン調査の質問
企業と政府の関係
あなたの国の企業と政府の関係をどのように特徴付
けますか??(1=全般的に対立的、7=全般的に協力
的)
0304
政治家に対する国
民の信頼
あなたの国の政治家の倫理基準に対する国民の信頼
度をどのように評価されますか?(1=非常に低い、7=
非常に高い)
0305
改革の実施効率
あなたの国では、政府の改革はどの程度効率的に実
施されていますか?(1=改革が実施されたことは一
度もない、7=改革は非常に効率的に実施されてい
る)
0306
政治家の統治能力 あなたの国の政治家の統治能力をどのように評価さ
れますか?(1=非常に弱い、7=非常に強い)
0308
政府支出の無駄の あなたの国の公共支出の構成をどのように評価されま
多さ
すか?(1=非常に無駄が多い、7=必要な財・サービス
を非常に効率的に提供している)
0510
企業業績の向上の
ための政府のサー
ビス提供
あなたの国の政府は、自国の企業の業績向上を支援
するためのサービス提供をどの程度、継続的に向上
させていますか?(1=全く行われていない、7=幅広く
行われている)
0401
全体的なインフラ
の質
あなたの国の一般的なインフラ(輸送、電話通信、エ
ネルギーなど)をどのように評価されますか?(1=非
常に開発が遅れている、7=広範に開発され、国際基
準に照らして効率的である)
0501
最新テクノロジー
の利用可能性
あなたの国ではどの程度、最新テクノロジーが利用可
能ですか?(1=利用可能ではない、7=広く利用可能で
ある)
0507
クラスター間の協
力
あなたの国では、知識のフローとイノベーションを推進
するために、企業(サプライヤー、競合他社、クライアン
ト)間の協力がどの程度広く行われていますか?(1=協
力は存在しない、7=協力が広く行われている)
0524
デジタルコンテンツ あなたの国では、複数のプラットフォーム(有線イン
のアクセシビリティ ターネット、ワイヤレス・インターネット、モバイルネット
ワーク、衛星)を通じて、デジタルコンテンツ(テキスト
および音声・映像コンテンツ、ソフトウェア製品)にど
の程度アクセスできますか?(1=全くアクセスできな
い、7=広範囲にアクセスできる)
0525
バーチャル・ソーシ あなたの国では、仕事や個人的なコミュニケーション
ャルネットワークの のためにバーチャル・ソーシャルネットワーク(フェイ
利用度
スブック、ツイッター、LinkedInなど)がどの程度幅広
く利用されていますか?(1=全く利用されていない、7
=広範囲に利用されている)
0803
現地サプライヤー
の数
0809
クラスター開発の あなたの国では、高度に発展した大規模なクラスター
状況
(地理的に集中した、関連製品・サービスの企業、サプ
ライヤー、生産者、および特定分野の専門機関の集ま
り)は、どれぐらい広範囲に普及していますか?(1=存在
しない、7=多くの領域において広く見られる)
0902
バリューチェーンの あなたの国では、バリューチェーンにおける輸出企業
規模
の影響力は小さいですか、大きいですか?(1=小さく、
主にバリューチェーンの個別のステップ(たとえば、資
源採掘や生産)に影響している、7=大きく、バリュー
チェーン全体に影響している(すなわち、生産だけでな
く、製品デザイン、マーケティング、ロジスティクス、ア
フターセールス・サービスも実施している))
0910
権限委任に対する
積極性
あなたの国における部下への権限委任の積極性につ
いてどのように評価されますか?(1=積極的でない-
トップマネジメントがあらゆる重要な決定をコント
ロールする、7=非常に積極的-権限の大部分は事業
部門のリーダーその他の下位のマネージャーに委任
されている)
1001
教育システムの質
あなたの国の教育制度は、競争経済のニーズをどの
程度満たしていますか?(1=全く満たしていない、7=
非常によく満たしている)
1102
腐敗と贈収賄の撲
滅対策
あなたの国において、腐敗と贈収賄を撲滅するため
の政府の取り組みは、どのぐらい有効ですか?(1=全
く有効でない、7=非常に有効)
1303
自然環境の質
あなたの国の自然環境の質をどのように評価されま
すか?(1=非常に悪い、7=世界トップレベル)
1401
医療サービスの質
あなたの国で一般市民に提供されている医療(公的
および民間)の質をどのように評価されますか?(1=
非常に劣悪、7=非常にレベルが高い、世界トップレベ
ルの医療制度)
Section 6
質問
0208
70
Global Risks 2013
あなたの国では、現地サプライヤーはどのぐらい多い
ですか?(1=ほぼ存在しない、7=非常に多い)
付録3.3
特集で示したように、誤差の範囲が0.5未満と確認されたのは、ブラジ
ル、中国、ドイツ、インド、イタリア、日本、ロシア、スイス、英国、米国の
10カ国であった。統計学的分析 lxviiが実施され、対象10カ国、地域 lxviiiと
経済的発展のステージ lxixのグループ別に一対比較による差異を特定し
た。
一般に、ステージ3のイノベーション主導型経済国の回答者の方が、グ
ローバルリスクの影響に適応する、あるいはその影響から回復する各
自の国の能力に対する信頼感が大きかった。ステージ1の要素主導型
経済国の回答者は、より悲観的な見解を示した。きわめて興味深いこ
とに、社会的リスクの分類において統計的に有意な差異がなかった唯
一のリスクは、高齢化への対応の失敗であり、ステージ2の効率主導型
経済国の方がステージ3の経済国よりも楽観視していた唯一のリスク
は、宗教的狂信主義の台頭であった。
同様に、北米の回答者は国の能力に対する信頼感が高く、サハラ以南
のアフリカの回答者は信頼感が低かった。国別で見ると、新興経済の
ハードランディングと生物種の乱獲の2つを除く全てのリスクについ
て、統計的に有意な差異が認められた。リスクの分類、場合によっては
個別のリスクによって、リスクの影響に適応する能力やその影響から回
復する能力が比較的高いとみなされた国は異なっていた。回復する能
力が高いとみなされた国は、経済と環境の分類に関してはスイス、地
政学の分類では中国だった。テクノロジーの分類では米国で、社会の
分類に関しては特に突出した国はなかった。
50のグローバルリスク全体にわたり、統計的に有意な差異が存在する
場合(年齢別ではリスクの56%、男女別ではリスクの44%)、40歳以下
の回答者と女性の回答者の方が、リスクの影響に適応する、あるいは
その影響から回復する国の能力を低く評価していた。統計的に有意な
差異が存在しないリスクの大半は、男女別では地政学とテクノロジー
