高校生の進路達成への統制感とその手段の 保有感と認知に関する研究

高校生の進路達成への統制感とその手段の保有感と認知に関する研究(1)
高校生の進路達成への統制感とその手段の
保有感と認知に関する研究(i)
葛進路CAMiの作成とその発達一
島袋 恒男・鹿瀬 等・井上 厚
(琉球大学 教育学部)
大嶺 和男・高嶺 貢
(沖縄県立教育センタ-教育相談室)
A Study on Control' Means-Ends and Agency Beliefs about
Career in High Sch○○l Students (1)
Tsuneo SHIMABUKURO Atsushi INOUE Hitoshi H工ROSE
( College of Education, University of ーhe Ryukyus )
Kazu○ ○MINE Mitsugu TAKAM工NE
( Okinawa Prefectual Educationa重Center )
本研究の目的は 進路や学習に多くの問題を抱えていると指摘される沖縄
県の高校生の進路意識の特徴と問題点を探ることである。そのために,
CAMI理論に基づいて40項目からなる高校生用の進路CAMI尺度(進路達
成への統制感,その手段の認知,その手段の保有感)が作成され,進学高校
の1年生と3年生に実施された。
その結果,進路CAM重の各尺度は内的整合性が高く,信頼性の高い尺度
であることが確認された。そして進学高校では1年生から3年生にかけて,
進路達成への統制感が高まり,内的要因の手段の保有感と認知が高まること
が分かった。また, 3尺度の相関分析の結果から, 「能力」と「努力」の手
段保有感が進路達成への統制感を規定していること,その傾向が大学受験を
-69-
ヒュ-マンサイエンス 第2号1996年
間近にした高校3年生において-層顕著になることが分かった。しかし,
「努力」に比較して「能力」の手段保有感は学習行動等との相関が弱く, 部の高校生では主観的な自己理解になり,進路・学習不適応につながる可能
性のあることが示唆された。
Key words: CAM量, Career development, Causal attribution'しeammg
style.
I.背景と目的
沖縄県では高校生の中途退学者の増加が社会問題となってから久しい。沖
縄県教育委員会の平成6年度の「中途退学者のまとめ」によると,平成5年
度から6年度にかけて,中途退学率は若干の減少は見られるものの,依然と
して2.6%の高値を示しており,その実数は1,371人に昇る。そして,沖縄県
の高校中途退学の特徴として高校1年生に多く,かつ男子に顕著であると指
揃されているo ±た,高校中退の理由とLて同報告書は) 「進路変更」 (55.
1%) , 「学校生活・学業不適応」 (20.2%) , 「学業不振」 (12.0%)を
挙げており,そのいずれの理由にも将来の目的意識と日々の学習行動のあり
方に問題が潜んでいることをうかがわせている。
また,平成4年度の「児童生徒の生活意識と実態に関する調査報告書」
(沖縄県教育委員会, 1002)の中の将来の職業選択の理由の結果によれば
将来の職業選択の基準として, 「自分の性格にあう」 (57.5%)と「自分の
能力を生かせる」 (56.2%)のふたっの理由が圧倒的多数を占めている。そ
れでは,児童生徒は自己の性格をどうとらえているであろうか。自分の性格
のイメ-ジとして「ユーモアがあり明るい」 (30.2%)というポジティブな
側面もあるが,しかし,それよりも顕著なものとして同報告書は, 「短気」
(38.6%) , 「集中力がない」 (36.8%) , 「何事も長続きしない」 (29.8%)
というネガティブな自己イメ-ジを挙げている。そのような特徴は心理学的
-70-
高校生の進路達成への統制感とその手段の保有感と認知に関する研究(1〉
には「目的を持ち合理的に考えて我慢強く行動していく」という自我の未
発達を示していると見ることができる。残念ながら,現実の社会ではそのよ
うな性格にあう職業はなかなか見あたらないのが実情である。
上の結果は,沖縄県における子どもたちの進路意識の発達が未熟であるこ
とを示しているが,保護者(父兄)は子弟の進路に関してどのように考えて
いるだろうか。
平成4年度の沖縄県教育委員会の「保護者の家庭教育等に関する意識・実
態調査」 (1992)の「子どもの進路決定」の結果によれば 保護者は子ども
の進路選択の基準として, 「子ども自身の考えで」の選択率が86.7%に達し,
