平和研究会 2007 年 12 月 12 日 フランスの フランスのエイズ政策 エイズ政策 ~国内政策と 国内政策と対外政策の 対外政策の交錯~ 交錯~ 清水ももこ 1. はじめに 1) グローバリゼーションとエイズ: エイズ ウィルスに感染して癌・感染症・セイシン神経症等を発症する病気。 1981 年出現 * エイズ政策 新規感染 450 万人・年間死者 280 万人(2006 年) 感染者の64%はサブサハラアフリカ地域在住(2006 年) 予防政策 教育・コンドーム普及・入国制限 治療政策 1996 年ART治療法開始・根本治療は未確立 2) フランスのエイズ政策の分析:国際保健学・公衆衛生学【松田(1993.5) 】 ・法学【松川(1992) 】 社会学【ファーブル(1992)】 ・公共政策学【ステファン(2001) 】 政策形成:1789 年革命以来の「自由・平等・博愛」という共和国の理念 「民族」ないし「宗教集団」としてではなく「個人」として共有 単一不可分の共和国原理 →個別・特定集団に対する政策実施が困難 フランス政治:第五共和制(1958 年~) 議院内閣制と大統領制の中間形態 ・国内政策は首相、対外政策は大統領の権限を尊重(慣行) ・議会に責任を負う政府と議会に無答責の大統領が、共に行政府の頂点に位 置(行政の二頭性) ・歴史的に政策運営の主導権を掌握してきたのは大統領、大統領が背景とす る政治勢力と議会多数派が一致しない時期(コアビタシオン)を除けば、 首相は大統領の指導に従って具体的な政策の実施、調整を担当(慣行) ・政府の命令制定権の及ぶ範囲が広く、議会立法の対象が限定(行政主導) 2.国内エイズ 国内エイズ政策 エイズ政策の 政策の変遷 1)1980 年代 社会状況:経済不況・移民受け入れの停止(1974 年)・社会・共産党政権(ミッテラン 1981 年) EU審議会(現・欧州人権条約の母体)による同性愛差別是正勧告(1981 年) 地方分権化・国民戦線の台頭(過激なキャンペーン) ハイリスクグループ:同性愛者・薬物乱用者・血友病患者 政策:予算脆弱 *リスクのある行動をする個人 治療以外のエイズ政策は殆どなされず 1986 年 デクレ エイズ治療 100%費用負担 1987 年 エイズ問題を国家政策として採用 HIV感染者治療1部負担 2)1990 年代 社会状況:経済不況・国民戦線への支持増加・医療制度改革(シラク 1995 年) ・移民問題深刻化 (冷戦終結・EU共通移民政策・非正規移民増加) ・移民政策(ジョスパン 1997 年) ハイリスクグループ:同性愛者・薬物乱用者 * 1996 年以降~移民・女性 政策:予算規模拡大 エイズ対策当局・国立エイズ研究機構・エイズ国民会議(Pf GOT 1989 年) 当局廃止と保健総局への統合・省庁間エイズ委員会(Pf MONTAGNIER 1993 年) ハイリスクグループを対象とした政策(プログラム)の実施 →薬物乱用者(注射器無料交換・薬物脱却代替治療) ・同性愛者(感染予防プログラ ム) ・女性(女性の権利・性感染予防プログラム) ・移民(エイズ移民正規化) 3)2000 年代 社会状況:経済不況からの脱出・失業率の偏在化(移民・外国人) ・国民戦線への支持拡大(ルペン の大統領選出馬)2003 年憲法改正(1 条 共和国は地方分権的に組織・72 条 原則) 公衆衛生法成立 ハイリスクグループ:移民(女性) ・海外領土在住民 政策:予算の縮小 感染者・エイズ患者数の低下 社会保障の抑制 地方分権→自治体の裁量権拡大し政策実行主体・移民集中地域の財政負担増加 中央政府は公衆衛生戦略の方向性や戦略効果実証、目標設定と評価 ハイリスクグループを対象とした政策の実施 →非正規移民への無料治療・ハイリスクグループ対象3ヵ年計画 若年者対象予防政策(EU枠内予防キャンペーン参加) 補完性の 3.