の分類に属するものであり、年齢別では環境の分類に属するものであっ
た。見解の差が最も大きかったのは、持続不可能な人口増加と水供給
危機であった。
専門家と非専門家の意識に関しては、発生の可能性と影響とは異な
り、社会とテクノロジーの分類においてのみ統計的に有意な差異が認
められた。社会問題が専門という回答者の方が社会的リスクからの回
復についてより悲観的であった一方、テクノロジー問題が専門という回
答者は、テクノロジーリスクからの回復についてより楽観的であった。
lxvii
lxviii
lxix
分散分析(ANOVA)により、サブグループの平均値がすべて等しいかどうかを検定した。平
均値が等しくないリスクについては、シダック法による事後検定を行い、どのグループ間の一
対比較の差異が5%水準で有意かを明らかにした。
調査標本全体を使用した。
調査標本全体を使用し、グローバル競争力報告書によって特定されたそれぞれの経済発展
のステージに従ってグループ分けした。
Section 1
表8:グローバルリスクの影響に適応する、あるいはその影響から回復する国の能力に関するグループ間 lxxの比較 lxxi
専門とする国
専門とする地域
経済発展のステージ
ステークホルダー
BRA
アジア
A
ステージ3
S3
学界
A
中国
CHN
欧州
E
2から3への過渡期
T2.5
企業
B
ドイツ
DEU
ラテンアメリカ
LA
ステージ2
S2
政府
G
インド
IND
北米
NA
1から2への過渡期
T1.5
国際機関
IO
イタリア
ITA
中東/北アフリカ
MENA
ステージ1
S1
NGO
N
日本
JPN
サハラ以南のアフリカ
SSA
その他
Other
ロシア
RUS
スイス
CHE
英国
GBR
米国
USA
専門とする国
*対象10カ国についてのみ
専門とする地域
経済発展の
ステージ
ステーク
ホルダー
年齢
性別
-
2.86
<
3.09
NA > E, A, LA, SSA
S3 > S1, T1.5, S2
MENA, E, A, LA > SSA S2, T2.5 > S1
-
2.93
<
3.06
NA > E, SSA
S3 > それ以外
S2 > S1
-
NA, A > E
S2, T2.5, S3 > S1
長期にわたるイン CHE, CHN > BRA, GBR,
IND, ITA, RUS, USA
フラ整備不足
DEU, JPN > BRA, GBR,
IND, ITA, RUS
USA > IND
CHN > GBR, ITA
流動性危機の
CHE, USA > ITA
頻発
A > LA, SSA
E, NA > SSA
S3 > S1, T1.5, T2.5
S2 > S1, T1.5
T2.5 > S1
A > E, SSA
NA > SSA
S2, T2.5, S3 > T1.5, S1
DEU > GBR, IND, RUS,
USA
CHE, JPN > IND
規制の予期せぬ CHE, CHN > IND, ITA,
RUS
悪影響
DEU, USA > ITA
制御できないイン CHN, USA > IND
フレ/デフレ
抗生物質耐性菌 CHE, JPN, USA > BRA,
IND, RUS
気候変動への適 CHE, CHN, DEU, JPN,
USA > IND
応の失敗
E > LA, SSA
MENA, NA, A > SSA
CHE > CHN, IND, ITA
GBR, JPN, USA > IND,
ITA
DEU > IND
土地・水路管理の CHE > CHN, IND, ITA,
RUS
失敗
JPN > IND, ITA
BRA, DEU, GBR, USA >
IND
都市化の管理の CHE > BRA, CHN, IND,
RUS
失敗
DEU, JPN > BRA, IND,
RUS
CHN, GBR, USA > BRA,
IND
ITA > IND
極端な所得格差
修復不能な汚染
lxx
lxxi
LA, A, E, NA > SSA
B, G > IO
男性
<
3.06
>
2.91
-
3.04
>
2.86
-
-
専門家
-
-
-
-
2.85
<
3.01
2.98
>
2.83
-
2.92
<
3.06
3.06
>
2.85
-
G > IO, N
2.92
<
3.17
3.11
>
2.91
-
S3 > それ以外
S2, T2.5 > S1
B>N
2.7
<
2.89
2.87
>
2.64
-
NA > SSA
S3 > S1, T1.5, T2.5
S2 > S1, T1.5
A, B > IO
2.85
<
3.02
2.98
>
2.84
-
NA > SSA
S3 > S1, T1.5, S2
S2, T2.5 > S1, T1.5
G > IO
2.86
<
3.06
3.01
>
2.84
-
A, E, NA > LA, SSA
MENA > SSA
A, E, NA > SSA
S3 > All
S2, T2.5 > S1
S3 > S1, T1.5
S2, T2.5 > S1
-
-
-
-
-
-
-
-
NA > SSA, LA
A, E > SSA
S3 > それ以外
T2.5 > S1, T1.5
S2 > S1
-
2.81
<
2.97
2.96
>
2.73
-
NA > SSA, LA
A, E > SSA
S3 > それ以外
T2.5 > S1, T1.5
S2 > S1
-
2.85
<
3.01
3.02
>
2.74
-
E > A, MENA, SSA, LA S3 > それ以外
A, NA > SSA, LA
S2 > S1, T1.5
T2.5 > S1
-
3.12
>
2.93
-
-
-
Section 6
T2.5, S3 > S1, T1.5
S2 > S1
-
女性
非専門家
41歳
以上
3.11
Section 5
-
CHE > GBR, IND, ITA,
JPN, USA
CHN > GBR, ITA, JPN,
USA
DEU, BRA > JPN
CHE > GBR, IND, ITA,
長期間にわたる
労働市場の不均 JPN, USA
CHN > IND, ITA, USA
衡
DEU, BRA, USA > ITA
エネルギー・農産 CHN, USA > GBR, IND,
物価格の急激な JPN
BRA > IND, JPN
変動
CHE, DEU > JPN
新興経済のハード
ランディング
大規模でシステミ CHN > GBR, RUS
ックな金融破綻 USA > GBR
長期間にわたる
財政不均衡
専門知識
Section 4
T2.5 > S1, T1.5, S3