「親の考えで」 (22.2%) , 「教師の意見」 (18.8%)を大きく引き離して
いる。 -見すると,子どもの自主性を尊重している観があるが,先の子ども
の進路意識の未熟さと合わせて考えると斉合性がないと言える。これまで検
討したように,沖縄県では子どもの側にも,同時に大人の側にも進路に関す
る見通し(手段一目的関係)の弱さが顕著であると言える。
また,沖縄県の児童生徒の進路意識の特徴を発達的に検討した廣瀬ら
(1005a)によれば 小学生から高校生にかけて,進学に関する教育的進路
成熟も将来の職業に関する職業的進路成熟も概して中学生から高校生で得点
が高くなることを示している。しかし,高校生の進路意識は相対的に学習に
関する統制感,およびその手段保有感とのつながりが弱くなることを示して
いた。つまり,進路や将来の職業に関する関心度,計画度,自律度は確かに
発達しているが,それらが十分に学習行動を統制しうるものとして内面化
(統合化)されていないことを予想させているo換言すれはぎ, B的と現実の
行動を対応させているのが自我の働きである。両者の分離した自我のあり方
を「願望」 ,反対に両者の結びつきのある自我のあり方を「意志」としてと
らえられる(島袋, 1989)が,上に見られた沖縄県の児童生徒の進路意識は
「願望」的要素が強いと言える。
進路意識や自我の未熟さの問題は学習意識の特徴にも反映されている。島
-7l-
ヒュ-マンサイエンス 第2号1996年
袋ら(1995)は, CAMI尺度(唐澤ら, 1993; Skinnerら, 1988)を用いて
-股に教育に関する内的な「動機的側面」は強いが,学習という「行動的側
面」が弱いと思われる沖縄県の児童生徒の学習統制感(C) ,その手段の認
知(M) ,およびその手段の保有感(A)の特徴を発達的に検討した。因子
分析の結果,学習の統制感は「達成への統制感」と「達成への無力感」に2
分され,前者は学年とともに得点が高くなっていた。そして,手段保有感で
は学習のための「能力と運の保有感」と「能力と運の非保有感」が,できる
子・できない子の分化を反映して発達していくが, 「努力の保有感」は発達
しないことを示していた。また,手段の-股的認知では学習における「能力」
の役割と「未知の原因」帰属は学年とともに低下していくが,反対に「運」
の役割を強調する発達が見られた。加えて,勉強できないことの「努力の欠
如」の理解には発達差は見られなかった。総じて,学習における手段の理解
とその保有感の特徴は,自我の発達に関係が深い「努力」に関する認知や保
有感が弱いこと,反対に固定的な能力や運の理解と保有感が強いことを示し
ていた。
以上に検討してきたように,沖縄県の児童生徒の進路意識や学習意識の背
景には共通点が多いように考えられる。大きな問題点は進路意識や学習意識
が未熟であるということ,そして,目的意識があってもそれが現実の学習行
動を十分に統制・組織化しえないということであろう。沖縄県の高校生の進
路意識はどのような特徴を持ち,どのような問題点を抱えているのか,教育
心理学や人格心理学の立場から解明していく必要が大きいと言える。
本研究の大きな目的は,上の視点からCAM量理論を基づき,沖縄の高校
生の-椴的な進路意識の特徴と問題点を探り,効果的な進路指導や学習指導
のあり方を考察することである。その第1の目的は,進路CAMI尺度を作
成し信頼性を確認することである。そして,進路達成への統制感(自信)と
その手段保有感および手段一目的関係の認知の間にはどのような構造的特徴
がありタ どんな問題が潜んでいるのかを探るのが第2の目的である。加えて,
-72-
高校生の進路達成への統制感とその手段の保有感と認知に関する研究(1)
高校1年生から3年生にかけて進路CAMIはどのように発達するかを明ら
かにするのを第3の目的としている。今回の以上の理論的な目的のために,
本研究では沖縄県でも進学意識の発達していると考えられる進学校の高校l
年生と3年生を調査対象とした。先に指摘した-椴的な進路・学業不適応の
問題への接近は今後の課題とする。
Ⅱ.方 法
1.調査対象者
沖縄県都市部のA県立高校の1年生と3年生が本研究の調査対象者である。
その学年別,性別内訳を表1に示した。 A県立高校の大学進学率は00%近く
に達し,他の県立高校より,進路意識と学習意識が高いと思われる。調査期
間は平成7年7月であり,クラス担任を通して調査の協力依頼,説明を行い
回答させた。
表1調査対象者の内訳
学年 性 男子 女子 計