開発援助政策における 開発援助政策における国際 における国際エイズ 国際エイズ支援策 エイズ支援策 1)1980 年代 国際社会:世界的経済不況 SAP(構造調整プログラム)の途上国受け入れ→公共医療セクター予算削減 1983年 アフリカで最初のエイズ患者出現 EUの開発援助:フランスの強いイニシアティブ 旧植民地への集中援助(ロメ協定) ドイツのEU内地位向上 エイズ支援:1985 年 中央アフリカにおける感染状況調査 WHOと連携して緊急計画 2)1990 年代 国際社会:エイズの蔓延 国連エイズ計画(国際機関6機関で合同設立) WTOの TRIPS 協定問題 EUの開発援助:1992 年マーストリヒト条約 欧州委員会によるエイズ政策実施 ACP諸国に対する優先援助としてエイズ条項 エイズ支援:予防政策重視 1994 年パリ・エイズサミット 1997年 国際エイズ会議主催 1998年 開発援助改革 欧州開発基金 留学生受け入れ ART治療国際支援開始 途上国の資源利用や産業育成の土台としてのエイズ政策 NGOとの連携 3)2000 年代 国際社会:国連安全保障理事会でエイズ問題討議 ア対策基金発足 ミレニアム開発目標 世界エイズ・結核・マラリ 女性とエイズに関する世界連合発足 EUの援助:エイズ・マラリア・結核製薬再輸入禁止規則 エイズ・マラリア・結核根絶支援計画採択 エイズ支援:エイズ支援45カ国プロジェクト TRIPS 協定例外条項肯定 世界エイズ・結核・マラリア対策基金への拠出3倍へ エイズ航空税の導入 4.エイズと エイズと移民 1)エイズ問題の国際化 患者の国際移動:移民 海外旅行客 ビジネス 国内エイズ政策のアクターの国際移行:行政機構 国際エイズ支援強化の目的:人道的理由 NGO 企業 国際的地位向上・維持 国内エイズ政策の一環 アメリカへの対抗意識 移民政策 2)開発援助と移民 1970 年代 アルジェリア移民の帰国奨励政策:職業訓練 給与 企業設立支援 1990 年代 国際移住と協力開発に関する省庁間ミッション設置(1997 年シラク) : 出身国へ援助送金を送る移民団体に対する補助金を開発援助政策の一環として採用 セネガル・マリ・コモロ諸島・モロッコと協定:互恵的開発援助政策として帰国奨励 非正規移民を含む移民技術訓練と送還事業開始 2000 年代 EUイニシアティブのOECD会議(2005 年) :移民と開発に関する政策連動可能性討議 送金システムの構築と透明性確保 高度技術移民の受け入れ EUとモロッコ・アルジェリアが互恵的開発協定 3) エイズ移民の排除 EU内エイズ問題 非正規移民と正規移民の区別厳格化:正規移民に対する差別防止策 エイズ移民の排除 →診察拒否 高度技術移民優遇措置 出入国管理強化 フランス到着後 3 ヶ月未満の非正規移民への無料治療廃止 個人情報の提示を条件に無料治療 地方自治体の中央政府への要求に関する通達 5.おわりに 1)フランス社会の現状:EU憲法の否決 EU市民権 サルコジ大統領の就任 フランスのEU内地位低下 フランスのアパルトヘイト化 アフリカ諸国への関心低下 国内政策重視 2)今後のエイズ政策:規模の縮小:政策実効性の低下 EUの影響:国内政策への関与 NGOの可能性:エイズ患者団体 公衆衛生上のリスク上昇 共通移民政策 移民団体 欧州社会憲章 EUとNGO アメリカのエイズ支援:フランス重点地域とアメリカ重点地域の重複 予防政策重視 ビルゲイツ財団による支援 アフリカ諸国の自主的政策:ベナン ギニア セネガル (国家政策+国際支援) モーリタニア ルキナ・ファソ コートジボアール ブ (国際支援+国家政策+地域政 策)マリ (地域政策+国際支援) 主要資料 主要資料・ 資料・参考文献 Christophe DEVYS “La reforme de l’aide medicale d’Etat censure par le Conseii d’Etat” Droit sociale №11,Novembre 2006. 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