S2, S3 > S1
40歳
以下
2.91
Section 3
リスク
Section 2
ブラジル
分散分析(ANOVA)により、サブグループの平均値がすべて等しいかどうかを検定した。平均値が等しくないリスクについては、シダック法による事後検定を行い、どのグループ間の一対比較の差
異が5%水準で有意かを明らかにした。
統計的に有意な差異のみ表示している。そうでない場合、表のセルは空欄になっている。
Global Risks 2013
71
Section 1
NA, E > SSA, LA
A > SSA
生物種の乱獲
CHE > BRA, IND, ITA
DEU, JPN > IND, ITA
CHN, GBR, USA > IND
CHN, JPN > GBR, IND,
USA
BRA, CHE, DEU > IND
-
前例のない地球
物理的破壊
CHN, DEU > ITA
JPN, USA > IND, ITA
磁気嵐に対する
脆弱性
CHN > BRA
USA > BRA, ITA
脆弱化した重要
国家
CHE > ITA, JPN, RUS
CHN > ITA
NA > MENA, LA, E,
SSA
A > MENA, SSA
E > SSA
NA > E, LA, MENA,
SSA
A > MENA, LA, SSA
E > LA
A, E, NA > SSA
大量破壊兵器の
拡散
CHN, USA > ITA, JPN
長引く異常気象
温室効果ガス排
出量の増大
Section 2
Section 3
Section 4
Section 5
CHN, USA > BRA, ITA,
JPN, RUS
CHE, DEU, GBR > ITA,
RUS
IND, JPN > ITA
CHE, CHN > ITA, JPN,
外交による紛争
RUS
解決の失敗
BRA, USA > ITA, JPN
DEU, GBR > JPN
グローバル・ガバ CHN > IND, ITA, JPN,
RUS
ナンスの破綻
CHE > ITA, JPN, RUS
USA > ITA
USA > BRA, DEU, GBR,
宇宙の軍事化
IND, ITA, JPN
CHN > GBR, ITA, JPN
不正行為の蔓延 USA > BRA, CHN, IND,
ITA, RUS
CHE, JPN > BRA, IND,
ITA, RUS
CHN, DEU, GBR > IND,
ITA, RUS
CHN > IND, ITA, JPN,
テロリズム
RUS
USA > IND, JPN, RUS
一方的な資源の BRA, CHN, USA > DEU,
GBR, IND, ITA, JPN
国有化
CHE > ITA, JPN
不正取引の蔓延 CHN, USA > ITA, RUS
根強い犯罪組織
S3 > それ以外
S2, T2.5 > S1
-
-
-
S2, T2.5, S3 > S1, T1.5
-
-
-
-
-
S3 > S1, T1.5
T2.5 > T1.5
S3 > S1, T1.5, S2
T2.5 > S1, T1.5
S2 > S1
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
A, NA > LA, SSA
E > SSA
A, B > IO
S3 > それ以外
-
S3 > S1, T1.5, S2
T2.5 > S1, T1.5
S2 > S1
S3 > S1, T1.5
S2 > S1
-
3.13
-
<
NA > E, LA, SSA,
S3 > それ以外
A, E, MENA > LA, SSA
-
2.95
<
3.13
NA > LA, SSA
-
3.01
<
3.13
A, NA > SSA
S3 > S1, T1.5, S2
T2.5 > S1
S3 > S1, T1.5
S2 > S1
3.09
-
2.88
>
2.72
-
3.11
>
2.88
-
-
-
Section 6
NA > その他全ての S3 > S1, T1.5, T2.5
地域
A > LA
NA > A, E, LA, SSA
S3 > それ以外
A, E, MENA > LA, SSA S2, T2.5 > S1
-
-
-
-
-
2.72
<
2.97
-
-
E, NA, MENA > LA,
SSA
A > LA
NA > A, E, LA, SSA
S3 > S1, T1.5, T2.5
S2, T2.5 > S1
-
3.01
<
3.16
-
-
T2.5, S3 > S1
-
2.89
<
3.12
-
-
NA > E, LA, SSA
A > LA, SSA
E, MENA > SSA
-
S3 > それ以外
S2 > S1
-
2.98
<
3.13
-
-
S3 > S1, T1.5, S2
T2.5 > S1
-
T2.5, S3 > S1, T1.5, S2
S2 > S1, T1.5
-
S3 > S1, T1.5, T2.5
-
-
宗教的狂信主義
の台頭
BRA, CHN > IND, RUS,
USA
CHE > IND, USA
JPN > IND
BRA > IND, ITA, RUS
USA > IND, ITA
CHN > IND
CHE, CHN, USA > IND
LA > E, MENA, NA,
SSA
S2 > S1, T1.5, S3
S3 > S1, T1.5
T2.5 > S1
-
3.06
<
NA > E
その他全ての地域 >
SSA
NA > A, SSA
E > SSA
T2.5, S3 > S1, S2
T1.5, S2 > S1
-
2.91
T2.5, S3 > S1, T1.5
S2 > S1
-
2.89
S3 > それ以外
S2, T2.5 > S1
-
パンデミックに対 CHE, CHN, USA > BRA, A, E, NA > LA, SSA
IND, RUS
する脆弱性
DEU, JPN > IND, RUS
Global Risks 2013
>
-
S3 > それ以外
S2 > S1
72
3.26
-
A > LA, SSA
E, NA, MENA > SSA
持続不可能な人
口増加
-
-
JPN > BRA, GBR, IND,
RUS, USA
統制されない
移住
2.80
-
慢性疾患率の
上昇
実効性のない
麻薬政策
>
高齢化への対応
の失敗
食糧不足危機
3.27
-
DEU > GBR, IND, ITA,
JPN
USA > JPN
BRA > GBR, IND, JPN
NA > A, MENA, LA,
CHE, CHN, DEU, USA > SSA