l年生 46 65 111
3年生 56 64 120
計 102 129 231
(無回答, 11名)
2.進路CAMI尺度の作成
① 進路達成への統制感(自信)尺度(CON) -希望する大学への進学,
将来の希望する職業,将来の希望する社会生活,今後の学習達成の4つ
の進路目標達成への自信の程度を査定する質問紙を作成し, 「よくあて
-73鵜
ヒューマンサイエンス 第2号1996年
はまる一全くあてはまらない」までの4件法で回答させた。
② 進路達成への「手段一目的関係」の認知尺度一上記の4つの進路目的
を達成する手段として,人は-股に「努力(ME),能力(MA),運
(Mし),他者の援助(MP),未知の原因(M日)」のどの手段をどの程
度用いているかを問う柳の質問項目を作成し,同じく4件法で回答させた。
③ 手段保有感の尺度一進路達成のための手段「努力(AE) ,能力(AA),
運(Aし) ,他者の援助(AP) 」を自分がどの程度保有しているかを問
う16の質問項目を作成し,同じく4件法で回答させた。
④ さらに,家庭学習時間,将来の職業の明確性,希望する大学の種類
(県内と県外,国立と私立) ,国語・数学の授業の理解度を調べる項目
とデモグラフィック項目を加え, 「高校生の進路意識と生活態度に関す
る調査票」と銘うち調査した(調査項目はAPPEND重X参照) 。
Ⅲ.結果と考察
1.進路CAMI尺度の信頼性
表2は進路CAMIの各尺度のクロンパックのa係数による信頼性を示し
たものである。 Aし尺度で若干タ 信頼性に疑問があることを示しているが,
残りのすべての尺度で, a二.蝕1一.922の範囲にあり,尺度の内的整合性に
ほとんど問題のないことを示している。
まだ 表3に各尺度別に項目(ITEM)と尺度全体(TOTAL)の得点
表2 進路CAMIのα係数
統制感 偃
CON
.785 偵cC
兢ケtネォB
T
+T
繝
rテCCR縱
臆74-
手段の認知
MEMAMしMPMU
.693.740.811.709.922
高校生の進路達成への統制感とその手段の保有感と認知に関する研究(1)
表3 進路CAMiの各尺度のi-丁相関
項目
項目
5
R
1
偵sc
2
偵
3
偵sc
13
偵sC
4
偵sC
17
偵c#
9
項目
8
6
偵sC
項目
偵ss2
項目
偵cs2
21
10
偵scB
14
18
番R
偵c
項目
偵ss"
偵
偵
項目
22
r
番
偵sビ
偵
b
25
偵s
26
偵c3
16
偵イ"
29
偵sSB
30
偵s迭
20
偵s
33
偵s3"
34
偵
+R
偵s
ll
19
偵c#
偵C3
項目
23
R
偵cC2
15
12
項目 盤
7
蛮+R
偵s3R
27
31
35
偵
"
偵
偵
2
項目 匪?「
24
偵cc
37
28
偵c
38
偵
32
偵sC"
39
津ン
36
偵
40
偵
2
偵ピ
b
R
の相関係数(I-T相関)を示した。その結果によると,各尺度の項目は全体
得点と高い相関を示しており,各項目が全体に高く寄与し,安定した尺度を
構成していることが分かる。
2.進路CAMiの発達
表4は進路CAMIの統制感,手段保有感,手段一目的関係の認知(以下;
手段の認知)の各尺度における高校l年生と3年生の平均値の差とt検定の
結果を示したものである。
-75-
ヒューマンサイエンス 第2号1996年
表4 進路CAMiの学年差の検定
尺度 学年
ル
CON
xォB
T
1年生 3年生
纉
(2.12) 茶"
鋳
t値 亦纉3
R
ノDi&メ
+T
MEMAMしMPMU
10.3910.399.7311.97
紊2茶"
1l.46 免ツ紊
(2.29) 茶"
手段保有感 偃
b茶"紊
2茶"
鋳
ツ
茶
2繝3
テ3
繝b茶"縱
經cゅ3s
r
13.589.998.019.646.67
(2.10)(2.57)(2.52)(2.28)(2,83)
.533章章2.293章1.0911.993† 偵田氾
x
S
#C
纉S
S
繝
1p<.10 奪p<.05 **p<.01
まず,進路達成への統制感の得点は1年生が10.006であるのに対し, 3年
生は1l.456となり3年生で高い傾向にあることが分かる(t二1.931, p<.10)。
高校2年間の学習の努力や成果が効をそうしていると言える。高校2年間の
学習生活が効をそうしていることは,手段保有感の発達からもうかがい知る
ことができる。すなわち, 3年生は, 「努力」の手段保有感(t-3.533l
p<.oo1) , 「能力」の手段保有感(t二2.293, p<.05)の得点が1年生よ