IND, JPN
E > A, SSA
A > SSA
CHE, CHN > BRA, GBR, A > LA, NA, SSA
ITA, RUS, USA
E, MENA > LA
JPN > BRA, ITA, RUS,
USA
DEU > BRA, ITA
IND > GBR, ITA, RUS
MENA > NA, E
CHE > ITA, RUS
グローバル化に
対する反動
2.98
-
-
3.23
<
3.17
3.38
<
2.95
-
3.04
-
-
2.81
>
3.21
<
-
-
-
-
2.98
>
2.82
3.19
3.19
>
2.99
<
3.13
3.08
>
2.89
2.94
<
3.10
<
3.21
3.10
>
2.95
2.99
<
3.12
-
-
2.87
<
3.39
2.99
-
-
Section 1
水供給危機
サイバー攻撃
知的財産管理体
制の不備
誤った電子情報
の大々的な流布
鉱物資源供給の
脆弱性
宇宙ゴミの拡散
気候変動緩和対
策の予期せぬ影
響
T2.5, S3 > S1, T1.5, S2
S2 > S1
NA > A, E, LA, SSA
A > LA, SSA
E, MENA > SSA
NA > A, E, LA, SSA
A, E, MENA > SSA
S3 > それ以外
S2 > S1
-
-
S3 > それ以外
S2, T2.5 > S1
-
NA > LA, SSA, MENA S3 > それ以外
-
USA > IND, ITA, RUS
CHE, CHN > IND, ITA
DEU, GBR, JPN > IND
USA > BRA, GBR, IND,
ITA, RUS
NA > A, E, LA, SSA
A, E, MENA > SSA
S3 > それ以外
S2, T2.5 > S1
NA > A, E, LA, SSA
A > LA, SSA
E, MENA > SSA
S3 > それ以外
USA > DEU, GBR, IND,
ITA, JPN
CHN, RUS > GBR, IND,
ITA, JPN
USA > BRA, GBR, IND,
ITA, JPN
CHN > BRA
JPN > GBR, IND
CHN, USA > GBR
NA > その他全ての
地域
NA > その他全ての
地域
A > LA
NA > LA, SSA
USA > BRA, GBR, IND
CHN, JPN > BRA
新たな生命科学
技術の予期せぬ
影響
USA > BRA, GBR, ITA,
RUS
NA > E, LA, MENA,
SSA
A > LA, MENA, SSA
Europe > LA, SSA
NA > E, LA, SSA,
MENA
A, E > LA, SSA
B > IO
3.1
<
3.25
3.27
>
2.97
3.03
<
3.31
-
3.14
>
2.87
-
-
3.11
>
2.93
-
-
-
2.99
<
3.11
-
3.18
>
3.01
-
2.88
<
3.04
-
3.13
>
2.91
T2.5, S3 > S1, T1.5
S2 > S1
-
2.85
<
3.01
-
S3 > S1, S2, T2.5
-
-
-
S3 > それ以外
-
-
-
S3 > それ以外
-
-
S3 > それ以外
-
2.64
<
2.77
2.82
>
-
-
2.84
>
2.67
-
2.62
2.92
>
2.65
2.85
>
2.70
Section 4
ナノテクノロジー
の予期せぬ影響
G, A, B > N
Section 3
大規模なデータ
の不正利用/窃
盗
E > A, MENA, SSA
NA > A, SSA
LA > SSA
Section 2
重要システムの
故障
BRA > CHN, GBR, IND,
ITA, USA
CHE, DEU, JPN > CHN,
IND, ITA
CHN, GBR, RUS, USA >
IND
USA > BRA, GBR, IND,
ITA, RUS
CHE > IND, ITA, RUS
USA > GBR, IND, ITA,
JPN, RUS
CHN > IND
USA > RUS
Section 5
Section 6
Global Risks 2013
73
Section 1
謝辞
Section 2
Section 3
Section 4
『グローバルリスク報告書2013年版』は、ワー 『第8回グローバルリスク報告書2013年版』のパートナー
クショップ、インタビュー、電話討議そして調査 Marsh & McLennan Companies
を通じて得た多くの人々の見識、
アイデアそし National University of Singapore
Oxford Martin School, University of Oxford
て貢献の賜物であり、本報告書プロジェクト
Swiss Reinsurance Company
チームはグローバルリスクについて熟考し、 Wharton Center for Risk Management, University of
課題に取り組んでいただいた関係者の皆様 Pennsylvania
Zurich Insurance Group
に心より感謝申し上げます。関係者の皆様の
『第8回グローバルリスク報告書2013年版』のアドバイザリー・グルー
貢献的な姿勢、助言と支援なくして、本報告書 プに感謝の意を表します。(姓のアルファベット順に記載)
を刊行することは出来なかったでしょう。
David Cole, Swiss Reinsurance Company
John P. Drzik, Oliver Wyman Group (MMCo)
Ian Goldin, Oxford Martin School
Howard Kunreuther, The Wharton School, University of
Pennsylvania
Section 5
Axel Lehmann, Zurich Insurance Group
Tan Chorh Chuan, National University of Singapore
以下の皆様のそしてグローバルリスクパートナーを代表してグローバル
リスクレポートのコンテンツの作成と浸透への貢献を感謝いたしま
す。(姓のアルファベット順に記載)
Josephine Chennell, Swiss Reinsurance Company
Natalie Day, Oxford Martin School
Section 6