り高いと言える。つまり,高校生活を通して努力していく姿勢を身につけ,
同時に自己の能力への信頼感を高めていると言える。しかし, 「他者の援助」
の手段保有感は,逆に1年生が高い(t-1.993, p<.05) o後に検討するよ
うに, 「他者の援助」の手段保有感はl年生では「統制感」と結びつかない
ことから,この結果には依存性が反映されているものと考えられる。以上の
結果から, 1年生より3年生において進路達成への努力の姿勢が発達し,能
力への信頼を高め,進路達成への自信につながっていると言える。
達成への統制感,手段保有感と同様に3年生は手段の認知でもより望まし
い手段の認知を示している。表4に示すように,手段の認知「努力」では1
年生と3年生に有意な差は見られないが, 3年生は手段の認知「能力」 (t二
-76-
"
(1.89)(2.23)(2.44)(2.22)(2.69)
R
高校生の進路達成への統制感とその手段の保有感と認知に関する研究(I)
1.007, p<.10) , 「未知の原因」 (t-1.800, p<.10)の得点が1年生より
低い傾向がある。つまり,進路達成の-股的な手段が, 「分からない」とい
うことの気持ちが弱くなり, 「能力」の役割を重要視しなくなっている。ま
た, 3年生は手段の認知「他者の援助」の役割t)重要視しな(なる傾向があ
る(t二1.950, p<.10)が,その分進路達成における「努力」への期待が高
まりそうであるが, l年生の手段の認知「努力」の得点も高く,いわゆる天
井効果が現れていると思われる。
上に検討してきたように進路CAMIは1年生から3年生にかけてより望
ましい方向に進路意識と認知が発達していると言える。この様な結果は元々
の進路意識の高さと高校進路指導の相乗効果があることを示している。他の
進学率の低い普通高校ではどうなのか今後比較検討が必要である。
3.進路CAMIの構造的側面
2節で検討したように,進路CAMIによる高校生の進路意識と認知は,
高校生活を通してより望ましい方向で発達していることが分かった。その結
果を受けて,ここでは進路CAM量の3つの側面間の関係を検討することで,
進路達成への統制感が形成されていくプロセスについて考察し,同時にその
プロセスの問題点にも触れていくことにする。その際, l年生と3年生の差
異についても検討する。
まず,最初に全体での結果から検討する。表5ば 進路達成における手段
の認知と手段保有感の間の有意(p<.05)な相関を示している。全体的に両
者の相関係数は低く,それぞれ比較的独立した意識と認知になっていること
が分かる。この結果は進路達成における「-股的な他者」に関する情報が少
ないことや,あるいは進路への興味が自己に限定される傾向のあることをう
かがわせている。しかし,手段の認知「運」と「運」の手段保有感の間(r-.
342) ,手段の認知「努力」 t手段保有感「他者の援助」 (r-.285)友び手
段の認知「他者の援助」と「他者の援助」の保有感の間( r二.283)には低
いながらも有意な正の相関が得られている。また,手段の認知「未知の原因」
葛77-
ヒュ-マンサイエンス 第2号1996年
表5 手段の認知と手段保有感の相関
手段保有感
AEAAAしAP
手ME
段MA
のMし
辻
辻
認MP
知MU
偵
コ
s
SRメ
偵
辻
s
Sb
C"
SR
c2
と「他者の援助」の保有感の間には負の相関が得られている。この様に手段
の認知と手段保有感は概して関係性が弱いが,少なからず手段の認知が手段
保有感のあり方を方向づけていることが分かる。
次に手段保有感と達成への統制感はどのような関係を示すであろうか。ど
のような手段保有感が達成への統制感を高めたり,低めたりしているのだろ
うか。また, 1年生と3年生には両者の関係性に先の発達の差を反映してど
のような違いが見られるであろうか。
表6は手段保有感と達成への統制感の問の有意(p<.05)な相関を示して
いる。表6の結果から, 「能力」の手段保有感と達成への統制感(r-.580)
の問に高い正の相関が得られ,また「努力」の手段保有感(r二.418), 「他者
の援助」の手段保有感(I-.229)も達成への統制感を高めていることが分
かる。これらの結果から, 「努力」よりも特に「能力」の手段保有感の影響
が大きいと言える。 -舷に学習の帰属理論において,能力帰属よりも努力帰
属の方が自己評価等を高めることが指摘されている(越, 1002)が,本研究