Rainer Egloff, Swiss Reinsurance Company
Ho Teck Hua, National University of Singapore
Erwann Michel-Kerjan, The Wharton School, University of
Pennsylvania
Lucy Nottingham, Marsh & McLennan Companies
Gregory Renand, Zurich Insurance Group
Reto Schneider, Swiss Reinsurance Company
Andrea Stuermer, Zurich Insurance Group
Tay Lee Teng, National University of Singapore
Mike Useem, The Wharton School, University of Pennsylvania
Steve Wilson, Zurich Insurance Group
Alex Wittenberg, Marsh & McLennan Companies
74
Global Risks 2013
Section 1
プロジェクトチームはインタビュー、ワークショップ、そしてリスクケース
の開拓にご参加いただいた全ての民間企業、公的機関、学術方面、各
種団体の指導的立場の皆様にも感謝の意を表します。(姓のアルファ
ベット順、参加当時の所属組織名を記載)
Dapo Akande, Oxford Martin School
Daniel Andris, Swiss Reinsurance Company
Dan Awrey, University of Oxford
Valerio Bacak, The Wharton School, University of Pennsylvania
Luis Ballesteros, The Wharton School, University of
Pennsylvania
John Boochever, Oliver Wyman (Marsh & McLennan
Companies)
Philippe Brahin, Swiss Reinsurance Company
Jerry Cacciotti, Oliver Wyman (Marsh & McLennan Companies)
Felix Reed-Tsochas, Oxford Martin School
Daniel Ryan, Swiss Reinsurance Company
Anders Sandberg, Oxford Martin School
Julian Savulescu, Oxford Martin School
Oliver Schelske, Swiss Reinsurance Company
Andreas Schraft, Swiss Reinsurance Company
Martin Schürz, Swiss Reinsurance Company
Lutfey Siddiqi, National University of Singapore
Janet Smart, University of Oxford
Richard Smith-Bingham, Oliver Wyman (Marsh & McLennan
Companies)
Keoyong Song, The Wharton School, University of
Pennsylvania
Iordanis Chatziprodromou, Swiss Reinsurance Company
Yumiko Takada, Marsh Broker Japan,Inc. (Marsh & McLennan
Companies)
Oliver Chen, National University of Singapore
Rolf Tanner, Swiss Reinsurance Company
Carl Frey, Oxford Martin School
Dodo J. Thampapillai, National University of Singapore
Tim Garton Ash, University of Oxford
Cecilia Tortajada, Third World Centre for Water Management,
Mexico
Ed George, The Wharton School, University of Pennsylvania
Mark Goh, National University of Singapore
Beat Habegger, Swiss Reinsurance Company
Raja Hafiz Affandi, The Wharton School, University of
Pennsylvania
Peter Hausmann, Swiss Reinsurance Company
Anwarul Hasan, Swiss Reinsurance Company
Carol Heller, The Wharton School, University of Pennsylvania
Satoru Hiraga, Marsh Broker Japan,Inc. (Marsh & McLennan
Companies)
Yoshiki Hiruma, Development Bank of Japan
Sonia Trigueros, Oxford Martin School
Richard Waterman, The Wharton School, University of
Pennsylvania
Michael Weissel, Oliver Wyman (Marsh & McLennan
Companies)
Daniel Wesemann, Swiss Reinsurance Company
Martin Weymann, Swiss Reinsurance Company
Barrie Wilkinson, Oliver Wyman (Marsh & McLennan
Companies)
Ngaire Woods, Blavatnik School of Government
Arran Yentob, Oliver Wyman (Marsh & McLennan Companies)
Bernard Yeung, National University of Singapore
Kurt Karl, Swiss Reinsurance Company