はそれと逆の結果を示している。多分に,進学校であるため, -股的な優等
生意識の高さがこの結果に反映されていると考えられる。しかし,廣減ら
-78鵜
高校生の進路達成への統制感とその手段の保有感と認知に関する研究(1)
表6 手段保有感と達成への統制感の相関
(1005b)で検討するように「能力」の手段保有感は「努力」の手段保有感
よりも学習スタイルとの相関が低く,少なからず主観的な達成への統制感
(自信)になっていることが考えられる。
このことは手段保有感と達成への統制感の関係を1年生と3年生を比較す
ると-層明確になる。
表7は手段保有感と達成への統制感の相関を学年毎に示したものである。
表7の結果から「能力」の手段保有感と達成への統制感の相関係数は, 1年
生がr-.518, 3年生がr-.621となり明らかに3年生の相関が高いことが分
かる。また, 「努力」の手段保有感でもl年生の相関係数はrこ.365である
のに対し, 3年生はr二.444となり達成への統制感とより深く関連する=と
表7 手段保有感と達成への統制感の相関の学年差
手段保有感
AEAAAしAP
CON
緬D
b
.365.518
3年生
偵CCB緜#
-79-
"
ヒューマンサイエンス 第2号1996年
が分かる。加えて, 「他者の援助」の手段保有感は1年生では無相関である
がタ 3年生ではr二.302の相関が得られている。
以上の相関係数の学年差から, 3年生の手段保有感は達成への締約憶をはっ
きりと予測するものであり, "統合性''の高い進路意識になっていると言え
るoまた,- 「能力」の手段保有感と「努力」の手段保有感の相関係数は, 1
年生がr二.390であるのに対し3年生ではr二.584と高くなっており, =の結
果も3年生の進路意識の``統合性''を基づけるものである。進路意識の統合
性が高いということは,進路意識が現実の学習行動をコントロールする性格
を持つことである。このように考えると1年生の達成への統制感や能力の手
段保有感は そのために必要な学習行動を予測し得ないものであると考えら
れる。おそらく,大学受験までに期日があるということと, -股的な能力評
価への期待の強ざがこの結果に関与しているものと考えられるo高嶺(1995)
は,進学高校において入学後に「カリキュラム・ショック」や学業成績(順
位)の結果により「自尊心の低下」をきたす生徒が多々いることを報告して
いるが,その背後には強い能力評価中心の学習スタイルがあるものと推測さ
れる。これに関連して, Dweckら(1988)は知的達成の領域に,個人が自己
の有能さへの肯定的評価の獲得に関心を集中するパ-フォーマンス・ゴ-ル
(評価目標)と,個人が自己の有能さを伸ばすことに関心を示すラーニング・
ゴール(学習目標)があることを指摘し,おうおうにして前者が挫折や困難
に直面して無気力に陥ることがあると述べている。本研究での能力の手段保
有感は前者に関係し,努力の保有感は後者に関係していると思われる。
4.進路CAMi尺度の因子分析
先に検討してきたように進路CAMI尺度の得点は1年生から3年生にか
けて発達し,その統合性も高まっていた。ここで進路CAMI尺度の結果に
因子分析を実施し,進路CAM Iによる高校生の特徴のタイプ分けを行い,
先の結果の補足をしておきたい。
表8は,進路CAMI尺度の主因子法による固有値1以上の3因子をバリ
-80-
高校生の進路達成への統制感とその手段の保有感と認知に関する研究(1)
表8 進路cAMIの因子分析
マックス回転し,単純構造を求めた結果である。 3因子で全分散の59.31%
が説明されている。第l因子は「達成への統制感」 , 「努力の手段保有感」 ,
「能力の手段保有感」に高く負荷し, 「他者の援助の保有感」にやや高く負
荷している。しかし,手段一目的関係の尺度の負荷は見られない。この結果
から進学高校では,進路達成のための「努力」と「能力」の手段保有感の強
さが進路達成への統制感を形成することを示し,またそのようなタイプの生
徒が多いことを示している。命名するならば進路への「自律型」の生徒であ
ると言える。第2因子は,手段の認知「運」, 「能力」, 「未知の原因」の
得点に高く負荷し,同時に手段の認知「運」にひきづられる形で「運」の手
段保有感が高く負荷している。しかし,自己の進路を運まかせにしているこ
-81-
ヒュ-マンサイエンス 第2号1996年
とから,当然の如く達成への統制感は形成されていない生徒の集団であるこ
とが分かる。いわゆる進路達成における「なりゆきまかせ型」のタイプの生