Nick Wildgoose, Zurich Insurance Group
Jussi Keppo, National University of Singapore
経済と環境の弾力性
Heng Yee Kuang, National University of Singapore
Tim Kruger, Oxford Martin School
Susan Lea, Oxford Martin School
George Leeson, Oxford Martin School
Elizabeth Leicht, Oxford Martin School
Alexander Leveringhaus, Oxford Martin School
Michael Lierow, Oliver Wyman (Marsh & McLennan Companies)
John Merkovsky, Marsh Inc (Marsh & McLennan Companies)
Ann Miller, The Wharton School, University of Pennsylvania
Lea Müller, Swiss Reinsurance Company
Mary Ng Mah Lee, National University of Singapore
Kalypso Nicolaidis, University of Oxford
Toby Ord, Oxford Martin School
David Bresch, Swiss Reinsurance Company
Section 6
Mike King, NERA, Oliver Wyman (Marsh & McLennan
Companies)
Section 5
Claus Herbolzheimer, Oliver Wyman (Marsh & McLennan
Companies)
Ginger Turner, The Wharton School, University of Pennsylvania
Section 4
Charles Godfray, Oxford Martin School
Section 3
Sandra Burmeier, Swiss Reinsurance Company
Robert Parisi, Marsh Inc (Marsh & McLennan Companies)
Section 2
Mark Ames, Oliver Wyman (Marsh & McLennan Companies)
Tikki Pang, National University of Singapore
Davis Cherry, Global Adaptation Institute
Megan Clark, Commonwealth Scientific and Industrial
Research Organisation
Juan José Daboub, Global Adaptation Institute
Charlotta Groth, Zurich Insurance Group
Jim W Hall, Environmental Change Institute, University of
Oxford
Abyd Karmali, Bank of America Merrill Lynch
Signe Krogstrup, Swiss National Bank
Marc Levy, CIESIN, Columbia University
Manuel Lewin, Zurich Insurance Group
Anders Lyngaa Kristoffersen, Novozymes
Murray Birt, Deutsche Bank Group
Guy Miller, Zurich Insurance Group
Chandran Nair, Global Institute for Tomorrow
Ian Noble, Global Adaptation Institute
Global Risks 2013
75
Section 1
Konrad Otto-Zimmerman, ICLEI
Tim Palmer, Oxford Martin School
Lindene Patton, Zurich Insurance Group
Johan Rockström, Stockholm Resilience Centre
Section 2
Juan Carlos Castilla Rubio, Planetary Skin Institute
John Scott, Zurich Insurance Group
特集:グローバルリスクに対する国家の弾力性(レジリエンス)
Ian Bremmer, Eurasia Group
Dennis L. Chesley, PwC
Mary Cline, Eurasia Group
Anne-Sophie Crépin, Stockholm Resilience Centre
Jorge E. Viñuales, The Graduate Institute, Geneva
Elizabeth Eide, The National Academies, Division of Earth and
Life Sciences
ハイパー接続世界でのデジタル・ワイルドファイヤー
Victor Galaz, Stockholm Resilience Centre
Jolyon Barker, Deloitte Touche Tomatsu Ltd
Adam Bly, Seed
Sadie Creese, Oxford Martin School
Section 3
Scott David, University of Washington Law, Technology and
Arts Group
Jac C. Heckelman, Wake Forest University
Emily Hoch, Eurasia Group
Anders Hoffman, Danish Enterprise and Construction Authority
Randolph Kent, Humanitarian Futures Programme
Szerb László, University of Pecs
Section 4
Giorgos Dimitriou, European Network and Information Security
Agency (ENISA)
Emma Lindqvist, Eurasia Group