徒であると予測できる。ちなみに島袋ら(1995b)は,学習領域における
「運」の役割の理解が, 「能力と運」の保有・非保有感と結びつき,それが
「達成への無力感」に至る可能性を示唆している。そして,第3因子は手段
の認知「努力」 , 「能力」 , 「他者の援助」の得点に高く負荷し,望ましい
手段の認知は形成されているが,手段保有感では「他者の援助」の手段保有
感のみが負荷している。また,達成への統制感も=の因子には負荷しないo
このようなことから,この因子は進路達成における「あなたまかせ型」の生
徒の意識を反映していると考えられる。
ここで,各因子得点の学年差と学習行動等との相関を検討する。表9は進
路意識の3つのタイプの得点の学年差を示している。表9の結果から,いず
れの因子でも学年差が有意か,有意な傾向がうかがえている。つまり, 「自
律型」の得点は3年生が高い方向にあり,逆に, 「なりゆきまかせ型」の得
点は3年生で低くなる傾向がある。また, 「あなたまかせ型」の得点は明ら
かに3年生で低いことが分かる。
表9 進路タイプの学年差
FAG.1FAC.2FAC.3
1年生
3年生
鼎2縱33b
SCb縱
45.2134.7344.55
茶bテc
茶b
B茶R緜R
(7.28)(6.97)(6,39)
t値
緜S
S
緜sh
S"縱C8
†p<.10 *p<.05
葛82-
高校生の進路達成への統制感とその手段の保有感と認知に関する研究(1)
表10 進路タイプと学習行動等との相関
進路タイプ
i.クァx
ク鳧ュH彧x
ノ
Xシh,ネル
ホィ,ノyリ
7
Hァx,ノyリ
7
明確性
FAC.i
FAG.2
偵
湯
sr
辻
FAC.3
ク
辻
cR
ウ
Cr
SRメ
cR
3B
次に各因子の得点と学習行動等との相関係数を表10に示した。表10の結果
から, 「自律型」の得点は家庭学習時間,数学の授業の理解度と低いながら
も有意な相関となっている。そして,将来の職業の明確性と国語の授業の理
解度とは,やや高い正の相関になっている。それに対して, 「なりゆきまか
せ型」の得点は 職業の明確性,国語,数学の授業の理解度と低いながらも
有意な負の相関を示している。
以上に述べてきたように,高校生のCAMIによる進路意識は「自律型」,
「なりゆきまかせがた型」, 「あなたまかせ型」の3タイプに分類できた。
進路指導で問題になるのは主に達成への統制感が弱い後者の2つのタイプで
ある。このふたっのタイプに共通することは,努力と能力の手段保有感が欠
如していることである。達成における「努力」 , 「能力」の-股的な役割を
正しく理解させ,その保有感を育成していくことで第lのタイプの「自律型」
に近づいていけるのではないかと考えられる。
最後に進路CAM量は 高校生の進路意識のあり方を理解し,進路指導を
考える上で有効な尺度であることが示された。今後,調査対象者を広げてい
くことで,冒頭で指摘した沖縄県の高校生の-股的な進路意識について検討
しl進路指導のあり方について考えていきたい。
-83-
ヒューマンサイエンス 第2号1996年
引用文献
Dweck, C. S. &しeggett, E.I. 1988 A Social cognitive approach to
motivation and personality. Peycholog↓Cal j3eL売eu/. 95, 2, 256-273.
廣瀬 等 島袋恒男ら1995a 沖縄県の児童・生徒の学習の統制感と原因
帰属に関する発達的研究( Ⅱ )日本心理学会第59回大会発表論文集, 416.
廣瀬 等 島袋恒男ら1995b 高校生の進路達成への統制感とその手段の
保有感と認知に関する研究(Ⅱ) -進路CAMIと学習スタイルの関係一
琉球大学法文学部 人間科学系紀要「ヒュ-マンサイエンス」, 2.(印刷中)
越 良子1992 能力水準の変化可能性認知が自己の能力の受容に及ぼす影
響 広島大学教育学部紀要, 4l, 57-60.
唐澤真弓 宮下孝広 東 洋1993 学習意欲と原因帰属に関する国際比較
研究 -CAM重による調査(中間報告) - 発達研究, 9, 87-98.
沖縄県教育委員会1995 平成6年度「中途退学のまとめ」
沖縄県教育委員会1992 児童生徒の生活意識と実態に関する調査報告書
沖縄県教育委員会1992 保護者の家庭教育等に関する意識・実態調査
島袋 恒男1989 青年期における社会的認知と自己像の関係性についての
研究 琉球大学法文学部紀要,社会学篇, 31,189-200.
島袋恒男 嘉数朝子ら1995a 沖縄県の児童・生徒の学習の統制感と原因
帰属に関する発達的研究(I)日本心理学会第59回大会発表論文集, 415.
島袋恒男・嘉数朝子ら1995b 沖縄県の児童の学習意識・認識に関する研
究 琉球大学教育学部紀要, 47集, 100-214.
Skimer, E.A., Chapman, M., & Baユーes, P.B. 1988 Controlタ means-ends,
and agency beliefs: A new conceptualization and its measurement
during childhood. Jolげnal a/ Perso棚lまty md Social Peychology. 54,
117-133.
高嶺 責1995 進路達成を促す教育相談に向けて -進路達成の諸要因の
関連性とプロセスの明確化を通して- 平成7年度(前期)研修報告書
沖縄県立教育センタ-84-
高校生の進路達成への統制感とその手段の保有感と認知に関する研究(I)
APPENDIX「学習行動・進路等の調査項目
1.あなたは ふだん学校から帰って家で平均してどのくらい勉強しますか。
ア 全くしない イ 30分程度 ウ l時間程度 エ 2時間程度
オ 3時間程度
2.あなたが希望する卒業後の進路は次のなかではどれですか。
ア 就 職 イ 各種学校・専修学校 ウ 短期大学 工 私立大学
オ 国公立大学
3.上で選択した進路(就職先、進学先)の希望は沖縄県内ですか。
ア 沖縄県内 イ 沖縄県内 ウ どちらでもよい
4.あなたが将来つきたい職業はもう決めていますか。
ア まだ決めていない イ だいだい決めている り はっきり決めている
5.あなたは「国語」の授業はどのくらい理解できていますか。
ア 理解できない イ やや理解できる ウ よく理解できる
エ とてもよく理解できる
6.あなたは「数学」の授業はどのくらい理解できていますか。
ア 理解できない イ やや理解できる り よく理解できる
エ とてもよく理解できる
APPENDIX2 進路CAMiの調査項目
次に進路や将来に関することが書かれています。ひとつひとつの質問を読んで,あ
なた自身の考えや気持ちに-番近いと思われる回答(調号)を選び, ○印で囲んで下
さい。
この時, a-とてもそう思う(よくあてはまる)
bこそう思う(あてはまる)
cこそう思わない(あてはまらない)
-85-
ヒューマンサイエンス 第2号1996年
全くあてはまらない
あてはまらない
あ て は ま る
ということを示します。
よ く あ て は ま る
d-全くそう思わない(全くあてはまらない)
I.私は自分のだいたい詩聖する大学に進学することができると
a
b
c
d
喜容量害害容器容量
思います。
a
2.私は将来,おそらく希望する職業に就けると思います。
b
c
d
器器器量ココ獲臆賀
3.私は,自分の進学に必要なレベルまで成績を良くしていると
a
b
c
d
含量含量害容量
思います。
4.私は 将来自分の予想通りの社会生活(人生)を送ることが
a
b
c
d
容器含量容器鵜賀鵜
できると思います。
a
5.私は成績を良くするために,計画をたてて勉強しています。
a
6.私には よい成績のとれる能力があると思います。
b
c
d
」臆臆_十_⊥_ "
b
c
d
含量含量容器音量害
7.もし私がいつもより良い成績がとれたなら(取れたのは) ,
a
それは運が良かったからです。
b
c
d
宣言害ココ害看書面
8.勉強ができるように,私にはいろいろと助言してくれたり,
a
励ましてくれる人がいます。
b
c
d
」○○⊥〇〇〇」 」
9.私は希望する大学へ進学するために, -生懸命努力して勉強
a
b
c
d
鵜臆漢書器器臆臆音
しています。
a
10.私には.詩聖の大学へ進学できる能力がとてもあると思います。
b
c
d
含量含量害容量容量
ll.もし私が詩聖通りの大学へ進学できたとしたら,それは連が
a
いいからだと思います。
b
c
d
豊容量害容器鵜音容
12.私が希望の大学へ進学できたとしたら,それは周りの人々の
a
よきアドバイスがあるからだと思います。
b
c
d
日登喜田害容器」器害
13.私は将来の詩聖する職業のことを いろいろ自分で調べたり,
a
人に闘いたりしています。
b
c
d
睦言容量」容器」器鵜
14.将来希望する職業につくための,能力や才能が私にはあると
a
b
c
d
豊容量ココ含量
思います。
a
15.私は将来連良く,詩聖通りの職業につけると思います。
-86-
b
c
d
墨容量含量容易音量
高校生の進路達成への統制感とその手段の保有感と認知に関する研究 鼎
全くあてはまらない
あ て は ま ら な い
あ て は ま る
よ く あ て は ま る
16.私が,将来希望通り就職できたとしたら,それはいろいろ良
a
きアドバイスをしてくれる人がいるからです。
i
b
i
c
d
i臆臆臆 l
17.将来,詩聖通りの社会生活(人生)を送るためには,何が大
a
b
c
d
音容漢看害園題
事なことかいろいろ考えています。
18.将来,希望通りの社会生活(人生)を送っていける能力や資
a
質が,私にはあると思います。
b
c
a
l 害 」 」
19.将来,私は運が開けて希望通りの社会生活(人生)を送れる
a
b
c
d
器量音容害音容音容
ようになると思います。
20.将来,私が帝望通りの社会生活ができるように,周りの人が
a
いろいろ協力し,支えてくれると思います。
21.