Daniel Eherer, Zurich Insurance Group
Kirstjen Nielsen, Sunesis Consulting, LLC
Nik Gowing, BBC World News
Satoru Nishikawa, Japan Water Agency
Witold Henisz, The Wharton School, University of Pennsylvania
Sara Pantuliano, Overseas Development Institute
Louis Marinos, European Network and Information Security
Agency (ENISA)
Rodrigo Pérez Mackenna, Ministerio de Vivienda y Urbanismo
Matthew Prince, CloudFlare
Christopher Michaelson, PwC
Andreas Sfakianakis, European Network and Information
Security Agency (ENISA)
Ray Stanton, British Telecom
Jamie Tomasello, CloudFlare
健康問題への根拠なき過信
Section 5
David B. Agus, University of Southern California
Lindsey Baden, The New England Journal of Medicine
Richard Bergström, European Federation of Pharmaceutical
Industries and Associations
Zulfiqar A. Bhutta, The Aga Khan University
Otto Cars, ReAct - Action on Antibiotic Resistance
Jean Carlet, World Alliance against Antibiotic Resistance (WAAR)
Jeffrey M. Drazen, The New England Journal of Medicine
Section 6
John Frater, Oxford Martin School
Chris Gillies, Zurich Insurance Group
Kari Grave, European Medicines Agency
Martha Gyansa-Lutterodt, Pharmaceutical Services and Chief
Pharmacist of Ghana
Anna Hedin, ReAct - Action on Antibiotic Resistance Uppsala
University
Dominique L. Monnet, European Centre for Disease Prevention
and Control
Carmem Pessoa, World Health Organization
Laura J.V. Piddock, University of Birmingham and Antibiotic
Action
Paul Rogers, World Health Organization
Nabil Safrany, European Centre for Disease Prevention and
Control
Johan Struwe, World Health Organization
76
Global Risks 2013
Alexsandra Lloyd, Eurasia Group
Courtney Rickert McCaffrey, Eurasia Group
Dionisis Philippas, JRC
Michaela Saisana, European Commission
Andrea Saltelli, OECD
Ross D. Schaap, Eurasia Group
Don Tapscott, Moxie Insights
X ファクター
Tim Appenzeller, Nature
Philip Campbell, Nature
2012年グローバルリスク調査にご参加いただいた全ての皆様にも感
謝の意を表します。
Section 1
加えて、プロジェクトチームはグローバルアジェンダカウンシルのコミュ
ニティマネージャー陣、ビジネスエンゲージメントアンドデベロップメン
トチームのメンバー、そして以下の世界経済フォーラムの同僚たちのグ
ローバルリスク報告書作成全般にわたる助言と支援に感謝します。
Amrote Abdella
Guillaume Amigues
Marisol Argueta
Anastassia Aubakirova
Adeyemi Babington-Ashaye
Beñat Bilbao
Carl Björkman
Roberto Bocca
Ciara Browne
Giancarlo Bruno
Sophie Bussmann
Roberto Crotti
Piers Cumberlege
Nicholas Davis
Isabel de Sola
Sean Doherty
Michael Drexler
Miroslav Dusek
John Dutton
Rim El Habibi
Cristiana Falcone
Brindusa Fidanza
Navdeep
Lyuba Nazaruk
Derek O’Halloran
Sushant Palakurthi Rao
Gary Phillips
Pengcheng Qu
Olivier Raynaud
Lucien Rieben
Pedro Rodrigues De Almeida
Olivier Schwab
Kate Seiler
Bernardo Silva
Paul Smyke
Masao Takahashi
Michael Tost
Terri Toyota
Akira Tsuchiya
Tran Tu-Trang
Silvia von Gunten
Nina Vugman
Regula Waltenspuel
Dominic Waughray
Bruce Weinelt
Tiffany West
Alex Wong
Thierry Geiger
創設者兼会長
Martina Gmür
Klaus Schwab
Ariane Haeni
Andrew Hagan
Hala Hanna
Antonio Human
Alexandra Jequier
Julianne Jammers
Jeremy Jurgens
Elsie Kanza
Thomas Kerr
Hanseul Kim
マネージング・ディレクター
Børge Brende
Robert Greenhill
Section 6
William Hoffman
Section 5
Manal El Meligi
Martin Nägele
Section 4
Margareta Drzeniek
John Moavenzadeh
Section 3
Jennifer Blanke
Katherine Milligan
Section 2
David Aikman
Matthew Miller
Lee Howell
Adrian Monck
Sarita Nayyar
Gilbert Probst
Jean-Pierre Rosso
Kevin Steinberg
Alois Zwinggi
Pawel Konzal
Rodolfo Lara Torres
Helena Leurent
Alan Marcus
Viraj Mehta
Liana Melchenko
Global Risks 2013
77
Section 1
プロジェクトチーム
Section 2
Section 3
『第8回グローバルリスク報告書2013年版』の
制作にあたり、以下の世界経済フォーラムのメ
ンバーが招集されました。
編集長
制作チーム
Lee Howell, Managing Director, Member of the Managing
Board
Michael Hanley, Editorial Director, Communications
Kamal Kimaoui, Director, Head of Production and Design
Section 4
Scott David, Associate Director, Head of Information Interaction
グローバルリスク報告書調査チーム
Adrian Shawcross, Freelance Graphic Designer
Chiemi Hayashi, Director, Head of Risk Response Network and
Risk Research
David Bustamante, Senior Content Producer, Publication and
Design
Catherine Zwahlen, Senior Knowledge Manager
Floris Landi, Graphic Designer, Publication and Design
David Gleicher, Manager, Qualitative Research
David Helmsley, Junior Graphic Designer, Publication and
Design
Florian Ramseger, Manager, Quantitative Research
Section 5
Amey Soo, Research Associate, Quantitative Research
Katarina Hruba, Project Associate, Qualitative Research
Karen Campbell, Senior Economist
Mary Bridges, Editor
Itonics GmbH, Web Design, Online Data Explorer
Yoren Geromin, Graphic Design
Andrew Wright, Freelance Writer
監訳
リスクレスポンス・ネットワーク・チーム
Linda Freiner, Associate Director, Head of Community
Engagement
Section 6
Samantha Tonkin, Associate Director, Head of Communication
Navitri Putri Guillaume, Government Engagement Manager
Charles Lane, Supply Chain and Transport Risks Project
Manager
Alexis Munier, Editorial Manager
Ceri Parker, Writer
Edward Simmons, Resilience Practices Exchange Project
Manager
David Connolly, Business Engagement, Senior Community
Associate
Gregory Coudrier, Digital Associate
Rim El Habibi, Media Associate
Stéphanie Badawi, Team Coordinator
78
Global Risks 2013
Chiemi Hayashi, Director, Head of Research, Risk Response
Network
Ai Sullivan, Senior Community Associate, Japan Membership
Satoru Hiraga, Representative Director, Chairman, Marsh
Broker Japan, Inc.
Yumiko Takada, Manager, Marketing and Communications,
Marsh Broker Japan, Inc.
The World Economic Forum
is an independent international
organization committed to
improving the state of the
world
by engaging business, political,
academic and other leaders of
society to shape global,
regional
and industry agendas.
Incorporated as a not-for-profit
foundation in 1971 and
headquartered in Geneva,
World Economic Forum
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