.
i6ク,ノ
ノ
*ゥ│x*(,ネ,メツ
ル
b
c
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音容音容害音容園田
hノノkル7y│リ+X,I]xコリ+X,H*(.
a
からだと思います。
1
b
c
d
i _ 上 1
22.ある生徒が勉強がよくできるまは,その人がもと6と頭が良
a
b
c
d
器量寡言容器害器量
いからです。
23.ある生徒が勉強がよくできるのば もともと運が良くツイて
a
b
c
d
山喜各町害獲葛害臆1豊
いるからだと思います。
24.ある生徒の成績が高いのは まわりにいろいろと教えてくれ
a
b
c
d
格言葵星容量星各室
る人がいるからです。
25.ある人が将来,霜望通りの社会生活(人生)を送れるとした
ら,それはその人がそのための努力をいろいろ積み重ねてきた
a
b
」鵜」_
からです。
26.能力や才能が豊ならば その人は希望通りの社会生活(人生)
a
b
c
d
」 I
c
d
晴器獲題獲音容書画
を送れると思います。
27.ある生徒が将来,希望通りの社会生活(人生)を送れるとし
たら,それは連が良いからだと思います。
-87-
a
b
c
し i _
d
i
I
全くあてはまらない
あてはまらな い
あ て は ま る
よ く あ て は ま る
ヒェーマンサイエンス 第2号1996年
28.人は いろいろとアドバイスしてくれたり,助けてくれるひ
a
とがいると思い通りの人生を歩んでいけると思います。
b
c
d
」⊥」 臆i
29.希望通りの大学へ進学できる生徒は 決まって-生懸命勉強
a
しているものです。
b
」 l
c
i
d
i
30.ある生徒が希望通りの大学へ進学できたとしたら,それはそ
a
の人がもともと頭が良かったからです。
b
c
d
坦登園題害登園音容登園易
31.もともと運が良くてツイている生徒は,話望通りの大学へ進
a
b
c
d
a
b
c
d
」山
学できると思います。
32.いろいろと指導してくれる人が周りにいると.たいていの生
徒は希望通りの大学へ合格できます。
容器含量器量星容量
33.ある生徒が将来,詩聖通りの職業に就けたとしたら,それは
a
その人が計画をたてて勉強を続けてきたからです。
b
c
d
星容量登園容量書き
34.ある生徒が将来,希望通りの就職ができたとしたら,それは
a
もともとその人に能力があったからだと思います。
b
c
d
」 1 1 i
35.いろいろと運が良く,ツキのある生徒は 将来希望通りの職
a
b
c
d
a
b
c
d
」山
業に就けると思います。
36.いろいろと周りの人からアドバイスしてもらえる生徒は 将
来希望通りの就職ができると思います。
害獲音容鵜音容臆面
37.なぜある生徒が詩聖通りの大学へ合格できるのか,私にはそ
a
b
c
a
岩音音容獲音容鵜軸
の訳は分かりません。
38.私には,なぜ希望通りの職業につける人がいるのかわかりま
a
b
c
d
」 -。」⊥_i
せん。
39.なぜ,ある生徒が良い成績が取れるのか,私はよく分かりま
a
i
せん。
40.ある人がなぜ,希望通りの社会生活や人生を送ることができ
るのかその訳は私には分かりません。
-88-
a
b
c
d
i 上 」
b
c
d
言臆題容易害含量』